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平成27年12月18日判決言渡
平成27年(行ウ)第28号印紙税過怠税賦課決定処分取消請求事件
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1高崎税務署長が平成25年7月5日付けでした原告の平成21年1
2月から平成24年3月までに作成された別表1記載の各文書に係る
印紙税の過怠税の賦課決定処分を取り消す。
2高崎税務署長が平成25年7月5日付けでした原告の平成24年4
月から同年11月までに作成された別表2記載の各文書に係る印紙税
の過怠税の賦課決定処分を取り消す。
第2事案の概要
1事案の要旨
本件は,原告が,高崎税務署長(行政処分庁)から,原告の作成す
る「お客様返金伝票」と題する伝票綴りが印紙税法に規定する課税文
書である「判取帳」(同法別表第一課税物件表の20号)に該当する
として印紙税の過怠税の各賦課決定処分を受けたことにつき,当該伝
票綴りは「判取帳」に該当しないとして,被告に対し,当該各賦課決
定処分の取消しをそれぞれ求めた事案である。
2印紙税法の定め
(1)印紙税法(平成25年法律第5号による改正前のもの。特に断ら
ない限り,以下同じ。)は,印紙税の課税物件,納税義務者,課税
標準,税率,納付及び申告の手続その他印紙税の納税義務の履行に
ついて必要な事項を定めている(1条)。
そして,印紙税法は,同法別表第一課税物件表(以下,単に「別
表第一」又は「課税物件表」ともいう。)の「課税物件」欄に掲げ
る文書(ただし,課税物件表の「非課税物件」欄に掲げる文書その
他の同法5条各号に掲げる文書は除く。以下「課税文書」という。)
には印紙税を課するとし(2条,5条),その課税文書の作成者に
印紙税を納める義務があるとしている(3条1項)。
また,印紙税の課税標準及び税率は,別表第一の各号の課税文書
の区分に応じ,同表の「課税標準及び税率」欄に定められている(7
条)。
(2)別表第一のうち,本件に関連する17号及び20号は,別紙記載
のとおりである。
なお,別表第一は,課税物件表の適用に関する通則(以下「別表
通則」という。)として,同表における文書の所属の決定は同表の
各号の規定によるものとし(同通則1),また,当該各号の規定に
より所属を決定することができないときの定め等を置いている。
(3)課税文書の作成者は,印紙税法9条から12条までの規定の適用
を受ける場合を除き,当該課税文書に課されるべき印紙税に相当す
る金額の印紙を,当該課税文書の作成の時までに,当該課税文書に
はり付ける方法により,印紙税を納付しなければならないとされて
いる(8条1項)。
3前提事実(当事者間に争いがない事実か,文中記載の証拠及び弁論
の全趣旨により容易に認定することができる事実)
(1)原告(甲1の1~1の3)
原告(昭和47年10月30日設立,本店所在地は群馬県高崎市)
は,製材・木材,建築用金物・工具,文具,インテリア用品,エク
ステリア用品等の販売等を目的として設立された株式会社である。
原告は,株式会社P1との間のフランチャイズ店舗契約に基づき,
P2FCP3店,P2FCP4店及びP2FCP5店(以下「本件
各店舗」という。)において,日用雑貨,インテリア用品等の販売
を行っている。
(2)本件伝票綴りの使用等(甲2の1~2の101,3,27,28,
弁論の全趣旨)
ア原告は,本件各店舗において,顧客から商品の返品,交換ある
いは売価が異なるなどの申出を受けた場合には,その処理のために,
表紙に「お客様返金伝票」と印字された伝票綴り(以下「本件伝票
綴り」という。)を使用して,顧客に対応していた。
イ本件伝票綴りは,冊子形態のものであり,3枚一組の複写式の
伝票が100組綴られている。この一組3枚の伝票は,「金額」欄
や「ご返金受領サイン」欄等のある一枚目の「お客様返金伝票(売
場控)」に記入をし(以下,記入済みの同伝票を「本件各伝票」と
もいう。),二枚目の「お客様返金伝票(事務所控)」及び三枚目
の「お客様返金伝票(商品貼付用)」がその複写となっている。お
客様返金伝票(事務所控)及びお客様返金伝票(商品貼付用)には,
本件伝票綴りから分離するための切取り線があるが,一枚目のお客
様返金伝票(売場控)にはそのような切取り線はない。また,これ
ら3枚一組の伝票の右上にはそれぞれ同一の伝票番号が印字され
ており,3枚一組の各組の伝票番号は連続した番号(本件伝票綴り
1冊ごとに100番の連続番号)となっている。
本件伝票綴りの使用方法等については,「返品・商品交換の受
付」と題する書面(甲3。以下「本件マニュアル」という。)に記
載されている。
ウ原告は,本件伝票綴りから,記入済みとなった「お客様返金伝
票(事務所控)」及び「お客様返金伝票(商品貼付用)」を切り取
り,「お客様返金伝票(売場控)」(本件各伝票)が残った伝票綴
り270冊(別表1及び2記載のもの。以下「本件各文書」という。)
を保存している(ただし,本件各文書には,上記の切取りがされず
に残っているものも存在する。)。
エ原告は,本件各文書に収入印紙を貼り付けておらず,また,印
紙税法9条から12条に規定する収入印紙を貼る以外の納付方法
による印紙税の納付もされていなかった。
(3)本件賦課決定処分等
ア高崎税務署長は,原告に対し,平成25年7月5日付けで,①
最初の付込み日が平成21年12月から平成24年3月までであ
る別表1記載の本件各文書207冊及び②最初の付込み日が平成
24年4月から同年11月までである別表2記載の本件各文書6
3冊につき,いずれも印紙税が納付されていないとして,印紙税の
過怠税(上記①につき,不納付税額82万8000円,過怠税額2
48万4000円,上記②につき,不納付税額25万2000円,
過怠税額75万6000円。なお,過怠税の税額の定めにつき,印
紙税法20条1項参照)の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定
処分」という。)をした(甲4の1,4の2)。
イ原告は,平成25年8月29日付けで,高崎税務署長に対し,
本件各賦課決定処分について異議申立てをしたが,同署長は,同年
10月28日付けで,同異議申立てを棄却する旨の決定をした(甲
5)。
また,原告は,同年11月25日付けで,国税不服審判所長に対
し,本件各賦課決定処分について審査請求をしたが,同所長は,平
成26年10月28日付けで,同審査請求を棄却する旨の裁決をし
た(甲6)。
ウ原告は,平成27年1月23日,本件訴訟を提起した。
第3争点及び争点に関する当事者の主張
本件の主な争点は,本件各文書が「判取帳」(印紙税法別表第一の
20号)に該当するか否かであり,具体的には次の①ないし④の点が
争われている。
①本件各文書がそれぞれ「一の文書」に当たるか(争点1)。
②本件各文書が「第十七号に掲げる文書により証されるべき事項に
つき二以上の相手方から付込証明を受ける目的をもって作成」(別
表第一の20号)されたものといえるか否か(争点2)。
③本件各文書が「帳簿」(別表第一の20号)に当たるか否か(争
点3)。
④本件各文書を「判取帳」として課税することの不合理性の有無(本
件各文書の背後には担税力を見出すことはできず「判取帳」に該当
しないとすることができるかなど)(争点4)。
1争点1(本件各文書がそれぞれ「一の文書」に当たるか)
(被告の主張の要旨)
(1)印紙税の課税の単位(一の文書の意義)について
ア取引上作成される文書の中には,例えば,土地の売買契約書,
家屋の建築請負契約書,販売代金の受取書のように単一の事項のみ
を記載した文書と,土地売買及び家屋建築請負契約書,家屋及び家
具売買契約書のように一の文書に法律的に二以上の事項を記載し
た文書とがある。
この場合,どのように課税物件表における文書の所属を決定する
かについては,印紙税法は別表通則1ないし3において定めており,
①「一の文書」に単一の課税事項のみ記載したものは,記載された
事項の文書として課税され,②「一の文書」に課税物件表の二以上
の号の課税事項が記載されている場合であれば,そのうちの一つの
事項の文書として課税される旨規定している。
このように,印紙税は,「一の文書」であれば,その内容に課税
物件表の二以上の号の課税事項が記載されている場合であっても,
そのうちの一つの事項の文書として課税されることになっている
から,課税物件表のいずれの号に所属するかの決定に当たっては,
「一の文書」の範囲を確定させることが必要となる。
印紙税法基本通達(昭和52年4月7日付け間消1-36ほか3
課共同による国税庁長官通達。以下同じ。乙1)8条は,課税の単
位が一の文書ごとになることを明らかにしている。
イここで,「一の文書」の判断基準については,文書の外形すな
わち物理的な形状により判断するという考え方と,記載証明の形態
により判断するという考え方の二つが考えられるが,別表通則2及
び3の規定からは,文書の物理的な形状によって判断すべきものと
考えられる。
このような考え方のもと,印紙税法基本通達5条(乙1)は,印
紙税法に規定する「一の文書」とは,その形態からみて1個の文書
と認められるものをいい,文書の記載証明の形式,紙数の単複は問
わないこと,1枚の用紙に2以上の課税事項が各別に記載証明され
ているもの,又は2枚以上の用紙が契印等によって結合されている
ものは,「一の文書」となることを明確にしている。ただし,この
ような文書であっても,文書の形態,内容等から当該文書を作成し
た後切り離して行使又は保存することを予定していることが明ら
かなものについては,それぞれ各別の「一の文書」となると解され
ている。
(2)本件各文書はそれぞれ「一の文書」に該当すること
ア本件伝票綴りは,100組の返金伝票が一体として綴られたも
のである。
そして,お客様返金伝票(事務所控)及びお客様返金伝票(商品
貼付用)が切取り線に沿って切り離すことができる状態になってい
る一方で,「お客様返金伝票(売場控)」には切取り線がなく,お
客様返金伝票(事務所控)及びお客様返金伝票(商品貼付用)を使
用しても,お客様返金伝票(売場控)のみが本件伝票綴りに綴られ
ていく仕組みになっており,実際,本件各伝票(お客様返金伝票(売
場控))は,連番となった伝票番号が印字された上,本件各文書に
1冊に綴られた状態で保管されていた。そうすると,本件伝票綴り
を使用して作成された本件各伝票が綴られた本件各文書は,その形
態から見て,「一の文書」であるといえる。
また,本件マニュアルによれば,お客様返金伝票(売場控)には,
顧客が返金を受け,その代金を受領した事実等一定の事項が記録さ
れることとなっており,実際にも本件各伝票には返金を受けた顧客
の署名がされている。そうすると,本件各伝票は,原告が商品を販
売する一連の事業の過程で顧客に対する返金等が発生した場合に,
その事実を記録として集積して保存しているものであり,本件伝票
綴りから切り離して行使することや保存されることが予定されて
いたものではない。
