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裁判例


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主文
1本件訴えのうち,被告に対し,P1に59万2900円,P2に
51万4500円及びP3に51万4500円並びにこれらに対す
る平成13年6月21日から支払済みまで年5分の割合による金員
の支払の請求を求める部分をいずれも却下する。
2被告は,P1に対し,54万7800円の支払を請求せよ。
3被告は,P2に対し,43万2000円の支払を請求せよ。
4原告のその余の請求をいずれも棄却する。
5訴訟費用は,これを4分し,その3を原告の負担とし,その余は
被告の負担とし,参加により生じた費用は,これを2分し,その1
を原告の負担とし,その余は参加人の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,P1に対し,114万0700円及び内金59万2900円に対す
る平成13年6月21日から,内金54万7800円に対する同年9月14日
から各支払済みまで年5分の割合による金員の支払を請求せよ。
2被告は,P3に対し,51万4500円及びこれに対する平成13年6月2
1日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を請求せよ。
3被告は,P2に対し,94万6500円及び内金51万4500円に対する
平成13年6月21日から,内金43万2000円に対する同年9月14日か
ら各支払済みまで年5分の割合による金員の支払を請求せよ。
4被告は,P4に対し,203万8840円及びこれに対する平成13年9月
14日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を請求せよ。
第2事案の概要
本件は,東京都の住民である原告が,東京都知事であるP1(以下「P1知
事」という。)並びにP1知事の政務担当特別秘書であるP3(以下「P3秘
書」という。)及びP2(以下「P2秘書」という。)が行ったエクアドル共
和国ガラパゴス諸島への海外出張(以下「ガラパゴス出張」という。)並びに
P1知事,P2秘書及びP1知事の妻であるP4が行ったアメリカ合衆国への
海外出張(以下,「アメリカ出張」といい,ガラパゴス出張と併せて「本件海
外出張」という。)につき,本件海外出張に係る各支出は,人事委員会との協
議を経ずに旅費の増額が行われており,東京都の「職員の旅費に関する条例」
に違反して違法である,P4がアメリカ出張に同行したことは,必要性を欠き
違法であるなどと主張し,東京都は,P1知事,P3秘書,P2秘書及びP4
に対して不当利得返還請求権を有しているにもかかわらず,その行使を違法に
怠っているとして,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,被告に対し
て,P1知事らに不当利得の返還請求をすることを求めた事案である。
1関係法令の定め
()東京都知事等の給料等に関する条例(昭和22年東京都条例第42号。以1
下「知事等給料条例」という。)
ア1条
東京都知事,副知事,出納長及び特別職の指定に関する条例(昭和26
年東京都条例第14号)に基づく秘書の職にある者(以下「東京都知事
等」という。)の受ける給料,旅費及びその他の給与については,この条
例の定めるところによる。
イ3条1項
東京都知事等が公務により旅行するときは,順路により旅費を支給する。
ウ3条2項
旅費の算定方法は,この条例に定めるものを除き,職員の旅費に関する
条例(昭和26年東京都条例第76号。以下「旅費条例」という。)の例
による。
エ3条3項
旅費の種類は,鉄道賃,船賃,航空賃,車賃,日当,旅行雑費,宿泊料,
食卓料,移転料,着後手当,扶養親族移転料,支度料,渡航手数料及び死
亡手当とし,その額のうち旅費条例により難いものについては,別表(二)
から別表(六)までに定めるところによる。
オ別表(五)(外国旅行の日当,宿泊料及び食卓料)
(ア)知事の宿泊料(1日につき)
a指定都市4万0200円
b甲地方3万3500円
c乙地方2万6900円
d丙地方2万4200円
e指定都市,甲地方,乙地方及び丙地方の区別は,旅費条例の例に
よる。
(イ)秘書の宿泊料(1日につき)
旅費条例の適用を受ける職員の例により任命権者が知事と協議して
定める額
()旅費条例2
ア35条1項
日当及び宿泊料の額は,旅行先の区分に応じた別表第二の定額による。
イ42条2項
任命権者は,旅行者がこの条例の規定による旅費により旅行することが
当該旅行における特別の事情によりまたは当該旅行の性質上困難である場
合には,人事委員会と協議して定める旅費を支給することができる。
ウ別表第二(外国旅行の旅費)
指定職の職務にある者又は9級以上の職務にある者の宿泊料(1夜につ
き)
(ア)指定都市2万5700円
(イ)甲地方2万1500円
(ウ)乙地方1万7200円
(エ)丙地方1万5500円
(オ)指定都市とは,人事委員会が定める都市の地域をいい,甲地方とは,
北米地域,欧州地域及び中近東地域として人事委員会が定める地域のう
ち指定都市の地域以外の地域で人事委員会が定める地域をいい,丙地方
とは,アジア地域(本邦を除く。),中南米地域,大洋州地域,アフリ
カ地域及び南極地域として人事委員会が定める地域のうち指定都市の地
域以外の地域で人事委員会が定める地域をいい,乙地方とは,指定都市,
甲地方及び丙地方の地域以外の地域(本邦を除く。)をいう。
()特別職の指定に関する条例(昭和26年東京都条例第14号)3
地方公務員法(昭和25年法律第261号)第3条第3項第4号の規定に
基き,次に掲げる職の専任の秘書2人以内の職を特別職として指定する。
一知事の職
二…略…
2前提事実
証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる事実等は,その旨付
記した。その余の事実は,当事者間に争いがない。
()当事者等1
ア原告は,東京都の住民である(弁論の全趣旨)。
イP1知事は,平成13年当時,東京都知事の職にあった者であり,P4
は,P1知事の妻である。P3秘書及びP2秘書は,同年当時,特別職の
指定に関する条例に基づき特別職として指定された東京都知事の秘書の職
にあった者である。(弁論の全趣旨)
()P1知事らの海外出張2
アガラパゴス出張について
P1知事,P3秘書及びP2秘書外6名は,平成13年6月11日から
同月21日にかけて,ガラパゴス出張を行った。
イアメリカ出張について
P1知事,P2秘書及びP4外6名は,平成13年9月8日から同月1
4日にかけて,アメリカ出張を行った。
()監査請求3
ア原告は,東京都監査委員に対し,平成16年3月10日,P1知事らに
よる本件海外出張に関し,旅費の増額について人事委員会との協議を経て
いないことが旅費条例42条2項に違反して違法であり,また,P4がア
メリカ出張に同行したことは,必要性がなく,違法又は不当であるから,
東京都は,P1知事らに旅費の返還を請求すべきであるにもかかわらず,
その請求をせずに財産の管理を怠っているとして,東京都知事にP1知事
らに対して旅費の返還を請求するよう求める旨の監査請求(以下「本件監
査請求」という。)をした(甲4)。
イ東京都監査委員は,原告に対し,平成16年4月21日付けで,本件監
査請求は地方自治法242条2項本文所定の1年間の監査請求期間を経過
した後にされたものであり,同項ただし書の「正当な理由」も認められな
いから,本件監査請求は不適法であるとして,監査を実施しない旨を通知
した(甲5)。
()本件訴えの提起4
原告は,平成16年5月19日,本件訴えを提起した(当裁判所に顕著な
事実)。
3争点
()本件監査請求は,地方自治法242条2項本文所定の1年の監査請求期間1
内にされた適法なものであるか。また,本件監査請求が監査請求期間経過後
にされたものであったとしても,そのことについて,同項ただし書の「正当
な理由」があるか。
()P4のアメリカ出張同行は公務として必要であったか。2
()P1知事らの本件海外出張に関する旅費の支出につき旅費条例42条2項3
の人事委員会との協議を経る必要があったか。また,公金支出後の人事委員
会との協議により瑕疵が治ゆされたか。
()P1知事らは被告に対し不当利得返還義務を負うか。また,返還すべき不4
当利得額は幾らか。
4当事者の主張
()争点()について11
別紙1のとおり
()争点()について22
別紙2のとおり
()争点()について33
別紙3のとおり
()争点()について44
別紙4のとおり
第3当裁判所の判断
1認定事実
前記前提事実に加え,証拠及び弁論の全趣旨(各事実の後に付記する。)に
よれば,以下の事実を認めることができる。
()ガラパゴス出張の経緯等1
ア東京都環境局長は,平成13年5月25日,小笠原諸島などにおける自
然保護対策と観光などの産業振興との両立を図るため,エコ・ツーリズム
の先進地であるエクアドル共和国ガラパゴス諸島における自然保護手法,
観光システム及び農漁業との調整方法などを視察することを目的として,
同年6月11日から同月21日にかけて,P1知事,P3秘書及びP2秘
書外6名が,ガラパゴス出張を行うことを決定した(乙1)。
イ平成13年5月26日,P5新聞,P6新聞及びP7新聞は,P1知事
が,記者会見において,小笠原諸島などの自然保護対策と調和のとれた観
光振興策を探るため,同年6月11日から11日間の日程で,ガラパゴス
諸島を視察すると発表したという事実を報道した(乙5の1ないし3)。
ウ東京都環境局自然環境部計画課給与取扱者は,平成13年6月8日,ガ
ラパゴス出張の旅費について,資金前渡により概算払を受け,P1知事に
対して235万9450円,P3秘書及びP2秘書に対して各217万1
850円をそれぞれ支払った(乙2)。
エP1知事,P3秘書及びP2秘書外6名は,平成13年6月11日,ガ
ラパゴス出張のため出国した。
オ平成13年6月11日,P5新聞は,7段組みの囲み記事で,「P1知
事,都議選を回避?」,「21日まで南米視察旅行」などの見出しの下に,
以下の内容の報道(以下,上記報道に係る記事を「本件P5新聞記事」と
いう。)をした(乙15)。
(ア)P1知事が,平成13年6月11日,ガラパゴス諸島へ視察に出か
けるため日本を出発し,帰国は同月21日の予定であること。
(イ)一行は総勢8人で,交通費だけでも1000万円程度かかるとされ
ていること。
(ウ)視察先にはP1知事が趣味としているダイビングスポットもあり,
憶測を呼んでいること。
(エ)「遊びに行くなら理屈をつけずに行けばいい。物事をはっきり言う
知事らしくない。」と皮肉を言う都議がいたこと。
カP1知事,P3秘書及びP2秘書外6名は,平成13年6月21日,ガ
ラパゴス出張を終えて帰国した。
キ東京都環境局自然環境部計画課給与取扱者は,平成13年6月28日,
ガラパゴス出張の旅費の資金前渡について精算を行ったところ,以下のと
おりであった(乙25の1ないし4)。
(ア)P1知事
a宿泊料
平成13年6月11日4万3000円
同月12日4万3000円
同月13日3万円
同月18日11万1000円
同月19日6万9000円
b船賃
52万4000円
(イ)P3秘書及びP2秘書
a宿泊料
平成13年6月11日3万5000円
同月12日3万5000円
同月13日3万円
同月18日5万5000円
同月19日6万9000円
b船賃
43万6000円
()アメリカ出張の経緯等2
アP1知事及びP4は,平成13年8月30日付けで,P8研究所のワシ
ントン事務所副所長兼マネージャーから,ワシントンDCにおける日米関
