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平成17年(行ケ)第10796号審決取消請求事件
平成18年11月21日口頭弁論終結
判決
原告フジテック株式会社
訴訟代理人弁護士内田敏彦
訴訟代理人弁理士後藤文夫
被告三菱電機株式会社
訴訟代理人弁護士近藤惠嗣
同中澤歩
主文
1特許庁が無効2004−80206号事件について平成17年10月
11日にした審決中,「本件審判の請求は,成り立たない。」との部分
を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文第1項と同旨
第2当事者間に争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
被告は,発明の名称を「機械室レスエレベータ装置」とする特許第3438
697号(平成5年4月5日出願の特願平5−78142号の一部を平成12
年3月23日に分割出願,平成15年6月13日設定登録。以下「本件特許」
という。)の特許の特許権者である。
本件特許に対し,平成16年10月29日,原告が特許無効の審判請求をし,
特許庁は,この審判請求を無効2004−80206号事件として審理したが,
その手続中の平成17年6月14日,被告は訂正請求をした。特許庁は,審理
の結果,平成17年10月11日,上記の訂正を認めた上で,「本件審判の請
求は,成り立たない。」との審決をし,同月21日,審決の謄本が原告に送達
された。
2特許請求の範囲
平成17年6月14日付け訂正請求による訂正後の本件特許の請求項1ない
し4(請求項の数は全部で4項である。)は,次のとおりである。
【請求項1】昇降路内を昇降するかごおよび釣合おもりと,前記昇降路内に
設置され,前記釣合おもりをガイドする釣合おもり用レールと,前記昇降路内
に設置され,前記かごをガイドするかご用レールと,前記かごを吊るとともに
前記釣合おもりの頂部を一箇所の支持で吊るロープと,前記昇降路内に設けら
れ,前記かごから前記釣合おもりに至る間のロープの一部分が巻き掛けられる
巻掛手段とを有し,当該巻掛手段は,平面図において,前記かごと離れて配置
され,当該巻掛手段の回転面を前記昇降路壁に対して傾斜させて配置したこと
を特徴とする機械室レスエレベータ装置。
【請求項2】昇降路内を昇降するかごおよび釣合おもりと,前記昇降路内に
設置され,前記釣合おもりをガイドする釣合おもり用レールと,前記昇降路内
に設置され,前記かごをガイドするかご用レールと,前記かごおよび釣合おも
りを吊るロープと,前記昇降路内に設けられ,前記かごから前記釣合おもりに
至る間のロープの一部分が巻き掛けられる巻掛手段とを有し,前記かごおよび
釣合おもりを一つのロープで吊るとともに,当該巻掛手段は,平面図において,
前記かごと離れて配置され,当該巻掛手段の回転面を前記昇降路壁に対して傾
斜させて配置したことを特徴とする機械室レスエレベータ装置。
【請求項3】昇降路内を昇降するかごおよび釣合おもりと,前記昇降路内に
設置され,前記釣合おもりをガイドする釣合おもり用レールと,前記昇降路内
に設置され,前記かごをガイドするかご用レールと,かごの中心と釣合おもり
の中心とを結ぶ線上で前記かごを吊るとともに前記釣合おもりを吊るロープと,
前記昇降路内に設けられ,前記かごから前記釣合おもりに至る間のロープの一
部分が巻き掛けられる巻掛手段とを有し,当該巻掛手段は,平面図において,
前記かごと離れて配置され,当該巻掛手段の回転面を前記昇降路壁に対して傾
斜させて配置したことを特徴とする機械室レスエレベータ装置。
【請求項4】前記巻掛手段は,前記昇降路の上部に配置されるとともに,平
面図において前記釣合おもりと重ならせて配置したことを特徴とする請求項1
∼3のいずれかに記載の機械室レスエレベータ装置。
(以下,審決と同様に,請求項1ないし4に係る発明をそれぞれ「訂正発明
1」などといい,これらを併せて「訂正発明」と総称する。)
3審決の理由
別紙審決書の写しのとおりである。要するに,訂正発明は特願平5−781
42号の出願(以下,この出願を「原出願」という。また,原出願の出願当初
の明細書及び図面は,甲第1号証(特開平6−286960号公報)のとおり
