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平成30年6月20日判決言渡
平成29年(ネ)第10103号損害賠償請求控訴事件・平成30年(ネ)第10
012号同附帯控訴事件(原審東京地方裁判所平成28年(ワ)第19080号)
口頭弁論終結日平成30年4月16日
判決
控訴人兼附帯被控訴人株式会社ヨコハマ・モーター
セールス
(以下「控訴人」という。)
同訴訟代理人弁護士村西大作
弓削田博
河部康弘
藤沼光太
同補佐人弁理士佐々木智也
貞島亮介
被控訴人兼附帯控訴人株式会社トノックス
(以下「被控訴人トノックス」
という。)
同訴訟代理人弁護士岡林俊夫
竹内教敏
被控訴人有限会社マルチデバイス
(以下「被控訴人マルチデバ
イス」という。)
同訴訟代理人弁護士日下隆浩
主文
1本件控訴及び本件附帯控訴をいずれも棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とし,附帯控訴費用は被控訴人トノックス
の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1控訴
(1)原判決を次のとおり変更する。
(2)被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して4億6750万円及びこれに対
する平成25年2月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2附帯控訴
(1)原判決のうち被控訴人トノックス敗訴部分を取り消す。
(2)控訴人の被控訴人トノックスに対する請求を棄却する。
第2事案の概要
1本件は,キャンピングカー及び特殊車両等の製造等を行っている控訴人が,
消防庁における消防用特殊車両の製造に係る一般競争入札に参加して落札し,自ら
上記車両を製造し,これを消防庁に納入した被控訴人トノックス及びその製造に関
与した被控訴人マルチデバイスに対し,被控訴人トノックスは,不当に安い金額で
上記落札をしたほか,上記車両の製造に当たり控訴人から提供を受けた資料を流用
し,また,被控訴人らは,上記車両の製造に当たって,控訴人が著作権を有する制
御プログラム,タッチパネル画面,取扱説明書及び警告用のシールを複製,翻案し
たと主張して,主位的に,上記一連の行為は不法行為を構成するとして,不法行為
に基づく損害賠償請求(民法709条,719条1項前段)として,予備的に,上
記各著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条,719条1項前
段,著作権法114条1項又は3項)として,損害金4億6750万円及びこれに
対する不法行為の日又はその後の日である平成25年2月13日(被控訴人トノッ
クスが上記車両を消防庁に納車した日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合
による遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。
原審は,上記警告用シールの著作権侵害による不法行為に基づく請求のうち,被
控訴人トノックスに対して12万7000円及びこれに対する上記平成25年2月
13日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める請求を認容し,そ
の余の請求をいずれも棄却したところ,控訴人が本件控訴を,被控訴人トノックス
が本件附帯控訴をそれぞれ提起した。
2前提事実(争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により認められ
た事実),争点及び争点に対する当事者の主張は,原判決中の「別紙」を「原判決
別紙」と改めるとともに,次のとおり補正するほかは,原判決の事実及び理由欄の
「第2事案の概要」1~3に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)原判決3頁9行目の「支援車Ⅰ型」を「消防支援車Ⅰ型(以下「支援車Ⅰ
型」という。)」に改め,19行目の「この時製造された車両」の次に「(以下
「控訴人19年車両」という。)」を加える。
(2)原判決6頁17行目の末尾の次に,次のとおり加える。
「すなわち,消防庁に納車した被控訴人車両には,走行中又は停止中に拡幅部分
が10~30センチメートルも張り出すという通常あり得ない重大な不具合が生じ
ているが,同事実は被控訴人トノックスが支援車Ⅰ型を製造することができないこ
との証左である。また,被控訴人トノックスは,支援車Ⅰ型を一度も製造したこと
はなく,製造のためのノウハウを有していなかったのであるから,被控訴人車両を
製造するに当たっての初期投資は膨大な金額となるはずであり,この点も考慮すれ
ば,被控訴人トノックスによる入札価格は不当に安価であるといえる。なお,控訴
人が支援車Ⅰ型を製造した場合の1台当たりの利益額は2500万円余りであるが,
これは,支援車Ⅰ型の製造のノウハウを蓄積している控訴人が支援車Ⅰ型を47台
製造した場合のものであるから,被控訴人トノックスが製造する場合とは事情が異
なる。」
(3)原判決7頁5行目の末尾の次に,行を改めて次のとおり加える。
「この点,控訴人は,被控訴人車両において,走行中又は停止中に拡幅部分が
10~30センチメートル張り出すという不具合が生じたことをもって,被控訴人
トノックスには支援車Ⅰ型を製造する能力がない旨主張するが,上記不具合は作業
員の操作ミスによって生じた疑いもあること,被控訴人トノックスは,上記不具合
の発生後,直ちにロック装置を加え,その後は,被控訴人車両に一切不具合が生じ
ていないことからすると,上記不具合をもって被控訴人トノックスが支援車Ⅰ型を
製造する能力を有していなかったということはできない。」
(4)原判決7頁17行目の末尾の次に,行を改めて次のとおり加える。
「仮に,被控訴人トノックスの代表者が,上記資料の提供を要求する時点で控
訴人から送付された見積書を確認していなかったとしても,上記資料の提供依頼の
前に見積書は送付されていることからすると,控訴人代表者が,被控訴人トノック
スが控訴人に支援車Ⅰ型の製造の発注をすることが確実であると誤信することは無
理もないというべきである。
被控訴人トノックスに提供した上記資料のうち,一部については営業秘密に当た
るとして原審において閲覧制限が認められていることから,この資料が控訴人にお
いて重要かつ有用な資料であることは明らかであり,通常,取引を行わない企業が
このような資料を請求することはない。
そして,前記(1)で主張したとおり,被控訴人トノックスは支援車Ⅰ型を製造す
る能力がなかったことを考慮すると,被控訴人トノックスは,控訴人から提供され
た上記資料を流用して被控訴人車両を製造したと考えざるを得ない。」
(5)原判決9頁1行目の冒頭から1行目の「受領した資料」までを次のとおり
改める。
「被控訴人らは,被控訴人トノックスにおいて,控訴人に対し,支援車Ⅰ型の製
造を控訴人に発注すると誤信させた上で,控訴人に各種資料を提供させ,これらの
資料」
(6)原判決9頁5行目の「するものである。」を「するものであり,自由競争
の範囲を逸脱する。」に改める。
(7)原判決12頁6行目の「表現方法」から9行目の「字になる。」までを次
のとおり改める。
「例えば,Y09については48通り(2(上段右側の左右を入れ替える)×2
(中段右側の左右を入れ替える)×2(下段右側の左右を入れ替える)×3!(上
下を入れ替える)=48),Y13については48通り(2(上下を入れ替える)
×2(下段の左右を入れ替える)×2(上段左側の左右を入れ替える)×3!(上
段右側の3つを入れ替える)=48),Y25及びY26については各1152通
り(4!(1列目の上下を入れ替える)×4!(2列目の上下を入れ替える)×2
(1列目と2列目を入れ替える)=1152),Y03については12通り(3!
(1列目の上下を入れ替える)×2(1列目と2列目を入れ替える)=12),Y
