弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原審判をつぎのとおり変更する。
     鹿児島県姶良郡a村bc番地のdAの除籍中同人の父母欄を消除するこ
とを許可する。
         理    由
 一、 抗告の理由。別紙記載のとおりである。
 二、 当裁判所の判断。
 記録によると抗告人は戸籍法第一一三条にもとづいて本件戸籍訂正の申請をなし
たものであることが明らかである。ところで、同条の訂正は、戸籍の記載自体によ
りその記載事項が法律上許されないことが明白であるか、又は戸籍の記載に顕著な
錯誤若しくは遺漏があつて、その訂正が親族・相続法上の身分関係に重大な影響を
及ぼさない場合に限り、特に許された簡易手続であるから、こと荀くも親族・相続
法上の身分関係に影響を及ぼす案件では、たとえ、当事者間に異議がない場合でも
同法第一一六条の確定判決によるか、もし、法律上の障碍があつて同条の確定判決
を得ることができないときは、慎重な手続を経るため当該身分関係を招来する他の
身分関係について、少くとも家事審判法第二三条第二項による審判を経て、戸籍法
第一一三条の訂正の許可を与えるべきものと考える。
 記録によると、本件においては、戸籍上亡Bと抗告人の二男として記載されてい
るAは死亡しているので、同人を当事者とする親子関係不存在の訴も調停の申立も
できなくて、戸籍法第一一六条の確定判決(審判を含む)を得る方法がないわけで
あるから、家事審判法第二三条第二項により、Aの実父母であると主張するC、同
Dと戸籍上の父母とが対立当事者となつて、亡Aとの身分関係存否についての審判
を経、この審判をもとにして戸籍法第一一三条の訂正をなすのが本筋であろう。し
かし、本件においては、とも角も、戸籍上Aの母となつている抗告人Eが検察官を
相手方とする鹿児島地方裁判所加治木支部昭和三〇年(タ)第一号親子関係不存在
確認請求事件において亡AがEの子でないことを確認する旨の確定判決があるので
あるから、その手続の慎重を期した点においては家事審判法第二三条第二項の審判
を経たことと逕庭はないと言つてよい。
 <要旨>だとすると、この判決を資料とし、かつ、利害関係人に異議がないとき
は、この資料によつて確定された事項を一応戸籍上においても顕著な事項と
措定し、これと現実の戸籍記載を対比し、その顕著な矛盾の範囲内で、家庭裁判所
は戸籍法第一一三条の許可を与えるべきである。本件において、利害関係人に異議
がないことは記録によつて認めることができるから、つぎに訂正を許可すべき範囲
について審究する。原裁判所は前記確定判決の主文掲記の母子関係の範囲において
のみ訂正を許可し、主文に掲記してない父欄の訂正を許さないのである。しかし、
右判決は主文を直接理由づける判断において、亡Aは亡Bと抗告人E間の子でない
と認定しているばかりでなく、一方戸籍上亡Aが抗告人と亡夫Bの嫡出子となつて
いて、右Aが抗告人の子でないことが確認される以上、妻たる抗告人を離れて亡夫
Bと亡Aとの間にだけ親子関係を生ずる特別の事情のない本件においては、右確定
判決主文自体からしても論理的に当然に亡Aは亡Bの子でないことが帰結されるわ
けである。
 このように、亡Aが抗告人及その亡夫Bの子でないことが確定された以上、この
確定事項と直接衝突する戸籍は訂正を許すべきで、抗告人からの亡Aの父母欄の消
除の申請は理由があり、許可するのが相当であるのに、原裁判所が単に母欄のみの
消除を許可したのは明らかに失当である。 抗告人が抗告の理由において原審判を
非難する部分には、当裁判所の右の判断とその理論の過程に多少のくいちがいがな
いではないが、抗告人の戸籍訂正の申請を許可しなかつたことを不当とすることに
ついては同一の結論に帰するので、結局本件抗告は理由がある。
 よつて、家事審判法第八条、家事審判規則第一九条第二項によつて原審判を取り
消し、当裁判所において審判に代わる裁判をすることとし、主文のとおり決定す
る。
 (裁判長裁判官 桑原国朝 裁判官 淵上寿 裁判官 後藤寛治)

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