イしたがって,お客様返金伝票(売場控)が綴られている本件各
文書1冊1冊がそれぞれ「一の文書」に該当し,印紙税の課税の単
位になるというべきである。
(原告の主張の要旨)
(1)一の文書の概念について
ア印紙税法では,「一通の証書」と「一冊の帳簿」を総称して「一
の文書」という概念を使用しており(甲11,22参照),別表通
則2及び3の「一の文書」は「一通の証書又は一冊の帳簿」と同義
である。
そして,課税物件表20号の「判取帳」の定義によれば,本件
各文書が判取帳に該当するか否かを判断するに当たっても,まずは
同文書が「帳簿」に該当するか(又は「証書」に該当するか)を問
題にするべきであり,いきなり課税物件表20号に規定されていな
い「一の文書」の意義を問題にする被告の主張は,文理解釈の原則
に反し,誤っている。
イまた,別表通則2及び3は,「一の文書」に二以上の事項が記
載されている場合に当該文書がどの号に該当するかを定める規定
であり,本件各文書のように,仮に課税文書に該当するとしても,
課税物件表17号に掲げる文書により証されるべき事項のみが記
載されている,すなわち「一の事項」が記載されていると評価され
る余地があるにすぎない文書については,別表通則2及び3の適用
が問題になる余地はない。仮に当該文書が「証書」あるいは「帳簿」
に該当し,課税物件表1号ないし20号のいずれかの課税文書に該
当するとされた場合で,当該文書に「二以上の号の課税事項」が記
載されている場合にはじめて「一の文書」すなわち「一通の証書」
又は「一冊の帳簿」の範囲を確定させることが必要となる余地があ
るにすぎないのである。
この場合,たしかに,印紙税法における「証書」と「帳簿」の区
別は,紙数の単複によるものではないから(印紙税法基本通達6条
の解説参照),「一通の証書」又は「一冊の帳簿」の範囲を確定さ
せることが必要となる場合がある。それが当該文書に「二以上の号
の課税事項が記載されている場合」である。
しかし,ある文書が「証書」あるいは「帳簿」に該当した場合で,
当該証書又は帳簿の「一通」又は「一冊」の範囲の確定に困難を生
ずることは,実際にはほとんどないと思われる。なぜなら,課税物
件表は,印紙税の課税文書を1号ないし20号として物件名,定義
等を明確に規定しており,その範囲は紙数の単複によるのではなく,
その記載内容により画され,判断することができるからである。
したがって,本件各文書が判取帳に該当するか否かを判断するに
当たり,課税物件表20号に何ら規定されていない「一の文書」な
る概念を持ち出し,また,「証書」又は「帳簿」に該当するか否か
の判断に先行させて,本件各文書が「その形態からみて一の文書で
ある」などとしている被告の主張は誤っている。
ウ仮に被告が主張するように,「一の文書」を文書の物理的な形
状によって判断すべきとすると,本件各文書のようないわゆる冊子
形態で作成されているものは,ほとんどが「帳簿」に該当すること
になり,「証書」に該当する場合はほとんどなくなってしまう。し
かし,印紙税法上の証書と帳簿の区別は,紙数の単複によるのでは
なく,上記のような結論は,印紙税法が予定しているところではな
く,また,印紙税法基本通達6条が証書と帳簿の区別を規定してい
る趣旨にも反している。
さらに,印紙税法基本通達7条は,証書と通帳等(通帳及び帳簿。
以下同じ。)が一の文書となっている,いわゆる「証書兼用通帳」
の取扱いについて定めているところ,被告が主張するように,「一
の文書」の範囲を文書の物理的な形状によって判断すると,「証書
兼用通帳」のほとんどが通帳等に該当してしまうのではないかと思
われ,このような不合理な結論を招来する被告の主張は誤っている。
(2)本件各文書は「一の文書」に該当しないこと
仮に被告の主張のように,本件各文書の「一の文書」該当性の判
断を「証書」又は「帳簿」該当性の判断に先行させるとしても,本
件各文書は「一の文書」には該当しない。
ア印紙税法基本通達5条(乙1)は,印紙税法に規定する「一の
文書」とは,その形態からみて1個の文書と認められるものをいい,
文書の記載内容の証明の形式,紙数の単複は問わず,したがって,
1枚の用紙に2以上の課税事項が各別に記載証明されているもの
又は2枚以上の用紙が契印等により結合されているものは,「一の
文書」となると規定している。
しかしながら,そのような文書であっても,その文書に記載証明
されている部分がそれぞれ独立しており,たまたまとじ合わせてい
るにすぎないと認められるものまで「一の文書」となるわけではな
いとされており(同条の解説の「質疑応答」参照),それらが契印
で結合されている場合,あるいは袋とじされた文書の契約日が同一
であること,契約書及び覚書等に署名,押印等をした契約名義人が
同一であること並びに文書を作成した後にそれぞれの文書を切り
離して行使又は保存することを予定していないものであることの
いずれにも該当するなどの付加的な事情があってはじめて,物理的
な形状から,当該文書が「一の文書」に該当するのである。
本件伝票綴りのお客様返金伝票(売場控)には切取り線はなく,
同伝票のみが本件伝票綴りに綴られていく仕組みとなっているが,
同伝票が契印等で結合されているわけではなく,また,同一の契約
日において作成されることが予定されているものでもなく,上記の
要件を満たさず,本件各文書を「一の文書」と認めることはできな
い。
また,たしかに,お客様返金伝票(売場控)には,連番となった
伝票番号が印字されているが,これらの番号が重要な意味を持つわ
けではなく,形式的に付されているにすぎず,かかる事実が本件各
文書を「一の文書」と認めるための根拠にはなり得ない。
本件各文書は,まさに,お客様返金伝票(売場控)に各別に記載
証明されている部分がそれぞれ独立しており,たまたまとじ合わせ
ているにすぎないと認められるものであり,「一の文書」に該当し
ない。
イ原告は,本件各賦課決定処分を受けた後,本件伝票綴りの形態
を変更し,お客様返金伝票(売場控)が互いに結合されてない形態
のものを使用しており,このようなものは「判取帳」に該当すると
は思われないところ,このような形態のものと単に「切取り線がな
い」という違いのみによって,判取帳に該当するかどうかの結論が
変わるというのは,実質的に考えても不合理である。
2争点2(本件各文書が「第十七号に掲げる文書により証されるべき
事項につき二以上の相手方から付込証明を受ける目的をもって作成」
されたものといえるか否か)について
(被告の主張の要旨)
(1)本件各文書が課税物件表17号に掲げる文書により証されるべき
事項につき付込証明を受ける目的をもって作成されたものであるこ
と。
ア課税物件表17号が課税物件として掲げている「金銭又は有価
証券の受取書」とは,金銭又は有価証券の引渡しを受けた者が,そ
の受領事実を証明するために作成し,その引渡者に交付する単なる
証拠証書をいうと解されており,「第十七号に掲げる文書により証
されるべき事項」とは,金銭又は有価証券の受領事実である。
イ印紙税法上,課税文書とは,印紙税が課される文書であり(同
法3条1項),具体的には課税物件表1号から20号のいずれかに
該当する文書をいうところ,定型化されていない文書については,
課税物件表に掲げられた文書の名称と現実に作成される文書の名
称とが必ずしも一致しないことから,「課税物件表に掲げられた文
書」というだけではその範囲が明らかとはいえない。
そこで,課税文書の範囲をより明確にするため,印紙税法基本
通達2条(乙1)は,課税文書とは,課税物件表の課税物件欄に掲
げる文書により証されるべき事項(以下「課税事項」という。)が
記載され,かつ,当事者の間において課税事項を証明する目的で作
成された文書のうち,印紙税法5条(非課税文書)の規定により印
紙税を課さないこととされる文書以外の文書をいうことを明らか
にしている。
そして,課税事項を証明する目的で作成された文書であるかど
うかの判断は,作成者の恣意的・主観的な判断で行うものではなく,
文書の形式,内容等を取引社会の一般通念に照らして客観的に判断
することになると解される(印紙税法基本通達2条の解説(乙1)
参照)。
ウ本件において原告は,本件各店舗において,顧客からの返品・
商品交換の申出に応じる際の手順等を定めた本件マニュアルを使
用し,本件伝票綴りを用いて返品等受付事務を処理することとして
いた。
本件マニュアルによれば,返品・商品交換の申出に対応する原
告の担当者は,お客様返金伝票(売場控)に「受付日」,「お買上
日」,「返品商品の金額」及び「返品理由」を記入し,現金を顧客
に渡した上で,返品理由が「3.その他」の場合には顧客に対し「ご
返金受領サイン」欄に署名を求めることとされていた。そして,実
際に,返品理由が「3.その他」に該当する場合には,おおむね「ご
返金受領サイン」欄に顧客の署名が記載されている。
このような本件伝票綴りの作成経緯及び記載内容を客観的にみ
れば,原告には,「3.その他」の理由で返金を行う場合において,
顧客から返品伝票(売場控)に署名を受けることによって,顧客が
返金を受けたこと,すなわち返品した品物の代金額に相当する金銭
を受領したことについて付込証明を受ける目的があったと認めら
れる。また,返金を受ける顧客からみても,返金された現金を受け
取り,「ご返金受領サイン」欄に自ら署名をするのであるから,返
品した代金相当額の金銭を受領したことを明らかにする趣旨で署
名を行ったと認められる。
したがって,このような本件各伝票(お客様返金伝票(売場控))
を綴った本件各文書は,金銭の受領事実につき付込証明を受ける目
的をもって作成されたもの,すなわち,課税物件表17号に掲げる
文書により証されるべき事項につき付込証明を受ける目的をもっ
て作成されたものであると認められ,このように解することは,取
引社会の一般通念に照らしても相当ということができる。
(2)本件各文書は二以上の相手方から付込証明を受ける目的をもって
作成されたものであること
ア原告は,多数の顧客が来店する本件各店舗において,本件伝票
綴りを使用して返品等受付事務を処理していたものであるところ,
顧客から返品希望を受ける都度,返金伝票を起票することとされて
いたのであるから,複数の顧客から証明を受けることを予定してい
るものであり,特定の顧客一人に対して1冊の本件伝票綴りを使用
することを予定しているものとはいえない。
実際に作成された本件各伝票をみると,「ご返金受領サイン」
欄に記載された署名に係る氏名及び筆跡は,それぞれ異なっており,
複数の顧客に対する返金について使用したことは明らかである。
イ原告が指摘する「集金票」は,金融機関の外務員が得意先から
預金等の払戻しのために現金,預金通帳等を預かった場合にその事
実を複写により記入し,領収証を切り取って顧客に交付し,集金授
受控を金融機関の控えとして保存しているもので,そもそも外務員
がその得意先から,現金,預金通帳等を受領した事実を個々に記
録・整理することを目的として作成されるものである。
そうしたところ,まれにではあるが,外務員が得意先から預金