15については192通り(2(1・2列目の上下を入れ替える)×2(上段1・
2列目を入れ替える)×2(下段1・2列目を入れ替える)×4!(1・2列目と
3列目,4列目,5列目を入れ替える)=192)の選択の幅が存在し,これらだ
けを考慮しても11京5422兆3326億3741万3376通りの選択の幅と
なり,これに残る14ブロック,さらには拡幅操作部分以外のモジュールを考慮す
ると,その表現の選択の幅は天文学的な数字となる。」
(8)原判決12頁12行目の「なお,」から16行目末尾までを削除する。
(9)原判決14頁5行目末尾の次に,行を改めて次のとおり加える。
「(エ)控訴人プログラム①をブロックごとに区分したのは,表現の幅を数値化す
るための便宜上のものであり,各ブロック単体で支援車Ⅰ型の操作ができるのでは
なく,あくまでその集合体によって支援車Ⅰ型を操作できるのであるから,著作物
性を検討するに当たってはブロックの集合体を対象として検討すべきである。
(オ)また,ラダー図では,プログラムをモジュールに分割できるところ,モ
ジュール分割に当たっては,モジュール分割の程度(どれだけ細かく分割するか)
や一つのモジュールにどのような内容の命令を組み込むかについてプログラマーの
思想が反映される。例えば,前者については,「タッチパネルモード」というモ
ジュールの中にタッチパネル操作に関するすべての命令を組み込むのか,「拡幅動
作タッチパネルモード」という具合にタッチパネル操作の内容に応じてさらにモ
ジュール分割をするのかという形でプログラマーの個性が反映され,後者について
は,「リモコンオンリー」と「リモコンモード」を違う内容と捉えてモジュール分
割をするのか,同じ「リモコン」という括りで一つのモジュールとするのかという
形でプログラマーの個性が反映される。
控訴人プログラム①のモジュール分割には,プログラム全体の見栄えをきれいに
したい,後からプログラムを見返した際にどこにどのような内容の記載があるかを
容易に把握できるようにしたい,後から新しい機能を追加するプログラムを加えや
すいようにしたい,といったプログラマーの思想が反映されている。」
(10)原判決14頁6行目の「(エ)」を「(カ)」に改め,10行目の末尾の次に,
行を改めて次のとおり加える。
「(キ)以上より,控訴人プログラム①に著作物性が認められることは明らかであ
る。」
(11)原判決14頁13行目の「A」の次に「(以下「A」という。)」を加
え,14行目末尾に「また,控訴人プログラム①の著作権は,神奈川県相模原市消
防局等に対して譲渡されていない。」を加える。
(12)原判決15頁9行目の末尾に行を改め,次のとおり加える。
「また,被控訴人トノックスには,被控訴人マルチデバイスが被控訴人プログ
ラムの作成に当たって,控訴人プログラム①を流用していないか,控訴人プログラ
ム①の著作権者は誰であるかを確認する義務があるところ,被控訴人プログラムの
作成日時は平成19年3月6日となっており(甲50),これは被控訴人トノック
スが被控訴人マルチデバイスから営業を受けたと主張する平成24年6月下旬より
5年以上も早いから,納品されたプログラム自体によって,被控訴人トノックスは,
被控訴人プログラムが控訴人プログラム①を複製又は翻案したものであることを知
ることができた。したがって,その調査を怠った被控訴人トノックスには過失が存
するというべきである。」
(13)原判決16頁3行目の末尾に行を改めて次のとおり加える。
「ウ控訴人プログラム①の著作権は,控訴人から神奈川県相模原市消防局等に
対して譲渡されている。」
(14)原判決16頁13行目の末尾の次に「さらに,各ブロックの実際の記載
方法の幅を考慮すると,控訴人プログラム②の表現の選択の幅は控訴人プログラム
①の選択の幅を上回ることになる。」を加える。
(15)原判決16頁23行目の冒頭から17頁8行目末尾までを次のとおり改
める。
「(イ)また,控訴人は,控訴人車両の製造の際に,被控訴人マルチデバイスに対
し,控訴人プログラム②を含む控訴人車両の電気系統全般の製造業務を委託した
(同委託に係る契約を,以下「本件契約」という。)が,控訴人は,本件契約によ
り,被控訴人マルチデバイスから控訴人プログラム②の著作権の譲渡を受けた。
控訴人及び被控訴人マルチデバイスが本件契約に控訴人プログラム②の著作権の
譲渡も含まれることを確認したことを示す証拠として,甲77の書面(以下「甲7
7書面」という。)がある。控訴人は,被控訴人マルチデバイスから,本件契約の
報酬額の総額を示す書面(乙ロ6。以下「乙ロ6書面」という。)が提出されとこ
ろ,被控訴人マルチデバイスから乙ロ6書面記載の報酬以外の追加報酬を請求され
たり,権利の帰属が争われたりする危険があったことから,乙ロ6書面に手書きで,
「出張旅費」,「クレーム部品」,「ハード・ソフト」,「トラブルシューティン
グ」等と追記したが,この手書きの記載がある書面が甲77書面であり,甲77書
面の「ハード・ソフト」の記載により,控訴人が控訴人プログラム②を自由に利用
することについて追加の費用が発生しないことが確認された。
確かに,甲77書面には著作権の文言は記載されていないが,控訴人代表者は,
プログラム著作権に関する正確な知識がなかったため,著作権譲渡の記載をしな
かっただけで,同記載がないことから著作権譲渡の合意がされなかったということ
にはならない。仮に,控訴人が本件契約により控訴人プログラム②の著作権の譲渡
を受けなかったとすると,控訴人は,以降,支援車Ⅰ型を受注しても,控訴人プロ
グラム②を使用できないという不合理な結果となるが,控訴人プログラム②は控訴
人プログラム①を改良したプログラムであること,控訴人プログラム②は汎用性が
なく,その著作権を被控訴人マルチデバイスに残す意味はないこと,控訴人と被控
訴人マルチデバイスとの力関係からすると,双方とも,控訴人プログラム②の著作
権を被控訴人マルチデバイスに残すことを前提とした交渉をすることは考えられな
い。
したがって,控訴人は,控訴人プログラム②の著作権を有しており,仮に,控訴
人プログラム②が控訴人プログラム①の翻案物であるといえないとしても,控訴人
プログラム②の著作権に基づき権利行使をすることができる。」
(16)原判決17頁9行目の「(イ)」を「(ウ)」に改め,10行目及び12行目
の各「又は消防庁」を削り,18頁11行目の「考えられない。」の次に,次のと
おり加える。
「被控訴人マルチデバイス代表者及び控訴人代表者は,平成23年1月下旬に,
乙ロ6書面を基に本件契約の報酬額について協議をしたが,同協議においては,追
加報酬は発生しないことを協議しただけであり,著作権譲渡の話は一切出なかった。
甲77書面の「ハード・ソフト」という記載は,被控訴人マルチデバイスが製作し
納品した制御盤関係(ハード)及び支援車Ⅰ型を作動させるプログラム(ソフト)
に納品後に追加修理等の作業が発生しても追加料金は発生しないという意味であ
る。」
(17)原判決18頁14行目の「その後」から15行目末尾までを「その後,
控訴人から第一実業へ,第一実業から消防庁へそれぞれ移転したものである。」と
改める。
(18)原判決20頁16行目から17行目にかけての「株式会社キーエンス」
の次に「(以下「キーエンス」という。)」を加え,24行目の「株式会社」を削
る。
(19)原判決21頁26行目の冒頭から22頁1行目の末尾までを次のとおり
改める。
「(ア)言語の著作物に求められる創作性の程度は低いところ,控訴人説明書は4
0頁にも及ぶ膨大なものであり,また,それぞれの機能について表題を付けて整理
している点,それぞれ数行程度の簡略な文章で説明している点及び一定の箇所の文
字部分を四角く囲って目立たせている点などに工夫があるから,控訴人説明書に創
作性が認められる。
また,控訴人説明書は,以下のとおり,その構成及び文字部分において,他社作
成の支援車Ⅰ型の取扱説明書の記載(甲90)と大きく異なっており,表現の幅が
狭いわけではないことが分かる。
a構成について
(a)控訴人説明書の表紙の構成は,支援車Ⅰ型を斜めに撮影した写真を中
央に配置し,その上に「支援車Ⅰ型」及び「取扱説明書」の各文字を段落を分けて
