弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     本上告論旨は理由がない。
         理    由
 論旨は要するに、原判決が上告会社と承継前の被上告人との間の本件不動産譲渡
契約をもつて、昭和二五年法律第一六七号による改正前の商法(以下単に旧商法と
いう。)二四五条一項一号にいう「営業ノ全部又ハ一部ノ譲渡」(以下単に「営業
の譲渡」という。)にあたらず、したがつて、本件譲渡契約については上告会社の
株主総会の特別決議を経ることを要しないとしたのは、(一)本件譲渡契約の目的
物について証拠なくして事実を認定した違法があり、かつ(二)同号にいう「営業
の譲渡」の解釈を誤つた違法がある、というにある。
 よつて、まず、右(一)の所論について判断する。
 所論は要するに、本件譲渡契約が締結された当時、上告会社の営業用財産は本件
不動産だけで上告会社が所論の機械設備等を所有しなかつたことは、証拠上明白で
あるのに、原判決が、上告会社は、本件不動産のほか機械設備等を所有したと認定
したのは、証拠なくして事実を認定した違法がある、というにある。
 しかし、原審の右認定は、これに対応する挙示の証拠関係に照らして首肯できな
いわけでなく、その認定に所論の違法はない。
 つぎに、前示(二)の所論について判断する。
 所論は要するに、本件不動産譲渡契約は、上告会社の全資産ともいうべき重要な
財産を対象とするものであり、承継前の被上告人は同契約締結と同時に、上告会社
の一切の債務を引き受けその株式をも譲り受けているのであるから、本件譲渡は上
告会社の「営業の譲渡」と解すべきである、というにある。
 しかし、旧商法二四五条一項一号の規定制定の経緯に照らせば、同法条に「営業
の譲渡」という文言が使用されているのは、同法総則における既定概念であり、そ
の内容も比較的に明らかな右文言を用いることによつて、譲渡会社がする単なる営
業用財産の譲渡ではなく、それよりも重要である営業の譲渡に該当するものについ
て規制を加えることとし、併せて法律関係の明確性と取引の安全を企図しているも
のと理解される。したがつて、旧商法二四五条一項一号によつて特別決議を経るこ
とを必要とする「営業の譲渡」とは、同法二四条以下にいう営業の譲渡と同一意義
であつて、単なる営業用財産の譲渡をいうのではなく、営業そのもの、すなわち一
定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産の全部または一部
を譲渡し、これによつて譲渡会社がその財産によつて営んでいた営業的活動の全部
または一部を譲受人に受け継がせ、譲渡会社がその譲渡の限度に応じ、法律上当然
に同法二五条に定める競業避止義務を負う結果を伴うものをいうと解するのが相当
である(最高裁判所昭和三六年(オ)第一三七八号、同四〇年九月二二日大法廷判
決参照)。
 原判決は、これを通読すれば、「営業の譲渡」の意義について右と同趣旨の見解
に立つものであることが明らかである。
 そして、所論のように、会社からその重要な財産を譲り受けた者が当該会社の一
切の債務を引き受け、かつ同会社の株式を譲り受けたからといつて、同会社がその
財産によつて営んでいた営業的活動の全部または一部を当該譲受人に受け継がせた
といえないことは、いうまでもない。
 されば、本件不動産譲渡は旧商法二四五条一項一号にいう「営業の譲渡」にあた
らないとした原判決に所論の違法はない。
 よつて、裁判官山田作之助、同草鹿浅之介、同柏原語六、同田中二郎、同松田二
郎、同岩田誠の反対意見があるほか、裁判官全員の一致の意見で、主文のとおり判
決する。
 裁判官山田作之助の反対意見は、次のとおりである。
 昭和二五年法律第一六七号による改正前の商法(以下旧法という。)二四五条一
項一号は、会社がその「営業ノ全部又ハ一部」を他に譲渡するには、株主総会の特
別決議を経ることを要するとし、その特別決議なしでなされた譲渡行為は当然無効
であるとしているのである。その立法趣旨は、いうまでもなく、会社は営利を目的
として存在し、従つて営業をすることが存在の基礎なので、会社の営業を他に譲渡
するような行為は会社の存続の基礎に影響を及ぼすから、株主および会社の利益を
保護するため、みだりに会社の取締役が単独でこれらの行為をすることを禁じてい
る趣旨にほかならない。この趣旨に照らせば、会社が財産を他に譲渡した場合にお
