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平成25年12月24日判決言渡
平成25年(行ケ)第10154号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成25年12月10日
判決
原告カルソニックカンセイ株式会社
訴訟代理人弁理士廣瀬文雄
豊岡静男
被告株式会社デンソー
訴訟代理人弁理士碓氷裕彦
中村広希
井口亮祉
伊藤高順
主文
特許庁が無効2012-800143号事件について平成25年4月2
6日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた判決
主文同旨
第2事案の概要
本件は,特許無効審判請求を不成立とする審決の取消訴訟である。争点は,容易
想到性の有無である。
1特許庁における手続の経緯
被告は,平成8年5月23日,名称を「車両用指針装置」とする発明につき,特
許出願をし(特願平8-128704号),平成15年10月3日,特許登録を受
けた(特許第3477995号,甲13)。原告は,平成24年9月3日,請求項
1~3につき特許無効審判請求をした(無効2012-800143号,甲14)
ところ,特許庁は,平成25年4月26日,「本件審判の請求は,成り立たない。」
との審決をし,この謄本は同年5月9日に原告に送達された。
2本件発明の要旨
本件明細書(甲13)によれば,本件特許の請求項1~3に係る発明(以下,こ
れらを総称して「本件発明」ともいう。)は,以下のとおりである。
【請求項1】(本件発明1)
「目盛り板(20)と,この目盛り板上にて指示表示する指針(30)と,前記
目盛り板を光により照射する照射手段(50)とを備えた車両用指針装置において,
車両のキースイッチ(IG)のオフに伴い前記目盛り板照射手段の照射光の輝度を
徐々に低下させるように制御する制御手段(112,112A,113,113A,
121乃至124,130,130A)を備えることを特徴とする車両用指針装置。」
【請求項2】(本件発明2)
「目盛り板(20)と,この目盛り板上に指示表示する発光指針(30)と,前
記目盛り板を光により照射する目盛り板照射手段(50)と,前記発光指針を光に
より照射して発光させる指針照射手段(31)とを備えた車両用指針装置において,
車両のキースイッチ(IG)のオフに伴い前記目盛り板照射手段及び指針照射手段
の各照射光の輝度を徐々に低下させるように制御する制御手段(112,112A,
113,113A,121乃至124,130,130A)を備えることを特徴と
する車両用指針装置。」
【請求項3】(本件発明3)
「前記制御手段が,その制御を,前記目盛り板照射手段及び指針照射手段の各照
射光の輝度低下度合を相互に異ならしめるように行うことを特徴とする請求項2に
記載の車両用指針装置。」
3原告が主張する無効理由
本件発明1及び2は,以下の甲1に記載された発明(引用発明),甲2~甲7に記
載された周知の技術(周知技術1),甲8に記載された技術(公知技術1),並びに
甲5及び11に記載された技術常識(本件技術常識)からみて容易に発明をするこ
とができたものである。
また,本件発明3は,引用発明,周知技術1,公知技術1,本件技術常識及び甲
9に記載された技術(公知技術2)からみて容易に発明をすることができたもので
ある。
甲1:実願平3-81935号(実開平5-90323号)のCD-ROM
甲2:特開昭58-53535号公報
甲3:実願平3-39144号(実開平6-25033号)のCD-ROM
甲4:実願平3-109047号(実開平5-49494号)のCD-ROM
甲5:特開平5-326182号公報
甲6:特開平5-238309号公報
甲7:特開平5-13176号公報
甲8:実公平1-32592号公報
甲9:特開平4-266536号公報
甲11:特開平3-170816号公報
4審決の理由の要点
(1)引用発明について
甲1に記載された引用発明は,以下のとおりである。
「目盛板2と,この目盛板2上にて指示表示する発光指針4と,前記目盛板2を透
過して照明する目盛板照明装置3と,前記発光指針4を光により照射して発光させ
る指針照明装置5とを備えた車両用計器において,イグニッションキー10のオフ
に伴い前記目盛板照明装置3及び指針照明装置5を消灯させるように制御する制御
手段を備える車両用計器。」
(2)本件発明1における容易想到性について
ア本件発明1と引用発明との一致点及び相違点について
【一致点】
目盛り板と,この目盛り板上にて指示表示する指針と,前記目盛り板を光により
照射する照射手段とを備えた車両用指針装置において,車両のキースイッチのオフ
に伴い前記目盛り板照射手段を消灯させるように制御する制御手段を備えることを
特徴とする車両用指針装置である点。
【相違点1】
車両のキースイッチのオフに伴い消灯させるように制御する制御手段について,
本件発明1では,その照射光の輝度を徐々に低下させるように制御するのに対し,
引用発明では,単に,消灯させるように制御するにとどまる点。
イ判断
本件発明1は,引用発明(甲1),周知技術1(甲2~7),公知技術1(甲8)
及び本件技術常識(甲5,11)に基づいて,当業者が容易に発明をすることがで
きたものとはいえない。
(ア)周知技術1について
車両に関する照明である室内灯,キーシリンダ照明灯,足下照明灯,ヘッドライ
トや住宅用照明灯を消灯する際に,照射光の輝度を徐々に低下させるように制御す
ることは,一般にフェードアウトと呼ばれる周知技術であり,フェードアウトによ
り何らかの心理的効果がもたらされることも周知である(周知技術1)。
明るさが徐々に低下していることを認識できる視認対象を目盛り板に特定して,
キースイッチオフ後の車両用指針装置の視認性の斬新さを図るようにした本件発明
1と,室内灯,キーシリンダ照明灯,足下照明灯,ヘッドライトや住宅用照明灯を
消灯する際に,照射光の輝度を徐々に低下させるように制御してフェードアウト効
果を狙った周知技術1とは,照射光の輝度を徐々に低下させるように制御する点で
共通するとはいえる。しかし,周知技術1については,乗員などの人の周りの環境
の明るさ,すなわち,周囲の雰囲気全体の明るさを徐々に低下させることで,その
人に対するフェードアウトという心理的効果を狙ったものであり,視認対象が特定
されているものではない。これに対し,本件発明1は,車両用指針装置において,
「目盛り板の明るさがキースイッチのオフ後徐々に低下するので,乗員に対し,こ
の種指針装置におけるキースイッチのオフ後の斬新な視認性を提供できる。」との作
用効果を奏する点にその技術的特徴があり,視認対象が運転中に注目する必要のあ
る指針装置の目盛り板に特定されているものである。このように,照射光の輝度を
徐々に低下させるように制御することの技術的な意義は,本件発明1と周知技術1
とでおよそ異なるものである。そうすると,「イグニッションキー10」のオフに伴
