弁護士法人ITJ法律事務所

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         判        決
         主        文
  1 原告の請求を棄却する。
  2 訴訟費用は原告の負担とする。
         事        実
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1) 被告は,原告に対し,別紙物件目録記載の建物を明け渡せ。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。 
2 請求の趣旨に対する答弁
   主文同旨
第2 当事者の主張
1 請求原因
(1) 原告は,被告に対し,平成8年8月11日,別紙物件目録記載の建物(以下
「本件建物」という。)を,期間4年,賃料月額18万円で賃貸し(以下「本件借
家契約」という。),引き渡した。
(2) 期間満了
ア 原告は,平成12年2月5日,被告に対し,本件借家契約を更新しない旨を通
知し(以下「本件更新拒絶」という。),平成12年8月10日の経過により,本
件借家契約は終了した。
イ 正当事由
(ア) 被告は,坂本弁護士一家殺人事件をはじめ,松本サリン事件,地下鉄 サリ
ン事件等凶悪犯罪を敢行したオウム真理教の信者であり,原告はそうとは知らず本
件借家契約を締結した。
(イ) 被告は,現在も教団の創設者であるAの教義を信仰し修行に励んでおり,凶
悪事件を引き起こす危険性が潜在的に存在する。
(ウ) 本件建物は住宅の密集地であり,しかも保育所,小学校,高等学校,図書館
等の文教施設があり,周辺道路は通学路に利用されている状況にあり,付近住民に
不安を与えている。
(エ) 原告は,地域住民等から苦情の電話を受け,精神的苦痛を受けている。
(3) 本件解約申入れ
ア 仮に,本件更新拒絶が有効になされず,本件借家契約が法定更新されたとして
も,原告は,被告に対し,平成12年9月9日,本訴状の送達をもって本件借家契
約の解約を申し入れ(以下「本件解約申入れ」という。),平成13年3月9日の
経過により本件借家契約は終了した。
イ 正当事由
前項イと同旨。
(4) よって,原告は,被告に対し,本件借家契約の終了に基づき,本件建物の明渡
を求める。
2 請求原因に対する認否
(1) 請求原因(1)の事実は認める。
(2) 請求原因(2)アの事実は否認する。
同(2)イ(ア)のうち,被告が宗教団体アレフ(元オウム真理教)の信者である こと
は認め,その余は不知。
同(2)イ(イ)の事実は否認する。被告が信仰しているのは仏教やヨーガの教えであっ
て,Aが独自に説いた教えではない。また,宗教団体アレフにおいては,Aを過去
に仏教やヨーガの教義を解釈した人の一人という意味で,教義の解釈者としてのみ
位置づけており,教祖,代表者とは位置づけていない。また,Aの説いた教義のほ
とんどは何の危険もない教えであり,事件に関係したとされているのは,タント
ラ・ヴァジラヤーナの教義のうちの五仏の法則といわれるものであるが,宗教団体
アレフでは,五仏の法則のみならず,タントラ・ヴァジラヤーナの教え自体を破棄
しており,何ら危険な教義を信仰しているわけではない。
同(2)イ(ウ)の事実は知らない。仮に住民が不安を抱いていたとしても,具体的根拠
に基づくものではない。ただし,被告としても住民に不安を与えていることについ
ては真摯に受け止めているつもりである。
同(2)イ(エ)の事実は知らない。
(3) 請求原因(3)アの事実は否認する。
同(3)イについては前項(2)のとおり。
3 抗弁(正当事由の評価障害事実)
(1) 本件建物のうち,倉庫部分は,被告が事業主である正智産業が食品製造業を営
むための工場として使用し,V型混合機その他の食品製造に必要な機械を設置し,
固形の清涼飲料等を製造するとともに,小麦粉,グラニュー糖,食品添加物等の食
品の原料を仕入れて販売している。また,借家部分は女性従業員の寮として使用し
ている。
(2) 被告及び正智産業の資力に余裕はなく,別に工場を確保し,移転することは不
可能である。従業員も自分たちで住居を確保するだけの資力はない。
(3) 被告らは,本件建物において,原告や近隣住民に対し,何ら具体的な迷惑行為
を行ったことはない。
4 抗弁に対する認否
(1) 抗弁(1)の事実は不知
(2) 同(2)の事実は不知
(3) 同(3)の事実は認める。
        理        由
1 請求原因(1)は当事者間に争いがない。
2 本件更新拒絶及び本件解約申入れの正当事由について
(1) 争いのない事実及び証拠(甲1,乙1ないし乙10,乙12,乙16ないし乙
20,原告本人,被告本人)によって認められる事実を総合すると,以下の点を指
摘することができる。
ア 原告は,本件建物について不動産屋を通じて借家人を募集していたところ,被
告が賃借を希望したので,被告との間で本件借家契約を締結することにした。本件
借家契約を終了させた後,原告が本件建物を自ら何らかの目的に使用する具体的な