いて、その財産が会社の目的である営業を遂行する物的基礎となつており、これを
他に譲渡することが会社の営業活動を廃止することを結果するもの、すなわち会社
の営業ひいては会社の存続の基礎に重要な影響を及ぼすものであるときは、その財
産の譲渡は、旧法総則にいう営業の譲渡ではないけれども、株主および会社の利益
を保護するため、旧法二四五条一項一号にいう「営業ノ譲渡」にあたると解するの
が相当である。従つて、譲渡の対象が財産であるということだけで、直ちに、右「
営業ノ譲渡」にあたらないとすることは、許されないのである。しかるに、原判決
は、上告会社の本件不動産の譲渡がその営業にいかなる影響を及ぼすかについてな
んら審理判断することなく、上告会社が譲渡したのは財産であつて、重要なもので
はあるが、営業ではないから、右譲渡について上告会社の株主総会の決議を経ない
でも有効であるとしているのであつて、旧法二四五条一項一号の解釈を誤つたか、
審理不尽、理由不備の違法を犯したものというべきである。従つて、私は多数意見
に反対せざるをえない(最高裁判所昭和三六年(オ)第一三七八号同四〇年九月二
二日大法廷判決における私の反対意見参照)。
 裁判官松田二郎の反対意見は、次のとおりである。
 (一) 昭和二五年法律第一六七号による改正前の商法(以下旧法という)二四
五条一項一号にいう「営業の譲渡」の意義は、現行商法の同条同項同号の営業譲渡
と同様である。これについては、次の二点が注意されるべきである。
  (1) まずここにいう営業は、単なる個々的財産の集合ではなく、営業の目
的のために組織化されて有機的一体をなす財産、すなわち客観的意義における営業
を意味する。従つて、同条同項同号の「営業の譲渡」とは、かかる客観的意義にお
ける営業の譲渡を意味し、営業的活動の承継は営業譲渡の要件ではない。もし多数
意見のごとく解するときは、営業的活動の承継がないとの一事を理由として、「営
業譲渡」たることを否定し、前記法条の要求する株主総会の特別決議を容易に潜脱
し得ることとなる。
  (2) 右に述べた意味における「営業」は、有機的一体をなすものであり、
それを構成する個々的財産の価値の総和よりも、遥に高度の価値を有するものであ
る。そして前記法条が、かかる高度の価値を有する営業の譲渡のためには、株主総
会の特別決議を要するものとし、これによつて会社および株主の利益を擁護しよう
とする以上、営業に属する重要財産をこれより分離して譲渡し、その結果、営業の
有機的一体としての高度の価値を破壊するような場合、その譲渡は、単なる財産の
譲渡と目すべきでなく、前記法条の営業譲渡に該当するものとして、株主総会の特
別決議を要するものと解すべきである。もしこれに反して、多数意見に従うときは、
営業に属する重要財産を個々的に譲渡することによつて、前記法条の要求する株主
総会の特別決議を容易に潜脱し得ることになろう。
 しかして、叙上の見解は、私が先に相当詳細に論じたところである(最高裁判所
昭和三六年(オ)第一三七八号同四〇年九月二二日大法廷における私の反対意見参
照)。
 (二)もつとも私が先に論じたところは、現行商法二四五条一項一号に関するも
のであるが、その見解は旧法の前記条文についても同様に妥当する。ただ現行商法
と旧法との条文上の差異に関連して、次の点を述べておきたい。
  (1) 旧法の下で、多数意見に従うときは、現行商法の下におけるよりも、
一層不当な結果を生ずることとなるのである。
 旧法二四五条一項一号は「営業ノ全部又ハ一部ノ譲渡」と規定していたのである。
すなわち、現行商法の同条同項同号のように、重要でない営業の一部譲渡を株主総
会の特別決議事項から除外していなかつたから、営業の一部譲渡には、その一部が
重要であるか否かを問うことなく、すべて株主総会の特別決議が必要だつたのであ
る。この点は注意を要するのである。従つて、もし多数意見によつて旧法の右条文
を解釈するときは、例えば株式会社が多数の工場を有するとき、そのうちのもつと
も重要な工場を譲渡しても、営業的活動の承継のないかぎり、何等株主総会の決議
を経ることを要しない。しかるに、その会社としてもつとも価値のない工場の譲渡
であつても,営業的活動の承継を伴うかぎり、株主総会の特別決議を要するのであ
る。おそらく何人も、前者の場合に株主総会の決議を不必要とし、後者の場合にこ
れを必要とすることの間に、著しい不均衡を感ずるであろう。要するに、営業譲渡