大きく記載し,一番下に会社名及び会社ロゴを記載するというものであるが,他社
の取扱説明書では,写真を掲載せず,「仙台消防局殿向け」,「支援車Ⅰ型取扱説
明書」,「平成23年度」及び「日本機械工業株式会社」という最低限の文字情報
だけを記載したシンプルな構成となっている。
(b)控訴人説明書における説明の順番は,他社の取扱説明書の説明の順番と
異なっている。
(c)控訴人説明書では,装備等の各部に番号を振った上で,番号に対応した
名称を列挙した表を掲載しているが,他社の取扱説明書では,表を用いずに,各部
の近くに名称を記載し,同記載と各部とを矢印で繋いでいる。
(d)控訴人説明書では,鍵の写真を1個ごとに分けて掲載し,その隣に同鍵
の名称を記載しているのに対し,他社の取扱説明書では,各鍵にその名称を記載し
たタグを付け,それらの鍵をまとめて撮影した写真を掲載している。
(e)控訴人説明書では,電気関係について,配電盤に基づき各スイッチ等の
役割という形で説明しているが,他社の取扱説明書では,配電盤の説明においては
各部の名称程度しか記載していない。
(f)控訴人説明書では,多くの頁において,文字説明は写真の有無にかかわ
らず中央より右側に配置しているが,他社の取扱説明書では,写真がない部分では,
文字説明を左側に詰めている,
(g)各所のスイッチについて,控訴人説明書は,左側に写真1枚,右側に文
字説明という形で説明し,各スイッチの場所については文字のみで説明しているの
に対し,他社の取扱説明書では,写真を横に2枚並べるなどし,各スイッチの場所
について図で説明している。
(h)冷蔵庫について,控訴人説明書では,同説明書内で説明しているが,他
社の取扱説明書では,同説明書内では説明しておらず,別途説明書を用意している。
(i)リヤシートの説明について,控訴人説明書では3枚の写真で簡潔に説明
しているのに対し,他社の取扱説明書では,多くの写真を使用するのみならず,文
字説明と写真を番号で紐づけて分かりやすく説明している。
(j)エントランスドアのステップについて,控訴人説明書では,左側に写真
を配置し,写真と文字部分の説明を対応させ,ステップの作動条件について表でま
とめているが,他社の取扱説明書では,ステップの位置を支援車Ⅰ型の図で説明し,
写真と文字部分を対応させず,ステップの作動条件をまとめることもしていない。
(k)拡幅操作について,控訴人説明書では,別途説明書を用意しているが,
他社の取扱説明書では,同説明書内で説明している。
b文字説明について
(a)インバーターについて,控訴人説明書では,「〔ON〕にするとDC1
2Vサブバッテリー電源からAC100Vに変換し供給することができます。」と,
「供給」という電力側の事情から表現されているが,他社の取扱説明書では,「D
C24V電源をAC100V電源に変換します。走行中にAC100V機器を使用
できるようになります。」と2文に分けて,「走行中に」,「使用できる」という
ユーザー側の事情から表現されている。
(b)控訴人説明書では,「インバーターのAC出力は,拡幅ボディ右壁2箇
所のインバーター専用コンセントと液晶テレビ,電子レンジ,トイレユニット,水
中ポンプに供給されます。インバーター専用コンセントを除く電力は,発電機を運
転すると自動的に発電機からの供給に切り換わります。」と表現されているが,他
社の取扱説明書では,「1台のインバーターで,拡幅または居室内一部の100V
機器,コンセントを使用できるようにしています。各使用時に,切替えスイッチで
切替え使用します。」,「インバーターで使用できるAC100V機器は,『テレ
ビ』『冷蔵庫』『トイレ』が使用出来ます。」と表現されており,両者では,「供
給」という電力側の事情から表現するのか,「使用できる」というユーザー側の事
情から表現するのかなどが異なる。
(c)DCメインスイッチについて,控訴人説明書では,「エンジンキー“A
CC”又はDCメインスイッチONでメインバッテリーの電源が供給されます。」
と表現されているが,他社の取扱説明書では,「DC24V電源を使用する場合は,
配電盤のブレーカースイッチ『DCメイン』をONにし,サイドドア内右手『DC
メイン』スイッチをONにして使用して下さい。」と表現されており,両者では,
「供給」という電力側の事情から表現するのか,「使用できる」というユーザー側
の事情から表現するのかで異なっている。」
(20)原判決22頁6行目の「情報」の次に「及び余白」を加え,19行目の
「項目立てとその順番」を次のとおり改める。
「項目を設けた点,項目立てについて,大項目と小項目を設けるという方法を採
用せずに,すべての項目を並列させた点及び項目立ての順番」
(21)原判決22頁23行目末尾の次に行を改めて次のとおり加える。
「(ウ)控訴人説明書は,言語で支援車Ⅰ型の使用方法を説明するものであるとい
う側面からすると言語の著作物であり,写真を用いているという側面からすると写
真の著作物であり,各部の説明をどのように一冊の説明書にまとめるかという側面
からすると編集著作物であり得る。
控訴人説明書の創作性は,これらの要素を持つ複合的なものとして,その表現の
幅がどれだけ存在するのかという観点からされなければならず,控訴人説明書が創
作性を有することは明かである。」
(22)原判決23頁2行目末尾の次に,「また,控訴人は,控訴人説明書の著
作権を第一実業へ譲渡していない。」を加え,24頁14行目の「第一」から15
行目末尾までを「控訴人から第一実業へ,第一実業から消防庁へ,それぞれ移転し
ている。」と改める。
(23)原判決24頁26行目の「株式会社アクト」の次に「(以下「アクト」
という。)」を加える。
(24)原判決25頁1行目末尾の次に,行を改めて「また,控訴人は,控訴
人警告シールの著作権を第一実業へ譲渡していない。」を加え,16行目の「株式
会社」を削る。
(25)原判決25頁17行目の「また,」から18行目の末尾までを,行を改
めた上で次のとおり改める。
「また,仮に,控訴人警告シールが著作物に当たり,その著作者が控訴人であ
るとしても,控訴人は,黙示的に控訴人警告シールの著作権を第一実業に譲渡して
いるはずである。すなわち,消防庁としては,一般入札で支援車Ⅰ型の追加発注を
する場合,既存のものと類似する支援車Ⅰ型を製造することを望んでいるところ,
その場合,権利関係についての無用のトラブルを避けるため,支援車Ⅰ型に関する
著作権その他の知的財産権をすべて消防庁に帰属させているはずであるから,控訴
人警告シールの著作権も,控訴人から第一実業へ,第一実業から消防庁へと移転し
ているはずである。」
(26)原判決25頁20行目末尾の次に,行を改めて次のとおり加える。
「エ仮に,控訴人警告シールに著作物性が認められ,その著作権者が控訴人で
あるとしても,被控訴人トノックスは,控訴人警告シールの著作者はアクトである
と認識しており,被控訴人トノックスが控訴人警告シールを使用したことについて
過失はない。なお,被控訴人トノックスは,アクトから控訴人警告シールが掲載さ
れているデザイン一覧表を提示されたところ,同一覧表の下部に控訴人の名称が記
載されていたが,同一覧表には,作成者としてアクトのBの名前が記載されており,
かつ,同一覧表の提示を受けるに当たって,アクトから権利関係等について何らの
指摘もなかったから,被控訴人トノックスとしては,控訴人に控訴人警告シールの
著作権が帰属するとは思わないのが通常であり,この点について控訴人に確認する
義務はない。」
(27)原判決26頁12行目の末尾の次に,「被控訴人トノックスに著作権侵
害の故意,過失がないことは,前記(5)イ,(6),(7)ウ及び(9)エの被控訴人トノッ
クスの主張のとおりである。」を加える。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,控訴人の本件各請求は,被控訴人トノックスに対し,控訴人
警告シールの著作権侵害の不法行為に基づき12万7000円及びこれに対する平
成25年2月13日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度