い前記「目盛板照明装置3」及び「指針照明装置5」を消灯させるように制御する
ための制御手段を備えるにとどまる引用発明に,フェードアウト減光に係る周知技
術1を適用することはできない。
また,引用発明は,ブラックアウト効果,すなわち,イグニッションキーをオフ
にしたときに,車両用計器全面が暗黒となる効果を保つことを意図しているもので
あり,イグニッションキーのオフ後は,直ちに,「目盛板照明装置3」や「指針照明
装置5」が消灯されることが要請されるものであるから,車両におけるフェードア
ウト効果を得ることが周知であるとしても,阻害要因がある。
(イ)公知技術1(甲8)について
甲8には,「ヘッドランプ消灯直後におけるメータ類を読み取るための視認性を確
保するために,ヘッドランプの点灯に伴いメータ類の照明灯が通常の明るさで点灯
している際にヘッドランプを消灯したとき,照明灯が通常よりも滅光した状態で一
定時間だけ継続点灯され,その後に消灯するように制御することで,例えば夜間か
ら早朝にかけて運転する際など,周囲が明るくなってヘッドランプを消灯しても,
メータ類の照明は同時に消灯されずに徐々に明るさが変化するようにすることで,
メータ類が読みづらくなることがないようにした車両用メータ照明制御回路。」(公
知技術1)が記載されている。
引用発明と公知技術1とは,車両用計器やメータ類の照明を消灯するように制御
する点で共通するところがあるとはいえるものの,消灯することの契機が,イグニ
ッションキーのオフとヘッドランプの消灯とで互いに異なるものであるから,引用
発明に消灯することの契機が異なる公知技術1を適用することには,阻害要因があ
る。
また,公知技術1には,本件発明1と同じ「徐々に」との文言が用いられている
が,公知技術1の車両用メータ照明制御回路においては,照明灯は,通常点灯→一
定時間にわたる減光点灯→消灯と,段階的に変化するものであるから,「徐々に」が
本来有する意味である「ゆるやかに変化するさま」,「少しずつ変化するさま」とは
異なっているのに対し,本件発明1における「徐々に」は,本来有する意味と同一
であるから,公知技術1と本件発明1の「徐々に」は,実質的にその意味するとこ
ろが異なるといえる。
(ウ)本件技術常識について
本件特許の出願当時,メータ類の照明に白熱電球を使用することが技術常識(本
件技術常識)であったとしても,その電源オフ後に,乗員に視認可能な程度で徐々
にその輝度が低下していくことが技術常識であったとまではいえない。
(3)本件発明2における容易想到性について
ア本件発明2と引用発明との一致点及び相違点について
【一致点】
目盛り板と,この目盛り板上に指示表示する発光指針と,前記目盛り板を光によ
り照射する目盛り板照射手段と,前記発光指針を光により照射して発光させる指針
照射手段とを備えた車両用指針装置において,車両のキースイッチ(IG)のオフ
に伴い前記目盛り板照射手段及び指針照射手段を消灯させるように制御する制御手
段を備えることを特徴とする車両用指針装置。
【相違点2】
車両のキースイッチのオフに伴い消灯させるように制御する制御手段について,
本件発明2では,その照射光の輝度を徐々に低下させるように制御するのに対し,
引用発明では,単に,消灯させるように制御するにとどまる点。
イ判断
相違点2は,本件発明1について検討した相違点1と同じ内容である。
よって,本件発明2も,本件発明1についてした判断と同様に,当業者といえど
も,引用発明,周知技術1,公知技術1及び本件技術常識に基づいて容易に発明を
することができたとはいえない。
(4)本件発明3における容易想到性について
本件発明3は,本件発明2において,各照射光の輝度低下度合いを相互に異なら
しめた点を限定した発明である。
そして,請求人(原告)が,本件発明3が容易想到であるとして追加して挙げた
甲9は,「キーオフ時に,まず,指針の照明を消灯し,次いで,計器板の照明を消灯
すること,すなわち,指針の照明の消灯と,計器板の照明の消灯とのタイミングと
をずらすようにした車両用計器類照明装置。」(公知技術2)というものであり,指
針の照明の消灯と,計器板の照明の消灯とのタイミングとをずらすようにした車両
用計器類照明装置を開示するにとどまる。
よって,本件発明3も,本件発明1や本件発明2についてした判断と同様に,当
業者といえども,引用発明,周知技術1,公知技術1,公知技術2及び本件技術常
識に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
第3原告主張の審決取消事由
1取消事由1(本件発明1と引用発明との相違点1の判断の誤り)
本件発明1は,引用発明,周知技術1及び公知技術1に基づいて当業者が容易に
発明をすることができたものであるのに,容易想到性を欠くとした審決の相違点1
の判断は誤りである。
(1)本件発明の技術的意義と周知技術1(甲2~7)について
ア本件発明は,キースイッチのオフ後,すなわち,車両は停止しており,
もはや指針装置を読み取る必要のないときに,目盛り板照射手段(及び発光指針の
指針照射手段)の照射光の輝度を徐々に低下させるものであり,このことにより,
乗員に対し「この種指針装置におけるキースイッチのオフ後の斬新な視認性を提供
できる」(段落【0004】,【0006】)というのであるから,指針装置を注目す
ることが前提となっているものではない。そうすると,本件発明における「視認性
の斬新さ」とは,目盛り板や発光指針の明るさが瞬時に変化するのではなく,明る
さの変化に何かしらの工夫がなされることで,乗員が視認しているか否かにかかわ
らず,乗員に対しもたらされる「何らかの心理的効果」をいうものと解される。
イ周知技術1について記載された刊行物の中で,それぞれ,甲2において
「ムーディな」,甲3において「デジタル的な制御感をなくし,ごく自然な感じで」,
甲4において「利用者は気分が良くなる」,甲5において「心理的な負荷を軽減す
る」と表現された,フェードアウトによる「何らかの心理的効果」は,本件発明と
同様に「視認性の斬新さ」を意味するものであるから,本件発明と周知技術1とは,
照射光の輝度を徐々に低下させるように制御することの技術的な意義において同じ
である。
ウメータ類の照明(すなわち,目盛り板の照明)においても,視認性を考
慮して,減光する際に徐々に明るさを変化させることを示す公知例は複数存在し(甲
8,22,23),車両メータ類の照明において徐々に減光させることに困難性が
ないから,甲2~7の周知技術1に接した当業者であれば,フェードアウトによる
何らかの心理的効果を得ることを目的として,引用発明に周知技術1を適用しよう
とすることは当然のことであって,適用の動機付けは十分に存在する。
エ引用発明では,イグニッションキーのオフ後に,直ちに,全面が暗黒に
なることが要請される旨の記載はないから,周知技術1を引用発明に適用すること
に,阻害要因は存在しない。
