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平成28年11月29日判決言渡
平成26年(行ウ)第146号建築確認処分取消請求事件
主文
1本件訴えのうち,①被告が株式会社ビッグヴァンに対して平成25年4月
17日付け(第H25確認建築○号)及び同月30日付け(第H25確認建
築○号)でした各建築確認処分並びに②被告が株式会社ビッグヴァン外2社
に対して平成26年12月9日付けでした各建築計画変更確認処分(第H2
6確更建築○号及び第H26確更○号)の各取消しを求める部分を却下す
る。
2被告が平成27年10月13日付けで株式会社ビッグヴァン外2社に対
してした建築計画変更確認処分(第H27確更建築○)を取り消す。
3原告らのその余の請求を棄却する。
4訴訟費用は,これを2分し,その1を原告らの負担とし,その余は被告の
負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告が株式会社ビッグヴァンに対し,平成25年4月17日付け(第H25
確認建築○号。以下「本件建築確認処分B」という。)及び同月30日付け(第
H25確認建築○号。以下「本件建築確認処分A」といい,本件建築確認処分
Bと併せて「本件各建築確認処分」という。)でした各建築確認処分をいずれ
も取り消す。
2被告が株式会社ビッグヴァン外2社に対し,平成26年12月9日付けでし
た各建築計画変更確認処分(第H26確更建築○号(以下「本件変更確認処分
1A」という。)及び第H26確更○号(以下「本件変更確認処分1B」とい
い,本件変更確認処分1Aと併せて「本件各変更確認処分1」という。))を
いずれも取り消す。
3被告が株式会社ビッグヴァン外2社に対し,平成27年6月30日付け(第
H27確更建築○号。以下「本件変更確認処分2A」という。)及び同年10
月13日付け(第H27確更建築○号。以下「本件変更確認処分2B」といい,
本件変更確認処分2Aと併せて「本件各変更確認処分2」という。また,本件
各建築確認処分,本件各変更確認処分1及び本件各変更確認処分2を併せて
「本件各処分」という。)でした各建築計画変更確認処分をいずれも取り消す。
第2事案の概要
本件は,参加人及び訴外株式会社ビッグヴァン(以下「ビッグヴァン」とい
う。)らが建築主となって建築する共同住宅(仮称・P1。以下「本件マンシ
ョン」という。)の計画(以下「本件建築計画」という。)について,指定確
認検査機関である被告が,建築基準法6条1項前段に定める建築確認処分(本
件各建築確認処分)を行い,さらに,同項後段に定める建築計画変更確認処分
(本件各変更確認処分1及び本件各変更確認処分2)を行ったところ,その近
隣に居住する原告らが,本件建築計画は,建築物の高さ制限(建築基準法55
条1項)や建築物の基礎の底部が良好な地盤に達することとしなければならな
い旨(建築基準法施行令38条3項)等を定める建築基準法等の規定に適合し
ていないものであるから本件各処分は違法であるなどと主張して,その取消し
を求める事案である。
1関係法令等の定め
本件に関係する建築基準関係規定のうち主なものは,以下のとおりである。
(1)建築確認について
ア建築基準法6条1項前段は,建築主は,所定の建築物を建築しようとす
る場合においては,当該工事に着手する前に,その計画が建築基準関係規
定(建築基準法並びにこれに基づく命令及び条例の規定その他建築物の敷
地,構造又は建築設備に関する法律並びにこれに基づく命令及び条例の規
定で政令で定めるものをいう。以下同じ。)に適合するものであることに
ついて,確認の申請書を提出して建築主事の確認を受け,確認済証の交付
を受けなければならない旨を定め,同項後段は,当該確認を受けた建築物
の計画の変更をして,所定の建築物を建築しようとする場合も,同様とす
る旨を定めている。
イ建築基準法6条の2第1項は,上記アの建築物の計画が建築基準関係規
定に適合するものであることについて,建築基準法の定めるところにより
国土交通大臣又は都道府県知事が指定した者(以下「指定確認検査機関」
という。)の確認を受け,確認済証の交付を受けたときは,当該確認は同
法6条1項の規定による確認と,当該確認済証は同項の確認済証とみなす
旨を定めている。
(2)避難通路の設置について
ア建築基準法43条2項は,地方公共団体は,一定の建築物の敷地が接し
なければならない道路の幅員,その敷地が道路に接する部分の長さその他
その敷地又は建築物と道路との関係についてこれらの建築物の用途又は
規模の特殊性により,前項の規定によっては避難又は通行の安全の目的を
充分に達し難いと認める場合においては,条例で,必要な制限を付加する
ことができる旨を定めている。
イ横浜市建築基準条例(昭和35年条例第20号。甲7)は,建築基準法
の規定による建築物の制限の付加その他同法の施行について必要な事項
を定めることを目的として定められた条例であるところ(同条例1条),
同条例6条2項は,共同住宅の敷地内には,避難上有効な出口から道路等
に通ずる幅員2m以上の通路を設けなければならない旨を定めている。そ
して,ここにいう「道路等」の定義について,同条例5条2項は,道路,
公園,広場その他避難上安全な空地と定めている。
(3)建築物の階数について
ア建築基準法50条(用途地域等における建築物の敷地,構造又は建築設
備に対する制限)は,用途地域,特別用途地区,特定用途制限地域,都市
再生特別地区又は特定用途誘導地区内における建築物の敷地,構造又は建
築設備に関する制限で当該地域又は地区の指定の目的のために必要なも
のは,地方公共団体の条例で定める旨を定めている。
イ横浜市斜面地における地下室建築物の建築及び開発の制限等に関する
条例(平成16年10月1日条例第51号。以下「地下室マンション条例」
という。甲6)3条【法50条の規定に基づく地下室建築物の階数の制限】
1項は,地下室建築物の階数は,第一種低層住居専用地域においては5を
超えてはならない旨を定めている。
ウ建築基準法施行令(平成28年政令第288号による改正前のもの。以
