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平成21年6月25日判決言渡
平成19年(ネ)第10056号不当利得返還等請求控訴事件
判決
一審原告X1
外1名
一審被告ブラザー工業株式会社
知的財産高等裁判所第2部
「閲覧制限及び仮名処理にともない,目次に記載のページ数は判決原本とは異な
ります」。
目次
4主文
5第1控訴の趣旨
第2事案の概要6
第3当事者の主張10
1一審被告10
……………………………………………………(1)本件各特許権が無効であること10
……………………………………(2)一審被告は本件各発明を実施していないこと60
…………………………………………………………(3)超過売上高の算定について68
……………………………………………………………(4)仮想実施料率について124
………………………………………………(5)第三者からの実施料収入について127
………………………………………(6)発明に対する一審被告の貢献度について137
…………………………………………………(7)共同発明者間の寄与度について148
……………………………………………………(8)相当対価の支払時期について151
…………………………………………………………………(9)消滅時効について152
2一審原告ら154
…………………………………………………(1)本件各特許権は有効であること154
……………………………………(2)一審被告は本件各発明を実施していること198
………………………………………………………(3)超過売上高の算定について200
…………………………………………………………………(4)利益率等について239
………………………………………………(5)第三者からの実施料収入について242
………………………………………(6)発明に対する一審被告の貢献度について250
…………………………………………………(7)共同発明者間の寄与度について260
……………………………………………………(8)相当対価の支払時期について261
…………………………………………………………………(9)消滅時効について261
第4当裁判所の判断263
1本件における基礎的事実関係263
2本件発明報酬請求と特許無効事由との関係296
3本件各発明により一審被告が受けるべき利益──自己実施分319
…………………………………………………………………………………(1)総論319
……………………………………(2)一審被告による本件各発明自己実施の有無321
………………………………………………………………………(3)売上高の算定330
…………………………………………………………………(4)超過売上高の割合335
………………………………………………………………(5)本件における利益率378
………………………………………………………………(6)本件各発明の寄与度379
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ア一審被告保有権利についての検討380
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥イ寄与度の算定466
4本件各発明により一審被告が受けるべき利益──第三者実施分471
…………………………………………………………………………………(1)総論471
…………………………………………………(2)キングジム社からの実施料収入472
………………………………………………………(3)カシオ社からの実施料収入474
………………………………………………………(4)ダイモ社からの実施料収入474
5本件各発明に対する一審被告の貢献度480
6共同発明者間における一審原告らの寄与度484
7相当対価の支払時期486
8消滅時効487
9相当対価額と既払金控除489
10結論493
別紙認容金額一覧表605
別紙本件被告製品の売上高(自己実施分)606
別紙ラミネート発明の相当対価算定表(自己実施分)608
別紙第1発明の相当対価算定表(自己実施分)610
別紙第3発明の相当対価算定表(自己実施分)611
別紙キングジム社実施分612
別紙カシオ社実施分613
別紙ダイモ社実施分614
別紙相当対価の金額のまとめ616
平成19年(ネ)第10056号不当利得返還等請求控訴事件(原審・東京地裁
平成17年ワ第11007号以下ブラザー工業株式会社控訴に係る部分東()。,〔
京地裁平成19年(ワネ)第1092号〕を「A事件,X1及びX2控訴に係る部」
分〔東京地裁平成19年(ワネ)第1110号〕を「B事件」という)。
口頭弁論終結日平成21年1月22日
判決
A事件控訴人・B事件被控訴人ブラザー工業株式会社
(一審被告)
訴訟代理人弁護士熊倉禎男
同佐尾重久
同富岡英次
同田中伸一郎
同相良由里子
同水沼淳
同小和田敦子
訴訟復代理人弁護士木内加奈子
A事件被控訴人・B事件控訴人X1
(一審原告)
A事件被控訴人・B事件控訴人X2
(一審原告)
両名訴訟代理人弁護士加藤洪太郎
同夏目武志
主文
1A事件控訴人ブラザー工業株式会社の控訴を棄却する。
2B事件控訴人X1・同X2の控訴に基づき,原判決を次のとおり変
更する。
(1)一審被告は,一審原告X1に対し,3188万2587円及び
「」「()」別紙認容金額一覧表の表1認容金額一覧表一審原告X1
記載の「支払時期」ごとの各「合計」に対する各「支払時期」から
各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)一審被告は,一審原告X2に対し,2449万5226円及び
「」「()」別紙認容金額一覧表の表2認容金額一覧表一審原告X2
記載の「支払時期」ごとの各「合計」に対する各「支払時期」から
各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)一審原告X1・同X2のその余の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを3分し,その2を一審原告
らの負担とし,その余を一審被告の負担とする。
4この判決の第2項(1)及び(2)は仮に執行することができる。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1一審被告ブラザー工業株式会社(A事件)
(1)原判決中,一審被告敗訴部分を取り消す。
(2)一審原告らの請求をいずれも棄却する。
(3)訴訟費用は,第1,2審とも,一審原告らの負担とする。
2一審原告X1,同X2(B事件)
(1)原判決の予備的請求に係る部分のうち,一審原告ら敗訴部分を取り消す。
(2)ア一審被告は,一審原告X1に対し,原判決で支払を命じられた主文第2
項(2)の金額のほかに,1億7816万1858円(元本合計2億円)及
び原判決別紙1記載の「請求金額」欄の「支払時期」ごとの各内金に対す
る各「支払時期」から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
イ一審被告は,一審原告X2に対し,原判決で支払を命じられた主文第2
項(3)の金額のほかに,1億8479万1869円(元本合計2億円)及
び原判決別紙1記載の「請求金額」欄の「支払時期」ごとの各内金に対す
る各「支払時期」から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)訴訟費用は,第1,2審とも,一審被告の負担とする。
第2事案の概要
【以下,略称は原判決の例による】。
1一審原告X1は,千葉大学工学部工業意匠科を卒業して昭和58年4月に一
審被告に入社し,平成12年5月に退社するまでの間,市場調査部門であるラ
イフリサーチセンター(LRセンター・商品事業企画部等において,市場調)
査及びそれに基づく開発商品コンセプトの提言勧告等の業務に従事していた。
上記退社後は,自ら設立した会社を経営する傍ら,名古屋市中小企業振興セン
ターの経営診断員等も務めている。
一審原告X2は,東北大学法学部を卒業して昭和61年4月に一審被告に入
社し,現在まで一審被告の従業者の地位にある。その間,昭和61年7月から
昭和63年9月までは情報機器第3事業部企画管理グループ等においてマーケ
ティング活動及び商品開発・生産販売に関する基本方針の企画・立案業務等に
従事し,その後,6年間のアメリカ駐在等を経て,平成18年からはQM推進
部においてミシンの品質管理等を担当している。
一審被告は,昭和9年1月15日に設立された株式会社で,裁縫用ミシン機
械,電気機械器具,電子機械器具,事務用機器等の製造販売等を主たる業務と
している。
2一審被告の従業者であった一審原告X1及び同X2は,昭和61年ないし同
62年にかけて,単独又は他の発明者と共同で,ラベルライターに関する下記
(,「」発明又は考案以下下記(1)~(8)の発明ないし考案を総称して本件各発明
ということがある)を含む発明又は考案をし,そのころ上記発明又は考案に。
ついての特許又は実用新案登録を受ける権利を一審被告に譲渡した。

(1)第1発明
出願日昭和61年11月14日
登録日平成10年12月18日
特許番号第2139579号
名称簡易レタリングテープ作製機
発明者X1
(2)第2発明
出願日昭和62年11月20日
登録日平成9年11月21日
特許番号第2133451号
名称反転印字を行うテープ印字装置
発明者X1,X2,A,B,C,D
(3)第3発明
出願日昭和62年12月10日
登録日平成9年4月18日
特許番号第2128329号
発明の名称印字位置の変更可能な印字装置
発明者前記(2)と同じ
(4)第5発明
出願日昭和62年12月21日
登録日平成6年1月27日
特許番号第1818963号
発明の名称記録装置
発明者前記(2)と同じ
(5)海外特許1
出願日1988(昭和63)年10月27日
登録日1992(平成4)年9月2日
登録番号欧州特許0315369号
名称保護媒体で保護された像を記録する装置
発明者前記(2)と同じ
対象国ドイツ,フランス,イギリス,イタリア
(6)海外特許2
出願日1991(平成3)年8月22日
登録日1992(平成4)年12月8日
登録番号米国特許5168814号
名称印字媒体を印字の長手方向に搬送する装置
発明者前記(2)と同じ
(7)海外特許3
出願日1988(昭和63)年10月24日
登録日1991(平成3)年4月23日
登録番号米国特許5009530号
名称反転した像を記録し,保護媒体で保護することを特徴とした
記録装置
発明者前記(2)と同じ
(8)第3考案
出願日昭和62年11月18日
登録日平成6年6月21日
実用新案登録番号第2021118号
考案の名称テープ印字装置用テープカセット
考案者前記(2)と同じ
3本件訴訟は,ラベルライターに関する本件各発明(前記2(1)ないし(8))及
び第4考案の発明者又は考案者である一審原告らが,原審においては,(1)主
位的に,本件各発明は職務発明又は職務考案に当たらないから,一審被告への
特許等を出願する権利の承継は無効であり,特許権等の実施等により被告が得
た利益は不当利得に当たると主張してその返還を求め,(2)予備的に,一審原
告らが一審被告に対し,前記2(1)ないし(7)につき平成16年法律第79号に
よる改正前の特許法35条3,4項(以下「旧35条3,4項」ということが
ある,前記2(8)及び第4考案につき実用新案法11条3項に各基づき,一。)
審原告らが一審被告に承継させた職務発明又は職務考案について,相当対価の
一部として各2億円及びこれに対する原判決別紙「請求金額一覧表」の各内金
の各支払時期から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた
事案である。
〈注〉平成16年法律第79号による改正前の特許法35条3,4項は,次のとおり。
3項:従業者等は,契約,勤務規則その他の定により,職務発明について使用者等
に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ,又は使用者等のため専用実
施権を設定したときは,相当の対価の支払を受ける権利を有する。
4項:前項の対価の額は,その発明により使用者等が受けるべき利益の額及びその
発明がされるについて使用者等が貢献した程度を考慮して定めなければなら
ない。
4原審の東京地裁は,平成19年4月18日,①本件各発明は職務発明又は職
,,務考案に当たるとして主位的請求をいずれも棄却し②予備的請求については
平成18年4月1日以降の一審被告の売上高に基づく相当対価及び同日以降得
られた実施料収入に基づく相当対価に係る訴えを将来の給付の訴えの要件を欠
くとしていずれも却下し,その余の現在請求について一審原告X1につき相当
対価2183万8142円・一審原告X2につき相当対価1520万8131
円及びこれらに対する原判決別紙「認容金額一覧表」の各「支払時期」から支
払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その
。,。余を棄却したそこでこれを不服とする当事者双方が本件各控訴を提起した
5当審に至り一審原告らは,不当利得返還請求に係る主位的請求を取り下げた
ので,当審における訴訟物は,前記2(1)ないし(8)及び第4考案の特許又は考
案に関する特許法旧35条3,4項又は実用新案法11条3項に基づく報酬対
価及び遅延損害金請求である。
なお,一審被告は,一審原告らに対し,一審原告らのなした発明等に対する
実績報奨として,原判決別紙「実績報奨の支払状況」記載のとおり一審原告X
1につき20万0900円,一審原告X2につき19万9300円を支払済み
である。
,(),6当審における争点は原判決記載の争点2ないし7争点1は撤回のほか
5年の商事消滅時効が適用されるか(争点7の拡大)である。
第3当事者の主張
当事者双方の主張は,当審における主張として次のとおり付加するほか,原
判決の「事実及び理由」欄記載のとおりであるから,これを引用する。
1一審被告
(1)本件各特許権が無効であること
ア無効事由を有する特許と独占の利益の関係に関する原判決の判断の誤り
(ア)原判決は,第3発明,第5発明,海外特許1の請求項1~3,5~
7には無効事由があると認定したにもかかわらず,無効事由を含む特許
等について実質的な独占の利益を認定している。
しかし,無効事由を有する特許による第三者に対する権利行使に関し
裁判所は終始厳しく制限し(最高裁判所平成12年4月11日第三小法
廷判決・民集54巻4号1368頁,いわゆるキルビー判決,最近で)
は特許法104条の3の導入により制定法上その権利の行使を制限する
に至っている。実際に近時の侵害事件においては,極めて高い割合で裁
判所が無効の判断をし,特許権者の請求を棄却していることは周知のと
おりである。無効事由を有する特許権の行使は,このように制限され,
その独占権の行使が裁判所において認められないものである。特許法旧
35条の対価請求は,当事者は異なるが,発明者たる従業員等と特許を
受ける権利又は特許権の承継者である使用者等の間における当該権利に
関する権利行使という側面を有するものである。したがって,特許法旧
35条も,承継されるのは「特許を受ける権利」又は「特許権」である
ことを明示しており,当然ながら将来独占権の対象となる権利について
規定したことは疑いの余地がない。そもそも,無効である特許発明に関
連して一審被告が利益を得たという理由により,発明者が使用者である
一審被告にその利益の配分を求めることは,法規範上も許されるもので
はない。その場合の使用者の請求が無効な特許による不当な利得という
のであれば,発明者の請求も不当な利得の配分を求めるものであり,法
的正義に反するものである。
(イ)論者によっては,特許法旧35条4項において「その発明により使
用者等が受けるべき利益の額」と規定して「その特許により」と規定し
ていないことを,特許性のない発明でも対価請求の対象となると論ずる
者もいるようである。しかし,特許法旧35条4項は「前項の対価の額
は」という文言で始まり「前項」である旧35条3項は「特許を受け,
る権利若しくは特許を承継させ,又は使用者等のため専用使用権を設定
したときは」と規定されているのであって,単に「発明を承継させたと
」。「」「」きはとは規定されていない同条3項の上記特許や専用使用権
が有効な特許を指すことは,特許権が審判において無効とされた場合に
「」()は初めから存在しなかったものとみなすとの規定特許法125条
から明らかである。
(ウ)原判決は,無効審判や侵害訴訟で無効と判断されたとの主張がない
ことを根拠とするが,そもそも無効審判の提起という事態は侵害訴訟を
提起され,あるいは警告に対して法的な手続をとらざるを得ない状態に
おいて初めて生ずるものである以上,無効審判や侵害事件で無効が主張
されたことがないから有効性を前提に「独占の利益」を認めるという論
理には著しい飛躍があり合理性が全くない。原判決の論理に従えば,無
効の可能性のある特許や発明は通常は権利行使の対象とされないから権
利の有効性を争われることがないが,そのためにかえって対価請求にお
いて高い評価を受けることになりかねない。そもそも,旧35条3項,
4項に基づく対価請求訴訟において「独占の利益」という概念を裁判所
が使用してきたのは,特許法35条1項の通常実施権を超え,市場にお
いて当該技術を独占できることによる法的な評価であって,単に事実上
他社が実施を妨げられている状態を意味してきたものではないはずであ
る。
また,特許法2条1項において「発明」は「自然法則を利用した技,
術的思想の創作のうち高度のものをいう」と定義され,特許法29条の
特許性を有するものをいうとは定義されていない。しかしながら,特許
法は全体として「特許性のある発明の保護」に関して規定しているので
あって,そうでない規定は,無効となる特許に係る発明,拒絶されるべ
き特許出願に係る発明に関するものであり,こうした規定の結果ないし
効果は,特許による独占権を否定する効果につながるものである。
したがって,無効性を有する特許による「独占の利益」ということ自
体が論理の破綻を示すものであり,特許法の解釈として整合性を著しく
欠如する不合理な解釈である。
(エ)ちなみに大阪地方裁判所平成19年3月27日判決は,無効事由が
ある事例においては「独占の利益の算定が困難」として,独占の利益を
認めていない。
もっとも,かかる無効性を有する特許発明については,付随的な価値
又は低い評価をすることもあり得るが,原判決は,第5発明の無効性を
認めながら,第2発明と組み合わせた「ラミネート発明」という概念を
使用し,様々に「ラミネート発明」の価値を高く評価する認定を行い,
自己実施において最大30%に及ぶ超過売上げを認定しているのであ
り,到底無効性を考慮したとはいえず「無効性のあるものは低い評価,
とする」のとは全く逆の認定を行っているのである。
(オ)第3発明と海外特許1については,とりわけ上記の矛盾が著しい。
すなわち,原判決は第3発明の無効性を認定しながら,自己実施及びキ
ングジム社からの実施料収入に関し単独で「独占の利益」を認めており
(原判決267頁及び表2-3,表1-3,また海外特許1のほとん)
どの発明の無効性を認定し,かつ当事者であるダイモ社と一審被告がド
イツにおける訴訟の根拠にも和解契約の対象特許にもしていない海外特
許1を,ラミネート発明として単独でダイモ社からのテープカセットに
係る実施料収入における「独占の利益」の根拠としているものである。
(カ)したがって,原判決は,無効性のある特許につき付随的な評価を行
うのではなく,それ自体単独で「独占の利益」があるものとした点にお
いて,明らかな誤りがある。
その結果,原判決は,一審原告各自に対し,無効性のある第3発明に
ついて●●円(両名合計で●●円,ダイモ社から海外特許1について)
(ラミネート発明の名に藉口して)●●円(両名合計で●●円)を誤っ
て認定し,ラミネート発明の自己実施に関しては各自●●円(両名合計
で●●円)を誤って認定したものである。
イ本件各特許権の無効
(ア)第1発明の無効
a進歩性の欠如による無効
(a)第1発明は,特開昭55-156980号公報(乙7の1刊行
物,特開昭61-211076号公報(乙7の2刊行物,特開昭))
57-4797号公報(乙20刊行物,特開昭61-14316)
3号公報(乙18刊行物)を組み合わせることにより容易に発明で
きるから無効である。
(b)そもそも第1発明は,新規製品を検討するために設けられた合
同チームが検討した7つのコンセプトの一つであり,当時,どのよ
うな商品のイメージが考えられるかという点が検討されていた過程
において,こんな商品があったらという願望をアイデア提案として
出されたものにすぎず,技術的にどのようにしたら具体的に実施可
能であるかとの点の検討は一切されていない。
そして,第1発明の明細書(甲2の1)第2欄〔従来技術及び問
題点〕に記載されているように,公知技術として,レタリングシー
トそのものは存在していたし,テープに所望の文字を印字すること
のできるラベル作製機は既に存在していたが,その両者を組み合わ
せてレタリング用(インレタ用)の文字をテープに印字するように
したものは存在しなかった旨記載しているのである。その上で,明
細書(甲2の1)第3欄〔発明の目的〕に「本発明…の目的とする
ところは,簡単に単語や熟語等の編集ができ,かつ,その編集した
ものを被転写物に簡単に転写できるレタリングテープを作製する簡
易レタリングテープ作製機を提供することにある」とし〔問題点。,
を解決するための手段〕の欄では「本発明の容易(注:簡易』の『
誤植)レタリングテープ作製機は,文字や記号等を入力する為の入
力部と,その入力部により入力された文字や記号等の文字データを
記憶するメモリ部と,前記メモリ部に記憶された文字データに基づ
き,その文字データの示す文字や記号等の形状を反転させた鏡像を
インクリボンを介してレタリングテープ面に印字する印字手段とを
備えている」と記載してある。すなわち,入力部,メモリ部,反。
転印字,インクリボンを介して印字する印字手段が慣用技術である
ことは明らかであり,ただ,それとレタリングテープとを組み合わ
せたことが第1発明の要点にすぎないのである(なお,第2発明に
おいて後記するように,慣用技術であることは多くの文献等によっ
て裏付けることができる。この点は,本件に係る発明記述書(乙。)
10)の7枚目の「③主な特徴」の箇所に,手書きで「文書作成機
能に関してはNP-100と同様ですとあることから一審原告X」,
1自身も,入力・編集・印字機能が一審被告保有の公知技術である
ことを認識していたことは明らかであり,発明のポイントは,従来
技術を利用してレタリング用テープ(インレタ用テープ)を作製す
ることにある。そして,第1発明の公開された当初の特許請求の範
囲は,上記〔問題点を解決するための手段〕と同じ記載である。
(c)上記の点について補足説明すると,第1発明の特許請求の範囲
,()「」,のうち原判決が認定した構成要件4頁の1Aの入力部や
「1B」のメモリ部や「1C」の表示部を有する,テープに所望,
の文字を印字することのできるラベル作製機は,第2発明の無効事
由に関して後述するとおり,既に公知の慣用技術として存在してい
たものである。この点,第1発明の審査手続きにおける異議申立の
公知資料として提出されたのは特開昭55-156980号公報
(乙7の1刊行物)であるが,これは数多い公知資料の一つにすぎ
ない。また,第1発明の構成要件「1E」のインクリボンや「1,
F」のインクリボンを介して印字する印字手段,すなわちサーマル
ヘッド及び鏡像(反転)印字を行う印字方法もまた,同様に公知の
慣用技術である。さらに,レタリングテープないしレタリングテー
プを作製する機械については,特開昭57-4797号公報(乙2
0刊行物)などで公知である。なお一審原告らは,乙20刊行物に
ついて,外側を切り取ると内側が抜け落ちてしまうなどと主張する
が,この乙20刊行物の装置20は,同明細書5頁左上欄18行~
右上欄1行に記載されているように,米国特許3914775号と
同様である。その米国特許の日本対応出願である特開昭53-35
735号公報(乙22の2刊行物)によれば,透明な部材の一部が
,()高反射被覆体で覆われて文字を形成するための窓光の通過部分
が形成されていることは明らかであり,一審原告らが主張するよう
に抜け落ちることなどない。ちなみに,乙20刊行物には,インク
リボンを用いて任意の文字を「離型促進剤」上に形成して,インレ
タテープ(第1発明における「レタリングテープ)を作製する装」
置が記載されており,一審原告らが第1発明の審査過程で異議申立
人により引用例とされたと指摘する特開昭60-225793号公
報とは異なる内容が開示されている。すなわち,乙20刊行物は,
審判を含め審査過程においては全く考慮されていないものである。
以上のとおり,第1発明はその構成要件中「1G」の「カッタ」
を除くとすべて慣用技術の組合せにすぎない。仮に,第1発明にお
いて組み合わせたものが公知技術として存在しなければ新規性はあ
るにしても,通常のテープをレタリングテープに置き換えることは
当業者にとっては容易なことであるから,進歩性があるといえるか
極めて疑問である。また,前記のとおり,第1発明はアイデア提案
にすぎないから,一審原告X1が具体的に実施するに際しての技術
検討を行い,克服すべき技術的課題が存在し,それを解決するため
,。に新規な発明をしたならともかくそのような事実はないのである
(d)第1発明の異議申立てにおいては,公知資料として特開昭61
-211076号公報(乙7の2刊行物)が提出された。同公報に
は,転写紙に所望の文字を左右反転して印字することができる転写
紙の製造方法が開示されている。この公報では,小ロット多品種の
製造に適し,アイロンを用いて対象物に加圧熱転写する技術が開示
されており,第1発明には,熱転写でなく加圧のみによる乾式転写
を限定する構成要件は存在しないことに留意すべきである。
転写紙をレタリングテープに置き換えることは当業者にとっては
極めて容易なことである。すなわち,第1発明が目的とした,編集
が容易なインレタ用転写媒体(第1発明における「レタリングテー
プ)を作製する装置は公知技術として存在するのであり,インレ」
タ用転写媒体(第1発明における「レタリングテープ)としてテ」
ープを利用し,かつ,離型剤を用いるインレタテープ作製装置(第
1発明における「簡易レタリングテープ作製機)も乙20刊行物」
のように公知技術として存在するのである。
一審被告は,この異議申立てに対し,もはや単純な組み合わせで
は登録ができないと考え,明細書に記載されている範囲内で3度に
わたり特許請求の範囲を補正したが,異議決定(乙6)において,
加熱を伴わない転写技術,転写紙の離型剤を塗布すること,転写紙
背面からの押圧で転写すること及びインクリボンを着脱自在とする
ことは,いずれも慣用技術であるとして一蹴され,特許を受けるこ
とができないと断定されている。すなわち,第1発明は従来技術の
組合せのアイデアにすぎず,具体的な技術的課題を解決したもので
はないから,当該組合せが当業者にとって困難性がなければ,新規
性・進歩性は否定される運命にあった。
しかし,拒絶査定不服審判において,特許請求の範囲の構成要素
「1G」のカッタを加えて補正をしたところ,補正で加えたカッタ
は,異議において提出されていた特開昭61-143163号公報
(乙18刊行物)に開示されているにもかかわらず,なぜか登録査
定となった。この公報は異議決定(乙6)の理由とされておらず,
そのため拒絶査定不服審判の審判請求理由補充書(乙187)には
添付されていなかったことから,前置審査を担当した審査官が異議
決定の理由となった審判請求書に添付された特開昭55-1569
80号公報(乙7の1刊行物)及び特開昭61-211076号公
報(乙7の2刊行物)のみを参照して審理をした可能性があるが,
異議決定の理由に記載されていない資料であっても出願前に公知で
あれば,進歩性や新規性に影響を与えることはいうまでもない。
,(e)第1発明のポイントである各技術の組合せに困難性がなければ
第1発明は無効としか評価できないところ,上記のとおり,カッタ
以外の構成要件は慣用技術として乙20刊行物,乙7の2刊行物に
すべて開示されており,乙7の2刊行物記載の転写紙製作装置に,
乙20刊行物に開示されている技術である印字媒体として離型剤を
有するテープを利用することを持ち込むことに困難性はない。
しかるに,原判決は「被告は,第1発明の構成要件は乙7の1,
刊行物,乙7の2刊行物及び乙18刊行物にほとんど開示されてお
り,無効の可能性が高いから,その構成要件は限定的に解釈する必
要がある旨主張するが,離型促進剤の点を直ちに慣用技術であると
認めることはできないから,第1発明を無効の可能性が高いものと
,。」認めることはできず被告の上記主張は採用することができない
(174頁)と判示する。すなわち,原判決は,離型促進剤以外の
構成要件については公知であるが,離型促進剤に新規性があるから
無効ではないと判断しているのである。しかし,この判断は誤って
いる。上記のとおり,異議決定(乙6)において,特許庁の審査官
は,特段の公知資料をも提示しないまま「転写紙の離型剤を塗布,
すること,…は慣用技術である」と一蹴しており,原判決はその点
。,を見逃しているのである原判決が指摘する離型促進剤については
()「」特開昭57-4797号公報乙20刊行物の付着性材料15
にも開示されている。そのほか,特開昭61-128263号公報
(乙152刊行物:3頁左上欄第18行以下:転写材料用シートに
おけるシリコン等の離形層特開昭58-203087号公報乙),(
153刊行物:2頁左下欄7行以下:シート本体1に対する複写層
3の剥離を極めて容易にするシリコーン層)にも開示されている。
このように,当業者にとってはインスタントレタリングに関する離
型促進剤は従来からの慣用技術である。
しかも,第1発明の公開公報(甲2の1)には「離型促進剤」,
について「これらのテープ基材の印字ヘッド9との対向面にシリ,
コン等の離型促進剤を塗布したものが好ましい(4欄4行)とあ」
るだけで「離型促進剤」の成分,塗布の方法,作用効果などの記,
載は一切ない。上記のような記載でも,当業者にとって「実施をす
ることができる程度に明確かつ十分(特許法36条4項1号)で」
あると判断されているのであるから「離型促進剤」が慣用技術で,
あることは明らかであり,新規性・進歩性のある技術ではない。
なお,離型促進剤が公知な技術であることは,一審原告らが原審
の準備書面において,市販のインレタ購入シートを購入して観察し
てみると,樹脂製のシート面に文字の転写を促進するようなコーテ
ィング剤が塗布されている旨主張しているとおり,一審原告らの自
認するところであり,当事者間に争いのない事実である。それにも
かかわらず「離型促進剤の点を直ちに慣用技術であると認めるこ,
とはできない」などと判断することは許されない。
ちなみに,第1発明が無効であることは,キングジム社からも指
摘されている(甲135:3~4頁。)
,,,(f)なおテープを切断する装置については実際の機種としては
「KROY-80(乙106)などがあり,公報としては,上記」
特開昭61-143163号公報(乙18刊行物)のほか,特公昭
47-16105号公報(乙162,特公昭54-8094号公)
報(乙219,USP3698296(乙220)などに開示さ)
れている。
b第1発明が出願前公知であること
一審原告X1は,昭和61年5月ころに第1発明を完成させ,その
後昭和61年7月19日から27日にかけて当該発明に係るインレタ
作製機の受容性調査を行っており,その結果をまとめたものが「パ,
ーソナルワープロコンセプト評価の為のグループインタビュー報告
書(乙245)である。これによると,同調査においては,第1発」
明に係る発明社内登録用紙(乙4の1,乙10)に開示されたコンセ
プトシート「ワードプロッターQ」と同じコンセプトシートが10
グループ合計62名に対して呈示され,これに基づきグループインタ
ビュー調査が行われている。
そうすると,上記コンセプトシート「ワードプロッターQ」に記
載されている技術内容は,第1発明の出願前に不特定多数の人に開示
されており,その時点において公知技術となっており,また第1発明
のその他の構成(離型促進剤及びカッタ)は周知技術であるから,第
1発明が新規性あるいは進歩性を欠くことは明らかである。
c冒認による無効
一審原告X1の本人尋問における供述全体からすれば,第1発明に
おいて離型促進剤を使用することが可能か否かを具体的に検討し解決
したのはEであるというのであるから,第1発明の発明者は,Eであ
り一審原告X1ではないことになる。したがって,第1発明は冒認出
願であり無効である。
(イ)第2発明の無効
a第2発明が慣用技術により構成されていること
第2発明は,以下のとおり,乙11の1刊行物(特開昭59-95
)()169号公報と乙11の5刊行物特開昭53-70700号公報
及び他の公報を組み合わせれば容易に発明することができるから,進
歩性を欠き無効である。
(a)構成要素中の技術
第2発明に係る特許請求の範囲の構成要素を分析してみるとハ,「
ウジング内に設けたテープ印字装置」であり「第一のテープと第,
二のテープを圧着した」いわゆる「ラミネートテープ」を使用し,
「サーマルヘッドとインクリボン及びインクリボン巻取り機構を含
む印字機構」があり,当該印字機構により「反転印字」するもので
あり「第一のテープを送る送り機構が存在し,かつハウジングの,
外へ排出する」ものであり「第二のテープ基材を着色し,それが,
第一のテープに印字された文字等の背景」となっているという各技
。,,術から構成されていることは明らかであるそして以下のとおり
これらの技術はいずれも当業者にとって慣用技術であり,個々の技
術について新規性・進歩性は全くない。
(b)ハウジング内に設けたテープ印字装置
ハウジング内に設けたテープ印字装置は,慣用技術であり,実際
に販売されていた機種として,ダイモ社製「ダイモライター(乙1
64・添付資料1,2,クロイ社製「KROY-80(乙10)」」
6,バリトロニクス社製「マーリン(乙107,同「マーリン)」)
エクスプレス(乙15~17,アンリツ社製「レーベルマスタ」」)
(乙179)などがある「マーリン(乙107)及び「マーリン。」
エクスプレス(乙15~17)においては,編集機能と編集をす」
るための制御機構も内蔵されている。
他方,公開公報としては,乙7の1刊行物(特開昭55-156
980号公報,乙7の1・乙11の2,乙13の4刊行物(特開)
昭61-37447号公報,乙18刊行物(特開昭61-143)
163号公報,実開昭62-15946号公報(乙72,実開昭))
62-109958号公報(乙88,特公昭47-16105号)
公報(乙162,特公昭54-8094号公報(乙219,US))
P3698296乙220特公昭50-40968号公報乙(),(
230)がある。いずれも内部に,入力部,編集機能,制御装置,
印字装置などが具備されていて,テープに印字をする印字装置であ
る。
以上のとおり,ハウジング内にテープ印字装置を設ける技術は,
,。当業者にとっては慣用技術でありその点に新規性・進歩性はない
(c)ラミネートタイプのテープとテープの貼合せ
・ラミネートタイプのテープには,各種のものがある。そして,
ラミネートタイプのテープは,被印字テープとそれを保護するテ
ープとを貼り合わせて作製されているのであるから,被印字テー
プ第2発明における第一のテープとそれを保護するテープ第()(
2発明における第二のテープ)を圧着して貼り合わせることは極
めて当然のことである。
・第2発明のラミネートテープは,透明フィルムの裏面に印刷層
を設け,その印刷層を両面粘着テープを圧着することにより貼り
合わせ,印刷層が透明フィルムのみを通して見えるようにしたラ
ミネートテープであるが,全く同一のラミネートテープは,乙1
1の5刊行物,特開昭53-60600号公報(乙19の1,)
実開昭62-33080号公報(乙165)などがある。
・透明テープの裏面側に設けられた粘着層上に印刷層が配置さ
れ,これに台紙を貼り付けて,表面側から見て正像視認可能なタ
イプの貼付け用ラミネートラベルがある。乙13の4刊行物,U
(),()SP4068028乙19の2テープ・ロード乙178
などである。
・貼付けラベルではないが,透明フィルム(テープ,シート)の
裏面側に印刷がなされ,表面側から見て正像視認可能なタイプの
ラミネートラベルがある。乙11の1刊行物,実開昭59-83
547号公報乙11の4特開昭58-11180号公報乙(),(
83,特開昭51-11611号公報(乙166,プリンタに))
よるプラスチックフィルムへの印字などである。
・正像印刷面を透明フィルム(テープ,シート)で被覆したタイ
プの貼付け用ラミネートラベルがある。実開昭59-12955
6号公報(乙154,実開昭54-160598号公報(乙1)
67,特開昭61-206766号公報(乙168,実公昭4))
6-25843号公報(乙169,特公昭51-42480号)
公報(乙170,特公昭54-8094号公報(乙219,U))
SP3698296(乙220)などである。
・このようにラミネートテープにも各種のものがあり,ラミネー
トテープを複数のテープを圧着して貼り合わせて製造する技術は
いずれも慣用技術である。そして,これらすべてのラミネートテ
ープにおいて,原判決が判示しているところの「優れた耐久性」
を有していることは明らかであり,第2発明に開示されているラ
ミネートテープのタイプのみが有している作用効果ではない。そ
して,いずれのタイプのラミネートテープを使用するかは設計上
の問題にすぎない。本件においては「P-touch」開発に,
おいて,インレタとテープ印字の双方が可能なものを検討し,イ
ンレタでは反転印字が欠かせないから,テープ印字においてもラ
ミネートテープに対する反転印字を採用したため,上記のとおり
のラミネートテープを採用したのである。
・乙11の1刊行物や乙11の5刊行物などにおいては,テープ
を圧着して貼り合わせるローラが回転しながら,かつ,貼り合わ
せる力も加えているのであるから,その回転・貼り合わせる力に
よりテープが送られる。したがって,圧着ローラがテープ送りも
行っていることは開示されている。
そして,前記ハウジング内に設けたテープ印字装置において,
第一のテープと第二のテープを圧着して貼り合わせてラミネート
テープを作製して使用することは,当業者にとっては慣用技術の
組合せにすぎず,新規性・進歩性は全くない。
(d)サーマルヘッド印字とインクリボン・インクリボン巻取り機構
サーマルヘッドを使用して印字を行うこと,その際にインクリボ
ンを使用すること,インクリボンは使用後巻き取るための巻取り機
構が設けられていること,以上は慣用技術である。
テープに「サーマルヘッドを使用して印字を行うこと」について
は実際に販売されていた機種としてマーリンエクスプレス乙,「」(
,),「」(),15~17乙21の1レーベルマスタ乙179があり
公報として,乙7の1刊行物,乙18刊行物,特公昭50-409
68号公報(乙230)などがある。
サーマルヘッドは熱を加えて,熱によりインクを被印字物に印字
するものであり,そのためインクが必要で,インクは通常インクリ
ボンに付着させて使用し,連続体であるインクリボンは使用後に巻
き取らなければならないから,インクリボン巻取り機構が必要とな
る。すなわち,サーマルヘッド,インクリボン,インクリボン巻取
り機構は,一体となった技術である。実際に販売されていた機種で
は「EP-20(乙27「ピコワードNP-100(乙2,」),」
8「マーリンエクスプレス(乙15~17,乙21の1「レ),」),
ーベルマスタ(乙179「ピコワード5100(乙30)な」),」
どで使用されている。また公開公報としては,乙7の1刊行物,乙
11の1刊行物,特開昭61-31260号公報(乙11の3,)
特開昭59-70079号公報(乙13の6,実開昭62-15)
(),(),946号公報乙72特開昭58-11180号公報乙83
実開昭62-109958号公報(乙88)などがある。
以上要するに,サーマルヘッドとインクリボンを使用して印字す
ること,及び使用したインクリボンを巻き取る機構を設けることは
古くからある慣用技術である。ハウジング内に設けられたテープ印
字装置において,ラミネートテープを印字する際にサーマルヘッド
を使用することは設計上の問題にすぎず,なんらの新規性・進歩性
はなく,他の印字方法と置き換えることも当業者においては自明の
ことである。
(e)反転印字
反転印字をする技術も慣用技術である。反転印字は,OHP(オ
ーバーヘッドプロジェクター)用紙やインレタ,あるいはラミネー
トテープに裏面から印字するなど,ニーズは多種あり,そのため反
転印字を行う技術は慣用技術となっている。
実際に販売されていた機種としてはマーリンエクスプレス乙,「」(
16刊行物41頁,乙17)や「ピコワード5100(乙30」
及び乙55の添付資料10の318頁」がある。)
公開公報においては,乙7の2刊行物(特開昭61-21107
6号公報乙11の1刊行物特開昭61-31260号公報乙),,(
11の3,実開昭59-83547号公報(乙11の4,乙11))
の5刊行物,特開昭61-202852号公報(乙13の3,乙)
13の4刊行物,乙13の5刊行物(特開昭59-131478号
公報,特開昭59-70079号公報(乙13の6,特開昭55))
-3983号公報(乙13の7,特開昭53-60600号公報)
(乙19の1,USP4068028(乙19の2,乙20刊行))
物(特開昭57-4797号公報,特開昭58-11180号公)
報(乙83)など多数存在する。
反転印字する技術は,当業者にとっては慣用技術であることは明
らかで,ハウジング内に設けられたテープ印字装置において,反転
印字を使用するかあるいは正常印字を使用するかは,設計上の問題
にすぎず,なんら新規性・進歩性を有することではない。
(f)テープ送り機構とハウジング外への排出
ハウジング内にテープ印字装置を設けた場合,印字するテープを
ハウジング内で送るためのテープ送り機構を設けることが必須・不
可欠である。そして,印字後のテープの処理については,ハウジン
グ内で巻き取る方法と,ハウジング外へ排出する方法の2通りがあ
ること,いずれを採用するかは設計思想にすぎないことも明らかで
ある。したがって,ハウジング内にテープ印字装置を設けた場合に
おいては,テープ送り機構及びハウジング外への排出は必須・不可
欠の慣用技術である。
実際に販売されている機種としては「レーベルマスタ(乙17,」
9「マーリン(乙107,乙164・添付資料6「マーリン),」)」,
エクスプレス(乙15~17,乙21の1」などがある。」)
公開公報としては,乙13の4刊行物,乙18刊行物,実開昭6
2-15946号公報(乙72,実開昭62-109958号公)
報(乙88,実開昭59-129556号公報(乙154,特公))
昭47-16105号公報(乙162,特開昭61-20676)
6号公報(乙168,特公昭54-8094号公報(乙219,))
USP3698296(乙220,USP2661289(乙2)
31)など多数ある。
ハウジング内にテープ印字装置を設けた場合には,テープ送り機
構でテープを送り,かつ,ハウジング外へ排出することは必須・不
可欠なことであるから,それらが慣用技術であり,それを設けるこ
とには新規性・進歩性がないことは明らかである。
(g)テープの着色と背景
・テープの着色
テープを着色する方法として,①粘着テープの基材となるフィ
,,ルム等に着色印刷する方法②着色された粘着剤を塗布する方法
③粘着テープの基材となるフィルムそのものを着色する方法があ
ることは公知の事実である。
この点について補足すると,両面テープについてのテープの着
色の公知技術としては,実開昭58-140149号公報(乙1
35,特開昭50-74637号公報(乙181,特開昭50))
-150743号公報(乙182,特開昭51-19049号)
公報(乙183)がある。なお,実開昭62-33080号公報
(乙165)における基材が紙の場合にはその紙の色が反映され
ることは自明である。
・「第一のテープ」の背景
貼り合わせたテープを使用した場合に「第一のテープ」が透,
明であれば「第一のテープ」の表面から見た場合は「第二のテ,,
ープ」が背景となるのは論理必然のことであって,特許法2条で
規定されているところの技術ではない。そして,テープ印字装置
を使用してテープに印字する場合において,ラミネートテープを
使用し「第一のテープ」の裏面に反転印字する場合には,印字,
した文字等が読めるようにするため「第一のテープ」が透明であ
ることが求められる。そうすると「第一のテープ」に貼り合わ,
された「第二のテープ」が「第一のテープ」の表面から見たとき
に背景となることは必然であり,特許法2条で規定されていると
ころの技術ではない。
そして,乙11の5刊行物の最終頁左欄5行以下に「全ての,
実施例にわたり,粘着層は透明又は不透明又は着色されたものの
いずれの粘着層も使用する事が可能である。透明な基材に不透明
又は着色された粘着層を用いることにより,粘着層がラベルの地
色の一色として作用し,印刷インクの節約となる」と明記され。
ていて,粘着層を透明な基材に対する背景とする思想が開示され
ている。ここで「印刷インクの節約となる」と記載されている趣
旨は,基材を直接印刷することとも考えられるが,基材を着色す
るための印刷インクの節約のために粘着層を着色するとの趣旨で
ある。
仮に「第一のテープ」の背景として「第二のテープ」を着色,
することが技術として評価されても,そのような技術は公知であ
り,新規性・進歩性はない。
(h)進歩性の欠如
以上のとおり,第2発明の特許請求の範囲に記載されている各要
件はすべて慣用技術であって新規性がなく,それらの組合せにより
特段の作用効果が生じてもいないから進歩性も存在せず,無効であ
ることは明らかである。
b原判決の誤り
(a)原判決の判示
原判決は,第2発明と乙11の1刊行物(特開昭59-9516
9号公報の公知技術とをまず対比しその後乙11の5刊行物特),(
開昭53-70700号公報)の公知技術と対比して,いずれも新
規性・進歩性を有すると判断する。公知技術との対比をするのであ
,,れば公知技術全体としての組合せの容易性も判断対象であるので
乙11の1刊行物と乙11の5刊行物とを各別に対比するのは妥当
ではないが,いずれにせよ第2発明に新規性・進歩性がないことは
明らかである。
(b)乙11の1刊行物との対比
・原判決は,第2発明と公知資料1との対比について,以下の3
点の相違点を挙げる。
①乙11の1刊行物の台紙に構成要件2Eが規定する第「」,「
一のテープの背景となる」点「両側に設けられた粘着剤層」,
及び「その粘着剤層の片側に予め粘着された剥離紙」に相当す
る構成は開示されていない点。
②乙11の1刊行物は,反転印字を開示したものではない。
③乙11の1刊行物には「前記テープ送り機構が,前記第一,
のテープを送る際に「第二のテープを圧着する」点,並びに」,
「圧着された記録用紙と台紙がハウジングの外へ排出される」
点は,少なくとも明示されていない。
・しかし,乙11の1刊行物には反転印字が開示されており,相
違点②は認定を誤ったものである。また,透明な記録用紙(第一
のテープ)に反転印字された印刷物を,接着剤を有する不透明な
,,台紙を圧着させ印刷物をラミネートすることも記載されており
貼付けラベルではないが,透明な記録用紙(第一のテープ)から
見れば,不透明な台紙は第一のテープの背景となっている。
そして,ラミネートテープを作製するのであれば,例えば不透
明な台紙を,乙11の5刊行物に開示されているような「不透明
な基材の両側に設けられた粘着剤層を有し,その粘着剤層の片側
に予め粘着された剥離紙」に置き換えることは,極めて容易であ
る。さらに,第一のテープと第二のテープを送る際に圧着するこ
と,その圧着されたテープをハウジング外に排出することは,い
ずれも慣用技術であり,当業者が容易に置き換えることができる
。,ことである原判決が指摘する点には新規性・進歩性が全くなく
第2発明が有効であるという理由にはならない。
(c)乙11の5刊行物との対比
・原判決は,乙11の5刊行物と第2発明とを対比して,以下の
点で相違するとし,特に③及び④については,乙11の1刊行物
や一審被告が従来技術として主張する公知文献にも記載されてい
るとは認められず,第2発明が,乙11の5刊行物を主たる引用
例として,新規性又は進歩性を欠如するものとは認められない,
と判示する(191頁。)
①第2発明はインクリボンとサーマルヘッドを備えた反転印,「
字」を行う印字機構及びインクリボン巻取り装置を備えている
が,乙11の5刊行物にはその記載がないこと
②第2発明は,印字機構,テープ送り機構及びリボン巻取機構
を内部に収容するハウジングを含むが,乙11の5刊行物には
その記載がないこと
③第2発明は,第二のテープのテープ基材が第一のテープの背
景となるが,乙11の5刊行物にはその記載がないこと
④第2発明は,第一のテープのテープ送り機構が,第一のテー
,,プを送る際第一のテープに第二のテープを圧着するとともに
ハウジング外へ排出するが,乙11の5刊行物には,連続基材
の送り機構と貼合せ装置との関係が不明であること
原判決の上記判断からすれば,上記①と②の相違点は公知文献
に記載されていると判断していると理解される。
・この点,上記①におけるインクリボンとサーマルヘッドを備え
た印字機構は,乙7の1刊行物,乙11の1刊行物,特開昭58
-11180号公報(乙83,実開昭62-109958号公)
報(乙88)にも開示されているとおり従来からある印刷技術で
あり,また反転印字を行うことは,乙7の2刊行物,乙13の4
刊行物,乙13の5刊行物にも開示されている技術であり,当業
者にとって周知な慣用技術であり,この点に新規性・進歩性がな
いことは明らかである。
・同様に,上記②については,印字機構,テープ送り機構,リボ
ン巻取り機構のすべてが実開昭62-109958号公報(乙8
8)に開示されている。すなわち,同公報の明細書に開示されて
「」。,いる熱転写型プリンタは正にハウジングに該当するそして
その「熱転写型プリンタ」の中には,印字機構であるサーマルヘ
ッド3が存在する(第2図参照。また,印字テープ11が内蔵)
,「,,」,されていてそれを送るローラ141516が内蔵され
テープ11が送り出されると明記されている(明細書・9頁4~
7行目さらに同明細書にはリボン巻取機構としての巻)。,「」「
取りコア13」及び「熱転写リボン12」が開示されており,サ
ーマルヘッドを使用する場合にはインクリボンを使用することは
プリンタ,日本語ワープロ等において周知の印字技術である(乙
27,28。したがって,原判決の上記判断理由②は,乙11)
の5に開示されていなくても,周知の慣用技術であることは明ら
かであり,その点について新規性・進歩性がないことは明らかで
ある。
・また,原判決は,上記③について「第二のテープのテープ基,
材が第一のテープの背景となる」ことについての記載が乙11の
,。5刊行物にないことからこれを相違点と認定するが誤りである
乙11の5刊行物には「全ての実施例にわたり,粘着層は透,
明又は不透明又は着色されたもののいずれの粘着層も使用する事
が可能である。透明な基材に不透明又は着色された粘着層を用い
る事により,粘着層がラベルの地色の一色として作用し,印刷イ
ンクの節約となる(最終頁左欄5行以下)と明記されていて,。」
基材を直接印刷することによるインクを節約するために粘着層を
着色するという技術,すなわち,粘着層を「第一のテープ」の背
景とする技術が開示されている。
また実開昭58-140149号公報乙135には着,(),「
色された粘着テープを製造する場合には,フィルム等の片面を各
色で印刷する方法および着色された粘着剤を塗布する方法がある
…フィルムそのものを着色することが望まれている(明細書1。」
頁下1行以下)と記載されている。すなわち,粘着テープにおい
て着色する方法として,①粘着テープの基材となるフィルム等に
着色印刷する方法,②着色された粘着剤を塗布する方法,③粘着
テープの基材となるフィルムそのものを着色する方法,以上3種
の方法があることは当業者にとって公知の事実であり,そのいず
れの方法も難点があるため,同公開公報の考案がなされたことが
記載されている。
このように,乙11の5刊行物には「第二のテープ」に設け,
られた粘着剤を着色することにより「第一のテープ」の背景とな
ることが開示されており,また上記実開昭58-140149号
公報(乙135)によれば,粘着テープを着色する方法として,
着色された粘着剤を塗布する方法のみならず,粘着テープの基材
となるフィルムに着色印刷する方法や,テープの基材となるフィ
ルムそのものを着色する方法が従来から公知技術であることは明
らかである。
そうすると,当業者がこれらを容易に組み合わせることができ
ることは明らかであるから,第2発明における「第二のテープ」
のテープ基材に印刷して着色して「第一のテープ」の背景とする
技術も「第二のテープ」のテープ基材自体を着色して背景とす,
る技術も,極めて容易に実施することができるのであって,その
点について新規性・進歩性はない。
・さらに,上記④の「第2発明は,第一のテープのテープ送り機
構が,第一のテープを送る際,第一のテープに第二のテープを圧
着するとともに,ハウジング外へ排出するが,乙11の5刊行物
には,連続基材の送り機構と貼合せ装置との関係が不明であるこ
と」との点については,従来技術である実開昭62-10995
8号公報(乙88)を全く理解しない判断である。
すなわち実開昭62-109958号公報乙88にプ,(),「
リンタ本体側の駆動機構により,カセット1に配設されている第
1図のローラが回転するようになっているからテープ11が送り
」(),出される明細書9頁・4行~7行と記載されているとおり
送り機構と貼合せ装置との関係は公知の技術である。
また「第一のテープに第二のテープを圧着」する点について,
は,乙11の5刊行物に開示されていることは明らかである。
なお,実開昭59-129556号公報(乙154)において
も,文字などが描かれたメインテープ10に両面粘着テープ11
を圧接部材6,6(ローラ)が貼り合わせて,送り出す(同明細
書5頁・9~19行目・図1(a)・(b)参照)技術が開示されてい
る。すなわち,文字などが描かれたテープを送る構成によって,
両面粘着テープと貼り合わせ,ハウジングから排出することは,
公知技術である。
・以上のとおり,原判決が第2発明について新規性・進歩性があ
るとの判断において前提とした上記相違点①~④については,い
ずれも当業者にとっては公知の慣用技術であって,その相違点に
新規性・進歩性はない。
c一審原告らの主張に対し
(a)一審原告らは,一審被告が挙げた各種文献等には,第2発明の
主題である,抜群の耐久性を誇るラミネートラベルが誰にでも簡単
にその場で作れることを実現する技術は一つも存在しないなどと主
張して,第2発明の作用効果は「抜群の耐久性を誇るラミネートラ
ベルが誰にでも簡単にその場で作れる」点にある,すなわち,ラミ
ネートテープの印字装置に関するパイオニア発明であるかのように
,。,()主張するが誤りであるそもそも第2発明の明細書甲2の2
には「抜群の耐久性「誰にでも簡単にその場で作れる」などとい」,
う記載はなく,一審原告らは,明細書の記載から離れた独自の解釈
をするものである。
(b)また,第2発明の出願当初の特許請求の範囲の請求項1は「透
視性を有する第一のテープに裏返しパターンの反転印字を行う印字
機構と,その第一のテープの反転印字が行われた印字面に第二のテ
ープを圧着するテープ圧着装置とを備えることを特徴とする反転印
字を行うテープ印字装置,すなわち,ラミネートテープを作製す」
るテープ印字装置であり,その構成要素は極めて少なく,仮にこれ
で登録されたのであれば極めて広い技術的範囲であるため,強い特
許権となったといえる。しかし,第2発明は,公知技術の存在を理
由に拒絶理由通知が送付されるたびに補正をして権利範囲を狭め,
ようやく登録されるに至ったものであり,第2発明は,公知のテー
プ印字装置のうち,背景の構成を限定した上,一部の装置を包含す
る具体的な構成の特許に関する発明にすぎないのである。
(c)一審原告らは,乙11の5刊行物記載のようなラベル作製業者
が大量に同じラベルを印刷する際に用いる方法について,サーマル
印字ヘッドとインクリボンを使用することが非現実的である旨主張
する。しかし,実際の機器においてどのような印刷方法を使用する
のがよいかという設計上の問題と,いかなる技術が開示されている
かという点とは全く異なることであり,一審原告らは,この点を混
同するものである。乙11の5刊行物の4頁左欄13行に「以上,
実施態様を説明したが,本発明と趣旨を同じくすることにおいて,
前記実施態様に限定されるものではない」と記載されているとお。
り,印刷方法は実施例に限定されておらず,当業者にとって公知の
印刷方法に置き換える技術まで開示されており,サーマルヘッドと
インクリボンを使用する印刷方法が公知技術であるから,乙11の
5刊行物に開示されている技術において,サーマルヘッドとインク
リボンによる印刷方法を選択することも当業者としては極めて容易
なことである。
(d)一審原告らのその他の主張も,各刊行物に開示された技術との
相違点を述べるにとまり,当業者にとって公知技術を組み合わせて
発明することは極めて容易であり,進歩性がないという判断基準を
無視した主張である。
(ウ)第3発明の無効
第3発明に進歩性欠如(特許法29条2項)の無効事由がある旨の原
判決の判断は正当である。なお,原判決が無効な権利であっても法的保
護に値すると解釈している点は,上記アで述べたとおり誤りである。
また原判決は,発明者の一人であるDが乙16刊行物等を知っていた
との事情を一審原告らが知っていたとは認められないと認定し,一審原
告らが無効事由の存在を知らなかったから一審原告らは保護されるべき
であるかのように判断しているが,これも法律的に誤りである。
一審被告は,会社として本件ラベルライター(P-touch)を開
発するに際しマーリンエクスプレス(乙15,乙16)を参考にしたの
であり,分析までして検討したのである(一審被告従業員F作成の報告
書〔乙17。以下「乙17報告書」という〕参照。したがって,Dの。)
みならず,企画に携わった一審原告らがマーリンエクスプレスを全く知
らないということは考え難い。さらに,乙17報告書の作成者であるF
(),,はLRCライフリサーチセンターに所属しており一審原告X1は
乙17報告書作成当時LRCに所属していたのであるから,同じ部署に
いて,しかも本件ラベルライターの企画に関与していた一審原告X1が
乙17報告書を知らなかったことはあり得ないし,もし知らなかったの
なら重大な過失がある。
第3発明は,一審被告会社が業務として作成した乙17報告書に開示
されている技術であり,かつ,技術者であれば「印字素子列の範囲を印
字素子列の長さ方向にシフトして行う」ことは誰でも知っている技術で
あるから,一審被告として本来出願すべきでなかったことは明らかであ
る。それにもかかわらず,誤って出願され,誤って登録された無効な権
利について,その共同発明者とされている者のうち公知技術であること
を知らなかった者は救済されて権利行使が可能であるなどという原判決
の解釈は,明らかに誤りである。
(エ)第5発明の無効
一審被告の原審における主張は,第5発明は限定解釈しなければ無効
となるものであり,限定解釈すれば実施していないというものであった
が,原判決は限定解釈をせず第5発明は無効であるとした。原判決の上
記判断は,一審被告としても異議はない。
(オ)海外特許1の無効
a原判決の認定した権利内容の誤り
原判決は,一審原告らが甲20の7として提出した海外特許1の明
細書,特許請求の範囲の翻訳文に基づいてその権利の内容を認定した
が,一審原告らが提出した甲20の7は海外特許1の公開公報であっ
,。て海外特許1はその後の審査において請求項の補正がなされている
すなわち,甲20の7におけるクレーム(特許請求の範囲)の翻訳文
は請求項として1~13が記載されているが,海外特許1の請求項は
特許公報(乙155)のとおり1~8までしかなく,また一審原告ら
提出の翻訳文中の請求項1~8も特許された請求項1~8とは異な
る。海外特許1(補正後)の正確な請求項の構成は,下記記載のとお
りである。

・請求項1
7A’以下の要素を有するテーププリンター
7B’実質的に透明な記録媒体(70)を搬走路に沿って搬送する
,,,,,,ための手段(7699100112114116
118,120,123,124,132)と,
7C’記録媒体の,装置オペレーターから離れた側に隣接して,
インクリボン(74)を移送するための手段と,
7D’前記記録媒体(70)のオペレータから離れた側に,前記
()(,インクリボン74を用いてプリントする記録手段72
174)と,
7E’前記プリントは,使用時オペレーターに正規に現れるよう
に,左右に反転されて遂行されるべく制御されることと,
7F’両面粘着テープ(102)を,記録媒体(70)の前記プ
リント側に貼着するための手段(99,100,102,
,,,,,,)。104106112114116123124
・請求項2
7G’更に以下の要素からなる請求項1に従うテーププリンター
7H前記装置12の一区画において前記媒体搬送手段7’()(
6,99,100,112,114,116,118,12
0,123,124,132)及び前記記録手段(72)の
前方に配置され,前記記録手段によって記録される前記イメ
ージ(204)をあらわすデータを入力するための,オペレ
ーターによって制御されるデータ入力手段
・請求項3
7I’請求項1または2に従うテーププリンターで,
7J’前記搬送手段(76,99,100,112,114,1
16,118,120,123,124,132)は,前記
記録テープを前記装置本体(12)の横方向に搬送するのに
有効である。
・請求項4
7K’請求項3に従うテーププリンターで,
7L’前記テープ搬送機構(76,99,100,112,11
,,,,,,),4116118120123124132は
前記記録テープ(70)を,使用中のオペレーターにより見
られる左側方向に搬送する。
・請求項5
7M’更に以下の要素からなる,先の任意の請求項に従うテープ
プリンター
7N’前記記録テープ(70)を切断するための切断機構であっ
て,その機構は,前記搬送通路に沿う位置で,前記記録テー
プ70の搬送方向にてみられるように前記記録手段7(),(
2)の下流に配置されている。
・請求項6
7O’更に以下の要素からなる,先の任意の請求項に従うテープ
プリンター
7P’前記搬送方向に沿って前記記録手段(72)の下流に配置
され,粘着テープ(102)を,前記左右に反転されたイメ
ージ(204)が記録されている記録テープ(70)の記録
部分に重合するための一対の押圧ローラー(99,100)
であって,その両ローラーは,記録テープの前記記録部分お
よび重合されている前記粘着テープが両ローラー間を通過す
る際に,両者間に圧力挟持をもたらし,それにより,前記記
録部分と前記粘着テープとが相互に固着される。
・請求項7
7Q’請求項6に従うテーププリンターで,
7R’前記テープ搬送機構(76,99,100,112,11
,,,,,,),4116118120123124132は
前記一対の押圧ローラー(99,100)と,その押圧ロー
ラーの少なくとも一方を回転するための駆動源とからなり,
’,,(,),7S前記装置は更に前記押圧ローラー99100を
前記圧力挟持が確立される第1の位置と,前記押圧ローラー
が相互に離間する第2の位置とに,選択的に配置する切換手
段(112,114,116,122,142。)
・請求項8
7T’請求項7に従うテーププリンターで,
7U’前記粘着テープ(102)が,基材(107)と,その基
材の両面に形成された2つの粘着層(108,110)と,
その2つの粘着層のうち,前記記録テープの記録部と前記バ
ッキング(両面粘着)テープとが互いに重合された時に,前
記記録テープ(70)から離れた一方の粘着層上に設けられ
剥離層(111)とからなり,
7V’前記装置が,更に,前記媒体搬送通路に沿う位置で,前記
記録手段(72)の下流に配置された切断機構からなり,そ
の切断機構は,前記記録テープと前記バッキングテープの双
方を切断するための完全切断刃(152)と,前記バッキン
グテープ(剥離層)のみを切断するための部分切断刃(15
4,156)とからなる。
b進歩性の欠如
(a)原判決は「…前提事実(3)エ及びカのとおり,第5発明の構,
成要件と海外特許1の請求項8及び9の構成要件は同一ではない。
さらに,欧州特許条約及びこれに基づくEPOの実務における進歩
性の判断は,日本における進歩性の判断と必ずしも同じでない。し
たがって,乙13の5刊行物等の存在から,海外特許1の請求項8
及び9が進歩性欠如により無効とされると認めることはできない
…(200頁)と判断した。要するに,原判決は海外特許1の請」
求項8及び9について明確に無効でないと判断した。
しかし,前記aのとおり,原判決は海外特許1の内容の認定を誤
っており,そのため,原判決における海外特許1の進歩性について
の認定は維持できない。原判決は第5発明が進歩性欠如(特許法2
9条2項)の無効事由を有するとするのであるから(199頁,)
第5発明に対応する海外特許1も当然無効である。
また,原判決は「欧州特許条約及びこれに基づくEPOの実務,
における進歩性の判断は,日本における進歩性の判断と必ずしも同
じではない(200頁)とし,そこから「海外特許1の請求項8」
及び9が進歩性欠如により無効とされると認めることはできない」
(同頁)と結論付けているが,外国特許にも我が国の特許法旧35
条3項,4項を類推適用し,従業員による「相当の対価」の請求を
認めるのであれば,その範囲で裁判所は,海外特許についても有効
性判断の基準を示し,具体的判断をする必要があり,原審のこのよ
うな態度は失当である。
なお,原判決は,請求項1ないし7について新規性の欠如により
無効であると判断したため,進歩性欠如についての判断を明確にし
なかったと考えられるが,その後のダイモ社からの実施料収入に関
しては,請求項1ないし7は進歩性欠如により無効でないことが前
提にされており,原判決の理由には矛盾,不備が存在する。
(b)海外特許1の有効性について更に詳述すると,海外特許1の請
求項1~6については,原審が特許された請求項として誤って認定
した出願公開時の請求項1~7の構成を超える実質上の限定は存在
しないから,第5発明と同じく,乙11の5及び乙13の5の各刊
行物の存在から進歩性が否定される。
すなわち,海外特許1の請求項1~6の各発明の構成と乙11の
5刊行物(なお,同刊行物は海外特許1の審査において一切引用さ
れていない)の開示内容を対比すると,乙11の5刊行物には,。
海外特許1の請求項1の構成要件7C’及び7D’を除く他の構成
要件はすべて明示的に記載されている。そして,構成要件7C’及
び7D’のインクリボンとインクリボン移送手段は周知のサーマル
印字方式の基本的構成であり,同公報の3頁右下欄1~3行の「印
刷装置はあらゆる方式が可能であること」との記載からも,乙11
の5刊行物に開示された構成のラベル作製装置にサーマル印字方式
を採用し,インクリボンとインクリボン移送手段の構成を設けるこ
とは当業者が容易になし得ることである。
また,請求項2における「データ入力手段が,記録媒体搬送手段
及び記録手段の前方に配置されている」構成も,特開昭61-37
447号公報(乙13の4刊行物,特開昭61-143163号)
(),()公報乙18刊行物実開昭62-109958号公報乙88
等によりテーププリンターにおいて周知であり,何ら新規な構成で
はない。したがって,海外特許1の請求項2も進歩性を有しない。
さらに,海外特許1の請求項3~6の各構成要件は,すべて乙1
1の5刊行物に開示されている。
以上のとおり,海外特許1の請求項1~6の各発明は,乙11の
5刊行物等に開示された技術に基づいて当業者が容易に想到できた
ものであり,欧州特許条約52条1項が要求する進歩性が認められ
ないことは明らかである。
c新規性の欠如
(a)原判決は請求項1~3及び5~7はEP319209号甲,,(
20の11)との関係で新規性欠如により無効であるとするが,前
記aのとおり請求項の認定が誤っているため,採用できない。もっ
とも,以下に述べるとおり,海外特許1の請求項1~7は,優先権
主張の関連でやはり新規性を欠くものである。
(b)海外特許1に係る発明は「透明記録媒体搬送手段,インクリボ,
ン移送手段及び記録手段の相互の配置関係,及び記録手段による透
明記録媒体への左右反転印字によりオペレーターが正像視認できる
ようにしたこと」を特徴とする。この海外特許1は,以下2件の日
本出願①と②を優先権主張の基礎としているが,同特許の各発明の
構成は,その日本出願①には開示されておらず,日本出願②に開示
されている。
①実願昭62-167673号(実開平1-72361号)昭
和62年〔1987年〕10月31日出願(乙77)
②特願昭62-323429号(特開平1-163073号)
昭和62年〔1987年〕12月21日出願(乙78:第5発
明)
すなわち,上記出願①には「剥離紙付テープの前面(作業者),
側に正像パターンの印字を行い,その印字面を透明テープにて覆う
構成のテープ印字装置」が記載されているのみであり,海外特許1
に係る発明のように透明テープの後側(作業者と反対側)に左右反
転印字が行われる構成ではない。
しかし,海外特許1の前記請求項1~6の内容は,上記日本出願
②より先の出願に係る以下の日本出願③を優先権主張の基礎とする
以下の欧州特許④の明細書及び図面に記載されており,その内容は
欧州特許条約54条3項の規定により海外特許1の技術水準とな
り,したがって従来技術とみなされる。これは,欧州特許において
は,我が国の特許法における29条の2に相当する規定がないため
である。
③実願昭62-181307号(実開平1-85050号)昭
和62年〔1987年〕11月28日出願(甲2の7)
④欧州特許第319209号(1994年〔平成6年〕4月2
7日登録。指定国はイギリス・ドイツ・フランス・イタリアで
。)〔〕海外特許1と同一である優先日:1987年昭和62年
11月28日(甲20の11)
すなわち,上記欧州特許④の明細書及び図面には,透明テープ7
0を搬送する一対の送りローラ99,100とテープ送りモータ1
23等からなるテープ送り装置(海外特許1の請求項1の構成要件
7B)及び両面テープを貼り付ける貼着手段(同構成要件7F)’’
がそれぞれ記載されるとともに「オペレーター側から見て正規の,
イメージとして視認可能となるように,搬送される透明テープ70
の後面にインクリボンを介してサーマルヘッド72により左右反転
印字を行い(同構成要件7E,その印字面に粘着剤層107と剥’)
離紙102とからなる両面テープを貼着する構成のテーププリンタ
」,’ーが開示されており海外特許1の請求項1に係る構成要件7A
~7F’をすべて有している。したがって,海外特許1の請求項1
は,欧州特許条約52条1項の規定を満たしておらず,従来技術で
ある上記欧州特許④より当然に無効となる。
さらに,上記欧州特許④の明細書及び図面には,透明テープ搬送
装置(一対のローラー99,100等)及び記録手段(サーマルヘ
ッド72)の前方に配置されたデータ入力部10(海外特許1の請
求項2の構成要件7B’に該当,透明テープ70を装置の横方向)
に搬送するテープ搬送装置(同請求項3の構成要件7J,透明テ’)
ープ70をオペレーター側からみて左側方向へ搬送するテープ搬送
機構(同請求項4の構成要件7L,透明テープ70の搬送方向に’)
沿って記録手段(サーマルヘッド72)の下流に配置されたテープ
切断機構130(同請求項5の構成要件7N)及び記録テープの’
搬送方向に沿って記録手段の下流に配置され左右反転イメージが記
録された透明テープ70に両面テープを圧着固定する一対の押圧ロ
ーラー99,100(同請求項6の構成要件7P)がそれぞれ記’
載されている。
したがって,海外特許1の請求項2~6に係る各発明も上記欧州
特許④にすべて開示されており,新規性を有しておらず,当然無効
になるべきものである。
d他の公知例による無効
(a)海外特許1の請求項1~8の発明は,上記日本出願②の出願日
である昭和62年〔1987年〕12月21日を優先権主張に基づ
く遡及出願日とするものである。しかし,海外特許1の請求項1~
7の各発明は,前記日本出願②より先の出願に係る以下の日本出願
⑤の明細書及び図面に開示されている。
⑤実願昭62-292729号(特開平1-133761号)
昭和62年〔1987年〕11月19日出願(乙156)
すなわち,この日本出願⑤の明細書及び図面には,透明テープ7
0を搬送する一対の送りローラ99100等からなる搬送手段海,(
外特許1の請求項1の構成要件7B’に該当,インクリボン74)
を移送するための巻取スプール82・スプール駆動軸84等からな
るリボン移送手段(同構成要件7C,サーマルヘッド72からな’)
る記録手段(同構成要件7D)及び透明テープ70に剥離紙付き’
両面テープ102を貼り付ける一対のローラ99,100からなる
貼着手段(同構成要件7F)がそれぞれ記載されるとともに「オ’,
ペレーター側から見て正規のイメージ(正像)として視認可能とな
るように,搬送される透明テープ70の後面にインクリボンを介し
て左右反転印字を行い(同構成要件7E,その印字面に両面テー’)
プ102を貼着する構成のテープ印字装置」が記載されている。し
たがって,上記日本出願⑤には,海外特許1の請求項1の構成要件
7A’~7F’がすべて開示されている。
さらに,その日本出願⑤の明細書及び図面には,透明テープ搬送
手段及び記録手段(サーマルヘッド72)の前方に配置されたデー
タ入力部10(同請求項2の構成要件7H’に該当,透明テープ)
70を装置の横方向に搬送する一対のローラ99,100からなる
透明テープ搬送装置(同請求項3の構成要件7J,透明テープを’)
オペレーター側からみて左側方向へ搬送するテープ搬送機構(同請
求項4の構成要件7L,透明テープの送り方向に沿って記録手段’)
(サーマルヘッド72)の下流に配置されたテープ切断装置(説明
のみで図番なし(同請求項5の構成要件7N,透明テープの送)’)
り方向に沿って記録手段の下流に配置され左右反転イメージが記録
された透明テープに両面テープ102を圧着固定する一対のローラ
99,100(同請求項6の構成要件7P)及びそれら両ローラ’
が圧着する第1状態と互いに離間する第2状態に選択的に配置する
ためのギヤレバー122等からなる切換手段がそれぞれ記載されて
いる。したがって,海外特許1の請求項2~7に係る各発明も上記
日本出願⑤にすべて開示されている。
(b)また,海外特許1の請求項1~6の各発明は,前記日本出願②
より先の出願日を有する第2発明に係る日本出願⑥(甲2の2)の
明細書及び図面にも開示されている。
⑥特許2133451号:昭和62年〔1987年〕11月2
0日出願,平成元年〔1989年〕5月29日公開
(c)以上から明らかなように,海外特許1の請求項1~7の各発明
は,優先権主張の基礎となる日本出願②より先の出願に係る前記日
本出願⑤又は⑥の明細書及び図面に開示されており,最先の出願の
優先権主張に基づく出願に係るものではない。そうすると,海外特
許1に係る欧州特許出願は,欧州特許条約87条1項の規定に違反
してなされており,日本出願②を基礎とする優先権主張は無効であ
り,海外特許1の請求項1~7の各発明の有効出願日は,現実の欧
〔〕。州特許出願日である1988年昭和63年10月27日となる
なお,欧州特許庁におけるこのような取扱いに関しては,欧州特許
庁審査便覧第V章1.4項(乙157)に明確に規定されている。
(d)海外特許1の請求項1~7の各発明は,その有効出願日より先
の出願日を有する以下の日本出願⑦~⑨を優先権主張の基礎とする
以下の欧州特許⑩の明細書及び図面に開示されており,その開示内
容は欧州特許条約第54条第3項の規定により海外特許1の技術水
準となり,したがって従来技術とみなされる。
⑦実願昭62-199662号(実開平1-104359号)
昭和62年〔1987年〕12月29日出願(乙40の7)
⑧実願昭63-135277号(実開平2-56666号)昭
和63年〔1988年〕10月17日出願(実公平7-303
74号:乙40の6)
⑨実願昭63-135230号(実開平2-56663号)昭
和63年〔1988年〕10月17日出願(実公平7-493
4号:乙40の5)
⑩欧州特許●●(1992年〔平成4年〕4月15日登録,指
定国は英独仏伊で海外特許1と同一(●●))
すなわち,上記欧州特許⑩の明細書及び図面には,透明テープ2
5を搬送する一対の送りローラ69,101からなるテープ送り手
段(海外特許1の請求項1の構成要件7B’に該当,熱転写リボ)
ン91を移送するためのリボン巻取体85・巻取スプール95等か
らなるリボン移送手段(同構成要件7C,サーマルヘッド83か’)
らなる記録手段(同構成要件7D)及び透明テープ25に両面粘’
着テープ27を貼り付ける貼着手段(同構成要件7F)がそれぞ’
れ記載されるとともに「オペレーターが正規のイメージ(正像),
として視認可能となるように,搬送される透明テープ25の裏面に
インクリボンを介してサーマルヘッド83により左右反転印字を行
(’),,い同構成要件7Eその印字面に基材27aと粘着剤層27b
27cと剥離紙27dとからなる両面粘着テープ27を貼着する構
成のテーププリンター」が開示されている。そのような構成は,海
’’。外特許1の請求項1の構成要件7A~7Fをすべて有している
したがって,海外特許1の請求項1は,従来技術である上記欧州特
許⑩より当然に無効となり得るものである。
さらに,上記欧州特許⑩の明細書及び図面には,透明テープ搬送
手段(一対の送りローラ69,101等)及び記録手段(サーマル
ヘッド83)の前方に配置された選字ダイアル5,確定キー11等
(’),からなるデータ入力手段10同請求項2の構成要件7Hに該当
透明テープ25を装置の横方向に搬送するテープ搬送手段(同請求
項3の構成要件7J,透明テープ25をオペレーター側からみて’)
(’),左側方向へ搬送するテープ搬送機構同請求項4の構成要件7L
()透明テープ25の搬送方向に沿って記録手段サーマルヘッド83
の下流に配置されたカッター49,カッターレバー45等からなる
テープ切断機構(同請求項5の構成要件7N,記録テープ搬送方’)
向に沿って記録手段の下流に配置され左右反転イメージが記録され
た透明テープ25に両面テープ27を圧着固定する一対の押圧ロー
ラー69,101(同請求項6の構成要件7P)及びその一対の’
押圧ローラーの一方を回転するための図示されてないステップモー
タ,テープ送り体87等からなる駆動源(同請求項7の構成要件7
R)並びに前記両ローラーが圧着する第1状態と互いに離間する’
第2状態に選択的に配置するためのリリースレバー35からなる切
(’)。換手段同請求項7の構成要件7Sがそれぞれ記載されている
したがって,海外特許1の請求項2~7に係る各発明も上記欧州特
許⑩にすべて開示されており,欧州特許条約52条1項の新規性を
有しておらず,当然無効になるべきものである。
(e)以上のとおり,海外特許1の請求項1ないし7の各発明は,優
先権主張の問題から,上記欧州特許④(EP319209)及び欧
州特許⑩(EP●●)により,新規性がなく,当然に無効となるべ
きものである。
(カ)海外特許2の無効
a海外特許2の特許性に影響を与える公知資料として,乙11の5刊
行物(特開昭53-70700号公報)が存在する。この乙11の5
刊行物は,日本の第2発明及び第5発明に係る異議申立てにおいて提
出された資料であるが,その時点において海外特許2は既に特許され
ていたため,この海外特許2に対する先行技術としては未だ議論され
ていない。
b乙11の5刊行物の明細書3頁左上欄7行以下には「図1におい,
,()て透明又は不透明なプラスチックフィルム又は紙等の連続基材1
の一方の面に印刷装置(2)により印刷面(3)を形成し,該連続基
材(1)は貼合せ装置(4)に導びかれる。一方紙及び/又はプラス
チックフィルムからなる剥離層(5)と,あらかじめ該剥離層(5)
上に塗布された粘着層(6)とを具備するテープロール(7)より巻
きほぐされたテープも又貼合せ装置(4)に導びかれる。印刷をほど
こされた連続基材(1)と剥離層(5)と粘着層(6)を具備した’
テープは貼合せ装置(4)により印刷面(3)と粘着層(6)が完全
に密着する様に重合される。しかる後にダイカット装置(8)により
常法に従ってダイカットされ,必要があればカス巻上げ装置(9)に
カス(10)を巻き上げ,製品は巻取り装置(11)に巻き取られる
か又は必要に応じてシートカット装置(図示せず)によりシート状に
裁断される」との記載がある。。
また,同頁右下欄1行~5行には「全ての実施例にわたり,印刷,
装置は通常シール印刷に用いられる,フレキソ,オフセット,凸版,
グラビア等その他あらゆる方式が可能であるが,図3の実施例におい
ては,印刷を断続的に行う印刷方式は好ましくない」との記載があ。
る。
さらに,同頁右下欄12行以下には「透明な材料を使用する事に,
より,印刷がラベル表面に露出する事なく,透明な材質を通して印刷
の表示を識別でき,さらに摩擦,溶剤,薬品,水等により印刷インク
が侵かされる事がない」との記載がある。
以上の記載によれば,前記乙11の5刊行物には,印刷を施された
「(’)」「()」「()」透明な連続基材1に対して剥離層5と粘着層6
を具備したテープを貼り合わせてラベルを作製する技術が開示さてい
る。作製されるラベルは「透明な連続基材(1」を通して印刷され’)
た内容を見るものである。人がラベルを見る側の面をラベルの表面と
すれば「透明な連続基材(1」の裏面側を印刷するように「印刷,’),
()」「(’)」。装置2が透明な連続基材1の裏面側に配置されている
そして,表面側から印刷された内容を見るということは,裏面側に
印刷された像は向きを反転されたものであることは当然であり,その
印刷された面に両面テープが貼り付けられていることから,前記乙1
1の5刊行物においては,表面側から裏面側に向かって,透明な連続
基材1・印刷面3・粘着層6・剥離層5という積層構造を有するラ’
ベルが作製されることは容易に理解できる。
そうすると,この乙11の5刊行物には海外特許2の発明によって
作製される記録用紙と同じ積層構造のラベル(ラミネートタイプのラ
ベル自体やその製作の技術)が開示されていることになる。
したがって,ラミネートタイプのテープ及びそのテープを作製する
装置は既に公知であった。また,ラミネートタイプのテープを作製す
る装置において,透明な記録媒体の裏面側に印刷装置などの記録手段
を配置することや,印刷された面に両面テープを貼り合わせることも
既に公知であった。
また,この乙11の5刊行物におけるラベル製造方法及び装置によ
り作製されたラベルは,印刷された部分を露出させずに,透明な材料
を通して見るようになっており,印刷された部分の侵食を防ぐことが
できる効果も同様に既に公知であった。
c海外特許2の請求項2~12の各発明における各構成要件と前記乙
11の5刊行物における開示内容を対比すれば明らかなように,海外
特許2の請求項2の構成要件8A~8F及び請求項3の構成要件8G
~8Iは乙11の5刊行物にすべて開示されており,請求項2及び3
の各発明は新規性を有しない。
d海外特許2の請求項4における「テープ貼り合せ手段が記録テープ
送り手段とカバーテープ送り手段とを兼用する」構成は,乙11の5
刊行物中には明確な記載はないが,貼合せのために図中の一対のロー
ラー4,4間に挟持圧力がかかっている関係上,この一対のローラー
のうちの少なくとも一方が駆動される必要があることは当業者が容易
に想到するところである。そして,そのような構成については,特開
昭59-95169号公報(乙11の1刊行物,実開昭59-83)
547号公報(乙11の4,特開昭58-11180号公報(乙8)
3)等により周知である。したがって,海外特許2の請求項4も進歩
性を有しない。
e海外特許2の請求項5における「記録テープが,印字手段としての
印字ヘッドと回転可能なプラテンローラーにより接触状態に保持され
て印字が行われる」構成についても,上記特開昭58-11180号
公報(乙83)及び乙11の1刊行物等により周知である。そして,
前記乙11の5刊行物における印刷装置に関する変形例の記載,すな
わち「全ての実施例にわたり,印刷装置は通常シール印刷に用いら,
れる,フレキソ,オフセット,凸版,グラビア等その他あらゆる方式
が可能であるが,図3の実施例においては,印刷を断続的に行う印刷
方式は好ましくない」との記載を参照すれば,上記構成の印字手段。
を持ち込むことは容易に想到し得るものである。したがって,海外特
許2の請求項5も進歩性を有しない。
f海外特許2の別の独立クレームである請求項6の発明について検討
すると,請求項6の各構成要件8A,8C,8E,8F,8Qは’’’’
すべて乙11の5刊行物に開示されており,何ら新規な構成は存在し
ない。上記構成要件8Qの「記録テープとカバーテープとを一緒に送
る搬送手段」は,海外特許2の実施例においては,構成要件8F’の
貼合せ手段を兼ねているが,上記乙11の5刊行物においては巻取り
装置11が直接的に該当する。したがって,海外特許2の請求項6も
新規性を有しない。
,,g海外特許2の請求項7の発明は前記請求項3の記載と同一であり
同じく新規な構成は存在しない。
h請求項8の発明は「カバーテープと記録テープとを搬送するため,
に一対の圧着ローラーを動作させる圧着ローラー駆動装置」を搬送手
段が有していることを規定しているが,前記請求項4に関して述べた
とおり,何ら新規な構成ではなく,上記乙11の5刊行物から容易に
想到し得るものである。したがって,海外特許2の請求項8も進歩性
を有しない。
i海外特許2の別の独立クレームである請求項11の発明について
は,請求項11の各構成要件のうち,構成要件8X以外はすべて上記
乙11の5刊行物に開示されており,何ら新規な構成ではない。上記
構成要件8Xの「データ入力手段」は,海外特許1の請求項2の発明
,(),に関しても述べたとおり実開昭62-109958号公報乙88
特開昭61-37447号公報(乙13の4刊行物,特開昭61-)
143163号公報(乙18刊行物)等多数の公知資料が存在し,テ
ープ印字装置において周知技術である。この周知技術を上記乙11の
5刊行物のラベル製造装置に組み込むことに何らの困難性も存在しな
い。したがって,海外特許2の請求項11も進歩性を有しない。
j海外特許2の更に別の独立クレームである請求項12における各構
成要件も,上記乙11の5刊行物にすべて開示されており,新規な構
成は存在しない。したがって,この請求項12の発明も新規性を有し
ない。
kなお,海外特許2の請求項9及び10の各発明については,本件被
告製品において実施されていない。
(キ)海外特許3の無効
a海外特許3に対する公知資料
海外特許3については,海外特許2について指摘した乙11の5刊
行物に加え,乙13の4刊行物の記載内容に鑑みれば,特許性は認め
られない。なお,これら刊行物は,海外特許3に対する米国特許庁に
おける審査では先行技術として何ら議論されていない。
b乙13の4刊行物の記載内容
乙13の4刊行物の明細書2頁左下欄12行以下には「この発明,
は従来のものがもつ以上のような問題点を除去するため,メモリ機能
を有し,いつでもメモリーに書きこんだ記憶されている文章,文字,
記号,数字,線等をボタン操作のみで編集しながら簡単に粘着テープ
。」に印字する携帯性の良いラベル印刷機を提供することを目的とする
との記載がある。
同3頁左上欄13行以下には「又,図3の破線に示すように,裏,
面の蓋をあければテープ状に巻かれ,その裏面には接着剤がついてい
るプリント用ラベル紙20(カセット内に収納,このラベル紙を送)
り出すローラー21,印字するためのプリンターヘッド22が配置さ
れ,ここを通って印字されたラベル19が出てくる。更に電池収納部
()。」。23電源部があり外部電源入力部24もあるとの記載がある
同頁右上欄16行以下の「テープの表面はほぼ平らであり,テープ
の厚さは薄くてもよく,透明テープベースにすれば,添付する物体の
表面に直接印刷してあるように見える」との記載がある。。
c乙13の4刊行物に開示されている技術
第3図から明らかなように,一対のラベル送出ローラー21により
左方へ搬送されるラベル19の搬送路を境にして,後方部分(反オペ
レーター側)に印字手段としてのプリンターヘッド22が配置され,
ラベルを挟んでそのヘッドと対向するようにプラテン(図番なし)が
搬送路の前面側(オペレーター側)に配置されており,かつ,第2及
び3図から明らかなように,前記ラベル搬送路より前方部分にキー入
力部のキーボード左半分16が配置されている。
また,第2図において,印字されたラベル19は装置本体から左方
に送り出されており,その前面側には「A(b)ア」の文字列が確,
認できる。第3図において,印字されたラベル19はプリンターヘッ
ド22の前面側に位置し,一直線状に装置本体の外に至っている。そ
の文字列については,反オペレーター側に配置されているプリンター
ヘッド22が,透明なラベル紙20の裏面に左右反転印字して,その
印字された文字列が透明なラベル19を通して前面側(オペレーター
側)から正像として視認可能である。
なお,一審原告らは,プリンターヘッド22がラベル20の表面に
印字し,印字されたラベル19のハウジングから出た部分が出た直後
に捻られて,その文字列が見えている旨主張する。しかし,機構上,
テープ状の「印字されたラベル19」が装置から出た瞬間に捻れるこ
とはあり得ず,さらにこの公報には,印字されたラベル19を捻った
との記載もその示唆すらもない。更に付言すれば,一審原告らは,ラ
ベルが捻られていると主張する理由として,そもそもラベル20の粘
着層側に印字することはサーマル印字ヘッドでは不可能である旨主張
するが,この公報においてプリンターヘッド22の印字方式は限定さ
れておらず,必要に応じて適した印字方式を採用すればよい。
d乙11の5刊行物に開示されている技術
,,乙11の5刊行物には海外特許2に対する関係で前述したように
印刷をほどこされた透明な連続基材(1)に対して,剥離層(5)’
と粘着層(6)とを具備したテープを貼り合わせてラベルを作製する
技術が開示されている。作製されるラベルは,垂直状態では移送され
ていないが,貼合せ装置(4)により貼り合わせた後は水平状態に搬
送され,その後巻き取られている。そして,作業者は,透明な連続基
材(1)を通して印刷された内容を上方から見ることになり,作業’
者がラベルを見る側の面をラベルの表面側(オペレーター側)とすれ
,(’),()ば透明な連続基材1の裏面側に印刷するように印刷装置2
が透明な連続基材(1)の裏面側(後方部分)に配置されている。’
したがって,乙11の5刊行物には,海外特許3の発明によって作
製されるラベルと同じ積層構造のラベル(ラミネートタイプのラベル
自体やその製作の技術)が開示されている。
e海外特許3の請求項1の発明について
海外特許3の請求項1の発明は「あらかじめ決められたテープ搬,
送路に対してオペレーター側から離れた側に配置された固定サーマル
ヘッドにより,オペレーター側から見て正規のイメージ(正像)とな
るように,左右反転した像が透明テープに印字され,その印字面が,
印字部より下流側において,剥離紙を有する貼り付けテープ(両面粘
着テープ)により重合されて貼り合せられること」に係る基本構成。
を特徴とするものである。
そして,海外特許3の請求項1の構成要件を検討すると,前記乙1
1の5刊行物には,海外特許3の請求項1の構成要件9A~9C,9
H,9Iのすべて,9E~9Gの主要部が開示されているが,構成要
件9Dのみが一切開示されていない。しかし,構成要件9Dのリボン
,,送り手段はサーマルヘッドを有する印字装置においては周知であり
構成要件9Eの印字手段として,サーマルヘッドによりインクリボン
を介して印字する周知の印字手段を採用することにより,必然的に具
備することになる技術である。そのような印字装置が開示されている
,(),公報を挙げると特開昭59-95169号公報乙11の1刊行物
特開昭58-11180号公報(乙83,実開昭62-10995)
8号公報(乙88)等がある。したがって,この周知技術を構成要件
9Eの印字手段に代替することにより,海外特許3の請求項1の構成
要件9A~9Iを有するテープ印字装置は容易に想到し得る。
したがって,海外特許3の請求項1の発明は,上記公知資料により
当業者ならば容易に想到し得るものであり,進歩性を有するものでは
ない。
なお,原判決は「米国特許法及びこれに基づく米国の実務におけ,
る非自明性の判断は,日本における進歩性の判断と必ずしも同じでは
ない(201頁)とするが,米国最高裁における最近の判決におい。」
て,米国特許法103条の自明性の判断基準に関する重要な変更を決
定した。すなわち,カナダKSRInternationalCo.v.米国Teleflex
Inc.事件において「ある技術が一つの産業分野で既知であれば,改,
善意欲やその他の市場原理の作用により,同じ産業分野中であれ別の
,。」,産業分野であれその技術内容の発展・向上が促され得ると判断し
公知技術の組合せについて「組合せを促す何らかの教示・示唆・動,
機の有無にかかわらず,あるいは,組合せによりうまくいくという客
観的な見込みの有無にかかわらず,先行技術であればどんなものでも
自明性に基づいて特許を無効化する材料に使える」とした。したが。
って,米国特許における非自明性の判断は,少なくとも日本特許につ
いての判断に比べ,高いレベルの自明性を要求するものではない(乙
161。)
f海外特許3の請求項2,4~6の発明について
海外特許3の請求項2における「データ入力手段が,媒体搬送手段
及び記録手段より前方に配置されていること」に係る構成は,前記乙
11の5刊行物中には記載されてないが,ラベル作製装置においては
周知の技術であり,上記乙13の4刊行物,特開昭61-14316
3号公報(乙18刊行物,実開昭62-109958号公報(乙8)
8)等にも開示されている。したがって,海外特許3の請求項2も進
歩性を有しない。
次に,請求項4における「記録テープが装置本体の左側へ送られる
こと」に係る構成は,上記乙11の5刊行物,乙13の4刊行物,乙
18刊行物,実開昭62-109958号公報(乙88)等により周
知技術である。
また,請求項5における「テープ搬送路の下流側に切断機構が配置
されていること」に係る構成は,上記乙11の5刊行物中に変形例と
して記載されており(3頁右上欄1行~4行参照,さらには,実開)
昭59-83547号公報(乙11の4,乙18刊行物,実開昭6)
2-109958号公報(乙88)等により周知である。
さらに,請求項6における「記録テープの印字部分が,一対の圧着
ローラーにより,貼り付けテープにより圧着されること」に係る構成
も,乙11の5刊行物に開示されており,新規な構成ではない。
g海外特許3の請求項7の発明ついて
請求項7の発明は請求項6の従属であり「駆動源により回転する,
一対の圧着ローラーを,両者が圧接状態にある第1の位置と,両者が
離間する第2の位置とに選択的に配置するための切換手段を有するこ
と」を特徴としている。前記乙11の5刊行物には,その構成要件9
Sに係る「圧着ローラー」に該当する「一対のローラー4,4」が開
示されており,貼合せのために両ローラー間に挟持圧力がかかってい
ることを考慮すれば,両ローラーの少なくともいずれか一方が駆動さ
れることは自明である。また,前記乙13の4刊行物には「圧着ロ,
ーラー」及び「その駆動源」に該当する「一対のラベル送出ローラ,
ー21」及び「モータードライバー13」が開示されている。
残る構成要件9Uに係る「両ローラーが圧接状態にある第1の位置
,」と両者が離間する第2の位置とに選択的に配置するための切換手段
については,両公報には何ら具体的な記載はない。しかし,前記乙1
1の5刊行物における連続基材(1)を消費して新しいロールに交換
する時,あるいは,前記乙13の4刊行物におけるラベル紙20を消
費して新しいロールに交換する際には,当然に両ローラーを離間する
必要があり,そのような構成を採用することは当業者ならば設計上自
明の事項である。現に,一審被告がラベルライターの開発当初におい
,,て参考にしたマーリンエクスプレスにおいてもカセットの交換時に
操作つまみの操作により,一対の送りローラーを離間させている。更
に,一審原告らが熟知しているメカ式テープ作製機である「ダイモラ
イター」においても,テープの交換のためにカバー板を開放すると,
テープ送り用のローラーが遊動ローラーと離間する構成となってい
る。そのような構成を開示する公知資料として,特公昭47-161
05号公報(乙162)がある。以上によれば,被告製品におけるテ
ープカセットの交換時に両ローラーを離間する操作手段を含むとすれ
ば,この請求項7の発明は当然に無効となるべきものである。
そして,この「切換手段」は,海外特許3の明細書の実施例におい
ては,インレタ(再転写)テープと貼合せテープの作製の切換の際に
操作される「ギヤーレバー122」が該当する。原判決は,海外特許
2の請求項9の構成要件8Vに係る「切り換え手段」に関して,単に
テープカセット着脱時の態様を規定した構成は,構成要件8Vを充足
しないと認められる旨の認定しており(186~187頁参照,海)
外特許3の請求項7の構成要件9Uの「切換手段」についても,海外
特許2における場合と同様に解釈すべきである。
したがって,海外特許2の請求項7の発明を実施した本件被告製品
は存在せず,仮に,本件被告製品におけるテープカセット着脱時の態
様を規定した構成が,海外特許3の請求項7の構成要件9Uを充足す
,。るとすればこの請求項7の発明は当然に無効となるべきものである
h海外特許3の請求項8~11の各発明について
海外特許2の別の独立クレームである請求項8の発明について検討
すると,請求項8の発明は,請求項1の構成要件9A~9Iから構成
要件9D及び9Fを除いたものとほぼ同等であり,それらの構成要件
はすべて乙11の5刊行物に開示又は示唆されており,何ら新規な構
成は存在しない。したがって,海外特許2の請求項8も進歩性を有し
ない。
また,請求項9の発明は,前記請求項7について述べたのと同様で
あり,乙11の5刊行物,乙13の4刊行物に開示又は示唆されてお
り,新規な構成は存在しない。
請求項10の発明は,有効な発明であるが,本件被告製品が貼合せ
テープのみを切断する部分切断刃を有しておらず,非実施であること
は上述したとおりである。
残る独立クレームである請求項11の発明は,前記請求項8の発明
とほぼ同等であり「記録手段としての印字ヘッドがドットマトリッ,
クス方式である」ことを限定しているが,この方式はサーマルヘッド
においては通常であり,周知の事項である。したがって,海外特許3
の請求項11も進歩性を有しない。
(2)一審被告は本件各発明を実施していないこと
ア第1発明
(ア)前記のとおり第1発明は無効であり,したがって,第1発明の実施
の有無は問題にならないと解すべきであるが,仮に第1発明が有効であ
るならば,原審において主張したとおり,特許請求の範囲の構成要件1
Eについて,インクリボンがインレタテープ(印字されるテープ:第1
発明における「レタリングテープ)とは別に着脱自在とされていると」
限定解釈をしなければならず,その結果,一審被告は第1発明を実施し
ていないというべきである。
(イ)原判決の構成要件「1E」の解釈の誤り(その1)
原判決は,特許異議答弁書(乙8)の解釈として「…同一のレタリ,
ングテープに対してインクリボンを適宜交換しつつ印字する場合だけを
想定したものと認めることはできず,テープごとに異なる色で印字され
たものをユーザーが組み合わせて対象物に転写する場合を含めて述べた
ものと解する余地がある(173頁)と判示するが,誤りである。。」
例えば祝を赤色五十周年を青色記念を黒色とした祝,「」,「」,「」「
五十周年記念」の文字列を印字する場合を想定してみると,原判決の解
釈によれば,テープごとに異なる色で印字されたものをユーザーが組み
合わせるというのであるから,まず,赤色のインクリボンと印字テープ
(印字されるテープ)を使用してその印字テープに「祝」と印字してカ
ッタで切り離し,次に青色のインクリボンと印字テープを使用してその
印字テープに「五十周年」と印字してカッタで切り離し,次に黒色のイ
ンクリボンと印字テープを使用してその印字テープに「記念」と印字し
てカッタで切り離し,これにより3本のインレタテープを作製し,その
後,それらをそれぞれ対象物にそれぞれ転写することになる。
,「」,「」転写の際にはまず祝を転写対象物に転写しその後五十周年
「」,を転写対象物の祝に続くように正確に位置合わせした上で転写をし
更に「記念」も正確に位置合わせした上で転写するという極めて面倒な
。,「」作業をしなければならないこのような方法により祝五十周年記念
との均等の文字列をきれいに一列に転写することはまず不可能である。
すなわち「祝「五十周年「記念」のそれぞれの文字列が均等な文,」,」,
字間隔で転写されること,あるいは上下方向にずれることなく,かつ文
字も傾くことなく一直線に転写されることはほぼ不可能であり,仮に可
能であるとしても相当の熟練を要する。
これに対し,一審被告の解釈によると,第1発明は,同一の印字テー
プ(印字されるテープ)に,インクリボンのみを単独にて着脱すること
によりいろいろな色の文字を印字することができるものである。具体的
には,まず赤色のインクリボンを使用して「祝」と印字し,次に青色の
インクリボンに交換して「五十周年」と印字し,最後に黒色のインク,
リボンに交換して「記念」と印字すれば,均等な文字間隔でかつ一直線
に並んだ綺麗な印字が可能であることは明らかである。
