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平成19年6月27日判決言渡
平成17年(行ケ)第10743号特許取消決定取消請求事件
口頭弁論終結日平成19年6月11日
判決
原告スリーエムカンパニー
(旧商号・ミネソタマイニングアンドマニュファクチャリングカンパニー)
訴訟代理人弁護士上谷清
同永井紀昭
同萩尾保繁
同山口健司
同薄葉健司
訴訟代理人弁理士永坂友康
同古賀哲次
同加藤憲一
被告特許庁長官
中嶋誠
指定代理人稲村正義
同山崎豊
同森川元嗣
同大場義則
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を3
0日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が異議2003−72617号事件について平成17年6月6日に
した決定中「特許第3399951号の請求項1ないし2に係る特許を取り
消す。」との部分を取り消す。
第2争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
(1)原告は,平成5年3月23日,発明の名称を「引き伸ばし剥離接着剤を
用いる物品支持体」とする発明につき国際出願(以下「本件出願」とい
う。)をし,平成15年2月21日,特許第3399951号として特許
権の設定登録(設定登録時の請求項の数2。以下,この特許を「本件特
許」という。)を受けた。
本件特許についてテサ・アクチエンゲゼルシヤフトから特許異議の申立
てがされたため,特許庁は,これを異議2003−72617号事件とし
て審理し,その係属中の平成17年5月12日,原告は,特許請求の範囲
の減縮を目的として本件特許に係る明細書について訂正を求める訂正請求
をした(以下,訂正後の明細書を図面と併せて「本件明細書」とい
う。)。
特許庁は,同年6月6日,上記訂正を認めた上で,「特許第33999
51号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。」との決定(以下「決
定」という。)をし,その謄本は,同月22日,原告に送達された。
(2)なお,原告は,本件訴訟の係属中に,本件特許に係る明細書について訂
正を求める訂正審判請求(訂正2005−39234号事件)をし,特許
庁が平成18年5月22日に請求不成立との審決をしたことから,同審決
の取消しを求める訴訟(当庁平成18年(行ケ)第10436号)を提起
した。本件訴訟と上記審決取消訴訟は,並行的に審理が進められた。
2特許請求の範囲
平成17年5月12日付け訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の請求
項1及び2の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本
件発明1」,請求項2に係る発明を「本件発明2」という。なお,下線部は
訂正箇所である。)。
「【請求項1】基礎部材,
前記基礎部材に取り外し可能に結合された支持部材,
前記基礎部材に接着された引き伸ばし剥離接着テープ,及び,
前記引き伸ばし剥離接着テープを引き伸ばすための手段,
を含む,基体に接着する物品支持体であって,前記基礎部材が前記引き伸ば
し剥離接着テープによって基体に接着しているときに,前記基礎部材は前記
基体の表面から約35°以下の角度で前記引き伸ばし剥離接着テープを引っ
張ることにより基体から剥がすことができる,物品支持体。
【請求項2】前記基礎部材は前記支持部材を取り付けるための手段を含
み,かつ,前記取り付けるための手段は前記支持部材を前記基礎部材にロッ
クするための手段を含み,かつ,前記基礎部材は前記支持部材で視覚的に隠
されている,請求項1記載の物品支持体。」
3決定の内容
決定の内容は,別紙決定書写しのとおりである。要するに,本件発明1,
2は,刊行物1(国際公開第92/11333号パンフレット。甲3),刊
行物2(仏国特許発明第2328429号明細書。甲4)に記載された発明
及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから,特許
法29条2項の規定により特許を受けることができないというものである。
決定は,本件発明1,2と刊行物1に記載された発明(以下「引用発明」
という。)とをそれぞれ対比し,次のとおりの一致点及び相違点があると認
定した。
(1)本件発明1と引用発明との対比
(一致点)
「基礎部材,
前記基礎部材に結合された支持部材,
前記基礎部材に接着された引き伸ばし剥離接着テープ,及び,
前記引き伸ばし剥離接着テープを引き伸ばすための手段,
を含む,基体に接着する物品支持体であって,前記基礎部材が前記引き伸
ばし剥離接着テープによって基体に接着しているときに,前記基礎部材は
前記基体の表面から約35°以下の角度で前記引き伸ばし剥離接着テープ
を引っ張ることにより基体から剥がすことができる,物品支持体。」であ