につき営業的活動の承継を要件とする多数意見が、いかに観念的で現実離れしたも
のであるかが、旧法の下では、一層如実に示されるのである。
  (2) 現行商法二四五条一項一号に該当するとき、株主の有する株式買取請
求権(商二四五ノニ)は、昭和二五年法律一六七号によつて、新たに追加されたも
のであり、従つて、本件当時、株主はこのような株式買取請求権を有していなかつ
たのである。しかし、このことは、旧法の前記法条の解釈を現行商法と異らしめる
ものではない。けだし、旧法上、営業譲渡につき、株主総会の特別決議が要求され
ていたことは、会社企業自体の利益と共に、株主の利益保護にも資するためであつ
たのであり、現行商法が新たに認めた株式買取請求権は、株主の利益保護を一段と
強化したものに過ぎないからである。
 (三) 営業譲渡の場合における「営業」の意義について、学説は多岐に分れて
いる。多数意見は、そのうちの一学説であるところの営業的活動の承継を必要とす
る見解を採り、この点を強調するのである。しかるに、多数意見はこの点を強調す
るにかかわらず、本件の具体的事件取扱の態度は、その強調されるところといかに
関連するか、必ずしも判然としないのである。すなわち、原審の確定したところに
よれば、上告会社が承継前の被上告人に対し本件不動産を譲渡する前、上告会社は
「営業を休止」していたばかりでなく、譲渡の対象は本件不動産のみで、機械設備
類は譲渡より除外されていたというのであり、原審は、この「営業の休止」と「不
動産のみが譲されたこと」をもつて、本件が前記法条の営業譲渡に該当しないこと
の根拠としたものと認められる。しかし、「営業の休止」は「営業の廃止」と異り、
少なくとも潜在的になお営業活動が残存すべき状態を意味するものと解するときは、
上告会社が「営業の休止」状態にあつたとしても、そのことは必ずしも上告会社の
営業的活動が承継前の被上告人に承継されなかつたことの根拠となし得ないであろ
う。営業が休止し、その機械設備が失われていても、得意先関係、仕入先関係、営
業上の秘訣などの事実関係の譲渡があれば、これに伴つて営業的活動の承継があり
得るからである。このように考えるとき、もし多数意見が、原審の認定した上告会
社の「営業の休止」をもつて、本件につき営業譲渡のなかつたことの一つの根拠と
する趣旨であるならば、失当であろう。それとも多数意見は、上告会社の不動産の
みが譲渡されたという点を強調して、本件について営業譲渡がないと解したのであ
ろうか。もしそうだとしたならば、多数意見は、事実関係の把握の点で失当であろ
う。思うに、原審の確定したところによれば、譲渡の対象たる本件不動産は、上告
会社の重要な営業用財産であり、しかも会社の唯一の財産ともいうべきものであつ
たのであるから、それが上告会社の営業――すなわち、有機的一体としてそれを構
成する個々的財産の価値の総和よりも高度の価値を有する営業――のうちで、もつ
とも重要な財産であつたことは、窺うに難くない。しかも、原審の確定したところ
によれば、承継前の被上告人は本件不動産の譲受の代償として、上告会社の総債務
を引受け、また上告会社の代表取締役以外の株主全員に対し払込株金を償環するた
めの資金を提供することを約したという以上、本件をもつて単なる不動産の譲渡と
いい得ないことは、きわめて明らかであろう。従つて、多数意見が本件をもつて単
なる営業用財産の譲渡のごとく解したとすれば、事実関係の忠実な考察と認め難い
のである。
 要するに、多数意見は右法条の解釈として失当であり、また本件の事実関係より
見ても正鵠を欠くものと思われ、私はこれに反対せざるを得ないのである。
 裁判官草鹿浅之介、同柏原語六、同田中二郎、同岩田誠は、裁判官松田二郎の右
反対意見に同調する。
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    横   田   喜 三 郎
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外
            裁判官    柏   原   語   六
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    岩   田       誠

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