係を題材とした講演の依頼及びアメリカ合衆国政府高官等が参加するP1
知事を歓迎する夕食会の開催についての招待状を受け取った(乙26の1
及び2)。
P8研究所は,地域外交政策,国内政治経済問題,社会政策,産業,環
境問題などに取り組む未来予測を行う公共政策研究機関であり,平成15
年6月には,「α基地の共用化及びその将来」と題する報告書を発表し,
これを東京都,防衛庁,アメリカ合衆国政府へ提出している(乙55ない
し57,弁論の全趣旨)。
イ東京都知事本部長は,平成13年9月4日,多様な事項についてアメリ
カ合衆国の政府関係者等と会談し,併せて講演等により東京都の考え方を
広く公表することにより,都政を推進するための環境整備及び都政に有益
な情報の入手を行うことを目的として,同月8日から同月15日にかけて,
P1知事,P2秘書及びP4外6名が,アメリカ出張を行うことを行うこ
とを決定した(乙3)。
ウ東京都知事本部政策部政策課給与取扱者は,平成13年9月7日,アメ
リカ出張の旅費について,資金前渡により概算払を受け,P1知事に対し
て213万5240円,P4に対して208万9890円,P2秘書に対
して196万3690円をそれぞれ支払った(乙4)。
エP1知事,P2秘書及びP4は,平成13年9月8日,アメリカ出張の
ため出国した。
オアメリカ出張に係る新聞報道は,以下のとおりである。
(ア)平成13年9月8日,P9新聞,P5新聞及びP10新聞は,P1
知事が,同日,アメリカ合衆国に向け出発し,ワシントンDCのP8
研究所などで日米関係について講演をするほか,現地要人と会談する
予定であるという事実を報道した(乙10の1ないし3)。
(イ)平成13年9月9日,P6新聞は,P1知事が,同月8日,アメリ
カ合衆国のワシントンDCに到着し,P8研究所において日米関係に
ついて講演をするほか,アメリカ合衆国政府関係者らと会談し,同月
15日に帰国する予定であるという事実を報道した(乙10の4)。
(ウ)平成13年9月11日,P9新聞は,P1知事が,同日,アメリカ
合衆国の国防副長官と会談し,P8研究所主催の講演会で講演したと
いう事実を報道した(乙10の5)。
(エ)平成13年9月12日,P6新聞は,P1知事が,アメリカ合衆国
の国防副長官との会談等を行い,また,テロ事件発生時,ワシントン
DCのホテルに滞在していたが無事であったという事実を報道した
(乙10の6)。
(オ)平成13年9月12日,P11新聞は,P1知事が,テロ事件発生
時,ワシントンDCのホテルに滞在していたが無事であり,また,ア
メリカ合衆国訪問には,P2秘書やP4ら8人が同行しているという
事実を報道した(乙11)。
(カ)平成13年9月12日,P12は,P1知事が,テロ事件発生時,
ワシントンDCのβホテルに宿泊していたが無事であったという事実
を報道した(乙18)。
カP1知事,P2秘書及びP4は,平成13年9月13日,ワシントンD
Cを出発し,同月14日,帰国した(乙27の2,3,30の2,33)。
キ平成13年9月15日,P7新聞は,P1知事が,同月14日,アメリ
カ合衆国から帰国し,記者会見を行ったという事実を報道した(乙10の
7)。
ク東京都知事本部政策部政策課給与取扱者は,平成13年10月11日,
アメリカ出張の旅費の資金前渡について精算を行ったところ,以下のとお
りであった(乙27の1ないし3,乙30の1及び2)。
(ア)P1知事の宿泊料
平成13年9月8日26万3000円
同月9日13万1500円
同月10日13万1500円
同月11日13万1500円
同月12日13万1500円
合計78万9000円
(イ)P2秘書の宿泊料
平成13年9月8日19万5400円
同月9日9万7700円
同月10日9万7700円
同月11日9万7700円
同月12日9万7700円
合計58万6200円
(ウ)P4の旅費合計
203万8840円
()P13による情報公開請求3
アP14の記者であるP13(以下「P13記者」という。)は,平成1
5年11月14日,被告に対し,東京都情報公開条例に基づき,同11年
4月23日から同15年11月13日までの「知事及び副知事の交際費,
現金出納簿,日程表,国内・海外出張に関する書類,事案決定原議,旅行
命令簿,旅費内訳,復命書,旅費以外に出張に要した費用(金額,使途,
支払先が分かるもの)」の開示の請求をした(乙8)。
イ(ア)被告は,平成15年12月4日,P13記者に対し,東京都情報公
開条例に基づき,「「東京都知事のガラパゴス諸島への視察に係る海外
出張」に係る知事・特別秘書の外国旅費請求書兼領収書,出張復命書」
の全部を開示し,その写しを交付した(乙9の1,弁論の全趣旨)。
(イ)また,被告は,同日,P13記者に対し,同条例に基づき,「平
成13年9月の知事のアメリカ合衆国出張について」と題する公文書の
うち,「事案決定原議」,「旅行命令簿・旅費内訳」,「出張復命書」
及び「旅費以外に出張に要した費用」に関する書類の一部を開示し,そ
の写しを交付した。なお,非開示部分は,「警視庁警護官氏名」,「東
京都職員の級号級」,「旅行代理店の担当者名」,「旅行代理店の社
印」,「業務委託予定経費(契約目途額)」,「旅行代理店担当者私
印」,「P8研究所担当者名及びサイン」及び「訪問先個人名」である。
(乙14,弁論の全趣旨)
ウP13記者の開示請求により開示された文書のうち,ガラパゴス出張に
係るP1知事,P3秘書及びP2秘書の「外国旅費請求書兼領収書」(以
下「P13開示文書1」という。)には,以下の内容の記載がある。なお,
P13開示文書1は,平成13年6月28日に作成されたものである。
(乙25の2ないし4,弁論の全趣旨)
(ア)P1知事
a宿泊料
平成13年6月11日4万3000円
同月12日4万3000円
同月13日3万円
同月18日11万1000円
同月19日6万9000円
b船賃
52万4000円
(イ)P3秘書及びP2秘書
a宿泊料
平成13年6月11日3万5000円
同月12日3万5000円
同月13日3万円
同月18日5万5000円
同月19日6万9000円
b船賃
43万6000円
エP13記者の開示請求により開示された文書のうち,アメリカ出張に係
るP1知事,P2秘書及びP4の「海外旅費算定書」(以下「P13開示
文書2」という。)には,以下の内容の記載がある。なお,P13開示文
書2は,平成13年9月4日に作成されたものである。(乙19の1ない
し3,弁論の全趣旨)
(ア)P1知事
a旅程
新宿∼ワシントンDC∼新宿
b宿泊料
()指定都市a
65万7500円(13万1500円×5泊=65万7500円
(宿泊施設指定のため増額(定額4万200円)(9月7日分必
要なため1泊増)))
()甲地域b
16万2400円(8万1200円×2泊=16万2400円
(宿泊施設指定のため増額(定額3万3500円)))
(イ)P4
a旅程
新宿∼ワシントンDC∼新宿
b旅費合計
208万9890円
(ウ)P2秘書
a旅程
新宿∼ワシントンDC∼新宿
b宿泊料
()指定都市a
48万8500円(9万7700円×5泊=48万8500円
(宿泊施設指定のため増額(定額2万5700円)(9月7日分
必要なため1泊増)))
()甲地域b
20万5200円(10万2600円×2泊=20万5200円
(宿泊施設指定のため増額(定額2万1500円)))
()P14の記事内容4
P14平成16年1月25日号に掲載されたP13記者及びP15記者が
執筆した「公文書が示す知事の勤務実態全公開」と題する本件P14記事に
は,以下の内容の記載がある(甲6,弁論の全趣旨)。
ア「都知事の海外出張一覧」と題する表
(ア)ガラパゴス
期間平成13年6月11日から同月21日まで
目的視察
随行人数7人(P3秘書,P2秘書)
旅費1342万4500円
(イ)ワシントンDC,ボストン
期間平成13年9月8日から同月14日まで
目的アメリカ合衆国政府要人との会見と講演
随行人数7人(P4,P2秘書)
旅費1132万3385円
イ「ガラパゴス諸島11日間旅費1342万円豪華エコツアー「全行
程」」と題する囲み記事
(ア)「公文書によると都知事の往復の航空運賃に143万8000円が
支出されており,ファーストクラスだったと見られる。随行した7人の
うち2人の特別秘書は都知事と同額運賃を支出した。」
(イ)「P1都知事はクルーズに52万4000円を支出した。旅行会社
によると,2人部屋のマスタースイートを1人で使った場合の船賃だと
いう。全46室のうち2室しかない最高級スイートで,船尾に向けてバ
ルコニーがある。随行の2人の特別秘書はそれぞれ43万6000円を
支出した。」
(ウ)「P1知事は先のクルーズ船を降りた後,グアヤキルのγホテルで
宿泊費11万1000円を払い,さらに経由地シカゴのβホテルに1泊
して6万9000円を支払った。一行の視察にかかった総費用は159
0万516円だった。もちろんすべて公費である。」
ウ本文記事
「どうしても海外出張の〝豪華さ〟が目につく。01年9月の米国出張
では,知事はP4夫人と2人でワシントンのホテルに宿泊し,1泊26万
3000円を支出した。」
()P16による情報公開請求5
アガラパゴス出張に関する情報公開請求
(ア)P16(原告と共に本件訴えを提起したが,平成18年2月1日
に訴えを取り下げた者。)は,平成16年2月10日,被告に対し,東
京都情報公開条例に基づき,「①2001年に知事が行ったガラパゴス
視察に関し,環境局から支出された経費の海外旅費算定書,見積書,清
算書,②上記視察の知事分のほか特別職旅費増額の理由がわかる文書」
の開示の請求(以下「P16開示請求1」という。)をした(乙6)。
(イ)被告は,平成16年2月24日,P16に対し,東京都情報公開
条例に基づき,P16開示請求1の対象となった文書を次のa及びb記
載のとおり特定し,a記載の文書は全部を開示し,b記載の文書は一部
を開示し,各文書の写しを交付した(乙7の1及び2)。
a東京都知事のガラパゴス諸島への視察に係る海外出張に係る下記の
文書
()知事及び特別職の海外旅費算定書a
()知事及び特別職の外国旅費請求書兼領収書及び戻入内訳b
()現地経費の支出がわかる文書(13環自計第95号「東京都知c
事のガラパゴス諸島への視察に係る海外出張における現地経費の支
出について」,13環自計第131号「現地経費の追給について
(ガラパゴス諸島視察出張)」及び支払額内訳書)
()旅費の調整(13環自計第64号「ガラパゴス諸島への視察にd
係る海外出張について」)
b東京都知事のガラパゴス諸島への視察に係る海外出張に係る下記の
文書
()一般職員の海外旅費算定書a
()一般職員の外国旅費請求書兼領収書b
()見積書(ガラパゴス諸島への視察に係る海外出張における業務c
の委託(単価契約))
()請求書(ガラパゴス諸島への視察に係る海外出張における業務d
の委託(単価契約))
(ウ)P16開示請求1により開示された文書のうち,「東京都知事の
ガラパゴス諸島への視察に係る海外出張について」(13環自計第64
号。以下「P16開示文書1の1」という。)には,以下の内容の記載
がある。なお,P16開示文書1の1は,平成13年5月18日に作成
されたものである。(乙1,乙17)
a出張先
ガラパゴス諸島ほか(エクアドル)
b出張者
P1都知事,P3秘書,P2秘書ほか
c出張日程
平成13年6月11日から同月21日まで
d事業経費
1782万5000円
e旅費の調整(宿泊料の増額)
「知事のセキュリティー確保のため知事の部屋を取り囲むように配
置しなければならない。また,外務省からも注意喚起が出されている
地域であることによる。」
「そのため,他の随行員については宿泊施設の比較や選択を行う余
地はなく,実質的に宿泊施設が指定されるのと同じ状態であることに
よる。」
(エ)P16開示請求1により開示された文書のうち,P1知事,P3秘