る点。
(相違点1)
基礎部材と支持部材の結合手段において,本件発明1は,「取り外し可
能」であるのに対し,引用発明は,一体である点。
(2)本件発明2と引用発明との対比
(相違点1)
上記(1)の相違点1と同じ。
(相違点2)
基礎部材と支持部材において,本件発明2は,「ロックするための手
段」を有しているのに対して,引用発明は,有していない点。
(相違点3)
本件発明2は,「基礎部材は支持部材で視覚的に隠されている」のに対
して,引用発明は,そのような構成を有していない点。
第3当事者の主張
1原告主張の取消事由
本件発明1,2と引用発明との一致点及び相違点についての決定の認定に
誤りのないことは認める。
しかし,決定には,相違点1についての容易想到性の判断を誤り(取消事
由1),本件発明1の顕著な作用効果を看過し(取消事由2),相違点2,
3についての容易想到性の判断を誤り(取消事由3),本件発明2の顕著な
作用効果を看過した(取消事由4)点に違法がある。
(1)取消事由1(相違点1についての容易相当性の判断の誤り)
決定は,本件発明1と引用発明との相違点1について,「基礎部材と支
持部材の結合手段において「取り外し可能」とする点は,刊行物2に記載
されており,引用発明も刊行物2も同じ技術分野に属するものといえるか
ら,刊行物2に記載された技術を引用発明に適用して本件発明1とするこ
とは,当業者が容易に想到することができた」(決定書6頁19行∼22
行)と判断した。
しかし,決定の判断には,以下のとおり誤りがある。
ア技術分野の相違
引用発明の取り付け具は,基材を損傷することなく除去することがで
きる引き伸ばし剥離接着テープが,技術的に重要な構成要素となってお
り,引き伸ばし剥離接着テープのメーカーによって技術開発及び製造さ
れているのに対して,刊行物2の衣服掛けは,プラスチック素材の加工
物品が技術的に主要な構成要素となっていることから,プラスチック素
材の加工業者によって技術開発及び製造されているものであって,引用
発明と刊行物2記載の技術が同じ技術分野に属するものとはいえない。
また,引用発明の引き伸ばし剥離接着テープは,本件出願日当時にお
いて,その固有の使用方法が普及しておらず,プラスチック素材の加工
業者や組立業者が,引き伸ばし剥離接着テープを仕入れて,物品支持体
として組み立てることは実際上困難な状況にあったから,引用発明と刊
行物2記載の技術は技術的に遠い関係にある。
イ組合せの困難性
本件出願日当時においても,引用発明のような取り付け具における引
き伸ばし剥離接着テープの使い方は,未だユーザー間に浸透しておら
ず,引き伸ばし剥離接着テープそのものが新しい技術に属していた。そ
して,本件出願前のみならず,その後においても,基礎部材と支持部材
が取り外し可能な分離型の物品支持体に,引き伸ばし剥離接着テープを
使用することは,構造が複雑なために製造コストが高くなり,取り付け
の際に取り外された支持部材と基礎部材が見失われ易い上に,ユーザー
にとって使い方が複雑であって,仮にユーザーが正確に基礎部材を接着
し損ねた場合には,再び基礎部材を接着し直すことができないなど,基
礎部材と支持部材が一体となった非分離型の取り付け具の場合と比較し
て,不利であると当業者は認識していた(甲5ないし8)。
また,当業者である本件の異議申立人自身も,分離型の物品支持体の
不利な点を十分に認識していた。
さらに,引用発明と刊行物2等記載の技術を組み合わせることが望ま
しいことについて,刊行物1等には記載も示唆もない。
したがって,引き伸ばし剥離接着テープを用いない分離型の衣服掛け
に関する刊行物2の技術を,引き伸ばし剥離接着テープを用いる非分離
型の取り付け具に関する引用発明に適用することは,困難であった。
ウ以上のとおり,引用発明の取り付け具と刊行物2の衣服掛けとは同じ
技術分野に属するものではなかったこと,基礎部材と支持部材が取り外
し可能な分離型の物品支持体が,基礎部材と支持部材が一体となった非
分離型の取り付け具と比較して不利であると当業者に考えられていたこ
とからすれば,引用発明に刊行物2記載の技術を組み合わせることに
は,阻害要因があったというべきである。したがって,決定が,引用発
明に刊行物2記載の技術を適用して,相違点1に係る本件発明1の構成
とすることを,当業者が容易に想到することができたと判断した点には
誤りがある。
(2)取消事由2(本件発明1の顕著な作用効果の看過)
決定は,本件発明の作用効果について,「引用発明及び刊行物2に記載
されたものから当業者が容易に予測できる程度のものである」(決定書6
頁24行∼25行)と判断した。
しかし,決定の判断は,以下のとおり誤りがある。
ア本件発明1は,①「迅速に基体に接着し,引き伸ばし剥離接着テープ
を引き伸ばすための手段へ,ユーザーが容易にアクセスして迅速に剥が
せる」,②「引き伸ばし剥離接着テープを引き伸ばすための手段を保護
して隠すようにした場合にも,物品支持体を取り外す際には,その引き
