弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1被告は,原告に対し,5万5000円及びこれに対する平成27年8月
14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2被告は,ウェブサイト「A」(http://B)から,原告の氏名,住所及び
電話番号の記載を削除せよ。
3被告は,原告に対し,5万5000円及びこれに対する平成27年8月
23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4被告は,ウェブサイト「C」(http://D)から,京都地方裁判所平成2
7年(ワ)第2640号損害賠償等請求事件及び同庁平成27年(ヨ)第30
5号インターネット情報削除仮処分命令申立事件の裁判関係書類に記載さ
れた原告の住所,電話番号及び郵便番号の記載を削除せよ。
5被告は,2項及び4項記載のウェブサイト並びにその他のウェブサイト
において,原告の住所,電話番号及び郵便番号を掲載してはならない。
6原告のその余の請求をいずれも棄却する。
7訴訟費用はこれを10分し,その4を原告の負担とし,その余を被告の
負担とする。
8この判決は,第1項から5項まで,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1被告は,原告に対し,60万円及びこれに対する平成27年8月14日から
支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2主文2項に同旨
3被告は,原告に対し,20万円及びこれに対する平成27年8月23日から
支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4被告は,ウェブサイト「C」(http://D)から,京都地方裁判所平成27年
(ワ)第2640号損害賠償等請求事件(以下「本件訴訟」という。),同庁平成
27年(ヨ)第305号インターネット情報削除仮処分命令申立事件(以下「本
件仮処分事件」という。)にかかる原告の氏名,住所,電話番号及び郵便番号の
記載を削除せよ。
5被告は,2項及び4項記載のウェブサイト並びにその他のウェブサイトにお
いて,原告の氏名,住所,電話番号及び郵便番号を掲載してはならない。
第2事案の概要
1本件は,原告が,被告に対し,
⑴被告がインターネット上のウェブサイト「A」に原告の氏名,住所及び電
話番号を掲載したことが原告のプライバシーを法的利益とする人格権を侵害
するものであるとして,民法709条に基づき損害金60万円(慰謝料50
万円,弁護士費用10万円)及びこれに対する不法行為後である平成27年
8月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支

⑵前記人格権に基づく妨害排除請求権に基づき,「A」からの原告の氏名,住
所及び電話番号の削除
⑶被告がインターネットのウェブサイト「C」の旧版及び現行版双方に原告
の氏名,住所,電話番号及び郵便番号が記載された本件訴訟ないし本件仮処
分事件の裁判関係書類を掲載したことが原告のプライバシーを法的利益とす
る人格権を侵害するものであるとして,民法709条に基づき損害金220
万円(慰謝料200万円,弁護士費用20万円)のうち20万円及びこれに
対する不法行為後である平成27年8月23日から支払済みまで民法所定の
年5分の割合による遅延損害金の支払
⑷前記人格権に基づく妨害排除請求権に基づき,「C」現行版からの原告の氏
名,住所,電話番号及び郵便番号の削除
⑸前記人格権に基づく妨害予防請求権に基づき,ウェブサイトへの原告の氏
名,住所,電話番号及び郵便番号の掲載の事前の差止め
を求めた事案である。
2前提事実(以下の事実は当事者間に争いがないか,掲記の証拠により容易に
認定できる事実である。)
⑴原告は,京都市内に在住し,私企業に勤務している(乙28)。
被告は,「A」と題するウェブサイトを運営している(URLは,http://
B。以下「A」という。)。Aは,インターネット上の電話帳サイトであり,
過去にNTTが発行した紙媒体の電話帳の情報に基づき,個人の氏名,住所
及び電話番号を掲載し,インターネットを通じてその情報を検索できるよう
