弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告A税務署長が原告B、同C、同Dに対し、右各原告らの昭和四五年分所得
税につき昭和四七年一月一七日付でなした更正処分および過少申告加算税賦課決定
処分をいずれも取消す。
2 被告E税務署長が原告Fに対し、右原告の昭和四五年分所得税につき昭和四八
年八月一五日付でなした更正処分および過少申告加算税賦課決定処分を取消す。
3 被告G税務署長が原告Hの被相続人Iに対し、同人の昭和四五年分所得税につ
き昭和四八年一〇月一日付でなした更正処分および過少申告加算税賦課決定処分を
取消す。
4 訴訟費用は被告らの負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 更正処分等の経緯
原告B、同C、同D、同F、亡I(以上五名を原告らという)らはそれぞれ昭和四
五年分所得税の確定申告において、分離長期譲渡所得金額およびこれに対する納付
すべき税額をいずれも零と申告したところ、被告A税務署長は原告B、同C、同D
に対し昭和四七年一月一七日付で、被告E税務署長は原告Fに対し同四八年八月一
五日付で、被告G税務署長は亡Iの相続人である原告Hに対し、同四八年一〇月一
日付で、それぞれ分離長期譲渡所得金額を四、八四一、六六七円とする旨の更正処
分ならびに二四、二〇〇円(原告Dについては二二、八〇〇円)の過少申告加算税
賦課決定処分をした。原告らはこれを不服として当該被告税務署長に対し異議申立
をしたが棄却され、さらに国税不服審判所長に対し審査請求をしたがいずれも棄却
された。
2 しかしながら、右各更正処分等は原告らに分離長期譲渡所得金額があるとした
点で違法である。すなわち、
(一) 原告らおよびJは別紙物件目録記載の池沼(以下本件物件という)を各六
分の一の持分で共有していた。
(二) ところで箕面都市計画公園事業を計画し、昭和四五年三月三〇日都市計画
法一九条に基き大阪府知事の承認を得たうえ本件物件を公園用地の一部とする都市
計画を決定し、同日同法二〇条に基きその旨を告示した。(三) そして同市は財
団法人箕面市開発協会(理事長は箕面市長)を設立し、右公園用地の任意買収に当
らせるとともに、原告らに対しても用地提供ならびに協力方を要請した。
(四) 原告らはJと共に同年五月三〇日右協会に対し、本件物件を代金五、五〇
〇万円で譲渡した。ただし右代金のうち、一、七二〇万円は水利権補償としてKら
水利権者に支払つたので、原告らおよびJの実所得は三、七八〇万円、一人当り六
三〇万円であつた。
(五) その後箕面市は都市計画事業の施行者として同四七年九月一一日都市計画
法五九条により大阪府知事の事業認可を受けた。
(六) 従つて原告らの本件物件の譲渡は租税特別措置法(以下特措法という)三
三条一項二号所定の場合に該当するので、右譲渡所得については同法(昭和四八年
法第一六号による改正前のもの以下同じ)三三条の四、第一項の適用があり、一、
二〇〇万円の特別控除がなされたことになつて、原告らの分離長期譲渡所得金額は
零となるのである。
3 よつて原告らは請求の趣旨記載のとおり本件各更正処分等の取消を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因第1項は認める。
2 同第2項のうち(一)、(二)、(四)、(五)の事実および(三)のうち、
財団法人箕面市開発協会の理事長が箕面市長であつたことは認めるが、その余は不
知、(六)は争う。
三 被告らの主張
1 本件譲渡につき特措法三三条の四、第一項の特別控除の規定(以下特例とい
う)が適用されるためには、本件譲渡が同法三三条一項二号の「資産について買取
の申出を拒むときは土地収用法等の規定に基いて収用されることとなる場合におい
て、当該資産が買い取られ」たときに該当することが実体的要件となるところ、本
件の場合右実体的要件を欠いている。すなわち、
(一) 本件物件譲渡の時点においては、未だ本件都市計画事業に対し大阪府知事
事業認可が存在しなかつた。従つて原告らが本件物件の買取りを拒んでもそれが直
ちに都市計画法、および土地収用法等の規定に基く収用を受けることにはならな
い。
(二) また本件物件の買主たる箕面市開発協会は公共事業の施行者ではないから
資産の収用をなしうる権限はなく、原告らが同協会からの買取りの申出を拒んで
も、同協会によつて本件物件を収用されるということはありえない。
2 次に右特例が適用されるためには、特措法三三条の四、第四項により納税者が
その年分の確定申告書に右特例の適用を受けようとする旨を記載し、かつ当該資産
につき公共事業施行者から交付をうけた買取り等の申出があつたことを証する書
類、その他大蔵省令で定める書類を添付しなければならず、右大蔵省令で定める書
類とは、同法施行規則(昭和四六年法一五号による改正前のもの、以下同じ)一五