伸ばすための手段を露出させてユーザーのアクセスを容易にして迅速に
剥がせる」,③「接着剤との接着性が求められる基礎部材と,外観特性
等が求められる支持部材が別体であるので,基礎部材と支持部材の各々
の材料を選択することが非常に容易になる」という,特有の格別な作用
効果を奏する(甲10)。
これに対し,引用発明は「基材にかたく接着することができ,そして
該基材を損傷することなく除去することができるテープ」を提供するも
のであるが,刊行物1(甲3)には,本件発明1の上記格別な作用効果
についての記載がない。また,刊行物2においても,本件発明1の上記
格別な作用効果についての記載がない。
イ以上のとおり,本件発明1に特有の格別な作用効果は,引用発明及び
刊行物2から当業者が容易に予測することができない顕著なものである
から,この点について容易に予測できる程度のものであるとした決定の
判断には誤りがある。
(3)取消事由3(相違点2,3についての容易想到性の判断の誤り)
ア本件発明2に係る相違点2の構成が容易想到とはいえないこと
決定は,本件発明2と引用発明との相違点2について,「基礎部材と
支持部材において,「ロックするための手段」を有している点は,従来
周知の技術(例えば,実願昭53−157732号(実開昭55−72
487号)のマイクロフィルム,実願昭55-27223号(実開昭56
-130409号)のマイクロフィルム,特開平4-135933号公
報)であり,引用発明に上記周知の技術を適用して,相違点2に係る本
件発明2の構成とすることは,当業者であれば容易に想到することがで
きた」(決定書7頁5行∼10行)と判断した。
しかし,決定の判断には,以下のとおり誤りがある。
(ア)決定が周知例として挙げる実願昭53−157732号(実開昭
55−72487号)のマイクロフィルム(甲11の1。以下,単
に「甲11」という。)記載のフック本体とロック部材が分離型のハ
ンガーボード用フックは,プラスチック素材の加工物品が技術的に主
要な構成要素となっており,また,同じく実願昭55-27223号(
実開昭56-130409号)のマイクロフィルム(甲12の1。以
下,単に「甲12」という。)記載の衣服の一方に固定された止め具
と,特開平4-135933号公報(甲13)記載の車載音響機器は,
いずれもプラスチック素材又は金属の加工物品が技術的に主要な構成
要素となっているものであり,甲11ないし13記載の上記各技術
は,引き伸ばし剥離接着テープが技術的に重要な構成要素となってい
る引用発明の取り付け具とは,同じ技術分野に属するものではない。
さらに,甲12記載の衣服の一方に固定された止め具や,甲13記
載の車載音響機器は,用途において壁などに接着される引用発明の取
り付け具とは大きな隔たりがある。
(イ)以上のとおり,甲11ないし13は,いずれもプラスチック素材
又は金属の加工物品を技術的に主要な構成要素とし,引き伸ばし剥離
接着テープが技術的に重要な構成要素となっている引用発明の取り付
け具とは同じ技術分野に属するものではなく,甲11ないし13と引
用発明とを組み合わせることには阻害要因があるというべきであるか
ら,相違点2に係る本件発明2の構成は,当業者であれば容易に想到
することができたとした決定の判断には誤りがある。
イ本件発明2に係る相違点3の構成が容易想到とはいえないこと
決定は,相違点3について,「例えば,上記刊行物2のものも,基礎
部材に相当する台板1の一部は,支持部材に相当する衣服掛けによって
視覚的に隠されているものであるが,基礎部材をどの程度支持部材で視
覚的に隠すかといった事項は,設計的に当業者が適宜なし得る事柄であ
るから,相違点3に係る本件発明2の構成とすることは,単なる設計的
事項」である(決定書7頁11行∼15行)と判断した。
しかし,前記(1)のとおり,刊行物2の衣服掛けに関する発明と,特殊
な引き伸ばし剥離接着テープを用いた引用発明とを組み合わせることに
は阻害要因があること,後述の本件発明2の格別な作用効果を考慮すれ
ば,基礎部材が支持部材で視覚的に隠されていることは,単なる設計的
事項ではないから,決定の上記判断には誤りがある。
(4)取消事由4(本件発明2の顕著な作用効果の看過)について
決定は,以下のとおり本件発明2の顕著な作用効果を看過した。
ア本件発明2は,前記(2)の本件発明1の奏する作用効果に加えて,①「
支持部材を基礎部材にロックするための手段を備えることによって,本
件発明2の物品支持体がより安定的な取り付けが容易になって,便利な
物品支持体が提供され得る」,②「本件発明2の物品支持体は,基礎部
材と支持部材が別体であって,基礎部材が支持部材で視覚的に隠されて
いるので,基礎部材の材料がその外観を考慮せずに接着剤との接着性等
に基づいてより広い範囲での選択が容易になる」という,特有の作用効
果を奏する。
これに対し,刊行物1には,基礎部材と支持部材が分離型の取り付け
具の記載はなく,本件発明2の作用効果についての記載も示唆もない。