書及びP2秘書に係る「海外旅費算定書」(以下「P16開示文書1の
2」という。)には,以下の内容の記載がある。なお,P16開示文書
1の2は,平成13年5月18日に作成されたものである。(乙16の
1ないし3,弁論の全趣旨)
aP1知事
()旅程a
新宿∼ガラパゴス∼新宿
()船賃b
52万4000円
()宿泊料c
29万6000円(5万9200円×5=29万6000円
(宿泊施設指定のため増額)
bP3秘書及びP2秘書
()旅程a
新宿∼ガラパゴス∼新宿
()船賃b
43万6000円
()宿泊料c
22万4000円(4万4800円×5=22万4000円
(宿泊施設指定のため増額))
イアメリカ出張に関する情報公開請求
(ア)P16は,平成16年2月10日,被告に対し,東京都情報公開
条例に基づき,「①2001年に知事が行ったワシントン出張に関し,
知事他特別職分の旅費増額の理由がわかる文書,②上記出張に関し,知
事の宿泊施設が指定であったことがわかる文書」の開示の請求(以下
「P16開示請求2」という。)をした(乙12)。
(イ)被告は,平成16年2月24日,P16に対し,東京都情報公開
条例に基づき,本件開示請求2の対象となった文書として,「東京都知
事のアメリカ合衆国への海外出張について」と題する文書(13知政政
第127号。以下「P16開示文書2」という。)の全部を開示し,そ
の写しを交付した(乙13の1及び2)。
(ウ)P16開示文書2には,以下の内容の記載がある。なお,P16
開示文書2は,平成13年9月3日に作成されたものである。(乙13
の2)
a出張先
アメリカ合衆国ワシントンDC及びボストン
b出張日程
平成13年9月8日から同月15日まで
c予定経費
2479万7000円
d旅費の調整
()航空運賃の増額a
「知事夫人及び特別秘書については,出張の性質及び業務上の必
要により搭乗座席クラスを知事と同じものとすることに伴う。」
()宿泊料の増額b
宿泊指定に伴う増額i
「当該時期は観光シーズンであり,宿泊施設が不足しているこ
とにより,部屋の確保自体が難しい状態になっている。知事のセ
キュリティー確保のため知事の部屋を取り囲むように配置しなけ
ればならないこともあり,他の随行員については宿泊施設の比較
や選択を行う余地はなく,実質的に宿泊施設が指定されるのと同
じ状態であることによる。」
「また,ワシントンDCで宿泊するβについては,オンシーズ
ンであることによるホテル規定により,9月7日(金)から部屋
を押さえなくてはならない。そのため,9月7日分の宿泊料を増
額する。」
食卓料相当額の増額ii
「宿泊代金には夕食代及び朝食代が含まれないことによる。」
()監査請求6
ア原告及びP16は,平成16年3月10日,東京都監査委員に対し,P
1知事らによる本件海外出張について,旅費の増額について人事委員会と
の協議を経ていないことが旅費条例42条2項に違反して違法であり,ま
た,P4がアメリカ出張に同行したことは,必要性がなく,違法,不当で
あるから,東京都は,P1知事らに旅費の返還を請求すべきであるにもか
かわらず,その請求をせずに財産の管理を怠っているとして,東京都知事
にP1知事らに対して旅費の返還を請求するよう求める旨の本件監査請求
をした(甲4)。
イ東京都監査委員は,平成16年4月21日,原告及びP16に対し,本
件監査請求は,地方自治法242条2項本文所定の1年間の監査請求期間
を経過した後にされたものであり,同項ただし書の「正当な理由」も認め
られないから,本件監査請求は不適法であるとして,監査を実施しないこ
ととした旨通知した(甲5)。
2争点()について1
()P1知事らに対する不当利得返還請求権の行使を怠る事実に係る住民監査1
請求と地方自治法242条2項本文の適用について
ア普通地方公共団体において違法に財産の管理を怠る事実があるとして地
方自治法242条1項の規定による住民監査請求があった場合に,同監査
請求が,当該地方公共団体の長その他の財務会計職員の特定の財務会計上
の行為が財務会計法規に違反して違法であるか又はこれが違法であって無
効であるからこそ発生する実体法上の請求権の行使を怠る事実を対象とす
るものである場合には,当該行為が違法とされて初めて当該請求権が発生
するのであるから,監査委員は当該行為が違法であるか否かを判断しなけ
れば当該怠る事実の監査を遂げることができないという関係にあり,これ
を客観的,実質的にみれば,当該行為を対象とする監査を求める趣旨を含
むものとみざるを得ず,当該監査請求については,当該怠る事実に係る請
求権の発生原因たる当該行為のあった日又は終わった日を基準として同条
2項本文を適用すべきものである(最高裁昭和57年(行ツ)第164号
同62年2月20日第二小法廷判決・民集41巻1号122頁,最高裁平
成10年(行ヒ)第51号同14年7月2日第三小法廷判決・民集56巻
6号1049頁参照)。
イ前記認定事実によれば,本件監査請求は,P1知事らによる本件海外出
張について,旅費の増額分を人事委員会との協議を経ないで支出したこと
は旅費条例42条2項に違反して違法であり,また,P4のアメリカ出張
同行について,その必要性がないにもかかわらず,旅費を支出したことは
違法であって,これらの支出に係る金員について不当利得返還請求権が発
生するのであるから,東京都は,P1知事らに対してその返還を請求すべ
きであるにもかかわらず,その請求をせずに財産の管理を怠っているとし
て,これを改めることを求めるものである。したがって,本件監査請求は,
普通地方公共団体の長その他の財務会計職員の特定の財務会計上の行為が
違法であるとし,当該行為が違法無効であることに基づいて発生する実体
法上の請求権である不当利得返還請求権の不行使をもって財産の管理を怠
る事実としているものにほかならない。そうすると,本件監査請求につい
て,監査委員は,特定の財務会計上の行為である本件海外出張における旅
費の増額及びP4に対する旅費の支出が違法であるか否かを判断しなけれ
ば本件の怠る事実の監査を遂げることができないという関係にある。
したがって,本件監査請求については,1年の監査請求期間の制限を定
める地方自治法242条2項本文の規定が適用されるというべきであり,
P1知事らに対して本件海外出張の旅費が支出された日を基準として,1
年の監査請求期間の規定を適用すべきものである。
ウところで,本件において,原告は,概算払の方法により行われたP1知
事らに対する旅費の支出を財務会計上の行為と主張しているところ,概算
払は,地方自治法が普通地方公共団体の支出の一方法として認めているも
のであるから(地方自治法232条の5第2項),支出額を確定する精算
手続の完了を待つまでもなく,監査請求の対象となる財務会計上の行為と
しての公金の支出に当たるものというべきである(最高裁平成6年(行
ツ)第108号同7年2月21日第三小法廷判決・判例時報1524号3
1頁参照)。そうすると,前記認定事実のとおり,ガラパゴス出張につい
ては平成13年6月8日に,また,アメリカ出張については同年9月7日
にそれぞれ旅費の概算払が行われているから,それらから1年以内に監査
請求がされたか否かが判断されることになる。ところで,前記認定事実に
よると,本件監査請求がされたのは同16年3月10日である。
したがって,本件監査請求は,ガラパゴス出張及びアメリカ出張のいず
れについても,監査請求期間を経過した後にされたものというべきである。
()地方自治法242条2項ただし書の「正当な理由」の有無について2
ア地方自治法242条2項ただし書にいう「正当な理由」の有無は,特段
の事情のない限り,当該普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって
調査すれば客観的にみて監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在及
び内容を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をし
たかどうかによって判断すべきである(最高裁平成10年(行ツ)第69
号,第70号同14年9月12日第一小法廷判決・民集56巻7号148
1頁参照)。そして,「通常の注意力」ではなく「相当の注意力」による
調査を必要とする趣旨を考慮すると,マスコミ報道等によって受動的に知
った情報だけに注意を払っていれば足りるものではなく,住民なら誰でも
いつでも閲覧等できる情報等については,それが閲覧等できる状態に置か
れれば,そのころには住民が相当の注意力をもって調査すれば知ることが
できるものというべきである(最高裁平成13年(行ツ)第38号,同1
3年(行ヒ)第36号同14年9月17日第三小法廷判決・集民207号
111頁参照)。
イところで,東京都の住民は,東京都情報公開条例に基づき,実施機関に
対し,財務会計上の行為の完了の日と近接した日から,当該行為に関する
公文書の開示請求をすることができ,実施機関は,非開示事由に該当しな
い限り,当該公文書を開示すべきものである。そして,当該公文書が開示
されると,通常の場合,住民は,監査請求をするに足りる程度に財務会計
上の行為の存在及び内容を知ることができるものと考えられる。
しかし,東京都情報公開条例に基づく開示請求は,開示請求に係る公文
書を特定するために必要な事項を明らかにして開示請求をしなければなら
ず(同条例6条1項3号),また,実施機関が公文書の開示を行うときは,
文書,図画及び写真であれば,閲覧の場合1枚につき10円(1件名につ
き100円を限度とする。),単色刷りの写しの交付の場合1枚につき1
0円(1件名につき100円を限度とする。)に写し1枚につき20円を
加えた金額を徴収する旨規定していることからすると(同条例17条,別
表),東京都の住民がある財務会計上の行為について同条例に基づく開示
請求をするのが相当であると考えるべき事情,又はそのように考えるべき
端緒となり得る事情が存在しないにもかかわらず,当該住民が当該財務会
計上の行為について監査請求をする前提として,同条例に基づく開示請求
をしていなければ,当該住民が相当の注意力をもって調査したとはいえな
いと解するのは,住民に過度の要求をすることになり,ひいては財務会計
上の行為の法適合性の確保の要請を害することとなり妥当ではない。
一方,東京都の住民が,マスコミ報道等によって受動的に知った情報も
含め,東京都情報公開条例に基づく開示請求をする端緒たり得る情報を有
していたにもかかわらず,開示請求をしなかった場合にまで「正当な理
由」があると解するのは,財務会計上の行為の法的安定性を確保しようと
した地方自治法242条2項の趣旨に反することになる。
そこで,財務会計上の行為の法的安定性の要請とその法適合性の確保の
要請との調和を図るという地方自治法242条2項ただし書の趣旨を考慮
すると,東京都の住民が東京都情報公開条例に基づく開示請求をする端緒
となり得る程度に財務会計上の行為の存在及び内容を知ることができたよ
うな場合には,当該行為に関する公文書の開示請求をすることもまた,相
当の注意力をもってする調査の範囲内に含まれるというべきである。
ウ以上のことを前提に,本件監査請求が,東京都の住民が相当の注意力を
もって調査すれば客観的にみて監査請求をするに足りる程度に本件海外出
張に係る財務会計上の行為の存在及び内容を知ることができたと解される
時から相当な期間内にされたかどうかについて検討する。
()ガラパゴス出張について3
ア(ア)前記認定事実のとおり,①平成13年5月26日,全国的な一般紙
であるP5新聞,P6新聞及びP7新聞は,P1知事が,記者会見に
おいて,同年6月11日から11日間の日程で,ガラパゴス諸島を視
察すると発表した事実を報道したこと,②同年6月11日,P5新聞