条一項、一四条六項二号に規定されているものであるところ、仮に本件譲渡が都市
計画法に基く特措法三三条一項二号該当の買取りであるとすれば、右各規定により
本件物件の買主が施行する事業が、都市計画法五九条一項に基く都市計画事業の認
可を受けたものである旨を証する書類等の提出が必要となつてくるのである。しか
るに本件では、被告らは当該原告らから右書類の提出を受けていない(前記のよう
に本件譲渡当時は未だ都市計画事業の認可がなされておらず、また買主自体が公共
事業施行者でないから、右規則所定の必要な証明書を添付するのは不可能なのであ
る。)。従つて本件譲渡は右特例適用の手続的要件をも欠いているのである。
3 よつて本件譲渡につき右特例の適用がないとした本件更正処分および過少申告
加算税賦課決定処分は適法である。
四 被告らの主張に対する原告らの反論
1 被告らの主張は全て争う。
2 本件譲渡当時に都市計画事業の認可がなされていなくても、都市計画自体は都
市計画法二〇条に基き既に告示されていたのであるから、買取のあつた当該資産が
公共事業の用に供されることが確実視され、譲渡当事業者間において、同趣旨の合
意が成立しており、かつ、その後に現実に認可がなされた場合には、公共事業への
協力者に対して租税面での配慮をするという特措法の趣旨からして、右特例の適用
の有無を右認可の前後で峻別することなく、本件譲渡に右特例の適用を認めるべき
である。また本件譲渡は、都市計画事業の施行者たる箕面市のいわゆる「先行買
収」と評価すべきものであるから、この点からも右特例が適用されるべきである。
3 規則に定める書類の提出が無かつたことから特措法の右特例の適用を排斥する
のは租税法律主義に反するものである。しかも、右書類提出に関する規則は極めて
瑣末な手続的規定にすぎないから、これによつて右特例の適用の有無の解釈を拘束
することはできない。
4 仮に右書類の提出が特例適用の手続的要件であるとしても、本件の場合、確定
申告時は都市計画事業の手続中の段階であつて認可が遅れていたために原告らは右
書類等を添付できず、前記認可後に必要書類を提出したのである。従つて特措法三
三条の四、第五項の申告時に書類の添付がなかつたことについてやむを得ない事情
があり、後日書類が提出された場合に該当するものとして、右特例の適用を認める
べきである。またそうでなくても、右認可後に必要書類を提出しているのであるか
ら、右の手続的要件の不備は治癒されたものというべきである。
五 原告らの反論に対する被告らの答弁
1 原告らの反論は全て争う。
2 既に述べたように、特例の適用を受けるためには本件物件の買主が施行する事
業が、都市計画事業の認可を受けたものでることを証する書類の提出が必要である
が、このことは特措法自体が特例適用の前提条件として、当該譲渡が都市計画事業
の認可後における、都市計画事業施行者による資産の買取りであることを第一義的
に予定しているものというべきであるから、本件譲渡に右特例の適用を認めること
ができないのは明らかである。そしていわゆる先行買収として特例の適用が認めら
れるのは規則一四条六項四号の二ないし四に規定されている公共事業に限られるの
であつて、本件の都市計画事業が右に含まれていない以上、本件譲渡に特例を適用
することはできない。
3 特措法は、書類の添付についてその内容を大蔵省令たる規則に委任したもので
あり、右規則によつて一定の書類の提出が、特例適用の要件となることを特措法自
体が当然予定しているのであるから、右は何ら租税法律主義に反するものではな
く、また書類提出に関する規定が瑣末な手続規定であるとの主張も失当である。
○ 理由
一 請求原因第1項、および第2項(一)、(二)、(四)、(五)の事実は当事
者間に争いがない。
二 本件の争点は要するに、本件譲渡につき特措法三三条の四第一項所定の特例が
適用されるか否かの点に存するので、以下この点につき判断する。
1 本件譲渡につき右特例が適用されるためには、本件譲渡が同法三三条一項二号
の「資産について買収の申出を拒むときは土地収用法等の規定に基いて収用される
こととなる場合において当該資産が買取られ、対価を取得するとき。」に該当する
ことが実体的要件となることは法文の規定上明白である。
2 前記争いのない事実および弁論の全趣旨によれば、本件譲渡は、箕面市が都市
計画法に基き将来事業認可を得て施行すべき都市計画事業を円滑に遂行するため、
事業認可前に同市の設置した財団法人箕面市開発協会が本件物件の買取りの申出を
し、原告らが右買取りに応じたものであることが明らかである。
3 ところで、都市計画法は五九条一項で、都市計画事業は市町村が施行者となつ
て知事の認可を受けて施行すると規定し、都市計画事業のために土地等を収用する
場合、右事業を土地収用法三条各号の一に規定する事業に該当するものとみなして
同法の規定を適用して収用をすることとしている(都市計画法六九条)。そして土
地収用法によれば、収用の前提として当該事業の認定が必要である(同法一六条)
