弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主       文
被告人Aを懲役2年6月に,被告人Bを懲役1年6月に処する。
この裁判が確定した日から,被告人Aに対し4年間,被告人Bに対し3年間,それ
ぞれその刑の執行を猶予する。
被告人Aから金300万円を追徴する。
被告人Aに関する訴訟費用は同被告人の負担とする。
理       由
(犯罪事実)
被告人Aは,東京都建設局河川部に勤務し,平成12年7月2日から同部長の特
命により砂防事業の計画及び実施に関する事務等を,同年11月1日から同部計画
課緊急砂防計画担当係主任として災害に関連する砂防事業の計画に関する事務等を
それぞれ担当していた者,被告人Bは,建設資材の研究,開発,製造及び販売等を
目的とするC株式会社(以下「C社」という。)の取締役営業部長として同社の営
業を統括していた者であるが,
第1 被告人Aは,
 1 平成12年11月2日ころ,東京都新宿区内の東京都庁第一本庁舎におい
て,Bから,東京都が神津島災害関連緊急砂防事業を実施するに際し,その測量及
び設計等を担当する業者に対してC社の開発に係る工法を採用するよう指示するな
ど有利な取り計らいを受けたことの謝礼及び東京都が三宅島災害関連緊急砂防事業
を実施するに際し,同様の有利な取り計らいを受けたいとの趣旨の下に供与される
ものであることを知りながら,現金50万円の供与を受け,
 2 平成13年2月6日ころ,同都新宿区内の料理店「D」において,Bから,
前記三宅島災害関連緊急砂防事業の実施に際し,その測量及び設計等を担当する業
者に対してC社の開発に係る工法を採用するよう指示するなど有利な取り計らいを
受けたことの謝礼及び将来も同様の有利な取り計らいを受けたいとの趣旨の下に供
与されるものであることを知りながら,現金90万円の供与を受け,
 3 同年3月7日ころ,同都新宿区内の喫茶店「E」において,Bから,上記2
と同様の趣旨の下に供与されるものであることを知りながら,現金160万円の供
与を受け,
 もって,それぞれ自己の前記職務に関して賄賂を収受した。
第2 被告人Bは
 1 前記第1の1記載の日時・場所において,Aに対し,同記載の趣旨の下に,
現金50万円を供与し,
 2 前記第1の2記載の日時・場所において,Aに対し,同記載の趣旨の下に,
現金90万円を供与し,
 3 前記第1の3記載の日時・場所において,Aに対し,同記載の趣旨の下に,
現金160万円を供与し,
 もって,それぞれAの前記職務に関して賄賂を供与した。
(証拠の標目) 省 略
(法令の適用)省 略
(量刑の理由)
1 本件は,平成12年6月下旬以降神津島近海で発生した火山性地震や三宅島で
起きた噴火による災害の復旧事業として東京都が行った神津島及び三宅島の災害関
連緊急砂防事業(以下「本件事業」という。)に関し,砂防ダムの計画及び実施等
の事務に携わっていた東京都建設局河川部職員の被告人Aが,その職務に関し,建
設資材の開発,販売等を目的とするC社の取締役営業部長で,本件事業を担当して
いたコンサルタント業者に自社の開発した砂防ダムに関する工法を採用してもらう
べく営業活動をしていた被告人Bから,前後3回にわたり,現金合計300万円の
賄賂の交付を受けたという贈収賄の事案である。
  公務員は,全体の奉仕者として公正に職務を遂行するとともに,これに対する
国民の信頼の確保に努めなければならない責務を負っているにもかかわらず,被告
人両名は,互いに私利私欲のために癒着し,賄賂を供与,収受したものであって,
本件は,東京都民の都職員の職務の公正さに対する信頼を失わせ,ひいては国民の
公務員全体に対する信頼をも失墜させた悪質な犯行である。その上,本件は,三宅
島の全島民が上述した噴火災害により住み慣れた島を離れて避難生活を送ることを
余儀なくされ,一日も早い災害復旧を願う国民の期待に沿うべく国及び都の関係者
が懸命の努力を続けている中で,こともあろうにその中核となる本件事業を担当し
ていた都職員によって敢行されたものであって,三宅島島民の悲痛な心情を踏みに
じり,かつ,国民の期待を裏切った点においても悪質かつ重大な犯行と言わざるを
得ない。
2 被告人Aは,もともと自己の収入に比して分不相応な遊興費等を工面するため
に作った借金が嵩み,その返済資金の捻出に困窮していたところ,東京都建設局河
川部のベテラン職員として本件事業の上記事務に従事することとなり,従前面識の