の払戻しの依頼を受けて払戻金を渡すことがあることから,そうい
った場合にも使用できるように集金授受控の下部に「お届物件」欄
等が設けられているのである。すなわち,集金票においては,外務
員がたまたま預金の払戻しの依頼を受けた場合に,相手方から金銭
授受の付込証明を受ける場合があるにすぎないものであるから,集
金票が金銭の受領事実につき付込証明を受ける目的をもって作成
されたものと評価することはできない。
他方,本件各伝票は,原告の担当者が返品等受付事務を行う際
に使用される「お客様返金伝票」と題する文書であって,金銭の受
領事実につき付込証明を受ける目的をもって作成されたものと認
められることは,上記(1)のとおりであり,上記の集金票と同様に
考えることはできない。
ウ以上によれば,原告は,二以上の相手方から,返金等があった
ことなどについて付込証明を受ける目的で,本件各文書を作成した
ものであると認められる。
(3)原告の主張に対する反論
原告は,本件各伝票の作成につき,①顧客の署名を受けた場合
であっても当該顧客を特定することはできず,そもそも本件各伝票
は支払者の二重払いの防止という目的のために作成されたものでは
ないこと,②顧客に代金を返還する全ての場合に顧客の署名を要
求していたわけではなく,また,顧客に代金を返還しない場合(交
換の場合)でも顧客の署名を要求することがあったのであり,顧客
に対する代金の返還と顧客に対する署名の要求は連動していないこ
と,③原告は,不正返品・請求の防止等,専ら内部的な事務処理
目的で本件各伝票を作成していたにすぎないことことから,本件各
文書は,課税物件表17号の2の文書の課税事項(金銭等の受領)
につき「二以上の相手方から付込証明を受ける目的」で作成された
ものではないと主張する。
ア上記①の主張について
お客様返金伝票(売場控)には「ご返金受領サイン」欄が設け
られ,本件マニュアル上,返金した顧客に対して当該欄に署名を求
めることとされ,実際に署名を受けていることを客観的に判断すれ
ば,少なくとも顧客の都合による場合の返金については,当該顧客
に対し,金銭の受領の証明を求める目的で行ったとみるほかない。
実際に記載された署名から,現実の顧客の特定をすることができ
ないとしても,それは単に本件各文書の精度が低いことを示すもの
にすぎず,そのことによって上記(1)で述べた目的が否定されるこ
とにはならないというべきであり,原告の上記①の主張は理由がな
い。
イ上記②の主張について
課税物件表20号が金銭の受領事実について二以上の相手方か
ら付込証明を受ける目的で作成された帳簿を「判取帳」として定め
ていることからすると,原告が本件各文書を作成するに際し,金銭
の受領があった全ての場合ではなくとも,金銭の受領事実について
返金伝票を用いて付込証明を受ける目的が認められる限り,本件伝
票綴りは金銭の受領事実について付込証明を受ける目的で作成さ
れたというべきである。
原告は,本件伝票綴りを用いて返品等受付事務を行う際,その返
品理由が「3.その他」の場合には顧客からお客様返金伝票(売場
控)に署名を受けることとしており,実際に,返金を受けた多数の
顧客が同伝票に署名している以上,本件伝票綴りを用いて作成され
た本件各文書は,金銭の受領事実について付込証明を受ける目的で
作成されたというほかない。
原告の上記②の主張は,本件各伝票の一部に返金があったことの
付込証明を受ける目的で作成されなかったものが含まれていると
いうことを示すにすぎず,理由がない。
なお,本件マニュアル(甲3)によれば,違う商品に交換する
場合においても返金伝票を起票することとされているところ,この
場合には「同額の商品であってもJANコードが違う場合,一度商
品代金を返金して,改めて新しい商品をお買上げ頂きます。」とさ
れており,交換の場合においても金銭の授受を行うこととされてい
るのであるから,本件各伝票には金銭受領の事実がないにもかかわ
らず署名されている伝票が含まれるとの原告の主張は理由がない。
ウ上記③の主張について
文書を作成する目的は必ずしも一つに限られるものではなく,
たとえ原告が内部的な事務処理目的で本件各文書を作成していた
としても,そのことは同時に,返金があったことの付込証明を受け
る目的があったことを否定する事情には当たらない。
したがって,原告の上記③の主張は理由がない。
(原告の主張の要旨)
(1)本件各文書は金銭受領の証明目的を有する伝票とはいえないこと
ア本件各伝票の中に含まれる「3.その他」の理由で返金を行う
場合で,「ご返金受領サイン」欄に顧客から署名を受けている伝票
においても,金銭(返金)の受領者が,原告にとっては不特定多数
の顧客であるにもかかわらず,「ご住所」欄及び「TEL」欄には,
ほとんど何の記載もされていない。また,顧客の署名も,姓のみ又
はカタカナ書きのものも含まれており(甲27),「上様」とのみ
記載されているものもあり(甲28),姓名が全て記載されている
本件各伝票についても,原告は,顧客に対して署名に当たり,身分
証明書等の提示を求めるなど本人確認の措置を全く行っておらず,
これらが正しく氏名が記載されたのかも不明である。
そもそも印紙税の対象となる判取帳は,複数の取引先との金銭等
の受渡しを継続的に記録しておくためのものであり,例えば,複数
の取引先に頻繁に現金を受け渡している場合などに,その都度,領
収書を発行せず,取引日,取引先及び取引金額など必要事項を記入
して押印をしてもらう(付込証明)ことにより領収書の代わりにす
るものが想定されている。
そして,金銭を受領した者が領収書を発行する際に,宛名に支払
者の特定が困難な記載がされていても,それが領収書(受取書)と
しての経済的機能を果たすことができるのは,金銭を支払った者が
特定の事業者名の記載された当該領収書を所有していること自体
が,その者が当該特定の事業者に対して金銭を支払っていることを
事実上推認させ,支払者を特定することが可能だからである。
しかしながら,判取帳については,これを金銭の受領者に渡すこ
とがないため,受領者欄の記載が不十分で特定困難であると,他に
受領者を事実上推定させる方法がなく,領収書としての経済的機能
を果たすことはできない。
したがって,上記のような本件各伝票をもって,金銭受領の証明
目的を有する伝票と評価することはできない。
イ仮に,被告の指摘するように本件各伝票について金銭受領の証
明目的を有するとの評価が可能であったとしても,本件各文書の中
に金銭受領の証明目的と矛盾する伝票が含まれているのであれば,
その作成目的を全体として通観した場合,そこに金銭受領の証明目
的が含まれていたということはできない。
本件各文書の中には,金銭の受領があったにもかかわらず,署
名を求めない伝票がある一方で,金銭の受領がないにもかかわらず
署名が求められた伝票が含まれており,金銭受領と顧客の署名とが
連動しない伝票も含まれているのであるから,本件各文書(全体)
の作成目的の一つとして,金銭受領の証明を挙げることはできない。
ウ印紙税法における証書と帳簿等の性格判断は,文書作成時にお
ける作成目的に照らして行うものであり(印紙税法基本通達6条の
解説(乙1)参照),その後の事情の変化により証書か帳簿かとい
う当初の文書の性格が変わるものではない。
本件伝票綴りの当初の作成目的は,商品代金を返金する場合に
のみ使用されるものではない。すなわち,本件伝票綴りの使用マニ
ュアル(甲3)によれば,その標題は「返品・商品交換の受付」で
あり,「2.返金伝票を起票する場面」として,①違う商品に交
換する場合(JANコードが異なる場合のみ),②商品代金を返
金する場合,③レジの売価と売場の売価が異なる場合,④レジ
で数量登録間違いが発生した場合の4つが記載されている。このよ
うに,本件伝票綴りは,商品代金を返金しない場合にも使用される
ことが当初から予定されており,実際にも商品代金を返金しない場
合にも使用されている。
つまり,本件各文書の作成目的は,商品代金の返還の事実を証
明することを連続的に記載証明することにあるのではなく,実際に
も商品代金の返還をしない場合が多数含まれており(甲2の2~2
の101参照),商品代金を返金する場合に作成される伝票が連続
的に綴られているわけではない。
(2)本件各文書は,二以上の相手方から返金等があったことなどにつ
いて付込証明を受ける目的で作成されたものとはいえないこと
ア本件各文書は,金銭の受領とともに受領欄への記載がされる伝
票が連続しているわけではなく,全く金銭の受領を伴わない処理が
記載された伝票が多数,挟み込まれており,二以上の相手方からの
金銭受領の付込証明目的をもって作成されたというには不自然な
つくりとなっている。
したがって,本件各文書(全体)の作成目的の一つとして,「二
以上の相手方から,返金等があったことなどについて付込証明を受
ける目的」が含まれていたということはできない。
イ金融機関の外務員が使用する集金票の一部である合冊形態の
「集金授受控」が判取帳に該当しないと考えられていること(甲4
4~46)からも,本件各文書が金銭等の受領について付込証明を
受ける目的で作成されたものではないということができる。
3争点3(本件各文書が「帳簿」に当たるか否か)について
(被告の主張の要旨)
(1)本件各文書が「帳簿」に当たること
ア印紙税法における課税文書は,課税物件表の1号から17号ま
でに掲げる文書(証書)と,18号から20号までに掲げる文書(通
帳等)に大別することができる。
そして,印紙税法基本通達6条(乙1)は,証書と通帳等とは,
課税事項を1回限り記載証明する目的で作成されるか,継続的又は
連続的に記載証明する目的で作成されるかによって区別する旨定
めている。
この点については,「ごく常識的には,証書とは1枚の用紙で
作成されたもの,通帳等とは2以上の複数の用紙で作成されたもの
と受け取られますが,印紙税法上の区分は,そのような紙数の単複
によるのではなく,課税事項を1回限り記載証明する目的で作成さ
れるか,継続的又は連続的に記載証明する目的で作成されるかとい
う文書の作成目的によることとされています。文書の作成目的は,
文書の形式,内容等に基づいて判断することになりますから,その
文書の作成時に,課税事項を2回以上付け込み証明する欄が設けら
れているようなものは通帳等となり,そのような欄が設けられてい
ないものは証書になるといえます」とされている(印紙税法基本通
達6条の解説(乙1,甲8~10参照))。
イ本件についてみると,本件伝票綴りには,連番の伝票番号が印
字された返金伝票が100組綴られているところ,原告は多数の顧
客が来店する本件各店舗において,返品希望があった都度,本件伝
票綴りを使用して返金伝票を起票し,現金を顧客に渡した上で,返
品理由が「3.その他」の場合には顧客に対して「ご返金受領サイ
ン」欄に署名を求めることとしていたものである。
そして,お客様返金伝票(事務所控)は,切り離して裏返し,
状差しに刺していき,お客様返金伝票(商品貼付用)は,切り離し,