で理由があるからこれを認容し,その余の各請求はいずれも理由がないから棄却す
べきものと判断する。その理由は,「代表者本人」をすべて「代表者」と改めると
ともに,次のとおり補正するほかは,原判決の事実及び理由欄の「第3当裁判所
の判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)原判決32頁9行目から10行目にかけての「及びFRP縞板のサンプ
ル」を削る。
(2)原判決32頁18行目の「なお,」から19行目の「受領していなかっ
た。」までを次のとおり改める。
「この依頼はメールによって行われたが,同メールは,控訴人代表者及び第一実
業の担当者に宛てたものであり,文中には「今回業務のお見積書,お待ちしており
ます。」との文言があり,同メールを送付した時点では,被控訴人トノックスは後
記クの見積書の交付を受けておらず,また,控訴人代表者もそのことを認識してい
た。」
(3)原判決33頁16行目の「(甲13。以下「販売用部品一覧」という。)」
の次に「及びFRP縞板のサンプル」を加え,17行目の「甲78」を「甲76,
乙イ14」に改める。
(4)原判決33頁23行目の「求めた。」を次のとおり改める。
「求める旨の書面を送付した(なお,同書面には,返還や廃棄を求める資料とし
て,キャブチルト等に関する図面(甲16の2)の記載はない。)。」
(5)原判決34頁19行目の「した」の次に「ところ,上記不具合に係る被
控訴人車両の問題点は解消された」を加える。
(6)原判決35頁2行目の「支援車Ⅰ型」を「被控訴人車両」に改め,9行
目の末尾の次に,行を改めて次のとおり加える。
「この点,控訴人は,被控訴人トノックスが消防庁に納品した被控訴人車両に,
走行中又は停車中に拡幅部分が10~30センチメートル張り出すという不具合が
生じたことを理由として,被控訴人には,支援車Ⅰ型を製造する能力がなかった旨
主張する。
しかし,被控訴人トノックスは,納期までに被控訴人車両を納入したこと,上記
不具合に係る被控訴人車両の問題点については,被控訴人トノックスがロック機能
を追加することにより解消されたことは上記のとおりであり,同事実を考慮すると,
上記の不具合が発生したことから直ちに被控訴人トノックスが支援車Ⅰ型を製造す
る能力がなかったということはできず,控訴人の上記主張は理由がない。
また,控訴人は,支援車Ⅰ型を製造した場合の利益額は2500万円余りである
ところ,このような利益額となったのは,控訴人には支援車Ⅰ型の製造ノウハウの
蓄積があるため,初期投資等の経費を抑えられたからであると主張する。
しかし,被控訴人の主張する上記ノウハウによって経費がどの程度削減されるの
かについては,これを認めるに足りる証拠はない。そして,控訴人は,22年入札
の際の支援車Ⅰ型1台当たりの売上高は(省略)円であり,そのうちの変動経費は
(省略)円である旨主張するところ,支援車Ⅰ型1台当たりの上記変動経費の額から
すると,控訴人の上記主張を考慮しても,1台当たり5750万円という被控訴人
トノックスの入札価格が不当に安価であると認めることはできない。」
(7)原判決35頁18行目の冒頭に「ア」を加え,36頁4行目の「受注金額
が決まっていないこと」を「被控訴人トノックスは上記製造委託に係る見積書を受
領しておらず,そのことを控訴人代表者は認識していたのであるから,受注金額も
決まっていないこと」に改める。
(8)原判決36頁21行目冒頭から25行目末尾までを次のとおり改める。
「イまた,前記1のとおり,最大安定傾斜角度計算書等は日野自動車製の
シャーシを前提としているのに対し,被控訴人車両はいすず製のシャーシである
から,被控訴人車両が35度の最大傾斜角度を達成するのに,最大安定傾斜角度
計算書等が利用できるかは判然としないこと,控訴人も,被控訴人車両における
各荷重物の重量及び配置の状況と最大安定傾斜角度計算書等の内容とを比較検討
した上で上記の主張をしているわけではなく,控訴人から,被控訴人車両が最大
安定傾斜角度計算書等を利用して製造されたことを示す客観的な証拠は提出され
ていないことからすると,被控訴人トノックスが,被控訴人車両を製造するに当
たり,最大安定傾斜角度計算書等を利用したと認めることはできない。
ウそして,以上の認定は,最大安定傾斜角度計算書等について原審において
営業秘密に当たるとして閲覧等の制限が認められているからといって左右されるも
のではない。」
(9)原判決37頁22行目の「コーションラベル」を「コーションラベルの
文言」に,39頁4行目の「利益に保護された」を「に保護された」に,それぞれ
改める。
(10)原判決40頁9行目の「それら行為」から10行目の「認められない。」
までを次のとおり改める。
「これらの行為を一連の行為としてみても,さらに,これらの行為に被控訴人ト
ノックスが控訴人の従業員を引き抜いた旨の控訴人の指摘を考慮しても,これらの
行為が自由競争の範囲を逸脱したものということはできず,したがって,上記行為
が不法行為を構成するものと認めることはできない。」
(11)原判決41頁17行目から18行目にかけての「株式会社キーエンス
(以下「キーエンス」という。)」を「キーエンス」に改め,42頁12行目冒頭
から43頁8行目末尾までを次のとおり改める。
「オ控訴人プログラム①は,ワーニングモニターパネルに係るモジュール
(ウォーニング回路1),拡幅操作に係るモジュール(拡幅),リモコンオンリー
モードに係るモジュール(リモコンオンリー),リモコンモードに係るモジュール
(リモコンモード),タッチパネルモードに係るモジュール(タッチパネルモー
ド),メンテナンスモードに係るモジュール(メンテナンスモード)の六つのモ
ジュールから構成されているところ,拡幅操作部分のうち,リモコンオンリーモー
ド,リモコンモード,タッチパネルモード及びメンテナンスモード部分は,それぞ
れ別個のモジュールとして分割されている。そして,リモコンオンリーモジュール
は,拡幅操作部分のモジュールのブロックY06によって開始し,ブロックY07
によって停止し,リモコンモード,タッチパネルモード及びメンテナンスモードの
各モジュールは,ブロックY09によって開始し,ブロックY11によって停止す
る。
なお,控訴人19年車両の拡幅操作には,タッチパネルを起動した上でリモコン
により操作するリモコンモード,タッチパネルで操作するタッチパネルモード及び
設定の調整や修理を行う場合に操作されるメンテナンスモードのほか,タッチパネ
ルが故障したときにリモコンで操作をするリモコンオンリーモードの四つのモード
がある(甲44,弁論の全趣旨)。」
(12)原判決43頁9行目冒頭から46頁1行目末尾までを次のとおり改める。
「(3)ア著作権法2条1項1号所定の「創作的に表現したもの」というためには,
作成者の何らかの個性が表れている必要があり,表現方法がありふれている場合な
ど,作成者の個性が何ら表れていない場合は,「創作的に表現したもの」というこ
とはできないと解するのが相当である。
ラダー図は,電機の配線図を模式化したシーケンス図をさらに模式化したもので
あるから,ラダー図は配線図に対応し,配線図が決まれば,ラダー図の内容も決ま
ることとなり(乙ロ1),したがって,その表現方法の制約は大きい。ラダー図に
おいては,接点等の順番やリレー回路の使用の仕方を変更することにより,理論的
には,同一の内容のものを無数の方法により表現できるが,作成者自身にとってそ
の内容を把握しやすいものとし,また,作成者以外の者もその内容を容易に把握で
きるようにするには,ラダー図全体を簡潔なものとし,また,接点等の順番やリレ
ー回路の使用方法について一定の規則性を持たせる必要があり,実際のラダー図の
作成においては,ラダー図がいたずらに冗長なものとならないようにし,また,接
点等の順番やリレー回路の使用方法も規則性を持たせているのが通常である(乙ロ
1,3)。
イ控訴人プログラム①は,控訴人19年車両の車両制御を行うためのラダ
ー図であるが,共通ブロックの各ブロックは,いずれも,各接点や回路等の記号を
規則に従って使用して,当該命令に係る条件と出力とを簡潔に記載しているもので