予定はない。
イ 被告は,宗教団体アレフ(元オウム真理教)の信者であるが,本件借家契約締
結当時,原告に対しそのことを自分から明らかにしなかった。
なお,オウム真理教の教祖A及びその幹部等は,地下鉄の電車内で有毒物質である
サリンを噴霧して不特定多数人を殺傷しようとした,いわゆる地下鉄サリン事件,
弁護士一家3人を殺害した坂本弁護士一家殺害事件等の凶悪犯罪を共謀の上敢行し
たものとして起訴され,一部の幹部については有罪判決が確定している。
ウ 本件建物は住宅の密集地であり,保育所,小学校,高等学校,図書館等の文教
施設もあり,周辺道路は通学路に利用されている。
エ 本件建物のうち,倉庫部分は,被告が事業主である正智産業が食品製造業を営
むための工場として使用し,V型混合機その他の食品製造に必要な機械を設置し,
固形の清涼飲料等を製造するとともに,小麦粉,グラニュー糖,食品添加物等の食
品の原料を仕入れて販売しており,また,借家部分は女性従業員の寮として使用し
ている。
オ 被告らが,本件建物内外において,夜中に大声を出したことが一度あったこと
を除いては,原告や近隣住民に対し具体的な迷惑行為を行ったことはない。また,
本件建物の検証の結果において,本件建物内に何らかの危険物,不審物は発見され
なかった。
カ 原告は,本件建物を被告に賃貸したことについて,被告を退去させろなどと匿
名の苦情の電話を受けたり,暴言を吐かれたりした。
(2) 以上によれば,原告が本件建物を自分で使用する必要性は現時点においてない
のに対し,被告は本件建物を食品製造工場等として現実に使用しており,本件建物
の使用を必要とする事情がある。仮に同工場等を移転した場合相当の費用がかかる
ことが予想されるが,その費用について原告はかつて負担を申し出たことがあるも
のの,本件訴訟においては話し合いを拒否している。
(3) 原告は,被告は宗教団体アレフ(元オウム真理教)の信者であるところ,オウ
ム真理教の教祖A及びその幹部等は地下鉄サリン事件等の凶悪事件を引き起こし,
宗教団体アレフにもかかる凶悪事件を引き起こす危険性が潜在的に存在する旨主張
するが,本件建物の使用者である被告らが今後そのような凶悪事件等を敢行する危
険性を認めるに足りる証拠はなく,かえって,前記認定のとおり,被告らが本件建
物内外において,夜中に大声を出したことがあったことを除いては,具体的な迷惑
行為を行ったことは認められない。また,証拠(乙1,被告本人)によれば,被告
らが町内会の掃除等地域の行事に参加したり,地域住民との間で話し合いをするな
ど,地域住民の不安を和らげる努力を行っていることが認められる。以上によれ
ば,被告が宗教団体アレフの信者であることによって原告らが抱く不安感をもっ
て,本件借家契約の期間満了又は解約申入れの正当事由の根拠とすることはできな
い。
そして,原告らが抱く不安感をもって正当事由の根拠とすることができない以上,
たとえ,本件建物は住宅の密集地で,保育所,小学校,高等学校,図書館等の文教
施設もあり,周辺道路は通学路に利用されているとしても,これらの事情をもっ
て,本件借家契約の更新拒絶ないし解約申入れについて正当事由を認めることはで
きない。
(4) 原告は,本件建物を被告に賃貸したことについて,匿名の苦情の電話を受けた
り,暴言を吐かれた旨主張し,確かに,原告は,本件の当事者尋問において,かか
る電話や暴言等によって,自殺したいくらいの心境になり,もはや精神的に耐えら
れないので,この裁判では私の人権を考慮してもらいたいなどと供述している。し
かし,本件建物内外において夜中に一度大声を出したことを除いては,被告らによ
る具体的な迷惑行為が認められないことは前記認定のとおりであり,原告のいう人
権侵害は,まさに原告に対し匿名の電話をかけ,暴言を吐いた者等によってもたら
されたというべきであって,これを本件借家契約の期間満了又は解約申入れの正当
事由の根拠とすることはできない。
3 以上のとおりであって,原告の請求は理由がないから棄却し,訴訟費用の負担
につき民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
岐阜地方裁判所民事第2部
裁判官    古   閑   裕   二                 
  
裁判官    今   泉   裕   登
 裁判長裁判官青山邦夫は転補のため署名押印することができない。
裁判官    古   閑   裕   二
(別紙)
         物 件 目 録
所   在  美濃加茂市a町b丁目字cd番e
種   類  倉庫
構   造  木造亜鉛メッキ鋼板葺平屋建
床 面 積  297.42メートル
(未登記建物)
うち倉庫部分  215.325平方メートル
        (実測面積173.90平方メートル)
借家部分  41.25平方メートル
(実測面積41.40平方メートル)
以上実測面積合計215.30平方メートル(別紙図面の斜線部分(略))

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