刊行物2にも,同様に,本件発明2の作用効果についての記載も示唆も
ない。また,決定が周知例として挙げる甲11ないし13には,ロック
手段の記載はみられるものの,それ以外の本件発明2の作用効果につい
て記載も示唆もない。
イ以上のとおり,本件発明2の奏する格別の作用効果は,引用発明,刊
行物2記載の技術及び周知技術から,当業者が容易に予測できない顕著
なものであるから,この点について容易に予測できるとした決定の判断
には誤りがある。
2被告の反論
(1)取消事由1に対し
ア引用発明は,「取り付け具」に係る発明であり,「絵,タオル,衣
類,台所着,・・・他の物品をぶら下げるために一般に使用される」も
のである。引用発明の「取り付け具」と刊行物2記載の「衣服掛け」と
は,両者とも「物品支持体」の技術分野に属する。
そして,引用発明の接着テープは「取り付け具」の一部品にすぎず,
引用発明に限らず,本件出願前において,「取り付け具」の一部品に接
着テープを用いることは周知(乙1ないし3)であり,接着テープと「
衣服掛け」とが無関係な技術分野に属するものとはいえない。
また,接着テープのメーカーでない場合であっても,部品として接着
テープを仕入れることは可能であり,プラスチック素材の加工業者や組
立業者が,引き伸ばし剥離接着テープを仕入れて,物品支持体として組
み立てることは実際上困難な状況にあったとはいえない。
イ基礎部材と支持部材が取り外し可能な分離型の取り付け具は,刊行物
2(甲4)に限らず,本件出願前に周知(乙4,5)であり,分離型の
取り付け具が,非分離型に比較して,構造が複雑で,部品点数が多い
が,支持部材の形状や材質を目的に応じて変更できることは,分離型の
特徴として既に良く知られていたことである。
そして,取り付け具として分離型を採用するか,非分離型を採用する
かについては,分離型の特徴,特質を勘案して,目的に応じて当業者が
適宜選択し得る事項にすぎない。
さらに,取り付け具が分離型か否かということと,取り付け具の取り
付け手段が引き伸ばし剥離接着テープであるか否かということとは,相
互に無関係な事項であり,取り付け具の型によって,固有の取り付け手
段が決定されるわけではない。原告が組合せの阻害要因として主張する
分離型の構造の複雑性等は,良く知られた分離型の取り付け具の特徴を
単に述べたにすぎず,引き伸ばし剥離接着テープを分離型の取り付け具
に採用することが,物理的あるいは構造的に困難であるということはな
いのであるから,剥離接着テープと分離型の取り付け具とを組み合わせ
ることの阻害要因とはなり得ない。
ウ以上のとおり,引用発明に刊行物2記載の技術を組み合わせることに
阻害要因があるとの原告の主張は失当である。
(2)取消事由2に対し
ア引用発明のタブ64(引き伸ばすための手段)は,「テープ56の除
去を容易にするために」設けられているのであるから,原告主張の「迅
速に基体に接着し,引き伸ばし剥離接着テープを引き伸ばすための手段
へ,ユーザーが容易にアクセスして迅速に剥がせる」との本件発明1の
作用効果は,引用発明も具備している。
イ本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,「引き伸ばすための
手段を保護して隠す」こと,「物品支持体を取り外す際には,その引き
伸ばすための手段を露出させ」ることは記載されておらず,これらが請
求項1の記載から自明であるともいえないから,原告主張の「引き伸ば
し剥離接着テープを引き伸ばすための手段を保護して隠すようにした場
合にも,物品支持体を取り外す際には,その引き伸ばすための手段を露
出させてユーザーのアクセスを容易にして迅速に剥がせる」との本件発
明1の作用効果は,特許請求の範囲の記載に基づくものではない。
ウ原告主張の「接着剤との接着性が求められる基礎部材と,外観特性等
が求められる支持部材が別体であるので,基礎部材と支持部材の各々の
材料を選択することが非常に容易になる」との本件発明1の作用効果
は,分離型の取り付け具が当然備える分離型に特有の効果であり,本件
発明1に特有なものではない。
エ以上のとおり,原告主張の本件発明1の作用効果は,引用発明又は刊
行物2に記載された発明が奏するものであるか,本件発明1の特許請求
の範囲の記載に基づかないものであり,顕著な作用効果であるとはいえ
ない。
(3)取消事由3に対し
ア相違点2について
刊行物2記載の衣服掛けにおいて,鉤5と固定用クランプ6とが安定
的な取り付け状態を維持できるようにすることは,物品の構造,機能及
び使用方法等からみて,当業者にとって周知の技術的課題であり(乙
4,5),そのような安定的な取り付け状態を維持するために,二つの
部材を,ロックするための手段によりロックするという技術思想も,技
術分野を問わず,ごく一般的なものである。
そして,従来周知のロックするための手段を,基礎部材と支持部材と
の取り付けに適用することは当業者が容易に想到し得たことであり,そ
の適用を阻害する要因は何ら見当たらない。
イ相違点3について