あり,また,接点の順番やリレー回路の使用方法も一般的なものであると考えられ
る。
すなわち,例えば,ブロックY09は,リモコンモード,タッチパネルモード及
びメンテナンスモードという三つのモードのモジュールを開始する条件を規定した
ブロックであるところ,同ブロックでは,一つのスイッチに上記三つのモードが対
応し,モードごとの動作を実行するため,上記各モードに応じて二つの接点からな
るAND回路を設け,スイッチに係るa接点と各AND回路をAND回路で接続し
ているが,このような回路の描き方は一般的であると考えられる。また,同ブロッ
クでは,上段にリモコンモード,中段にタッチパネルモード,下段にメンテナンス
モードを記載しているが,控訴人プログラム①の他のブロック(Y11,Y23,
Y24,Y25,Y26)の記載から明らかなように,控訴人プログラム①では,
リモコンモード(RM),タッチパネルモード(TP),メンテナンスモード(M
M)の順番で記載されている(なお,これらにリモコンオンリーモード(RO)が
加わる場合は,同モードが一番先に記載される。)から,ブロックY09において
も,それらの順番と同じ順番にしたものであり,また,メンテナンスモードを最後
に配置した点も,同モードがメンテナンス時に使用される特殊なモードであること
を考慮すると,一般的なものであると評価できる。さらに,「これだけ!シーケン
ス制御」との題名の書籍に,「動作条件は一番左側」と記載されている(乙ロ3)
ように,ラダー図においては,通常,動作条件となる接点は左側に記載されるもの
と認められるところ,ブロックY09の上記各段の左側の接点は,各モードを開始
するための接点であり,同接点がONとなることを動作条件とするものであるから,
通常,上記左側の各接点は左側に記載され,これと右側の接点とを入れ替えるとい
うことはしないというべきであり,したがって,上記各段における接点の順番も一
般的なものである。したがって,同ブロックの表現方法に作成者の個性が表れてい
るということはできない。
また,ブロックY17は,拡幅待機中であることを規定するブロックであるとこ
ろ,拡幅待機中をONにする条件として,10個のb接点をすべてAND回路で接
続しているが,上記条件を表現する回路として,関係する接点を全てAND回路で
接続することは一般的なものであると考えられる。また,上記各接点の順番も,リ
モコンオンリーモード,リモコンモード,タッチパネルモード及びメンテナンスモ
ードの順番にし,各モードごとに開の動作条件と閉の動作条件の順番としたもので
あるところ,前記のとおり,上記各モードの順番は,他のブロックの順番と同じに
したものであり,開の動作条件と閉の動作条件の順番も一般的なものである。した
がって,同ブロックの表現方法に作成者の個性が表れているということはできない。
さらに,ブロックY25は,ポップアップフロアを上昇させる動作を実行するた
めのブロックであるが,拡幅フロアの上昇又は下降に関しては,拡幅フロア上昇に
関する接点及び拡幅フロア下降に関する接点がそれぞれ四つずつ存在するという状
況下において,同ブロックでは,拡幅フロア上昇に関する接点をa接点,拡幅フロ
ア下降に関する接点をb接点とした上で,四つのa接点及び四つのb接点をそれぞ
れOR回路とし,これら二つのOR回路をAND回路で接続している。拡幅フロア
の上昇と下降という相反する動作に関する接点が存在する場合において,目的とす
る動作のスイッチが入り,目的に反する動作のスイッチが入っていないときに,目
的とする動作が実行されるために,目的とする動作の接点をa接点,これと反する
動作の接点をb接点としてAND回路で接続し,命令をONとする回路で表現する
ことは,a接点及びb接点の役割に照らすと,ありふれたものといえる。また,同
一の動作に関する接点が複数あり,目的とする動作の接点であるa接点のいずれか
がONとなったときに目的とする動作が実行されるようにするため,それらの接点
をOR回路で表現することもありふれたものといえる。さらに,OR回路で接続さ
れた四つの段においては,リモコンオンリーモード,リモコンモード,タッチパネ
ルモード及びメンテナンスモードの順番としているが,前記のとおり,この順番は,
他のブロックの順番と同じにしたものである。ブロックY26は,ポップアップフ
ロアを下降させる動作を実行するためのブロックであり,上記のブロックY25で
述べたのと同様のことをいうことができる。加えて,ブロックY25及びブロック
Y26のAND回路で接続された各二つの列においては,上昇又は下降のa接点,
下降又は上昇のb接点の順番としているが,前記のとおり,ラダー図においては動
作条件となる接点は左側に記載されるところ,ブロックY25及びブロックY26
の各1列目は,「拡幅フロア上昇」又は「拡幅フロア下降」の動作条件となる接点
であると認められるから,通常,同ブロックのとおりの順番で接続され,1列目と
2列目を入れ替えるということはしないものということができる。したがって,こ
れらのブロックの表現方法に作成者の個性が表れているということはできない。
ウ控訴人プログラム①のモジュール分割の方法も,以下のとおり,ありふ
れたものであり,創作性を認めることはできない。
すなわち,控訴人プログラム①は,前記(2)のとおり,ワーニングモニターパネ
ルに係るモジュール(ウォーニング回路1),拡幅操作に係るモジュール(拡幅),
リモコンオンリーモードに係るモジュール(リモコンオンリー),リモコンモード
に係るモジュール(リモコンモード),タッチパネルモードに係るモジュール
(タッチパネルモード),メンテナンスモードに係るモジュール(メンテナンスモ
ード)の六つのモジュールから構成されている。
控訴人プログラム①は,ワーニングモニターパネル及び拡幅操作を制御するため
のプログラムであるところ,ワーニングモニターパネルと拡幅操作とは,機能や利
用場面が大きく異なることから,これらを別のモジュールとすることは一般的なモ
ジュール分割といえる。また,前記(2)のとおり,控訴人19年車両の拡幅操作に
は,タッチパネルを起動した上でリモコンにより操作するリモコンモード,タッチ
パネルで操作するタッチパネルモード及び設定の調整や修理を行う場合に操作され
るメンテナンスモードのほか,タッチパネルが故障したときにリモコンで操作をす
るリモコンオンリーモードの四つのモードがあるところ,上記各モードに係るプロ
グラムの量は相当のものとなるため,これらを拡幅操作のモジュールから独立させ
て別のモジュールとすることにより,拡幅操作の全体の流れを理解し易くなるとい
う利点があることから,上記各モードについて拡幅操作のモジュールから独立させ
ることは一般的に行われることであるといえる。また,上記各モジュールの内容か
らすれば,上記各モジュールを更に分割する必要性もうかがえない。
したがって,控訴人プログラム①のモジュール分割の方法もありふれたものであ
り,この点に作成者の個性が表れているということはできない。
エ(ア)これに対し,控訴人は,ラダープログラムの設計の自由度は高く,O
R回路で接続された回路の各接点の上下の順番やAND回路で接続された回路の各
接点の左右の順番を変えた場合の選択肢の多さを考慮すると,控訴人プログラム①
の表現方法の選択の幅は天文学的な数字となる旨主張する。
しかし,ラダー図の作成に当たっては,OR回路で接続された回路の各接点の上
下の順番やAND回路で接続された回路の各接点の左右の順番は,一定の規則性を
持つことになるから,実際に控訴人プログラム①を作成するに当たっては,上記の
順番の選択は相当程度限定されることは前記アのとおりであって,控訴人が主張す
るような選択の幅はない。
控訴人は,ブロックY09について,①OR回路で接続された各モードの3段の
回路の順番を入れ替えることにより6通り(3!)の表現方法が,②上記各段の左
右を入れ替えることにより8通り(2×2×2)の表現方法があり,これらの組合
せにより合計48通りの表現方法がある旨主張するが,上記①については,上記3
段の回路の順番は他のブロックにおける順番と一致させたものであり,通常,これ