は,7段組みの囲み記事で,「P1知事,都議選を回避?」,「21
日まで南米視察旅行」などの見出しの下に,P1知事が,同日,ガラ
パゴス諸島へ視察に出かけるため日本を出発し,帰国は同月21日の
予定であること,一行は総勢8人で,交通費だけでも1000万円程
度かかるとされていること,視察先にはP1知事が趣味としているダ
イビングスポットもあり,憶測を呼んでいること,「遊びに行くなら
理屈をつけずに行けばいい。物事をはっきり言う知事らしくない。」
と皮肉を言う都議がいたことなどの事実を報道したことが認められる。
(イ)そうすると,遅くとも平成13年6月11日ころには,東京都の住
民において相当の注意力をもって調査すれば,P1知事のガラパゴス
出張に交通費だけでも1000万円程度が支出されること,視察先に
P1知事が趣味としているダイビングスポットが含まれていることな
ど,客観的にみて監査請求をするに足りる程度にガラパゴス出張に係
る財務会計上の行為の存在及び内容を知ることができたというべきで
ある。
(ウ)また,前記認定事実によれば,本件P5新聞記事が掲載された平成
13年6月11日ころに,東京都の住民において,ガラパゴス出張に
係る財務会計上の行為が記載された文書について東京都情報公開条例
に基づく開示請求をすれば,P16開示文書1の1及びP16開示文
書1の2といった文書の開示を受けることができたものと考えられ,
それにより,P1知事のほかにP3秘書及びP2秘書がガラパゴス出
張に行ったこと,ガラパゴス出張に係る宿泊料の支出の日,金額,宿
泊料につき増額が行われたことなどが明らかになり,その一方,上記
文書の開示を受けた者は,増額のための人事委員会との協議に関する
文書や記載がないことを認識することができたということができるか
ら,客観的にみて監査請求をするに足りる程度にガラパゴス出張に係
る財務会計上の行為の存在及び内容を知ることができたというべきで
ある。
イ(ア)これに対し,原告は,新聞報道等からはガラパゴス出張の宿泊費が
増額されていることは分からず,また,新聞報道等によりP1知事が
ガラパゴス出張に行ったことが明らかになった平成13年当時に,ガ
ラパゴス出張に係る財務会計上の行為が記載された文書の開示を請求
することを思い立つべきであったとすることは,原告に過度の要求を
するものであるから,本件P14記事が掲載された平成16年1月2
5日を基準とすべき旨主張する。
しかし,前記判示のとおり,本件P5新聞記事に基づき,ガラパゴ
ス出張に係る財務会計上の行為が記載された文書について開示請求を
することは,相当の注意力をもってする調査の範囲内ということがで
きるのであって,原告に過度の要求をするものではないというべきで
ある。そして,このことは,本件P14記事の中に,平成14年(2
002年)6月には,既にガラパゴス出張に関する調査をし,ガラパ
ゴス出張が観光目的と感じたことから,ガラパゴス出張にかかった費
用の返還措置を求める住民監査請求をしている東京都の住民が存在す
る旨の記載があることからもうかがうことができる。
(イ)また,原告は,P1知事が,平成11年4月に東京都知事に立候補
した際,従前の財政上の無駄な支出を見直すとの公約を掲げていたこ
と,同年6月の定例記者会見においては,都議会議員の海外視察につ
いて批判的な発言をしたこと,当庁平成11年(行ウ)第194号事
件の参加人であったにもかかわらず控訴をしなかったことを理由に,
P1知事自らが違法な海外出張を行っているとは全く思わなかった旨
主張する。
しかし,前述のとおり,地方自治法242条2項ただし書にいう「正
当な理由」の有無の判断は,普通地方公共団体の住民が相当の注意力
をもって調査すれば客観的にみて監査請求をするに足りる程度に当該
行為の存在及び内容を知ることができるか否かを基準とすべきである
から,個々の住民が主観的に分からなかったというだけでは,「正当
な理由」があるということはできない。したがって,原告が上記事情
を理由にP1知事が違法な海外出張を行っているとは思わなかったと
しても,それにより直ちに「正当な理由」の有無に関する前記判断が
左右されるものではない。
ウ以上のとおり,遅くとも本件P5新聞記事が掲載された平成13年6月
11日ころには,東京都の住民において相当の注意力をもって調査すれば
客観的にみて監査請求をするに足りる程度にガラパゴス出張に係る財務会
計上の行為の存在及び内容を知ることができたというべきであるから,そ
のころから約2年9か月の期間が経過した同16年3月10日にされたガ
ラパゴス出張に係る本件監査請求は,これを適法な監査請求ということは
できない。
よって,本件訴えのうち,ガラパゴス出張に係る部分は,適法な監査請
求前置の要件を欠くものであり,不適法である。
()アメリカ出張について4
アP1知事のアメリカ出張について
(ア)a前記認定事実のとおり,①平成13年9月8日,P9新聞,P5
新聞及びP10新聞は,P1知事が,同日,アメリカ合衆国に向け
出発し,ワシントンDCのP8研究所などで日米関係について講演
をするほか,現地要人と会談する予定であるという事実を報道した
こと,②同月9日,P6新聞は,P1知事が,同月8日,アメリカ
合衆国のワシントンDCに到着したこと,また,P8研究所におい
て日米関係について講演をするほか,アメリカ合衆国政府関係者ら
と会談し,同月15日に帰国する予定であることという事実を報道
したこと,③同月11日,P9新聞は,P1知事が,同日,アメリ
カ合衆国の国防副長官と会談し,P8研究所主催の講演会で講演し
た事実を報道したこと,④同月12日,P6新聞は,P1知事が,
アメリカ合衆国の国防副長官との会談等を行い,また,テロ事件発
生時,ワシントンDCのホテルに滞在していたが無事であったとい
う事実を報道したこと,⑤同月12日,P11新聞は,P1知事が,
テロ事件発生時にワシントンDCのホテルに滞在していたが無事で
あり,また,アメリカ合衆国訪問には,P2秘書やP4ら8人が同
行しているという事実を報道したこと,⑥同日,P12は,P1知
事が,テロ事件発生時,ワシントンDCのβホテルに宿泊していた
が無事であったという事実を報道したこと,⑦同月15日,P7新
聞は,P1知事が,同月14日,アメリカ合衆国から帰国し,記者
会見を行ったという事実を報道したことが認められる。
bそうすると,東京都の住民が相当の注意力をもって調査をすれば,
平成13年9月ころには上記新聞報道の内容を知ることができ,そ
の内容から,P1知事がアメリカ出張をしたことを知ることができ
たのであるから,アメリカ出張に係る財務会計上の行為の存在を知
ることができたというべきである。
しかし,上記新聞報道の内容は,P1知事がP8研究所主催の講
演会で講演したこと,アメリカ合衆国の国防副長官と会談したこと,
βホテルに滞在していたことなどであるから,その内容からは,ア
メリカ出張に係る財務会計上の行為の存在を知ることができるとし
ても,その内容に疑念を抱くことは困難であり,東京都の住民にお
いて,東京都情報公開条例に基づきアメリカ出張に関する公文書の
開示請求をする端緒となり得るものとはいい難い。
c他方,前記認定事実のとおり,本件P14記事は,「どうしても
海外出張の〝豪華さ〟が目につく。01年9月の米国出張では,知
事はP4夫人と2人でワシントンのホテルに宿泊し,1泊26万3
000円を支出した。」との内容を含むものであるから,これによ
れば,東京都の住民において,P1知事のアメリカ出張に係る財務
会計上の行為につき,東京都情報公開条例に基づきこれに関する公
文書の開示請求をする端緒となり得る程度にその内容を知ることが
できたというべきである。
dまた,前記認定事実によれば,本件P14記事が掲載された平成
16年1月25日ころには,東京都の住民において,P1知事のア
メリカ出張に係る財務会計上の行為が記載された文書について東京
都情報公開条例に基づく開示請求をすれば,P13開示文書2及び
P16開示文書2といった文書の開示を受けることができ,それに
より,P1知事がアメリカ出張に行ったこと,アメリカ出張に係る
宿泊料の支出の日,金額,宿泊料につき増額が行われたことなどが
明らかになり,その一方,上記文書の開示を受けた住民は,増額の
ための人事委員会との協議に関する文書や記載がないことを認識す
ることができたということができるから,客観的にみて監査請求を
するに足りる程度にアメリカ出張に係る財務会計上の行為の存在及
び内容を知ることができたということができる。
e以上のことからすると,東京都の住民が相当の注意力をもって調
査すれば客観的にみて監査請求をするに足りる程度にP1知事のア
メリカ出張に係る財務会計上の行為の存在及び内容を知ることがで
きたと解される時とは,前記各新聞報道がされた平成13年9月こ
ろではなく,本件P14記事が掲載された平成16年1月25日こ
ろというべきである。そうすると,同日から44日後である同年3
月10日にされたP1知事のアメリカ出張に係る本件監査請求は,
相当な期間内にされたものということができる。
(イ)aこれに対し,被告は,P1知事がアメリカ出張に行ったことにつ
いては,平成13年9月の前記新聞報道によって当時既に公知の事
実であったということができ,アメリカ出張に係る財務会計上の行
為の内容について原告が知ろうと思えば,その当時東京都情報公開
条例に基づき公文書の開示請求をして知ることができたことを理由
に,平成13年9月ころを基準とすべき旨主張する。
しかし,前述のとおり,前記新聞報道の内容は,P1知事がP8
研究所主催の講演会で講演したこと,アメリカ合衆国の国防副長官
と会談したこと,βホテルに滞在していたことなどであるから,そ
の内容は,財務会計上の行為の内容の適否について疑念を生じさせ
るようなものではなく,東京都の住民において,東京都情報公開条
例に基づきアメリカ出張に関する公文書の開示請求をする端緒とな
り得る程度のものとはいい難いのであるから,平成13年9月ころ
に開示請求をすべきであったことを前提とする被告の主張を採用す
ることはできない。
bまた,被告は,アメリカ出張が行われたことが報道された平成1
3年当時,原告は,役所の経費の支出,特に公務員の海外出張に係
る旅費の支出について特段の関心を有しない一般都民とは異なる関
心を持っていたのであるから,上記新聞報道は原告がアメリカ出張
に係る財務会計上の行為が記載された書類等の開示請求を行う契機
に十分なり得た旨主張する。
確かに,一般住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的
にみて監査請求をするに足りる程度に財務会計上の行為の存在及び
内容を知ることができなくても,監査請求をした者が上記の程度に
当該財務会計上の行為の存在及び内容を知ることができたと解され
る場合には,「正当な理由」の有無は,そのように解されるときか
ら相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきであ
るということができる。
しかし,証拠(乙24)によれば,原告は,本件海外出張が行わ
れた平成13年にそれまで29年勤務した商社を退職して行政,公
共経営を研究すべくP17大学大学院に入学し,同15年には文京
区議会議員選挙に立候補したことが認められるものの,当該事実を
もって直ちに原告が同13年9月当時にアメリカ出張に係る財務会
計上の行為に関する公文書の開示請求をすることができ,客観的に
みて監査請求をするに足りる程度に当該財務会計上の行為の存在及
び内容を知ることができたとまでいうことは困難である。
したがって,被告の上記主張を採用することはできない。
イP2秘書のアメリカ出張及びP4のアメリカ出張への同行について
(ア)前記認定事実のとおり,平成13年9月12日,P11新聞が,ア