にされている(甲5,9,乙12,14,弁論の全趣旨)。
⑵被告は,平成27年8月14日までに,Aに,原告の氏名,住所及び電話
番号を掲載した(以下「本件掲載行為①」という。)。原告は,同日,本件訴
訟(当初の請求内容は前記1⑴⑵のみ。)を提起した。
⑶被告は,同月23日までに,A内の「C」と題するウェブサイト(以下「特
設サイト旧版」という。)に,原告の氏名,住所,電話番号及び郵便番号が記
載された本件訴訟の訴状副本,証拠説明書副本,甲1号証の写し及び「第1
回口頭弁論期日呼出状及び答弁書催告状」等の書類を掲載した(以下「本件
掲載行為②」という。)。
原告は,当庁に対し,被告を債務者として,前記書類中の原告の氏名,住
所,電話番号及び郵便番号の削除を求める仮処分を申し立てたところ(本件
仮処分事件),同年10月7日,これを認める仮処分決定がされ(甲7),同
年11月25日までに,特設サイト旧版は削除された。
⑷被告は,平成27年11月25日頃までに,「C」と題するウェブサイト(U
RLは,http://D,以下「特設サイト現行版」という。以下,特設サイト旧版
とあわせて「特設サイト」といい,A,特設サイト旧版とあわせて「本件各
サイト」という。)に,原告の氏名,住所,電話番号及び郵便番号が記載され
た本件訴訟の訴状副本等及び本件仮処分事件の仮処分決定等の書類の掲載を
開始し,本件訴訟及び本件仮処分事件に関して準備書面ないし書証等が提出
されると,これらを特設サイト現行版に掲載している(以下「本件掲載行為
③」という。)。
3争点及び争点に対する当事者の主張
⑴被告に被告適格はあるか(本案前の抗弁)。
ア被告の主張
原告の氏名,住所及び電話番号は,西日本電信電話株式会社(以下「N
TT西日本」という。)が発行した電話帳である平成27年6月版の「ハ
ローページ京都市南部版」(以下,紙媒体の電話帳を「ハローページ」と
呼称する。)に掲載されているから,本件訴訟はNTT西日本を被告とし
て提起されるべきであり,被告は被告適格を有しない。
原告の氏名,住所及び電話番号を容易に検索できるようにしているの
は,検索サービス「グーグル」を運営するGoogleInc.であり,被告で
はないから,本件訴訟はGoogleInc.を被告として提起されるべきであ
り,被告は被告適格を有しない。
特設サイト現行版は米国カリフォルニア州に所在するAutomattic,
Inc.が運営するウェブサイトであるから,同サイト上の原告の氏名,住
所,電話番号及び郵便番号の削除は,Automattic,Inc.に行わせるべき
であり,被告は被告適格を有しない。
訴状への原告の住所及び氏名の記載は民事訴訟規則2条1項1号に
よって定められており,訴状は憲法82条1項により公開が予定されて
いるものであるから,訴状の公開によるプライバシー侵害に関する損害
賠償請求は,民事訴訟規則が憲法13条に反することを理由として国に
対して提起されるべきであり,被告は被告適格を有しない。
イ原告の主張
争う。
⑵本件訴訟提起は訴権の濫用か(本案前の抗弁)。
ア被告の主張
原告の氏名,住所及び電話番号はハローページに掲載され,誰でも知り
うる状態となっていることから,原告は,これらをネットで公開されたこ
とによる実質的な被害を受けていない。一方,被告は,本件訴訟によって
多大な応訴の負担を被った。このような訴えの提起は,訴権の濫用である。
イ原告の主張
争う。原告の氏名,住所及び電話番号がハローページに掲載されていて
も,インターネットで公開されているものではないから,公開範囲に差が
あり,実質的な被害がないとはいえない。また,被告の応訴の負担は,訴
訟制度に当然に付随するものである。
⑶本件掲載行為①ないし③は不法行為に当たるか。
ア原告の主張
原告の氏名,住所,電話番号及び郵便番号がプライバシー情報に当た
ること
原告の氏名,住所,電話番号及び郵便番号並びに原告が裁判手続を行
っている事実及び裁判でどのような主張がなされているかという事実は,
通常人が公開を欲しない事実であるから,保護されるべきプライバシー
情報にあたる。原告が,配布の範囲が限定されている紙媒体のハローペ
ージに原告の氏名,住所及び電話番号が掲載されることに同意していた
としても,インターネットを通じてこれらの情報が公開されることにつ
いて同意していたわけではない。