そして,上記インレタテープを使用して転写すれば,1本のインレタ
テープに複数色で印字されているから,位置合わせなどの転写作業も一
回で済むので,色ごとに分けて転写する場合よりも,作業性が良いし,
等間隔かつ整列された文字列の転写が可能となる。
したがって,原判決は異議答弁書の解釈において誤っている。
(ウ)原判決の構成要件「1E」の解釈の誤り(その2)
原判決は「…特許異議決定においては『インクリボンを着脱自在と,,
』,『』(,することは相違点の1つと認められたものの慣用技術4頁3行
4行であり上記相違点に発明の存在を認めることができない4),『。』(
頁9行)と判断されていることが認められる(173頁)から「特。」,
許異議答弁書(乙8)から,構成要件1Eを被告主張のように解釈する
ことはできない(173~174頁)と判断する。。」
しかし,異議決定においては,一審被告が異議審理時において主張し
た,構成要件「1E」を「インクリボンのみを(印字テープとは別に)
着脱自在とすること」と解釈した上で,その点については進歩性がない
ということを指摘しているのである。すなわち,まず「インクリボン,
のみを(印字テープとは別に)着脱自在とすること」との解釈が前提と
なっている。これに対して,原判決の上記判断は,その前提を無視し,
論理を逆転させて,その前提には進歩性がないとの判断がされているか
,「()」らインクリボンのみを印字テープとは別に着脱自在とすること
とは解釈できないとの論理展開をしているのであり,異議決定の解釈に
おいて論理的に誤っている。
イ第2発明
前記のとおり,第2発明は無効であるが,仮にこれが有効と考えるので
あれば,第2発明については,第二のテープのテープ基材自体を着色する
と限定して解釈するほかはない。
この点,原判決は「…第2発明の特許請求の範囲,発明の詳細な説明,
及び図面中にテープ基材を着色する方法を限定した記載は見いだせない。
また,上記cの出願過程における被告の主張も,第二のテープのテープ基
材が第一のテープの背景色となることを意味するにとどまり,印刷層等に
よって背景色を得ることを排除しているものではないと認められる(1。」
76頁)と判断する。しかし,問題は,明細書中や出願過程における主張
において「テープ基材を着色する方法を限定した記載」があるか否かで,
はなく「テープ基材そのものを着色する方法」以外の「粘着剤層を着色,
する方法」や「テープ基材に印刷して着色する方法」の技術が開示されて
,。,,いてそこまで含むものと解釈できるか否かであるそして一審被告は
第2発明の明細書や出願過程における主張において「テープ基材そのも,
のを着色する方法」以外の方法は開示されていないから限定して解釈すべ
きであると主張しているのである。これに対し,原判決のように,本件明
細書中に「テープ基材を着色する方法」に限定されておらず「テープ基,
材そのものを印刷する方法」や「粘着剤を着色する方法」も含まれると解
釈するのであれば,前記のとおり,そのような技術は乙11の5刊行物に
開示されていることは明らかであるから,本件第2発明は無効であるとの
結論となる。
ウ第5発明
原判決は「PT-240」については構成要件5H(5h透明印字,
テープをその長手方向に沿って筐体の右から左へ搬送する仕組み)を充足
しないとしたが(178頁,対象品群bには「PT-240」と同様に),
第5発明の構成要件5Hを充足しない被告製品(PT-120,160S
P,170,200:甲90,91,123)が含まれている。
エ海外特許1
(ア)原判決の認定した権利内容の誤り
原判決は,対象品群nのPT2420PC以外の本体と対象品群nの
テープカセットを組み合わせたものが,請求項1~3及び5~8を充足
するとしたが(189頁,前提となる海外特許1の権利内容の認定に)
おいて誤りがあることは前記(1)イ(オ)のとおりである。
(イ)パソコン接続専用機種(PT-2420PC)について
海外特許1の権利内容は,前記(1)イ(オ)のとおりテーププリンターに
関するものであり,被告製品である対象品群nのうちパソコン接続専用
機種(PT-2420PC)については,パソコンにおいて制御するこ
とによって初めてプリンターとして機能するものであり,前記請求項1
の構成要件7A,そして7E’を有しない。したがって,パソコン接’
続専用機種(PT-2420PC)は,海外特許1のいずれの請求項に
係る発明をも実施していない。
なお,原判決は,海外特許1について対象品群nだけ問題としている
が,原判決における超過売上額の算定においては結局他の対象品群をも
含めた売上げ全部を計算の基礎としており,そのうちヨーロッパでも販
売された対象品群oにおいては,PT-9200PC,PC9200D
X,2500PC,9500PCもパソコン接続専用機であり,これら
も海外特許1のいずれの請求項に係る発明をも実施していない。
(ウ)記録テープが装置の前後方向に送られる機種について
被告製品の対象品群nのうち,記録媒体としての記録テープがオペレ
ーターからみて横方向ではなく前後方向に搬送される構成の機種(PT
-200(シリーズ,PT-1200(シリーズ,PT-220,P))
T-2480,PT-2460がそれに当たる)については,機器にお
ける各手段の配置が,請求項1の特定と異なり,記録テープのオペレー
ターとは反対側に印字される構成とはなっておらず,請求項1の構成要
件7C’~7E’を有しない。したがって,対象品群nのこのような機
種は,海外特許1のいずれの請求項に係る発明をも実施していない。
(エ)すべての機種について
あらゆる一審被告製品について,請求項7の構成要件7S’の切換手
段を有しておらず,また,請求項8の構成要件7V’の部分切断刃を有
していない。したがって,すべての一審被告製品において請求項7及び
8に係る発明を実施していない。
オ海外特許2
海外特許2の請求項2~9及び11,12の各発明の構成に係る原判決
の認定は特に争わない。なお,請求項1,13,14はテープ作製方法に
係る発明であり,一審原告らは実施を主張していない。また,海外特許2
の請求項9及び10の各発明が一審被告製品において実施されていないこ
とは,原判決の認定するとおりである。
カ海外特許3
(ア)海外特許3の権利内容
a海外特許3の請求項1~2,4~9及び11の各発明の構成は原判
決の認定するとおりである。
また海外特許3の請求項2,4~6はいずれも上記請求項1の従属
クレームで,請求項7は請求項6の従属クレームである。
,「,なお原判決が請求項1の9Cの構成を前記装置本体に支持され
前記前面部分と前記後方部分の境界に位置するあらかじめ設けられた
テープ搬送路に沿って,ほぼ透明な印字テープを,そのテープのどち
。」らか一方の面がオペレーター側に面するように送るテープ送り手段
としたのは正確ではなく,正しくは「前記装置本体に支持され,前記
前面部分と前記後方部分の境界を画定するあらかじめ設けられたテー
プ搬送路に沿って,ほぼ透明な印字テープを,そのテープのどちらか
一方の面がオペレーター側に面するように送るテープ送り手段」と。
訂正すべきである(下線は訂正個所。)
同様に,請求項7の9Uの構成を「前記一対のローラーが圧着状態
である第1位置と前記ローラーがお互い離れた第2の位置を選択的に
選ぶ手段を持っている」とした点は「前記記録装置は,更に,前記,
一対のローラーが圧着状態である第1位置と前記ローラーがお互い離
れた第2の位置とに選択的に配置する切換手段を持っている」と訂正
すべきである。
b海外特許2と対比すると,海外特許3に係る発明においては,装置
本体における記録テープ搬送路を挟んでオペレーター側を前面部分,
その反対側を後方部分と規定し,インクリボン送り手段,印字手段,
プラテン及びテープ貼り合せ手段の配置を特定して,透明テープに印
字されたイメージがオペレーター側から正像として視認できるように
した構成を限定している。この前面部分及び後方部分に関し,海外特
許3の明細書においては「記録媒体がほぼ水平に保たれ,テープの,
底面に印字するような場合には,本体の上部は先に使用した“前面部
”,。」,分に相当しテープの底面は裏面に相当すると記載されており
海外特許3に係る発明は,記録テープの印字面がほぼ垂直に支持され
て印字される場合のみに限定されない。
c以上のとおり,海外特許3の請求項1~11の各発明はテープ印字
装置単体に関するものであり「第2のテープが第1のテープの背景,
となる」との限定はなく「使用者側から見て正像視認可能」とする,
ために周知あるいは公知の各要素の配置構成を限定したものである。
(イ)実施について
aパソコン接続専用機種
海外特許3の権利内容はテープ印字装置単体に関するものであり,
被告製品のうち,パソコン接続専用機種(PT-9200PC,PC
9200DX,2500PC,1500PC(シリーズ,9500)
PC)は,左右反転の印字制御がパソコン側で行われ,テープ印字装
置内にては行わない構成であり,独立クレームである前記請求項1,
8及び11の構成要件9G,9G’及び9G”の印字制御手段を有し
ない。したがって,原判決が認定するとおり,パソコン接続専用機種
は,海外特許3の各請求項の発明を実施していない。
b記録テープが装置の前後方向に送られる機種
被告製品のうち,記録媒体としての記録テープがオペレーターから
みて横方向ではなく前後方向に搬送される構成の機種(ST-115
0,PT-1130,PT-1170,PT-1180,PT-11
QPT-1160PT-200シリーズPT-1200シ,,(),(
リーズ,PT-1400(シリーズ,PT-1600)は,装置本))
体がオペレータ側の前面部分と後方部分とを有しておらず「使用者,
側から見て正像視認可能」となるように構成されていない。したがっ
て,上記機種は,海外特許3の請求項1~11の各発明を実施してい
ない。
cすべての機種
あらゆる被告製品については,海外特許3の請求項7及び10の各
発明を実施していない。請求項7の発明における「駆動源により回転
する一対の圧着ローラーを,両者が圧接状態にある第1の位置と,両
」,者が離間する第2の位置とに選択的に配置するための切換手段とは
原判決における海外特許2の請求項9の構成要件8Vに関して認定さ
れたように「単にテープカセット着脱時の態様を規定した構成」は,
同構成要件を充足しないと解すべきである(原判決186~187頁
参照。なお,仮にテープカセット着脱時の態様を規定した構成が海)
外特許3の請求項7の構成要件9Uを充足するとすれば,この請求項
7の発明は,既に述べたとおり,無効となるべきものである。
また,請求項10の発明における「記録テープと貼り付けテープの
両方を切断する完全切断刃と,貼り付けテープのみを切断する部分切
断刃とからなる切断機構」を有する被告製品は存在せず,上記その。
他の機種のみならず,すべての機種において請求項10の発明は実施
されていない。
d請求項3
海外特許3の請求項3について一審原告らが実施を主張していない
にもかかわらず,原判決が実施していると認定したことは明らかに誤
りである。
(3)超過売上高の算定について
ア自己実施における独占の利益・実施料収入との関係
(ア)原判決の判断
原判決は一審被告が開放的ライセンスポリシーを採用せずに制,「」「
限的ライセンスポリシー」を採用していたとして,カシオ社がラミネー
トテープの競合技術であるノンラミネートテープの技術を実施した製品
「ネームランド」をもって市場に参入した平成3年11月,キングジム
社が同様な競合技術の製品「テプラ・プロ」をもって市場に参入した平
成4年12月,ダイモ社が同様なノンラミネートタイプの「DYMO4
500」をもって市場に参入した平成4年4月以降はもちろんのこと,
その後10年も経過した平成14年にカシオ社及びキングジム社が一審
被告から包括的な実施許諾を受けた後においても,自己実施から独占の
利益を得たと認定した。
しかし,原判決の上記判示は,単に一審被告がラベルライターの取扱
「」業者の全員には実施許諾をしていないから制限的ライセンスポリシー
であり,自己実施による独占の利益を認めるという,極めて短絡した論
理によるものであり,法律的な根拠を全く有しない。
(イ)三菱電機事件における判断基準の位置付けと原判決の誤り
a裁判例の内容
そもそも,特許権者が開放的なライセンスポリシーを採用している
,,場合には自己実施からの独占の利益を認定しないという判断基準は
三菱電機株式会社に対する職務発明の対価請求事件(いわゆる三菱電
機事件)における東京地方裁判所民事46部に係属した平成15年
(ワ)第29850号事件の平成18年6月8日言渡しの判決により
初めて導入されたものであるが,同事件でも,また,その後の同部の
事件(例えば東京地方裁判所平成15年(ワ)第23981号・同1
9年1月30日判決,いわゆるキヤノン事件)においても「特許権,
者が,当該特許発明を実施しつつ,他社に実施許諾もしている場合に
ついては,当該特許発明の実施について,実施許諾を得ていない他社
に対する特許権による禁止権を行使したことによる超過利益が生じて
いるとみるべきかどうかについては,事案により異なるものというこ
」,,とができると述べそもそも一律に適用できるものではないことを
まず前提としている。
さらに,上記三菱電機事件判決における「開放的ライセンスポリシ
ー」と「制限的ライセンスポリシー」への言及は,次のような文脈中
でなされているものである。
「①特許権者が当該特許について有償実施許諾を求める者にはすべ
て合理的な実施料率でこれを許諾する方針(開放的ライセンスポリ
シー)を採用しているか,あるいは,特定の企業にのみ実施許諾を
する方針(限定的ライセンスポリシー)を採用しているか,②当該
特許の実施許諾を得ていない競業会社が一定割合で存在する場合で
も,当該競業会社が当該特許に代替する技術を使用して同種の製品
を製造販売しているか,代替技術と当該特許発明との間に作用効果
等の面で技術的に顕著な差異がないか,また,③包括ライセンス契
約あるいは包括クロスライセンス契約等を締結している相手方が当
該特許発明を実施しているか,あるいはこれを実施せず代替技術を
実施しているか,さらに,④特許権者自身が当該特許発明を実施し
ているのみならず,同時に又は別な時期に,他の代替技術も実施し
ているか等の事情を総合的に考慮して,特許権者が当該特許権の禁
止権による超過売上げを得ているかどうかを判断すべきである」。
ちなみに,こうした判示は他の事件(東京地方裁判所平成17年
(ワ)467号等東芝事件の和解勧告書,前掲キヤノン事件)におい
ても,共通に述べられている。
bライセンスポリシーの位置付け
上記一連の裁判例の示した判断要素のうち,①の「ライセンスポリ
シーが開放的か制限的か」という問題は「開放的なライセンスポリ,
シー」の場合は,その要素のみで自己実施からの独占の利益を考慮す
る必要はないというものであるが,他方,ライセンスの状態が制限的
な場合には,他の②ないし④の要素を考慮することが許されないとい
うものではない。むしろ逆に,①の制限的なライセンスポリシーの場
合には,②ないし④に該当するか否かを検討すべきことが明らかに述
べられているものである。この場合,例えば,②の場合は,実施許諾
を得ていない企業の存在を前提としているが,この企業が実施許諾を
受けていない理由が特許権者の拒否による結果なのか,実施許諾を得
ないことを選択したのかは問わないが,いずれにせよ競争力のある代
替技術を使用して実施許諾を受けない企業が存在する場合に,自己実
施は特許権の独占的効力が技術競争上微弱であることを考慮して,自
己実施からの独占の利益を認める必要はないとしているものである。
したがって,原判決が,キングジム社・カシオ社の両社に対する実
施権許諾にかかわらず,例えばクロイ社,マックス社,タカラ社が実
施権受諾ではなく,OEM供給を一審被告から受けていることを指摘
して,本件は制限的ライセンスポリシーであり,実施料収入のみなら
ず,自己実施からの独占の利益をも認めるべきであるとしたことは,
極めて短絡的であり,上記一連の裁判例の示した判断基準の一部のみ
を恣意的に切り取って適用した不合理な解釈であるといわざるを得な
い。
もちろん,原判決も,三菱電機事件判決も,地方裁判所の判決であ
り,相互に拘束力を有する訳ではない。しかし,客観的に見ても,完
全に開放的な場合以外はすべて「制限的ライセンスポリシー」である
として,自己実施からの独占の利益を認めるとすれば,特許法35条
1項が無償の法定通常実施権を規定した立法趣旨が意味を失うおそれ
があることも,明らかであろう。
c代替技術の存在
一方,三菱電機事件の上記判断基準例の②ないし③に照らすと,本
件においては,自己実施が通常実施権の範囲内に止まるものとする結
論の妥当性が明らかとなる。すなわち,原判決も認定するように,欧
州市場においてはドイツのダイモ社は強力な販売力を有するが,19
94年(平成6年)以降はノンラミネートテープを使用する安価型の
ラベルライター「DYMO1000」を製造販売しており,実質的な
シェアを有する非実施権者として欧州市場のトップメーカーの地位を
維持しているのであるから,有力な競合的な代替技術が存在するとい
える場合である。
我が国においては,一審被告の発売開始からわずかに数年後から現
在に至るまで,カシオ社及びキングジム社が従前から存在したノンラ
ミネートテープに改良を加え,ラベルテープの表面側から印字するが
擦れても消えない耐久性のあるノンラミネートテープ技術という代替
技術を開発し,平成3年と平成4年に製造販売を開始し,たちまちに
両社が市場を席巻したものであり,それ以後一審被告の我が国におけ
る市場占有率は両社に大きく差をつけられた状態で3位を維持してき
たにすぎない。
しかも,カシオ社・キングジム社の両社は,10年以上も経過した
平成14年に一審被告から包括的ライセンスを取得し,このライセン
スの対象には,原判決が「ラミネート特許」と一括する第2発明,第
5発明を含むものの,これらの発明はラベルテープの裏側から鏡像な
いし裏文字で印字することを要件とするから,カシオ社・キングジム
社の両社がこのような特許発明を実施していないことは一審原告らも
原判決も認めるところである。
加えて,一審被告も,第2・第5発明を実施しないノンラミネート
型製品の競争力に対抗するために,自らもかかる発明を実施しない製
品(M型等)を発売せざるを得なかったものである。
d小括
したがって,本件は,①実施許諾を受けないで代替技術を使用する
企業の実質的な存在,②実施権は受諾したが代替技術を実施する企業
の存在,③当該代替技術は消費者にとって技術的効果において差はな
く,価格においてより安価である事実,④特許権者である一審被告も
こうした代替技術を採用せざるを得なかった事実から,上記三菱電機
事件判決の判断基準によっても,その②ないし③に該当し,実施料収
入のほかに自己実施からの独占の利益を認めるべきでない事例に該当
することは明らかである。
(ウ)事実認定の誤り等
しかも,原判決は,本件の具体的な事実の認定に関しても,制限的ラ
イセンスポリシーについて事実に反する認定を行っている。
例えば,特許庁における異議申立を行ったマックス社が,特許異議不
「」成立後に一審被告からOEM供給を受けた状況を警告による権利行使
とみなしているが,これも特許制度の運用の実務及び企業の合理的なビ
ジネス判断の通常からみて,およそ根拠のない不合理な推測である。
マックス社は,既に知られていた競争技術(カシオ社・キングジム社
と同様なノンラミネート)で自社製造を行う決定も,そうせずに実施許
諾を受けることも,製造を委託することも,いずれも選択可能であった
が,既にカシオ社・キングジム社が席巻している市場において大量販売
を見込めないマックス社は自己で製造を行わず,一審被告等にOEM委
託をしたものであって,これは企業のビジネス決定として常識的なもの
であり,これを一審被告の「制限的ライセンスポリシー」の根拠とする
ことはできない。
また,原判決は,米国クロイ社についても制限的ライセンスポリシー
で実施許諾契約を締結していないと認定するが,これはクロイ社が一審
被告の販売したラベルライター本体に使用する補給用のテープカセット
の製造販売を認めなかったにすぎない。もちろん,こうした補給品の他
社による製造販売の拒否は,一審被告がテープカセットについて多くの
特許(一審原告らが発明者ではない)を保有していたからこそ可能にな
ったものであり,本件各発明の抑止力行使の結果ではない。
なお,原判決は,一審被告が単にカシオ社・キングジム社の両社との
契約が過去の免責を含むから契約前の自己実施からの独占の利益を考慮
すべきではないと主張したかのごとく整理しているが,誤りである。一
審被告は,明示的に,上記の代替技術の存在,実施権者が代替技術を使
用し第2・第5発明を実施していない事実,自社も代替技術を採用した
,。事実を自己実施からの独占の利益の不発生の根拠として主張している
イ自己実施による超過売上高の算定―想定実施権者のシェアについて
(ア)いわゆる「ラミネート発明」
a原判決は,第2発明,第5発明,海外特許1ないし3を一まとめに
して「ラミネート発明」とし,国内について平成11年支払分まで本
体分の30%,テープカセット分の25%,海外について同時期に本
体分の20%,テープカセット分の16%を最高として,極めて高率
の超過売上高を認定する。その理由として原判決は「ラミネート発,
明は優れた耐久性を有しているから,被告が開放的ライセンスポリシ
ーを採用すれば,実施許諾を求める企業が相当数あったと推認でき,
この点は,特に国内分におけるOEM生産の割合が極めて高かったこ
とから裏付けられるところ,一審被告は,国内においてはラミネート
発明を含めた実施許諾の申入れを拒絶し,平成14年までラミネート
発明への他社の参入を許さず,海外においても,ダイモ社に対し速や
かに権利行使を行い,在庫の販売のみを許したものである。そして,
上記超過売上高の認定は時間の経過とともに非ラミネート方式の研究
開発が進展してきたことやキングジム契約等が締結されたことを超過
売上高の割合の減少に反映させたものである(原判決228頁2行」
~10行)と判示する。
bしかし,上記判示からも明らかなように,原判決は,個々の発明の
構成要件該当性や技術的評価を行わず,あたかもラミネート発明とい
う概念に技術的・実用的・商業的に価値の高いものがあるかのように
認定している点において,基本的な不合理性がある。
(a)例えば,原判決は,第5発明も海外特許1も無効理由があると
認定しながら,これらを含めた「ラミネート発明」の価値を論じて
いる。また,一審被告がダイモ社に対して権利行使をして和解契約
に至った対象の権利は,そもそも海外特許1ではないことは,一審
被告が早い段階から指摘し立証してきたものであるのに(乙40の
1・2,上記の判示においては,あたかも海外特許1が行使され)
たかのように述べている。無効性のある海外特許1により権利行使
ができるはずもないし,これに対しダイモ社が対価を支払うはずも
ない。
(b)また,一審原告らのラミネート発明が優秀な技術であり,平成
14年までラミネート発明による他社の市場参入を阻止したとの認
定も,それではカシオ社やキングジム社が平成4年にノンラミネー
ト技術のラベルライターを発売でき,しかも直ちに一審被告を上回
る販売高と市場占有率を得られた理由を全く説明できない。この事
実のみを見ても,一審原告らのラミネート発明を構成する(日本及
,),び米国では各2件欧州ではわずかに1件の特許をもってしては
日本においてはカシオ社・キングジム社の,欧州においてはダイモ
社のラベルライターの営業を抑止できなかったことが示されてい
る。
(c)耐久性等の性能の相違については,一審被告がなんとか商品の
差別化を宣伝し,製造コストからくる価格の相違を説明しようとし
た努力の現れであり,だからといって一審原告らが,使用上の性能
の差及びその結果として営業上の成功を証明したわけでもない。問
題は,ラミネートテープが消費者からみて,価格の差を越えて,購
入意欲をそそるかという問題であって,仮に他社の製品の性能が消
費者から見て劣等であれば,キングジム社が一審被告からのOEM
取引を縮小してセイコーエプソン社からのOEM供給に主体を移す
はずもなく,また,カシオ社等の製品の売上高が一審被告を凌駕す
るはずがない。事実は,ラミネートテープとノンラミネートテープ
の構成の相違が消費者に与える影響は顕著ではなく,このためM型
の製造販売を行っており,その販売台数を伸長してきたことは,原
判決も認定するとおりである。
(d)さらに,カシオ社・キングジム社の競争業者が実施許諾を受け
ながらラミネートタイプに切り換えなかったのは,それだけの技術
的・商業的な意味が見出せなかったからにほかならないし,また,
それ以外のダイモ社等の他社にとっては,カシオ社・キングジム社
・ダイモ社の各社が,いわゆるノンラミネートテープにより充分に
大きな売上高を達成していることをみれば,なにも実施許諾を受け
実施料を支払ってまで,ラミネートテープを選択する必要はなかっ
たものである。
(e)原判決が「時間の経過とともに非ラミネート式の研究が進展し
た」と述べている点も,上述のとおりカシオ社が平成3年に,キン
グジム社が平成4年には非ラミネート式の製品の発売を開始すると
ともに,欧州においてもダイモ社が同様に上記和解に前後してノン
ラミネートタイプの製品を販売し,これらにより平成5年度(平成
4年11月21日~平成5年11月20日)の一審被告の製品の販
「」()売高が約3分の1に落ち込んだという原判決の認定210頁
と明らかに矛盾するものである。
(f)以上のとおり,原判決が,高率の超過売上高は考えられないと
の一審被告の主張を排斥した理由にはいずれも合理性がない。
c一方,カシオ社・キングジム社がノンラミネートテープの販売開始
後10年も経過した時点で一審被告の包括的なライセンスの許諾を受
けた理由は,この時点までに一審被告がテープカセットを中心に膨大
な特許ポートフォリオを確立していたので,上記各社はそのすべての
特許との抵触を回避するコストを負担するより,包括的ライセンスを
受けることにより設計の自由を確保することを選択したものであるこ
とは,電子機器の業界の常識から見て極めて合理的に推測できる。
,,,,しかも両社は契約の前後においてはもちろん現在に至るまで
ノンラミネート方式からラミネート方式に変更したことはないから,
ラミネート方式の特許について実施許諾を受けなければならない必然
性は見出せないものである。この点は海外を含めたラベルライターの
市場シェアの●%以上をノンラミネート方式が占めていることから明
らかである。
d確かに,米国に関する限りは,一審被告の製品が市場において優先
している。しかし,これは米国における一審被告の著しい販売網確立
の努力及び宣伝の成果であることは,一審において詳細に主張立証し
てきたところである(乙68参照。ラベルライターの業界において)
のこうした販売力の相違は,欧州におけるダイモ社の優位,我が国に
おけるキングジム社・カシオ社の優位からみても明らかである。
eなお,一審被告が販売したラベルライター用のテープカセットが他
社により製造販売されず,一審被告が売上げの●%以上を占めるテー
プカセットの販売を維持できていることは,一審被告がテープカセッ
トに関し,国内及び海外において多くの特許権・実用新案権を確立し
維持していることが主たる要因である。また,テープカセットの製造
技術が,例えば録音テープカセットに比較して,著しく高度な技術を
要するために,模倣者が製造し難いということも大きな原因となって
(,(,),いるすなわちインクに関する化学組成例えば乙55:別紙1
2種のテープの貼合時のずれ防止などの機械的技術,印字条件との整
合性などの電子的技術等。)
f以上のとおりであるから,競合技術により市場が飽和している技術
分野において,無効の権利も含め「ラミネート発明」という具体的な
特許を離れた概念で一審被告の発明を把握し,高率の超過売上高を認
めた原判決の認定及び判断に合理性がないことは明らかである。
原判決の根拠は,結局制限的ライセンスポリシーであったというこ
とに尽きるが,ここでの問題は,市場の状況,とりわけ,競争技術の
存在とその強さからみて,また一審被告及び競争業者を含めての市場
の飽和度からみて,他の新規の参入者があり得たか,またその場合に
いわゆるラミネート発明に基づく実施許諾を希望し得たか,その場合
新たなライセンシーがどの程度の販売高(シェア)を確保できたか,
という事実関係に基づく判断を必要とするものであり,もともと概念
が不明確で恣意的な判断に流れやすい「制限的ライセンスポリシー」
か否かによって決定されるべき問題ではない。原判決は,かかる基本
的な判断基準において,合理性に欠けるものといわざるを得ない。
(イ)第1発明
,,.,原判決は第1発明については本体分について1%から05%の
テープカセットについて5%から2.5%の超過売上高を認定する。
しかし,第1発明は,押絵のように文字等を対象物に擦り付ける方式
に関するものであり,旧来からのインスタントレタリングと同様に用途
が極めて限られており,わざわざ実施許諾を得てまで必要とする技術で
はない。
この事実は,一審被告もキングジム社もカシオ社も,単に品揃えのた
めに提供していただけであり,現にインレタテープは,もともと売上げ
も少なく,キングジム社は既に販売を取り止めていることは,原判決も
認定するとおりである。こうした発明について新たに実施権の許諾を希
望する企業があるとは思えない。原判決は,制限的ライセンスポリシー
を唯一の理由とするようであるが,市場の必要性の不存在が重視される
べきであり,数値的には小さいとはいえ,原判決の超過売上高の認定は
恣意的であり合理的な根拠を有しない。
ウ「ラミネート特許」の他社への実施許諾について
(ア)ラミネート特許の実施許諾
一審原告らは,ラミネート特許は他社に実施許諾されておらず,した
がって,ラミネート特許に関して一審被告は「非ライセンスポリシー」
を採用していたものであり,一審被告はラミネート技術を門外不出の独
自技術としてだれにも許諾していないなどと主張するが,原判決が認定
するとおり,一審被告はカシオ社に対してもキングジム社に対しても
ラミネートタイプのラベルライターについて実施許諾をしているもので
ある。
(イ)カシオ社,キングジム社との実施許諾契約
aまず,カシオ社との契約に関しては,●●(省略)もし,カシオ社
が実施するのであれば,ラミネートラベルタイプの製品を製造販売で
きたことは明らかである。
b次に,キングジム社との契約に関しては,●●(省略)かかる事実
は,キングジム社に対する契約の解釈について原判決の認定及び一審
被告の主張が正しいことを示すものである。
さらに,一審原告らは,ラベルライターの国内販売に関して,売買
契約上,一審被告は国内販売することを制約されていたと主張し,乙
55・添付資料45の第7条を引用し販売権の特約として乙注,,「(
)(),()・一審被告及び丙注・ブラザー販売は甲注・キングジム社
が本件製品を昭和64年10月31日までに10万台購入することの
見返りとして,本件契約の記名捺印の日から昭和64年10月31日
までの期間中,本件製品並びに本件製品と意匠の類似した製品を甲以
外の第三者に販売しない」と明記されたことを指摘する。。
しかし,製造物納入契約の実務上当然に理解されることであるが,
上記規定は,キングジム社向けと同一仕様・同一外観の製品を一審被
告が第三者(ブラザー販売を含む)にOEM供給することを禁止する
趣旨である。同じ国内市場で同一のデザインの製品が異なるブランド
で販売されると購入者に出所の誤認混同を生ずる恐れもあるから,契
約に際して当然に規定される条項にすぎない。換言すれば,上記規定
の下でも,キングジム社向けの仕様と外観が異なるラベルライターで
あれば一審被告はいつでも自由に製造販売できる規定であり,こうし
た国内販売をも制約する内容ではなかった。
したがって,実施許諾の有無に関する限り,原判決の認定に誤りは
ない。
(ウ)G陳述書(甲180)
一審原告らが提出したG陳述書(甲180)には「関係者が一番の,
リスクとして認識していたのが,ブラザーのラミネート特許が2007
年以降に切れるということでした」との記載がある(10頁。。)
確かに一審被告のラミネートタイプの製品は他社が現実に販売してい
る製品との差別化のため一審被告にとって大切であったことは事実であ
るが,ラミネート化の技術は,多くの関連する特許群や製造技術の総合
から成るものであり,特定の特許発明を指すものではない。また,特許
期間はいずれ満了するものであるから,キングジム社やカシオ社などの
他社がどうしてもラミネートタイプのラベルライターを製品に加える必
要がある場合には,前記契約に従い実施料さえ支払えば実施できたので
ある。
したがって,カシオ社やキングジム社がラミネートタイプの製品を扱
わないで推移してきたことは,今更一審被告製品と同じタイプの製品を
販売してもPR効果がなく,テープカセットの種類が増えるだけ販売店
での取扱いが煩雑となるにすぎないこと等から,その製品化に魅力を見
出せず,積極的にラミネートタイプの製品に乗り出さなかったことを示
すことは明らかである。
なお,キングジム社についていえば,一審被告によるOEM製品(ラ
ミネートタイプ)から他の会社(セイコーエプソン社)によるOEM製
品(ノンラミネートタイプ)へ取扱いの中心を転換したものの,一審被
告からのOEM購入は継続していたのであるから,真にラミネートタイ
プのラベルライターが市場の要求に合致しているのであれば,セイコー
エプソン社からのノンラミネートタイプの製品の販売数量に比較して,
一審被告からのラミネートタイプの製品の販売数量が少なくとも互角以
上であったはずである。それにもかかわらず,セイコーエプソン社から
のノンラミネートタイプの製品の販売数量が圧倒的に大きかったという
事実は,キングジム社がノンラミネートタイプのラベルライターの商品
力に満足し,販売戦略上ノンラミネートタイプのラベルライターの販売
に注力したことを裏付けるものである。換言すれば,一般消費者は,作
製されるラベルがラミネートタイプであるかノンラミネートタイプであ
るかを意識せずに購入しているのであり,販売力さえあればいずれのタ
イプの製品でも販売数量を確保できることが明白に示されているのであ
る。
以上のとおり,ラミネート発明は他社に実施許諾されてないとの一審
原告らの主張が根拠のない憶測によるものであることは明白である。
(エ)マックス社侵害品に関する主張に対し
マックス社の製品が第2及び第5発明を実施している可能性があると
して特許庁に対して優先審査を申請したことはあるが,特許請求範囲を
補正して特許登録された前後において,一審被告がマックス社に対して
警告書を送付したことはない。マックス社が自社で製造をせずに一審被
告からOEM供給を受けたのは,自社開発及び製造設備投資等のリスク
を回避する判断と選択をしたからにすぎない。
エ一審被告製品の優位性について
(ア)発明実施品は耐久性,耐候性,耐薬品性,透明性,見栄えの面で圧
倒的な優位性を持つとの主張に関し
一審原告らは,一審被告製品は他社の製品に比し耐久性等の品質上の
優位性を有する旨主張している。
しかし,一審原告らが指摘するラミネートタイプのラベルテープの優
位性は,本件各発明から直接導かれる帰結ではない。むしろこうした優
位性は,一審被告がワープロ用等のテープ化・カセット化の技術の蓄積
に始まり,本件製品自体と製造技術の開発・改良に努めた成果であり,
一審被告の貢献として評価されるべきものである。
しかも,第2発明,第3発明,海外特許1~3は,実質的にテープの
「印字装置」に関する発明であることは明白であり,したがって,一審
原告らが称する「発明実施品」とはテープ印字装置(ラベルライター本
体)自体である。それにもかかわらず,一審原告らは,あたかもラミネ
ートのテープ自体が一審原告らの発明であるかのごとき主張を繰り返し
ており,失当である。
(イ)ラミネート式であること自体の優位性に関し
第2発明,第3発明,海外特許1~3に記載されているラミネートタ
イプのラベルの構成は出願前に公知であったものであり(乙165,乙
11の5),その製造方法も既に提案されていたこと,したがって,上
記の本件発明はラミネートタイプのテープ自体を特徴とするものではな
く,ラミネートタイプのテープを作製するための限定された具体的構成
を特徴とするものにすぎないものであることは,既に主張したとおりで
ある。
したがって,一審被告が「自社の排他的なラミネート技術によって,
市場トップシェアをもたらしている」としているのは,一審被告が保有
するラミネート技術(テープカセットを含む)に係る多数の権利と製造
,。技術を総称しているのであり本件各発明に限定しているものではない
(ウ)ラミネートテープのコストに関し
ノンラミネートタイプのラベルを作製するために必要なテープ類は,
裏面に粘着層が塗布された被記録テープ(剥離紙付)とインクリボンの
2種類であるのに対して,ラミネートラベルを作製するために必要なテ
ープ類は,被記録テープと剥離紙付両面粘着テープとインクリボンの3
種類であり,生産数量等の同一条件にて比較するならばラミネートタイ
プのラベルのコストが高くなることは明らかである。
一審被告は,こうしたラベルのコスト競争力を向上するために「P,
-touchカートリッジの内製化」プロジェクトを立ち上げ,記録テ
ープ(透明テープ)及び両面粘着テープをそれまでの小巻状態での購入
から原反での購入に切り替え,スリッタによる所定幅への裁断加工,ワ
インダによる所定テープ長への小巻加工を社内に取り込むことによりコ
ストダウンを図り,さらに,加工付加価値の極めて高い両面粘着テープ
の研究を重ね,最終的に塗工設備を社内に導入して剥離紙付両面粘着テ
ープの内製化に成功した。これにより,社内で広幅原反として製造され
る剥離紙付両面粘着テープ,広幅の原反にて購入される記録テープ(透
明テープ)及びインクリボンのすべてについて,それら原反以降の加工
を社内にて行うことにより小巻テープ類が生産され,協力工場にて製造
されたカセット部品とそれら小巻テープ類が,社内設備として開発され
たカセット自動組立てラインに投入され,原価が大幅に低減されたテー
プカセットの内製化が実現したのである。
その結果,単純比較すると製造原価の高いラミネートテープカセット
が,製造原価の低いノンラミネートテープカセットに近い原価に抑えら
,。れコスト競争力の向上と付加価値の社内取込みが実現したものである
いずれにしても,こうしたコスト削減努力は,一審被告の継続的な経営
及び製造の努力の成果であり,これを第2,第5発明等に結び付けよう
とする一審原告らの主張は本質を把握しておらず,失当である。
(エ)ラミネートラベルの用途に関し
一審原告らは,原判決がラミネート式でなければならない市場規模を
過小評価していると主張する。
しかし,一審原告らが必要性があると主張する耐擦過性,耐薬品性,
耐候性(紫外線で退色しにくいこと,耐熱性等は,ラミネートタイプ)
のラベル自体の特徴であり,本件各発明の特徴ではない。既に述べたと
おり,本件各発明と同一構成を有するラミネートタイプのラベル自体は
公知(乙165,乙11の5)であり,第2,第5発明は,そのような
ラミネートタイプのラベルを作製するための具体的構成を構成要件とす
る限定された装置の構成にすぎないものである。
換言すれば,一審原告らは,第2,第5発明がラミネートタイプのラ
ベルの作製とそのテープカセットのすべてに及ぶかのように主張するも
のである。
(オ)他社の類似ラミネートラベル作製機に関し
一審原告らは,クロイ社の「DuraType240」及びキン
グジム社の「テプラJETJCR770」を取り上げて,ラベルの不
透明感を含む品質の劣勢で撤退した商品であるとか,わずかしか売れず
に撤退した商品である旨主張する。
しかし,これらの商品は技術的・品質的には一審被告のラミネートタ
(),イプのラベルライターと遜色ないもので乙95・印字サンプル参照
ビジネス市場を狙ったが故に装置本体が大型化し高価格となり,販売戦
略も相まって販売台数が伸びなかったものである。
しかも,クロイ社は,その後一審被告からのOEM購入したラミネー
トタイプのラベルライターを販売したが,この一審被告が製造したラミ
ネートタイプの製品も売上げが伸長しなかったから,クロイ社の売上げ
不振はクロイ社の有する販売網が一般消費者及びオフィス向けに適して
いなかっただけのことであり,製品の品質によるものではない。
さらに,装置本体のサイズについては,クロイ社の「DuraTy
pe240」に採用されたラミネートラベル作製機においても,小型
化は当然に可能である。すなわち,一審被告のラベルライターのテープ
カセットの構成において,記録媒体として裏面に剥離紙付着色粘着層を
設けた透明テープを用い,そのテープ表面に正像印字後にその印字面を
覆うカバーテープとして透明粘着層を有する透明テープを用いれば,一
審被告のラベルライターと同じサイズの装置本体となることは自明であ
る。
なお,前述のとおり,一審被告が供給したラミネートタイプの製品と
セイコーエプソン社が供給したノンラミネートタイプの製品の両者を販
売してきたキングジム社についても,一審原告らが主張するようにラミ
ネートタイプのラベルライターが市場の要求に合致しているのであれ
ば,キングジム社はセイコーエプソン社からのノンラミネートタイプの
製品の販売数量に比較して一審被告のラミネートタイプの製品を,互角
かそれ以上販売したはずである。それにもかかわらず,ノンラミネート
タイプ製品の販売数量が圧倒的に大きいという事実は,消費者が,作製
されるラベルがラミネートタイプであるかノンラミネートタイプである
かは意識せずに購入しており,そのいずれのタイプの製品も販売者の販
売力により販売数量を確保できるということが合理的に推認されるもの
である。
オ製造・販売地別の売上げについて
(ア)国内製造販売分
a原判決の誤り
原判決は,特許法101条2号の間接侵害規定が平成14年法律第
24号による特許法の改正により設けられ,同規定に経過措置が設け
られていないことから,平成15年1月1日の同改正法施行よりも前
の行為には排他的な効力が及ばないにもかかわらず,これを明確に区
別することなく同規定が該当するかのように判示する点で,誤りとい
わざるを得ない。
この改正の理由の一つとして「この改正前の間接侵害規定につい,
ては「~にのみ使用する物」の「のみ」という要件が厳格に解釈さ,
れると,間接侵害が認められにくいとの問題点が指摘されていた」と
いうことが立法関係者によって明らかにされている(特許庁総務部総
務課制度改正審議室編「平成14年改正産業財産権法の解説」23
頁。すなわち,同改正による2号の追加によって,これまでより間)
接侵害の認められる範囲が広くなったことは明らかである。
また,これを特許権者以外の当業者の側からみれば,これまで特許
法101条1号の「のみ」に該当するといえない限り,発明の全部を
実施していない物の製造・販売を自由になし得たのに,2号の追加に
より「発明による課題の解決に不可欠」なものであるか否かについ,
ても検討しなければならなくなったものであって,明らかに市場に対
する抑制は異なっている。なお,特許法101条1号の「のみ」に該
当するかどうかについては,これまで数多くの裁判例が蓄積されてお
り,当業者にとってその判断は必ずしも困難なものではなかった。
そして,本件においては,この2号の適用の余地のないラベルライ
ター本体及びテープカセットの売上げは,決して小さなものというこ
とはできない。
なお,原判決は,後記カのとおり,相当因果関係を有するテープカ
セットあるいは本体の売上高を考慮すべきであると判示しており,前
記間接侵害の認定がこれら自己実施による超過売上高の算出や,相当
実施料率の決定に具体的にどのように考慮されているのか不明であ
る。このような判断方法が不当であることは,後記カのとおりである
が,いずれにしても,上記のような特許法101条2号に関する判断
の誤りないし遺脱が,原判決の自己実施による超過売上高の算出や,
相当実施料率の決定についての認定判断に影響を及ぼしていないはず
はなく,再度,正確な認定に基づいて,これらを判断すべきである。
b一審原告らの主張に対し
一審原告らは,本件各発明について,実績を用いて直接侵害にも間
接侵害にも該当しないようにした製品の市場が,国内売上げのどの程
度の割合となるかを算出するが,その方法は恣意的であり,ミスリー
ディングである。
(a)ラミネート発明
一審原告らは,第2発明及び第5発明のいずれにも直接・間接侵
害とならないテープカセット(クリアタイプ)が国内売上げの●%
程度しかないと推測し,さらに第1発明については,転写テープの
売上げのほとんどはTC型のものであることを前提として,平成1
4年以前の実績でいえば直接侵害にも間接侵害にも該当しないよう
に間隙を縫って参入できる場合はほぼ0%であると主張する。
しかし,平成14年以前についていえば,少なくともテープカセ
ット中,クリアタイプのTX及びTZ型のテープカセットが第1発
明ないし第5発明の直接侵害にも間接侵害にも該当しないものであ
ることは原判決も認めるところであり,一審原告らも争わないとこ
ろである。したがって,他社が第1発明ないし第5発明に触れない
ようにするためには,単に一審被告が販売しているクリアタイプの
TX及びTZ型のテープカセットと同一のものを選択すればよかっ
たのである。
しかも,クリアタイプのTX及びTZ型のテープカセットの販売
数量は,一審原告らがいうような極めて少ない割合ではない。すな
わち,消滅時効により本件各発明が消滅する基準時期とされた平成
4年以降のクリアタイプ以外のタイプを含むTC,TX及びTZの
各型のテープカセットの売上げを全世界で見てみると,同年当時に
はTCタイプの売上げは大きいものであったが,その後一貫してか
なり急速にTC型の売上げが減少し,これに反して特にTZ型の売
上げが増加しており,例えば,平成9年にはTC型が●%に対し,
TX及びTZの合計が●%と,双方の割合は逆転し,平成14年に
,,。はTCが●%に対しTX及びTZが●%を占めるに至っている
そして,この期間における各型の総売上げを対比すると,TX及び
TZの合計が●●円に達し,総売上げの●%に達する。このうちク
リアタイプの割合をそれぞれ一審原告らが主張するように●%と考
えたとしても,●●万円,全体の●%(●●)である。これは明ら
かに有意な数値であり,いわゆるコンパチ〔compatible〕品(互換
製品)の製造業者が狙いを付けても不思議ではない。平成4年当時
にコンパチ業者がコンパチ品の販売を企画することを考える場合に
は日本国内販売にのみ狙いを絞ることは考えられないから,全世界
における売上げを見ることが妥当であるが,上記の傾向は日本国内
に限定しても同様であった。
これに対し一審原告らは,第2発明については,これを回避でき
るクリアテープの売上げのテープカセット全体に対する比率を挙
げ,他方,第5発明については,これを回避できるラベルライター
本体の売上げの全体に対する比率を挙げて,これを乗じて得られる
数値が,第2発明及び第5発明を回避できる実際の市場であるかの
ように主張する。
しかし,ここには,明らかな誤りがある。すなわち,第5発明に
関しては,例えばTX及びTZ型のテープカセットについて間接侵
害が成立しない以上,他社は,TX及びTZ型を使用可能なすべて
のラベルライター用のTX及びTZ型のテープカセットを製造,販
売することが可能となるのであって,第5発明を回避できるラベル
ライター本体にのみ使用されるTX,TZ型のテープカセットだけ
しか販売できなくなるわけではないため,第5発明を回避できるラ
ベルライター本体のラベルライター本体全体に対する市場の割合を
出してみても,何らの意味もないからである。
(b)第1発明
第1発明については,一審原告らの主張によっても,TX及びT
Z型のテープカセットが平成14年以前に同発明の直接侵害・間接
侵害に該当するものではない。そうすると,上記第5発明と同様,
第1発明についても,他者は自由にTX及びTZ型のテープカセッ
トを販売することができ,すべてのTX及びTZ型のテープカセッ
トの売上げが,第1発明の特許権に基づく排除効による保護なしに
なされたものというべきである。
したがって,第1発明についても,実績でいえば,直接侵害にも
間接侵害にも該当しないように間隙を縫って参入できる場合はほぼ
0%であるなどという一審原告らの主張は理由がない。
(c)第3発明
第3発明についても,テープカセットについては,以上と同様に
考えることができ,一審原告らの主張には理由がない。
(イ)海外向け製品
テープカセットの輸出はそもそも我が国の本件各特許の間接侵害を構
成しないものであるから,かかる輸出分について日本国内の製造に関し
て間接侵害に基づく実施を認めることもできない。
すなわち,仮に,テープカセットが日本国内においてラベルライター
と組み合わされた場合に我が国の本件各特許との関係で特許法101条
1号又は2号の間接侵害を構成する物であったとしても,このテープカ
セットが日本国内において専ら海外輸出用として製造され,輸出される
ものであって,日本国内において販売されてラベルライターに組み込ま
れることにより我が国の本件各特許発明が実施されることがないとすれ
ば,日本国内において我が国の本件各特許権が侵害されるおそれはない
から,このようなテープカセットの製造,輸出のための譲渡行為が特許
法101条1号又は2号の間接侵害に該当するものと評価することはで
きない。
このことは,学説・裁判例において認められているところである(大
阪地裁平成12年10月24日判決・判例タイムズ1081号241頁
〔製パン器特許事件,大阪地裁平成12年12月21日判決・判例タ〕
イムズ1104号270頁〔ポリオレフィン透明剤事件,同事件の控〕
訴審判決である大阪高裁平成13年8月30日判決・平成13年(ネ)
第240号。)
ところで,一審被告の米国・欧州等向け輸出用のテープカセットは,
海外各国の被告子会社等から受注を受け,一審被告の製造部・生産管理
(旧工務部)において海外からの受注に合わせて生産計画を立て,製造
後,名古屋港の名四倉庫において,国内向けテープカセット(戸部下倉
庫保管)とは区別して保管され,一審被告から各国に輸出されるもので
ある。したがって,海外向けテープカセットは,海外向け専用として製
造され,その後,日本国内における他の業者に譲渡・販売されることな
く,すべて輸出に供されるものである。
そのため,海外向けテープカセットが,日本国内において,本件各特
許にかかるラベルライターと組み合わされて使用される可能性は全くな
い。
したがって,仮にテープカセットが,日本国内においてラベルライタ
ーと組み合わされたとすれば,我が国の本件各特許権との関係で,特許
法101条1号又は2号の間接侵害を構成する物であったとしても,一
審被告が日本国内において米国のみならず,欧州を含むすべての海外向
けとして製造しているテープカセットの製造,輸出のための譲渡,輸出
が,我が国の本件各特許権の間接侵害を構成することはなく,この間接
侵害に基づく一審被告の実施を認めることはできない。
このことによって除外されるべきテープカセットの売上げは,総額で
約●●円(日本生産の輸出用テープカセットの●%)となる(原判決の
算定方法によった場合。)
したがって,一審被告の製造する輸出用の単体のテープカセットを自
己実施による超過売上げの算定根拠として使用した原判決の認定は,明
らかに誤りである。原判決が誤って算定の根拠として使用したテープカ
セットの売上げは,総額約●●円となる。
(ウ)特許不存在国で製造され,特許不存在国へ輸出された販売高
a特許権の存在しない中国で生産され,同様に特許権の存在しない国
に販売された売上分は,いかなる自己実施の計算からも除外されるべ
きである。
その額は,ラベルライター本体については約●●円(●%,テー)
()()プカセットについては約●●円●%の合計約●●円全体の●%
である。
bこれに対し一審原告らは,従来日本国内において一審被告が生産し
た本件各発明の実施品について,超過売上高を発明の対価算定の根拠
とすることができたにもかかわらず,これを中国に移管したことによ
り,日本国内において他社は相変わらず実施を制限されたままである
のに,直ちに一審被告の従来の国内生産分の売上げを算定の基礎とで
きなくなることが不当である旨主張する。
しかし,一審被告が中国へ生産シフト後においても独占の利益を得
ているかどうかは,中国における生産・輸出に独占の利益が存在する
かどうかによるところ,一審被告は,中国においては特許による市場
の独占という保護を受けることなく製造・輸出をしなければならない
ため,特許権の排他的効力に基づく独占的利益,自己実施による超過
売上げを全く得ることができない。
なお,日本国内の同業他社についていえば,これまでも,特許の存
在しない外国,例えば中国において,自由に本件各発明の実施品を製
造し,特許の存在しない国へ輸出することも可能であったのであり,
一審被告が中国において生産を開始したからといって,これまでと同
様の中国生産,特許のない国への輸出が制限を受けるようになったわ
けではない。
c一審原告らは,日本国内において,日本特許に基づき日本国内の競
合他社を牽制してきたことにのみ注目し,一審被告が中国に生産をシ
フトしたからといって,これまで特許の排他的効力により制限を受け
てきた日本国内の競合他社が,国内において急にその制限から免れる
ようになるわけではない旨主張するが,一審被告の中国への上記シフ
トにより日本国内の競合他社が直ちに日本国内における発明の実施品
の生産を開始することができるかどうかということと,一審被告が,
中国における生産・輸出において,中国における超過売上げを認める
ことができるかということとは,全く関係がない。
d一審原告らは,仮に他社が中国生産を行ったとしても,販売できる
のは主要市場である欧米日本を除く権利不在国のみに限定されるの
で,それでは事業として成り立たないことを,その主張の根拠の一つ
として掲げているが,例えば日本においては間接侵害が成立するよう
なテープカセットが,米国では寄与侵害等の特許権侵害に該当しない
場合があることを利用すれば,これらテープカセットのみを製造し,
間接侵害等による特許権侵害が成立しない国及び特許のない国への輸
出を併せ,相当の事業の実施が考えられる。また,近時の経済の成長
が著しく,人口十億人を超える中国をはじめとする東南アジア諸国の
市場への販売は,特許権による保護も十分でないものの,どの企業も
当然無視できないはずである。
e一審原告らは,中国で行っているのは最後の組立ての部分のみであ
って,実施品本体に使用する専用部品,ラミネート式テープカセット
の生産に必須となる専用テープ,主要部品はすべて日本で製造し,輸
出している旨主張する。
この主張の意味は必ずしも明らかでないが,仮に同主張がいわゆる
「ノックダウン(構成要件(部品)から成る物の発明につき各部品」
のすべてを製造し,これらをまとめて又は別々に輸出し,輸出先で組
み立てて完成品とする場合に,日本国内における生産と実質上同一で
あるとして,直接侵害の対象となるとされるもの。吉藤幸朔「特許法
概説」第13版460頁参照)として,日本国内で実質的に生産され
ているという主張であるとすれば,以下のとおり,そのような実態は
ない。
すなわち,例えばラミネートタイプのテープカセット(商品名「P
-touch)の中国生産についてみると「P-touch」のテ」,
ープカセットの中国生産は,平成11年6月ころから開始され,同年
10月から数量的にも本格的に生産が開始されたものであるが,中国
現地で製造された部品数の製品全体の部品数に対する割合は,同年1
0月ころに約●%,平成12年4月ころには約●%,同年12月ころ
には約●%であった。
なお,平成11年9月以前の当初の2~3か月間,量的にはわずか
であるが,日本から中国へ部品毎に分けて箱詰めされて送られた14
種の部品を中国で組み立ててテープカセットを生産していたことがあ
る。しかし,それですら,14点もの部品を工場において専用に作ら
れた治具を使用して組み立てていたものである。そして,平成15年
10月からは,すべての部品について,中国で生産,加工,調達され
たものを用いて生産している。まして,部品点数のはるかに多いラベ
ルライター本体については,その部品の組立作業だけであっても容易
なものではなく,また,全部品を日本から輸出したこともない。
したがって,中国における生産がいわゆるノックダウンとして,実
質的に日本における生産であると解することはできない。
(エ)米国販売分(消尽論)
a海外特許2及び3はいずれも米国特許であり,本体とインクリボ
ンや印字テープを組み合わせた構成を特許請求するものである。米国
においては,我が国の販売形態,使用形態と同様,一審被告のラベル
ライター本体はまずテープカセットを同梱して販売され,購入者は同
梱のテープカセットの使用が終わった後,補給部品としてテープカセ
ットを購入し使用する。
そして,仮に,当初の販売状態でテープカセットを同梱したラベル
ライターのセット商品の販売がラベルライターを特許請求した米国特
許である海外特許2及び3の実施に該当すると仮定しても,米国法に
おいては,FirstSaleDoctrineにより,最初の販売により当該製
品についての米国特許は消尽し,その後に当該ラベルライター用に販
売された補給用テープカセットの消費者による使用は「修理」と同様
に評価され,特許権の新たな実施とみなされず,したがって,このよ
うな補給用品の販売も新たな特許の実施とみなされず,またその販売
が米国特許法271条(b)項の積極的誘導にも同条(c)項の寄与
侵害にも該当しないものである。
bこの点は,我が国で発表された複数の論文でも詳細に説明されてい
るが(乙150,151の1・2,本件訴訟の対象である一審被告)
のテープカセットと海外特許2及び3の関係について,米国ワシント
ン大学(UniversityofWashington)の知的財産法の専門家である竹
中俊子教授の具体的な鑑定意見(竹中第1鑑定意見,乙149)を得
た。これを要約すると以下のとおりである。
(a)アメリカ特許法271条(a)項は特許権侵害を構成する行為を
列挙するが,特許権者又は実施権者によって正当な権利に基づき特
許発明を実施する製品が販売された場合,その製品に限り,特許権
は消尽し,その製品を使用,販売,輸入等する行為は特許権侵害を
構成しない。この消尽理論は,ファーストセールドクトリンとも呼
ばれ,①問題となる特許を実施する製品(特許実施製品)が適法に
アメリカ国内で販売されること,②特許権者又は実施権者によって
その販売に何らの制限が設けられていないことを条件に,特許発明
の排他権は消尽し,その後,その特許実施製品に関する限り,購買
者を含めた第三者の行為に権利を及ぼすことはできなくなるという
ものである。
(b)次に,アメリカの判例は,適法に販売された特許実施製品に関
しては特許権が消尽するとして消尽理論の適用を認めた上で,一審
被告の行為が特許法上許される修理に該当するか又は侵害を構成す
る再製造に該当するかを判断している。修理が侵害を構成しない根
拠については,消尽理論の当然の帰結として販売後の購買者等によ
る行為に及ばないとするものと考えることもできるが,判例は消尽
理論の適用後,購買者は適法に購入した製品に限り製品全体として
の寿命が存在する限り使用し続けることができるようになるため,
修理する積極的権利を取得するとして説明する。一方,再製造され
た製品は別の物であるため消尽理論の適用対象外となり,この製品
に対する行為は侵害を構成するとされる。この場合,販売された製
品の予測される寿命を全うし使い尽くされたかどうかが問題とな
り,使い尽くされた製品を再生する行為は修理をする権利の範囲外
となり,違法な再製造とされる。
(c)したがって,交換・改造された構成要素の寿命が残りの構成要
素より短い場合,消耗品である場合,又は廉価である場合には,適
法な修理と判断されるのである。米国最高裁判所が別個に特許され
ていない構成要素の交換は再製造とならず,侵害を構成するのは特
許発明全体の再製造に限られると強調し,特許実施製品を適法に取
得した購買者に与えられる修理をする権利を広範に認めたことか
ら,CAFC(連邦巡回控訴裁判所)は,一部の例外を除き,別個
に特許の対象となっていない構成要素の交換・改造については修理
権の範囲内として,侵害を構成しないと判断している。
(d)海外特許2,3の各米国特許は,ラベルライター本体とテープ
カセットが組み合わせられて初めてクレームの構成要素をすべて充
足し,実施製品を構成する。したがって,テープカセットのみを製
造・販売する行為は直接侵害を構成せず,間接侵害を構成するかど
うかのみが問題とされる。間接侵害の成立は直接侵害の存在が前提
とされるが,以下のとおり,テープカセットを購入し,ラベルライ
ター本体と組み合わせて使用する者の行為は,消尽理論又は黙示的
ライセンスの適用により侵害を構成しない。したがって,カセット
テープの製造・販売等が間接侵害を構成することもない。
(e)以上のように,アメリカ特許法の下においては,特許製品の適
法な実施製品の購買者が消耗品であるインクリボンやテープ,ある
いはそのテープカセット等を交換する行為は直接侵害を構成しない
ので,これらの消耗品を交換するカセットを製造・販売する行為は
間接侵害を構成しない。
cまた,上記竹中第1鑑定意見(乙149)に対する一審原告らの批
判を考慮して,同教授により2007年〔平成19年〕12月12日
付けの第2鑑定意見(乙192,竹中第2鑑定意見)が作成されてお
り,これを要約すると以下のとおりとなる。
()(a)米国法において特許権が消尽するかは再製造reconstruction
に該当するか,それとも修理(repair)に該当するかによって決定
されるが「再製造」も「修理」も判例の積み重ねによって形成さ,
れた法的概念であって,通常の口語的な用語例の概念ではない。ま
た,米国において消耗部品の交換に関連して特許の消尽が争われた
事件では,Sandvik事件を除いては,ほとんどの事件で「修理に該
当する」として特許権が消尽すると判断され,交換部品の使用よる
侵害が否定されてきたことが注目されるべきである。この点におい
て,最高裁判所平成19年11月8日判決,知財高裁特別部平成1
8年1月31日大合議判決に代表される我が国の消尽論に比較し
て,米国の消尽理論における「修理」の概念は我が国よりはるかに
広く解釈されて消尽が容易に認められ,したがって侵害が否定され
ている。
例えば,竹中第2鑑定意見(乙192)が本件事例との比較のた
めに引用しているJazzPhotoCorpvITC264F.3d109459USPQ2d,,
1907(FedCir.2001)は,富士写真フィルムのレンズつきフィル
ムユニット(いわゆる使い捨てカメラ)のフィルム入れ替え品に関
する事例であり,被告の行為は「修理」の範囲に属するものとして
侵害が否定されたが,この事件にほぼ対応する「写ルンです」事件
の東京地裁平成12年8月31日判決及びコニカ事件についての東
京地裁平成12年6月6日決定の2件も,撮影済みのレンズつきフ
ィルムユニットのシェルを利用したフィルム入れ替えに関するもの
であるが,米国のJazzPhoto事件とは全く反対に侵害を肯定したも
のである。
このように消尽に関する米国の法理論とその適用は,我が国のそ
れとは大きな隔たりがあることを認識する必要がある。
いずれにしても「消尽」という同じ用語を使用しながらも,そ,
の適用の範囲は,我が国とは明確に異なるものであるので,米国で
のテープカセットの販売と消尽理論の関係については,我が国の間
接侵害論から安易に推測するべきものではなく,適用法である米国
法の解釈を慎重に検討する必要があるので,一審被告は,竹中第1
鑑定意見及び竹中第2鑑定意見により米国法の内容及び本件への適
用を立証したものである。
(b)本件に対する消尽理論の具体的な適用
上述のとおり,仮想的な実施権者が支払うべき実施料の前提とし
て,テープカセットを同梱したラベルライター本体の販売後,その
消耗品もしくは補給部品として販売するテープカセットの販売は,
特許権行使の対象となるか否かという側面から検討するものであ
る。
こうした消尽理論は,米国の判例の累積により判例法として確立
していることは,竹中第1鑑定意見でも竹中第2鑑定意見でも明確
にされている。したがって,一審原告らの,制定法に規定がないと
の事由で軽視する立場は,法律的な議論として到底認められるもの
ではない。
判例により確立された米国の消尽理論は,複数のファクターを参
酌した上で,最終的に「使い尽くされたかどうか」を判断するもの
であり「判例は,通常,これらのファクターのいくつかを組み合,
わせて,適法に販売された特許実施製品が使い尽くされていたかを
事案毎の事実に基づいて,発明の性質や目的,当事者の意図を参酌
して判断している(竹中第1鑑定意見5頁23行~25行。しか」)
も米国の裁判所は「実際には先例の事実,特に発明全体に対する交
換・改造された構成要素の関係について比較し,同種と考えられる
場合には先例の結論を適用している」のである(同5頁25行~2
7行。)
(c)上述した判例法と適用の実態を前提として,竹中教授は,前述
のJazzPhoto事件のCAFC(連邦巡回控訴裁判所)の判示と比較
しながら,本件に対する種々のファクターを検討している(竹中第
2鑑定意見7頁~11頁参照。)
①まず,販売された製品との同一性に関しては,JazzPhoto事件
が「再製造は,特許製品が使い尽くされた後で,本当に新しい製
品を作る場合に限られる」と強調し,さらに「個別には特許の対
象となっていない各構成要素の交換は,一回に一つずつであろう
と,同じ構成要素を繰り返し交換するのであろうと,異なる構成
要素を次から次に交換するのであろうと,いずれも特許製品所有
者の正当な権利の範囲内であると言明している」こと(同8頁③
項JazzPhoto事件ではリサイクル業者がカメラのボディパ),,(
ッケージ)の(a)厚紙によるカバーをはがし(b)レンズと,
一体化したボディ本体の溶接部をあけ(c)巻き取り機構の歯,
車を交換し(d)フィルムカウンターをリセットし(e)フラ,,
ッシュの電池を交換し(f)新しいフィルムをセットし(g),,
本体のこじ開けた部分をテープ・糊付けし(h)新しい厚紙の,
,,カバーをつける作業によりフィルム交換が行われているという
いわば使い捨てカメラのほぼすべての構成要素が交換作業の対象
となった事実を認定した上で,依然として,製品が同一性を維持
しており,かかるフィルム交換作業は再製造ではなく,修理であ
ると判断し,したがって,侵害を否定したものである(同7頁下
8行~8頁6行。)
こうした先例に比較して,本件テープカセットは,ラベルライ
ター本体にはなんら手を加えずに使用を継続することが可能であ
り,個別的には一審原告らの発明の対象ではない透明テープ,イ
ンクリボン,両面粘着テープ,ローラー,テープ搬送路を含むテ
ープカセットを一度に交換するものであり,ラベルライター本体
が同一性を維持していると認定されることは疑う余地がない(同
8頁,④項。)
②構成要素の重要性については,AroManufacturing事件の米国
連邦最高裁判所が「交換される構成要素の重要性によって修理か
再製造の判断をしてはならない」と強調しているため,米国のそ
の後の事例では「構成要素の重要性」を強調した議論がなされて
いない。BottomLineManagement事件でも,修理部分が当該特許
発明の新規性に係わる部分であったが,特許権者の主張は認めら
れなかった。このように構成要素の重要性の議論は,米国裁判所
の判断基準として重要視されていない(同9頁~10頁のⅡ項参
照。なお,JazzPhoto事件のように,一見重要な部分の交換作)
業と考えられるような事例でも,再製造と認められなかったこと
は,本件事例においても「構成要素の重要性」の主張が認められ
るとは思えない(同上。)
③構成要素の寿命
交換される構成要素の寿命が交換されない構成要素より短いこ
とが修理と判断される決定的なファクターになることが多い竹,(
中第2鑑定意見10頁,Ⅲ.①参照。JazzPhoto事件では,交)
換されたフィルムが消耗品であること,ボディがより寿命の長い
ものであることが修理とみなされる決め手になったが(同上,)
本件でもラベルライター本体は繰り返し使用できる長い寿命の構
成要素であり,他方,テープカセットは,透明テープ・両面粘着
テープ・インクリボン等は本質的に消耗部品であり,これらを使
い切るとテープカセットを交換せざるを得ないしたがってJazz。,
Photo事件その他の米国の先例から見て,本件の構成要素の寿命
の相違が,テープカセットの交換は「修理」であり,侵害を構成
しないと判断されるものである。
④構成要素の割合
交換の対象とならないラベルライター本体と交換の対象となる
テープカセットの構成要素としての割合自体は,決定的なファク
ターではないが(同上,11頁,Ⅳ項参照,本件ではラベルラ)
イター本体の所有者は「本体」を主とし,テープカセットを従,
とすることは,常識的な判断に属する。
⑤特許権者と購買者の意図
当事者の主観的な要素は,使い尽くされたかどうかの1ファク
ターとして使用され,このファクター自体は決定的なファクター
を構成しないが,JazzPhoto事件のCAFC(連邦巡回控訴裁判
所)判決のように,特許権者が修理改造を禁止することを製品上
に明示した場合でも,再製造を認めずに修理と認定した事例が多
いものである(同上,11頁,Ⅴ項参照。本件では,テープカ)
セットはラベルライター本体から着脱自在に構成され,テープが
費消された場合には,新たなテープカセットと交換することが特
許権者及び購入者の意図であり,交換を禁止する意図が存在しな
いことは明らかである。
(d)したがって,実施権者の販売したラベルライター本体(テープ
カセットを同梱している)の販売により,同ラベルライターに関し
ては海外特許2及び3は消尽しているものであり,その消耗品用な
いし補給用テープカセットを販売する第三者又は実施権者の行為
を,上記特許に係る発明の新たな実施又は同特許権の侵害というこ
とはできない。
dこれに対し一審原告らは,本件テープカセットの販売に関連する消
,()尽理論の適用は同テープカセットの販売が米国特許法271条b
項の積極的侵害の誘導あるいはc項の寄与侵害以下両者を寄()(,「
与侵害等」という)を構成することに影響を与えないと主張し,米国
における本件テープカセットの販売高は上記条項により超過売上高に
算入すべきであると主張する。
しかし,我が国特許法に基づく間接侵害理論(従属説に従う場合は
直接侵害の存在を要件とするが,独立説に従う場合は直接侵害の存在
を要件しない)とは異なり,米国の寄与侵害等は,常に直接侵害の存
在を必要とするものであり,この点は一審原告ら自身が証拠として提
出した各文献自体から明らかであり,また,竹中第2鑑定意見が詳細
に説明するところである。
寄与侵害等の成立には直接侵害の存在が必要であることは,271
条(b)項の「積極的に特許侵害を誘発した者」という文言の「特許
侵害」の語,及び,同条(c)項の「当該特許の侵害に使用する」と
いう文言の「特許の侵害」の語が,それぞれ直接侵害を定義する27
1条(a)項の「特許を侵害」の語を意味するところに,法文上の根
拠があるといわれている(乙194。それだけではなく,我が国で)
発行されている米国特許法の解説書のいずれにも「寄与侵害等の成立
は,直接侵害の存在を必要としない」という否定的な見解は記載され
ていない。むしろ,以下のとおり,一審原告らの引用した文献を含め
「寄与侵害等の成立には,直接侵害の存在が必要である」と解説され
ているものである。
①甲231文献の291頁「①直接侵害との関係」の「直接侵害が
存在しなければ,本条による間接侵害も成立しないというのが原則
である「我が国の特許法では,間接侵害の成立に直接侵害の存在」,
,」は要求されないというのが通説であり我が国の取扱いと相違する
との記載,同293頁「①直接侵害との関係」の項の同一の記載
②甲232文献の68頁2-4-1-1項の「寄与侵害の基本的要
件は第三者による直接侵害である。第三者の行為が直接侵害を構成
しないなら,誰も寄与侵害者であり得ない」との記載
なお,この文献には「しかしながら,過去数年間に,Paper
ConvertingMachineCompanyv.Magna-GraphicsCorporation,223
USPQ591(Fed.Cir.1984),Procter&GambleCo.v.Nabisco
Brands,Inc.,604F.Supp.1485,225USPQ929(D.C.Del.1985)
から理解されるごとく,この理論はある程度浸食されている」との
記載があるがここで引用されている二つの判決のうち前者Paper,,(
ConvertingMachine事件)は,被告が特許期間満了前に期間満了に
備えて特許装置の一部を製造しテストした上で,特許期間満了後に
出荷し,特許後にユーザーにより組み立てられた事例で,不完全実
施による直接侵害を認めた事例であるまた後者Procter&Gamble。,(
事件)は,被告が,米国特許が発効する直前に,その事実を知りな
がら特許侵害製品(クッキー)を多数の小売店に納入させ,その直
,。後に特許が成立した事例で裁判所は直接侵害を認めたものである
この2つの事例は特許期間の直前・直後に直接侵害相当行為が生じ
た事実関係において寄与侵害を認めたものであるから,上記日本文
献の「浸食された」という表現は直接侵害の存在期間をやや広く解
釈したということを表しているにすぎず,寄与侵害の成立に直接侵
害の存在を要しないと判断したものではない。むしろ,いずれも直
接侵害の遂行が認定されており,寄与侵害に直接侵害の立証を必要
としないという根拠にはなり得ない(竹中第2鑑定意見,6~8頁
⑥参照。)
③甲233文献の64頁「1-3-1直接侵害の証明第一に,
原告は有力な証拠をもって,少なくとも一つのクレームの直接的侵
害が存在することを示さなければならない。まず第一に,直接侵害
がなければ侵害の誘発もあり得ないとの記載同号証66頁1。」,「
-4-1直接侵害が存在しなければならない米国特許法271
条(b)と同様に,直接侵害が271条(c)に基づく寄与侵害を
認定する要件である」との記載
,「()④甲234文献119頁本文1行~5行特許法第271条b
は積極的に特許権の侵害を引き起こさせた者は,侵害者としての責
任を負うものとすると規定している。この規定の下で誘因の責任を
問うには,引き起こされている行為が直接侵害になるとの立証が必
要である」との記載
eなお,一審原告らが445頁ないし447頁のみを提出した甲29
9の405頁本文の下から2行ないし407頁12行(乙193)に
は「寄与侵害又は侵害の誘導が成立するためには,寄与された又は,
誘導された行為は直接侵害を構成していなければならない」と述べ。
た上で竹中第1及び第2鑑定意見が参照しているAroManufacturing,
。,事件の連邦最高裁判所の判決を引用して説明しているこの事件では
自動車の屋根機構に関する特許に基づく実施権を許諾されたジェネラ
ル・モーターズ社が販売した車の所有者は,自分の車を修理する権利
を有するので,特許にかかる屋根機構の交換用布製屋根を使用するこ
とは「修理」に該当するので,消尽理論により直接侵害は成立せず,
したがって,交換用布製屋根を販売する被告には「寄与侵害」が成立
しないと判断したものである。
f以上のとおり,一審被告が米国で行った補給用テープカセットの販
売は,海外特許2及び3の直接侵害にも,侵害の積極的誘導にも寄与
侵害にも該当しないから,少なくとも米国におけるテープカセットの
売上高は自己実施の基礎たる売上高から除外されるべきものである。
原判決の認定手法による場合,かかる米国での売上高は合計約●●
億円に達するものであり,他の要素を原判決の前提のままとしても,
同判決が自己実施における海外でのテープカセットの販売に関し認定
した相当対価の金額の●%(日本を入れて総額の●%)が過剰に計算
されていたことになる。
したがって,原判決には,上記の点において,明らかに法の適用の
誤り及びその結果として相当の対価の認定の誤りがある。
gなお,カシオ社が日本国外のテープカセットの販売について実施料
を支払っているのは,一審被告がテープカセットについての多数の外
国特許権を有しているからであって,海外特許2及び3の存在のため
ではない。
また,現在までのところ第三者(いわゆるコンパチ業者)による,
互換用のテープカセット(コンパチ品)の販売が生じていないのも,
ラベルライター本体についての海外特許2・3が存在するためではな
く,一審被告がテープカセットの構成について多くの特許を保有する
ために,それらの特許を回避しかつ互換性を確保することが困難であ
るためである。仮にテープカセットに関する多くの特許が存在しない
で,海外特許2及び3のみが存在するのであれば,実施権者によるラ
ベルライター本体(テープカセットを同梱)の販売により海外特許2
及び3は消尽するから,第三者が互換性のあるテープカセットを販売
することが容易になり,しかも,一審被告は,海外特許2及び3によ
りそうした互換性のある補給用テープカセットを販売することを阻止
できない。
(オ)米国特許●●号に関する一審原告らの主張に対し
a一審原告らは,米国特許●●号(●●)が一審原告らの発明である
旨主張するが,そもそも米国特許●●号は本件訴訟の対象権利ではな
く,そして何より,以下のとおり,一審原告らの発明に係るものでは
ない。なお,上記米国特許はダイモ契約権利の対応特許であるから,
一審被告の反論は,以下に述べるもののほか,第三者実施(ダイモ社
分)のダイモ契約権利に関して後述する反論がそのまま当てはまるも
のである。
b一審原告らは,大友教授の鑑定意見2(甲312の24~30頁)
に基づき,米国特許●●号の請求項1,3,4,5に係る発明は,一
審原告らの発明が特許となったものであると主張する。
この点,上記大友鑑定意見2は,上記米国特許●●号の上記各請求
項に記載の発明は第3考案及び第2発明に係る発明社内登録用紙乙,(
64の2及び3)に開示された発明を特許請求したものであるという
ものであるが,第3考案及び第2発明に係る発明社内登録用紙(乙6
4の2及び3)には,上記米国特許●●号の上記各請求項に記載の発
明は記載されていない。換言すれば,乙64の2及び3に記載されて
いる内容から米国特許●●号の上記各請求項に係る発明を特許な,,(
いし実用新案登録)出願することは不可能であり,これが一審原告ら
の発明でないことは明らかである。
すなわち,第3考案の内容及び明細書に開示されている技術は,上
記米国特許●●号の対応特許であるダイモ契約権利2(●●)に開示
されている発明とは全く異なるものである。ダイモ契約権利2は,第
3考案の明細書には開示されていない「インクリボン,透明印字テー
プ,両面粘着テープがテープカセット内の3つの収納部にそれぞれ個
別に収納され,その単一のテープカセット内を3つのテープが移送さ
れて,透明印字テープへの印刷と印刷された透明印字テープの印刷面
へのラミネート化がカセット内にて行えるようにしたこと」を特徴と
する新規な技術思想に関わるものである。そして,上記米国特許●●
号がダイモ契約権利2の対応特許であり,その発明が第3考案とは全
く異なることはダイモ契約権利2と同じである。
,(),また第2発明に係る発明社内登録用紙乙64の3の記載では
そもそもインクリボンのみがカセット内に収納され,透明印字テープ
及び両面粘着テープはカセット内に収納されていない。したがって,
インクリボン,透明印字テープ,両面粘着テープがテープカセット内
の3つの収納部にそれぞれ個別に収納されるという技術は,この第2
発明に係る発明社内登録用紙には全く開示されていないのである。
cなお,大友教授の鑑定意見(甲312)11~19頁においては,
第2発明及び第3考案に係る発明社内登録用紙(乙64の3,乙64
の2,並びに「P-touchプロジェクト基本仕様書案(1版」))
(乙55の添付資料11)に記載された内容を基に一審原告らのなし
た発明を認定するとしているが,そもそもこれらにはテーププリンタ
に着脱可能なラミネートタイプのテープカセットに係るカセット化の
技術思想が記載も示唆も一切されていないのであって,この鑑定意見
2は,これらの記載内容を誤って理解するものである。
カ原判決の「相当因果関係」論の誤り
(ア)原判決の相当因果関係論の誤り
原判決は,自己実施による超過売上高を算定するに当たり(216頁
)(),下6~下3行又は相当実施料率の決定に当たり217頁3行~7行
間接侵害の有無にかかわらず,法定の通常実施権に加えて本件各発明の
特許を受ける権利等を承継したことと相当因果関係を有するテープカセ
ット又は本体の売上高を考慮すべきであると判示する。
しかし,超過利益(超過売上げを得たことに基づく利益)の算定方式
は,当該特許の実施許諾を想定した場合に,仮想的な実施権者からどの
ような金額の実施料を受けられるかを仮定的に計算するものとして裁判
所が確立してきた仮定的な算定方式である。その場合,当該特許発明を
直接的にも間接的にも実施しない製品は,そもそも実施料支払の対象と
ならないものであるから,特許請求の範囲に属しない製品を想定して超
過売上げやそこから得られる利益を「相当因果関係を有する売上げある
いは利益」として算入することは絶対に許されない。原判決の上記判断
は,従来の裁判例と基本的に異なるものであり,前提において極めて不
合理である。
なお,原判決における「相当因果関係」による利益の考慮は,平成1
5年1月1日施行の平成14年法律第24号による改正特許法により特
許法101条2号が導入される以前の日本国内におけるラベルライター
本体及びテープカセットが個別には101条1号の間接侵害が成立しな
いという認定との関連でなされたものであるが,対価計算上実質的に最
も大きな影響を与えるのは,前述した消尽論により侵害を構成しない米
国における一審被告の補給用テープカセットの売上げについてである。
(イ)原判決の事実認定
しかも,原判決の上記判断は,明らかな誤解ないし事実誤認に基づく
ものである。
原判決の上記判断の前提となった事実認定を分説すると,以下の①な
いし⑤のとおりである。
①本件被告製品や同業他社のラベルライターは,いずれも専用のテー
プカセットを組み合わせて使用する製品として販売されていること
(216頁,b,(a)2行~3行)
②需要者は,特定のラベルライター本体あるいはテープカセットとを
使いたいと思った場合,それに対応するテープカセットあるいはラベ
ルライター本体を購入するという関係があること(同頁(a)3行~,
5行)
③本体あるいはテープカセットについて間接侵害が成立しない場合で
あっても本件各発明,特にラミネート発明や第1発明を有しない競合
他社が,間接侵害にも当たらないように間隙を縫ってラベルライター
本体だけあるいはテープカセットだけ製造販売に参入することは,採
算性及び将来性の観点から,事実上困難であること(同頁(a)5行,
~9行)
④そうすると,自己実施による超過売上高を算定するに当たっては,
ラベルライター本体あるいはテープカセットには間接侵害が成立しな
い場合であっても,法定の通常実施権に加えて本件各発明の特許を受
ける権利等を承継したことと相当因果関係を有するテープカセットあ
(,)るいは本体の売上げを考慮すべきであること同頁(b)1行~4行
⑤また,超過売上高を第三者から得られる実施料収入の観点から評価
する場合においても,ラベルライターがさほど利益が上がらず,その
後のテープの販売により利益を上げるビジネスモデルにおいては,実
施料率の交渉は,このようなラベルライター本体の販売後のテープカ
セットの販売による利益をも考慮して行われるものであるから,相当
実施料率の決定に当たっては,同様に,ラベルライター本体あるいは
テープカセットには間接侵害が成立しない場合であっても,法定の通
常実施権に加えて本件各特許発明の権利等を承継したことと相当因果
関係を有するテープカセットあるいは本体の売上げを考慮すべきであ
ること(同頁~217頁,(c))
(ウ)原判決の事実誤認
aまず上記①の認定は,各社のラベルライターのカタログ(乙110
~122)のみから各社のラベルライターには専用のテープカセット
が使用されるという認定をしたものであるが,これらのカタログは単
に各メーカーが自己のラベルライター本体とそれに使用される自社の
テープカセットを記載した各社自身の商品説明にすぎない。したがっ
て,これらのカタログは,当該ラベルライターの製造業者が販売する
テープカセット(原判決のいう「専用のテープカセット)以外は使」
用できないことを意味するものではない。
実際には,あるラベルライターに使用され得るテープカセットは,
単に当該ラベルライターに対して形状・サイズ・印字ヘッドと被印字
,,位置など物理的な外形設計が合致すれば充分であるが上記認定①は
かかる事実を看過し,同じメーカーの専用テープカセット以外は使用
できないものとして販売されていると事実誤認したものであり,証拠
に基づかない推測である。
bまた,テープカセットは,特許権等により保護されていない限り,
例えば,本件被告製品のラベルライター用テープカセットとの外形等
に合致する安価なテープカセットが第三者により市場に供給されれ
ば,本件被告製品のラベルライターの購入者が一審被告のテープカセ
ットを購入する必要がない。それにもかかわらず,上記認定②は,こ
うした事実及び可能性を看過ないし論理的にあり得ないものとして排
除し,必ず同じメーカーのテープカセットを購入すると事実誤認した
ものである。
cさらに,上記認定③は,上記①及び②の認定を前提として法律的及
び経済的な判断を述べたものであるが,そもそも論理的には上記認定
①及び②と認定③とは直接的な関係がないと思われる。また,これら
を関係付けても上記認定①,②自体が事実誤認であるから,これを前
提とした③の認定も根拠がないことになる。
それのみならず,上記認定③は,それ自体理解に苦しむ内容の判示
であり,また,明らかに誤った判断である。
まず,上記認定③は「ラミネート発明や第1発明を有しない競合,
他社が,間接侵害にも当たらないように間隙を縫ってラベルライター
本体だけあるいはテープカセットだけの製造販売に参入する」ことが
「採算性及び事業の将来性から事実上困難である」というものである
が,そもそも強力な競合他社であるカシオ社,キングジム社及びダイ
モ訴訟後のダイモ社が製造販売してきたラベルライターは,ラミネー
ト発明を実施せずに,ノンラミネートのテープカセットのみを使用す
(,,)。るものであるこの点は原判決も認定し一審原告らも争わない
したがって,上記競合他社はラミネート発明を実施しないで市場参入
してきたものである。
また,第1発明については,擦り付け型のインレタテープの用途は
狭く販売数量も限られるところから,キングジム社は平成15年5月
に製造販売を中止しており,第1発明ないしインレタテープがラベル
ライターの事業に不可欠ではないことは明らかである。
したがって,ラミネート発明や第1発明は,かかる競合他社に対し
て「採算上・将来性」からも市場への参入の障壁となっていない。
dしかも,ラベルライター本体とテープカセットの種類のかかる関係
は,競合他社に限られず,一審被告の事業においても同様である。
すなわち,一審被告の製品カタログ(乙249)には,最終ページ
,「()」のテープカセットの一覧中にノンラミネートエコノミータイプ
として9種のテープが記載されている「ノンラミネート(エコノミ。
ータイプ」は,テープ裏面に貼り付け層等を予め設け,テープ表面)
に正像で印字するものである。また,一審被告がOEM供給してきた
マックス社のカタログ乙250にはその2枚目中央と下部にノ(),「
ンラミネートテープは,たくさんラベルを作る人にうれしいエコノミ
ータイプです」及び「ラベルをたくさん使うオフィスにエコノミーな
ノンラミネートテープ」の記載が,5枚目の下部には「便利でエコノ
ミーなノンラミネート」等の説明が,6枚目には各テープのリストと
価格表が記載されている。
当然ながら,ノンラミネートタイプのテープをラベルライター本体
に組み込んで使用する場合は,ラミネート発明も第1発明も関係がな
いことになる。
他方,インレタ用テープカセットは,販売数量が極めて少数である
ので,一審被告においても平成12年ころから順次製造を中止してき
ている(TXは平成17年4月にすべて機種廃止され,TZは平成1
9年3月にすべて機種廃止され,その生産は機種廃止の数か月前~半
年前に終了している。)
したがって,ノンラミネート製品を主とする競合各社はもとより,
一審被告の製品をみても,第三者が「ラミネート発明,第1発明を,
有しなくとも(あるいはライセンスを取得しなくても,ラベルライ)」
ター本体とりわけテープカセットの市場に参入することは可能であ
り,本件各特許が参入の法的な障壁になるものではない。こうした第
三者の参入に対する法的な障害は,一審被告が有するテープカセット
を中心とするその他の多数の権利の保有に基づくものであり,第1発
。,明やラミネート発明の存在と因果関係を有するものではないよって
上記認定①ないし③を理由として,第1発明,ラミネート発明と間接
侵害をも生ぜしめないテープカセットの売上げによる利益との「相当
因果関係」を認めた認定④は誤りである。
eなお,原判決の上記認定③における競合他社の意味は不明であり,
一審被告のラベルライター本体に使用するテープカセットの互換製品
(コンパチ品)のメーカーを意味しているのかもしれないが,その場
合でも一審被告の上記主張が該当する。上記のように第1発明の擦り
付け型インレタのテープカセットはもともと用途が狭く,販売量も少
なく,一審被告もキングジム社もその販売を中止しても営業に実質的
な影響を与えないどころかその廃止がコスト削減に役立つレベルのも
のであるから,そもそもインレタ用テープカセットを製造しないでも
(すなわち第1発明を実施しなくても)コンパチ市場に参入すること
は可能である。
また,一審被告のラベルライター本体にもノンラミネートのテープ
カセットを使用することが可能であり,こうしたテープをコンパチ業
者が製造することにはラミネート発明も第1発明も関係ないから,第
1発明やラミネート発明により,コンパチ業者がより安価なノンラミ
ネートのテープカセットを一審被告の製品用に販売することを防止す
ることはできない。この点で原判決の上記認定③が事実誤認をしてい
ることは明らかである。
また,こうしたコンパチ業者がターゲットにするのは,通常システ
ムの本体ではなく補給部品の市場であることは,裁判例や多くの電子
機器(プリンター等)をみるまでもなく明らかである。コンパチ業者
が補給部品のコンパチ市場に参入するのは,電子機器のシステムない
し本体装置自体は構造が複雑であり様々な機能を果たすプログラムも
組み込まれているために,本体装置のコンパチ品の開発・製造にはコ
ストとリスクが多いためであって,コンパチ業者が本体装置の市場に
参入することを想定することは,およそ現実的ではなく常識に反する
想定である。
一方,コンパチ業者による補給部品市場への参入が,そもそも「採
算面・将来性から困難」という③の認定は全くの事実誤認である。原
判決が上記①及び②で認定している「本体のラベルライターと補給部
品のテープカセット」の関係は,多くのプリンターに対するインクテ
ープやインクカセット等の市場を典型として常に存在するものである
が,それにもかかわらず,補給部品のコンパチ市場への参入が絶えな
いのは,間接侵害も成立しない場合には本体を含めた多額の開発コス
トを負担していないコンパチ業者による補給部品の事業は採算上十分
に成立するからである。したがって,上記③の認定が,弁論の全趣旨
からも認定できるとは到底考えられないものである。
ちなみに,一審被告の本件製品用のテープカセットにコンパチ業者
が参入していないのは,本件各発明の存在のためではなく,本件各発
明以外のテープカセットを直接の対象とした多くの特許及びノウハウ
により保護しているからである(キヤノン・インクカートリッジに関
する最高裁判所判決はこうした補給部品側の構成を特許により保護す
ることの意義をよく示している。。)
f最後に,原判決の上記認定⑤は,カシオ社・キングジム社からの実
施料収入についての認定であるが,実施許諾契約の交渉において,実
施権を受けようとする企業が本体販売後のテープカセットが「間接侵
害にも当たらない」場合にも,実施料を支払うことを約すると認定す
ることは常識に反するものであり,かかる認定を支持する証拠はもち
ろん,取引事情その他いかなる根拠も存在しない。キングジム社及び
カシオ社による実施料の計算と支払は,ラベルライター本体,テープ
カセット,スタンプメーカー(簡易印鑑製造装置,その他電子文具)
周辺等に区分して,実施権者による特許の実施の判断に基づき,計算
・支払が行われている。この場合「間接侵害にも当たらないが,実施
料を支払う」という論理は,およそ合理的な利益を追求する企業の判
,。,断に反するものでありかかる考慮は入り込む余地はないもちろん
一審被告はテープカセットの構成を含む多数の特許を保有しているか
ら,これらを包括的に実施許諾を受けたキングジム社・カシオ社が一
件一件の権利の実施を詳細に検討することはしないが(一般には,こ
うした詳細な検討のコストとリスクを避け,設計の自由を確保するこ
とが包括的な実施権取得の目的である,原判決のように「特定の権),
利が間接侵害にも該当しないことを前提にした場合」には,実施料収
入とこうした特定の権利との因果関係を認定することは不当であり,
上記⑤の認定は,明らかな事実誤認ないし誤った判断である。
本件においては,上述のように,包括的な実施許諾を受けたカシオ
社・キングジム社・ダイモ社(ダイモ訴訟後の製品)のいずれによっ
ても,第2発明等のラミネート関連発明は実施されておらず,また,
第1発明のインレタ用テープカセットは製造中止されるなどその実施
が不可欠ではない「競合他社」が本件各発明を回避できることは,。
実際に市場で大きなシェアを占めている上記競合他社3社の製品を見
ても明らかである。
したがって,こうした本件各発明を実施していない競合他社の存在
は,法定の実施権を超えた独占の利益を否定する根拠とすべきもので
はあっても,単に各社が自己の設計による本体とテープカセットの販
売を行っているという事実のみで「間接侵害にも当たらない」補給,
構成部品の販売を「相当因果関係」の名の下に独占の利益に考慮すべ
きではない。
キ販売子会社段階での売上高
(ア)原判決の誤り
原判決は,自己実施分に係る相当の対価の算定に際し,対象売上げを
第三者への販売価格と認定し,一審被告の売上げを販売子会社段階での
売上高に換算するための売上係数を乗算して対象売上げを算定している
が,この売上係数は事実に反するものである。
この売上係数についての誤りを正すために提出したのがWの陳述書
(乙213)であり,この陳述書における売上係数を原判決で認定され
た売上係数と対比させて記載すると,以下のとおりである(なお,下記
以外の海外販売については米国に準じる。)
【本体関係】
日本:●●〔原判決:●●〕
※ただし平成12年4月1日から
欧州:●●〔原判決:●●〕
,,,※ただし海外特許1の指定国であるイギリスイタリアドイツ
フランスの4か国
米国:●●〔原判決:●●〕
【テープカセット関係】
日本:●●〔原判決:●●〕
※ただし平成12年4月1日から
欧州:●●〔原判決:●●〕
,,,※ただし海外特許1の指定国であるイギリスイタリアドイツ
フランスの4か国
米国:●●〔原判決:●●〕
上記のとおり,販売子会社段階での売上高とするための現実の売上係
数は,日本国内販売については原判決に用いられた数値より高い数値で
あり,米国及び欧州販売については低い数値である。特に,テープカセ
,。ットの欧米販売について原判決の売上係数は過大といわざるを得ない
なお原判決は,米国等での販売に関して「販売会社への販売価格はグ
ループ内部でいくらでも調整できる(230頁)と認定するが,あま」
りにも企業会計の適正性制度や外国との移転価格税制の存在を無視する
ものである。我が国の会計基準においても,上場会社であったブラザー
販売(平成11年4月1日以降は連結子会社)に対しては適正な販売価
格でなければならなかったし,米国等子会社にも,売上高を不当に高く
すれば米国の利益を日本に移転したものとして課税されるし,日本から
安値で出荷すれば日本の会計及び税務が問題となることは当然である。
(イ)一審原告らの主張に対し
aこれに対し一審原告らは,一審被告の子会社であるブラザーインタ
(「」。)ーナショナル株式会社以下ブラザーインターナショナルという
が一審被告から海外向けの製品を買い受け,●●のマージンを乗せて
海外の販売会社へ販売していると主張するが,誤りである。
ブラザーインターナショナルは,少なくとも平成2年ころ以降にお
いては,一審被告が日本で製造した商品の輸出手続代行業務(輸出書
類作成・船便手配等)を担当しており,一審被告から海外向けの製品
を買い受け,海外の販売会社へ販売することは行っていない。
bまた一審原告らは,欧州に販売される製品はブラザー・インターナ
ショナル・ヨーロッパ(BIE)へ輸出され,そこから注文に応じて
,。各国の販売子会社へ輸出販売されると主張するがこれも誤りである
BIEは,欧州各国の注文を取りまとめて一審被告に発注書を送付す
るが,製品は上記各国の販売会社等へ直接輸出され配送されている。
。,イギリスに輸出されるのはイギリス販売向けのみであるしたがって
欧州販売会社の値数の●●倍が誤りであるとする一審原告らの主張は
根拠がない。
cさらに一審原告らは,TX関連の全売上げについては子会社である
三重ブラザー精機株式会社の利益を相当対価の対象として加えなけれ
ばならないと主張する。
しかし,一審被告の販売価格・売上高は,当然三重ブラザー精機株
式会社から購入して販売したものも含まれ,三重ブラザー精機株式会
社の製造コスト・利益は,一審被告の仕入価格に含まれ,一審被告の
販売価格に対する製品原価の一部として計算済みのものである。
ク超過売上高の認定と他の権利の寄与について(特許ポートフォリオ)
(ア)原判決の認定
原判決は,本件各発明以外の多数の特許権等の存在とその実施の事実
を認定しながら「…その内容を個々に検討すれば,必ずしも必要性が,
高いとは認め難い権利であり,個々の権利がどの程度他社のラベルライ
,,ターの製造販売を抑え本件被告製品の売上高の増加に貢献したのかは
明らかとはいえない」と認定する(222頁。。)
(イ)原判決の誤り
しかし,第5発明,海外特許1の無効性からみても,第2発明が鏡像
ないし裏文字を印字するいわゆるラミネートタイプに限定されていると
ころからも,第1発明は擦り付けによるインレタテープという旧来の方
式であることからも,第3発明は無効性とともに多くの選択的な編集機
能の一種を構成するにすぎないことからも「その内容を個々に検討す,
れば,必ずしも必要性が高いとはいえない」こと「個々の権利が他社,
のラベルライターの製造販売を抑えたかは明らかではない」ことは,正
に本件各発明にも該当するものである。原判決の,他の権利については
上記のように「その貢献度が明らかではない」と一蹴し,訴訟の対象と
なった権利について超過売上高を安易に認定することは,訴訟を提起す
れば利益を得るという状況を創出するだけであり,合理性のある判断で
はない。
そもそも,かかる他の権利の存在及びその実施の有無は,訴訟の対象
の権利と同一のレベルで認定及び判断を行うべきであり原判決別紙被,「
告保有権利一覧表」に示される多数のテープカセット関連の特許等を含
む,その他の有用な多くの特許群が,超過売上高の割合の一要素として
埋没されるべきものではない。すなわち,自己実施について独占の利益
を算定する場合は,対象特許権の仮想的な実施許諾から得られる実施料
の計算を試みる手法であるから,特許権者(使用者)に他に実施権利が
存在する場合においては,使用者の売上高の達成にはこれらの権利の実
施の要素も含まれているものであり,訴訟対象の権利と同等の貢献度を
有するものとして扱い,超過売上高は,こうした権利の数による割り算
により算定すべきものである。
しかも,原判決自体においても,実施料収入からの独占の利益に関し
ては,包括ライセンス契約からの実施料であることから,当該実施料に
おける本件各発明による寄与度を,他の実施発明を考慮して認定し,実
施料収入を他の権利との間で割り振って計算しているが(争点3,原判
決の240~249頁,こうした計算方法は,仮定的ライセンスによ)
る「実施料収入」を想定する自己実施からの独占の利益の計算において
も当然に行われるべきである。しかるに,原判決は,自己実施に関して
は,こうした他の権利の寄与度を計算していない点において,明らかに
計算方法の誤りがあるといわざるを得ない。
ケキングジム社との共同開発との主張に関し
,(),一審原告らはキングジム社と一審被告との契約甲139を引用し
一審被告はキングジム社と共同開発契約を締結した共同開発関係にあり,
キングジム社に対して独占権行使ができない権利が存在する旨主張する。
しかし,キングジム社と一審被告との取引は共同開発契約ではなく,商
品の製造販売取引であり,甲139の契約も上記取引のための極めて普通
の「取引基本契約書(甲139)にすぎない。例えば,取引基本契約書」
の「第9条(工業所有権等」の1項には「乙(一審被告)は,甲(キン),
グジム社)に納入する製品について,第三者の工業所有権・著作権等の権
利を侵害していないことを保証し,万一,第三者の工業所有権・著作権等
の権利についての侵害問題が発生した場合には,乙の責任で解決する」。
と規定されている。したがって,キングジム社へ納入するラベルライター
とテープカセットは,一審被告が単独で技術開発を行い,特許保証を行う
とともに,その過程において生まれる発明は原則として一審被告が単独で
出願するものであって,基本的にメーカーの技術による相手先ブランド製
品の製造物供給契約である。ちなみに,同条第2項においては「共同で,
なした製品に関する発明・著作物並びにその帰属・利用については,協議
の上取り決める」との例外が規定されているが,実際には,上記2項に。
よりキングジム社との共同出願とされたのは極めてわずかな件数である。
ちなみに,一審被告に限らず,すべての出願は公開されるから,同業者
であるキングジム社は,一審被告の出願公開を見て,共同発明であれば協
議を申し入れて出願人を決定すれば足りることであるが,一審被告はキン