前記(1)アのとおり,引用発明は「取り付け具」に係る発明であり,刊
行物2の衣服掛けと技術分野が共通するから,引用発明と刊行物2記載
の技術とを組み合わせることに阻害要因はない。
(4)取消事由4に対し
ア原告主張の「支持部材を基礎部材にロックするための手段を備えるこ
とによって,本件発明2の物品支持体がより安定的な取り付けが容易に
な」るという本件発明2の作用効果は,ロックするための手段を備える
ことによって,当然予測される作用効果にすぎない。
イ刊行物2(甲4)には台板1が衣服掛け本体2によって隠され,美観
を確保することが記載されていることに照らすならば,原告主張の「本
件発明2の物品支持体は,基礎部材と支持部材が別体であって,基礎部
材が支持部材で視覚的に隠されているので,基礎部材の材料がその外観
を考慮せずに接着剤との接着性等に基づいてより広い範囲での選択が容
易になる」という本件発明2の作用効果は,刊行物2記載の技術から当
然予測されるものにすぎない。
ウ以上のとおり,原告主張の本件発明2の作用効果は,引用発明,刊行
物2記載の技術及び周知技術から,当業者が当然予測し得たものにすぎ
ない。
第4当裁判所の判断
1取消事由1(相違点1についての容易相当性の判断の誤り)について
原告は,引用発明の取り付け具と刊行物2の衣服掛けとは同じ技術分野に属
するものではなかったこと,基礎部材と支持部材が取り外し可能な分離型の物
品支持体が,基礎部材と支持部材が一体となった非分離型の取り付け具に比べ
て不利であると当業者に考えられていたことからすれば,引用発明に刊行物2
記載の技術を組み合わせることに,阻害要因があったというべきであるから,
引用発明に刊行物2記載の技術を適用して,相違点1に係る本件発明1の構成
とすることは,当業者が容易に想到することができたとした決定の判断には誤
りがあると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
(1)組合せの容易想到性について
ア刊行物1の記載事項
刊行物1(甲3)には,①「請求の範囲」として,「8.前記基材がそ
の1つの主表面に物品をぶらさげる手取を担持している,請求項7に記載
の物品。」(訳文2頁左下欄1行∼2行),②「図3A及び図3Bは,取
り付け用途の本発明のテープの態様を示す。フックは・・・絵,タオル,
衣類,台所着,・・・他の物品をぶら下げるために一般に使用される」(
訳文5頁右下欄4行∼6行),③「取り付けのために本発明のテープを使
用することにより,これらのフックは使用される間は所定位置にかたく保
持され,そして望みの時に基材の表面を損傷することなく除去することが
できる。図3A及び図3Bに示すように,取り付け具50はフック部材5
2及びそのための支持体54を有し,この支持体が,裏地62により担持
される感圧接着剤の層58,60の1つにより両面テープ56に接着され
る。所望により,壁66からのテープ56の除去を容易にするために,テ
ープ56をつまむのを可能にするようにタブ64を設けることもでき
る。」(訳文5頁右下欄15行∼23行)との記載がある。
上記記載と図3A及び図3Bによれば,刊行物1には,衣類等をぶら下
げる物品支持体の具体的構成として,フック部材52と支持体54を有す
る取り付け具50を壁66に両面テープ56によって固定し,そのフック
部材56に衣類等の物品をぶら下げる発明が開示されていると認められ
る。
イ刊行物2の記載事項
刊行物2(甲4)には,「図1および2に表された衣服掛けは,プラス
チック素材の鋳造によって製造される2つの相補的な部分1および2によ
って構成される。これらの第1のものは,ネジ釘もしくは適当なすべての
他の手段によって壁に固定されることを目的とした,固定用の台板もしく
は底板を形づくる。第2のものに関しては,それはいわゆる衣服掛けの本
体を構成し,そしてそのために,それは衣服や他の類似した物を受けとめ
ることを目的とした,それぞれ突出した二つの要素3および4を有してい
る。」(訳文2頁3行∼8行)と記載されている。
上記記載と図1及び図2によれば,刊行物2には,相補的な部分1及び
2によって構成される衣服掛けを壁にネジ釘等によって固定し,その突出
した要素3及び4に衣類等をぶら下げること,相補的な部分1及び2の結
合手段は相互にスライドさせて「取り外し可能」であることからなる発明
が開示されていると認められる。
ウ前記ア及びイによれば,刊行物1及び刊行物2に記載された発明は,衣
服などの物品をぶら下げる部材である「フック部材52」(刊行物1)
や「突出した二つの要素3および4」(刊行物2)を備え,壁に固定して
使用する「物品支持体」である点で技術分野が共通し,衣服などをぶら下
げるという機能においても共通している。また,乙1ないし3によれば,
接着テープにより物品支持体を壁などに取り付けることは,本件出願当
時,周知の事項であったと認められる。
そして,共通の技術分野に属し,同じ機能を果たす技術手段であれば,
その適用を試みることは,刊行物に特に記載や示唆がなくとも当業者が普