また,本件発明1における視認性の斬新さを奏するという効果は,フェードアウ
トによる「何らかの心理的効果」を得るという点でその技術的意義が同じであるか
ら,周知技術1から当然に予測されるものであって,格別のものではない。
(2)公知技術1(甲8)について
ア公知技術1は,メータ類の照明においても,視認性を確保するために,
ヘッドランプを消灯してもメータ類の照明は同時に消灯させず,徐々に明るさを変
化させることが公知であり,その適用に困難性がないことを示すために引用したも
のである。したがって,消灯の契機が,引用発明のようにイグニッションキーのオ
フであるのか,公知技術1のようにヘッドランプの消灯であるかは無関係であり,
引用発明に消灯の契機が異なる公知技術1を適用することに,阻害要因があるとし
た審決の判断は当を得ないものである。
イ甲8の実施例としては,審決で示されているとおり,「照明灯は,通常点
灯→一定時間にわたる減光点灯→消灯と,段階的に変化するものである」が,実用
新案登録請求の範囲には「ヘッドランプの消灯が検出されたとき前記照明灯を通常
よりも減光した状態で一定時間だけ継続点灯させる」と記載されており,当該「減
光した状態で一定時間だけ継続点灯させる」とは,(考案の目的)「メータ類を減光
して一定時間継続点灯させることにより,メータ類の照明を徐々に変化させて」及
び(考案の効果)「メータ類の照明灯が通常よりも滅光した状態で一定時間だけ継続
点灯されるので,・・・照明は・・・徐々に明るさが変化する」の記載からみて,照
明の明るさを徐々に変化させることを含むものであるから,公知技術1は,照明の
明るさを徐々に変化させる構成を包含していることは明らかである。
したがって,公知技術1における「徐々に」は,用語本来の意味を有するもので
あり,本件発明1と公知技術1とは,指針装置やメータ類に係る輝度が徐々に低下
するという点で共通している。
(3)以上により,相違点1に係る本件発明1の構成は,引用発明,周知技術1
及び公知技術1に基づいて,当業者が容易に想到できたものである。したがって,
本件発明1と引用発明との相違点1についての審決の判断は誤りである。
2取消事由2(本件発明2と引用発明との相違点2の判断の誤り)
本件発明1は,引用発明,周知技術1及び公知技術1に基づいて当業者が容易に
発明をすることができたものであるから,本件発明2も,同様の理由により,当業
者が容易に発明をすることができたものである。したがって,本件発明2と引用発
明との相違点2についての審決の判断も誤りである。
3取消事由3(本件発明3と引用発明との相違点の判断の誤り)
公知技術2(甲9)は,本件発明3や引用発明と同様に,車両のキースイッチの
オフに伴い目盛り板照射手段及び指針照射手段の各照射光の輝度を低下させるよう
に制御する車両用指針装置に関するものである。したがって,公知技術2を引用発
明に適用して本件発明3の構成とすることは,当業者が容易に想到し得るものであ
る。したがって,本件発明3と引用発明との相違点についての審決の判断も誤りで
ある。
第4被告の反論
1取消事由1に対し
(1)本件発明の技術的意義と周知技術1について
ア本件発明における「指針装置を読取る必要のないとき」とは,キースイ
ッチがオフされた後は,自動車が停止し,エンジンが切られた状態であるので,乗
員はもはや運転のために指針装置からメータ類の情報を読み取る必要はないことか
ら,「指針装置からメータ類の情報を読み取る必要のないとき」を意味するのであり,
「指針装置を注目する必要のないとき」とは異なる。
本件発明は,このような状態で指針装置を演出のための意匠として用い,乗員に
斬新な視認性を与えようとしている。すなわち,本件明細書では,「目盛り板の明る
さがキースイッチのオフ後徐々に低下するので,乗員に対し,この種指針装置にお
けるキースイッチオフ後の斬新な視認性を提供できる。」としているのであるから,
本件発明1の「斬新な視認性」の効果は,演出されるシーンがキースイッチオフ後
の指針装置からメータ類の情報を読み取る必要はない状態であることを特定した上
で,さらに,演出の対象も指針装置に特定して,乗員が指針装置を視認したときに,
目盛り板の明るさが徐々に低下することによる斬新な演出効果をいうのである。し
たがって,「斬新な視認性」の効果は,原告の主張するように,乗員が視認している
か否かにかかわらず乗員が感じることができる「何らかの心理的効果」というよう
な漠とした効果ではない。
イ一方,周知技術1は,単に照明の消灯時に輝度を徐々に低下させるのみ
であって,意匠演出の対象を特定したものでもない。周りが徐々に暗くなるフェー
ドアウトと,キースイッチオフ後で,もはや情報を読み取る必要がなくなった指針
装置を,演出用に使って視認性の斬新さを図る本件発明とでは,技術的意義は当然
異なる。
ウ引用発明の制御は,審決の認定のとおり,「イグニッションキーのオフ
後に,直ちに,目盛板照明装置3や指針照明装置5が消灯される」ものである。し
たがって,フェードアウトが周知技術であるとしても,その周知技術を,直ちに消
灯する引用発明に適用するには阻害要因があるとした審決の認定に誤りはない。
(2)公知技術1(甲8)について
公知技術1は,夜間から早朝にかけての運転時に,指針装置からメータ類の情報
を読み取る上での視認性の目的で,ヘッドランプ消灯後に,乗員が明るさに慣れる
のに必要な一定時間だけ減光した状態で継続点灯するものである。一方,引用発明
は,イグニッションキーをオフにしてエンジンを停止し,もはや運転をする必要が
なく,メータ類から情報を読み取る必要がない状態での消灯であり,そもそも減光
のシーン及び態様が周知技術1と公知技術1とでは全く異なるものであり,技術思
想が異なる。よって,甲8は,引用発明に周知技術1を組み合わせる際の資料とは
本来的になり得ない。
また,引用発明の消灯に,減光することの契機が異なる公知技術1を適用するこ
とには,阻害要因があるとする審決の認定に誤りはない。
さらに,甲8は,メータ類を減光して一定時間継続点灯させることにより,メー
タ類の照明を徐々に変化させて明るさの変化に目が慣れるようにするものであるか
ら,徐々に変化させる一定時間は,明るさの変化に目が慣れるまでの時間となる。
これに対し,室内灯等のフェードアウトでは明るさの変化に目が慣れる必要はなく,
むしろ,変化に目が慣れない時間の方が雰囲気の演出には効果的である。このよう
に,早朝の運転中にメータ類を読み取るために明るさの変化に目を慣れさせるべく
必要な一定時間をかけて減光する公知技術1に,周知技術1の室内灯等のフェード
アウトを組み合わせることは困難である。
(3)したがって,本件発明1について,引用発明,周知技術1及び公知技術1
から当業者が容易に発明できたものでないとした審決の判断に誤りはない。
2取消事由2に対し
原告は,単に,本件発明1の無効理由と同様の理由を主張するのみであるとこ