返品商品に貼付し,お客様返金伝票(売場控)のみが本件伝票綴り
に綴られることとされていた。
このように本件伝票綴りは,返品を希望する不特定多数の顧客
に対して返金をする都度,返金を受けた顧客から金銭を受領したこ
とについて付込証明を受け,顧客の署名が記載されたお客様返金伝
票(売場控)が綴られることが予定されているのであるから,原告
は,継続的ないし連続的に顧客から金銭の受領について記載証明を
受けることを目的として本件伝票綴りを使用しているものといえ
る。
したがって,本件伝票綴りを用いて作成された本件各文書は,継
続的又は連続的に,課税事項である金銭の受領事実を記載証明する
目的で作成された文書であるから,課税物件表の20号に規定する
「帳簿」に該当するものと認められる。
ウなお,本件各文書と同様に,伝票形式の書式が綴り込まれた1
冊の文書が通帳に該当し,課税文書に該当する事例の一つとして,
「振込依頼帳」の課税実例を挙げることができる(乙3参照)。複
数組の伝票が綴られた冊子を使用して,伝票の一部を切り離さずに
残している場合において,当該冊子を「通帳」として取り扱う課税
実例が存在するところ,本件各文書を「帳簿」と解することは,そ
の課税実例と整合的である。
(2)原告の主張について
ア原告は,現行の印紙税法と,昭和42年改正前の印紙税法(以
下「旧印紙税法」という。)との間で,「証書」及び「帳簿」の意
義に違いはなく,旧印紙税法におけるこれらの区別の基準は現行の
印紙税法にも妥当するという理解を前提とした主張をしている。
しかしながら,現行の印紙税法は,昭和42年法律第23号によ
り,明治32年法律第54号の印紙税法を全文改正(以下「昭和4
2年全文改正」という。)したものを基礎としているものであると
ころ,原告が主張する「証書」と「帳簿」の区別に関する解釈は,
旧印紙税法下における解釈であり,次の(ア)及び(イ)とおり,昭和4
2年全文改正を経た現行の印紙税法下においては妥当するもので
はなく,原告の主張はその前提を欠き,失当である。
(ア)旧印紙税法においては,いわゆる包括的課税主義を採用し,同
法1条の定める財産権の創設移転等の事実を記載した文書は包
括的に課税文書に該当する旨を定めていた。
そして,同法には,課税文書がどの号に所属すべきかについて
の明文の規定はなかったが,1通の文書に2個以上の事項を記載
証明したものは,2通以上の証書に該当する場合があることを前
提としているものと考えられており(甲15),一の文書が二以
上の号に該当するときは,2通の文書として課税すると解されて
きた。このことから,証書1通の意義については「単に1通の文
書をいうのではなく,1個の事実又は法律行為を証明すべき各1
通の文書をいうとする。」として,文書に記載された事実又は法
律行為の個数を基準として課税対象となる証書の通数を判断す
ることとされ(旧印紙税法基本通達(昭和30年10月8日付け
間消1-116による国税庁長官通達。以下同じ。)13条1項),
証書と帳簿の区別については,証書とは「1個の事実又は法律行
為を証明する目的で作成するもの」であり,帳簿とは「継続又は
連続する財産権上の取引関係を付込証明する目的で作成するも
の」とされていた(旧印紙税法基本通達9条)。
このような考え方を前提として,証書と帳簿の区別については,
独立した個々の文書が独立した法律効果を有する場合は「帳簿」
とはみず,それぞれ独立した「証書」に該当すると解されていた
(旧印紙税法基本通達208条も参照)。
(イ)これに対し,昭和42年全文改正後の印紙税法は,課税物件の
規定について限定列挙主義を採用し,課税物件表において,課税
対象となるべき文書を限定列挙し,1通の文書が同時に二以上の
号(課税物件表)に該当するときは,これがいずれか一の号のみ
に所属することとなるように規定が整備されている(別表通則1
ないし3)。
そして,現行の印紙税法基本通達5条(乙1)は,「一の文書」
とは,その形態からみて1個の文書と認められるものをいい,例
外的に,文書の形態,内容等から当該文書を作成した後切り離し
て行使又は保存することを予定していることが明らかなものに
ついては,それぞれ各別の一の文書となる旨定めている。
このような考え方を前提として,現行の印紙税法基本通達6条
(乙1)は,証書と通帳等との区別につき,課税事項を1回限り
記載証明する目的で作成されるか(証書),継続的又は連続的に
記載証明する目的で作成されるか(通帳等)によって区別する旨
定めている。
要するに,現行の印紙税法においては,文書の客観的な形態を
基準として,物理的に切り離して行使又は保存することを予定し
ているか否かによって「一の文書」すなわち課税の単位を確定す
ることとし,かかる「一の文書」に該当するとされた文書である
ことを前提として,その作成目的を基準として証書と通帳等を区
別しているのである。
イ原告は,印紙税法以外に,所得税法,法人税法及び消費税法に
おける「帳簿」に伝票が含まれないと解されており,また,会社法
における「会計帳簿」には原則として伝票は含まれないと解されて
いるところ,これらの法律における「帳簿」及び「会計帳簿」の解
釈と印紙税法の「帳簿」の解釈とが異なるとすべき理由はないので,
伝票である本件伝票綴りは,印紙税法上も「帳簿」には該当しない
旨主張する。
しかしながら,印紙税法で用いられている「帳簿」と,所得税法,
法人税法,消費税法及び会社法で用いられている「帳簿」及び「会
計帳簿」とが同義であるとする根拠は見当たらず,原告の主張は独
自の主張であって,およそ失当である。
ウ原告は,本件伝票綴りは,商品代金を返金しない場合にも使用
されることが予定されており,その作成目的は,商品代金の返金の
事実を証明することを連続的に記載証明することにあるものでは
ないと主張する。
しかしながら,印紙税法基本通達6条(乙1)は,証書と通帳
等とは課税事項を1回限り記載証明する目的で作成されるか,継続
的又は連続的に記載証明する目的で作成されるかによって区別す
る旨定めている。ここで「連続的」とは,「1回限り」との文言と
の対比として使用されているのであるから,1回ではなく2回以上
記載証明する目的があれば,それは「連続的」というべきであり,
たとえその中に課税事項以外の記載証明を受ける目的があったと
しても「連続的」であることを否定する理由にはならない。そして,
本件伝票綴りを用いて作成された本件各文書が金銭受領事実につ
いて連続的に付込証明を受ける目的で作成されたことは上記(1)の
とおりである。
したがって,上記の原告の主張は理由がない。
エ原告は,仮に文書の物理的な形状によって「一の文書」の範囲
を判断するとなると,手形の耳なども判取帳に該当するという不合
理な結論を招来するなどと主張する。
この点,手形発行の控え(耳)は,手形の振出しに際し,「受
取人」や「金額」,「支払期日」等を記載し,振り出した手形の内
容の控えとして作成されるものであり,通常,当該手形の受領事実
につき継続的又は連続的に付込証明を受ける目的で作成されるも
のではない。
したがって,通常作成される手形発行の控え(耳)は,物理的
な形状によって「一の文書」と認められるものの,判取帳には該当
しないので,原告の主張はその前提を欠くものである。
(原告の主張の要旨)
(1)本件各文書が「帳簿」に当たらないこと
ア課税物件表20号によれば,「判取帳」に該当するためには,
当該文書が「帳簿」に該当する必要がある。
「証書」と「帳簿」の区別は,課税事項を一回限り記載証明す
る目的で作成されるか,継続的又は連続的に記載証明する目的で作
成されるかによって区別され(印紙税法基本通達6条(甲7)),
紙数の単複によるもではない。
そして,旧印紙税法における同法基本通達,解説書等の記載,旧
印紙税法と現行の印紙税法との間で「証書」及び「帳簿」の意義に
変わりがないことなどによれば,これらの区別は,以下のような基
準により区別されるべきである。
①「証書」と「帳簿」の区別は,紙数の単複によるものではな
い。
②「証書」とは,課税事項を一回限り記載証明する目的で作成
される文書であり,「帳簿」とは,課税事項を継続的又は連続
的に記載証明する目的で作成される文書である。
③帳簿のうち継続的に記載証明する目的で作成される文書と
は,家賃通帳のように賃貸借契約などの「一つの契約」から継
続的に発生する課税事項に関するものであり,「一つの契約」
に基因するものではなく,単に反復して発生する同種の取引を
付込証明するだけであって,それらの取引が必然的に発生する
基礎を持たない場合には,せいぜい連続的に記載証明する目的
で作成された文書として「帳簿」に該当する余地があるにすぎ
ない。
④連続的な事項が記載された合冊された文書については,個々
の証明部分を合冊したものから切り離した場合に,それが独立
して証書としての効用を有すると認められるものは,それぞれ
各別の証書であり,切り離した証明部分が独立して証書として
の効用を有しないと認められるものは,合冊したものが1冊の
帳簿である。
⑤一枚の紙に課税事項を2回以上付込証明する欄が設けられ
ているものが「帳簿」であり,そのような欄が設けられていな
いものが「証書」である。
旧印紙税法及び現行の印紙税法ともに,課税物件は,証書と帳簿
に大別されるのであり,それらの意義及び区別は,課税物件の範囲
を画するものとして,印紙税法における最も重要な概念であると言
っても過言ではないが,昭和42年全文改正に当たり,税制調査会
の答申等(甲12,13参照),国会議事録(甲32~34)及び
同改正についての解説(甲11,乙2)においては,証書と帳簿の
意義及び区別を変更することなど全く記載されておらず,仮に判断
基準が変わったのであれば,当然言及されたはずである。
イ本件各文書は,賃貸借契約などの「一つの契約」から継続的に
発生する課税事項に関するものではないから,課税事項を継続的に
記載証明する目的で作成されたものとはいえず,せいぜい連続的に
記載証明する目的で作成されたものといえる余地があるにすぎな
いが,連続的な事項が記載され,合冊された文書であっても,個々
の証明部分を合冊したものから切り離した場合に,それが独立して
証書としての効用を有すると認められる場合は,それぞれ各別の証
書である。
本件各文書の「個々の証明部分」すなわち一枚一枚の本件各伝
票(お客様返金伝票(売場控))は,合冊の形態である本件各文書
から切り離した場合に,それぞれが独立して証書としての効用を有
すると認められることが明らかであり,また,同伝票は,それぞれ
それ自体で完結した内容が記載されており,「課税事項を1回限り
記載証明する目的」で作成されていることは明らかであり,本件各
伝票がそれぞれ「証書」に該当すると判断することに何らの支障も
ない。
したがって,本件各文書が「帳簿」に該当し,判取帳に該当する
ことはない。
ウ所得税法,同法施行規則及び旧所得税基本通達においても,「帳
簿」と「書類」は明確に区別されて規定され,伝票は,原則として
帳簿に該当せず,帳簿の原票である「証ひょう書類」に該当するも