グジム社から出願人についての異議を申し入れられたこともない。
当然のことながら,一審被告が製造する製品の購入者であるキングジム
社が製品の仕様に関する提案を行うことはあり得るが,キングジム社の希
望を技術的に具体化し,その過程で発明があれば,発明として完成して製
,。品に組み込む行為は専ら一審被告の開発技術者が行っていたものである
要するに,単なる願望的なアイディアと発明とは別物で,そのアイディア
を実施できる程度に具現化されたものが発明であり,製品仕様の提案に係
るアイディアは必ずしも発明として完成していないので,アイディア提案
者と発明者とは必ずしも一致しない。したがって,キングジム社からの技
術提案6件に係る発明はキングジム社に対して行使できないものであると
の一審原告らの主張は,要望と発明の関係についての理解を欠如するもの
である。
コ権利存続期間
(ア)本件訴訟対象権利の出願,登録時期及び存続状況等
本件訴訟において対象となっており,我が国の特許(第1ないし第3
発明,第5発明)及び実用新案登録(第1ないし第4考案,並びに海)
外特許1ないし3の存続の状況は,以下のとおりである。
①一審被告においては,権利の継続のためにはその他の管理手続きに
,,費用が生ずることから自ら実施する可能性がないと確認できた場合
無効事由の存在が明らかとなり権利行使が不可能を確認できた場合
等,権利維持の理由がないと判断した場合においては,特許料(いわ
ゆる「年金)の支払を中止し,権利を失効させている。」
②第1ないし第3発明及び第5発明については,いずれも無効事由の
存在が確認されたため,平成17年から平成18年の間に権利を失効
させている。それぞれ権利の失効日は以下のとおりである。
・第1発明:平成17年12月13日
・第2発明:平成18年7月17日
・第3発明:平成17年7月7日
・第5発明:平成18年7月17日
,,③第1ないし第3考案は期間満了で消滅したが第4考案については
不実施で実施の可能性がないとして,本訴が提起される前の平成12
年5月31日に失効させている。
④海外特許1ないし3について,海外特許1のイタリアにおける権利
については,不実施で実施の可能性がないとの理由で,平成10年1
0月27日付けで失効させた。その余の権利については,以前の年金
を権利満了の最終年まで既に支払済みであり,存続している。
(イ)一審原告らの主張に対し
a一審原告らは一審被告が上記措置につき損害賠償をする義務がある
とするところ,同主張が不法行為の主張を追加するという趣旨であれ
ば,そもそも一審原告らは本来正当に対価を請求することができたも
のでないから,理由がない。のみならず,このような主張は時機に遅
れた攻撃防御方法の提出であり民訴法157条1項により却下される
べきである。
bまた一審原告らは,上記の主張を第2発明に関してのみ問題とする
が,前記のとおり第2発明は無効である。仮に有効としても,第2発
明はそもそも「第二のテープ」の基材自体を有色にして「第一のテ,
ープ」を背景としている構成に限定されるものであるから,一審被告
自身が実施しておらず,企業の知的財産のコストの合理化の側面から
見ても,第2発明に関する特許権を維持する合理的な理由ないし必要
はなかったものである。
cさらに一審原告らは,権利を失効させた手続が発明等取扱規程(乙
54の1)に反し,存続廃棄が同規程上決定権限がないP&Hカンパ
ニーのJという一部長によって決済されていると主張するが,誤りで
。,ある上記発明等取扱規程における特許権等の存続廃棄の職務権限は
他の社内規程により,同部長に代理執行権限が与えられていたもので
あり,同部長の決済には何らの社内規程違反はない。すなわち,職務
権限規程(乙310)の「1.6権限の代理執行(2)プレジデン,
ト権限」において「この規程において各プレジデント決裁となって,
いる事項については,特に指定のない限りカンパニー毎に起案者,審
査者,決裁権の代理執行者を決定することができるものとする」と。
規定されており,この規定に基づきラベルライター関連の権利を保有
しているパーソナル&ホームカンパニー(P&Hカンパニー)は「パ
ーソナル&ホームカンパニー職務権限規程内規(乙311)を定め」
ている。そして,この「パーソナル&ホームカンパニー職務権限規程
」,,内規において知的財産権の出願・存続・放棄についての決裁権限
すなわち代理執行者を開発担当部長(2006年当時はJ部長)と規
定されている。
,,。したがって上記権利消滅の手続は社内規程に沿ったものである
dなお,出願した発明を権利化しないと決定した場合や権利を維持し
ない(維持年金を支払わない)と決定した場合の取扱いについて規程
上の違反がないことは原審において主張したとおりであり,一審原告
らから明確な連絡がない限り,一審被告としては廃棄の手続きをなす
ほかなかったものである。
eなお,一審原告らは海外特許については権利が維持されている旨を
指摘するが,これは一審被告の社内決定の時期が国内特許とは異なる
ために生じた状況である。すなわち,欧州特許である海外特許1につ
いては,指定国イタリアに関して,訴訟提起日前の1998年〔平成
10年〕6月に「他社不実施であり,他国に比べて売上が低く権利保
有により得られる効果が低いため」との理由で権利放棄した。指定国
ドイツ,イギリス,フランスに関しては,本件訴訟が提起される前の
2003年〔平成15年〕4月に,最終年まで維持年金を支払うこと
,,。を一括で稟議しそれに基づき最終年まで維持年金を支払っている
また,米国特許である海外特許2,3についても同様に,訴訟提起前
の2002年〔平成14年〕4月ころまでには,最終年まで維持年金
を支払うことの稟議を行い,それに基づいて最終年まで維持年金を一
括支払していたものである。
(4)仮想実施料率について
ア原判決の誤り
原判決の自己実施に関する仮想実施料率の認定は,上述した諸事実及び
本件各発明の評価(権利の狭さ,無効の可能性,本件各発明が他の多く)
の実施許諾可能な権利のごく一部にすぎないこと等を考慮すると,過大な
実施料率であることが一見して明らかである。
イラミネート発明
まずラミネート発明(第2発明,第5発明及び海外特許1~3の総称)
については,それ以前からOEM製品の納入先という特殊取引関係及び当
事者の主観的な背景を有するキングジム社との契約とは異なり,最も客観
的な第三者であるカシオ社との(いわゆるラミネート発明を含む)包括的
実施許諾契約においてさえ,本体分及びテープカセットの販売高の●%の
実施料の支払を約されたに止まるものである。したがって,日本について
は原判決が無効であるという第5発明の他は第2発明1件のみ,欧州では
原判決が無効であるという海外特許1のみ,また米国では2件のみ,とい
う少数の特許権について,本体については最大5%,テープカセットにつ
いては最大4%という原判決における仮想実施料率は余りにも高率であ
る。ラベルライターのような電子機器の包括的ライセンスは極めて多数の
特許権を含むが,多くの競争技術によりそれらを回避することが困難では
ないため,合計で1%程度が業界の常識であり,上記のようにわずかな数
の,しかも,強力な競争業者が実施していない権利について,仮想的な実
施権者が原判決の認定するような高率の実施料を支払うことを合意すると
の認定はおよそ不合理である。
ウ第1発明
第1発明は,擦り付けタイプのインレタテープの作製機の構成を特許請
求した発明であり,その用途は極めて限定されており,ラベルライターの
製造業者にとって必ずしも必要な権利ではない。原判決は,公知文献には
「離型促進剤の開示がない」との理由で第1発明を有効とするが,かかる
理由で有効性が維持されるのであれば,第1発明の技術的価値は極めて低
いものとなるはずである。いずれにしても,カシオ社との契約が第1発明
を含み,その他の多くの特許権を対象とし,また多くのテープカセットの
特許発明・実用新案をも対象としても,合計●%の実施料であること,そ
の他の諸事実を勘案すると,第1発明のみについて0.8%ないし1%の
仮想実施料を想定する原判決の認定は合理的根拠を有しない。
エ第3発明
第3発明は,原判決も無効であると判断しており,このために0.4%
及び0.5%の実施料を想定したのであろうが,そもそも想定実施料の認
定は,この特許のみを取り上げて実施許諾契約の交渉を行った場合に当事
者が合意するであろう料率を見出す作業である。したがって,第3発明の
仮想的交渉においては,相手方は当然に原判決の認定した無効事由を主張
するはずであり,その場合に第3特許に上記のような実施料率を支払う合
意をするとは思えない。無効の可能性のある特許については,仮想的実施
料を想定しないという判断がなされるべきであり,万一想定するとしても
限りなくゼロに近い料率にすべきものである。
オ一審原告ら主張の利益率等に対し
特許法旧35条の「相当の対価」は,企業の利益の配分を職務発明者に
認めるものではなく,従業員等に対する発明へのインセンティブとして相
当の対価の支払を認めるに止まるのであり,一審原告らが主張するように
使用者の売上高の80%におよぶ金額を超過売上高の算出根拠として認め
るようなことは,およそ立法の趣旨を逸脱するものである。
なお,一審原告らは,計算方式1に合理性があるように主張するが,そ
もそも超過売上高が80%になることの因果関係が不明であるし,製品開
発や製造技術開発に投入された人的資源も単に人件費としてしか計算され
ず,一方,相当対価請求の原告となった従業員については利益の配分に与
かる方式となる。また,職務発明については使用者企業が特許法35条1
項の無償の通常実施権を有するものであるからこそ,一審被告としても商
品の詳細設計,製造技術の開発・改良,販売努力やコスト削減努力をする
のであるが,一審原告らの主張ではこうした通常実施権に基づく実施によ
。,る売上高への配分は20%に止まることになるかかる主張の不合理さは
例えば,一審被告の保有する多くの特許やノウハウについて一審原告らと
同じような請求をした場合,たちまち売上高や営業利益の100%を超え
る請求が生じることが合理的に予想されることからも明らかである。
こうした特定の発明と「超過売上高」との関係を合理的に定める算定が
不可能であるからこそ,裁判所は仮想的実施権許諾を想定する判断事例を
積み重ねてきたものであり,ここに特許法旧35条の相当の対価の算定の
困難さがある。一審原告らの算定方式1は,結局のところ,超過売上高を
恣意的に主張しているのであり,裁判所が合理性を認め得ない根拠に基づ
く主張である。
(5)第三者からの実施料収入について
アキングジム社からの実施料収入
(ア)第1発明の寄与度
原判決が認定した寄与割合の算定根拠の詳細は不明であるが,一審被
告が,●件の発明が実施されている旨を主張したことに鑑み(乙70,
73,各発明の寄与度を均等であると想定して算出すると2%となる)
ので,この数値を基準としたものと推測される。しかしながら,転写テ
ープの用途は極めて限定されたものであり,原判決が認定しているとお
り,転写テープの販売額は,テープカセット全体の●%程度でしかない
ばかりか,転写テープの販売を既に中止している。以上のような事実関
係にもかかわらず,第1発明が一時金に対して2%もの寄与度を有する
とは考えられない。
,,「,しかし原判決が認定しているとおり被告が多数の権利を保有し
特許ポートフォリオを構築していることは,他社に対し,個々の権利は
回避可能であるとしても,全体として同業他社の参入を抑制したり,設
計の自由度を確保するなどの目的から包括的ライセンス契約を締結させ
る動機になるもの」である。すなわち,実施を回避し難い中核となるよ
うな権利がいくつか存在するだけでなく,実施の有無にかかわらず,同
業他社の参入を抑制し得るほどに,又は同業他社における設計の自由度
を奪うほどに,網羅的に権利が存在していて初めて,包括的ライセンス
契約を締結することができるのである。この点,一審被告はテープカセ
ットについて,その機構のほぼすべての部分について権利を保有してお
り,これら多数の権利の存在が,キングジム社において包括的ライセン
ス契約を締結する動機付けとなったことは明らかである。したがって,
少なくとも実施権利のみで均等割にすればよいというほど単純なもので
はない。
加えて,第1発明については,一審被告が交渉過程においてキングジ
ム社主張のとおり無効となる可能性が高く,権利行使は実質的には困難
と判断して断念した経緯があり,他の実施権利と均等に評価して寄与度
を算出するのは不相当である。
(イ)第3発明の寄与度
原判決は第3発明の寄与度を第1発明よりも高く認定するが,訴訟に
利用した点を考慮したとしても,本来無効となる権利であること,実施
料収入の約●%を占めるテープカセットには全く関係しない発明であ
り,間接侵害も成立しないこと等を考慮すると,やはり不相当に高く評
価するものといわざるを得ない。
したがって,第3発明が一時金に対して3%,平成14年1月1日か
ら平成17年6月20日までの実施料収入に対して1%もの寄与率を有
するとは,到底考えられない。
イカシオ社からの実施料収入
原判決は,カシオ社からの実施料収入について,第1発明の寄与度を,
①当初の一時金について2%,②平成14年10月1日から平成17年1
2月20日までの期間につき本体及びテープカセットに関する実施料の
0.8%と認定するが,キングジム社からの実施料収入における第1発明
の寄与度の算定と同様の理由により,不相当である。
ウダイモ社からの実施料収入
(ア)海外特許1がダイモ契約に寄与していないこと
海外特許1は,訴訟の対象権利ではないし,ダイモ社との和解交渉開
始からダイモ契約締結までの間においても一切関連性を有しておらず,
英語による出願公開はされていたが,未だ権利として発生していなかっ
た。
ダイモ契約の目的は,和解契約書(乙173)から明らかなように,
「ミュンヘンにおける係属中の係争(仮処分命令の控訴審)を和解する
ため,並びに,ダイモの装置及びテープカセットの生産及び/又は販売
に関して,ブラザーが所有している上述の2件の保護権利(ドイツ実用
)」新案G●●と欧州特許EP●●に関係する更なる係争を回避するため
(乙173・2頁・全文和訳1~2頁参照)であり,他の権利は一切無
関係であった。
ダイモ社との和解交渉においては,補償金請求権の起算日には法的根
拠が必要であるとの認識に立ち,ダイモ契約対象権利に係るダイモ契約
権利2の出願が英語によりなされていたため,出願の指定国4か国のう
ち英語が公用語である英国を除く独・仏・伊の3か国においては欧州特
許条約第67条(3)の規定により,それらの国の公用語によるクレー
ムの翻訳文が公衆に利用可能とされた時,又はその発明を実施している
者に対して送達された時から仮保護の効果が生じるものであることが確
認された。
●●(省略)
また,ドイツ以外の3か国におけるDYMO4000及び補給用テー
プカセットの在庫処理のために1992年〔平成4年〕6月30日まで
それらの販売延長の許可が与えられ,同年7月1日以降においては,D
YMO4000の少なくともダイモ契約権利2の指定国4か国における
販売は完全に終了することが合意された。したがって,ドイツにおいて
は平成4年(1992年)5月1日以降,英・仏・伊3か国においては
同年7月1日以降は,それまでに販売されたDYMO4000に対する
補給用テープカセットのみの販売となり,そのテープカセット(契約対
象権利2件を実施)の販売に係る補償金がダイモ社側から定期的に継続
して支払われ,現在に至っている(乙173・7頁10項参照。)
このように,和解契約書には,●●(省略)更に海外特許1が特許と
して発効した平成4年(1992年)9月2日時点においては,DYM
O4000本体は市場から完全に姿を消しており,補給用としてのテー
プカセットだけが供給されていた。したがって,海外特許1は和解には
一切関与しておらず,かつ,テープカセットに直接関係しない海外特許
1が補給用テープカセットの販売に係る補償金の受領に寄与しないこと
は明らかである。
なお,上記和解契約に規定された補償金の料率は,ドイツ代理人がド
イツにおける高料率の損害賠償をベースに強腰の交渉を展開した結果で
あって,通常の実施権許諾の際の合理的料率とはかけ離れているもので
ある。
(イ)原判決の誤り
a原判決は,ダイモ社からの実施料収入が,海外特許1が訴訟の対象
特許に含まれていない点からも,当事者の和解契約に海外特許1が含
まれていない点からも,海外特許1とは関係がないことが明らかであ
るにもかかわらず,敢えて,ラミネート発明の概念を用いて,ラミネ
ート発明の対価として,同社からの実施料収入の2分の1(50%)
。,,を海外特許1という1件の権利のみに配分しているまた原判決は
同特許は無効性があることを認めながら,その無効原因は発明自体に
起因しないとする。
そもそも,ダイモ社は,DYMO4000を欧州で製造販売してい
るのであるから,平成4年(1992年)6月4日に和解契約を締結
した時点で,実際に警告され訴訟を提起されたダイモ契約権利1(ド
イツ実用新案G●●)及びダイモ契約権利2(欧州特許EP●●)の
他に,その時点で既に公開されていた海外特許1(公開日は1991
年〔平成元年〕5月10日)について将来において一審被告から権利
侵害の要求がなされるリスクを感じていれば,公開中の海外特許1で
あっても契約対象に加えて免責を求め,将来のリスクを払拭すること
が通常のビジネス判断であり,特許交渉であったはずである。しかる
に,ダイモ社自身がそのような要求をせずに,海外特許1を加えない
まま契約をしたのであるから,原判決が「ダイモ契約によりダイモ社
から実施料収入を得ることができたことには,ラミネート発明の1つ
である海外特許1が貢献しているものと認められ」ると認定したこと
には根拠がなく,むしろ上記の事実関係からは,ダイモ社は他の特許
を加えないことにより実施料を抑制することを選択したと推認するの
が合理的である。
しかも,原判決は,実施料収入の2分の1(50%)を海外特許1
に配分した理由として「海外特許1は,印字装置に関する発明であ,
,」()。りテープカセットの部分を含まないから249頁と認定する
しかし,ダイモ社が,本件和解契約を締結した理由は,過去に販売し
た本体の消費者へテープカセットの供給を続けるところにあったもの
であり,ダイモ社の関心はテープカセットにあったものである。した
がって「カセットテープの部分を含まないから2分の1」という認,
定も,余りに大雑把で合理性のない,結局は,無理に相当の対価の数
値を上げるための認定にすぎないといわざるを得ない。
以上のとおり,ダイモ社からの実施料収入についての海外特許1の
寄与は,全く存在しないものと認定されるべきである。
b原判決は,DYMO4000の構成は,海外特許1の請求項1~3
及び5~8を充足すると認定するが,そもそも海外特許1に係る発明
の内容の認定において誤りがある。DYMO4000も,被告製品の
対象品群nと同じく,請求項7の構成要素③「切換手段」及び請求項
8の構成要件③「部分切断刃」を有しておらず,請求項7及び8を充
足しないことは明らかである。
c原判決は,ダイモ契約権利2のうち,DYMO4000で実施され
ている請求項1~3,7及び8に係る発明の技術思想は,ラミネート
テープ及びその作製方法に関する部分に,必要なテープ類をテープカ
セットに収納するとの技術思想を追加したものであると認定するが,
ダイモ契約権利2に係る発明の技術的意義を看過するものである。
すなわち,海外特許1に係る明細書及び図面には必要なテープ類を
テープカセットに収納するとの技術思想は開示されていないところ,
一審被告のラベルライターの製品化においては「インクリボン,透,
明記録テープ,両面粘着テープを,それぞれ別個にカセット内に収納
して本体に対して着脱可能にする」という点が最も重要な解決課題で
あり,そのカセット内にラミネートタイプのラベル作製のための技術
が集約されており,消耗品ビジネスを確立する上で開発技術者が最も
腐心したところである。海外特許1は公知技術との関係で進歩性を有
さないものであるのに対して,ダイモ契約権利1,2は,粘着層が存
在する両面粘着テープをも含めてカセット化することに関係し,類似
,。する従来技術が全く存在せず全く新規な独創的な発明・考案である
それゆえに,無審査で登録がなされたダイモ契約権利1に係る仮差止
め訴訟にもかかわらず,提訴から70日という短期間でDYMO40
00のドイツでの販売差止の仮処分を認める決定がなされたものであ
り,新規性・進歩性が疑わしかったならば,そのような短期間での仮
処分決定はなされなかったことはいうまでもない。また,そうである
からこそ,ダイモ社との間で和解が成立したのである。
この和解契約は,飽くまでもダイモ契約権利1によりDYMO40
00の製造,販売が差し止められた状況の中でなされたものである。
これによりダイモ社は損害賠償の支払を余儀なくされ,しかも一審被
告の同意を得てラベルライター本体を購入した顧客のために補給用の
カセットを製造販売することを認めてもらうことが必要であり,また
可能であればラベルライターの在庫処理をも認めてもらいたいという
。,,ことであったそこでこのような条件での和解がなされたのであり
契約の締結及びその条件はすべてダイモ契約権利1及び2を前提とす
るものであり,海外特許1は関係ない。本件での海外特許1の貢献度
は全く存在しないのである。
d原判決は,ダイモ契約において,ダイモ契約権利1及び2のみがそ
の対象とされ,海外特許1が対象に加えられなかったのは,海外特許
1がその時点で登録されていなかったためであるとするが,これは本
件和解契約締結交渉の実態,当業者における知的財産権を巡る交渉の
厳しさを無視した不合理な認定である。
また,原判決が海外特許1の一部について新規性欠如の無効理由が
あるとしつつ,当該無効理由の存否を重視すべきでないとしたことも
誤りである。優先権(新規性)の問題だけでなく,ダイモ社が実施し
たと解される請求項については発明の進歩性も明確に否定されるので
あり,およそ理由がない。
e以上に加え,原判決は,海外特許1については,ドイツ特許法等の
規定により,少なくとも補償金請求権ないし類似の権利が既に発生し
ていたものと考えられるので,ダイモ契約に基づきダイモ社から実施
料収入を得ることができたことには,ラミネート発明の一つである海
外特許1が貢献しているものと認められるとするが,このような判断
を前提とする限り,海外特許1以外にも考慮すべき権利は多数存在す
る。
すなわち,DYMO4000は,少なくとも以下の一審被告が保有
する出願・権利を実施している。
●●(省略)
これら●件の権利が登録された時点において,仮にDYMO400
0の販売が継続されていれば,DYMO4000がそれらの権利を侵
害していると判断されたものである。しかし,いずれの権利もDYM
O4000の販売が中止された後に登録されたものであり,一審被告
としては何らの請求もしなかった。また,これら●件の権利は,いず
れもテープカセットをクレームの構成要件にしているが,発明の対象
はテーププリンタ自体あるいはその機構であり,ダイモ契約権利とは
異なり,テープカセット自体が発明の対象ではない。
したがって,仮に海外特許1がダイモ社からの補償金収入に寄与す
るとしても,少なくともこれら●件の権利の寄与を同様に認めざるを
得ない。また,ダイモ社との和解契約により許可された補給用テープ
カセットに係る補償金収入に関して,海外特許1が寄与しているとす
るならば,テープカセットに係る構成要件が存在するこれら●件の権
利の寄与の程度が海外特許1より大きいことは必然であり,したがっ
て,海外特許1の寄与はほとんどないといわざるを得ない。
したがって,原判決が,海外特許1の貢献度を2分の1と評価した
のは明らかに間違っている。
f以上のとおり,ダイモ社からの実施料収入に関する海外特許1につ
いての原判決の判断は,事実を誤認し,また契約による実施許諾の意
味を理解せずになされたものといわざるを得ない。
(ウ)ダイモ契約権利2と第3考案が異なる発明であること
一審原告らはダイモ契約権利2の実際の発明者は一審原告らを含む6
名である旨主張するが,両者は異なる発明である。
a第3考案として当初提案された内容は,発明社内登録用紙(乙64
の2)に添付された発明記述書に記載されたとおりであるところ,そ
こには,従来技術の欠点としてリボンカセットが大きくなること,考
案の目的としてサーマルリボンと被印字体のテープが巻かれるスプー
ルを共通化し小型化することが記載されており,ダイモ契約権利2の
ように透明テープとインクリボンを別々のスプールに保持するという
技術的思想は全く考えられていなかった。なお,第3考案の明細書に
は両者を分離・独立させることが可能である旨の記載があるが,これ
は出願担当者(一審被告知財部員)の判断で「他の実施例」として記
載したものであり,第3考案の考案者とされる一審原告らを含む6名
の考案ではない。
b第3考案の目的は「スプールを取り外し可能にすること」にあり,
そのため,クローズされたハウジングを設けず,オープンなカセット
ケース54を用いているものであり,かつ,カセットケースにスリッ
ト状の切欠を設けたものであり,一般的にイメージされているカセッ
トとは,用語は同じでも全く異なるものである。第3考案及びそれの
基となる発明社内登録用紙に記載されている考案は「P-Touc,
h」検討開始直後の,どのようなものが可能かという検討段階で提案
されたアイデアにすぎず,試作等を行って検討したものではない。し
たがって,試作等を始める時点では取り外し可能なオープンなカセッ
トはすぐに検討から除かれている。さらには,透明テープとインクリ
ボンとを同一スプールに巻くことも実施困難であることが確認され
て,別々のスプールに巻くこととされている。それのみならず,第3
考案の明細書や発明社内登録用紙には,各スプールをどのように駆動
するのか一切記載されていない不完全なものであり,アイデアとして
提案されたにすぎないことが明らかである。
c第3考案に開示されているカセットは,ハウジングがなく,オープ
ンなカセットケースで構成されている。そして,テープ類はカセット
外を走行し,走行を開始するとただちにカセットから排出される。し
,。たがってテープ類を送るプラテンローラもカセット外に配置される
カセットケースにはテープが巻装されたスプールが着脱自在となるよ
うな構成をとっている。
これに対して,ダイモ契約特許のカセットは,ハウジングで構成さ
れ,テープ類はそのハウジング内に個別に収納されていて着脱自在で
,,はなく各テープ類はカセット内を走行するように配置されているし
透明テープに印字後,その透明テープはカセット内にて貼り付けテー
プと貼り合わされた後,ハウジングから排出される。
すなわち,両者は,技術思想において全く相違し,重なり合う部分
はない。
また,その差異をダイモ契約権利2の請求項1でみると,●●(省
略)は,いずれも第3考案には開示されていない。
また,ダイモ契約権利2の請求項2でみると更に明白であり「●,
●(省略」は第3考案には開示されておらず,第3考案では第1及)
び第2の送りローラ手段ともにテーププリンタ側にある。ダイモ契約
権利2の請求項3~7は少なくとも上記請求項1又は2の従属項であ
り,請求項1及び2の発明が第3考案と同一でない以上,他の請求項
3~7の発明も第3考案と全く異なることは明らかである。
なお,ダイモ契約権利2は,実開昭62-109958号公報(乙
88)と対比しても新規性・進歩性を有することは明らかである。
(6)発明に対する一審被告の貢献度について
ア第1発明における一審被告の貢献度に関する原判決の誤り
(ア)原判決の認定
原判決は,第1発明における一審被告の貢献度を93%と認定し,一
審被告の貢献度を減ずる事情として「②当時,被告においてラベルラ,
イター事業に向けた組織的取組みはいまだ十分ではなく,Eの協力を受
けながら,原告X1が第1発明を完成したこと」と「⑥原告らは,前,
記2(4)ア(ウ)d(c)の表彰を受けた程度で,第1発明による好待遇を受
」()。けているとは認められないことを挙げる判決260頁6行~15行
しかし,以下のとおり,これらの事情は何ら一審被告の貢献度に影響
を及ぼすものではない。むしろ原判決は,第1発明の「インレタ作製専
」,,用機はその後商品化されたラベルライターとは関係がないばかりか
一審被告が蓄積してきた技術ないし公知技術を組み合わせて利用したも
のにすぎないこと,換言すれば,第1発明の「インレタ作製専用機」と
いう商品が市場で受け入れられたはずもない,という重要な事情を看過
しているものである。
また,上記⑥の「第1発明による好待遇を受けていない」という点に
ついては,事実に反する認定であるが,そもそも人事的な待遇は発明の
良否のみにより一審被告の貢献度が定まるものではなく,むしろその他
の要因によるところが多いことが留意されるべきである。
(イ)一審原告X1の関与
第1発明は,新規製品を検討するために設けられた合同チームが検
討した7つのコンセプトの一つである。すなわち,当時,どのような
商品のイメージが考えられるかという点が検討されていた過程におい
て,アイディア提案として出されたものにすぎず,技術的にどのよう
にしたら具体的に実施可能であるかとの点の検討は一審原告X1は一
切行っていない。
第1発明に係るインレタ(擦り付け方式のレタリング)について社
,。内で技術的検討を加えたのは開発部製品開発グループのDであった
Dは,昭和61年10月1日から昭和62年5月31日までの間に2
1件のインレタ用短冊テープの作製技術に関する提案をしている。こ
のインレタの具体的技術検討について,一審原告X1は無関係であっ
た。
インレタ機能も備えるラベルライターの技術的検討に正式に入った
のは昭和62年5月21日に設置された「NB-1プロジェクト」か
らであり,一審原告X1も会議には参加してはいたが,技術的検討を
専属で行っていたのはA,C,Bの3名である「NB-1プロジェク。
ト」が解散し「NEW-Bグループ」に引き継がれた同年7月10,
日までの間に技術的検討の成果として,12件の提案(乙14,乙6
4の1~11)が出されたが,そのうち「インレタ」に関するものは
一つであり,それも,インレタ印字とレタリング印字の切替え装置に
関するもので,インレタ固有のものではない。このように「NB-,
1プロジェクト」においては,実際に印字できる試作品も作られてお
らず,ましてやインレタに関する固有の検討など行われていたはずが
ない。
ラベルライターの開発は「NB-1プロジェクト」解散後「NE,,
W-Bグループ」に引き継がれたが,一審原告らは「NEW-Bグル
ープ」には全く関与していない。したがって,一審原告らがインレタ
機能について具体的に関与したのは,一審原告X1による第1発明の
インレタ作製専用機のアイディアの提案のみであり,それ以外の技術
的貢献は何もしていない。
(ウ)一審被告におけるインレタ技術の開発
a一審被告は昭和62年10月にインレタシート作製機能を搭載した
日本語ワープロ「ピコワードNP-5100(乙30)を販売して」
いる。すなわち,一審被告においては,ラベルライター「P-tou
ch」の開発とは全く別にインレタ技術について研究開発し,製品化
をしたのである。この「ピコワードNP-5100」の開発について
は,一審原告らは一切関与していなかった。そして,この「ピコワー
ドNP-5100」に搭載されたインレタ機能に関する技術を応用し
て「P-touch」のインレタ機能が搭載可能になったのであるか
ら,前者の貢献なくして,後者はあり得なかったのである。
b日本語ワープロ「ピコワードNP-5100」の開発の端緒となっ
たのがいわゆるK発明である。K発明が提案されたのは,第1発明の
提案より早い昭和61年6月12日(乙29の2)であり,昭和61
年10月13日に出願された後,特公平4-78110号(乙29の
1)として公告された。
K発明は,その発明社内登録用紙(乙29の2)の「8.発明の効
果」の欄に記載されているとおり「この発明による印字装置では,,
OHP用紙等の透明フイルムの裏側に文字を反転することにより,正
しい文字配列で印字することを可能とするものである。したがって,
ミラー文字を使って,一度印刷したものを再び他のものへ印刷しなお
すインスタントレタリングシートや,OHPシートなどの透明シート
を使った利用価値の高い印字装置が得られ,ワードプロセッサーの応
用範囲を格段に広げる効果がある」ものであり,まさに,日本語ワ。
ープロ「ピコワードNP-5100」にインレタ機能を搭載するため
の提案・発明であった。
c原判決は,上記K発明について「…開発部LRセンターに所属し,
ていたKらは,昭和61年6月11日,ワープロにおいて転写用紙に
印字するための『ミラー(鏡像)データ印字装置』に関する発明を,
発明社内登録用紙(乙29の2)に記載して提出した。ただし,この
発明と第1発明との間にどのような関連があるのかを認めるに足りる
証拠はない(250頁下3行~251頁2行)と認定するが,上記。」
のとおり,最初にK発明があり,それに基づき日本語ワープロ「ピコ
ワードNP-5100」のインレタ機能が開発され,その技術を応用
してラベルライター「P-touch」のインレタ機能が完成したの
であるから,極めて密接な関係があるのであり,原判決はその点で判
断を誤っている。
d日本語ワープロ「ピコワードNP-5100」のインレタ機能の技
,,術的検討を直接行ったのは技術部製品技術グループのLとEであり
昭和61年7月22日付けの「61年下期研究プロジェクト報告会
資料(乙55の添付資料9)から明らかなように,インスタントレ」
タリングに関して「NEP(注:日本語ワープロの俗称)を用いた,
インスタントレタリング法の開発」における技術ポイントについて研
究報告がなされた。この報告会資料の「3)特許・出願状況」に記(
載されている「インスタントレタリング5件」とは,乙55の別紙1
に記載したL及びEの発明に係る出願5件である。
e上記の点について,原判決は「(イ)原告X1は,その後,インレ,
タ作製機に必要となる技術について,独自に検討した。転写用レタリ
ングテープと印字リボンの化学的要素については,開発部基礎開発グ
ループ所属の技術者であったEに協力を依頼し,その研究成果によっ
て実現の目処が立った(250頁13行~16行)と認定するが,。」
明らかに誤りである。
第一に,一審原告X1が,第1発明を提案した後,インレタ機能に
ついて独自に技術的検討などしたことはない。技術者ではなく技術の
研究開発を行う部署にも属しておらず,研究設備も持っていない一審
原告X1が技術的検討をできるわけもない。
現に,一審原告X1による具体的な検討成果などは一切提出されて
いないし,前記したとおり,ラベルライター「P-touch」の技
術的検討を行った「NB-1プロジェクト」においても,インレタに
ついてのなんらかの技術的成果が出されたことはないし,ましてや一
審原告らがなんらかの技術的貢献をしたこともない。
さらに,一審原告X1が他の部署である開発部基礎開発グループ所
属の技術者であったEに個人的に協力を依頼したとしても,Eらは会
社の業務として日本語ワープロに搭載するインレタ機能の技術的検討
を行っていたのであり,その時点ではラベルライター「P-touc
h」のインレタ機能の技術的検討を行っていたのではない。そして,
日本語ワープロに搭載されるインレタ機能の技術的検討が先に完成し
「ピコワードNP-5100」の付加機能として販売され,その後,
その技術がEらによってラベルライター「P-touch」のインレ
タ機能に応用されたものである(M陳述書・乙55の添付資料9:6「
1年下期研究プロジェクト報告会資料,乙221の1~4。なお,」
これらの技術研究計画表の起案欄の捺印及びチーフ・担当者欄にN「」
とあるのは,一審原告のX1ではなく,開発部開発グループのNであ
り,別人である。。)
また原判決も「(エ)開発部基礎開発グループ所属のEとLは,…,
に関する発明を,被告社内に届け出た。これらのインクの化学的性状
等に関する技術は,その後,昭和62年10月発売の被告日本語ワー
プロとラベルライターに採用された(250頁19行~23行)と。」
,,「」認定するが正確には日本語ワープロピコワードNP-5100
のために開発された技術がラベルライター「P-touch」に応用
されたのである。
f日本語ワープロ「ピコワードNP-5100」のために開発された
インレタ技術をラベルライターP-touchに応用したのもE,「」
である「ピコワードNP-5100」に採用されたインレタ用のイ。
ンクリボン及び転写シートの改良研究を行った後ラベルライター当,(
初はインレタ専用機)に使用するインクリボン及び転写シートの本格
的研究開発に着手し(乙221の3,日本語ワープロ「ピコワード)
NP-5100」に採用されたインレタ用のインクリボン及び転写シ
ートをベースに,ラベルライター「P-touch」のインレタ用イ
ンクリボン及び転写テープの改良研究を行ったのである。なお,その
改良技術については,出願されるとともに,ノウハウとしても一審被
告において蓄積されてきた。
gまた,ラベルライター「P-touch」のインレタ機能の機構面
については,h,pを担当者として,被告製品である電子パーソナルプ
「」,「」リンターEP-5日本語ワープロピコワードNP-5100
と技術比較を行って改良点を見出したり(乙55の添付資料28,)
日本語ワープロの熱転写技術の専門家であったOを他部署より移籍し
担当させて改良した(乙63の5頁)のである。OはEと協力して,
印字品質・転写効率などを改善した。
(エ)まとめ
以上のとおり,仮にラベルライター「P-touch」のレタリング
機能について一審原告らが貢献したとしても,一審原告X1の貢献は第
1発明のインレタ専用機を企画するアイディア的な部分のみであり,イ
ンレタ技術も含み製品の技術的開発,工業化への貢献その他の貢献は存
在しないから,第1発明に対する一審原告X1の貢献度が原判決が判示
するような7%(会社貢献度が93%)もあるなどということはあり得
ない。ラベルライターへのインレタ機能の搭載は,日本語ワープロ「ピ
コワードNP-5100」へのインレタ機能の搭載のために,K発明に
端を発し,Eらが行った研究開発や,その他の技術者の努力の結果であ
って,アイディアを提案しただけの一審原告X1の貢献度が7%である
ならば,実際に苦労して開発を担当した技術者の貢献を正当に評価する
ことは困難である。
したがって,第1発明における一審被告の貢献度を93%と,第2発
明等以上に一審被告の貢献度を低く認定した原判決は,第1発明に至る
経緯において,第1発明が,その後商品化されたラベルライターとは無
,,関係である点一審被告における蓄積技術を利用したものにすぎない点
及び一審被告の開発部の協力を得なければ完成し得なかった点を看過し
た,明らかに不当なものといわざるを得ない。これまでに主張してきた
とおり,一審被告の貢献度は,99%を下らないものである。
イ第2発明,第3発明,第5発明における一審被告の貢献度に関する原判
決の誤り
(ア)原判決の認定
原判決は,第2発明,第3発明,第5発明における一審被告の貢献度
を減ずる事情として「②このようなプロジェクトチームの立ち上げ及,
び前提となる仕様等の検討には一審原告らが大いに貢献したこと⑥,」,「
一審原告らは,前記2(5)ア(ウ)d(c)の表彰を受けた程度で,ラミネー
ト発明による好待遇を受けているとは認められないこと」を挙げる(判
決260頁18行~261頁3行。)
しかし,以下に述べるとおり,②については,一審原告らが「前提と
なる仕様等の検討」に「大いに」貢献したとは評価し難く,また⑥につ
いては,何ら一審被告の貢献度に影響を及ぼす事情ではない。
(イ)一審被告の日本語ワープロ技術の蓄積
そもそも,ラベルライターが,技術的には一審被告が蓄積してきた日
本語ワープロに関する技術を基礎とするものであることは,前記のとお
りである。
原判決が一審原告らの貢献として評価するのは,NB-1チーム発足
以前に,一審原告らが「P-touchプロジェクト基本仕様案(1
版(乙55添付資料11)をまとめ,社内においてプレゼンテーショ)」
ンを行うとともにグループインタビューを行うなどした点等と考えられ
るが,この時期に一審原告らにより検討されていたのは,飽くまでもイ
ンレタ作製専用機に関するものにすぎず「P-touch」なるネー,
ミングこそ継承したものの,その後事業化されたラベルライターではな
い。
ラベルライターの製品化,事業化において基本となった技術は,①熱
転写印字技術,②漢字処理ソフト技術,③レタリングインク技術,④リ
ボンカセット及びリボン送り機構技術,の4つであって,①及び②の技
術は日本語ワープロにおいて利用していた技術を,③の技術はEが主体
となって研究開発したものをそれぞれ基礎とするものであり,④の技術
はP-touchの開発設計チームが最後まで苦労して新たに開発した
。,,技術であったこれに対し一審原告らがこの時期に提案していたのは
短冊方式のインレタ作製専用機であるから,④の技術についての仕様は
含まれない。
よって,NB-1チーム発足以前の時期に一審原告らが検討していた
「」,,仕様等は実際に事業化されたラベルライターの仕様というよりは
むしろ従来から一審被告において蓄積されていた,日本語ワープロの仕
様というべきである。
仮に「前提となる仕様等」であったとしても,飽くまでも「前提」に
すぎず,一審被告が組織的に取り組んで行った,現実に事業化されたラ
ベルライターの基本技術等の検討に比し,その重要性は小さい上,技術
的な検討はすべてDが行っていた。一審原告らが行ったのはアイデアの
提示程度にすぎないのである。
(ウ)ラミネートテープ構成についての貢献
a原判決は,一審原告X1による第1発明の社内申請書類の記載や,
一審原告X2による「P-touch『インスタントレタリング作製
機』企画書」の記載から,被告ラミネートテープの構成がまとまった
ことについての一審原告らの貢献度が大きかったと認定するが,一審
原告らは飽くまでもインレタ作製専用機を前提としており,その構成
は,いわゆるラミネートテープの構成とは異なるものであったことは
明白である。
原判決が認定するとおり,ラミネートテープの構成がまとまったこ
とには,Cによるインレタテープと貼付けテープの双方を行うことが
できる機構の提案が大きく影響したのであって,一審原告らの貢献が
あったとすれば,インスタントレタリング用の貼付けテープという,
それのみでは発明として成立し得ないアイデアの提示程度である。そ
,,,れにもかかわらず原判決はアイデアのみのインレタ作製専用機と
商品化されたラベルライターに付したネーミングが同じ「P-tou
ch」であることに誘引されて,一審原告X1の貢献度を過大に認定
したものである。
bしかも,裏面へ印字したテープをそのまま対象物に貼り付ける構成
のラベルやプラスター状のテープごと貼り付けるという構成は,そも
そも一審原告らが指摘するまでもなく公知であり,例えば,米国特許
明細書第4068028号(乙19の2,特開昭61-37447)
号公報(乙13の4)などの公知のラベルと変わるところはない。
さらに他の例を挙げれば,昭和54年4月21日発行の特公昭54
-8094号公報(乙219)及びその対応米国特許明細書第369
(〔〕。)8296号1972年昭和47年10月17日発行乙220
は,携帯型ラベル作製機に関する発明を開示しているが,その第9A
図に当該発明にかかるラべリング装置に用いられるラベリング用テー
プとして,一番上部の層に「透明な頂面層129,その下に「印字」
される感光層125,その下に「感圧接着剤層127,さらに,そ」」
の下に「裏張り材128」という層構造を有するラベル用のテープが
開示されている。なお上記第9図のテープについては「裏張り材12
8は貯蔵やラベル製作中接着剤を保護するため取除き自在に接着剤に
接合されている。裏張り材128はまた,その本来の性質によるか又
は適当に被覆することによって,テープから作られたラベルを品物に
付けるために接着剤を露出させたいとき,接着剤が薄層に裂けること
なく除去できる性質をもつものである」との記載があり(10欄26
行~37行,さらに,第9A図のテープについては「テープの紫外),
線感光層125を覆ってその上に延びている頂面積後の記述から頂(「
面層」の誤りである)129を含む「頂面層129は…著しく透明」,
。,なプラスチックフィルムや被覆から成り得る頂面層の使用によって
例えば紙基質層126を使用したときにはテープから作ったラベルの
保護は増すこととなる」との記載(11欄8行~17行)があり,携
帯型ラベルライターにおいて,印字層の上面に透明層を設け,印字層
の下面に接着材層を設け,対象物に接着材層で貼り付けられた印字層
がその上面の透明層で保護される構成は,第1発明の出願前において
も,明らかに公知の技術であった。
(エ)まとめ
以上の事実に鑑みれば,第2発明等に至る経緯においても,一審原告
らが「大いに貢献」したとは評価し難く,この点についての原判決の認
定は誤りである。
また,企業における処遇は本人の資質,人格,指導力その他総合的な
評価によるものであり,しかも,元来ラミネート発明に積極的な貢献を
したものでもない一審原告X1が個人的不遇感をもったからといって,
一審被告の貢献度を減ずる事情にはなり得ないのであって「ラミネー,
ト発明による好待遇を受けていない」との認定は,本来考慮すべきでな
い事実を認定するものであり,誤りというべきである。
ウ一審被告の貢献
原審において主張したとおり,本件各発明等の過程における協力,本件
各発明等の権利化のための知的財産担当者の努力・費用,他の特許等知的
財産権の取得・活用,一審被告の会社組織としての製品化の遂行及び人材
の投入,一審被告会社で過去に蓄積された保有技術の投入と改良,国内に
おける販売ルートの開拓と販売活動,米国及び欧州における一審被告販売
会社の販売努力及び販売促進活動,テープカセットの内製化努力,ラベル
ライター事業の一審被告知的財産権による防衛及び他社権利に対する対応
等,一審被告が本件各発明等の過程から,P-touchの開発,製品化
及び販売等について,多大な貢献をしたことは明らかである。
一審被告は,パーソナル日本語ワープロ・プリンター等の製品開発にお
いて培ってきた多くの保有技術,例えば,①キー入力技術,②仮名漢字変
換技術,③入力データ編集技術,④熱転写印字技術,⑤インレタ作製(イ
ンク)技術,⑥カセット化技術,⑥電子基板小型化技術等をその基礎とし
て開発し,自社のラベルライターを市場に出した。特にテープカセットの
開発過程においては,多くの重要な発明・考案が生まれ,これらが権利化
されることによって,消耗品ビジネスとしてのテープカセットの保護が図
られ,ラベルライター事業の大きな利益を確保できた。
さらに,一審被告が本件ラベルライターを商品化できた背景は,上記の
ような過去から蓄積された技術に加え,本件製品特有の困難性(本件各発
明の構成を示しても解決できない,例えば,複数のテープの円滑でずれの
ない走行やテープとインクの化学的処理など)の製造技術上の解決,キン
グジム社という文具用品の販売に強い企業にOEM供給する販売戦略決定
・取引交渉,多額の経費を費やした米国でのクロイ社による訴訟の克服,
米国での時宜を得た宣伝活動と販売ルートの確保(これにより米国ではカ
シオ社に先んじ得たこと)等々の一審被告の企業を挙げてのリスク負担と
費用・マンパワーの投入がなされたことによるものであり,これらは多額
の投資判断の対象とされたものである。こうした企業努力の成果は膨大な
特許や実用新案の出願・登録に象徴されるが,もともと専門技術者ではな
い一審原告らが他の技術者の協力によりなした本件各発明は日本特許3
件,実用新案1件,欧州特許1件,米国特許2件で,極めてわずかな部分
を構成するのみである。
以上によれば,一審被告の貢献度は,第1発明,第2発明,第3発明,
第5発明においても,やはり99%を下らないものである。
(7)共同発明者間の寄与度について
ア原判決の誤り
原判決は,第2発明,第3発明,第5発明,海外特許1~3の一審原告
らの寄与度を頭割りによる割合である各6分の1と認定する。
しかし,上記各発明における一審原告らの貢献は,以下のとおり,仮に
あったとしてもアイディアの提示程度のものであり,技術に関する思想と
して概念化したのはA,B,Cの3名であったから,一審原告らは真の意味
での発明者であるとはいえない。そのような事実関係を無視して,各発明
者について頭割りによる均等割合とすることは不相当である。
イ一審原告らの貢献が小さいこと
(ア)一審原告らは,昭和62年4月ごろ発足した新製品のアイディアに
ついての技術的研究を目的とする「NB-1プロジェクト」に参加して
いたが,同プロジェクトにおいて企画管理グループの一審原告X2,L
RCの一審原告X1は技術的開発の経験を有していなかった。一方,同
プロジェクトには技術者としてA(リーダー,メカニック担当,B(メカ)
ニック担当,C(電子担当,P(担当課長,Dの5名が参加していた。)))
なお,Dは,開発部で独自にレタリング作製機の研究をしていたが,こ
のプロジェクトでは直接的な技術研究は行っていない。
P課長はディジタル・プリンター,電卓,日本語タイプライター「ピ
コワード」の開発に従事した経験を有し,Aは電子タイプライター,英
「」。文ワードプロセッサーWP-1の開発に従事した経験を有していた
このプロジェクトにおいては一審原告らが提唱していたアイディアの
「押し付け転写タイプのインスタント・レタリング・テープ(インレタ
テープ)作製専用機」の製品化のための問題点を抽出する技術研究を行
っていた。
この当初のインレタ専用機の提案は,第1発明に関連し,一審原告X
1の発案とされるものであるが,テープ状の部材に反転したミラー文字
を印字し,それを被印字物に擦り付けて転写するというものであり,一
審被告において後に商品化した貼付型のラベルライターとは全く異なる
ものであった。
しかし,上記Dを除く技術系の4名は,転写タイプのインレタテープ
専用機では商品とならないから,貼付型のラベル作製装置とすべきこと
を提案していた。この二つのアイディアを一審被告社内でインタビュー
調査をしたところ,社内でも意見が分かれたので,結局双方の機能を有
するラベルライターの実現のために技術研究が開始された。実際に開発
が進められ製品化されたものは,貼付けラベル作製を主たる機能とし,
レタリングテープも作製できるものとなったが,この製品の技術的な開
発作業には一審原告らは参加していなかった。しかし,プロジェクトメ
ンバーとして参加していたためか,第2発明の出願から上記6名が発明
者として記載されることになった。
このように一審原告らはレタリング作製専用機のアイディアを提案し
たものであるが,その具体的な構造の決定等技術的な開発作業はAらの
技術者のグループによりなされたものであり,第1発明を除く本件各発
明は実質的には上記3名の技術者によりなされたのが実態である。一審
原告両名の本件各発明への技術的な貢献はほとんど皆無であったもので
あり,仮に存在するとしても上記3名の技術者に比較すれば,はるかに
小さな貢献でしかなかったものである。
(イ)この点,原判決は「…ラミネート発明は,課題をどのように解決し,
たかだけでなく,顧客のニーズを的確に理解することを含む課題の発見
が重要な発明であり…(261頁11行~13行)と認定するが,課」
題の発見が重要であるとしても,課題の発見のみでは発明としては成立
し得ないのであるから,共同発明者間で課題の発見のみしか行っていな
,,い者がいるとすればその者は真の意味での発明者にも該当しない以上
寄与度は相当程度低く評価されるべきである。
加えて,本件において,インレタ作製専用機では商品化しても売れな
いと考え貼付テープを検討することを提案したのは実質的には漢「」,「
字ダイモ」の検討をしていた技術者であるA,C,Bの3名であったので
あるから,原判決のいう「課題の発見」の重要性という観点を考慮して
も,一審原告らの寄与度を頭割りの均等割合とすることは不相当といわ
ざるを得ない。
(ウ)したがって,一審原告らの共同発明者間の寄与度については,一審
原告らそれぞれについて各12分の1とすべきである。
ウ第1発明について
原判決は,第1発明について「…Eらが共同発明者であるとまで認め,
るに足りる証拠はないから,Eらの協力は,被告の貢献度の中で評価され
るべき事柄であり…(261頁下3行~下2行)とする。」
しかし,第1発明についてEらの協力がなければ第1発明も単なるアイ
デアの域を出なかったものであり,技術者ではない一審原告X1が発明で
きるはずもなかった。第1発明を含めどの発明も,一審原告ら以外の技術
者(一審被告の技術者)が,同社に蓄積されたインク処理,テープ処理,
テープ搬送等についての技術知識及び各発明時の技術的知見を投入して初
めて実施可能となったものであり,本件被告製品の技術的課題を知り,そ
の克服のための知識を提供したE等の他の技術者の寄与は一審原告らより
大きいものである。
したがって,第1発明における一審原告X1の寄与度は2分の1(50
%)とすべきである。
(8)相当対価の支払時期について
原判決の認定(第3,6〔262頁以下)は争う。〕
,,仮に本件各発明に対する対価の支払時期につき原判決が認定するように
①平成4年8月20日以前の期間に係る相当対価請求権の消滅時効について
は支払時期の定めがなく,②その後の期間については,報奨規程により各年
12月25日が支払時期となると解したとしても,一審被告の発明報奨規程
を無効と判示した点は改められるべきである。
(9)消滅時効について
ア商事消滅時効の主張の追加
一審被告は,原審において,特許法旧35条は外国における特許出願を
する権利の承継には及ばないとの前提で10年間の消滅時効の主張をした
が,最高裁判所平成18年10月17日第三小法廷判決(民集60巻8号
2853頁)を踏まえ,以下のとおり,商事消滅時効を主張する。
なお,仮に,特許法旧35条の対価請求権に係る債務が民事債務である
としても,原判決が認定するとおり,前記(8)の①平成4年8月20日以
前における対価請求債権は消滅時効が成立しているものである。
イ最高裁判所平成18年10月17日第三小法廷判決(民集60巻8号2
853頁)と商事消滅時効
上記最高裁判決は,外国において特許出願を受ける権利の対価請求債権
に係る法律上の性質決定に関し「外国の特許を受ける権利の譲渡に伴っ,
て譲渡人が譲受人に対しその対価を請求できるかどうか,その対価の額は
いくらであるかなどの特許を受ける権利の譲渡の対価に関する問題は,譲
渡の当事者がどのような債権債務を有するのかという問題にほかならず,
譲渡当事者間における譲渡の原因関係である契約その他の債権的法律行為
の効力の問題であると解されるから,その準拠法は,法例7条1項の規定
により,第1次的には当事者の意思に従って定められると解するのが相当
である」と判断した。。
上記判示は,直接的には渉外的要素を有する請求権についての法例(現
「法の適用の通則法)の適用条文を判断するための法律的な性質の決定」
に関するものであるが,対応する発明について日本国で特許を受ける権利
の譲渡に関する対価の請求の性質が外国のそれと異なることは考えられな
い。したがって,上記最高裁判決は,日本国の特許を受ける権利も「原因
関係である契約その他の債権的法律行為の効力の問題」であることを前提
にするものと考えられる。そうすると,日本国内及び外国における特許を
受ける権利の譲渡の対価請求権の消滅時効に関しても,一審原告らと一審
被告の契約に関する法律行為に係る債権の問題として法律の適用を検討す
べきことになる。
これを本件についてみると,本件訴訟において一審原告らが求めている
のは,一審原告らが営利企業である一審被告に特許を受ける権利を承継し
たことによる相当の対価であり,同請求権は債務者である一審被告がその
営業のためにする商行為によって生じた債権であるから,商法522条の
商事消滅時効が適用されると解すべきである。
そして,原判決が認定するとおり,本件各発明に対する対価の支払時期
は,①平成4年8月20日以前の期間に係る相当対価請求権の消滅時効に
ついては支払時期の定めがないので,各出願日が起算点となり,②その後
の期間については,報奨規程により各年12月25日が支払期限となると
ころ,一審原告らは平成15年12月5日付け及び同月12日差出しの書
面により催告をして,6か月以内である平成16年2月13日に本件訴訟
を提起した。
したがって,上記①の債権はもとより,②のうち平成9年12月25日
に支払期限が到達する平成9年3月31日までの自己実施及び実施料収入
,,についての対価請求債権は商事消滅時効期間である5年間の経過により
消滅時効が成立しており,一審被告は同時効を援用する。
ウ一審原告らの主張に対し
一審原告らは,上記最高裁判決における「譲渡当事者間における譲渡の
原因関係である契約その他の債権的法律行為の効力の問題である」との判
示は国際私法の問題についてのものであるから,商事消滅時効の根拠とは
ならない旨主張する。
しかし,上記最高裁判決は,外国特許(ないし特許を受ける権利)の譲
渡に伴っての譲渡人が譲受人に対してその対価を受ける権利について原,「
因関係の契約その他の債権的効力」に基づき判断するとし,これが雇用契
約関係等に基づくものであることから,日本特許(ないし特許を受ける権
利)の譲渡と同様に扱うことを判示したのである。
そして,いずれにせよ,特許権の譲渡は雇用者等と被用者等の間の合意
等に基づきなされ,それによって対価請求権が発生するものであるから,
同請求権は債務者である雇用者等にとって営業のためにする商事行為とな
るものである。
したがって,商事消滅時効が適用されることは明らかである。
なお,平成16年の特許法改正の審議経過で否定されたのは短期消滅時
効の特別規定を置くかどうかであって,商事消滅時効が適用されることが
否定されたものではない。
2一審原告ら
(1)本件各特許権は有効であること
ア無効事由を有する特許と独占の利益の関係に対し
一審被告は,職務発明対価請求訴訟においても無効主張が可能であるこ
とは当然のことであるとして,本件各発明には進歩性がないなどとして無
効であると主張する。
もちろん,特許法旧35条に基づく職務発明対価請求訴訟においても,
発明の内容が具体的にどのようなものであって,どの点に優れた価値があ
り,それが独占的利益を生むものであるかどうかという評価は当然必要で
あり,事実を見極めることが第一ではある。
しかし,侵害訴訟において無効の主張が認められているのは,特許権者
が不当に技術を独占することがないよう,他業者の利益との衡平を図りな
がら産業の発展を図るという特許法の本旨に沿った目的のためであって,
本来,特許権者が職務発明対価請求に際して発明者に対抗するためにある
わけではない。
本件においては,例えば第2発明・第5発明にしても,マックス社やセ
イコーエプソン社という複数の競業他社から異議申立てを受け,その上で
特許査定されており,そのマックス社は侵害品を製造・販売したものの結
局異議申立てが通らず侵害品の製造・販売を中止したという経緯があり,
さらに,これらの日本出願をベースにした海外特許が欧米諸国で有効に特
許登録を受けており,特許番号を警告的に明記して他社を牽制してきたと
いう事実がある。そして何より,一審被告自身が特許権者として第2発明
・第5発明の主題である,抜群の耐久性を誇るラミネートラベルが誰にで
も簡単にその場で作れるという利点を製品の最大の特長として積極的にア
ピールすることでラベルライター市場を拡大し,凌駕してきたのである。
このような状況が揃う中で新たに市場参入を考える者がいたとしても,第
2発明や第5発明に関する特許を無効であるとする根拠は一つもないので
ある。この点において,第2発明・第5発明に対して,特許権者である一
審被告が自ら特許無効の主張をすること自体,全く道理に合わず,許され
ないことである。
,,要するに特許の無効化がおよそ期待し得ないような状況下においては
特許権者は既に市場において独占の利益を獲得しているのであって,それ
は,後日自ら特許の無効を訴えたとしても,既に社会に対して返還不可能
な既得の利益なのである。
しかも,以下のとおり,本件各発明に基づく特許はいずれも有効であっ
て,これと同旨の第1発明,第2発明,海外特許2,海外特許3に係る原
判決の判断は正当であるが,これと異なる第3発明,第5発明,海外特許
1に係る原判決の判断は誤りである。
イ無効事由の不存在
第1発明~第3発明,第5発明,海外特許1~3には,以下に述べると
おり,いずれも無効事由はない。
(ア)第1発明が有効であること
a一審被告は,原判決が離型促進剤の構成要件について公知でないと
した点について,離型促進剤を使用することは慣用技術であるから,
第1発明を有効とした原判決の判断は誤りである旨主張する。
しかし,市販のインレタシートのコーティング剤と第1発明の離型
促進剤は異なるものであり,前者を後者に替えて用いることもできな
い。
この点,一審被告の上記主張は,一審原告X1が自ら離形促進剤が
公知な技術であることを認めていることを前提とするものであるが,
このような主張は,市販のインレタシートに樹脂製のシート面に文字
の転写を促進するようなコーティング剤が塗布されていることを,第
1発明における「離型促進剤」と同じレベルのものと混同するもので
ある。
市販のインレタシートは,シート基材(①)に充分な量のインク材
でシルク印刷してインレタ文字(②)を形成し,インレタ文字(②)
,()()を乾燥させた後にそのインレタ文字②側からコーティング剤③
を塗布する。そして,コーティング剤(③)が転写対象となる紙と接
触するとコーティング剤(③)の粘着性により,インレタ文字(②)
がシート基材(①)から剥がれるというものである。しかし,このよ
うに,まずテープにインレタ文字を形成しておいて,その後でテープ
印字面にコーティング剤を塗布するような方法は,インレタ製造工場
では許されても,その場ですぐに誰にでもインレタが作れるという第
1発明の本旨に背くから,採用し得ない。一審原告X1は,大学時代
に学んだ材料工学の知識と経験を生かしながら,予めシート基材に離
形促進剤が施され,その上にインク材でインレタ文字が印字される仕
組みによって,インレタテープが即座に作れるということを発見した
のである。
さらに,市販のインレタシートに用いられるコーティング剤は,イ
ンレタ文字と転写対象物との間に介在して両者を粘着させるのに対
,,,し第1発明の離形促進剤はシート基材とインク材との間に介在し
インク材をシート基材から剥がれやすくしている点でも異なるのであ
る。もちろん,市販のインレタシートに用いられるコーティング剤を
第1発明の離形促進剤に代えて用いることもできない。
bまた一審被告は,特開昭57-4797号公報(乙20刊行物)に
「付着性材料15」が開示されていることをもって,同公報に離型促
進剤が開示されていると主張するようである。
しかし,乙20刊行物における「付着性材料15」は,第1発明の
「離型促進剤」と同一ではない。なぜなら,同公報の装置は,その他
の構成要素やインレタの製法が第1発明とは大きく異なる上,文言上
も,一方は「付着性」であるのに対し,第1発明は「離型促進」であ
る。
両者の相違点について更に付言すれば乙20刊行物の明細書FIG.3,
に開示されている「複写用複合材料」は,その明細書FIG.2にあるよ
うな光露光版と強力ライトを組み合わせた装置により複写用の像が形
成される。この発明では,キセノンフラッシュランプ(35)を照射
することによる輻射熱を利用してこの付着性材料(15)への加熱を
行っているが,請求項にもあるように,付着性材料(15)を「選択
的に軟化」させるためには照射光を選択的に通すための切抜きタイプ
の露光版をまず別途用意しなくてはならない。その露光版をフィルタ
ーとして,キセノン光を照射し,被照射部分のインクだけが軟化し,
それが複写用の像になるという思想である。複写用の像を形成するま
でに,別途に露光版もしくは文字盤テンプレートを作る必要があり,
できる複写像も同じ露光版から作られるので,同じ文字(像)ばかり
となる。しかも,例えば「回」という少ない画数の文字でさえ,単純
に文字部分を切り抜くだけでは文字にならない(外側を切り取ると内
側が抜け落ちてしまうため,内側の「口」が残るよう,つなぎ箇所を
入れながら切り抜かなくてはならない。。)
さらに,この発明では,例えばFIG.2にあるように一文字ずつ照射
する場合はキセノンフラッシュランプの照射と充電を繰り返しながら
,。複写用の像を形成していかなくてはならずはなはだ使い勝手が悪い
これでは一般消費者が使用する簡易インレタ作製機としては用をなさ
ないし,たとえ一審原告X1が事前にこの技術を知り得たとしても,
第1発明の参考になるようなものではない。
加えて,このようにキセノンランプで転写用の像を作る技術につい
ては,第1発明の審査過程で異議申立人のQ達により引用例とされた
特開昭60-225793号公報の中で従来技術として審議済みであ
り,乙20刊行物は新たな意味を持たないものである。
cさらに一審被告は乙152刊行物と乙153刊行物を挙げてシ,,「
リコン等の離型層」や「シリコーン層」が第1発明の離型促進剤であ
る旨主張するが,誤りである。
確かに,これらの公知例においては「シリコン等の離型層」や「シ
リコーン層」という記載はあるが,これらは転写される図柄を形成し
てから,その後,乙153刊行物では複写層3の上に感圧接着剤によ
る接着剤層4を形成するものであり,この「シリコーン層」は後から
塗布する感圧接着剤があって初めて機能するものである。同様に,乙
152刊行物では「複写画像に接着剤を塗布し,この接着剤の転写,
材料用シートに対する接着力を画像の転写材料用シートに対する接着
力より大きくすれば,(e)転写材料用シート3上の画像は容易に目的
物4に転写される」となっており,接着剤を後から塗布することが。
前提となっている。
要するに,これら公知例では,シリコーン層と後から塗布する接着
剤が相俟って初めて機能を果たすものであるが,このように後から接
着剤を塗らなければならないとなると,利便性が極めて悪くなり,簡
易インレタ作製機としてそれ自体で完成された転写テープを作製でき
ないことになり,これらの公知例を第1発明のために積極的に参考に
する動機付けも利点もない。
しかも,これら公知例に開示されている方法は,いずれも複写機を
利用して「転写シート」を作製しようとするものであるが,以下のよ
うに非常に手間のかかる手順を踏む必要がある。
①原画を用意する
②複写機又は製版カメラ又は引伸機等を使って,原画を左右反転
させた複写原稿を作製する
③上記の複写原稿を,複写機で転写シートにコピーする
④上記の複写シートに,スプレイやスクイージーにより接着剤を
塗布する
このように,上記方法では転写シートを得るまでに複写機や製版カ
メラなどで複写原稿を用意しなくてはならず,しかもコピーされた転
写シートの転写面に接着スプレイで接着剤を塗布する必要がある。こ
れでは一般消費者が使用する簡易インレタ作製機としては用をなさな
いし,何人も事前にこの技術を知り得たとしても,第1発明を完成さ
せるために参考になるようなものではない。
d一審被告は,第1発明が無効であることの根拠として,特開昭61
-211076号公報(乙7の2刊行物)を挙げる。
この点,乙7の2刊行物には,アイロンを用いて対象物に加圧熱転
写する技術が開示されているが,第1発明の請求項には「その背面,
から押圧されることで印字された像を被転写物に転写するためにレタ
リングテープ面に離型促進剤が塗布され,長尺状に形成された樹脂フ
ィルムからなるレタリングテープと」と明記され,レタリングテー,
プは,アイロン等の熱による転写ではなく,テープの背面から押圧す
るだけで転写するものに限定している。それゆえ,効果として,転写
作業が,レタリングテープの背面を押圧するという非常に簡単な作業
,。で行え安全にかつ能率的に行える利点があるとされているのである
仮にレタリングテープの文字を転写するのにアイロンが必要であると
すると火傷の危険があり,しかもその都度アイロンを持ち出さなくて
はならず非常に不便であり,およそ現実的ではない。一審被告の上記
主張は誤解に基づくものである。
また,一審被告の主張は技術的にも根拠がない。すなわち,乙7の
2刊行物の技術は転写紙に図柄を印刷し,それをアイロン加熱するこ
とで衣類などの布地に転写するものである。そして,布地にアイロン
転写することを実現するために,同発明では昇華型インクを使ってい
る。昇華型インクは固体インク又は液体インクが加熱されることで発
色し,かつ,気体化して微細な色の粒子が転写対象物の組織内に入り
込むという特徴を有している。しかし,一度加熱して昇華させてしま
うとインク粒子が対象物の組織内に入り込んでしまうので,それを再
加熱して別の対象物に転写しようとしても,元の対象物に留まってし
まい転写されない。このように,昇華型インクは昇華転写する前に熱
を加えるということができないから,乙7の2刊行物のように転写紙
に形成された転写画像を布地等にアイロン転写するのであれば,初回
の転写紙への印刷は非加熱型の印刷方式でなければならない。それゆ
え,乙7の2刊行物では,転写紙に像を作る最初の工程はインクジェ
ット方式又はインパクト方式とされ,熱を使わない非加熱の印刷方式
に限定されているのである。
そうすると,乙7の2刊行物の技術では画像を布地に転写する際に
アイロン加熱が必須となるものであって,第1発明の意義であるテー
プの背面から押圧するだけで転写されることを実現できない。
また,熱溶融型インクによるサーマル印字は加熱を伴うものである
が,昇華型インクを用いてサーマル方式で転写紙に像を形成してしま
うとその工程でインクが昇華してしまい,印刷された転写紙の像を加
熱して布地に再転写しようとしても像がほとんど転写されない。
つまり,乙7の2刊行物の技術は,転写紙に形成された像が布等に
染み込むように再転写されるところに発明の主題があるのであって,
そのためには昇華型インクを使い,アイロンの強力な熱によって一気
に加熱し,インクを昇華させるということが必須なのであって,昇華
型インクを印刷する非加熱式のインクジェットやインパクト方式に代
えてわざわざ加熱式のインクリボンを使う動機付けが全くないのであ
る。
さらに,乙7の2刊行物に記載された発明と第1発明との相違点を
挙げると,前者の転写紙基材はシートであって第1発明のような長尺
状のテープではないし,カッタもない。前者はパソコンとプリンタを
活用するものであって,第1発明における小型の一体化された印字装
置とは異なる。
このように乙7の2刊行物記載の「転写紙の製造方法」は,少なく
とも第1発明の構成要件D,G,Hがなく,発明の目的からしても全
く異なるものである。
e一審被告は,アイロン加熱を必要とせず,常温において押圧するこ
とで転写される複写用複合材料の例として特開昭57-4797号公
報(乙20刊行物)を,その材料に絵画を形成する装置として特開昭
53-35735号公報(乙22の2刊行物)をそれぞれ挙げる。
(a)確かに,乙20刊行物では,シート14と対象物に再転写され
る像の部分37の間には別の部材である「付着性材料15」が介在
するが,乙20刊行物と第1発明では,転写のための像を形成する
方法が全く異なる。乙20刊行物と乙22の2刊行物に記載された
技術は,キセノンランプなどの強力な光源を必要とし,付着性材料
15はキセノン光の輻射熱により加熱されると活性化して接着性を
,,()帯びその部分がもろい供与体層18に付着し固化した冷えた
後に引き剥がすと,活性化されていた付着性材料と接した部分の供
与体層だけが供与体ウェブ17から引き剥がされるという技術であ
って,第1発明とは異なる。
(b)また,両者は像を形成する材料も異なる。
乙20刊行物に開示される対象物に転写されるための像を形成す
る供与体層は,その請求項8にもあるように「供与体層が互いに融
,」着した微粒子からなり顔料と液体を含んだ隙間を有する複合材料
である。そしてこの供与体層18を輻射熱で活性化された付着性材
料15が供与体ウェブ17から一体的な像としてもぎ取っているの
である。供与体層18はそれ自身がいくらか粘着性を有し「例え,
ば紙,さし絵板,ガラス或いはプラスチックフィルムでもよい」と
されているように,押圧されればガラス面にでも付着し得る性質の
ものである。要するに,乙20刊行物において像を形成する供与体
層18は粘着性を帯びた一枚の薄皮のような材料である。
これに対して第1発明では,サーマルヘッドが有する多数の発熱
素子のうち所定の発熱素子を発熱せしめることにより,熱転写型イ
ンクリボンの支持体を介して発熱素子に接している熱溶融性インク
部分を溶かして転写テープに熱転写して像を形成するものである。
この種の熱転写型インクリボンは,通常,カーボン系の着色剤とワ
ックス系の結合剤とからなり,そのワックスが熱溶融することで上
記の熱転写印字を可能にしている。すなわち,第1発明で像を形成
するインクリボンは,100ミクロン程度の微細な印字素子の熱に
反応して転写されるもので,印字された像は微細な点の集合体であ
る。そして,第1発明の転写テ-プ上に形成された像は,押圧によ
って紙の組織の中にインク粒子が浸透することによって得られるの
であって,対象物の表面に1枚の薄皮として付着するのではない。
以上述べたように,乙20刊行物に記載された供与体層18はサ
ーマル印字方式に用いられる熱溶融型インクとは全く異なり,第1
発明に開示されているサーマルヘッドを用いて図形を形成すること
はできない。
(c)さらにいえば,乙20刊行物には,図形を反転させる思想もな
い。
乙20刊行物に開示されている複合材料は,乙22の2刊行物記
載の「図形形成装置」にあるように,キセノンランプの光が選択光
透過フィルタ上に形成された図画(抜き型)の部分だけ透過し,さ
らに透明な受容テープ11を透過して,付着性材料15を溶融して
像を形成するものである。この抜き型のテンプレートは正像で用意
すればよく,左右反転された像を必要としない。また「供与体層,
は,特定の用途に対して形成させる絵画に必要な光学的密度又は不
透明性を与えるのに十分な厚さをもつべきである(乙20刊行物」
3頁右下段2行~4行)との記載から,下方(供与体ウェブ側)か
ら光を照射しても供与体層18で遮断されてしまい,付着性材料1
5に届かないことは明らかであり,そのため乙20刊行物では受容
()。テープ11側図の上方からキセノン光を照射しているのである
また,仮に図の下方より光を照射する場合であっても,正像のテン
プレートを用意すればよい。
これに対して,第1発明は,構成要件Fにあるように,文字や記
号等の形状を反転させた鏡像を,インクリボンを介してレタリング
テープ面に反転印字するものであり,前記の図形形成方法とは明ら
かに異なる。
fしたがって,一審被告の主張する公知例の一つを主たる引用例とし
て他の公知技術を寄せ集めても,なお当業者が容易に第1発明に到達
し得たとはいえないので,第1発明が新規性・進歩性欠如により無効
となるものではない。
(イ)第2発明が有効であること
a第2発明が慣用技術により構成されているとの主張に対し
(a)一審被告が挙げる文献等
一審被告は,ハウジング内に設けたテープ印字装置の例として,
各種文献や製品を挙げて,第2発明は進歩性を欠き無効である旨主
張する。
しかし,一審被告が挙げた文献等のいずれにおいても,第2発明
の主題である「抜群の耐久性を誇るラミネートラベルが誰にでも簡
単にその場で作れる」ことを実現する技術は存在せず,示唆するも
のもない。
これらの文献にある製品を製造・販売しているのは,一審被告よ
りも先にラベル印刷装置を手がけてきた老舗メーカーであり,一審
被告にとっては一番の競合相手となるはずであった。特に,KRO
Y-80などを製造・販売していたクロイ社やマーリンエクスプレ
スを製造・販売していたバリトロニクス社は,技術指向の極めて強
いメーカーである。
一審被告が列挙した文献は,こうした技術に長けたライバルメー
カーでさえテープ上の文字が消えないことを課題として捉えていな
かったことを証明しているものである。発明の端緒ともいえるテー
プに印字された文字が消えないようにするという課題の発見なくし
て,発明に到達することはほぼあり得ないことである。
唯一表面を覆う行為をしているのは,USP4419175号公
報(乙19の3)のセロテープを糊面を上向きにセットし,親指で
ローラーを回して印字済みテープを重ね合わせるという手道具であ
るが,単に表面をセロテープで覆うというものであり,でき上がる
ものは貼付けラベルでさえない。ラベルライターにおいてテープの
上の文字等が擦れることのないように耐久性を持ったものとする技
術を世界で初めて示したのは,第2発明・第5発明(それをカセッ
ト化した第3考案)なのである。
なお,特開昭61-37447号公報(乙13の4刊行物)に関
しては,印字された文字の耐久性に関する示唆も,それを実現する
方法も何一つ記載がない。
(b)ラミネートテープ
・第2発明と同じ構造とされるテープ
一審被告は,第2発明と同じ構造のテープとして,実開昭62
-33080号公報(乙165,特開昭53-70700号公)
報(乙11の5刊行物,特開昭53-60600号公報(乙1)
9の1)等を挙げる。
しかし,上記は3件とも凸版,グラビア,フレキソ印刷などの
印刷方式によって印刷されたラベルであって,第2発明のように
サーマル印字ヘッドと熱転写インクリボンによって印字されたも
のではなく,同じものではない。例えば,特公昭51-4248
()()0号公報乙170に記載されたラベルを入手した者当業者
がそれを見てインク組成等を解析したとしても,上記凸版,グラ
ビア,フレキソ印刷などの印刷方式によって印刷がされたもので
あることしか知り得ないのであって,サーマル印字ヘッドと熱転
写インクリボンによって印字することを考えつくことはない。
しかも,実開昭62-33080号公報(乙165)と特開昭
53-60600号公報(乙19の1)の2件は,印刷工程を行
うのは全く別の印刷機械であって,前者の実開昭62-3308
0号公報は,その貼合せ工程を別の貼合せ専用機によって行うと
いうものである。
要するに,この実開昭62-33080号公報(乙165)の
実用新案によっては,第2発明の意義である「印字機構がサー,
マルヘッドによりインクリボンを介して印字を行うものであるた
め,テープ印字装置全体の小型,軽量化が容易である」という。
点は実現できず「テープ送り機構が第一のテープを送りつつ第,
二のテープを第一のテープに圧着するようにされており,テープ
送り機構がテープ圧着装置を兼ねているため,専用のテープ圧着
装置を設ける場合に比較してテープ印字装置を小形,軽量化する
ことができる」という点も実現できず「以上の印字機構,テー,
プ圧着装置を兼ねたテープ送り機構,リボン巻取機構等がハウジ
ング内に収容されており,所望の文字が印字された第一テープの
印字面に第二テープが圧着されて完成したテープが,テープ圧着
装置兼テープ送り機構によりハウジング外へ排出される」という
点も実現できず「機構部が全てハウジング内に収容されて保護,
されているのであって,一般使用者の使用に適するとともに,コ
ンパクトで見栄えの良いテープ印字装置が得られる」という点も
一切実現できない。
そして,実開昭62-33080号公報(乙165)の実用新
案には印字のためのテープ送りをしながら,同時に,同一機構内
でテープの圧着を行う構造を含んでいない点で第2発明とは全く
次元が異なるものである。
後者の特開昭53-60600号公報(乙19の1)は,前も
って印刷された透明なテープに,手作業で両面粘着テープを貼り
合せるというものであり,その明細書3頁左上欄には「印刷方式
は重要ではなく」と書かれているほどである。,
しかも,この特開昭53-60600号公報(乙19の1)の
テープ(FIG.1参照)は,第2発明の「第二のテープ」の基
材に当たるものが存在しない。基材が存在しないのであるから,
「第二のテープ」基材が「第一のテープ」の背景となることもで
きない。そして,このテープは,表面の透明テープが何者かによ
って後から剥がされた場合に,透明テープの方ではなく粘着剤の
方に印刷された文字が残る(移る)ことによって,ラベルの改竄
を知り得るということを発明の目的にしているものであって,そ
のため,透明テープへの印刷は弱い(親和性が低い)ものでな「」
ければならず,サーマル印字ヘッドによる熱転写インクリボンは
適さない。
さらに,乙11の5刊行物に関しては,原判決も認めているよ
うに,乙11の5刊行物のラベルでは,着色されるのは粘着層の
みであり,第2発明の「第二のテープ」基材を着色した場合によ
うに美しく隠蔽力に優れた背景とはなり得ない点において異な
る。
・第2発明とは異なる構造のテープ
一審被告は,第2発明のラミネート式ラベルライターで作られ
るラベルとは構造の異なるテープとして多数挙げ,このようにラ
ミネートテープにも各種のものがあり,ラミネートテープを複数
のテープを圧着して貼り合わせて製造する技術はいずれも慣用技
術であるから,いずれのタイプのラミネートテープを使用するか
は設計上の問題にすぎないと主張する。しかし,これらはそもそ
も第2発明のラミネートラベルとは構造が異なるから,逐一反論
を要しない。
・まとめ
このように,第2発明と同じラミネートラベルは存在せず,一
審被告の挙げる特開昭53-60600号公報(乙19の1,)
実開昭62-33080号公報(乙165)そして乙11の5刊
行物の方法によるラベルが存在していたとしても,そこから第2
発明に至るには「第二のテープ」基材を着色することと,テー,
プ送り,反転印字,貼合せ,インクリボンの巻取りのすべての工
程を単一の装置の中で行い,テープの自由端を外に向けてハウジ
ング外へ排出するための構造と機構部の配置を考えなければ,第
2発明の作用効果は実現できない。
そして,上記3件の公報には,装置を小型にして一般人の使用
に適するものにするという概念が全くないのであるから,第2発
明に至る可能性はないに等しい。
したがって,ラミネートテープが慣用技術であるとの一審被告
の主張は理由がない。
(c)サーマルヘッドによる印字とインクリボン・インクリボン巻取
り機構
一審被告は,サーマルヘッドとインクリボンを使用して印字する
製品や文献を多数挙げ,これが慣用技術である旨主張する。
この点,サーマルヘッドとインクリボンを利用した印字技術が古
くからあることは一審原告らとしても特段否定しないが,ハウジン
グ内に設けられたテープ印字装置においてラミネートテープを印字
することは全く新規なことである。
さらに,乙11の5刊行物に開示されたラベル製造方法において
インクリボンによる印字手段を用いることは,当該ラベル製造方法
の阻害要素となるもので,動機付けとはなり得ない。すなわち,乙
11の5刊行物は,その明細書2頁右下欄の記載からみて同じラベ
ルを大量(1000~5000枚)に製造するための方法であり,
通常,例示されたフレキソ,オフセット,凸版,グラビアなどの印
刷は毎秒数mの速さで印刷される。これに対し,インクリボンを使
用して熱転写印字を使う場合,必然的な制約として印字速度はせい
ぜい毎秒20mm程度となり,通常のシール印刷方法としては許容
できないほど時間がかかってしまう。第2発明が発明されて20年
,,が経過した現在においてもシール印刷に用いられるのは凸版印刷
オフセット印刷,シルクスクリーン印刷というのが常識であり,イ
ンクリボンを使用して熱転写で印字をするということはない。
また,こうしたシール作製を業とするシール印刷業者では,注文
は1000枚~10000枚というのが常識であり,乙11の5刊
行物の明細書を見ても顧客から注文を受けて印刷をすることを想定
している。そこでインクリボンなどを使えば,コストが非常に高い
,。ものとなってしまいその点からもインクリボンなど採用し得ない
さらに,インクリボンは,非常に高価であるだけでなく,非常に遅
い速度でしか印字ができないという欠点があり,その点からもイン
クリボンは採用し得ないのである。
この遅い速度と引き換えに,装置を非常に小型化でき,印字に準
備時間が要らず,電源投入後すぐに印字ができるという利点を持つ
のがラベルライターなのである。
(d)反転印字が慣用技術であるとの主張に対し
・第2発明の請求項2Aの「透視性を有する第一のテープにイン
クリボンを介して,文字等を裏返しパターンの反転印字する」及
び2Eの「第一のテープの反転印字が行われた印字面に,前記第
一のテープの背景となるテープ基材とそのテープ基材の両側に儲
けられた粘着剤層とその粘着剤層の片側に予め粘着された剥離紙
とから構成された第二のテープを圧着する」という構成要件に従
えば「反転印字」とは「透視性を有するテープにインクリボン,
を介して,文字等を裏返しパターンで印字する」ことであって,
その面に第二のテープが貼り付けられることを前提とするもので
ある。
この点,一審被告は,反転印字を行う製品や文献を多数挙げる
が,上記定義に従い一審被告が挙げる製品や文献をみると,マー
リンエクスプレス(乙16,17)では,既に貼付け用の粘着剤
が裏側に施されたテープの表面側に印字を行うものであり,第2
発明の「反転印字」とは全く異なるものである。ここで作られた
テープは窓ガラスに貼って外側から見るためのものであるが,テ
ープ上の文字自体はテープの表側に印字されているため,耐久性
。,のないものとなるこれは第2発明と異なるというばかりでなく
一審被告より先行する競合メーカーがラベルの耐久性を高めると
いう観念や問題意識を全く持っていなかった証でもある。
・次に,実開昭59-83547号公報(乙11の4,乙11)
の5刊行物,特開昭53-60600号公報(乙19の1,U)
SP4068028(乙19の2,特開昭62-33080号)
(),,,公報乙165をみるとこれらはすべて凸版印刷フレキソ
オフセットという印刷方法で行うものであって,印刷用原版を別
途用意し,インクを輪転機から転写するものであるから「反転,
印字」とは異なる(一審被告自身,第2発明に対するマックス社
の異議申立てに対して同旨の反論をし,その後審査官も相違を認
め,特許査定をしている。なお,一審被告がフィルム印刷面の。)
反対側から正視し得るものすべてを反転印字と呼んでいる点でも
失当である。
・また一審被告は,特開昭61-37447号公報(乙13の4
刊行物)について,同公報の図面において示されている印字ヘッ
ドの位置と打ち出しテープの態様からみて反転印字がなされてい
ると主張する。
しかし,同公報の明細書では,第3図の22が印字手段である
ことと「テープ20の裏面には接着剤がついている」ことだけ,
が記載されている。そして,図のテープ20のどちらが裏面かは
記載がないし,接着剤がついている裏面側に印字をするなどとい
う記載もない。このことからすれば,接着剤がついていない表面
側に印字すると考えるべきであって,これに反する記載や示唆は
ない。もちろん,この明細書には「反転印字「裏から印刷,,」,」
「表から正規に見える「耐久性「文字がかすれない「粘着」,」,」,
剤の上から印字する」などといった言葉はない。
しかも,この明細書では「テープを)透明ベースにすれば,,(
添付する物体の表面に直接印刷してあるように見える」と記載。
されており,印字されるテープとして不透明の場合と透明である
場合を想定していることは明らかである。
ところで,透明な媒体と不透明な媒体に印字をしなくてはなら
ない場合において,印字の結果がまともに見られるのは,表面か
ら印字をした場合だけであり,裏面(接着剤面)に印字すると解
釈すると,媒体が不透明な場合,印字の結果を見ることは物理的
に不可能である。
さらにいえば,第2図と第3図の関係は,第2図が外観図であ
り,第3図は内部を透視した透視図である。そして,第3図が真
上から見た平面図でもあるので,当然第2図も真上から見た外観
図である。ところが,第3図の24近傍,第2図の16近傍を見
ると,真上から見た平面図であれば描けないはずの奥行き部分が
描かれている。しかし,一方で,第3図の20,21,22近傍
を見ると,前述の奥行き(製品の厚み)に呼応して描かれなけれ
。,ばならない奥行きがこれらの部分では全く描かれていないまた
印字ヘッドやプラテンなど,丸と四角だけで描かれていることか
らも,非常に稚拙な概要図である。ここでテープの出口近傍に注
意して見れば,第3図では,排出されるテープ19はどちらにも
倒れずまっすぐ左へ排出されており,断面(テープの厚み)しか
見えないように描かれている。本来なら第2図でも断面しか見え
ないはずであるが,第2図ではテープは捻じって横に倒されて描
かれている。そうすると,同公報の出願人は,第3図では断面し
か見えないように描かれたテープを,単にテープに印字がされて
いるということを示すために,何の意図もなく片側に倒して第2
図19のように描いたのである。このことは,この乙13の4刊
行物の明細書の第2図や第3図は,これら図の描かれ方だけを根
拠にして発明としての開示内容を推測することができないことを
表している。
・なお一審被告は,特開昭59-95169号公報(乙11の1
刊行物)には反転印字が開示されていると主張するが,このよう
な主張に理由がないことは,原判決(190~191頁)の判示
するとおりである。
(e)テープ送り機構とハウジング外への排出
一審被告は,テープ送りを行いハウジング外へテープを排出する
製品及び文献を多数挙げるが,それらはすべてラミネートラベルと
関係のないものばかりである。これらの中には,機構部がすべてハ
ウジング内に収容されて保護されているため一般使用者の使用に適
するものもあるが,作られるテープはただのテープである。
第2発明では,印字機構だけでなくテープ圧着装置を兼ねたテー
プ送り機構,リボン巻取機構等がすべてハウジング内に収容されて
いるため,所望の文字が印字された第一テープの印字面に第二テー
プが圧着されて完成したテープが,テープ圧着装置兼テープ送り機
構によりハウジング外へ排出されるという決定的な利点を提供でき
るのである。一審被告が挙げた例には,このようなものは一つもな
い。
(f)テープの着色と背景に関する主張に対し
・まず,乙11の5刊行物には,粘着層を着色する思想はあるも
のの,両面粘着テープのテープ基材を着色して背景とする思想は
ないのであってこのことは原判決も認めているところである原,(
判決192頁。)
・この点一審被告は,テープを着色する方法として,①粘着テー
プの基材となるフィルム等に着色する方法,②着色された粘着剤
を塗布する方法,③粘着テープの基材となるフィルムそのものを
着色する方法があることは公知の事実であると主張して,特開昭
50-74637号公報(乙181,特開昭50-15074)
3号公報(乙182,特開昭51-19049号公報(乙18)
3)を挙げる。
しかし,上記公報における着色に関する記載は,いずれも粘着
テープを「包装用等の使用に際して好ましい色に着色する」場合
について述べられているのであって,包装用に使われるテープは
両面テープではなく,単に片側だけに粘着剤が存在する普通のテ
ープである。これらの文献では,片面にだけ接着剤のある普通の
テープを包装用に着色することに言及されているものの,両面粘
着テープにおいてテープを着色することには一切言及しておら
ず,両面テープのテープ基材を着色することについても一切言及
していない。貼り付ける対象物で被覆されることが前提となる両
面テープを着色すること自体常識的なことではなく,乙181~
183の出願人である東洋紡績株式会社のような世界屈指の化学
メーカーにとっても,テープを着色するのは常識的にはテープの
片面が外に現れる包装用途などの場合であり,両面粘着テープの
テープ基材を着色することは非常識であり,さらに,それをラベ
ルの背景となるように利用し,小型の装置の中で反転印字を行っ
た後に裏から貼り合せ,ラミネートラベルを瞬時に作製するなど
という思想は通常の想像を超えるものである。
b乙11の1刊行物・乙11の5刊行物との対比
この点に関する一審原告らの主張は原審において主張したとおりで
あり,原判決の判断(190~192頁)に誤りはない。
(ウ)第3発明が有効であること
a原判決の判断
原判決は,第3発明は,新規性を欠如するとは認められないが,マ
ーリンエクスプレスの説明書(乙16刊行物)に記載された発明及び
特開昭56-162659号公報(乙134刊行物)に記載された発
明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから,進歩性欠如
の無効事由を有すると判示した(194頁)が,以下に述べるとおり
誤りである。
b乙134刊行物
もともと乙134刊行物は,第3発明が特許査定に至る過程におい
て,拒絶理由通知(甲227の3)により進歩性が否定された際,審
査官が引用例(第2引用例)として挙げたものである。
審査官は,この拒絶理由通知において,第2引用例記載の「ハング
ル文字が横母音を含む場合は前子音を印字する領域に印字し,含まな
い場合は前子音と横母音を印字する領域にまたがって印字する印字位
置変更手段」につき,前子音をバランスのとれた自然な位置に印字す
るために設けられた手段であると理解し,第2引用例記載の発明と第
3発明とは「印字素子列の長さより小さいサイズのキャラクタを印字
する際に駆動される印字素子列の範囲を印字素子列の長さ方向にシフ
トする印字位置変更手段」でもって見やすい印字を行うという同一目
的を達成しようとするものと認定した。
これに対し一審被告は,意見書(甲227の4)をもって,第3発
明は,種々のケースに応じてセンタ印字及び片側寄せ印字(例えば下
揃え印字)を選択し得るようにするためであって,前子音をバランス
のとれた自然な位置に印字するために印字位置を変更する第2引用例
とは全く目的が違い,創造的活動による特別な着想がなければ容易に
達成できないものであることを主張するとともに,同日付けで同主張
に沿う内容に適正な手続補正(甲227の5)をし,その結果,特許
査定に至った。
このように,原判決が摘示した乙134刊行物(第2引用例)は特
許査定に至る段階で,テープ印字装置との組合せにおいて既に考慮さ
れ尽くしているのである。
c乙16刊行物
上記bのとおり,乙134刊行物は既に考慮され尽くしており,結
局,本訴訟において一審被告が新たに公知技術として提示したのは乙
16刊行物だけであるから,第3発明の進歩性を判断するためには,
この乙16刊行物記載の内容が特許査定を受けるに当たり考慮された
引用例や公知例と同じ範囲に属するものであるのか,また,第3発明
のセンタ印字と片側揃え印字のうち,文字サイズや印字テープの使用
目的に応じてより適切と思われる印字書式を選択することにより,ケ
ースに応じて最適の印字テープを作製するという範囲に属するもので
あるかを検討すべきである。
この点,原判決は,乙16刊行物の「比較的小さいサイズのアルフ
ァベットを印字する場合において,通常は文字のベースラインがテー
プ中央に配置されるところ,これを大きな文字のベースラインと揃え
るように下方に寄せて配置する機能が当然のように第3発明の片」,「
側に寄せてキャラクタ列の印字を行わせる片側揃えモード」に一致す
るとしているが,なぜこの二つが一致するといえるかという根拠につ
いては一切説明がない。
しかし,マーリンエクスプレスは,原則として文字列がセンター固
定で印字されるようになっているが,種類の異なるフォントを混在さ
せて文字列を印字する場合には,センター固定のままでは文字が踊っ
て見えてしまうことから,この見た目の問題を解決する目的で,一律
にベースラインで揃うように文字を印字するという装置である。これ
に対し,第3発明の根本的な思想は,明細書の〈発明が解決しようと
する問題点〈作用および効果〉欄にも記載のあるとおり,従来技術〉
ではレイアウトが画一的でフレキシビリティが得られないことを問題
として,文字サイズに応じて印字位置のフレキシビリティを高めるた
め,予め一律に定められた印字位置ではなく,ユーザーの嗜好に合わ
せ,多様な印字書式を実現しようというものである。第3発明の審査
の過程においては,この明確な目的とそれによる技術の違いが認めら
れて特許査定を受けているのであるから,この違いは第3発明の本旨
に関わるものであり,最も重視されるべきである。
実際にも,第3発明では印字素子列の範囲で小さいサイズの文字の
キャラクタ列を上下に寄せて印字することができる(第3発明は,使
,,用目的に応じてより適切と思われる印字書式を選択することにより
ケースに応じて最適の印字テープを作製する技術である)が,乙16
刊行物の技術では,小さいサイズのキャラクタ列を上に寄せることは
できないという違いがある。
しかも,マーリンエクスプレスはテープ印字装置であり,製造元の
バリトロニクス社は一審被告にとって競合他社となり得た存在であ
る。もし,第3発明が容易に到達し得るものであれば,彼らこそ一審
原告らよりも先に第3発明と同じ方法で文字を片側に寄せて印字位置
を変更する技術を製品に取り入れていたはずである。一審原告らは早
くから自由なレイアウトができることが重要になることに気付き,そ
の態様と実現方法を次々に考えていったのであり,その最初のものが
第3発明であるし,一審原告X2は,その後も見出しラベルに使う特
殊な2行印字の方法(第1考案)を考え出し,2行印字の入力方法や
複数ブロックの際の便利な入力方法も提案していったのである。要す
るに,同業他社は,ラベルライターにおいてより自由なレイアウトに
対応するという点において一審原告らに劣後したのであり,この事実
も,第3発明が容易に発明し得なかったことを裏付けるものである。
したがって,乙16刊行物(マーリンエクスプレス取扱説明書)記
載のセンター固定をベースライン固定に切り換える機能と,第3発明
の片側に寄せて印字する技術が同一であるとした原判決の判断は誤り
である。
(エ)第5発明が有効であること
a第5発明の実効性
原判決は,第5発明に無効事由があるとしつつ,独占の利益を肯定
すべきと判断しており,後者の判断は一審原告らとしても争うもので
はない。
そして,これに更に付言すると,第5発明は,少なくとも形式上有
効な特許として,第三者に対する禁止権を行使し得る状態で存続して
きたものであるばかりでなく,直接的には,国内でマックス社が模倣
品のラミネート式ラベルライターLM-200を発売した際,特許庁
に優先審査請求をし,これに対して異議申立てをしたマックス社と激
しく争った上で第5発明を特許化させ,以後マックス社には侵害品の
販売を直ちにやめさせ,代わりに被告会社のOEM製品を販売させた
という実績がある。このように,第5発明は,国内で出現した第一の
競合会社と激しく有効性を争って特許をさせた上で,その独占権を行
使してきた,実効性が極めて高い,実利のある特許である。
このような特許に対して,対価請求を受けたからといって,公知例
を寄せ集め,無効の主張をすること自体,非常に反社会的であるし,
独占の利益の算定から除くことはあり得ない。
b原判決の誤り
(a)制御手段に関する相違点の看過
原判決は,乙13の5刊行物の活字ブロックは左右に移動するの
に対し,第5発明のサーマルヘッドは固定されているから,この点
も相違点である旨の一審原告らの主張について,実施例に限定した
解釈に基づくもので誤りであると判示する。
しかし,原判決は,用紙を上下に送る機構を持つ装置において,
用紙送りが止まった際に活字ブロックを左右に移動させて印字する
ことと,搬送される記録媒体にその搬送方向に沿って左右反転印字
を行うことが根本的に異なるということを考慮しなかった点におい
て,誤りがあるといわざるを得ない。
すなわち,この乙13の5刊行物における用紙の搬送路は下から
上の方向であり,この搬送路に沿って用紙を下から上へ送りながら
印字をすると,活字ブロックがタイプライターのような活字の場合
であれば縦書きにしかならないし,サーマルヘッドの場合,全く印
字することができない(一本の細い線が印字されるのみである。。)
乙13の5刊行物の実施例(第1図)においてABCと印字ができ
ているのは,用紙を搬送路に沿って下から上へ送る手段とは別に,
用紙送りが止まっている際に印字ヘッドを左から右へ移動させる手
段が存在するからである。
したがって,乙13の5刊行物において印字ブロックが固定され
た状態では記載されたような印字ができないのであるから,用紙を
上下に送り,印字ブロックは左右に動かすという構成は実施例であ
るばかりでなく,必須な構成要素である。
そして,このような乙13の5刊行物の記載内容をベースにして
第5発明の「記録媒体」の裏面に「左右反転した像」を印字するに
は,まず用紙が右から左に送られるように配置し直さなければなら
,,,ずさらに右から左に送られる用紙に左右反転の印字を行うには
サーマルヘッドの印字素子列が用紙の幅方向に配列されるように9
0度倒した上で反転印字がされるように制御しなければならない。
このように,乙13の5刊行物の記載は,用紙を用紙の搬送路に
沿って送り,活字ブロックをレールに沿って横方向に印字しながら
移動して印字するものであり,第5発明の構成要素である透視性を
有する記録媒体を媒体搬送路に沿って搬送し,記録媒体の裏面側に
形成される記録像が前期裏面側から見て左右反転した像になるよう
に反転記録を行わせる制御手段とは全く異なるものである。
なお,乙13の5刊行物の欧州出願は,国内で第5発明が特許さ
れた平成5年(1993年)8月9日以前である海外特許2の審査
過程において,平成元年(1989年)12月15日に米国審査官
から公知技術として指摘を受けたが,一審被告は両者の違いについ
て上記と同様の主張をして,特許査定を受けている。
(b)組合せの容易性に関する判断の誤り
原判決は,乙13の5刊行物と乙11の5刊行物とを組み合わせ
ることが容易である旨判断するが,乙13の5刊行物と乙11の5
刊行物を積極的に結び付ける要素や動機はないのであって,上記判
断は誤りである。
すなわち,乙13の5刊行物は,従来技術では印字した直後の印
字結果をすぐに見ることができないという「解決すべき課題」につ
いて,それを印字直後に見れるように,印字結果と使用者との間に
介在するプラテンをわざわざ透明のものにしたものであって,これ
がこの発明の核心であり,課題解決の手段である。ところが,乙1
1の5刊行物では,印刷された基材に,その直後に両面粘着テープ
を貼り合わせる工程があり,乙13の5刊行物の印字面にわざわざ
両面延着テープを貼り付けるということは,この乙13の5刊行物
