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平成25年12月24日判決言渡
平成25年(行ケ)第10145号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成25年12月17日
判決
原告ヒューレット-パッカード
デベロップメントカンパニー,エル.ピー.
訴訟代理人弁理士古谷聡
溝部孝彦
西山清春
大西昭広
被告特許庁長官
指定代理人田中秀人
山崎達也
樋口信宏
堀内仁子
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と
定める。
事実及び理由
第1原告の求めた判決
特許庁が不服2011-21454号事件について平成25年1月4日にした審
決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,特許出願拒絶審決の取消訴訟である。争点は,進歩性の有無である。
1特許庁における手続の経緯
ハンドスプリング,インク.(後にパームワン,インコーポレイテッドが一般承
継。平成17年4月6日出願人名義変更届・甲6,7)は,2000年(平成12
年)8月10日を国際出願日とし,名称を「強い拡張機能を有する移動コンピュー
ターシステム」(後に「堅牢な拡張性能を備えたモバイルコンピューターシステム」
と補正)とする発明につき,パリ条約による優先権主張日を1999年(平成11
年)8月12日,優先国を米国として,特許出願(特願2001-517253,
平成13年2月22日国際公開,WO01/13222,平成15年2月25日国
内公表,特表2003-507788・甲3)をしたが,平成23年5月19日付
けで拒絶査定を受けた。そこで,パームワン,インコーポレイテッドは,同年10
月4日,これに対する不服の審判を請求すると同時に特許請求の範囲の変更を含む
本件補正をした(甲4)。原告は,同社から特許を受ける権利を承継した(平成23
年11月22日出願人名義変更届・甲8)。
特許庁は,平成25年1月4日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審
決をし(出訴期間90日を附加),その謄本は同月22日,原告に送達された。
2本願発明の要旨
本件補正後の請求項1(本願発明)は,以下のとおりである。
「コンピューターシステムに挿入された周辺機器を検出するステップと,
前記周辺機器上の第1のメモリスペースから前記コンピューターシステム内の第
2のメモリスペースにセットアップアプリケーションをコピーするステップと,
前記コピーするステップの後,前記セットアップアプリケーション内のインスト
ールルーチンを実行するステップと,
を有することを特徴とする堅牢なコンピューター拡張を提供する方法。」
3審決の理由の要点
(1)引用発明について
引用例(特開平11-53289号公報・甲1)には,以下の引用発明が記載さ
れている。
「情報処理装置に周辺装置が接続されると,前記情報処理装置において,前記周
辺装置が何であるか検出するステップと,
最新版の周辺装置用ソフトウェア情報(ドライバソフトやアプリケーション等)
を,格納元から読み込み,前記情報処理装置のメモリに格納するステップと,
前記格納するステップの後,前記最新版の周辺装置用ソフトウェア情報を前記情
報処理装置にインストールするステップと,
を有することを特徴とする情報処理装置の拡張機能増強方法。」
(2)本願発明と引用発明との一致点と相違点は,次のとおりである。
【一致点】
「コンピューターシステムに接続された周辺機器を検出するステップと,
格納元から前記コンピューターシステム内の第2のメモリスペースにセットアッ
プアプリケーションをコピーするステップと,
前記コピーするステップの後,前記セットアップアプリケーションをインストー
ルするステップと,
を有することを特徴とする堅牢なコンピューター拡張を提供する方法。」
【相違点1】
周辺機器のコンピューターシステムへの接続に関して,本願発明が,「挿入」であ
るのに対して,引用発明は,具体的な接続態様について,不明である点。
【相違点2】
セットアップアプリケーションの格納場所に関して,本願発明が,「周辺機器上の
第1のメモリスペース」であるのに対して,引用発明は,「格納元」であって,周辺
装置内の記憶装置であると限定されていない点。
【相違点3】
セットアップアプリケーションのインストールに関して,本願発明が,「セットア
ップアプリケーション内のインストールルーチンを実行する」ものであるのに対し
て,引用発明は,インストールをどのように行うのか不明である点。
(3)相違点に関する審決の判断は,以下のとおりである。
ア相違点1について
様々な形態の周辺機器が存在することは,当業者にとって常識的な事項であり,
コンピューターシステムに挿入可能な周辺機器も,当業者が普通に採用している周
辺機器の一形態にすぎないから,引用発明の周辺装置においても,情報処理装置に
挿入可能な周辺装置とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
イ相違点2について
引用例に「情報処理装置30に,周辺装置40が接続されると,周辺装置40の
中の記憶装置45,情報処理装置30の中の記憶装置36,又はネットワーク50
における記憶装置51Mに格納されている,当該接続された周辺装置40用のドラ
イバソフトやアプリケーション等のソフトウエア情報から,情報処理装置30は,
最も新しいバージョン情報を選択して,メモリ33にインストールする。」(段落
【0079】)と記載されるように,最新版の周辺装置用ソフトウェア情報が格納
されている格納元として,周辺装置内の記憶装置,情報処理装置内の記憶装置,ネ
ットワークにおける記憶装置が想定されている。
しかしながら,どの記憶装置に最新版の周辺装置用ソフトウェア情報を格納して
おくかについては,当業者が適宜選択し得る設計的事項にすぎず,また,引用例に
「周辺装置40による所望のアプリケーションの処理が終了した後は,これらの情
報を,情報処理装置30内部の記憶装置36に格納しておくか,消去するか,ユー
ザ自身によって選択ができる。」(段落【0083】)と記載されるように,情報
処理装置内に当該周辺装置用ソフトウェア情報を格納しておくか,消去するかにつ
いても,適宜選択可能な設計的事項にすぎない。
してみると,引用発明においても,情報処理装置内に読み込んだ周辺装置用ソフ
