弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 弁護人山口紀洋の上告趣意第一について
 所論は、憲法二一条一項違反をいうが、憲法二一条一項は、表現の自由を絶対無
制限に保障したものではなく、公共の福祉のため必要かつ合理的な制限を是認する
ものであつて、たとえ思想を外部に発表するための手段であつても、その手段が他
人の財産権、管理権を不当に害するごときものは許されないといわなければならな
いから、原判示A線吉祥寺駅構内において、他の数名と共に、同駅係員の許諾を受
けないで乗降客らに対しビラ多数枚を配布して演説等を繰り返したうえ、同駅の管
理者からの退去要求を無視して約二〇分間にわたり同駅構内に滞留した被告人四名
の本件各所為につき、鉄道営業法三五条及び刑法一三〇条後段の各規定を適用して
これを処罰しても憲法二一条一項に違反するものでないことは、当裁判所大法廷の
判例(昭和二三年(れ)第一三〇八号同二四年五月一八日判決・刑集三巻六号八三
九頁、昭和二四年(れ)第二五九一号同二五年九月二七日判決・刑集四巻九号一七
九九頁、昭和四二年(あ)第一六二六号同四五年六月一七日判決・刑集二四巻六号
二八〇頁)の趣旨に徴し明らかであつて、所論は理由がない。
 同第二について
 所論は、判例違反をいうが、所論引用の判例は、鉄道地内への侵入が問題となつ
ている事案であつて、本件とは事案を異にし適切でないから、適法な上告理由にあ
たらない。
 なお、鉄道営業法三五条にいう「鉄道地」とは、鉄道の営業主体が所有又は管理
する用地・地域のうち、直接鉄道運送業務に使用されるもの及びこれと密接不可分
の利用関係にあるものをいい、刑法一三〇条にいう「人ノ看守スル建造物」とは、
人が事実上管理・支配する建造物をいうと解すべきところ、原判決及びその是認す
る第一審判決の認定するところによれば、被告人四名の本件各所為が鉄道営業法違
反及び不退去の各罪に問われた原判示A線吉祥寺駅南口一階階段付近は、構造上同
駅駅舎の一部で、A線又はC線の電車を利用する乗降客のための通路として使用さ
れており、また、同駅の財産管理権を有する同駅駅長がその管理権の作用として、
同駅構内への出入りを制限し若しくは禁止する権限を行使しているのであつて、現
に同駅南口一階階段下の支柱二本には「駅長の許可なく駅用地内にて物品の販売、
配布、宣伝、演説等の行為を目的として立入る事を禁止致します京王帝都吉祥寺駅
長」などと記載した掲示板三枚が取り付けられているうえ、同駅南口一階の同駅敷
地部分とこれに接する公道との境界付近に設置されたシヤツターは同駅業務の終了
後閉鎖されるというのであるから、同駅南口一階階段付近が鉄道営業法三五条にい
う「鉄道地」にあたるとともに、刑法一三〇条にいう「人ノ看守スル建造物」にあ
たることは明らかであつて、たとえ同駅の営業時間中は右階段付近が一般公衆に開
放され事実上人の出入りが自由であるとしても、同駅長の看守内にないとすること
はできない。したがつて、これと同旨の原判断は正当として是認することができる。
 よつて、刑訴法四〇八条により、主文のとおり判決する。
 この判決は、裁判官伊藤正己の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見によ
るものである。
 裁判官伊藤正己の補足意見は、次のとおりである。
 一 被告人らの本件各所為について、鉄道営業法三五条及び刑法一三〇条後段の
各規定を適用してこれを処罰しても、憲法二一条一項の規定に違反するものではな
いとする法廷意見に対して、私は異論がない。しかし、本件は、一般公衆が自由に
出入りすることのできる場所においてビラを配布するという表現の自由の行使のた
めの手段にかかるものであつて、憲法上検討すべき問題を含むものであるから、若
干の意見を補足しておきたい。
 二 憲法二一条一項の保障する表現の自由は、きわめて重要な基本的人権である
が、それが絶対無制約のものではなく、その行使によつて、他人の財産権、管理権
を不当に害することの許されないことは、法廷意見の説示するとおりである。しか
し、その侵害が不当なものであるかどうかを判断するにあたつて、形式的に刑罰法
規に該当する行為は直ちに不当な侵害になると解するのは適当ではなく、そこでは、
憲法の保障する表現の自由の価値を十分に考慮したうえで、それにもかかわらず表
現の自由の行使が不当とされる場合に限つて、これを当該刑罰法規によつて処罰し
ても憲法に違反することにならないと解されるのであり、このような見地に立つて
本件ビラ配布行為が処罰しうるものであるかどうかを判断すべきである。
 一般公衆が自由に出入りすることのできる場所においてビラを配布することによ
つて自己の主張や意見を他人に伝達することは、表現の自由の行使のための手段の
一つとして決して軽視することのできない意味をもつている。特に、社会における
少数者のもつ意見は、マス・メデイアなどを通じてそれが受け手に広く知られるの
を期待することは必ずしも容易ではなく、それを他人に伝える最も簡便で有効な手
段の一つが、ビラ配布であるといつてよい。いかに情報伝達の方法が発達しても、
ビラ配布という手段のもつ意義は否定しえないのである。この手段を規制すること