の目的である印字した結果をすぐに見えるようにするという目的・
効果を完全に阻害することになる。一方,乙11の5刊行物の印刷
手段ではプラテンなど使われていないので,これをわざわざ透明に
することは意味がない。
このように,乙13の5と乙11の5を仮に同時に知ることがあ
,,,ったとしても両者は相容れないものであり互いに参考にならず
両者を組み合わせても第5発明に容易に到達し得るものでないか
ら,進歩性は否定されない。
(オ)海外特許1が有効であること
a補正による影響につき
,,一審被告の主張のうち誤って公開公報に基づいた翻訳が提出され
海外特許1の請求項がその後の審査において補正されたことは認め
る。
ただし,上記補正はその前後において有効性に関して実質的な差を
生ずるような違いはなく,補正後の請求項によってもこれまでの一審
原告らの主張や原判決の内容はそのまま当てはまる。
すなわち,海外特許1の公開公報(甲20の7)と特許公報(乙1
55)の違いは,請求項1に請求項3の要素が取り込まれ,以後,請
求項の番号が繰り上がった点のみで,実質的な差はない。そして,両
者の実質的な差である請求項1に請求項3の構成要素が追加されてい
ることによって原判決の判断が影響を受けることはない。
b進歩性につき
(a)第5発明との関係
一審被告は,海外特許1の請求項1~6は,原審が特許された請
求項として誤って認定した出願公開時の請求項1~7の構成を超え
る実質上の限定は存在せず,そうである以上,第5発明と同じく,
乙11の5及び乙13の5刊行物の存在から進歩性が否定される旨
主張する。
しかし,海外特許1の請求項1~6は,第5発明の構成要件と同
一ではないし,そもそも第5発明に無効事由はない。
(b)乙11の5刊行物との関係
また一審被告は,乙11の5刊行物に海外特許1の請求項1の構
成要件7C'及び7D(インクリボンとインクリボン移送手段)を’
除く他の構成要件はすべて明示的に記載されている旨主張する。
しかし,以下のとおり,乙11の5刊行物には,請求項1の構成
’’,’’要件7Cと7Dが示されていないばかりでなく7Bも7E
も明示的に記載されているとはいえない。
・構成要件7B’
一審被告の上記主張は,乙11の5刊行物における「透明な連
続基材(1)を搬送路に沿って搬送するための手段(11)」が,請求
項1の構成要件7B’である「実質的に透明な記録媒体(70)を搬
送路に沿って搬送するための手段」に当たることを前提とするも
のであるが,海外特許1では「搬送するための手段(feeding,
means」で送られるのは「実質的に透明な記録媒体」であるのに)
対し,乙11の5刊行物においては,上記「手段(11」を用い)
「」,「()」ても透明な連続基材(1)は全く巻き取られず巻取り装置11
と透明な連続基材はつながってすらいないのであって「巻取り,
装置(11」が巻き取っているのは,テープロール7に巻かれた)
両面粘着テープである「巻取り装置(11」を巻けば,粘着テー。)
プに接着させられた透明基材の一部は途中までは引き摺られて一
時的に引っ張られるが,まともに搬送することはできない。なお
原文では,海外特許1は「feedingmeans」であり「送って供給,
」,()する手段であり巻き取る装置英訳すればrewindingmeans
とは異なる。
この「送って供給する」か「巻き取る」かは,単に文言上の違
いでなく,機能上も非常に重要なポイントである。すなわち,乙
11の5刊行物には連続的な印刷を行うラベル製造方法が開示さ
れているが,このラベルを巻き取る構造では,供給側のスプール
が空になるまで連続印刷をして,その後ラベルのスプールを外し
て,さらに巻かれたラベルを後のものから順に引き出して切り出
。,し使用することになる仮に一枚だけのラベルを得ようとすれば
供給側と巻取り側のスプールをセットして一枚分を印刷した後
に,巻取りスプールと両面粘着テープのスプールの両方を取り外
し,ラベルを切り出すことになる。このようにつながったラベル
を一旦切ってしまうと,再度スプールに巻きなおし,装置に取り
付け直すなどとという作業は手間がかかりすぎて非現実的であ
る。ラベルライターでは,印字されたラベルの自由端を外へ向け
てハウジング外に送り出し,印字したテープ片をすぐにカットで
きる構造でなくてはならないのである。
,,’このように乙11の5刊行物には請求項1の構成要件7B
である「実質的に透明な記録媒体(70)を搬送路に沿って搬送する
ための手段」が記載されていない。
・構成要件7E’
乙11の5刊行物の明細書には,装置の配置方向やオペレータ
ーがどちらから装置を操作するのか,そして印刷結果をどの方向
から見るのかなどについての思想が全くなく,請求項1の7E’
の構成要件である「前記プリントは,使用時オペレーターに正規
に現れるように,左右に反転されて遂行されるべく制御されるこ
と」について,何らの記載もない。
そもそも,乙11の5刊行物のラベル製造方法は,その明細書
の記載からも明らかなように,同じラベルを大量に(1000~
5000枚程度)作るためのものであって,ラベルのでき栄えを
一枚一枚オペレーターが確認するという必要がないものである。
そのため,乙11の5刊行物では,オペレーターの存在,オペレ
ーターが装置を見る方向,オペレーターとラベル基材が搬送され
る方向の関係といったことについて全く想定していないのであ
る。明細書の図1において,仮にオペレーターが印刷結果を見る
とすると,天井方向から下を見るのでなければ何も見ることがで
きない。
一方,ラミネート式を実現したラベルライターにおいて印字ヘ
ッドがオペレーター側にあると,テープが排出された際に剥離紙
の裏側しか見ることができない。覗き込んでも上下逆さにしか見
えず,これでは,でき上がったラミネートラベルは素晴らしいも
のであっても,ラベルライターとして,ラベル作製の際に印字結
果が確認できないという操作性に劣る点を抱えることになってし
まう。
,「」,そのような不都合を解決し正規に現れるようにするには
入力操作などを行うオペレーターの位置に対して,印字ヘッドの
位置と向き,透明印字テープの位置と送り方向,印刷データを特
別に考えなければならない。
このような特別の配置が考え出されたからこそ,オペレーター
が一枚一枚内容の異なる印字がされたラベルを正しく見ることが
でき,ラベルがラミネートされた上,できあがった姿が直ぐに目
視でき,かつ直ぐに使えるという利便性も得られるのである。
このように「前記プリントは,使用時オペレーターに正規に,
,」現れるように左右に反転されて遂行されるべく制御されること
は,海外特許1において極めて重要な構成要素であるにもかかわ
らず,乙11の5刊行物ではこの重要な構成要素7E’に関する
思想がないのである。
したがって,一審被告の前記主張は前提において誤っている。
・構成要素7C’と7D’
一審被告は,乙11の5刊行物の「印刷装置はあらゆる方式が
可能であること」との記載から容易想到性を導いているが「あ,
らゆる方式」といっても,明細書には「全ての実施例にわたり,
,,,印刷装置は通常シール印刷に用いられるフレキソオフセット
凸版,グラビア等その他あらゆる方式」と記載されているのであ
って,通常シール印刷に用いられる印刷方式にしか言及されてい
ない。そして,乙11の5刊行物に開示されたラベル製造方法に
おいてインクリボンによる印字手段を用いることがラベル製造方
法の阻害要素となり,動機付けとはなり得ないことは,第2発明
において述べたとおりである。
(c)データ入力装置が周知でないこと
一審被告は,請求項2におけるデータ入力装置もテーププリンタ
ーにおいて周知であり,請求項3~6の各構成要件はすべて乙11
の5刊行物に開示されている旨主張するが,誤りである。
上記主張は,請求項2の「前記装置の一区画において前記媒体搬
送手段及び前記記録手段の前方に配置され,前記記録手段によって
記録される前記イメージをあらわすデータを入力するための,オペ
レーターによって制御されるデータ入力手段」について,他の公知
例(乙88,乙13の4,乙18)などで周知であることを前提と
するものである。
しかし,乙11の5刊行物に記載又は例示されているのは,別の
手段によって印刷に用いる版を事前に作製し,文字校正や色校正を
した後で製版を行い,その印刷用原版(明細書図面ではドラム状)
をセットして印刷するような方法ばかりである。したがって,この
ような工程によるラベル製造においては,印刷をする際にその都度
印刷用原稿を印刷装置に入力するといった思想はなく,ラベルプリ
ンターのデータ入力手段と容易に結び付けて考えられるものではな
い。
仮に乙11の5刊行物と乙88などテープに印字する装置を同時
,,に知り得た当業者がいたとしても両者を積極的に結び付けて考え
かつ,海外特許1の発明に至ることが容易でないことは歴史が証明
している。すなわち,一審被告従業員の陳述書(乙164・R陳述
書)によれば,乙11の5刊行物の公開が昭和53年,サーマルヘ
ッドとインクリボンによる印字技術が汎用技術となったのは昭和5
7年ころからである。一審原告らが第2発明や第5発明を完成させ
たのは昭和62年7月であるから,当業者には5年間という時間が
等しく与えられていた。それにもかかわらず,クロイ社やバリトロ
ニクス社は,ラベルの文字がすぐに見えなくなってしまう製品しか
,。考えることができず耐久性の高いラベルへの意識は全くなかった
ダイモ社に至っては,サーマルヘッドとインクリボンを使用してラ
ベルを作るということにすら全く関心がなかったのである。
このように,乙11の5刊行物を知る当業者が,単にサーマル印
字方式という技術を知っていたり,テープにサーマル印字をする装
置(例えば,乙88)を知っているだけでは海外特許1に至ること
はできない。一枚一枚内容の異なるラベルを作ることができ,しか
も装置を操作するオペレーターが印字された内容を正常な画像とし
て視認することができ,それが抜群の耐久性を持っていることの価
値を見抜いていなければ,海外特許1に至ることはない。そして,
この発明を実施した製品が商業的に大成功した事実も海外特許1の
進歩性を如実に証明している。
(d)取扱説明書への表示
一審被告は,欧州向けのラミネート式ラベルライター製品には,
海外特許1を含む一審原告らのラミネートに係る特許表示を取扱説
明書に掲載して他社の参入を牽制している。
c新規性につき
(a)欧州特許●●号(ダイモ契約権利2)と欧州特許319209
号の優先権主張が無効であること
欧州特許条約87条(1)によれば,同一出願者(一審被告)が同
一発明に関して行った「最初の出願」を優先権主張の基礎とするの
でなければ,その優先権主張は当該規定に違反して無効となり,無
効となる範囲において有効出願日は現実の欧州出願日となる。
ここで海外特許1の請求項1~7の各発明は,遅くとも一審被告
が指摘する実願昭62-292729号公報(昭和62年〔198
7年〕11月19日出願,日本出願⑤)にすべて開示されている。
そして,最先の国内出願である第3考案(実願昭62-17606
7号公報)では,海外特許1の請求項1~6の各発明に加えて,ラ
ミネート式ラベルライターに用いるカセットにおいて,透明印字テ
ープとインクリボンと剥離紙付き両面粘着テープを同一のカセット
に収納するという技術が記載されている。したがって,海外特許1
の請求項1~6の各発明は,最先の第3考案を優先権主張の基礎と
するのでなければ,その優先権主張は87条(1)規定違反となり無
効となる。
請求項7の発明は,最先の上記日本出願⑤を優先権主張の基礎と
するのでなければ,その優先権主張は87条(1)規定違反となり無
効となる。
,,そしてラミネート式ラベルライターに用いるカセットにおいて
透明印字テープとインクリボンと剥離紙付き両面粘着テープを同一
のカセットに収納するという発明は,最先の第3考案を優先権主張
の基礎とするのでなければ,その優先権主張は87条(1)規定違反
となり無効となる。
したがって,これらより後の出願に係る実願昭62-18130
7号(昭和62年〔1987年〕11月28日出願,日本出願③)
を優先権主張の基礎とする欧州特許319209号(欧州特許④)
の優先権主張は無効であり,無効となる範囲(海外特許1の請求項
1~7に係る部分)の有効出願日は現実の出願日である昭和63年
(1988年)11月25日となる。
一審被告の指摘する特願昭62-323429号昭和62年1(〔
987年〕12月21日出願,第5発明,日本出願②)を優先権主
張の基礎とする海外特許1の優先権主張も無効であり,無効となる
範囲(海外特許1の請求項1~7に係る部分)の有効出願日は,一
審被告が主張するとおり現実の出願日である昭和63年(1988
年)10月27日となる。
,()さらにダイモ契約権利2の優先権主張の基礎である●●省略
も海外特許1の請求項1~7の各発明に係る最先の出願ではないの
で優先権主張は無効となり,無効となる範囲(海外特許1の請求項
1~7に係る部分)のダイモ契約権利2の有効出願日は,現実の出
願日である昭和63年(1988年)12月29日となる。
要するにどの優先権主張も最先の国内出願である第3考案一,,(
審被告の主張によっても日本出願⑤)を基礎としていないため,最
先の出願とはいえず,海外特許1の請求項1~6の主題に関する限
りすべて優先権主張は無効となり,無効となる範囲については現実
の欧州出願日が有効出願日となるということである。
現実の出願日
・本件海外特許1→昭和63年10月27日
・欧州特許319209号→昭和63年11月15日
・ダイモ契約権利2→昭和63年12月29日
したがって,海外特許1の請求項1~8の発明に係る最先の出願
は,海外特許1の現実の出願(昭和63年10月27日)自体であ
り,優先権主張が無効となる他の欧州特許319209号とダイモ
契約権利2の現実の出願はこれに劣後する。これら有効出願日が劣
後する出願が従来技術となることはないので,海外特許1は新規性
を有することは明らかである。かえって,以下のとおり,ダイモ契
約権利2は新規性を欠き,無効となる可能性が高いというべきであ
る。
(b)ダイモ契約権利2が無効であること
・欧州には我が国の特許法における29条の2ただし書に相当す
る規定がないため,欧州特許条約54条3項の規定によって後願
のダイモ契約権利2に対して,海外特許1の請求項1~8が技術
水準を構成する。
ところで,ダイモ契約権利2の請求項1に開示された技術のう
ち,一見して一審原告らの第3考案及び海外特許1に明示されて
いないのは,次の3点のみである。
①テープカセットのハウジングに印字ヘッドが進入できる
凹所があること
②テープカセットのハウジングにテープの出口があること
③第3考案のように透明テープとインクリボンが重ねて第
1区画にともに巻かれているのではなく,透明テープとイ
ンクリボンとが別々の区画に収納されていること
しかし,印字ヘッドを収納するための凹所を設けることは当然
のことであって,上の第2発明の明細書第1図にも印字ヘッド
(72)が挿入できるように凹所が設けられている。
2点目のテープカセットのハウジングにテープの出口を設ける
ことも常識である。出口がなければ印字されたテープを出すこと
ができない。
3点目のインクリボンが透明テープとは別に巻かれている点に
ついても,第2発明の第1図で示されている。
また,テープカセットに関する第3考案では,カセットのサイ
ズを小さくするために敢えて透明テープとインクリボンの供給側
スプールを共通にするという工夫をしている。
そして,第3考案の明細書(甲246)には「また,第1図,
のように透明テープ32とサーマルリボン34とが共用スプール56
に積層状態で巻かれていることは不可欠の要件ではなく,共用ス
プール56を,透明テープ32の供給スプールとサーマルリボン34
の供給スプールとの2個のスプールに分離・独立させることも可
能である。この場合,スプールが都合4個となってカセットケー
ス54は幾分大きくなるが,透明テープ32とサーマルリボン34
。」(),とを互いに独立交換することができる16頁とあるように
透明テープとインクリボンを独立させて,4つのスプールからな
るカセットの構成が変形例として明示的に記載されている。
このように,透明テープとインクリボンと両面粘着テープが単
独でスプールに巻かれる構成とすれば,カセットのハウジング内
では,各テープスプールを収納する第1~第3の収納区画に分か
れるのは必然である。すなわち,透明テープのスプールはテープ
出口から一番遠い収納エリアに配置され,次にインクリボンの供
給スプールと巻取りスプールが2つ目のエリアに配置され,圧着
ローラーとテープ出口に最も近い3つ目のエリアに両面粘着テー
プのスプールが配置される。
以上述べたように,第3考案の変形例や第2発明の1図により
テープカセットの構成は開示されていたのであり,これが正しく
ダイモ契約権利2の請求項1に該当する。
したがって,一審被告のダイモ契約権利2は新規性を失い,無
効となる可能性が極めて高い。
・上記の現実の出願日に対して,国内でキングジム社が被告製造
のラミネート式ラベルライター「TR-55」を発売したのが昭
和63年11月12日であり「TR-55」には一審被告のダ,
イモ契約権利2のすべての請求項に係る技術が実施されている。
既に述べたように,ダイモ契約権利2の優先権主張は無効であ
るから,無効になる範囲でその有効出願日は昭和63年(198
8年)12月29日であり,有効出願日以前にすでに特許請求の
内容が「TR-55」で公然と実施されており,新規性を有しな
い。このことからもダイモ契約権利2は無効である。
(カ)海外特許2が有効であること
a一審原告らの主張及び原判決の判断
この点に関する一審原告らの主張は原審において主張したとおりで
あり,海外特許2が有効であるとの原判決の判断は正当である。
b一審被告の主張に対し
(a)乙11の5刊行物(特開昭53-70700号公報)
・一審被告は,乙11の5刊行物について,海外特許2の請求項
2,3,6,7,12はすべて乙11の5刊行物に記載されてい
ると主張し,請求項4,5,8,11は乙11の5刊行物には未
,,開示の要素があるもののそれらの構成要素は周知の技術であり
進歩性がない旨を主張する。
しかし,海外特許2と同様のラミネート発明である第2発明と
乙11の5刊行物との関係は前記のとおりであって,第2発明と
同様の構成に関しては,一審被告の主張は理由がない。
・また,海外特許2の請求項2の構成要素8Cについては,乙1
1の5刊行物には印字ヘッドとプラテンを用いることは全く記載
されておらず,かつ,相容れない思想であり,当業者が乙11の
5をベースに,インクリボンによるサーマル印刷方式を採用する
ことはあり得ない。
また,同構成に関し,乙11の1刊行物を挙げるが,同刊行物
記載の装置はテープに印字をするものではなく,シートにカラー
印刷をした後に,印刷されたシートを取り出し,別のパウチ機の
ような機械に入れてパウチするものであって,でき上がるのも粘
着性のないシートである。しかも記述されているのは,記録用紙
へのカラー印刷の順番についての思想であって,反転印字を開示
したものではない。
・請求項4における「テープ貼り合せ手段が記録テープ送り手段
とカバーテープ送り手段を兼用する」構成は,乙11の5刊行物
には記載がない。乙11の5刊行物において,積極的に駆動する
部分として記載されているのは「巻取り装置(11)」と「カス巻,
上げ装置(9)」だけである。
また乙11の5刊行物の実施例の構成においては,海外特許2
の発明と異なり,貼合せローラーが最終位置(最下流)に配置さ
れていない。このような配置で仮に「貼合せ装置(4)」の一方を
駆動させると「貼合せ装置(4)」と「巻取り装置(11)」等の間で,
媒体にたるみが生じてしまい,ダイカット装置(8)がたるんだ状
態の媒体を切ることになりかねない。貼合せローラーが積極的に
駆動して印字テープを送るとともに,印字テープと両面粘着テー
プを圧着するということは,海外特許2にように,圧着ローラー
兼テープ送りローラーを出口の一番近くに配置するように考えな
ければ解決できないことである。
・請求項5については,請求項2と同様,当業者が乙11の5刊
行物に基づき,インクリボンによるサーマル印刷方式を採用す
ることはあり得ない。
・請求項6,7については,搬送手段が記録テープとカバーテー
プを一緒に送ることが明確化されているところ,乙11の5刊行
物にはそのような思想がない。
・請求項8については「テープ貼り合せ手段が記録テープ送り,
手段とカバーテープ送り手段を兼用する」構成は,乙11の5刊
行物に開示がなく,海外特許2の画期的な配置を考えつかなけれ
ばならない。
・請求項11については,8B’の「透明な記録テープを搬送’
する媒体搬送手段」が「巻取り装置(11)」ではないし,8C’’
の「印字データにしたがって,前記複数の文字を前記所望の順番
で前記記録テープの一方の面に,印字手段から印字する面に向か
った第1の方向から見たときには前記の個々の文字が左右反転し
て見え,反対の第2の方向から見たときに通常の像に見えるよう
に印字する印字手段」は乙11の5刊行物に記載がなく,8Xの
「データ入力手段」も乙11の5刊行物とは全く結び付かないも
のである。
・請求項12についても請求項2と同様であり,一審被告の反論
は理由がない。
(b)米国の実務における非自明性の判断
・非自明性の判断において考慮すべき副次的要因
以下のとおり,ドナルド・S・チザム著「ElementsofUnited
StatesofLaw(アメリカ特許法とその手続:竹中俊子訳。甲2」
49・51~57頁)において,米国における非自明性の判断の
際に考慮すべき副次的要因として挙げられている諸事情に照らし
てみても,海外特許2は有効である。
・長く要望されていた課題-他者の失敗例
米国における非自明性の判断においては,審査の対象である発
明がその課題を解決した場合,この解決方法は当該分野で通常の
知識を有する者にとって自明でなかったことを間接的に示す証拠
となるとされている。
これを本件についてみると,海外特許2のラミネート式ラベル
ライターが発明される以前に存在した単にテープ上に印字をする
装置は,市場で全く受け入れられずに失敗した。すなわち,バリ
トロニクス社のマーリンエクスプレスは全く売れなかった。どこ
でも,誰でも,すぐに一枚から所望の貼付けラベルが作れるとい
う課題に対して,耐久性を持つことが必須であることに気付かず
取り組んだ他者はことごとく失敗したのである。
・商業上の成功
上記と同様に,発明を実施したある製品が従来の製品にとって
代わり,大きな商業的成功を収めた場合,発明が自明であれば,
そのような成功の見込みによって刺激された他の者がその発明を
完成させていたであろうから,この発明が自明でなかったことを
間接的に示す証拠とすることができるとされている。
これを本件についてみると,海外特許2のラミネート式ラベル
ライターは,単にテープ上に印字をする装置だけでなく,それま
でダイモ社が世界中で年間600万台も販売していたメカ式ダイ
モ(エンボス式)を瞬く間に市場から完全に駆逐してしまった。
,,,,それだけではなくそれまで存在しなかったどこでも誰でも
すぐに,一枚から耐久性の高い貼り付けラベルが作れ,どこにで
も使えるという新たな市場を創造した。一審被告のラミネート式
ラベルライターの売上げは既に3000億円近い。
・実施許諾と高率のロイヤリティ
同様に,特許権者の主要な商業上の競業者が特許権に基づく実
施許諾を受けた場合,自明であれば競業者が特許の有効性につい
て無効の主張を行ったであろうから,その発明は自明でないこと
を間接的に示す証拠とすることができるとされている。
これを本件についてみると,ダイモ社に対する販売差止め・賠
償金を獲得し,本体の製造・販売を条件とする本体●%,テープ
カセット●%の実施料を課した経緯がある。ダイモ社は世界企業
であり,当然米国における販売も阻止された。
また,実施料が低いと,競業者が訴訟費用の負担を避けるため
にのみ実施許諾を受けたと考えられるので,その実施許諾の主張
は証拠として説得力を持たないとされているが,ラミネート式ラ
ベルライターの製造・販売停止に追い込まれたダイモ社は本体●
%,テープ●%の料率を課されている。
・侵害者による模倣と称賛の言動
同様に,自明性を理由に特許の無効を主張している者が特許さ
れた発明を故意に模倣した場合,発明が自明であれば無効を主張
する者が独自にたやすく別の製品を開発したか,利用可能な他の
先行技術の製品の一つを模倣したはずであろうから,このような
模倣はその発明が自明でないことを間接的に示す証拠とすること
ができるとされている。
これを本件についてみると,マックス社は国内の第2,第5発
明に対して異議申立てをして無効を争ったが,その一方で,ラミ
ネートラベルライターの模倣品LM-200を,第2・第5発明
の公開(平成元年6月)後,海外特許1の登録(平成3年4月)
後に製造・販売している(平成3年7月。)
マックス社は世界企業であり,国内での販売行為が差し止めら
れなければ,当然米国に輸出していたであろうことは明らかであ
る。
・ほぼ同時に同じ発明をした者がいない
同様に,クレームされた発明と同一又は類似の解決手段を他の
者が同時に考え出した場合,このような事実は,その発明が当該
技術分野において通常の知識を有する者に自明であったことを間
接的に示す証拠とすることができるとされており,逆にそのよう
な事実がないことは,その発明が当該技術分野において通常の知
識を有する者に自明でなかった証拠となる。
本件の場合,海外特許2と同一又は類似の解決手段を他の者が
同時に考え出したという事実がない。ダイモ社,クロイ社,マッ
クス社,カシオ社,セイコーエプソン社にしても,これら競業他
社が同一(又は類似)の発明がほぼ同時期にしたという事実はな
い。
・再審査の困難さ
米国には一度特許された発明については査定系の再審査ex,,(
partereexamination)と,当事者系の再審査(interpartes
reexamination)の2つの方法があり,後者は1999年〔平成
〕,〔〕11年改正法によって新設されたが1999年平成11年
11月29日以前の出願の特許については対象とならないため,
一度登録された特許を無効にするには,前者の査定系の再審査し
かない。
しかし「アメリカ特許法実務ハンドブック(甲250)によ,」
れば「査定系の再審査では特許を現実に無効にすることは困難,
であり,むしろ特許権者が特許の有効性を追認させて,特許権を
強化するために利用されてきた。すなわち,第三者が積極的に参
加をして特許を無効にするという制度(わが国でいう無効審判の
ような制度)は事実上存在していなかった(271頁)という。」
のが米国での実情である。
しかも,第三者が乙11の5刊行物を理由にこの査定系の再審
査の請求を米国特許庁に対して行う道はあったのに,誰もしなか
ったというのが現実である。それほど米国での特許は一度特許さ
れると効力が強い。
したがって,一審被告の無効主張は,米国における特許制度と
その現実を無視したものである。
(キ)海外特許3が有効であること
a一審原告らの主張及び原判決の判断
この点に関する一審原告らの主張は原審において主張したとおりで
あり,海外特許3が有効であるとの原判決の判断は正当である。
b一審被告の主張に対し
一審被告が海外特許3について無効主張をする根拠は,第2発明,
第5発明海外特許1及び2でも根拠としている乙11の5刊行物特,(
開昭53-70700号公報)と,乙13の4刊行物(特開昭61-
37447号公報)である。
しかし,上記発明において主張したとおり,乙13の4は反転印字
と無関係のものである。また乙11の5刊行物については,海外特許
,。1及び海外特許2で主張したのと同様になんら無効事由とならない
(2)一審被告は本件各発明を実施していること
,,,,この点に関する一審原告らの主張は以下に述べるほか原判決第23
(2),ア(18頁以下)記載のとおりである。
ア第2発明
国内実施品として,クリアテープカセットとの組合せが除かれることは
争わない。
イ第5発明
専らPCと接続するタイプで印字制御手段を備えないものと,テープが
本体の上面側から排出されるタイプのものが除かれることは争わない。
ウ海外特許1
(ア)原判決の海外特許1についての認定は,誤って公開公報(甲20の
7)に基づいた翻訳が提出されたため,その後の審査における補正が反
映されていないものであり,その限度において誤りである。
もっとも,上記補正はその前後において有効性に関して実質的な差を
生ずるような違いはなく,補正後の請求項によっても従前の一審原告ら
の主張や原判決の判断はそのまま妥当するものである。すなわち,海外
特許1の公開公報(甲20の7)と特許公報(乙155)の違いは,請
求項1に請求項3の要素が取り込まれ,請求項の番号が繰り上がった点
のみで,実質的な差はない。そして,両者の実質的な差である請求項1
に請求項3の構成要素が追加されていることによって原判決の判断が影
響を受けることはない。
(イ)海外特許1につきパソコン接続専用機種が請求項1の7E’を充足
しないことは争わない。
もっともPCパソコン接続専用タイプPT-2420PC実,()(〔
施品番号:87,PT-PC〔同:36,PT-9200PC〔同:〕〕
83,PT-9200DX〔同:84,PT-2500PC〔同:8〕〕
5,PT-9500PC〔同:88)は,平成6年(1994年)に〕〕
初めて導入されたものの,平成15年(2003年)半ばまでの累計販
売額は,欧州向けのPT-2420PCの●●円と,PT-PC,PT
-9200PC,PT-9200DX,PT-2500PC,PT-9
500PCの●●円程度(全世界向け売上合計●●)である。したがっ
て,欧州販売分の合計は●●円程度にすぎず,ラミネート式本体の全売
上げである●●円の●%にすぎない。
(ウ)また,一審被告が非実施を主張する記録テープが装置の前後方向に
(〔〕,〔〕,送られる機種PT-220同:76PT-210E同:77
PT-2480〔同:80,PT-2460〔同:82,PT-12〕〕
50シリーズ〔同:62,PT-200シリーズ〔同:74,PT-〕〕
1200シリーズ〔同:75)は,平成7年(1995年)に初めて〕
導入されたが,平成15年(2003年)半ばまでの欧州での累計販売
分は,欧州向けのPT-220,210E,2480,2460,12
50シリーズの●●円と,PT-200とPT-1200の●●円程度
(全世界向け売上合計●●)である。したがって,欧州販売分の合計は
●●円程度にすぎず,ラミネート式本体の全売上げである●●円の●%
程度にすぎない。
(エ)以上によれば,海外特許1のうち一審被告が実施されていないと主
張する対象品は,全ラミネート式ラベルライター本体の売上げの●●程
度であり,他の●%は海外特許1の請求項1,請求項2,請求項3,請
求項4,請求項5,請求項6を実施しているものである。
エ海外特許3
(),海外特許3の請求項3請求項1の従属項及び請求項10については
一審原告らが原審から実施を主張していなかったものである。
これに加えて,原判決で非実施と認定された請求項6に従属する独立の
請求項7については,当審において実施を主張しない。
,(,’”また対象品群jの本体のうち原判決で非実施9G9G及び9G
の非充足)と認定されたパソコン接続専用モデルについても,当審におい
ては争わない。
さらに,記録テープが装置の前後方向に送られる機種の非実施について
も,当審においては争わない。
なお,海外特許2については,パソコン接続専用モデルも記録テープが
装置の前後方向に送られる機種も実施している。
(3)超過売上高の算定について
アラミネート発明に対する独占のポリシー
(ア)ラミネート技術の非ライセンスポリシー
a原判決は,一審被告がキングジム社に対し,平成14年のキングジ
ム契約時にラミネート技術を許諾したと認定し,キングジム社が侵害
品(ラミネート式ではない)を販売開始した平成12年から和解した
平成14年までの期間を境にして,それ以前とそれ以降の3つの時期
に分け,平成12年以降については明らかにラミネート発明に係る独
占の利益(率)を極端に減じている。
bしかし,一審被告がキングジム社に対しラミネート技術の使用許諾
をすることはあり得ない。
(a)まず,キングジム契約書(甲176)において,●●(省略)
と記載されているのは,明らかにラミネート式ラベルライターに係
る技術を許諾対象から除外する規定であり,一審被告がキングジム
社にOEM供給した製品が含まれないことをわざわざ規定したもの
などではない。それにもかかわらず,原判決がキングジム契約第1
条(1)を単なる許諾製品に関する例示規定にすぎないと理解し,同
条項が許諾の範囲を画する意味を持たないと位置付けたことは,重
大な誤りである。
すなわち,一審被告はキングジム社に対し,非ラミネート式(M
型)ラベルライターとラミネート式ラベルライターの二種類をOE
M供給していた。仮にキングジム契約に「キングジム社が販売して
いるラミネートタイプのラベルライターは,被告が製造・供給した
ものであり,これについては許諾(実施料の支払)の必要がないこ
とを明確にする」という内容を盛り込むのであれば,一審被告が製
造・供給しているラベルライターにはラミネート式と非ラミネート
式の2種類があるのであるから,その規定は,●●となるはずはな
く「(ア)ラベルライター(ブラザーが製造してキングジム社にOE,
M供給したものを除く」とするか「(ア)ラベルライター(ラミネ),
ートラベルを使用するもの,およびM型のテープを使用するものを
除く」とされなければならない。そうでなければ,OEM供給品)
「()」,である非ラミネートM型が実施料の対象に含まれてしまい
一審被告が主張する「OEM供給品を除く」という趣旨は果たせな
いからである。しかるに,実際の契約書にそのように書かれていな
いのは,OEM供給品を除くなどという趣旨ではなく,ラミネート
ラベルを使用する製品すべてが除外されているということなのであ
る。
さらに,それを裏付ける記載として,第1条(1)の「(イ)ラミネー
ター」がある。一審被告は,この「ラミネーター」も「ピタ!ゴラ
ス」PGS300という製品(コールド方式」と呼ばれている)「
()。,をキングジム社にOEM供給している甲224の1・2一方
キングジム社は,一審被告以外の第三者からも「ピタ!ゴラス」L
HというラミネーターのOEM供給を受けている(加熱式」と呼「
。)。,,ばれている甲224の1仮にキングジム契約の第1条(1)で
被告がキングジム社に製造・供給したOEM製品について許諾(実
施料の支払)の必要がないことを明確にしようとしたのであれば,
これについても,第三者の加熱式と一審被告がOEM供給している
ものを区別して「(イ)ラミネーター(コールド方式を除く」との,)
括弧書きが加えられたはずである。上記のような括弧書きの記載が
ないことも,キングジム契約の第1条(1)が,OEM製品について
許諾(実施料の支払)の必要がないことを明確にしようとしたもの
ではないことの証左である。
さらに,同(ウ)では(印字幅A6までのもの)という書き方で,,
A6版より大きいモバイルプリンターも除外されている。これは,
小型サイズでノートパソコンと一緒にビジネスマンが持ち歩くもの
として市場が有望視されていて,かつ,一審被告の主力事業の一つ
であるプリンターに関するものであり,一審被告は平成11年から
製品を市場投入していたため,これらの分野の製品をこの製品限定
で除外したのである。このように,一審被告は,自身が手掛ける大
切な商品に関しては,許諾の対象から除くという政策を採っている
のである。
以上述べたように,●●の趣旨は,一審被告がOEM供給したも
のを除くという意味には解釈し得ず「ラベルライターのうち,ラ,
ミネートラベルを使用するものは許諾の対象ではない」ことを明確
にした除外規定である。
(b)またキングジム契約の第1条(2)ただし書において●●省,,「(
略」という意味であり,この第1条(2)ただし書はいくつかの絞込)
み方法の一つにすぎず,契約第1条(1)も許諾の範囲を画する条項
である。したがって,この意味においても,原判決の前記認定は誤
りである。
(c)しかも,原判決の上記判断は,当事者間に解釈上争いのなかっ
た事項につき,両当事者の主張の枠を超えて,独自の判断をしたも
のである。すなわち,一審被告は,原審の準備書面において,キン
グジム契約第1条(1)が許諾の範囲を画する条項であることを当然
の前提に「キングジム社が販売しているラミネートタイプのラベ,
ルライターは,被告が製造・供給したものであり,これについては
許諾(実施料の支払)の必要がないことを明確にするためだけに記
載されたものである(一審被告準備書面(12)7頁)などと述べて。」
いたのである。この主張は,一審被告が同条項は許諾の範囲を画す
る条項であることを認めざるを得なかったからこそ,それを前提に
「●●」とする括弧書きを「許諾(実施料の支払)の必要がないこ
とを明確にする」ものだという解釈論を展開したものである。
(d)この点について,昭和62年から平成18年まで18年余り一
審被告でP-touchの商品企画と営業企画の業務に従事し,退
職まで課長職であったGはその陳述書甲194において私,(),「
は,ブラザーがキングジム社ラミネートの技術を使用許諾したとい
うような話は聞いたことがありません。そのようなことは絶対に無
いと思います。仮に他社に許諾していたのであれば,先の『ラミネ
ート特許が切れる』などというリスクについて話し合ったりはしま
せん。もし会社がそのようなことを言っているとしたら,それは事
実と違うと思います。カシオ社に対しても同じです(11頁)と。」
明言している。また「私は,ブラザーを退職する前の2003年,
頃から毎年『ピータッチ』の関係者が集まってブラザーや競合他,
社の強みと弱みを分析するSWOT研修会というミーティングにも
出席しました。その会議でも,関係者が一番のリスクとして認識し
ていたのが,ブラザーのラミネート特許が2007年以降に切れる
ということでした。その後はどうやって他社製品と差別化していく
かを真剣に討議していました(同10頁)とも述べている。。」
また,平成19年当時一審被告の専務取締役であり,P&Hカン
パニーのプレジデントであり,平成4年以来「ピータッチ事業」の
最高責任者であったSの会話記録(甲292)によれば,Sは,一
審原告X2のキングジム社とカシオ社の契約でラミネート特許も許
諾されているかという質問に対して,Sは「してない「そんな憶,」
えない」と明言している。
,,c以上のとおりこの点に関する原判決の認定は明らかに誤っており
これにより対価算定に与えた影響は非常に大きく,この点は変更され
るべきである。
(イ)カシオ契約はラミネート技術に対する開放的ライセンスポリシーを
意味しない
カシオ社との契約に関する経緯は,キングジム社訴訟に勝った一審被
告が,その勢いでカシオ社に特許料の支払を求めたところ,カシオ社か
ら7~8倍もの数の,しかも被告会社にとって現在の本業であるプリン
ターやLCD表示技術にかかわる特許侵害を逆に突きつけられ,特許担
当役員であったTが慌ててSに助けを求め,むしろ一審被告には相当不
利な状況で契約せざるを得なかったというのが事実である(甲292の
2・2頁下段。)
そして,一審被告は,ラベルライター市場における主たるメーカーで
あるダイモ社がラミネート式の侵害品で市場参入したのに対し,訴訟に
より本体の販売停止を勝ち取った経緯があり,またマックス社が国内で
侵害品の販売を始めるとともに,ラミネート特許(第2,第5発明)の
異議申立てをしたのに対し,これを防御してラミネート発明の特許を獲
得した経緯があり,さらにキングジム契約においても,上記(ア)のとお
り,明確にラミネート技術を許諾対象から除外している。
以上のような諸事情に鑑みれば,一審被告がカシオ社との上記契約以
降,市場参入を図る他社に対して急にラミネート技術を開放的にライセ
ンスするポリシーに変わったとは到底いえない。
このように,一審被告のラミネート技術に対する「非ライセンスポリ
シー」は脈々と続いているのである。
イ超過売上げに係る原判決の誤認
(ア)市場独占状況(シェア)
a世界シェア・海外シェアに関する原判決の誤り
一審被告が提示したデータによれば,ダイモ社も含めた場合の,平
成15年単年におけるラミネート式ラベルライターの全世界における
シェア(本体台数のシェア)は●%であり,ラミネートテープのそれ
は●%となる。このように,原判決の世界シェアに関する認定は,数
値からして誤っている。
すなわち,
・一審被告のシェアは約●%でなく,●%である。
・M型のシェアは●%ではなく,●%である。
・ラミネート(その他)のシェアは約●%でなく,●%である。「」
上記の数値は,一審原告らがキングジム社及びカシオ社からの実施
料報告書のデータに基づいて一審被告,キングジム社(セイコーエプ
ソン社,カシオ社の平成15年度における正確な売上台数比較デー)
タと,同じく一審被告が示すダイモ社対カシオ社の同年の販売台数比
率を単純に加味して4社の平成15年度売上台数比較を算出したもの
であって,データの出所が実施料報告書であるから,極めて正確なも
のである。
b世界シェア●%の意味
一審被告のラミネート方式だけで●%(平成16年)の世界シェア
を持っている状態は,排他的独占力が継続していることを示すもので
ある。本来,市場シェアを語る場合,①商品の価格帯,②販売地域,
③金額ベースと台数ベース,④時系列変化という,少なくとも複数の
視点から見なければ市場支配力を正しく理解することはできない。特
に①の価格帯を無視して,単純に数量ベースで比べ市場占有率を計る
ことは不適切である。
そして,利益を生む価格帯でトップシェアを握る者が,結局は全体
市場における勝者となるのであるから,利益を生む価格帯での独占状
況に注目して見なければならない。
c累計台数では世界シェア●%を超え,金額では●%を超える
,,昭和63年に創出され拡大を始めたラベルライター市場において
当初の100%独占の状態から徐々に他社の参入があったものの,累
計台数比では一審被告のラミネート式ラベルライターの世界シェアは
●%を超えており,驚異的な独占の状態である。さらに金額ベースで
は●%を超える。
この点,一審被告は,他社のノンラミネートと合わせた場合,ラベ
ルライター市場はノンラミネートタイプに支配されているかのように
主張するが,ブラザーのノンラミネート式とはM型であり,その本体
は,店頭での小売価格がラミネートテープ1本よりも安いのであり,
ラベルライターとして買うというより,ギフト商品,ちょっとしたプ
レゼントや記念品として買われているものであって,台数はそれなり
に売れても販売額は非常に低く,テープの販売もほとんど見込めない
(2003年のM型(ブラザーノンラミネート)のテープの全世界本
数シェアは●%。M型には独占の利益と呼べるものはなく,独占の)
利益はほぼすべてラミネート式ラベルライターによって生み出されて
いるのである。
また一審被告は,平成13年あるいは平成15年に限定し,単年度
でのシェアについて論じている点でも失当である。なぜなら,一審被
告がラミネート式ラベルライターを市場投入したことによって耐久性
の求められるラベルがその場で作製できるというラベルライター市場
が生まれ,その後爆発的に拡大していったのであるから,その推移を
見なければ真実は見えてこない。ラベルライター市場は,一審原告ら
のラミネート発明を製品化した昭和63年11月から実質的に市場と
して確立され,成長し始めた。そして,マックス社やカシオ社やセイ
コーエプソン社(キングジム社OEM製品,ダイモ社が参入してく)
る平成3年までの間,一審被告はキングジム社やダイモ社やクロイ社
など主たる企業にラミネート式ラベルライターのOEM供給を行い,
さらには海外において自社ブランドでも販売し,市場をほぼ100%
独占する状態にあった。
その後,欧州ではダイモ社が,日本ではマックス社が模倣品のラミ
ネート式ラベルライターを販売開始したのに対し,間髪入れずにこれ
らを押さえ,他社には決してラミネート技術を使わせることなく,一
審被告の独占的技術として今日まで至っている。
d原判決が国内シェアが低いことを考慮しすぎたのは誤りである
原判決は,以下のような事情を挙げて,国内では一審被告のシェア
が低いことを消極的要素として挙げる。
・当初は有力な競合品がなかった(原判決209頁)
・自社P-touch参入後も平成9年以降低落(原判決210
頁)
・自社P-touchも平成11年以前は実質ゼロ(原判決21
0頁)
・テープカセットも平成9年以降やや低落(原判決210頁)
・国内台数ベースシェア●%(M型含む(原判決210頁))
・国内の一審被告シェア●%(原判決211頁)
しかし,国内シェアが低いのは,次のような特異事情によるもので
ある。
すなわち,キングジム社との売買契約(乙55・添付資料45)第
7条と,それに続く「電子テープライター(TEPRA)に関する合
意書(甲144)により,一審被告自身が国内販売することが制約」
されていた。要するに,一審被告は昭和63年にキングジム社と取引
基本契約と売買契約,そしてそれに続く覚書を締結して以来,これら
を一方的に破棄するのでなければ,一審被告が国内でラミネート式ラ
ベルライターを自社販売することはできなかったのである。このよう
な致命的な障害が存在する国内市場においてシェアを論じる意味は極
めて低い。
また,一審被告の唯一の国内販売ルートであるブラザー販売は,か
つて一審被告製造の製品のみを扱う,いわゆるメーカー専属の販売業
者であった。ところが,一審被告製品の競争力があまりにも劣後する
ため,他社製品の販売を始め,ついには,宝石や高級バッグや高級布
団の販売,ゴルフ場やエステサロン経営など,未経験の事業に手を出
して失敗し,さらにはバブル経済崩壊とともに巨額の赤字を抱えるよ
うになった。そして,平成10年ころに経営難に陥り,一審被告がP
-touchで稼いだキャッシュによってブラザー販売の債務を補填
するとともに吸収合併したという経緯があり,このことは一審被告内
,。,部の者に限らず世間にも広く知られている事実であるいうなれば
このように本件特許とは何ら関係のない一審被告の不振やブラザー販
売の経営危機といった会社の根本問題を,本件ラベルライターによっ
て獲得した利益が穴埋めし,企業存亡の危機を救ったのである。
このような瀕死の経営状態にある会社が,新規商品を拡販するため
に投資できるはずはないのであって,一審被告は,この瀕死のブラザ
ー販売の販売力よりもキングジム社の販売力が勝っていたためにキン
グジム社製のラベルライターの方が売れたと述べているのであって,
ラミネート式ラベルライターの優位性とは何ら関係のない話である。
そして,平成11年にブラザー販売が一審被告に吸収合併されて,よ
うやく自社ブランド品を投入したのが同年後半である。既に国内市場
はキングジム社とカシオ社の2大ブランドで寡占状態にあり,10年
遅れというハンディキャップは,いかんともし難いものであった。し
たがって,平成13年や平成15年の国内の市場シェアをもってラミ
ネート式ラベルライターの市場優位性を論じることはナンセンスであ
る。
もっとも,参入してわずか3年足らずの平成15年(2003年)
,,には販売力ではキングジム社やカシオ社に圧倒的に劣る一審被告が
本体●%,テープカセット●%のシェアを獲得したことは特筆に値す
る。これは国内向け製品でもラミネート式ラベルによる差別化戦略が
奏功したもので,それ以外に要因はない。
さらに,一審被告の営業政策の失敗,基礎技術のなさ,テープカセ
ットの意匠権を巡る論争からキングジム社が被告会社から離れていっ
たという経緯もあった(G陳述書・甲180。)
したがって,上記のような諸事情を捨象して国内市場のシェアを論
じる意味は低いものである。
(イ)ラミネート式でなければならない需要
原判決は,ラミネート式でなければならない市場規模を過小評価して
いる点,またラミネート式のテープが選ばれて消費されているのは原判
決が述べる「家庭や職場における通常の用途」ではなく,より耐久性が
求められる現場において,優れた耐久性があることから安心して使われ
ている点を看過するものである。
(ウ)ラミネート式の短所とされる点
また原判決がラミネート式の短所であると認定した点にも,以下のと
おり誤りがある。
aラミネート式テープの原価が高いという点
一審被告は,ラミネート式では単純にテープが1種類多い3種類と
なるため高いと主張するが,コストの内訳をみれば,ラミネートであ
。,るTC・TZ型のテープの部品費はM型より安い総合計が高いのは
むしろ自社工場の空洞化を避けるために社内製造するという政策的な
事情によるもので,その分被告会社の人件費を賄っているということ
である。
bラミネート式はカセットが大型化して本体も大型化するという点
ラミネート機構が複雑でテープカセットが大型化するなどというこ
とはない。カシオ社のネームランドのテープカセット(非ラミネート
式,キングジム社のテプラ・プロのテープカセット(非ラミネート)
式)と一審被告のラミネート式テープカセット(TC型)の投影面積
を比較しても,これらに大差はない。本体のサイズは,頻繁に使う人
向けにはキーボードを大きくしたりして,サイズは用途に合わせて変
えるのであって,ラミネート機構があると本体サイズが大きくなると
いうものではない。
cラミネート機構があると電池消費が早いという点
,。ラミネート機構があると電池消耗が早いというのも事実に反する
ラミネートは,印字後のテープを排出する機構を利用して剥離紙付
き両面粘着テープの重合を行っているので,余分な機構にお金がかか
ったり,その機構を駆動するのに電力がかかるというのは間違いであ
る。どのようなラベルライターでも,印字後にテープを排出する機構
は必要である。これがなければテープが本体内に滞留してしまう。
これに対して,耐久性の高いレジン系のインクリボンを用いる非ラ
ミネート式は,熱転写の際に溶かすためにより高温でなければ溶融し
ないことから,リボンコストが高く,印字にも高いエネルギーが必要
となり,電池の消耗が非常に激しい。
dその他
縦じわが入る,曲面に弱い,余白が大きいという点は初期にあった
不良の話であり,既に克服されているものである。
ウ製造・販売地別の売上げの主張に対し
(ア)間接侵害の成否
a第2発明に対しては,ラミネート式テープカセットのうちクリアテ
ープを除くすべてのタイプ(TC,TZ,TX)のテープカセットが
特許法101条1号の間接侵害を構成する。
b第5発明に対しては,ラミネート式テープカセットのうちTCシリ
ーズのテープカセットが特許法101条1号の間接侵害を構成し,ま
た,これを含むすべてのタイプのテープカセットが特許法101条2
号の間接侵害を構成する。
ただし,平成14年法律第24号による改正特許法101条2号が
施行される平成15年1月1日までに販売されたTZ及びTXタイプ
のクリアテープカセットは除外されるが,これは,国内で得られた同
タイプのテープカセットの●%である。
c欧州販売分については,海外特許1の間接侵害が成立する。
dなお,第2発明の直接・間接侵害とならないようにするためには,
。,テープカセットはクリアテープに限定する必要があるそして同時に
第5発明も直接・間接侵害とならないようにするには,本体はパソコ
ン接続専用型か縦置きタイプにするしかない。
そこで,
・クリアテープの比率は全体の●%程度であること
・PC接続専用タイプの比率は全売上げ中の●%,2003年ま
での国内売上げの●%程度であること
・縦置きタイプと一審被告が新たに主張しているハンドタイプを
合わせてもその比率は全体の●%,2003年までの国内売上げ
の●%程度であること
以上を前提に,第2発明の侵害を免れるためテープカセットをクリ
アテープだけに限定し,第5発明を回避するため特殊な配置のラベル
ライターに限定したものの市場を,実績を用いて計算すると,国内売
上げの●%程度しかないと合理的に推測される。
(計算式●●(省略)%)
(イ)中国で製造して米国で販売する分の売上げ(消尽論)
aコンパチ業者を想定した場合
(a)直接侵害と積極的誘導・寄与的侵害の関係
一審被告は,一審被告が米国で販売したラミネート式ラベルライ
ター(本体とテープカセットのセット)について,補給用のテープ
カセットを製造・販売する業者の行為を想定し,そのような行為に
対しては海外特許2や同3によって阻止できないと主張する。
この点,一審被告の上記主張は,竹中第1鑑定意見(乙149)
のA直接侵害と積極的誘導・寄与的侵害の関係におけるア「」,「
メリカ法の下において,積極的誘導・寄与的侵害は直接侵害に従属
しており,直接侵害の立証無しに積極的誘導・寄与的侵害の成立が
認められることは無い。従って,特許発明の構成要素の一部の製造
・販売に関し,積極的誘導・寄与的侵害が問題とされる場合には,
まず,その構成要素を購入し,特許製品に使用する者の行為が消尽
理論又は黙示的ライセンスにより侵害を構成するかどうかが判断さ
れる。その結果,侵害を構成しない場合には,積極的誘導・寄与的
侵害を議論する余地はない(1頁)との記述に依拠するものと解。」
される。
しかし,直接侵害の立証と消尽論において消尽しないと判断され
ることとは同じでなく,一審被告の主張する米国消尽論は米国判例
上の一般論であって,個々の事例を離れて補給用品の販売はどんな
場合でも間接侵害が成立しないとまで普遍化して考えることはでき
ない。
すなわち「直接侵害の立証無しに積極的誘導・寄与的侵害の成,
立が認められることはない」というのは明文の規定ではない。そし
て,例えば「アメリカ特許法実務ハンドブック(高岡亮一著,,」
甲231文献)によれば「本条(271条c項)による間接侵害,
が成立するためには,直接侵害が完全に成立していなければならな
いのか,それとも直接侵害の可能性があればよいのか。判例によれ
ば直接侵害の完全なる遂行は必要なく侵害のおそれthreatened,,(
infringement)があれば足りる(GrahamPaperv.International
PaperCo.46F.2d881,(8thCir.1931)(294頁)という見解)」
がある。
また,別の文献でも「国際特許侵害(東京布井出版,甲232,」
文献)によれば「寄与侵害行為の基本的要件は第三者による直接,
侵害である。第三者の行為が直接侵害を構成しないなら,誰も寄与
的侵害者であり得ない。寄与すべき侵害が存在しないからである。
特許発明を使用しない第三者に構成部品を販売することは寄与侵害
行為ではない。しかしながら,過去数年間に,PaperConverting
MachineCompanyv.Magna-GraphicsCorporation,223USPQ591
(Fed.Cir.1984)及びProcter&GambleCo.v.NabiscoBrands,
Inc.,604F.Supp.1485,225USPQ929(D.C.Del.1985)から理解される
ごとく,この理論はある程度浸食されている(68頁)と述べら。」
れている。
また例えば技術革新と国際特許訴訟甲233文献の1-3-1,,「」()「
直接侵害の証明」においても「第一に,原告は有力な証拠をもっ,
て,少なくとも1つのクレームの直接侵害が存在することを示さな
ければならない。まず第一に,直接侵害がなければ侵害の誘発はあ
り得ない(64頁)と述べている。。」
すなわち,直接侵害の証明とは,有力な証拠をもって,少なくと
も一つのクレームの直接侵害が存在することを示すことであるとし
ている。
また「米国特許訴訟戦略II(甲234文献)では「第271,」,
条(c)の下で,寄与的侵害を立証するには次の4つの要件が存在す
る。まず第1に,これは最も重要なものであるが,特許発明におい
て,あるいは,特許発明に対して用いられる構成部分の寄与的侵害
者による販売が存在しなければならない(AroManufacturingCo.。
v.ConvertibleTopReplacementCo.事件参照(121頁)とし)。」
て,特許発明に対して用いられる構成部分の寄与的侵害者による販
売が存在することを求めている。
このように,これらの文献には「直接侵害の立証=消尽論で消尽
しないことの立証」としている部分は見当たらない。
(b)米国特許法における消尽又は「修理」か「再製造」かの議論
また,仮に「修理」か「再製造」かの議論がされた場合において
も,竹中第1鑑定意見(乙149)9~10頁における本件製品へ
の当てはめは強引な解釈を重ねるものであり,むしろ米国消尽論に
おいても「再製造」と判断される可能性の方が高いというべきであ
る。
すなわち,竹中第1鑑定意見によれば,消尽,修理か再製造かに
ついては,結局のところ,米国でも明確な線引きができる基準がな
いため,複数の基準のいくつかをファクターとして組み合わせて,
事例に応じて判断されるということである(竹中第1鑑定意見4~
5頁。しかるに,竹中第1鑑定意見は,同一性を失ったといえる)
かというiの判断基準について,何の根拠も理由も示さず「①に,
ついては,カセットによるインクリボン・テープ等の交換によって
製品としての同一性を失ったとは言い難く」などと帰結する。しか
し「同一性を失ったといえるか」の判断基準については,結局,,
,,交換される部分の比重と関係しており本件ラベルライターの場合
テープカセットを本体から外せば,透明テープ,インクリボン,両
面粘着テープ,ローラー,テープ搬送路という必須構成要素のほと
んどがなくなり,これを新たなものに交換するということは,もは
や同一性を失ったと考えられる可能性の方が高い。
また,同鑑定意見は,米国法の消尽論の適用における「重要な部
分」のファクターに関しては何らの根拠も示さず,ただ日本と米国
は異なるというだけであるが,交換されるテープカセットの部分が
特許されたラミネート式ラベルライターの全構成要素のうちで進歩
性に係る極めて重要な部分であることは明らかである。
さらに,同鑑定意見は,構成要素の寿命と廉価という基準につい
ても,寿命が短いと述べるが,テープカセットの中には費消されな
い圧着ローラー,テープ搬送路,リボン巻取りスプールなどが入っ
ており,これらは消耗せず,むしろ装置の一部である。しかも,同
鑑定意見は,廉価であるか否かという考慮要素については一切言及
していない。米国のラベルライター事業責任者(現副社長)のVの
陳述書(乙68)によれば「小売モデルのオープン価格は29ド,
ルまで下がり(添付資料33,今日,19ドルの日用モデルまで)
登場し,毎日出荷されています(16頁21行~22行)とされ。」
ており,その添付資料33をみれば,ラミネート式のラベルライタ
ー(本体とテープカセットがセットされているもの)が値引き後2
9ドルで売られているのに対して,同じ場所でラミネート式テープ
,。,カセットは一本が18ドルから29ドルで売られているこれは
一審被告が最も販売量が多いというオフィス・スーパーストア(O
SS)の店頭であり,全米3000店で同じ状況なのである。これ
は,新しく購入するテープカセットがラベルライターに比べて廉価
でないという決定的な事実である。
次に「交換・改造された構成要素が残りの構成要素に比較して,
支配的な割合を占めているか」の判断基準については,交換される
テープカセットには,必須構成要素のうち,透明印字テープ,イン
クリボン,テープ送り搬送路,剥離紙付き両面粘着テープ,テープ
送りと圧着を兼ねる一対のローラーの内の一つが収納されており,
明らかに支配的な割合を占めており,完全に支配的な割合を占めて
いるといえる。
最後に「特許権者と購買者の意図」についての判断基準につい,
てみると,ラベルライターを購入したユーザーが追加購入するテー
プカセットについて,一切特許権の行使をしないなどという意図が
一審被告にあるはずがない。
このように,竹中第1鑑定意見が挙げるすべての基準において,
本件の場合,一審被告製造のラミネート式ラベルライターは最初の
販売によって消尽したとはいえず,新たなテープカセットを購入し
使用する行為は「再製造」とみなされるのである。
なお,無権利者がラミネート式ラベルライター用のテープカセッ
トを販売する行為は,海外特許2及び3により間接侵害となり,ま
た,もし無権利者が一審被告の販売するラミネート式ラベルライタ
ー専用のテープカセットを販売すれば,米国では3倍までの賠償金
を支払わされるリスクを背負うこととなるので,そのような業者の
行為はおよそ事業として永続性があるものではない。飽くまで,多
大なリスクと引き換えに市場のごく一部を奪取しようとする行為に
すぎない。しかも,実際に無権利者が一審被告の販売するラミネー
ト式ラベルライター専用のテープカセットを販売するという事件は
発生していないのであるから,海外特許1及び同2の排他的効力に
より,そのような行為が抑制されてきたと考えるべきである。
(c)裁判例にだけ依拠して和解例を無視している
また「直接侵害の立証無しに積極的誘導・寄与的侵害の成立が,
認められることはない」という学説的見解は,米国での裁判例をベ
ースにしたものと思われるが,実務では,米国での特許訴訟が判決
まで至るケースはごく稀であり,それ以前に和解するケースが圧倒
的に多い「特許・ライセンスの日米比較(甲235)によれば,。」
2001年度(平成13年度)の米国連邦地裁における特許に関す
る訴訟件数は2612件で,そのうち公判に至ったものは86件
(3.5%)である(そのうち56件は陪審裁判,29頁。)
また,特許製品専用のテープカセットなどを販売すれば,侵害は
懲罰的侵害行為と認められる可能性が極めて高く,そうなれば3倍
の損害賠償を命ぜられるリスクを背負い,また,米国においては同
時に複数の裁判所で戦わなければならない場合が多い(甲236は
懲罰的損害賠償が認められたケースである。。)
要するに,訴えられた疑侵害者が抗弁として消尽論を持ち出して
抗弁したとしても,勝ち抜ける可能性は非常に少ないということで
ある。
竹中鑑定意見は,米国特許事件のうちわずか3.5%の判例をベ
ースにしたものであり,特許の比較法的・学問的考察として一つの
意見であるとしても,侵害に対して実際に特許権者が起こす実務的
対応を考慮に入れていないものである。
b丸ごと侵害を想定した場合
(a)丸ごと侵害を想定すべき必然性
一審被告はコンパチ業者やリサイクル業者による市場機会の奪取
のみを想定するが,誤りである。技術力や販売力に勝る競合他社が
侵害品の本体とその本体で使用するテープカセット丸ごと製造・販
売する場合の侵害形態(以下「丸ごと侵害」という)の方が,影。
響度が大きいからである。
すなわち,本件では一審原告らの海外特許2と同3の米国におけ
る独占の利益が問題なのであり,特にここでは,一審被告が現に米
国で販売したテープカセットの売上げのうち,どれだけが一審原告
らの海外特許2と同3の排他的効力によってもたらされたかを問題
にしているのである。そうであれば,まず最初にどのような侵害形
態があり得たのかを正しく想定する必要がある。そして,そのあり
得た侵害に対して,それがなぜ防がれて一審被告の市場独占(米国
での一審被告シェアが●%以上であることは争いがない)をもたら
したかを見る必要があるはずである。
ところが,一審被告は,同被告自身が販売したラベルライター専
用のテープカセットを第三者がそっくり複製し,それを購入者へ販
売する行為が防げたか否かの点に限定して論じている。そして,そ
の結論をもって独占の利益がないと主張しているのである。逆にい
えば,競合他社が独自のラミネート式ラベルライターを製造・販売
し,その専用のテープカセットを米国で製造・販売するという場合
を全く除外しているのである。
欧州におけるダイモ社も日本におけるマックス社も一審被告のテ
ープカセットだけを複製するのではなく,ラミネート技術を使用し
て,彼ら独自のデザインの本体とその専用のテープカセットをセッ
トにした実施品を製造・販売し,その専用テープカセットも製造・
販売するという形態で侵害をしてきた。
そもそも発明者にとっての最大の脅威は,発明や発明品が開示さ
れた途端に他社がその技術を使った模倣品を製造・販売してくるこ
とである。このような,発明の苦労が報われなくなる理不尽が起こ
らないようにするために特許制度があるのである。一方,侵害者の
側からすれば,わざわざ数年も十数年も待って市場に発明品が十分
行き渡ってから専用の消耗品だけを販売するよりも,発明品が出て
売れ行きが良いのを見たらすぐに真似をして自社独自の本体と消耗
品を製造・販売した方が,商機を逃さず確実に市場を奪取できる。
現にダイモ社とマックス社がそれをやってきた。
(b)侵害者の負うリスクの違い
一方,本体が市場に行き渡ってから消耗品のみを販売するのは成
功しないリスクが高い。なぜなら,本体を自分で作っていない場合
は,本体を製造・販売しているメーカーが本体の設計を変更してし
まうと,些細なことでも消耗品の互換性がなくなってしまうからで
ある。
それゆえ,特許に関わる製品の専用消耗品だけの市場を狙う業者
(いわゆる海賊版メーカー)は,例えば,インクジェットプリンタ
ーや使い捨てカメラの事件等でみられるように,メーカーの純正の
消耗品を回収して中身だけを詰め替えて販売するという行為を行っ
ているのである。メーカー純正品を回収する限り,メーカーが本体
の設計を変更してしまうという対抗手段に出てもなお互換性を保つ
ことができるからである。競合他社による,特許技術を使用した模
倣品による参入のケース(まるごと侵害)と海賊版メーカーによる
侵害のケースを比較すると,権利者からすれば,まるごと侵害の方
が後者より侵害の範囲が大きく(本体とテープカセット両方,さ)
らに初期段階より発生するという点,技術力・資本力のあるメーカ
ーが行う危険があり,多大な影響を受けるのである。一審被告はこ
のまるごと侵害のケースを除外して,不当に超過売上げを減じよう
としているものである。
また,行為者の負うリスクの点からすれば,海賊版メーカーによ
る侵害の場合は,裁判で負ければ悪意による侵害となり,3倍の賠
償義務を負い,脱法行為企業として社会的地位も失うので,まるご
。。と侵害よりはるかにリスクが大きい互換性を保つのも大変である
したがって,特別な場合を除けば,海賊版メーカーによる侵害が起
きる可能性はかなり低い。
また,こういった業者は特許のあるなしに関係なく市場を狙って
くる面もあり,いわば脱法的行為に近い。中には提訴された時点で
会社を倒産させて逃げる業者さえいる。このような違法業者の存在
を考慮して,超過売上げを算定することは無意味である。
(c)価格的有意性
さらに,コンパチ業者は価格的優位性がすぐになくなるというリ
スクを抱える。
すなわち,真正品とコンパチ品の価格差は,コンパチ業者が利益
を削って安売りしているというにすぎず真正品メーカの多くは一,(
審被告も同様に)通常約●●ほどで金型等の投資は償却するように
製品価格が決められる。●●で償却を終えてしまえば,真正品メー
カーとコンパチ業者とは投資の面では互角であり,コンパチ業者と
同じ値段を付けて販売しさえすれば,もはやコンパチ業者が参入す
る余地はなくなる。
このように,コンパチ業者の価格優位性は非常に脆弱なものであ
り,この面でもコンパチ業者などほとんど無視できるものである。
(ウ)輸出専用テープカセットの国内生産品
一審被告は,輸出専用テープカセットの国内生産品には間接侵害が成
立しない旨主張するが,上記(イ)のとおり,海外特許2及び同3の独占
権がテープカセットに及ぶものであるから,一審被告の主張は理由がな
い。
(エ)特許不存在国で製造され,特許不存在国へ輸出された販売高
一審被告は,中国で製造され,特許不存在国へ輸出されたものについ
ては,超過売上げの対象から除外されるべきである旨主張する。
しかし,中国で行っているのは最後の組立ての部分のみであって,実
施品本体に使用するサーマル印字ヘッドやその他の専用部品,ラミネー
ト式テープカセットの生産に必須となる専用の小巻にした透明テープ,
両面延着テープ,インクリボンなどの主要部品はすべて日本で製造し輸
出している。本件国内特許の実施品であるラベルライター本体を製造す
るための部品と,専用のテープカセットを製造するための部品のほとん
どが,一審被告又は同被告が指定する下請け業者によって日本国内で生
産されているのが現状である。
一般的な樹脂成型部品(本体やテープカセットの外側ケース等)は中
国でも安く調達可能であるが,他の部品は中国では供給メーカーがない
などの理由で調達できないものが多い。こういった事情は,競合他社に
とっても共通しているので,他社が本件ラミネート特許を侵害する製品
を生産しようと試みる場合,特許回避のためにわざわざ中国で生産を行
うかは疑問である。仮に行ったとしても,販売できるのは,主要市場で
ある欧米日本を除く権利不在国のみに限定されるので,それでは事業と
して成り立たない。
一審被告が完成品の組立てのみを中国に移管し始めたのは,他の事業
が縮小になり工場が遊休化するのを避けるために行ったものである。そ
のような事情がない他社にしてみれば,国内でほぼすべての専用部品が
生産されている現状から考えると,当然国内生産が最も適した選択肢で
あり,その選択肢が本件国内特許の存在により侵害となるため採り得な
いことの排除効果は非常に大きい。
つまり,競合他社には,
①特許料を払って国内で生産するという選択肢
②特許を侵害して国内生産するという選択肢
③特許を回避するためわざわざ中国で生産するという選択肢
④劣った代替技術を使うという選択肢
があり得たところ,①と②を避けて④を選択しているという状況におい
て,一審被告が中国生産を始めたからといって,競合他社が①と②を行
うのを抑制してきた効果が消えるわけではないということである。
実際このような競合他者がいないのは,第2発明及び第5発明の効力
が及んでおり,第一に考えられる日本生産という選択肢を与えていない
からといえる。
,,,したがって一審被告が日本でほとんどの専用部品を生産し輸出し
中国で製造し,特許のない国に対して輸出した売上げについても本件特
,。許の独占権は及んでいるので対価算定から除外することは許されない
エ米国特許●●号が一審原告らの発明であること
(ア)米国特許●●号と第3考案
一審被告は,互換製品の出現を防いできたのは,一審被告の保有する
ラミネート式テープカセットの基本構成を保護する米国特許●●号(●
●)であると主張する。
しかし,米国特許●●号は,記載上は一審原告ら以外の4名が発明者
となっているが,実質的には第3考案と同じであり,真の発明者は第3
考案の考案者である一審原告X1・X2ら6名である。
(イ)第3考案の内容
第3考案に係る実開平1-80457号公報(甲246)には,下記
①~⑦の内容が記載されている。
①テーププリンタに着脱自在に装着されるテープカセットである
こと
・「テープ印字装置用テープカセット(1頁3行~7行)」
②テーププリンタには印字ヘッドとプラテンが対向するように配
置され,協働して印字動作を行うこと
・「なお,サーマルヘッド28のドット列の発熱パターンや発
熱タイミング,テープ送り速度および入力キャラクタの判別等
は,図示しないマイクロコンピュータによって制御または実行
されるようになっている(7頁19行~8頁3行)及び第1。」

③透明テープと,印字用テープと,両面粘着テープがあり,透明
テープの裏側に印字用テープによって反転印字がされ,その面に
両面粘着テープが貼り付けられること
・「前記2種類以上のテープが,裏返しパターンの反転印字が
施される透視性テープと,その透視性テープに印字部を形成す
る印字部形成テープと,透視性テープの印字部が形成された側
の面に貼り付けられて印字部の背景を形成するベーステープで
あり…(1頁15行~20行)」
④透明テープと,印字用テープと,両面粘着テープをそれぞれ個
別のスプールに巻回して備え,両面粘着テープのスプールが一番
出口に近く配置されること
・「また,第1図のように透明テープ32とサーマルリボン34
とが共用スプール56に積層状態で巻かれていることは不可欠
の要件ではなく,共用スプール56を,透明テープ32の供給ス
プールとサーマルリボン34の供給スプールとの2個のスプー
ルに分離・独立させることも可能である。この場合,スプール
が都合4個となってカセットケース54は幾分大きくなるが,
透明テープ32とサーマルリボン34とを互いに独立交換するこ
とができる(16頁2行~11行)及び第1図(両面粘着テ。」
ープ42の供給スプール60がテープ52出口の一番近くに配置
されていることが図示されている)
・「<従来の技術>
上記のような印字装置において,主に取扱いの容易化のため
に,必要なテープ材をスプールに巻いた状態でカセットケース
に収めたテープカセットが使用されている。例えば,周知のよ
うに,印字部形成テープとしてのインクリボンをその供給スプ
ールおよび巻取スプールとともにカセットケースに収めてリボ
ンカセットとし,インクリボンはリボンカセットごと交換でき
るようにするのである。
ところでテープ印字装置では,インクリボン等の印字部形成
テープのほか,印字が施される被印字テープが少なくとも必要
であり,この被印字テープもスプールに巻かれ,印字の進行に
合わせて印字ヘッドに供給されるのが普通である。そして,こ
の被印字テープのスプールを,インクリボンの供給および巻取
のスプールとともに1個のカセットケースに収めて,2種のテ
ープを備えたテープカセットとする場合がある(2頁13行。」
~3頁12行)
⑤透明テープは印字用テープとに重なった状態で,印字ヘッドと
プラテンの間を通って搬送され,印字用テープに対面する面に印
字ヘッドにより印字用テープを介してイメージが転写されること
・「入力部14で入力されたデータに従い,印字部16では長
手方向のテープ送りを伴い,位置固定のサーマルヘッド28で
印字が行われる。サーマルヘッド28は印字ヘッドとして機能
,()するものでテープ送り方向と直交するドット列発熱素子列
,。を備えプラテンローラ30に圧接する状態で設けられている
本実施例においては,そのドット列の発熱により,透視性被印
字体テープとしての透明フィルムテープ32(以下,透明テー
プという)に,印字部形成テープとしてのサーマルリボン34
のインクが裏返しパターンで転写されて,左右反転印字が行わ
れるのである(6頁末行~7頁11行)。」
⑥一対のテープ送りローラを備え,透明テープを印字ヘッド下流
方向へ送ること
「,・テープ送り方向においてサーマルヘッド28より下流には
,1組のテープ送りローラ36および38が圧接状態で設けられ
モータ等の駆動源により互いに逆向きに回転駆動されて,透明
テープ32を図において左方向へおくるようになっていて,モ
ータ等の駆動源とともにテープ送り装置を構成している(7。」
頁12行~18行)
⑦その一対のローラが片方に剥離紙が付いた両面粘着テープを透
明テープの印字がされた部分に貼り付けること
・「本実施例において上記ローラ36,38は,透明テープ3
2の反転印字がされた側の面に,その背景を形成するベーステ
ープ42を貼り付けるテープ貼り付けローラを兼ねている。ベ
ーステープ42は,第2図に示すように基材44の両面に粘着
材層46,48を備えた両面粘着テープであり,粘着材層46
は剥離紙50で被覆され,反対側の粘着材層48において第3
図に示すように透明テープ32の反転印字面に貼り付けられる
ものである(8頁4行~13行)。」
(ウ)その他の自明の設計事項
テーププリンタに用いられるテープカセットが出口を持つことと,印
字ヘッドが装着されるための凹所を持つこと,そしてテーププリンタに
おいて印字ヘッドとプラテンが離間したり,圧接したり相対的に位置を
移動することはあまりにも自明の設計事項であるが,例として,実開昭
62-109958号公報(乙88)にこれらが開示されていることを
挙げておく。
・テープ出口
上記乙88のテープカセットには,テープ出口がある。テープ出
,,口がないカセットではテープを外に排出することができないから
これは自明の設計事項といえる。
・印字ヘッドが装着されるための凹所
上記乙88のテープカセットには,印字ヘッドが装着されるため
の凹所がある。凹所がなければ印字ヘッドをカセット内に挿入でき
ないから,これは自明の設計事項といえる。
・印字ヘッドとプラテンが離間したり,圧接したり相対的に位置を
移動すること
上記乙88のテーププリンタ(マーリンエクスプレス)では,非
プリント状態では印字ヘッドとプラテンが離間し,プリント状態で
は互いに圧接するように,印字ヘッドとプラテンが相対的に移動す
るようになっている。印字ヘッドとプラテンが離間しなければテー
プがセットできず,圧接しなければ印字ができないから,これは自
明の設計事項といえる。
(エ)米国特許●●号(●●)との対比
a米国特許●●号の請求項1(括弧内は原文)
●●(省略)
(b)第3考案との対比
米国特許●●号の請求項1の構成要素A~Jのうち,
・Aは第3考案に記載された①及び②と同一であり,
・Bは第3考案に記載された②と同一であり,
・Cは上記乙88でもみられる自明の設計事項であり,
・Dは上記乙88でもみられる自明の設計事項であり,
・Eは第3考案に記載された④と同一であり,
・Fは第3考案に記載された④及び⑤と同一であり,
・Gは第3考案に記載された⑤と同一であり,
・Hは第3考案に記載された③及び⑤と同一であり,
・Iは第3考案に記載された⑤と同一であり,
・Jは第3考案に記載された⑦と同一である。
したがって,米国特許●●号の請求項1の構成要素は,すべて第
3考案に記載されている内容と自明の設計事項を組み合わせたもの
である。
(c)小括
以上のように,米国特許●●号の請求項1に係る発明の構成要素
のすべては,最先の出願である第3考案に記載された内容と同一で
ある。よって,米国特許●●号の請求項1の発明者は,実際は第3
考案の発明者である一審原告ら6名である。
なお,大友教授鑑定意見(甲312)は,出願される以前の一審
原告らが会社に譲渡した発明を詳細に分析したうえで,一審原告ら
の発明が米国特許●●号として展開され特許化されていることを示
すものである(11~30頁。)
オ子会社等の売上げ
(ア)W陳述書を採用できないこと
一審被告は,一審被告の売上高と販売子会社段階での売上高との比率
について,原判決が採用した数値を訂正すべきと主張する。
しかし,一審被告がその主張の根拠とするのは一審被告の従業員であ
るWの陳述書(乙213)であるが,同人は平成11年以前ラベルライ
ターと全く関わりがなく,その陳述書(乙213)にも販売子会社段階
の売上げや粗利益のデータが添付されていない。したがって同陳述書に
記載された数値がそのまま認められるものではない。
(イ)裏付けの不存在
原判決の認定が誤りというのであれば,最低でも下記の点を含めて立
証すべきであるが,かかる立証はなされていない。
aW陳述書(乙213)を裏付けるための数値資料
平成4年以降の各年度における,ラミネート式本体セット及び補給
用テープカセットの米国販売子会社の粗利率(販売高-仕入高)/(
販売高,欧州販売子会社(ドイツ,イギリス,フランス)の粗利率)
が示されるべきである。
b海外向けの中間子会社を介在していることによる係数
一審被告の有価証券報告書(第101期:平成4(1992)年1
1月21日~平成5(1993)年11月20日,甲329)の46
頁には,国内と海外における一審被告と販売子会社を含む企業集団の
関係が示されている。
これによれば,一審被告と海外販売子会社との中間に,子会社・ブ
ラザーインターナショナルが介在している。この会社は,同有価証券
報告書59頁に記載されているように100%直接所有の子会社であ
る。
ブラザーインターナショナルは,一審被告から海外向けの製品を買
い受け,●●のマージンを乗せて,海外の販売会社へ販売している。
一審被告がW陳述書(乙213)に基づき計算する数値は,明らか
にこの子会社が仲介していることによる係数を含んでいない。
したがって,一審被告の主張を裏付けるためには,米国と欧州向け
の本体とテープカセットについて,子会社ブラザーインターナショナ
ルが獲得している粗利率のデータが明らかにされるべきである。
cBIEの係数
上記bに加えて,欧州に販売される製品は,イギリス国マンチェス
()ター市に位置するブラザーインターナショナル・ヨーロッパBIE
という欧州の統括会社へ輸入され,そこから注文に応じて各国の販売
子会社(ブラザーインターナショナル・ドイツ,ブラザーインターナ
ショナル・UKなど)へ輸出販売されている。このBIEも,同有価
証券報告書(甲329)59頁に記載されているように,一審被告の
100%子会社である(間接所有,現在は直接所有。)
このBIEは,製品の流通,在庫管理,公告,マーケティングなど
を担当しているため,約●%のマージンを得ている。
W陳述書(乙213)は本体について欧州販売会社の係数を●●倍
としているが,この数値はBIEの粗利かその下流の販売子会社の粗
利かどちらか一方しか考慮されていないものである。
したがって,一審被告の主張を裏付けるためには,BIEの粗利率
とその下流の販売子会社の粗利率の,両方を含めた数値が明らかにさ
れるべきである。
d三重ブラザー精機の製造・販売利益
一審被告は,ラベルライター本体の製造は自社では行わず,国内で
は子会社と非関連会社に製造委託し,これらより購入してきた。
このうち,三重ブラザー精機株式会社は同有価証券報告書35頁に
あるように子会社である。子会社である三重ブラザー精機株式会社が
製造し,一審被告に販売することで得た利益には独占の利益が含まれ
ている。全TXモデルの本体(同梱テープカセット含む)と全TXテ
ープが該当する。
したがって,TX関連の全売上げについては,子会社である三重ブ
ラザー精機株式会社の利益が相当対価の対象として加えられなければ
ならない。
(ウ)連結利益
また,一審被告の売上げに販売子会社係数を乗じて超過売上高を算出
するのではなく,これを一審被告自身のみならずその100%子会社を
含む一審被告グループ会社の連結の営業利益から独占の利益を求める
と,P-touchの事業に関しては,一審被告であるブラザー工業単
体の利益に対して●●倍もの利益が企業グループにもたらされる(連結
売上げを基礎とした場合はグループ内取引の売上げが相殺されるが,連
結利益を基礎とした場合はグループ内の利益が積算されることとなる。
なお,一審被告は,三重ブラザー精機株式会社の利益は一審被告の仕入
価格に含まれると主張するが,これは利益と売上げを混同するものであ
る。。)
したがって,一審被告の売上げに販売子会社係数を乗じる方法によっ
て超過売上げを計算するとしても,その係数は●●倍より大きく離れる
ことは許されない。
カポートフォリオ論
(ア)原判決の誤り
原判決は,一審被告の特許ポートフォリオに関し,一審被告自身が一
審被告保有の個々の特許発明は,技術的には特許されるか否かさえ判断
できない程度のものばかりであるなどと主張していたにもかかわらず,
多くの特許を保有することにより「同業他社に製品開発のリスクを生,
じさせ,新規参入や新製品開発を遅らせるなどの効果があることは否定
」,,できないとして一審被告の権利の数自体を考慮に入れた誤りがあり
その結果,自社実施分,他社実施分,超過率,貢献度などの面で幾重に
も判断を誤るものである。
(イ)本体に関する権利(一審被告が他社実施を主張するもの)
a非実施
一審原告らが調査したところでは,一審被告が他社実施に対して寄
与する権利として主張する一審被告保有権利のうち多くの権利は,キ
ングジム社でもカシオ社でも全く実施されていない。
b無効
また,一審被告が主張する権利の中には,新規性の欠如等により明
らかな無効事由が存するものがある。なお,有効性に関する調査にお
いては,公知例として競合メーカーや自社の製品や取扱説明書や特許
文献に限定して行ったものであり,同じ産業分野内の他の公知例など
に当たれば,更に無効事由は増大すると考えられる。
cキングジム社に対する共同開発規定違反
さらに,一審被告が主張する権利の中には,キングジム社との「取
引基本契約(甲139)第9条の中で「甲及び乙が共同でなした製」,
品に関する発明・著作物並びにそれらの帰属・利用については,甲乙
間で協議の上取り決める」と定めた上で共同開発をした際,キング。
ジム社側からされた技術提案であるか,少なくとも一審被告とキング
ジム社との間における技術的思想のやりとりの中で生まれたものがあ
る。これらの技術思想を一審被告だけで勝手に特許出願したこと自体
もこの「取引基本契約」第9条からして契約不履行にあたるが,これ
ら冒認出願し登録させた経緯のある権利は,争われれば冒認出願で無
効となるか,少なくとも上記契約違背でキングジム社に対して権利行
使できないものである。
d一審原告X2の発明が特許化されたもの
キングジム社に対して販売差止めの仮処分で行使されたオートサイ
ズに関する発明(特許第2556224号,キングジム社に対して)
侵害警告に行使された切断装置に関する2件の発明(特許第2814
,),。692号特許第2830860号は一審原告X2の発明である
e残りの権利
その余の権利は,カシオ社が別売品として販売しているテープ端処
理装置だけが実施品であって,対象がラベルライター本体やテープカ
セットではないものや,カシオ社のごく一部の製品にしか実施されて
いないものや,内容が極めて近似・重複しているため実質的には2件
で1件ともいうような権利にすぎない。
f他社実施分に対する結論(重み付け)
(a)調査結果等を踏まえた重み付け
一審原告らは,一審原告ら発明の権利にこれら一審被告が他社実
施を主張する権利を含め,キングジム社の賠償金分,キングジム社
からのロイヤリティ分,カシオ社及びダイモ社からの賠償金とロイ
ヤリティ分について,①有効性,②実施モデルの多寡,③基本発明
性,④優位性(特許表示・宣伝,⑤訴訟行使実績という5つの指)
標に基づいて重み付けを行った。その結果は以下のとおりである。
(b)キングジム社から獲得した賠償金分の結論
キングジム社から獲得した●●(省略,第1発明の重みは25)
(13.8%,第3発明の重みが48(26.4%,一審原告X))
2の発明によるオートサイズに関する特許第2556224号の重
みが48(26.4%,同じく一審原告X2の第4考案から生ま)
れた特許第2814692号と特許第2830860号の重みが2
4(13.2%)である。
したがって,キングジム社賠償金分に対する相当対価は,この寄
与割合に分配してから,各発明において一審被告の貢献割合,共同
の発明について発明者間割合で相当対価が決められなければならな
い。
(c)キングジム社ロイヤリティ対象権利の結論
キングジム社から平成15年度~18年年度までに獲得したロイ
,(.),ヤリティ収入●●円のうち第1発明の重みは24188%
第3発明の重みが32(25%,一審原告X2の発明によるオー)
(),トサイズに関する特許第2556224号の重みが3225%
同じく一審原告X2の第4考案から生まれた特許第2814692
号と特許第2830860号の重みが12(9.4%)である。
したがって,キングジム社からのロイヤリティに対する相当対価
は,この寄与割合に分配してから,各発明において一審被告の貢献
割合,共同の発明について発明者間割合で相当対価が決められなけ
ればならない。
(d)カシオ社賠償金及びロイヤリティ対象権利の結論
カシオ社から平成15年度~18年度までに獲得したロイヤリテ
ィ収入●●円及び過去賠償金●●円のうち第1発明の重みは41,(
2.5%,一審原告X2の発明による●●の重みが8(25%))
である。
したがって,カシオ社からの賠償金及びロイヤリティ分に対する
相当対価は,この寄与割合に分配してから,各発明において一審被
告の貢献割合,共同の発明について発明者間割合で相当対価が決め
られなければならない。
(e)ダイモ社賠償金分及びロイヤリティ
ダイモ社に関しては,ダイモ社からの賠償金とロイヤリティ収入
に対して何が貢献したかという点だけでなく,一審被告の最大の競
合メーカーであり,資本力・技術力・販売力に勝るダイモ社に対し
てラミネート技術をどうやって禁止してきたのかが,自社実施にお
ける独占の利益とも深く関係しているので,ダイモ社に関しては後
述する。
g一審被告の均等頭割りの主張に対し
発明の対価は,独占の利益獲得により大きく貢献した権利に対して
より多く支払われるべきものであり,これに反して均等頭割りを主張
する一審被告の主張は到底認められない。
(ウ)一審被告が自社実施を主張するその他の権利に関し
a自社実施分でテープカセットに関する権利
(a)一審被告の主張
一審被告は,自社実施に対して寄与する権利として,一審被告の
保有するテープカセットに関する権利の存在を主張し,こうした権
利の数による割り算により発明の寄与を算定すべきものである旨主
張する。
(b)無効
一審原告らがこれを調査したところ,これらの権利の一部には新
規性欠如等によって明らかな無効事由がある。なお,有効性に関す
る調査においては,公知例として競合メーカーや自社の製品や取扱
説明書や特許文献に限定して行ったため,同じ産業分野内の他の公
知例などに当たれば,さらに無効事由は増大すると考えられる。
(c)非実施
また,一部の権利は,自社製品で実施されていない。
(d)一審原告らが発明行為に関与している権利
さらに,一部の権利は,一審原告らが発明行為に関与しており,
一審被告側の権利として評価されるべきものでない。
b自社実施分で本体に関する権利
(a)一審被告の主張
一審被告は,他社にライセンスされた権利についても自社実施分
に係る寄与権利として考慮できるとして,多数の権利の存在を指摘
する。
(b)実施について
これらの権利は実施品が非常に限定されており,ラミネート式ラ
ベルライターの製品のうちほんの一部にしか使われていない。その
額は「ラベロ」の●●台(●●円「LM-2000」の●●台,),
(●●円「PT-18R」の●●台(●●円「PT-24」の),),
●●台(●●円「PT-240」の●●台(●●円)しかない。),
これらの売上げは,合計しても●●円であって,平成4年8月以降
の国内販売のわずか●%程度である。
これに対し,一審原告らのラミネートの技術は,国内で販売され
たすべてのラミネート式ラベルライターで100%実施されてお
り,比較にならない。
c自社実施分に関する寄与権利(重み付け)
(a)調査結果等を踏まえた重み付け
一審原告らは,一審原告ら発明の権利にこれら一審被告が主張す
る権利を含め,以下の指標に基づいて重み付けを行った。その結果
は以下のとおりである。
①有効性0.5~4倍
②実施品の多寡0~1倍
③基本発明性1又は2倍
④効果(技術面)1又は2倍
⑤優位性(市場・宣伝・特許表示)1,2又は4倍
⑥受賞実績1又は2倍
⑦訴訟行使実績1又は2倍
⑧海外権利化有無1又は2倍
⑨重み付けの集計(①~⑧の乗算値)
(b)日本国内分に係る権利の重み付け結論
国内での本体販売額●●円について,一審原告らのラミネート発
明による寄与が192(99.5%)であるのに対して,一審被告
側の権利による寄与は1(0.5%)である。
同じく国内でのテープカセット販売額●●円について,一審原告
らの発明による寄与が320(92%,256+64)であるのに
対して,一審被告側の権利による寄与は28(8%)である。
(c)米国権利に係る重み付け結論
米国での本体販売額●●円について,一審原告らの発明による寄
与が80(99%)であるのに対して,一審被告側の権利による寄
与は0.46(1%)である。
同じく米国でのテープカセット販売額●●円について,一審原告
らの発明による寄与が80(74%)であるのに対して,一審被告
側の権利による寄与は28(26%)である。
なお,一審被告は米国消尽論との関係で海外特許2及び3にはテ
ープカセットに対する独占の利益はないと主張するが,ダイモ社が
実際行ったような本体・テープカセットとも侵害するような場合に
ついて(丸ごと侵害のケース,海外特許2及び3が有効にこれを)
阻止し得ることは疑いないから,海外特許2及び3の間接侵害につ
いても重み付けをした。
(d)欧州特許に係る重み付け結論
欧州での本体販売額●●円について,一審原告らの発明による寄
与が96(ほぼ100%)であるのに対して,一審被告側の権利に
よる寄与は0.23(0.2%)である。
同じく欧州でのテープカセット販売額●●円について,一審原告
らの発明による寄与が64(88%)であるのに対して,一審被告
側の権利による寄与は10(13%)である。
d他の権利でラミネート技術に関係するもの・関係しないもの
一審被告が主張する他の権利でラミネート技術に関係し,かつ他社
に許諾されていないラミネート技術を実施する上で実効性があるのは
4件のみであり,この4件に対応する外国出願は,米国の2件と欧州
の2件しかない。
キ権利存続期間について
(ア)原審において主張したとおり,一審被告が,本訴が提起され,本件
各発明の有効性が激しく争われている最中に,平成4~5年という本訴
が提起される約10年前の返還希望調査の結果のみを基にして,一審原
告らに何らの連絡・申出なく権利を消滅させたのは不当であり,原判決
が第2発明について本来の存続期間までの相当対価の支払を命じたこと
は相当である。
(イ)また,一審被告は,権利を消滅させた分については,一審原告らに
対して損害賠償をする義務があるというべきである。
まず,原判決が指摘した「本件訴訟提起以降は,権利返還の申し出が
あればこれを受ける意思を有していたものと認められる(226頁)」
ということ以前に,一審原告らは将来分として少なくとも平成20年3
月分までを求めている事実がある。これに対して,一審被告が国内の第
2発明を本来の存続期間である平成19年11月19日より前の平成1
8年7月17日に放棄し消滅させたことは,本来一審原告らが正当に請
求の根拠とし得た権利を一審被告が故意に滅失させたものである。
さらに,この存続廃棄の決裁は社内規程に違反してなされたものであ
る。すなわち,一審被告における平成17年4月1日施行の「発明等取
扱規程(乙54の1)には「国内および外国において当社が保有する」,
特許権の存続廃棄については,各カンパニーのプレジデントまたは本社
各部門の部門長が決定する(4頁)と明記されている。。」
ところが,実際の存続廃棄の決定は,乙148から明らかなように,
カンパニープレジデントでも本社の部門長でもないP&Hカンパニーの
Jという一部長によって決裁されている。このJには規程上決定権限が
ない。
このように,本来正当に対価を請求することができるはずの権利の一
部について,明らかに社内規程に反する手続によって,一方的に権利を
滅失させた行為は違法である。このような詐害的な対応は絶対に認めら
れるべきでない。このような違法な手段で故意に正当な権利を滅失させ
た分(平成18年7月17日~平成19年11月19日)については,
損害賠償として一審被告は一審原告らに補償する義務がある。
(ウ)なお,一審被告は海外特許1~3についてはその後も存続させてお
り,その存続予定期間は次のとおりである。
・海外特許1:2008年〔平成20年〕11月14日
・海外特許2:2008年〔平成20年〕10月24日
・海外特許3:2008年〔平成20年〕12月28日
これらの権利は1995年〔平成7年〕6月8日以前に出願されたも
のであり,ウルグアイラウンド合意協定(1994年〔平成6年〕12
月8日発行)に基づき,米国での出願日から20年,又は特許発行日か
ら17年のうち長い方が適用され,存続期間となり,外国優先権主張に
基づくその国での出願日は起算点にならない。
(4)利益率等について
ア利益率等
(ア)原判決の誤り
原判決は,一審原告らが主張した算定方式1を排斥したが,仮に,
現実の利益と仮想実施料率で計算する利益が同一といわないまでも著
しく乖離していないのであれば,審理の効率を優先して仮想実施料率
を使うことも考えられないではない。しかし,本件の現実の利益率と
原判決の仮想実施料率とでは著しく乖離しており,このような仮想実
施料率を用いて計算することは不当である。
また,現実の利益をベースに算定する方法による方が,特許法旧3
5条4項が「前項の対価の額は,その発明により使用者等が受けるべ,
き利益の額及びその発明がされるについて使用者等が貢献した程度を
考慮して定めなければならない」と定めていることにも合致し,さら。
に,現行特許法35条5項が「…第三項の対価の額は,その発明によ,
り使用者が受けるべき利益の額,その発明に関連して使用者等が行う
負担,貢献及び従業者等の処遇その他の事項を考慮して定めなければ
ならない」という要請にも適うものである。。
(イ)利益率の裏付け
この点,原判決は算定方式1を採用し得ない理由として証拠が不十
分であることを挙げるが,この点は一審原告らが当審において提出し
た一審被告におけるラベルライター製品事業の正確な財務データ(甲
195の1~5,197~200)等により十分立証されたというべ
きである。
これによれば,事業年度により若干のばらつきはあるが,平成元年
~平成15年までの実績で,ラベルライター事業の営業利益率が●%
(,であることは疑い得ない事実である原審では●%と主張していたが
変更する。なお,この値は,売上げから,原材料費や外部加工費,。)
金型費,工場の労務費,設計・製造・開発に関するその他一切の人件
費,工場の施設費,営業や間接部門の人件費や広告宣伝費などの販売
費,知的財産取得に関する費用,本社への上納金,事業税をすべて引
いた被告会社のラベルライター事業における実際の数値である。設備
投資などについても減価償却費としてもちろん計上されている。
また,正確な資料に基づき被告会社における資本コストを計算する
と,対売上比で●%であることが明らかとなった(原審では売上高の
●%と主張していたが,変更する。。)
したがって,算定方式1に基づく本件における超過売上高に基づく
収益は,発明による超過売上げをS,超過売上高に基づく収益をRと
した場合,以下のような数式で求めることができる。
R=S×営業利益率-S×資本コスト比率
=S×●%-S×●%
=S×(●%-●%)
=S×●%
イ仮想実施料率
仮想実施料率に関する原判決の認定は,その数値が低すぎる点及び同数
値を時の経過とともに著しく減じている点で誤りである。
なお,原判決の上記判断の誤りは,前記のとおり以下のような複数の事
実誤認に基づくものである。
・キングジム社にラミネート技術が許諾されているという一審被告の
主張を誤って認めたこと
・ラミネート式でなければならない市場規模を過小評価していること
・一審被告の特許ポートフォリオの存在とその効果を誤って高く認め
たこと
・他社や自社の非ラミネート式を過大評価していること
・ラミネート式の原価が高いと誤った認定をしたこと
・ラミネート式に欠点もあると誤認定したこと
・ラミネート式の市場占有率を誤って低く認定したこと
・米国での圧倒的シェアの原因を誤って販売力としたこと
(5)第三者からの実施料収入について
アキングジム社からの実施料収入
(ア)第1発明の寄与
第1発明はキングジム社及びカシオ社の両社に対して侵害警告を行っ
た代表特許であり,過去の裁判例でも代表特許は重視されている。
それにもかかわらず,原判決では両社から得た一時金に対する第1発
明の寄与率は2%とされた。そうすると,残り98%は他の発明の寄与
ということになるが,後記(エ)のとおり,特許ポートフォリオの実体は
ないのであるから,第1発明の寄与率は相当程度に大きいと評価すべき
である。
(イ)第3発明の寄与
第3発明は,一審被告がキングジム社に対する販売差止めの仮処分申
請時に使われた3件のうちの1件である。このように,第3発明が代表
特許であることや一審被告の主張する特許ポートフォリオに実体がない
こと(後記(オ))に鑑みれば,その選りすぐりの代表特許の寄与率がわ
ずか3%ということはあり得ず,30%以上と評価すべきである。
(ウ)第4考案又はキングジム警告権利7及び8の寄与
a原判決(239頁)は,一審原告X2の陳述書(甲171)のみで
は同人がキングジム警告権利7(特許第2814692号)及び同8
(特許第2830860号)の発明者の一人であると認めることはで
きないとするが,一審原告X2と同僚の立場でP-touchやキン
グジム社向けOEMのほぼすべて担当してきた一審被告元社員である
Gは,その陳述書(甲180)において「X2さんは,ラベルライタ,
ーに必要な新しい機能をいつも考えていました。最初のモデルから比
べて新しい機能が登載されたのは,TR-77というモデルだと思い
ます。そのモデルはX2さんが担当していましたが,定長印刷や,2
段印字,それに特殊なカッターなどもX2さんが提案したと思いま
す(7頁2行~5行)と述べている。。」
bまた,ラベルライターにおいて,印字されたテープを本体から切り
離すカッターとは別に当該テープに特殊な処理を施す切断機構を本体
内に設けるという思想は,一審原告らによる第2考案に開示されてい
る。
すなわち,第2考案(甲2の7)は,昭和62年11月28日に出
願された,一審被告のラベルライターに関する権利の中でカッターに
ついての最初の考案であり,完成した貼付けラベルの剥離紙をユーザ
ーが容易に剥がすことができるように,テープをカットする際に,完
全にテープを切断する刃と,剥離紙のみを切断する刃の2枚構造にし
て,剥離紙の一部に切り込みを入れる(ハーフカット機構)というも
のである。
この第2考案の明細書中「問題点を解決するための手段(2頁左,」
欄41行~45行)には,印字テープ及び剥離紙にわたって複合テー
プを切断する完全切断用のカッタと,剥離紙のみを切断するハーフカ
ット用のカッタとを別々に設けて,完全切断とハーフカットとを同時
又は相前後して行う旨の記載があり「第2の切断装置を別体とする,
のではなくラベルライター本体に第2の切断装置を内蔵する思想」が
明確に開示されている。
そして,一審原告X2は「貼り付けたテープがその角から捲れて,
剥がれてしまう」という問題を解決するためにテープ角をRカットし
て剥がれにくくする機構を考案し,本体に別の目的の切断装置を内蔵
するという第2考案の思想とを組み合わせ,それをキングジム社へ提
案し,キングジム社の開発担当者であったaがこれに共感して,平成
(),元年6月9日に一審被告へ送付したTR-77企画案甲140に
本体のカッターとは別の「別カッターメカ内蔵をも含むハーフカット
・余白カット・コーナーRの実現」と記載された要望が一審被告へ。
出されたのである。
このように,テープ端部をR状等に処理する第2の切断装置を別体
とするのではなくラベルライター本体に内蔵するとした思想は,一審
原告X2の発明・考案である。
したがって,キングジム警告権利7及び8の発明者は一審原告X2
であって,原判決にはこの点について重大な事実誤認がある。