本件掲載行為①ないし③の違法性
本件掲載行為①ないし③は,プライバシー情報である原告の氏名,住
所,電話番号及び郵便番号並びに原告が裁判手続を行っている事実及び
裁判でどのような主張がされているかという事実を不特定多数人が閲覧
可能な状態に置くものであり,原告のプライバシーの利益にかかる人格
権及び裁判を受ける権利を侵害する違法なものである。
イ被告の主張
プライバシーを侵害する行為が不法行為となる根拠がないこと
プライバシー権は,憲法13条後段の幸福追求権から派生するもので
あるところ,憲法上の権利は原則として私人間に直接適用されることは
ないのに,原告が私人間でのプライバシー権侵害を理由に本件掲載行為
①ないし③の違法性を主張する根拠は不明確である。私人間で個人情報
をどのように扱うかを定めた個人情報の保護に関する法律(以下「個人
情報保護法」という。)は,報道目的での個人情報の利用を規制対象外と
しているところ,本件各サイトは,同法の「報道」の定義である不特定
かつ多数の者に対して客観的事実を事実として知らせることに該当する
から,本件掲載行為①ないし③は違法性を有しない。
原告の氏名,住所,電話番号及び郵便番号は保護すべき情報に当たら
ないこと
個人情報保護法2条3項5号は「その取り扱う個人情報の量及び利用
方法からみて個人の権利利益を害するおそれが少ないものとして政令で
定める者」を規制対象外としているところ,個人情報保護法施行令2条
には,規制対象となる個人情報データ等から「電話帳」を除外する旨の
規定があるから,本件掲載行為①で掲載された情報は,個人の権利利益
を害するおそれがないものといえる。
原告の住所,氏名及び電話番号は,ハローページに相当期間掲載され
ており,これは全国の図書館等で閲覧が可能であって,電子化したもの
も販売されている。ハローページに掲載された氏名,住所及び電話番号
は,カーナビゲーション等で利用されるほか,被告以外の者によっても
ウェブサイトで公開されている。したがって,原告の住所,氏名及び電
話番号は既に公知の事実であり,プライバシーに該当しない。
また,訴訟当事者の氏名,住所,訴訟手続を行っている事実及び訴訟
手続における主張内容は,憲法82条1項により公開が予定されている
ものであるから,原則としてプライバシーには該当しない。
原告の個人情報保護の必要性に比して本件各サイトの価値が大きいこ

本件各サイトは,個人情報保護法にいう「報道」に該当する行為を行
うためのウェブサイトであるから同法の規制の対象外とされる。
また,Aは,その存在自体が国民に個人情報に関する議論の機会を提
供している上,災害時の被災者の安否確認をはじめ種々の用途に活用さ
れており,社会的な有用性が高い。
本件は新聞でも報道されて社会的関心が高く,原告が誰かということ
は,ハローページに原告の氏名,住所及び電話番号が掲載されていると
いう重要事実にも関するものであって,公益上重要な情報であり,これ
らの各情報を特設サイトで公開することは,居住地・経済力・障害の有
無等による情報格差を超えて本件訴訟の議論への参加を可能にすること
であり,裁判の公開(憲法82条)の実効化に資する上,学問の自由(同
法23条),人格権の尊重(同法13条),不当な差別の解消(同法14
条)にも資する。
他方,原告の個人情報は,前記のとおり公知のもので保護すべき必
要性は低い。
したがって,本件掲載行為①ないし③は,表現の自由や裁判の公開等
により保護されるものであり,原告の請求は,憲法上の権利を侵害する
ものであり,インターネットの利用に対する不当な差別である。
⑷原告の損害
ア原告の主張
本件掲載行為①により原告が被った精神的損害に対する慰謝料は,50
万円を下らないし,同掲載行為と因果関係を有する弁護士費用は,10万
円を下らない。
本件掲載行為②③により原告が被った精神的損害に対する慰謝料は,2
00万円を下らないし,同掲載行為と因果関係を有する弁護士費用は,2
0万円を下らない。
イ被告の主張
否認する。原告には現在まで何らの損害も生じていない。
⑸本件各サイトに掲載された原告の氏名,住所,電話番号及び郵便番号の削
除の可否
ア原告の主張
本件掲載行為①ないし③は原告のプライバシーを侵害する行為であり,
原告は,人格権に基づき,本件各サイトに掲載された原告の氏名,住所,
電話番号及び郵便番号の削除を求める。