が、ある意見にとつて社会に伝達される機会を実質上奪う結果になることも少なく
ない。
 以上のように、ビラ配布という手段は重要な機能をもつているが、他方において、
一般公衆が自由に出入りすることのできる場所であつても、他人の所有又は管理す
る区域内でそれを行うときには、その者の利益に基づく制約を受けざるをえないし、
またそれ以外の利益(例えば、一般公衆が妨害なくその場所を通行できることや、
紙くずなどによつてその場所が汚されることを防止すること)との調整も考慮しな
ければならない。ビラ配布が言論出版という純粋の表現形態でなく、一定の行動を
伴うものであるだけに、他の利益との較量の必要性は高いといえる。したがつて、
所論のように、本件のような規制は、社会に対する明白かつ現在の危険がなければ
許されないとすることは相当でないと考えられる。
 以上説示したように考えると、ビラ配布の規制については、その行為が主張や意
見の有効な伝達手段であることからくる表現の自由の保障においてそれがもつ価値
と、それを規制することによつて確保できる他の利益とを具体的状況のもとで較量
して、その許容性を判断すべきであり、形式的に刑罰法規に該当する行為というだ
けで、その規制を是認することは適当ではないと思われる。そして、この較量にあ
たつては、配布の場所の状況、規制の方法や態様、配布の態様、その意見の有効な
伝達のための他の手段の存否など多くの事情が考慮されることとなろう。
 三 ある主張や意見を社会に伝達する自由を保障する場合に、その表現の場を確
保することが重要な意味をもつている。特に表現の自由の行使が行動を伴うときに
は表現のための物理的な場所が必要となつてくる。この場所が提供されないときに
は、多くの意見は受け手に伝達することができないといつてもよい。一般公衆が自
由に出入りできる場所は、それぞれその本来の利用目的を備えているが、それは同
時に、表現のための場として役立つことが少なくない。道路、公園、広場などは、
その例である。これを「パブリツク・フオーラム」と呼ぶことができよう。このパ
ブリツク・フオーラムが表現の場所として用いられるときには、所有権や、本来の
利用目的のための管理権に基づく制約を受けざるをえないとしても、その機能にか
んがみ、表現の自由の保障を可能な限り配慮する必要があると考えられる。道路に
おける集団行進についての道路交通法による規制について、警察署長は、集団行進
が行われることにより一般交通の用に供せられるべき道路の機能を著しく害するも
のと認められ、また、条件を付することによつてもかかる事態の発生を阻止するこ
とができないと予測される場合に限つて、許可を拒むことができるとされるのも(
最高裁昭和五六年(あ)第五六一号同五七年一一月一六日第三小法廷判決・刑集三
六巻一一号九〇八頁参照)、道路のもつパブリツク・フオーラムたる性質を重視す
るものと考えられる。
 もとより、道路のような公共用物と、一般公衆が自由に出入りすることのできる
場所とはいえ、私的な所有権、管理権に服するところとは、性質に差異があり、同
一に論ずることはできない。しかし、後者にあつても、パブリツク・フオーラムた
る性質を帯有するときには、表現の自由の保障を無視することができないのであり、
その場合には、それぞれの具体的状況に応じて、表現の自由と所有権、管理権とを
どのように調整するかを判断すべきこととなり、前述の較量の結果、表現行為を規
制することが表現の自由の保障に照らして是認できないとされる場合がありうるの
である。本件に関連する「鉄道地」(鉄道営業法三五条)についていえば、それは、
法廷意見のいうように、鉄道の営業主体が所有又は管理する用地・地域のうち、駅
のフオームやホール、線路のような直接鉄道運送業務に使用されるもの及び駅前広
場のようなこれと密接不可分の利用関係にあるものを指すと解される。しかし、こ
れらのうち、例えば駅前広場のごときは、その具体的状況によつてはパブリツク・
フオーラムたる性質を強くもつことがありうるのであり、このような場合に、そこ
でのビラ配布を同条違反として処罰することは、憲法に反する疑いが強い。このよ
うな場合には、公共用物に類似した考え方に立つて処罰できるかどうかを判断しな
ければならない。
 四 本件においては、原判決及びその是認する第一審判決の認定するところによ
れば、被告人らの所為が行われたのは、駅舎の一部であり、パブリツク・フオーラ
ムたる性質は必ずしも強くなく、むしろ鉄道利用者など一般公衆の通行が支障なく
行われるために駅長のもつ管理権が広く認められるべき場所であるといわざるをえ
ず、その場所が単に「鉄道地」にあたるというだけで処罰が是認されているわけで
はない。したがつて、前述のような考慮を払つたとしても、原判断は正当というほ
かはない。
  昭和五九年一二月一八日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    木 戸 口   久   治
            裁判官    伊   藤   正   己
            裁判官    安   岡   滿   彦
            裁判官    長   島       敦

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