(エ)オートサイズ発明(特許第2556224号)によって得た利益の
公平分配
aキングジム社への侵害警告及び仮処分申立てに用いられたオートサ
イズ発明(特許第2556224号。乙71添付資料1)は,一審原
告X2の発明を一審被告社員のbが冒認出願したものである。ところ
が原判決は,同発明の請求項1,3,4,5の主な部分が一審原告X
2の技術提案(甲137)と同一であるから同発明は一審原告X2が
発明者の1人である可能性が高いとしつつ,他の請求項の存在から同
人の単独発明とまでは認められないとして,キングジム社からの実施
料収入における上記発明の寄与を重視することはできないと認定する
(原判決241頁。)
,,,,(,)b原判決の上記認定は請求項1345以外の請求項26
が存在することを理由の一つとするものであるが,キングジム社が実
施し,またキングジム社訴訟で行使された請求項は一審原告X2が発
明した請求項1であるこのことは一審被告自身も認めているし一。,(
審被告知的財産部に所属するRの陳述書〔乙70〕別紙2参照,一)
審被告がキングジム社に対して販売差止めの仮処分申立て(甲228
),。の1をした際に特許侵害を主張したのも請求項1についてである
このように,キングジム社の侵害品を差し止めるに際してオートサイ
ズ特許が効力を持ったのは一審原告X2が発明した部分であることは
明らかである。一審原告X2の発明を受けてbが後から追加した請求
項2と請求項6は全く関与していない。
cまた,原判決は,一審原告X2の提案を具体化するためにbら技術
者の協力が必要であったことを上記認定の理由の一つとするが,この
点も誤りである。一審原告X2は,ラベルのレイアウトと入力編集機
能について,第3発明を発明した後,単独でインデックスラベルに関
する第1考案を完成させた。そしてさらに複雑なレイアウトのラベル
が簡単にできる入力編集機能を模索していく中で,このオートサイズ
の発明をしたのでありbはその過程で協力をしていない一審原告X,。
2がこのオートサイズ発明に関する技術提案(甲137)をして,そ
の翌日である平成2年11月27日にV,c,d,e,f,gといった設
計者を招集して説明したものを,bが後日それをそのまま社内出願し
たものである。
(オ)一審被告のポートフォリオ論に対し
原判決は,他社からの実施料収入において「被告の特許ポートフ,
ォリオが包括的ライセンス契約を締結させる動機になった」として,
一審原告らの発明の寄与率を下げている。
しかし,前記(3)カに述べたところに照らせば,一審被告の特許ポ
ートフォリオの実体は他社に対するライセンス契約の動機付けにはな
り得ないものであって,考慮に入れるべきではない。
イカシオ社からの実施料収入
●●は,キングジム社だけではなく,カシオ社製品についても実施され
ており,かつ,重要な権利である。したがって,カシオ社からの賠償金及
びその後のロイヤリティについても一審原告X2に相当な対価が支払われ
るべきであって,その寄与率及び貢献度はキングジム社分に対する対価に
準ずるものである。
ウダイモ社からの実施料収入
(ア)原判決の誤り
原判決は,ダイモ契約に基づきダイモ社から実施料収入を得ることが
できたことには海外特許1が貢献していると認定しつつ,海外特許1は
印字装置に関する発明であり,テープカセットの部分を含まないとの理
由で,その寄与率を50%に減じている。
しかし,一審被告がダイモ社を直接抑えたのは本体であって,ダイモ
社は間接侵害の訴訟が改めて提起されるのを危惧してテープも含めた和
解に応じたものである。したがって,原判決の挙げる上記理由で寄与率
を減じるべきではない。
(イ)ダイモ契約権利1・2の発明者が一審原告らであること
aダイモ契約権利1(ドイツ実用新案G●●)及びダイモ契約権利2
(欧州特許EP●●号)の優先権主張の基礎となる国内出願は,●●
省略であるそしてダイモ契約権利1及びダイモ契約権利2原()。,(
判決が認定するとおり,両者の内容は実質的に同一である)は,上記
3件の日本出願の明細書に実施例として記載されていた一審原告らの
ラミネート発明(第2発明,第5発明)とラミネートテープカセット
の発明(第3考案)の構成要素を請求項へ取り込んで出願され,この
ようにして取り込まれた一審原告らの発明をDYMO4000が実施
したのである。
このようなことが可能となったのは,パリ条約4条Hが,欧州出願
をする場合には,特許請求の範囲のみならず実施例など明細書の他の
部分に記載されている要素も新たに請求項として盛り込むことができ
るとしていることによるものであり,一審被告は,欧州出願における
優先権主張という制度に乗じて,上記日本出願1~3を優先権の基礎
としつつ,実施例として第2発明に係るラミネート式ラベルライター
の全要素と第3考案に係るラミネート式に用いられるテープカセット
の全要素を取り込んだものである。ちなみに,日本出願1~3はいず
れもラミネート式ラベルライターの本質とは無関係であるし,これら
3件の実用新案はDYMO4000で全く実施されていない。
bいうまでもなくラミネート式ラベルライターの発明は一審原告らが
第2発明でなしたものであり,ラミネート式ラベルライターに用いる
3種のテープ(透明テープ,インクリボン,両面粘着テープ)を個別
に同一のカセットに収納して供給することも,3種のテープスプール
の配置もすべて一審原告らが誰よりも先に完成させて第3考案として
社内出願し,特許(実用新案)出願をしたものである。
,(),(,上記日本出願1~3の考案者はA日本出願1h日本出願1
2,i(日本出願3,j(日本出願3)の4名となっており,ラミネ))
ート発明(第2発明・第5発明)とラミネート用テープカセットの発
明第3考案の発明者である一審原告X1一審原告X2CDB(),,,,
については,実施例を引用されているにもかかわらず発明者としての
記載が漏れており,唯一記載されているのはAだけである。
そして,ダイモ契約権利2の発明者は,A,h,i,jの4名となって
おり,一審原告X1,一審原告X2,C,D,Bについては,ラミネー
ト発明とラミネート用テープカセットの発明技術が特許請求範囲とさ
れているにもかかわらず,発明者として記載されていない。
同一会社内といえども,同じ発明が複数存在することはあり得ない
のであって,ダイモ契約権利1及び2の発明者はラミネート発明及び
第3考案の発明者である一審原告ら6名である。
cこれに対し一審被告は,第3考案で示された技術内容とダイモ契約
権利2の請求項1,3,7,8(DYMO4000で実施された請求
項)は,以下の3つの点で異なると主張する。
第3考案は各テープ(インクリボン,透明テープ,両面粘着テⅠ
ープ)が個別に交換できるようになっているため,そのカセット
ごと本体に対して交換することは含まれない
Ⅱ第3考案ではハウジングが全体を覆うものでなく,テープ類の
スプールの一部が露出している
Ⅲ第3考案ではインクリボンと透明テープの供給スプールが共通
化されており,他の実施例としてインクリボンと透明テープの供
給スプールを別々にする思想は特許担当者が出願時に加えたもの
である
しかし,上記Ⅰについては,第3考案はラミネート式ラベルライタ
ーの構造に必要なテープ類を一元的に供給するという発明技術が示さ
れており,この技術を発展的に限定してリボン・テープ類のスプール
を個別に交換する方法を示したものであって,カセットごと本体に対
して交換することも含むものである。
また上記Ⅱについては,第3考案とダイモ契約権利2との違いは,
ハウジングがすべてを覆う形状か否か,テープ出口があるか,印字ヘ
ッドを収納する凹所があるか否かだけであって,技術的な差異とは認
められない。
さらに上記Ⅲについては,第3考案の出願時明細書には他の実施例
としてインクリボンと透明テープの供給スプールを別々にする構成が
,,(,明記されているしさらに遡って第3考案の社内出願用紙譲渡証
乙64の2)3頁用紙Bにおいても,インクリボンと透明テープの供
給スプールを別々にする構成が従来技術として明記されている。この
ように,当該他の実施例の起源は一審原告らであり,一審被告特許部
の出願担当者によるものではない。
したがって,一審被告の主張はいずれも理由がない。
(ウ)小括
このように,DYMO4000本体が侵害したのは,海外特許1のラ
ミネート式ラベルライターの技術そのものである。ダイモ契約権利1・
2のラミネート式ラベルライターに関係のない部分は侵害されていな
い。つまり,海外特許1がなければ,ダイモDYMO4000の販売差
止めも,賠償金を獲得することもできなかった。
また,仮にダイモとの契約で直接交渉のテーブルに出された権利が最
初に権利化されたダイモ契約権利1・2であった点を考慮するとして
も,ダイモ契約権利1・2は一審原告らの海外特許1(ラミネート式ラ
ベルライターの基本発明)に第3考案のカセットで3種類のテープを供
給する技術を加えただけのものであり,ダイモ権利1・2の実質的発明
者は一審原告ら6名に他ならない。
したがって,一審被告は一審原告らに対し,ダイモ社からの賠償金と
実施料について発明対価を支払わなければならない。
(エ)ダイモ賠償金分及び実施料に対する寄与
一審被告が平成5年度~16年度にダイモ社から獲得したロイヤリテ
ィ収入は●●円である。
そして,これに寄与した権利を重み付けで評価すると,海外特許1の
重みは27.5%であり,一審原告らの発明が権利化されているダイモ
契約権利2の請求項1と3,請求項7と8の重みは55.2%である。
他方,同じくDYMO4000で実施されたダイモ契約権利2の請求項
2を一審被告側の権利とみなしても,その重みは17.2%しかない。
したがって,ダイモ社からの賠償金及びロイヤリティ分に対する相当
対価は,この寄与割合に基づき決められなければならない。
(6)発明に対する一審被告の貢献度について
ア原判決の判断構造の誤り
原判決は,相当対価の算定に当たり,全売上げから,一審被告が行った
広告宣伝,TVCM,販売網や有力ディーラーの活用,製品のラインナッ
プ化などといった特許の独占的効力による売上げ以外の要素と通常実施分
の売上げを差し引いて超過売上げを算出した後に,仮想実施料率を算定す
る段階においても同じ要素を重複して考慮し,さらに,この独占の利益か
,,ら発明者の貢献分を算出する際にも本件各発明と関係のない他の発明や
一審被告が行った宣伝広告,TVCM,販売網や有力ディーラーの活用,
製品のラインナップ化などといった要素を考慮しており,明らかに不当と
いわなければならない。
超過売上げとは,物を作って販売するという通常の営業行為で得られる
売上げを超えた部分であり,原判決のように,全売上げから発明によって
得られた超過売上げに絞り込んだ上で,超過売上げ以外の全売上げに係る
これらの要素を重ねて考慮するのは不当である。原判決はこの点において
誤っているといわざるを得ない。
イ自社実施分に係る貢献度
(ア)原判決の誤り
原判決(249~261頁)は,一審被告の貢献度を算定するに当た
り各種事情を挙げるが,このうち「漢字ダイモ」に関する点や,インレ
タと貼付け両立の機構提案をCが単独で行ったとした点など,重大な事
実認定の誤りがある。
また,原判決は,製品化段階に関する要素に加えて,販売宣伝活動・
ラインナップ継続活動に関する要素を重く考慮しすぎている。
(イ)漢字ダイモの検討指示が事実に反すること
原判決は「証拠はないが,会社が漢字ダイモの検討を指示すること,
で始まった「独自に漢字ダイモの検討を進めていたAらが加わった」」,
と認定したが,重大な事実誤認である。
原判決の上記認定は,第2発明等の共同発明者であるCの陳述書(乙
66)に基づくものであるが,第2発明等の共同発明者であるAは,陳
述書(乙198)において「(2)当時,私は,インスタントレタリング,
用テープ作製専用機に関する情報につきましては,全く知りませんでし
た。また『漢字ダイモ』という言葉も『NB-1プロジェクト』の,,
発足当時は聞いたこともありませんでした(2頁「私は,U事業部。」),
長らに呼ばれた記憶もありませんし『漢字ダイモを検討しろ』と言わ,
れた記録もありません。また,そのような記載は,私の業務日誌のノー
トにも一切ありません。もし仮に,U部長から言われて『漢字ダイモ』
を検討していたのなら,後記のとおり『NB-1プロジェクト』の発
足時に当然課題として挙げられているはずですが,実際には課題にあげ
られていないことからしても,U部長から『漢字ダイモを検討しろ』と
言われたことがないという点に,間違いはありません(2頁)と述べ。」
ている。
一審被告は,Aの上記陳述を受け,一審被告従業員であるP(P課長)
の陳述書(乙199)を提出し,今度はP課長が「漢字ダイモ」と最初
に呼び始め,あたかも,P課長が漢字ダイモのコンセプトを発表したか
のように主張するが,これは反論に窮して急遽主張を変更するものであ
り,採用できるものではない。
(ウ)インレタと貼付け両立の機構提案
原判決は,インレタと貼付けを両立する機構の提案が,あたかも通常
の会議においてCによって提出されたかのように認定するが,誤りであ
る。
,,,,インレタと貼付けを両立する機構は一審原告X1一審原告X2C
A,Bがインレタと貼付けを両立する機構について技術的ブレーンストー
ミングを行った結果生まれた成果であって,C単独の提案ではない。そ
して,会議でのブレーンストーミングに先立ち,インレタと貼付けを一
つの装置で実現させるという課題と,貼付けは擦っても文字が消えない
ものとすること,その際に正像と逆像の印字切替えは他社特許を回避す
るために行わないという技術課題を提供したのも専ら一審原告X1と一
審原告X2である。さらには,一審原告X1が第1発明で既に想到して
いた,透明テープの印字面に粘着性を持たせてそのまま貼るという方法
も会議前にヒントとして共有された。そのような中で集中的に討議が行
われ解決案が生まれたのである。その解決案が,テープ印字装置におい
て糊のない透明テープに裏から反転印字を行い,その後に両面粘着テー
プを貼り付けるというラミネート機構と,両面粘着テープを貼らないイ
ンレタテープ作製機構を両立させたものである。
原判決は,インレタと貼付けを両立する機構の提案が上記のように一
審原告らと3名の設計者が技術的ブレーンストーミングをする中で生ま
れた思想であることを見誤っており,これにより,一審原告X1と一審
原告X2の貢献度が低くされているとすれば,これによる貢献度の修正
は必須である。
(エ)第3発明の貢献度
原判決は第3発明における一審被告の貢献を95%と認定したが,第
3発明は本体制御ソフトに関する発明であり,その発明は,基本的な仕
様と情報処理フローを考えれば,実現化に向けての大きな障害はない。
したがって,新素材などの化学分野における発明のような実験や設備投
資は不要であり,仕様決めとプログラミングとデバッグの作業で完結す
るものであって,一審被告の貢献はない。一審原告らを含む6名の発明
者の20倍に相当する一審被告の貢献が何かは原判決にも摘示がなく,
不明である。むしろ発明者の貢献を95%,一審被告の貢献を5%と解
すべきである。
(オ)発明に直接関係しない要素についての評価
原判決は,以下のような発明に直接関係しない要素を一審被告の貢献
として挙げる。そもそもこのような事情を考慮する点において誤りとい
うべきであるが,仮にこれらを考慮するとしても重視すべきではない。
aNB-1プロジェクト以降の組織的対応
一審被告が組織的に対応を始めたのはラミネート発明に関する一連
の特許出願を終えた後のことである。製品試作を担当する設計者が投
入されたのも,それをまとめるiが課長として配置されたのも,一審
原告らが必死でP-touchの事業化を訴え,ラミネートという他
社にない強みで長期にわたって事業が継続できることを説得したから
である。結果的に会社が製品化と事業化に乗り出したからといって,
一審被告が主導的に開発に当たっていたわけではない。
b品質不良への対応
品質の作り込みや品質不良への対応はメーカーとして当然の対応で
あり,その際特段の困難があったものではない。実際にも,発明出願
後わずか半年で試作機が完成し,キングジム社に見せたものは完成品
に近いものであった
c従来技術の駆使
P-touchの製品化で電子を担当したCは,ワープロ技術との
関係において,ブラザーに特別な技術があって,それがP-Touc
hに使われているということはない旨明言している。ワープロの開発
責任者であったlも,ブラザーが利用可能であったワープロに関する
技術は競争力の劣った負けの技術であったことを明言している。
d製品開発費
一審被告は通算●●円の開発費を投じたと主張するが,売上げや利
益の確保されない間のリスクを負った投資はほとんどない。P-to
uch事業は初年度である平成元年には●●円(限界利益率●%,)
次年度の平成2年には早くも●●円(限界利益率●%,3年目の平)
()。,成3年には●●円限界利益率●%を稼ぎ出しているこのことは
当時社長であり現ブラザー工業会長のmも,他の事業がことごとく失
敗するなか,ピータッチは最初から利益を稼いでくれた孝行息子であ
ったと自著(甲110)の中で吐露している。
しかも,この●●円の経費は,他の失敗事業(巨額を投じたカラー
コピー事業,撤退した家電事業,編み機事業,縮小のミシン事業)で
の余剰設計者を受け入れたことによる人件費増加である。
初期モデルの製品開発に投じられたという●●円の中身における実
際の開発投資は●●円にしかすぎない。
eキングジム社とのOEM
当時一審原告X2の上司でもあったlは,一審被告社内のプロジェ
クト一掃のプレッシャーに対して,P-touchがつぶれるのも仕
方ないと諦めかけていたところ,一審原告らのラベルライターに対す
る熱意と行動に心を動かされ,なんとかキングジム社から10万台の
オーダーをもぎ取ってきたと述べている。
f広告宣伝費
16年間で●●円の広告宣伝費は,売上げ総計●●円に対してわず
か●%であり,一審被告の全社平均である●%よりも少なく,カシオ
社の販促費率6%よりも著しく少ない。
gユーザー拡大のための対応とラインナップ化
ラミネート式ラベルライターの強みを最大限に活用して事業拡大を
,,するため米国に調査に行き市場ニーズを探った上でテープの幅広化
複数印字,自動カッタ,文字サイズ,ラベルレイアウトなどについて
具体的な設計仕様を提案したのは一審原告X2である。これらのこと
は,一審被告が行ったのではなく,ラミネート技術という最高の武器
を手にしながらなんらの提案も出来ない設計者等に代わり一審原告X,
2が市場を示し,そこに必要な仕様と技術を提案し続けてきた成果で
ある。
h米国販売ルートOSSとの関係強化
米国に約3000店舗ほどあるOSS(オフィススーパーストア)
は米国での一般的流通業態であって,競合のダイモ社もカシオ社も陳
列スペースを確保して売っているのであって,平成2年ころから増え
始めたOSSと関係が強化されていったのは一審被告に限ったことで
はなく,社会現象である。
i湾岸戦争時のCNNのCM
一審被告は,湾岸戦争でのCNNのCMをP-touchが認知さ
れ始めたきっかけ要素として主張するが,テレビコマーシャルで伝わ
,,るのはせいぜいネーミングくらいで実際に顧客が商品を選ぶ際には
店頭における説明札の内容,カタログ上の記載,そして特に米国では
商品に貼付され特徴を謳ったシール類,雑誌の広告内容,最近ではイ
ンターネット上の説明などである。一審被告はラミネート式であるこ
と,その優位性や耐久性を最大限にこれら幾多の広告販促物で誇示し
てきた。
jBIE販売網
販売網が強かったので売れたのではなく,当初は売る気もなくOE
M主体で売り出したら爆発的に売れたため,今度はOEMルートを自
ら廃して,特許製品を自社独占にして販売し続けているのが実態であ
り,P-touchの販売によって欧州での販売網が維持できたとい
うのが事実である。
kラベルの用途提案
ラベルの用途を種々考えた宣伝用のリーフレットを企画し,その必
要性を会社へ具申し,内容・構成を考え,スタジオでの写真撮影に立
会い,欧州各国へ売り込み方も含めて説明したのは一審原告X2であ
る。発明者である一審原告X2が,発明の利用価値をさらに高めるた
めに社内で行った活動を,発明対価請求訴訟において一審被告の貢献
要素と捉えるのは理不尽である。
ウ他社実施分に係る貢献度
(ア)他社実施分における考慮要素
他社実施分で貢献度評価において考慮され得るのは,自社実施分のそ
れよりさらに狭く,発明出願までと権利化,訴訟やロイヤリティ交渉に
係る部分だけとなるはずである。
(イ)ダイモ社分についての貢献度
a海外特許1
ダイモ社は,自社でラミネート式ラベルライターの侵害品を製造・
販売し,一審被告は●●ドイツマルク(約●●円)の賠償金と本体●
%,テープ●%の実施料を得た。これに係る一審被告の貢献は,せい
ぜい海外特許1の権利化とダイモ社に対する訴訟遂行しかないが,ダ
イモ訴訟の訴訟費用はダイモ社の負担である(乙173の全文和訳6
頁14行~16行。)
そうすると,ダイモ社分に係る一審被告の貢献は海外特許1の権利
化しかないが,海外特許1は通常の審査を経て特許化されているもの
であって,特筆すべき一審被告の貢献は認めることができない。
したがって,ダイモ社分についての海外特許1に係る一審被告貢献
度は,多くとも5%を上回ることはない。
b一審原告らの発明が特許化されたダイモ契約権利2
ダイモ契約権利2(欧州特許EP●●号)はダイモ社に対して直接
行使された権利であるが,一審原告ら6名が第3考案で示したラミネ
ート式ラベルライターをテープカセット(請求項1,3)及びラミネ
ート式ラベルライター(請求項7,8)として特許化されたものであ
る。
これに関する一審被告の貢献は,優先権主張の手続の失敗からダイ
モ社から追及されれば優先権主張違反で無効となっていた可能性があ
るものの,実施例として一審原告らのラミネート発明を入れ込み,第
3考案の形ではなくラミネート式ラベルライターにおけるテープカセ
ットのより実施品に近い形で特許化したという点であるが,技術的貢
献は一審原告らにあり,一審被告の貢献は限定的で,多くとも10%
を上回ることはない。
(ウ)キングジム社分
aキングジム社賠償金分
(a)第1発明
第1発明は計4回の異議申立て等を受けているが,一審原告X1
の社内申請書には,後に第1発明の特許請求範囲となるすべての要
素が記載されていたにもかかわらず,特許担当者が第1発明の意義
と発明性を理解せず,カッターや樹脂フィルムについて当初出願で
特許請求範囲とすることを忘れて出願したため,数度の補正でこれ
らの構成要素を請求項で正しく規定する作業が必要になったのであ
る。したがって,一審被告には権利化に対して特段の貢献は認めら
れない。
また,一審被告は第1発明の実用化についてEや他の設計者の努
力等をことさら強調しているが,キングジム社やカシオ社はそのよ
うな努力と関係なく一審被告と同じインレタテープを製造・販売し
ており,こうした設計努力は考慮する余地がない。一審被告の貢献
として考えられるのは,キングジム訴訟において佐尾重久代理人が
侵害警告を突きつけた際のやり取りくらいであり,多くとも3%を
上回ることはない。
(b)第3発明
前記のとおり,第3発明の完成までには一審被告の貢献はない。
,,そうすると一審被告の貢献として考慮すべきは出願・権利化と
キングジム訴訟での訴訟遂行行為であるが,第3発明は権利化につ
いては計4回の異議申立て等を受けて,またキングジム訴訟では第
3発明が最も多くキングジム社との熾烈な攻防の対象となっている
,,事実があるからこの限度において一審被告の貢献が認められるが
以上を考慮しても,その貢献度が30%を超えるものではない。
(c)一審原告X2の発明であるオートサイズ発明
オートサイズ発明(特許第2556224号)も,第3発明と同
様に本体制御ソフトに関する発明であり,発明完成までには一審被
告の貢献はない。
ただし,このオートサイズ発明を出願したこと及び計4回の異議
申立て等を経て権利化していることと,キングジム訴訟において計
2回の攻防がされていることから,権利化と訴訟遂行に関する分に
ついては,一審被告の貢献が認められる。
しかしこれらを考慮しても一審被告の貢献度は30%を上回るも
のではない。
(d)第4考案とキングジム警告権利7,8
キングジム警告権利7(特許第2814692号)とキングジム
警告権利8(特許第2830860号)は実質的に一審原告X2が
第4考案をベースとして発明したものである。
これら2件の権利はそれぞれ計2回の異議申立て等を経ており,
,,またキングジム社に対して侵害警告を行うという負担はあったが
これらのことを総合しても,一審被告の貢献度は30%を上回るこ
とはない。
bキングジム社のロイヤリティ分
賠償金分とロイヤリティ分の貢献度に関する違いは,賠償金分は個
別の権利の内容,実施,有効性を立証するための攻防がキングジム社
と展開されているのに対し,ロイヤリティ分は個別のやりとりがない
点にある。
したがって,上記aで示した最大限評価した場合の一審被告の貢献
度に対して,キングジム社のロイヤリティ分における一審被告の貢献
度は,以下のように解すべきである。
・第1発明多くとも1%
・第3発明多くとも10%
・オートサイズ発明多くとも15%
・切断装置発明多くとも15%
cカシオ社賠償金及びロイヤリティ分
(a)第1発明
カシオ社との交渉は,一審被告が示した特許権利の7~8倍もの
数のプリンター等に関する権利をカシオ社が対抗して示した中でな
された契約である。
,,したがって一審被告の交渉上の特段の貢献は認められないから
カシオ社分における第1発明に係る一審被告の貢献度は,多くとも
2%を上回ることはない。
(b)オートサイズ発明
前記のとおり,●●の完成までに一審被告の貢献はなく,このオ
ートサイズ発明を出願したこと及び計4回の異議申立て等を経て権
利化している点で,一審被告の貢献度は,多くとも15%である。
(7)共同発明者間の寄与度について
一審原告らは,発明の初期段階から関わり,一審原告X1の第1発明を原
点として,一審原告X2が加わりラミネート式ラベルライターへと昇華させ
てきたものであり,ラミネート発明の核心となっている機構についても,一
審原告X1と一審原告X2を含む5名による技術的ブレーンストーミングを
行った結果生まれたものである。
すなわち,ラミネート発明が完成するまでには,少なくとも以下に挙げる
16のポイントがあり,一審原告X1と一審原告X2はそれらすべてに主体
的に関わっている。
①一審原告X1の学生時代におけるインレタ経験と問題意識の発芽:昭
和54年
②入社初年度に自主的に行った書字機会において好まれる文字イメージ
の研究:昭和58年~昭和59年
③ワープロでのインレタシート印字の着想:昭和61年4月ころ
④学生時代の化学知識に基づくインレタシートの調査と実験とEへの協
力依頼:昭和61年5月ころ
⑤ポータブルサイズのインレタ作製機の着想:同上
⑥貼付けラベルも含む第1発明の具体化:同上
⑦第1発明の社内申請:昭和61年7月
⑧一審原告X2が参画してインレタ作製機の用途開発と調査:昭和61
年10月ころ
⑨必要とされる文字サイズや印字品位などの印字機構の検討:同上
⑩プライベートユースを想定した簡易な「ダイヤル入力方法」の着想と
具体化:昭和61年11月ころ
⑪P-touch基本仕様案の検討:昭和62年1月
⑫貼付けラベルへの方向転換:昭和62年1月ころ
⑬インレタと貼付けラベルを両立し,かつ,他社特許を回避することの
できる印字機構の試行錯誤:昭和62年2月~3月ころ
⑭集中思考によるラミネート式印字の着想と具体化:昭和62年5月
⑮ラミネートラベルのカセット化の着想と具体化:同上
⑯第2発明,第3発明,第5発明,第3考案を社内申請:昭和62年7
月10日
,,,そして一審原告らはその後製品化のために更に製品の具体化に関わり
社内を説得し,調査をし,コスト実現の知恵を絞るなど,あらゆる面で尽力
している。
したがって,一審原告らの貢献は比類なく高いのであって,その共同発明
者貢献度がそれぞれ6分の1を下回るものではあり得ない。
(8)相当対価の支払時期について
,(,〔〕)本件各発明に対する対価の支払時期は原判決第36262頁以下
認定のとおりである。
(9)消滅時効について
ア一審被告は,最高裁判所平成18年10月17日第三小法廷判決(民集
60巻8号2853頁)を引用して商法522条の商事消滅時効が適用さ
れる論拠とするが,同判決は,外国の特許を受ける権利の対価請求権につ
いて,どこの国の法律が適用されるかという国際私法の問題を論じている
ものである。すなわち,同判決は抵触法の解釈という観点から,渉外的法
律関係の準拠法決定の場面における法律関係の性質決定(法性決定)とし
,,て外国の特許を受ける権利の対価請求権について論じているのであって
当事者の権利義務の実質を直接に規律する実質法的な観点から対価請求権
の性質について一般論の判示をしているわけではない。したがって,上記
最高裁判決は商事消滅時効を適用する論拠とはならないのであって,一審
被告の上記主張は失当である。
,,,イこの点多数の裁判例は職務発明対価請求債権の消滅時効期間として
一貫して10年を採用している(NTTアドバンス事件に関する東京地裁
平成18年5月29日判決・平成16年(ワ)第23041号,味の素ア
スパルテーム事件に関する東京地裁平成14年(ワ)第20521号,日
立事件に関する東京地裁平成14年11月29日判決・平成10年(ワ)
第16832号,その控訴審である東京高裁平成16年1月29日判決・
平成14年(ネ)第6451号,日亜化学青色発光ダイオード事件に関す
(),る東京地裁平成16年1月30日判決・平成13年ワ第17772号
オリンパス光学事件に関する東京地裁平成11年4月16日判決・平成7
年(ワ)第3841号,その控訴審である東京高裁平成13年5月22日
判決・平成11年(ネ)第3208号,合成繊維(釣糸)に関する大阪地
裁平成5年3月4日判決・平成3年(ワ)第292号,その控訴審である
大阪高裁平成6年5月27日判決・平成5年(ネ)第723号。)
学説においても,これを10年とするのが多数説である(高林龍[判解]
平成7年度重判解〔ジュリスト1091号〕232頁,青柳れい子「職務
発明(2)-対価請求権〔裁判実務大系9〕294頁等。」)
ウしかも,相当対価請求権の消滅時効については,平成16年の特許法改
正の際,短期消滅時効の規定の導入が検討されたという経過がある。これ
は,現行法によれば一般の10年の消滅時効が適用されるということを大
前提とするものである。そして,結論としては「特許法35条に対価請,
求について短期消滅時効の規定を設けるべきではない」として,立法化も
されなかったのであり,5年の短期消滅時効については立法論としても支
持されていない。
第4当裁判所の判断
一審原告らの本訴請求は,平成16年法律第79号による改正前の特許法3
5条(旧35条。なお,実用新案法11条3項は特許法35条の規定を準用す
る)3,4項に基づく職務発明報酬金各2億円及びこれに対する前記各起算。
日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである
ところ,当裁判所は,同請求は主文第2項(1)(2)の限度で理由があり,その余
は理由がないと判断する。その理由は,以下に付加・訂正するほか,原判決記
載のとおりであるからこれを引用する。
1本件における基礎的事実関係
(,,,,,,証拠甲25~27496175102の1・2103の1・2
,,,,,,,,107109110131139~143170171179
,,,,,,,,,,180196297308の1~3乙124101428
31の1の1~3の2,35,40の1~4,55,63,64の1~11,
65~69,74,75,85,96,106,110~119,146~1
48,158,171~173,198~200,215,255,258,
259,265,294~301,306~308,当審証人B,当審本人X
1,同X2)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。
(1)本件各特許等の出願に至る経緯
ア一審原告X1は,昭和58年4月に一審被告に入社し,同年11月から
平成元年ころまでの間は一審被告のライフリサーチセンター〔LRセンタ
ー(当時は市場調査部門。昭和60年8月からは開発部の,昭和62年〕
2月からは中央研究所の部門・商品事業企画部等において,市場調査及)
びそれに基づく開発商品コンセプトの提言勧告等の業務に従事していた。
一審原告X2は,昭和61年4月に一審被告に入社し,同年5月から昭
和63年9月まではワープロ・プリンター等の情報機器及び付属品に関す
る総合調整・事業計画の立案・商品開発に関する企画立案を業務とする部
門である情報機器第3事業部又は同第1事業部企画管理グループに所属し
ていた。その後,昭和63年10月から平成2年5月ころまでは同第1事
業部又は情報機器事業部の営業部に所属していた。
イ第1発明
(ア)一審被告は,昭和59年4月に他社に先駆けて10万円を下回る小
型日本語ワープロ「ピコワードNP-100」を発売し,同市場におい
て一時優位に立ったが,その後,他社が相次いで競合商品を開発・製品
化するに至ったことから,一審被告は同市場におけるシェアを失ってい
った。そこで一審被告は,昭和60年12月ころ開発部ライフリサーチ
センター(LRセンター)においてピコワード購入者に対し日本語ワー
,,,プロの使用実態に関する調査を行いこれを踏まえてLRセンターは
昭和61年2月から5月にかけて,日本語ワープロの企画担当部門であ
る情報機器第3事業部企画管理グループのメンバー(NPプロジェクト
チーム)及び開発部のデザイングループを交えて,ターゲットとなる7
種の顧客層ごとに商品コンセプトをまとめた。この際まとめられたコン
セプトは,ベーシックワープロ(文書処理の基本性能に関わる機能を重
視して充実させた本格的ワープロ,ハイブリッドワープロ(コピー機)
能,FAX機能,パソコン機能なども装備可能な多機能ワープロ,日)
英ワープロ(英和辞書機能搭載の日英兼用ワープロ,コンポワープロ)
(本体とプリンタ,外部記憶装置がそれぞれ独立したコンポーネントタ
イプのワープロ,日本語タイプライター(入力と印字を交互に行う簡)
単操作の清書機)などというものであった。
(イ)上記調査を担当した一審原告X1は,上記ピコワード購入者への調
査結果の中に,極めて短い文章しか作らない層を見出し,これにインス
タントレタリングを使用してカセットテープのインデックスカード等を
作成した自らの経験を重ね合わせて,手作業で行っていたインレタをワ
ープロで作製することができれば簡単かつきれいにインデックスカード
等を完成することができると思い至った。そこで一審原告X1は,新規
事業に係る商品アイデアの一つとして「透明のテープに文字を打ち出,
し,それを指でこすれば紙でもプラスチックでもどこにでも転写できる
インスタントレタリング作成専用の超小型ワープロ」として,インレタ
作製機のアイデアを提案し,同アイデアもまた「ワードプロッター」,
としてコンセプトの一つにまとめ上げられた。昭和61年7月にワープ
ロ購入者及びワープロ購入希望者に対して上記各コンセプトの受容性を
調査するためのグループインタビューが行われたが,その際,コンセプ
トが受容されたのはベーシックワープロ,ワードプロッター,日本語タ
イプライターだけであり,それ以外のコンセプトは不採用ないし変更と
された。
(ウ)一審原告X1の提案した上記コンセプトは,LRセンター等の議論
,,において必ずしも高く評価されたわけではなかったが一審原告X1は
自分の発案に係るインレタ作製機に対する強い思い入れがあり,また,
技術的にみても「ワードプロッター」はワープロとしての高度な変換,
機能や編集処理が不要であるし,機能が限定されていることから液晶や
メモリも小さくて済み,一審被告がワープロで培った基本的な技術を利
用することで容易に実現可能と考えたことから,LRセンターにおける
検討と並行して,インレタ作製機の製品化のために必要となる技術につ
いて検討を進めた。その中で,転写用レタリングテープに離型促進剤を
塗布すると熱転写印字がしにくくなるという課題に逢着したが,その化
学的要素についても開発部基礎開発グループ所属の技術者であったEに
協力を依頼するなどして,解決の道筋を付けることができた。
なお,開発部基礎開発グループ所属のEとLは,昭和61年7月17
日,7月24日及び30日に,それぞれ「乾式転写材の製造法」(乙3
1の3の2)「乾式転写材の基本シート」(乙31の1の2)「インク,,
リボン」(乙31の2の2)に関する発明を社内に届け出た。これらのイ
ンクの化学的性状等に関する技術は,その後,一審被告が昭和62年1
0月に発売した日本語ワープロとラベルライターに採用された。
,,,(エ)一審原告X1はこれらの検討を踏まえて昭和61年7月30日
「インスタントレタリング作製機」として,第1発明を記載した「発明
社内登録用紙(譲渡証)」(乙4の1)を提出した。なお,その添付資料で
ある発明記述用紙(乙10)には,反転印字された文字を転写する用途
のほか「…そのテープ自体に接着力があれば,それをそのまま対象物,
に貼ってやることも可能で,それが保護膜としての機能を持つようにな
る(乙10,発明記述用紙E下3行~下1行)として,テープ自体を。」
貼り付ける用途についての記載もあった。
ウ「NB-1チーム」発足
(ア)一審原告X1は,前記「発明社内登録用紙(譲渡証)」(乙4の1)の
提出と前後して,自身がコンセプトを創造したワードプロッターの商品
化をワープロの開発チーム(NPプロジェクトチーム)リーダーであっ
たl課長に具申したが,ワープロの範ちゅうには入らないとして取り合
ってもらえなかった。また,製品化のための社内手続であるアイデア提
案書を開発部k次長(k次長)に提出したが,一審被告がこれを採り上
げることはなかった。一審原告X1は,製品化の実現にはコンセプトの
具体化が必要と考え,昭和61年10月ころから,勤務に余裕があった
一審原告X2や,開発部製品開発グループの技術者であったDに協力を
呼びかけ,その具体的な仕様の検討を開始した。その後この具体化の作
業は,一審原告X1,同X2及びDのほか手が空いているメカ担当者や
デザイン担当者をも巻き込む形で進められ,昭和62年1月以降毎週の
,。ようにミーティングを実施し同年2月ころには相当程度具体化された
一審原告X1は,インレタ作製機に「P-touch」との名称を与え
た上で,一審原告X2と共に昭和62年2月25日付けアイデア提案書
(乙55添付資料13,乙297,乙308添付資料5)として一審被
告に提出し,その成果をプレゼンテーション資料として同年2月26日
付け「P-touchプロジェクト基本仕様案(1版(乙55添付資)」
料11,乙199添付資料1)にまとめ上げた。
(イ)上記X1,X2,Dらは,昭和62年2月26日,P-touchプ
ロジェクトに人と予算を付けてもらい試作機の製作・ひいては製品化を
実現するため,k次長ほか出席の下,上記P-touchプロジェクト
基本仕様案に基づきプレゼンテーションを行った。その際,k次長から
はP-touchを製品化するために克服すべき課題を少なからず指摘
されたが,予算措置等がされることはなかった。そこで一審原告らは,
事業部に働きかけることで予算措置やP-touchの製品化を実現し
ようと考え,昭和62年3月以降もプロジェクトを推進しながら,昭和
62年4月1日付けで「P-touch『インスタントレタリング作成
機』企画書(乙9,乙55添付資料14)を作成するとともに,情報」
機器第1事業部長であったU(U事業部長)に直接働き掛けた。その当
時,一審被告ではワープロ事業からの撤退が検討されており,事業部と
しても新商品の開発が急務であったところ,P-touchは基本的に
一審被告が保有する既存のワープロ技術等の転用により製品化が可能で
あるため,リスクや開発コストの点で受け入れ可能なものであった。そ
こでU事業部長はP-touchプロジェクトを正式に開発案件に加え
ることとし,当時情報機器第1事業部開発設計グループ課長であったP
(P課長)に指示して昭和62年4月7日付け製品開発計画表(乙55
添付資料15)を作成させ,管掌役員である専務取締役までの社内決裁
を了した。なお,上記企画書(乙9,乙55添付資料14)における商
品コンセプトの中心は短冊テープに印字するインレタ作製機というもの
,,,であったが次機種案としてテープをカートリッジで供給することや
印字したテープ自体を貼り付けるものについても言及していた。P課長
が行った一審被告内での審議においては,P-touchのコンセプト
について,①粘着性テープに鏡像文字をプリントし,持ち物,表紙等に
貼付する漢字ダイモ,②カセットのインデックス・ファイルの背表紙な
どに感圧で転写できるような文字を透明テープにプリントするインレタ
原稿作成機として,インレタ用途と貼付用途が組み合わされたものとし
て紹介された(乙199添付資料4。)
(ウ)上記製品開発計画表の決裁により,P-touchの研究開発プロ
ジェクトは,事業部内での優先順位は低かった(5番目)ものの,一審
被告の正式プロジェクトとして,昭和62年5月に商品企画会を開始,
昭和63年4月に発売(出荷)することに決定された。その上で一審被
告は,前記「P-touchプロジェクト基本仕様案(1版(乙55)」
添付資料11,乙199添付資料1)や前記企画書(乙9,乙55添付
資料14)等を基礎としつつ,そこに記載された仕様を満足するインレ
タリボンの開発,操作性の追求,低価格での商品化を研究テーマに据え
て技術的な可能性を検討することとし,そのための人選を進めた。その
結果,従前P-touchの研究を行ってきた一審原告ら及びDのほか
に,新たに技術者として当時情報機器第1事業部開発設計グループに所
属していたA,B,Cを投入することとし,昭和62年5月21日,P課
長を責任者として,一審原告ら及びDのほか,技術者リーダーA,電子
担当技術者C,メカ担当技術者Bを構成員とする「NB-1プロジェク
ト」としてP-touchの検討チームが発足した。
(エ)なお,NB-1プロジェクトの発足準備と並行する形で,一審原告
らはLRセンターの企画として昭和62年5月10日ころプロダクト調
査(市場調査)を行った。同調査は「レタリングプリンター」における
印字テープの特徴について「インレタタイプ」と「テープタイプ」の,
2種類を提示するものであったところ,需要者層の反応は「テープタイ
プ」の方がいいというものであった。
エ第2発明等
(ア)NB-1プロジェクトのメンバーは,発足の翌日である昭和62年
5月22日に初回の打合せを行った。一審原告ら及びDは,A,B,Cの
技術者3名に対しP-touchに関する従前の検討結果を説明した。
その説明の中には,前記昭和62年4月1日付け企画書(乙9,乙55
添付資料14)において次機種案として挙げられていた印字したテープ
を貼り付けて使用する用途やテープのカセット化に関する事項も含まれ
ていた。Aら3名はインレタという用途自体の展望については懐疑的で
あり,むしろ,印字したテープごと貼り付ける用途の方が有望ではない
かとの感触を抱いたが,P-touchがインレタをベースとして検討
されてきたという経緯に加え,需要者のニーズを絞り込むための材料に
,,不足していたことから設計者のアイデアを抽出し仕様をまとめるため
社内100人くらいにアンケートを行うことにした。また,基本的にP
-touchプロジェクトで行われた検討結果を踏まえ,コスト目標は
9800円,キーテクノロジーはテープ,リボンであること,リボンに
よる印字は「こすってもとれない」ものであることが必要で,その点を
,,開発の化学担当者と詰める必要性があることなどが確認されその上で
上記アンケートとテープ・リボンの検討をまとめて昭和62年6月末に
中間報告を行うことなどが決められた。
(イ)NB-1プロジェクトは,一審原告ら及びDが作り上げたインレタ
作製機のコンセプトを前提に,その技術的な可能性を検討することが目
的であったことから,A,B,Cの技術者3名は,一審原告ら及びDが不
在のときにも3名のみで技術的研究を進めた。その後,昭和62年5月
28日に行われた2回目の会議では,一審原告ら及びDが作り上げたP
-touchのコンセプトを維持しながらも,その中に貼付けの用途に
も転用可能な機構を取り込むことの技術的可能性について検討が加えら
れた。その際,糊が塗布されたテープに直接印字することなど,一審原
告ら及びDにおいて既に検討した事項も再度検討されたが,Aら3名の
技術者の受け入れるところではなく,最終的に,Cが提案した印字テー
プにサーマル印字ヘッドとインクリボンで印字した後,両面粘着テープ
を貼り付けるというラミネートテープの構成(ラミネート方式)が最善
ということで意見が一致し,インレタと貼付テープの共存という方向性
が定まった。
(ウ)その後,技術的な仕様の詳細についてはA,B,Cの3名が中心とな
って検討を加えたほか,販売会社に対する説明会,社内アンケートの実
施及び分析,デザイン・仕様の詰め,特許化に向けた準備等を経て,昭
和62年7月10日,第2発明~第5発明,第2考案,第3考案を含む
12件の発明につき「発明社内登録用紙(譲渡証)」(乙4の2~5・7,
・8,14,64の1~11)が一審被告に提出された。本件各発明に
係る分については,B,C及びDがその内容を,Aが図面を記載して作成
した。上記の登録用紙には,本件各発明の明細書中の図面とほぼ同一の
図面が記載されており,第2発明(乙64の3)及び第5発明(乙14)の
図面には「インクリボンカセット+オープンリール方式」のものが,,
第3考案(乙64の2)の第3図には,ラミネート方式を前提とした3種
類のテープを一つにまとめ,スプールを着脱自在としたテープカセット
が記載された。これらの発明者は,Aの提案により,A,B,C,一審原告
ら及びDの6名とされた。
(エ)なお,一審原告らの上記発明と前後して,ラベル作成機としてクロ
イ社のレタリングマシーンKroy80・190・290・XL乙「」(
106マックス社社のレタリングプロセッサLetarica乙),「」(
),,111が市場に現れたがこれらはいずれもラミネート方式ではなく
テープ表面に直接印字する方式であった。
オ出願
(ア)国内特許等
,,。一審被告は一審原告らから承継した発明を順次出願し権利化した
本件各特許のうち国内における第1発明~第3発明,第5発明等の出願
,「」。経緯は原判決別紙特許・実用新案目録1~9記載のとおりである
すなわち,第1発明~第3発明,第5発明に対しては,いずれも異議
申立てないし付与前異議申立て(第3発明については無効審判請求も)
がなされ,特にラミネート発明である第2発明及び第5発明については
競合会社であるマックス社やセイコーエプソン社から付与前異議申立て
がなされたが,最終的にはいずれも権利化に至っている。
(イ)海外特許1
一審被告は一審原告らから承継した発明に基づき,欧州特許庁に特許
出願し,海外特許1として権利化した。海外特許1の出願経緯は,原判
決別紙「特許・実用新案目録」10記載のとおりである。
(ウ)海外特許2及び3
一審被告は一審原告らから承継した発明に基づき,米国特許商標庁に
特許出願し,海外特許2及び3として権利化した。海外特許2及び3の
出願経緯は,原判決別紙「特許・実用新案目録」11及び12記載のと
おりである。
また海外特許2及び3の内容は,原判決別紙「海外特許2(USP5
)」「()168814の構成要件及び海外特許3USP5009530
の構成要件」記載のとおりである。
(2)ラベルライター製品化の経緯
アNEW-Bグループの発足
一審被告は,NB-1プロジェクトにおける検討によりP-touch
の技術的な可能性が検証され,発明社内登録にまで至ったことから,これ
を区切りとして,昭和62年7月10日付けでNB-1プロジェクトを正
式に情報機器第1事業部の開発設計グループの組織に組み込むこととしi,
課長代理をトップとする「NEW-Bグループ」を新設し,その中の「P
-タッチ開発グループ」として具体的な製品開発グループを組織した。N
EW-Bグループのメンバーは,A,B,Cのほか,新たにソフト担当とし
てo,メカ担当としてp,庶務担当としてqを加えたが,一審原告ら及びD
は加わらなかった(乙55の添付資料21。)
同グループは,昭和62年7月18日付けで「P-touchプロジェ
クト中間報告(乙55の添付資料22)を作成し,同年5月にLRセン」
ターが実施した社外でのグループインタビューに基づき商品コンセプトを
P-touchプロジェクト当初のものから修正することとし,NB-1
プロジェクトにおいて検討されていたテープカセット方式とする製品仕様
も正式に提案された。
イP-touchの製品化
一審被告は,昭和62年9月以後,NEW-Bグループの改編を行い,
同チームはiを総括,Aをチーフとし,ほかに機構3名,電子3名,ソフ
ト1名及びソフト開発の外部委託(3名)と人員が大幅に増強され(乙6
3添付資料2,昭和62年9月14日には,昭和63年上期短計(短期)
計画)としてインスタントレタリング作成機に係る「商品計画表(乙5」
5の添付資料23)が提出され,インスタントレタリングテープと貼付テ
ープとを作成するインスタントレタリング作成機「P-touch」の商
品計画が正式に採用された。また昭和62年10月6日には一審被告及び
販売会社の専務取締役等,経営陣を含む多人数が出席した商品企画会議が
開催され,その結果,一審被告はP-touchの製品化(試作開始)を
正式に決定した(乙55添付資料24。ただし,市場自体があるのか不)
明である等の懸念があったため,重要課題として,コストダウンによる目
標コストの達成,リボン(貼付テープ)送りの安定化とともに,新規販売
ルートの開発が挙げられた(乙55添付資料25。なお,テープとして)
は,インレタテープと貼付テープのカセットを使用するものとされた。
また,上記商品企画会議に前後して一審被告製品の第1次試作設計が行
われ,昭和62年11月から12月初めには48ピンドットヘッドを搭載
した第1次試作機が組み立てられてその評価が行われ(乙63添付資料
3,また,昭和62年12月から翌昭和63年1月初めには第2次試作)
機が組み立てられてその評価が行われた。
さらに一審被告は,前記商品企画会議での商品化決定を受けて,昭和6
2年11月2日に感圧転写テープ(インスタントレタリングテープ)と貼
付テープとが作成できるテープ作成機である「インスタントレタリング作
成機(P-touch」に関する商品企画書(乙34,乙55添付資料)
26)に基づいて製品化を進めることを決定した。
ウ製品化の課題
製品化へ向けた課題としては,当初からコストダウンによる目標コスト
の達成,リボン(貼付テープ)送りの安定化,新規販売ルートの開発が挙
げられていたが,第1次試作機における評価の結果,更にインスタントレ
タリング用インクリボンの保存性,貼付用インクリボンの印字性能,電池
消耗,テープ蛇行(乙55添付資料27,レタリング印字技術の問題が)
顕在化した(乙55添付資料28。そこで一審被告は,第3次試作設計)
に入る前に,それら問題点への対応と,前記重要課題への対応,特に目標
コストの達成の目処をつけるべく,昭和62年12月から翌昭和63年1
月にかけてその対策を実施し,レタリング印字技術については,h,pを担
,「」,当者として一審被告製品である電子パーソナルプリンターEP-5
日本語ワープロ「ピコワードNP-5100」と技術比較を行って改良点
を見出し(乙55添付資料28,かつ,インクリボンの専門家であるE)
,。に協力を依頼し同人の指導でレタリングリボンの改良を加えるなどした
また,昭和63年1月には,印字品質改善のために,ピコワードの熱転
写印字技術の専門家であるOをNEW-Bグループへ移籍させ,同人の主
。,,導で改良するなどしたその後も昭和63年2月から3月にかけて構造
電気,ソフトなどについて様々な改良を施し,第2次試作までの問題点を
改良して,第3次試作(改良)設計を行った(乙55添付資料34及び3
5。)
このように,P-touchの製品化の過程では,①従前一審被告製ワ
ープロで使用していた熱転写印字技術及び単漢字変換の漢字処理ソフト技
術,②Eらによるレタリングインク及び再転写シートの技術に加え,③開
発中に生じたテープ蛇行などの課題解決のため,テープの走行蛇行の防止
技術(●●),透明テープと両面テープの平行貼合わせ技術(●●),テンシ
ョンの強さかけ方に関する技術(●●)両面テープの送り安定化技術(●,,
●)など,インクリボン送り・カセット化技術などを実現しながら行われ
た。
,,()以上の製品開発に要した費用は一審被告の試算によれば●●省略
に上る(乙74別紙2)。
エ販路の開拓
統括責任者であるiは,前記のような製品化に向けた技術的作業と並行
して,第1次試作品が完成した昭和62年10月ころから販売予測台数と
採算性の検討に入った。当時一審被告は,日本国内は系列の販売会社,海
外は米国販売子会社及び欧州販売子会社経由の販売ルートを有していた
が,一審被告事務機製品(タイプライター,ワープロ等)の国内販売は大
手の事務機販売会社数社に商品を扱ってもらうルートが主で,独自の直接
販売ルートは販売力を有していなかった。また,米国販売は量販店・通信
販売店への卸しが主で,欧州販売は小規模の事務機器店と直接の取引をし
,「」ていたため価格が安く利益額が小さい電子文具であるP-touch
は,既存のいずれの販売ルートともマッチしないのではないか,ユーザー
にこのような商品を認知してもらう手立てが不明であるなどという懸念事
項があった。
このような状況下において新規販売ルートを模索していたlは,昭和6
2年12月16日,一審被告及びキングジム社の双方と取引関係のある株
式会社平野デザイン設計の仲介により,キングジム社商品企画部のaと面
談する機会を得た。lがこの席で開発中であるP-touchのコンセプ
トの概略を説明したところ,キングジム社は興味を示し,昭和62年12
月24日には,キングジム社からP-touchに類似する仕様の「電子
テープライター概要(乙55添付資料30)を含む,同社の企画商品3」
点の概要を開示する資料が送られて来るとともに,各商品のコスト見積も
りの要請があった。lは昭和63年2月8日付けでキングジム社宛てに見
積もり報告を提出するとともに,同年2月9日にキングジム社を訪問し,
P-touchの2次試作機のデモンストレーションを行った。その際,
キングジム社からP-touchのOEM供給(OriginalEquipment
Manufacturing,相手先ブランドによる供給)の要望が出され(乙55添
付資料32,販売方法としてOEM供給という選択肢が検討されること)
となった。
iは,OEMによるキングジム社製品と一審被告製品が市場に出された
場合,両社の差別化を図ることによる開発力の分散を懸念したこと,キン
グジム社も自社のみによる専売を希望していたこと,一審被告による販売
,,数量は3万台程度であり独自の販売では採算ラインに乗らないのに対し
キングジム社は10万台を提示していること,キングジム社が文具に関す
る商品分野について非常に強力な宣伝力を有していることなどを考慮した
結果,国内販売はキングジム社へのOEM供給のみとし,一審被告ブラン
ドの販売は輸出モデルに集約する旨のP-touch事業化案を一審被告
社内で提示し(乙55添付資料37,その後のキングジム社からの強い)
働き掛けも相俟って,iの上記事業化案をベースとする昭和63年下期短
計(短期計画)における商品計画表(乙55添付資料42)が作成され,
その計画が一審被告の管掌役員により了承されることとなった。
そこで一審被告の開発設計メンバーは,キングジム社へOEM販売をす
ることが決定されたことを機に,キングジム社との打合せを頻繁に行い,
()。キングジム社仕様に対応するよう再設計作業第4次試作設計に入った
キングジム社は外観デザインとテープカセットの装着位置の変更を要求
し,そのため従前の設計を大幅に変更することが必要となったが,昭和6
3年3月23日に新デザインを確立し,同年4月15日に試作部品の手配
を完了し,同年5月7日付けでキングジム社へのOEM供給に関する基本
品質仕様書(案)を作成し,同年5月26日付けでU事業部長の決裁を得
た(乙55添付資料46。)
その後,一審被告とキングジム社との間で,昭和63年5月19日付け
でOEM供給に係る売買契約が締結された(甲139,乙55添付資料4
5。その内容は,一審被告はキングジム社に対し昭和63年10月21)
日までにP-touchのOEM仕様である「電子テープライター」の最
初の納入を行うこと,キングジム社は平成元年10月31日までに「電子
テープライター」を10万台購入すること,ブラザー販売を通じたキング
ジム社への納入価格は1台当たり●●円とすること,一審被告及びブラザ
ー販売は上記期間中,国内において同一仕様製品及び意匠類似製品の第三
者への販売をしないこと,ただし非日本語仕様の製品については別商標で
海外向けとして第三者への販売をすることができること等であった。
オ量産化
一審被告は昭和63年6月8日にP-touch第4次試作品の検討会
,(),を行い国内仕様機はキングジム社へのOEM供給商品商標TEPRA
輸出仕様機は一審被告のブランド(商品商標P-touch)での販売予
定が報告されるとともに,試作品のテスト結果,問題点とその対策,生産
日程等が確認され(乙55添付資料47,同年6月9日の販売企画会議)
,。,を経てラベルライターの商品化が会社として正式に決定されたその後
第4次試作品の問題点を検討するなどして生産を前提とした量産試作に入
り,その後もテープカセットの品質の安定等の問題はあったものの量産化
に至り,昭和63年11月1日にはキングジム社から「テプラTR55」
との商品名で,P-touchのコンセプトを基礎とする初のラベルライ
ターの国内販売が開始された(価格1万6800円。)
テプラTR55は,キングジム社の強力な販売ルートや,積極的な広告
宣伝もあって順調に売上げを伸ばし,その後のラベルライター事業発展に
つながった。
(3)日本国内におけるラベルライターの販売状況
アキングジム社の独占販売(平成3年ころまで)
キングジム社が昭和63年11月1日に発売したテプラTR55はこ,「
すっても安心,ラミネート式」を売り文句とするラミネート式のテープを
,()。使用しこのテープはカートリッジ式TC型で交換可能となっていた
テプラTR55は,キングジム社が文具・事務機器の強力な販売ルートを
持っていたこと等に加え,当初は有力な競合品がなかったこともあり,本
体・テープカセットとも順調に売上げを伸ばした。本件被告製品(原判決
別紙「本件被告製品一覧表1(ラベルライター本体」及び別紙「本件被)
告製品一覧表2(テープカセット」記載の各製品)の国内売上高(原判)
決別紙「相当対価算定表(自己実施分」の表1-1「本件被告製品の売)
上高」参照)は,昭和63年度(昭和62年11月21日~昭和63年1
1月20日)は本体●●円・テープカセット●●円,平成元年度は本体●
●円・テープカセット●●円であった。
そして平成2年1月には,印字後のテープ自動送りを加えることにより
操作性を向上した改良品(テプラTR55R,価格1万6800円)が発
売され,その後も後継機種として,上位機種であるテプラTR77(平成
3年5月発売,価格3万4800円,従来のダイヤル入力方式に替えて)
キーボード入力タイプを採用したテプラTR55KB(平成4年6月発売
時の商品名はテプラTR66,価格2万2800円,被印字テープの幅)
を12ミリから24ミリに拡げたテプラUR55などの開発が進められ
た。平成2年度の本件被告製品の本体売上げは●●円,カセットテープ売
上げは●●円,平成3年度の本体売上げは●●円,テープカセット売上げ
は●●円であった。
イ他社の参入(平成4年ころまで)
上記のとおり,キングジム社は順調に売上げを伸ばしていたが,平成2
年には早くも他社の電子テープ作成機市場への参入に関する情報が入り,
平成3年1月には,マックス社が同年5月ころ製品を発表する見込みであ
ることが判明した。一審被告とキングジム社は平成2年から3年にかけて
対応を協議し,宣伝広告の実施や新機種開発について打合せを行ったが,
平成2年11月には一審被告からキングジム社に対しUR55を一審被告
ブランドで販売する可能性が示唆され(乙69添付資料3,平成3年1)
月にはUR55は共同開発ではなく一審被告のみのOEM供給とすること
が協議された(同添付資料4。)
これに対しマックス社は,平成3年7月1日,セイコーエプソン社から
のOEM供給により「マックス社・テープワープロLM-200(価格」
3万9800円)の販売を開始した。同製品は20ミリ幅テープに印字可
能な見出しラベル作成専用のキーボード入力タイプのワープロで,本件被
告製品に類似したラミネート方式テープを使用したモデルであり,カタロ
グ中では「ラミネートタイプで丈夫,長持ち」という売り文句が使用さ。
れていた(乙69添付資料5・乙112のカタログ参照。一審被告は平)
成3年9月19日,特許庁に対しマックス社の上記製品の販売を理由に第
2発明及び第5発明の出願に係る優先審査を求め(甲49,61,両発)
明は平成4年7月17日に出願公告がなされた。マックス社は平成4年1
0月に第2発明及び第5発明につき付与前異議申立てをしたが,最終的に
第2発明及び第5発明は権利化された。マックス社の上記製品はキングジ
ム社の売上げに大きな影響を及ぼすことはなく,その後マックス社は同製
品の販売を停止した。
また,平成3年11月15日には,カシオ社が「ネームランドKL-1
000(価格2万6800円)の販売を開始した。同製品は本件被告製」
品とは異なりテープ表面から印字する非ラミネート方式のラベルライター
であったが,カシオ社が独自の販売ルートを有していたこともあり,順調
に売上げを伸ばしていった。
キングジム社は,文具店を通じた販売ルートにおける販売ではカシオ社
に圧勝していたが,カメラ・量販店ルートではむしろカシオ社の後手に回
っていた。そのためキングジム社は平成4年6月にはキングジム社とカシ
オ社の国内シェアが5対5になるおそれがあるとして危機感を強め,同4
年5月に行われた一審被告との交渉においてテープカセットの値下げ等の
対策を強く求めた。さらに,キングジム社は一審被告に対しセイコーエプ
ソン社が開発・製造した非ラミネート方式ラベルライターを販売する予定
であること,その最大の理由は,テープカセットの売上げによる利益が重
要であるところ,同社製のテープカセットが非常に安いことにあると説明
した。
その後キングジム社は平成4年12月にセイコーエプソン社製の非ラミ
ネート方式ラベルライター「テプラプロSR-606(価格2万680」
0円)の販売を開始した。同製品は従来のテプラTRシリーズとは互換性
のないPROテープカートリッジを用い「ラベルのレセプター表面で受,
像層と特殊なインクが一体化するため,文字の落ちにくいタフなラベルが
作れる」ことや,ランニングコストが安く済むことなどを売り文句として
いたが,他方でテプラTRシリーズ(TR33,55F,66,77)も
「信頼のラミネートラベル「TRシリーズのラベルは,透明フィルムで」
表面を保護する全自動ラミネート式。こすっても水に濡れてもにじみませ
ん」として差別化がなされ,両者は同じテプラのラインナップとして販。
売された(乙69添付資料13。)
これらの事情により,平成4年度(平成3年11月21日~平成4年1
1月20日)の本件被告製品の売上げは本体●●円・テープカセット●●
円と好調であったにもかかわらず,平成5年度(平成4年11月21日~
平成5年11月20日)の本体の売上げは,前年度の約3分の1である●
●円にまで落ち込んだ。もっとも,テープカセットについては売上げを維
持し,平成5年度は●●円,平成6年度は●●円であった。
ウ他の販売ルートの開拓(平成7年ころまで)
「」カシオ社は平成4年10月に上位機種のネームランドKL-1200
(価格3万4800円)を投入し,その後も平成7年ころまで毎年新モデ
ルを3機種以上投入するなど販売に力を入れた。キングジム社はこれへの
対抗上新モデルを投入したが,それらは主としてセイコーエプソン社から
供給された製品であり,平成5年以降に一審被告からキングジム社へ供給
されたのは平成6年4月ころに発売された低価格製品である「テプラTR
22」のみであった。
一審被告は将来におけるテプラシリーズの消滅を危惧し,キングジム社
に対し同シリーズの新規モデルを積極的に開発し,販売に協力するよう働
き掛けたが,キングジム社はこれを聞き入れず,かえって,キングジム社
の常務取締役rは一審被告の常務取締役sに対し,平成6年6月10日付
けでテープライターに関して一審被告が保有する特許権等の包括的な実施
許諾を申し入れた(乙75添付資料1。これに対し一審被告は,上記実)
施許諾をした場合,キングジム社と一審被告間の取引がより減少する可能
性が大きくなると考え,同月15日付けで否定的な内容の返答をした(同
添付資料2。)
もっとも,以後キングジム社との製品取引は年々減少し,平成10年に
はセイコーエプソン社製のテプラプロに対し一審被告の製品はその●%に
まで減少し,キングジム社向けの転写テープは,平成15年3月までに生
産を終了した(乙85。)
このような経緯もあり,一審被告は販売台数の減少に対応するため新規
OEM供給先の開拓に迫られ,平成5年までに三菱鉛筆株式会社に対して
販売することに成功し,平成5年1月ころから三菱鉛筆株式会社のラベル
ワープロ「ラベロ(テープカセットはTX型)が販売されたが,出荷台」
数は思わしいものではなかった。そこで一審被告はさらにキングジム社以
外の文具関係企業,日用雑貨関係企業,玩具関係企業等にアプローチする
こととし,その結果,マックス社及びタカラ社へのOEM供給(テープカ
セットは新開発のTZ型)を実現し,平成6年8月ころからマックス社の
テープワープロLM-2000「LETARI」が,平成6年10月ころ
からタカラ社の「ルシール」シリーズが販売された。
以上の結果,本件被告製品の本体売上高は,平成6年度(平成5年11
月21日~平成6年11月20日)は●●円,平成7年度は●●円と回復
,,。してきたが平成34年度ころの売上高を回復することはできなかった
他方,テープカセットについては,平成6年度が●●円,平成7年度が●
●円と安定した売上げを得ていた。
エ自社ブランド製品の国内投入(平成7年以降)
テプラTR55が市場に登場した当初は,ファイルの背表紙,見出しな
どオフィス向けの需要が中心であったが,オーディオやビデオテープなど
のタイトル,持ち物の名前付けにも使えることから,ユーザー層がオフィ
スから家庭や個人に広がりをみせ,また,パソコンと接続できる機種や似
顔絵プリント,アイロン転写が可能なものといった多機能化が進み,幅広
い需要を獲得した。
一審被告は,平成7年10月ころから,パソコン接続モデルであるPC
ラベルプリンタ「P-TOUCHPC(価格3万9800円)の投入」
を皮切りに自社ブランド製品による国内販売に参入したなお上記P,。,「
-TOUCHPC」はラミネート方式を採用しており(テープカセット
はTX型,一審被告はそのカタログ(乙69添付資料15)に「ブラザ)
ーは「P-TOUCH」ブランドでのラベルプリンタ事業を,欧米をはじ
め世界各国で展開しており,ラミネートプリント方式など独自の技術に裏
付けられた高い信頼性で,圧倒的なシェアを誇っております。1994年
末には,累積出荷台数300万台を達成しました「ラミネートテープ…。」
汎用性の高いテープは透明フィルムで表面を保護。こすっても水に濡れて
もにじむことはありません」と記載し,国内市場への参入に当たりラミ。
ネート方式の有効性を積極的なセールスポイントとしてアピールしたP。「
-TOUCHPC」はラベルプリンタ事業における初の一審被告ブラン
ドの導入を目指したもので,出荷台数もわずかなものであったが,平成1
0年以降はパソコン接続モデルのラインナップを拡充したほか(PT-9
,,,,),200PC2500PC9300PC1500PC9500PC
平成11年以降はP-touchブランドのラベルライターを投入し(テ
ープカセットはいずれもTZ型,本格的な国内市場での浸透を図った。)
そして,一審被告が自社ブランドでラベルライター市場に参入したころ
には,キングジム社,カシオ社とも逐次新機種を投入するとともにライン
ナップを拡張し,平成11年当時には企業,家庭用ともほぼ製品が行き渡
,。った傾向がみられ国内ラベルライター市場は飽和状態気味となっていた
市場規模は平成9年は前年比横ばいで推移したものの,平成10年は数量
で前年比●%,金額で前年比●%と二桁減となり,実売価格の下落傾向も
顕著になった。P-touchブランドも国内的には後発であったことな
どから販売が順調ではなく,生産量ベースで見ると,平成10年当時の国
内テープライタの生産数量シェア(見込み値)でこそ一審被告が●%と圧
倒的なシェアを有していたが(なお,カシオ社は●%,セイコーエプソン
社は●%,マックス社は●%,ブランド別国内出荷台数ではカシオ社が)
●%以上のシェアを有するトップブランドであり,次いでキングジム社と
の序列であって,一審被告は飽くまでOEM供給を中心に展開する企業と
位置付けられていた(甲107。)
その後,一審被告ブランドの国内シェアは平成12年の約●%から平成
13年の約●%,平成14年の約●%と漸増し,平成15年度の本体台数
ベースの国内シェアは,キングジム社のテプラプロが約●%,カシオ社約
●%,非ラミネート方式であるM型を含む一審被告の製品は約●%である
(甲109。)
なお,株式会社矢野経済研究所の調査(乙35)によると,平成13年
度において,ラベルライターとPCラベルプリンターからなる電子文具市
場の売上げシェアは,キングジム社(●●)60.8%,カシオ社30.7
%,一審被告4.3%(●●)である。
以上のようなキングジム社との関係や市場の動向等を反映し,本件被告
製品の本体売上高は次第に低減し,平成8年度(平成7年11月21日~
平成8年11月20日が●●円会計年度の区分の変更による移行期平),(
成8年11月21日~平成9年3月31日)を経た平成9年度(平成9年
4月1日~平成10年3月31日)が●●円,平成10年度が●●円,平
,,成11年度が●●円となったがその後は低減傾向にやや歯止めがかかり
平成12年度が●●円,平成13年度が●●円,平成14年度が●●円,
平成15年度が●●円という水準を維持している。
また,本件被告製品のテープカセット売上高についても,平成8年度が
●●円,移行期を挟んで平成9年度が●●円,平成10年度は●●円と低
減し,平成11年度は●●円にまでなったが,その後は低減傾向にやや歯
止めがかかり,平成12年度が●●円,平成13年度が●●円,平成14
年度が●●円,平成15年度が●●円と,ほぼ一定水準を維持している。
オ本件被告製品の売上高
以上のとおり,国内における一審被告のラベルライター事業は,キング
ジム社によるテプラTR55の発売以降,継続して一審被告に一定の売上
げをもたらしており,平成元年から一審被告の代表者をしていたmは同会
長であった平成5年当時発刊した著書「ブラザーの再生と進化価値創造
へのあくなき挑戦(甲110)の中で「最初から利益を出した《孝行息」,
子」と題して「新規事業がことごとく苦戦する中で,当初から割合好調》,
な滑り出しだったのが,1988年に発売を開始したP-touchであ
。,るP-touchはテープに熱転写方式で印字をするラベルプリンタで
当時としては非常に独創的な商品だった。開発当初から,取扱説明書を読
まなくても使えるイージーユース機を目標としていたので,だれにでも使
。。」(),えるという強みもあったそれが市場に評価されたのである25頁
「現在,P-touchは国内でもブラザーのオリジナル・ブランドとし
て売られていて,年間300億円近い売上がある。発売以来の累積売上総
額は2000億円を超え,累積営業利益総額も500億円を超えていて,
ブラザーの利益体質の重要な一翼を担う事業となっている。そういう意味
でP-touchは,最初から利益を出してくれた《孝行息子》なのであ
る(27頁)とP-touchを高く評価している。。」
一審被告による本件被告製品の売上高は,当事者間に争いがないものだ
けでも,原判決別紙「相当対価算定表(自己実施分」の表1-1「本件)
被告製品の売上高」のとおり,昭和63年度から平成15年度(移行期を
含む)までで,本体合計●●円,テープカセット合計●●円,総合計●●
円に上る。
カキングジム社との係争及び実施許諾
前記のとおり,平成4年12月にキングジム社がセイコーエプソン社製
の非ラミネート方式ラベルライター「テプラプロSR-606」を販売し
た後,一審被告とキングジム社との製品取引は減少傾向が続いており,平
成10年にはキングジム社の取り扱うラベルライター商品に占める一審被
告製品の割合がセイコーエプソン社製に比して著しく少なくなった。そこ
で,一審被告は,キングジム社が販売するテプラプロは非ラミネートテー
プに関する構成以外の部分に既存のテプラの構成がそのまま流用されてい
たことから,結果として一審被告がラベルライターについて保有する特許
等が多数使用されていることに着目し,これを理由にキングジム社に対し
て権利行使をすることにして平成11年9月一審被告の知的財産部長T,,
からキングジム社知的財産室長tに対し一審被告保有特許の無断使用を指
摘し,実施許諾に関する交渉を開始した。
しかし,その後の交渉が進展しなかったことから,一審被告は,一審被
告代理人弁護士佐尾重久名義のキングジム社代表者宛て内容証明郵便によ
る平成12年4月4日付け通知書(甲25)をもって,キングジム社がテ
プラプロなどにより一審被告保有のラベルライターに関する特許権9件
(この中には一審原告X1の発明に係る第1発明,一審原告らほかの発明
に係る第3発明一審原告ら以外の発明に係る特許第2814692号キ,〔
〕,〔〕ングジム警告権利7特許第2830860号キングジム警告権利8
等が含まれる)等を侵害している旨警告した。
これに対しキングジム社は,第1発明が無効である旨主張したが,一審
被告は第1発明は有効である旨回答してこれを争った。また,平成12年
9月1日に両者の代理人が直接交渉を行った際には,キングジム社は第3
発明,特許第2546196号,特許第2556224号の3件の権利に
ついて特許権侵害を認める旨回答した。そこで両者は和解に向けた交渉を
進めたが,合意に達するには至らなかった。
以上の経緯を踏まえ,一審被告は司法的解決を選択することとし,平成
13年5月2日,東京地方裁判所に対し,キングジム社を債務者として特
許権侵害に基づく製造・販売の禁止を求める仮処分を申し立てた(甲2
6。この際,被保全権利としては,手続進行の容易性を考慮して,キン)
グジム社が前記交渉において特許権侵害を認めていた前記第3発明等の3
件を挙げることとした。一審被告とキングジム社は,上記仮処分手続と並
行して,訴訟外において和解解決を模索する交渉を行い,●●(省略)
キングジム契約に基づきキングジム社が一審被告に対し支払った平成1
8年6月20日分までのラベルライターに係る実施料は,原判決別紙「相
当対価算定表(実施料収入分」の「表1-1キングジムからの実施料)
収入」のとおりであり,平成14年以降は1年間に●●円程度である。
キカシオ社との係争等の経緯
一審被告は,キングジム社に対する交渉と並行して,カシオ社に対して
も同様の権利侵害を主張し,その結果,●●(省略)というものである。
カシオ契約に基づきカシオ社が一審被告に対し支払った平成18年9月
30日分までのラベルライターに係る実施料は,原判決別紙「相当対価算
定表(実施料収入」の「表2-1カシオ社からの実施料収入」のとお)
りであり,平成14年以降は1年間に●●円程度である。
(4)欧州におけるラベルライターの販売状況
ア販売の開始
一審被告は,1958年〔昭和33年〕10月にミシンの輸出販売のた
めの欧州販売統括拠点としてブラザーインターナショナルヨーロッパ(B
IE)を設立し,その後タイプライターやプリンタ等,一審被告の製作に
係る事務機器の販売を欧州各国に展開していたことから,ラベルライター
が日本において製品化された1988年〔昭和63年〕ころには,既に欧
州内約15か国において20社程度のBIE子会社による販売網を確立し
ていた。そこで一審被告は上記販売網を通じて欧州におけるラベルライタ
ーの輸出販売を行うこととし,日本のキングジム社にOEM供給したテプ
ラTR55をベースに欧州仕様に変更した上で,1989年〔平成元年〕
5月ころ,欧州において一審被告ブランドのP-touch(PT-8E)
の販売を開始した。
そして一審被告は,欧州における自社ブランドによるラベルライターの
販売展開と並行して,販売数量の確保の観点からBIE以外の販売ルート
を模索していたところ,当時エンボス加工により硬質プラスティックテー
プに英数字を刻印するラベル作成機器においてトップのシェアを有し,欧
州に強力な販売網を有していたダイモ社との間でOEM取引の話が持ち上
がった。両者は1989年〔平成元年〕9月1日付けで一審被告がダイモ
,,社にラベルライターをOEM供給する内容の売買契約を締結しそのころ
ダイモブランドのラベルライター「DYMO3000」の販売が開始され
た。これにより一審被告とダイモ社の両ブランドの競合によりラベルライ
ター商品の認知度が高まるという相乗効果が生じ,また各国のBIE子会
社の営業努力等もあって,欧州におけるラベルライターは順調に立ち上が
った。
その後一審被告は,1990年〔平成2年〕6月ころから,それまでの
ダイヤル入力方式に替えてキーボード入力方式を採用した「P-touc
h2000」を投入し,本体の販売に伴うテープカセットの需要の発生を
販売店に説明して回る販売促進活動等もあって,本体・テープカセットと
も順調に売上げが増加していった。また,1989年〔平成元年〕10月
ころからダイモブランドについても次期モデルの話が持ち上がり,BIE
を介して一審被告とダイモ社との間で1990年〔平成2年〕3月ころか
ら9月ころにかけて,キーボード入力方式を採用する方向で,ダイモブラ
ンド次機種の具体的仕様や外観デザインについての具体的な話合いが行わ
れた。
その後,1991年〔平成3年〕後半は後記ダイモ社との係争がありダ
イモ社への欧州におけるOEM供給が途絶えたが,テープの用途の新たな
提案に努めたり,1992年〔平成4年〕に欧州で行われた冬季及び夏季
の両オリンピックにおいて「P-touch」製品の紹介活動を行い商品
,。の浸透を図ったBIEの営業販売努力により安定した売上げを確保した
ダイモ社は,後記ダイモ契約締結と相前後する1992年〔平成4年〕
5月から,非ラミネート方式ラベルライター「DYMO4500」を発売
し,また,1994年〔平成6年〕末ころからは,低価格機の「DYMO
」。,1000を発売するなどして売上げを伸ばしたこれに対し一審被告も
非ラミネート方式であるM型の「P-touch110」を投入するなど
して対抗した。
欧州における2003年度〔平成15年度〕の本体台数ベースの市場占
有率は,ダイモ社約●%,M型を含む一審被告の製品が約●%,カシオ社
約●%である。
イ売上高
欧州特許国(海外特許1の指定国であるドイツ,フランス,イギリス,
イタリアの4か国)における本件被告製品の売上高は,本判決別紙「本件
被告製品の売上高(自己実施分」の欧州特許国販売欄記載のとおりであ)
る。
これらを合計すると,昭和63年度(昭和62年11月21日~昭和6
3年11月20日)から平成16年度(平成16年4月1日~平成17年
3月31日)までで,移行期を含め本体分●●円,テープカセット分●●
円の合計●●円である。
ウダイモ契約締結に至る経緯
ダイモ社は,一審被告との間で前記のような次期OEM供給モデルの話
合いが行われていたにもかかわらず,1991年〔平成3年〕1月下旬に
イギリスのロンドンで開催された文具・事務用品に係る展示会に,一審被
告がその製作に全く関与していないラミネートタイプのラベルライター
「DYMO4000」のプロトタイプを出展した。一審被告は同プロトタ
イプの販売予定価格がP-touch2000よりもかなり安価であり,
また,BIEのドイツにおける販売関連会社であるブラザーインターナシ
ョナルジャーマニー(BIG)がその売上げ・利益の多くをP-touc
hの販売に依存しており,その影響の大きさを危惧した同社から対応を強
く求められたことから,ダイモ社に対する法的対応の可否について検討を
開始した。
一審被告は,1991年〔平成3年〕1月当時,P-touch関係の
外国出願は,米国で7件が登録になっていたものの,それ以外の国では権
利化されていなかったところ,同年3月下旬にDYMO4000のテープ
カセットサンプルを入手し,特許部においてこれを分析した結果,同テー
プカセットが当時出願中の欧州出願を侵害する可能性のあることが確認さ
れた。そこで一審被告の関係者は,同年5月にドイツに赴き,テープカセ
ットに密接に関係する3件の欧州ないしドイツ出願(①欧州出願番号EP
A●●〔後のダイモ契約権利2・欧州特許●●,②欧州出願番号EPA〕
●●〔後の欧州特許●●,③ドイツ出願番号DEA●●〔後のダイモ契〕
約権利1・ドイツ実用新案G●●。なお,上記ドイツ出願③は欧州出願〕
①のドイツにおける分岐出願)についてドイツの出願代理人と対応につい
て検討したところ,ドイツの出願代理人から,上記欧州出願①及び②を基
にドイツ実用新案の登録を行えば8週間で登録されるので,これにより当
面の防御を行うことができること,上記欧州出願①及び②について審査促
進(早期審査)の申請をすれば一般的に4~6週間でアクションが出るか
ら,その申請手続を行うこと,ドイツ出願の場合クレームの補正が可能で
あるためドイツ出願③については侵害品を見てから早期審査の申請手続を
行うこと,といったアドバイスがあり,一審被告は同代理人に対しその手
続をするよう指示した(乙171添付資料8。また,一審被告は,上記)
欧州出願①について,上記欧州出願②及びドイツ出願③とは別に,2件の
分割出願(④欧州出願番号EPA●●〔後の欧州特許●●,⑤欧州出願〕
番号EPA●●〔後の欧州特許●●)及び1件のドイツ実用新案の分岐〕
出願(⑥ドイツ出願番号DEA●●〔後のドイツ実用新案G●●)を行〕
うこととし,その旨ドイツ代理人に指示した。
ダイモ社は1991年〔平成3年〕4月ないし5月ころ欧州においてD
YMO4000の正式な販売を開始した。一審被告はダイモ社に対する法
的対応に向けた準備を行い,同年8月29日及び30日付けで,イギリス
及びドイツのダイモ社に対し,ドイツの特許代理人を通じて,DYMO4
000が1991年〔平成3年〕8月22日に登録された一審被告のダイ
モ契約権利1(上記ドイツ出願③)及び同年9月5日に登録される予定で
ある上記ドイツ出願⑥の各権利を侵害する旨警告した(乙171添付資料
12,13。これに対しダイモ社の特許代理人は,同年9月19日付け)
で,ダイモ契約権利1は公知資料(米国特許4419175号及び同40
68928号)の組合せにより無効であること,上記ドイツ出願③は原出
願である上記欧州出願①(ダイモ契約権利2)と内容が相違しているため
出願日の遡及が認められず,現出願の存在により新規性を欠き無効となる
旨回答した(乙171添付資料14。)
一審被告のドイツ代理人はダイモ社側から提示された上記公知資料を検
討した結果,これらが上記欧州出願①(ダイモ契約権利2)の審査の段階
で引用されていなかったため有効性に疑義が出ることを懸念し,欧州特許
庁に対し同出願の再審査を請求した。この際,既に許可通知を受けていた
請求項1と4を組み合わせて新しい請求項1にする補正を行った結果,同
補正後の上記欧州出願①について欧州特許庁から特許許可の内諾を得た。
これを受けて同代理人は既に登録されていた上記ドイツ出願③(ダイモ契
約権利1)の請求項を原出願であるダイモ契約権利2の請求項と同じもの
に補正し,その旨をダイモ社側代理人に通知した(後記ミュンヘン地裁判
決〔乙171添付資料15,乙172〕事実及び認定参照。なお,ダイモ
契約権利1及び2の内容は,原判決別紙「ダイモ契約権利1(ドイツ実用
新案G●●)の構成要件」及び「ダイモ契約権利2(EP●●)の構成要
件」参照。)
上記の経過を踏まえ,一審被告は1991年〔平成3年〕10月8日付
けでドイツのミュンヘン地裁に対しダイモ社を相手方とする仮差止めの請
求を行った。ダイモ社側は緊急性の欠如とダイモ契約権利1の進歩性の欠
如を主張して争ったが,一審被告側は緊急性があることと上記権利に進歩
性があることを主張し,その結果,ミュンヘン地裁は緊急性の存在と権利
の有効性を認めて同年12月18日に販売差止め判決をした(乙171添
付資料15,乙172。一審被告は上記判決でDYMO4000の販売)
を仮に差し止めるための条件として示された130万マルク(約1億10
00万円)の供託手続を履行し,その販売を差し止めた。
ダイモ社は上記判決を不服として控訴したが,これと並行して英国ダイ
モ社は1992年平成4年2月6日付けで一審被告に対しレター乙,〔〕(
171添付資料16)を送付し,一審被告の権利を侵害しない非ラミネー
トタイプの構成を有するDYMO4500を同年4月から販売するととも
にDYMO4000本体の販売を中止することを内容とする和解の申出を
行った。一審被告はDYMO4500の構成を検討した結果,同製品がラ
ミネートテープに関する一審被告の権利を実施していないことが確認でき
たことから,ダイモ社との間で和解交渉を進めることとした。
●●(省略)
ダイモ契約に基づく2006年〔平成18年〕3月31日分までの実施
料収入は原判決別紙「相当対価算定表(実施料収入)」の「表3ダイモ社
からの実施料収入」のとおりであり,年々減少しているものの2003年
〔平成15年〕の実績で年間●●円,2004年〔平成16年,200〕
5年〔平成17年〕の実績で年間●●円で,2006年〔平成18年〕3
月31日までの総合計は●●円である。
(5)米国におけるラベルライターの販売状況
ア米国においては,1988年〔昭和63年〕当時,高価な商業用のラベ
ルシステムはあったものの,家庭や事務所においては,エンボス加工によ
り硬質プラスティックテープに英数字を刻印するダイモ社のラベル作成機
を使用してラベル作るのが一般的であった。このような状況下において,
一審被告は,その販売子会社であるブラザーインターナショナルコーポレ
ーションUSA(BICUSA)を通じて,1988年〔昭和63年〕12
月から一審被告ブランドのラミネート方式によるラベルライター「PT-
6」の販売を開始し,その後すぐに同じく「PT-8」を導入したが,米
国の顧客にP-touchと既存のエンボス機の違いやラミネート方式の
優位性が浸透せず,また価格が150ドル近くと高価であったこと,PT
-6及びPT-8のテープカセットTC型が高価であったことなどの要因
で,当初の販売は全く振るわなかった。
その後BICUSAは大小の企業・事務所に事務機器を販売していたオ
フィススーパーストア(OSS)向けの販路を開拓し,またMACY’S
のようなデパートや小物店,タイプライターディーラー等にも販路を広げ
ていったが販売は依然として振るわなかった。そこでBICUSAはOE
M供給による販路の開拓に乗り出し,1989年〔平成元年〕ころ,クロ
イ社との間でOEM供給契約を締結し,PT-8をベースとするラミネー
ト方式のラベルライター「KROYDURATYPE200」として販
売されることとなったが,それでもこの当時の販売数は月平均約●●個程
度であった。
そして一審被告は1990年〔平成2年〕にキーボード入力方式を採用
した「PT-10」を米国市場に投入し,その後1994年〔平成6年〕
までに相次いでP-touchのバリエーションを拡げ,低価格品から高
級機までラインナップを充実させた。また同時期にBICUSAの店舗数
が増えるとともに,OSSのチェーン数も増大し,米国顧客がP-tou
chを目にする機会が増大した。さらにBICUSAは積極的な広告戦略
を展開し,巨費を投じてラジオ・テレビ等のマスメディアへの露出度を高
め,折しも湾岸戦争が始まりスポンサーとなっていたCNNの視聴率が高
まったこともあり,一審被告ブランドP-touchシリーズの米国にお
ける認知度が急速に高まった。この当時の広告費は1991年度〔平成3
年度〕は●●ドル,1992年度〔平成4年度〕から1994年度〔平成
6年度〕にかけては毎年●●ドルであった。他方,クロイ社との間では価
格競争が激化するという弊害が生じた反面,クロイ社自身の売上げが大幅
に増加するということもなかったことなどから,BICUSAはOEMに
注力するのではなく自社ブランドの強化に専念することに方針転換をし
た。上記の結果,米国における本件被告製品の販売は月平均約●●個の販
売数(1994年〔平成6年〕の会計年度)を上げるほどに成長した。
また一審被告は,1995年〔平成7年〕以降,オフィス及び工業用装
置向けにTZ型のテープカセットを導入し,また低価格機種である非ラミ
ネート方式のM型製品を投入することで顧客層を拡大した。これに加えて
OSS店舗数が更に増大し,会員制のディスカウントショップへの販売拡
大など販売チャネルが増えたことも相俟って,2000年〔平成12年〕
の会計年度にはBICUSAの月平均販売台数が約●●個を超えるまでに
至った。その後も米国における本件被告製品の販売は拡大し,2003年
度〔平成15年度〕の本体台数ベースの市場占有率は,非ラミネート方式
のM型を含む被告の製品は約●%,ダイモ社約●%,カシオ社約●%であ
る。
なお一審被告は,米国で販売する被告製品の取扱説明書において,実施
特許権の一つとして海外特許3の特許番号を記載している。
イクロイ社との係争
クロイ社は2000年〔平成12年〕一審被告を相手方として一審被告
が同社の米国特許権2件を侵害しているとして米国連邦地方裁判所(ヴァ
ージニア東部地区,オハイオ北部地区及びニュージャージー地区)に訴訟
を提起した。一審被告はこの訴訟対応のため米国弁護士に依頼するととも
にディスカバリー(証拠開示)対応等のため●●(省略)米国・欧州その
他の国際的な市場で被告製品を販売することが可能となった。
ウ米国における売上高
一審被告の米国における本件被告製品の売上高は,本判決別紙「本件被
告製品の売上高(自己実施分」の米国販売欄記載のとおりである。)
これらを合計すると,昭和63年度(昭和62年11月21日~昭和6
3年11月20日)から平成16年度(平成16年4月1日~平成17年
3月31日)までで,移行期を含め本体分●●円,テープカセット分●●
円の合計●●円である。
(6)一審被告からの発明報償の支払等
一審原告らを含む第5発明の発明者ら6名は,第5発明に関し,平成6年
に,社団法人発明協会愛知県支部から県内の最も優れた7件の発明に授与さ
れる「愛知発明賞」を授与され,また「テープ印字装置」に対し名古屋市長
。,から平成6年度中部地方発明表彰における優秀賞を授与された一審被告は
一審原告X1に対し,上記表彰を受けて,発明特別賞を授与した。
また一審原告X1は,本件各発明の実績報償として,原判決別紙「実績報
奨の支払状況」記載のとおり,これまでに一審被告から合計20万0900
円の支払を受け,同様に一審原告X2は,合計19万9300円の支払を受
けた。
なお,一審被告は,本訴提起後の平成17年4月12日に第3発明につい
て,同年8月29日に第1発明について,平成18年3月17日に第2発明
及び第5発明について,いずれもこれらの特許権につき特許法107条に定
める特許料(いわゆる「年金)を支払わないこととした。その理由は,第」
1発明は「自他社共に不実施であり,今後も実施する可能性が極めて低い」
(乙147,第3発明は「権利無効となる資料が見つかったため(乙1)。」
46,第2発明及び第5発明は「ほぼ最終年であり,自他社が不実施であ)
る(乙148,というものであった。そして,上記のとおり一審被告は。」)
特許料を不納付としたから,上記の各権利は,特許法112条4項により,
以下のとおり,本来の存続満了日前に消滅した。
・第1発明権利消滅日:平成17年12月13日
(本来の存続満了日は平成18年11月14日)
・第2発明権利消滅日:平成18年7月17日
(本来の存続満了日は平成19年11月20日)
・第3発明権利消滅日:平成17年7月7日
(本来の存続満了日は平成19年12月10日)
・第5発明権利消滅日:平成18年7月17日
(本来の存続満了日は平成19年12月21日)
2本件発明報酬請求と特許無効事由との関係
(1)一審被告は,海外特許を含む本件各特許権には無効事由があるから一審
原告らには一審被告に対し本件職務発明報酬請求をすることは許されないと
主張し,これに対し一審原告らは,特許権を取得した一審被告が職務発明報
酬請求訴訟において無効事由があることを主張することは許されないし本件
各特許権には無効事由は存在しないと反論するので,以下,検討する。
(2)本件職務発明報酬請求は,前記のとおり,平成16年法律第79号によ
る改正前の特許法35条3,4項(旧35条3,4項)に基づく請求(海外
特許は同各項の類推適用,実用新案権は同各項の準用)であり,同3項によ
れば「従業者等は,契約,勤務規則その他の定により,職務発明について使
用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ,又は使用者等のため
専用実施権を設定したときは,相当の対価の支払を受ける権利を有する」と
され,同4項によれば「前項の対価の額は,その発明により使用者等が受け
るべき利益の額及びその発明がされるについて使用者等が貢献した程度を考
慮して定めなければならない」と各規定されているところ,前記1(1)記載
のとおり,一審被告の従業員であった一審原告ら及び他の発明者は,第1発
明については昭和61年7月30日ころに,第2発明以下については昭和6
2年7月10日ころに,それぞれ特許を受ける権利として使用者たる一審被
告に譲渡し,これを受けた一審被告は,自らの責任において日本国特許庁・
欧州特許庁・米国特許商標庁に特許出願をし,その結果,前記のとおり,第
1発明・第2発明・第3発明・第5発明については日本国において,海外特
許1については欧州(ドイツ,フランス,イギリス,イタリア)において,
,()海外特許2及び3については米国においてそれぞれ特許権本件各特許権
を取得しているのであるから,一審原告らは一審被告に対し,上記譲渡日時
ころ「特許を受ける権利」としての本件各特許権を譲渡し,その譲渡契約の
時点で「相当額の発明報酬」の支払を求める債権を取得したことになる。
上記のことからすると,発明者たる一審原告らから「特許を受ける権利」
の譲渡を受けた一審被告が,同権利を特許権とすべくその後自らの責任にお
いて出願し取得した特許権につき,職務発明報酬請求訴訟において上記特許
権につき無効事由があると主張することは,譲渡契約時に予定されていなか
った事情に基づき譲渡契約の効力を過去に遡って斟酌しようとする点で背理
であり,譲渡人たる従業者が特許無効事由があることを知りながら譲渡した
等の特段の事情がない限り,許されないと解されるが,他方,上記職務発明
報酬債権は「相当額」の支払を内容とするものであって,相当額の算定に際
しては,上記特許を受ける権利ないしその発展的権利としての特許権により
譲受人たる一審被告が現実に取得した利益を斟酌してなされるものであるか
,,ら相当額算定の一事情として特許権の無効事由を考慮することは許される
と解される。
,「,一審被告は要旨特許に無効事由が存在することが明らかであるときは
その特許権に基づく差止め,損害賠償等の請求は,特段の事情がない限り,
権利の濫用に当たり許されない」とした最高裁平成12年4月11日第三小
法廷判決民集54巻4号1368頁及び平成17年4月1日から施行本()(
件には適用がない)された特許法104条の3第1項が「特許権又は専用実
施権の侵害に係る訴訟において,当該特許が特許無効審判により無効にされ
るべきものと認められるときは,特許権者又は専用実施権者は,相手方に対
しその権利を行使することができない」と定めていること等を根拠に,職務
発明報酬対価請求は特許権に無効事由があるときは許されない等と主張する
が,上記判例及び法条は,その表現からして明らかなように,特許権者が第
三者に対して差止め又は損害賠償請求権を行使する場面に適用があるのであ
って,本件のような職務発明報酬支払請求権を行使する場面に適用があるも
のではないから,一審被告の上記主張は失当である。
のみならず,特許法は,国内特許については,登録により成立した特許権
の消滅事由につき,特許権自体が内包する瑕疵に基づく事由としては特許庁
による無効審決の確定(特許法125条)しか定めておらず,それ以外の消
滅事由はいずれも特許権の瑕疵とは無関係な事由(存続期間の満了〔特許法
67条,特許料の不納付〔特許法112条4項,相続人の不存在〔特許法〕〕
76条,特許権の放棄〔特許法97条1項)にすぎないのであって,現実〕〕
に無効審決が確定するまでは,その存続中,当該特許発明を実施(許諾又は
禁止)する権利を専有することができる(特許法68条)から,たとえ特許
権に無効事由があったとしても,当該特許権の行使の結果生じる独占の利益
を享受できることは当然のこととして許容されるのである。そして,特許法
旧35条3項及び4項の趣旨が,従業者等が,特許を受ける権利等の譲渡時
において,当該権利を取得した使用者等が当該発明の実施を独占することに
よって得られると客観的に見込まれる利益のうち同条4項所定の基準に従っ
て定められる一定範囲の金額について,これを当該発明をした従業者等にお
いて確保できるようにしたものであることに鑑みれば,当該特許権を実施し
て現に得た利益について,特許権に無効事由があるからといって上記使用者
等が得るべき発明の独占実施による利益から殊更に除外し,これを使用者の
みに留保させることを正当化できる理由はないというべきである。したがっ
て,職務発明報酬の対価額算定という場面においては,使用者等が有効に存
続する特許権を現に実施して利益を得ている場合には,無効事由が存在する
ためおよそ独占の利益の発生を考慮できないような極めて例外的な事情のな
い限り,当該利益には特許権に基づく上記利益を含むと推認すべきである。
有効な特許権の存在を前提にこれを実施してきた使用者が,職務発明報酬対
価請求訴訟を提起されるに至って初めて無効事由の存在を主張して当該利益
の従業者への配分を免れようとすることは,前記特許法旧35条3項及び4
項の趣旨のみならず禁反言の見地からも到底容認できるものではない。
もっとも,特許権の通常実施権設定交渉(ライセンス交渉)を行う場面等
においては,相手方から無効事由の存在を指摘されるなどして実施料が減額
されたり,ライセンス交渉自体が拒絶されることがあり得るところであり,
したがって独占の利益を算定する前提としての仮想実施料率を決する場面に
おいては,無効事由の存否がその多寡に影響を与えることがあり得るという
ことはできる。したがって,原判決が本件各特許権の無効事由について判断
したことは,そのような場面において無効事由の存在を指摘できるという限
度において正当ということができる。しかし,ライセンス交渉等の場面にお
ける無効事由の主張は,いざ交渉が決裂した場合に双方から提起されるかも
しれない特許権侵害訴訟ないし無効審判において無効判断がなされる可能性
があることを指摘するという,いわば仮定的・暫定的なものにすぎず,しか
も無効審判手続における訂正の手続等,制度的にも無効事由を回避する手段
が留保されていること等を考慮すると,無効事由の指摘自体,その根拠が確
定的とまではいい難い場合もあり得る。これらの事情に鑑みれば,無効事由
の有無に関する事情は,仮想実施料率を認定するに当たり総合考慮すべき諸
事情の中の一要素となり得るとしても,その影響を過大視することはできな
い。
なお,前述した海外特許1,2,3は日本国特許ではなく,その無効事由
の有無及び無効事由を判断することができる機関(裁判所か特許庁かその双
方か等)は特許権が付与された各国法により決せられるが,上記のような外
国特許であっても,本件のような職務発明報酬対価請求においては日本国特
許法旧35条3項,4項が類推適用されるべきことは,原判決記載のとおり
である(最高裁平成18年10月17日第三小法廷判決・民集60巻8号2
853頁。)
(3)そして,本件全証拠によっても,本件各特許権の譲渡人たる一審原告ら
及び他の発明者において「本件各発明に特許無効事由があること」を知りな
がらこれを一審被告に譲渡したという事情は認められないから,以下におい
ては,本件訴訟における当事者双方の主張立証の経緯に鑑み,前述した仮想
実施料率認定ひいては特許法旧35条にいう「相当額」認定の資料として,
以下,本件各特許権の無効事由の有無について検討する。
ア第1発明
(ア)第1発明に無効事由があると認めることはできない。その理由は以
下に述べるとおりである。
(イ)一審被告は,第1発明は乙7の1刊行物,乙7の2刊行物,乙18
刊行物,乙20刊行物を組み合わせることにより容易に発明できるから
無効である旨主張する。
この点,乙7の1刊行物には「…サーマルヘッド23はプリンタ1,
3内に収納されており,セラミック基板24上に複数の発熱体…が配置
,,されておりこの発熱体のいずれかに…電流が流れると発熱体が発熱し
テープ2上にその発熱体に対応する箇所に印字が行われる。発熱体…は
入力キーを押圧することにより,その文字に対応した文字を印字するた
,」(),,めの発熱体であり…3頁左下欄1行~11行乙18刊行物には
「第1図は本発明の一実施例を示す構成図である。同図において1は熱
を与えると発色する感熱紙を使用したテープ状のプリンタ用紙,2はワ
ードプロセッサ本体,3は英数字・かな文字等を入力するキーボード,
4は…サーマルヘッド,5は…カッター,6は…液晶表示部,7は,…
切断されたテープ,8は…原稿を示す。…テープ状のプリンタ用紙は細
長い紙テープのほか裏面に糊をつけ,かつ糊不着性のシールで保護され
たテープを使用することもできる(2頁左下欄5行~右下欄3行,。」)
乙7の2刊行物には「…プリンタ8は転写インキを担持するインキリ,
ボン…等の転写インキ担持体を持つもので,中央処理装置4によって制
御される。中央処理装置4は入力装置1から入力された被転写画像の信
号を処理して被転写画像の左右を反転させた転写画像を作成し,その転
写画像に基づいてプリンタ8を制御する。プリンタ8の駆動により,転