イ被告の主張
争う。前記⑶のとおり,本件掲載行為①ないし③は違法ではない。また,
何らかの形で公開されている情報について,一切削除するというのは,表
現の自由,報道の自由を侵害するものであり,明らかに過大な請求である。
⑹被告による原告の氏名,住所,電話番号及び郵便番号の掲載行為の事前差
止めの可否
ア原告の主張
原告は,本件訴訟を提起するとともに,本件仮処分事件の申立てを行い,
その認容決定を得たところ,被告は,同決定に従って特設サイト旧版を削
除したものの,前記2⑷のとおり,特設サイト現行版を開設し,本件訴訟
及び本件仮処分事件の関係書類を掲載した。また,被告は,今後も本件訴
訟にかかる裁判関係書類をウェブサイトにおいて公開していく旨を明言し
ている。
被告のこれらの行為は,原告の人格権及び裁判を受ける権利を侵害する
ものであり,事前に掲載を差し止める必要性は極めて高い。
イ被告の主張
争う。
第2当裁判所の判断
1認定事実
前記前提事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認めら
れる。
⑴A
Aは,被告が管理,運営するウェブサイト(URLは,http://B)であり,
「A2000年版」,「A2007年版」及び「A2012年版」の三種の記
事がある。これらのいずれにも,平成27年8月14日から現在まで,原告
の氏名,住所及び電話番号が掲載されている。
Aにおいては,市町村等の地域ごとに個人の氏名,住所及び電話番号が整
序されて掲載されており,利用者は,当該地域に居住する者の氏名,住所及
び電話番号を表示することができる。また,A内の検索機能を用いて,氏名
を索引語として検索することで,該当者の住所及び電話番号の一覧を表示す
ることもできる。さらに,検索サイト(例えば「グーグル」)において,氏名
を索引語として検索すると,Aに掲載されている個人の氏名,住所及び電話
番号が表示される。
原告の氏名,住所及び電話番号は,「京都府京都市a区b町の電話帳」と題
するウェブページにおいて,同町に住所を有するとされる個人の氏名,住所
及び電話番号が整序されて掲載されているうちの1行に掲載されている。ま
た,同ウェブページ内において原告の氏名を索引語とした検索をすると,原
告の氏名,住所及び電話番号が表示される。また,A全体を対象とした検索
及び外部の検索サイト「グーグル」を利用した検索によっても,原告の氏名,
住所及び電話番号が表示される。
なお,被告は,Aにおいて氏名,住所及び電話番号を掲載されている個人
がこれらの情報の削除を要求しても,これに応じない旨を明言している。
(甲5,9,弁論の全趣旨)
⑵特設サイト旧版
特設サイト旧版は,Aの中に設けられていたウェブサイトである。被告は,
平成27年8月23日頃から同年11月25日頃まで,特設サイト旧版に,
本件訴訟の第1回口頭弁論期日呼出状及び答弁書催告状,訴状副本,証拠説
明書及び甲第1号証を掲載した。これらの書類のいずれにも原告の氏名が記
載されていたほか,訴状副本には,原告の郵便番号及び住所が,甲第1号証
には,原告の電話番号及び住所が記載されていた。特設サイト旧版の利用者
は,特設サイト旧版の「訴訟記録・弁論」と題された項目内に設置された前
記各書面へのリンクから,前記各書面を閲覧することができた。
(甲3,4,弁論の全趣旨)
⑶特設サイト現行版
特設サイト現行版は,被告が,海外の法人であるAutomattic,Inc.が管理,
運営するWordPressのサービスを利用して,平成27年11月25日頃に開
設したウェブサイトであり(URLは,http://D),Aの「掲示板」へのリン
クをクリックしていくと同サイトを閲覧することができる。
特設サイト現行版には,訴訟記録と題した項目が設けられており,同日頃
から現在まで,本件訴訟の第1回口頭弁論期日呼出状及び答弁書催告状,訴
状副本,平成27年8月14日付証拠説明書,甲第1号証,平成27年9月
2日付訴え変更申立書,同日付原告証拠説明書,平成28年1月4日付訴え
変更申立書,答弁書,移送申立書,平成27年9月14日付被告証拠説明書
及び乙第1号証のほか,本件仮処分事件の関係書類が掲載されている。これ
らの裁判関係書類には原告の氏名が記載されているほか,訴状副本には,原
告の氏名,住所及び郵便番号が記載され,甲第1号証及び乙第1号証には,