下同じ。)2条(面積,高さ等の算定方法)1項8号は,階数の算定方法
について,建築物の一部が吹抜きとなっている場合,建築物の敷地が斜面
又は段地である場合その他建築物の部分によって階数を異にする場合に
おいては,これらの階数のうち最大なものによる旨を定めている。
(4)建築物の高さについて
ア建築基準法55条(第一種低層住居専用地域又は第二種低層住居専用地
域内における建築物の高さの限度)1項は,第一種低層住居専用地域又は
第二種低層住居専用地域内においては,建築物の高さは,10m又は12
mのうち当該地域に関する都市計画において定められた建築物の高さの
限度を超えてはならない旨を定めている。
イ建築基準法92条(面積,高さ及び階数の算定)は,建築物の敷地面積,
建築面積,延べ面積,床面積及び高さ,建築物の軒,天井及び床の高さ,
建築物の階数並びに工作物の築造面積の算定方法は,政令で定める旨を定
めている。そして,建築基準法施行令2条(面積,高さ等の算定方法)1
項6号は,建築物の高さの算定方法について,地盤面からの高さによる旨
を,同条2項は,上記の「地盤面」とは,建築物が周囲の地面と接する位
置の平均の高さにおける水平面をいい,その接する位置の高低差が3mを
超える場合においては,その高低差3m以内ごとの平均の高さにおける水
平面をいう旨をそれぞれ定めている。
(5)建築物の基礎等について
ア建築基準法20条は,建築物は,自重,積載荷重,土圧等に対して安全
な構造のものとして政令で定める技術的基準等に適合するものでなけれ
ばならない旨定めている。
イ建築基準法施行令38条(基礎)3項は,建築物の基礎の構造は,建築
物の構造,形態及び地盤の状況を考慮して国土交通大臣が定めた構造方法
を用いるものとしなければならない旨及びこの場合において,高さ13m
又は延べ面積3000㎡を超える建築物で,当該建築物に作用する荷重が
最下階の床面積1㎡につき100kNを超えるものにあっては,基礎の底
部を良好な地盤に達することとしなければならない旨を定めている。
ウ建築基準法施行令93条(地盤及び基礎ぐい)は,地盤の許容応力度及
び基礎ぐいの許容支持力は,国土交通大臣が定める方法によって,地盤調
査を行い,その結果に基づいて定めなければならない旨を定め,岩盤につ
いては,長期許容応力度が1㎡につき1000kNあるものとすることが
できる旨を定めている。
エ建築基準法施行令93条の規定に基づき定められた「地盤の許容応力度
及び基礎ぐいの許容支持力を求めるための地盤調査の方法並びにその結
果に基づき地盤の許容応力度及び基礎ぐいの許容支持力を定める方法等
を定める件」(平成13年7月2日号外国土交通省告示第1113号(以
下「本件国交省告示」という。)は,第一の条において,地盤の許容応力
度及び基礎ぐいの許容支持力を求めるための地盤調査の方法について,ボ
ーリング調査(一)及び平板載荷試験(七)など同条列挙のものとする旨
を定めている。また,同告示は,第二の条において,長期に生ずる力に対
する地盤の許容応力度を定める方法について,同条列挙の3つの計算式の
うちのいずれかによるものとする旨を定めており,そのうちの1つは下記
のとおりである(以下「本件国交省告示の式」という。)。

qa=1/3(icαCNc+iγβγ1BNγ+iqγ2DfNq)
2前提事実(争いのない事実及び顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣
旨により容易に認められる事実)
(1)当事者等(弁論の全趣旨)
ア原告らは,いずれも別紙1物件目録記載の土地(なお,別紙1中で定め
たA敷地,B敷地等の呼称は本文中でも用いる。)の近隣に居住する者で
ある。
イ被告は,建築基準法77条の18から77条の21までの規定に定める
ところにより指定を受けた指定確認検査機関である。
ウビッグヴァン及び参加人は,いずれも本件建築計画の建築主である。
(2)本件各処分に至る経緯等
ア本件建築計画及び本件各建築確認処分等
(ア)ビッグヴァン及び参加人は,本件各敷地上に本件マンションを建築
することを計画し(本件建築計画),B敷地については平成25年4月
17日付けで(本件建築確認処分B),A敷地については同月30日付
けで(本件建築確認処分A),それぞれ被告による建築確認処分(本件
各建築確認処分)を受けた(弁論の全趣旨)。
(イ)本件建築計画は,隣接するA敷地(面積合計3640.94㎡)及
びB敷地(面積合計3988.91㎡)上に合計113戸のマンション
(A敷地部分の建築面積は1167.40㎡で,B敷地部分の建築面積
は1609.83㎡である。)を建築するというものである(弁論の全
趣旨。なお,各敷地の形状や位置関係等については別紙2の1・2参照)
(ウ)本件各敷地は,第一種低層住居専用地域にあり,建物の最高高さは
10mとされている(乙33)。
(エ)本件各敷地は斜面地に所在しており,本件マンションは,一部が地
上にあり,一部が地下にあるものとして設計されている(弁論の全趣
旨)。
(オ)本件各建築確認処分に対する審査請求
原告らは,平成25年7月8日,横浜市建築審査会に対し,本件各建
築確認処分の取消しを求める審査請求をしたが,同審査会は,平成26
年1月17日,上記審査請求を棄却する裁決をした(争いのない事実)。
イ本件訴えの提起
原告らは,平成26年4月1日,当庁に本件各建築確認処分の取消しを
求める訴えを提起した(顕著な事実)。
ウ本件各変更確認処分1
(ア)被告は,本件建築計画につき,平成26年12月9日付けで,建築
計画変更確認処分(本件各変更確認処分1)をした。上記処分に係る変
更部分は,本件変更確認処分1A及び同1Bのいずれについても,敷地
形状の変更,工作物の位置移動,これらによる敷地面積等の増減などの
ほか,訴外株式会社ワイ・エム・エフ(以下「ワイ・エム・エフ」とい
う。)が建築主に加わった(以下,参加人,ビッグヴァン及びワイ・エ
ム・エフを併せて「本件建築主ら」という。)ことである。(争いのな
い事実)
(イ)原告らは,平成27年2月5日,横浜市建築審査会に対し,本件各
変更確認処分1の取消しを求める審査請求をし,同年5月19日に実施