写紙基材13上に被転写図柄14が印刷された転写紙12が形成され
。」(),,る…2頁右下欄2行~10行などの記載があり乙20刊行物
乙152刊行物,乙153刊行物には離型促進剤に関する記載がある。
これによれば,乙7の1刊行物,乙18刊行物は,単に発熱体(サー
マルヘッド)を発熱させることによりテープに印字する技術を開示する
にとどまるものであって,インクリボンを介して印字することや,文字
・記号等の形状を反転させた鏡像を印字してレタリングテープを製造す
ることの記載ないし示唆はない。また乙7の2刊行物には,インクリボ
ンを用いて左右を反転させた転写画像を作成することが開示されている
が,これにより転写紙を作成することが開示されるにとどまるのであっ
て,テープを作成することの記載ないし示唆はない。
そうすると,単にテープに印字するにすぎない乙7の1刊行物,乙1
8刊行物に開示された技術において,乙7の2刊行物に開示された左右
を反転させた転写画像を作成するという技術を適用することが直ちに容
易であるということはできないから,第1発明につき,当業者(その発
明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が容易に発明を
することができたということはできない。
なお一審被告は,第1発明に無効事由があることの根拠として異議決
定・拒絶査定不服審判の経緯を挙げ,また,乙20刊行物のような離型
促進剤に関する技術や第1発明に係る他の構成が従来知られていたもの
であったとして刊行物の存在を挙げるが,これらを考慮したとしても,
上記認定が左右されるものではない。
(ウ)また一審被告は,第1発明は出願前に公知であった旨主張するとこ
ろ,一審被告が指摘する受容性調査においてコンセプトシート(乙2の
2)が開示された具体的な態様は一切不明であるし,また,上記コンセ
プトシート自体は第1発明のコンセプトを開示するものであるとして
も,第1発明の具体的構成を明らかにするものということはできないか
ら,その開示をもって第1発明が出願前に公知であったということはで
きない。
したがって,一審被告の上記主張は採用することができない。
(エ)また一審被告は,第1発明は冒認による無効事由がある旨主張する
が前記1に認定した第1発明の経緯に照らせば第1発明は一審原告X,,
1のみが発明者であると認められる。そして,一審被告が一審原告X1
から第1発明につき特許を受ける権利を承継し,その後一審被告が特許
出願をしたものであることは前記1のとおりであるから,第1発明は特
許法123条1項6号の定める「その特許が発明者でない者であってそ
の発明について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対して
。」。されたときとの無効事由に該当するものでないことは明らかである
したがって,一審被告の主張は採用することができない。
イ第2発明
(ア)第2発明に無効事由があると認めることはできない。その理由は原
「」(),()判決事実及び理由第3当裁判所の判断2(2)イ190頁以下
のとおりであるから,これを引用する。
(イ)これに対し一審被告は,乙11の1刊行物を主引用例とした場合に
おける原判決の相違点の認定に誤りがある旨主張するが,乙11の1刊
行物の「台紙」に,①構成要件2Eが規定する「第1のテープの背景と
なる」点が明示的に触れられていない点,②「両側に設けられた粘着剤
層」及び③「その粘着剤層の片側に予め粘着された剥離紙」に相当する
構成が開示されていない旨の原判決の認定,及び乙11の1刊行物には
,,反転印字が開示されていない旨の原判決の認定はいずれも相当であり
相違点の認定に誤りがあるということはできない(なお,上記①の構成
については,乙11の1刊行物の記載上,明示的ではないとしても自明
のことであるとみる余地はあるが,この点は上記判断を左右するもので
はない。。)
したがって,一審被告の上記主張は採用することができない。
(ウ)また一審被告は,乙11の5刊行物を主引用例とした場合の原判決
の判断について,乙88刊行物の記載内容に鑑みれば,第2発明と乙1
1の5刊行物との相違点である「印字機構,テープ送り機構及びリボン
巻取機構を内部に収容するハウジングを含む」点及び「第1のテープに
第2のテープを圧着するとともに,ハウジング外へ排出する」点を容易
想到でないとしたことは誤りである旨主張する。
しかし,乙88刊行物に記載された発明は熱転写型プリンタ用テープ
収容カセットに関するものであるのに対し,乙11の5刊行物に記載さ
れた発明は印刷業者における印刷を予定し,感圧接着ラベルをいわば工
業的に生産する技術に関するものであって,両者は印刷技術という点で
共通性はあるものの,対象とする技術分野は大きく異なるのであって,
乙88刊行物に記載されたプリンタにおける印字機構等をハウジング内
に収容し,テープをハウジング外に排出する技術を乙11の5刊行物記
載の発明に適用することが容易であるということはできず,第2発明が
乙11の5刊行物に基づき容易想到とは認められない。
したがって,一審被告の上記主張は採用することができない。
(エ)さらに一審被告は,多数の公知文献を挙げて,第2発明は慣用技術
,,から構成されており個々の技術に新規性・進歩性はない旨主張するが
これら公知文献は第2発明の構成の一部を個々的に開示するに止まり,
必ずしも第2発明の全構成要件相互の組合せを開示・示唆するものとい
うことはできないから,これらの公知文献の存在をもって第2発明が容
易想到であると認めることはできない。
したがって,一審被告の上記主張は採用することができない。
ウ第3発明
第3発明には無効事由があると判断する。その理由は原判決「事実及び
理由」第3(当裁判所の判断,2(2)ウ(192頁以下)のとおりである)
から,これを引用する。
これに対し一審原告らは,乙134刊行物は特許査定に至る段階でテー
プ印字装置との組合せにおいて考慮され尽くしている旨主張するが,その
ような審査段階における事情は上記判断を左右するものではないから,一
審原告らの上記主張は採用することができない。
また一審原告らは,マーリンエクスプレスは一律にベースラインで揃う
ように文字を印字するという装置であるのに対し,第3発明はユーザーの
嗜好に合わせて多様な印字書式を実現しようというものであり,そのため
第3発明では印字素子列の範囲で小さいサイズの文字を上下に寄せて印字
できるのに対し,マーリンエクスプレスではそれができない旨主張する。
しかし,第3発明は,センタ印字モードと片側揃えモードとに変更する印
字位置変更手段を設けたものではあるが,それ以上に多様な印字書式を実
現する構成を備えたものではないし,また,片側揃えモードは「印字テー
プの幅方向に片側に寄せてキャラクタ列の印字を行わせる」と規定するに
止まり,印字素子列の範囲で小さいサイズの文字のキャラクタ列を上下に
寄せて印字できるものと認めることはできない。そうすると,一審原告ら
の主張する事情が前記判断を左右するものということはできず,一審原告
らの上記主張は採用することができない。
エ第5発明
(ア)第5発明に無効事由があると認めることはできない。一審被告は,
乙13の5刊行物,乙13の4刊行物等に基づき容易に想到することが
できる旨主張するが,以下に述べるとおり採用することができない。
(イ)乙13の5刊行物の記載と,乙13の5刊行物を主引用例としてこ
れを第5発明と対比した場合の一致点及び相違点は,原判決「事実及び
理由」第3(当裁判所の判断,2(2)エ(ア)及び(イ)(195頁,197)
頁以下)のとおりである。
この点,乙11の5刊行物には「透視性を有する連続基材に,裏返,
しパターンの反転した像を印刷する印刷機構と,前記連続基材を送る送
り機構とを含み,連続基材の印刷面に,透明なフィルムを支持体とした
剥離紙付き両面粘着テープを貼り合わせる装置」の発明(乙11の5発
明)が開示されているものと認められる。上記装置の「透視性を有する
連続基材に透明なフィルムを支持体とした剥離紙付き両面粘着テープを
貼り合わせ」たものは,同刊行物に「本発明は印刷をほどこした感圧接
着ラベルの印刷面が,該ラベル表面に露出しない事を特徴とする感圧接
着ラベルに関する。更に詳しくは,連続基材の一方の面にシール印刷機
において印刷をほどこし,印刷面にあらかじめ剥離層上に塗布した粘着
層を該シール印刷機上で重合し,しかる後に感圧接着ラベルに加工する
事を特徴とする感圧接着ラベルに関する(2頁左上欄17行~右上欄。」
4行)と記載されるとおり,いわゆるシールなどの感圧接着ラベルであ
って,被着体に接着することを予定されたものである。したがって,乙
11の5発明は,被着体に接着することを予定されたシールなどの感圧
接着ラベルを製造する装置に関するものということができる。
,,「,,これに対し乙13の5刊行物には本発明は印字方法に関して
裏面より印字して表面から判読可能な印字用紙の表面を透明なプラテン
に接面させ,該印字用紙の裏面に逆文字の活字ブロックで印字すること
により成り,その印字装置に関しては,印字用紙の送り出し装置及び引
取り装置,プラテン,活字ブロックを備える印字装置において,文字の
読み取り側に透明なプラテンを,そして反読み取り側に逆文字の活字ブ
ロックを配して成るもので,印字と同時にその印字を判読できるように
して印字結果に即時対処可能とする…」(1頁右欄13行~2頁左上欄
3行)「上記印字用紙1は,活字ブロックの形式との関連で定まるが,,
裏面に印字して表面から読みとれるものであれば特に制約はない。イン
クリボン,インクジェット等の裏面の印字が表面にて発色しない形式に
あっては,印字用紙は半透明のものが採用され,印字が加圧あるいは加
熱による形式のものにあっては,裏面での印字が表面で発色する感圧記
録紙あるいは感熱紙がそれぞれ採用される」(2頁左上欄下2行~右上。
欄6行)との記載がある。これら記載によれば,乙13の5刊行物に記
載された発明は,プラテンを透明のものとし,裏面より印字して表面か
ら判読可能な印字用紙の裏面に逆文字を印字することにより透明のプラ
テンを通して印字と同時にその印字を確認できるようにするとの作用効
果を奏する点に特徴があるものと認められ,その際,印字用紙として半
透明のものが採用されることも記載されているが,これは透明のプラテ
ンを通して印字を確認できるようにするとの作用効果を奏するためのも
のと理解できるにとどまり,更に印字用紙の裏面に粘着層などの層を設
け,被着体に接着することは記載も示唆もされていない。
そうすると,乙13の5発明と乙11の5発明とは,透視性のある印
刷媒体に,印刷面の反対側から正像として認識できる反転した像を印刷
するという点で共通するとしても,単に,透明のプラテンを通して印字
を確認できるようにするとの作用効果を奏するための印字用紙を用いる
ことを示すにとどまる乙13の5発明において,被着体に接着すること
を予定されたシールなどの感圧接着ラベルを製造する装置に関する乙1
1の5発明を適用することが容易であるということはできない。
したがって,乙13の5刊行物記載の発明において印字面に両面粘着
テープを貼り付けることは容易に想到できるものではない。
,,,(ウ)次に乙11の5刊行物を主引用例として検討すると第5発明は
記録装置本体がハウジングを備え(構成5A,搬送手段が記録媒体を)
ハウジング外へ送り出す(構成5B)ものであって,ハウジング外へ送
り出される記録媒体を当該記録装置の使用者が前方から見た側の面を表
面としたとき,記録手段が記録媒体の裏面側に配設され,記録媒体の裏
面に記録材による記録が行われる(構成5C)のに対して,乙11の5
刊行物には,記録装置本体のハウジングの記載ないし示唆がなく,乙1
1の5刊行物記載の発明とはハウジングの有無において相違するものと
認められる。
そして,第2発明について説示したように,仮に乙88刊行物,乙1
1の2刊行物,乙13の4刊行物等に記載された,一般使用者が卓上等
において使用するプリンタにあって,印字機構等をハウジング内に収納
し,テープをハウジング外に排出する技術が従来周知のものであるとし
ても,これを印刷業者における印刷を予定し感圧接着ラベルをいわば工
業的に生産する技術に関する乙11の5刊行物記載の発明に適用するこ
とが容易であるということはできない。
,,,したがって乙11の5刊行物を主引用例としても第5発明につき
当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
(エ)さらに,一審被告は,乙13の4刊行物を主たる引用例として,第
5発明の進歩性欠如を主張するので,この点について検討する。
a乙13の4刊行物には,以下の記載がある。
・「図2は外観図である。…また,図3の破線で示すように,裏面
の蓋をあければテープ状に巻かれ,その裏面には接着剤がついてい
るプリント用ラベル紙20(カセット内に収納,このラベル紙を送)
り出すローラー21,印字するためのプリンターヘッド22が配置さ
れ,ここを通って印字されたラベル9が出てくる(3頁左上欄8。」
行~19行)
・「透明テープベースにすれば,添付する物体の表面に直接印刷し
てあるように見える(3頁右上欄17行~19行)。」
・「印字の色は何色でもよく,バックカラーも自由である(3頁。」
左下欄3行~4行)
・第2図,第3図は次のとおりである。
なお,乙13の4刊行物には,ラベル紙20の裏面に反転印字を
することは明記されていない。
b上記のように,第3図には,テープ状に巻かれたラベル紙20の内
面側にプリンターヘッド22が配置されるように記載されているのに
対し第2図では第3図と同じく装置上方に送り出されたラベル紙20,,
の手前側に文字が見えることからすると,第3図においてプリンター
「」ヘッド22が配置されたラベル紙20の内面側が接着剤がついている
ラベル紙20の裏面なのか,直ちには判断し難い。
ここで,仮にラベル紙20の内面側を裏面とすると,露出した粘着
面に印字を行うことは考え難い。
また,内面側,外面側のいずれが裏面であるにせよ,ローラー21
でラベル紙20が送られること,送り出されたラベル紙20を取り扱う
際に粘着面が露出していると取り扱いが困難であることからすると,
粘着面が露出することは考えにくいから,裏面には剥離紙が設けられ
ると考えるのが相当である。そうすると,裏面に印字するとは,剥離
紙の表面に印字することになり,無意味といわざるを得ない。
この点一審被告は,粘着剤に印字できることはUSP406802
8号公報(乙19の2刊行物)に開示されている旨主張するが,上記の
ように,剥離紙が設けられているとすれば,乙19の2刊行物に開示
された技術の適用を論じる余地はない。
以上によれば,ラベル紙20の内面側にプリンターヘッド22が配置
される第3図を前提としても,内面側が表面であり表面に反転文字で
はなく通常の文字が印字されるものであって,第2図は,単に印字の
様子が見やすいよう表面を手前にして記載したものにすぎない可能性
が高く,乙13の4刊行物には,テープ裏面に反転印字をする技術が
開示されているとまではいえないから,乙13の4刊行物に開示され
た発明に,乙11の5刊行物に開示された発明等を組み合わせて,第
5発明のように構成することは,当業者にとって容易ということはで
きない。
したがって,一審被告の上記主張は採用することができない。
オ海外特許1
海外特許1には,以下に述べるとおり,無効事由があると認めることは
できない。
(ア)海外特許1の内容(補正後)
海外特許1の構成要件に関する原判決の認定は補正前の公開公報甲,(
20の7)の内容に基づくものであり,誤りである。海外特許1の特許
公報(乙155)によれば,海外特許1の正しい内容は以下のとおりで
ある。
・請求項1
7A’以下の要素を有するテーププリンター
7B’実質的に透明な記録媒体(70)を搬走路に沿って搬送する
,,,,,,ための手段(7699100112114116
118,120,123,124,132)と,
7C’記録媒体の,装置オペレーターから離れた側に隣接して,
インクリボン(74)を移送するための手段と,
7D’前記記録媒体(70)のオペレータから離れた側に,前記
()(,インクリボン74を用いてプリントする記録手段72
174)と,
7E’前記プリントは,使用時オペレーターに正規に現れるよう
に,左右に反転されて遂行されるべく制御されることと,
7F’両面粘着テープ(102)を,記録媒体(70)の前記プ
リント側に貼着するための手段(99,100,102,
104,106,112,114,116,123,12
4。)
・請求項2
7G’更に以下の要素からなる請求項1に従うテーププリンター
7H前記装置12の一区画において前記媒体搬送手段7’()(
6,99,100,112,114,116,118,12
0,123,124,132)及び前記記録手段(72)の
前方に配置され,前記記録手段によって記録される前記イメ
ージ(204)をあらわすデータを入力するための,オペレ
ーターによって制御されるデータ入力手段
・請求項3
7I’請求項1または2に従うテーププリンターで,
7J’前記搬送手段(76,99,100,112,114,1
16,118,120,123,124,132)は,前記
記録テープを前記装置本体(12)の横方向に搬送するのに
有効である。
・請求項4
7K’請求項3に従うテーププリンターで,
7L’前記テープ搬送機構(76,99,100,112,11
,,,,,,),4116118120123124132は
前記記録テープ(70)を,使用中のオペレーターにより見
られる左側方向に搬送する。
・請求項5
7M’更に以下の要素からなる,先の任意の請求項に従うテープ
プリンター
7N’前記記録テープ(70)を切断するための切断機構であっ
て,その機構は,前記搬送通路に沿う位置で,前記記録テー
プ70の搬送方向にてみられるように前記記録手段7(),(
2)の下流に配置されている。
・請求項6
7O’更に以下の要素からなる,先の任意の請求項に従うテープ
プリンター
7P’前記搬送方向に沿って前記記録手段(72)の下流に配置
され,粘着テープ(102)を,前記左右に反転されたイメ
ージ(204)が記録されている記録テープ(70)の記録
部分に重合するための一対の押圧ローラー(99,100)
であって,その両ローラーは,記録テープの前記記録部分お
よび重合されている前記粘着テープが両ローラー間を通過す
る際に,両者間に圧力挟持をもたらし,それにより,前記記
録部分と前記粘着テープとが相互に固着される。
・請求項7
7Q’請求項6に従うテーププリンターで,
7R’前記テープ搬送機構(76,99,100,112,11
,,,,,,),4116118120123124132は
前記一対の押圧ローラー(99,100)と,その押圧ロー
ラーの少なくとも一方を回転するための駆動源とからなり,
’,,(,),7S前記装置は更に前記押圧ローラー99100を
前記圧力挟持が確立される第1の位置と,前記押圧ローラー
が相互に離間する第2の位置とに,選択的に配置する切換手
段(112,114,116,122,142。)
・請求項8
7T’請求項7に従うテーププリンターで,
7U’前記粘着テープ(102)が,基材(107)と,その基
材の両面に形成された2つの粘着層(108,110)と,
その2つの粘着層のうち,前記記録テープの記録部と前記バ
ッキング(両面粘着)テープとが互いに重合された時に,前
記記録テープ(70)から離れた一方の粘着層上に設けられ
剥離層(111)とからなり,
7V’前記装置が,更に,前記媒体搬送通路に沿う位置で,前記
記録手段(72)の下流に配置された切断機構からなり,そ
の切断機構は,前記記録テープと前記バッキングテープの双
方を切断するための完全切断刃(152)と,前記バッキン
グテープ(剥離層)のみを切断するための部分切断刃(15
4,156)とからなる。
(イ)新規性
a一審被告は,海外特許1には欧州特許EP319209号又は欧州
特許EP●●号(ダイモ契約権利2)との関係で新規性欠如の無効事
由がある旨主張するので,以下この点について判断する。なお,後記
3(2)イ(カ)のとおり,海外特許1の請求項(補正後)7及び8は本件
被告製品において実施していないものと認められるので,以下におい
ては請求項1~6の新規性の有無についてのみ判断する。
bまず,ダイモ契約権利2(欧州特許EP●●号)との関係における
,(),新規性について検討するにダイモ契約権利2の明細書●●には
少なくとも海外特許1の請求項1の7D’の構成(前記記録媒体のオ
ペレータから離れた側に,前記インクリボンを用いてプリントする記
録手段)は開示されていないから,ダイモ契約権利2によって海外特
許1の請求項1~6が新規性を喪失する余地はない。
したがって,ダイモ契約権利2との関係において海外特許1の新規
性がない旨の一審被告の主張は,その余を検討するまでもなく,採用
することができない。
c次に,欧州特許EP319209号との関係における新規性につい
て検討する。
この点,海外特許1の出願日は1988年〔昭和63年〕10月2
7日であり,優先権主張日は1987年〔昭和62年〕10月31日
(実願昭62-167673号・実開平1-72361号の出願日,
乙77,1987年〔昭和62年〕12月21日(第5発明の出願)
日,乙78)であるのに対し,欧州特許EP319209号の出願日
は1988年〔昭和63年〕11月25日,優先権主張日は1987
年〔昭和62年〕11月28日(実願昭62-181307号・実開
平1-85050号の出願日,甲2の7)である。
このうち,海外特許1の優先権主張の基礎とされた上記実願昭62
-167673号(実開平1-72361号)の明細書(乙77)に
は,少なくとも海外特許1の請求項1における7D’の構成(前記記
録媒体のオペレータから離れた側に,前記インクリボンを用いてプリ
)(,ントする記録手段が開示されておらず乙77の第5図においては
記録媒体のオペレータ側にインクリボンを用いてプリントする記録手
段があるのみである,これを同請求項との関係で優先権主張の基礎)
とすることはできないし,また同請求項2~6は同請求項1の従属項
であるから,結局のところ,上記実願昭62-167673号(実開
平1-72361号)の優先権主張は,海外特許1の請求項1~6と
の関係で意味を持つものではない。
,(「」。)また欧州特許付与に関する条約以下欧州特許条約という
87条(4)は,最先の先の出願と同一の対象についてなされた後の出
願についてのみ優先権の効力を認めるものであるから,同一出願者に
よる更に先の出願において後の出願に係る主題が開示されていた場合
には,当該更に先の出願に既に開示されていた主題に関する限り,優
先権の主張は無効になるものと解される。
そして,特願昭62-292729号(発明の名称「反転印字を行
うテープ印字装置,出願人一審被告,出願日1987年〔昭和6」
2年〕11月19日)の明細書(乙156)には,海外特許1の請求
(),項1~6の構成が開示されておりこの点は当事者間に争いがない
したがって,これより後に出願された,海外特許1に係る上記第5発
明に基づく優先権主張及び欧州特許EP319209号に係る上記実
願昭62-181307号(実開平1-85050号)に基づく優先
権主張は,いずれも最先の先の出願によるものということはできない
から,欧州特許条約87条(4)に該当せず,いずれも無効といわざる
を得ない。
そうすると,欧州特許EP319209号との関係における海外特
許1の新規性は両特許の現実の出願に基づき判断されることになるか
ら,欧州特許EP319209号の明細書に海外特許1の請求項1~
6の構成が開示されていたとしても,これにより先に現実の出願がな
されている海外特許1の請求項1~6の構成に係る発明が新規性を欠
くことにはならない。
したがって,欧州特許EP319209号との関係において海外特
,。許1の新規性がない旨の一審被告の主張も採用することができない
(ウ)進歩性
一審被告は,海外特許1には乙11の5刊行物及び乙13の5刊行物
の存在から進歩性が否定される旨主張するが,海外特許1に対応する国
内特許である第2発明及び第5発明に関して前記イ及びエに説示したと
ころに照らし,採用することができない。
カ海外特許2
海外特許2に無効事由があると認めることはできない。このことは,海
外特許2に対応する国内特許である第2発明及び第5発明に関して前記イ
及びエに説示したところに照らして明らかである。
これに対し一審被告は,海外特許2の請求項2~8,11及び12の各
発明は,乙11の5刊行物を主たる引用例として新規性又は進歩性を欠如
する旨主張する。
しかし,海外特許2の上記各発明は,印字手段(構成8C等)を備える
テープ印字装置(構成8A等)であるところ,一審被告の提出に係るu鑑
定意見(乙191)が「…海外特許2の明細書には,印字手段を構成す,
る構造としてサーマルプリントヘッド172とプラテンローラ及びプリン
トリボン174からなる印字部114と,印字する画像の向きや順番を制
御するCPU,ROM,RAM等を含むコントロールシステムが記載され
ているから,構成要件8Cの印字手段は,これらのもの及びその均等のも
のに限定解釈される(29頁訳文1行~5行)と述べるとおり,海外特。」
許2の印字手段は上記のとおり限定解釈されるべきである。これに対し,
乙11の5刊行物に開示された技術は,フレキソ,オフセット,凸版,グ
ラビア等の通常シール印刷に用いられる一般的な意味での印刷を予定した
ものと認められるから,この点において両者は相違する。そして,乙11
の5刊行物には「全ての実施例にわたり,印刷装置は通常シール印刷に,
用いられる,フレキソ,オフセット,凸版,グラビア等その他あらゆる方
式が可能である…」と記載されているものの,当該記載は,通常シール印
刷に用いられるフレキソ,オフセット,凸版,グラビア等の方式が可能で
あることを開示するに止まり,あらゆる印字方式が可能であることまでを
示唆するものではない。
そうすると,インクリボンとサーマルヘッドを備えた印字機構が,乙8
3刊行物,乙11の1刊行物,乙88刊行物に開示されるとしても,これ
らに開示される印字機構を乙11の5刊行物記載の発明に用いて左右反転
印字を行うことが自明であるということはできない。
したがって,一審被告の上記主張は採用することができない。
キ海外特許3
。,(ア)海外特許3に無効事由があると認めることはできないこのことは
海外特許3に対応する国内特許である第2発明及び第5発明に関して前
記イ及びエに説示したところに照らして明らかである。
これに対し一審被告は,乙11の5刊行物には,海外特許3の請求項
1の構成要件9A~9C,9H,9Iのすべてと,9E~9Gの主要部
が開示されており,構成要件9Dのみが開示されていないが,構成要件
9Dのリボン送り手段は,サーマルヘッドを有する印字装置においては
周知であり(乙88,乙11の1,乙83等,この周知技術を構成要)
件9Eの印字手段に代替することにより,海外特許3の請求項1の構成
要件9A~9Iを有するテープ印字装置は容易に想到し得る,と主張す
る。
しかし,乙11の5刊行物には,海外特許3請求項1の構成9Dのみ
ならず,少なくとも,9B,9Eが開示されていない。なお構成9Bに
つき,u鑑定意見(乙191)は「印刷した画像を確認できるように装,
置を構成するのが通常であるので,テープの上方側がオペレータ側であ
ると認識される(57頁第2段落)とするが,乙11の5刊行物に開。」
示された技術は,フレキソ,オフセット,凸版,グラビア等の通常シー
ル印刷に用いられる一般的な意味での印刷を予定したものと解されると
ころ,かかる技術において印刷した画像を確認できるように装置を構成
することが通常であるとの根拠がなく,テープの上方側がオペレータ側
であると認識することはできない。
そして,これら構成が当業者にとって容易想到であるというべき根拠
を見いだせないから,請求項1が進歩性を欠如するものということはで
きないし,海外特許3の請求項2~7は請求項1を引用するものである
から,これと同様に,進歩性を欠如するものということはできない。
したがって,一審被告の上記主張は採用することができない。
(イ)一審被告は,請求項8の発明は,請求項1の構成要件9A~9Iか
ら構成要件9D及び9Fを除いたものとほぼ同等であり,それらの構成
要件はすべて乙11の5刊行物に開示又は示唆されており,新規な構成
は存在しないから,請求項8も進歩性を有しないと主張するが,乙11
の5刊行物には,少なくとも,海外特許3請求項8の構成9B,9E'’
が開示されておらず,これらの構成が当業者にとって容易想到であると
いうべき根拠を見いだせないから,請求項8が進歩性を欠如するものと
いうことはできない。また,海外特許3の請求項9は,請求項8を引用
するものであるから,これと同様に,進歩性を欠如するものということ
はできない。
したがって,一審被告の上記主張は採用することができない。
(ウ)一審被告は,請求項11の発明は,請求項8の発明とほぼ同等であ
り「記録手段としての印字ヘッドがドットマトリックス方式である」,
ことを限定しているが,この方式はサーマルヘッドにおいては通常であ
り,周知の事項であるから,請求項11も進歩性を有しないと主張する
が,乙11の5刊行物には,少なくとも,海外特許3請求項11の構成
9B″,9E″が開示されておらず,これら構成が当業者にとって容易
想到であるというべき根拠を見いだせないから,請求項11が進歩性を
欠如するものということはできない。
したがって,一審被告の上記主張は採用することができない。
クまとめ
以上のとおりであるから,第1発明・第2発明・第5発明・海外特許1
~3には無効事由はなく有効であるが,第3発明には無効事由があるとい
うことになるので,後に述べる仮想実施料率等の算定に際し考慮すること
とする。
3本件各発明により一審被告が受けるべき利益──自己実施分
(1)総論
ア一審原告らの本訴請求は,前記のとおり,特許法旧35条3,4項に基
づき(ただし,海外特許についてはその類推適用,本件各発明の譲渡対)
価としての「相当額」の支払等を求めるものであるが,そのうち,まず使
用者たる一審被告が自らその発明を実施した分(自己実施分)について検
討する。
「」イ特許法旧35条4項のその発明により使用者等が受けるべき利益の額
は,特許を受ける権利が将来特許を受けることができるか否かも不確実な
権利であり,その発明により使用者等が将来得ることができる独占的実施
による利益の額をその承継時に算定することが極めて困難であることから
すると,当該発明の独占的実施による利益を得た後の時点において,これ
らの独占的実施による利益をみてその法的独占権に由来する利益の額を認
定することも,同条項の文言解釈として許容されると解する。
そして使用者等は,職務発明について特許を受ける権利又は特許権を承
継することがなくとも当然に当該発明について同条1項が規定する通常実
施権を有することに鑑みれば,同条4項にいう「その発明により使用者等
が受けるべき利益の額」は,自己実施の場合は,通常実施権(法定通常実
施権)の行使による利益を超えたものより得た利益と解すべきである。
,「」「」したがってここでいう独占的実施による利益ないし独占の利益
とは,一般的には,特許権者が他社に実施許諾をせずに当該特許発明を独
占的に実施している場合(自己実施の場合)における,他社に当該特許発
明の実施を禁止したことに基づいて使用者が挙げた利益,すなわち,他社
に対する禁止権の効果として,他社に実施許諾していた場合に予想される
売上高と比較してこれを上回る売上高(以下,売上げの差額を「超過売上
げ」という)を得たことに基づく利益(法定通常実施権による減額後の。
もの)が,これに相当するものということができる。
また,特許権者が,当該特許発明を実施しつつ,他社に実施許諾もして
いる場合において,当該特許発明の自己実施分について,実施許諾を得て
いない他社に対する特許権による禁止権を行使したことにより超過売上げ
が生じているとみるべきかどうかについては,事案により異なるものとい
うことができる。すなわち,①特許権者は特許法旧35条1項により,自
己実施分については当然に無償で当該特許発明を実施することができ(法
定通常実施権,それを超える実施分についてのみ「超過売上げを得たこ)
とに基づく利益」を算定することができるのであり,通常は50~60%
程度の減額をすべきであること,②当該特許発明が他社においてどの程度
実施されているか,当該特許発明の代替技術又は競合技術としてどのよう
なものがあり,それらが実施されているか,③特許権者が当該特許につい
て有償実施許諾を求める者にはすべて合理的な実施料率でこれを許諾する
方針を採用しているか,あるいは,特定の企業にのみ実施許諾をする方針
を採用しているか,などの事情を総合的に考慮して,特許権者が当該特許
権の禁止権による超過売上げを得ているかどうかを判断すべきである。
エそこで,自己実施の場合における特許法旧35条4項の「その発明によ
り使用者等が受けるべき利益」の額を本件の場合に即して検討すると,次
のような手順になると考えられる。すなわち,①一審被告が販売している
一審被告製品のうちで一審被告が本件各発明を実施している製品はどれ
か,②上記①が肯定された商品の具体的な売上高はどれくらいか,③上記
②が肯定された売上高の中で法定通常実施権の行使による売上高を超える
売上高(超過売上高)の割合,④利益率又は仮想実施料率,⑤一審被告製
品の中に使用されている発明の中における本件各発明の寄与度。
なお,法定通常実施権について定めた特許法35条1項は日本国特許権
についての規定であり,外国特許たる海外特許1~3については同旨の規
定を置いていない国(例えば米国)もあるが,外国特許についても職務発
明報酬請求という債権関係の処理においては日本国特許法旧35条3,4
項が類推適用されるとする当裁判所の見解に立てば,日本人たる一審原告
らが日本法人たる一審被告に対し,社会的事実としては実質的に一個と評
価される本件各発明から生じる職務発明報酬請求という場面においては,
海外特許1~3に関する部分についても,日本国特許たる第1発明以下と
同じく日本国特許法35条1項を類推適用し,法定通常実施権の存在を前
提とした減額をすべきものと解される。
以下順次検討する。
(2)一審被告による本件各発明自己実施の有無
一審被告は,本件被告製品につき本件各発明を自ら実施していることはな
いと主張し,これに対し一審原告らは,一審被告が本件各発明を自ら実施し
ていると主張するので,以下検討する。
アラベルライター本体・テープカセットと本件各発明との関係
第1発明~第3発明,第5発明,海外特許1~3の各印字装置は,本体
部分の構成とテープ部分の構成とが密接不可分に関連して作用効果を奏す
る点に技術的意義を有するものである。
,(,,,,,,これに対し証拠甲929~4147104115118
,,,,,,,119140~142乙363799110117~121
249,250)及び弁論の全趣旨によれば,本件被告製品は,ラベルラ
イター本体部分とテープカセット部分とが構造上分離可能であるととも
,,,に両者は独立して製造・販売される場合があり得るもののその性質上
本体及びテープカセットの両者を組み合わせて使用しなければおよそ用を
なさず,そのため,構造上両者は容易に脱着できるように設計され,使用
方法も本体を購入した者がこれに適合するテープカセットを自らの用途に
応じて選択するとともに自らこれを装着して使用することが予定されてお
り,一審被告がラベルライター本体又はテープカセットを製造・販売する
,。行為もこのような使用方法を当然の前提とするものであると認められる
後記(3)のとおり,当審における本件被告製品の売上高の認定も「本体売,
上高」とあるのは,ラベルライター本体とテープカセットが同梱されて販
売された本件被告製品の売上げを指し「テープ売上高」とあるのは,補,
給交換用のテープカセットの売上高を指すものである。
したがって,以下においては,特定の対象品群同士のラベルライター本
体とテープカセットとを組み合わせた製品(原判決別紙「本件被告製品一
覧表1(ラベルライター本体」と同「本件被告製品一覧表2(テープカ)
セット」の各発明欄ないし「EP「USP」欄におけるアルファベット)」
の記載が符合するもの同士を組み合わせた製品)の製造販売が本件各発明
を実施したものに当たるかについて検討する。
イラベルライター本体とテープカセットとを組み合わせた製品による本件
各発明の実施の有無
(ア)第1発明
第1発明の実施の有無については,原判決「事実及び理由」第3(当
裁判所の判断,2(1)イ(172頁以下)のとおりであるから,これを)
引用する。
すなわち,対象品群aは第1発明を実施したものに該当すると認めら
れる。
これに対し一審被告は,原判決の構成要件「1E」の解釈の誤り(そ
の1)として,原判決が認定するようにテープごとに異なる色で印字さ
れたものをユーザーが組み合わせて対象物に転写することは実現不可能
である旨主張するが,これが不可能であると認めるに足りる証拠はない
し,一審被告が主張するように,一審被告の解釈によった場合の方が作
,,業性がよく等間隔かつ整列された文字列の転写が可能となるとしても
そのことから直ちに第1発明の構成要件1Eを一審被告主張のとおりに
限定解釈すべきものではないから,一審被告の上記主張は採用すること
ができない。
また一審被告は,原判決の構成要件「1E」の解釈の誤り(その2)
として,原判決は特許異議決定(乙6)の解釈において論理的に誤って
いる旨主張する。しかし,異議決定においてインクリボンのみを着脱自
在とすることに進歩性がない旨判断されたとしても,そのことから直ち
に構成要件「1E」について特定の解釈が導かれるものではないから,
この点に関する一審被告の主張は採用することができない。
(イ)第2発明
第2発明の実施の有無については,原判決「事実及び理由」第3(当
裁判所の判断,2(1)ウ(174頁以下)のとおりであるから,これを)
引用する。
すなわち,対象品群bは,対象品群bのラベルライター本体に「クリ
アタイプ」のテープカセットを組み合わせたものを除き,いずれも第2
発明を実施したものに該当すると認められる。なお,弁論の全趣旨によ
れば,本体販売時に同梱されるテープはクリアタイプ以外のテープであ
ると認められるから,除外されるのはテープカセットの売上げのみであ
る。
【除外製品】
クリアタイプのテープカセット
これに対し一審被告は,第2発明は限定解釈しない限り乙11の5刊
行物との関係で無効となる旨主張するが,第2発明が乙11の5刊行物
との関係で無効事由があるといえないことは前記2のとおりであるか
ら,一審被告の上記主張は採用することができない。
(ウ)第3発明
対象品群gが第3発明を実施したものであることは,当事者間に争い
がない。
(エ)第5発明
a第5発明の実施の有無については,以下のとおり当審において非実
施の機種を付加するほかは,原判決「事実及び理由」第3(当裁判所
の判断,2(1)エ(176頁以下)のとおりであるから,これを引用)
する。
b対象品群bのうちPT-12098番PT-160SP1,(),(
00番,PT-170(191番,PT-200(74番)の各ラ))
ベルライター本体に同対象品群のテープカセットを組み合わせた製品
については,構成要件5h(透明印字テープをその長手方向に沿って
筐体の右から左へ搬送する仕組み)を充足することを認めるに足りる
証拠はないから,第5発明を実施したものに該当するとは認められな
い(品番に付記した番号は,原判決別紙「本件被告製品一覧表1(ラ
ベルライター本体」の各番号欄の番号を指す。以下同じ。))
cしたがって,対象品群bは,以下の除外製品と対象品群bのテープ
カセットを組み合わせた製品を除き,第5発明を実施したものに該当
する。なお,上記組合せはテープを同梱した本体分の場合と,除外製
品のための補給交換用としてテープカセット分を購入する場合の双方
が考えられるから,除外されるのは両方の売上げである。
【除外製品】
・印字ヘッドの配置が異なるもの
PT-18N(96番の一部)
・パソコン接続専用モデル
PT-PC(36番,PT-9200PC(83番,PT-2))
500PC(85番,PT-1500PC(86番,PT242))
0PC(87番,PT-9500PC(88番,Labello))
PC(188番)
・印字テープの搬送方向が異なるもの(請求項2のみ非実施)
PT-240(95番,PT-120(98番,PT-160))
SP(100番,PT-170(191番,PT-200(74))
番)
(オ)第3考案
対象品群fは,平成6年10月ころ以降,タカラ社にOEM供給して
販売された「ルシール」シリーズに係るものであるが,これらは一審被
告が第3考案を実施したものに該当するとは認められない。その理由は
原判決「事実及び理由」第3(当裁判所の判断,2(1)オ(180頁以)
下)のとおりであるから,これを引用する。
(カ)海外特許1
a海外特許1の実施の有無については,原判決「事実及び理由」第3
(当裁判所の判断,2(1)カ(183頁)において海外特許1の技術)
的範囲に属さないものと認定されたもののほか,以下のとおり,非実
施の機種を付加する。
なお,前記のとおり,海外特許1の構成要件に関する原判決の認定
は補正前の内容(公開公報の内容)に基づくものであり,正しくは前
記2(3)オのとおりであるが,両構成を対比すれば明らかなとおり,
上記補正は,表現に若干の変更はあるものの,実質的には従前の請求
項1と3を合わせたものを請求項1とし,従前の請求項4,11ない
し13を削除し,従前の請求項5ないし10を請求項3ないし8に繰
り上げたものである。
b対象品群nのうち,PT-200(シリーズ(74番,PT-1))
200(シリーズ(75番,PT-220(76番,PT-24)))
80(80番,PT-2460(82番)の各ラベルライター本体)
に同対象品群のテープカセットを組み合わせた製品については,請求
項1の印字テープの搬送方向に関する構成要件7C’ないし7E’に
相当する構成を有すると認めるに足りる証拠はないから,海外特許1
を実施したものに該当するとは認められない。
c対象品群nにおけるパソコン接続専用機種PT-2420PC(8
7番)と対象品群oのすべての製品が,海外特許請求項1における7
E’のプリント制御に係る構成を充足せず,したがって海外特許1を
実施したものでないことは,当事者間に争いがない。
d対象品群n及びoのすべての製品について,請求項7の構成要件7
S(切換手段)及び請求項8の構成要件7V(部分切断刃)に相当’’
する構成を有すると認めるに足りる証拠はないから,海外特許1の請
求項7及び8を実施したものに該当するとは認められない。
e対象品群nのうち以上bないしdに挙げた機種以外の機種が海外特
許1の請求項1~6の構成要件を充足することは当事者間に争いがな
い。
fこれらをまとめると,除外製品は以下のとおりであり,対象品群n
は,ラベルライター本体につき以下の除外製品と同対象群のテープカ
セットを組み合わせた製品を除き,海外特許1を実施したものに該当
すると認められ,また対象品群oのすべての製品は海外特許1を実施
。,,したものに該当するとは認められないなお対象品群nについては
上記組合せはテープを同梱した本体分の場合と,除外製品のための補
給交換用としてテープカセット分を購入する場合の双方が考えられる
から,除外されるのは両方の売上げである。対象品群oは本体しかな
いため,除外されるのは本体の売上げのみである。
【除外製品】
・パソコン接続専用モデル
PT-2420PC(87番,すべての対象品群oの機種)
・印字テープの搬送方向が異なるもの
()(),()PT-200シリーズ74番PT-1200シリーズ
(75番,PT-220(76番,PT-2480(80番,)))
PT-2460(82番)
・切換手段及び部分切断刃の構成が異なるもの(請求項7及び8の
み非実施)
すべての対象品群n及びoの製品
(キ)海外特許2
海外特許2の実施の有無については原判決事実及び理由第3当,「」(
裁判所の判断,2(1)キ(185頁以下)のとおりであるから,これを)
引用する。
すなわち,対象品群jは海外特許2の請求項2~8,11及び12を
実施したものに該当すると認められるが,同請求項9を実施したものと
は認められない。
(ク)海外特許3
a海外特許3の実施の有無については,以下の除外製品と対象品群j
,,のテープカセットを組み合わせた製品を除き海外特許3の請求項1
2,4~6,8,9及び11を実施したものに該当することは,当事
。,,者間に争いがないまた対象品群Jの製品が海外特許3の請求項3
7,10を実施したものでないことは,当事者間に争いがない(一審
被告は原判決が海外特許3の請求項3の実施を認定した旨主張する
が,原判決は請求項3の実施を認定していない。。)
なお,上記組合せはテープを同梱した本体分の場合と,除外製品の
ための補給交換用としてテープカセット分を購入する場合の双方が考
えられるから,除外されるのは両方の売上げである。
b除外製品
・パソコン接続専用モデル
(),(),PT-9200PC同83番PT-9200DX84番
(),(),PT-2500PC同85番PT-1500PC同86番
PT-9500PC(同88番)
・印字テープの搬送方向が異なるもの
ST-1150(57番,PT-1130(58番,PT-1))
170(59番,PT-1180(60番,PT-11Q(61))
番,PT-1160(63番,PT-200(シリーズ(74)))
番,PT-1200(シリーズ(75番,PT-1400(シ)))
リーズ(78番,PT-1600(79番)))
ウ小括
以上をまとめると,本件被告製品における本件各発明の実施の有無は,
次のとおりとなる。
(ア)ラミネート発明の実施
a国内のラミネート発明(第2発明及び第5発明)は,第2発明につ
いては対象品群bのすべての本体において実施されるとともに,前記
イ(イ)(第2発明)の除外製品に係るテープカセットを除いた対象品
,,群bのテープカセットにおいて実施されており第5発明については
前記イ(エ)(第5発明)の除外製品に係る本体とこれに組み合わせる
補給用のテープカセットを除き,その余の対象品群bの本体・テープ
カセットにおいて実施されている。
したがって,国内のラミネート発明全体としてみれば,対象品群b
のすべての本体において第2発明又は第5発明のいずれかの実施が認
められることになり,また対象品群bのテープカセットにおいては,
第2発明と第5発明の両者で除外製品とされるテープカセット(前記
イ(エ)〔第5発明〕の「印字ヘッドの配置が異なるもの」又は「パソ
コン接続専用モデル」に係る製品本体に組み合わせる補給用のテープ
カセットであって,かつ「クリアタイプ」であるもの。なお「印字,,
テープの搬送方向が異なるもの」に係る製品本体と,これに組み合わ
せる補給用のテープカセットは,いずれも請求項1の実施が認められ
る)においては実施が認められないが,その余のテープカセットに。
おいて実施が認められる。
b欧州特許国に係るラミネート発明(海外特許1)については,対象
品群nの前記イ(カ)(海外特許1)の除外製品のうち「パソコン接続
専用モデル」及び「印字テープの搬送方向が異なるもの」に係る本体
と,これに組み合わせる補給用のテープカセットにおいては,いずれ
も実施が認められないが,その余の本体及びテープカセットにおいて
は実施が認められる(なお「切替手段及び部分切断刃の構成が異な,
るもの」に係る製品本体と,これに組み合わせる補給用のテープカセ
ットは,いずれも海外特許1の請求項7及び8を実施していないが,
他の請求項において実施が認められる。他方,対象品群oの全製品。)
(対象品群oは本体のみ)においては,海外特許1の実施は認められ
ない。
c米国に係るラミネート発明(海外特許2,3)については,海外特
許2は対象品群jの全製品(本体及びテープカセット)において実施
しており(一部の請求項において実施が認められないとしても,他の
いずれかの請求項において実施が認められる,海外特許3は対象品。)
群jのうち前記イ(ク)の除外製品に係る本体及びテープカセットを除
いた本体及びテープカセットにおいて実施している。
したがって,米国のラミネート発明全体としてみれば,対象品群j
の全製品(本体及びテープカセット)において実施していることにな
る。
(イ)第1発明の実施
,()第1発明については対象品群aの全製品本体及びテープカセット
を実施している。
(ウ)第3発明の実施
,()第3発明については対象品群gの全製品本体及びテープカセット
を実施している。
(エ)第3考案の実施
,()第3考案については対象品群fの全製品本体及びテープカセット
を実施していない。
(3)売上高の算定
ア本件被告製品の売上げ総額及びその内訳
(),,前記1本件における基礎的事実関係に認定したとおり一審被告は
原判決別紙「本件被告製品一覧表1(ラベルライター本体」及び「本件)
被告製品一覧表2(テープカセット」記載の各製品(本件被告製品)を)
,,「()」製造・販売しその売上高は原判決別紙相当対価算定表自己実施分
の表1-1「本件被告製品の売上高」のとおりである。
そして,弁論の全趣旨によれば,上記売上高に平成16年会計年度分を
加え,かつ,当該売上高の生産地(日本・中国)及び販売先別(日本・米
国・欧州特許国・その他)の売上げの内訳を示すと,本判決別紙「本件被
告製品の売上高(自己実施分」のとおりであると認められる。)
なお,同別紙において「欧州特許国」とあるのは海外特許1の指定国で
あるドイツ,フランス,イギリス,イタリアの4か国を「その他」とあ,
るのは米国を除く北米及び南米,欧州特許国を除く欧州諸国,日本を除く
アジア諸国及びオセアニア諸国等,本件各発明に係る特許の効力の及ばな
い国を指す。
また,同別紙において「本体売上高」とあるのは,ラベルライター本体
とテープカセットが同梱されて販売された本件被告製品の売上げを指し,
「テープ売上高」とあるのは,補給交換用のテープカセットの売上高を指
す。
イ子会社販売による売上高の修正
(ア)子会社を経由して販売した場合の売上高の算定方法
発明の自己実施の方法(実施品の販売方法)として,一審被告から第
三者に実施品を直接販売するのではなく,製造会社である一審被告から
子会社である販売会社に一旦実施品を売却した上,当該販売子会社にお
いて第三者に実施品を販売するという販売方法を採ることがあり得る
が,このような販売方法を採用した結果,子会社に対する販売価額と第
三者に対する販売価額が異なることが考えられる。このような場合,子
会社に対する販売価額の決定にはグループ企業内における利益(損失)
の調整等,当該製品の客観的価値以外の要素が加味されることがあるこ
とからすると,少なくとも当該子会社が一審被告の100%子会社であ
る場合には,独占的実施による利益を認定する基礎となる売上高は,当
該子会社に対する販売価額ではなく,当該子会社が第三者に販売した価
額に基づき算定するのが相当である。
(イ)国内販売分の係数
以上の見地に立って本件についてみると,証拠(乙213)及び弁論
の全趣旨によれば,国内における本件被告製品の販売はブラザー販売株
式会社が行っていたところ,同社は平成11年4月1日に一審被告の完
全子会社となったことが認められ,また,その場合の当該子会社の販売
価額は,一審被告の販売価額に対して本体で●●倍,テープカセットで
●●倍であったと認められる。
したがって,少なくとも平成11年4月1日以降の国内売上高につい
ては,上記係数を乗じて算定するのが相当である。
(ウ)欧州特許国販売分の係数
証拠(乙213)及び弁論の全趣旨によれば,欧州特許国(海外特許
1の指定国であるイギリス,イタリア,ドイツ,フランスの4か国)に
おける本件被告製品の販売はブラザーインターナショナルヨーロッパ
(),,BIE等一審被告の100%子会社である販売会社が行っており
その場合の当該子会社の販売価額は,一審被告の販売価額に対して本体
で●●倍,テープカセットで●●倍であったと認められる。
したがって,欧州売上高については,上記係数を乗じて算定するのが
相当である。
(エ)米国販売分の係数
証拠(乙213)及び弁論の全趣旨によれば,米国における本件被告
製品の販売はブラザーインターナショナルコーポレーションUSA(B
ICUSA)等,一審被告の100%子会社である販売会社が行ってお
り,その場合の当該子会社の販売価額は,一審被告の販売価額に対して
本体で●●倍,テープカセットで●●倍であったと認められる。
したがって,米国売上高については,上記係数を乗じて算定するのが
相当である。
(オ)その他特許不存在国販売分の係数
弁論の全趣旨によれば,上記(ウ)・(エ)以外のその他特許不存在国(米
国を除く北米及び南米,欧州特許国を除く欧州諸国,日本を除くアジア
,)諸国及びオセアニア諸国等本件各発明に係る特許の効力の及ばない国
における販売は,一審被告の100%子会社である販売会社が行ってお
り,その場合の当該子会社の販売価額は,一審被告の販売価額に対して
本体で●●倍であったと認められる(なお,後記(4)のとおり,テープ
カセット販売分については超過売上高の存在を認めることはできな
い。。)
したがって,その他特許不存在国の売上高については,上記係数を乗
じて算定するのが相当である。
(カ)一審原告らの主張に対する判断
一審原告らは,上記各係数とは異なる係数をもって売上高を修正すべ
きである旨主張するが,同主張に係る係数の正確性を裏付ける的確な証
拠はないから,上記(ア)~(エ)に認定したとおり,一審被告が主張する各
係数の限度で売上高を修正するのが相当である。したがって,一審原告
らの上記主張は採用することができない。
ウその他の修正要素
(ア)ルシール非実施による修正
前記アの本体・国内販売分の売上高には非実施であるルシールの売上
げ(対象群fの売上げ)が含まれているため,相当対価の算定に当たっ
,。てはルシール分の売上げを控除した売上高を基礎とすべきこととなる
その範囲は,原判決(231頁)と同様,平成7年12月支払期以降
の本体分の国内売上げから●%を控除して計算するものとする。
(イ)本体分の修正(第1発明・第3発明の実施割合)
前記アの本体の売上高は本件被告製品の全売上高であるため,本件各
発明ごとの相当対価を算定するためには,上記売上高に占める各発明の
実施割合を乗じて算出した個別の売上高を基礎とすべきこととなる。
本体分の売上高に占める第1発明の実施割合は,原判決(232頁)
と同様,●%と認める。
本体分の売上高に占める第3発明の実施割合は,原判決(232頁)
と同様,●%と認める。
(ウ)テープカセット分の修正(ラミネート比率による修正)
前記アのテープカセットの売上高には,ラミネート発明の実施に係る
ラミネートテープの売上分,第1発明の実施に係るインレタテープの売
上分,その他非実施の売上分等が含まれることとなり,本件各発明ごと
の相当対価を算定するためには,上記売上高に占める本件各発明の実施
割合を乗じて算出した個別の売上高を基礎とすべきこととなる。
全テープカセットの売上分に占めるラミネートテープの比率(実施割
合)は,原判決(231頁)と同様,国内分は●%,海外分は●%と認
める。
全テープカセット売上分に占める第1発明の実施割合は,原判決(2
32頁)と同様,国内分は●%と認める(なお,後記(4)エのとおり,
第1発明のテープカセット・海外売上分に超過売上高の存在は認められ
ない。。)
(エ)その他非実施分の修正
なお,前記(2)ウ(ア)(ラミネート発明)のとおり,国内のラミネート
発明(第2発明及び第5発明)は,テープカセットとの関係では,対象
品群bのテープカセットのうち第2発明と第5発明の両者で除外製品と
されるもの(前記(2)イ(エ)〔第5発明〕の「印字ヘッドの配置が異なる
もの」又は「パソコン接続専用モデル」に係る製品本体に組み合わせる
補給用のテープカセットであって,かつ,前記(2)イ(イ)〔第2発明〕の
クリアタイプであるもの)において実施がない。そこで,テープカセ。
ットとの関係において第2発明及び第5発明の実施を前提として超過売
上高を算定する場面(具体的には,後記(4)エ〔生産地・販売地からみ
た超過売上高減額の要否〕において説示するとおり,国内販売分のテー
プカセット分の超過売上高がこれに該当)においては,前記ア(本件被
告製品の売上げ総額及びその内訳)において認定したテープカセット売
上高(具体的には国内販売合計〔日本生産及び中国生産〕の額)からこ
,,の非実施分に相当する額を控除すべきことになるがこの点については
本件各発明の寄与度に係る後記(6)イ(ア)(ラミネート発明の寄与度)の
国内販売分の寄与度において考慮することにする。
また,欧州特許国販売との関係では,対象品群oの本体すべてと,対
象品群nの本体のうち「パソコン接続専用モデル」及び「印字テープの
搬送方向が異なるもの(前記(2)イ(カ)〔海外特許1〕参照)に係る除」
外製品と,これと組み合わせる補給用のテープカセットの両者において
実施がないことから,本体又はテープカセットとの関係において海外特
許1のみの実施を前提として超過売上高を算定する場面(具体的には,
後記(4)エ(イ)〔欧州特許国販売分の超過売上高〕のうち,a(b)〔中国
生産の本体〕とc〔テープカセットの売上げにおける海外特許1に基づ
く超過売上高〕がこれに該当)においては,前記ア(本件被告製品の売
上げ総額及びその内訳)において認定した本体又はテープカセット売上
高(具体的には本体売上高に係る欧州特許国販売〔中国生産〕と,テー
プカセット売上高に係る欧州特許国販売合計〔日本生産及び中国生産〕
の額)からこの非実施分に相当する額を控除すべきことになるが,この
点については,本件各発明の寄与度に係る後記(6)イ(ア)(ラミネート発
)。明の寄与度の欧州特許国販売分の寄与度において考慮することにする
(4)超過売上高の割合
ア総論
前記(1)(総論)でも述べたように,従業者が職務上なした発明につき
使用者たる一審被告は,従業者から譲渡を受けなくとも当然に通常実施権
(法定通常実施権)を有し,自己実施としての販売等をすることができる
のであるから,当該発明の譲渡を受けたときに従業者に支払うべき報酬の
額は,国内特許か外国特許かを問わず,通常は50%前後の減額をすべき
ことになる。そこで,本件について,法定通常実施権としての自己実施を
超える売上高(超過売上高)の割合はどの程度かにつき,以下,具体的に
検討する。
イ本件における個別事情
(ア)ラミネート発明に関する事情
aラミネートテープの優位性に関する事情
(,,,,,証拠甲2の2・5・7920の4・5・7105106
113の1~11,115,118の1~3,120の1~9,12
1~123,146の1~3,354~361の各1・2,乙92~
95,114~119)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認
められる。
・ラミネート発明(第2発明,第5発明,海外特許1~3)の構成
要件は,原判決「事実及び理由」第2(事案の概要,1(前提事)
実,(3)イ,エ,カ~ク(5頁以下)のとおりである。)
これらラミネート発明は,インクリボン,透明印字テープ及び剥
離紙付き両面粘着テープを備え,印字ヘッドによりインクリボンを
介して透視性を有するテープに反転印字し,その印字面に剥離紙付
き両面粘着テープを貼り付けることにより,透明印字テープ-印字
面-粘着層-テープ基材-粘着層-剥離紙からなるラミネートテー
プ(以下「本件ラミネートテープ」という)の作成に関する発明。
である点で共通する。このようなラミネート発明は,ラベルを作成
する印字装置において,上記ラベル作成に必要な機構(印字機構,
テープ送り機構,リボン巻取機構等)を一つのハウジング内に収納
するという基本的構成を採用することにより,透視性を有するテー
プが単に被印字体としてのみならず印字部を保護する保護フィルム
としても機能するため,印字につき「消え」や「かすれ」の問題が
解消されることや,機構部がすべてハウジング内に収容されて保護
されていることにより,一般使用者の使用に適するとともに,コン
パクトで見栄えのよいテープ印字装置を得られるなどといった作用
効果が得られる。
・上記のとおり,本件ラミネートテープは,透視性を有するテープ
が単に被印字体としてのみならず印字部を物理的に保護する保護フ
ィルムとしても機能するため,印字部分の耐久性・保存性に優れて
いる。これに対し,テープに直接印字する非ラミネートタイプはこ
のような保護機構が存在しないため印字面が露出することになり,
そのような構造上,薬品や摩擦等の印字面に対する外部からの刺激
に対する物理的耐久性・保存性の点では本件ラミネートテープに及
ばない。もっとも,実用性という観点から見た場合,初期の非ラミ
ネートタイプのラベル作成機においてはテープの印字部分を手でこ
すっただけで消えてしまったりするなど,十分な実用性を有してい
ないものがあったのに対し(甲105,106,近時の非ラミネ)
ートテープの製品においてはインクの定着技術の進展等により家庭
や通常の事務的用途に耐えられる品質を有するものも現れてきてお
り,キングジム社のテプラプロなど,非ラミネートテープを使用す
る製品のカタログにおいては,印字が劣化しにくいことを積極的に
アピールしているものもある。
また,正像印字したテープ表面に粘着剤付き透明テープをかぶせ
る方式のラミネートテープによれば,本件ラミネートテープと同様
の物理的耐久性・保存性を得ることができるが,印字部分と透明テ
ープ間に粘着剤層が介在するため,透視性の高さという点では本件
ラミネートテープを超えるものではない。
,,・また一審被告はラミネート発明やラミネートテープの優位性を
アニュアルレポート,国内のP-Touchカタログ,海外の総合
カタログ,海外のプレスリリース,海外の実施製品に印刷されたロ
ゴ,米国での取扱説明書,海外でのテレビコマーシャル,ウェブサ
イト等において表示し,積極的にアピールしている。
キングジム社等一審被告のOEM供給先も,ラミネートタイプの
ラベルライターを販売するに当たり,カタログにおいてラミネート
テープの優位性を積極的にアピールしている。
・そして,日本国内においては,本件ラミネートテープは他社の非
ラミネートテープと比較して,定価で20%程度,店頭価格で18
~26%高く販売されているにもかかわらず,競争力を失うことな
く一定の売上げを続けており,価格とは異なる付加価値の存在が認
められる。なお,キングジム社は,非ラミネートタイプであるテプ
ラプロのカタログにおいて,同機種のテープが低価格であることを
記載しており,非ラミネートタイプの場合は価格の点に訴求力があ
ることが認められる。
・このように,国内・欧州・米国のいずれにおいても,一審被告が
OEM供給し,又は自社ブランドとして販売する場合を除き,本件
ラミネートテープと同じ仕様のラミネートテープは販売されておら
ず,一審被告が同市場を独占している。
なお,前記1(本件における基礎的事実関係)のとおり,一審被
告は,マックス社が平成3年にセイコーエプソン社からのOEM供
給によりラミネート方式テープを使用したラベルライターを発売し
たことから,これに対抗する趣旨で特許庁に第2発明及び第5発明
の優先審査を求め,マックス社やセイコーエプソン社はその出願公
告に対し付与前異議申立てをしたが,前記のとおり,最終的に両発
。,明が特許権として権利化されたという経緯があるまた一審被告は
前記のとおり,ダイモ社が欧州においてラミネートタイプのラベル
ライターであるDYMO4000を発売した際,これを差し止める
ためにドイツにおいて訴訟を提起し,最終的にその販売を中止に追
い込んでいる。
・一方,ラベルライターは,カシオ社が平成3年11月に非ラミネ
ートタイプのネームランドを発売した後,ラミネートタイプと非ラ
ミネートタイプの両製品が市場において競合するようになった。非
ラミネートタイプは低価格を前面に出して販売され,ラミネートタ
イプを販売していたキングジム社も非ラミネートタイプの販売に乗
り出し,一審被告自身も平成7年以降は自社ブランドとして低価格
版の非ラミネート方式「M型」を販売するようになった。
一審被告のラベルライター本体の販売数量に占めるM型ラベルラ
イター本体の販売数量は,平成12年度●%,平成13年度●%,
平成14年度●%であり,平成7年度から平成15年度までの総計
では●%であるが,売上高との関係では,原判決別紙「M型の売上
高の推移」記載のとおり,総合計で平成7年度が●%,平成8年度
が●%,平成9年度が●%,平成10年度が●%,平成11年度が
●%,平成12年度が●%,平成13年度が●%,平成14年度が
●%,平成15年度が●%であり,以上の平均は●%にすぎない。
b代替技術ないし競合製品の存在
上記aのとおり,ラミネートタイプに対する競合製品としてラミネ
ートタイプの製品が販売され,ラベルライター市場において一定のシ
ェアを占めているが,非ラミネートテープは販売開始当初,印字の耐
久性ないし保存性の点で明らかに劣っていたほか,現在においても本
件ラミネートタイプと完全に比肩すべき耐久性・保存性があるとまで
は認められず,本件ラミネートテープにはなお技術的優位性があると
いうことができる。また,上記aのとおり,現在販売されている家庭
等の用途において一定の実用性を有する非ラミネートテープは,テー
プ上にインクを安定的に定着させるための技術開発を前提とするもの
であることからすれば,本件ラミネートテープはそのような開発を免
れている点でコスト的に優位性を有するものである。さらに,上記a
のとおり,本件ラミネートテープは一般に非ラミネートテープよりも
高価であるにもかかわらず,依然として市場において一定のシェアを
維持しており,一審被告自身,非ラミネートタイプの販売開始に遅れ
「」,て自社ブランドP-Touchで市場に参入したにもかかわらず
同市場において相当程度シェアを伸ばしていることなども併せ考慮す
ると,ラベルライター市場においては非ラミネートテープだけでは満
たし得ない需要が少なからず存在することが推認できる。
以上のような事情に鑑みれば,非ラミネートテープという競合製品
の存在により本件ラミネートテープの優位性が著しく減殺されたとま
では評価することができない。
cラミネートテープに関するその他の事情
原判決は,ラミネートテープ方式の不利な点として,①製造原価が
高くなる,②テープカセットが複雑化,大型化し,ひいては本体も大
型化する,③消費電力が多く,電池の消耗が早い,④透明テープの浮
き,縦しわが生じやすく,幅方向においてずれが生じた場合,粘着層
テープが端から露出し,ほこりが付着しやすい,⑤曲面に貼り付ける
と剥がれやすい,⑥印字位置から貼り合せ位置までのテープがデッド
スペースとなり,テープを余分に消費する点を挙げる(原判決218
頁参照。)
確かに,前記aのようなラミネートテープの構造に鑑みれば,ラミ
,,ネートテープ方式の採用により非ラミネートテープの場合に比して
主として両面粘着テープに係る材料費や部品点数の増加により一定の
コスト増が発生することも考えられるが,前記のとおりラミネートテ
ープ方式のラベルライターは非ラミネート方式の製品に比べて割高で
あるにもかかわらず一定数量の売上げがあることからすると,上記コ
スト増が本件ラミネートテープの優位性を減殺する程度を過大に評価
すべきではない。またテープカセットの大型化については,実際の製
品においてラミネートテープ方式を採用したテープカセットが非ラミ
ネートテープ方式のそれに比して一般に大型であるということを認め
るに足りる証拠はなく,テープのデッドスペースについてもラミネー
トテープ方式に特有の事情であると認めるに足りる証拠はない。電池
の消耗その他の事情についても,製品化当初の時点でそのような事情
があったとしても,これらがラミネートテープの優位性を左右するほ
どの事情であったことを認めるに足りる証拠はなく,以上によれば,
これらの事情を過大視することはできない。
(イ)第1発明に関する事情
,「」(),a第1発明の構成要件は原判決事実及び理由第2事案の概要
1(前提事実,(3)ア(4頁)記載のとおりである。)
b第1発明の明細書(特許公告公報,甲2の1)には,次の記載があ
る。
・産業上の利用分野
「本発明は,カセットテープのインデックスカード,ビデオカセ
ットのラベル,文書ファイルの背表紙等に表題等を転写できるレタ
リングテープを簡単に作製することのできる簡易レタリングテープ
作製機に関するものである(1頁左欄12行~右欄1行)。」
・従来技術及び問題点
「この種の簡易レタリングテープ作製機というものは従来なかっ
た。しいて挙れば,透明なフィルムシートに裏文字をスクリーン印
刷したものが市販されていて,需要者が使用するに際して好みの文
字を裏側から被印写物に擦り付けて転写させるというものはあっ
た。しかし,これによれば,所望の文字や記号だけでなく,必要の
ない文字や記号等までも含まれており,また,必要な文字や記号等
を取り揃えるのに何枚も買わなければならないといった不経済な面
があった。さらに使用に際して単語,熟語,或いは簡単な文章にし
ようとすれば,所望の文字を一文字づつ選びながら被印写物に転写
させなければならず,そのために単語等の構成や文字間の位置合せ
等に手間が掛かり,その割にレイアウトの出来映えが余り良くない
といったことがあって,使い勝手の悪いものであった。
一方,文字や記号等を被印写物へ転写するタイプのものではない
が,ぶ厚い樹脂テープに所望の文字や記号等を印字することのでき
るラベル作製機は既に存在する。しかし,このラベルに作製機によ
り作製されたラベルはぶ厚い樹脂テープそのものを被印写物に貼り
付けるものであるために体裁が悪く,また,樹脂テープが剥れ易い
といった欠点があった(1頁右欄3行~2頁左欄9行)。」
・発明の目的
「その目的とするところは,簡単に単語や熟語等の編集ができ,
かつ,その編集したものを被転写物に簡単に転写できるレタリング
テープを作製する簡易レタリングテープ作製機を提供することにあ
る(補1頁左欄下10行~下7行)。」
・発明の効果
「…本発明にかかる簡易レタリングテープ作製機は,…簡単に単
語や熟語等の編集ができ,その編集した所望の文字や記号,単語,
,,熟語或いは簡単な文章のレタリングテープを作製することができ
これによって,各種インデックスカードやラベルへの表題等の転写
作業が,レタリングテープの背面を押圧するという非常に簡単な作
業で行え,安全かつ能率的に行える利点がある(補1頁右欄下9。」
行~補2頁右欄下1行)
c以上によれば,第1発明は,従前,カセットテープのインデックス
カード,ビデオカセットのラベル,文書ファイルの背表紙等に表題等
を作成する際,市販のフィルムシートに印刷されたレタリング文字を
一文字ずつ転写していてそれが手間や見栄えに課題を有していたこと
から,文字の入力,編集機能を持たせたレタリング作製機によりレタ
リングテープに反転文字等を直接印字させること等により上記課題を
克服しようとしたものである。
このように,第1発明は本件被告製品のようなラベルライターを直
接の目的とするものではないが,テープに反転文字を印字させる点に
おいてラミネート発明と共通するため,本件ラミネートテープの前提
をなす技術ということができる。
そして,前記1のとおり,一審被告はキングジム社の製品が第1発
,,明等を侵害するとして警告しキングジム社も第1発明の実施を認め
キングジム契約に至っている。また同様に,第1発明を実施していた
カシオ社との間においてもカシオ契約の締結に至っている。
(ウ)第3発明に関する事情
,「」(),a第3発明の構成要件は原判決事実及び理由第2事案の概要
1(前提事実,(3)ウ(6頁)記載のとおりである。)
b第3発明の明細書(特許公告公報,甲2の3)には,次の記載があ
る。
・産業上の利用分野
「本発明は印字テープに文字,記号等のキャラクタを印字テープ
の長手方向に並べてキャラクタ列の印字を行う印字装置に関し,特
にキャラクタ列の印字テープの幅方向における印字位置の変更が可
能なテープ印字装置に関する(1頁右欄8行~下1行)。」
・従来の技術
「,。テープ印字装置は通常印字ヘッドと送り装置とを備えている
印字ヘッドは多数の印字素子からなる印字素子列を備えており,送
り装置は印字ヘッドに対して相対的に印字テープを印字素子列に交
差する方向に送る。その送りに合わせて印字素子列の長さの範囲内
でドットマトリックスによるキャラクタ列の印字が行われるのであ
る(2頁左欄2行~8行)。」
・発明が解決しようとする問題点
「しかしながら,従来のテープ印字装置においては,文字サイズ
…に応じた印字位置のフレキシビリティが考慮されておらず,印字
素子列の長さより小さいサイズのキャラクタについてその印字位置
は予め一律に定められていてユーザに選択の余地はなく,多様な印
字書式に対応できない問題がある(2頁左欄10行~17行)。」
・問題点を解決するための手段
「,本発明はこのような問題を解決するためになされたものであり
本発明に係る印字装置は前述のような印字装置において,印字素子
列の長さより小さいサイズのキャラクタを印字テープの長手方向に
並べてキャラクタ列を印字する際に駆動される印字素子列の範囲を
印字素子列の長さ方向にシフトして,印字テープの幅方向の中央に
キャラクタ列を印字を行わせるセンタ印字モードと,印字テープの
幅方向の片側に寄せてキャラクタ列を印字を行わせる片側揃えモー
ドとに変更する印字位置変更手段を設けたことを特徴とする(2。」
頁左欄19行~29行)
・作用及び効果
「上記のような印字装置によれば,ユーザの選択によってセンタ
。,印字と片側揃え印字とのいずれでも行うことができるしたがって
センタ印字と片側揃え印字のうち,文字サイズや印字テープの使用
目的等に応じて,より適切と思われる印字書式を選択することによ
りケースに応じて最適の印字テープを作成することができる2,。」(
頁左欄31行~37行)
c以上によれば,第3発明は,テープ印字装置において,印字素子列
の長さより小さいサイズのキャラクタを印字する際,従来技術におい
ては印字位置が固定されていたため,多様な印字書式に対応できなか
ったものを,ユーザの選択によって印字位置を中央か片側揃えかに変
更することを可能としたものであり,印字装置における編集機能の一
種ということができる。
そして,前記1(本件における基礎的事実関係)のとおり,一審被
告は,キングジム社の製品が第3発明等を侵害するとして警告し,こ
れを実施していたキングジム社との間でキングジム契約に至ってい
る。
(エ)各発明に共通する事情
a日本国内における事情(キングジム契約及びカシオ契約)
(a)前記1(本件における基礎的事実関係)のとおり,一審被告は
国内において本件国内特許・実用新案につきキングジム社及びカシ
オ社との間でライセンス契約を締結し,実施料収入を得ている。
両契約において第2発明ないし第5発明がライセンスの対象とな
っているかについては争いがあるが,両契約において上記各発明が
許諾対象から除外したと解することはできない。その理由は原判決
「事実及び理由」第3(当裁判所の判断,2(4)ア(イ)a(キング)
ジム契約,212頁)及びb(カシオ契約,213頁)のとおりで
あるから,これを引用する。この点に関する当審における一審原告
らの主張は,上記認定を左右するものではない。
(b)もっとも,キングジム社及びカシオ社はその製品においてラミ
ネート発明を実施しておらず,両契約が超過売上高の増減に影響を
与えたことを認めるに足りる証拠はないから,上記各発明に基づく
超過売上高との関係で上記ライセンス契約の存在が大きな影響を与
えたものと評価することはできない。
bダイモ契約
前記1のとおり,一審被告は欧州においてダイモ社とライセンス契
約を締結しているが,ダイモ契約の結果,ダイモ社は一審被告からの
OEM製品以外にラミネート発明を実施しておらず,同発明に基づく
ラベルライターに関しては一審被告が現に市場を独占していることか
らすれば,上記aにおけると同様,本件ラミネートテープに基づく超
過売上高との関係で上記ライセンス契約の存在が大きな影響を与えた
ものと評価することはできない。
(オ)その他原判決が考慮した事由について
a無効事由について
一審被告は,ラミネート発明,第1発明,第3発明に係る特許には
いずれも無効事由が存する旨主張するところ,前記2のとおり,発明
報酬の対価額算定という場面においては,使用者が有効に存続する特
許権を現に実施して利益を得ている場合には,特段の事情のない限り
当該利益をもって特許権に基づく超過売上高を含むものと推認すべき
である。
,(),本件においては前記1本件における基礎的事実関係のとおり
第1発明~第3発明,第5発明に対しては,いずれも異議申立てない
し付与前異議申立て(第3発明については無効審判請求も)がなされ
たが,最終的にいずれも権利化に至り,その後無効審判が請求される
ことなく現在に至っている。また,第1発明については,キングジム
契約に至るまでのライセンス交渉の過程において,キングジム社から
一審被告に対し無効事由が存する旨の主張がなされたが,一審被告は
同特許の有効性を主張して争い,最終的には同特許の有効性について
。,公権的判断がなされることなくキングジム契約に至っているそして
現在に至るまで,上記のような事情が本件被告製品の売上げに何らか
の影響を与えたことを認めるに足りる証拠はない。この点は海外特許
1ないし3についても同様である。
したがって,本件各特許権の無効事由は,前記2(本件発明報酬請
求と特許無効事由との関係)において説示したとおり,仮想実施料率
ないし各発明の寄与度の認定に当たり考慮する余地があるとしても
(この点は項を改め,後述する,超過売上高の算定に影響を与える)
ものとは認められない。
bその他の権利の寄与
本件被告製品は,ラミネート発明のみならず一審被告が保有する他
の複数の特許権をも実施するものであることは当事者間に争いがな
い。また,原判決が認定するとおり,一審被告が後述する特許ポート
フォリオを構築したこと自体は同業他社に製品開発のリスクを生じさ
せ,新規参入や新製品開発を遅らせるなどの効果があり,その意味で
これが本件被告製品の売上げの増加に寄与したことは否定できない。
もっとも,以上のような事情は,本件被告製品を構成する発明につい
て等しく妥当するものであるから,超過売上高に占める各発明ごとの
寄与の割合を決するに当たり考慮すべき要素というべきである(この
点は項を改め,後述する。)
c海外における販売力
原判決は,海外における一審被告の売上分について,国内分との比
較において一審被告の販売力が高いことを考慮し,海外分の超過売上
高の割合を低く算定したが(原判決227頁参照,一般的には販売)
力の高低は売上高全体を左右するものではあっても,売上高における
通常実施分のみを選択的に高め又は超過売上分を相対的に低めるもの
ではなく,その意味で,販売力に関する事情は,通常,一審被告の貢
献度として評価すれば足りるというべきである。
そして,本件各発明が特許権を有することで独占力を保持している
のに対し,海外における一審被告の販売力が他社を圧倒する等,国内
のそれに比して異質のものであったとまで認めるに足りる証拠はない
から,海外における一審被告の販売力をもって超過売上高の割合を殊
更に左右するものと解することはできない。
d満了前の権利消滅
前記1(本件における基礎的事実関係)のとおり,一審被告は,平
成17年から平成18年にかけて第1発明~第3発明,第5発明につ
き特許法107条に定める特許料(いわゆる「年金)を支払わない」
こととし,権利を放棄したことになるが,これらはいずれも一審原告
らが本訴を提起し,職務発明の対価請求をなしている中でなされたも
のである。そして,本件において,当該特許権等を維持することが殊
更に一審被告の不利益に該当すると解すべき事情は見当たらないか
ら,少なくとも職務発明の対価算定に当たっては,その権利放棄をも
って一審原告らに対抗し得ないものと解すべきであり,権利放棄後の
期間についても超過売上高の発生を観念し得るというべきである。
この点,一審被告は,平成4年11月ないし平成5年1月ころに権
利放棄決定時の返還希望調査を行い,一審原告らがその返還を希望し
なかったこと(この点は当事者間に争いがない)をもって上記権利放
棄が合理的な手続を経たものである旨主張するが,本訴の経緯に鑑み
れば一審原告らは本訴提起後において権利返還の申し出があればこれ
を受ける意思を有していたことは明らかであるから,上記のような返
還希望調査の結果のみをもって権利放棄を正当化し得るものではな
い。したがって,一審被告の上記主張は採用することができない。
また一審被告は,上記各発明の権利放棄の理由について,無効事由
が確認されたから放棄した旨主張するが,かかる理由は,第3発明を
除き,一審被告社内における決裁の理由と矛盾するものであって(前
記1,乙146~148参照,到底採用できないし,また仮に一審)
被告において無効事由があると判断したとしても,当該無効事由につ
いて現に一審原告らが争っている以上,これをもって上記放棄を正当
化する理由とすることはできない。したがって,一審被告の上記主張
は採用することができない。
なお原判決は,第3発明及び第5発明については無効事由の存在を
理由として,また第1発明は販売額が少なく,かつ減少傾向が続いて
,,いることを理由としていずれも権利放棄の合理性を肯定しているが
一審原告らが当該権利について職務発明対価請求を行っているという
特殊性を考慮すれば,上記のような事情のみで合理性を肯定すること
はできない。
したがって,以下においては,第1,第3及び第5発明のいずれに
ついても,当該権利が本来の満了期間に達するまで超過売上げの発生
があるものとして扱うこととする。
e海外特許の権利存続期間
弁論の全趣旨によれば,海外特許の存続期間の満了日は以下のとお
りと認められる。
・海外特許1:2008年〔平成20年〕11月14日
・海外特許2:2008年〔平成20年〕10月24日
・海外特許3:2008年〔平成20年〕12月28日
ウ本件被告製品の売上げにおける超過売上高
以上によれば,本件被告製品は,競合製品である非ラミネートテープ方
式のラベルライターが市場に現れるまでは同市場を独占し,また非ラミネ
ートテープ方式のものが現れた後も市場内において一定の売上げを確保し
ていること,しかも,ラミネートテープ方式によるラベルライターは非ラ
ミネートテープ方式に比して高価であるにもかかわらずこのように売上げ
を確保し,国内のラベルライター市場においては後発である一審被告の自
,,社ブランドでさえ順次シェアを拡大していること欧州や米国においては
一審被告は大きなシェアを確保していること,技術的観点からみても,本
件ラミネートテープは非ラミネートテープに比して印字の耐久性・保存性
において優位性があり,ラミネート発明,第1発明,第3発明の各内容に
照らせば,ラミネート発明を中核とする各発明の独占力が上記のようなシ
ェアの確保,ひいては売上げに少なからぬ貢献をしていることが認められ
る。
もっとも,前記1(本件における基礎的事実関係)に認定した本件被告
製品の売上げの推移及び販売当時の状況,競合製品の販売状況,ラベルラ
イター市場の飽和状況等に鑑みれば,平成11年ころまでには,競合製品
である非ラミネートタイプのラベルライターが市場において確固たる地位
を獲得し,遅くともそれ以後の本件被告製品の売上げにおいては,特許権
等の法的独占力以外の要素の占める割合が増大したものと認めることがで
きる。
以上の諸事情を総合考慮すれば,本件被告製品の売上げにおいてそれを
構成する発明による超過売上高の割合は,平成11年3月31日までの対
象期間は50%,平成11年4月1日以降の対象期間は40%と認めるの
が相当である。
なお一審被告は,実施料収入がある場合の自己実施における独占の利益
の算定に関し,ライセンスポリシーの性質と代替技術の存在を挙げて,一
審被告には自己実施分について独占の利益がない旨主張する。確かに,ラ
イセンスポリシーの性質や代替技術の存在は,その内容次第では独占力を
反映する要素となり得る性質を有するという意味において,特許の独占力
を判断するに当たって考慮すべき事情の一つということはできるが,特許
の独占力は諸般の事情により形成されているものであって,一審被告の挙
げる上記事情のみでこれを網羅的に捕捉し,評価し尽くすことができるも
のではないから,上記各事情のみを殊更に重視することはできない。そし
て,本件においては,上記各事情をも考慮に入れたとしても,本件被告製
品の売上げに占める超過売上高の割合は,上記のとおり,平成11年3月
,,31日までの対象期間は50%その後は40%と認めるのが相当であり
一審被告の上記主張は採用することができない。
エ生産地・販売地からみた超過売上高減額の要否
本件被告製品は,本体・テープカセットとも,生産地と販売地により,
以下のように区別することができる。
Ⅰ日本国内で生産・販売されたもの
Ⅱ中国で生産され日本で販売されたもの
Ⅲ日本で生産され欧州特許国で販売されたもの
Ⅳ中国で生産され欧州特許国で販売されたもの
Ⅴ日本で生産され米国で販売されたもの
Ⅵ中国で販売され米国で販売されたもの
Ⅶ日本で生産されその他の国で販売されたもの
Ⅷ中国で生産されその他の国で販売されたもの
そして,特許権としてその権利の排他的効力が及ぶのはその付与された
国の範囲内においてであるため(属地主義,以上のような生産・販売地)
の差異により本件各特許の法的独占力に影響が生じ,その結果,上記イに
認定した超過売上高の割合を更に減ずべき場合があり得るから,以下順次
検討する。なお,前記(3)ア(本件被告製品の売上げ総額及びその内訳)
のとおり,超過売上高を算定する際の基礎となる売上高のうち「本体」と
あるのは,本体部分とテープカセット部分とを同梱した状態を指すもので
あるから,以下においても,本体を製造・販売するという場合の「本体」
とはテープカセットと一体となったものと解することを前提に検討を加え
る。
(ア)国内販売分における超過売上高(Ⅰ及びⅡ)
a超過売上高と間接侵害規定との関係
職務発明の対価請求において基礎となる特許法旧35条4項の「そ
の発明により使用者等が受けるべき利益」とは,特許発明の法的独占
権に由来する独占的実施の利益を指し,特許権者による自己実施の場
合,一般的には,他社に当該特許発明の実施を禁止したことに基づい
て特許権者たる使用者が挙げた利益(超過売上げを得たことに基づく
利益)がこれに相当する。そして,本件被告製品は,ラベルライター
本体部分とテープカセット部分とが構造上分離可能であるとともに,
本体とテープカセットは独立して製造・輸入・販売されているから,
これらを同一主体が同時に製造・輸入・販売する場合には,前記に認
定した限度において第1発明~第3発明又は第5発明を実施するもの
ということができるが,他方,テープカセットのみを製造・輸入・販
売する行為はその実施に当たるものではない。そうすると,一審被告
は上記各発明の実施品である本体については他社の実施(製造・輸入
・販売)を禁止することができ,したがって,日本国内で販売された
第1発明~第3発明及び第5発明の実施に係る本体の売上げとの関係
では,前記ウ(本件被告製品の売上げにおける超過売上高)に認定し
(,た超過売上高の割合平成11年3月31日までの対象期間は50%
平成11年4月1日以降の対象期間は40%)を乗じて得られた全額
について超過売上高の存在を認めることができる。
他方,上記各発明の実施品に適合するテープカセットについては,
場合を分けて検討する必要がある。
すなわち,平成14年法律第24号(平成15年1月1日施行)に
よる改正前の特許法101条は「侵害とみなす行為(講学上の間接,」
侵害規定)として,1号で「特許が物の発明についてされている場合
において,業として,その物の生産にのみ使用する物を生産し,譲渡
し,貸し渡し,若しくは輸入し,又はその譲渡若しくは貸渡しの申出
をする行為」と,2号で「特許が方法の発明についてされている場合
において,業として,その発明の実施にのみ使用する物を生産し,譲
渡し,貸し渡し,若しくは輸入し,又はその譲渡若しくは貸渡しの申
出をする行為」とのみ規定していたが,上記改正後は,1号で「特許
が物の発明についてされている場合において,業として,その物の生
産にのみ用いる物の生産,譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をす
る行為」と,2号で「特許が物の発明についてされている場合におい
て,その物の生産に用いる物(日本国内において広く一般に流通して
いるものを除く)であつてその発明による課題の解決に不可欠なも。
のにつき,その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実
施に用いられることを知りながら,業として,その生産,譲渡等若し
くは輸入又は譲渡等の申出をする行為」と,3号で「特許が方法の発
明についてされている場合において,業として,その方法の使用にの
,」み用いる物の生産譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
と,4号で「特許が方法の発明についてされている場合において,そ
の方法の使用に用いる物(日本国内において広く一般に流通している
ものを除く)であつてその発明による課題の解決に不可欠なものに。
つき,その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に
用いられることを知りながら,業として,その生産,譲渡等若しくは
輸入又は譲渡等の申出をする行為」と規定されるに至っている。した
がって,上記テープカセットについては,これが第1発明~第3発明
又は第5発明との関係で特許法101条の定める間接侵害行為に該当
しない限り,他社の実施(製造・輸入・販売)を禁止することはでき
ない。換言すれば,本件被告製品のうちテープカセットのみの国内販
売に係る超過売上高については,間接侵害規定の適用がある場合には
日本国内で販売された第1発明~第3発明及び第5発明の実施に係る
テープカセットの売上げに前記ウ(本件被告製品の売上げにおける超
過売上高)に認定した超過売上高の割合を乗じて得られた全額をもっ
て超過売上高となし得るのに対し,間接侵害規定の適用がない場合に
は,超過売上高の存否を別途検討すべきこととなる。
b平成15年1月1日以後にテープカセットのみを製造・輸入・販売
する行為と間接侵害の成否
そこで,まず本件被告製品におけるテープカセットのみを第三者が
製造・輸入・販売した場合の間接侵害の成否について検討すると,こ
の点に関する当裁判所の判断は,上記改正後の特許法101条の規定
を前提とする限り,原判決「事実及び理由」第3(当裁判所の判断)
2(3)(202頁以下)のとおり(ただし,本体に関する説示部分を
除く)であるから,これを引用する。
すなわち,上記改正法施行日である平成15年1月1日以後におい
ては,本件被告製品(テープカセット)のうち前記(2)(一審被告に
よる本件各発明自己実施の有無)に認定した第1発明,第2発明又は
第5発明の実施製品に該当するものは,これを第三者が実施したとし
ても特許法101条1号又は2号のいずれかの間接侵害が成立し得る
のに対し,第3発明の実施製品に該当するものは,これを第三者が実
施したとしてもいずれの間接侵害も成立しない。
そうすると,第1発明,第2発明及び第5発明の特許権者である一
審被告は,その実施品であるテープカセットを第三者が実施(製造・
),,,輸入・販売することを禁止することができしたがって第1発明
第2発明及び第5発明の実施に係る本体部分に適合する上記テープカ
セットの売上げとの関係では,前記ウ(本件被告製品の売上げにおけ
)。る超過売上高の認定に係る超過売上高の存在を認めることができる
c平成14年12月31日以前にテープカセットのみを製造・輸入・
販売する行為と間接侵害の成否
上記改正法により新設された特許法101条2号は,その規定内容
に鑑みれば遡及適用することは相当でないから,平成14年12月3
1日以前の行為については適用がないものと解さざるを得ない。
そうすると,同施行日前において改正前特許法101条1号の規定
が適用されず,上記改正後の特許法101条2号の規定にのみ該当す
る場合,すなわち,第1発明に係る対象品群aのテープカセットすべ
てと第5発明に係る対象品群bのテープカセットでTX型及びTZ型
のものについては,上記発明の特許権者である一審被告は第三者の製
造・販売を禁止することができなかったことになる前記(2)ウ(ア)ラ(〔
〕,,ミネート発明の実施のとおり対象品群bのテープカセットのうち
クリアタイプを除くテープカセットについては,ラミネート発明であ
る第2発明との関係で別途特許法101条1号の間接侵害に該当する
ことになるから,国内販売分のテープカセットにおいてラミネート発
明との関係で間接侵害規定の適用が問題となり得るのは,実質的には
TX型及びTZ型の各クリアタイプのテープカセットということにな
る。。)
したがって,当該実施製品の売上げについては,前記bのような趣
旨における超過売上高の存在を認めることはできない。
d平成14年12月31日以前に販売されたテープカセットの売上げ
における超過売上高
そこで,上記cに挙げたテープカセットの売上げに前記b以外の趣
旨における超過売上高が含まれる余地があるかについて検討する。
上記aのとおり,特許発明の法的独占権に由来する独占的実施の利
益とは,自己実施の場合,一般的には,他社に当該特許発明の実施を
禁止したことに基づいて使用者が挙げた利益(超過売上げを得たこと
に基づく利益)がこれに相当するものである。
しかし,前記のとおり,特許法旧35条3項及び4項の趣旨は,従
業者が特許を受ける権利の処分時において,当該権利を取得した使用
者が当該発明の実施を独占することによって得られると客観的に見込
まれる利益のうち,同条4項所定の基準に従って定められる一定範囲
の金額について,これを当該発明をした従業者において確保できるよ
うにしたものであることに鑑みれば,使用者が特許権を実施して現に
得た利益(売上げ)の中に,特許権を取得した使用者が当該発明の実
施を独占することによって得られると客観的に見込まれる利益が存す
るのであれば,仮にその一部の実施については法的に他社の販売を禁
止できないとしても,当該利益はなお法的独占権に由来する独占的実
施の利益ということができるから,当該利益に対応する売上部分をも
って職務発明対価算定の基礎としての超過売上高とみることができる
というべきである。
これを本件についてみると,ラミネート発明及び第1発明は,本体
に関する機構(入力機構や印字機構等)とテープに関する機構が一体
化している点に技術的意義を有し,実施品である本体部分及びテープ
カセット部分の両者を同時に製造・販売することは特許権者である一
審被告にしかなし得ない行為である。そのため,前記(2)ア(ラベル
ライター本体・テープカセットと本件各発明との関係)のとおり,そ
の実施品である本件被告製品は,性質上,本体部分及びテープカセッ
ト部分の両者を組み合わせて使用しなければおよそ用をなさず,構造
上両者は容易に脱着できるように設計され,使用方法も本体を購入し
た者がこれに適合するテープカセットを自らの用途に応じて選択する
とともに自らこれを装着して使用に供することが予定されているとこ
ろである。
このような本件被告製品の性質や構造,実際の使用態様等に照らせ
ば,本件被告製品における本体部分とテープ部分は,別々に販売され
たとしても技術的に強固に結び付いていることは明らかであって,仮
に実施品である本件被告製品に係る本体部分に適合するテープカセッ
トを第三者が安価に販売したとしても,本体製造者がこれに適合する
ものとして同時に製造販売するテープカセットのシェアをすべて奪わ
れ,売上げを喪失することはおよそ想定し得ないから,テープカセッ
トについて一定程度の売上げに基づく利益を必然的に確保することが
できるものと認められる。また本件被告製品における本体部分とテー
プカセット部分の組合せに係る仕様の変更は全体についての実施権を
有する一審被告にしかなし得ないところであり,しかもそのような仕
様変更が行われた場合,テープカセットのみを販売しようとする業者
は,少なくとも新しい仕様に適合する製品を開発し商品化するまでの
,,,一定期間については必ず参入が抑止されることになるからその間
一審被告は必ず独占の利益を得ることができるものでもある。
このようにして維持される売上げないし得られる独占の利益は,本
体部分とテープ部分の一体性を技術的意義とするラミネート発明ない
し第1発明の法的独占力が実現したものと評価することができるか
ら,間接侵害規定による参入禁止をなし得ない場合であっても,実施
品である本件被告製品に係る本体部分に適合するテープカセットの売
上げのうち,少なくとも他社が参入してもなお維持される売上げに相
当する部分については,超過売上高の存在を観念することができると
いうべきである。
そして,本件におけるラミネート発明及び第1発明の内容,本件被
告製品の構造,実際の仕様態様,その他の事情を総合すれば,その割
合は平成11年3月31日までの対象期間は25%,その後は20%
(前記ウ〔本件被告製品の売上げにおける超過売上高〕に認定した超
過売上高の50%分相当)と認めるのが相当である。
e第3発明を実施するテープカセットの売上げにおける超過売上高
第3発明はラミネート発明や第1発明とは異なり編集機能に関する
発明であって,その技術的範囲において上記のような本体部分とテー
プ部分の一体性による法的独占力を有するものではないから,上記d
に述べた事情は該当しない。したがって,第3発明との関係において
は,これを実施するテープカセットの販売に係る売上げに超過売上高
の存在を観念することはできない。
fまとめ
前記(2)(一審被告による本件各発明自己実施の有無)において認
定した実施品に係る本件被告製品の売上げのうち,国内販売分に係る
売上げに対する関係で超過売上高をまとめると,以下のとおりとなる
(なお,生産国による違いはない。)
(a)本体の売上げは,その全体に対する関係で平成11年3月31
日までの対象期間は50%,その後は40%の超過売上高の存在を
認めることができる。
(b)平成14年12月31日以前に販売された第1発明に係る対象
品群aのテープカセットすべてと,第5発明に係る対象品群bのT
X型及びTZ型の各クリアタイプのテープカセットについては,そ
の売上げ全体に対する関係で,平成11年3月31日までの対象期
間は25%,その後は20%の超過売上高の存在を認めることがで
きる(ただし,第5発明分の超過売上高については後述する発明の
寄与度において斟酌する。)
(c)上記(b)を除く第1発明,第2発明,第5発明に係るテープカセ
ットは,その売上げの全体に対する関係で平成11年3月31日ま
での対象期間は50%,その後は40%の超過売上高の存在を認め
ることができる。
(d)第3発明に係る対象品群gのテープカセットのみに該当するも
のについては,その売上げに超過売上高は含まれない。
(イ)欧州特許国販売分の超過売上高(Ⅲ及びⅣ)
a本体の売上げにおける超過売上高
(a)日本国内生産の本体
弁論の全趣旨によれば,一審被告が日本で生産し,国外で販売す
る本体及びテープカセットは輸出専用品であり,国内においては販
売されていないことが認められる。
もっとも,日本国内において,第1発明~第3発明又は第5発明
の実施に係る本体を生産する行為は,上記各特許の実施に該当する
から(特許法2条3項1号,一審被告は第三者がこれを行うこと)
を禁止することができる。そうすると,これを実施する一審被告の
行為には日本国特許法に基づく法的独占力の実現を認めることがで
きるから,第1発明~第3発明又は第5発明の実施に係る本体売上
げのうち,国内生産分については,その全体に対する関係で前記ウ
(本件被告製品の売上げにおける超過売上高)の認定に係る超過売
上高の存在を認めることができる。
(b)中国生産の本体
一審被告が一審原告らから承継した特許を受ける権利が中国にお
。,いて特許化されていないことは当事者間に争いがないそうすると
本件被告製品が中国において生産された時点においては第1発明~
第3発明又は第5発明の法的独占力が及ばないから,第1発明~第
3発明又は第5発明の実施に係る本体売上げのうち,中国生産分に
ついては,超過売上高の存在を観念することはできない。
これに対し,欧州での販売時を基準とした場合,欧州特許である
海外特許1の実施品である本体について海外特許1の法的独占力が
及ぶことはいうまでもないから,海外特許1の実施に係る本体の売
上げのうち,中国生産分については,その全体に対する関係で前記
ウ(本件被告製品の売上げにおける超過売上高)の認定に係る超過
売上高の存在を認めることができる(なお,この点は日本生産分に
ついても同様である。。)
bテープカセットの売上げにおける日本国特許権に基づく超過売上高
(a)日本国内生産のテープカセット
前記aのとおり,一審被告が日本で生産し,欧州特許国で販売す
る本体及びテープカセットは輸出専用品であり,国内においては販
売されていないことが認められる。
ところで,前記(ア)a(超過売上高と間接侵害規定との関係)の
とおり,第三者が国内においてテープカセットのみを製造・販売す
る行為は本件各発明の実施に当たるものではないから,国内におけ
るテープカセットのみの製造・販売行為が間接侵害に該当しない場
合,他社の製造・販売を禁止することはできず,前記(ア)d(平成
14年12月31日以前に販売されたテープカセットの売上げにお
ける超過売上高)に述べたような特段の事情のない限り,その売上
げについて超過売上高の存在を認めることはできない。
そこで,日本国内において流通することを予定しない輸出専用品
であるテープカセットを第三者が国内で生産する行為が前記改正後
の特許法101条1号又は2号の定める間接侵害に当たるかについ
て検討する。
本来,日本国外において,日本で特許を受けている発明の技術的
範囲に属する物を製造してその価値を利用しても,日本の特許権を
侵害することにはならない。それは,日本における特許権が,日本
の主権の及ぶ日本国内においてのみ効力を有するにすぎないことに
伴う内在的な制約によるものであり,一般に属地主義として承認さ
れているところであって,このような見地からすると,特許法2条
3項1号にいう「生産」とは,日本国内におけるもののみを意味す
ると解すべきである。そうすると,外国において発明に係る物の生