らを入れ替えることはしないことは前記イのとおりであり,また,上記②について
は,上記各段における各接点の順番は通常採用される順番であり,通常,これらを
入れ替えることはしないことは前記イのとおりであるから,ブロックY09につい
て,控訴人が主張するような表現方法の選択の幅はないというべきである。
また,控訴人は,ブロックY25及びブロックY26について,それぞれ,①1
列目の各段の順番を入れ替えることにより24通り(4!)の表現方法が,②2列
目の各段の順番を入れ替えることにより24通り(4!)の表現方法が,③1列目
と2列目の順番を入れ替えることにより2通りの表現方法があり,④それらの組み
合わせにより各1152通り(4!×4!×2)の表現方法がある旨主張するが,
上記①,②及び③の点については,前記イのとおり,他のブロックの順番と一致さ
せたものであるか,通常,これらの順番のとおりに記載されるものであり,これら
の順番を入れ替えることはしないこと,上記④の点については,1列目と2列目は
セットとなっている(例えば,リモコンオンリーモードの「拡幅フロア上昇」のa
接点とAND回路で接続するのは同じリモコンオンリーモードの「拡幅フロア下降」
のb接点となり,リモコンオンリーモード以外のモードの「拡幅フロア下降」のb
接点と接続することはない。)から,それらを入れ替えることは考え難いことを考
慮すると,ブロックY25及びブロックY26について,控訴人が主張するような
表現方法の選択の幅はないというべきである。
したがって,控訴人の上記主張は理由がない。
(イ)また,控訴人は,リレー回路を使用すれば,表現方法の選択の幅が広
がる旨主張し,その例として原判決別紙10のラダー図変形例記載1,2の各ラダ
ー図を示す。
しかし,リレー回路は,同一のリレー接点を複数回使用するときに使用する意味
があり,実際にも,その場面で使用するのが一般的である(乙ロ1)から,控訴人
の例示する上記の各ラダー図におけるリレー回路のようにリレー接点を1回しか使
用しない場合に,リレー回路を使用することは一般的でないというべきである。
また,仮に,上記例示のようにリレー回路を使用するのであれば,通常,他のブ
ロック(例えば,ブロックY23,ブロックY24,ブロックY26)においても
同様の方法によりリレー回路を使用することになり,各ブロックの組合せが多数の
ものとなるということにはならないから,リレー回路を使用することにより表現方
法の選択の幅が広がるとしてもその範囲は限定的である。
さらに,そもそも,ラダー図の作成に当たっては,リレー回路を使用した結果,
全体の流れの把握が困難となったり,また,冗長なものとなったりすることを避け
るのが通常であるから,一般的な方法によりリレー回路を使用すれば,リレー回路
の使用によって表現方法の選択の幅が大きく広がるということはない。
したがって,控訴人の上記主張は理由がない。
(ウ)控訴人は,モジュール分割の方法の選択の幅について,リモコンオン
リーモードとリモコンモードを同一のモジュールとすることも考えられる旨主張す
るが,リモコンオンリーモードは,タッチパネルが故障した非常時に使用されるの
であるから,タッチパネルが作動している際に使用されるリモコンモードと同一の
モジュールとすることは考え難いというべきである。
また,控訴人は,タッチパネルモードのモジュールをタッチパネル操作の内容に
応じてさらにモジュール分割することも考えられる旨主張するが,控訴人プログラ
ム①のタッチパネルモードは,拡幅操作のうちのタッチパネルモードについてのプ
ログラムであり,拡幅操作以外のタッチパネルモードは存在しない以上,控訴人プ
ログラム①のタッチパネルモードモジュールに,それ以外のものを組み込むことは
できないし,また,タッチパネルモードのモジュールの内容からすれば,これをさ
らに分割するということも考え難いというべきである。
したがって,モジュール分割の方法の選択の幅についての控訴人の上記主張は理
由がない。
オこのように,共通ブロックの各ブロックの表現方法はありふれたもので
あり,創作性を認めることはできず,共通ブロックを全体として見ても,創作性を
認めることはできないというべきである。
なお,控訴人プログラム①の拡幅操作部分のうち共通ブロック以外のプログラム
部分は,被控訴人プログラムと異なる回路構成であるから,上記の共通ブロック以
外のプログラムの著作物性について判断するまでもなく,同部分の著作権に基づく
請求は認められない。
(4)以上のとおり,控訴人プログラム①の拡幅操作部分には創作性は認められ
ず,また,控訴人プログラム①のモジュール分割の方法にも創作性は認められない。
そして,控訴人プログラム①のその他の部分の創作性については,控訴人から何
らの指摘もないところ,証拠(甲41)上,創作性を認めるに足りる部分の存在も
うかがえないから,同部分についても創作性を認めることはできない。
したがって,控訴人プログラム①の著作物性は認められないから,控訴人プログ
ラム①の著作権侵害は認められない。」
(13)原判決46頁3行目冒頭から48頁23行目末尾までを次のとおり改める。
「(1)控訴人は,控訴人プログラム②は控訴人プログラム①の翻案物であるから,
控訴人プログラム①の著作権者である控訴人は,控訴人プログラム②について,原
著作者としての権利を有する旨主張する。
しかし,前記6で判示したとおり,そもそも,控訴人プログラム①には著作物性
が認められないのであるから,控訴人が控訴人プログラム①の著作権を有している
ということはできず,したがって,控訴人が控訴人プログラム②について原著作者
としての権利を有しているということもできない。
よって,控訴人の上記主張は理由がない。
(2)次に,控訴人プログラム②の著作物性について検討する。
ア控訴人プログラム②は,控訴人車両の車両制御をするためのラダー図で
あり,「ワーニング回路1」,「拡幅操作」,「リモコンオンリー」,「リモコン
モード」,「タッチパネルモード」,「メンテナンスモード」,「画面制御」,
「ジャッキ操作」,「パネル表示制御」及び「警告制御」の10個のモジュールか
ら構成されている(甲42)。
上記の「ワーニング回路1」,「拡幅操作」,「リモコンオンリー」,「リモコ
ンモード」,「タッチパネルモード」及び「メンテナンスモード」の各モジュール
には,控訴人プログラム①と一致している部分があり,この部分については創作性
が認められないことは前記6(3)のとおりである。また,その余の部分についても,
その創作性について控訴人から何ら指摘がなく,また,同部分から創作性を認める
に足りる部分の存在はうかがえないから,これらの部分についても創作性を認める
ことはできない。
イ前記6(3)のとおり,ラダー図の表現方法は相当限定されているところ,
控訴人プログラム②の画面制御部分のうち,被控訴人プログラムと共通する部分の
ブロックは,いずれも,各接点や回路等の記号を規則に従って使用して,当該命令
に係る条件と出力とを簡潔に記載し,また,接点の順番やリレー回路の使用方法も
一般的なものであり,作成者の何らかの個性が表れているとは認められない。
また,上記各ブロックを一体として見ても,作成者の何らかの個性が表れている
とは認められない。
なお,控訴人プログラム②の画面制御部分のうち,被控訴人プログラムと共通す
る部分以外の部分は,被控訴人プログラムと異なる回路構成であるから,同部分の
著作物性について判断するまでもなく,同部分の著作権に基づく請求は認められな
い。
また,控訴人プログラム②のうち「ジャッキ操作」,「パネル表示制御」及び
「警告制御」の各モジュール部分の創作性については,控訴人から何らの指摘もな
いところ,証拠(甲42)上,創作性を認めるに足る部分の存在もうかがえないか
ら,同部分についても創作性を認めることはできない。
ウまた,モジュール分割の創作性については,「ワーニング回路1」,
「拡幅操作」,「リモコンオンリー」,「リモコンモード」,「タッチパネルモー
ド」及び「メンテナンスモード」の各モジュールの分割方法に創作性がないことは
前記6(3)で判示したとおりである。