のと解される。また,法人税法,同法施行規則及び旧法人税基本通
達においても,「帳簿」と「書類」は明確に区別されて規定されて
おり,伝票は,原則として帳簿に該当しないことが明らかとされて
おり,伝票は,「帳簿」ではなく,その証憑書類(証拠書類,いわ
ゆる原票)を意味する「書類」に含まれる。同様に,消費税法にお
いても,伝票は「帳簿」には該当しないこととされている。
さらに,会社法において「会計帳簿」とは,仕訳帳,総勘定元帳
及び補助簿を意味し,伝票は,これが仕訳帳に代用される場合を除
き,「会計帳簿」には該当しない。
以上のとおり,所得税法,法人税法及び消費税法の「帳簿」あ
るいは会社法の「会計帳簿」に伝票は含まれず,予測可能性及び法
的安定性の観点から,印紙税法における基本的な概念についてはこ
れらと同様に解すべきであり,印紙税法においても,伝票である本
件各文書は「帳簿」に含まれないものということができる。
エ手形発行の控え(耳)等について
相手方の作成した手形発行控えである手形の耳に受領印を押印
した場合,当該手形の耳は,課税物件表17号の1の文書(受取書)
に該当し,当該書面の作成者,すなわち同受領印の押印者は印紙税
の納税義務を負う(国税庁のホームページの質疑応答事例,甲29,
30も参照)。
しかし,一方で,統一手形用紙もそれ以外の約束手形用紙も,通
常,冊子形態になっており,手形を振り出した後に振出人が保管す
る当該手形控えである手形の耳も冊子状態になっている。しかしな
がら,手形の耳が印紙税の課税文書(判取帳)に該当するとは記載
されておらず,現実にも手形の耳に収入印紙が貼られることはない。
これは,このような手形の耳が「判取帳」に該当しないのは,そ
の一枚一枚が「帳簿」に該当する余地はなく,せいぜい「証書」に
該当し得る場合(それが上記の課税物件表17号の1の文書に該当
する場合である。)があるにすぎないのであり,このような証書が
何枚綴られていたとしても,全体として「帳簿」に変わることはな
いからである。
4争点4(本件各文書を「判取帳」として課税することの不合理性の
有無)について
(原告の主張の要旨)
(1)本件各文書の背後には担税力を見出すことはできず,「判取帳」
に該当しないこと。
ア印紙税法においては,「判取帳」につき,1冊当たり4000
円の印紙税の負担を求めているところ,これは「判取帳」が金銭の
受取事実を複数の者から付込証明を受けるために商用として帳簿
として作成され,その背後に担税力があると認められるからである。
印紙税法基本通達は,課税物件表20号に関して,「諸給与の支
払いをした場合に,従業員の支給額を連記して,これに領収印を徴
する諸給与一覧表等」及び「団体保険契約の配当金支払明細書」は,
いずれも事務整理上作成している実態にあるとされ,「判取帳」か
ら外され,課税対象外とされている。これは,その背後に担税力を
見出すことができないからである(甲7)。
したがって,作成される帳簿の背後に担税力を見出すことができ
なければ,当該帳簿は印紙税法の課税文書である「判取帳」には該
当しないと解すべきである。
イ本件において,本件伝票綴りを利用した商品の交換事例におい
ては,単に商品を交換しているだけであるから,本件各文書の背後
に何らの担税力を見出すことはできない。
また,不要品等であることを理由とした返品の事例においても,
顧客から商品の返品要請を受けた当該商品と引替えにその代金を
返金した場合に所定の事項が記載されるのであって,原告の売上げ
が取り消されるとき,つまり経済取引に伴う担税力が失われるとき
に作成されるのであって,当該伝票の背後に何らの担税力も見出す
ことはできない。
以上は,返品要請を行う顧客の立場に立ったとしても同じであり,
顧客からしてみれば,購入した商品の返還とともに代金が返金され
るだけなのであるから,当該金銭授受の背後に何ら担税力を見出す
ことはできない。
(2)同一の商品につき売買代金受領時と返金時とで二重に課税するこ
とは不合理であること。
仮に本件各文書が「判取帳」に該当し,課税文書にも当たるとな
ると,原告に不合理な印紙税の二重課税がされることになる。
すなわち,原告がある商品を販売し,その代金が3万円以上であ
った場合,原告は,当該商品の領収書等にその代金に応じた印紙税
が課され(課税物件表17号),その後,当該商品が返品され,返
金伝票を起票した場合に,本件各文書が「判取帳」に該当するとな
ると,当該商品に関しては2回にわたって印紙税を課されることに
なる。
上記(1)で述べたとおり,返品対象となった場合,原告の商品売上
げは取り消されるのであるから,むしろ担税力は失われているにも
かかわらず,印紙税の課税は強化される結果になってしまうのであ
る。
このような結果は,文書の背後にある担税力に鑑みて課税を行う
印紙税法の趣旨にもとるものである。
(3)このように本件各文書は,原告の事務整理上作成されているもので
あって,その背後に担税力を見出すことはできず,また,同一商品
につき購入時と併せて二重に納税負担を負わせるといった不合理な
結果を招来することになるので,「判取帳」には該当しない。
(被告の主張の要旨)
(1)商品の返還に担税力を見出すことはできないとする原告の主張に
ついて
ア印紙税の本質的な特徴は,社会に実在する文書について,その
作成行使の事実を課税の機会として捉えること,作成行使される文
書の背後に,軽度の補完的課税を行うに足る経済的利益ないし補完
的担税力が存在すると推定して課税することにある。
このような考えに基づき,現行の印紙税法による課税対象は「経
済取引等に伴って作成される文書のうち,一般的にその作成行使の
事実の背後に相当の経済的利益が存在し,これに軽度の補完的課税
を行うに足ると認められるもの」が基準として取り上げられ,その
結果,課税対象として取り上げるべきものと判断された文書を現行
の印紙税法は課税物件表に掲名している。このように,印紙税の課
税文書に該当するか否かは,課税物件表に掲名された課税文書に該
当するか否かの判断により決せられるべき事項であって,その背後
に担税力を見出せるか否かというような要素を考慮する必要はな
い。
本件においては,本件各文書は,商品の販売という営業上の取
引の一環として作成されたものといえ,そうであるからこそ課税物
件表20号に掲名された「判取帳」に該当するのである。
したがって,本件各文書の背後に,何らの担税力も見出すことは
できないとする原告の主張は採用することができない。
イなお,原告がその主張の根拠として挙げる諸給与一覧表等は,
そのように称される帳簿が給与支払会社等が給与支払義務の履行
のための事務整理上作成されているという性格が強いことから,印
紙税の課税対象となる判取帳とは明らかに区別されるものと認め
られ,課税しないものとして取り扱うこととしているものである
(乙1)。
また,団体生命保険契約の配当金支払明細書については,その配
当金支払行為が従業員の福利厚生活動の一環として事務整理上作
成している実態にあるなど,その性格は諸給与一覧表等と同様のも
のと認められることから,印紙税の課税対象となる判取帳とは明ら
かに区別されるものと認められ,課税しないものとして取り扱って
いるものである(乙1)。
これらに対し,本件各文書は,原告とその外部にある不特定多数
の顧客との間において商業上の取引の一環として,商品の代金の返
金という金銭の授受について証明を受けるために作成されるもの
であり,諸給与一覧表等及び団体生命保険契約の配当金支払明細書
とは,明らかにその性格を異にする。
ウしたがって,商品の返品において担税力を見出すことはできな
いから判取帳に該当しないとする原告の主張に理由はない。
(2)同一の商品につき売買代金受領時と返金時とで二重に課税するこ
とは不合理である旨の原告の主張について
印紙税の課税物件は文書であり,課税標準も1通又は1冊ごとと
されていることから明らかなとおり,印紙税は,作成される文書ご
とに課される税であって,各個の取引や取引商品を対象とした税で
はない。したがって,仮に同一の商品についての売買代金の受領と
その返金について,異なる複数の文書が作成される場合において,
各文書が課税文書に該当する限り,それぞれに印紙税が課されると
いうのは,印紙税法が当然に予定しているものである。
また,課税の対象となった本件各文書は,商品の返品に係る金銭
の受領事実について,各顧客から付込証明を受けた本件各伝票が綴
られたものであり,そもそも個別の返金の事実が課税の対象となる
ものではない。
以上より,原告の上記主張は失当である。
第4当裁判所の判断
1認定事実
上記第2の3の前提事実,当事者間に争いのない事実,文中記載の
証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)本件伝票綴りの使用等について
ア原告は,本件各店舗において,顧客から商品の返品,交換ある
いは売価が異なるなどの申出を受けた場合に,その処理のために,
本件伝票綴りを使用して,顧客に対応していた。
本件伝票綴りの使用方法や顧客対応等については,本件マニュ
アル(株式会社P1名義の「返品・商品交換の受付」と題する書面)
に記載されている。本件マニュアルの記載内容等は下記(2)のとお
りである。(ア全体につき,前提事実(2)ア,甲2の1,3,弁論
の全趣旨)
イ本件伝票綴りは,冊子形態のものとなっており,表紙(甲2の
1)には「お客様返金伝票」と標題が記載されているほか,「株式
会社P1」との記載及び使用期間(伝票の1枚目の日付けから10
0枚目の日付けの記載)等が記載されている。
また,表紙以下は,3枚一組の複写式の伝票が100組綴られ
ている。
この一組3枚の伝票は,一枚目のお客様返金伝票(売場控)に
顧客及び原告の担当者らが記入をし,二枚目及び三枚目のお客様返
金伝票(事務所控)及びお客様返金伝票(商品貼付用)がその複写
となっている。
これら3枚一組の伝票の右上にはそれぞれ同一の伝票番号が印
字されており,3枚一組の各組の伝票番号は連続した番号となって
いる。(イ全体につき,前提事実(2)イ,甲2の1~2の101,
3,弁論の全趣旨)
ウお客様返金伝票(売場控)には,次のような欄及び記載がある。
一番上の欄外に「お客様返金伝票(売場控)」,受付日及び伝
票番号の記載がある。
その下の枠内には,「お買上日」,「品名」,「金額」,「品
番」,「JAN」(JANコード)及び「お買上げレシート(有・
無)」の各欄があり,また,「返品理由」として,「1.不良品(キ
ズ・部品不足)」,「2.売価違い(売価違い・二重登録)」及び
「3.その他(不要・サイズ違い・色・柄)」の記載がある。
また,その下には,「ご返金受領サイン」及び「ご住所」欄が
あり,さらにその下には「受付(SC担当者)」欄があるが,原告
及び株式会社P1の名称については記載されていない。(ウ全体に
つき,甲2の2~2の101,弁論の全趣旨)
エお客様返金伝票(事務所控)及びお客様返金伝票(商品貼付用)
には,本件伝票綴りから分離するための切取り線があるが,お客様