トウェア情報について,処理が終了した後に当該周辺装置用ソフトウェア情報を消
去し,周辺装置を接続するごとに,最新の周辺装置用ソフトウェア情報を周辺装置
内の記憶装置から読み込んでインストールするように構成すること,すなわち,相
違点2に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
ウ相違点3について
アプリケーションパッケージ内にインストーラと呼ばれるインストール作業用の
プログラムを添付しておき,当該インストーラを用いてインストールを実行する技
術は周知技術であり,引用発明におけるインストールにおいても,当該周知技術を
採用し,周辺装置用ソフトウェア情報内にインストーラ(本願発明における「イン
ストールルーチン」に相当)を添付しておき,当該インストーラを実行することで,
周辺装置用ソフトウェア情報をインストールするように構成すること,すなわち,
相違点3に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
(4)上記のとおり,相違点1~3は格別のものではなく,これらの相違点を総
合的に勘案しても,本願発明の奏する作用効果は,上記引用発明及び周知技術の奏
する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということは
できない。
したがって,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,容易に発明できた
ものである。
第3原告主張の審決取消事由
1取消事由1(本願発明と引用発明との対比の誤り)
(1)審決は,引用発明の「最新版の周辺装置用ソフトウエア情報(ドライバソ
フトやアプリケーション等)」が,本願発明の「セットアップアプリケーション」に
相当する旨認定したが,この認定は,以下の理由により,誤りである。
ア本願発明の「セットアップアプリケーション」は,本願明細書(甲3)
の「セットアップユーティリィティ」に対応するところ,本願明細書には,周辺機
器用のドライバを取り外した後に,セットアップユーティリィティを取り外すこと
が記載されているから(段落【0039】,【0043】,【0048】),本願明細書
の「セットアップユーティリィティ」は,「モデムドライバ」などの「デバイスドラ
イバ」を含んでいないと解される。また,本願発明の「セットアップアプリケーシ
ョン」自体に,周辺機器の「セットアップ」を完了するために必要なプログラム(ド
ライバ等)が含まれると解すべき必然性はなく,インストールに必要なドライバソ
フトとして,周辺機器と共に提供されるドライバソフトと,コンピューターシステ
ムに予め保持されているドライバソフトとのいずれを使用するかは,本願発明の構
成要件として記載されていない。
一方,引用発明の「最新版の周辺装置用ソフトウエア情報」は,引用例において,
「当該周辺装置固有のドライバソフトやアプリケーション等のソフトウエア情報」
(段落【0070】,【0073】,【0079】)と記載されているように,ドライバ
ソフトを含むものである。
したがって,本願発明の「セットアップアプリケーション」には周辺機器のハー
ドウェアを駆動制御するためのドライバソフト及び周辺機器のデータ処理用のソフ
トウェアは含まないのに対し,引用発明の「最新版の周辺装置用ソフトウエア情報」
はドライバソフトを含む点で,両者は異なるものである。
イ本願発明の「セットアップアプリケーション」には,インストールルー
チンが含まれている。
一方,引用発明の「最新版の周辺装置用ソフトウエア情報」が,ドライバソフト
等をインストールするためのインストールルーチンを含むことは,引用例には記載
されていない。引用例の「これら拡張機能装置のハードウェアを駆動制御するため
のそれぞれに対応したデバイスドライバのソフトウエア情報や,これら拡張機能装
置からの情報の処理のためのアプリケーションのソフトウエア情報が,情報処理装
置にインストールされる。」(段落【0011】)等の記載(段落【0022】,【00
61】)は,引用発明の「ソフトウエア情報」に含まれる「アプリケーション」が,
該「ソフトウエア情報」をインストールするためのアプリケーションとは異なるも
のであることを示唆している。そして,引用例の段落【0079】の記載は,「情報
処理装置30」が,「ソフトウエア情報」の中から「最も新しいバージョン情報を選
択して」,「インストールする」ことを表明しており,当該ソフトウェア情報のイン
ストールが,当該ソフトウェア情報をインストール用プログラムとして使用して実
施されるものではないことを示唆している。
よって,引用発明の「最新版の周辺装置用ソフトウエア情報」には,当該ソフト
ウェア情報をインストールするためのアプリケーションは含まれないと解するのが,
引用例に基づく合理的な解釈である。
以上から,本願発明の「セットアップアプリケーション」は,インストールルー
チンを含むのに対し,引用発明の「最新版の周辺装置用ソフトウエア情報」は,当
該ソフトウェア情報をインストールするためのアプリケーションを含まない点で異
なるものである。
ウ本願明細書に「図7は,セットアップユーティリィティによって行なう
ことのできる操作のリストを提供している。」(段落【0026】),及び「セットア
ップユーティリィティは,周辺機器が操作に必要とするメインメモリの量を割り付
ける。」(段落【0027】)と記載されており,本願発明の「セットアップアプリケ
ーション」は,周辺機器を操作できるようにするために,ドライバソフトなどの周
辺機器ごとに個別に提供されるプログラムの組み込みに加えて,周辺機器間で共通
の処理として実施される,メインメモリの割り付けといった汎用的な処理を含むも
のである。
他方,プラグ&プレイ等を技術背景とする引用発明では,情報処理装置が,周辺
装置へのリソースの割当て(すなわち,「周辺機器が操作に必要とするメインメモリ
の量」の割り付け)等の汎用的な処理を担うのであるから,引用発明においては,
リソースの割当て等の汎用性のあるプログラムを「ソフトウエア情報」に含めるこ
とはそもそも想定されていない。
したがって,引用発明の「ソフトウエア情報」に,周辺装置特有のアプリケーシ
ョンのインストールプログラムを含めることができたとしても,そのようなプログ
ラムは,コンピューターシステムのメインメモリの量の割り付けといった汎用的な
処理を含むものではなく,また,そのような処理を含むことが予定されているもの
