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平成15年(行ケ)第32号審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成15年7月23日
判    決
原    告      アイ-フロー・コーポレーション
同訴訟代理人弁理士柳 生 征 男
同中 田 和 博
同青 木 博 通
被    告      有限会社丼親堂本舗
同訴訟代理人弁護士二 関 辰 郎
同松 村 卓 治
同訴訟代理人弁理士川 和 高 穂
主    文
     1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
     3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
日と定める。
事実及び理由
第1 請求
 特許庁が無効2001-35384号事件について平成14年9月13日にし
た審決を取り消す。
第2 争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
 原告が商標権者である登録第4387328号商標(以下「本件商標」とい
う。)は,別紙審決書写しの「別掲本件商標」欄に記載のとおりの構成からなり,
商標法施行令(平成13年政令第265号による改正前のもの,以下同じ)1条別
表の第10類「医療用機械器具,氷まくら,三角きん,支持包帯,手術用キャット
ガット,吸い飲み,スポイト,乳首,氷のう,氷のうつり,ほ乳用具,魔法ほ乳
器,綿棒,指サック,避妊用具,人工鼓膜用材料,補綴充てん用材料(歯科用のも
のを除く。),耳栓,医療用手袋,家庭用電気マッサージ器,しびん,病人用便
器,耳かき」を指定商品とするものである。本件商標は,1998年(平成10
年)10月5日アメリカ合衆国においてされた商標登録出願に基づきパリ条約4条
による優先権を主張して,平成11年3月16日に登録出願され,同12年5月2
6日に設定登録された。
 被告は,平成13年8月30日,本件商標について無効審判を請求したとこ
ろ(無効2001-35384号事件),特許庁は,平成14年9月13日,「登
録第4387328号商標の指定商品中「医療用機械器具,家庭用電気マッサージ
器」についての登録を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。)を
し,その謄本は,平成14年9月26日に原告に送達された。
2 本件審決の理由
 「On・Q」の文字を横書きしてなる引用商標は,本件商標の出願時(優先
権主張の基礎となった平成10年10月5日をいう。以下同様とする。)及び登録
時(平成12年5月26日)において,被告の業務に係る商品である遠赤外線治療
器を表示するものとして周知であった。本件商標は,引用商標と類似している。引
用商標の使用に係る商品である遠赤外線治療器は,本件商標の指定商品中の「医療
用機械器具」の範疇に属し,また「家庭用電気マッサージ器」と類似する商品であ
る。したがって,本件商標は,請求に係る指定商品である「医療用機械器具,家庭
用電気マッサージ器」について,商標法4条1項10号に違反して登録されたもの
である。(別紙審決書写し記載のとおり)
第3 原告主張に係る本件審決の取消事由の要点
 本件審決は,①引用商標が,本件商標の出願時及び登録時において,被告の業
務に係る商品を表示するものとして周知であったと誤って認定し(取消事由1),
②本件商標が引用商標と類似していると誤って判断し(取消事由2),また,③本
件商標の指定商品中の「点滴ポンプ,薬の投与セット,カテーテル,注射器」(医
療用機械器具に含まれる。)及び「家庭用電気マッサージ器」が,引用商標の使用
に係る商品と類似すると誤って判断した(取消事由3)ものである。
1 取消事由1(引用商標の周知性認定の誤り)
 引用商標は,本件商標の出願時及び登録時において,被告の業務に係る商品
である温灸器を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたとはいえない
から,この点についての本件審決の判断は誤りである。
(1) すなわち,本件全証拠によっても,被告が主張するように,周知性が認定
できるほどの規模で,引用商標の付された温灸器が販売され,また,引用商標の付
された印刷物が頒布された事実は認められず,実際の販売台数及び頒布数は僅少な
ものであった。本件各証拠には,そもそも引用商標の記載がなく(甲23,24
等),それとの関連が不明なものが多く含まれている。また,商品の販売について