原告の氏名,住所及び電話番号が記載されている。利用者は,特設サイト現
行版の訴訟記録と題された項目内に設置された前記各書面へのリンクから,
前記各書面を閲覧することができる。
特設サイト現行版は,WordPressのサービスを利用したものであるが,サ
ービスを利用して記事を掲載した者は,当該記事を編集及び削除することが
できる。
(甲8,10,12,弁論の全趣旨)
⑷本件紛争の経過等
原告は,平成27年8月頃,被告に対してAに掲載された原告の氏名,住
所及び電話番号の削除を求める内容証明郵便を送付したが,被告がこれを拒
否したことから,本件訴訟を提起した。
被告は,本件訴訟の訴状を受領すると,特設サイト旧版を開設し,前記⑵
のとおり,本件訴訟の訴訟関係書類を掲載した。これに対して,原告は,特
設サイト旧版から本件訴訟の訴訟関係書類を削除することを求めて本件仮処
分事件の申立てを行い,同申立ては認容された。
そうすると,被告は,特設サイト旧版から本件訴訟の訴訟関係書類を削除
したものの,その直後,特設サイト現行版を開設し,前記⑶のとおり,本件
訴訟及び本件仮処分事件の関係書類を掲載した。
なお,本件訴訟は,「『A』を提訴」との見出しにより,平成27年8月2
1日付け京都新聞において報道された。
(乙12,27,弁論の全趣旨)
⑸本件各サイト以外への原告の情報の掲載状況
NTT西日本が発行する平成27年6月版のハローページ京都市南部版に
は,原告の氏名,住所及び電話番号が掲載されているほか,「E」と称するウ
ェブサイト及び「F」と称するウェブサイトに,原告の氏名,住所及び電話
番号が掲載されている。
(乙1,23,24)
2争点⑴(被告適格)について
本件のような給付の訴えにおいては,訴えを提起する者が給付義務者として
主張している者に被告適格があると解されるから,本件各請求において原告か
ら給付義務者と主張されている被告には,被告適格がある。
したがって,被告の主張は採用できない。
3争点⑵(訴権の濫用)について
本件全証拠を精査しても,原告が本件訴訟を提起することが権利の濫用に該
当することを基礎づけるに足る事情は見当たらない。後記のとおり,原告の各
請求には,全部あるいは一部に理由があり,被告の主張は採用できない。
4争点⑶(本件掲載行為①ないし③は不法行為に当たるか。)について
⑴本件掲載行為①について
ア原告の氏名,住所及び電話番号のプライバシー該当性
プライバシーとして法的に保護されるべき情報とは,個人の私生活上の
事実又は情報で,周知のものではなく,一般人を基準として,他人に知ら
れることで私生活上の平穏を害するような情報であることが必要である。
これを本件について見ると,原告の住所(これに付随する郵便番号も含
む。)及び電話番号は,原告の生活の本拠を客観的かつ明確に示すものであ
り,かつ,郵便ないし電話等の手段により情報を伝達するために必要な情
報であって,個人の私生活上の事実ないし情報であるといえ,かつ,周知
の情報ではない。そして,他人に知られることで生活の本拠における平穏
が侵害されるおそれがあるから,一般人を基準として,他人に知られるこ
とで私生活上の平穏を害するような情報であるといえる。そして,氏名は,
個人を他人から識別し,特定する機能を有するものであり,当該個人の他
の情報と結びつくことによってその情報と個人の関連性を示す機能を果
たす。
以上からすれば,原告の住所,電話番号及び郵便番号は,原告の氏名と
結びついて,原告のプライバシーに係る情報として法的保護の対象となる
というべきである。
イ本件掲載行為①の違法性
プライバシーが法的保護に値するのは,その開示が私生活上の平穏を
害するおそれがあるからである。そうすると,プライバシーを開示する
行為がいつでも違法となるわけではなく,開示されるプライバシーの性
質,開示による不利益の程度,開示の相手方,開示の方法及び開示の状
況を総合考慮して,推定的な同意があるといえるか,受忍限度の範囲内
か,公益の優越が認められるかを検討し,これらが認められない場合に
その違法性を肯定すべきである。
これを本件掲載行為①についてみると,原告の氏名と結びつけられた
住所及び電話番号は,原告の思想,信条等の内面に関わらない外形的か
つ単純な情報であるが,原告の私生活の平穏に直接関わる情報であり,
