弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人高畑春二の上告趣意は末尾添付の別紙書面記載のとおりである。
 同弁護人の上告趣意第一点について
 第一審においては、被告人の司法警察員及び檢察官に對する各供述調書記載の自
白の供述の外、その自白の眞実性を裏付けるに足る多くの補強証拠を舉げて本件放
火の犯罪事実を認定しているのであるから、所論の憲法第三八条第三項、刑訴第三
一九条第二項違反の主張はその前提を欠くものであつて、上告適法の理由とならな
い。また論旨中右被告人の自白の信憑力を爭い、惹いて事実誤認を主張する点は刑
訴第四〇五条の上告理由に当らない。
 同第二点について
 論旨は、原審において国選弁護人選任の時期を誤り、弁護人の控訴趣意書の提出
その他弁護權の行使を妨げた違憲違法があると主張する。
 記録によれば、原審においては被告人に對し控訴趣意書提出最終日を一ケ月後の
日に指定して通知すると同時に、弁護人選任に関する通知をなしたのにかかわらず、
被告人はその後二〇日を経ても裁判所に對し国選弁護人選任の請求をなすところも
なく、また自ら弁護人選任手續をもとらなかつたので、原審は本件が必要的弁護事
件である関係上国選弁護人を選任したのであるが、同弁護人は提出最終日までにな
お八日を存していたのにかかわらず控訴趣意書を提出することなく、公判期日に出
頭して被告人から提出してあつた控訴趣意書に基いて弁論をなしたものであること
が認められる。すなわち、原審における国選弁護人の選任は被告人の請求に基くも
のではなく、刑訴第二八九条により職權でなされたものであり、より速かにその選
任がなされなかつたのは全く被告人の責に帰すべき事由によるものであるといわな
ければならない。かくのごとく必要的弁護事件について裁判所が被告人の意思の如
何にかかわりなく強制的に職權で弁護人を選任することは、刑訴法上の問題であつ
て憲法第三七条第三項の関知するところではないこと、またその選任が遲れて控訴
趣意書提出期間内に趣意書が提出できないような場合であつても、裁判所はその提
出最終日の指定替をして弁護人に改めて趣意書提出の機会を与えなければならな 
憲法上の義務を負うものではないことは、当裁判所判例の示すところである(昭和
二五年(あ)第二一五三号、同二八年四月一日大法廷判決、判例集七巻四号七一三
頁以下參照)。されば原審における所論の手續について違憲を主張する論旨は理由
がないのみならず、原審手續は何等訴訟法に違反するものではない。
 記録を調べても本件につき刑訴第四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて刑訴第四〇八条、第一八一条により主文のとおり判決する。この判決は裁
判官小谷勝重、同谷村唯一郎の補足意見を除く外、裁判官全員一致の意見によるも
のである。
 裁判官小谷勝重、同谷村唯一郎の補足意見は、前掲大法廷判決における右両裁判
官の補足意見に示すとおりであつて、要するに控訴裁判所が必要的弁護事件におい
て弁護人を選任するに当り、弁護人が完全に弁護權を行使し得ない時期に及んでこ
れをなすことは訴訟法の精神に反し違法であると解する。しかし本件原審の弁護人
選任については、控訴趣意書提出最終日までに充分の期間をおいてなされなかつた
違法はあるが、本件事案の経緯及び経過((イ)第一審判決採証の被告人の司法警
察員及び檢察官に對する本件犯行自認の各供述調書、(ロ)第一審第一回公判にお
ける犯行自認の公判調書、(ハ)本件は放火事件ではあるが、具体的な事案として
は比較的簡單であり、且つ証拠関係も第一審において十分に取調べられていること
が認められ、(ニ)また控訴審において国選弁護人が速かに事件調査を進めれば本
件八日の期間内に控訴趣意書が完全に作成されないとはいえない事案と認められる
こと、等)に徴すれば右違法により刑訴第四一一条を適用するに足りないとするも
のである。
  昭和二九年二月二六日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    谷   村   唯 一 郎

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