は,被告とその下請業者との間の取引内容が明らかになったからといって,商品が
実際にどの程度顧客に販売されたか不明である。商品カタログ(甲4,9,21,
31等),シール(甲22等)等についても,印刷部数が示されているのみであ
り,実際にどの程度取引者,需要者に頒布されたのか不明である。
 結局,被告が主張するような規模の販売,頒布の事実を認めることはでき
ない。
(2) 仮に,被告主張のとおり,引用商標の付された商品,印刷物が,実際に取
引者,需要者に販売,頒布されたとしても,引用商標は,商標法4条1項10号で
要求される周知性を獲得していなかったというべきである。
 すなわち,商標法は,先願主義の例外として,周知な先使用商標の保護の
ための登録障害事由(4条1項10号)及び先使用権(32条)の規定を設けてい
る。両者は,共に先使用に係る商標が「需要者の間に広く認識されている」ことを
要件としているが 後者が,商標権の効力を制限するに止まり,先願者の権利の安
定性を害する程度も低いのに対し,前者は,先使用者の怠慢により出願を怠ったに
もかかわらず,先願者の権利を無効とする規定であるから,両者は,先願者の法的
安定性を害する程度において異なる。したがって,両者の上記要件である周知性の
程度も異なって解釈すべきであり,商標法4条1項10号においては,競業者の圧
倒的多数部分に先使用商標が知られており,先願者が先使用商標を当然知りうべき
はずであった程度に周知でなければならないと解すべきである。
 しかるに,各種統計によれば,平成10年の医師の数は24万8611人
に上り,平成15年3月31日現在,あん摩マッサージ指圧師が16万8954
人,はり師が11万8162人,きゅう師が11万7101人もおり,平成10年
の全国の病院における1日当たりの在院患者数が139万3069人,1日当たり
の外来患者数が219万8139人に上り,平成10年における医療用具の国内出
荷総額は1兆9436億円に上っている。このような日本全体における医療用機械
器具の市場(医師,あん摩マッサージ指圧師,はり師,きゅう師,患者)の規模に
照らせば,仮に,被告主張のとおり,引用商標の付された被告商品・印刷物が,実
際に取引者,需要者に販売,頒布されたとしても,その数量及び金額は極少である
ことが明らかであるから,本件商標の登録を無効とすべき程度の周知性は出願時ま
でになかったというべきである。
 ちなみに,原告は,引用商標の存在を知らずに,1998年11月5日か
ら米国において本件商標の使用を開始したものである。本件商標は,「痛み止めの
薬(QUE)を点滴及びカテーテルを通じて絶えず送り続ける(ON)」という意
味合いから採択した造語商標である(「ON」は「動作の継続」を意味し,「QU
E」は特定の時間に供与できる痛み止めの薬の単位を表す。)。本件商標は,世界
各国において出願され,登録済みである。なお,原告は,1985年7月に設立さ
れた,病院用の医療機械器具を製造する会社であり,従業員数は357名,資本金
は3000万ドル,2000年の売上高は3196万6000ドルに上る。
2 取消事由2(商標の類否判断の誤り)
 本件商標は引用商標と類似しないから,これらが類似するとした本件審決の
判断は誤りである。
 すなわち,本件商標「ON~Q」は,「ON」と「Q」の間が中黒ではなく
「~」の記号よりなり,また,「Q」の文字構成も「○」の下に「~」を結合した
ユニークなデザインとなっている。
 これに対し,引用商標「On・Q」は,引用商標の使用に係る商品である温
灸器(なお,引用商標の使用に係る商品は温灸器のみであり,それ以外の医療用機
械器具には一切使用されていない。)の「温灸」の称呼「オンキュウ」をアルファ
ベットの当て字「On」,「Q」と中黒で表したものであり,その称呼自体に識別
力があるわけではなく,識別力はその外観のみにあるといえるから,引用商標は使
用商品との関係で極めて識別力の弱い商標であるというべきである。
 このような構成(外観)上の違いから,本件商標に接した需要者が,引用商
標との関係で,商品の出所の混同を生ずるおそれがあるとは考えられないから,本
件商標は引用商標と類似しないというべきである。
3 取消事由3(商品の類否判断の誤り)
 本件商標の指定商品中の「点滴ポンプ,薬の投与セット,カテーテル,注射
器」(医療用機械器具に含まれる。)及び「家庭用電気マッサージ器」は,引用商
標の使用に係る商品「温灸器」と類似しないから,これらが類似するとした本件審
決の判断は誤りである。
 すなわち,本件商標の指定商品中,原告の主力商品である「点滴ポンプ,薬
の投与セット,カテーテル,注射器」は,一般の病院で医師の指示により使用され
