弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成14年5月2日判決言渡
平成13年(ネ)第422号,平成14年(ネ)第82号 交通事故に基づく損害賠償請求控訴
事件,同附帯控訴事件(原審・札幌地方裁判所平成12年(ワ)第5145号)
口頭弁論終結日 平成14年2月26日
判決
主文
1 本件控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人(附帯控訴人)は,控訴人(附帯被控訴人)に対し,金6504万7
267円及びこれに対する平成7年5月17日から支払済みまで年5分の割
合による金員を支払え。
3 控訴人(附帯被控訴人)のその余の請求を棄却する。
4 本件附帯控訴を棄却する。
5 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを10分し,その3を控訴人(附帯被控
訴人)の負担とし,その余を被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。
6 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 平成13年(ネ)第422号事件(本件控訴)
(1) 控訴の趣旨
ア 原判決を次のとおり変更する。
イ 被控訴人(附帯控訴人。以下「被控訴人」という。)は,控訴人(附帯被控訴
人。以下「控訴人」という。)に対し,金8957万1916円及びこれに対する平
成7年5月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
ウ 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
(2) 控訴の趣旨に対する答弁
ア 本件控訴を棄却する。
イ 控訴費用は控訴人の負担とする。
2 平成14年(ネ)第82号事件(本件附帯控訴)
(1) 附帯控訴の趣旨
ア 原判決中被控訴人の敗訴部分を取り消す。
イ 控訴人の請求を棄却する。
ウ 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
(2)附帯控訴の趣旨に対する答弁
ア 主文第4項と同旨
イ附帯控訴費用は被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
  次のとおり補正するほか,原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」に記載さ
れたとおりであるから,これを引用する。
1 原判決3頁6行目及び18行目の各「幅員9メートル」を「幅員8メートル」に,19行
目の「歩道幅員2.8メートル」を「歩道幅員1.8メートル」にそれぞれ改める。
2 同3頁16行目の「続けていたものであり,」の次に「急ブレーキをかけたり,左にハ
ンドルを切るなどの」を加える。
3 同5頁15行目の次に行を改めて次のとおり加える。
「 女子年少者の後遺障害による逸失利益の算定に当たっては,賃金センサスの
女子労働者の全年齢平均賃金を用いるのではなく,男女を合わせた全労働者
の全年齢平均賃金を基礎として算出すべきである。
 (被控訴人は,この主張に対し,現在の労働市場における男女間の賃金格差を
無視するものであって,到底採用し得ないものであると反論している。)」
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は,本件控訴は一部理由があるが,本件附帯控訴は理由がないものと
判断する。その理由は,次のとおり補正するほか,原判決の「事実及び理由」の
「第3 争点に対する判断」に説示されたとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決5頁25行目の「幅員約9メートル」を「幅員約8メートル」に,6頁1行目
の「接道している。」を,「ほぼ直角に接道している。」にそれぞれ改める。
(2) 同6頁6行目の「走行し」の次に「(本件道路の制限速度は40キロメートル)」を
加える。
(3) 同6頁7行目の冒頭から23行目の末尾までを次のとおり改める。
「  被控訴人は,衝突地点の約11.7メートル手前にさしかかったところで,対
向車線に停車中の車両と車両の間から,被控訴人車進行車線に向けて自
転車を押しながら出てきた控訴人の姿を発見した。被控訴人は,危険を感
じてその場でブレーキをかけたが間に合わず,被控訴人車の右前部付近と
控訴人の自転車の左前側部とが衝突し,被控訴人は路面に転倒した。衝
突地点は,本件道路のセンターラインから50センチメートル程度南東側