あった被告人Bと再会して,その接待を受ける中で,砂防事業の専門的知識を有
し,上司や同僚から信頼され,一般職員でありながらも事実上部内で強い発言力を
有していたことを悪用し,同被告人であれば自分の頼みを聞き入れてくれるとの考
えから,予め本件事業を担当していたコンサルタント会社にC社の砂防ダムに関す
る工法を進言して採用実績を作り,その上で同被告人に賄賂の提供を積極的に要求
したもので,被告人Aの上記犯行は,安易かつ自己中心的なものでその動機に酌量
の余地はないことはもとより,公務員としての自己の立場を利用し,業者の弱みに
つけ込んだ卑劣かつ悪質な犯行である。また,被告人Aは,本件賄賂を被告人Bに
要求するに当たって,三宅島の災害復旧に尽力する都職員の慰労のためと称し,あ
るいは,肉親の入院治療費に必要であると虚偽の事実を述べて,執拗に現金の提供
を求めたばかりか,回を重ねるごとに要求額をつり上るなど,その態様は狡猾かつ
大胆であって,収受した賄賂の金額も多額に及んでいる。
  加えて,被告人Aは,もともと被告人Bから数多くの飲食の接待を受けていた
中で判示第1の1の犯行に及び,その後東京都が開催した汚職等防止研修会に出席
し,その後の犯行を思い止まる機会があったにもかかわらず,さらに判示第1の2
及び3の各犯行に及んでいたものであって,公務員としての自覚に乏しく,規範意
識も相当鈍磨していると言わざるを得ない。
3 他方,被告人Bは,神津島での砂防工事において自社の砂防ダムに関する工法
を採用してもらい,さらに,それまで防災事業に実績のなかった工法を三宅島での
砂防工事において採用してもらおうと目論んでいたことから,被告人Aを積極的に
接待するなど癒着を強める中で,同被告人から現金の供与を求められるや,さして
躊躇することなくその求めに応じたものであり,被告人Bの上記犯行は,公務の廉
潔性に思いを致さず自己の利益のみを追及した甚だ身勝手なものであって,その動
機に酌量の余地はない。
  また,被告人Bは,最初に被告人Aから現金の供与を求められた際は,それが
同被告人と一緒に仕事をしている職員らのために使用されると考え,C社から仮払
金名下に現金を引き出して同被告人に渡したものの,その後は同被告人が個人的な
目的で現金を要求していることを認識しつつも,さらに同被告人から便宜を受けた
いとの考えからその要求に応じるとともに,他方では,会社の経理処理の必要から
同被告人に領収書の提出を求めるなど,その犯行の態様は必ずしも消極的であった
とは言えない。
4 これらの事情に照らすと,被告人Aの刑責は相当重く,被告人Bの刑責もまた
重いと言うべきである。
5 しかしながら,他方,被告人両名とも,捜査,公判を通じて関係事実を素直に
 認め,反省の態度を示すとともに,後悔の念を吐露している。
  また,被告人Aにおいては,これまで東京都建設局河川部の職員として,昭和
58年の三宅島災害や昭和61年の大島三原山噴火の折りなどにも都の災害対策の
砂防事業等に従事するなど,これまで長年にわたって東京都の災害対策事業等に貢
献してきていたところ,本件により,約30年間勤めた都職員を懲戒免職となった
こと,また,本件が発覚しマスコミに報道されるなどの社会的制裁も受けている
上,既に4か月間も身柄拘束を受けていること,さらに,同被告人にはこれまで前
科,前歴は一切なく,妻が裁判所宛てに手紙を提出していることなど,同被告人の
ために酌むべき事情も認められる。
  他方,被告人Bにおいは,本件により,創業時から約20年間にわたって勤め
た会社を解雇された上,マスコミに報道されるなどの社会的制裁も受けているこ
と,さらに,被告人Aに本件賄賂を供与するに当たって会社から引き出した300
万円については既に全額返済していること,その他,被告人Bにはこれまで前科,
前歴は一切なく,妻が今後の監督を約する上申書を提出していることなど,同被告
人のために酌むべき事情も認められる。
6 そこで,以上の諸事情を総合考慮し,被告人両名に対しては,いずれもその懲
役刑の執行を猶予することとして,主文の刑を量定した。
(求刑 被告人Aについて懲役2年6月,追徴300万円
    被告人Bについて懲役1年6月)
平成14年3月13日
東京地方裁判所刑事第1部
裁判長裁判官   川   口   宰   護
裁判官   福   士   利   博
裁判官石   田   寿   一

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