でもない。そうすると,インストールプログラムを含めた場合の引用発明の「ソフ
トウエア情報」が,本願発明の「セットアップルーチン」と同等の処理を含むもの
とはいえない。
(2)審決は,引用発明の「情報処理装置の拡張機能増強方法」は,本願発明の
「堅牢なコンピューター拡張を提供する方法」に相当すると認定したが,この認定
は誤りである。
すなわち,本願明細書の「・・・拡張インタフェース110は,操作することが簡単
で非常に堅牢になるように設計されている。・・・」及び「ユーザーが拡張インタフェ
ース110に周辺機器を挿入する場合,最初にモバイルコンピューターシステム1
00は挿入する周辺機器を検出する。次に,モバイルコンピューターシステム10
0は,任意の適切なデバイスドライバプログラムをインストールする。」(段落【0
010】)等の記載(段落【0001】,【0005】),本願発明の構成要件,並びに
本願発明の「セットアップアプリケーション」が,周辺機器を駆動制御するための
ドライバソフト及び周辺機器のデータ処理用のソフトウェアを含まないことを考慮
すれば,本願発明の「堅牢なコンピューター拡張」とは,コンピューターシステム
にインストール用プログラムが予め用意されていない場合でも,「コンピューター拡
張」のための周辺機器が挿入されたときにはいつでも,周辺機器に格納されている
セットアップアプリケーションをコンピューターシステムが用いて,周辺機器を動
作させるための(コンピューターシステムが保持している)デバイスドライバなど
のソフトウェアを自動かつ確実にインストールできるようにしたことを意味すると
解される。
また,本願発明の「セットアップアプリケーション」は,メインメモリの割り付
けといった汎用的な処理を含むので,コンピューターシステムがそのような処理を
実行する機能を予め有していない場合でも,周辺機器のインストールを確実に実行
できる可能性がより高い点で,引用発明の「情報処理装置の拡張機能増強方法」よ
りも「堅牢」であるといえる。
したがって,「堅牢」を,「ユーザが周辺機器をコンピューターシステムに挿入し
ただけで,周辺装置が利用可能となること。」と解した場合でも,本願発明の「堅牢
なコンピューター拡張」と,引用発明の「情報処理装置の拡張機能増強方法」とは,
コンピューターシステム(又は情報処理装置)に「セットアップアプリケーション」
に相当する機能が予め用意されているか否かによってその堅牢の程度が異なる。
(3)以上のとおり,引用発明の「最新版の周辺装置用ソフトウエア情報(ドラ
イバソフトやアプリケーション等)」が,本願発明の「セットアップアプリケーショ
ン」に相当するとの審決の認定及び引用発明の「情報処理装置の拡張機能増強方法」
は,本願発明の「堅牢なコンピューター拡張を提供する方法」に相当するとした審
決の認定はいずれも誤りであるから,審決の一致点の認定は,「コンピューターシス
テムに接続された周辺機器を検出するステップ」を一致点としている部分を除いて,
失当である。したがって,これを前提とする相違点2及び3の認定,容易想到性の
判断も誤りである。
2取消事由2(相違点3に関する容易想到性判断の誤り)
相違点3に係る構成は,引用発明に基づいて当業者が容易に想到し得たとはいえ
ず,これを容易想到とした審決の判断は誤りである。
(1)前記1のとおり,本願発明によれば,コンピューターシステムにインスト
ールルーチンがない場合でも,周辺機器に格納されているインストールルーチンを
用いることによって,当該周辺機器用のデバイスドライバ等のインストールを自動
かつ確実に実行することが可能である。一方,引用発明は,情報処理装置の外部の
格納元に格納されている最新版の周辺装置用ソフトウェアを当該情報処理装置に転
送することによって,情報処理装置が当該最新版のソフトウェアを利用できるよう
にすることを目的とするものであり,また,引用例には,当該最新版のソフトウェ
アをインストールするためのプログラムが当該最新版のソフトウェアに含まれるこ
とは記載されていない。
したがって,引用発明の上記目的及び引用例の開示に照らせば,インストーラが
添付された周辺装置用ソフトウェア情報から当該ソフトウェア情報を殊更に除いた
もの(本願発明のセットアップアプリケーションに相当)のみを外部の格納元に格
納するようにすることを,当業者に想起させるような動機付けとなるものは,引用
例には記載されていないというべきである。
(2)また,引用発明においては,本願発明のように,リソースの割当て等の汎
用的な処理を含むプログラムをソフトウェア情報に含めることはそもそも想定され
ていない。そして,参考文献(甲2)には,インストーラが,アプリケーションの
ファイル名やパス等の情報を実行環境データベースに登録することは開示されてい
るが(段落【0003】,【0005】),当該インストーラがリソースの割当て
などのより汎用的な処理を含むことは開示されていない。
そうすると,参考文献(甲2)に開示されているような周知のインストーラを,
引用発明のソフトウェア情報に添付したものは,本願発明の「セットアップアプリ
ケーション」に相当する機能を有するものではない。
(3)さらに,本願発明は,「セットアップアプリケーション」が含む周辺機器
インストール用の汎用的な機能を,コンピューターシステムが予め有していない場
合でも,周辺機器の確実なインストールをより高い可能性で提供するという格別な
作用・効果を奏する。
したがって,相違点3に係る構成とすることは,引用発明及び周知技術に基づい
て容易に想到し得たことではない。
第4被告の反論
1取消事由1に対し
(1)原告主張1(1)に対し
ア原告は,本願発明の「セットアップアプリケーション」が「セットアッ
プユーティリィティ」に対応すると主張するが,これらは,用語が異なるから,そ
の意味も異なるというべきである。
周辺機器をコンピューターシステムで使えるようにするためには,通常,プログ
ラムファイルやデータファイルをコンピューターシステムに適切な状態でコピーし
て,関連ファイルを書き換える等の一連の作業が必要となるところ,例えば,OS
がWindows98で周辺機器がプリンタである場合のように,ユーザーがイン
ストールディスクとしてプリンタに添付されたFDを指定すると,ドライバやコン
トロールプログラムが自動的にFDからインストールされることが,本件出願時の
技術水準になっていたことを踏まえると,本願発明の「セットアップアプリケーシ
ョン」は,ドライバソフトやアプリケーション(プリンタのコントロールプログラ
ム)等が含まれる態様を発明の要旨に含むものである。