ろ,原告の本件発明1における無効理由は,本件発明の「斬新な視認性」の曲解に
基づくものであるから,容易想到性を欠くとした審決の判断に誤りはない。
3取消事由3に対し
引用発明及び公知技術2(甲9)の消灯は,直ちになされるものであり,照射手
段の照明光の輝度を低下させる周知技術1(甲2~7)の照明灯等のフェードアウ
トとは全く異なっている。したがって,これらの適用に阻害要因があるとする審決
の判断に誤りはない。
第5当裁判所の判断
1本件発明について
本件明細書(甲13)によれば,本件発明につき,以下のことが認められる。
本件発明は,車両用指針装置に関するものである(段落【0001】)。
従来,車両のキースイッチのオンに伴い指針を発光させた後,所定時間の経過に
伴い文字板を発光させて,乗員に対し視認性の斬新さを与えるようにしたものがあ
るが(段落【0002】),これでは,キースイッチのオン後における視認性の斬新
さを与えることができるのみで,キースイッチのオフに伴う視認性の斬新さを与え
ることはできなかった。
そこで,車両用指針装置において,キースイッチのオフに伴う指針や目盛り板の
明るさの変化に工夫を凝らし,キースイッチのオフ後の視認性の斬新さを乗員に与
えるようにすることを目的として(段落【0003】),特許請求の範囲の請求項1
~3に記載の構成とした。すなわち,請求項1に記載の発明(本件発明1)によれ
ば,制御手段が,キースイッチのオフに伴い目盛り板照射手段の照射光の輝度を徐々
に低下させるように制御することにより,目盛り板の明るさがキースイッチのオフ
後徐々に低下するので,乗員に対し,この種指針装置におけるキースイッチのオフ
後の斬新な視認性を提供できるものであり(段落【0004】),また,請求項2及
び3に記載の発明(本件発明2及び3)によれば,制御手段が,キースイッチのオ
フに伴い目盛り板照射手段及び指針照射手段の各照射光の輝度を徐々に低下させる
ように制御することにより,目盛り板及び発光指針の各明るさがキースイッチのオ
フ後徐々に低下するので,乗員に対し,この種指針装置におけるキースイッチのオ
フ後の斬新な視認性を提供できるものである(段落【0006】)。さらに,請求項
3に記載の発明(本件発明3)のように,制御手段が,その制御を,目盛り板照射
手段及び指針照射手段の各照射光の輝度低下度合いを相互に異ならしめるように行
えば,請求項2に記載の発明(本件発明2)による斬新な視認性とは異なる斬新な
視認性を提供できるものである(段落【0008】)。
2引用発明について
甲1によれば,引用発明につき,以下のことが認められる。
引用発明は,走行速度,エンジン回転数などを表示するための車両用計器に関す
るものであり,詳細には車両を使用しないとき,すなわち,イグニッションキーが
投入されていないときには全面が暗黒となる,いわゆるブラックアウト型とした車
両用計器に係るものである(段落【0001】)。
従来の車両用計器においては,目盛り板に対する目盛り板照明装置は透過照明と
する直接照明が可能であるが,指針に対する指針照明装置は,この指針自体をライ
トガイドとして指針の背面に例えば白色塗料などで形成された反射塗膜に反射させ
る間接照明となり,前記目盛り板照明装置と比較して効率の低い暗いものとなるこ
とは避けられないものであった(段落【0004】)。そのため,目盛り板と指針を
覆うスモーク板で形成された窓ガラスの透過率を設定するときには指針側が読取り
可能な程度に透過率を高いものとしなければならず,これによりイグニッションキ
ーのオフ時においても車両用計器に直射日光が照射したときには前記指針,特に白
色皮膜が前記窓ガラスを透過して観視されるものとなり,使用者に甚だしく違和感
を与える問題点を生じていた(段落【0002】,【0005】)。
そこで,イグニッションキーのオフ時には内部照明の消灯と窓ガラスとして採用
されたスモーク板とによりブラックアウトする構成とした車両用計器において,前
記車両用計器の目盛り板のゼロ目盛り以下で,かつ,前記窓ガラスと指針との間と
なる位置には少なくとも前記窓ガラス側を暗色とした不透明部材により指針マスク
板を設け,前記イグニッションキーのオフ時には前記指針をゼロ目盛り以下に旋回
させて前記指針マスク板内に収納することを特徴とする車両用計器を提供すること
で,直射日光が照射したときにも指針が観視されることを防止してブラックアウト
効果が保たれるようにし,もって,観者に違和感を与えるのを防止するとの効果を
奏するようにしたものである(段落【0006】,【0014】)。
3取消事由1(本件発明1と引用発明との相違点1の判断の誤り)について
原告が引用発明,周知技術1,公知技術1及び本件技術常識からみて容易想到で
あるとの無効事由を主張したのに対し,審決は,本件技術常識を踏まえても,引用
発明に対し,周知技術1及び公知技術1を適用することができるとはいえず,当業
者といえども,本件発明1は,上記の技術から容易に発明することができたとはい
えないと判断した。そこで,以下,検討する。
(1)周知技術1について
ア甲2(特開昭58-53535号公報)
(ア)甲2には,「車両用室内灯点灯回路」に関する発明について,以下
の記載がある。
「本発明は乗用車両の室内灯(キー照明灯を含む)の明るさを徐々に減少させるよ
うにしたムーディな室内灯点灯回路に関する。」(第1頁右下欄第8~10行),
「第1図は本発明の第1実施例を示しており,第2図にその動作を示す。図におい
て,1は制御回路パッケージでドアSWⅠの入力信号によりルーンランプ3(裁判
所注「ルームランプ3」の誤記と解される。)を点灯させるものである。・・・
そして,乗用車(裁判所注:「乗車」の誤記と解される。)のために車両ドアを開
くと,スイッチ2が開位置から閉位置になり,トランジスタTrは最大バイアスが
印加され,室内灯3は最大明るさで点灯する。ドアが開いている間スイッチ2が閉
じており,この最大明るさが保たれる。・・・次にドアが閉じられると,スイッチ2
は開状態に戻る。ここで,コンデンサCtは抵抗Rtを介して徐々に放電し,端子
電圧は上昇していく。このためボルテージフォロワとしてトランジスタTrはコン
デンサ端子電圧に対応して電流増幅作用をなし,室内灯3を流れる電流を徐々に減
少させ,減光していく。」(第1頁右下欄第18行~第2頁左上欄第18行),
「室内灯3はいわゆるルームランプでなく,キー挿入口付近の照明ランプであって
もよい。」(第2頁左下欄第13~15行)
(イ)以上によれば,甲2には,審決の認定のとおり,「乗用車両の室内
灯(キー照明灯を含む)において,車両ドアを閉じると,室内灯の明るさを徐々に
減少させるようにしてムーディにする室内灯点灯回路。」が開示されているものと認
められる。
イ甲3(実願平3-39144号(実開平6-25033号)のCD-R
OM)
(ア)甲3には,「残光式車室内照明制御装置」に関する発明について,
以下の記載がある。
【0001】
【産業上の利用分野】