通に行うことであることに照らすならば,引用発明に,刊行物2に記載さ
れた基礎部材と支持部材の結合手段において「取り外し可能」とする技術
を適用し,相違点1に係る本件発明1の構成とすることは容易想到であっ
たものと認められる。
(2)原告の主張に対する判断
アこれに対し,原告は,引用発明の取り付け具は,基材を損傷すること
なく除去することができる引き伸ばし剥離接着テープが,技術的に重要
な構成要素となっており,引き伸ばし剥離接着テープのメーカーによっ
て技術開発及び製造されているのに対して,刊行物2の衣服掛けは,プ
ラスチック素材の加工物品が技術的に主要な構成要素となっていること
から,プラスチック素材の加工業者によって技術開発及び製造されてお
り,また,引用発明の引き伸ばし剥離接着テープは,本件出願当時にお
いて,その固有の使用方法が普及しておらず,プラスチック素材の加工
業者や組立業者が,引き伸ばし剥離接着テープを仕入れて,物品支持体
として組み立てることは実際上困難な状況にあったことからすれば,引
用発明と刊行物2記載の技術が同じ技術分野に属するものとはいえない
と主張する。
しかし,前記(1)認定のとおり,引用発明と刊行物2記載の技術と
は,衣服等の物品をぶら下げる部材を備え,壁に固定して使用する「物
品支持体」である点で技術分野が共通し,同じ技術分野に属するものと
認められる。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
イ次に,原告は,本件出願前のみならず,本件出願後においても,基礎
部材と支持部材が取り外し可能な分離型の物品支持体に,引き伸ばし剥
離接着テープを使用することは,構造が複雑なため製造コストが高くな
り,取り付けの際に取り外された支持部材と基礎部材が見失われ易い上
に,ユーザーにとって使い方が複雑であって,仮にユーザーが正確に基
礎部材を接着し損ねた場合には,再び基礎部材を接着し直すことができ
ないなど,基礎部材と支持部材が一体となった非分離型の取り付け具の
場合と比較して,不利であると当業者は認識していたこと,引用発明と
刊行物2記載の技術を組み合わせることについて,刊行物1等には記載
も示唆もないことからすれば,引用発明に刊行物2の技術を組み合わせ
ることに阻害要因があると主張する。
しかし,一般に異なる機能・構造を有する二つの部材を別体で製作す
るか,一体で製作するかは,適宜選択して実施する設計的事項である。
壁に固定して使用する「物品支持体」の製作に関与する当業者であれ
ば,分離型の取り付け具には,取り付け作業の際に,手間がかかった
り,部材を見失ったりする等の短所があるのに対し,非分離型の取り付
け具には,各部品ごとに最適の材料や製法を選択することに困難が伴う
等の短所があり,それぞれの長所・短所を適宜考慮して,取り付け具を
分離型・非分離型のいずれの構造とするかを決定するものと解されるか
ら,当業者が,引用発明に,刊行物2記載の基礎部材と支持部材の結合
手段を「取り外し可能」な構造とするという技術を適用することによ
り,分離型の取り付け具とし,相違点1に係る本件発明1の構成とする
ことは容易想到であったものと認められる。
なお,本件出願当時,引用発明の取り付け具の引き伸ばし剥離接着テ
ープの固有の使用方法が普及していたかどうか,引用発明の引き伸ばし
剥離接着テープを仕入れることが困難な状況にあったかどうかは,刊行
物1に接した当業者において,引用発明に刊行物2記載の上記技術を適
用することが容易想到であったとの上記判断を左右するものではない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(3)以上によれば,原告主張の取消事由1は理由がない。
2取消事由2(本件発明1の顕著な作用効果の看過)について
原告は,本件発明1は,(a)「迅速に基体に接着し,引き伸ばし剥離接着
テープを引き伸ばすための手段へ,ユーザーが容易にアクセスして迅速に剥
がせる」,(b)「引き伸ばし剥離接着テープを引き伸ばすための手段を保護
して隠すようにした場合にも,物品支持体を取り外す際には,その引き伸ば
すための手段を露出させてユーザーのアクセスを容易にして迅速に剥がせ
る」,(c)「接着剤との接着性が求められる基礎部材と,外観特性等が求め
られる支持部材が別体であるので,基礎部材と支持部材の各々の材料を選択
することが非常に容易になる」との特有の格別な作用効果を奏するものであ
るが,これらの作用効果は,引用発明及び刊行物2に記載されたものから当
業者が容易に予測できる程度のものではない顕著な作用効果であると主張す
る。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
(1)顕著な作用効果の有無について
ア前記(1)ア③記載のとおり,刊行物1の取り付け具50において
は,「テープ56の除去を容易にするために」タブ64が設けられてい
るのであるから,引き伸ばし剥離接着テープを「迅速に剥がせる」との