イ引用例には,「ドライバファイル」ではなく「ドライバソフト」と記載さ
れ,また,「ソフトウエア情報」について「ドライバソフトやアプリケーション等」
と記載されているから,引用発明の「ソフトウエア情報」は,その内容に応じて,
インストールルーチンを含み得る。さらに,引用例には,周辺装置としてプリンタ
が例示されているところ,プリンタのソフトウェア情報は,通常,ドライバファイ
ル単体ではなく,プリンタのコントロールプログラム等を含む多数のファイルから
なるパッケージであることからすると,引用発明の周辺装置がプリンタの場合にお
いては,「ソフトウエア情報」にインストールルーチンが添付されている蓋然性が,
極めて高いといえる。
原告は,引用例の段落【0079】等の記載を指摘するが,段落【0079】に
は,情報処理装置が最も新しいバージョンのソフトウエア情報を選択してメモリに
インストールすることが記載されているから,引用発明の情報処理装置は,ソフト
ウエア情報に添付されたインストールルーチンをメモリにコピーし実行することが
できるものである。引用発明は,プラグ&プレイやコンフィグレーション・マネー
ジャを技術背景とするから,引用発明の情報処理装置は,ドライバファイルのOS
への登録や,周辺装置へのリソースの割当て等,汎用的な処理を担うものであり,
少なくとも,周辺装置特有のアプリケーション(例:乙1のプリンタコントロール
プログラム)のインストールルーチンについては,「ソフトウエア情報」から提供を
受けるのが合理的である。
(2)原告主張1(2)に対し
本願発明の「堅牢」は,「コンピュータ拡張」の性質・状態を表現する形容動詞と
解されるところ,本願明細書には,コンピュータ拡張の性質・状態がどの程度であ
ることを「堅牢」と表現したのか,相対的な基準や比較の対象は記載されていない。
したがって,本願発明の「堅牢」とは,周辺機器の挿入による拡張を,主観的評価
でしっかりと行うことを述べたにすぎないから,引用発明との相違点とはならない。
本願明細書の段落【0004】には,「外部インタフェースは,適切であるか否か
に関係なく,任意のタイプのユーザー行動を処理するように十分に堅牢であるべき
である。」と記載があるところ,この記載を本願発明の構成と対応づけて考えると,
「堅牢」とは,「ユーザが周辺機器をコンピューターシステムに挿入しただけで,周
辺装置が利用可能となること。」を意味すると解され,引用発明と何ら相違しない。
2取消事由2に対し
引用発明の「ソフトウエア情報」は,「ドライバソフトやアプリケーション等」
を意味し,周辺装置がプリンタの場合の「ソフトウエア情報」は,ドライバソフト
にプリンタのコントロールプログラム等を加えた多数のファイルからなるパッケー
ジとなる。そうしてみると,参考文献(甲2)の段落【0005】に開示されてい
るように,引用発明のソフトウェアパッケージにインストールルーチンを添付して
おき,インストールルーチンの実行によりインストールを行うように構成すること
は,当業者が容易に想到し得たことである。
したがって,進歩性を否定した審決の判断に誤りはない。
第5当裁判所の判断
1本願発明について
(1)本願明細書(甲3)及び手続補正書(甲4)には,本願発明について,以
下の記載がある。
「【0001】
発明の分野
本発明はモバイルコンピューターシステムの技術分野に関する。特に,本発明は,
コンピューターシステムが作動している間,周辺装置が物理インタフェースに連結
され分断されることを可能にする,外部の物理インタフェースおよび堅牢なコンピ
ューターソフトウェアを有するコンピューターシステムを開示する。
【0002】
発明の背景
モバイルコンピューターシステムは,非常にポピュラーな形式のコンピューター
装置になった。モバイルコンピューターシステムは,アドレス帳,個人のカレンダ
ーおよび予定事項リストのような,大量の個人情報にユーザーがアクセスすること
を可能にする。・・・
【0003】
追加機能性を提供するために,モバイルコンピューターシステムの上に外部ハー
ドウェアインタフェースを含むことは,望ましい。手のひらサイズのコンピュータ
ーシステムのパーム(登録商標)シリーズは,外部周辺装置と通信するための外部
シリアルインタフェースを含んでいる。しかしながら,外部のシリアルインタフェ
ースは,限定的なコミュニケーション帯域幅と限定的なインタフェース仕様によっ
て制限されている。
【0004】
したがって,より高い帯域幅およびより多くの機能を満載した外部インタフェー
スを提供することが望ましいであろう。理想的には,外部インタフェースは,ユー
ザーが少しのトレーニングも必要としないように使用するために非常に簡単である
べきである。更に,外部インタフェースは,適切であるか否かに関係なく,任意の
タイプのユーザー行動を処理するように十分に堅牢であるべきである。
【0005】
発明の開示
本発明は,コンピューターシステムのために堅牢な外部インタフェースを導入す
る。外部インタフェースは,ユーザーがどのようなあらかじめ用意した手続きにも
慎重に従う必要はないように,ユーザーが外部インタフェースへの外部周辺装置を
いつでも挿入するか,または取り外すことを可能にする。外部インタフェースソフ
トウェアは,挿入または取り外しを検出し,適切なやり方で作用する。」
「【0010】
挿入/取り外し概要
モバイルコンピューターシステム100の操作を単純化するために,拡張インタ
フェース110は,操作することが簡単で非常に堅牢になるように設計されている。
具体的には,拡張インタフェース110は,ユーザーがいつでも周辺装置を挿入し
取り外すことを可能にするように設計されている。・・・
【0011】
周辺機器挿入の概要
図2は,モバイルコンピューターシステム100がどのように周辺の挿入を処理
するかの概要を示す。図2に示されるように,ステップ210において,周辺機器
は周辺機器の拡張インタフェースへ差し込まれる。割り込みハンドラーは,周辺機
器の拡張インタフェースへの周辺機器の挿入を識別し,次に,ステップ220にお
いて,イベントキュー上に周辺機器の挿入イベントをキューイングする。
【0012】
ステップ240において,イベントハンドラーは,周辺機器の挿入イベントを検
出し,周辺機器の挿入ルーチンを実行する。ステップ250において,周辺機器の
挿入ルーチンは,周辺機器上のメモリスペース内に指定のセットアップユーティリ
ィティを配置することを試みる。指定のセットアップユーティリィティが配置され