された本件訴訟の第8回口頭弁論期日において,従前の請求に加えて,
本件各変更確認処分1の取消しの訴えを追加する訴えの変更をした(乙
73,顕著な事実)。
エ本件各変更確認処分2
(ア)原告らは,本件訴えにおいて,B敷地上に建築予定の建築物(以下
「B敷地建物」という。)の基礎の一部が良好な地盤(風化砂岩層であ
るNJ2層。甲42の13頁以下参照)には達していない旨の主張立証
をしたところ(平成26年12月16日付け原告準備書面(4)2頁,甲4
8),被告は,上記の原告らの主張等には修正すべき点もあるが,一部
の基礎が上記地盤に達していないように見える部分がある旨の主張立
証をした(平成27年2月10日付け被告準備書面(5)3頁,乙21の1
及び2)。
(イ)本件建築主らは,平成27年5月20日,被告に対し,本件建築計
画を変更する旨の申請を行い,被告は,同年6月30日付け(本件変更
確認処分2A)及び同年10月13日付け(本件変更確認処分2B)で,
それぞれ建築計画変更確認処分(本件各変更確認処分2)をした。上記
各処分に係る変更部分は,建物等の形状及び配置の変更等及びこれに伴
う建築面積・建ぺい率・建築物全体面積・延べ面積・容積率・建物の最
高高さの変更などであり,B敷地については,変更前はA棟及びB棟の
二棟であった建築物が変更後は一棟の建築物に変更された(争いのない
事実)。また,上記(ア)に関連して,①B敷地建物の構造設計標準仕様
において,地盤調査計画として平板載荷試験を3箇所以上実施するこ
と,建築物の基礎の支持層として一部に微細砂層があることが加えられ
(乙20,34),②B敷地建物の構造計算において,地盤の許容支持
力については,N値が60以上となる微細砂層であれば長期許容支持力
等の要件を満たすこととなることが示され(乙35),③実際に基礎工
事を進めた際に想定地盤面と異なる地盤形状が明らかとなった場合,す
なわち,「基礎下に支持層(N>60の風化砂岩層)が確認できない場
合」の措置として,ラップルコンクリートを支持層に根入れする置換工
法を行うことが明記された(乙36~38)。そして,同年6月及び1
0月,上記の平板載荷試験が実施された。(乙58の1~4)
(ウ)原告らは,横浜市建築審査会に対し,本件各変更確認処分2のうち,
本件変更確認処分2Aについては平成27年8月28日に,本件変更確
認処分2Bについては同年10月28日に,それぞれ各処分の取消しを
求める審査請求をし,同年12月15日に実施された本件訴訟の第4回
弁論準備手続期日において,従前の請求に加えて,本件各変更確認処分
2の取消しの訴えを追加する訴えの変更をした(乙73,顕著な事実)。
オ軽微変更(以下「本件軽微変更」という。)
本件建築主らは,被告に対し,平成28年4月21日,軽微変更報告書
を提出した。上記報告に係る変更部分は,B敷地建物の3m毎平均地盤面
の算定方法等(変更前は存在していたE領域-Ⅱを削除するなど)であり,
建物の最高高さは,変更前の9.93mから変更後の9.88mとなった
(乙63,69)。
カ各審査請求に対する裁決
横浜市建築審査会は,上記ウ(イ)及びエ(ウ)の各審査請求を併合して審
理の上,平成28年6月17日,上記ウ(イ)の審査請求を却下し,上記エ
(ウ)の各審査請求を棄却する旨の裁決をした(乙73)。
キ参加人の参加
参加人は,平成28年6月24日,行政事件訴訟法22条1項に基づき
被告を被参加人とする本件訴訟への訴訟参加を申し立て,当裁判所は,原
告ら及び被告の意見を聴いた上,同年7月6日,参加人を参加させる決定
をした(顕著な事実)。
3争点
本件における争点は,主張整理の結果,以下のとおりとなった(第9回弁論
準備手続調書別紙参照)。
(1)本案前の争点
本件各建築確認処分及び本件各変更確認処分1の取消しの訴えの適法性
(2)本案の争点
本案の争点は,本件建築計画が建築基準関係規定に適合しているか否かで
あり,具体的には以下の点が争われている。
ア横浜市建築基準条例6条2項への適合性(避難通路の設置)【A敷地関
係】
イ地下室マンション条例3条への適合性(建築物の階数)【B敷地関係】
ウ建築基準法55条1項への適合性(高さ制限)【B敷地関係】
エ建築基準法20条及び建築基準法施行令38条3項への適合性(良好な
地盤への到達等)【主としてB敷地関係】
4争点に関する当事者等の主張の要旨
(1)争点(1)(本件各建築確認処分及び本件各変更確認処分1の取消しの訴え
の適法性)について
(原告らの主張の要旨)
本件各処分はそれぞれ有効なものとして存在し,先行する処分が違法であ
る場合には,それを前提とする変更処分も違法となることを免れない。よっ
て,本件各処分はいずれも取り消されなければならない。
(被告の主張の要旨)
建築確認処分と建築計画変更確認処分については,建築計画変更確認処分
がなされた場合,変更後の確認処分に基づいて建築工事着工が可能となる反
面,従前の建築確認処分によっては建築工事を行えないこととなる関係にあ
る。したがって,行政事件訴訟法において原告らが取消しを求めるべき処分
の対象は,最終の計画変更確認処分であって,その処分前の確認処分の取消
しを求める部分(本件各建築確認処分及び本件各変更確認処分1の取消しを
求める部分)は,取消しの対象を欠き,訴えの利益がない。
(2)争点(2)ア(横浜市建築基準条例6条2項への適合性(避難通路の設置)
【A敷地関係】)について
(被告の主張の要旨)
アそもそも,主観訴訟である取消訴訟においては,自己の法律上の利益に
関係のない違法を理由として取消しを求めることはできないところ(行政
事件訴訟法10条1項),避難通路についての規制の趣旨は,不特定多数
の人が利用する一定規模の建築物に非常時に有効な避難通路を確保する
ことにあることからすれば,本件マンションを利用する居住者等の非常時
の安全確保が法律上の利益であって,原告らの利益とはいえない。
イ横浜市建築基準条例6条2項にいう道路等は「道路,公園,広場その他
避難上安全な空地」と定義され(同条例5条2項),「避難上安全な空地」
については,建築基準法42条に規定する道路には該当しないが幅員1.