「本考案は,自動車の残光式車室内照明制御装置に関するものである。」
【0002】
【従来の技術】
「残光式車室内照明制御装置において,例えば,実開昭62-83746号,お
よび実開昭59-158540号に示される如く,ドアロック時等の残光照明が不
要となった時に遅延動作を禁止し,強制的に照明灯を消灯させるといった従来技術
がある。しかしながら,それらの考案は,単なるスイッチング回路により,照明制
御装置の駆動回路が構成されているため,遅延動作の禁止時にその出力信号をいき
なりストップさせてしまい,ルームランプなどの照明灯の消灯のしかたが急峻すぎ,
搭乗者に対しデジタル的な制御感覚を与えてしまうものであった。」
【0003】
【考案が解決しようとする課題】
「本考案は,ルームランプやキーシリンダ照明灯,足元照明灯などの車室内照明
消灯の遅延動作禁止時,および遅延動作の終了時において,照明灯の光量をやわら
かく落とすことによりデジタル的な制御感をなくし,ごく自然な感じで,照明灯が
消灯するといった効果を狙ったものである。」
【0004】
【課題を解決するための手段】
「本考案によれば,何れかのドアが開放された時車室内照明灯を点灯し,全ての
ドアが閉止された後は車室内照明灯を点灯し所定時間の遅延後に消灯する残光式車
室内照明制御装置において,前記ドアの全てが閉止されかつロックされた時,およ
び前記のドア全てが閉止されかつキースイッチがオンとなった時に強制的に遅延動
作を禁止し前記照明灯を消灯する手段を備えるとともに,前記遅延動作の終了時,
および遅延動作の禁止時に前記照明灯を減光消灯させる減光消灯手段を備えること
を特徴とする残光式車室内照明制御装置が提供される。」
【実施例】・・・・
【0012】
「その後,OFFディレイタイマ回路5が“H”レベル出力を終了すると,アン
ド回路A2の出力が“L”レベルとなり,オア回路OR3の出力も“H”レベルか
ら“L”レベルになる。この“L”レベル信号によりデューティ制御回路6が作動
し,図3に示すように“H”レベルのデューティ比が100%から0%に次第に減
少する駆動用信号を発生し,オア回路OR4を介してトランジスタTR1に与える。
これにより,トランジスタTR1はON,OFFを繰返し,照明灯7の光量は徐々
に柔らかく減少する。実際には,照明灯7の光量はトランジスタTR1のON,O
FFにより階段状に減少して行くが(図4),残像効果により,肉眼では柔らかく自
然に消灯したごとくとらえられる。なお,デューティ比制御時間T2は不自然にな
らない様,ごく短い時間で完了させる。」
【0019】
【考案の効果】
「以上説明したように,本考案の残光式室内照明制御装置は,何れかのドアが開
放された時は車室内照明灯を点灯し,全てのドアが閉止された後は車室内照明灯を
点灯し所定時間遅延後に消灯しており,また,前記ドアの全てが閉止されかつロッ
クされた時および前記ドアの全てが閉止されかつキースイッチがオンとなった時に
強制的に遅延動作を禁止する手段を備えているとともに,前記遅延動作の終了時,
および遅延動作の禁止時に前記照明灯を減光消灯させる減光消灯手段を備えるから,
照明灯の光量をやわらかく落とすことにより,デジタル的な制御感をなくし,ごく
自然な感じで,照明灯が消灯するという優れた効果がある。」
(イ)以上によれば,甲3には,審決の認定のとおり,「ルームランプや
キーシリンダ照明灯,足元照明灯などの車室内照明消灯の遅延動作禁止時,及び遅
延動作の終了時において,照明灯の光量をやわらかく落とすことによりデジタル的
な制御感をなくし,ごく自然な感じで,照明灯が消灯するといった効果を狙った車
室内照明制御装置。」が開示されていると認められる。
ウ甲4(実願平3-109047号(実開平5-49494号)のCD-
ROM)
(ア)甲4には,「車両用照光装置」に関する発明について,以下の記載
がある。
【0001】
【産業上の利用分野】
「本考案は,夜間等,暗い場所での車両への乗り降りの際,車体側方下部を照明
し搭乗者の安全を確保する車両用照光装置に関するものである。」
【0002】
【従来の技術】
「従来,ドアミラーの下側にランプを付けたものはあった。しかし,このランプ
は遠隔操作されるものではないし,また,その消灯時間を制御するようにしたもの
ではなかった。」
【考案が解決しようとする課題】・・・・
【0005】
「また,本考案の他の目的とするところは,消灯をコンデンサーの放電現象によ
り行うことが可能になり,発光部が徐々に減光していくので利用者は気分が良く,
しかも,夜間,車両を離れる際は,搭乗者がドアをロックしてから設定時間は点灯
しているのでより安全になる車両用照光装置を提供することにある。」
【課題を解決するための手段】・・・・
【0007】
「また,上記の第2の目的を達成するために,本考案は,請求項1記載の車両用
照光装置において,発光部制御手段がコンデンサーの放電現象で発光部の消点灯を
行う消点灯手段を備えたものである。」
【作用】・・・・
【0009】
「また,請求項2記載の車両用照光装置にあっては,消灯をコンデンサーの放電
現象により行うことが可能になり,発光部が徐々に減光していくので利用者は気分
が良く,しかも,夜間,車両を離れる際は,搭乗者がドアをロックしてから設定時
間は点灯しているのでより安全になる。」
【実施例】・・・・
【0024】
「コンデンサーCの放電により発光部3は減光して行き消灯する。この間,タイ
マー回路Tはアンド回路10の出力Xからの信号を出力し続け,第2のリレーRL
2を通電状態に維持している。」
【0025】
「上記の実施例によれば,車外が光センサー8の設定値より暗く,ドアを開ける
べくワイヤレス・ドアロックの送信部5を操作した場合は,発光部制御回路9が働
いて発光部3は点灯して足元を照らす。このように,夜間等,暗い場所での車両へ
の乗り降りの際,車体側方下部を照明し搭乗者の安全を確保することができる。ま
た,上記のような車体側方下部の照明は遠隔操作により行うことができるし,暗い
駐車場等では自分の車が直ぐに見つかる。」
【0026】
「また,消灯をコンデンサーCの放電現象により行うことが可能になり,発光部
3が徐々に減光していくので利用者は気分が良く,しかも,夜間,車両を離れる際
は,搭乗者がドアをロックしてから設定時間は点灯しているのでより安全になる。」
【考案の効果】・・・・
【0028】
「また,本考案は,発光部制御手段がコンデンサーの放電現象で発光部の消点灯
を行う消点灯手段を備えたので,消灯をコンデンサーの放電現象により行うことが
可能になり,発光部が徐々に減光していくので利用者は気分が良く,しかも,夜間,
車両を離れる際は,搭乗者がドアをロックしてから設定時間は点灯しているので,
より安全になる。」
(イ)以上によれば,甲4には,審決の認定のとおり,「車体側方下部を
照明する車両用照光装置において,消灯をコンデンサーの放電現象により行うこと