産に供される物についてまで,特許法101条1号ないし2号が間
接侵害の要件として規定する「その物の生産にのみ使用する物」又
は「その物の生産に用いる物」であるとして特許権の効力を拡張す
る場合には,日本の特許権者が,本来当該特許権によっておよそ享
受し得ないはずの,外国での実施による市場機会の獲得という利益
まで享受し得ることになり,不当に当該特許権の効力を享受するこ
とになるというべきである。したがって「その物の生産にのみ使,
用する物「その物の生産に用いる物」における「生産」とは,日」,
本国内におけるものに限られると解するのが相当であり,このよう
に解することは,前記のような特許法2条3項1号にいう「生産」
の意義にも整合するものというべきである。
以上を踏まえれば,日本国内において流通することを予定しない
輸出専用品であるテープカセットを第三者が国内で生産する行為
は,本件各発明の直接侵害のみならず上記改正後の特許法101条
1号又は2号の定める間接侵害にも当たらないというべきであるか
ら,これを実施する一審被告の行為について日本国特許法に基づく
法的独占力の実現を認めることはできず,したがって,日本国特許
である第1発明~第3発明又は第5発明の実施に係る上記テープカ
セットの売上げについて超過売上高の存在を認めることはできな
い。
また,前記(ア)d(平成14年12月31日以前に販売されたテ
ープカセットの売上げにおける超過売上高)に認定した法的独占権
に由来する超過売上高は,その実施に日本国特許権の効力が及ぶこ
とを前提とするものであるからこれが及ばない上記輸出専用品テ,(
ープカセット)の売上げには,前記(ア)dに説示した意味における
超過売上高の存在も認めることはできない。
(b)中国生産のテープカセット
前記a(b)(中国生産の本体)のとおり,一審被告が一審原告ら
から承継した特許を受ける権利は中国において特許化されておら
ず,中国において生産された時点においてはいかなる独占力も生じ
ていないから,その時点における超過売上高を観念することはでき
ない。
cテープカセットの売上げにおける海外特許1に基づく超過売上高
欧州特許国(ドイツ,フランス,イギリス,イタリア)において第
三者が海外特許1の実施に係る本体部分に適合するテープカセットを
販売することが同特許の間接侵害行為に該当することは当事者間に争
いがなく,そうすると,海外特許1の特許権者である一審被告は,そ
の実施品であるテープカセットを第三者が実施(製造・輸入・販売)
することを禁止することができ,したがって,海外特許1の実施に係
る本体部分に適合する上記テープカセットの売上げには,その全体に
対する関係で前記ウ(本件被告製品の売上げにおける超過売上高)の
認定に係る超過売上高の存在を認めることができる。
dまとめ
前記(2)において認定した実施品に係る本件被告製品の売上げのう
ち,欧州特許国販売分に係る本件被告製品の売上げに関する超過売上
高をまとめると,以下のとおりとなる。
,,(a)本体売上げのうち日本生産分については第1発明~第3発明
第5発明又は海外特許1の実施に係る限度で,平成11年3月31
日までの対象期間は売上げの50%,その後は売上げの40%につ
いて超過売上高の存在を認めることができる。
(b)本体売上げのうち中国生産分については,海外特許1の実施に
係る限度で,平成11年3月31日までの対象期間は売上げの50
%,その後は売上げの40%について超過売上高の存在を認めるこ
とができる。
(c)テープカセットの売上げについては,日本生産分及び中国生産
分のいずれについても,海外特許1の実施に係る限度で,平成11
年3月31日までの対象期間は売上げの50%,その後は売上げの
40%について超過売上高の存在を認めることができる。
(d)以上(a)~(c)以外の売上げについては,超過売上高の存在を認
めることができない。
(ウ)米国販売分における超過売上高(Ⅴ及びⅥ)
a本体の売上げにおける超過売上高
(a)日本国内生産分
前記(イ)a(a)(日本国内生産の本体)のとおり,日本国内におい
て,第1発明~第3発明又は第5発明の実施に係る本体を生産する
,(),行為は上記各特許の実施に該当するから特許法2条3項1号
一審被告は第三者がこれを行うことを禁止することができる。そう
すると,これを実施する一審被告の行為には日本国特許法に基づく
法的独占力の実現を認めることができるから,第1発明~第3発明
又は第5発明の実施に係る本体売上げのうち,日本国内生産分につ
いては,その全体に対する関係で前記ウ(本件被告製品の売上げに
おける超過売上高)の認定に係る超過売上高の存在を認めることが
できる。
(b)中国生産分
前記(イ)a(b)(中国生産の本体)のとおり,一審被告が承継した
特許を受ける権利は中国において特許化されておらず,中国で本件
被告製品が生産された時点においてはいかなる独占力も及ばないか
ら,その時点における超過売上高を観念することはできない。
これに対し,米国での販売時を基準とした場合,米国特許である
海外特許2,3の実施品である本体について海外特許2,3の法的
独占力が及ぶことはいうまでもないから,海外特許2,3の実施に
係る本体の売上げのうち,中国生産分については,その全体につい
て前記ウの認定に係る超過売上高の存在を認めることができる(な
お,この点は日本生産分についても同様である。。)
bテープカセットの売上げにおける日本国特許権に基づく超過売上高
(a)国内生産分
前記(イ)b(a)(日本国内生産のテープカセット)のとおり,輸出
専用品であるテープカセットは国内においては販売されておらず,
これを第三者が国内で生産する行為は,本件各発明の直接侵害のみ
ならず前記改正後の特許法101条1号又は2号の定める間接侵害
にも当たらないというべきであるから,これを実施する一審被告の
行為について日本国特許法に基づく法的独占力の行使を認めること
はできず,したがって,生産時点においてテープカセットの売上げ
について超過売上高の存在を認めることはできない。
(b)中国生産分
前記(イ)b(b)(中国生産のテープカセット)のとおり,一審被告
が承継した特許を受ける権利は中国において特許化されておらず,
中国で本件被告製品が生産された時点においてはいかなる独占力も
及ばないから,その時点における超過売上高を観念することはでき
ない。
cテープカセットの売上げにおける海外特許2,3に基づく超過売上

(a)法的独占力に関する準拠法
前記b(テープカセットの売上げにおける日本国特許権に基づく
超過売上高)のとおり,生産時ないし輸出時を基準とした場合,輸
出専用品であるテープカセットの売上げには超過売上高の存在は認
められないが,米国での販売時を基準とした場合,海外特許2,3
に基づく超過売上高の存否が問題となり,これは,上記テープカセ
ットに海外特許2,3の法的独占力が及ぶかにより決すべきことに
なる。
上記を検討する前提として,法的独占力の基礎となる当該特許権
の効力の及ぶ範囲についての準拠法が問題となるが,譲渡の対象と
なる特許を受ける権利がいかなる内容の法的独占力を有するかとい
う点は,当該特許を受ける権利が外国において登録された後に当該
外国においていかなる効力を有するかに関わる問題であるから,そ
の準拠法は,特許権についての属地主義の原則に照らし,当該特許
権が登録された国の法律であると解するのが相当であり,海外特許
2,3の効力の及ぶ範囲は,その登録国である米国法に基づき決す
べきものと解される。
(b)寄与侵害等と直接侵害の関係
ラミネート発明である海外特許2,3は,本体部分とテープ部分
とを一体とする構成をもってその技術的範囲とするものであるとこ
ろ,前記(ア)a(超過売上高と間接侵害規定との関係)において述
べたとおり,本件被告製品は本体部分とテープカセット部分とが構
造上分離可能であるとともに,両者は独立して製造・販売されてお
り,テープカセットのみを販売する行為は本件各発明の実施に当た
るものではないから,前記(ア)aと同様の問題,すなわち,海外特
許2,3に基づき他社が米国においてテープカセットのみ販売する
ことを禁止することができるかが問題となる。
ところで,米国特許法271条は,(a)項において「(a)本法に,
別段の定めがある場合を除き,特許の存続期間中に,権限を有する
ことなく,特許発明を合衆国において生産,使用,販売の申出若し
くは販売する者,又は特許発明を合衆国に輸入する者は特許を侵害
する」として直接侵害について定めるとともに,(b)項において,。
「(b)積極的に特許侵害を誘発した者は,侵害者としての責めを負
うものとするとしていわゆる侵害の積極的誘因についてまた(c)。」,
項において「(c)特許を受けている機械,製品,組立物若しくは合,
成物の構成要素,又は特許方法を実施するために使用される材料若
しくは装置であって,その発明の主要部分を構成しているものにつ
いて,それらが当該特許の侵害に使用するために特別に製造若しく
は改造されたものであり,かつ,一般的市販品若しくは基本的には
侵害しない使用に適した取引商品でないことを知りながら,合衆国
において販売の申出若しくは販売し,又は合衆国に輸入した者は,
寄与侵害者としての責めを負うものとする」としていわゆる寄与。
侵害について規定する(乙194。)
したがって,第三者が米国においてテープカセットのみを販売す
る行為が上記直接侵害,積極的誘因,寄与侵害に該当するのであれ
ば,一審被告はこれを禁止することができることになるが,米国法
の解釈としては,寄与侵害等(積極的誘因及び寄与侵害)は直接侵
害に従属し,直接侵害が存在しない場合は寄与侵害等も存在しない
と解されるから(AroManufacturingCo.v.ConvertibleTop
ReplacementCo.,365U.S.336,128U.S.P.Q.354(1961),寄与侵害)
等の成否に先立ち,直接侵害の成否を決する必要がある。これに反
する一審原告らの主張は採用することができない。
(c)いわゆる消尽の有無
海外特許2,3は本体部分とテープ部分の両者をその構成要件に
含むから,第三者が米国において海外特許2,3の実施品に適合す
るテープカセット部分のみを販売する行為は海外特許2,3の直接
侵害には当たらない。しかし,当該テープカセットを購入した者が
それを既存の本体部分と組み合わせた時点においては,それが再製
造行為と評価される限り,海外特許2,3の構成要件を満たすこと
になる。したがって,直接侵害の成否は,そのような購入者の行為
が海外特許2,3の実施品の再製造に該当するかによって決すべき
こととなり,これを換言すれば,一審被告がテープカセットが同梱
された本体を販売した時点で海外特許2,3の権利が消尽し,その
後補給交換用テープカセットの購入者がこれを本体に組み合わせる
行為は適法な修理行為として許容されるか,という問題ということ
もできる。
そこで,これを本件についてみると,前記1(本件における基礎
的事実関係)のとおり,一審被告は,本件被告製品につき,消耗品
であるテープカセットの売上げを収益源とするビジネスモデルを採
用していることからすると,本件被告製品は本体部分よりも先にテ
ープカセットが消耗することが当初から想定されて製品化されてい
るということができ,そのため,前記(2)ア(ラベルライター本体
・テープカセットと本件各発明との関係)のとおり,本件被告製品
は,その性質上,本体及びテープカセットの両者を組み合わせて使
用しなければおよそ用をなさない反面,構造上両者は容易に脱着で
きるように設計され,使用方法も本体を購入した者がこれに適合す
るテープカセットを自らの用途に応じて選択するとともに自らこれ
を装着して使用に供することが予定されており,一審被告がラベル
ライター本体のほかにテープカセットを個別に製造・販売する行為
も,このような使用方法を当然の前提とするものであると認められ
る。
このような事実関係を前提とすると,一審被告が海外特許2,3
の実施品である本体(テープカセットが同梱されている)を販売す
れば,海外特許2,3の権利は消尽し,ラベルライターの使用を継
続するために補給用のテープカセットを購入して交換する行為は,
本件被告製品の再製造ではなく特許権侵害といえない修理に該当す
,。るものと認められるからもはや直接侵害を構成するものではない
なお,権利者が販売時に上記のようなテープカセットの交換行為
に対する権利行使を留保しているのであれば,上記行為についても
直接侵害が成立すると解する余地はあるが,本件においてはそのよ
うな権利行使の留保を認めるに足りる証拠はないから,上記の意味
での直接侵害も成立しないというべきである。
(d)テープカセットの売上げにおける超過売上高
以上によれば,米国特許法上の寄与侵害等はその適用の前提を欠
き,一審被告は米国特許法271条(b)項又は(c)項に基づき第三者
が米国においてテープカセットのみを販売する行為を禁止すること
はできないことになる。
もっとも,上記(c)(いわゆる消尽の有無)のような事実関係を
前提とすれば,前記(ア)d(平成14年12月31日以前に販売さ
),れたテープカセットの売上げにおける超過売上高の場合と同様に
テープカセットの販売によって得られる利益の少なくとも一部につ
いては,本体部分とテープ部分の一体性を技術的意義とするラミネ
ート発明の法的独占力が実現したものと評価することができるか
ら,米国法上の寄与侵害等に関する規定による参入禁止をなし得な
い場合であっても,海外特許2,3の実施品に適合するテープカセ
ットの売上げのうち,少なくとも他社が参入してもなお維持される
売上げに相当する部分については,法的独占権に由来する超過売上
高の存在を観念することができる。
そして,本件における海外特許2,3の内容,本件被告製品の構
造,実際の仕様態様,その他の事情を総合すれば,その割合は平成
11年3月31日までの対象期間は25%,その後は20%(前記
ウ〔本件被告製品の売上げにおける超過売上高〕に認定した超過売
上高の50%分相当)と認めるのが相当である。
(e)一審原告らの主張に対する判断
・一審原告らは,米国の特許権侵害訴訟が和解により解決する可
能性が高いことを理由として,消尽の成否により超過売上高が影
響を受けるべきではないと主張する。
しかし,いわゆる消尽の成否は,それが成立することによって
特許権による禁止の効力が及ばないという点で法的独占力の有無
に直接関わるものであるのに対し,特許権侵害訴訟が結果として
和解により解決したか否か(換言すれば,消尽の成否が公権的に
判断されたか否か)は法的独占力に由来する超過売上高の存否と
は法的意味では無関係な事情にすぎず,かかる事情が超過売上高
の存否又は多寡に影響を与えるものではない。
,。したがって一審原告らの上記主張は採用することができない
・また一審原告らは,独占の利益を決するに当たっては,テープ
カセットの販売のみで市場機会を奪取する場合のみならず,本体
とテープカセットを一体として侵害する場合の影響の大きさをも
考慮すべきであると主張する。
しかし,本体部分とテープ部分とを一体で侵害する場合を想定
した超過売上高は,まずはテープカセットが同梱された本体の売
上げにおける超過売上高として考慮されているのであって,それ
を超えて,第三者による米国における販売を禁止し得ないテープ
カセットの売上げについて超過売上高を認めるためには前記(d),
(テープカセットの売上げにおける超過売上高)のとおり,それ
が海外特許2,3の法的独占力に由来するといえるような事情が
必要というべきであるところ,それについては前記(d)で判示し
たとおりである。
dテープカセットの売上げにおける米国特許●●号に基づく超過売上

一審原告らは,米国特許●●号は第3考案及びラミネート発明を権
利化したものであり,その実質的な発明者は一審原告ら6名である旨
主張するので,この点について判断する。
(a)米国特許●●号の内容
米国特許●●号を特許請求の範囲請求項1の記載(乙211)に
従って分説すると,以下のとおりである。
●●(省略)
(b)第3考案の内容
一方,第3考案を特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説す
ると,以下のとおりである。
①所定の印字が施された印字テープを作成するテープ印字装置
のためのテープカセットであって,
②その印字テープの作成に必要な2種以上のテープが複数のス
プールに巻かれ,
③それらのスプールがカセットケース内にそれぞれ回転可能に
保持されるとともに,
④それらスプールの少なくとも1個がカセットケースに対して
着脱自在とされていること
⑤を特徴とするテープ印字装置用テープカセット。
,(),。(c)そして第3考案の明細書甲2の8には次の記載がある
・「第1図に本考案の一実施例であるテープカセット10と,
それが装着されたテープ印字装置12を示す(4欄27行~。」
29行)
・「入力部14で入力されたデータに従い,印字部16では長
手方向のテープ送りを伴い,位置固定のサーマルヘッド28で
印字が行われる。…(4欄42行~45行)」
・「…本実施例においては,そのドット列の発熱により,透視
性被印字体テープとしての透明フィルムテープ32(以下,透
明テープという)に,印字部形成テープとしてのサーマルリボ
ン34のインクが裏返しパターンで転写されて,左右反転印字
が行われるのである(5欄4行~9行)。」
・「本実施例において上記ローラ36,38は,透明テープ3
2の反転印字がされた側の面に,その背景を形成するベーステ
ープ42を貼り付けるテープ貼付けローラを兼ねている。ベー
ステープ42は,第2図に示すように基材44の両面に粘着剤
層46,48を備えた両面粘着テープであり,粘着剤層46は
剥離紙50で被覆され,反対側の粘着剤層48において第3図
に示すように透明テープ32の反転印字面に貼り付けられるも
のである。…(5欄22行~31行)」
・「第1図に戻って,透明テープ32,サーマルリボン34お
よびベーステープ42は,前記テープカセット10のカセット
ケース54に,共用スプール56,巻き取りスプール58およ
び供給スプール60を介して保持されている。
透明テープ32とサーマルリボン34は,共用スプール56
に互いに重ね合わされた状態で巻かれている。ただし,接着剤
等で接合されているのではなく,単に積層されているだけであ
る。そのように二重に巻かれた状態で外周側に透明テープ32
,,が内周側にサーマルリボン34が位置するようにされており
共用スプール56が透明テープ32の供給スプールとサーマル
リボン34の供給スプールとを兼ねている。これによって,カ
セットケース54ひいてはテープカセット10をコンパクトに
構成することができる。
透明テープ32とサーマルリボン34は,重ね合わせ状態で
共用スプール56から引き出されて,サーマルヘッド28とプ
ラテンローラ30との間に供給されるが,サーマルヘッド28
において転写が終了した使用後のサーマルリボン34は,透明
テープ32から引き剥がされ,分離させられた後,巻取スプー
ル58に巻き取られるようになっている。
また,ベーステープ42は巻取スプール58の隣に位置する
供給スプール60に巻かれ,第2図に示す粘着剤層48が内周
側に,剥離紙50が外周側に位置するように保持されている。
このベーステープ42が供給スプール60から引き出されてロ
ーラ36と38の間に供給され,両ローラ36,38の圧着力
により前述のように粘着剤層48において透明テープ32の反
転印字面に貼り付けられることになる。
カセットケース54はコの字形の断面形状を備え,前方(サ
ーマルヘッド28の側)および左右に解放されたものとなって
いる。そして,カセットケース54の共用スプール56が保持
されている部分には,板縁から内部に向かってほぼU字型をな
すスプール装着用の切欠62が形成されており,この切欠62
に共用スプール56のスプール軸64が回転可能に装着されて
いる。…(5欄43行~6欄39行)」
・「また,第1図のように透明テープ32とサーマルリボン3
4とが共用スプール56に積層状態で巻かれていることは不可
欠の要件ではなく,共用スプール56を,透明テープ32の供
給スプールとサーマルリボン34の供給スプールとの2個のス
プールに分離・独立させることも可能である(9欄5行~1。」
0行)
(d)以上によれば,米国特許●●号と第3考案は,ともに「プラテ
ンと協働してプリント動作を実行する印字ヘッドを備えたテーププ
リンタに使用される,テープカセット(米国特許●●)である。」
しかし,米国特許●●号はプリントヘッドとプラテンの「両者が離
間する非作用位置とプリント動作を実行するために互いに接触する
作用位置との間を相対的に移動可能(構成C)であるところ,第」
3考案はこの点について特に限定する記載はない。また米国特許●
●号は「テープ出口(構成E)を備えるものであるところ,第3,」
考案に記載されているカセットケース54には「テープ出口」と,
いえるものが存在しないからテープ出口を有するハウジング米,「」(
国特許●●)を備えるものではない。
そして,第3考案は「…テープを保持するスプールをカセット,
ケースに対して着脱自在とすることにより,そのテープのみ交換の
必要が生じたときには,そのスプールだけカセットケースから取り
外して別のものと交換することができ,カセットごと交換する必要
がなくなる(明細書〔甲2の8〕4欄2行~7行)ことを作用効」
果とする考案であり,この作用効果を奏するためスプールの着脱を
容易にする構成,すなわち「テープ出口を有するハウジング」を用
いない構成を採用した点に技術的意義があるものと理解することが
できるから「テープ出口を有するハウジング」を必須の構成とす,
る米国特許●●号とは技術的意義が異なる発明ということができ
る。したがって,第3考案の考案者が直ちに米国特許●●号の発明
者であるということはできない。
(e)また,上記(a)(米国特許●●号の内容)に述べた米国特許●●
号の構成は,実質的に,透明な受像テープにイメージを転写した上
で,当該プリント面に両面に粘着層を有する粘着テープを貼り合わ
せるという,ラミネート機構が含まれているものの,同特許自体は
テープカセットに関する発明であるし,ラミネート発明にはない前
記構成Cを備えるものである。
そうすると,米国特許●●号にラミネート発明が寄与していると
,()しても前記c(d)テープカセットの売上げにおける超過売上高
を超えて超過売上高の存在を認めることはできない。
eまとめ
前記(2)(一審被告による本件各発明自己実施の有無)において認
定した実施品に係る本件被告製品の売上げのうち,米国販売分に係る
本件被告製品の売上げに関する超過売上高をまとめると,以下のとお
りとなる。
,,(a)本体売上げのうち日本生産分については第1発明~第3発明
第5発明又は海外特許2,3の実施に係る限度で,平成11年3月
31日までの対象期間は売上げの50%,その後は売上げの40%
について超過売上高の存在を認めることができる。
(b)本体売上げのうち中国生産分については,海外特許2,3の実
施に係る限度で,平成11年3月31日までの対象期間は売上げの
50%,その後は売上げの40%について超過売上高の存在を認め
ることができる。
(c)テープカセットの売上げについては,日本生産分及び中国生産
分のいずれについても,海外特許2,3の実施に係る限度で,平成
11年3月31日までの対象期間は売上げの25%,その後は売上
げの20%について超過売上高の存在を認めることができる。
(d)以上(a)~(c)以外の売上げについては,超過売上高の存在を認
めることができない。
(エ)特許不存在国販売分の超過売上高(Ⅶ及びⅧ)
a日本国内生産の本体・テープカセット
(),,前記(イ)a(a)日本国内生産の本体のとおり日本国内において
第1発明~第3発明又は第5発明の実施に係る本体を生産する行為
は,上記各特許の実施に該当するから(特許法2条3項1号,一審)
。,被告は第三者がこれを行うことを禁止することができるそうすると
これを実施する一審被告の行為には日本国特許法に基づく法的独占力
の実現を認めることができるから,第1発明~第3発明又は第5発明
の実施に係る本体売上げのうち,国内生産分については,その全体に
対する関係で前記ウ(本件被告製品の売上げにおける超過売上高)の
認定に係る超過売上高の存在を認めることができる。
他方,テープカセットについては,前記(イ)b(a)(日本国内生産の
テープカセット)のとおり,輸出専用品であるため国内においては販
売されておらず,これを第三者が国内で生産する行為は,本件各発明
の直接侵害のみならず上記改正後の特許法101条1号又は2号の定
める間接侵害にも当たらないというべきであるから,これを実施する
一審被告の行為について日本国特許法に基づく法的独占力の行使を認
めることはできず,したがって,生産時点においてテープカセットの
売上げについて超過売上高の存在を認めることはできない。
また,同製品が日本国内で生産された後,特許不存在国において販
売された場合についても,法的独占力の基礎となる特許権自体が存在
しない以上,いかなる意味でも法的独占力に由来する超過売上高を観
念することができない。
b中国生産の本体・テープカセット
前記(イ)a(b)(中国生産の本体,(イ)b(b)(中国生産のテープカ)
セット)のとおり,一審原告らが一審被告に承継した特許を受ける権
利は中国において特許化されておらず,中国で本件被告製品が生産さ
れた時点においてはいかなる独占力も及ばないから,その時点におけ
る超過売上高を観念することはできない。
また,同製品が中国で生産された後,特許不存在国において販売さ
れた場合,法的独占力の基礎となる特許権自体が存在しない以上,い
かなる意味でも法的独占力に由来する超過売上高を観念することがで
きない。
したがって,中国で生産され特許不存在国へ販売された本体・テー
プカセットの売上げについては,独占の利益の算定に当たってはこれ
を控除すべきである。
これに対し一審原告らは,一審被告が中国において行っているのは
最後の組立ての部分のみであるなどとして,本件被告製品の製造が実
質的に日本国内で行われている旨主張するが,これを認めるに足りる
証拠はない。
その他一審原告らは,一審被告が製造を中国に移管した経緯等の事
情を挙げるが,これらを考慮したとしても中国で生産され特許不存在
国へ販売された製品に対し本件各特許に基づく法的独占力が付与され
,。るものではないから前記判断を左右するものということはできない
したがって,一審原告らの上記主張は採用することができない。
cまとめ
前記(2)(一審被告による本件各発明自己実施の有無)において認
定した実施品に係る本件被告製品の売上げのうち,特許不存在国販売
分に係る本件被告製品の売上げに関する超過売上高をまとめると,以
下のとおりとなる。
(a)本体売上げのうち日本生産分については,第1発明~第3発明
又は第5発明の実施に係る限度で,平成11年3月31日までの対
象期間は売上げの50%,その後は売上げの40%について超過売
上高の存在を認めることができる。
(b)上記(a)以外の売上げについては,超過売上高の存在を認めるこ
とができない。
(5)本件における利益率
ア職務発明における使用者の独占的利益を算定する方法として,利益率算
定方式と,仮想実施料率算定方式が考えられるところ,一審原告らは,算
定方式1として「超過売上高に基づく収益=超過売上高×利益率-資本,
コスト」との算定方式を主張し,平成元年から平成15年までの実績に照
らせば,一審被告のラベルライター事業に係る超過売上高に基づく収益の
割合は●%であると主張する。
しかし,売上げに占める特許権による法的独占力に由来する利益の割合
,,は後記イのとおり諸事情を総合考慮して初めて認定できるものであって
営業利益率や資本コストといった係数のみでそのすべての事情を代替でき
るものと解することはできない。
したがって,一審原告らの上記主張は相当でなく,採用することができ
ない。
イ仮想実施料率による算定
(ア)超過売上げに基づき特許権者等が受ける利益は,超過売上高に一定
の利益率を乗ずることにより算定される。本件の場合に一審原告ら主張
の割合である●%を用いることができないことは上記のとおりである
が,その場合には,その代替的方法として,特許権侵害訴訟における損
害額算定方法である特許法102条3項の趣旨を考慮して,仮に当該特
許権者等が第三者に実施させたときに得られるであろう実施料率(仮想
実施料率)に基づき算定することも許されると解する。
そして,上記のような仮想実施料率の認定に際しては,当該特許権等
を具体的に念頭に置いて行うべきであり,とりわけ当該特許権等を自己
実施に併せて第三者実施もしているときはそのときの現実の実施料率を
参酌すべきものと解するのが相当である。
(),(イ)前記1本件における基礎的事実関係で認定したキングジム契約
カシオ契約及びダイモ契約の経緯によれば,ラミネートタイプのラベル
ライターに関する実施許諾においては,対象となる権利について無効事
由の主張がされたことがあったにもかかわらず,最終的に,キングジム
契約においてはラベルライター本体については販売価格の●%,テープ
カートリッジ等の消耗品については販売価格の●%の実施料を支払うと
いう内容で,カシオ契約においては本体・テープカセットとも販売価格
の●%の実施料を支払うという内容で包括的な実施許諾がなされ,また
ダイモ契約においては本体につき●%,テープカセットにつき●%の実
施料を支払うという内容で和解がなされ,これらのいずれについても許
諾期間中に実施料率の変更はなされたことを認めるに足りる証拠はな
い。
そして,前記2(本件発明報酬請求と特許無効事由との関係)におい
て説示した本件各特許における無効事由の有無,前記(4)(超過売上高
の割合)で認定した各発明に対する評価,また後記(6)(本件各発明の
寄与度)に認定する本件被告製品を構成する特許ポートフォリオ等の諸
事情を総合考慮すれば,本件被告製品を構成する特許ないし実用新案全
体に対する関係における仮想実施料率は,本体・テープカセットとも5
%と認めるのが相当である。
(6)本件各発明の寄与度
前記(2)ないし(5)における説示は,本件各発明が含まれる本件被告製品に
ついてのものであるが,上記被告製品に含まれる発明は本件各発明だけでな
く,一審被告が有するに至った他の数多くの発明ないし特許権等が含まれて
おり,これらが一体となって上記超過売上高算定の基礎となっているもので
あるから,以下,上記各発明の中における本件各発明の寄与度について検討
する。
ア一審被告保有権利についての検討
一審被告は,本件被告製品において一審被告は多数の権利を保有し,こ
れが特許ポートフォリオを形成している旨主張し,これに対し一審原告ら
は,その実施の有無や有効性を争っている。
そこでこれを具体的に検討すると,次の(ア)及び(イ)のとおりである。
また,以下(ウ)記載の各権利について一審原告らはその実施を明らかに
争わないところ,乙132及び弁論の全趣旨によれば,(ウ)記載の各権利
は一審被告の製品において実施されていると認められる。
なお,一審被告は,これら以外の特許権,実用新案権についても特許ポ
ートフォリオを構成するものとして主張するが,一審被告はそれら権利の
内容や実施の具体的な状況について主張立証するところがないので,本件
各発明の寄与度を判断するに当たりこれらの権利を考慮することはできな
い。
(ア)一審被告主張の特許ポートフォリオ(本体)
〔1〕【特許第●●号(特許発明1,出願日平成3年9月25日】)
a特許発明1の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b特許発明1の実施
●●(省略)
c特許発明1の発明者
主張に鑑み,一審原告X2が特許発明1の発明者であるか否かにつ
いて検討する。
(a)一審原告X2ら作成のP-touchEXCEL操作系仕様
案(甲137)記載の構成
甲137の3頁目の右欄には,ラベルライターに18mmテープ
が装着されて最大3行までしか印字できない状態で,ユーザーが4
行の印字能力を必要とする場合の操作手順が記載されている。すな
,,),)わちユーザーが手順2で24mmテープを装着して手順3
で電源ONを行うと,24mmテープの装着状態が表示される。そ
の後,手順4)でリターンキーを操作すると,行数を選択する画面
が表示される。この選択画面では,行数として,1行から5行まで
のいずれかが選択できる。ユーザーが,手順5)でカーソルキーと
リターンキーとを操作して行数「4」を選択すると,文字サイズと
行数との組み合わせとして「FREE「12×4「24×2,」,」,
&12×2「36&6×3」の各組合せが表示される。」,
ユーザーが,手順6)でラインアップキー及びラインダウンキーと
リターンキーとを操作して,必要とする一つの組合せ「12×4」
を選択する。その後,ユーザーが,手順7)でリターンキーを使用
して文字列を入力し,手順8)で印字を行う。
(b)構成の対比等
・甲137には,ラベルの長手方向に印字を行う装置が記載され
ているので,この装置は特許発明1の構成①「テープ印字装置」
に相当する。また,甲137には,手順3)で装着されているテ
ープの幅を表示する手段が記載されているので,特許発明1の構
成②「テープ幅設定手段」を備えている。
・甲137には,手順4)で行数を選択すると,その行数を全体
の行数とする文字の大きさと各大きさの文字の行数の組合せが表
示されるから,特許発明1の構成③「前記テープの幅方向に印字
される行数を格納する格納手段」を備えていると解される。
・甲137には,手順4)で行数を選択すると,その行数を全
体の行数とする文字の大きさと各大きさの文字の行数の組合せが
表示されることが記載されているが,その組合せがどのようにし
て決まるかの記載はなく,また,弁論の全趣旨によると「24,
×2&12×2」の場合は,24mmテープの幅内に文字が
収まらないものと認められるから,特許発明1の構成④「その格
納手段に格納された行数と前記テープ幅にもとづいて,前記テー
プ上に印字可能な文字サイズを選択する」ものであるかどうかは
明らかでない。また,甲137に「その格納手段に格納された,
行数と前記テープ幅にもとづいて,前記テープ上に印字可能な文
字サイズを選択する」ために採用すべき具体的な構成が記載され
ているということもないから,甲137の記載は,アイデアを記
載したにとどまるというほかない。
(c)したがって,甲137の記載をもってしても,一審原告X2が
特許発明1の発明者であると認めることはできない。
〔2〕【特許第●●号(特許発明2,出願日平成4年4月30日】)
a特許発明2の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
〔3〕【特許第●●号(特許発明3,出願日平成4年12月28日】)
a特許発明3の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
c無効事由の有無
次に,特許発明3の無効事由について検討する。
証拠(甲202,294,295)及び弁論の全趣旨によれば,一
審被告は,欧州において1992年(平成4年)3月からPT-80
00の販売を始め,米国では,同製品を「PT-EXCEL」の名称
で遅くとも同年5月には販売を始めたところ,甲202(P-TO「
UCHXLUSER'SGUIDE)は,その発売当初の取扱」
説明書であることが認められる。そうすると,甲202は,特許発明
3に係る特許の出願日(平成4年12月28日)前に外国で頒布され
た刊行物であると認められる。
甲202の62頁~63頁には,入力された文字列とテープの幅を
比較して,最も大きな文字サイズを機械が自動的に選択するが,特定
の文字サイズを指定することもできることが記載されており,90頁
には,装着されたテープの幅に対して入力された文字が大きすぎると
装置が判断した場合に警告が出ることが記載されていると認められ
る。
しかし,文字サイズの自動的な設定に際して「テープ幅検出手段に
より検出されたテープ幅に基づいて,テキスト中における文字をテー
プに印字する際の文字サイズを複数種類の各テープ幅と各テープ幅に
対応して予め決定された文字サイズとを対応させてなるテーブルを参
照して」設定されるとの記載があるとは認められないし,警告を発す
るのは文字サイズの設定とはいえないから,この点をもって「テー,
プ幅検出手段により検出されたテープ幅に基づいて,テキスト中にお
ける文字をテープに印字する際の文字サイズを複数種類の各テープ幅
と各テープ幅に対応して予め決定された文字サイズとを対応させてな
るテーブルを参照して」文字サイズが設定されると認めることはでき
ない。したがって,甲202に特許発明3の構成④について記載され
ているとは認められず,甲202の記載に基づいて特許発明3に無効
事由があると認めることはできない。
〔4〕【特許第●●号(特許発明4,出願日平成5年1月7日】)
a特許発明4の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c無効事由の有無
次に,特許発明4の無効事由の有無について検討する。
特許発明3について述べたとおり,甲202は,特許発明4に係る
特許出願(平成5年1月7日)前に外国で頒布された刊行物であると
認められる。
甲202の62頁には,通常はAUTOに設定されており,この場
合は,入力された文字列(inputtedmessage)をテープサイズと比較
して,自動的に可能な限り大きな文字を利用することが記載されてお
り,68頁には,AUTO(自動)ラベル長設定のときは,入力され
た文字列(inputtedmessage)とテープ幅を参照して,自動的に文字
列に合うようにラベル長を調整するが,文字列のサイズにかかわらず
ラベルの長さを指定することもできることが記載されており,91頁
には,ラベルの長さを指定した場合,入力した文字列(thetextyou
haveentered)が指定したラベルの長さに対して長すぎると判断され
ると,印字しようとした際に「設定したラベル長に対して文字列が長
すぎます」とのエラー表示が出ることが記載されている。そして,ラ
ベル長を自動的に調製するためには文字の大きさが判明しなければな
らないところ,自動的に可能な限り大きな文字が設定される通常の場
合には,その文字について自動的にラベル長が調製されるものと解さ
れる。また,ラベルの長さを指定した場合に,指定されたラベルの長
さと比べる対象は,印字しようとしているテキストの長さであるはず
であるから,自動的に可能な限り大きな文字が設定される通常の場合
には,その文字についてのテキストの長さと解するのが自然である。
また,甲202には,指定されたラベルの長さがそのテキストの長さ
に対して不足するときは,エラー表示が出ることが記載されており,
それ以外の場合(指定されたラベルの長さがそのテキストの長さに対
して不足しないとき及び自動的にラベル長が調製されたとき)につい
,。て記載されていないがそのまま印字されると解するのが自然である
特許発明4は,上記のとおり,テープ幅検出手段により検出された
テープ幅に基づいて,そのテープに印字される文字等のサイズが自動
的に決定され,その決定された文字等のサイズを有する文字等のテキ
スト長が算出され,このようにして算出されたテキスト長と,任意に
設定されたテープ長を比較して,テキスト長の方が小さいときは印字
をし,テキスト長に従って自動的にテープのテープ長が設定された場
合は,そのまま比較を行うことなく印字する(特許発明4の構成⑤~
⑫,というものであるところ,上記の甲202の記載内容に照らす)
と,甲202には,特許発明4のこの構成がすべて記載されているも
のと認めることができる。弁論の全趣旨によると,特許発明4の構成
①~④は,ラベルプリンタに広く見られる周知の構成であると認めら
れるから,特許発明4は,甲202に基づく無効事由があると認めら
れる。
〔5〕【特許●●号(特許発明5,出願日平成4年4月27日】)
a特許発明5の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
cなお,特許発明5につきキングジム社と共同出願すべきであったか
否かを検討するに,証拠(甲214,216)によると,キングジム
社から平成3年9月3日に一審被告に提出された「UR505操作
仕様書案」には「自動に属する『小さめ・普通・大きめ』を選択し,
た場合は,印刷実行時にあらかじめ定められたテープ幅毎の印刷可能
な最大幅(最大ドット数)に基づいて,行数に従って文字サイズを割
り付け,印刷を行う」と記載されており,そこで述べられているこ。
。,とは特許発明5の構成⑦と重なる点があるものと認められるしかし
そのような記載があるからといって,そのことから直ちに特許発明5
についてキングジム社の従業員が発明をしたということはできない。
したがって,特許発明5を一審被告が単独で出願したからといってキ
ングジム社との契約(甲139)に違反するとは認められない。
〔6〕【特許第●●号(特許発明6,出願日平成3年9月25日】)
a特許発明6の構成
請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおりである。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
(a)特許発明6の意義
特許発明6は,上記のとおり,テープの長手方向の印字長さを入
力する入力し,文章データ中の各行のテープ長手方向の文字数のう
ち最大文字数とテープの長手方向の印字長さとを比較して,印字不
可能な関係にあるときエラー出力をするものであるところ,特許発
明6に係る明細書(●●)の記載を参酌すると,ここでいう「印字
長さ」は「ラベルの長さから余白を除いた長さ」を意味するもの,
と解される。
●●(省略)
〔〕【特許第●●号(特許発明7,出願日平成3年3月28日】7)
a特許発明7の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c無効事由の有無
次に特許発明7の無効事由の有無について検討する。
(a)特許発明7の意義
特許発明7の上記構成のうち,構成④は「前記キャラクタのデ,
ータを適宜の位置で区切って前記テープの幅方向に複数の印字行に
印字することを設定するための行印字指令データを入力する行設定
手段とというものであるから行印字指令データにつきキ,」,「」,「
ャラクタのデータを適宜の位置で区切って複数の印字行に印字する
ことを設定する」という限定しかないことは明らかであり,単に上
段と下段に区切って印字することを設定するためのものも「行印,
字指令データ」に含まれるというべきである。また,構成⑤の「入
力バッファ」は,入力手段により入力されたキャラクタのデータ及
び行設定手段により入力された行印字指令データを入力順に格納す
るためのものであり,構成⑥の「データ形成手段」は,行印字指令
データに基づいて各印字行のキャラクタデータを,テープの幅内に
対応して配置し印字データに形成するものであって,単にキャラク
タのデータを上段と下段に区切って印刷するような印字データに形
成するものも「データ形成手段」に含まれるというべきである。さ
らに,構成⑦は「データ形成手段」が,テープの幅内に対応する,
全ての行の印字データを並行して印字ヘッドに供給するとともにテ
ープの長手方向に対応するデータを順次印字ヘッドに供給すること
が記載されているのみである一審被告は特許発明7につき上。,,「
段行印字指令データ」及び「下段行印字指令データ」を用いて入力
された文字列をテープの上段に配置するか下段には配置するかを決
定し,1つのテープの上に1行印字及び2行印字を混在することが
できるものを意味すると主張するが,特許発明7がそのようなもの
に限られると解することはできない。
(b)検討
甲296(実開平1-178948号公報,公開日平成元年12
月21日)には,上段と下段に同じ内容のものを並行して印字する
ことが記載されている。
乙171(Mの陳述書)の添付資料4には,DYMO4000の
カタログが掲載されているが,そのDYMO4000の写真は不鮮
明であり,これによって,特許発明7の構成④「行設定手段」が記
載されているとまで認めることはできない。また,同添付資料に
2行印字のサンプルが貼られているとしても,それがどのような形
成されたかは明らかでない。
甲201(DYMO4000の取扱説明書)には,▲ボタンとP
rintボタンを押すことによって,文字データを2行に区切って
印字することが記載されているが,甲201が特許発明7に係る特
許出願(平成3年3月28日)前である平成3年1月に日本国内又
は外国において頒布された刊行物であることを認めるに足りる証拠
はない。
これらのことからすると,特許発明7に無効事由があると認める
ことはできない。
〔8〕【特許第●●号(特許発明8,出願日平成3年3月28日】)
a特許発明8の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとお
りである。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c無効事由の有無
(a)特許発明8の意義
特許発明8は,上記の特許発明7とは「行印字指令データ」,
が「テープの幅方向に1または複数の行に印字することを設定す
るため」のものであることが異なり「テープ幅をその複数行に,
分割したときにその分割された各行の幅内に印字可能なキャラク
タサイズを,テープ上に印字されるキャラクタのサイズを選択す
る選択手段を制御して選択する」機能が加わっている。
(b)検討
上記7の特許が無効事由が認められないのと同様の理由によっ
て,甲296,乙171,甲201に基づく無効事由は認められ
ない。
また甲141(キングジム社から一審被告宛ての1989年[
平成元年9月17日付けTR55RR企画案には/]「()」),「
==ユーザー挿入の2行印字開始・改行・終了マーク「2行印」,
字の際,文字サイズが一義的に機械側に依って決定されることを
厭わない」と記載されているが,甲141は会社間のFAX文。
書であるから,同文書の記載によって直ちに特許発明に無効事由
があると認めることはできない。また,同文書の記載から直ちに
キングジム社の従業員が特許発明8の発明者であると認めること
もできない。
〔9〕【特許第●●号(特許発明9,出願日平成3年3月28日】)
a特許発明9の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c無効事由の有無等(特許発明9の発明者)
(a)証拠(甲47,141,143,207)及び弁論の全趣旨に
よると,次の事実が認められる。
・平成元年6月9日,キングジム社から一審被告宛てに「TR-
77プロポーザルの件」と題する書面(甲47)が提出され,
そこには「TR-77の特長」として「2行印字や定長ラベル,,
への割付印字の実現」と記載されていた。
・平成元年9月17日,キングジム社から一審被告宛てに「TR
55RR企画(案(甲141)が提出された。そこには「文)」,
中で任意に2行印字を指定でき印刷できるようにする「/==」,
ユーザー挿入の2行印字開始・改行・終了マーク」と記載され,
下記の印字の例が示されていた。

・平成2年12月24日,キングジム社から一審被告宛てに「U
R55機能・操作仕様(案(甲143)が提出された。そこに)」
は,下記の印字の例が示されていた。

・平成3年3月6日,一審被告からキングジム社宛てに「UR-
55(PT-EXCEL)仕様及び概略御見積(甲207)が」
提出された。そこには,上段に「ABC」下段に「DEF」と印
字し,その右側に「GHI」と1行で印字している例が示されて
いた。
(b)以上の事実からすると,キングジム社と一審被告との間でやり
取りされた書面には,2行の上段と下段の文字の長さが同じものの
右側に1行の文字が記載されているものか,2行の上段と下段の文
字の長さが異なるが,その右側には文字が記載されていないものし
かなく,2行の上段と下段の文字の長さが異なるが,その右側に文
字が記載されているものはないから,特許発明9の構成⑥,⑩につ
いて何らかの検討がされたとは認められない。
(c)乙71の添付資料9によると,特許発明9については,設定登
録後,4名の者から特許異議の申立てがされたが,引用例には,特
許発明9の構成⑥,⑩が記載されていないとして,特許が維持され
たことが認められる。このように,特許発明9の構成のうち新規な
特徴部分は構成⑥,⑩にあるところ,上記のとおり,特許発明9に
係る特許出願(平成3年3月28日)前に,キングジム社と一審被
告との間で構成⑥,⑩について何らかの検討がされたとは認められ
ないから,キングジム社の従業員が発明者であると認めることはで
きない。したがって,特許発明9を一審被告が単独で出願したから
といってキングジム社との契約(甲139)に違反するとは認めら
れない。
〔10〕【特許第●●号(特許発明10,出願日平成3年12月26日)】
a特許発明10の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c無効事由と発明者性
(a)無効事由の有無
カシオ社KL-1000の取扱説明書64頁(甲206)には,
「2行以上文字を打ちたいときは改行をします。9mmテープの場
合は縦1倍の文字で2行まで,18mmテープの場合は縦1倍の文
字で4行まで改行できます「印刷できる行数以上,改行した場。」,
合には,表示右上に“ERR”と表示されます」と記載されてい。
る。証拠(甲297)によると,カシオ社KL-1000は平成3
年11月15日に発売されたと認められるが,上記取扱説明書(甲
206)には「1992年10月現在」と記載されているから,,
上記取扱説明書は,特許発明10に係る特許出願(平成3年12月
26日)前に頒布されたとは認められない。また,カシオ社KL-
1000の実機が特許発明10に係る特許出願(平成3年12月2
6日)前から上記取扱説明書記載のような内容のものであるとも認
められない。
特許発明10の構成④は,所定行数に対応する個数以上の「改行
データ」の入力を禁止するものである。しかるところ,カシオ社K
L-1000の上記取扱説明書の記載によると,表示右上に“ER
R”と表示されるのみで「改行データ」の入力を禁止するもので,
あるかどうかは明らかでない。また,弁論の全趣旨によると,カシ
オ社KL-1000の実機においては,印刷できる行数以上改行し
た場合には,表示右上に“ERR”と表示されるものの,液晶上に
は改行マークが挿入されることが認められる。そして「改行デー,
タ」の入力を禁止することとエラー表示をすることは,技術的に異
,「」なる事項であってエラー表示をすることから直ちに改行データ
の入力を禁止することを想起するということはできない。
したがって,上記取扱説明書の記載又はカシオ社KL-1000
から,特許発明10に無効事由があると認めることはできない。
(b)キングジム社の従業員は発明者か
平成3年3月6日に一審被告からキングジム社宛てに提出された
UR-55PT-EXCEL仕様及び概略御見積18頁甲「()」(
207)には「エラー条件〉1.RETURNキー押下により行,〈
数が9行を越えるとき」と記載されている。
しかし,この文書は,一審被告からキングジム社宛てに提出され
たものであって,同文書に記載されていたからといってキングジム
社の従業員が特許発明10の発明者であるということはできない
し,同文書には,特許発明10の構成④,すなわち,所定行数に対
応する個数以上の「改行データ」の入力を禁止することは記載され
ていないから,いずれにしても,キングジム社の従業員が特許発明
10の発明者であると認めることはできない。したがって,特許発
明10を一審被告が単独で出願したからといってキングジム社との
契約(甲139)に違反するとは認められない。
〔11〕【特許第●●(特許発明11,出願日平成3年3月28日】)
a特許発明11の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
(a)特許発明11の意義
特許発明11の明細書(●●)には,印字範囲の長さを設定する
ためのダイヤルとキーによって印字長さSLを設定し,それを印字
長さメモリ40に格納した後,そのメモリに格納したデータから印
刷開始部分及び印刷終了部分の印刷不可能な印字長さを除いて実際
印字長さJLを算出し,実際印字長さJLの中に文字を均等に割り
付けることが記載されている(0030【0031】及び【0【】,
038。この記載を参酌すると,特許発明11の構成⑦「印字媒】)
体テープに印字する印字範囲の長さを設定する印字長さ設定手段」
によって設定されるものは,印刷開始部分及び印刷終了部分の余白
を含むテープ全体の長さと解釈することができる。特許発明11の
明細書(●●)の【図29】の記載は,特許発明11の上記技術的
意義に照らすと,上記解釈を左右するものということはできない。
●●(省略)
〔〕【特許第●●(特許発明12,平成3年3月28日】12)
a特許発明12の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
(a)特許発明12の意義
特許発明12の明細書(●●)には,印字範囲の長さを設定するた
めのダイヤルとキーによって印字長さSLを設定し,それを印字長さ
メモリ40に格納した後,そのメモリに格納したデータから印刷開始
部分及び印刷終了部分の印刷不可能な印字長さを除いて実際印字長さ
JLを算出し,実際印字長さJLの中にキャラクタ列を記録可能かど
うかを判断し,記録可能と判断されたときは,キャラクタ列の印刷へ
進むが,記録不可能と判断されたときは,エラーメッセージを表示す
ることが記載されている(0054【0055【0063】及【】,】,
び【0064。この記載を参酌すると,特許発明12の構成⑤「前】)
記テープの長手方向の記録長さを入力設定する記録長さ設定手段」に
よって設定されるものは,印刷開始部分及び印刷終了部分の余白を含
むテープ全体の長さと解釈することができる。特許発明12の明細書
(●●)の【図29】の記載は,特許発明12の上記技術的意義に照
らすと,上記解釈を左右するものということはできない。また,特許
発明12の構成⑦「前記設定された記録長さと前記キャラクタ列との
長さを比較する比較手段」は,設定された記録長さに基づき算出され
た実際印字長さJLとキャラクタ列を比較するとの意味であると解さ
れる。
●●(省略)
〔〕【特許第●●号(特許発明13,出願日平成3年3月28日】13)
a特許発明13の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
(a)特許発明13の意義
特許発明13の明細書(●●)には,印字範囲の長さを設定する
ためのダイヤルとキーによって印字長さSLを設定し,それを印字
長さメモリ40に格納した後,そのメモリに格納したデータから印
刷開始部分及び印刷終了部分の印刷不可能な印字長さを除いて実際
印字長さJLを算出し,実際印字長さJLの中にキャラクタ列を記
録可能かどうかを判断し,記録可能と判断されたときは,キャラク
(【】,【】,タ列の印刷へ進むことが記載されている00460047
【0055】及び【0056。特許請求の範囲の記載に,この明】)
細書の記載を参酌すると,特許発明13の構成④「前記テープの長
手方向の印字長さを設定するかしないかを指示する指示手段,構」
成⑤「前記テープの長手方向の印字長さを入力し」によって設定,
入力されるものは,印刷開始部分及び印刷終了部分の余白を含むテ
ープ全体の長さと解釈することができる特許発明13の明細書●。(
●)の【図29】の記載は,特許発明13の上記技術的意義に照ら
すと,上記解釈を左右するものということはできない。
(b)実施の有無
●●(省略)
〔〕【特許第●●号(特許発明14,出願日平成3年3月28日】14)
a特許発明14の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
(a)特許発明14の意義
特許発明14の明細書(●●)には,印字範囲の長さを設定する
ためのダイヤルによって画面に表示されている数値を増減した上,
設定キーによって印字長さSLを設定し,それを印字長さメモリ4
0に格納した後,そのメモリに格納したデータから印刷開始部分及
び印刷終了部分の印刷不可能な印字長さを除いて実際印字長さJL
を算出し,実際印字長さJLの中にキャラクタ列を記録可能かどう
かを判断し,記録可能と判断されたときは,キャラクタ列の印刷へ
(【】,【】,【】進むことが記載されている003800390049
及び【0050。この記載を参酌すると,特許発明14の構成⑨】)
「前記印字媒体テープに印字する印字範囲の長さを設定するための
設定画面を前記表示手段に表示させる設定画面表示手段,構成⑩」
「前記設定画面に表示されている印字長さを示す数値を増減する増
減手段,構成⑪「前記設定画面に表示されている数値に基づいて」
印字長を設定する印字長さ設定手段」によって設定されるものは,
印刷開始部分及び印刷終了部分の余白を含むテープ全体の長さと解
釈することができる。特許発明14の明細書(●●)の【図28】
の記載は,特許発明14の上記技術的意義に照らすと,上記解釈を
左右するものということはできない。
●●(省略)
〔〕【(,】15実用新案登録第●●号考案15出願日平成4年4月30日)
a考案15の構成
実用新案登録請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下
のとおりである。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c無効事由の有無
証拠(甲208)及び弁論の全趣旨によると,一審被告製造のキン
グジム社「テプラTR-77」は,考案15に係る実用新案登録の出
願(平成4年4月30日)前の平成3年5月15日に発売された「テ
ープ送り機構とテープ送り機構により送られたテープ上に文字等の印
字を行う印字機構とテープ送り機構によるテープ送り方向に沿って印
字機構から所定距離だけ離間されるとともに印字機構よりも下流側に
配設されたテープカッタ機構とを有するテープ印字装置」であると認
められる。
同製品の取扱説明書(甲29)43頁には,同製品においてはテー
プ送りの長さを変えることができ「全送り「半送り「手動」の,」,」,
3種類の中から選ぶことができること「全送り」では,文字の前後,
にそれぞれ約17mmの余白が付くこと「半送り」では,文字の前,
に約20mm,文字の後ろに約3.5mmの余白が付き,文字の前約
.,「」,35mmのところにカットマークが入っていること手動では
テープ送りは自動的には行われないことが記載されている。そして,
弁論の全趣旨によると,同製品において,印字装置とカッターの所定
距離は17mmであり「全送り」の場合,印字終了位置からテープ,
を34mm送ることが認められる。そうすると,同製品は,考案15
の構成をすべて備えているということができる。
この点について,一審被告は,上記「半送り」では,文字の前後の
余白の長さが異なるから,考案15の構成⑤を備えていないと主張す
るが,実用新案登録請求の範囲には,文字の前後の余白が同一でなけ
ればならないという限定はないから,一審被告の主張を採用すること
。,,「」,「」,はできないまた一審被告は上記全送り半送りの表示は
考案15の構成⑤「予め決められた余白の大きさを表す複数の余白デ
ータとして表示する」とはいえないとも主張するが「全送り「半,」,
送り」については,それぞれ上記のとおり決まった長さの余白が付く
ことが示されているのであるから「全送り「半送り」の表示は,,」,
考案15の構成⑤「予め決められた余白の大きさを表す複数の余白デ
ータとして表示する」に当たるものということができる。
したがって,考案15には無効事由があると認められる。
〔〕【(,)】16特許第●●号特許発明16出願日平成2年9月12日
a特許発明16の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとお
りである。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
〔〕【(,)】17特許第●●号特許発明17出願日平成2年9月12日
a特許発明17の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとお
りである。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
〔〕【(,)】18特許第●●号特許発明18出願日平成4年4月20日
a特許発明18の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとお
りである。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
(a)特許発明18の意義
特許発明18の明細書(●●)には「設定テープ長」が左右,
のカーソル移動キーの操作によって設定され「行修飾(レフト,」
マージンフラッシュ,ライトマージンフラッシュ,中央揃え,行
頭・行末揃え)がやはり左右のカーソル移動キーの操作によって
設定され「設定テープ長」がテープ長データLDとしてテープ,
長メモリ49に記憶され,設定された行修飾のフラグがセットさ
,(),れて印刷制御処理に移ること10欄26行~11欄15行
設定テープ長LDが文書データの総文字幅TWより大きいとき
は,設定テープ長LDから総文字幅TWを差し引いた残りのスペ
ース分を「行修飾」の設定に応じて,文書データの前方方向に,
付加する,後方方向に付加する,半分を前方方向に半分を後方方
向に付加する均等に割り付けるといった処理が行われること1,(
1欄28行~12欄10行)が記載されている。この記載を参酌
すると,特許発明18の構成③「前記テープの長手方向の印字長
を入力設定するテープ長設定手段」によって設定されるものは,
総文字幅TWに行修飾で付加されるスペース分を加えたものであ
る。そして,特許発明18の上記明細書(●●)では,印刷開始
部分及び印刷終了部分の余白を想定した記載はないから,総文字
幅TWに行修飾で付加されるスペース分を加えたものをもってテ
ープ全体の長さと解釈することが相当である。特許発明18の明
細書(●●)の【図18】~【図24】の記載は,特許発明18
の上記技術的意義に照らすと,上記解釈を左右するものというこ
とはできない。
●●(省略)
〔〕【特許第●●号(特許発明19,出願日平成4年4月30日】19)
a特許発明19の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
(a)特許発明19の意義
特許発明19の明細書(●●)には「設定テープ長」が左右の,
カーソル移動キーの操作によって設定され「行修飾(レフトマー,」
ジンフラッシュ,ライトマージンフラッシュ,中央揃え,行頭・行
),末揃えがやはり左右のカーソル移動キーの操作によって設定され
「設定テープ長」がテープ長データLDとしてテープ長メモリ43
に記憶され,設定された行修飾のフラグがセットされて,テープ印
字制御処理に移ること(0041【0042,設定テープ長【】,】)
LDが総ブロック幅TBWより大きいときは,設定テープ長LDか
ら総ブロック幅TBWを差し引いた残りのスペース分が余白メモリ
46に記憶され「行修飾」の設定に応じて,ブロックの位置につ,
いて,スペース分を前方方向に付加する,後方方向に付加する,半
分を前方方向に半分を後方方向に付加する,均等に割り付けるとい
った処理が行われること(0045】~【0047)が記載され【】
ている。この記載を参酌すると,特許発明19の構成⑧「前記行修
飾を設定する被記録媒体上の記録領域の大きさを任意に設定する領
域設定手段」によって設定されるものは,総ブロック幅TBWに行
修飾で付加されるスペース分を加えたものである。そして,特許発
明19の上記明細書(●●)では,印刷開始部分及び印刷終了部分
の余白を想定した記載はないから,総ブロック幅TBWに行修飾で
付加されるスペース分を加えたものは,テープ全体の長さと解釈す
ることができる特許発明19の明細書●●の図14~図。()【】【
17】の記載は,特許発明19の上記技術的意義に照らすと,上記
解釈を左右するものということはできない。
●●(省略)
〔〕【(,)】20特許第●●号特許発明20出願日平成3年12月26日
a特許発明20の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとお
りである。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c発明者は誰か
(a)キングジム社が一審被告との共同開発中に提案したものかど
うか
証拠(甲136の5,142,143,207,215)及び
弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。
・平成2年7月23日,キングジム社は一審被告宛てに「UR
55プロポーザル」と題する書面(甲142)を提出した。
・平成2年8月31日一審原告X2はキングジム社宛てに9,「
/6(木)御来社の件」と題する文書(甲215)を送り,そ
こに,上記「UR55プロポーザル」に対する一審被告の案を
添付した。
・平成2年11月7日,一審被告はキングジム社宛てに「テプ
ラEXCELUR-55仕様案(甲136の5)を提」
出した。その中にはキャラクタ列をブロックで区切ることが記
載されている。
・平成2年12月24日,キングジム社は一審被告宛てに「U
R-55機能・操作仕様(案(甲143)を提出した。)」
・以上のような経緯を経て,特許発明20の出願(平成3年1
2月26日)前である平成3年3月6日,一審被告はキングジ
ム社宛てに「UR-55(PT-EXCEL)仕様及び概略御
見積(甲207)を提出した。同書面には,複数段落のラベ」
ルを作成する場合に,1行目のABCを入力し,改行キーを押
すと2行目に移り,続いて2行目のDEFを入力し,NEW
BLOCKキーを押すと,3行目ではなく,1行目であること
を示す「1:」が行頭に表示されることが示されている。
(b)特許発明20の構成は,上記のとおり甲207に記載されて
いるものと認められる。
しかし,甲207は,一審被告からキングジム社宛てに提出さ
れた文書であって,上記(a)認定に係るそれまでの文書には,キ
ャラクタ列をブロックで区切ることは記載されているが,改ブロ
ックデータの入力により行番号を初期値に戻して表示手段に表示
させることは記載されていない。したがって,上記(a)の事実か
ら,特許発明20は,キングジム社が一審被告との共同開発中に
提案したとか,キングジム社の従業員が発明したと認めることは
できない。したがって,一審被告がキングジム社に対して特許発
明20に係る権利を行使することは許されないということはな
い。
(c)一審原告X2は発明者か
証拠(甲136の6)によると,平成2年11月14日の一審
被告の会議において「マルチラインは各行の先頭にM1,M2,
()」。…仮マークを表示することが検討されたものと認められる
しかし,この検討内容は「改ブロックデータの入力により行番号
を初期値に戻して表示手段に表示させる」ことを意味するもので
はないし,一審原告X2が提案したことを認めるに足りる証拠も
ない。その他,一審原告X2が改ブロックデータの入力により行
番号を初期値に戻して表示手段に表示させることを提案したこと
を認めるに足りる証拠はない(甲136の7及び137も,その
旨の提案が記載されているものではない。したがって,一審原)
告X2が発明者であると認めることはできない。
〔〕【(,)】21特許第●●号特許発明21出願日平成4年6月30日
a特許発明21の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとお
りである。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c無効事由の有無等
(a)特許発明21がキングジム社が一審被告との共同開発中に提
案したものかどうか
特許発明20において認定したとおり,甲207には,改ブロ
ックデータを入力することが記載されているが,同号証は一審被
告からキングジム社宛てに提出された文書であって,甲207に
上記事項が記載されている事実から,特許発明21は,キングジ
ム社が一審被告との共同開発中に提案したとか,キングジム社の
従業員が発明したと認めることはできないし,他にこの事実を認
めるに足りる証拠はない。したがって,一審被告がキングジム社
に対して特許発明21に係る権利を行使することは許されないと
いうことはない。
(b)無効事由の有無
特許発明21に係る特許出願(平成4年6月30日)前である
平成3年5月15日発売の機種(TR-77)において,文書を
ファイルに登録しておき,必要に応じてカーソルがある位置にフ
ァイルからその文書を呼び出すという技術が公然使用されていた
としても,特許発明21の構成⑥「前記挿入する登録文書データ
と挿入される文書データを前記テープの長手方向に並べるべく両
文書データを区切る改ブロックデータを両文書データ間に付加す
る改ブロック付加手段」が使用されていたことにはならず,特許
発明21に無効事由があるということはできない。
(c)一審原告X2は発明者か
証拠(甲136の6)によると,平成2年11月14日の会議
において「マルチラインは各行の先頭にM1,M2・・仮)マ,(
ークを表示する」ことが検討されたものと認められる。しかし,
この検討内容を一審原告X2が提案したことを認めるに足りる証
拠はないし,このようなことが検討されていたということから直
ちに一審原告X2が特許発明21の発明者であると認めることは
できない。
〔〕【(,)】22特許第●●号特許発明22出願日平成3年12月28日
a特許発明22の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとお
りである。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c無効事由の有無
後記特許発明54において併せて判断する。
〔〕【(,)】23特許第●●号特許発明23出願日平成4年4月30日
a特許発明23の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとお
りである。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
(a)特許発明23の意義
特許発明23の明細書(●●)には「設定テープ長」が左右,
のカーソル移動キーの操作によって設定され「行修飾(レフト,」
マージンフラッシュ,ライトマージンフラッシュ,中央揃え,行
頭・行末揃え)がやはり左右のカーソル移動キーの操作によって
設定され「設定テープ長」がテープ長データLDとしてテープ,
長メモリ49に記憶され,設定された行修飾のフラグがセットさ
,(【】,【】),れてテープ印字制御処理に移ること00410042
設定テープ長LDが,文字サイズメモリ44に格納されているサ
イズデータと文書データの各コードデータに対応するアウトライ
ンデータに含まれる文字幅データとバーコード幅データに基づい
て求められる「文書データの総文字幅TW」より大きいときは,
設定テープ長LDから総文字幅TWを差し引いた残りのスペース
分がフィード量データとしてとして記憶され「行修飾」の設定,
に応じて,文書データの前方方向に付加する,後方方向に付加す
る,半分を前方方向に半分を後方方向に付加する,均等に割り付
けるといった処理が行われること(0044】~【0054)【】
が記載されている。この記載を参酌すると,特許発明23の構成
「」②前記テープの長手方向の印字長を設定するテープ長設定手段
によって設定されるものは,総文字幅TWに行修飾で付加される
スペース分を加えたものである。そして,特許発明23の上記明
細書(●●)では,印刷開始部分及び印刷終了部分の余白を想定
した記載はないから,総文字幅TWに行修飾で付加されるスペー
,。ス分を加えたものはテープ全体の長さと解釈することができる
特許発明23の明細書(●●)の【図17】~【図23】の記載
は,特許発明23の上記技術的意義に照らすと,上記解釈を左右
するものということはできない。
●●(省略)
〔24〕【特許第●●号(特許発明24,出願日平成4年4月30日】)
a特許発明24の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
〔25〕【特許第●●号(特許発明25,出願日平成4年9月7日】)
a特許発明25の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c無効事由の有無
証拠(甲218,219,315)によると,バーコードには規格
があり,例えば,NW-7(CODABAR)規格では,最初の文字
,,,,,と最後の文字はABCDのいずれかでなければならないこと
この規格は,1972年(昭和47年)にモナークマーキング社によ
って開発されたことが認められる。
しかし,それ以上に特許発明25の構成が知られていたことを認め
るに足りる証拠はないから,特許発明25に無効事由があると認める
ことはできない。
〔〕【(,)】26特許第●●号特許発明26出願日昭和61年10月13日
a特許発明26の構成
特許請求の範囲第1項の記載に従って分説すると,以下のとおりで
ある。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
(a)特許発明26の意義
一審原告らは,特許発明26について,ワープロのように複数行
を数回に分けて印字する場合に限って発明性が認められたものにす
ぎない旨主張する。しかし,特許発明26の明細書(●●)には一
審原告主張の権利解釈を裏付ける記載は認められないし,特開昭5
4-68326号公報(甲221)及び特開昭60-232594
号公報(甲222)に照らしても,特許発明26を一審原告主張の
ように限定して解釈すべきであると解されない。一審原告らが指摘
する特許異議決定(甲138)には,上記一審原告らの主張に沿う
記載があるが,採用することができない。
●●(省略)
c無効事由の有無
特許発明26に係る特許の出願当初の明細書(甲220)の特許請
求の範囲は「入力された文字列をそのまま又は漢字混じり文に変換,
して印字出力を行う印字装置において,印字すべき文字情報を記憶す
る主記憶手段と,この主記憶手段に記憶された文字情報に基づいて印
字ヘッドへドットパターン情報を供給する供給手段と,主記憶手段か
ら印字ヘッドへのドットパターン情報の供給の際に必要に応じてドッ
トパターン情報の上下反転を行う手段と,を有する印字装置」という
ものであったが,その後の補正により,特許請求の範囲第1項は上記
aのとおりとなり,第2項として「前記記録媒体はレタリング用テ,
ープからなり,前記印字ヘッドにより印字リボンを介してテープ表面
に印字がなされることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の印字
装置」が追加されたものである。そして,記録媒体がレタリング用テ
ープであることについては,出願当初の明細書には明示的な記載はな
いが,弁論の全趣旨によると,テープに文字を記録するタイプライタ
又ワードプロセッサが周知であったと認められることや出願当初の明
細書(甲220,2欄2行)にインスタントレタリングシートに印字
することが記載されていたことに照らすと,第2項の追加をもって要
旨変更とまでいうことはできない。
したがって,特許発明26に無効事由がある旨の一審原告らの主張
は前提を欠き採用することができない。
〔〕【(,)】27特許第●●号特許発明27出願日平成4年12月28日
a特許発明27の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
〔〕【(,)】28特許第●●号特許発明28出願日平成5年12月14日
a特許発明28の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとお
りである。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c無効事由の有無
(a)特許発明3について述べたとおり,甲202(P-TOUC「
HXLUSER'SGUIDE)は,特許発明28に係る」
特許の出願日(平成5年12月24日)前に外国で頒布された刊
行物であると認められる。
(b)甲202の92頁には,以下の記載がある。
「・テキストエリア(workingarea)には入力できる限界があ
ります。もし,文字や,アクセント記号や,改行キー,改ブロッ
クキー,スペース,又はタグを入力しようとしたときに,入力エ
リアのバッファ(workingareabuffer)の限界を超える場合,
『WORKINGAREAFULL』という警告表示がされます。
・ナンバリングモードや,記号モードや,部分フォーマットモ
ードやバーコードモードに入った後で,改行キーを押したときに
入力エリアのバッファ(workingareabuffer)の限界を超えたと
きも,この『WORKINGAREAFULL』の警告表示が出ます。
・ファイルを呼び出し,連結させようとしたときに,改行キー
を押したときこの入力エリアのバッファの限界を超えるときは,
この『WORKINGAREAFULL』の警告表示が出ます」。
(c)また,甲202の91頁には,以下の記載がある。
「印刷しようとしたとき,workingareaにテキストが入力されて
いない場合は,こののメッセージ(WORKINGAREAEMPTY!)が出『』
ます」。
(d)以上のとおり,甲202の92頁には,入力が入力エリアの
バッファ(workingareabuffer)の限界を超える場合「WORKING,
AREAFULL」の警告表示が出ることが記載されていると認められる
が,それが「印刷領域内に印刷可能か否かを判定し,印刷不可能
と判定されたときにその旨を報知する」ものであるとは,91頁
の記載を併せて参酌しても認められない。したがって,甲202
に特許発明28の構成⑧が記載されているとは認められず,特許
発明28に無効事由があると認めることはできない。
〔〕【(,)】29特許第●●号特許発明29出願日昭和58年11月19日
a特許発明29の構成
特許請求の範囲第1項の記載に従って分説すると,以下のとおりで
ある。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
〔〕【(,)】30実用新案登録第●●号考案30出願日昭和62年7月2日
a考案30の構成
実用新案登録請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下
のとおりである。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
〔〕【(,)】31実用新案登録第●●号考案31出願日昭和62年7月2日
a考案31の構成
実用新案登録請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下
のとおりである。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
〔32〕【特許第●●(特許発明32,出願日平成4年4月30日】)
a特許発明32の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c発明者
特許発明32に係る特許明細書(●●)には「一方,ローカル印,
字フォーマットの設定データを変更するフォーマット変更キーを設
け,この変更キーを介してローカル印字フォーマット変更モードを設
定するように構成すると,キーや制御モードが増え,操作性が低下す
る。本発明の目的は,文書の任意部分に印字フォーマットを設定可能
な文書処理装置において,操作性やディスプレイの表示機能を低下さ
せることなく,印字フォーマットの設定データを変更可能とすること
である(0004)と記載されているから,特許発明32の課題。」【】
は,操作性やディスプレイの表示機能を低下させることなく,印字フ
ォーマットの設定データを変更することであって,そのために,構成
⑨を採用したものと解されるから,特許発明32の構成のうち特徴的
な部分は,構成⑨であって,構成⑨以外の構成が特許発明32を特徴
付けるものであるとは認められない。
しかるところ,証拠(甲214)及び弁論の全趣旨によると,キン
グジム社から平成3年9月3日に一審被告に提出された「UR505
操作仕様書案(甲214)には,構成①~⑧,⑩,⑪については」
記載されていると認められるが,構成⑨が記載されているとは認めら
れない。したがって,キングジム社の従業員が特許発明32の発明者
であると認めることはできず,一審被告がキングジム社に対して特許
発明32に係る権利を行使することは許されないということはない。
〔33〕【特許第●●号(特許発明33,出願日平成6年7月18日】)
a特許発明33の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c発明者と無効事由
()一審原告2,一審被告社員が発明者であるかどうかaXv
一審原告2,一審被告社員が特許発明33の発明者であるこXv
とを認めるに足りる証拠はない。
(b)無効事由の有無
甲302(キングジム社のテプラプロSR404の取扱説明書)
,(),は1993年平成5年に印刷したことが記載されているから
特許発明33に係る特許出願(平成6年7月18日)前に頒布され
たものと認められる。
甲302の161頁,162頁では,複数のラベル名にそれぞれ
対応するテープ幅が指定されている。しかし,その記載からは,そ
のテープの幅の情報が書式情報記憶手段に格納されている(特許発
明33の構成⑦)とまでは認められない。したがって,甲302に
は特許発明33の構成がすべて記載されているということはできな
いから,一審原告主張に係る特許法29条1項3号の無効事由があ
るとは認められない。
〔34〕【特許第●●号(特許発明34,出願日平成5年1月7日】)
a特許発明34の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c無効事由の有無
一審原告らは,特許発明34の構成のうち①⑤は,甲298(PT
-8000のカタログ表紙)に記載されており,③は甲298から明
らかであり,②は,甲202(P-TOUCHXLUSER'S「
GUIDE)に記載されており,④は甲202から明らかである」
から,特許発明34は進歩性を欠くと主張する。
しかし,甲298にはテストパターンを印刷した写真であるとの説
明はなく,写真から当然にそのように理解することもできないから,
甲298に,特許発明34の構成のうち①③が記載されているという
ことはできない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,特許発明3
4に無効事由があるとは認められない。
〔〕【(,)】35特許第●●号特許発明35出願日平成3年12月26日
a特許発明35の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c発明の経緯
(a)証拠(甲207,214)及び弁論の全趣旨によると,平成3
年3月6日,一審被告はキングジム社宛てに「UR-55(PT-
EXCEL)仕様及び概略御見積り(甲207)を提出したが,」
これに対して,平成3年9月3日に,キングジム社から一審被告宛
に「UR505操作仕様案(甲214)が提出されたことが認」
められる。その37頁には「モード指定」の表題の下に「モード,,
ではローカルフォーマットに相当するものを行頭・文中で指定。別
にモード保存によってグローバルフォーマットに相当するものを設
。」,「(,,定グローバルフォーマットに相当する内容外枠罫鏡文字
縦書きなど全文の書式)を文頭の特殊なモード指定マークで受け付
ける考え方もある」と記載され,さらに「モードの樹系構造を次。,
の様に仮定する」として,表が掲載されているが,その表におい。
,「」,「」,「」。て罫線囲み罫:細い囲み罫:太いと記載されている
(b)「UR505操作仕様案(甲214)の上記記載によると,」
「グローバルフォーマット」と「ローカルフォーマット」を設ける
,「」,ことグローバルフォーマットに外枠罫の設定が含まれること
「ローカルフォーマット」として「囲み罫」を設定することがある
ことが認められるから,これらの記載を実行すると,結果的に2重
のフレーミングが形成されることがあり得るが,2重のフレーミン
グを形成すること自体が「UR505操作仕様案(甲214)」
に記載されているわけではないから,特許発明35がキングジム社
の提案によるものとまで認めることはできない。
〔36〕【特許第●●号(特許発明36,出願日平成6年8月10日】)
a特許発明36の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
〔37〕【特許第●●号(特許発明37,出願日昭和61年12月26
日】)
a特許発明37の構成
特許請求の範囲第1項の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
(c)なお,特許発明37に係る特許の出願当初の明細書(甲21
7)においては,特許請求の範囲第1項は「…レタリングテー,
プ作製装置」とされており,その後の補正によって「…テープ印
刷装置」となったものであるところ,出願当初の明細書(甲21
7)には「レタリングテープ作製装置」についての記載しかない
から「テープ印刷装置」と補正することは,要旨変更に当たる,
と考えられる。
しかし,特許発明37に係る特許に適用される平成5年法律第
26号による改正前の特許法40条は「願書に添付した明細書,
又は図面についての出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前に
した補正がこれらの要旨を変更するものと特許権の設定の登録が
あった後に認められたときは,その特許出願は,その補正につい
て手続補正書を提出した時にしたものとみなす」と規定してお。
り,当然に無効事由があるとされていたものではない。
〔38〕【特許第●●号(特許発明38,出願日平成2年5月17日・)
●●】
a特許発明38の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c発明者
特許発明39(●●)において併せて判断する。
〔39〕【特許第●●号(特許発明39,出願日平成2年5月17日・)
●●】
a特許発明39の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b特許発明39の実施
●●(省略)
c一審原告X2は発明者か
(a)第2考案(出願人一審被告,考案者Aほか2名,出願日昭和6
2年11月28日)の公告公報(実公平6-34126号。甲2の
7)には,次のような技術が記されている。
「テープ印字装置が,テープ110全体を切断する一つの完全切
断カッター136と,剥離紙102のみを切断する二つのハーフ切
断カッター138,140を備えている」。
(b)第4考案(出願人一審被告,考案者一審原告X2,出願日平成
)(。)元年10月6日の公告公報実公平7-23191号甲2の9
には,次のような技術が記されている。
「テープ印刷装置とは別体に構成されたテープ切断装置10は,
カッタ刃18を保持するカッタホルダ20が装着された押付け体1
2と,テープ体28を収容するテープ収容体14とから構成されて
おり,テープ収容体14には,テープ体28の幅方向の移動を規制
する一対のガイド部材34が設けられている。カッタ刃18は,テ
ープ体28の粘着テープ38を完全に切断するが,剥離紙40を切
断しないようにしてもよいし,テープ体全体を切断するようにして
もよい」。
(c)実開平3-33857号公報(出願人一審被告,考案者一審原
告X2外1名,出願日平成元年8月11日。甲44)には,次のよ
うな技術が記されている。
「カッターレバー24の操作により上下動するカッターホルダ2
8を備えたテープ印字装置であって,カッターホルダ28は,カッ
ター刃44,45を有している。カッター刃44は,テープ基体4
2及び剥離紙43を含むテープ1全体を切断する完全切断刃であ
り,カッター刃45は,粘着層41を有するテープ基体42のみを
切断するハーフカット刃である」。
(d)証拠(甲140,171)及び弁論の全趣旨によると,平成元
年6月9日にキングジム社から一審被告に提出された「TR-77
企画(案(甲140)には「別カッターメカ内蔵をも含むハー)」,
フカット・余白カット・コーナーRの実現」と記載されている。。
(e)上記第2考案及び実開平3-33857号の技術は,第1の切
断機構で切り取られた被印刷媒体の端部を第2の切断機構で所望の
形状に切断するという構成を含むものではないし,また,上記第4
考案の技術は,一つの印刷装置に第1の切断機構と第2の切断機構
を有するものでないから,これらは,キングジム警告権利7ないし
8と技術的思想を異にする別個の考案である。さらに,TR-77
企画(案(甲140)の上記記載は,記載された事項を実現する)
ための具体的な構成が述べられているものではなく,アイデアにと
どまるし,その内容もキングジム警告権利7ないし8と同じもので
あるかどうかは,その記載から必ずしも明らかでない。
したがって,上記各証拠から,一審原告X2が●●の発明者であ
ると認めることはできない。
〔40〕【実用新案登録第●●号(考案40,出願日昭和63年8月3
1日】)
a考案40の構成
実用新案登録請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以
下のとおりである。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)について検討する。
()考案40の意義a
証拠(甲212,213)によると,考案40に係る実用新案
登録出願は,●●から分割出願されたものであるところ,同実用
新案登録出願の明細書(甲213)の図1には,カセットケース
の前壁面の一部分が受台を構成し,可動刃はその刃先が受台と対
向しかつ受台に向かって押圧されるように構成されている図が記
載されていたと認められる。そうすると,考案40に係る実用新
案登録出願は,分割出願の要件を備えているものであって,上記
図1に記載されているのがカッターを回転して切断するものであ
ったとしても,考案40がそのようなものに限定されることはな
いというべきである。
●●(省略)
〔〕【(,)】41特許第●●号特許発明41出願日平成2年6月19日
a特許発明41の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って構成要素を分説すると,
以下のとおりである。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c発明者
第4考案(出願人一審被告,考案者一審原告X2,出願日平成元
年10月6日)の公告公報(実公平7-23191号。甲2の9)
には,特許発明41の構成②~④は記載されておらず,特許発明4
1が第4考案に基づくもので,一審原告X2が発明者であると認め
ることはできない。
〔〕【実用新案登録第●●号(考案42,出願日平成元年11月742
日】)
a考案42の構成
実用新案登録請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以
下のとおりである。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
〔〕【(,)】43特許第●●号特許発明43出願日平成3年3月12日
a特許発明43の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとお
りである。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
〔〕【特許第●●号(特許発明44,出願日平成6年5月25日】44)
a特許発明44の構成
特許請求の範囲の請求項1の記載に従って分説すると,以下のとお
りである。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c無効事由の有無
特開平6-122239号公報(平成6年5月6日公開。出願人セ
イコーエプソン社・キングジム社。甲300)には,テープよりもイ
ンクリボンの幅を広く形成すること,サーマルヘッドで印字される個
所よりも,さらに,フィルムテープとインクリボンとの分離位置より
も下流にテープの排出口(10Aと10Bの間)が設けられているこ
とが記載されていると認められる。しかし「前記分離位置の近傍に,
てカセットケースにおける側壁に形成され,フィルムテープの幅方向
への位置ずれを規制案内する一対の規制部材を備え」ていること(構
成⑥「前記各規制部材の間の間隔は前記フィルムテープのテープ幅),
とほぼ同一かつ前記インクリボンのリボン幅よりも小さくされている
ことにより「前記規制部材は,前記インクリボンが当該規制部材の,」
下流側まで走行することを防止すること(構成⑦⑧)について記載」
又は示唆があるとは認められない。
一審原告らは,キングジム社のテープカセットのテープの出口の幅
はフィルムテープの幅よりほんの少し広く,フィルムテープの幅はイ
ンクリボンの幅よりも広い,と主張するが,特許発明44に係る特許
の出願(平成6年5月25日)前から,キングジム社のテープカセッ
トが上記のとおりであったことを認めるに足りる証拠はない(甲29
9も,キングジム社が平成4年から6mmテープと9mmテープを発
売していることが認められるのみで,キングジム社のテープカセット
が特許発明44に係る特許の出願前から上記のとおりであったことを
認めることはできない。。)
また,一審原告らは,テープの幅に合せて上下に規制部材を設け,
テープの上下の移動を防ぐということは,一審被告が平成4年4月か
ら販売しているTX型テープカセットでも実施されている公知の技術
であるとも主張する。しかし,特許発明44が上記相違点に係る構成
(構成⑥~⑧)を有することの技術的意義は,インクリボンとフィル
ムテープとを確実に分離してインクリボンがフィルムテープの走行に
伴って必要以上に引き出されることを防止することにあると認められ
る(●●)ところ,弁論の全趣旨により認められるTX型カセットの
構成によれば,TX型カセットの規制部材は,このような課題解決の
ために設けられているものとは認められず,規制部材のさらに下流側
においてラミネートテープとフィルムテープとを積層させるに当たり
位置ずれを起こすことのないようにフィルムテープを確実に規制案内
するために設けられているものと解されるから,上記特開平6-12
2239号公報(甲300)に記載された発明において上記相違点に
係る構成(構成⑥~⑧)を設けることは,TX型カセットの規制部材
から当業者が容易に想到できるものではない。
したがって,特許発明44に無効事由があるとは認められない。
〔45〕【特許第●●号(特許発明45,出願日平成6年5月25日】)
a特許発明45の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c無効事由の有無
特開平6-122239号公報(平成6年5月6日公開。出願人セ
イコーエプソン社・キングジム社。甲300)の図によるも,同公報
記載のテープカートリッジが「各フィルムテープ及びインクリボン,
を案内するとともに,一対の壁部を有するガイド部(特許発明45」
の構成④⑤)を有すると認められないし,また「前記フィルムテー,
プの幅方向を案内規制する案内規制部(特許発明45の構成⑥⑦)」
を有するとも認められない。
また,一審原告らは,キングジム社のテープカセットは,上記の図
を製品化したものであって,その製品は,上記各構成(特許発明45
の構成④~⑦)を有していると主張するが,特許発明45に係る特許
の出願(平成6年5月25日)前から,キングジム社のテープカセッ
トが上記のとおりであったことを認めるに足りる証拠はない(甲29
9も,キングジム社が平成4年から6mmテープと9mmテープを発
売していることが認められるのみで,キングジム社のテープカセット
が特許発明45に係る特許の出願前から上記のとおりであったことを
認めることはできない。。)
したがって,特許発明45に無効事由があるとは認められない。
〔46〕【特許第●●号(特許発明46,出願日平成6年5月25日】)
a特許発明46の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c無効事由の有無
特開平6-122239号公報(出願人セイコーエプソン株式会社
・キングジム社,公開日平成6年5月6日。甲300)の記載及び図
によるも,同公報記載のテープカートリッジが「前記フィルムテー,
プの搬送経路を構成し,且つ,前記外壁と同一の高さを有する第1壁
」()。,部特許発明46の構成④を有すると認められないしたがって
前記第1壁部よりも高く…第2壁部特許発明46の構成⑤前「」(),「
記第1壁部と第2壁部の間に,…分離壁を設け(特許発明46の構,」
成⑥「前記フィルムテープは前記第1壁部と分離壁との間を走行案),
内される(特許発明46の構成⑦)の各構成を有するとも認められ」
ない。
また,特許発明46に係る特許の出願(平成6年5月25日)前か
ら,キングジム社のテープカセットが上記各構成を有することを認め
るに足りる証拠はない(甲299も,キングジム社が平成4年から6
mmテープと9mmテープを発売していることが認められるのみで,
キングジム社のテープカセットが特許発明46に係る特許の出願前か
ら上記のとおりであったことを認めることはできない。。)
そうすると,特許発明46に無効事由があるとは認められない。
〔47〕【特許第●●号(特許発明47,出願日平成4年1月8日】)
a特許発明47の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
④を特徴とするテープカセット。
b実施の有無
●●(省略)
c無効事由の有無
証拠(乙164添付資料6~12,226の1・2)によると,
米国のバリトロニクス社は1984昭和59年4月からMerlin,()「
(マーリン)レタリング」というラベル作製専用機を販売しており,
日本においても昭和60年12月ころには輸入販売されていたこと,
その後同社は1986年昭和61年12月からMerlinExpress,,()「
(マーリンエクスプレス」というラベル作製専用機の販売を始め,)
昭和62年5月からは日本でも輸入販売されていたことが認められ
る。
しかし,上記マーリンエクスプレスが,特許発明47に係る特許出
願(平成4年1月8日)前から,下記写真(一審原告らの当審第20
準備書面38頁の写真)のような構成を有していたことを認めるに足
りる証拠はない。

【マーリンエクスプレスのカセット】
また,本件特許発明47は,テープ状の被印字媒体が「カセットケ
ース本体のテープ出口より送り出され」てから「テープカッタにより
裁断」されるものであるから,テープカッタ(可動刃,固定刃)はテ
ープ状の被印字媒体がテープカセット本体から送り出される側すなわ
ちテープカセット本体の外側に配置されるものであるということがで
きる。そうすると,固定刃の刃先近傍まではりだして形成されている
「くちばし状のテープ受部」についてもテープカセットの本体の外枠
に設けられていると解するのが妥当である。
上記写真によると,上記マーリンエクスプレスにおいて一審原告ら
が上記「くちばし状のテープ受部」に当たると主張する「くちばし部
材」がテープカセットの本体の外枠に設けられていると認めることは
できないから,この点からも上記マーリンエクスプレスが特許発明4
7の構成を備えているということはできない。
したがって,特許発明47に無効事由があるとは認められない。
〔48〕【実用新案登録第●●号(考案48,出願日昭和63年10月1
5日】)
a考案48の構成
実用新案登録請求の範囲の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
〔49〕【特許第●●号(特許発明49,出願日平成4年6月8日】)
a特許発明49の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c無効事由の有無
特許発明49は,上記の構成を採用することによって,バーコード
の両側に余白を空けるようにしたものであって,読み取りのためには
バーコードの両側に余白を空けることが知られていた(甲304)と
しても,特許発明49に無効事由があるということはできないし,他
社に対して権利行使できないということもない。
〔50〕【特許第●●号(特許発明50,出願日平成4年9月19日】)
a特許発明50の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c無効事由の有無。
証拠(甲204,205,301)によると,カシオ社は海外でラ
ベルプリンター「KL-2000」を平成4年4月に発売したこと,
その発売当初の取扱説明書(甲205)59頁には,次の記載がある
ことが認められる。
「メモを画面上でスクロールして探す方法
1.キーを押して,次いでキーを押して,FUNCTIONSEARCH
検索開始画面に入ります。
2.▽キー(又はキー)を押して,保存されている文書を探SET
します。
.,。3文書が表示されますので△キーと▽キーを使って探します
4.所望の文書が画面に表示されたら,キーを押して直接PRINT
印字するかまたは,キーを押して保存エリアにある文書をSET
入力エリアに転送するかを選べます。どちらも不要であれば,
キーを押せばこの操作から抜け出せます」ESC。
上記の事実によると,上記取扱説明書(甲205)は,特許発明5
0に係る特許出願(平成4年9月19日)前に外国で頒布された刊行
物であると認められる。
そして,上記取扱説明書(甲205)の記載によると「4」の操,.