8m以上のものなどが該当するとされる(「横浜市建築基準条例及び同解
説」(平成24年版)(甲37,以下「本件解説」という。)参照)。そ
うすると,敷地内の避難通路は必ずしも道路に接している必要はなく,「避
難上安全な空地」に接していれば足り,「避難上安全な空地」に該当する
か否かは,当該空地の幅員が1.8m程度以上確保されているか否かのほ
か,道路に至るまでの当該空地の長さなどを総合的に考慮して判断され
る。
A敷地上に建築予定の建築物(以下「A敷地建物」という。)の出口は,
関東財務局横浜財務事務所が管理する国有地(以下「本件青地」という。)
を経由して横浜市道に接続しているところ,本件青地は,法定の確認申請
図書上,1.8m以上の幅が確保され,長さも15mほどと短く,非常時
の有効な避難通路として十分な機能を有することは明らかであるから,
「避難上安全な空地」に該当する(避難通路,本件青地及び横浜市道の位
置関係については別紙3(なお,同別紙中,「本件青地」の書き込みは,
見やすいように関係箇所を明らかにしたものである。)参照)。
原告らは,本件青地について,原告P2宅の塀とU字溝(以下「本件U
字溝」という。)の水路に挟まれているため幅員が1.6mしかない部分
があると主張するが,指定確認検査機関が行う建築確認業務は,法定の確
認申請図書等の記載のみに基づいて形式的に審査すれば足り,敷地の実情
が申請書の記載と符合するか否かなどの調査等をすべき義務まで課され
るものではない。被告は本件青地部分に原告P2宅の塀が存在することを
確認検査時点で知る由もないから,建築確認処分の適法性判断の基礎とす
べき事情ではない。
この点を措くとしても,本件青地には,本件建築計画の建築主であるワ
イ・エム・エフ所有の土地(現況は公衆用道路)が隣接しており,同土地
には本件U字溝が存在するが,本件U字溝には蓋がされ,その上は十分通
行可能であり,本件青地と本件U字溝を含めた通行可能部分の幅員は,一
番狭いところで1.93m存在し,ワイ・エム・エフ所有地を考慮すれば,
1.8mを超える幅員が確保されている。なお,原告らの上記主張は,原
告P2自身が不当に越境しているにもかかわらず,それをいいことに青地
の幅が足りないなどと主張する濫用的主張である。
また,原告らは,本件各建築確認処分前に,被告に対し,本件青地が避
難通路に該当しないことや現地調査をすべきことなどを申し入れている
などと主張するが,このような申入れがあったからといって,現地調査義
務が生じるとする根拠はない。
(原告らの主張の要旨)
ア横浜市建築基準条例6条は,居住者の安全だけでなく,近隣住民の権利
関係や安全の保護との調整も図った規定であると解される。原告P3は本
件青地を通行の用に供し,災害時にも使用する必要があり,他の原告らに
ついても,本件青地先の市道を通行の用に供しており,ここにマンション
住民が避難のため殺到すると,避難することができなくなってしまうか
ら,A敷地に係る建築計画が横浜市建築基準条例6条に適合しているか否
かは,原告らの生命,身体,財産,人格的権利等の自己の法律上の利益と
密接に関係するものであって,行政事件訴訟法10条1項の制限を受ける
ものではない。
イ横浜市建築基準条例及び同解説(本件解説)によると,横浜市建築基準
条例6条2項にいう「道路等」のうち「避難上安全な空地」については,
建築基準法42条に規定する道路に該当しない道で,幅員が1.8m以上
4m未満の「公道」と定義されている。
しかるに,本件青地は単なる国有地であり,公道ではないから「避難上
安全な空地」には該当しない。また,本件青地について,国は避難通路又
は避難先として使用することに同意しておらず,このように,他人の土地
を不法に通行しなければならない土地は,法的に避難通路とは認められな
い。さらに,本件青地の両側は隣家の原告P2宅の塀と本件U字溝の水路
に挟まれているため,通行可能な部分は1.6mしかなく,この点からも,
「避難上安全な空地」には該当しない。
被告は,確認申請図書等の記載のみに基づいて形式的に判断すれば足
り,実情を調査すべき義務を負うものではないと主張するが,建築物の敷
地や隣接土地については,それが事実と一致しているという実質的審査を
含むべきであり,少なくとも審査過程で知り,ないし知り得た事実につい
ては,審査の対象とされなければならない。そして,原告ら代理人が本件
各処分前に本件青地が避難通路に該当しないこと,現地調査をすべきこと
などを申し入れたこと(甲38の1・2)や,本件変更確認処分2Aに先
立ち本件訴訟において現況図(甲46の1・2)を提出し,本件青地上に
塀が存在して,現況では通行可能部分は1.8m未満であることを指摘し
てきたことなどからすれば,被告はこれを認識し,調査の対象とすべきこ
とは明らかである。さらに,これらのことは,本件変更確認処分2Aに係
る申請書類(甲59)にも明記されている。
なお,被告は,本件U字溝には蓋がされていてその上を通行可能である
旨主張するが,これは,本件訴訟係属中の平成26年12月18日に本件
建築主らが蓋をしたものであり,本件建築確認処分後かつ係争中の違法な
現況変更行為であるばかりか,大雨の時に雨水が本件U字溝に流入しにく
くなり,青地にあふれさせるかえって危険な行為である。
本件青地部分は,上記のように狭隘な上,周辺の崖が崩れやすく,排水
もあふれやすいという危険なものであり,「避難上安全」ともいえない。
現に,本件マンションの建築工事において大量の固化流動化土が流出する
という事故が発生した際,本件青地部分を埋め尽くし通行不能となってい
る。
(3)争点(2)イ(地下室マンション条例3条への適合性(建築物の階数)【B
敷地関係】)について
(被告の主張の要旨)
ア建築物の階数の算定について,建築基準法施行令2条1項8号後段は,
建築物の一部が吹抜きとなっている場合…においては,それらの階数のう
ち最大なものによる旨規定しており,国土交通省住宅局編集の手引書(乙
48)にも,「建築物の部分によって階数が異なる場合」「建築物の内部
に吹抜きをもつ場合は,吹抜き以外の床のある部分で,階数の最大な部分
の階数をその建築物の階数とします。」旨の記載がある。
イ原告らは,B敷地建物のエントランス部分の階数が6階であると主張す
るが,同部分の2台のエレベーターのうちの一方(東側エレベーター)は
地上1階部分が,他方(西側エレベーター)は地上2階部分がそれぞれ通
過階となっており,通過階のホール部分は吹抜けになっていて,隣の着床
階のホールとは転落防止の手すり等で区画されているから,いずれの部分
も階数は5であり(乙39~45),地下室マンション条例3条に適合し
ている。
建築計画概要書上「地上(3階)」,「地下(3階)」などと記載され
ているとの原告ら指摘については,計画変更確認申請書と条例における階
数の認定方法には違いがあるが,階数の認定方法は上記のとおりである。