る医療用機械器具である。これに対して,引用商標の使用に係る商品「温灸器」
は,家庭や整体院において個人や医師以外の者により使用され,その販売方法も通
信販売の方法をとっている。したがって,両者は,生産部門,販売部門,取引経路
が全く異なる。
 また,本件商標の指定商品中「家庭用電気マッサージ器」は,体をたたいた
り,もんだりすることにより,体のこりをほぐす器具であるのに対して,引用商標
の使用に係る商品「温灸器」は,灸であり,灸治療の方法で体を温めることにより
体を治療するものであるから,両者は,その用途,機能が異なるものであり,同様
に,生産部門,販売部門,取引経路も全く異なる。
 したがって,本件商標の指定商品中の前記各商品と引用商標の使用に係る商
品「温灸器」とは,同一又は類似の商標が使用されても,商品の出所の混同を生ず
るおそれがあるとは認められないから,両商品は類似しない。
第4 被告の反論の要点
 本件審決の判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(引用商標の周知性認定の誤り)について
 引用商標が付された被告商品(遠赤外線治療器)は,平成7年から平成10年
までに合計7542台,平成12年までに合計10646台販売された。引用商標
が付された商品カタログは,本件商標の出願時までに1万5000部,登録時まで
に更に1万部印刷され,ガン関係の会議で頒布されたほか,全国の代理店,特約店
を通じて頒布されるなどした。被告は,遠赤外線治療法を開発したA(以下「A」
という。)の著作を4000部印刷して販売した。引用商標を付した被告商品は,
新聞等で全国に紹介され,座間市商工会議所も引用商標の周知性を認めている。
 これらの事情によれば,引用商標が本件商標の出願時及び登録時において,
既に需要者の間に広く認識され周知であったことが明らかである。
2 取消事由2(商標の類否判断の誤り)
 本件商標と引用商標が,外観及び称呼において類似することは明らかである
から,その旨の審決の判断は正当である。
3 取消事由3(商品の類否判断の誤り)
 引用商標の使用に係る商品である遠赤外線治療器は,本件商標の指定商品中
の「医療用機械器具」に属し,また,指定商品中の「家庭用電気マッサージ器」と
用途,機能等を共通にすることの多い類似する商品であることは,審査基準に照ら
しても明らかであるから,その旨の審決の判断は正当である。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(引用商標の周知性認定の誤り)について
(1) 後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 被告会社代表者B(以下「B」という。)は,平成5年当時,三友電気
株式会社(以下「三友電気」という。)の常務取締役であった。三友電気は,当
時,アイシー温灸器株式会社からの要請により,Aが治療法を開発した遠赤外線治
療器についての改良を行い,平成7年1月17日,改良を完成した遠赤外線治療器
(以下「本件治療器」という。)について,医療用具製造承認方を申請し,同年9
月28日,販売名を「アイシー電気温灸器V2-C型」,類別を「はり又はきゅう
用器具」として,医療用具製造承認を受けた(承認番号07B第0857号)。
 アイシー温灸器株式会社は,上記改良の完成後,商品カタログ(甲4,
乙2)を使用して,「アイシー電気温灸器」なる商標及び引用商標を付して本件治
療器の販売を開始したが,平成7年4月に倒産した。そこで,Bは,個人の立場で
「丼親堂本舗」の名称により,引用商標を付して本件治療器の販売を開始した後,
平成8年にいたり,医療用機械器具及び家庭用健康機器の製造販売等を目的とする
「有限会社丼親堂本舗」(被告会社)を設立し(同年11月1日登記),同社は,
それ以来Bの個人販売を引き継いで,同様の販売を続けている。
(甲2ないし4,8,乙1の1ないし4,2,27)
イ 平成7年7月ころ,Bは,丼親堂本舗の名称により,引用商標を付した
商品カタログ(甲9,乙4の1。以下「本件カタログ1」という。)を5000部
印刷した。なお,同カタログの表紙には「アイシー電気温灸器」なる商標が引用商
標と共に記載されているが,これは,同年4月のアイシー温灸器株式会社の倒産後
も,同社が使用していた「アイシー電気温灸器」なる商標を当面引き続き使用した
ためである。
 同年7月13日,Bは,本件治療器の本体に貼付するための,「アイシ
ー電気温灸器」なる商標が記載されたシール(乙5の1の2)を1000枚印刷し
た。同シールには,本件治療器の製造承認番号が記載されている。
 同年10月には,Bは,「アイシー電気温灸器」なる商標を「三井式温