メリカ出張にはP2秘書やP4ら8人が同行した事実を報道したことが
認められる。
(イ)a前述のとおり,地方自治法242条2項ただし書にいう「正当な
理由」の有無は,当該普通地方公共団体の住民が相当の注意力をも
って調査すれば客観的にみて監査請求をするに足りる程度に財務会
計上の行為の存在及び内容を知ることができたかどうかにより判断
すべきところ,相当の注意力をもって調査すれば知ることができた
か否かは,それがマスコミ報道によるものである場合には,報道媒
体の性質や報道内容などについて考慮した上で判断することが相当
である。
bそこで検討するに,アメリカ出張にP2秘書及びP4が同行して
いることを報道しているのはP11新聞だけであるところ,P11
新聞は,発行部数が約150万部で,全国的に広く購読されている
新聞ではあるものの,いわゆる一般紙ではなくスポーツ新聞である
こと,その報道内容は,「P1知事無事」との見出しの下に,P1
知事がテロ事件に巻き込まれず無事であったことを主たる内容とす
るものであり,その中で「米国訪問にはP2特別秘書,P4夫人ら
8人が同行」とだけ記載されているにすぎないことなどの事情を考
慮すると,この記事が存在することをもって,東京都の住民が相当
の注意力をもって調査すれば客観的にみて監査請求をするに足りる
程度に財務会計上の行為の存在及び内容を知ることができたとまで
いうことはできないというほかない。
c他方,本件P14記事には,前記認定事実のとおり,「公文書が
示す知事の勤務実態全公開」との表題の下に,7ページにわたりP
1知事に対する批判的内容が記載されており,その中で「都知事の
海外出張一覧」と題する表の「ワシントン,ボストン」欄にはアメ
リカ出張にP2秘書及びP4が随行したことが記載されており,ま
た,本文記事には「どうしても海外出張の〝豪華さ〟が目につく。
01年9月の米国出張では,知事はP4夫人と2人でワシントンの
ホテルに宿泊し,1泊26万3000円を支出した。」との記載が
あることからすると,東京都の住民は,本件P14記事によれば,
P2秘書のアメリカ出張及びP4のアメリカ出張同行に係る財務会
計上の行為につき,東京都情報公開条例に基づき関係公文書の開示
請求をする端緒となり得る程度に財務会計上の行為の内容を知るこ
とができたというべきである。
d以上のことからすると,東京都の住民が相当の注意力をもって調
査すれば客観的にみて監査請求をするに足りる程度にP2秘書のア
メリカ出張及びP4のアメリカ出張同行に係る財務会計上の行為の
存在及び内容を知ることができたと解される時とは,上記P11新
聞による報道がされた平成13年9月12日ころではなく,本件P
14記事が掲載された同16年1月25日ころというべきである。
eしたがって,同日から44日後である同年3月10日にされたP
1知事のアメリカ出張に係る本件監査請求は,相当な期間内にされ
たものということができる。
ウところで,最高裁平成14年(行ヒ)第325号同17年12月15日
第一小法廷判決(裁判所時報1402号1頁)は,情報公開条例に基づく
情報公開請求により文書の写しの交付を受けた市民団体の構成員と,当該
文書の写しの交付後に市民団体が新聞紙上で行った監査請求人の公募に応
じた者とが,住民監査請求を行った事案につき,市民団体の構成員のみな
らず,公募に応じた市の一般住民においても,市民団体が文書の交付を受
けたころには,情報公開請求手続を採るなど相当の注意力をもって調査す
れば客観的にみて財務会計上の行為について監査請求をするに足りる程度
にその存在及び内容を知ることができたというべきである旨を判示してい
る。しかし,この事案においては,上記一般住民は,情報公開請求をした
市民団体の構成員と一体となって監査請求をしているのであって,上記市
民団体の構成員と一体のものとして取り扱うのが相当であることから,そ
のような両者の関係に着目して上記のとおり判示しているものと考えられ
る。他方,本件については,P13記者が平成15年11月14日に情報
公開請求をして同年12月4日にP13開示文書1及び2の開示を受けて
いるという事情があるのであるが,P13記者と原告を一体のものとして
取り扱うのが相当であるというべき事情はないのであるから,本件は,上
記判決とは事案を異にするものというべきである。
3争点()について2
()時機に後れた攻撃防御方法を理由とする却下申立てについて1
ア原告は,P1知事及びP2秘書のアメリカ出張は公務ではないとの主張
を前提に,それに同行したP4に係る旅費の支出は,地方自治法232条
1項の「当該普通地方公共団体の事務を処理するために必要な経費」に該
当しない旨主張しているところ,被告は,上記アメリカ出張が公務でない
との主張は時機に後れた攻撃防御方法であって,原告には故意又は重大な
過失があり,これにより訴訟の完結を遅延させることとなるとして,上記
主張の却下の申立てをしている。
イ前記認定事実及び裁判所に顕著な事実によると,①原告は,本件訴状の
請求の原因4()において,「…(略)…米国ワシントンDC…(略)…2
の訪問は,米国側の招待によるものではなく,相手方P1の講演等を目的
とした,同相手方からの,いわゆる押しかけ訪問である。現地の新聞でも
公式訪問として報道されていない。しかも,相手方P4・知事夫人が同行
しているが,夫人同行は,東京都知事の海外渡航に毎回行われているわけ
ではなく,同行の可否の基準も定かではない。」と主張し,同()におい3
て,「上記()のとおり,米国ワシントンDC訪問時のP4夫人の同行は,2
全額,違法な支出によるものであった。」と主張していること,②()平i
成13年9月8日,P9新聞,P5新聞及びP10新聞は,P1知事が,
同日,アメリカ合衆国に向け出発し,ワシントンDCのP8研究所などで
日米関係について講演をするほか,現地要人と会談する予定であるという
事実を報道したこと,()同月9日,P6新聞は,P1知事が,同月8日,ii
アメリカ合衆国のワシントンDCに到着し,P8研究所において日米関係
について講演をするほか,アメリカ合衆国政府関係者らと会談し,同月1
5日に帰国する予定であるという事実を報道したこと,()同月11日,iii
P9新聞は,P1知事が,同日,アメリカ合衆国の国防副長官と会談し,
P8研究所主催の講演会で講演したという事実を報道したことなどが認め
られ,これらの新聞記事は同16年7月16日の本件第1回口頭弁論期日
において被告から証拠として提出されていたこと,③当裁判所は,同17
年2月4日の本件第5回口頭弁論期日において,被告に対し,本案の答弁
をするよう求めたところ,被告は,同年4月20日付け準備書面()の第2
5の3()において,アメリカ出張におけるP1知事の講演とP4の同行2
がP8研究所からの招待である旨を明らかにし,同日の本件第6回口頭弁
論期日に上記準備書面を陳述し,上記事実を証する書証として乙第26号
証の1及び2を提出したこと,④被告は,同年12月16日付け準備書面
()の第2において,P4への旅費の支出が適法である旨の主張を補足し,4
同日の本件第10回口頭弁論期日において,上記準備書面を陳述したが,
上記準備書面の第3には,本件の争点()に関する主張が記載されており,3
被告は,それまでそのような主張はしていなかったこと,⑤当裁判所は,
同日の本件第10回口頭弁論期日において,次回口頭弁論期日には弁論を
終結する予定である旨当事者双方に告げたこと,⑥原告は,同18年2月
1日の本件第11回口頭弁論期日において,上記アの主張を記載した同年
1月27日付け第6準備書面を陳述し,被告は,同期日において,上記ア
の主張が時期に後れた攻撃防御方法として却下すべきであること及びアメ
リカ出張が公務であることを記載した同年2月1日付け準備書面()を陳5
述したこと,⑦原告は,同年4月12日の本件第12回口頭弁論期日にお
いて,被告の準備書面()に対する反論を記載した同年3月28日付け第5
7準備書面を陳述し,被告は,同期日において,原告の第7準備書面に対
する反論を記載した準備書面()を陳述し,弁論が終結されたことが認め6
られる。
以上によると,上記アの原告の主張は,第11回口頭弁論よりも前にす
ることができたものということができ,時期に後れて提出されたものとい
う余地がないではない。しかし,本件口頭弁論は,上記アの原告の主張が
提出された第11回口頭弁論期日の次の第12回口頭弁論期日において終
結に至っていること,上記アの原告の主張をめぐる双方の主張は,一応,
第11回口頭弁論期日には出そろっており,同期日において口頭弁論を終
結することも可能であったが,より慎重な判断をするために1回続行した
ものであることからすると,上記アの原告の主張が訴訟の完結を遅延させ
ることになったとまでは認め難い。そうすると,上記アの原告の主張を民
事訴訟法157条1項の規定により却下することことは相当ではないとい
うべきである。
()P1知事及びP2秘書のアメリカ出張について2
ア原告は,P1知事及びP2秘書のアメリカ出張が公務でないことを理由
に,P4のアメリカ出張同行の旅費は地方自治法232条1項の「当該普
通地方公共団体の事務を処理するために必要な経費」には該当しない旨主
張している。この「公務」ではないとの原告の主張の趣旨は必ずしも明ら
かではないが,P1知事のアメリカ出張がそもそも「当該普通地方公共団
体の事務」には該当しないから,それに同行したP4のアメリカ出張同行
も「当該普通地方公共団体の事務」に該当せず,その旅費は「当該普通地
方公共団体の事務を処理するために必要な経費」には該当しない旨主張し
ているものと解される。
イ前記認定事実のとおり,P1知事は,平成13年8月30日付けで,P
8研究所のワシントン事務所副所長兼マネージャーから,ワシントンDC
における日米関係を題材とした講演の依頼及びアメリカ合衆国政府高官等
が参加するP1知事を歓迎する夕食会の開催についての招待状を受け取っ
たこと,P8研究所は,地域外交政策,国内政治経済問題,社会政策,産
業,環境問題などに取り組む未来予測を行う公共政策研究機関であり,平
成15年6月には,「α基地の共用化及びその将来」と題する報告書を発
表し,これを東京都,防衛庁,アメリカ合衆国政府へ提出していることが
認められる。それに加えて,証拠(甲8,乙10の1,2,4,5,34
の2,4ないし6,35の3,弁論の全趣旨)によれば,P1知事は,α
基地の返還あるいは民間との共同使用を公約として東京都知事選挙に立候
補して当選したこと,東京都は都市計画局に航空政策担当を設置し,α基
地の軍民共用化実現に向け,飛行実態や騒音などの調査をしていたことな
どが認められるところ,これらの事情を併せて考慮すると,P1知事がP
8研究所において講演をすることは東京都の事務であるということができ,
P8研究所が公的機関でないことのみをもって上記講演が東京都の事務で
あることを否定することはできない。また,前記認定事実のとおり,P8
研究所主催の夕食会にはアメリカ合衆国政府高官が出席する予定であり,
講演だけでなく当該夕食会においても,α基地の共用化等の都政にかかわ
る内容についてアメリカ合衆国政府高官との懇談が予定されていたという
ことができるから,当該夕食会に出席することもまた,東京都の事務の一
環であるということができる。
ウしたがって,P1知事のアメリカ出張が東京都の事務でないことを前提
とする原告の主張を採用することはできない。
()P4のアメリカ出張同行の必要性について3
ア前述のとおり,P1知事のP8研究所主催の夕食会への出席は,東京都
の事務の一環であるといえるところ,P8研究所はP1知事の妻であるP
4の出席を希望していたこと,P8研究所からP4の招待を受けたにもか
かわらずそれを拒否するのは国際的な儀礼を失するおそれがあること,当