であり,以下,これを「原明細書」という。)に包含されるものであって,本
件出願は,原出願をもとの出願とする適法な分割出願として,特許法44条2
項の規定により原出願の出願日である平成5年4月5日に出願したものとみな
されるから,請求人(原告)の挙げる平成6年10月11日公開に係る特開平
6−286960号公報(甲第1号証(原明細書と同一)。以下,公知文献と
して用いるときは,「本件刊行物」という。)は,本件出願前に頒布された刊
行物に該当せず,訂正発明は本件刊行物に記載された発明との関係で同法29
条1項3号の規定に違反して特許されたものということはできない,とするも
のである。
審決は,平成12年3月23日に原出願の分割出願として特許出願された本
件出願が分割出願の要件を満たすかどうかを検討するに当たって,原明細書の
段落【0041】の記載事項について,次のとおり認定判断し,原明細書の実
施例1に関する記載事項及び段落【0041】の実質的な記載事項等を勘案す
れば,訂正発明は原出願に包含されていると判断した。
(1)原明細書の段落【0041】には,「【発明の効果】以上のように,この
発明によれば吊り車を釣合おもり用レールの中心線に対して90度未満の角
度をもって設置することにより,かごと釣合おもりを近接して設置すること
ができるので昇降路の寸法を低減できる。」との記載がある。
(2)原明細書の段落【0041】に記載される「この発明」は,原明細書の特
許請求の範囲の請求項1に記載される発明を指すものであって,「釣合おも
りに配設したリニアモータの電機子と,上記リニアモータの電機子と係合し
て推力を発生するリニアモータの二次導体とを備えたリニアモータ駆動方
式」エレベータ装置の発明である。
しかしながら,原明細書の段落【0041】に記載された「吊り車を釣合
おもり用レールの中心線に対して90度未満の角度を持って設置することに
より,かごと釣合おもりを近接して設置することができるので昇降路の寸法
を低減することができる。」という技術思想(以下,審決と同様に「本件技
術思想」という。)自体は,吊り車の釣合おもり用レールに対する配置によ
り達成される作用・効果を示すものであり,エレベータの駆動方式に直接関
わるものとも,特定のエレベータの駆動方式を前提にするものともいえず,
原明細書の全記載を参酌しても,本件技術思想がリニアモータ駆動方式以外
のエレベータ装置には適用し得ないものであるとする技術的根拠を見いだす
ことはできない。
むしろ,リニアモータ駆動方式以外に,エレベータ駆動装置の形状寸法や
配置場所に制約されることなく,「吊り車を釣合おもり用レールの中心線に
対して90度未満の角度をもって設置する」ようにすることができ,「かご
と釣合おもりを近接して設置」し得るような巻上機駆動方式や油圧駆動方式
のエレベータ装置は,原出願の出願日以前に当業者に当然に知られた事項で
ある(例えば,乙第1号証,甲第5号証)ところ,かかる原出願の出願時点
における技術水準に照らせば,本件技術思想は,リニアモータ駆動方式のエ
レベータ装置のみならず,それ以外の駆動方式のエレベータであっても,吊
り車の釣合おもり用レールに対する配置により,昇降路の寸法を低減し得る
エレベータ装置であれば,適用し得るものと解するのがより合理的である。
そうすると,原明細書には,リニアモータ駆動方式のエレベータ装置への
適用を前提とする発明とは別に,上述の巻上機駆動方式や油圧駆動方式等を
含め,駆動方式に関わりなく本件技術思想を適用することにより成立する発
明が包含されていると解するのが相当である。
また,実施例1として「本件技術思想」の構成(部品)間の相互の関連を
詳細に述べた原明細書の段落【0031】にも,上記判断を覆すような事項
は記載されていない。
第3原告主張の取消事由の要点
審決は,分割出願の要件の充足性の判断を誤り,本件出願が適法な分割出願
として,その出願日が実際の出願日である平成12年3月23日ではなく,原
出願の出願日(平成5年4月5日)に遡及すると判断したため,訂正発明を平
成6年に頒布された本件刊行物に記載された発明と対比せず,訂正発明の新規
性の判断を誤ったものであるところ,この誤りが審決の結論に影響を及ぼすこ
とは明らかであるから,違法なものとして取り消されるべきである。