熱治療器」に変更して,引用商標と併せて使用することとし,同月13日ころ,引
用商標及び「三井式温熱治療器」なる商標が記載された,本件治療器の本体に貼付
するためのシール(乙5の2の2)を1010枚印刷した。同シールにも,本件治
療器の製造承認番号が記載されている。
 平成8年9月,Bは,本件治療器の梱包用緩衝剤に貼付するための梱包
内容シール(乙19の7頁)を3000枚印刷したが,これにも「三井式温熱治療
器」なる商標と併せて引用商標が使用されている。
 同年11月1日,設立後の被告会社は,本件治療器の宣伝のため,温熱
治療法を開発したAの著書「自分でできる 温熱治療のポイント」第3版(甲2
3,乙9の1)を3000部出版し,同年12月10日,さらに3000部増刷し
た。同書の18頁には,「温灸器の梱包に入っている小冊子「オンキュー<V2-
C型>のご使用に当たって」をよく読んでから治療を始めるようにしてくださ
い。」との記載があるが,同小冊子(甲25,乙9の3)には,表紙等に引用商標
が表示されている。
 同年12月,被告は,既に印刷済みの本件カタログ1中の「アイシー電
気温灸器」なる商標の使用部分について,「三井式温熱治療器」なる商標への訂正
シールを貼付することとし,同訂正シール(乙19の20頁)を5000組印刷
し,本件カタログ1に貼付した。
 平成9年10月,被告は,本件治療器についての新たな商品カタログ
(甲31,乙8の1。以下「本件カタログ2」という。)を1万部印刷したとこ
ろ,その表紙には引用商標が記載されており,また,その定格欄には本件治療器の
製造承認番号が記載されている。
 平成11年8月,被告は,本件治療器についての新たな商品カタログ
(甲21,乙14の1。以下「本件カタログ3」という。)を1万部印刷したとこ
ろ,その表紙には引用商標が記載されており,また,その定格欄には本件治療器の
製造承認番号が記載されている。なお,本件カタログ3では,本件カタログ2記載
の本件治療器価格6万8500円が,6万8000円に変更されている。
 被告会社の特約店・代理店は,平成10年当時には全国に約100店あ
り,同様に平成12年当初には約150店になり,その後も増加しているところ,
前記各カタログや小冊子は,本件治療器の販売促進のため,特約店・代理店や顧客
に配布された。また,後記のとおり,3回にわたる「日本ガンコンベンション」の
会場において,本件カタログ1が各回約1000部ずつ合計約3000部が配布さ
れた。さらに,前記各シールは,所定の目的のため貼付されて使用された。
(甲9ないし12,21ないし23,25,31,32,乙4の1ないし
3,5の1の1・2,5の2の1・2,8の1・3,9の1・3,14の1・2,
19,20,21の1ないし13,26,27)
ウ B及び被告は,三友電気から,平成7年に760台,平成8年に194
7台,平成9年に3351台,平成10年に1484台(本件商標出願時の1月前
である9月5日までに984台),平成11年に1670台,平成12年に143
4台(本件商標登録時の1月前である4月26日までに694台),それぞれ本件
治療器の納品を受け,そのころにこれを販売した。なお,被告は,顧客や代理店,
特約店からの受注状況から翌月の販売数量を予想し,在庫量と照らし合わせた上,
三友電気に対し,本件治療器の発注を行うと同時に,代金相当額を振込送金してお
り,納品の約1か月後には,納品に係る本件治療器全部の販売をほぼ終わってい
る。したがって,本件治療器の販売台数は,平成7年から平成10年10月5日
(出願時)までの間に合計7000台余り,平成7年から平成12年5月26日
(登録時)までの間に合計9900台余りとなる。
(乙22の1ないし12,23の1ないし25,24の1ないし24,2
5の1ないし13,27,28の1ないし12,29の1ないし15)
エ 平成7年8月15,16日,アメリカガンコントロール協会日本支部主
催の「第1回日本ガンコンベンション」が,東京都千代田区大手町の「サンケイホ
ール」で開催されたが,その際,Aは,遠赤外線治療法について講演をした。ま
た,会場では,本件カタログ1が約1000部配布された。
 平成8年8月24,25日,同様の「第2回日本ガンコンベンション」
が,千葉市美浜区内の幕張メッセ国際会議場で開催されたが,その際,Aは,「癌
は先手を打てばこわくない」と題して遠赤外線治療法について講演をした。また,
会場では,本件カタログ1が約1000部配布された。なお,この講演を受けて,
同年9月11日付け「日刊ゲンダイ」において,Aの開発した上記治療法と本件治
療器についての紹介記事(乙10の3)が掲載されたところ,同記事には,引用商
