弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人儀同保の上告理由について
 原審の適法に確定したところによると、(1) 被上告人は、昭和四八年二月五日
から一四日までの間に、上告人らに対し、文書により個別に、就業すべき日、時間、
場所及び業務内容を指定して出張・外勤を命ずる業務命令(以下「本件業務命令」
という。)を発したが、上告人らは、いずれも、右指定された時間、被上告人会社
に出勤し、その分担に応じ、書類、設計図等の作成、出張・外勤業務に付随する事
務、器具の研究、工具等の保守点検等の内勤業務に従事し、本件業務命令に対応す
る労務を提供しなかつた、(2) 上告人らの所属する労働組合は、これに先立ち、
同年一月三〇日、被上告人に対し、同年二月一日以降外勤・出張拒否闘争及び電話
応待拒否闘争に入る旨を通告していたものであり、右闘争は、一定期間労務の提供
を全面的に拒否するのではなく、組合員が通常行う業務のうち右の種類の業務につ
いてのみ労務の提供を拒否するというものであつて、上告人らが本件業務命令によ
る出張・外勤を拒否して内勤業務に従事したのは、右通告に基づき争議行為として
したものである、(3) 被上告人会社においては、出張・外勤の必要が生じた場合、
従業員が自己の担当業務の状況等を考慮し、注文主と打合せの上、あらかじめ日時
を内定し、上司の許可ないし命令を得るとか、上司から出張・外勤を命ぜられた場
合にも、出張日程等については上司と協議の上これを決定するなど、従業員の意思
が相当に尊重されていたが、このような取扱いは、被上告人が業務命令を発する手
続を円滑にするため事実上許容されていたにすぎない、というのである。
 原審は、右事実関係に基づき、本件業務命令は、組合の争議行為を否定するよう
な性質のものではないし、従来の慣行を無視したものとして信義則に反するという
ものでもなく、上告人らが、本件業務命令によつて指定された時間、その指定され
た出張・外勤業務に従事せず内勤業務に従事したことは、債務の本旨に従つた労務
の提供をしたものとはいえず、また、被上告人は、本件業務命令を事前に発したこ
とにより、その指定した時間については出張・外勤以外の労務の受領をあらかじめ
拒絶したものと解すべきであるから、上告人らが提供した内勤業務についての労務
を受領したものとはいえず、したがつて、被上告人は、上告人らに対し右の時間に
対応する賃金の支払義務を負うものではないと判断している。原審の右判断は、前
記事実関係に照らし正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。右
違法のあることを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠く。論旨は、採用す
ることができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意
見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    高   島   益   郎
            裁判官    谷   口   正   孝
            裁判官    和   田   誠   一
            裁判官    角   田   禮 次 郎
            裁判官    矢   口   洪   一

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