弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人大熊裕起,同坂根真也の上告趣意のうち,憲法13条,31条,36条違
反をいう点は,死刑制度がその執行方法を含め憲法に違反しないことは当裁判所の
判例(最高裁昭和22年(れ)第119号同23年3月12日大法廷判決・刑集2
巻3号191頁,最高裁昭和26年(れ)第2518号同30年4月6日大法廷判
決・刑集9巻4号663頁,最高裁昭和32年(あ)第2247号同36年7月1
9日大法廷判決・刑集15巻7号1106頁)とするところであるから,理由がな
く,その余は,判例違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認,量刑
不当の主張であり,被告人本人の上告趣意は,単なる法令違反,事実誤認,量刑不
当の主張であって,いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。
なお,所論にかんがみ記録を調査しても,刑訴法411条を適用すべきものとは
認められない。
付言すると,本件は,看護師であった被告人が,(1)共犯者と共謀の上,同僚
の看護師から500万円をだまし取った詐欺の事案,(2)知人である看護師の夫
を殺害しその生命保険金を詐取することを主たる目的として,同看護師が自己を信
頼していることを利用して,夫に愛人がおり,しかも妻や子どもに生命保険を掛け
て殺害しようとしているなどといった嘘を巧妙に吹き込み,不信感や危機感をあお
り,これを信じた同看護師らと共謀の上,夫に催眠作用を有する薬剤を混入した飲
食物を摂取させてこん睡状態に陥らせた後,注射器を用いて静脈に空気を大量に注
入して殺害し,その後生命保険会社から多額の生命保険金を詐取した保険金殺人,
同詐欺の事案,(3)同様に,知人である看護師の夫を殺害しその生命保険金を詐
取することを企て,自己を信頼している同看護師に対し,別居中の夫に愛人がお
り,人をだまして借金を繰り返し多くの人に迷惑をかけ自殺者も出て遺族の代理人
がその夫を殺害することを望んでいるなどと巧妙に嘘を言って,同様に不信感等を
あおり,これを信じた同看護師らと共謀の上,夫に催眠作用を有する薬剤を混入し
た飲食物を摂取させてこん睡状態に陥らせた後,医療器具を用いて大量の洋酒を体
内に注入するなどして殺害し,その後生命保険会社から多額の生命保険金を詐取し
た保険金殺人,同詐欺の事案,(4)マンション購入費用などをねん出するととも
に親愛の情を寄せていた相手を独占するため,悪感情を抱いていた同人の母親を殺
害し,その預金通帳と印鑑を奪うことを企て,共犯者らと共謀の上,共犯者におい
て母親方に侵入し同女に薬剤を注射したが,同女が逃げ出したため未遂に終わった
住居侵入,強盗殺人未遂の事案,(5)上記(2)及び(3)の共犯者に対し隷属的な生
活を強いていたところ,共犯者の1人が被告人のもとから逃げ出して,殺人の事実
について警察に申告しようとしていることを察知し,これを翻意させるため,別の
共犯者と共謀して,脅迫文を2回にわたって閲読させた脅迫の事案である。
量刑上重視すべき,(2)及び(3)の殺人等並びに(4)の強盗殺人未遂等の各事実の
情状についてみることとする。その主たる動機は,生命保険金や預金通帳等を取得
しようという被告人の強い金銭欲に基づくものであるが,(2)の殺人においては共
犯者に対する嫌悪感や憎悪から同人の手で夫を殺害させて共犯者を一生苦しめると
いう意図も含んだものであり,いずれもその動機,経緯に酌量すべき点は全く認め
られない。その犯行態様は,いずれも看護師としての医療知識と経験を悪用し,勤
務先病院などから薬剤や医療器具を持ち出すなどして周到な計画と準備のもと敢行
されたものであり,殺害方法も執ようかつ残虐,非道なものである。殺人において
は,被害者らを病死に見せかけ司法解剖もされないよう画策している。そして,犯
行の結果,2名の尊い生命を奪い,強盗殺人未遂の被害者も,幸い命は取り留めた
ものの,一時こん睡状態に陥らせたものである。各殺人に伴う保険金詐欺の被害も
合計6700万円余りと多額に上る。理不尽極まりない犯行により非業の最期を遂
げた被害者らの遺族の処罰感情はしゅん烈である。本件については,看護師であっ
た被告人らが,その医療知識を悪用して共犯者らの夫を病死に見せかけて殺害した
事件として,社会に与えた衝撃は極めて大きい。被告人は,本件において,各犯行
を発案,主導し,各殺人では現場に赴くなどもして,他の共犯者らを操り,さらに
犯行によって得た利益のほとんどすべてを取得しているのであって,各犯行の首謀
者であることは明らかである。被告人は,公判において,強盗殺人未遂の共謀内容
や殺人の主導性について不合理な弁解を述べているばかりか,拘置所内で,共犯者
に手紙を交付し,偽証を依頼するなどしていて,真しな反省の情をうかがうことは
できない。
そうすると,被告人には前科がなく,客観的な事実関係はおおむね認めているこ
となど,被告人のために酌むべき事情を十分考慮しても,被告人の刑事責任は極め
て重大であり,原判決が維持した第1審判決の死刑の科刑は,当裁判所もこれを是
認せざるを得ない。
よって,刑訴法414条,396条,181条1項ただし書により,裁判官全員
一致の意見で,主文のとおり判決する。
検察官水野美鈴公判出席
(裁判長裁判官金築誠志裁判官宮川光治裁判官櫻井龍子裁判官
横田尤孝裁判官白木勇)

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