標が付された本件治療器の写真も同時に掲載されている。
 平成9年8月23ないし25日,同様の「第3回日本ガンコンベンショ
ン」が,上記幕張メッセ国際会議場で開催されたが,その際,Aは,遠赤外線治療
法について講演をした。また,会場では,本件カタログ1(ただし,「アイシー電
気温灸器」なる商標の使用部分について,「三井式温熱治療器」なる商標への訂正
シール(乙19の20頁)が貼付されたもの)が約1000部配布された。
(甲23,26,27,乙9の1,10の1ないし3,11,19,2
0,27)
オ 平成12年3月1日発行の雑誌「健康ファミリー」(甲33,乙15の
1)には,「遠赤外線温熱治療器「On・Q」でわきあがる元気・健康」という特
集記事が掲載され,その中で,本件治療器使用者の体験談が紹介されている。
 平成12年4月1日発行の「全国療術師協会附属研修所同窓会報第12
号」(乙30)には,引用商標を使用した本件治療器の広告が掲載されている。
(甲33,乙15の1,30)
(2) 以上の認定事実によれば,①Bは,個人の立場で「丼親堂本舗」の名称を
使用して,平成7年4月から,遠赤外線治療のための医療用具である本件治療器
を,引用商標を付した上で販売していたところ,平成8年11月には,被告会社を
設立し,同社は,Bの個人販売を引き継いで,同様の販売を続けており,②B及び
被告は,引用商標が付された本件治療器を,平成7年から平成10年10月5日
(出願時)までの間に合計7000台余り,平成7年から平成12年5月26日
(登録時)までの間に合計9900台余り販売したものであり,③引用商標が付さ
れた,本件治療器についての本件カタログ1ないし3は,平成7年から出願時まで
に1万5000部,平成7年から登録時までに2万5000部が印刷され,被告会
社の全国の約100店以上の特約店・代理店や顧客に配布されたほか,前記「日本
ガンコンベンション」の席上でも約3000部が配布され,④その他,新聞,雑
誌,書籍等により,本件治療器を使用した遠赤外線治療法や,引用商標が付された
本件治療器の宣伝広告が行われていることが明らかである。これらの事情に照らせ
ば,引用商標は,本件商標の出願時及び登録時において,被告の業務に係る本件治
療器を表示するものとして需要者の間に広く認識されており周知であったというべ
きである。
(3) 原告は,「商品の販売について,被告とその下請業者との間の取引内容が
明らかになったからといって,商品が実際にどの程度顧客に販売されたか不明であ
る。」旨主張するが,前認定のとおり,被告は,本件治療器の発注に当たり,受注
状況と在庫量を照らし合わせた上で,必要な数量分のみを下請業者に発注し,商品
の納入後,ほぼ1か月の間に全部販売していたものであるから,原告の上記主張は
採用することができない。
 また,原告は,「商品カタログ,シール等についても,印刷部数が示され
ているのみであり,実際にどの程度取引者,需要者に頒布されたのか不明であ
る。」旨主張するが,前認定のとおり,これらも必要に応じて順次印刷されたもの
であるから,本件治療器の販売に合わせて使用されたと考えるのが自然であり,不
必要な在庫が多量に残ることは通常考えにくいから,原告の上記主張も採用するこ
とができない。
 さらに,原告は,「日本全体における医療用機械器具の市場(医師,あん
摩マッサージ指圧師,はり師,きゅう師,患者)の規模に照らせば,仮に,被告主
張のとおり,引用商標の付された本件治療器・印刷物が,実際に取引者,需要者に
販売,頒布されても,その数量及び金額は極少であるから,引用商標は,出願時ま
でには,商標法4条1項10号で要求される周知性を獲得していなかった。」旨主
張する。なるほど本件治療器の本件商標の出願時及び登録時までの間の販売数量等
は必ずしも多数とはいえないが,本件治療器は,遠赤外線治療のための医療用具で
あるから,大量消費型商品とは異なり,元来その需要者層が限定されているという
取引の実情を勘案すると,前認定の本件治療器の販売及び本件治療器に係るカタロ
グの頒布等により,引用商標は,本件商標の出願時及び登録時において,被告の業
務に係る本件治療器を表示するものとして上記需要者の間に周知であったというべ
きであるから,原告の上記主張は採用することができない。
 したがって,原告主張の取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(商標の類否判断の誤り)について
(1) 原告は,「本件商標「ON~Q」は,「ON」と「Q」の間が中黒ではな
く「~」の記号よりなり,また,「Q」の文字構成も「○」の下に「~」を結合し