作は,所望の文書が画面に表示された場合に,SETキーを押すと保存
エリアにある文書を入力エリアに転送されるが,PRINTキーを押すと
保存エリアから読み出して印字すると合理的に解釈することができる
から,上記取扱説明書(甲205)には,特許発明50の構成⑦が記
載されているものと認められる。また,弁論の全趣旨によると,特許
発明50の構成のうち構成①~⑥,⑧は,ラベルプリンターに共通す
る周知の構成であると認められる。そうすると,特許発明50には無
効事由があると認められる。
〔51〕【特許第●●号(特許発明51,出願日平成4年2月21日】)
a特許発明51の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c無効事由の有無
特許発明51の構成には,テープ幅を検出し,入力し,バッファ内
に格納しておく手段が含まれていないが,上記〔(特許発明4)で4〕
判示したとおり,テープ幅検出手段は周知のものであるから,テープ
幅の検出に関する構成が含まれていないからといって,特許請求の範
囲の記載に不備があるということはできない。
また,特許発明51が,文字列方向変更手段により変更された文字
列情報の文字列方向の文字列幅がテープに収まるかどうかを判別し,
収まらないときは文字列情報の文字サイズを全体的に縮小するという
ものであることからすると,構成⑤,⑥でいう「テープ幅」は,テー
プの物理的な幅から印字不可能領域を除いたものと解するのが相当で
あり,この点において特許請求の範囲の記載が不明確であるというこ
とはできない。
〔52〕【特許第●●号(特許発明52,出願日平成4年4月27日】)
a特許発明52の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
〔〕【特許第●●号(特許発明53,出願日平成4年4月30日】53)
a特許発明53の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
〔〕【(,)】54特許第●●号特許発明54出願日平成3年12月28日
a特許発明54の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c無効事由の有無
(a)特許発明22の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,前記特許発
明22のとおり,以下のようになる。
●●(省略)
(b)乙71添付資料22,54及び弁論の全趣旨によると,特許発
明54に係る特許特許第●●号は特許発明22に係る出願●(),(
●)から分割出願された●●から更に分割出願(●●)されたもの
であると認められる。
(c)構成の対比
特許発明22と特許発明54の構成を対比すると「入力手段,,」
「入力データ記憶手段「記録手段「データ変換手段「表示手」,」,」,
段」を備えていること,バーコードのデータの入力位置に対応する
ようにバーコードのデータの存在を示す所定の識別マークを表示す
ることは共通する。
しかし,特許発明54は「文書データを入力するテキストモー,
ドとバーコードデータを入力するためのバーコードモードとを切り
換えるモード切換手段」を有する点「入力データ記憶手段から読,
み出された入力データを被記録媒体に記録する際に,読み出された
入力データが文書データかバーコードデータかを判断し,その判断
結果に応じて文書データを文書記録用データに変換すると共にバー
コードデータをバーコード記録用データに変換して,文書とバーコ
ードとを記録する」点「表示手段による表示の際に,読み出され,
た入力データが文書データかバーコードデータかを判断し,その判
断結果に応じて文書データを文書表示用データに変換すると共にバ
ーコードデータをバーコード識別マーク表示用データに変換して表
示する」点において,特許発明22とは相違しており,同一の発明
ということはできない。
(d)したがって,特許発明22,特許発明54について無効事由が
ある旨の一審原告らの主張は,前提において失当である。
〔55〕【特許第●●号(特許発明55,出願日平成4年6月11日】)
a特許発明55の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c無効事由の有無
一審原告らは,上記記載の主張に基づき,構成⑤を充たそうとする
と,ITF,NW-7,CODE39の三つについて,設定項目数を
バーコード規格に反したものとしなければならないから,このような
発明は実用性が欠如しており,特許法29条1項で規定する「産業上
利用することができる発明」とはいえないと主張する。
しかし,一審原告らの上記記載の主張を採用することができないか
ら,特許発明55において設定項目数をバーコード規格に反したもの
としなければならないということはなく,特許発明55について一審
原告らが主張する無効事由があるとは認められない。
〔56〕【特許第●●号(特許発明56,出願日平成5年9月13日】)
a特許発明56の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
〔〕【(,)】57特許第●●号特許発明57出願日平成5年12月28日
a特許発明57の構成
特許請求の範囲請求項2の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c無効事由の有無
(「」),甲202一審被告のP-TOUCHXLの取扱説明書は
()前記特許発明3のとおり特許発明57の出願平成5年12月28日
,,に外国で頒布された刊行物であると認められるところ甲202には
特許発明57の構成を備えた装置が記載されているものと認められ
る。
この点について,一審被告は,上記構成⑨「前記規格名表示制御手
段は,前記モード設定手段により設定された前記バーコード入力モー
ド中に,前記バーコード規格名を表示させるように構成されたこと」
は「前記規格名表示制御手段は,前記モード設定手段により設定さ,
れた前記バーコード入力モード中に,前記バーコード規格名を一時的
に表示させるように構成されたこと」を意味すると主張するが,特許
請求の範囲に「一時的」というような限定がないことは明らかである
から,一審被告の主張を採用することはできない。
したがって,特許発明57には無効事由があると認められる。
〔58〕【特許第●●号(特許発明58,出願日平成8年5月21日】)
a特許発明58の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
弁論の全趣旨によれば,特許発明58はキングジム社の製品で実施
されていると認められる。
c特許発明58の実効性
網掛け装飾の場合でもバーコードの読み取り精度を確保するという
効果を有しているものであり,実効性がないということはできない。
〔59〕【特許第●●号(特許発明59,出願日平成4年4月20日】)
a特許発明59の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
次に,●●の製品において実施されているかどうかについて検討す
る。
()特許発明59の意義a
特許発明59の明細書(●●)には「設定テープ長」が左右の,
カーソル移動キーの操作によって設定され「行修飾(レフトマー,」
ジンフラッシュ,ライトマージンフラッシュ,中央揃え)がやはり
,「」左右のカーソル移動キーの操作によって設定され設定テープ長
がテープ長データLDとしてテープ長メモリ49に記憶され,設定
された行修飾のフラグがセットされて,テープ印字制御処理に移る
こと(0044【0045,設定テープ長LDが,文字サイ【】,】)
ズメモリ44に格納されているサイズデータと文書データの各コー
ドデータに対応するアウトラインデータに含まれる文字幅データと
バーコード幅データに基づいて求められる「文書データの総文字幅
TW」より大きいときは,設定テープ長LDから総文字幅TWを差
し引いた残りのスペース分がフィード量データとして記憶され行,「
修飾」の設定に応じて,文書データの前方方向に付加する,後方方
向に付加する,半分を前方方向に半分を後方方向に付加するといっ
た処理が行われること(0047】~【0057)が記載されて【】
いる。この記載を参酌すると,特許発明59の構成②「前記テープ
の長手方向の印字長を設定するテープ長設定手段」によって設定さ
れるものは,総文字幅TWに行修飾で付加されるスペース分を加え
たものである。そして,特許発明59の上記明細書(●●)では,
印刷開始部分及び印刷終了部分の余白を想定した記載はないから,
総文字幅TWに行修飾で付加されるスペース分を加えたものは,テ
ープ全体の長さと解釈することができる特許発明59の明細書●。(
●)の【図17】~【図23】の記載は,特許発明59の上記技術
,。的意義に照らすと上記解釈を左右するものということはできない
●●(省略)
〔60〕【特許第●●号(特許発明60,出願日平成6年7月18日】)
a特許発明60の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c発明者及び無効事由
(a)一審原告X2,一審被告社員vは発明者か
一審原告X2,一審被告社員vが特許発明60の発明者である
ことを認めるに足りる証拠はない。
(b)無効事由の有無
前記特許発明33のとおり,甲302(キングジム社のテプラ
プロSR404の取扱説明書)は,特許発明60に係る特許出願
(平成6年7月18日)前に頒布されたものと認められる。
甲302の161頁~164頁には,特許発明60の構成①~
,,,④⑨のほか複数のラベル名が順々にディスプレイに表示され
ラベル名を選ぶと,そのラベル名に付随する複数の入力指示メッ
(,),,セージ絵文字入力文字入力の表示が表示されることまた
文字入力の表示に付随するテキストデータ入力欄が表示され,一
部のテキストデータと関連付けて印字する為に予め設定し記憶手
段に格納されている特定の文字や記号の設定印字情報(DAT「
E「TIME「ねん「くみ」など)も表示されること,そ」,」,」,
れらは順々にディスプレイに表示されること,入力されたテキス
トデータを所定の書式で印字することができることが記載されて
いると認められるから,特許発明60の構成⑤~⑧を備えている
ものと認められる。
したがって,甲302には特許発明60の構成がすべて記載さ
れているから,特許発明60には無効事由があると認められる。
(イ)一審被告主張の特許ポートフォリオ(テープカセット)
〔1〕【実用新案登録第●●号(考案1,出願日昭和63年10月14
日】)
a考案1の構成
実用新案登録請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下
のとおりである。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c考案1が考案2の権利と重複して権利化されたものであるかどうか
後記考案2のとおり。
〔2〕【実用新案登録第●●号(考案2,出願日昭和63年10月14
日】)
a考案の構成
(),考案1に係る実用新案登録出願●●から分割出願されたもので
その構成を実用新案登録請求の範囲請求項1の記載に従って分説する
と,以下のとおりである。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c考案1が考案2の権利と重複して権利化されたものであるかどうか
考案1は「テープ印刷装置に用いられるテープ案内装置」に関す,
るものであるのに対し,考案2は,テープ収納カセットにおける「テ
ープ案内装置」に関するものであるから,両考案を同一のものである
とか,重複して権利化されたということはできない。
〔3〕【実用新案登録第●●号(考案3出願日昭和63年10月17
日】)
a考案3の構成
実用新案登録請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下
のとおりである。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
〔4〕【実用新案登録第●●号(考案4出願日昭和63年10月19
日】)
a考案4の構成
実用新案登録請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下
のとおりである。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
〔〕【実用新案登録第●●号(考案5出願日昭和63年10月175
日】)
a考案5の構成
実用新案登録請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下
のとおりである。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
〔6〕【実用新案登録第●●号(考案6出願日昭和63年10月17
日】)
a考案6の構成
実用新案登録請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下
のとおりである。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
〔〕【実用新案登録第●●号(考案7出願日昭和62年12月297
日】)
a考案7の構成
実用新案登録請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下
のとおりである。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
〔〕【実用新案登録第●●号(考案8,出願日昭和62年12月298
日】)
a考案8の構成
実用新案登録請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下
のとおりである。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c共同出願(実用新案法11条1項で準用されている特許法38条)
違反の有無
考案8は「テープ送出口を備えたハウジング(構成②)を備える,」
ものであるところ,第3考案の公告実用新案公報(実公平5-367
04号,出願人一審被告,考案者一審原告2外5名,出願日昭和6X
2年11月18日。甲2の8)に記載されているカセットケース54
には「テープ送出口」といえるものが存在しないから「テープ送出,,
口を備えたハウジング(考案8の構成②)を備えるものではない。」
したがって,被印字テープ及び剥離紙付両面粘着テープが「ハウジン
」(,)。グ内に収納されるとの構成考案8の構成③⑤も備えていない
そして,第3考案は「…テープを保持するスプールをカセットケ,
ースに対して着脱自在とすることにより,そのテープのみ交換の必要
が生じたときには,そのスプールだけカセットケースから取り外して
別のものと交換することができ,カセットごと交換する必要がなくな
る(明細書〔甲2の8〕4欄2行~7行)ことを作用効果とする考」
案であり,この作用効果を奏するためスプールの着脱を容易にする構
成,すなわち「テープ送出口を備えたハウジング」を用いない構成を
採用した点に技術的意義があるものと理解することができるからテ,「
ープ送出口を備えたハウジング」を必須の構成とする考案8とは技術
的意義の異なる考案ということができる。したがって,第3考案の考
案者が直ちに考案8の考案者であるということはできない。
また,第3考案の考案者は,一審被告の社員であるから,その実用
新案登録を受ける権利は一審被告に帰属していたのであり,その意味
においても一審被告が考案8に係る実用新案登録を出願することが特
許法38条に違反するということはできない。
〔〕【実用新案登録第●●号(考案9,出願日昭和63年10月179
日】)
a考案9の構成
実用新案登録請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下
のとおりである。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
〔〕【実用新案登録第●●号(考案10,出願日昭和63年10月110
5日】)
前記(ア)の考案48と同じ権利である(当事者間に争いがない。)
〔11〕【実用新案登録第●●号(考案11,出願日昭和63年10月1
7日】)
a考案11の構成
実用新案登録請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下
のとおりである。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c共同出願(実用新案法11条1項で準用されている特許法38条)
違反の有無
考案11に係る実用新案登録請求の範囲請求項1には「箱体」に,
ついて特に限定する記載はないが,第3考案の公告実用新案公報(実
,,,公平5-36704号出願人一審被告考案者一審原告2外5名X
出願日昭和62年11月18日。甲2の8)に記載されているカセッ
トケース54は,コの字形の断面形状を備え,前方及び左右は開放さ
れていたものである(6欄32行~34行)から,日本語の通常の意
「」。,,味として箱体ということは困難であるそうすると考案11は
第3考案とは「箱体」を用い,その「箱体」に「通常の熱転写型イ,,
ンクリボンとレタリング用熱転写型インクリボンとが共用できるイン
クリボン収納部(考案11の構成①「熱転写用印字テープとレタ」),
リング用印字テープとが共用できる印字テープ収納部(考案11の」
構成②「前記いずれかのインクリボンとそれに対応する印字テープ),
とが印字の際に重合して走行する印字部(考案11の構成③「印」),
字後の前記熱転写用印字テープの印字面側に貼着される両面粘着テー
プを収納する粘着テープ収納部(考案11の構成④)を備えたこと」
が異なる。
そして,第3考案は「…テープを保持するスプールをカセットケ,
ースに対して着脱自在とすることにより,そのテープのみ交換の必要
が生じたときには,そのスプールだけカセットケースから取り外して
別のものと交換することができ,カセットごと交換する必要がなくな
る(明細書〔甲2の8〕4欄2行~7行)ことを作用効果とする考」
案であり,この作用効果を奏するためスプールの着脱を容易にする構
成,すなわち「箱体」を用いない構成を採用した点に技術的意義があ
るものと理解することができるから「箱体」を必須の構成とする考,
。,案11とは技術的意義の異なる考案ということができるしたがって
第3考案の考案者が考案11の考案者であるということはできない。
また,第3考案の考案者は,一審被告の社員であるから,その実用
新案登録を受ける権利は一審被告に帰属していたのであり,その意味
でも一審被告が考案11に係る実用新案登録を出願することが特許法
38条に違反するということはできない。
〔〕【(,)】12実用新案登録第●●号考案12出願日平成元年11月7日
a考案12の構成
実用新案登録請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下
のとおりである。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c無効事由の有無
弁論の全趣旨によると,第3考案の公開実用新案公報(実開平1-
80457号公報,出願人一審被告,発明者一審原告X2外5名,公
開日平成元年5月30日,甲246)には,考案12の構成⑤~⑦に
,「」,ついては記載されていないところラベルライターテプラ55は
鏡像印刷された透明テープの印刷面を両面粘着テープと貼り合わせた
ラミネートテープと,鏡像印刷された透明テープの印字面の文字を転
写するための転写テープを作成することができるものであると認めら
れる。ラベルライター「テプラ55」の上記各テープはいずれも鏡像
印刷するものであるから,考案12の構成⑤~⑦に当たる機構を有し
ていない。
したがって,第3考案の公開実用新案公報にラベルライター「テプ
ラ55」の構成を適用しても,考案12とはならないから,考案12
に無効事由があるということはできないし,第3考案とは別個の考案
というべきである。
〔13〕【実用新案登録第●●号(考案13,出願日昭和63年8月31
日】)
a考案13の構成
実用新案登録請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下
のとおりである。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c考案14及び考案15と重複して権利化されたものか
後記考案15のとおり。
〔14〕【実用新案登録第●●号(考案14,出願日昭和63年8月31
日】)
a考案14の構成
考案14に係る実用新案登録は,考案13に係る実用新案登録出願
(●●)から分割出願されたもので,その構成を実用新案登録請求の
範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおりである。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c考案13及び考案15と重複して権利化されたものか
後記考案15のとおり。
〔15〕【実用新案登録第●●号(考案15,出願日昭和63年8月31
日】)
a考案15の構成
考案15に係る実用新案登録は,考案13に係る実用新案登録出願
(●●)から分割出願されたもので,その構成は,実用新案登録請求
の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおりである。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c考案13,14と重複して権利化されたものか
()考案13と考案14の対比a
考案13は,カセットケースの箱状の形状を具体的に限定してい
る(構成④)が,考案14はカセットケースの具体的形状を規定し
ていない。
また,考案13は「前記カセットケースの前壁面の一部分が前,
,」(),,記受台を構成し構成⑤と規定しているのに対し考案14は
「前記被印刷媒体の引き出し口よりも被印刷媒体の送り方向下流側
」「」()。に位置するカセット前面を受台として構成している構成④
()考案13と考案15の対比b
考案15の「保持部材」は,考案13には存在しない。
()考案14と考案15との対比c
考案15は,カセットケースの箱状の形状を具体的に限定してい
る(構成④)が,●●ていない。
また,考案14では「前記被印刷媒体の引き出し口よりも被印,
刷媒体の送り方向下流側に位置するカセット前面」を「受台」とし
て構成している(構成④)のに対し,考案15では「前記カセッ,
トケースの前記前壁面の所定部分が前記受台を構成し(構成⑤),」
と規定している。
さらに,考案15の「保持部材(構成⑥)は,考案14には存」
在しない。
(d)以上のとおり,考案13,14,15は相違しており,同一で
はない。また,考案15は,考案13の構成に「保持部材」を加え
て限定したものということができるが,考案13と考案14,考案
14と考案15の関係は,上記のとおりであって,いずれかがいず
れかに限定を加えただけであると単純にいうことはできない。
したがって,考案13,14,15が重複して権利化されたもの
であるとは認められない。
〔16〕【実用新案登録第●●号(考案16,出願日昭和62年12月2
9日】)
a考案16の構成
実用新案登録請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下
のとおりである。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c第3考案との関係
考案16は,第3考案の公告実用新案公報(実公平5-36704
号,出願人一審被告,考案者一審原告X2外5名,出願日昭和62年
11月18日。甲2の8)に記載されている考案とは異なる技術であ
って,第3考案で示した技術ということはできない。
〔17〕【実用新案登録第●●号(考案17,出願日平成3年10月31
日】)
a考案17の構成
実用新案登録請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下
のとおりである。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c無効事由の有無
証拠(乙164添付資料6~12,226の1・2)によると,米
国のバリトロニクス社は,1984(昭和59年)4月から「Merlin
(マーリン)レタリング」というラベル作製専用機を販売しており,
日本においても昭和60年12月ころには輸入販売されていたこと,
その後同社は1986年昭和61年12月からMerlinExpress,,()「
(マーリンエクスプレス」というラベル作製専用機の販売を始め,)
昭和62年5月からは日本でも輸入販売されていたことが認められ
る。
しかし,上記マーリンエクスプレスが,特許発明47に係る特許出
願(平成4年1月8日)前から,下記写真(一審原告らの当審第20
準備書面51頁,52頁の写真)のような構成を有していたことを認
めるに足りる証拠はない。

したがって,考案17に一審原告らが主張する無効事由があるとは
認められない。
〔〕【(,)】18特許第●●号特許発明18出願日昭和63年10月14日
a特許発明18の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
〔19〕【特許第●●号(特許発明19,出願日平成3年7月22日】)
a特許発明19の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
〔20〕【特許第●●号(特許発明20,出願日平成4年1月8日】)
前記(ア)の特許発明47と同じ権利であり,無効事由は認められな
い。
〔21〕【特許第●●号(特許発明21,出願日平成4年1月8日】)
a特許発明21の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c無効事由の有無
()証拠(乙164添付資料6~12,226の1・2)によると,a
米国のバリトロニクス社は1984昭和59年4月からMerlin,()「
()」,マーリンレタリングというラベル作製専用機を販売しており
日本においても昭和60年12月ころには輸入販売されていたこ
とその後同社は1986年昭和61年12月からMerlin,,,()「
Express(マーリンエクスプレス」というラベル作製専用機の販売)
を始め,昭和62年5月からは日本でも輸入販売されていたことが
認められる。
しかし,上記マーリンエクスプレスが,特許発明21に係る特許
出願(平成4年1月8日)前から,前記(ア)〔47〕掲記の写真(一
審原告らの当審第20準備書面38頁の写真)のような構成を有し
ていたことを認めるに足りる証拠はない。
(b)また,特許発明21は被印字媒体(テープ)が「テープカセッ
トから送り出され」てから「テープカッタにより裁断」されるもの
であるから,テープカッタ(可動刃,固定刃)はテープがテープカ
セットから送り出される側すなわちテープカセットの外側に配置さ
れるものであるということができる。そうすると,固定刃の刃先近
傍まではりだして形成されている「案内部」についてもテープカセ
ットの本体の外枠に設けられていると解するのが妥当である。
上記写真によると,一審原告らが上記「案内部」に当たると主張
する「くちばし部材」がテープカセットの本体の外枠に設けられて
いると認めることはできないから,この点からも上記マーリンエク
スプレスが特許発明21の構成を備えているということはできな
い。
(c)したがって,特許発明21に一審原告らが主張する無効事由が
あるとは認められない。
〔22〕【特許第●●号(特許発明22,出願日平成6年5月25日】)
a特許発明22の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c無効事由の有無
(,),(a)証拠乙164添付資料6~12226の1・2によると
米国のバリトロニクス社は1984昭和59年4月からMerlin,()「
()」,マーリンレタリングというラベル作製専用機を販売しており
日本においても昭和60年12月ころには輸入販売されていたこ
とその後同社は1986年昭和61年12月からMerlin,,,()「
Express(マーリンエクスプレス」というラベル作製専用機の販売)
を始め,昭和62年5月からは日本でも輸入販売されていたことが
認められる。
しかし,上記マーリンエクスプレスが,特許発明22に係る特許
出願(平成6年5月25)前から,前記(ア)〔47〕掲記の写真(一
審原告らの当審第20準備書面38頁の写真)ないし下記写真(一
審原告らの当審第20準備書面44頁の写真)のような構成を有し
ていたことを認めるに足りる証拠はない。

(b)また特許発明22の構成によると構成⑩の突出部はテ,,「」,「
ープ排出部」に設けられているところ「テープ排出部」は「カセ,,
」()。ットケースの周壁によって形成されているもの構成④である
〔〕,「」前記(ア)47掲記の写真によると一審原告らが上記突出部
に当たると主張する「くちばし部材」は,カセットケースの周壁に
よって形成されているものではないから,この点からも上記マーリ
ンエクスプレスが特許発明22の構成を備えているということはで
きない。
(c)したがって,特許発明22に一審原告らが主張する無効事由が
あるとは認められない。
〔23〕【特許第●●号(特許発明23,出願日平成6年5月25日】)
a特許発明23の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c無効事由の有無
弁論の全趣旨によると,特許発明23は,同特許出願(平成6年5
月25日)前から一審被告のTX型テープカセットにおいて実施され
ていたものと認められる。
この点について,一審被告は,TX型テープカセットにおいて,カ
セットがカセット収納室に装着されたときに,第2突起部は第2嵌合
部に嵌合されないと主張するが,一審原告ら第20準備書面94頁の
写真によれば,カセットがカセット収納室に装着されたときに,第2
突起部は第2嵌合部に嵌合されるものと認められるから,一審被告の
主張を採用することはできない。
したがって,特許発明23には無効事由があると認められる。
〔24〕【特許第●●号(特許発明24,出願日平成6年5月25日】)
a特許発明24の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
〔25〕【特許第●●号(特許発明25,出願日平成6年5月25日】)
前記(ア)の特許発明44と同じ権利であり,無効事由は認められな
い。
〔26〕【特許第●●号(特許発明26,出願日平成6年7月14日】)
a特許発明26の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)有用性を有するものである。
〔27〕【特許第●●号(特許発明27,出願日平成6年5月25日】)
上記(ア)の特許発明45と同じ権利であり,無効事由は認められな
い。
〔〕【特許第●●号(特許発明28,出願日平成4年1月8日】28)
a特許発明28の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)有用性を有するものである。
〔〕【(,)】29特許第●●号特許発明29出願日平成3年10月21日
a特許発明29の構成
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
〔〕【特許第●●号(特許発明30出願日平成6年7月21日】30)
a特許発明30の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c無効事由の有無
弁論の全趣旨によると,一審被告が,昭和63年11月から発売し
ているTC型テープカセットは,特許発明30の構成をすべて充足す
るものと認められる。
この点について,一審被告は,TC型テープカセットは,上ケース
に形成された小径のボス軸と,下ケースに形成された大径のボス軸と
を有し,上ケースを下ケースに組み付けたときに,小径のボス軸が大
径のボス軸の中に挿入される構成であるから,特許発明30の構成⑦
を充足しないと主張するが,構成⑦の文言からすると,一審被告が主
張するような構成が排除されているとは認められない上「インクリ,
ボンを巻回したスプールは傾いたりするようなこともなく」との作用
効果もあると認められるから,一審被告の主張を採用することはでき
ない。
したがって,特許発明30には無効事由があると認められる。
〔〕【特許第●●号(特許発明31,出願日平成4年1月8日】31)
a特許発明31の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
〔〕【特許第●●号(特許発明32,出願日平成6年5月25日】32)
上記(ア)の特許発明46と同じ権利であり,無効事由は認められな
い。
〔〕【特許第●●号(特許発明33,出願日平成6年5月25日】33)
a特許発明33の構成
特許請求の範囲請求項1~3の記載に従って分説すると,以下のと
おりである。
()請求項1a
●●(省略)
()請求項2b
●●(省略)
()請求項3c
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
〔〕【特許第●●号(特許発明34,出願日平成6年8月17日】34)
a特許発明34の構成
特許請求の範囲請求項2の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c特許発明34の発明者
一審原告2が特許発明34の発明者であるとまで認めるに足りるX
証拠はない。
〔〕【特許第●●号(特許発明35,出願日平成6年5月25日】35)
a特許発明35の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c無効事由の有無
一審原告らは,一審被告が平成4年から日本国内で販売しているT
X型テープカセットには,特許発明35の構成のうち「テープカセ,
ットの種類を特定し得るカセット検出部」が「機械式検出スイッチの
スイッチ端子を押下しまたは押下しないことによるものである点構」(
成⑥)を除いて備わっており「テープカセットの種類を特定し得る,
カセット検出部」が「機械式検出スイッチのスイッチ端子を押下しま
たは押下しない」ことによるものである点は,カシオ社が平成3年か
ら日本国内で販売している「KL-1000」で採用されていた(T
X型テープカセットに「カセット検出部」が「カセットケースにおけ
るテープ送りローラが配置された隅角部の対角線上にある隅角部に設
けられ」との構成が備わっていないとしても「KL-1000」に,
存する)から,特許発明35は,容易に発明することができた,と主
張する。
しかし,弁論の全趣旨によると「テープカセットの種類を特定し,
得るカセット検出部」は,TX型テープカセットにおいてはカセット
ケースの隅角部から少し離れた側面に沿って設けられている。また,
弁論の全趣旨によると「KL-1000」においては「テープカセ,,
ットの種類を特定し得るカセット検出部」は,カセットケースの隅角
部から少し離れた位置に設けられている上,ヘッド装着部に隣接する
テープカセットの一つの隅角部の対角線上にあるとも認められない。
,「」,したがってTX型テープカセット及びKL-1000において
「テープカセットの種類を特定し得るカセット検出部」が「ヘッド装
着部に隣接するテープカセットの一つの隅角部の対角線上にある隅角
」(),,部に設けられている構成⑥とはいえないから特許発明35に
一審原告らが主張する無効事由があるとは認められない。
〔36〕【特許第●●号(特許発明36,出願日平成6年5月25日】)
a特許発明36の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c無効事由の有無
一審原告らは,一審被告が平成4年から日本国内で販売しているT
X型テープカセットには,特許発明36の構成のうち「テープカセ,
ットの種類を特定し得るカセット検出部」が「機械式検出スイッチの
スイッチ端子を押下しまたは押下しないことによるものである点構」(
成⑥)を除いて備わっており「テープカセットの種類を特定し得る,
カセット検出部」が「機械式検出スイッチのスイッチ端子を押下しま
たは押下しない」ことによるものである点は,カシオ社が平成3年か
ら日本国内で販売している「KL-1000」で採用されていた(T
X型テープカセットに「カセット検出部」が「カセットケースにおけ
るテープ送りローラが配置された隅角部の対角線上にある隅角部に設
けられ」との構成が備わっていないとしても「KL-1000」に,
存する)から,特許発明36は,容易に発明することができた,と主
張する。
しかし,弁論の全趣旨によると「テープカセットの種類を特定し,
得るカセット検出部」は,TX型テープカセットにおいてはカセット
ケースの隅角部から少し離れた側面に沿って設けられている。また,
弁論の全趣旨によると「KL-1000」においては「テープカセ,,
ットの種類を特定し得るカセット検出部」は,カセットケースの隅角
部から少し離れた位置に設けられている上,ヘッド装着部に隣接する
テープカセットの一つの隅角部の対角線上にあるとも認められない。
,「」,したがってTX型テープカセット及びKL-1000において
「テープカセットの種類を特定し得るカセット検出部」が「ヘッド装
着部に隣接するテープカセットの一つの隅角部の対角線上にある隅角
」(),,部に設けられている構成⑥とはいえないから特許発明36に
一審原告らが主張する無効事由があるとは認められない。
〔37〕【特許第●●号(特許発明37,出願日平成8年2月16日】)
a特許発明37の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
〔38〕【特許第●●号(特許発明38,出願日平成6年5月25日】)
a特許発明38の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c無効事由の有無
,,()一審原告らは特許発明38は同特許出願平成6年5月25日
前から日本国内で販売されているTX型ラミネートテープカセット
(24mm)において実施されていたと主張する。
しかし,弁論の全趣旨によると,TX型ラミネートテープカセット
(24mm)のテープ送りローラは,円筒部と被支持部に加えて,テ
ープの下端縁を案内するために円筒部から膨出した顎部を有している
と認められるから「前記フィルムテープのテープ幅と同じ幅の円筒,
部とその円筒部の両端に設けられ該円筒部の直径よりも小さい直径か
らなる被支持部とのみからなるテープ送りローラ(構成③)を充足」
しない。
したがって,特許発明38に一審原告らが主張する無効事由がある
とは認められない。
〔〕【特許第●●号(特許発明39,出願日平成6年5月25日】39)
a特許発明39の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c特許発明39が一審原告2の提案によるものであるかどうかX
XX甲171一審原告2の陳述書31頁~32頁には一審原告(),
2が,テープ幅に対してプラテンローラーの全高の真中位置でテープ
に接するようにすること,カセットテープを本体の表裏どちらからで
も挿入することがてきるようにすることを考えて提案した旨の記載が
ある。そのような事実があったとしても,それ以上に,一審原告2X
が特許発明39の構成について発明したことを認めるに足りる証拠は
ないから,一審原告2が特許発明39の発明者であると認めることX
はできない。
したがって,特許発明39に係る特許は,一審被告が有する権利と
して考慮することができるものである。
〔〕【(,)】40特許第●●号特許発明40出願日平成14年9月27日
a特許発明40の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
〔〕【(,)】41特許第●●号特許発明41出願日平成16年11月15日
a特許発明41の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c特許発明41が一審原告2の提案によるものであるかどうかX
XX甲171一審原告2の陳述書31頁~32頁には一審原告(),
2が,テープ幅に対してプラテンローラーの全高の真中位置でテープ
に接するようにすること,カセットテープを本体の表裏どちらからで
も挿入することができるようにすることを考えて提案した旨の記載が
ある。そのような事実があったとしても,それ以上に,一審原告2X
が特許発明41の構成について発明したことを認めるに足りる証拠は
ないから,一審原告2が特許発明41の発明者であると認めることX
はできない。
したがって,特許発明41に係る特許は,一審被告が有する権利と
して考慮することができるものである。
〔〕【特許第●●号(特許発明42,出願日平成6年5月25日】42)
a特許発明42の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c無効事由の有無
一審原告らは,特許発明42の構成のうち「インクリボンと印字,
テープを分離させつつ案内する,リボン幅とほぼ同一高さの分離案内
部材(構成⑨,⑩)を除いては一審被告のTX型ラミネートテープ」
カセットに備わっており「インクリボンと印字テープを分離させつ,
つ案内する,リボン幅とほぼ同一高さの分離案内部材」は,キングジ
ム社のテープカセットに備わっているから,これらを組み合わせて容
易に発明することができたと主張する。
しかし,特許発明42に係る特許の出願(平成6年5月25日)前
から,キングジム社のテープカセットが上記の一審原告主張のとおり
であったことを認めるに足りる証拠はない。また,仮にそうであった
としても,TX型ラミネートテープカセットとキングジム社のテープ
カセットでは,印字テープとインクリボンの配置等の構成が大きく異
なっているから,キングジム社のテープカセットに「インクリボンと
印字テープを分離させつつ案内する,リボン幅とほぼ同一高さの分離
案内部材」が備わっているからといって,それをTX型ラミネートテ
ープカセットに適用することが容易であると認めることはできない。
さらに,特開平6-122239号公報(出願人セイコーエプソン社
・株式会社キングダム,公開日平成6年5月6日。甲300)に記載
のテープカセットにも,上記「分離案内部材」が記載されているとし
,,,てもそのテープカセットはTX型ラミネートテープカセットとは
印字テープとインクリボンの配置等の構成が大きく異なるから,やは
り,それをTX型ラミネートテープカセットに適用することが容易で
あると認めることはできない。
したがって,特許発明42に,一審原告らが主張する無効事由があ
るとは認められない。
〔〕【特許第●●号(特許発明43,出願日平成6年5月25日】43)
a特許発明43の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c無効事由の有無
一審原告らは,特許発明43の構成は,すべてキングジム社の「テ
プラ・プロ」テープカセットが備えていると主張する。
しかし,キングジム社の「テプラ・プロ」テープカセットが,特許
発明43に係る特許の出願(平成6年5月25日)前から上記の一審
原告ら主張のとおりであったことを認めるに足りる証拠はない(甲2
99も,キングジム社が平成4年から9mmテープを発売しているこ
とが認められるのみで,キングジム社のテープカセットが特許発明4
3に係る特許の出願前から上記のとおりであったことを認めることは
できない。。)
したがって,特許発明43に一審原告らが主張する無効事由がある
とは認められない。
〔〕【特許第●●号(特許発明44出願日平成6年5月25日】44)
a特許発明44の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c無効事由の有無
一審原告らは,特許発明44の構成は,すべてキングジム社の「テ
プラ・プロ」テープカセットが備えていると主張する。
しかし,キングジム社の「テプラ・プロ」テープカセットが,特許
発明44に係る特許の出願(平成6年5月25日)前から上記の一審
原告ら主張のとおりであったことを認めるに足りる証拠はない(甲2
99も,キングジム社が平成4年から9mmテープを発売しているこ
とが認められるのみで,キングジム社のテープカセットが特許発明4
4に係る特許の出願前から上記のとおりであったことを認めることは
できない。。)
したがって,特許発明44に一審原告らが主張する無効事由がある
とは認められない。
〔〕【特許第●●号(特許発明45,出願日平成6年5月25日】45)
a特許発明45の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c無効事由の有無
弁論の全趣旨によれば,特許発明45は,同特許出願(平成6年5
月25日)前から,一審被告のTX型ラミネートテープカセットにお
いて実施されていたと認められる。
この点について,一審被告は,TX型ラミネートテープカセットに
は,特許発明45の構成⑦,⑧がない旨主張するが,TX型ラミネー
()トテープカセットの下ケースに設けられたリブ下記図面の青色部分
が,走行時にテープがカセット内部に入り込まないようにする作用を
奏していると認められるから,特許発明45の構成⑦を備えているも
のと認められる。また,インクリボン案内の先端(下記図面の紫色の
b部分)のフランジは,特許発明45の構成⑧「前記フィルムテープ
の幅方向への移動を規制する第3規制部材」に当たるものと認められ
る(一審被告は,上記フランジは,走行時におけるフィルムテープの
幅方向への移動の規制を行わないと主張するが,構成⑧には「走行,
時」という限定はないから,採用することができない。。)
したがって,特許発明45には,無効事由があると認められる。

〔〕【特許第●●号(特許発明46,出願日平成6年5月25日】46)
a特許発明46の構成
特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説すると,以下のとおり
である。
●●(省略)
b実施の有無
●●(省略)
c無効事由の有無
一審原告らは,特許発明46は,特許出願(平成6年5月25日)
前から,一審被告のTC型ラミネートテープカセットで実施されてい
たと主張する。
しかし,TC型テープカセットにおいて,一審原告らが「案内規制
片」に当たると主張する「ケースのリブ」は,一審原告らが「第2案
内部材」に当たると主張する「第2の案内棒」の基端部の外周面から
外側方向に突設されたものとは認められず,他にTC型テープカセッ
トに第2案内部材の基端部の外周面から外側方向に突設された案「」「
内規制片」があると認めるに足りる証拠はないから,TC型テープカ
セットが特許発明46の構成⑤を充足するとは認められない。
したがって,特許発明46に,一審原告らが主張する無効事由があ
るとは認められない。
(ウ)本件被告製品において実施されていると認められるもの
前記のとおり,乙132及び弁論の全趣旨によれば,一審被告は以下の
権利を本件被告製品において実施しているものと認められる。
●●(省略)
イ寄与度の算定
(ア)ラミネート発明の寄与度
a一審被告保有権利は,いずれもラミネート発明を基礎としつつ,こ
れとともに用いられて他社製品との差別化に寄与する点において有用
な発明と位置付けることができる。他方,前記(4)(超過売上高の割
合で認定したラミネート発明の技術的意義ないし優位性や前記1本)(
件における基礎的事実関係)で認定したラミネート発明に至る経緯及
びその後の製品化に至る経緯,販売状況等に加え,前記アで認定した
一審被告保有権利の内容に鑑みれば,ラミネート発明をいわば基本特
許と位置付けることができるのであって,これとの対比でみると,前
記アにおいて実施を認めた個々の一審被告保有権利の寄与度は,ラミ
ネート発明よりはるかに低いといわざるを得ない。
b一方,前記(4)(超過売上高の割合)で認定したとおり,ラミネー
ト発明を実施している本件被告製品は,それが製品化されてからしば
らくの間は独占状態を保っていたものの,その後,特に国内において
は,競合他社から非ラミネートタイプの製品が発売された後はシェア
を失い,キングジム社が非ラミネートタイプ製品の販売を開始した後
はこれが決定的になり,これを挽回するため新たな販路の開拓ほか相
次いで新製品を投入する必要に迫られており,このことは,製品化さ
れた当初から競合他社による非ラミネートタイプ製品の発売に至るま
ではラミネート発明が基本特許として相対的に大きな寄与を果たして
いたのに対し,非ラミネートタイプ製品が発売されてこれとの競争が
激化した後は,他社と差別化を図る上で有用な発明が相対的に重要性
を増したことを表しているということができる。もっとも,一審被告
は,国内に比べて早くから自社ブランドによる販売網を展開していた
欧米においては,国内の場合ほどシェアを失っていない。
cなお,前記(3)ウ(エ)(その他非実施分の修正)において説示したと
おり一部のテープカセット印字ヘッドの配置が異なる又はパ,(「」「
ソコン接続専用モデル」に係る製品本体に組み合わせる補給用のテー
プカセットであって,かつ,クリアタイプであるもの。前記(2)イ(イ)
〔第2発明〕及び同(エ)〔第5発明〕参照)が第2発明及び第5発明
のいずれにおいても非実施であることについては,ラミネート発明の
国内販売分の寄与度において考慮することにする。
同様に,前記(4)エ(ア)d(平成14年12月31日以前に販売され
たテープカセットの売上げにおける超過売上高)のとおり,TX型及
びTZ型の各クリアタイプのテープカセットについては,上記非実施
のものを除き,一定割合において超過売上高の存在を観念することが
,,できその限度において超過売上高の算定を修正すべきことになるが
この点についても上記寄与度において考慮することにする。
また,前記(3)ウ(エ)(その他非実施分の修正)において説示したと
おり,一部の本体(対象品群oの本体すべてと,対象品群nの本体の
うち「パソコン接続専用モデル」及び「印字テープの搬送方向が異な
るもの)と一部のテープカセット(上記非実施の本体と組み合わせ」
る補給用のテープカセット)が海外特許1において非実施であること
(前記(2)イ(カ)〔海外特許1〕参照)については,ラミネート発明の
欧州特許国販売分の寄与度において考慮することにする。
さらに,報奨支払時期が平成20年12月の対象期間(平成19年
4月1日~平成20年3月31日)のうち,第2発明が満了した後の
平成19年11月21日から第5発明が満了する同年12月21日の
対象期間は,第5発明の実施製品のみ(国内販売分及び特許不存在国
販売分)又は第5発明及び海外特許1の実施製品のみ(欧州特許国販
売分)が対象となるため,その限度において超過売上高の算定を修正
すべきことになるが,この点についても報奨支払時期が平成20年1
2月の対象期間(平成19年4月1日~平成20年3月31日)にお
けるラミネート発明の上記各販売分の寄与度において考慮することに
する。
d以上のような事情を総合考慮すれば,ラミネート発明(第2発明,
第5発明,海外特許1~3)を実施する本件被告製品における同発明
の寄与度は,本体・テープカセットとも,次のとおりと認めるのが相
当である。
(a)日本国内販売分
・平成5年支払分まで
60%
・平成6年支払分から平成11年支払分まで(概ねラベルライタ
ー市場が飽和状態に達するまでの期間)
55%
・平成12年支払分以降
50%
(b)欧州特許国販売分(その他」販売もこれに準じる)「
・平成8年支払分まで(概ねDYMO1000等が発売されるま
での期間)
60%
・平成9年支払分から平成13年支払分まで(販売台数が概ね減
少に転じるまでの期間)
55%
・平成14年支払分以降
50%
(c)米国販売分
・平成7年支払分まで(概ね低価格機を投入するまでの期間)
60%
・平成8年支払分から平成13年支払分まで(概ねクロイ社との
和解に至るまでの期間)
55%
・平成14年支払分以降
50%
(イ)第1発明の寄与度
前記(4)で認定した第1発明の技術的意義,前記アで認定した一審被
,,告保有権利の内容前記(ア)で認定したラミネート発明の寄与度に加え
ラベルライター本体については,対象品群aのラベルライター本体はす
べて対象品群bの本体に含まれること,インレタテープとの関係では第
1発明をもって基本特許の一つと理解することができること,第1発明
に無効事由がないこと等を総合考慮すれば,同発明の寄与度は,国内,
欧州特許国,米国「その他」の各国販売分(なお,テープカセットに,
ついては国内販売分のみ)とも,次のとおりと認めるのが相当である。
a対象品群aの本体分
・平成8年支払分まで(概ね第1発明が出願公告〔平成7年12月
13日〕されるまでの期間)
1.5%
・平成9年支払分から平成14年支払分まで(概ねキングジム契約
が締結〔平成14年1月31日〕されるまでの期間)
2%
・平成15年支払分以降
1%
b対象品群aのテープ分
・平成8年支払分まで
40%
・平成9年支払分から平成14年支払分まで
50%
・平成15年支払分以降
30%
(ウ)第3発明の寄与度
前記(4)で認定した第3発明の技術的意義,前記アで認定した一審被
,,告保有権利の内容前記(ア)で認定したラミネート発明の寄与度に加え
証拠(甲54,乙117,118)及び弁論の全趣旨によれば,編集機
能である第3発明は他社で実施されることがあっても多くの編集機能の
一つにすぎず,これを有していない機種があるなど,相対的に重要度が
低いこと,テープカセットについて超過売上高の存在が認められないこ
と,第3発明に無効事由を指摘することができること等を総合考慮すれ
ば,同発明の寄与度(本体のみ)は,国内,欧州特許国,米国「その,
他」の各国販売分とも,次のとおりと認めるのが相当である。
・対象品群gの本体分
(〔〕平成5年支払分まで概ね第3発明が出願公告平成5年7月7日
されるまでの期間)
0.8%
平成9年支払分から平成14年支払分まで(概ねキングジム契約が
締結されるまでの期間)
1%
平成15年支払分以降
0.5%
4本件各発明により一審被告が受けるべき利益──第三者実施分
(1)総論
前記3(1)でも述べたように,特許法旧35条4項の「その発明により使
用者等が受けるべき利益の額」は,特許を受ける権利が将来特許を受けるこ
とができるか否かも不確実な権利であり,その発明により使用者等が将来得
ることができる第三者からの実施料収入による利益の額をその承継時に算定
することは極めて困難であることからすると,第三者に当該発明の実施許諾
をし,実施料収入を得た後の時点において,これらの実施料収入額をみてそ
の法的独占権に由来する利益の額を認定することも,同条項の文言解釈とし
て許容されると解する。
そして,特許法旧35条3,4項に基づき従業者たる一審原告らが,使用
者である一審被告に対し第三者実施分につき本件各発明の譲渡対価を求める
場合,その算定方法は,上記3で述べた自己実施分の場合と異なり,同条1
項にいわゆる法定通常実施権による減額をする必要はなく,端的に本件各発
明につき一審被告が第三者から取得した実施料収入を基準とすべきである。
そこで,上記見解を前提として,以下,具体的に検討する。
(2)キングジム社からの実施料収入
ア本件各発明の寄与度
●●(省略)
ところで,複数の特許発明が単一のライセンス契約(実施許諾)の対象
となっている場合には,当該発明により「使用者が受けるべき利益の額」
を算定するに当たっては,当該発明が当該ライセンス契約締結に寄与した
程度を考慮すべきである。
そして,キングジム契約における本件各発明の寄与についての当裁判所
の判断は,原判決240頁下8行~下4行及び244頁4行~244頁1
0行を削除し,243頁下6行を「b平成14年1月1日から平成18
年12月31日まで(全対象期間」と改め,一審被告が特許ポートフォ)
リオとして主張する権利の内容,実施,無効事由等に関して,前記3(6)
アに認定した事情を考慮するほかは,原判決「事実及び理由」第3(当裁
判所の判断,3(1)(234頁以下)のとおりであるから,これを引用す)
る。
イ一審原告らの主張に対する判断
(ア)キングジム警告権利7及び8につき
一審原告らは,キングジム警告権利7及び8の発明者は一審原告X2
である旨主張するがこれを採用することができないことは前記3(6),,
ア(ア)〔38(特許発明38)及び〔39(特許発明39)のとおりであ〕〕
る。
(イ)オートサイズ発明につき
一審原告らは,オートサイズ発明(特許第2556224号)の発明
者は一審原告X2である旨主張するが,これを採用することができない
ことは,前記3(6)ア(ア)〔1(特許発明1)のとおりである。〕
ウまとめ
キングジム社からの実施料収入における本件各発明の寄与度は,以上述
べた諸事情に加え,第1発明には無効事由はないものの,キングジム社に
対する侵害警告の根拠とされ,かつ,仮処分申立ての根拠とはされなかっ
たこと,第3発明には無効事由があるものの,カシオ社に対する侵害警告
及び仮処分申立ての根拠とされたこと,一審被告の特許ポートフォリオに
係る権利の内容キングジム社のテプラプロ製品に使用する転写テープイ,(
ンレタテープ)が平成15年3月までに生産中止となったこと等を考慮す
ると,以下のとおりと認めるのが相当である。
(ア)第1発明
a当初の一時金
ラベルライター本体及びテープカセットの2%
b●●から平成15年6月20日まで(概ねインレタテープが生産中
止になるまでの期間)
本体及びテープカセットの0.8%
c平成15年6月21日~平成18年12月31日まで(インレタテ
ープの生産中止後第1発明のライセンス期間満了日まで)
0%
(イ)第3発明
a当初の一時金
本体及びテープカセットの2%
b●●から平成18年12月31日まで
本体の1%
(3)カシオ社からの実施料収入
ア本件各発明の寄与度
●●(省略)
上記カシオ契約における本件各発明の寄与度についての当裁判所の判断
は,原判決246頁8行~下4行を削除し,247頁10行を「b平成
14年10月1日から平成18年11月14日まで」と,247頁16行
を「c平成18年11月15日以降」とそれぞれ改めるほかは,原判決
「事実及び理由」第3(当裁判所の判断,3(2)(244頁以下)のとお)
りであるから,これを引用する。
,,一審被告が特許ポートフォリオとして主張する権利の内容実施の有無
無効事由の有無等は,前記3(6)アに認定したとおりである。
イまとめ
カシオ社からの実施料収入における本件各発明の寄与度は,以上述べた
,,諸事情に加え第1発明がカシオ社に対する侵害警告の根拠とされたこと
第1発明に無効事由がないこと,一審被告の特許ポートフォリオに係る権
利の内容等を考慮すると,以下のとおりと認めるのが相当である。
第1発明
a当初の一時金
一時金の2%
b●●から平成18年11月14日まで(第1発明の本来の存続満了
日までの期間)
本体及びテープカセットの0.8%
c平成18年11月15日以降
0%
(4)ダイモ社からの実施料収入
ア海外特許1の寄与
●●(省略)このダイモ契約に基づく実施料収入は本判決別紙「ダイモ
社からの実施料収入」記載のとおりである(なお,原判決が認定した20
06年〔平成18年〕3月31日よりも後の実施料収入については,これ
を認めるに足りる的確な証拠はないことから,考慮しない)。
他方,海外特許1は,ダイモ契約当時いまだ登録されておらず(海外特
許1の登録日は平成4年9月2日,ダイモ契約における保護権利として)
も挙げられていない。
そうすると,上記ダイモ契約の締結の経緯において海外特許1の法的独
占力が及んでいるということはできず,ダイモ契約の実施料について同権
利自体の寄与を認めることはできない。
イダイモ契約権利2と第3考案・ラミネート発明との関係
一審原告らは,ダイモ契約権利1ないし2は第3考案及びラミネート発
明を権利化したものであり,その実質的な発明者は一審原告ら6名である
旨主張するので,この点について判断する。
(ア)ダイモ契約権利とDYMO4000の関係
ダイモ契約において和解の対象とされたダイモ契約権利1及び2の内
容が原判決別紙「ダイモ契約権利1(ドイツ実用新案G●●)の構成要
件」及び同「ダイモ契約権利2(EP●●)の構成要件」のとおりであ
ること,ダイモ契約権利1及び2の内容が実質的に同一であること,ダ
イモ契約権利2の請求項1~3,7及び8の発明がDYMO4000に
おいて実施されているが,同請求項4~6の発明が実施されていないこ
とはいずれも当事者間に争いがない。
(イ)ダイモ契約権利2の内容
ダイモ契約権利2を特許請求の範囲請求項1の記載(乙163)に従
って分説すると,以下のとおりである。
●●(省略)
(ウ)第3考案の内容
a一方,第3考案を特許請求の範囲請求項1の記載に従って分説する
と,以下のとおりである。
①所定の印字が施された印字テープを作成するテープ印字装置のた
めのテープカセットであって,
②その印字テープの作成に必要な2種以上のテープが複数のスプー
ルに巻かれ,
③それらのスプールがカセットケース内にそれぞれ回転可能に保持
されるとともに,
④それらスプールの少なくとも1個がカセットケースに対して着脱
自在とされていること
⑤を特徴とするテープ印字装置用テープカセット。
bそして,第3考案の明細書(甲2の8)には,次の記載がある。
(a)「第1図に本考案の一実施例であるテープカセット10と,そ
れが装着されたテープ印字装置12を示す(4欄27行~29。」
行)
(b)「入力部14で入力されたデータに従い,印字部16では長手
方向のテープ送りを伴い,位置固定のサーマルヘッド28で印字
が行われる。…(4欄42行~45行)」
(c)「…本実施例においては,そのドット列の発熱により,透視性
被印字体テープとしての透明フィルムテープ32(以下,透明テ
ープという)に,印字部形成テープとしてのサーマルリボン34
のインクが裏返しパターンで転写されて,左右反転印字が行われ
るのである(5欄4行~9行)。」
(d)「本実施例において上記ローラ36,38は,透明テープ32
の反転印字がされた側の面に,その背景を形成するベーステープ
42を貼り付けるテープ貼付けローラを兼ねている。ベーステー
プ42は,第2図に示すように基材44の両面に粘着剤層46,
48を備えた両面粘着テープであり,粘着剤層46は剥離紙50
で被覆され,反対側の粘着剤層48において第3図に示すように
透明テープ32の反転印字面に貼り付けられるものである。…」
(5欄22行~31行)
(e)「第1図に戻って,透明テープ32,サーマルリボン34およ
びベーステープ42は,前記テープカセット10のカセットケー
ス54に,共用スプール56,巻き取りスプール58および供給
スプール60を介して保持されている。
透明テープ32とサーマルリボン34は,共用スプール56に
互いに重ね合わされた状態で巻かれている。ただし,接着剤等で
接合されているのではなく,単に積層されているだけである。そ
のように二重に巻かれた状態で外周側に透明テープ32が,内周
側にサーマルリボン34が位置するようにされており,共用スプ
ール56が透明テープ32の供給スプールとサーマルリボン34
の供給スプールとを兼ねている。これによって,カセットケース
54ひいてはテープカセット10をコンパクトに構成することが
できる。
透明テープ32とサーマルリボン34は,重ね合わせ状態で共
用スプール56から引き出されて,サーマルヘッド28とプラテ
ンローラ30との間に供給されるが,サーマルヘッド28におい
て転写が終了した使用後のサーマルリボン34は,透明テープ3
2から引き剥がされ,分離させられた後,巻取スプール58に巻
き取られるようになっている。
また,ベーステープ42は巻取スプール58の隣に位置する供
,,給スプール60に巻かれ第2図に示す粘着剤層48が内周側に
剥離紙50が外周側に位置するように保持されている。このベー
ステープ42が供給スプール60から引き出されてローラ36と
38の間に供給され,両ローラ36,38の圧着力により前述の
ように粘着剤層48において透明テープ32の反転印字面に貼り
付けられることになる。
カセットケース54はコの字形の断面形状を備え,前方(サー
)。マルヘッド28の側および左右に解放されたものとなっている
そして,カセットケース54の共用スプール56が保持されてい
る部分には,板縁から内部に向かってほぼU字型をなすスプール
装着用の切欠62が形成されており,この切欠62に共用スプー
ル56のスプール軸64が回転可能に装着されている。…(5」
欄43行~6欄39行)
(f)「また,第1図のように透明テープ32とサーマルリボン3
4とが共用スプール56に積層状態で巻かれていることは不可欠
の要件ではなく,共用スプール56を,透明テープ32の供給ス
プールとサーマルリボン34の供給スプールとの2個のスプール
に分離・独立させることも可能である(9欄5行~10行)。」
(エ)判断
a第3考案との関係
ダイモ契約権利2と第3考案は,ともに「プラテンと協働してプリ
ント動作を実行する印字ヘッドを備えたテーププリンタに使用され
る,テープカセット(ダイモ契約権利2の構成①)である。ダイモ」
契約権利2は「テープ出口(構成②)を備えるものであるところ,,」
第3考案に記載されているカセットケース54には「テープ出口」,
といえるものが存在しないからテープ出口を有するハウジングダ,「」(
イモ契約権利2の構成②,③)を備えるものではない。またダイモ契
約権利2は「印字ヘッドを収容する凹所を有するハウジング(ダイ」
モ契約権利2の構成③)を備えるものであるところ,第3考案は印字
ヘッドが当接する部分が開放されているため「印字ヘッドを収容す,
る凹所を有するハウジング」を備えるものでもない。
そうすると,ダイモ契約権利2は,第3考案とは「テープ出口と,
印字ヘッドを収容する凹所とを有するハウジング」を備えた点が異な
ることになる。
そして,第3考案は「…テープを保持するスプールをカセットケ,
ースに対して着脱自在とすることにより,そのテープのみ交換の必要
が生じたときには,そのスプールだけカセットケースから取り外して
別のものと交換することができ,カセットごと交換する必要がなくな
る(明細書〔甲2の8〕4欄2行~7行)ことを作用効果とする考」
案であり,この作用効果を奏するためスプールの着脱を容易にする構
成,すなわち「テープ出口と印字ヘッドを収容する凹所とを有するハ
ウジング」を用いない構成を採用した点に技術的意義があるものと理
解することができるから,このようなハウジングを必須の構成とする
ダイモ契約権利2とは技術的意義の異なる発明ということができる。
したがって,第3考案の考案者が直ちにダイモ契約権利2の発明者で
あるということはできない。
bラミネート発明の寄与
上記(イ)のダイモ契約権利2の構成は,実質的に透明な受像テープ
にイメージを転写した上で,当該プリント面に両面に粘着層を有する
粘着テープを貼り合わせるという,ラミネート機構そのものが含まれ
るものであって,その明細書〔●●〕に「…一般表示用として又は,
ラベルとして供され,且つプリント面が直接接触されないように保護
されているテープを作製することができ,また,プリント面を擦るこ
とにより別のシートにインスタントレタリングのイメージを得るため
に使用されるテープ…を作製することができるテープカセットを提供
するとともに,そのようなテープカセットを用いて使用される,構成
。」()・操作が簡単で安価なテーププリンタを提供するものである●●
と記載されているように,ダイモ契約権利2は,ラミネートテープ作
成機におけるラミネート機構部分をテープカセットとして脱着可能と
したことを発明の内容とするものである。そうすると,ダイモ契約権
利2にはラミネート発明の寄与があるというべきであるが,ダイモ契
約権利2自体はテープカセットに関する発明であり,ラミネート発明
にはない上記構成②,③を備えるものであること等の諸事情を併せ考
慮すると,その寄与度は20%をもって相当と認める。
5本件各発明に対する一審被告の貢献度
(1)総説
特許法旧35条4項によれば「前項の対価の額は,その発明により使用,
者等が受けるべき利益の額及びその発明がされるについて使用者等が貢献し
た程度を考慮して定めなければならない」と規定されているところ,前段の
「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」については,前記3及び
4で説示したところであるので,進んで後段の「その発明がされるについて
使用者等が貢献した程度」について検討する。
(2)貢献度に関する事情
ア本件各発明に至る経緯,製品化に至るまでの経緯,本件各発明の権利化
の経緯,製品化後の国内・欧州・米国における本件被告製品の販売状況,
国内におけるキングジム社及びカシオ社との紛争の発生とライセンス契約
,,締結の経緯欧州におけるダイモ社との紛争の発生と和解契約締結の経緯
米国におけるクロイ社との紛争の発生と和解契約締結の経緯等の事情は,
前記1に認定したとおりである。
イ一審被告は現在に至るまでラベルライター事業関連として年間●●円の
開発投資を継続し,平成元年度から平成15年度までに約●●円の開発費
を投じ,また,一審被告(BICUSAを含む。)がラベルライター事業に
()投じた広告宣伝費は16年間で合計●●円本件被告製品の売上高の●%
である(当事者間に争いがない。)
ウまた,証拠(乙56,74,132,133)及び弁論の全趣旨によれ
ば,次の事実が認められる。
(ア)一審被告の平成15年度までのラベルライターに関する権利の出願
は,特許・実用新案合わせて国内で●●件,海外で●●件,意匠は日本
国内で●●件,海外で●●件に上る。
(イ)平成15年度末時点において,特許権・実用新案権は,国内で登録
,,,,●●件公開●●件その他出願中●●件意匠権について登録●●件
出願●●件が存在し,海外で特許登録●●件,公開●●件,その他出願
中●●件,外国意匠については登録●●件,出願●●件が存在する。
(ウ)一審被告は,平成元年から平成15年まで,上記知的財産権の確保
及び維持のため累計約●●円を費やした。
(エ)一審被告がラベルライターに関して保有する特許ポートフォリオの
内容等は,前記3(6)アのとおりである。
エそして,証拠(乙63,243)及び弁論の全趣旨によれば,一審被告
は本件各発明に先立ちワープロ事業を展開しており,その際の蓄積技術と
,,,してサーマルヘッドによる熱転写印字方式印字される文字ドット構成
,。,漢字処理ソフト技術レタリングインク技術等を有していたのみならず
前記1のとおり,一審原告らがラミネート発明の基礎となった第1発明を
一審被告の商品として具体化する開発チームである「P-Touchプロ
」,,ジェクトを立ち上げその製品化に向けて技術的構成を検討した際には
これら一審被告の蓄積技術を用いることが前提とされていた。
オ一方,一審被告は,前記1のとおり,ラベルライターを商品化するに当
たり,自らは有力な販売ルートを有していなかったことから一時は製品化
自体が危ぶまれたが,キングジム社との間でOEM供給契約が締結された
ことにより事務機器の分野に強力な販売ルートを開拓することができ,こ
れがラベルライター製品化当初の普及に貢献した。また,キングジム社の
非ラミネートテープ製品への進出により同社へのOEM供給が減少してい
った際には,マックス社やタカラ社へのOEM供給を実現し,これが本件
被告製品の売上げの維持に貢献した。
カ欧州における販売網については,前記1のとおり,一審被告は,ラベル
ライターの欧州での発売当時,既に欧州内に自前の販売網を構築していた
ため,自社ブランドのラベルライターをこの販売網を通じて販売すること
により,他社が参入した後においても欧州内における高いシェアを維持す
ることができ,本件被告製品の売上げの維持に貢献した。
キ米国における販売活動については,一審被告は,当初本件被告製品の販
売が伸び悩んでいたが,前記イのような広告活動等の結果一審被告ブラン
ド及び商品の知名度を上げ,ラベルライター分野において大きなシェアを
獲得するに至った。
ク「漢字ダイモ」の研究に関する一審被告の主張について
,,一審被告は一審原告らによるP-Touchプロジェクトと並行して
一審被告のプロジェクトとして,ラベルライターと同様な「漢字ダイモ」
の研究が進められていた旨主張する。
しかし,第2発明等の共同発明者であるAは,陳述書(乙198)にお
いて「漢字ダイモ」に関する指示を受けたことはない旨断言し,証人B,
,「」。,も漢字ダイモの存在や内容については曖昧な供述に終始するまた
昭和62年4月1日付け「P-touch『インスタントレタリング作成
機』企画書(乙55添付資料14)には,次機種案として印字したテー」
プを貼り付けて使用する用途が記載されており,これによれば,同企画書
に基づいて行われたU事業部長に対するプレゼンテーションにおいてはそ
の点についての説明が行われたことを推認することができるところ,陳述
書(乙199)において「漢字ダイモ」の名付け親と自称するPが「漢字
ダイモ」という言葉を使用したのは,いずれもその後のことである(乙5
5添付資料15,乙199添付資料4参照。以上の事情に鑑みれば,P陳)
述書における「漢字ダイモ」に関する供述は,一審原告らのP-Touc
hプロジェクトにおける活動と混同したものであって,当該活動とは別に
「漢字ダイモ」に関するプロジェクトが一審被告において検討されていた
とは認めることができない。一審被告から「漢字ダイモ」を研究するよう
指示を受けた旨のCの陳述書(乙66)の供述は,上記に照らし採用する
ことができない。
,。したがってこの点に関する一審被告の主張は採用することができない
ケ一審原告らの主張について
一審原告らは,製品化や事業を継続・拡大するためになされた要素は発
明に直接関係しないから,これらを独占の利益に対する貢献と評価すべき
でない旨主張する。
この点,旧35条3項及び4項の規定は,職務発明の独占的な実施に係
る権利が処分される場合において,職務発明が雇用関係や使用関係に基づ
いてされたものであるために,当該発明をした従業者等と使用者等とが対
,,等の立場で取引をすることが困難であることに鑑みその処分時において
当該権利を取得した使用者等が当該発明の実施を独占することによって得
られると客観的に見込まれる利益のうち,同条4項所定の基準(その発明
により使用者等が受けるべき利益の額及びその発明がされるについて使用
者等が貢献した程度)に従って定められる一定範囲の金額について,これ
を当該発明をした従業者等において確保できるようにして当該発明をした
従業者等を保護し,もって発明を奨励し,産業の発展に寄与するという特
許法の目的を実現することを趣旨とするものであって,従業者等と使用者
等の利害関係を調整する規定であるからこのような趣旨に照らせば使,,「
用者等が貢献した程度」には,使用者等が「その発明がされるについて」
貢献した事情のほか,特許の取得・維持やライセンス契約の締結に要した
労力や費用,あるいは,特許発明の実施品にかかる事業が成功するに至っ
た一切の要因・事情等を考慮し得るものと解するのが相当である。
したがって,一審原告らの上記主張は採用することができない。
(3)まとめ
以上の事情に前記1本件における基礎的事実関係及び前記3(4)超,()(
過売上高の割合)に認定した本件各発明の技術としての価値,一審原告らの
,,一審被告社内での待遇その他本件訴訟に顕われた一切の事情を考慮すると
本件各発明に関する一審被告の貢献度は,第1発明については93%,ラミ
ネート発明及び第3発明については95%と認めるのが相当である。
6共同発明者間における一審原告らの寄与度
本件各発明の発明者は,前記のとおり,第1発明は一審原告X11名である
が,その余の第2発明・第3発明・第5発明・海外特許1・海外特許2・海外
特許3・第3考案は一審原告X1及び同X2のほかA,B,C,Dの合計6名で
あるので,第2発明以下の共同発明につき一審原告X1及び同X2の寄与度に
ついて,以下検討する。
(1)ラミネート発明につき
前記1で認定した事実,特に,第1発明を昭和61年7月30日に一審被
告へ承継した後「NB-1プロジェクト」のチームが発足する昭和62年5
,(,,)月21日までの間ラミネート発明第2発明第5発明海外特許1~3
の基礎となった第1発明を一審被告の商品として具体化する開発チームであ
る「P-Touchプロジェクト」は,一審原告X1を中心に,一審原告X
2,Dが一体となって研究開発を進めていたこと,また,ラミネート発明を
完成させた「NB-1プロジェクト」の位置付けはP-touchプロジェ
クトの成果を技術的に検討するというものであったことから,P-Touc
hプロジェクトにおいて固められた技術的な基本方針はNB-1チームにも
引き継がれていること,さらに,ラミネート発明の中核となっている透視性
フィルムに両面粘着テープを貼り付けるという発想は,原始的な形では既に
P-Touchプロジェクトにおいて表れており,実際の構成はラミネート
発明の発明者である上記6名がNB-1プロジェクト発足直後に一審原告ら
が参加して行われた会議における議論により一応の完成をみたものであり,
,,またその具体的な着想自体は技術者であるCが行ったものであるとしても
技術的に著しく高度というほどのものではなく,その意味では6名の共同作
業に依拠するところが多いと評価できること,その後,昭和62年7月10
日に「NEW-Bグループ」が発足し,製品化に至るまでの具体的な研究が
なされたが,これらは,一審原告らが第2発明を一審被告に承継した後の製
品についての詳細な仕様を決定するための技術的作業であって,共同発明者
間の寄与度として考慮すべき事情とは解されない等の諸事情を総合考慮すれ
ば,6名の共同発明となっているラミネート発明における一審原告らの寄与
度は,各6分の1と認めるのが相当である。
(2)第3発明
第3発明の具体化はNB-1プロジェクトにおいてなされたものであると
ころ,NB-1プロジェクトの位置付けその他前記1に認定した第3発明の
完成の経緯等を総合考慮すれば,第3発明についても一審原告らの寄与度は
各6分の1と認めるのが相当である。
(3)第1発明についての補足的説明
第1発明は一審原告X1の単独による発明であるから,寄与度を論じるま
でもないが,一審被告は,第1発明の完成には,E等,一審原告X1以外の
技術者の寄与が大きいなどと主張する。
,(),しかし前記1本件における基礎的事実関係に認定した事実によれば
一審原告X1はLRセンターにおける新しいワープロのコンセプトを議論す
る過程でインスタントレタリング作成専用機を着想し,独自にその製品化に
向けて技術的課題の克服を進めていたこと,また,その過程で,インクの技
術という化学的・個別的な課題についてEに協力を依頼して,解決の道筋を
付けることができたこと等が認められるが,Eの上記関与は第1発明の全体
的な課題の解決ないし研究開発とは距離を置いた限定的なものにすぎないこ
となどからすれば,Eを第1発明の発明者に準じるものとしてその寄与度を
考慮すべきものとは認められず,せいぜい,その関与は前記5(本件各発明
に対する一審被告の貢献度)のとおり一審被告の貢献度において考慮すれば
足りるというべきである。なお,一審被告はE以外の技術者による寄与が大
きい旨主張するが,上記のほか第1発明において特筆すべき技術的貢献した
者の存在を認めるに足りる証拠はない。
したがって,一審被告の上記主張は採用することができない。
7相当対価の支払時期
一審被告の発明報奨規程によれば,下記の各期間における自己実施及び実施
,。,料収入を対象とする相当対価の支払時期は以下のとおりとなるその理由は
原判決「事実及び理由」第3(当裁判所の判断,6(262頁以下)のとお)
りであるから,これを引用する。
【期間】【支払時期】
平成4年8月21日~平成5年5月20日平成5年12月25日
平成5年5月21日~平成6年5月20日平成6年12月25日
平成6年5月21日~平成7年5月20日平成7年12月25日
平成7年5月21日~平成8年5月20日平成8年12月25日
平成8年5月21日~平成9年3月31日平成9年12月25日
平成9年4月1日~平成10年3月31日平成10年12月25日
以降,前年4月1日~当年3月31日当年12月25日
8消滅時効
(1)本件における消滅時効の成否
職務発明について特許を受ける権利等を使用者等に承継させる旨の契約や
これを定めた勤務規則等がある場合においては,従業者等は,当該契約・勤
務規則等により,特許を受ける権利等を使用者等に承継させたときに,相当
の対価の支払を受ける権利を取得する(特許法旧35条3項。対価の額に)
ついては,同条4項の規定があるので,契約・勤務規則等による額が同項に
より算定される額に満たないときは同項により算定される額に修正される
が,対価の支払時期についてはそのような規定はない。したがって,契約・
勤務規則等に対価の支払時期が定められているときは,契約・勤務規則等の
定めによる支払時期が到来するまでの間は,相当の対価の支払を受ける権利
の行使につき法律上の障害があるものとして,その支払を求めることができ
ないというべきである。そうすると,契約・勤務規則等に,使用者等が従業
者等に対して支払うべき対価の支払時期に関する条項がある場合には,その
支払時期が相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効の起算点となると解す
るのが相当である(最高裁平成15年4月22日第三小法廷判決・民集57
巻4号477頁参照。)
そして特許法旧35条3項に基づく相当の対価の支払を受ける権利は,そ
の金額が同条により定められたいわば法定の債権であるから,権利を行使す
ることができる時から10年の経過によって消滅する(民法166条1項,
167条1項)と解するのが相当である。
以上の見地に立って本件について検討すると,以下に当審における一審被
告の主張に対する判断を付加するほかは,原判決「事実及び理由」第3(当
裁判所の判断,7(3)~(6)(265頁以下)のとおりであるから,これを)
引用する。
(2)商事消滅時効の主張に対し
一審被告は,一審原告らの請求債権は,一審原告らが営利企業である一審
被告に譲渡した職務発明について特許を受ける権利を承継したことによる対
価請求債権であり,これは債務者である一審被告がその営業のためにする商
行為によって生じた債権であるから,商法522条により5年の期間の経過
により時効消滅する旨主張する。
しかし,特許法旧35条3項及び4項の規定によれば,使用者は,使用者
と従業者間の契約により特許を受ける権利の承継を受ける場合のみならず,
従業者が職務発明について特許を受ける権利を使用者に承継させる意思を現
に有しているか否かに関わりなく,勤務規則その他使用者が単独で制定可能
,,な規定によりその承継を受けることができるものとされておりそれゆえに
使用者と従業者間の衡平を図る見地から,従業者に対し前記契約・勤務規則
等の定めた金額にとらわれない「相当」の対価の支払を受ける権利を付与し
た上(同3項,その対価額について一定の算定方法を規定しているのであ)
る(同4項。)
このような特許法の定めに鑑みれば,特許を受ける権利を承継したことに
よる対価の請求債権は,使用者と従業者間の衡平を図る見地から設けられた
債権であって,営利性を考慮すべき債権ではないというべきであるから,商
行為によって生じたもの又はこれに準ずるものと解することはできない。
したがって,一審被告の上記主張は採用することができない。
(3)まとめ
以上によれば,平成4年8月20日以前における自己実施及び実施料収入
に係る相当対価の請求債権は時効により消滅したのに対し,平成5年12月
支払分(平成4年8月21日~平成5年5月20日)以降の請求債権は,時
効が中断した結果,時効により消滅していないことになる。
9相当対価額と既払金控除
(1)相当対価額
以上述べたところを総合すると,本件各発明の特許を受ける権利の承継の
相当対価の額は,次のとおりである。
ア自己実施分
(ア)ラミネート発明分
本判決別紙「ラミネート発明の相当対価算定表(自己実施分」のと)
おり。
計算方法は,相当対価算定の基礎となる売上高について,本件被告製
品の売上高(本判決別紙「本件被告製品の売上高(自己実施分」の表)
1-1「本件被告製品の売上高)を基礎としつつ,これを下記のとお」
り修正し(表2-1中「修正後売上高」欄,なお端数は切捨て,その)
上で,これに超過売上高の割合(表2-1中「超過売上高割合」欄)を
乗じて超過売上高を算出し(表2-1中「超過売上高」欄,なお端数は
切捨て,これに更に仮想実施料率(表2-1中「仮想実施料率」欄・))
発明寄与度(表2-1中「発明寄与度」欄・一審原告らの貢献度(表)
2-1中「1-被告貢献度」欄)を乗じるとともに,発明者の数(表2
「」)(「()」-1中共同発明欄で除したものである表2-1中相当対価円
欄,なお端数は切捨て。)

【修正事項】
a表1-1「本件被告製品の売上高」記載の本件被告製品の売上高
を基礎として,ここから時効消滅分を除外するとともに平成17年
度~平成20年度の売上高を推計する(同表1-2「本件被告製品
(,)」の売上高時効消滅分を除外し支払期限到来分を推計したもの
参照。)
b上記aを基礎として,売上高を一審被告の発明報酬規程の定める
支払時期・対象期間に対応させる(同表1-3「本件被告製品の売
()」)。上高被告発明報奨規程の支払時期・対象期間に対応したもの
c上記bを基礎として,子会社を経由して販売したものについて子
会社係数を乗じる(表2-1中「子会社修正」欄。)
d以上のほか,
(a)本体・国内販売分については,上記bから対象品群fのルシ
ール分を控除する(表2-1中「ルシール修正」が●%となって
いるもの。)
(b)テープカセット分については,ラミネートテープでない分を
控除する(表2-1中「ラミネート比率修正」欄。)
(c)平成20年度分の国内販売額には,平成19年4月1日から
()同年12月21日までを日割計算した係数265÷365≒0.726
を乗じる。
(d)テープカセット・米国販売分については,権利が消尽しつつ
も売上げの一部について特に超過売上高を認めるべきものについ
て修正率を乗じる(表2-1中「テープ修正」欄。)
(イ)第1発明分
本判決別紙「第1発明の相当対価算定表(自己実施分」のとおり。)
計算方法は,売上高について次のとおり修正するほか,上記(ア)(た
だし【修正事項】dを除く)に準じる。
a平成19年度分の国内販売額には,平成18年4月1日から同年1
()。1月14日までを日割計算した係数228÷365≒0.624を乗じる
bテープカセットについては,間接侵害規定の適用がなくとも売上げ
の一部について特に超過売上高を認めるべきものについて修正率を乗
じる(表2-2中「テープ修正」欄,なお平成15年度については9
か月分を50%,3か月分を100%として計算。)
c売上高に占める第1発明の実施割合を修正要素として乗じる(表2
-2中「第1発明実施割合」欄。)
(ウ)第3発明分
本判決別紙「第3発明の相当対価算定表(自己実施分」のとおり。)
計算方法は,売上高について次のとおり修正するほか,上記(ア)(た
だし【修正事項】dを除く)に準じる。
a平成20年度分の販売額には,平成19年4月1日から同年12月
10日までを日割計算した係数(254÷365≒0.695)を乗じる。
b売上高に占める第3発明の実施割合を修正要素として乗じる(表2
-3中「第3発明実施割合」欄。)
イ他社実施分
(ア)キングジム社
a第1発明分
「」「(.本判決別紙キングジム社実施分の表1-2第1発明H15
5生産中止」のとおり。)
計算方法は,キングジム社からの実施料収入(表1-1「キングジ
ム社からの実施料収入)を基礎として,これに本体の寄与度(表1」
-2の「寄与度(本体」欄)を乗じたものと,テープカセットの寄)
与度(同「寄与度(テープ」欄)を乗じたものとの合計額を算出し)
(表中「対象実施料」欄,なお端数は切捨て,これに一審原告らの)
貢献度(表中「1-被告貢献度」欄)を乗じるとともに,発明者の数
(表中「共同発明」欄)で除したものである(表中「相当対価」欄,
なお端数は切捨て。)
b第3発明分
「」「(.本判決別紙キングジム社実施分の表1-3第3発明H19
12.10満了」のとおり。)
計算方法は上記aに準じる。
(イ)カシオ社
本判決別紙「カシオ社実施分」の表2-2「第1発明」のとおり。
,(),計算方法は発明者の数を除き第1発明は一審原告X1の単独発明
上記(ア)aに準じる。
(ウ)ダイモ社
本判決別紙「ダイモ社実施分」の表3「ダイモ社からの実施料収入」
のとおり。
計算方法は,ダイモ社からの実施料に関するレポートを国内通貨に引
(「」),(「」)き直したもの表中国内通貨額欄に寄与度表中寄与度欄
を乗じ,これに一審原告らの貢献度(表中「1-被告貢献度」欄)を乗
じるとともに,発明者の数(表中「共同発明」欄)で除したものである
(表中「相当対価」欄,なお端数は切り捨て。)
ウ小括
以上の相当対価を各支払時期ごとにまとめると,本判決別紙「相当対価
の金額のまとめ」の表1(一審原告X1分)及び表2(一審原告X2分)
のとおりである。
(2)既払金の控除
一審原告X1は一審被告からラミネート発明,第1発明及び第3発明につ
いての平成5年以降の実績報奨として16万0600円,一審原告X2は同
じく7万7100円の支払を受けており,その支払時期は本判決別紙「相当
対価の金額のまとめ」の表3「既払金のまとめ」のとおりである。
以上を各支払時期ごとに前記(1)ウ(小括)の金額から控除(なお,第3
発明の平成5年12月支払時期分は665円が過払いとなることから,相当
対価額の算定としては,同過払い分を翌年支払時期分の相当対価額から控除
することとする。本判決別紙「認容金額一覧表」の表1〔一審原告X1分〕
及び表2〔一審原告X2分〕の各平成6年12月の支払時期〔各支払時期は
前記のとおり12月25日であるが,一審原告らの請求の始期が12月末日
であるので,同表においては原審と同様に,便宜「12.31」と表示し,
た〕における第3発明の「既払金等」欄参照)した上で算定した本件におけ
る認容額は,本判決別紙「認容金額一覧表」の「合計」欄のとおりと認める
のが相当である。
10結論
以上の次第で,一審原告らの請求は,一審原告X1については,元本318
8万2587円及び別紙「認容金額一覧表」の「表1認容金額一覧表(一審
原告X1」記載の「支払時期」ごとの各「合計」に対する各「支払時期」か)
ら支払済みまで,一審原告X2については,元本2449万5226円及び別
紙認容金額一覧表の表2認容金額一覧表一審原告X2記載の支「」「()」「
払時期」ごとの各「合計」に対する各「支払時期」から支払済みまで,各年5
分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
,(),そうすると一審被告の控訴A事件は理由がないから棄却するとともに
一審原告らの控訴(B事件)に基づき原判決を変更し,一審原告らの本訴請求
,,。を上記の限度で認容しその余は棄却することとして主文のとおり判決する
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官森義之
裁判官澁谷勝海

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弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
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応募資格
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すでに経験を有する弁護士
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