(被控訴人車走行車線側)に寄った地点であった。衝突後,被控訴人車は,
衝突地点から約16.7メートル(被控訴人が控訴人を初めて発見した位置
から約28.4メートル)やや左斜め前方の道路側端で停止した。
 なお,被控訴人は,危険を感じて急ブレーキをかけ,その結果被控訴人車
は衝突地点付近で停まった旨供述するが,本件道路は平坦なアスファルト
舗装で,本件事故当時路面は乾燥していたにもかかわらず,スリップ痕が
ないことのほか(乙1),上記のような路面状況の道路を時速40キロメート
ルで走行していた場合の停止距離(甲21)や本件事故直後の実況見分の
際の被控訴人や目撃者の指示説明の内容に照らすと,被控訴人が急ブレ
ーキをかけたとは認められず,また,停止位置に関する上記供述部分も採
用しがたい。
(2)ア 以上の事実をもとに検討するに,交通整理の行われていない交差点を
自転車で横断するに際し,特に交差道路の手前側車線が渋滞して自動
車が連続停車している状況で,その間を縫って交差点を横断しようとす
るときは,その反対車線(被控訴人車進行車線)を走行する左方からの
自動車の動静に十分注意しなければならないことはいうまでもなく,しか
も,当該自動車からは停止車両の陰となって横断者の有無が確認しにく
いことが容易に予測されるのであるから,とりわけその安全を十分に確
認してから横断を開始すべきところ,本件で控訴人がどの程度の安全確
認を行ったかは必ずしも明らかではないけれども,結果的に前記の衝突
地点で本件事故が生じていることからして,控訴人に上記の安全確認義
務を怠った過失があるものと認めざるを得ないところである。もっとも,控
訴人は,本件交差点を横断するに際し,自転車を降り,その左側で自転
車を押しながら歩行横断しようとしていたのであるから,ある程度の注意
を払っていたであろうことは推測されるところであるが,なお,それが不十
分であったとの評価を免れないところといえる。
イ 次に,被控訴人の過失について,控訴人は,被控訴人が急ブレーキを
かけたり,左にハンドルを切るなどの十分な衝突回避措置をとらなかっ
た旨主張するところ,被控訴人が危険を感じた際急ブレーキをかけたと
認められないことは前記のとおりであるが,時速40キロメートルで走行し
ていた場合の空走距離が8.88ないし11.11メートルであることに照ら
すと(甲21),被控訴人が約11メートル手前で控訴人を発見し,急ブレ
ーキをかけたとしても,被控訴人車は空走したまま控訴人に衝突した可
能性が高いから,この点をとらえて,被控訴人に回避義務違反があった
とみることは困難であり,また,被控訴人の走行していた車線の左側(南
東側)には,被控訴人が危険を感じた地点付近まで,歩道分離柵が設置
されており,被控訴人車の左側には1メートル程度の余裕しかなかったこ
と(被控訴人車の車幅1.6メートル,乙1)や,危険を感じてから衝突ま
でわずか1秒程度であったことなどの事情に照らすと,ハンドルを操作し
て衝突を回避するのは極めて困難であったと推測されるから,この点で
も被控訴人に回避義務違反があったと断ずることはできない。また,本
件で控訴人の主張するように体調不良によって被控訴人の注意力が特
に散漫であったことをうかがわせる証拠もない。
  しかしながら,上記のような交通状況下において,アで検討した事情は,
その逆の意味で被控訴人車進行車線を走行する自動車の運転者に,走
行上格別の注意義務が課せられることになることに注意する必要があ
る。すなわち,被控訴人としては,本件交差点上で対向車線が渋滞し自
動車が連続停止している状況を認識していたのであるから,これらの停
止車両の間から急に歩行者等が出てくるかもしれないことを予測すべき
であった。殊に,被控訴人は,本件道路を通勤経路の一つとして使って
いたのであるから(被控訴人の供述),サイクリングロードの存在やここ
から本件道路を横断する歩行者等があることは,十分予測し得たものと
いうことができる。しかも,本件事故現場は,前記のとおり歩行者等が飛
び出してきた場合,左にハンドルを切って衝突を回避するのが困難な場
所だったのであるから,被控訴人としては,より慎重に前方注視を怠るこ
となく,低速で走行し,万一歩行者等の飛び出しがあった場合にもこれと
の衝突を回避できるようにすべきものであったのであり,これは,自動車
の運転手にとって基本的な注意義務であるから,これを怠った被控訴人
の過失は看過し得ないものというべきである。
ウ 以上に検討のほか,控訴人の年齢等を勘案すれば,本件事故におけ
る過失割合は,控訴人20パーセント,被控訴人80パーセントとみるの
が相当である。」
(4) 同10頁21行目の冒頭から11頁11行目の末尾までを次のとおり改める。