返金伝票(売場控)にはそのような切取り線は見られない。
本件伝票綴りを用いた場合,お客様返金伝票(事務所控)及び
お客様返金伝票(商品貼付用)は,本件伝票綴りから切り離され,
同伝票綴りは,記入されたお客様返金伝票(売場控)のみが綴られ
た一冊の冊子形態となる。(エ全体につき,前提事実(2)イ,甲2
の1~2の101,3,弁論の全趣旨)
(2)本件マニュアルについて(甲3,弁論の全趣旨)
ア本件マニュアルには,「返品・商品交換の受付」との表題があ
り,「一度お買上げいただいた商品を,何らかの理由で返品を希望
されるお客様に対して,満足してもらえるように対応する業務で
す。」と記載されている。
イ返金伝票を起票する場面として,次の4つが示されている。
①違う商品に交換する場合(JANコードが異なる場合のみ)
(例)サイズを交換したいとき,色違いに交換したいとき。
②商品代金を返金する場合
(例)商品が不要になり,又は商品が不良で,返品したいとき。
③レジの売価と,売場の売価が異なって登録してあった場合
(例)売場で198円だったものがレシートでは298円で登録さ
れていたとき。
④レジでの数量登録間違いが発生した場合
(例)1つしか購入していない商品をレシートで2つ登録されてい
たとき。
ウ各返金伝票の役割として,次の記載がある。
①1枚目のお客様返金伝票(売場控)は,本体についたまま残る。
②2枚目のお客様返金伝票(事務所控)は,返金の詳細とレジか
ら返金した金額が正しく処理されているかどうか確認するため
のもの。
③3枚目のお客様返金伝票(商品貼付用)は,返品された商品に
貼付する。
エ返品伝票の「受付日」,「お買上日」,「金額」,「返品理由」,
「品名」,「品番」,「JANコード」及び「レシートの有・無」
を記載する。
また,理由番号が「3.その他」の場合には,顧客から「ご返
金受領サイン」欄に自署等をしてもらい,それ以外の「1.不良品」
及び「2.売価違い」の場合には自署等はしてもらわない。他方,
下記カの場合でなければ,いずれの理由であっても,顧客の住所及
び電話番号の記載はしない。
原告の担当者は「受付」欄に自分の名前を記載する。
なお,本件マニュアルには「同額の商品であってもJANコー
ドが違う場合,一度商品代金を返金して,改めて新しい商品をお買
上げ頂きます。」と記載されている。
オ顧客から預かったレシート又はレシートのコピーを,お客様返
金伝票(事務所控)に貼付し,不良箇所等を記載した上で,同伝票
は,本件伝票綴りから切り離して裏返し,状差しに刺していく。
他方,お客様返金伝票(商品貼付用)は,本件伝票綴りから切
り離し,返品商品に貼付する。
カ顧客がレシートを有しておらず,かつ,3000円を超える返
金を求めてきた場合で,商品を預かる場合には,「お客様返金伝票
(売場控)」及び「ご返金受領サイン」の各文字を二重線で消し,
「商品お預かり証」という表題とし,顧客の名前,住所及び電話番
号を含む事項を記載した上,同伝票をコピーして顧客に渡す。
キ本件伝票綴りは,100組全て使い終えたら,その終了した伝
票綴りと新しい伝票綴りを交換することとし,また,その際,「返
金伝票受渡簿」に当該伝票綴りに関する伝票番号,使用開始日及び
終了返却日等を記載する。
(3)本件各文書の使用例(甲2の1~2の101,弁論の全趣旨)
ア原告の平成21年12月1日から同月8日まで(No.11188
01~1118900)の本件各文書(甲2の1~2の101)の
内訳をみると,①返品理由が「1.不良品」及び「2.売価違い」
はそれぞれ5枚以下であり,②返品理由が「3.その他」で,商
品の交換をしたものが約30枚,商品の交換をせずに代金が顧客に
返金されたものが約60枚ある。
イ本件各文書においては,返品理由が「3.その他」の場合,そ
のほとんどにおいて「ご返金受領サイン」欄に顧客の署名がされて
いるが,本件各文書の中には,返品理由が「3.その他」の場合で
あっても,「ご返金受領サイン」欄が,カタカナで氏名が記載され
たもの(甲27)や氏名の記載がないもの(甲28)がある。
2争点1(本件各文書がそれぞれ「一の文書」に当たるか)について
(1)印紙税の課税の単位(一の文書の意義)について
ア印紙税法2条は,別表第一の「課税物件」欄に掲げる文書には,
印紙税を課する旨定め,同法3条1項は,上記の文書のうち,同法
5条各号により非課税とされる文書以外の文書(課税文書)の作成
者は,その作成した課税文書につき,印紙税を納める義務がある旨
定める。
そして,①別表通則1は,この表における文書の所属の決定
は,この表の各号の規定によるが,当該各号の規定により所属を決
定することができないときは,2及び3の定めるところによると規
定し,②別表通則2は,一の文書でこれに記載されている事項が
課税物件表の二以上の号に掲げる文書により証されるべき事項に
該当するものなどは,当該各号に掲げる文書に該当する文書とする
旨を規定しつつ,③別表通則3は,同2の規定により課税物件表
の各号のうち二以上の号に掲げる文書に該当することになる場合
の所属の決定方法を列挙して規定し,④例えば,別表通則3ニは,
同ホに規定する場合を除くほか,課税物件表20号に掲げる文書と
17号に掲げる文書とに該当する文書は,20号に掲げる文書とす
る旨を規定し,⑤別表通則3ホは,課税物件表20号に掲げる文
書と17号に掲げる文書で同号に掲げる文書に係る記載された売
上代金に係る受取金額が100万円を超えるものは,17号に掲げ
る文書とする旨を規定している(なお,印紙税法4条には課税文書
の作成に関するみなし規定が置かれており,一の文書が上記④によ
り20号に掲げる文書とされたときであっても,後日,同条4項の
規定に該当する付込みが行われたときには,17号に掲げる文書が
新たに作成されたものとみなされることとされ,結果として,一の
文書が20号に掲げる文書にも17号に掲げる文書にも当たる場
合が想定されている。)。
以上のとおり,印紙税法が,別表通則1で直ちに所属を決定で
きない文書,例えば,「一の文書でこれに記載されている事項が別
表の二以上の号に掲げる文書により証されるべき事項に該当する
もの」が存在することを前提とした上,当該「一の文書」につき,
いずれか一つの号への原則的な所属を決定するための諸規定を置
き,かつ,複数の号に掲げる文書として課税されることがあり得る
ことをも想定していることに照らすと,同法は,「一の文書」とい
う概念を設けて,課税の基本単位の外延を決することにしたものと
理解することができる。このような考え方に照らすと,ある文書に
つき,別表通則1により所属を決定できるか否かを判定するに当た
っても,概念的には,課税の基本単位の外延を定めるために「一の
文書」の範囲に関する判断を経る必要があり,そのような外延を定
めることなく,17号に掲げる文書か20号に掲げる文書かの決定
をすることは相当ではないというべきである(なお,例えば,ある
書面が単一の売買契約を記載した1枚の契約書であれば,上記のよ
うな判断作用は通常表面化しないが,それは当該書面が明らかに
「一の文書」に当たると判断されるからにすぎないと解される。)。
上記と異なる原告の主張は,採用することができない。
イところで,印紙税法は,「一の文書」の定義規定を置いていな
いが,印紙税は,文書に記載されている取引それ自体を課税対象と
するものではなく,文書を課税対象とするものであること(同法2
条)や,上記のような別表通則1ないし3の定めの内容を勘案する
と,「一の文書」の範囲は,その書面により証されるべき事項をも
って画するのではなく,その書面の物理的な存在形態の一体性をも
って画することが相当であると解される。
この点に関し,印紙税法基本通達5条は,印紙税法に規定する
「一の文書」とは,その形態からみて1個の文書と認められるもの
をいい,文書の記載証明の形式,紙数の単複は問わないこと,1枚
の用紙に2以上の課税事項が各別に記載証明されているもの,又は
2枚以上の用紙が契印等によって結合されているものは,「一の文
書」となること,ただし,このような文書であっても,文書の形態,
内容等から当該文書を作成した後切り離して行使又は保存するこ
とを予定していることが明らかなものについては,それぞれ各別の
「一の文書」となることを定めているところ,この通達の定めは,
文書の物理的な存在形態の一体性の判定基準として合理性を有す
るということができる。
(2)本件各文書における「一の文書」の範囲
ア以上を前提として本件についてみると,上記認定事実によれば,
①本件伝票綴りは,本件各伝票(お客様返金伝票(売場控))を
綴った冊子形態のものであり,同伝票には,連続番号が付され,冊
子の表紙には,同冊子に含まれる伝票の連続番号の範囲及び当該伝
票綴りの使用開始日及び終了日を記載する欄が設けられているこ
と,②本件伝票綴りに綴り込まれた本件各伝票は,切り離して使
用することが想定されているお客様返金伝票(事務所控)及びお客
様返金伝票(商品貼付用)と異なり,切取り線がなく,顧客との関
係において返金が生じた場合に当該事実を記録し集積し,保管する
ものとされており,本件伝票綴りから切り離されて行使されたり保
存されたりするものとはされておらず,本件各伝票100枚を一体
として本件伝票綴りに綴り込んだ一冊の冊子形態のものとして保
管・管理するものとされていること,③現に,原告において本件
各文書は,上記②のように保管・管理されていたことが認められる。
以上のとおり,本件各文書については,それぞれ,一冊の冊子とし
てその物理的な存在形態の一体性が認められることに照らすと,本
件各文書は,それぞれ,その全体をもって「一の文書」に該当する
ものと認めるのが相当である。
イこれに対して原告は,①お客様返金伝票(売場控)が契印等
で結合されているわけではなく,また,同一の契約日において作成
されることが予定されているものではないこと(印紙税法基本通達
5条の解説の「質疑応答」(乙1)参照),②お客様返金伝票(売
場控)には切取り線がなく,また,連続した伝票番号が印字されて
いるという事情があるが,これらが重要な意味を持つものではない
こと,③本件各文書は,お客様返金伝票(売場控)に各別に記載
証明されている部分がそれぞれ独立しており,たまたまとじ合わせ
ているにすぎないことなどの点を挙げて,本件各文書は「一の文書」
に該当しないと主張している。
しかしながら,物理的な存在形態の一体性を肯定するに当たり,
契印等で結合されていることや,各部分の作成日が同一であること
が不可欠であるとはいえない一方,一冊の冊子を製作する際に切取
り線が設けられなかったことや,表紙及び各伝票において連続した
番号が記載されていることは,物理的な存在形態の一体性があるこ
との徴表たるものであることは明らかであって,これらは,各伝票
がたまたま綴じられているとはいえない状態にあることを示すも
のである。上記の原告の主張は,いずれも採用することができない。
3争点2(本件各文書が「第十七号に掲げる文書により証されるべき
事項につき二以上の相手方から付込証明を受ける目的をもって作成」