で,発光部が徐々に減光していくので利用者は気分が良くなる車両用照光装置。」が
開示されていると認められる。
エ甲5(特開平5-326182号公報)
(ア)甲5には,「放電灯点灯装置」に関する発明について,以下の記載
がある。
【0001】
【産業上の利用分野】
「本発明は,HIDランプ(高圧放電灯)を点灯させる放電灯点灯装置に関し,
特に車両用に用いられるHIDランプを点灯させる放電灯点灯装置に関するもので
ある。」
【発明が解決しようとする課題】・・・・
【0008】
「ところで,白熱電球においては熱発光であるから,電源が切断されてもフィラ
メント温度が一定値に低下するまでの間は図11に示すように光続けるいわゆる残
光現象を生じる。一般に,人の目の反応は10msecのオーダで行われるため,
上述の放電灯点灯装置のように瞬時に消灯すると,人の目に微分値の大きい反応を
与える。このような放電灯点灯装置を車両用のヘッドライトなどを点灯させる場合
に用いると,運転者や対向車等に対して急激な視覚的な変化を与え,心理的な負担
を加えることになり,強いては安全上の問題を発生する恐れがある。この点,白熱
電極などのように発光量が変化すると,徐々に暗くなり,上述のような問題を生じ
ない。」
【0009】
「本発明は上述の点に鑑みて為されたものであり,その目的とするところは,電
源スイッチのオフ時に放電灯を徐々に暗くすることができる放電灯点灯装置を提供
することにある。」
【0012】
【作用】
「請求項1の発明は,上述のように構成することにより,電源スイッチをオフし
た後にも放電灯を点灯可能な状態に保ち,且つ放電灯の発光量を徐々に消灯に至る
まで減少させ,白熱電球の残光特性とほぼ同様の状態で,電源スイッチのオフ時に
放電灯を徐々に暗くする。」
【0013】
「請求項2の発明は,上述のように構成することにより,平滑コンデンサの充電
電荷を電源として用いて電源スイッチの後段の各部を動作させ,電源スイッチをオ
フした後にも放電灯を点灯可能な状態に保ち,且つ放電灯の発光量を徐々に消灯に
至るまで減少させ,白熱電球の残光特性とほぼ同様の状態で,電源スイッチのオフ
時に放電灯を徐々に暗くする。」
【0031】
【発明の効果】
「請求項1の発明は上述のように,直流電源と,この直流電源の電圧を交流電圧
に変換するインバータ回路と,このインバータ回路の出力で点灯される放電灯と,
電源スイッチがオフされたことを検知するオフ検知手段と,電源スイッチのオフ時
点から一定時間内にインバータ回路のスイッチング素子のオンデューティあるいは
スイッチング周波数を可変して放電灯の発光量をほぼ消灯状態に至るまで徐々に減
少させる調光制御手段と,少なくとも電源スイッチのオフ時点から一定時間に放電
灯の点灯を維持するために上記電源スイッチの後段の各部に電源を供給する電源供
給手段とを備えているので,電源スイッチをオフした後にも放電灯を点灯可能な状
態に保ち,且つ放電灯の発光量を徐々に消灯に至るまで減少させ,白熱電球の残光
特性とほぼ同様の状態で,電源スイッチのオフ時に放電灯を徐々に暗くすることが
でき,これにより車両のヘッドライトなどとしてHIDランプなどの高圧放電灯を
用い,この高圧放電灯を点灯させる放電灯点灯装置として用いた場合に,ヘッドラ
イトなどが急激に消灯することに伴う運転者や対向車の人への心理的な負荷を軽減
し,安全性を向上させることができる効果がある。」
【0032】
「請求項2の発明は上述のように,直流電源と,この直流電源の電圧を交流電圧
に変換するインバータ回路と,このインバータ回路の出力で点灯される放電灯と,
電源スイッチのオフ時に充電電荷を電源として供給する平滑コンデンサと,この平
滑コンデンサの両端電圧が所定電圧以下に低下したことを検出する電圧検出手段と,
平滑コンデンサの両端電圧が所定電圧以下に低下した時点から一定時間内にインバ
ータ回路のスイッチング素子のオンデューティあるいはスイッチング周波数を可変
して放電灯の発光量をほぼ消灯状態に至るまで徐々に減少させる調光制御手段とを
備えているので,平滑コンデンサの充電電荷を電源として用いて電源スイッチの後
段の各部を動作させ,電源スイッチをオフした後にも放電灯を点灯可能な状態に保
ち,且つ放電灯の発光量を徐々に消灯に至るまで減少させ,白熱電球の残光特性と
ほぼ同様の状態で,電源スイッチのオフ時に放電灯を徐々に暗くすることができ,
請求項1と同様の効果が得られる。」
(イ)以上によれば,甲5には,審決の認定のとおり,「車両用に用いら
れるHIDランプ(高圧放電灯)を点灯させる放電灯点灯装置において,電源スイ
ッチをオフした後にも放電灯を点灯可能な状態に保ち,且つ放電灯の発光量を徐々
に消灯に至るまで減少させ,電源スイッチのオフ時に放電灯を徐々に暗くすること
ができ,これにより車両のヘッドライトなどとしてHIDランプなどの高圧放電灯
を用いた場合に,ヘッドライトなどが急激に消灯することに伴う運転者や対向車の
人への心理的な負荷を軽減すること」との技術事項が開示されていると認められる。
オ甲6(特開平5-238309号公報)
(ア)甲6には,「車両用ルームランプ消灯制御装置」に関する発明につ
いて,以下の記載がある。
【0001】
【産業上の利用分野】
「本発明は,自動車のルームランプ消灯回路に関し,特にドアを閉めた場合等の
ルームランプの消灯を制御するルームランプ消灯制御装置に関するものである。」
【0002】
【従来の技術】
「従来,自動車等のルームランプは,主にドアの開閉等に応じて消灯と点灯を制
御されていた。このような従来のルームランプによれば,自動車に乗車するために
ドアを開けるとルームランプが点灯し,夜間においても容易に自動車への乗り降り
が可能である。しかしながら,ドアを閉めると直ぐに消灯してしまうので,ドアを
閉めてからエンジンを始動しようとしたり,シートベルトを装着しようとしたりす
る場合には,手探りで行わなければならないという不便な点があった。」
【0003】
「近年,この欠点を解消するため,ドアを閉めた際に,直ぐに消灯するのではな
く,一定の時間をおいてから徐々に消灯するルームランプ制御装置が開発され,多
くの自動車に用いられている。」
【0004】
「このようなルームランプの一例が,例えば実開昭61-158531号公報に
記載されている。ここに記載されている「ルームランプフェードアウト回路」は,
ルームランプが消え始めてから完全に消えるまでの時間を調節することができるル
ームランプ制御装置である。一般に徐々に明るさを減少させることは,この公報に
も記載されてあるように「フェードアウト」と呼ばれる。したがって,本文におい
てもこの「フェードアウト」という語をしばしば用いる。」
(イ)以上によれば,甲6には,審決の認定のとおり,「従来から,ドア
を閉めた場合等のルームランプの消灯を制御するルームランプ消灯制御装置におい
て,ドアを閉めた際に,直ぐに消灯するのではなく,一定の時間をおいてから徐々