1分割出願の要件の充足性の判断の誤り
本件出願は原出願の分割出願として出願されたものであるところ,適法な分
割出願というためには,本件出願に係る訂正発明が原明細書に記載されていた
ものでなければならない。訂正発明の「機械室レスエレベータ装置」の駆動方
式は,特許請求の範囲の記載において何ら限定されていないから,リニアモー
タ駆動方式,巻上機駆動方式,油圧駆動方式その他の駆動方式のいずれも包含
する。ところが,原明細書には,「リニアモータ駆動方式エレベータ装置」に
ついての記載があるのみで,これ以外の駆動方式(例えば,巻上機駆動方式や
油圧駆動方式)の機械室レスエレベータ装置についての記載は一切存在しない。
原明細書の発明の詳細な説明の段落【0001】には,「産業上の利用分
野」について,「この発明は,リニアモータ駆動方式エレベータ装置に関する
ものである。」との記載があり,発明の利用分野を明確に特定の駆動方式のエ
レベータに限定している。また,同段落【0002】においては,「近年,従
来の巻上げ式のエレベータに対して巻上げ機が不要なため屋上に機械室を設け
る必要がなく,建物の高さを有効に活用できるリニアモータ駆動方式エレベー
タ装置,例えば特開昭57−121568号や特開平4−55278号に示さ
れるものが提案されている。」と記載されている。「巻上げ機が不要なため」
との記載があるから,「巻上機」の設置を必要とする「巻上機駆動方式」の機
械室レスエレベータ装置を排斥していることは明らかである。さらに,原明細
書にある実施例8例は,いずれも「リニアモータ駆動方式エレベータ装置」の
ものであり,他の駆動方式による実施例は記載されていない。
上記のとおり,原明細書には「リニアモータ駆動方式」以外の駆動方式の機
械室レスエレベータ装置についての開示はない。審決は,「開示されている発
明」と「開示されている発明から容易推考な発明」とを区別することなく,同
一視して,判断を誤ったものというべきである。
なお,巻上機駆動方式や巻胴駆動方式の機械室レスエレベータ装置において
は,吊り車の設置角度θを直角(90度)にして昇降路寸法を極限にまで減少
させることは,原出願の出願前から当業者に周知であった(甲第9ないし11
号証)。訂正発明では,設置角度θを90度未満の角度にして吊り車を傾斜さ
せるのみで,直角(90度)にすることができない(原明細書の段落【003
1】)から,訂正発明の課題解決手段を適用することは,上記周知技術により
減少させることのできた昇降路寸法を,逆に増大させてしまうことになる。す
なわち,巻上機駆動方式や巻胴駆動方式の機械室レスエレベータ装置において
は,そもそも,原明細書に記載された昇降路の寸法を低減するという課題自体
が,原出願の時点において存在しなかったのである。
2新規性判断の誤り
上記1のとおり,審決は,分割出願の要件の充足性の判断を誤り(取消事由
1),本件出願の出願日が原出願の出願日(平成5年4月5日)に遡及すると
判断したため,訂正発明と平成6年に頒布された本件刊行物に記載の発明との
対比をせず,訂正発明の新規性の判断を誤ったものである。
第4被告の反論の骨子
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1分割出願の要件の充足性の判断の誤りをいう点について
訂正発明はリニアモータ以外の駆動装置を具体的に特定するものではないか
ら,訂正発明の技術的範囲に駆動装置がリニアモータ以外のものも含まれるこ
とは認める。
しかし,明細書に発明が記載されているか否かの判断に当たって,特許請求
の範囲の記載から論理的に技術的範囲に含まれ得る実施態様がすべて記載され
ている必要はない。訂正発明は,駆動方式を限定するものではなく,駆動装置
のいかんにかかわらず機械室レスエレベータを対象とするものであり,原明細
書には,実施例1及びそれに対応する図面から明らかなように「機械室の無い
エレベータ装置」を対象とし,「巻掛手段の回転面を昇降路壁に対して傾斜さ
せて配置した」構成のエレベータ装置が開示されていることは明らかである。
そして,リニアモータ以外の駆動装置を用いることを前提としても,訂正発明
を理解するに足りる記載が原明細書にあれば,訂正発明は原明細書に記載され