法床面積図に基づく原告らの主張については,原告らの指摘する部分
は,RC壁を床面積に算入していたものであり,床は存在しない。この点
については,平成28年4月21日付けの本件軽微変更により修正されて
いる(乙63~66)。
階数の判定に当たっては圧迫感の減少等の観点から周囲の住民から見
た外観の高さ,階数が基準とされなければならないとする原告らの主張
は,独自の解釈である。
(参加人の主張の要旨)
被告と同じ。
(原告らの主張の要旨)
アB敷地は第一種低層住居専用地域であるから,地下室マンション条例3
条1項によって階数5階までの建築物しか建築できないが,以下のとお
り,B敷地建物のエントランス部分は階数6階の建築物であるから,本件
建築計画は同項に適合していない。
(ア)建築計画概要書(乙33)上,「地上(3階)」,「地下(3階)」
又は「【イ.地階を除く階数】3」,「【ロ.地階の階数】3」とされ
ている。
(イ)構造上6階建ての建物として設計されていることが図面(乙37の
A棟軸組図(1),乙56,11枚目の構造図)上明らかである。
(ウ)図面(法床面積図。甲80の1~3)上,エレベーターホールの吹
抜け部分の隣に床がある部分があり,床面積にも算入されている。
イ地下室マンション条例は,本来3階建建物しか建たない用途地域につ
き,特別に厳格な条件のもと,+2階を例外的に認めたものであり,その
趣旨は,用途地域にそぐわない高さ,ボリュームの建物が建つことによっ
て,周囲の住環境に与える圧迫感やボリュームの軽減を目的としているの
であって,その階数の判定に当たっては,圧迫感の減少等の観点から,周
囲の住民から見た外観上の高さ,階数が基準とされなければならないとこ
ろ,B敷地建物のエントランス部分は,最下階からの高さが18.450
m,原告P3の自宅敷地からすると30mも高く,明らかに条例の趣旨に
反する。
(4)争点(2)ウ(建築基準法55条1項への適合性(高さ制限)【B敷地関係】)
について
(被告の主張の要旨)
ア建築物の高さは地盤面からの高さによるとされ(建築基準法施行令2条
1項6号),ここにいう地盤面については,建築物が周囲の地面と接する
位置の平均の高さにおける水平面をいい,その接する位置の高低差が3m
を超える場合においては,その高低差3m以内ごとの平均の高さにおける
水平面をいうとされている(同条2項)。そして,平均地盤面の算定につ
いては,神奈川県建築基準法取扱基準(乙71の2。以下「本件取扱基準」
という。)において,「各領域の境界線は直線を用い,その境界部分も地
面に接するものとみなして算定する」こととされている。
イ本件建築計画(本件軽微変更前のもの)においては,別紙4(なお,同
別紙中,「①」「㉒」「㉓」「㉔」「㉕」「㉖」「㉗」の書き込みは,見
やすいように関係箇所を明らかにしたものである。),5の図面のとおり,
領域分けの高さ起点である海抜44.30mの地点(別紙4に①と記載さ
れている地点。以下,「①」又は「①地点」などともいう。①以外の地点
についても同じ。)から下方3mごとにA~Eの各領域が設定され(A領
域は高さ41.30~44.30m,B領域は高さ38.30~41.3
0m,C領域は高さ35.80~38.30m,D領域は高さ32.30
~35.30m,E領域は高さ29.30~32.30m),各領域につ
いてそれぞれ平均地盤面が算定されている。
原告らは,E領域の設定又は平均地盤面の算定方法が誤っている旨主張
するところ,E領域は,別紙4において,㉒,㉓,㉔,㉕で囲まれた部分
(E領域-Ⅰ)及び㉖と㉗の間の線状の部分(E領域-Ⅱ)であり,この
部分について,領域の境界線として直線を用い,その境界部分も地面に接
するものとみなして算定することになる。そうすると,E領域の平均地盤
面は30.86mとなるところ,この部分は4階建て部分であり,その高
さは40.79mであるから,平均地盤面からの高さは9.93mとなり,
10m以内である。(なお,E領域-Ⅱ部分は,垂直線上の領域であり,
その領域内には建物が存在しないため,本件軽微変更により削除され,建
築物の最高高さは9.93mから9.88mに変更となっている。)
ウこのようなE領域の設定及び造成地盤面は,開発許可の手続内で審査さ
れ,適法であるとして開発許可を得ているものであり,建築確認において
は,開発許可において審査された造成地盤面を前提に,建物が高さ制限に
反していないかを確認すれば足りる。
エ原告らは,別紙4の㉕と㉖の間の1m四方の部分(以下「本件突起状部
分」という。)が不合理であるとも主張するが,この部分は開発許可によ
り認められたものである。本件突起状部分については,もともとB敷地上
には建物が2棟建設される予定であったところ,その建物の間のスペース
部分に㉕,㉖間の原地形を残したものであり,特別に盛土を行って残した
というものではなく,何ら不合理なものではない。切土については,切土
を行う角度を除いて規制は存在せず,この点が違法となるものでもない。
本件建築主らは,原地形を利用してより高い建物を建築することもできた
はずであるが,㉕,㉖のみを残して切土したことにより,近隣住民に対し
て有利に働いている部分もある。なお,本件突起状部分が切土されており
存在しないとの点は,施行上の問題にすぎず,本件各処分を違法たらしめ
るものではない。
オ原告らがその主張の根拠とする建設省住宅局建築指導課建設専門官か
ら特定行政庁建築主務課長あて通知「「高さ・階数の算定方法・同解説」
について」(甲103。以下「本件専門官通知」という。)については,
同通知を受けてどのように運用するかは各特定行政庁に任されている。神
奈川県においては,本件取扱基準に基づいて確認審査がされており,上記
イのE領域の設定や平均地盤面の算定は,この運用に基づくものであり,
何ら違法はない。
カ以上のとおりであって,B敷地におけるE領域の設定,平均地盤面の算
定その他について問題はなく,本件建築計画は,建築基準法55条1項に
適合している。
(参加人の主張の要旨)
ア原告らがその主張の根拠とする本件専門官通知は,からぼりがある場合
と盛土が行われている場合に係る記載であるが,本件突起状部分は現況地
盤の高さを残した切土である。切土については法規制は存在せず,明確か
つ具体的な使用方法がなければならないといった合理性や目的は要求さ
れていないのであって,原告らの主張はその前提を欠く。建築基準法55
条1項は,良好な住環境を備えた地域の日照,通風及び採光を保護するな
どのために10mの高さ制限を設けたものであるが,これらは絶対的に保
護されるものではなく,もともとの地形による地盤面を前提にして高さ1
0mを超えない建物でなければならないという限度で既存の周辺住宅が
保護されるにとどまるのである。また,原告らは「建築確認のための基準
総則・集団規定の適用事例2013年度版」(甲108。以下「適用事例
2013年度版」という。)もその主張の根拠とするが,2009年度版