る場合,周辺機器の挿入ルーチンは,周辺機器メモリからモバイルコンピューター
システムのメインメモリに指定のセットアップユーティリィティをコピーする。そ
の後,周辺機器の挿入ルーチンは,ステップ255において,セットアップユーテ
ィリィティを実行する。
【0013】
セットアップユーティリィティ(1つあった場合)を実行した後,周辺機器の挿
入イベントハンドラールーチンは,ステップ260において,周辺機器上のメモリ
スペース内に指定の「ウェルカムアプリケーション」を配置することを試みる。指
定のウェルカムアプリケーションが配置される場合,周辺機器の挿入ルーチンは,
ステップ265において,ウェルカムアプリケーションを開始する。この時点では,
周辺機器は初期化され,また,挿入する周辺機器に関連したあらゆるデフォルトア
プリケーションもここでは実行している。したがって,周辺機器の挿入で,モバイ
ルコンピューターシステムは,挿入する周辺機器の使用のための準備をした。」
「【0026】
周辺機器挿入セットアップユーティリィティのインストール操作
図6に示されるように,周辺機器の特定のインストール操作をすべて行なうため
に,イベントハンドラーは周辺機器上でセットアップユーティリィティを使用する。
図7は,セットアップユーティリィティによって行なうことのできる操作のリスト
を提供している。読者は,すべてのセットアップユーティリィティ・アプリケーシ
ョンによって,図7のすべてステップを行なう必要があるとは限らないことに注意
するべきである。周辺機器の各セットアップユーティリィティは,操作のために,
インストールされた周辺機器を準備するのに必要な操作のみを行なう。更に,セッ
トアップユーティリィティは,図7にリストされない操作を行なってもよい。
【0027】
図7を参照して,ステップ705において,セットアップ・ユーティリティー・
プログラムが開始する。・・・
ステップ715において,セットアップユーティリィティは,周辺機器が操作に
必要とするメインメモリの量を割り付ける。メインメモリは周辺機器に関連した状
態変数を格納するために使用される。いくつかのシステムでは割り込みルーチン内
のメモリの割付けを許可しないため,メモリはセットアップユーティリィティによ
って割り当てられる。・・・」
「【0045】
モデム周辺機器
・・・モデム周辺機器が本発明の教示によって構築されたコンピューターシステム
の拡張インタフェースへ挿入される時,その挿入は割り込みを生成する。・・・
【0046】
イベントハンドラーは,図6に指定されるように,周辺機器の挿入イベントを処
理する。最初に,イベントハンドラーは,周辺機器のメモリスペースから周辺機器
の機器構成情報を読み込み,有効にする。・・・
次に,イベントハンドラーは,周辺機器のメモリスペースにあるセットアップユ
ーティリィティをメインメモリへコピーする。その後,イベントハンドラーは,セ
ットアップユーティリィティに必要なドライバーソフトをインストールさせるイン
ストール信号を備えたセットアップユーティリィティをコールする。
【0047】
その後,モデム周辺機器のセットアップユーティリィティは,アプリケーション
がモデム周辺機器を使用しアクセスすることを可能にするために必要なドライバー
ソフトをすべてインストールする。モデム周辺機器のセットアップユーティリィテ
ィは,モデムのための共有ライブラリおよびモデムのサービスのための割り込みハ
ンドラーをインストールする。・・・
【0048】
モデム周辺機器が取り外される時,別の割り込みが生成され,周辺機器取り外し
によって引き起こされた割り込みであると確認される。・・・その後,イベントハンド
ラーは,図9に指定されるように,周辺機器の取り外しイベントを処理する。・・・
周辺の取り外しイベントハンドラーは,次に,セットアップユーティリィティ内の
インストールルーチンによってインストールされたモデムドライバをすべて取り外
すために,セットアップユーティリィティの取り外しルーチンをコールする。最後
に,周辺機器の取り外しイベントハンドラーは,モバイルコンピューターシステム
のメインメモリからセットアップユーティリィティを取り外す。」
(2)以上の記載によれば,本願発明について,以下のとおり認められる。
本願発明は,モバイルコンピューターシステムの技術分野に関するもので,コン
ピューターシステムが作動している間,周辺装置が物理インタフェースに連結され
分断されることを可能にする,外部の物理インタフェース及び堅牢なコンピュータ
ーソフトウェアを有するコンピューターシステムを開示するものである(段落【0
001】)。モバイルコンピューターシステムに,より高い帯域幅及びより多くの機
能を満載した外部インタフェースを提供することが望まれるが,外部インタフェー
スは,ユーザーが少しのトレーニングも必要としないように使用するために非常に
簡単で,かつ,任意のタイプのユーザー行動を処理するように十分に堅牢であるべ
きである(段落【0004】)。そこで,本願発明は,ユーザーがいつでも外部イン
タフェースへ外部周辺装置を挿入又は取外しができるようにし,外部インタフェー
スソフトウェアは,上記の挿入又は取外しを検出し,適切なやり方で作用するよう
にしたものである(段落【0005】)。
これを実現するための詳細な実施例として,上記(1)のとおり,周辺機器が周辺機
器の拡張インタフェースへ差し込まれると,周辺機器の挿入イベントが検出され,
周辺機器の挿入ルーチンが実行されて,周辺機器上のメモリスペース内に指定のセ
ットアップユーティリィティが配置され,周辺機器メモリからモバイルコンピュー
ターシステムのメインメモリに指定のセットアップユーティリィティがコピーされ
た後,セットアップユーティリィティが実行されること(段落【0010】~【0
012】,【0045】,【0046】),セットアップユーティリィティは,アプリケ
ーションが周辺機器を使用しアクセスすることを可能にするために必要なドライバ
ソフトを,セットアップユーティリィティ内のインストールルーチンによって,す
べてインストールし(段落【0047】),モバイルコンピューターシステムは,挿
入する周辺機器の使用のための準備をすること(段落【0013】)が開示されてい
る。
なお,請求項1に記載された「セットアップアプリケーション」との用語は,本
願明細書の【発明の詳細な説明】において用いられておらず,請求項1に関する【発
明の詳細な説明】の記載をみれば,「セットアップアプリケーション」に対応するも
のとして,「セットアップユーティリティ」の用語が用いられていることから,本願