そして,「画面制御」,「ジャッキ操作」,「パネル表示制御」及び「警告制御」
の各モジュールの分割についても,各モジュールの操作内容やモジュール内のプロ
グラムの量を考慮すると,上記のように分割するのは一般的であり,そのほか,本
件において,上記分割に創作性があることをうかがわせる事情は存在しない。
したがって,モジュール分割の方法についても創作性は認められない。
エこの点,控訴人は,控訴人プログラム②の画面制御部分の表現の選択の
幅が天文学的数字になることについて主張するが,前記6(3)で判示したところと
同様の理由により,控訴人の主張するような選択の幅は認められない。
例えば,控訴人は,ブロックM05については,OR回路で接続された四つの接
点の順番を入れ替えることにより24通り(4!)の表現方法があり,AND回路
で接続された四つの接点の順番を入れ替えることによる24通り(4!)の表現方
法があり,これらの組合せにより合計576通りの表現方法となる旨主張するが,
OR回路で接続された各接点は,「#50」(50頁を意味する。)の接点,「#
52」(52頁を意味する。)の接点,「#55」(55頁を意味する。)の接点
の順番に並べられており,最後に「54項管理者表示」の特殊な接点が配置され
ているから,通常,これらを入れ替えることはしないこと,AND回路で接続され
た接点についても,前記6(3)のとおり,動作条件となる接点が一番左側に配置さ
れる以上,同ブロックの1列目の接点を移動させることはしないことから,控訴人
の主張するような表現方法の選択の幅はないというべきである。
また,控訴人は,ブロックM46について,リレー回路を使用すれば,表現方法
の選択の幅が広がる旨主張するが,前記6(3)エ(イ)で判示したところからすると,
同ブロックにおいてリレー回路を使用するのは一般的ではないから,控訴人の上記
主張は理由がない。
(3)仮に,控訴人プログラム②に著作物性が認められた場合,控訴人が被控
訴人マルチデバイスから控訴人プログラム②の著作権の譲渡を受けたといえるかに
ついて,以下,検討する。
ア証拠(甲75,77,乙ロ6,控訴人代表者【原審】,被控訴人マル
チデバイス代表者【原審】)及び弁論の全趣旨によると,以下の各事実が認められ
る。
(ア)控訴人は,平成19年3月頃,控訴人19年車両を製造し,神奈川
県相模原市消防局に納入したが,同車両の製造に当たって,控訴人の従業員Aは,
同車両の制御プログラムとして控訴人プログラム①を作成した。
(イ)控訴人は,平成22年4月頃,控訴人車両の製造に当たり,被控訴
人マルチデバイスとの間で,控訴人車両の車両制御プログラムの作成を含む電機部
門の作業一切に関する業務を委託する契約(本件契約)を締結し,被控訴人マルチ
デバイスは,本件契約に基づき,控訴人プログラム①を参考にして控訴人プログラ
ム②を作成し,これを控訴人に納入した。
控訴人及び被控訴人マルチデバイスは,本件契約の契約書は作成せず,また,本
件契約に係る業務から何らかの著作権が発生した場合の処理についての契約書も作
成しなかった。
(ウ)被控訴人マルチデバイスは,平成23年1月中旬頃,本件契約の請
求書である乙ロ6書面を作成し,これを控訴人に送付した。
乙ロ6書面には,「人件費及び交通費(1934.5人分)2010/6-20
11/2残業,休出含む」として「2380万5900円」,「仕入れ部材」と
して「315万7450円」,「経費(電気,水道,燃料,灯油)」として「26
7万5750円」,「会社利益(社長報酬)含む」として「1800万円」,合計
「4763万9100円」の記載がある。
(エ)控訴人代表者と被控訴人マルチデバイス代表者は,同月下旬頃,被
控訴人マルチデバイスの作成した乙ロ6書面を基に,本件契約において控訴人が支
払うべき金額を確定するための協議をした。同協議の結果,上記金額は,乙ロ6書
面に記載した額が上限であり,追加の金銭負担は生じないことが確認され,控訴人
代表者は,乙ロ6書面に,手書きで,「出張旅費」,「クレーム部品」,「クレー
ム外注費」,「ハード・ソフト」,「トラブルシューティング」と記載し,その書
面(甲77書面)をコピーして控訴人及び被控訴人マルチデバイス双方が一部ずつ
保管することにした。
イ(ア)前記アのとおり,控訴人と被控訴人との間で,本件契約に係る業務か
ら著作権が発生した場合の処理についての契約書は作成されていない。
そして,控訴人代表者は,原審での尋問において,本件契約では,著作権が発生
するという認識は有していなかったため,被控訴人マルチデバイスとの間で著作権
に関する話は出なかった旨供述していることからすると,控訴人代表者は,本件契
約に係る業務の遂行において何らかの著作権が発生するとの認識はなかったものと
認められ,したがって,控訴人と被控訴人との間で,口頭で,控訴人プログラム②
の著作権の譲渡の合意があったと認めることもできない。
(イ)これに対し,控訴人は,甲77書面に「ハード・ソフト」という文言
が記載されており,同記載から,控訴人及び被控訴人マルチデバイスの間で,控訴
人プログラム②の著作権の譲渡の合意があったことが認められる旨主張する。
しかし,前記アのとおり,控訴人代表者及び被控訴人マルチデバイス代表者が本
件契約に基づき控訴人が支払うべき金額を確定するための協議をした際に,甲77
書面が作成されたところ,甲77書面は,費目ごとの金額及びこれらの総額が印刷
された書面(乙ロ6書面)の余白に,控訴人代表者が手書きで,乙ロ6書面に記載
された費目に挙がっていない事項である「出張旅費」,「クレーム部品」,「クレ
ーム外注費」,「ハード・ソフト」及び「トラブルシューティング」の文字を追記
したことからすると,上記手書きの部分を追記したのは,「出張旅費」,「クレー
ム部品」,「クレーム外注費」,「ハード・ソフト」及び「トラブルシューティン
グ」に係る費用も甲77書面記載の総額に含まれ,追加の金銭負担は生じないこと
を確認するためであったと認められる。そして,このことに,前記のとおり,控訴
人代表者は,本件契約に係る業務の遂行において何らかの著作権が発生するとの認
識を有していなかったことを併せ考慮すると,上記の「ソフト」の文言を追記した
趣旨は,控訴人において,被控訴人マルチデバイスに対し,控訴人プログラム②に
係る費用を,上記総額とは別に支払う必要がないことを確認したに過ぎず,控訴人
プログラム②の著作権が控訴人に帰属することまでも確認したものではないという
べきである。
したがって,控訴人の上記主張は理由がない。
(ウ)また,控訴人は,本件契約において,控訴人プログラム②の著作権の
譲渡が合意されていないとすれば,本件契約後,控訴人が支援車Ⅰ型を受注しても,
控訴人プログラム②を使用できないという不合理な結果となることなどからすると,
被控訴人マルチデバイスのもとに控訴人プログラム②の著作権を残すことを前提と
した交渉をすることは考えられないとも主張する。
しかし,前記のとおり,控訴人代表者は,本件契約に係る業務の遂行において何
らかの著作権が発生するとの認識を有していなかったのであるから,控訴人プログ
ラム②の著作権の譲渡の合意をしなかった場合の不利益も認識していなかったこと
になり,控訴人が主張する他の事情を考慮しても,控訴人代表者が,被控訴人マル
チデバイスとの間で,控訴人プログラム②の著作権を譲り受けないことを前提とし
た交渉をすることは考えられないということはできない。
したがって,控訴人の上記主張は理由がない。
(エ)よって,仮に,控訴人プログラム②の著作物性が認められたとしても,
控訴人は,その著作権を有していない。
(4)以上より,控訴人プログラム②の著作権に基づく控訴人の請求は理由がな
い。」
(14)原判決50頁19行目の「被告トノックス」を「被控訴人マルチデバイ
ス」に改める。
(15)原判決51頁2行目冒頭から52頁19行目末尾までを次のとおり改め
る。
「(1)まず,控訴人説明書の著作物性について検討する。
ア証拠(甲30)によると,控訴人説明書について以下の事実が認められ
る。
控訴人説明書は,控訴人車両の装備及び機器等の操作方法等を解説した取扱説明
書であり,説明する装備又は機器として,「鍵の種類」