の適用事例には原告らの指摘するような記載はない。
なお,本件突起状部分は,もともとB敷地建物はほぼ全てが5階建ての
予定であったところ,建設に反対する一部住民への配慮から,建物を北側
境界線から離すとともに,5階建て部分をより少なくするようにした際,
建物南側の高さを維持するため,現況地盤の高さで32.3mを維持でき
る本件突起状部分を残すこととする一方,あまりに大きな地盤として残す
と本件マンションの住民の居住性を損なうことや,デザインなども考慮し
て現在の設計としたものであり,合理性がある。
イ本件突起状部分の大きさや領域設定などについては,開発許可申請の事
前審査の段階で,横浜市の開発許可を担当する宅地審査課だけでなく,建
築確認を担当する建築安全課においても事前に十分検討を加えた上で,こ
れを了解している。横浜市においては,開発許可手続を進める過程で,宅
地審査課は,平均地盤や領域設定の適法性につき建築審査課に十分確認を
取りながら進めており,建築確認関係についても適法性が認められる場合
に宅地審査課が開発許可の同意通知書を交付している。開発許可の手続に
おいては,平均地盤面算定図も提出することになっている。よって,開発
許可がされたにもかかわらず,その後建築確認がされないという事態は運
用上あり得ない。
ウ原告らは,別紙4の図面の㉖と㉗の間の部分は盆地,大きな谷上である
と断定するが,同部分は高低差が3m,長さが42.150mにすぎない
ことからすると,盆地又は谷には当たらない。
(原告らの主張の要旨)
アB敷地は第一種低層住居専用地域であり,建物の高さの限度は10mと
されているが,以下のとおり,E領域の設定又は平均地盤面の算定方法が
誤っており,正しく算定すると,B敷地建物の高さは10mを超えるから,
本件建築計画は,建築基準法55条1項に適合していない。
イ本件専門官通知によれば,高低差が3mを超える場合の地盤面の算定に
ついては,設定した領域ごとにその全周囲の接する位置の平均の高さを算
定するとされている。そして,建築物が周囲の地面と接する位置について
は,原則として造成後の地形によるものとされているが,人為的な造成行
為によって,それが著しく不当な結果をもたらす場合には,人為的な造成
行為がないものとしての建築物が実際に接する地表面に修正するものと
されている。設定する領域の平面的形状については,地盤面を算定するた
めのそれぞれの領域は直線とすることを前提とするが,敷地や建築物の形
状により,この方法によることが不合理な場合には,合理的な他の形状に
よる境界線でもって,領域を設定するとされ,境界線を直線とすることが
不合理な場合については,敷地の形状の特殊性により,直線での設定が著
しく不適当と認められるものとされている。そして,敷地の形状の特殊性
については,例えば,盆地,谷上の敷地,一部が隆起した敷地等に広がり
をもって建築物が建築される場合等が考えられるとされている。
ウB敷地建物は,以下のとおり,盆地,谷上の敷地,一部が隆起した敷地
等に広がりをもって建築物が建築される場合であって,敷地の形状の特殊
性により,直線での設定が著しく不適当と認められるものに該当する。
すなわち,別紙4の㉖と㉗の間の中心部は盆地,大きな谷上であって,
馬蹄形状に高さ29m以下の部分が存在し,この部分はE領域とされるべ
きである。また,㉖と㉗の間の谷以外の部分も,高さ29.3mに切土さ
れることとなっている,しかし,本件建築計画においては,本件突起状部
分(別紙4の㉕と㉖の間の部分)だけ人為的に高さ32.3mの部分が残
され,㉖地点と㉗地点のそれぞれの高さが32.3mであるとして,この
間を直線で結び,平均地盤面が算定されている。このような谷上の敷地で,
脱法的な一部のみ隆起した敷地の両端の高い部分を直線で結ぶと,㉖と㉗
の間の40mにも及ぶ高さ32.3m以下の領域が無視されることにな
り,3mごとに領域を設定する意味がなくなってしまう。
B敷地建物の㉖と㉗の間は5階建て部分であり,その高さは43.60
mであるところ(乙45),上記のとおり,この部分にもE領域に属すべ
き部分が存在する。そして,E領域の平均地盤面は30.91mであるか
ら,平均地盤面からの高さが10mを超えている。
なお,本件突起状部分は,本件変更確認処分2Bがされた平成27年1
0月13日の時点では造成業者によって切土され,存在しなかったとこ
ろ,被告もそのことを認識可能であったから,より強い意味で㉖と㉗の間
を直線で結ぶことは許されない。
エまた,本件建築計画においては,別紙4の㉕と㉒の間の部分も高さ32.
3mとされているが,上記のとおり,意図的に偽装された本件突起状部分
は無視されるべきであるし,現実にも,上記のとおり,本件突起状部分は
切土によって存在しなくなっているから,㉕は高さ29.3m,㉒は高さ
32.3mで,両者の平均の高さは30.8mとして計算されなければな
らない。これを前提としてE領域の平均地盤面を算定し直すと約30.2
mとなる。B敷地建物の㉕と㉒の間は4階建て部分であり,その高さは4
0.79mであるから,平均地盤面からの高さが10mを超えることにな
る。
オなお,被告は,本件専門官通知は本件建築計画には適用されない旨主張
するが,同通知は,平成7年の閣議を受けて日本建築主事会議において検
討され,主務官庁も概ね適当なものとして,全国の特定行政庁宛てに通知
されているものであり,その内容は,まさに統一見解として,建築基準法
のあるべき解釈を示したものにほかならない。また,横浜市の建築局建築
指導部建築安全課の担当者は,建築基準法上の地盤面の算定方法の取扱い
について,適用事例2013年度版によっているとしているところ,適用
事例2013年度版にも本件専門官通知と同様の記載がある。さらに,被
告は,開発許可手続において地盤面の設定等が審査されると主張するが,
これらが審査されるのは建築確認審査段階であり,初歩的な誤りである。
カ参加人は,本件突起状部分は現況地盤の高さを残した切土であるとこ
ろ,切土については法規制は存在せず,合理性や目的も要求されていない
旨主張するが,原告らは,建築基準法等の趣旨からして,本件専門官通知
や適用事例2013年度版が適用されると主張するものである。なお,本
件各建築確認処分は平成25年4月に,本件各変更確認処分1は平成26
年12月に,本件変更確認処分2Bは平成27年10月にそれぞれされて
いるから,2009年版には記載がなかった旨の参加人の主張は失当であ
る。
また,参加人は,平均地盤面や領域設定については,開発事業計画変更
の同意手続において,横浜市によってもチェックされており,同申請にお
いては平均地盤面算定図も提出することになっている旨主張するが,開発
許可手続と建築確認手続は法定の審査事項も申請書類も別個の手続であ
り,建物の高さや地盤面の設定は建築確認手続での建築主事による審査事
