弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 一1 原審の確定した事実の要旨は、次のとおりである。
  (一) 訴外Dは、訴外株式会社E銀行(以下「訴外銀行」という。)から、(
1) 昭和四六年一二月一七日二〇〇万円を、三年の分割払、期限後の遅延損害金
の利率は年一四パーセントの約定で、(2) 昭和四七年八月一二日三〇〇万円を、
五年の分割払、期限後の遅延損害金の利率は右と同率の約定で、それぞれ借り受け
た(以下「本件借受金」という。)。
  (二) 訴外Fは、昭和四七年八月一二日訴外銀行に対し、同人所有の本件不動
産につき被担保債権の範囲をDと訴外銀行との間の銀行取引による債権及び手形・
小切手上の債権とし、極度額を三九〇万円とする第一順位の根抵当権を設定し、か
つ、Dの本件借受金債務につき連帯保証した。右根抵当権の設定登記は、同月一八
日経由された。
  (三) 被上告人は、昭和四七年八月一二日D及びFとの間で本件信用保証委託
契約を結び、これに基づいて訴外銀行に対し、Dの本件借受金債務につき三〇〇万
円を限度として保証した。
  (四) 本件信用保証委託契約には、(1) 被上告人が訴外銀行に代位弁済した
ときは、D及びFは被上告人に対し、連帯して被上告人の弁済額全額及びこれに対
する代位弁済の日の翌日から支払ずみまで年一四・六パーセントの割合による遅延
損害金を支払う旨、(2) 被上告人が代位弁済したときは、被上告人は、Fが訴外
銀行に提供した担保の全部につき訴外銀行に代位し、右(1)の求償権の範囲内で訴
外銀行の有していた一切の権利を行使することができる旨の特約があつた。
  (五) Dは、昭和四九年二月二日銀行取引停止処分を受け、同年八月二六日ま
でに本件根抵当権の担保すべき元本が確定した。
  そして、被上告人は、同日訴外銀行に対し、(ア) Dの本件借受金債務のう
ち前記(一)(1)の債務の残金六一万三二四六円と、(イ) 本件借受金のうち前記
(一)(2)の債務の残金一九七万四七一〇円の合計二五八万七九五六円を代位弁済し
たが、その後配当期日までにDから多数回にわたつて内入弁済があつた。
 (六) 被上告人の申立により開始された本件不動産の競売事件(福岡地方裁判所
昭和五〇年(ケ)第二六九号事件)において、被上告人は、競売代金から優先弁済
を受けるべき債権は、右(ア)の代位弁済金の残額一五万六〇〇〇円、これに対す
る年一四・六パーセント(求償権についての約定利率)の割合による遅延損害金一
二万八九二七円、(イ)の代位弁済金の残額一七七万四七一〇円、これに対する年
一四・六パーセントの割合による遅延損害金八〇万五五七九円の合計二八六万五二
一六円であるとして、債権計算書を提出した。
 (七) しかし、競売裁判所は、昭和五二年九月九日の本件配当期日において次の
配当表を作成した。
   被上告人   債 権 額  二一六万六八五四円
          (右は元金一九三万〇七一〇円及びこれに対する法定利率年
六パーセントによる遅延損害金二三万六一四四円の合計額)
          配 当 額  右 同 額
   上告人A1  債 権 額  二〇〇万円
          配 当 額  右 同 額
   上告人A2  債 権 額  一〇〇万円
          配 当 額   三二万七六九七円
 (八) 右配当表に対し、被上告人は、債権計算書記載の債権の全部二八六万五二
一六円につき優先弁済を受けることができると主張して異議を申し出たが、完結し
なかつた。
 2 被上告人は、本件配当表中上告人A1に対する配当額二〇〇万円のうち三七
万〇六六五円、上告人A2に対する配当額三二万七六九七円の全額、以上合計六九
万八三六二円を取り消し、これを本件配当表中の被上告人に対する配当額二一六万
六八五四円に加え、これを二八六万五二一六円に変更する旨の判決を求めた。
 3 右の事実関係のもとにおいて、原審は、被上告人が代位弁済によつて取得す
る根抵当権を行使して配当を受ける債権は、求償権であると解したうえ、配当を受
ける元本については、代位弁済金の配当期日における残存額である一九三万〇七一
〇円とし、同遅延損害金については、債権者・債務者間で債務について約定された
遅延損害金の利率と、保証人・債務者間で求償権について約定された遅延損害金の
利率とを比較して、後者の利率の限度で、前者の利率によるべきであるとの見解の
もとに、これを八九万六一〇三円として、被上告人の請求を右の元本及び損害金の
合計二八二万六八一三円の限度で認容すべきものと判断し、これと同旨の第一審判
決を相当であるとして本件控訴を棄却している。
 二 しかしながら、職権をもつて調査すると、原審の右の判断には次のとおり法
令の解釈を誤つた違法がある。
  民法五〇一条の定める弁済による代位は、代位弁済者が債務者に対して取得す
る求償権を確保するために、債権者の債務者に対する貸金等の債権(以下「原債権」
という。)及び債務者ないし物上保証人に対するその担保権を消滅させずに、その
全部又は一部を代位弁済者に当然に移転させ、代位弁済者がその求償権の範囲内で
右の原債権及び担保権を行使することを認めるものである。したがつて、代位弁済
した保証人は、当該担保権が根抵当権の場合においては、民法五〇一条本文の規定
により債権者が債務者又は物上保証人に対し有していた根抵当権を行使することが
できるが、弁済による代位があつても、右根抵当権の被担保債権が保証人の債務者
に対する求償権に変更されるものではなく、右根抵当権は従来どおり原債権を担保
することに変わりはないから、担保不動産の競売手続において保証人が優先弁済を
受けるのは、右の原債権であつて、債務者に対する求償権ではない。そして、民法
五〇一条本文において原債権及びその担保権の行使の範囲を画する基準とされてい
る「求償ヲ為スコトヲ得ヘキ範囲」とは、約定利率による遅延損害金を含んだ求償
権の総額についていうものであつて(最高裁昭和五五年(オ)第三五一号同五九年
五月二九日第三小法廷判決・民集三八巻七号登載予定)求償権の一部を構成するに
すぎない遅延損害金の利率についていうものではない。また、保証人が債権者に代
位弁済したのち、債務者から右保証人に対し内入弁済があつたときは、右の内入弁
済は、右保証人が代位弁済によつて取得した求償権のみに充当されて債権者に代位
した原債権には充当されないというべきではなく、求償権と原債権とのそれぞれに
対し内入弁済があつたものとして、それぞれにつき弁済の充当に関する民法の規定
に従つて充当されるべきものと解するのが相当である。
 三 叙上の見解に立つて、本件についてみるに、原審は、被上告人が配当を受け
るべき債権は求償権であると解して、本件配当期日における求償権の金額を確定し
ているにすぎず、このため、本件配当期日における原債権である貸金債権の金額を
確定しておらず、かつ、原審の確定した前記事実からは、本件配当期日における貸
金債権の金額を算定するに必要な代位弁済以後にされた内入弁済の日時、金額並び
に右内入弁済の求償権及び貸金債権の各遅延損害金、利息ないし元本に対する充当
関係が不明であるから、右の事実によつて本件配当期日における貸金債権の金額を
確定することもできない。そうすると、原判決の法令の解釈を誤つた前記違法は、
判決に影響を及ぼすことが明らかであり、原判決はその全部につき破棄を免れない。
 よつて、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととし、民訴法四
〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    木 戸 口   久   治
            裁判官    伊   藤   正   己
            裁判官    安   岡   滿   彦
            裁判官    長   島       敦

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