「(8) 後遺障害による逸失利益         6197万8341円
ア 控訴人は,本件事故当時10歳の健康な女子であったが,本件事故の
結果,遅くとも本訴提起時点(15歳)において前記2のとおりの後遺障害
を残すに至ったものである。
イ そこで,本件後遺障害による逸失利益の算定方法について検討する
に,当裁判所は,控訴人のような女子年少者につき将来の逸失利益を
算定するに当たっては,以下の理由により,賃金センサスの女子労働者
の全年齢平均賃金ではなく,男女を合わせた全労働者の全年齢平均賃
金を基礎として算出するのが相当であると判断する。
すなわち,賃金センサスによれば,現在でも男女間の平均賃金に格差
があることは明らかであって,これが近い将来解消される見込みがある
とはいえないから,従来の裁判実務が,かかる実態を前提として,女子
年少者の逸失利益を算定するに当たり,賃金センサスの女子労働者の
全年齢平均賃金を基礎としてきたことには相応の理由があるものといえ
る。
しかし,他方において,近時,女子の就労を取り巻く社会状況が変化し
てきていることも明らかであって,制度的にも,いわゆる男女雇用機会均
等法の制定や労働基準法の女子保護規定の撤廃等により,雇用の分野
における男女の均等な機会及び待遇の確保が図られるとともに,女子の
職域が大幅に拡大されてきているところ,雇用の実情をみても,従前男
子のみの職種とされていた職場への女子の進出,或いは管理職に登用
される女子の増加など,職種や就労形態での男女間の相違は確実に狭
まりつつあり,この傾向は今後も続くものと予測されるところである。
ところで,賃金センサスに顕れた男女間の賃金格差は,それが直接そ
のまま女子労働者と男子労働者の労働能力の差異に由来すると単純に
結論付けられるものではない。むしろ,その点は,昔からの男女の役割
分担の考え方に影響されて,男子労働者に比較して女子労働者が,そ
の有する労働能力のうち家事労働により多くを振り分けなければならな
かったことに起因している面が多分にあることを否定することができない
ところであって,単に「労働能力」を問題にする場合,個人差を超えて,性
差を重視する考え方にはやはり疑問が残るものといわざるを得ない。
逸失利益の算定は,それが将来の予測であるために,統計的な数値に
頼らざるを得ないところではあるが,前記のような社会状況の変化に加
えて,上記労働能力の性質論を勘案した場合,現時点では,少なくとも
多様な可能性を内包する女子年少者の逸失利益の算定に当たっては,
賃金センサスの女子労働者の全年齢平均賃金ではなく,男女を合わせ
た全労働者の全年齢平均賃金をその基礎として採用するのがより合理
的というべきである。
ウ したがって,本件では平成10年の賃金センサス第1巻第1表の産業
計・学歴計・企業規模計による全労働者の平均賃金年額499万8700
円を基礎収入として,後遺症による逸失利益を算出するのが相当であ
る。
  そこで,この金額に労働能力喪失率79パーセントを乗じたうえ,年5分
の割合による中間利息の控除をライプニッツ方式で行うと(15歳から67
歳までの52年間に対応するライプニッツ係数18.4180から,就学期間
である15歳から18歳までの3年間に対応するライプニッツ係数2.723
2を差し引いた15.6948を乗ずる。),後遺障害による逸失利益は619
7万8341円となる。
(9) (1)から(8)までの損害額の合計は7895万0291円となるが,控訴人にも
前記1のとおりの過失があるので,過失相殺をすると,6316万0232円と
なる。そして,この金額から第2,1(4)の損害填補額を控除すると,5904万
7267円となる。」
(5) 同11頁12行目及び14行目から15行目にかけての各「400万円」をいずれ
も「600万円」に改め,15行目の次に行を改めて次のとおり加える。
「(11) 以上のとおりであるから,本件の認容額は6504万7267円となる。」
2 よって,本件控訴は一部理由があるから,これに基づいて原判決を変更し,本件
附帯控訴は理由がないからこれを棄却し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法67
条,61条,64条を,仮執行宣言につき同法259条を適用して,主文のとおり判決
する。
札幌高等裁判所第3民事部
             裁判長裁判官    前  島  勝  三
                裁判官    石  井     浩
裁判官竹内純一は,転補のため署名押印することができない。
             裁判長裁判官    前  島  勝  三

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