項であるし,平均地盤面算定図は地下室マンション条例における盛土の制
限のチェックの必要から提出されるものにすぎず,建築基準法上の高さ制
限の適合性の適否については協議もチェックもされていない。仮に,同意
という処分性のない手続で被告以外の者による判断がされたとしても,建
築確認処分において判断の誤りが正され得るものである。
(5)争点(2)エ(建築基準法20条,建築基準法施行令38条3項への適合性
(良好な地盤への到達等)【主としてB敷地関係】)について
(被告の主張の要旨)
ア良好な地盤への到達について
(ア)建築基準法施行令93条は,地盤の許容応力度及び基礎ぐいの許容
支持力は,国土交通大臣が定める方法によって,地盤調査を行い,その
結果に基づいて定めなければならない旨を定めている。そして,同条を
受けて定められた本件国交省告示は,長期に生ずる力に対する地盤の許
容応力度を定める場合について,「qa=1/3(icαCNc+iγ
βγ1BNγ+iqγ2DfNq)」の式(本件国交省告示の式)等により
地盤の許容応力度を定めるものとしている。
(イ)本件マンションについては,平成18年12月までにボーリング調
査,標準貫入試験等の地盤調査が行われ(以下「平成18年調査」とい
う。甲18,26,42),平成20年5月までにも新規のボーリング
調査を含む追加調査が行われており(以下「平成20年調査」という。
甲19,27,43),その調査結果を前提として,上記の式に従って
長期許容支持力が算出されている(乙35のP.3-1)。
本件マンションは,支持基盤をN値(地盤の強度等を求める数値)が
60以上の風化砂岩層(NJ2層。以下,単に「NJ2層」ともいう。)
及び一部がN値が60以上の微細砂層(NJ1層。以下,単に「NJ1
層」ともいう。)とし,地盤の長期許容支持力を1000kN/㎡とし
て構造計算をしているから,地盤の許容支持力が1000kN/㎡であ
れば良好な地盤に到達しているといえるところ,本件国交省告示の式に
よる計算結果は,NJ2層につき4094kN/㎡,NJ1層につき1
243kN/㎡であって,いずれも1000kN/㎡を超えている。
このように,本件建築計画においては,B敷地建物の基礎が良好な地
盤面に達するように設計されており,建築基準法施行令38条3項に適
合している。
イ地盤調査の方法について
(ア)そもそも,建築確認業務は,法定の確認申請図書等の記載のみに基
づいて,これが適合しているかどうかを形式的に判断すれば足り,工事
現場の実情が申請書の記載と符合するか否かを調査する義務までは課
されていない。加えて,本件建物のように規模の大きい斜面を掘削する
場合,掘削前に地質調査結果で全ての地層を正確に想定することは困難
であるから,工事実施時に平板載荷試験により支持力が1000kN/
㎡以上になることを確認することとして支持力を担保している。そし
て,実際に工事を進めた際に,想定地盤面と異なる地盤形状が明らかと
なった場合には,支持層に達するまで掘削し,基礎下端と支持層の間を
ラップルコンクリート(コンクリートの塊)に置換し,基礎が地盤面に
達するように施行される設計となっており,処分後の事情ではあるが,
実際にB敷地においては平板載荷試験が実施され,長期許容支持力10
00kN/㎡以上が確保されていることが確認されている。
(イ)原告らは,全ての基礎位置につきボーリングによる地盤調査が必要
であり,平板載荷試験は原則として利用できない旨主張するが,そのよ
うなことを求める法令等は存在せず,原告らの独自の見解を述べるにす
ぎない。
ウ構造計算について
原告らは,B敷地山側垂直法等の土圧について,構造計算がされていな
いか,誤りがあるなどと主張するが,その指摘が誤りであることは,構造
計算適合性判定結果通知書(乙54,56)に記載のとおりである。
(参加人の主張の要旨)
ア良好な地盤への到達について
原告らは,甲48等を根拠として,B敷地建物の基礎底部が良好な地盤
とはいえない細砂,微細砂層(NJ1層)上にあり,良好な地盤である風
化泥岩層(NJ2層)に達していない旨主張する。
しかし,B敷地が良好な地盤の上にあることは平板載荷試験の結果から
明らかである。また,そもそもNJ1層が良好な地盤とはいえないとする
前提そのものが誤っている。
なお,B敷地建物の構造計算書(乙35)P.3-1には支持層として
NJ1層の記載があるが,これは,仮に地盤がNJ1層だとしても必要十
分な地盤許容支持力が得られることを示したものであって,B敷地建物基
礎がNJ1層にあることを示したものではない。
原告らは,基礎底部にNJ1層が目視されていると主張するが,その証
拠として提出する写真(甲90,99)は基礎底部の写真ではないし,写
真からNJ1層であることすら明らかではない。
なお,原告らは,B敷地建物の構造計算書(乙35)中のNJ1層の粘
着力の数値が誤っている旨主張するが,平板載荷試験の結果において十分
な長期許容支持力を有することが明らかになっている。
イ地盤調査の方法について
原告らは,建築基準法施行令38条3項は,複雑な斜面地の土質におい
ては,最も弱い部分において基礎の底部が良好な地盤に達していることを
ボーリング調査等の確実な調査方法によって確認することを求める趣旨
である旨主張するが,同項は,一定の建築物について基礎の底部が良好な
地盤に達することを求めるものであって,具体的な調査方法を指示又は指
定したものではない。
ウ平板載荷試験について
原告らは,平板載荷試験の結果(乙58)について,基礎部分の表面の
みコンクリートで覆った上試験を行うという違法な方法で行われた旨主
張するが,このような事実はない。原告らは,甲99,資料0-2の下側
の写真において,周囲の土の色と平板載荷試験跡の色が異なるので,コン
クリートを打設したと思いこんだものと思われるが,これは,平板載荷試
験の実施に当たり,載荷板と地盤とのなじみをよくするため,薄く砂を撒
いてから載荷板を設置したものにすぎない(丙5参照)。原告らが平板載
荷試験のデータを分析したとする点についても,科学的知見の根拠がない
勝手な解釈である。
(原告らの主張の要旨)
ア良好な地盤に到達していないこと
平成18年調査や平成20年調査の各報告書(以下「平成18年報告
書」,「平成20年報告書」という。)のほか,進行中の掘削工事等によ
り,B敷地建物中央部の下には大きな埋没谷があることが判明しており,
この部分は強固な支持基盤ではなく,分厚い軟弱な細砂層となっている。
そして,以下の事情に照らすと,B敷地建物の基礎が良好な地盤に到達し
ていないことは明らかであるから,本件建築計画は,建築基準法施行令3
8条3項に適合していない。
(ア)軟弱地盤の存在
原告らの主張立証(土層断面図(甲48)など)により,B敷地で行
われた既存ボーリング№7と8を結ぶ断面において,B敷地建物の谷側
基礎が,良好な地盤とはいえない細砂,微細砂層(NJ1層)上にあり,