該夕食会におけるアメリカ合衆国政府高官との率直な意見交換のためには,
親密な雰囲気が重要であることは明らかであるところ,P4が同席するこ
とが親密な雰囲気の醸成のために役立つと考えられることからすると,P
4が当該夕食会に出席することは,P1知事が同夕食会に出席する目的を
推進する役割を果たすものと考えることができる。
したがって,P1知事のP8研究所主催の夕食会への出席が東京都の事
務の一環である以上,当該夕食会にP4が出席することもまた東京都の事
務の一環であるということができるから,P4のアメリカ出張同行のため
の旅費は,地方自治法232条1項の「当該普通地方公共団体の事務を処
理するために必要な経費」というべきである。
イまた,原告は,東京都財政の窮状にかんがみれば,連続宿泊制限のある
混雑期に,1泊分を余分に支払ってまで,費用対効果の希薄なアメリカ出
張にP4が同行する必要はなく,P4に対する旅費は全額違法な公金支出
である旨主張するが,前述のとおり,P8研究所における講演会及びP8
研究所主催の夕食会は,P8研究所からの招待に基づくものであり,P8
研究所が平成13年9月10日及び同月11日を指定していることが認め
られることからすると,P4らが宿泊するホテルが繁忙期を理由に1泊分
の宿泊料の増額を要求したとしても,それをもって直ちにP4に関する財
務会計上の行為が全部違法となるということはできない。
()P4のアメリカ出張同行の旅費の支出の手続について4
ア原告は,地方自治法204条3項の規定を根拠に,知事等給料条例に東
京都知事と同行する知事夫人ついての規定がないことから,P1知事と同
行したP4の旅費は,P1知事又はP4の自弁によるべきものであって,
被告が支出すべきものではない旨主張する。
イしかし,地方自治法204条は,1項において,普通地方公共団体は,
普通地方公共団体の長その他普通地方公共団体の常勤の職員及び短時間勤
務職員に対し,給料及び旅費を支給しなければならない旨規定し,また,
2項において,普通地方公共団体は,条例で,前項の職員に対し,手当を
支給することができる旨規定し,これらを受けて,3項において,給料,
手当及び旅費の額並びにその支給方法は,条例でこれを定めなければなら
ない旨規定しているのであるから,同項は,普通地方公共団体の長その他
普通地方公共団体の常勤の職員及び短時間勤務職員に関する規定であるこ
とは明らかであるから,非職員に対する旅費の支給について,同項の適用
があるということはできない。
また,地方自治法204条の2は,「普通地方公共団体は、いかなる給
与その他の給付も法律又はこれに基く条例に基かずには、これを第二百三
条第一項の職員及び前条第一項の職員に支給することができない。」と規
定しており,この「法律」には同法204条も含まれているところ,同法
204条の2の趣旨は,普通地方公共団体がその職員に対して支給する給
与その他の給付は法律に直接根拠を有するか,又は法律の具体的根拠に基
づく条例によって給与を支給する場合に限るものとし,それ以外の一切の
給与その他の給付の支給を禁じ,給与の体系の整備を図ったものであると
解されることからすると,非職員であるP4に対する旅費の支給について,
同法204条3項の趣旨を根拠に知事等給料条例に規定がない以上支給で
きないという原告の主張を直ちに採用することはできない。
()小括5
以上のとおり,P4のアメリカ出張同行に係る財務会計上の行為は違法と
はいえないから,原告のP4に係る請求を認めることはできない。
4争点()について3
()P1知事及びP2秘書のアメリカ出張の宿泊料の増額につき人事委員会と1
の協議を経る必要があったか
ア(ア)前記認定事実のとおり,P1知事及びP2秘書は,平成13年9月
8日から同月13日までの間(5泊),ワシントンDCに滞在していた
ところ,知事等給料条例3条3項,別表(五),旅費条例35条,別表第
二の各規定によれば,指定都市であるワシントンDC(弁論の全趣旨に
より認められる。)における1泊の宿泊料は,東京都知事が4万020
0円,秘書が2万5700円であると認められるから,結局,知事等給
料条例に定められたアメリカ出張に係る宿泊料の合計額は,以下のとお
り,P1知事が20万1000円,P2秘書が12万8500円である。
aP1知事4万0200円×5=20万1000円
bP2秘書2万5700円×5=12万8500円
(イ)これに対し,前記認定事実のとおり,アメリカ出張の宿泊料の精算
後の合計額は,P1知事が78万9000円,P2秘書が58万620
0円である。
(ウ)したがって,P1知事及びP2秘書のアメリカ出張の宿泊料は,知
事等給料条例に定められた宿泊料よりも大幅に増額されていることにな
る。
イ(ア)知事等給料条例3条2項は,旅費の算定方法は,同条例に定めるも
のを除き,旅費条例の例による旨規定しており,旅費条例42条2項は,
任命権者は,旅行者がこの条例の規定による旅費により旅行することが
当該旅行における特別の事情により又は当該旅行の性質上困難である場
合には,人事委員会と協議して定める旅費を支給することができる旨規
定している。
(イ)そして,「例による」とは,一般に,ある事項に関する法令上の制
度を他の事項について包括的に借用する場合に用いられる文言であるか
ら,知事等給料条例は,旅費の算定方法については旅費条例を包括的に
借用しているものである。したがって,知事等給料条例に定められた宿
泊料を超える額の宿泊料を支給する場合,知事等給料条例にその定めが
ない以上,旅費条例の規定によることとなり,人事委員会との協議が必
要となると解すべきである。
(ウ)P2秘書の任命権者は,東京都知事であるP1知事である(地方自
治法172条2項)。また,P1知事は,東京都の住民による選挙によ
って選出される(地方自治法17条)から,P1知事には地方公務員法
にいう任命権者はいない。しかし,旅費の増額の関係で,普通地方公共
団体の長のみを人事委員会との協議の対象から除外する理由はないので
あって,東京都知事であるP1知事について知事等給料条例が包括的に
借用することとしている旅費条例42条2項を適用するに当たっては,
同項に規定する任命権者とは,東京都知事を指すものと解するのが相当
である。
(エ)したがって,P1知事及びP2秘書に対して,知事等給料条例に
定められた宿泊料を超える額の宿泊料を支給するためには,P1知事が
人事委員会と協議をする必要があるというべきである。
ウ(ア)これに対し,被告は,P1知事及びP2秘書は地方公務員法3条3
項の規定する特別職の公務員であるところ,人事委員会の設置目的や地
方公務員法4条2項の規定などを根拠に,人事委員会の権限は特別職の
公務員には及ばないから,人事委員会との協議を経る必要がない旨主張
する。
(イ)ところで,地方自治法202条の2は,「人事委員会は、別に法
律の定めるところにより、人事行政に関する調査、研究、企画、立案、
勧告等を行い、職員の競争試験及び選考を実施し、並びに職員の勤務条
件に関する措置の要求及び職員に対する不利益処分を審査し、並びにこ
れについて必要な措置を講ずる。」と規定し,これを受けて,地方公務
員法8条1項は,人事委員会の処理する事務を具体的に規定している。
この人事委員会の設置目的は,専門的,中立的機関として任命権者の
人事権の行使をチェックし,より適正な人事が行われるようにすること
にあると解される。したがって,人事委員会にこの設置目的に反するよ
うな権限を付与することは,地方自治法及び地方公務員の趣旨に反する
ことになるが,上記人事委員会の設置目的に反しないものであれば,人
事委員会の有する中立性に着目して新たに権限を付与することは,地方
自治法及び地方公務員の趣旨に反するものではないというべきである。
この点につき,被告は,人事委員会の役割は,勤務条件における統制
であって,財政支出面における統制ではないから,財政支出面における
統制を人事委員会にゆだねることはその目的に反するとも主張する。
確かに,人事委員会は,人事行政の適正な実施の確保を目的としてい
るものであるが,その目的に反しない範囲において,財政支出面におけ
るチェック機能を人事委員会にゆだねたとしても,それをもって直ちに
人事委員会の目的に反するということはできないものと解される。
なお,被告は,人事委員会に財政支出面の判断をすることはその能力
からしてできない旨主張するが,証拠(甲10の2及び3,11の2,
12の2,13の2ないし9,14の2及び3,乙50の1及び2,5
1の1及び2)によれば,現在特別職の公務員の旅費の増額について,
人事委員会との協議が行われていることが認められることからしても,
被告の主張をにわかに採用することはできない。
(ウ)また,地方公務員法4条2項は,「この法律の規定は、法律に特
別の定がある場合を除く外、特別職に属する地方公務員には適用しな
い。」と規定しているところ,このように,地方公務員法の規定が原則
として特別職の公務員に適用されないこととされたのは,特別職は政治
的な方法で就任する者など特別の地位を有する者であるため,その身分
取扱いを統一的に規律することが困難であるばかりでなく,職業的公務
員である一般職の身分取扱いにはなじまないと考えられたからである。
しかし,地方公務員法4条2項が,特別職の公務員に関するすべての
事項について人事委員会の権限に属せしめることを禁じているとは解し
難く,同項の趣旨に反するものではない場合には,特別職の公務員に関
する権限を人事委員会に付与することは許容されているものと解すべき
である。そして,人事委員会に特別職の公務員に関する財政支出面のチ
ェックをする権限を付与することが,上記地方公務員法4条2項の趣旨
に反するとは考え難い。
したがって,地方公務員法4条2項が同法の規定を原則として特別職
の公務員に適用しない旨規定していることをもって,特別職の公務員の
旅費の増額につき人事委員会との協議を経ることはできないとする原告
の主張を採用することはできない。
エ(ア)さらに,被告は,知事等給料条例が旅費の増額には人事委員会の協
議を経ることを義務付けていると解すると,人事委員会がこれを認めな
い場合には旅行自体が実施不能となるのであるから,政治的判断に基づ
き行われる特別職の旅行についての経費支出の適否の判断権を人事委員
会が有することとなり,人事委員会の有する中立性に反することとなる
旨主張する。
(イ)しかし,人事委員会と協議すべき内容は飽くまで旅費の増額の適否
についてだけであり,仮に人事委員会が増額を認めなかったとしても,
特別職の公務員は,知事等給料条例所定の旅費の支給を受けて旅行をす
ることは可能であるから,被告の主張を直ちに採用することはできない。
オ(ア)また,被告は,知事等給料条例における「例による」との表現は,
当てはめ先の条例の手続を包括的に当てはめるものとは限らず,合理的
にその趣旨を解釈すべきであると主張する。
(イ)しかし,知事等給料条例の「例による」との表現に不統一な点が
あるとしても,同条例3条2項は,旅費の増額について中立的機関であ
る人事委員会に意見を求め,適正な旅費の支給を確保しようとしたもの
と解されることから,その趣旨においても合理性が認められるものであ
る。
カ以上のとおり,特別職の公務員につき,知事等給料条例に定められた宿
泊料を超える額の宿泊料を支給する場合,人事委員会との協議を経る必要
があるところ,P1知事は,P1知事及びP2秘書のアメリカ出張の宿泊
料について,人事委員会との協議を経ていなかったのであるから,当該宿
泊料のうち知事等給料条例に定められた宿泊料を超える額の支給は違法で
あるといわざるを得ない。
()事後的な人事委員会との協議により瑕疵が治ゆされたか2
ア被告は,平成17年12月2日,人事委員会と本件海外出張の旅費の増