発明の「セットアップアプリケーション」は明細書における「セットアップユーテ
ィリティ」に対応するものと認められる。
2引用発明について
引用例(甲1)によれば,引用発明について,以下のとおり認められる。
引用発明は,情報処理装置に周辺装置や拡張ボード/カードなどを接続して機能
を拡張する場合に,その周辺装置等による拡張機能の性能を最大限に生かすことが
できるようにする情報処理装置の拡張機能増強方法に関するものである(段落【0
001】)。
従来,周辺装置あるいは機能拡張ボード/カードなどの拡張機能装置のハードウ
ェアを情報処理装置のシステムに組み込んで用いる場合に,拡張機能装置のハード
ウェアを制御するためのソフトウェアとして,それぞれに対応したデバイスドライ
バやアプリケーションのソフトウェアを,情報処理装置に,ユーザーが自ら適切な
ものの選択を判断してインストールすることが必要になるとの問題点(段落【00
21】,【0022】)があった。そこで,引用発明は,この点に鑑み,情報処理装置
に接続する拡張機能装置のドライバソフト等のソフトウェアを,ユーザー自身がイ
ンストールすることなく,単に接続するだけで情報処理装置と拡張機能装置との間
で通信して容易にインストールできる方法を提供し,その制御に必要な情報に関し
て,常に新しいバージョンの情報を,当該情報の格納先から判別してインストール
できるようにすることを目的とし(段落【0031】,【0032】),情報処理装置
に周辺装置が接続されると,前記情報処理装置において,前記周辺装置が何である
か検出するステップと,最新版の周辺装置用ソフトウェア情報(ドライバソフトや
アプリケーション等)を,格納元から読み込み,前記情報処理装置のメモリに格納
するステップと,前記格納するステップの後,前記最新版の周辺装置用ソフトウェ
ア情報を前記情報処理装置にインストールするステップとを有するとの構成をとっ
たものである(段落【0034】)。この発明によれば,拡張機能装置を情報処理装
置に接続するだけで,当該拡張機能装置用のソフトウェア情報が情報処理装置にイ
ンストールされ,ユーザーがインストールする必要はなくなる(段落【0046】)。
3取消事由1(本願発明と引用発明との対比の誤り)について
(1)本願発明の「セットアップアプリケーション」と引用発明の「最新版の周
辺装置用ソフトウエア」の対応関係について
ア原告は,本願発明の「セットアップアプリケーション」には周辺機器の
ハードウェアを駆動制御するためのドライバソフトは含まないのに対し,引用発明
の「最新版の周辺装置用ソフトウエア情報」はドライバソフトを含む点で異なるも
のであるのに,引用発明の「最新版の周辺装置用ソフトウエア情報(ドライバソフ
トやアプリケーション等)」が,本願発明の「セットアップアプリケーション」に相
当する旨認定したのは誤りであると主張する。
本願明細書の請求項1には,「セットアップアプリケーション」に関し,「前記周
辺機器上の第1のメモリスペースから前記コンピューターシステム内の第2のメモ
リスペースにセットアップアプリケーションをコピーするステップ」,及び「前記コ
ピーするステップの後,前記セットアップアプリケーション内のインストールルー
チンを実行するステップ」と記載されているのみであり,当該記載から,「セットア
ップアプリケーション」の内容について,「インストールルーチン」を含むこと以外
の特定はない。また,本願明細書において,「セットアップアプリケーション」内に
ドライバソフト等のソフトウェアを含まないとする旨の記載もない。
ところで,本願明細書には,前記1(2)のとおり,周辺機器が周辺機器の拡張イン
タフェースへ差し込まれると,周辺機器の挿入イベントが検出され,周辺機器の挿
入ルーチンが実行されて,周辺機器上のメモリスペース内に指定のセットアップユ
ーティリィティが配置され,周辺機器メモリからモバイルコンピューターシステム
のメインメモリに指定のセットアップユーティリィティがコピーされた後,セット
アップユーティリィティが実行されること,セットアップユーティリィティは,ア
プリケーションが周辺機器を使用しアクセスすることを可能にするために必要なド
ライバソフトを,セットアップユーティリィティ内のインストールルーチンによっ
て,すべてインストールし,モバイルコンピューターシステムは,挿入する周辺機
器の使用のための準備をすることが開示されている。また,周辺機器が取り外され
る時には,セットアップユーティリティの取外しルーチンが起動し,これが実行さ
れ,周辺機器用のドライバ及びその他のシステムソフトウェアを全て取り外し,セ
ットアップユーティリティを取り外すこと(段落【0033】~【0039】,【0
043】,【0048】)が記載されている。
そして,乙1(「PrintiaJETカラーインクジェットプリンタXJ-3
50取扱説明書」〈初版,富士通株式会社,1998年10月〉)に見られるよう
に,コンピューターシステムへの周辺機器の接続に伴い,当該周辺機器用のドライ
バソフトが記録された記録媒体がコンピューターシステムに挿入されると,コンピ
ューターシステムへの上記ドライバソフトのコピー及びインストールが自動的に行
われることは,本願の優先権主張日前,当該技術分野において普通に行われていた
ことであり,技術常識であったと認められる。そうすると,コンピューターシステ
ムへの周辺機器の着脱に伴い,インストール及びアンインストール(取外し)され
る周辺機器用のドライバソフトは,予めコンピューターシステムが保持している場
合に限定されず,セットアップユーティリティに含まれる場合もあることは,本願
明細書の上記の記載に接した当業者には自明であると認められる。
以上によれば,ドライバソフトが保持される場所について明示されていない本願
発明においては,「セットアップアプリケーション」に,周辺機器のハードウェアを
駆動制御するためのドライバソフトが含まれる場合があるものと認められる。
したがって,この点において,本願発明の「セットアップアプリケーション」と
引用発明の「最新版の周辺装置用ソフトウエア情報(ドライバソフトやアプリケー
ション等)」との間に相違はない。
なお,原告は,本願明細書には,周辺機器用のドライバを取り外した後に,セッ
トアップユーティリティを取り外すことが記載されているから(段落【0039】,
【0043】,【0048】),本願明細書のセットアップユーティリティ(セットア
ップアプリケーション)は,デバイスドライバを含んでいないと主張する。しかし
