弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 弁護人川島政雄の控訴趣意は別紙記載のとおりである。
 <要旨>出入国管理令第二条第二号によれば、同今にいう外国人とは日本の国籍を
有しない者で同号イからニまでに掲げる者をいうのであるから、同令第三条
違反の罪により有罪の言渡をするには、被告人が外国の国籍を有することの証拠を
示す必要は必ずしもなく、日本の国籍を有しないことの証明がありさえすれば足り
るのである。ところで、本件において原判決の拳示した証拠のうち所論の横浜地方
検察庁次席検事より国警各都道府県隊長宛の「指名手配の有無調査方依頼の件」と
題する書面、A事務官作成の電話聴取書、福井県国警本部よりの回答電報、静岡、
石川、島根各県の鑑識課長の回答書、横浜地方検察庁B、C事務官、D事務官、E
事務官、F事務官各作成の電話聴取書、高知県国家地方警察隊長よりの回答書及び
国家地方警察本部よりの指紋照会に対する回答によつては被告人に対する指名手配
がなされていないこと及び被告人の指紋が指紋台帳にのせられていないことが認め
られるだけで、被告人が日本人でないことの証拠とするに足りないことは所論のと
おりである。しかしながら、原判決はこのほかに被告人の司法警察員、検察事務官
及び検事に対する供述調書をも証拠として挙示しているのであつて、このうち検察
事務官に対する供述調書には、「私は現在国籍はありません、本年六月中旬まで中
華人民共和国の国籍を有しておりましたが政治犯にとわれ国籍を剥奪されました」
との供述の記載があり、さらに検事に対する供述調書には「私は無国籍であります
…………母は重慶政府、南京政府両国の国籍及香港の市民権、ポルトガルの国籍を
持つており、日本国籍はないとのことでした」との供述の記載があるのでこれらの
供述によつて被告人が日本国籍を有しないことを認定するに妨げないというべきで
あり、またこの点は単に身分を必要とする犯罪における身分に属する事項であつて
被告人の自白だけでこれを認定して差支ないことがらであるから、原判決が証拠に
基かないで被告人の外国人たることを認定したという論旨の非難は採用することが
できない。次に論旨は原判決が被告人を外国人と認定したのは事実の誤認で、被告
人は日本国籍を有するものだと主張する。すなわち被告人の母はもとG公爵家の出
身でHといい、長じて朝鮮の貴族であるI伯爵と結婚して被告人を生んだが、間も
なく離婚して一九三二年に被告人を伴い中国に渡つた者で、この時を限りに被告人
の母及び被告人は日本の戸籍から抹消されたけれども、その後においても被告人母
子はG家の血縁でJ皇后の庇護を受けていたものだというのである。しかしなが
ら、かりにその主張のような事実があつたとしても、被告人自身はI伯爵の子とし
て朝鮮の戸籍に入籍すべき者であつたわけであり、そうであるとすれば平和条約の
発効により今日においては日本の国籍を喪失していろ筋合であるのみならず、一件
記録を精査したところによつても、また当審における事実の取調の結果によつても
被告人側のかかる事実の主張を裏付ける資料は一つも発見されず、むしろ当審の証
人Kの証言と京都市中京区役所及び下京区役所の回答書とを綜合すれば、被告人の
主張するような事実はなかつたことが認められるのであつて、このことと被告人が
現に中国から密航してきた事実とを綜合すれば、被告人がさきに検察官及び検察事
務官に対して述べたように少くとも日本の国籍を持つてなないことは真実だと判断
されるのである。はたしてしからば原判決には事実の誤認もないというべきである
から、この点の論旨もまた理由がない。
 (裁判長判事 大塚今比古 判事 山田要治 判事 中野次雄)

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