これを知られることで原告が私生活の平穏を侵害される危険性がある
ことは否定できず,要保護性がある。また,原告は公職等に就いていな
い私人であるから,これらの情報は公益に関する情報ではない。また,
インターネットに掲載された情報の複製(コピー)は極めて容易である
ため,いったんインターネットで情報が公開されると,それを閲覧した
者なら誰でもその情報の複製を作成してインターネットに掲載するこ
とができ,短時間のうちに際限なく複製の掲載を行うことも可能であっ
て,そのように多数の複製の掲載が行われた場合,これらを全て中止さ
せることは事実上不可能であるから,いったんインターネットに公開さ
れた原告の氏名,住所及び電話番号は,いつまでもインターネットで閲
覧可能な状態に置かれることになる。また,インターネットへ掲載され
ると,検索サービスを利用することで,氏名から住所及び電話番号を,
住所から氏名及び電話番号を容易に知られることとなる。このような開
示の相手方及び開示の方法は,紙媒体を用い,配布先が基本的に掲載地
域に限定されている電話帳(ハローページ)への氏名,住所及び電話番
号への掲載とは,著しく異なるものである。したがって,原告がハロー
ページの掲載を承諾したことをもって,インターネットへの掲載を承諾
したとはいえないし,原告が氏名,住所及び電話番号をAで公開されな
い法的利益は大きいということができる。これに対し,原告の氏名,住
所及び電話番号は,公共の利害に関しない個人の情報であり,掲載しな
ければならない特段の必要性は認められないから,本件情報を公開する
法的利益が大きいとはいえない。
以上からすれば,本件掲載行為①については,原告の推定的な同意が
あるとはいえず,受忍限度の範囲内ともいえず,公益の優越が認められ
る場合ともいえないから,本件掲載行為①は違法であるというべきであ
る。
ウ被告の主張についての補足的判断
被告は,プライバシーは憲法上の権利であり私人間に直接適用される
ことはない旨主張するが,私人間において私生活上の平穏を侵害する行
為は違法となるものであるから,私人間においてプライバシーを法的利
益とする人格権侵害を理由として,民法709条の不法行為が成立した
り,妨害排除請求権ないし妨害予防請求権が成立したりする場合がある
といえる。被告の主張は採用できない。
被告は,個人情報保護法が,報道目的での個人情報の利用を規制対象
外とし,また,規制対象となる事業者に該当するための要件においてハ
ローページ(電話帳)の情報を有することが考慮されないことから,ハ
ローページの情報を利用して報道を行う本件掲載行為①ないし③は違法
性を有しない旨主張する。
しかし,個人情報保護法は,個人情報の利用が著しく拡大しているこ
とに鑑み,個人情報の有用性に配慮しつつ個人の権利利益を保護するた
め,国及び地方公共団体の責務等並びに個人情報を取り扱う事業者の遵
守すべき義務等を定める目的で制定されたものであり(同法1条),個人
情報を開示する行為が違法と評価され得る範囲を規律したものではない
から,同法の規制対象外に当たることをもって,直ちに当該行為に違法
性がないということはできない。
被告は,原告の氏名,住所及び電話番号は,平成27年度のハローペ
ージに相当期間掲載されており,これは全国の図書館等で閲覧が可能で
あるから,公知の事実であり,プライバシーに該当しない旨主張する。
しかし,ハローページは,紙媒体を用い,配布先が基本的に掲載地域
に限定されているものであるから,ハローページに氏名,住所及び電話
番号が掲載されたからといって,これが公知の事実であるとはいえない。
また,インターネットでは,一度情報が公開されると容易に二次的に
情報が拡散することは,前記したとおりであり,一定地域への紙媒体で
の配布による情報提供とは,情報を提供する相手及び提供する方法が著
しく異なるものであるから,ハローページにおいて氏名,住所及び電話
番号を掲載することを承諾したとしても,インターネット上のウェブサ
イトにおいて公開することまで承諾したものと解することはできない。
したがって,原告の情報がハローページに掲載されていることをもって,
原告がプライバシーを放棄したとはいえないし,原告の氏名,住所及び
電話番号が,法的保護の対象から外れるとは考えられない。
被告は,Aは,その存在自体が国民に個人情報に関する議論の機会を