額について協議を行い,同月9日,同委員会から協議につき異議はない旨
の回答を得たことから,本件海外出張の旅費の増額について人事委員会と
の協議が必要であったとしても,事後的に協議が行われたのであるから,
手続上の瑕疵はない旨主張する。
イしかし,知事等給料条例3条2項が,同条例所定の額を超える額の旅費
を支給する場合につき人事委員会との協議を求めた趣旨は,中立的機関で
ある人事委員会に事前に旅費の増額の支給の適否につき意見を聞くことに
よって,いわゆるお手盛りの弊害が生ずることを未然に防止し,旅費の支
給の適正を確保しようとしたところにあるものと解される。
そうすると,既に知事等給料条例所定の額を超える額の旅費が支給され
てしまった後になって人事委員会との協議がされたとしても,もはや実の
ある協議を行うことは困難であり,旅費の支給の適正を図ろうとした趣旨
を全うすることはできないといわざるを得ない。
したがって,知事等給料条例所定の額を超える額の旅費が支出された後
になって,事後的に人事委員会との協議を経たとしても,それをもって瑕
疵が治ゆされたということはできないから,被告の主張を採用することは
できない。
5争点()について4
()不当利得返還義務の成否1
前述のとおり,P1知事及びP2秘書に対する宿泊料の増額手続が違法で
あることが認められるところ,そうすると,P1知事及びP2秘書に対して
は,知事等給料条例に定められた宿泊料の支出だけが許されるのであるから,
P1知事及びP2秘書に対して支出された宿泊料のうち,精算後の金額と同
条例に定められた宿泊料との差額分については,違法な支出というべきもの
であって,法律上の原因がなく,P1知事及びP2秘書は,東京都に対して
その不当利得返還義務を負うというべきである。
()返還すべき額2
前述のとおり,P1知事及びP2秘書の知事等給料条例に定められたアメ
リカ出張に係る宿泊料の合計額は,P1知事が20万1000円,P2秘書
が12万8500円である。
一方,前記認定事実のとおり,アメリカ出張の宿泊料の精算後の合計額は,
P1知事が78万9000円,P2秘書が58万6200円である。
したがって,返還すべき不当利得額は,以下のとおり,P1知事が58万
8000円,P2秘書が45万7700円である。
アP1知事78万9000円−20万1000円=58万8000円
イP2秘書58万6200円−12万8500円=45万7700円
()本件請求において認められる額3
上述のとおり,返還すべき不当利得の額は,P1知事が58万8000円,
P2秘書が45万7700円であるところ,原告の請求するアメリカ出張に
係る不当利得の額は,P1知事につき54万7800円,P2秘書につき4
3万2000円であるから,本件請求において認められる不当利得の額は,
原告の請求額となると解すべきである。
そして,不当利得返還債務は,法律の規定により発生した債務であるから,
期限の定めのない債務であって,債権者の請求を受けたときから履行遅滞に
陥ることになるところ,P1知事及びP2秘書が東京都から請求を受けたこ
とを認めるに足りる証拠はないことから,遅延損害金の発生を認めることは
できない。
6結論
以上によれば,本件訴えのうち,被告に対し,P1に59万2900円,P
2に51万4500円及びP3に51万4500円並びにこれらに対する平成
13年6月21日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払の請求を求
める部分は不適法であるからいずれも却下し,その余の部分に係る原告の請求
は,被告に対し,P1に54万7800円及びP2に43万2000円の各支
払の請求を求める限度において理由があるから認容し,その余は理由がないか
ら棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟
法61条,64条本文,66条を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第38部
杉原則彦裁判長裁判官
鈴木正紀裁判官
松下貴彦裁判官
別紙1
(原告の主張)
ア原告は,P14平成16年1月25日号に掲載された記事(以下「本件
P14記事」という。)を読んで初めて,本件海外出張に際して旅費等の
増額が行われたこと及びP4がアメリカ出張に同行したことを知った。そ
して,原告は,本件P14記事が掲載されてから1か月もたたない同年2
月10日に本件海外出張の旅費等の書類の開示請求をし,その開示を受け
た同月24日からわずか約2週間後の同年3月10日には本件監査請求を
行っている。
そうすると,原告は,相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて監
査請求をするに足りる程度に,当該行為の存在及び内容を知ることができ
た時から,相当な期間内に本件監査請求をしたといえる。
したがって,原告が,本件公金支出から1年を経過した後に,本件監査
請求をしたことには正当な理由がある。
イ本件監査請求は,本件海外出張に係る旅費の支出全体ではなく,増額分
について特に問題としている。そして,原告は,東京都知事等が旅行する
ときは,旅費等の支出を伴うが,その旅費等について常に増額が行われる
のかどうかを知らないのであるから,P1知事らが本件海外出張を行った
ことが新聞で報道されたとしても,旅費等の増額が行われたことが公知の
事実であるということはできない。まして,P1知事らが,旅費条例42
条2項に違反して旅費等の増額を行ったことは,一般都民に知らされてい
ないし,その監視を一般都民に求めることはできない。
また,P1知事がアメリカ出張を行ったことについて,平成13年9月
に新聞で報道されているが,P4が同行していたことは,いわゆるスポー
ツ紙に掲載されただけであるから,公知の事実であったとはいえない。
ウそもそも東京都知事は,条例や議会の議決又は法令等に基づいて東京都
の事務を誠実に執行する義務を負う(地方自治法138条の2)。それゆ
え,住民としては,東京都知事の行為はまずは適法であろうと考えるのが
通常であるから,住民の積極的調査義務が相当の注意力をもってする調査
の前提となるわけではない。また,閲覧は,原告が東京都情報公開条例の
開示請求によることなく,被告の情報提供に対応してこれをすることがで
きるものであり,その費用も無料であるのに対し,情報公開請求は,同条
例に基づき情報公開請求書を提出し,東京都知事の開示決定処分を受ける
情報のみ閲覧することができ,かつ閲覧に当たり手数料を徴収されるので
あるから,原告は,わざわざ情報公開請求をし開示された資料を精査する
ような積極的な調査義務を課せられてはいない。
エさらに,P1知事は,平成11年4月に東京都知事に立候補した際,従
前の財政上の無駄な支出を見直すとの公約を掲げており,同年6月の定例
記者会見においては,都議会議員の海外視察について批判的な発言をして
おり,また,東京地方裁判所平成11年(行ウ)第194号事件の参加人
であったにもかかわらず控訴をしなかったことから,原告は,P1知事自
らが違法な海外出張を行っているとは全く思わなかった。
オしたがって,新聞報道等によりP1知事らが本件海外出張を行ったこと
が明らかになった平成13年当時に,原告が本件海外出張に関する財務会
計上の行為が記載された書類等の開示を請求すべきであったとすることは,
原告に過度の要求をするものである。そして,東京都知事等が本件海外出
張をしたことを知ったのみでは,相当の注意力をもって調査すれば客観的
にみて監査請求をするに足りる程度に,当該行為の存在及び内容を知るこ
とができたとはいえない。
(被告及び補助参加人の主張)
ア本件監査請求の起算日は,P1知事らに本件海外出張の旅費を支出した
日であるから,ガラパゴス出張については平成13年6月8日,アメリカ
出張については同年9月7日である。
本件監査請求がされたのは,同16年3月10日であるから,本件監査
請求は,当該行為が行われた日から1年を経過した後にされたものである
ことが明らかである。
イP1知事らがガラパゴス出張を行ったことについては,平成13年6月
に新聞によって広く報道されており,既に公知の事実であった。
また,P1知事らがアメリカ出張を行ったこと及びP4が同行している
ことについては,同年9月に新聞によって広く報道されており,既に公知
の事実であった。
海外出張が行われていれば,旅費の支出等の財務会計上の行為が行われ
ていることは明らかであるから,原告が,本件海外出張に係る財務会計上
の行為の内容について知ろうと思えば,東京都情報公開条例に基づく公文
書の開示請求をして,その内容を知ることができた。そして,新聞報道等
によりP1知事らが本件海外出張を行ったことが明らかになった同年当時,
本件海外出張に係る財務会計上の行為が記載された書類等の開示を請求し
さえすれば,事案決定原議及び旅費内訳等の書類を入手することができ,
かつ,増額に係る人事委員会協議を経ているか否かの点を含め,その内容
を知ることができたのである。そして,原告は,これらの書類を相当の注
意力をもって調査すれば,本件P14記事によらずとも,客観的にみて本
件海外出張の旅費の支出について監査請求をするに足りる程度に,その存
在及び内容を知ることができたといえる。
したがって,本件監査請求が,本件海外出張の旅費の支出日から1年を
経過してされたことについて,正当な理由があるとはいえない。
ウ普通地方公共団体の一般住民が相当の注意をもって調査したときに客観
的にみて監査請求をするに足りる程度に財務会計上の行為の存在又は内容
を知ることができなくても,監査請求をした者が監査請求をするに足りる
程度に当該行為の存在又は内容を知ることができたと解される場合には,
正当な理由の有無は,そのように解されるときから相当な期間内に監査請
求をしたかどうかによって判断すべきである。
原告は,本件海外出張が行われた平成13年に,それまで29年勤務し
た商社を退職して,行政・公共経営を研究すべくP17大学大学院に入学
し,同15年4月27日に行われた文京区議会議員選挙に,徹底した行財
政改革を図るべく,文京区役所の職員及び区議会議員の削減による区の経
費削減を公約に掲げて立候補した者である。
そうすると,本件海外出張が行われたことが報道された同13年当時,
原告は,役所の経費の支出,特に公務員の海外出張に係る旅費の支出につ
いて特段の関心を有しない一般都民とは異なる関心を持っていたのである
から,本件海外出張が行われたという新聞報道は,原告が本件海外出張に
係る財務会計上の行為が記載された書類等の開示請求を行う契機に十分な
り得た。
したがって,この点からも,本件監査請求が監査請求期間を徒過したこ
とについて正当な理由があるとは認められない。
以上
別紙2
(原告の主張)
ア地方自治法204条3項は,「給料、手当及び旅費の額並びにその支給
方法は、条例でこれを定めなければならない。」と規定しており,これを
受けて,知事等給料条例1条が,知事及び特別秘書の旅費については「こ
の条例の定めるところによる」と規定しているのであるから,地方自治法
204条3項の趣旨を踏まえて,知事に同行する知事夫人についても,条
例の規定によって初めて支給が認められるものというべきである。しかし,
知事等給料条例は,知事と同行して外国旅行をする知事夫人ついては,何
ら規定を設けていない。したがって,P1知事と同行したP4の旅費は,
P1知事又はP4の自弁によるべきものであって,被告が支出すべきもの
ではない。
イ東京都財政の窮状にかんがみれば,連続宿泊制限のある混雑期に,1泊
分を余分に支払ってまで,費用対効果の希薄なアメリカ出張にP4が同行
する必要はなく,P4に対する旅費は全額違法な公金支出である。
ウ(ア)P1知事の私的団体であるP8研究所における講演及び夕食会出