ていた発明に該当する。原明細書を当業者の技術常識をもって読めば,十分に
訂正発明を理解できるのである。
原明細書の記載から,吊り車を傾斜させてA3(図1(b))<A2(図15
(b))とすることが「昇降路の寸法を低減できる」という効果の理由であるこ
とを当業者が理解することは容易であり,このことは,エレベータをどのよう
な駆動方式で駆動するかとは無関係であって(例えば,甲第5号証,乙第1号
証の吊り車を傾斜させても同様の効果が得られることは自明である。),原明
細書には,訂正発明1ないし4の構成と効果の関係が当業者に容易に理解でき
るように記載されている。したがって,本件出願は分割出願の要件を充足して
おり,審決に誤りはない。
なお,原告は,巻上機駆動方式や巻胴駆動方式の機械室レスエレベータ装置
においては,吊り車の設置角度θを直角(90度)にして昇降路寸法を減少さ
せることは,原出願の出願前から当業者に周知であったところ,訂正発明では,
設置角度θを直角(90度)にすることができないから,訂正発明の課題解決
手段を適用することは,上記周知技術により減少させることのできた昇降路寸
法を,逆に増大させてしまうことになるとも主張する。原告の主張を善解すれ
ば,本件発明は,駆動装置がリニアモータであるときにのみ進歩性があり,そ
れ以外の駆動装置と組み合わせた場合には進歩性がないとの主張と解されるが,
そのような主張は,本件の審理対象である無効理由とは別個の無効理由を主張
していることにほかならず,本件における審決取消事由としては失当である。
2新規性判断の誤りをいう点について
上記1のとおり,審決がした分割出願の要件の充足性の判断に誤りはなく,
本件出願出願日は,原出願の出願日(平成5年4月5日)に遡及するから,本
件刊行物は本件出願前に頒布された刊行物に該当せず,訂正発明の新規性につ
いての審決の判断に誤りはない。
第5当裁判所の判断
1分割出願の要件の充足性の判断について
(1)原明細書において,発明の名称は「リニアモータ駆動方式エレベータ装
置」であり,特許請求の範囲には,次の記載がある。
「【請求項1】かごと、釣合おもりと、昇降路に設置され、上記釣合おも
りをガイドする釣合おもり用レールと、上記釣合おもりに配設したリニアモ
ータの電機子と、昇降路に設置され、上記リニアモータの電機子と係合して
推力を発生するニアモータの二次導体と、上記かごの上記釣合おもりの対向
面より上記釣合おもり側の昇降路上部に配設した吊り車と、一端を上記かご
の上記釣合おもりとの対向面側に固定し、上記吊り車を介して他端を釣合お
もりに固定したロープとを備えたリニアモータ駆動方式エレベータ装置にお
いて、吊り車を釣合おもり用レールの中心線に対して90度未満の角度をも
って設置したことを特徴とするリニアモータ駆動方式エレベータ装置。
【請求項2】釣合おもりの一端側にのみリニアモータの電機子を配設し、
上記釣合おもりの他端側上部にロープを固定したことを特徴とする請求項第
1項記載のリニアモータ駆動方式エレベータ装置。
【請求項3】吊り車を、かごが釣合おもりと対向する面側の昇降路上部
に、釣合おもり用レールの中心線に対して平行に設置したことを特徴とする
請求項第1項記載のリニアモータ駆動方式エレベータ装置。」(原明細書の
特許請求の範囲の請求項1ないし3)
原明細書の特許請求の範囲の請求項4ないし9の末尾は,いずれも「こと
を特徴とするリニアモータ駆動方式エレベータ装置。」とされている。
また,原明細書の「発明の詳細な説明」欄には,次の記載がある。
「【産業上の利用分野】この発明は、リニアモータ駆動方式エレベータ装置
に関するものである。」(段落【0001】)
「【従来の技術】近年、従来の巻上げ式のエレベータに対して巻上げ機が不
要なため屋上に機械室を設ける必要がなく、建物の高さを有効に活用できる
リニアモータ駆動方式エレベータ装置、例えば特開昭57−121568号
や特開平4−55278号に示されるものが提案されている。…(以下略)
…」(段落【0002】)
「上述したリニアモータ駆動方式エレベータ装置は釣合おもり2に組み込ま
れたリニアモータにより昇降できるので、従来の巻上げ機方式のエレベータ
装置のように昇降路の上に巻上げ機を設置することが不要となる。したがっ