とされているが、都市計画事業にあつては、知事の事業認可をもつて右事業認定に
代わるべきものとされている(都市計画法七〇条一項)。すると都市計画事業は、
知事の認可があつてはじめて施行されるものであり、かつ事業に必要な土地の収用
をなしうるに至るものであることが、右法文上明らかである。すなわち、右認可を
受けることにより、当該都市計画事業を公共事業として強制収用の手段を用いてま
で実施する必要性が右時点で確定的に認定され、収用の可能性が法的に現実化され
るものであり、右事業認可以前においては、収用の可能性は未だ単なる抽象的な蓋
然性に止まるものというべきである。
従つて未だ右事業認可のない時点において、資産の所有者がその買取りを拒んで
も、法律上は「土地収用法等の規定に基いて収用されることとなる場合」には該当
しないものといわざるをえない。
4 しかも本件の場合前記のように買取りの申出をなしたのは財団法人箕面市開発
協会であるから、理事長が箕面市長であつた(この事実は当事者間に争いがな
い。)とはいえ同協会自体は箕面市とは別個の存在であり、都市計画事業の施行者
たりえず、従つて本件物件買取りの申出を拒まれても、土地収用法等の規定によつ
て収用手続をとれるわけでもないから、この点からも本件譲渡は特措法三三条一項
二号には該当しないものというべきである。
5 さらに、右のことは、次の手続的規定からも明らかである。すなわち、特措法
三三条の四、第四項、第六項、同法施行規則一四条六項二号、一五条によれば、都
市計画法に基く資産の買取りの場合、右特例を適用するためには、所轄税務署長に
対し、納税者が所得申告時に、公共事業施行者から交付を受けた資産の買取り等の
申出およびその買取りがあつたことを証する書類ならびに買取りをした者の当該事
業が都市計画法五九条による事業認可な受けたものであることを証する書類等を提
出し、かつ公共事業施行者(本件の場合は都市計画事業の施行者たる箕面市)から
資産の買取りの申出をしたことを証する書類、買取り等に係る対価の支払に関する
調書の提出があることが手続的要件となつているのであり、このことからすれば、
特措法は、都市計画法に基く事業認可があつた後における都市計画事業施行者(箕
面市)による資産の買取りの場合にのみ、特例の適用を認める趣旨であることが明
らかである。
6 そして本件の場合は、譲渡当時には未だ知事の事業認可がなかつたのであるか
ら特措法三三条一項二号には該当せず、結局同法三三条第一項の特例の適用の実体
的要件を欠いていたものといわなければならない。
7 原告らは本件譲渡当時に事業認可がなかつたとしても、譲渡当時に都市計画の
公示があり、かつその後に現実に認可がなされた場合には、右特例が適用されるべ
き旨主張するが、特措法の前記趣旨からすれば、同法は譲渡所得につき、収用等の
場合に例外的に特別控除を認めるにあたり、同法三三条一項二号にいう収用の可能
性が法的に高度に具体化していることを要求し、その程度を都市計画事業の場合は
事業認可の存在という客観的に明確かつ画一的な事実の存在をもつて一線を画して
いるものというべきであるから、譲渡当時に既に都市計画の告示があつて、ある程
度将来の事業認可が予測されてもその段階では収用の可能性は単なる蓋然性に止ま
り、未だ特例の適用の要件を充足していなかつたものといわざるをえず、また後日
現実に認可があつたとしても譲渡当時に認可がなかつた以上遡つて特例を適用すべ
き法律上の根拠はないものというべきである。
8 また原告らは本件譲渡がいわゆる「先行買収」にあたるとして右特例が適用さ
れるべきである旨主張するが、右先行買収は被告らの主張のように規則一四条六項
四号の二ないし四に限定列挙されている公共事業に限り認められるものであつて、
本件都市計画事業はこれに含まれず、また右規定を類推適用すべきであるとも認め
られないから、本件譲渡に右特例を適用することはできない。
9 また、特措法が右特例の適用に関し、その提出書類の細目についてこれを大蔵
省令に委任していることは何ら租税法律主義に反するものではなく(憲法七三
条)、大蔵省令である同法施行規則の規定内容から、特措法の趣旨を解釈すること
が許されないとする根拠はない。
10 その余の原告らの主張(被告らの主張に対する原告らの反論第4項)はいず
れも手続的要件に関する主張であるところ、前記のとおり本件は既に実体的要件を
欠くものであるから右主張については判断を経る必要はない。
三 以上により、本件譲渡につき右特例の適用がないとしてなされた本件各更正処
分ならびに過少申告加算税賦課処分には何らの違法もない。よつて原告らの請求は
いずれも理由がないからこれを棄却することとし、民事訴訟法八九条、九三条を適
用して主文のとおり判決する。
(裁判官 奥村正策 辻中栄世 山崎 恒)
別紙(省略)

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