本件発明1の上記(a)の作用効果は,引用発明も備えており,本件発明
1に特有のものではない。
イ本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,「引き伸ばすための
手段を保護して隠す」こと,「物品支持体を取り外す際には,その引き
伸ばすための手段を露出させ」ることに関する記載はなく,また,これ
らの効果が請求項1の記載から自明なものともいえないから,本件発明
1の構成から,「引き伸ばし剥離接着テープを引き伸ばすための手段を
保護して隠すようにした場合にも,物品支持体を取り外す際には,その
引き伸ばすための手段を露出させてユーザーのアクセスを容易にして迅
速に剥がせる」との原告主張の上記(b)の作用効果を当然に奏するもの
とは認められない。
また,刊行物2に記載の衣服掛けにおいても,衣服掛けを構成する相
補的な部分1,2のうちの部分2を,部分1から取り外すと,部分1を
壁に固定するネジ釘が露出するのであり,ユーザーのアクセスを容易に
して迅速に壁から衣服掛けを構成する部分1を取り外すことができるも
のである。
したがって,原告主張の本件発明1の上記(b)の作用効果は,引用発
明に刊行物2に記載の発明を適用すれば奏することが予測できる効果で
あり,格別な作用効果であるとは認められない。
ウ「物品支持体」において,基礎部材と支持部材を分離して構成するこ
とは,本件出願当時周知の技術であり(例えば,甲4,11ないし1
3,乙3ないし5),基礎部材と支持部材とをその目的に従って最適化
でき,異なった材料を用い,異なった製法を用いて製造できることは,
上記周知の技術から導かれる効果であり,原告主張の本件発明1の上記
(c)の作用効果は,格別な作用効果ではない。
(2)以上によれば,原告主張の取消事由2は理由がない。
3取消事由3(相違点2,3についての容易想到性の判断の誤り)について
(1)相違点2についての容易想到性
ア甲11ないし13によれば,甲11記載のフック本体とロック部材が
分離型のハンガーボード用フック,甲12記載の衣服用フック,甲13
記載の車載音響機器は,いずれも物品支持体において,支持部材を基礎
部材に「ロックするための手段」を備えていることが認められる。
加えて,①乙4には,「2aは掛吊部材8aを頂面に設け,内部を窄
洞となし周壁部9に前記円板基台1aの螺条3と適合する螺条10を刻
設した主体部である。」(2頁3行∼5行),「2cは主体部であっ
て,内部を空洞となし内周面に前記円板基台1cの係合溝部12と適合
する突起部13を隆設してなり,」(3頁7行∼9行)との記載及び図
面(第1図∼5図)が,②乙5には,「螺子孔11,11aに螺子1
8,18aを嵌挿してベース7を壁面に固定し,嵌入凸部10,10a
を嵌合凹部16,16a内に嵌合することによりベース7に掛止本体8
を上方外側から嵌合し,掛止本体8を止まるまで下方にスライドして凸
部12,12aと凹部17,17aをカチッと嵌合させて,・・・・螺
子18,18aが現出することなく,又掛止具1,1aが脱落すること
なく堅固に壁面に固定されるのである。」(6頁6行∼16行)との記
載及び図面(第6,7図)があり,これらによれば,物品支持体におい
て,「支持部材を基礎部材にロックするための手段」を備えることによ
り,物品支持体をより安定的に取り付けることは,本件出願当時,周知
の技術であったことが認められる。
イそして,刊行物2に記載された衣類掛けにおいて,鉤5と固定用クラ
ンプ6とが安定的な取り付け状態を維持できるようにするとの課題を有
することは,物品の構造,機能及び使用方法等からみて,当業者にとっ
て自明であることに照らすならば,引用発明に,刊行物2に記載された
基礎部材と支持部材の結合手段において「取り外し可能」とする技術を
適用するに際し,安定的な取り付け状態を維持するために,周知の「ロ
ックするための手段」を用いることは,当業者が必要に応じて適宜採用
する設計的事項であると解される。
したがって,引用発明に,周知の「ロックするための手段」によりロ
ックする技術を適用して,相違点2に係る本件発明2の構成とすること
は容易想到であったとの決定の判断に誤りはない。
ウこれに対し,原告は,決定が周知例として挙げる甲11ないし13記
載の各技術は,いずれもプラスチック素材又は金属の加工物品が技術的
に主要な構成要素であって,引き伸ばし剥離接着テープが技術的に重要
な構成要素となっている引用発明の取り付け具とは,異なる技術分野に
属するものであるから,引用発明に,上記周知の技術を組み合わせるこ
とについて,阻害要因があったと主張する。
確かに,甲12記載の衣服の一方に固定された止め具や甲13記載の
車載音響機器と,壁などに接着される引用発明の取り付け具とは,用途
を異にするが,支持部材と基礎部材など,複数の部材を結合させるため
に「ロックする手段」を備えるという周知の技術は,ごく一般的に用い
られる基礎的な技術であり,このような一般的,基礎的な技術を,引用
