弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を取消す。
     被控訴人の請求を棄却する。
     訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は主文と同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求め
た。
 当事者双方の事実上の陳述並に証拠の提出認否は、控訴代理人において、控訴人
は被控訴会社との間における別件訴訟(当裁判所昭和二十六年(ネ)第七〇七号)
において、被控訴会社に対する本件金九十一万三千九百五十円の債権を以て被控訴
会社の控訴人に対する右別訴請求にかかる貸金十万五千円及びこれに対する昭和二
十五年四月八日以降完済まで百円について一日七銭の割合による遅延損害金債権と
相殺する旨を主張したので、本訴においては別訴の右相殺によつてなお残存すべき
反対債権を以て被控訴会社の本訴債権と対当額について相殺するものであると補陳
した外、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。
         理    由
 控訴人が昭和二十四年十一月三十日額面金十五万円、満期昭和二十五年一月三十
日、支払地及び振出地長崎市、支払場所被控訴会社本店と定めた約束手形一通を被
控訴会社に宛てて振出したことは当事者間に争がなく、満期後においては百円につ
いて一日十銭の割合による遅延損害金を支払う約定であること及び被控訴会社は満
期に所定の支払場所において右手形を呈示し支払を求めたけれども控訴人において
右手形の支払をしなかつたことは、控訴人において明に争わないのみならずその弁
論の全趣旨からみても争う意思があるとは認められないから、これを自白したもの
となみさねばならない。
 次に控訴人の抗弁について審按するに、いずれも成立に争のない乙第一乃至第四
号証を綜合し本件口頭弁論の全趣旨を斟酌すると、被控訴会社は訴外協栄殖産無尽
株式会社より金融を受くるについて自己の名義で借受けることが困難な事情があつ
たので、被控訴会社の社員である控訴人にその借入を委任し、控訴人は該委任に基
き昭和二十五年三月頃自己の名義で同訴外会社より金百十七万円を借受けてこれを
被控訴会社に交付したこと及びその後被控訴会社において右債務の一部を弁済した
がなお金九十一万三千九百五十円の残債務があつてその弁済期は既に昭和二十六年
二月二十八日までに到来したことが認められる。もつとも乙第二号証中には右訴外
会社が控訴人に対し右債務の履行を請求しないことを内諾した旨の記載があるけれ
ども、該記載部分は前示乙第三号証に照して信用するに足らない。かえつてこの乙
第三号証によれば、同訴件会社は控訴人に対し債務を免除した事実はなく、ただ債
和金額を直ちに弁済せよという程の強い意思がないだけで、少くも控訴人が被控訴
会社に対し負担している債務の限度においでは被控訴会社に弁済しないでも同訴件
会社に対する前記債務を早く弁済してもらいたいと望んでいることを窺うに充分で
ある。
 <要旨第一>ところで受任者が第三者に対し受任事務を処理するに必要な債務を負
担しその債務が弁済期にある場合において、委任者に対し自己に代つて
その債務を弁済すべきことを請求することができることは民法第六百五十条第二項
の規定によつて明であるが、同法第六百四十九条の規定が受任者に委任事務を処理
するに必要な費用の前払請求権を認めた趣旨から考えると、前示の場合に受任者は
自己に代つて第三者に対する債務を弁済すべきことを請求する代りに、その債務を
自ら弁済するに必要な資金を委任者に請求する権利があるものと解するのが相当で
ある。そうして委任者がその資金を受任者に支払つたときは、委任者及び受任者間
の、委任による一切の法律関係はここに結了することになるから、受任者がその資
金を以て第三者に対する債務を弁済するか否かは委任者の権利義務に何等の影響も
与えるものではない。なぜならば第三者に対する債務はもともと受任者<要旨第二>
の債務であつて委任者は債務者ではないからである。されば委任者より支払はれた
資金の処分は受任者の自由であつて、その資金の支払を求める債権を受
任者が如何に処分するかも受任者の自由である。従つてその債権は委任者の受任者
に対する金銭債権と相殺するに適するものといわなければならない。
 本件についてこれを見るに、控訴人は被控訴会社より委任を受けた金員借入の委
任事務を処理するため前示訴外会社より自己の名義で金員を借受け、現に同訴外会
社に対し既に弁済期に達した金九十一万三千九百五十円の債務を負担していること
は前認定の事実によつて明であるから、右債務を弁済する資金としてこれと同額の
金員を被控訴会社より支払を受くる債権を有しその債権は被控訴会社の控訴人に対
する本訴債権その他の金銭債権と相殺することができることは勿論である。そうし
て控訴人は前記別件訴訟において被控訴会社に対する右債権を以て該別訴請求にか
かる被控訴会社の控訴人に対する貸金十万五千円及びこれに対する昭和二十五年四
月八日以降完済まで、百円について一日七銭の割合による遅延損害金債権と相殺す
る旨を主張したので、本訴においては別訴の右相殺の結果なお残存すべき反対債権
を以て被控訴会社の本訴債権と相殺するというのである。ところで控訴人の自認す
る被控訴会社の別訴債権及び本訴債権と控訴人の右反対債権がいづれも昭和二十六
年二月二十八日に相殺適状に達したことは各債権の前記弁済期又は遅延損害金の起
算日からみて明である。そうして右相殺適状時における被控訴会社の別訴債権額は
元金に遅延損害金を加算して合計金十二万九千三十四円五十銭となり、被控訴会社
の本訴債権額は元金に遅延損害金を加算して合計二十万九千百円となるから、これ
らの債権と控訴人の本件九十一万三千九百五十円の反対債権をそれぞれ相殺する
と、被控訴会社の右二口の債権全部とこれと同額の範囲における控訴人の反対債権
は消滅することは算数上明である。
 そこで被控訴会社の本訴請求は失当であつて、これを認容した原判決はその当を
得ない。従つて本件控訴は理由があるから民事訴訟法第三百八十六条、第九十六
条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 竹下利之右衛門 判事 中園原一 判事 鍛冶四郎)

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