て、建物の屋上に機械室を設ける必要がなくなり、建物の高さ制限がある場
合に、階床を有効に使用できる利点がある。」(段落【0005】)
「【発明が解決しようとする課題】従来のリニアモータ駆動方式エレベータ
装置は以上のように構成されていたので次のような問題点があった。…(以
下略)…」(段落【0006】)
「また、リニアモータ駆動方式エレベータ装置は、頂部隙間寸法を少なくし
て、建物の高さ寸法を有効に使用する観点から、エレベータ装置の据付け及
び保守時に安全策を施すことにより、頂部隙間安全寸法TC0そのものを少
なくして極限まで頂部隙間寸法を少なくすることが求められている。」(段
落【0009】)
「この発明は上記のような問題点を解消するためになされたもので、頂部隙
間寸法TC2を少なくして建物の高さ寸法を有効に使用し、また、頂部隙間
安全寸法TC0が基準値以下となっても安全に作業ができ、さらに、安価な
リニアモータ駆動方式エレベータ装置を提供することを目的とする。」(段
落【0010】)
「【課題を解決するための手段】この発明に係るリニアモータ駆動方式エレ
ベータ装置は、かごと、釣合おもりと、昇降路に設置され、釣合おもりをガ
イドする釣合おもり用レールと、釣合おもりに配設したリニアモータの電機
子と、昇降路に設置され、リニアモータの電機子と係合して推力を発生する
ニアモータの二次導体と、上記かごの上記釣合おもりの対向面より上記釣合
おもり側の昇降路上部に配設した吊り車と、一端をかごの釣合おもりとの対
向面側に固定し、吊り車を介して他端を釣合おもりに固定したロープとを備
えたリニアモータ駆動方式エレベータ装置において、吊り車を釣合おもり用
レールの中心線に対して90度未満の角度をもって設置するようにしたもの
である。」(段落【0011】)
「【作用】この発明におけるリニアモータ駆動方式エレベータ装置は、吊り
車を釣合おもり用レールの中心線に対して90度未満の角度をもって設置す
ることにより、かごと釣合おもりを近接して設置することができる。」(段
落【0021】)
「【発明の効果】以上のように,この発明によれば吊り車を釣合おもり用
レールの中心線に対して90度未満の角度をもって設置することにより,か
ごと釣合おもりを近接して設置することができるので昇降路の寸法を低減で
きる。」(段落【0041】)
原明細書の段落【0031】ないし【0040】に記載の実施例1ないし
8は,いずれも「リニアモータ駆動方式エレベータ装置」についてのもので
ある。
(2)上記のとおり原明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3においては,
吊り車を釣合おもり用レールの中心線に対して90度未満の角度をもって設
置するものとして,請求項1に「…リニアモータ駆動方式エレベータ装置に
おいて,吊り車を釣合おもり用レールの中心線に対して90度未満の角度を
もって設置したことを特徴とするリニアモータ駆動方式エレベータ装置。」
が記載され,請求項1を引用する形式で請求項2,請求項3に,それぞれ,
「リニアモータ駆動方式エレベータ装置」が記載されている。これらの記載
からすれば,原明細書の段落【0041】にいう「この発明」とは,原明細
書の請求項1ないし3に係る「リニアモータ駆動方式エレベータ装置」を意
味するものと解すべきである。また,原明細書の段落【0041】に,原明
細書の請求項1ないし3に係る「リニアモータ駆動方式エレベータ装置」に
限らず,それ以外の駆動方式のエレベータであっても吊り車を上記構成とす
ることにより同様の効果を奏するとの記載はない。
審決は,「本件技術思想は,リニアモータ駆動方式のエレベータ装置のみ
ならず,それ以外の駆動方式のエレベータであっても,吊り車の釣合おもり
用レールに対する配置により,昇降路の寸法を低減し得るエレベータ装置で
あれば,適用し得るものと解するのがより合理的である。」(審決書9頁8
行∼12行)として,「原明細書には‥‥‥リニアモータ駆動方式への適用
を前提とする発明とは別に,上述の巻上式駆動方式や油圧駆動方式等を含め,
駆動方式に関わりなく本件技術思想を適用することにより成立する発明が包
含されていると解するのが相当である。」(同24行∼29行)と判断して
いるが,原明細書には,リニアモータ駆動方式以外の駆動方式のエレベータ