されたものといえるか否か)について
(1)付込証明を受ける目的の有無の判断基準について
課税文書とされる「判取帳」とは,課税物件表1号,2号,14
号又は17号に掲げる文書により証されるべき事項につき,二以上
の相手方から付込証明を受ける目的をもって作成されたものをいう
とされている(20号)。そして,課税物件表17号は,「課税物
件」欄において,売上代金に係る金銭又は有価証券の受取書(17
号の1)及び金銭又は有価証券の受取書で1に掲げる受取書以外の
もの(17号の2)と掲げているから,「第十七号に掲げる文書に
より証されるべき事項」とは,金銭又は有価証券の受領の事実を意
味するものと解される。
しかるに,印紙税が,経済取引に関して作成された文書を課税対
象とするものであることからすると,ある文書が,その作成の時点
において,金銭又は有価証券の受領の事実につき付込証明を受ける
目的をもって作成されたものか否かを判定するに当たっては,問題
となる文書自体の形式,内容のほか,当該文書の使用方法及び使用
実態なども踏まえて,取引社会の一般通念に照らして客観的に行う
べきものと解される。
(2)本件各文書の作成の目的について
ア以上を前提として本件についてみると,上記認定事実によれば,
本件各文書の文書の表題は,表紙においても個々の伝票においても
「お客様返金伝票」とされており,また,お客様返金伝票(売場控)
には,「受付年月日」,「お買上日」,「金額」,「品名」,「品
番」,「商品コード」,「返品理由」,「お買い上げレシート」の
有無,「不良箇所」,返金を受けた顧客が自署等をする「ご返金受
領サイン」,「住所」などの欄が設けられている。このような文書
自体の形式や内容に照らすと,本件各文書は,原告が顧客から商品
の返品を受け,顧客に対して代金を返還し,顧客が商品代金の返金
を受けたことを証明することを主たる目的として作成されたもの
ということができる。
また,上記認定事実によれば,本件各伝票の「返品理由」欄は,
①不良品,②売価違い,③その他(不要・サイズ違い・色・柄)の
3項目とされているところ,本件マニュアルが定める使用方法によ
れば,顧客からの申出の理由が,(a)不良品及び売価違いによる
ものであるときは,顧客に対して代金又は過払い額の返金をしたと
しても,顧客からは「ご返金受領サイン」欄に自署等をもらわない
とされていること,(b)「その他」によるものであるときは,顧
客に対して代金の返金をしたとき及び交換商品の引渡しをしたと
きのいずれについても,顧客から「ご返金受領サイン」欄に自署等
をもらうこととされていること,(c)商品の交換をする場合も,
商品コードが違う場合は,一度商品代金を返金して改めて新しい商
品を購入するという取扱いがされていること,(d)顧客がレシー
トを所持せず,かつ,3000円を超える返金を求めてきた場合に
は,顧客に対して直ちに返金はしないものの,顧客から自署等及び
住所を記載してもらう(なお,「ご返金受領サイン」の文字は抹消
する。)とされており,実際の本件各文書の記載例(甲2の2~2
の101)においても,概ねこれに沿った記載がされているものと
認められる。
このように,本件各伝票は,商品代金を直ちに返金しない場合
にも使用されることがあり(上記(d)),顧客による金銭の受領の
証明の記載が行われない場合にも使用されることがある(上記(a))
が,他方において,実際の本件各文書の記載例(甲2の2~2の1
01)によると,そのほとんど(約9割)が,顧客からの申出の理
由が「その他」(すなわち,不良品であることを理由としない返品
又は交換)によるものであり,その場合には,そのほとんどにおい
て,顧客の署名がされていることに照らすと,上記のように使用さ
れることがあるという点は,本件各文書が,顧客が商品代金の返金
を受けたことを証明することを主たる目的として作成されたもの
であるという上記の認定判断を左右する事情とまではいえないと
解するべきである(なお,上記(c)の取扱いに照らすと,交換の場
合であっても,顧客に代金を返還していないとみることは適切では
なく,商品代金の返金につき,顧客の署名がされたと認めることが
相当である。)。
以上のとおりであるから,本件各文書は,文書自体の形式,内
容のほか,使用方法及び使用実態の諸点からみて,金銭の受領事実
について付込証明を受ける目的をもって作成されたもの,すなわち
課税物件表の17号の2に掲げる文書により証されるべき事項に
つき付込証明を受ける目的をもって作成されたものと認めること
ができる。
イまた,上記認定事実によれば,本件各文書は,原告が,不特定
多数の顧客が来店する本件各店舗において,複数の顧客との関係に
おいて同顧客から金銭受領の事実につき付込証明を受ける目的で
作成されたものと認められるから,二以上の相手方から付込証明を
受ける目的をもって作成されたものと認めることができる。
ウしたがって,本件各文書は,「第十七号に掲げる文書により証
されるべき事項につき二以上の相手方から付込証明を受ける目的
をもって作成」(課税物件表20号)されたものと認められる。
(3)これに対して原告は,①お客様返金伝票(売場控)に顧客の署
名を受けた場合であっても,当該顧客を特定することができず,金
銭受領目的の付込証明としての機能が果たせないこと,②お客様
返金伝票(売場控)につき,顧客に代金を返還する全ての場合に顧
客の署名を要求していたものではなく,また,顧客に代金を返還し
ない場合(交換の場合)であっても顧客の署名を要求する場合があ
り,顧客が金銭を受領したことを付込証明する目的と矛盾する目的
があり,本件各文書を全体として見ると,顧客が金銭を受領したこ
とを付込証明する目的をもって作成したものということはできない
こと,③本件伝票綴りは,原告の二重払いの防止という目的のほ
か,不正返品・請求の防止等,専ら内部的な事務処理目的で作成し
ていたものにすぎず,顧客が金銭を受領したことを付込証明する目
的をもって作成されたものではないなどと主張する。
ア原告の主張①について
上記認定事実によれば,本件各文書は,原告が,不特定多数の顧
客が来店する本件各店舗において,顧客の氏名住所等を具体的に特
定しないままに販売した商品について,当該顧客に当該商品の代金
の返金をしたことを証明することを主たる目的として作成され,主
としてそのように使用されていたものであって,返金伝票を起票す
るに当たっては,顧客の持参したレシートを確認し,レシート又は
そのコピーを保存することとされていたところ,このような使用方
法及び使用実態を勘案すると,本件各店舗において不良品であるこ
とを理由としない返品又は交換を行う場合の当該商品代金の返金
に係る当該顧客の付込証明に関して求められる証明の程度は,当該
商品の買上日,品名,品番,商品コード,金額及び当該顧客の名前
を記載することをもって足りると解することができ,それ以上に当
該顧客の住所などの特定がされなかったとしても,金銭受領目的の
付込証明としての機能が果たせないとまではいえないというべき
である。
原告が主張するところは,お客様返金伝票(売場控)の記載だけ
からすると,第三者からみて,金銭の受領を受けた顧客を特定する
ことができないというにとどまるものであり,当該金銭の受領を受
けた顧客からすると,お客様返金伝票(売場控)の記載上,原告と
の間において原告に対して商品を返還し,支払った商品の代金の返
金を受けた事実を証明するのに欠けるところはないし,原告におい
ても,当該商品に関して顧客が金銭を受領したという事実の証明を
するのに欠けるところはない。
そうすると,原告が主張するようにお客様返金伝票(売場控)の
記載だけでは顧客の氏名の記載しかなく,これ以上の特定ができな
いとしても,本件各文書が顧客から金銭受領の事実につき付込証明
を受ける目的で作成されたものと認定することを左右するものと
いうことはできない。
したがって,原告の上記①の主張は採用することはできない。
イ原告の主張②及び③について
本件各文書は,その形式や内容に照らすと,原告が顧客から商
品の返品を受け,顧客に対して代金を返還し,顧客が商品代金の返
金を受けたことを証明することを主たる目的として作成されたも
のということができることは上記(2)で認定判断したとおりであり,
原告が主張する②の点は,これを左右するに足りる事情とはいえな
い。
原告は,本件伝票綴りは,原告の二重払いの防止という目的のほ
か,不正返品・請求の防止等,専ら内部的な事務処理目的で作成し
ていたものにすぎないとも主張しているが,上記の本件各文書の形
式,内容のほか,使用方法及び使用実態に照らして考えると,本件
各文書は,複数の顧客との関係において,同顧客から金銭受領の事
実につき付込証明を受けることを主たる目的として作成されたも
のと認められることは上記のとおりであって,原告が指摘するよう
な目的が併存するとしても,上記の結論を左右するものということ
はできない。
したがって,原告の上記②及び③の主張は採用することはできな
い。
ウなお,原告は,金融機関の外務員が作成する「集金票」(甲4
4ないし46)と同様,本件各文書が金銭の受領目的の付込証明を
する目的ではない旨の主張もしている。
しかし,上記の集金票は,外務員がその得意先から預金等のた
めに現金や預金通帳等を受領した場合にその事実を記入すること
を主たる目的とするものであり,その際に,外務員が顧客に対して
預金の払戻金を届けることがあることから,その場合にも便宜使用
できるよう,集金授受控えの下部に「お届物件」欄を設け,顧客の
受領印をもらうことができるようにしたものである。したがって,
上記の集金票は,その文書自体の形式,内容,使用方法等の諸点か
らみて,本件各文書とは主たる目的を異にするものであることが明
らかであり,本件各文書に関する上記の認定判断を左右するものと
はいえない。
4争点3(本件各文書が「帳簿」に当たるか否か)について
(1)本件各文書が「帳簿」に当たるか否かについて
ア課税文書とされる「判取帳」とは,課税物件表1号,2号,1
4号又は17号に掲げる文書により証されるべき事項につき,二以
上の相手方から付込証明を受ける目的をもって作成された帳簿を
いうとされている(課税物件表20号)。
判取帳は,例えば,販売業者が多数の仕入れ先に仕入れ代金を
支払うに際して多数の仕入れの相手方に順次代金の受領事実を付
込証明してもらう場合や,会社が配当利益を株主に対して現金で支
払うに際して多数の株主から順次支払の事実を付込証明してもら
う場合に作成される(乙2)。
印紙税法が帳簿としての判取帳を課税物件とした趣旨は,上記
のように,判取帳は,複数の相手方に対して金銭等の交付をするこ
とを内容とする取引が行われることを想定して作成されるもので
あり,当該取引に係る金銭の受取事実等について継続的又は連続的
に記載することを目的としたものであるから,その作成者の側(金
銭等を支払う側)においても,当該文書の背後に経済的利益がある
ことが推定され,そこにある程度の担税力が認められる点にあると
解される。