に消灯するルームランプ制御装置が多くの自動車に用いられていること」,及び「一
般に徐々に明るさを減少させることは『フェードアウト』と呼ばれること」につい
ての技術事項が開示されていると認められる。
カ甲7(特開平5-13176号公報)
(ア)甲7には,「照明装置」に関する発明について,以下の記載がある。
【0001】
【産業上の利用分野】
「本発明は,調光点灯を行う調光光源およびオンオフ点灯を行う非調光光源を備
えた照明装置に関する。」
【0002】
【従来の技術】
「例えば住宅の部屋用の照明装置においては,部屋の使用目的に合った雰囲気を
演出するために,白熱ランプや放電ランプ等が選択的に使用されている。」
【0003】
「また,例えば白熱ランプの点灯時および消灯時において,消灯状態から徐々に
明るくして点灯(フェードイン)したり,点灯状態から徐々に暗くして消灯(フェ
ードアウト)して雰囲気を演出するために,調光点灯を行うようにした照明装置が
ある。」
(イ)以上によれば,甲7には,審決の認定のとおり,「従来から,例え
ば住宅の部屋用の照明装置において,例えば白熱ランプの消灯時に,点灯状態から
徐々に暗くして消灯(フェードアウト)して雰囲気を演出するために,調光点灯を
行うこと。」が開示されていると認められる。
キ周知技術1について
以上のとおり,甲2~7には,上記ア~カのとおりの技術事項が記載されている
ことから,「車両に関する照明である室内灯,キーシリンダ照明灯,足下照明灯,ヘ
ッドライトや住宅用照明灯を消灯する際に,照射光の輝度を徐々に低下させるよう
に制御すること」は,一般にフェードアウトと呼ばれる周知技術であると認められ
る。
また,上記のとおり,甲2において「ムーディな」,甲3において「デジタル的な
制御感をなくし,ごく自然な感じで」,甲4において「利用者は気分が良くなる」,
甲5において「人への心理的な負荷を軽減する」とそれぞれ表現されているように,
フェードアウトによって「何らかの良好な心理的効果」がもたらされることも周知
であるといえる。
(2)本件発明の技術的意義について
本件発明は,前記1に認定したとおり,車両用指針装置において,そのキースイ
ッチのオフに伴う指針や目盛り板の明るさの変化に工夫を凝らし,キースイッチの
オフ後の視認性の斬新さを乗員に与えるようにすることを目的として,制御手段が,
キースイッチのオフに伴い目盛り板照射手段(ないし指針照射手段)の照射光の輝
度を徐々に低下させるように制御することにより,目盛り板(ないし指針)の明る
さがキースイッチのオフ後徐々に低下するとの構成をとり,斬新な視認性を提供す
るというものである。そして,段落【0033】には,乗員が座席に着席している
場合にのみ自発光指針及び目盛り板の発光輝度の低下処理を行い,乗員が離席して
いる際には「瞬時に暗く」するという第3の実施例が示されていることや斬新な「視
認性」を目指すものであることに照らすと,本件発明は,乗員に対して視覚に訴え
ることにより効果を与えるものと認められる。
その一方,本件発明は,キースイッチのオフを契機として制御を開始するもので
あり,もはや車両用計器の情報を読み取る必要がなく,目盛り板や指針を注視する
必要性がなくなった段階で作用するものであって,乗員が必ずしも指針や目盛り板
自体に注目している場合を前提とするものではない。そして,指針や目盛り板は,
車両用計器としての性質上,運転席に対面する視認しやすい位置に配置されており,
通常,乗員が着席して正面を向いた体勢であれば,その存在及び少なくともその光
が視界に入るものである。また,発明特定事項ではないものの,段落【0005】,
【0007】,【0019】には,「目盛り板照射手段及び指針照射手段として発
光ダイオードを用いれば,各照射光がその輝度の低下過程において色変化を生ずる
ことがなく,その結果,乗員に対し違和感を与えることがない。」旨が記載されてい
ることや,段落【0018】に「瞬時に暗くなることなく時間データtの増大に比
例して暗くなっていくので,イグニッションスイッチIGオフ後の自発光指針30
及び目盛り板20の斬新な視認性を乗員に提供できる。」と記載されていることに照
らすと,本件発明は,指針や目盛り板を注視する必要がないが,その存在あるいは
光が視界に入る状況下で,キースイッチのオフに伴って,指針や目盛り板が瞬時に
暗くなるという唐突感を生じさせず,違和感なくスムーズに減光することで,乗員
に良好な心理的効果を与えるものと解される。
そうすると,安全性の観点から視認性を確保するため,あるいは,光の変化に目
を慣らすための減光などの実際的な必要性とは異なり,フェードアウトによる「何
らかの良好な心理的効果」を得ようとする点で,本件発明と周知技術1とは共通す
るものであり,例えば,周知技術1がキーシリンダ照明灯である場合には,イグニ
ッションキーをオフにする際に,キー差込口がどこにあるかという情報を読み取る
必要がなくなったキーシリンダを演出用に使って,視認性の斬新さを図るものであ
ると解されるから,本件発明1によって奏される「視認性の斬新さ」は,周知技術
1により奏される「何らかの良好な心理的効果」と異なるものではないといえる。
よって,本件発明と周知技術1とは,照射光の輝度を徐々に低下させるように制
御する点で共通するだけでなく,その技術的な意義も同一であると認めるのが相当
である。
(3)引用発明への周知技術1の適用について
引用発明は,前記2に記載したとおり,イグニッションキーが投入されていない
ときに車両用計器の全面が暗黒となるブラックアウト型において,指針のみが観視
されることを防止してブラックアウト効果が保たれるようにし,観者に対する違和
感を防止するという効果を狙ったものである。そして,前記(1)の甲2~7に記載さ
れているように,フェードアウトによる何らかの良好な心理的効果を得ようとする
ことは,照明技術における一般的な課題であり,また,フェードアウトが種々の照
明に適用されていることを踏まえると,観者に対する違和感の払拭という心理的効
果を目指した引用発明において,目盛り板照明装置の制御手段として良好な心理的
効果を目指した周知技術1を適用して,照射光の輝度を徐々に低下させるように制
御することは,当業者にとって容易に着想し得ることである。また,甲8によれば,
メータ類の照明(目盛り板の照明)において,消灯に際し明るさを徐々に低下させ
ることが公知の技術(公知技術1)であると認められ,車両指針装置においてフェ
ードアウトを生じさせる構成をとることには技術的困難性がないことからも,容易
想到性が裏付けられる。
(4)被告の主張について
アこれに対し,被告は,引用発明の制御は,審決の認定のとおり,イグニ
ッションキーのオフ後に,直ちに,目盛り板照明装置や指針照明装置が消灯される
ものであるから,フェードアウトが周知技術1であるとしても,その周知技術1を,
直ちに消灯する引用発明に適用するには阻害要因がある旨主張する。
しかしながら,甲1に,「前記目盛板照明装置3と指針照明装置5とはイグニッ