席並びにP18大学での講演は,いずれも東京都の事務ではなく公務で
はない。P1知事の両講演と夕食会において,公務として在日米軍α基
地の返還又は共用化問題についての事務が処理されたことは全く明らか
ではない。まして,P4が講演する予定もなく,その同伴すら必要ない。
さらに,夕食会での懇談の親密な雰囲気の醸成といっても,夕食会で公
務として在日米軍α基地の返還又は共用化の問題の意見交換がされるわ
けではないから,公務のためにその場にP4がいることも不要である。
被告は,「単身で出席することは著しく礼儀に反する」旨主張するが,
公務ではない私的な団体での講演のついでに開催される私的な夕食会の
ためだけにP4を同伴させなければならない必要性はない。したがって,
P4の旅費の支出は,「当該普通地方公共団体の事務を処理するために
必要な経費」には該当しない。
(イ)P1知事らのアメリカ出張が民間機関であるP8研究所の招待及び
私立大学であるP18大学の招待を契機としたものであることは,被告
の平成17年12月16日付け準備書面()で初めて明らかにされたも4
のであるから,上記主張は時機に遅れた攻撃防御方法ではないし,原告
には故意又は重大な過失もない。
(被告の主張)
アP1知事及びP4は,アメリカ合衆国政府関係者をスタッフに擁する民
間の公共政策研究機関であるP8研究所から,同研究所における講演と,
ライス大統領補佐官,ウルフォウィッツ国防副長官らのアメリカ合衆国政
府高官との懇談のための同研究所主催の夕食会への招待状を受けた。また,
P1知事は,P18大学からも,同大学での講演のための訪問の招待を受
けた。
欧米では,一般的に,夕食会への出席は夫婦同伴が原則であり,夫婦同
伴指定の招待を受けたにもかかわらず,単身で出席することは著しく礼儀
に反するものである。実際にも,アメリカ合衆国政府高官等との懇談を目
的とした夕食会においては,率直な意見交換を行えるよう打ち解けた雰囲
気を演出する上でP4の役割は重要である。特に,アメリカ出張の目的の
1つである在日米軍α基地の返還又は共用化問題という都政に重要な課題
についてのアメリカ合衆国政府高官等との意見交換が懇談の内容であるこ
とからすれば,親密な雰囲気の醸成は不可欠であり,P4の役割は大きい。
上記のとおり,P4は,P8研究所及びP18大学からの招待を受け,
国際儀礼を失しないために,また,アメリカ合衆国政府高官等との夕食会
におけるP1知事のサポートのために,P1知事のアメリカ出張に同行す
る必要があった。
イ原告は,地方自治法204条3項を根拠に,P4に対する旅費の支出が
違法であると主張するが,同条は普通地方公共団体の長及び常勤の職員等
に対する給料,手当及び旅費の支給に関する規定であるから,同項は非職
員であるP4には適用されず,同項の趣旨を踏まえ知事等給料条例で定め
ることにより初めて旅費の支給が認められるというものではない。
また,地方自治法207条は,普通地方公共団体は,条例の定めるとこ
ろにより,同法74条の3第3項及び100条1項の規定により出頭した
選挙人その他の関係人等の要した実費を弁償しなければならない旨定める
が,同条は,同条に規定する者に対する実費弁償の支払義務の規定であっ
て,実費弁償の支払対象者を限定する規定ではないから,同条に規定して
いない者に対して実費弁償を支払うことは同条に違反するものではない。
P4のアメリカ出張への同行は必要なものであり,その旅費は地方自治
法232条1項の「当該普通地方公共団体の事務を処理するために必要な
経費」に該当するところ,P4の同行は東京都の要請ないし依頼によるも
のであって,これに要する経費は非職員に対する旅費である特別旅費とし
て,旅費条例等に準じて適正に支出したものである。
ウ(ア)原告は,訴状提出以来,P4のアメリカ出張同行の必要性はなかっ
たと主張してきたものの,P1知事及びP2秘書のアメリカ出張には,
人事委員会協議を欠く違法があると主張してきたのみであり,P1知事
及びP2秘書のアメリカ出張の公務性については何ら主張してこなかっ
たにもかかわらず,平成18年1月27日付け第6準備書面を提出し,
アメリカ出張自体の公務性を否定する主張をし始めた。しかし,裁判長
から次回口頭弁論期日において弁論を終結する予定である旨の発言があ
った後にかかる主張をする行為は,当事者としての信義誠実義務に違反
するばかりか,時機に遅れた攻撃防御方法の提出であるといわざるを得
ない。
上記主張は,原告が主張するつもりであれば訴状提出時点であっても
十分主張可能であったばかりか,アメリカ出張が東京都の事務として行
われたことは被告が繰り返し主張してきたのであり,原告の主張の機会
は十分にあった。
上記主張を許せば,それまで原被告間に争いがなかったP1知事及び
P2秘書のアメリカ出張の公務性について審理する必要が生じることに
なり,訴訟の完結が遅延することは必至である。
よって,P1知事及びP2秘書のアメリカ出張が公務ではない旨の原
告の主張は,時期に遅れた攻撃防御方法として却下されるべきである。
(イ)アメリカ出張は,多様な事項についてアメリカ合衆国政府関係者
等と会談し,併せて講演等により東京都の考え方を広く公表することに
よって,都政を推進するための環境整備及び都政に有益な情報の入手を
行うことを目的として行われたものであり,東京都の公務すなわち東京
都の事務である。
P8研究所は,東京都の重要な施策に関連する研究として,平成15
年6月,α基地の共用化と基地の将来に関する報告書を発表し,これを
東京都や防衛庁,アメリカ合衆国政府に提出しており,同報告書を取り
上げてみるだけでも,同研究所の研究成果は,関係自治体,国,アメリ
カ合衆国政府の政策形成に様々な影響を及ぼしていると評価できる。同
研究所でP1知事が講演することは,東京都の政策の正当性についてア
メリカ合衆国政府関係者に理解を求めるにつき,またとない好機であっ
たものである。
以上
別紙3
(原告の主張)
ア知事等給料条例3条2項によれば,旅費の算定方法は,この条例に定め
るものを除き,旅費条例の例によるとされているところ,旅費条例42条
2項によれば,東京都知事ら特別職の公務員についても,旅費の増額につ
いて人事委員会との協議を行うべきである。ところが,本件海外出張につ
いては人事委員会との協議を経ておらず,本件海外出張のP1知事,P3
秘書及びP2秘書の旅費の増額分は違法な公金支出である。
イ被告の主張によれば,いかなる交通機関,いかなるホテル等を利用して
も,それにかかる費用を支出してもよいということになり,知事等給料条
例が別表(二)及び別表(五)で定めた基準が全く意味を持たないものとなっ
てしまい不当である。
ウ本件訴訟提起後の事後的な人事委員会との協議は,旅費条例が求めた趣
旨を満たすものではなく,それにより瑕疵が治ゆされるものではない。
(被告の主張)
ア知事等給料条例では,知事等が旅行の必要上,増額による実費旅費の支
給が必要な場合,すなわち,知事等について定額等のみをもって旅行する
ことが,当該旅行における特別の事情により,又は当該旅行の性質上困難
である場合には,知事等給料条例3条2項でその例によることとされてい
る旅費条例の例により,実費額により支給額を計算することが認められて
いるというべきである。
イ原告は,旅費条例42条2項が定める人事委員会の協議を経ていない増
額支給は違法であると主張しているが,実費額は交通機関やホテル等の料
金によって決まるもので人事委員会との協議によって算定されるものでは
ないから,人事委員会との協議が旅費の算定方法ではないことは明らかで
ある。
ウまた,知事等給料条例3条2項でその例によることとされている旅費条
例の例により実費額により支給額を計算する場合,人事委員会の権限は知
事等の特別職の公務員には及ばないから,人事委員会との協議は不要であ
る。
(ア)人事委員会は,地方公務員法によって労働基本権を制約された地方
公務員への代償措置の機能を果たすべく設置された機関であるから,地
方公務員法の適用を受けない特別職に対する権限行使は,地方公務員法
が人事委員会を設置した目的の対象外である。また,任命権者から独立
した専門的,中立的機関として,任命権者の人事権の行使をチェックす
るという設立目的の点からみても,特別職は人事委員会がチェック対象
としてる職ではないから,人事行政に関わらない事項又は特別職の処遇
に対する人事委員会の関与は人事委員会の設立目的の対象外である。
(イ)地方自治法202条の2は,人事委員会は,別に法律の定めるとこ
ろにより,人事行政に関する調査,研究,企画,立案,勧告等を行い,
職員の競争試験及び選考を実施し,並びに職員の勤務条件に関する措置
の要求及び職員に対する不利益処分を審査し,並びにこれについて必要
な措置を講ずると規定し,地方公務員法8条1項は上記各事項を具体的
に掲記する。そして,同法4条2項は,特別職の公務員について,法律
に別の定めがある場合を除く外は地方公務員法の規定を適用しないとし
ているから,同法8条1項各号の規定する上記人事委員会の権限は特別
職の公務員には及ばない。仮に,知事等給料条例3条2項が,旅費条例
42条2項の規定のうち,任命権者と人事委員会との協議に関する部分
をも準用する趣旨であると解釈すると,知事等給料条例3条2項は,特
別職の公務員に対する人事委員会の権限行使を定めた規定となり,地方
自治法及び地方公務員法の趣旨に反することは明らかである。地方公務
員法8条1項12号は,「前各号に掲げるものを除く外、法律又は条例
に基きその権限に属せしめられた事務」を人事委員会が処理する旨規定
するが,専門的,中立的人事機関である人事委員会がチェック対象であ
る一般職員に対する人事権行使の枠を超え,任命権者の経費支出の在り
方までチェックする権限を与えるような条例は,明らかに地方公務員法
の精神に反するもので,違法な条例であるから,同号をもってしても人
事委員会が特別職の公務員に対して権限を及ぼすことは違法である。
エ被告は,平成17年12月2日,人事委員会と本件海外出張の旅費の増
額について協議を行い,同月9日,同委員会から協議につき異議はない旨
の回答を得た。
したがって,本件海外出張の旅費の増額について人事委員会との協議が
必要であったとしても,事後的に協議が行われたのであるから,手続上の
瑕疵はない。
以上
別紙4
(原告の主張)
被告がP1知事に対して返還請求すべき額は,ガラパゴス出張につき59万
2900円,アメリカ出張につき54万7800円であり,P3秘書に対して
返還請求すべき額は,ガラパゴス出張につき51万4500円であり,P2秘
書に対して返還請求すべき額は,ガラパゴス出張につき51万4500円,ア
メリカ出張につき43万2000円であり,P4に対して返還請求すべき額は,
アメリカ出張につき203万8840円である。
なお,ガラパゴス出張については,4泊5日のクルーズ料金が船賃として処
理されているが,宿泊料として処理されるべきものである。
(被告の主張)
旅費条例25条2項によれば,内国旅行の宿泊料は,船賃等のほかに別に宿
泊費を要する場合等に支給するものとされ,同条例26条2項によれば,内国
旅行の食卓料は,船賃のほかに別に食費を要する場合等に支給するものとされ
ている。また,これらの規定は,同条例35条3項により外国旅行の場合の宿
泊料及び食卓料について準用することとされている。
これらの規定によれば,部屋代,食事代を含めた乗船料は船賃で支給すべき
である。
知事等給料条例と旅費条例の旅費の支給区分は同じであるから,ガラパゴス
出張におけるP1知事,P3秘書及びP2秘書に対する船賃の支給は,旅費の
支給区分を誤っていない。
以上

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