そうすると,課税物件表20号にいう「帳簿」とは,上記の事項
(1号,2号,14号又は17号に掲げる文書により証されるべき
事項)を継続的又は連続的に記載することを目的として作成される
ものであるという点で,1号,2号,14号又は17号に掲げる文
書(いわゆる「証書」と呼ばれるもの。)と区別されるべきものと
解される。
この点に関し,印紙税法基本通達6条は,「証書」(1号から
17号までに掲げる文書)と「通帳等」(18号から20号までに
掲げる文書)とは,課税事項を1回限り記載証明する目的で作成さ
れるか,継続的又は連続的に記載証明する目的で作成されるかによ
って区別する旨定めているところ,この通達の定めは,上記のよう
な20号に係る解釈に照らし,同号の「帳簿」該当性に係る判断基
準として合理性を有するということができる。
そうすると,「証書」か「帳簿」かの区別は,単に紙数の単複に
よるものではなく,課税事項を1回限り記載証明する目的で作成さ
れるか,継続的又は連続的に記載証明する目的で作成されるかとい
う文書の作成目的により判断すべきである。
イ以上を前提として本件についてみると,上記前提事実及び認定
事実によれば,①原告は,本件各店舗において多数の顧客に対し
多品種の日用雑貨やインテリア用品等の販売を行っているところ,
商品を購入した顧客が,後に商品の交換,返品などを求め,それに
伴って顧客に対する返金を行うという取引が多数回発生すること
から,これに対応するため,一定の処理基準(本件マニュアル)を
作成していること,②本件各文書は,本件マニュアルに従って使
用されることが予定されているものであり,顧客の要望に応じて返
品を受けて返金を行う場合,商品の交換を行う場合などにおいて,
その都度,担当者が,本件各伝票の各欄に,商品の購入日,品名,
品番,金額などを記載することが予定されていること,③本件各
文書は,実際にも,概ね本件マニュアルに従って使用され,個別商
品ごとに逐次記載され,その後,本件各文書として本件各伝票が切
り離されることなく保管されていることが認められるところ,これ
らの点を総合すれば,本件各文書は,本件各店舗において多数回発
生する上記のような商取引に関して,金銭の受領の事実という課税
事項を継続的又は連続的に記載証明する目的で作成されたものと
認めることができる。
したがって,本件各文書は,個々の伝票(1枚)が「証書」に
当たるのではなく,その全体が「帳簿」に該当するものと認めるの
が相当である。
(2)これに対して原告は,①現行の印紙税法における「証書」と「通
帳等」との区別は,昭和42年全文改正前の旧印紙税法における「証
書」と「帳簿」の区別と同様であることを前提として,本件各文書
は連続的に記載証明をする目的で作成された文書であり,これを切
り離した場合にはそれぞれが独立して証書としての効用を有するも
のと認められるものであるので,それぞれ各別の証書であると認め
られること,②所得税法,法人税法,消費税法及び会社法の「帳
簿」,あるいは「会計帳簿」に伝票は含まれず,これと同義に解す
べきであることから,本件各文書については,本件各伝票(1枚)
が「証書」に該当することはあっても,本件各文書(1冊)が「帳
簿」に該当することはないなどと主張する。
ア原告の主張①について
旧印紙税法(乙4参照)は,同法1条に定める財産権の創設移転
等の事実を記載した文書は包括的に課税文書に該当する旨を定め
ており(いわゆる包括的課税主義),証書1通の意義につき,単に
1通の文書をいうのではなく,1個の事実又は法律行為を証明すべ
き各1通の文書をいうとするとし,文書に記載された事実又は法律
行為の個数を基準として課税対象となる証書の通数を判断するこ
ととし(旧印紙税法基本通達13条),証書と帳簿の区別に関して,
原告の上記主張のように解されていたことが認められる。
しかしながら,昭和42年全文改正後の印紙税法は,課税物件に
つき限定列挙主義を採用した上,上記2で判示したとおり「一の文
書」の概念を採用し,一の文書でこれに記載されている事項が課税
物件表の二以上の号に掲げる文書により証されるべき事項に該当
するときは,原則としていずれか一の号のみに所属することになる
ように規定が整備され(別表通則1から3まで),これらの規定に
従って文書の所属が決定され,「証書」と「通帳等」の区別が最終
的に決せられる仕組みを採用していることからすると,現行の印紙
税法における「証書」と「通帳等」との区別につき,昭和42年全
文改正前の旧印紙税法における「証書」と「帳簿」の区別と同様で
あると解することはできず,これらを同様に解する原告の上記主張
①は採用することはできない。
イ原告の主張②について
原告は,印紙税法で用いられている「帳簿」と,所得税法,法人
税法,消費税法及び会社法において用いられている「帳簿」あるい
は「会計帳簿」とを同義に解する根拠として法的安定性,予測可能
性といった点を指摘するが,これまで判示したとおり,印紙税は,
独自の観点から文書を捉えて課税対象としていることを勘案する
と,上記の点は,上記(1)の結論を覆すものとはいうことはできな
い。
ウ原告は,本件伝票綴りは,商品代金を返金しない場合(商品の
交換の場合など)にも使用されることが予定されており,その作成
目的は,商品代金の返還の事実を証明することを連続的に記載証明
することにあるものではないと主張する。
しかしながら,本件各文書が,顧客が商品代金の返金を受けたこ
とを証明することを主たる目的として作成されたものであること,
また,商品の交換の場合でも,商品代金の返金につき顧客の署名が
されたとみるべきこと,そして,実際にも,本件各文書のほとんど
が,不良品であることを理由としない返品又は交換をしたことに伴
う返金に関して顧客の署名がされていることは,上記3(2)アで認
定判断したとおりであるところ,これらの点を勘案すると,本件各
文書の作成目的は,商品代金の返金の事実を証明することを連続的
に記載証明することにあると認めることが相当である。これに反す
る原告の上記主張は採用することができない。
エ原告は,いわゆる手形の耳(手形発行の控え)は,そこに手形
の受領者が受領印を押せば,課税物件表17号の1の文書(受取書)
に該当し,証書として課税対象となるが,手形の耳は通常冊子状態
になっているにもかかわらず,帳簿としては課税対象とならないと
されていることとの比較から,本件各文書についても,証書に当た
り,帳簿には当たらないと主張する。
しかしながら,証拠(甲29,30)によれば,手形の耳には
「摘要」欄が設けられているにすぎず,文書としての形式や内容な
どからしても手形の受領者が同欄に受領印を押すことが当然に予
定されているものではないことに照らすと,手形の耳は,通常,当
該手形の受領事実につき継続的又は連続的に付込証明を受ける目
的で作成されるものではなく,手形の振出人における備忘を主たる
目的として作成されるものにすぎないというべきであって,「判取
帳」に該当しないと解される。したがって,原告の上記主張は,上
記(1)の結論を左右するものではない。
5争点4(本件各文書を「判取帳」として課税することの不合理性の
有無)について
(1)原告は,作成される帳簿の背後に担税力を見出すことができなけ
れば,当該帳簿は印紙税法の課税文書である「判取帳」には該当し
ないと解すべきであるとした上で,本件伝票綴りを利用した商品の
交換や返品においては,その背後に担税力を見出すことができない
旨主張する。
しかしながら,印紙税法は,判取帳の要件として,帳簿の背後に
担税力があること自体を要件としていないし,また,売買契約に係
る契約書(1号)又は売買代金に係る金銭等の受取書(17号の1)
により証されるべき事項に限らず,単なる金銭等の受取書(17号
の2)により証されるべき事項についてであっても,二以上の相手
方から付込証明を受ける目的をもって作成された帳簿であれば,判
取帳に該当することとされているのであるから,原告の主張はその
前提において失当である。
また,担税力の観点を勘案するとしても,本件各文書は,上記の
とおり,原告が本件各店舗において不特定多数の顧客を相手方とす
る営業活動を行っていることに伴い生じる取引現象に対応するため
に作成されているものであり,かつ,顧客との関係において顧客が
返還した商品の代金を受領した事実を証する目的で作成されたもの
と認められることからすると,その背後に担税力を全く見出すこと
はできないとまでは認めることはできない。
なお,印紙税法基本通達(第20号文書の3,4)は,「諸給与
一覧表等」(事業主が従業員に対して諸給与の支払をした場合に領
収印を徴収するもの)と「団体生命保険契約の配当金支払明細書」
(会社等が団体として生命保険契約に加入し,その配当金を受領し
てこれを加入者である従業員等に分配する際に受領印を徴収するも
の)につき,判取帳として課税しない取扱いとする旨を定めている
が(甲7,乙1),これは,そこで問題とされる取引が,必ずしも
事業主や会社等の対外的な営業活動に係るものではなく,事業主に
おける給与支払義務の履行のための事務整理上の目的や,会社等に
おける福利厚生活動の一環としての事務整理上の目的で,作成され
ているという性格が強いことから,課税の対象とはならないと解さ
れるところであるから,これらの文書をもって,担税力の有無それ
自体が要件であるとする原告の主張は採用することはできない。
(2)また,原告は,本件各文書が「判取帳」に該当し,課税文書にも
当たるとなると,原告に不合理な印紙税の二重課税がされることに
なる旨主張する。
しかしながら,印紙税は,文書に記載されている取引それ自体を
課税対象とするものではなく,文書を課税対象とするものであるか
ら,売買代金の受領とその返金について,それぞれ課税文書が作成
されるのであれば,それぞれに印紙税が課税されることになるので
あり,そのこと自体は必ずしも不合理とはいえない。原告の上記主
張は採用することはできない。
6本件各賦課決定処分の適法性
以上によれば,本件各文書は,課税物件表20号に規定する「判取
帳」に該当し,印紙税法3条1項に規定する課税文書に該当するとこ
ろ,原告は本件各文書に係る印紙税を納付していない。したがって,
原告は,印紙税法20条1項の規定により,別表1及び2の「過怠税
の額」欄のとおり,納付しなかった本件各文書に係る印紙税の額1冊
当たり4000円にその2倍に相当する金額を加えた合計額に相当す
る額を納付すべき義務を負う。
本件各賦課決定処分における過怠税の額は,上記金額と同額である
から,本件各賦課決定処分は適法である。
7結論
よって,原告の本件各請求は,いずれも理由がないからこれらを棄
却することとし,訴訟費用の負担については行政事件訴訟法7条,民
事訴訟法61条を適用し,よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第38部
裁判長裁判官谷口豊
裁判官平山馨
裁判官馬場潤

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