発明に刊行物2に記載された基礎部材と支持部材の結合手段を適用する
に際し採用することは設計的事項であるということができる。
以上のとおり,原告の上記主張は採用することができない。
(2)相違点3の容易想到性
ア決定が認定判断したとおり,「基礎部材をどの程度支持部材で視覚的
に隠すかといった事項は,設計的に当業者が適宜なし得る事柄」(決定
書7頁13行∼14行)であり,引用発明において,相違点3に係る本
件発明2の構成とすることは容易想到であったものと認められる。
イこれに対し,原告は,刊行物2の衣服掛けに関する発明と,特殊な引
き伸ばし剥離接着テープを用いた引用発明とを組み合わせることには阻
害要因があること,本件発明2の格別な作用効果を考慮すれば,基礎部
材が支持部材で視覚的に隠されていることは,単なる設計的事項でない
というべきであるから,相違点3に係る本件発明2の構成は容易想到で
あるとした決定の判断には誤りがあると主張する。
しかし,前記1(1)ウ認定のとおり,引用発明に刊行物2の衣服掛けに
係る技術手段を適用することには格別の困難性は認められず,また,刊
行物2に記載の衣服掛けにおいても,衣服掛けを構成する相互補完的な
部分1,2のうちの部分1は,部分2により視覚的に隠されているもの
であり,本件発明2の効果も,後記4のとおり引用発明に刊行物2に記
載された発明を適用した際に予測される効果の範囲内のものである。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(3)以上によれば,原告主張の取消事由3は理由がない。
4取消事由4(本件発明2の顕著な作用効果の看過)について
原告は,本件発明2は,本件発明1の奏する作用効果に加え,(a)「支持
部材を基礎部材にロックするための手段を備えることによって,本件発明2
の物品支持体がより安定的な取り付けが容易になって,便利な物品支持体が
提供され得る」,(b)「本件発明2の物品支持体は,基礎部材と支持部材が
別体であって,基礎部材が支持部材で視覚的に隠されているので,基礎部材
の材料がその外観を考慮せずに接着剤との接着性等に基づいてより広い範囲
での選択が容易になる」との作用効果を奏するものであり,これらは,引用
発明及び刊行物2に記載された発明並びに周知技術から,当業者が容易に予
測できない顕著なものであるにもかかわらず,決定はこれを看過していると
主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
(1)顕著な作用効果の有無について
ア前記3(1)ア認定のとおり,物品支持体において,支持部材を基礎部材
に「ロックするための手段」を備えることにより,物品支持体をより安
定的に取り付けることは,本件出願当時,周知の技術であったものであ
る。
そして,刊行物2に記載された衣類掛けにおいて,鉤5と固定用クラ
ンプ6とが安定的な取り付け状態を維持できるようにするとの課題を有
することは,物品の構造,機能及び使用方法等からみて,当業者にとっ
て自明であるから,そのような安定的な取り付け状態を維持するため
に,上記周知のロックするための手段を用いることは,当業者が適宜採
用する設計的事項であり,またそれによる効果(原告主張の本件発明2
の上記(a)の作用効果)も予測される範囲のものである。
イ刊行物2(甲4)には,「それが台板1上に固定された際,衣服掛け
2の本体の下に位置する場所を目に見える状態にとどめるのを避けると
いう利点も持つ。・・・台板1の固定用ネジ釘10の通り道を目的とし
た穴9は,固定用クランプ6の間に含まれる空間内,すなわち,それが
然るべき場所に固定された際に衣服掛けの本体2によって覆われる領域
内の部分に設えられている。このような状況では,そのとき,ネジ釘1
0の頭部はしたがって,衣服掛けの本体によって完全に隠される。」(
訳文2頁22行∼29行),「全体が然るべき場所にあるとき,これら
の手段は対応する物品のまさに本体によって隠され,これは美的外観を
それに確保する。」(訳文1頁19行∼20行)との記載があることに
照らすならば,原告主張の本件発明2の上記(b)の作用効果は,刊行物
2に記載された発明から当然予測されるものにすぎない。
ウしたがって,原告主張の本件発明2の上記(a)及び(b)の作用効果は
顕著なものとは認められない。
(2)以上によれば,原告主張の取消事由4は理由がない。
5結論
以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に決定を取
り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の本訴請求は理由がないから棄却することとして,主文のと
おり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官飯村敏明
裁判官大鷹一郎
裁判官嶋末和秀

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