に関して言及した記載は一切存在しないし,リニアモータ駆動方式以外の駆
動方式のエレベータであっても吊り車を当該構成とすることで同様の効果を
奏するとの記載もない。
(3)本件出願は原出願の分割出願として出願されたものであり,分割出願とし
て適法であるためには,本件出願に係る訂正発明が原明細書に包含されてい
たものでなければならない(特許法44条1項)。
訂正発明はリニアモータ以外の駆動装置を具体的に特定するものではなく,
訂正発明の技術的範囲に駆動装置がリニアモータ以外のエレベータも含まれ
る(このことは,当事者間に争いがない。)。
前記(1)のとおり,原明細書には,「リニアモータ駆動方式エレベータ装
置」についての記載があるのみで,これ以外の駆動方式(例えば,巻上機駆
動方式や油圧駆動方式)の機械室レスエレベータ装置についての記載は一切
存在しない。
(4)被告は,原明細書の記載から吊り車を傾斜させてA3(図1(b))<A2
(図15(b))とすることが「昇降路の寸法を低減できる」という効果の理
由であることを当業者が理解することは容易であり,このことは,エレベー
タをどのような駆動方式で駆動するかとは無関係であり,原明細書には,訂
正発明1ないし4の構成と効果の関係が当業者に容易に理解できるように記
載されているから,本件出願は適法な分割出願であると主張する。
しかし,原明細書に訂正発明が包含されるかどうかは,原明細書の記載に
基づいて定められるべきものである。仮に,吊り車を傾斜させて昇降路の寸
法を低減できるという効果を奏することがエレベータの駆動方式と関係しな
いとしても,そのことと原明細書に訂正発明が開示されているか否かとは別
問題であるから,そのことから原明細書に訂正発明の開示があるということ
はできない。
前記(1)のとおり,原明細書には,「機械室レスエレベータ装置」として
「リニアモータ駆動方式エレベータ装置」のみが記載されているのであり,
吊り車を傾斜させることにより他の駆動方式によるエレベータにおいても昇
降路の寸法を低減できるという効果を奏することができることを示す記載や,
「リニアモータ駆動方式エレベータ装置」が「機械室レスエレベータ装置」
の例示にすぎないことを示す記載は存在しない。また,原明細書では,産業
上の利用分野,従来の技術,発明が解決しようとする課題,課題を解決する
ための手段,実施例を通じて,終始「リニアモータ駆動方式エレベータ装
置」について説明されている。これらの記載によれば,原明細書記載の発明
は,従来の「リニアモータ駆動方式エレベータ装置」につき吊り車の構成の
工夫により昇降路の寸法を低減する改良を加えたものであって,その対象と
なるエレベータを駆動方式として「リニアモータ駆動方式」を用いるものに
限定した発明というべきである。
(5)以上のとおり,駆動方式を限定しない「機械室レスエレベータ装置」に係
る訂正発明が原明細書に包含されているということはできないから,本件出
願は分割出願の要件を満たさないものである。
2結論
そうすると,本件出願の出願日は,本件出願が実際に出願された日である平
成12年3月23日であり,平成6年に頒布された刊行物である本件刊行物は
本件出願前に頒布された刊行物に該当するから,審決が訂正発明の新規性を判
断するに当たり,訂正発明を本件刊行物に記載された発明と対比しなかったこ
とは誤りである。そして,この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らか
であるから,審決は取消しを免れない。
よって,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を
適用して,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官三村量一
裁判官古閑裕二
裁判官嶋末和秀

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なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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