ながら,当該記載は,周辺機器の取外し時に,まず,周辺機器の駆動のためにイン
ストールされたデバイスドライバを取り外し,その後にセットアップユーティリテ
ィを取り外すことを示したものにすぎず,インストールされたデバイスドライバが,
元々,コンピューターシステムに保持されていたか,セットアップユーティリティ
内に格納されていたかとは関連性のない記載であるから,上記記載によりデバイス
ドライバの含まれていた場合を特定することはできず,上記主張は採用できない。
イまた,原告は,本願発明の「セットアップアプリケーション」は,イン
ストールルーチンを含むのに対し,引用発明の「最新版の周辺装置用ソフトウエア
情報」は,当該ソフトウェア情報をインストールするためのアプリケーションは含
まない点で異なることから,審決の認定には誤りがあると主張する。
確かに,セットアップアプリケーションのインストールに関して,本願発明が,
「セットアップアプリケーション内のインストールルーチンを実行する」ものであ
るのに対して,引用発明は,上記「ソフトウエア情報」内のインストールルーチン
を実行する旨の記載や同「ソフトウエア情報」内にインストーラを含むか否かにつ
いて明示はされていない。しかしながら,審決は,「本願発明が,『セットアップア
プリケーション内のインストールルーチンを実行する』ものであるのに対して,引
用発明は,インストールをどのように行うのか不明である点。」を,本願発明と引用
発明との相違点(相違点3)として正しく認定し,判断しているのであり,審決の
認定に相違点の看過があるとはいえず,この点が取消事由となるべきものとはいえ
ない。
ウさらに,原告は,本願発明の「セットアップアプリケーション」は,周
辺機器を操作できるようにするために,ドライバソフトなどの周辺機器ごとに個別
に提供されるプログラムの組み込みに加えて,周辺機器間で共通の処理として実施
される,メインメモリの割り付けといった汎用的な処理を含むものである点で,引
用発明の「ソフトウエア」とは異なる旨主張する。
本願明細書の請求項1には,「セットアップアプリケーション」が,周辺機器間で
共通の処理として実施される,メインメモリの割り付けといった汎用的な処理を含
むことについての特定はない。
また,前記1(1)によれば,図7は,セットアップユーティリィティによって行う
ことのできる操作のリストを提供しており,そこには,周辺機器が操作に必要とす
るメインメモリの量を割り付けるステップ(ステップ715)が記載されているが,
周辺機器の各セットアップユーティリィティは,操作のために,インストールされ
た周辺機器を準備するのに必要な操作のみを行えばよく,図7のすべてのステップ
を行う必要があるとは限らない(段落【0026】,【0027】)ことも開示されて
いる。そうすると,本願明細書における「メインメモリの量を割り付けるステップ
(ステップ715)」は任意に行われるステップであって,これに関する記載を理由
に,本願発明の「セットアップアプリケーション」が,周辺機器間で共通の処理と
して実施される,メインメモリの割り付けといった汎用的な処理を常に行うものと
認めることはできない。
さらに,情報処理装置において,周辺機器へのハードウェア資源(リソース)の
割り付けといった汎用的な処理が,オペレーティングシステムにより行われること
は,当該技術分野の技術常識であり,この点に照らせば,本願明細書に,セットア
ップユーティリィティによって行うことのできる操作として,「メインメモリの量を
割り付けるステップ(ステップ715)」が記載されていても,セットアップアプリ
ケーションが常にオペレーティングシステムを経由しないで当該周辺機器のための
メインメモリの割り付けという汎用的処理を行うものと解するのは困難であり,上
記ステップによる処理は,実質的には,オペレーティングシステムを備えた情報処
理装置が担っていると解するのが相当と認められる。そうすると,原告が主張する
ように,本願発明において,メインメモリの割り付けという汎用的な処理を情報処
理装置ではなく常にセットアップユーティリィティが担っていると解することはで
きない。
以上によれば,本願発明の「セットアップアプリケーション」は,周辺機器間で
共通の処理として実施される,メインメモリの割り付けといった汎用的な処理を含
むものとはいえないから,本願発明の「セットアップアプリケーション」と,引用
発明の「最新版の周辺装置用ソフトウエア情報(ドライバソフトやアプリケーショ
ン等)」との間に,原告が主張する相違があるとは認められない。
(2)本願発明の「堅牢なコンピューター拡張を提供する方法」と引用発明の「情
報処理装置の拡張機能増強方法」との対応関係について
原告は,本願発明の「堅牢なコンピューター拡張」とは,コンピューターシステ
ムにインストール用プログラムが予め用意されていない場合でも,「コンピューター
拡張」のための周辺機器が挿入されたときにはいつでも,周辺機器に格納されてい
るセットアップアプリケーションをコンピューターシステムが用いて,周辺機器を
動作させるための(コンピューターシステムが保持している)デバイスドライバな
どのソフトウェアを自動かつ確実にインストールできるようにしたことを意味する
と解されることから,引用発明の「情報処理装置の拡張機能増強方法」は,本願発
明の「堅牢なコンピューター拡張を提供する方法」に相当するとはいえない,また,
本願発明の「セットアップアプリケーション」は,メインメモリの割り付けといっ
た汎用的な処理を含む点で,引用発明の「情報処理装置の拡張機能増強方法」より
も「堅牢」であると主張する。
しかし,原告の上記主張は,その前提である,本願発明の「セットアップアプリ
ケーション」にはデバイスドライバが含まれないものと限定して捉えている点,及
び「セットアップアプリケーション」がメインメモリの割り付けといった汎用的な
処理を含むものとしている点において,前記に認定説示したとおり,誤っている。
本願発明における「堅牢なコンピューター拡張を提供する」とは,前記1(1)に摘
示した,本願明細書の段落【0004】,【0005】,【0010】の記載に照らす
と,ユーザーが少しのトレーニングも必要とせずに使用できる,非常に簡単な外部
インタフェースを備え,ユーザーが,いつでも,外部インタフェースへ周辺装置を
挿入することで,周辺機器の挿入を検出して,適切に作用するためのインストール
が自動的に行われることを可能にしたものと解するのが相当である。
他方,引用発明は,情報処理装置の拡張機能増強方法に関する発明であって,前