提供している上,災害時の被災者の安否確認をはじめ種々の用途に活用
されており,社会的な有用性が高い旨主張する。
しかし,仮にAにおける本件掲載行為①が表現行為としての側面を有
するとしても,個人の氏名,住所及び電話番号といった公共の利害に直
結しない事実を整序し,検索可能にして掲載しているにすぎず,表現行
為としての役割が大きいとはいえない。また,災害時等の有用性につい
ては,これを明確に裏付ける証拠はないし,仮に災害が生じた際に有用
性があるとしても,前記イで説示したとおりのインターネットにおけ
る情報の拡散性に鑑みるとき,これにより脅かされる原告の私生活の平
穏よりも前記有用性を優先させるべきであるとはいえないから,これを
もって,本件掲載行為①の違法性を否定することはできない。
⑵本件掲載行為②③について
ア本件掲載行為②③には,原告の住所,電話番号及び郵便番号が掲載され
ているところ,これらは,原告の氏名と結びついて,原告のプライバシー
に係る情報として法的保護の対象となることは,前記⑴アのとおりである。
イそして,本件掲載行為②③のうち,原告の住所,電話番号及び郵便番号
を掲載する部分について,その掲載により原告の私生活の平穏が侵害され
る危険性があること,掲載される情報は公益に関する情報とはいえないこ
と,インターネットにおける公開は,短時間のうちに情報が拡散し,削除
が困難な状態となり得るものであり,かつ,検索サービスの利用によって
容易に情報を取得することが可能となる点で,紙媒体への掲載とは開示の
相手方及び開示の方法が著しく異なり,紙媒体であるハローページへの掲
載の同意をもってインターネットへの掲載の同意といえないこと等は,前
記⑴イで判示したとおりであり,原告の推定的な同意があるとはいえず,
受忍限度の範囲内ともいえず,公益の優越が認められる場合ともいえない
から,違法であるというべきである。
ウ他方,本件掲載行為②③のうち,原告が本件訴訟の原告である事実及び
本件仮処分事件の債権者である事実を掲載した部分については,住所,電
話番号及び郵便番号とは別に解する必要がある。
原告が本件訴訟の原告である事実及び本件仮処分事件の債権者である
事実は,周知のものとはいえず,一般人を基準として,他人に知られるこ
とで私生活上の平穏を害するおそれがあることは否定できず,プライバシ
ーとして法的保護の対象となるということはできる。
しかし,裁判の公開は,司法に対する民主的な監視を実現するため,絶
対的に保障されるべきものであり(憲法82条1項),当事者の権利義務
を確定する訴訟については,当事者の氏名も含め,当然に公開が予定され
ているものである(民事訴訟法91条,312条2項5号)。仮処分は,必
ずしも公開の手続を予定していないが(民事保全法3条,5条),本案訴訟
を前提とするものであるから(同法37条),その内容については秘匿す
べき情報とはいえない。そうすると,原告は,本件訴訟を提起し,本件仮
処分事件の申立てを行ったことによって,本件訴訟の原告及び本件仮処分
事件の債権者として,氏名を他者に知られることを受忍すべきものといえ
る。また,本件訴訟及び本件仮処分事件において審理の対象となっている
情報は,特に私事性,秘匿性が高いものとはいえず,原告の氏名と結びつ
くことによって,原告の私生活上の平穏を著しく侵害するものとはいえな
い。このことは,不特定多数人を開示の相手方とし,情報の拡散性,情報
取得の容易性を特徴とするインターネットにおける掲載行為においても,
同様である。
したがって,本件掲載行為②③のうち,原告の氏名を掲載した部分につ
いては,受忍限度の範囲内であり,違法性はないというべきである。
5争点⑷(原告の損害)について
⑴本件掲載行為①について
本件掲載行為①は,原告のプライバシーの利益を侵害し,原告はこれによ
り精神的苦痛を被ったものということができる。
本件掲載行為①により,原告の氏名,住所及び電話番号は,誰もがインタ
ーネットを利用することで取得できる状態になっている上,原告の氏名を索
引語として容易にその住所及び電話番号を検索することもできる。被告は,
原告による削除要請に応じることなく本件掲載行為①を現在まで継続してい
る。
そうすると,原告の氏名,住所及び電話番号は,原告の思想,信条等に関
わらない外形的な情報にすぎず,具体的な支障が生じているかは証拠上明ら