「ワーニングモニターパネ
ル」

「配電盤」

「外部電源入力」

「発電機」

「バッテリー充電」

「室内各部スイッ
チ」

「FFヒーター」

「換気扇」

「LPガスシステム」

「給湯器」

「冷蔵庫」

「座
席,簡易ベッド,テーブル」

「リヤシート,折り畳みベッド」

「給水口,給水タン
ク」

「排水タンク,排水用水中ポンプ」

「エントランスドア」

「エントランスス
テップ」

「外部収納庫」

「シャワー(シャワールーム,アウターシャワー)


「折
畳み指揮台」

「キャブティルト」

「パワーゲート」

「ラップポントイレ」及び「セ
ンターコンソールボックス(無線機,サイレンアンプほか)
」を選択し,これらに
つき,各装備,機器ごとに,上記の順番で説明をしているが,同説明は,概ね,当
該装備,機器の写真を掲載した上で,同写真と同一の頁に当該装備,機器の機能,
操作方法及び使用上の注意事項等を記載するという方法で説明している。また,上
記写真は,説明対象部分を特定するために,その部分を実線又は破線で囲み,矢印
を付し,さらに,対象部分とその説明部分に同じ番号を付すなどしている。
イ以上を前提に検討する。
(ア)前記6のとおり,著作権法2条1項1号所定の「創作的に表現したも
の」というためには,作成者の何らかの個性が表れている必要があり,表現方法が
ありふれている場合など,作成者の個性が何ら表れていない場合は,「創作的に表
現したもの」ということはできないと解するのが相当であるところ,控訴人説明書
は,前記アのとおり,控訴人車両の装備,機器の機能や操作方法及び使用上の注意
事項を説明したものであるが,証拠(甲30)によると,いずれも,機能及び操作
方法や注意事項を,事実に即して簡潔に説明しているものと認められ,その表現方
法はありふれたものであり,装備,機器の機能や操作方法が同じであれば,その説
明も似たものにならざるを得ないことをも考慮すると,作成者の何らかの個性が表
れていると評価することはできない。
したがって,控訴人説明書に著作物性を認めることはできない。
(イ)aこれに対し,控訴人は,控訴人車両の各機能について表題を付けて
整理している点,それぞれ数行程度の簡略な文章で説明している点及び一定の箇所
の文字部分を四角で囲って目立たせている点などに創作性が認められる旨主張する。
しかし,説明事項について表題を付けることや,注意喚起をしたい部分を四角で
囲うことは,取扱説明書において一般的に採用されている方法であり,この点に創
作性が認められるということはできないというべきである。また,説明文を簡略な
ものとした点については,控訴人説明書のような取扱説明書においては,説明文は
簡略なものとする必要があり,簡略な表現としたことから直ちに創作性が認められ
ることにはならないところ,証拠(甲30)によると,控訴人説明書の各説明文は,
説明事項を取扱説明書における説明方法として一般的な方法で表現したものであり,
その分量も取扱説明書としては通常のものであると認められるから,説明文を簡略
化したことによって控訴人説明書に創作性が認められるということはできない。
したがって,控訴人の上記主張は理由がない。
bまた,控訴人は,控訴人説明書のうち,①「〔ON〕にするとDC
12Vサブバッテリー電源からAC100Vに変換し供給することができます。」,
②「インバーターのAC出力は,拡幅ボディ右壁2箇所のインバーター専用コンセ
ントと液晶テレビ,電子レンジ,トイレユニット,水中ポンプに供給されます。イ
ンバーター専用コンセントを除く電力は,発電機を運転すると自動的に発電機から
の供給に切り換わります。」,③「エンジンキー“ACC”又はDCメインスイッ
チONでメインバッテリーの電源が供給されます。」と表現されている部分は,他
社が作成した支援車Ⅰ型についての取扱説明書における表現と異なることから,表
現方法の選択の幅は狭くないと主張する。
しかし,上記の各説明部分は,インバータースイッチの機能(上記①の文につい
て),インバーターのAC出力の供給先及びインバーター専用コンセント以外の電
力は発電機を運転すると自動的に発電機からの供給に切り替わること(上記②の文
について),エンジンキーをACCの位置にするか,DCメインスイッチをONと
することによりメインバッテリーの電源が供給されること(上記③の文について)
を説明したものであるが,同説明をするための表現方法が上記説明部分の表現に限
らないのは当然であり,表現方法が他にあることから直ちに創作性が認められるこ
とにはならない。控訴人説明書のような取扱説明書の説明文は,機器等の機能や使
用方法等を,事実に即して平易な表現を用いて,簡潔かつ明確なものとする必要が
あるところ,控訴人説明書の上記各説明部分は,当該機器の実際の機能,使用方法
に即して通常の方法で表現したものであり,作成者の何らかの個性が表れていると
いうことはできない。
したがって,控訴人の上記主張は理由がない。
cまた,控訴人は,控訴人説明書の構成は他社の取扱説明書と異なる構
成となっているから,その表現方法の選択の幅は狭くない旨主張する。
しかし,控訴人の主張は,控訴人説明書の抽象的構成について主張するにすぎな
いから,いずれもアイデアに属するものであって,著作権法による保護は及ばない
というべきである。
なお,仮に,控訴人が,上記構成が具体的な表現となった部分についての著作物
性を主張するものであるとしても,それらの部分の表現方法は,取扱説明書におい
ては一般的な表現方法であって,ありふれたものであり,著作物性を認めることは
できない。
したがって,控訴人の上記主張は理由がない。
dなお,控訴人は,控訴人説明書の写真部分に著作物性が認められるか
のような主張をするが,同写真に対応する被控訴人説明書の写真が,控訴人説明書
の写真を複製又は翻案したものと認めることはできないから,仮に上記写真部分に
著作物性が認められたとしても,同写真部分の著作権侵害は認められず,したがっ
て,上記写真部分の著作権侵害の主張は理由がない。
(2)次に,控訴人説明書が編集著作物に該当するかについて検討する。
ア編集著作物とは,編集物で,素材の選択又は配列によって創作性を有
するものであり(著作権法12条1項)
,編集著作物として著作権法の保護を受け
るためには,素材の選択,配列に係る具体的な表現形式において,創作性が認め
られることが必要である。
前記(1)アのとおり,控訴人説明書は,控訴人車両の装備及び機器等の操作方法
等を解説した取扱説明書であるから,説明の対象として控訴人車両の装備,機器
を選択することは当然であるところ,証拠(甲30)及び弁論の全趣旨によると,
控訴人説明書で説明されている装備や機器は控訴人車両に搭載された装備,機器
であり,取扱説明書による説明が必要なものであると推認できるから,控訴人説
明書に掲載した装備,機器の選択の点に作成者の個性が表れているということは
できないし,また,その説明の順番にも作成者の個性が表れているということは
できない。したがって,これらの点について,素材の選択又は配列に創作性を認
めることはできない。
また,控訴人説明書は,説明対象として選択した装備,機器について,項目立
てに階層を設けず,並列的に項目立てをし,それらの項目について順次説明して
いるが,このような記載方法は一般的なものであるから,この点において素材の
配列に創作性を認めることはできない。
イ(ア)これに対し,控訴人は,控訴人説明書では,説明の対象として拡幅操
作部分を選択していない点に創作性が認められる旨主張する。
しかし,証拠(甲30,44,90)及び弁論の全趣旨によると,拡幅操作の説
明文は大部となること,他の機器の操作部分とは独立性が強いことが認められるか
ら,拡幅操作の説明を別の説明書で行うことは,利用者の利便性の観点からは,一
般的に採用され得るところであり,したがって,この部分を控訴人説明書の説明対
象から除いたことに作成者の個性が表れているということはできない。
よって,控訴人の上記主張は理由がない。
(イ)また,控訴人は,各頁に記載する情報及び余白の量,各説明文におけ
る写真と文章の配置に創作性が認められる旨主張するが,前記証拠によると,控訴
人説明書の各頁の写真,説明文及び余白の配置は,取扱説明書としてはありふれた
ものであると認められ,この点に創作性を認めることはできないというべきであり,
したがって,控訴人の上記主張は理由がない。
ウ以上のとおり,控訴人説明書は編集著作物であると認めることはできな
い。」
(16)原判決53頁2行目から3行目にかけての「株式会社アクト(以下「ア
クト」という。)を「アクト」に改め,26行目の「記載」の次に「や,「設計」
の欄に「B」の記載」を加える。
(17)原判決54頁22行目末尾の次に,行を改めて次のとおり加える。
「なお,被控訴人トノックスは,控訴人警告シールの著作者が控訴人であった
としても,その著作権は第一実業へ譲渡された旨主張するが,同主張事実を認める
に足りる証拠はない。」
(18)原判決55頁14行目から15行目にかけての「被告トノックス」から
17行目末尾までを次のとおり改める。
「被控訴人トノックスは,控訴人警告シールが掲載されているデザイン一覧表の
下部には,作成者としてアクトのBの名前が掲載されていたこと,アクトからは控
訴人警告シールの著作権の権利関係について何らの指摘もなかったことから,被控
訴人トノックスには過失はない旨主張するが,上記デザイン一覧表には控訴人の名
称が記載されていたのであるから,被控訴人トノックスとしては,権利関係につい
てアクトに確認すべきことは上記のとおりであり,被控訴人トノックスの主張する
上記の点を考慮しても,被控訴人トノックスの過失を否定することはできない。」
2結論
以上のとおり,原判決は相当であって,本件控訴及び本件附帯控訴はいずれも理
由がないから,これらを棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
森義之
裁判官
佐野信
裁判官
熊谷大輔

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