記2のとおり,情報処理装置に周辺装置が接続されると,前記情報処理装置におい
て,前記周辺装置が何であるか検出するステップと,最新版の周辺装置用ソフトウ
ェア情報(ドライバソフトやアプリケーション等)を,格納元から読み込み,前記
情報処理装置のメモリに格納するステップと,前記格納するステップの後,前記最
新版の周辺装置用ソフトウェア情報を前記情報処理装置にインストールするステッ
プとを有し,当該構成により,情報処理装置に接続する拡張機能装置のドライバソ
フト等のソフトウェアを,ユーザー自身がインストールすることなく,単に接続す
るだけで情報処理装置と拡張機能装置との間で通信して容易にインストールできる
方法を提供するとの目的を達成したものと認められる。
そうすると,引用発明は,ユーザーが情報処理装置に拡張機能装置を単に接続す
るだけで,上記拡張機能装置のドライバソフト等のソフトウェアが,情報処理装置
と拡張機能装置との間で通信してインストールされ,上記拡張機能装置が使用可能
になるものといえるから,引用発明において,情報処理装置は,ユーザーが少しの
トレーニングも必要とせずに使用できる,非常に簡単な外部インタフェースを備え,
ユーザーは,いつでも,外部インタフェースへ周辺装置を挿入するだけで適切に作
用させることが可能と認められ,本願発明と同様の「堅牢なコンピューター拡張を
提供する」ものと認められる。
以上から,審決が,引用発明の「情報処理装置の拡張機能増強方法」は,本願発
明の「堅牢なコンピューター拡張を提供する方法」に相当すると認定した点に誤り
があるとはいえない。
(3)以上によれば,審決の行った対比判断に誤りがあるということはできない
から,これを前提とする原告の主張はいずれも理由がない。したがって,取消事由
1に理由はない。
4取消事由2(相違点3に関する容易想到性判断の誤り)について
(1)審決は,アプリケーションパッケージ内にインストーラと呼ばれるインス
トール作業用のプログラムを添付しておき,当該インストーラを用いてインストー
ルを実行する技術は周知技術であり,引用発明におけるインストールにおいても,
当該周知技術を採用し,周辺装置用ソフトウェア情報内にインストーラを添付して
おき,当該インストーラを実行することで,周辺装置用ソフトウェア情報をインス
トールするように構成すること,すなわち,相違点3に係る構成とすることは,当
業者が容易に想到し得たことであると判断した。
ア参考文献(甲2)には,以下の記載がある。
「【0002】
【従来の技術】パーソナルコンピュータ等のコンピュータシステムのOS(オペレ
ーティングシステム)は,アプリケーション等のプログラムの動作に必要な実行環
境についての情報が登録された実行環境データベースを有している。この実行環境
データベースには,例えば,アプリケーションのファイル名,アプリケーションが
インストールされたディレクトリ名,アプリケーションが使用するデータファイル
の拡張子,アプリケーションと拡張子の割当てなど,様々な情報が設定される。・・・
・・・
【0005】実行環境データベースへの実行環境情報の登録は,アプリケーション
のインストール時に行われるのが一般的である。近年,アプリケーションの大規模
化・複雑化に伴い,アプリケーションのインストールを人手で行うことは困難とな
っているため,アプリケーションのパッケージには,インストーラと呼ばれるイン
ストール作業用のプログラムが添付されるのが一般的である。これに伴い,アプリ
ケーションの実行環境情報の実行環境データベースへの登録も,インストーラによ
り行われることが一般的である。」
イ上記の記載及び弁論の全趣旨によれば,アプリケーションパッケージ内
にインストーラと呼ばれるインストール作業用のプログラムを添付しておき,当該
インストーラを用いてインストールを実行することは,周知の技術であると認めら
れる。
また,引用発明は,情報処理装置に接続する拡張機能装置のドライバソフト等の
ソフトウェア情報を,ユーザー自身がインストールすることなく,単に接続するだ
けで情報処理装置と拡張機能装置との間で通信して容易にインストールできる方法
を提供し,その制御に必要な情報に関して,常に新しいバージョンの情報を,当該
情報の格納先から判別してインストールできるようにすることを目的としたもので
ある。
そうすると,引用発明において,単に接続するだけで情報処理装置と拡張機能装
置との間で通信して容易にインストールできるようにすべく,上記の周知技術を適
用して,周辺装置用ソフトウェア情報内にインストーラ(本願発明の「インストー
ルルーチン」に相当)を予め添付し,当該インストーラを実行することで,周辺装
置用ソフトウェア情報をインストールするようにして,相違点3に係る構成とする
ことは,当業者が容易に想到し得たものと認められる。
そして,引用発明に上記周知技術を適用したものと,本願発明との間に,作用効
果の点で格別の相違が生じるとは認められない。
以上から,引用発明において,周知技術を適用して相違点3に係る構成とするこ
とを当業者が容易に想到し得たものであるとした審決の判断に誤りはない。
(2)これに対し,原告は,本願発明の「セットアップアプリケーション」にド
ライバソフトが含まれないことを前提として,引用発明において,インストーラが
添付された「周辺装置用ソフトウエア情報」から当該ソフトウェア情報を殊更に除
いたもの(本願発明のセットアップアプリケーションに相当)のみを外部の格納元
に格納するようにすることを,当業者に想起させるような動機付けとなるものはな
い旨主張する。しかし,その主張が前提において誤っていることは,前記のとおり
である。
また,原告は,引用発明において,リソースの割当て等の汎用的な処理を含むプ
ログラムをソフトウェア情報に含めることはそもそも想定されておらず,参考文献
(甲2)にはこの点が含まれていないから,引用発明に周知技術1を適用しても,
本願発明に相当しないと主張するが,この点についても,前記のとおり,その主張
は,前提において誤っており,採用できない。
(3)以上により,審決における相違点3に係る容易想到性の判断に誤りはなく,
原告の取消事由2には理由がない。
第6結論
以上によれば,原告主張の取消事由はすべて理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
清水節
裁判官
中村恭
裁判官
中武由紀

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