かではないことなどを考慮しても,原告が被った損害を回復するための慰謝
料は,5万円とするのが相当である。そして,本件掲載行為①と因果関係を
有する弁護士費用は,5000円と認める。
⑵本件掲載行為②③について
前記⑴の事情に加え,被告が本件仮処分事件の認容決定において特設サイ
ト旧版に掲載された訴訟関係資料の削除を命じられるや特設サイト現行版に
おいて同様の情報を掲載したことを考慮すると,本件掲載行為②③による原
告の慰謝料は5万円とするのが相当である。そして,本件掲載行為②③と因
果関係を有する弁護士費用は,5000円と認める。
6争点⑸(削除)について
ウェブサイトにプライバシーが開示されている場合,これを公開されない法
的利益とこれを公開する法的利益とを比較衡量し,前者が優越することが明ら
かな場合には,これらの情報の削除を求めることができるというべきである。
前記4⑴⑵によれば,本件掲載行為①における原告の氏名,住所及び電話番
号については,これを公開されない法的利益がこれを公開する法的利益に優越
することが明らかであるから,その削除を求めることができる。また,本件掲載
行為②③における原告の住所,電話番号及び郵便番号については,これを公開
されない法的利益がこれを公開する法的利益に優越することが明らかであるか
ら,その削除を求められるが,本件訴訟の原告である事実及び本件仮処分事件
の債権者である事実と結びついた原告の氏名については,受忍すべきであるか
ら,その削除を求めることはできない。
そして,Aは,被告が管理運営するウェブサイトであること,WordPressの
サービスを利用した特設サイト現行版も,被告が掲載した記事については被告
自身が編集し,消去することが可能であることから,原告の氏名,住所,電話番
号及び郵便番号の削除を命じることは,被告に対して不可能を強いることとは
ならない。これに反する被告の主張は採用できない。
7争点⑹(事前差止め)について
前記4のとおり,被告がインターネットのウェブサイトに原告の住所,電話
番号及び郵便番号を掲載することは違法である。したがって,被告がその違法
行為を行うおそれがある場合,原告はプライバシーを法的利益とする人格権に
基づき,その差止めを求めることができる。
被告は,本件仮処分事件の認容決定において特設サイト旧版に掲載された原
告の氏名,住所,電話番号及び郵便番号の削除を命じられてこれを削除したも
のの,その直後に特設サイト現行版を作製し,原告の氏名,住所,電話番号及
び郵便番号が記載された本件訴訟及び本件仮処分事件の裁判関係書類を掲載
しているのであり,ウェブサイトを作製して情報を掲載することが容易である
ことに鑑みれば,被告が特設サイト現行版におけるこれらの情報を削除したと
しても,さらに別のウェブサイトを作製してこれらの情報を掲載するおそれが
認められる。
そうすると,被告がインターネットで原告の住所,電話番号及び郵便番号を
掲載する違法行為を行うおそれがあるといえるから,原告はプライバシーを法
的利益とする人格権に基づき,その差止めを求めることができるというべきで
ある。
8結論
以上の次第で,原告の請求は,
⑴本件掲載行為①を不法行為とする損害賠償として5万5000円及びこ
れに対する不法行為後である平成27年8月14日から支払済みまで民法
所定の年5分の割合による遅延損害金の支払
⑵本件掲載行為①により侵害された人格権に基づき,Aからの原告の氏名,
住所及び電話番号の記載の削除
⑶本件掲載行為②③を不法行為とする損害賠償として5万5000円及び
これに対する不法行為後である平成27年8月23日から支払済みまで年
5分の割合による遅延損害金の支払
⑷本件掲載行為③により侵害された人格権に基づき,特設サイト現行版から
の本件訴訟及び本件仮処分事件の裁判関係書類における原告の住所,電話番
号及び郵便番号の記載の削除
⑸人格権に基づき,A,特設サイト現行版及びその他のウェブサイトにおい
て,原告の住所,電話番号及び郵便番号の掲載の事前の差止め
を求める限度で理由があるからこれらを認容することとする。
よって,主文のとおり判決する。
京都地方裁判所第4民事部
裁判長裁判官伊藤由紀子
裁判官大野祐輔
裁判官岩城光

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