ションキーのオフ時には共に消灯されて,車両を使用しないときには車両用計器1
はブラックアウトするものとされている点は従来例のものと同様である。」(段落
【0007】)及び「走行を停止しイグニッションキー10をオフすると前記「目
盛板照明装置3」と「指針照明装置5」とが消灯すると同時に,前記演算回路9は
所定数の逆転パルスを発生した後に自らも動作を停止するものとなり,この逆転パ
ルスにより前記指針4はゼロ目盛20aから更に下方,すなわち,マイナスの振れ
角側に回転し,前記指針マスク板7により覆われる範囲内に移動するものと成る。」
(同【0011】)と記載されているように,引用発明は,イグニッションキーを
オフにすると目盛り板照明装置と指針照明装置とが消灯するが,イグニッションキ
ーのオフ後に,「直ちに」消灯されなければならない必然性はない。また,図2に
記載された電源は,ステッピングモータ8に接続される演算回路9に対するもので
あって,「目盛板照明装置3」及び「指針照明装置5」に対するものではなく,こ
の点をもって,直ちに消灯されることを示すものとは認められない。
そうすると,引用発明に周知技術1を適用することに阻害要因があるとは認めら
れず,被告の前記主張は採用できない。
イまた,被告は,甲8に記載されているのは,自動車が走行中で指針装置
から乗員がメータ類の情報を読み取る必要がある際の減光であるから,引用発明の
消灯に,減光することの契機が異なる公知技術1(甲8)を適用することには,阻
害要因がある旨主張する。しかし,甲8は,メータ類の照明(目盛り板の照明)に
おいて徐々に減光することが技術的に困難でないことを例示したものであり,引用
発明に直接的に甲8の公知技術1を適用して本件発明を導くというものではないの
であるから,引用発明と公知技術1との消減光の契機が異なるとしても,減光させ
る技術において,その契機が差異をもたらすものでない以上,上記の契機の違いは
結論を左右するものでない。
(5)以上によれば,引用発明に,本件発明1と技術的意義を同じくする周知技
術1を適用して,相違点1に係る構成をとることは,当業者が容易に発明できたこ
とであるから,相違点1についての審決の容易想到性判断には誤りがある。
よって,原告主張の取消事由1は理由がある。
4取消事由2(本件発明2と引用発明との相違点2の判断の誤り)について
本件発明1と本件発明2は,照射光の輝度を制御する対象が,本件発明1が目
盛り板照射手段であるのに対して,本件発明2は,目盛り板照射手段及び指針照射
手段であるというものにすぎないのであるから,前記1と同様,引用発明の目盛り
板照明装置と指針照明装置の制御手段として周知技術1を適用して,照射光の輝度
を徐々に低下させるように制御すること,すなわち,本件発明2の相違点2に係る
構成とすることは,当業者が容易に想到できたものであるといえる。
したがって,本件発明2は,引用発明(甲1),周知技術1(甲2~7)及び公
知技術1(甲8)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである
から,相違点2についての審決の容易想到性判断には誤りがある。
よって,原告の取消事由2には理由がある。
5取消事由3(本件発明3と引用発明との相違点の判断の誤り)について
審決は,本件発明3は,本件発明2において,各照射光の輝度低下度合いを相互
に異ならしめた点を限定した発明であるから,本件発明3も,本件発明1や本件発
明2についてした判断と同様に,当業者といえども容易に発明をすることができた
とはいえない旨判断する。
本件発明3のうち,目盛り板照射手段及び指針照射手段の照射光の輝度を徐々に
低下させるように制御することについて,当業者が容易に発明をすることができた
ものといえることは,前記2において説示したとおりである。
そうすると,引用発明における目盛り板照射手段及び指針照射手段の照射光の輝
度の制御について,上記のようにそれぞれの輝度を徐々に低下させるように制御す
ることに加えて,「各照射光の輝度低下度合いを相互に異ならしめるように行う」と
の構成が容易に想到できるものであれば,本件発明3は,当業者が容易に発明をで
きたものといえることとなる。
そこで,検討するに,甲9は,「車両用計器類照明装置」に関する発明について,
車両のキースイッチをOFF位置からACC位置にすると計器用放電灯が点灯し,
その後,更にキースイッチをACC位置からON位置にすると指針用放電灯が点灯
することが開示されている。そして,車両のキースイッチは,エンジンを始動する
とき,すなわち,OFF位置からON位置にするときには,その間に必ずACC位
置を経由するようになっており,逆に,エンジンを停止するとき,すなわち,ON
位置からOFF位置にするときも同様である。そうすると,甲9には,審決の認定
するとおり,「キーオフ時に,まず,指針の照明を消灯し,次いで,計器板の照明を
消灯すること」,すなわち,「指針の照明の消灯と計器板の照明の消灯とのタイミン
グをずらすようにした車両用計器類照明装置」(公知技術2)が開示されているとい
える。
上記指針用放電灯は,引用発明の「指針照明装置」に,上記計器用放電灯は,引
用発明の「目盛板照明装置」にそれぞれ相当するから,この公知技術2を踏まえる
と,引用発明において,「指針照明装置」の消灯と「目盛板照明装置」の消灯とのタ
イミングとをずらすようにすることは,当業者が容易に想到し得ることであるとい
える。そして,本件発明2の相違点2に係る構成である,照射光の輝度を徐々に低
下させるように制御することと公知技術2を併せて構成した場合には,「目盛板照明
装置」(目盛り板を光により照射する目盛り照射手段)及び「指針照明装置」(発光
指針を光により照射して発光させる指針照射手段)の各照射光の輝度低下度合いが
相互に異なるものとなる。さらに,前記のとおり,照明灯の照射光の輝度を徐々に
低下させるように制御するフェードアウトは周知であることに加え,照明装置を用
いた意匠演出において,複数の照明灯についてタイミングをずらして消点灯ないし
減増光して一定の演出効果が得られることはありふれたことであることを考慮すれ
ば,このような構成を合わせて採用することも,当業者にとって容易に想到できる
ことである。
よって,本件発明3は,引用発明(甲1),周知技術1(甲2~7),公知技術1
(甲8)及び公知技術2(甲9)に基づいて,当業者が容易に発明をすることがで
きたものといえ,容易想到性を否定した審決の判断には誤りがある。原告の取消事
由3には理由がある。
第6結論
以上のとおり,原告主張の取消事由にはいずれも理由がある。
よって,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
清水節
裁判官
中村恭
裁判官
中武由紀

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