たユニークなデザインとなっているのに対し,引用商標「On・Q」は,引用商標
の使用に係る商品「温灸器」の「温灸」の称呼「オンキュウ」をアルファベットの
当て字「On」,「Q」と中黒で表したものであり,その使用商品との関係上,そ
の称呼自体に識別力があるわけではなく,識別力はその外観のみにあるから,両者
の構成上の違いを考慮すると,本件商標に接した需要者が引用商標との関係で商品
の出所の混同を生ずるおそれはなく,本件商標は引用商標と類似しない。」旨主張
するので,検討する。
(2) 本件商標は,別紙審決書写しの「別掲本件商標」欄に記載のとおり,「O
N~Q」との文字を横書きしてなるものであり,「Q」の文字は,大きさが「O
N」に比べてやや大きく,また,構成が「○」の下に「~」を結合した字体となっ
ている。これに対し,引用商標は,「On・Q」の文字を横書きしてなるものであ
る。
 そこで,本件商標と引用商標とを比較すると,両者は,共に,「オンキュ
ー」との称呼を生じ,称呼を同一とするというべきである。また,外観について検
討すると,両者の相違点としては,①前者では「N」が大文字であるのに対し,後
者では小文字の「n」である点,②前者では,「Q」の文字の大きさが「ON」に
比べてやや大きく,「Q」の文字の構成が「○」の下に「~」を結合した字体とな
っているのに対し,後者では,「Q」の文字の大きさが「O」の文字の大きさと同
じであり,「Q」の文字の字体も他の文字と同じである点,③前者の「~」が,後
者では「・」となっている点が挙げられるが,全体としてみると,三文字の欧文字
の配列を同一にするものであり,「ON」(または「On」)と「Q」との間に区
切りのための記号を配置したものである点で共通しているから,上記相違点は決し
て著しいものとはいえず,両者は外観において類似するというべきである。(な
お,観念については,両者とも造語であり,特段の観念を生じないというべきであ
る。)
 したがって,本件商標と引用商標とは,称呼及び外観において同一又は類
似するものであるから,全体として商品の出所の誤認混同を生じるおそれのある類
似の商標であるというべきであり,原告の上記主張は採用することができず,原告
主張の取消事由2は理由がない。
3 取消事由3(商品の類否判断の誤り)について
(1) 原告は,「①本件商標の指定商品中の,原告の主力商品である「点滴ポン
プ,薬の投与セット,カテーテル,注射器」(医療用機械器具に含まれる。)と,
引用商標の使用に係る商品「温灸器」とは,使用方法や,生産,販売方法が全く異
なり,また,②本件商標の指定商品中の「家庭用電気マッサージ器」と,引用商標
の使用に係る商品「温灸器」とは,その用途,機能や,生産,販売方法が全く異な
るから,これらの事情によれば,本件商標の指定商品中の「点滴ポンプ,薬の投与
セット,カテーテル,注射器,家庭用電気マッサージ器」は,これに同一又は類似
の商標が使用されても,引用商標の使用に係る商品「温灸器」と出所の混同を生ず
るおそれがあるとは認められないから,両者は類似しない。」旨主張するので,検
討する。
(2) 前記認定のとおり,本件治療器は,遠赤外線治療に使用されるものであっ
て,「はり又はきゅう用器具」として医療用具製造承認を受けたものであるから,
本件商標の指定商品中の「医療用機械器具」の範疇に属する商品であるというべき
であり,原告主張の使用態様の相違等を勘案しても,同じく「医療用機械器具」と
して使用される「点滴ポンプ,薬の投与セット,カテーテル,注射器」と類似する
商品というべきである。また,証拠(乙4の1,8の1,14の1)によれば,本
件治療器の効果として,「血行を促進する,筋肉のこりをほぐす,神経痛・筋肉痛
を緩和する。」等が挙げられているから,このような本件治療器の用途,機能等
は,「家庭用電気マッサージ器」と共通する部分が多いものというべく,そうする
と,本件治療器は,「家庭用電気マッサージ器」とも類似する商品というべきであ
る。
 したがって,原告の上記主張は採用することができず,原告主張の取消事
由3は理由がない。
4 結論
 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に本件審決を
取り消すべき瑕疵は見当たらない。
 よって,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文
のとおり判決する。
  東京高等裁判所第3民事部
  裁判長裁判官北  山  元  章
 裁判官  清  水     節
    裁判官沖  中  康  人

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