良好な地盤である風化泥岩層(NJ2層)に達していないことが明らか
となった。これを受けて,被告も,本件変更確認処分2Bにおいては,
B敷地東側基礎が堅固でない微細砂層のNJ1層上にあることを認め
ている。
現実にも,B敷地建物の地盤掘削の進行により,B敷地建物の谷側基
礎のすぐ東側の地盤を標高23m付近まで掘削した結果,NJ1層であ
ることが目視されている。
(イ)ボーリング調査の方法について
建築基準法施行令38条3項の趣旨からすると,複雑な斜面地の土質
においては,全ての基礎部分においてボーリング調査を行わなければな
らず,少なくとも最も弱い部分において基礎の底部が良好な地盤に達し
ていることをボーリング調査等の確実な調査方法によって確認するこ
とが求められていると解される。本件では,B敷地は埋没谷上にあり,
微細砂層,粘土層が目視され,被告も一部のマンション基礎が微細砂層
上にあることを認めており,また,雨水貯留槽付近に標高23m付近ま
で掘削された後に埋め戻された場所があることから,これらの部分につ
いてはボーリング調査等の確実な調査方法によって良好な地盤に達し
ていることを確認すべきであったが,それが行われていない。
(ウ)NJ1層の長期許容支持力について
本件変更確認処分2Bの段階のB敷地建物の構造計算書(乙35)に
おいては,NJ1層の長期許容支持力が1243kN/㎡とされている
が,以下のとおり,これは誤りである。
すなわち,NJ1層については,平成18年報告書(甲42)におい
ては全体的には固結していない旨が記載されているにもかかわらず,平
成20年報告書(甲43)においては,「凝灰質砂岩状を呈している」
などとして岩盤とみなし,粘着力が210kN/㎡と見積もられてい
る。そして,上記構造計算書においては,NJ1層の粘着力を210k
N/㎡として,その長期許容支持力が1243kN/㎡と算出されてい
る。しかし,岩盤層(NJ2層)が風化により粘着力を失うことで細砂
層(NJ1)が生じることは地質学の常識であり,そのため,細砂層の
粘着力は岩盤部に比べて著しく小さく,210kN/㎡ではありえな
い。細砂層と同様に固結していない埋土層,沖積層,崩壊土層の粘着力
からすると,B敷地のNJ1層の粘着力は30kN/㎡程度であるはず
であり,これを前提とすれば,NJ1層の長期許容支持力も1243k
N/㎡の7分の1の178kN/㎡程度にしかならないはずである。
(エ)平板載荷試験について
被告が提出する平板載荷試験の結果(乙58)については,マンション
建物基礎の地盤強度調査においては,平板載荷試験はボーリング調査の補
完的な調査方法でしかなく,ボーリングデータから地質構造と地盤強度が
明らかであるなどの場合にのみ,その地盤強度の確認のために平板載荷試
験を利用することが可能であるが,本件マンションについては,上記のと
おり,建物基礎の一部の長期許容支持力が1000kN/㎡未満であるこ
とが明らかであり,平板載荷試験を用いることができる場合に当たらな
い。
また,乙58のデータを分析すると,基礎部分の表面のみコンクリート
で覆った上試験を行うという違法な方法で行われたことが明らかであり,
信用性がない。
イ構造計算について
建築基準法20条は,建築物が構造耐力上,同条の定める基準に適合す
るものでなければならないとして,建築物の構造計算と構造基準への適合
を求めているが,上記のとおり,B敷地の長期許容支持力の計算は誤って
おり,また,A敷地も全体として堅固な地盤とはいえず,脆弱な細砂層,
粘土層,風化砂岩層が深い地層まで交互に重なる互層となっている。
しかるに,B敷地山側垂直法(甲79の緑矢印4③④),A敷地山側垂
直法(同①②)及びA敷地エレベーター壁部分山側の垂直法(同⑤⑥)の
土圧を支える外壁については,構造計算がされているかどうか明らかでは
なく,されているとしても,構造計算の結果が基準を満たしていない。よ
って,本件各敷地の構造計算には不備があり,建築基準法20条に適合し
ていない。
第3争点に対する判断
1争点(1)(本件各建築確認処分及び本件各変更確認処分1の取消しの訴えの
適法性)について
(1)建築基準法6条1項前段は,建築主は,所定の建築物を建築しようとす
る場合においては,当該工事に着手する前に,その計画が建築基準関係規定
に適合するものであることについて,確認の申請書を提出して建築主事の確
認を受け,確認済証の交付を受けなければならない旨を定め,同項後段は,
当該確認を受けた建築物の計画の変更をして,所定の建築物を建築しようと
する場合も,同様とする旨を定めている。また,同法6条の2第1項は,指
定確認検査機関の確認を受け,確認済証の交付を受けたときは,当該確認は
同法6条1項の規定による確認と,当該確認済証は同項の確認済証とみなす
旨を定めている。このような建築確認の制度は,建築工事の着手前に建築計
画が建築基準関係規定に適合することについて建築主事等の確認を受けさ
せることにより,違反建築物の出現を未然に防止することを目的とするもの
であると解される。
以上のような建築基準法6条1項の前段及び後段の文理と,建築確認制度
の趣旨,目的に照らすと,建築物の計画を変更して建築確認処分を受ける場
合においては,その変更部分についてのみ建築確認処分を受けるのではな
く,変更後の計画全体について建築基準関係規定に適合しているか否かが審
査され,建築主事等は,変更後の計画が建築基準関係規定に適合すると判断
したときは,新たな建築確認処分を行うことになると考えることができる。
そして,建築主が建築物の計画を変更してその旨の申請を行い,実際に建築
工事を行う建築物について建築主事等の建築確認処分を受けた場合,変更前
の計画についての建築確認処分の効力を保持させておくべき合理的必要性
は見出し難い。そうすると,建築主事等が変更後の計画について建築確認処
分をした場合,既にされた建築確認処分の効力は,当然に消滅すると解すべ
きである。
(2)以上を前提とすると,本件各建築確認処分は,本件各変更確認処分1がさ
れたことに伴いその効力を失い,本件各変更確認処分1は,本件各変更確認
処分2がされたことに伴いその効力を失ったというべきであるから,本件訴
えのうち,本件各建築確認処分及び本件各変更確認処分1の取消しを求める
部分は,取消しの対象を欠くものであって,訴えの利益がないというべきで
ある。
これと異なる原告らの主張は採用することができない。
2争点(2)ア(横浜市建築基準条例6条2項への適合性(避難通路の設置)【A
敷地関係】)について
(1)行政事件訴訟法10条1項の適用の有無
ア行政事件訴訟法10条1項は,取消訴訟においては,自己の法律上の利
益に関係のない違法を理由として取消しを求めることができない旨定め
ているところ,上記の違法とは,処分に存する違法のうち,原告の権利利
益を保護する趣旨で設けられたものではない法規に違反した違法をいう
ものと解される。
イ原告らは,横浜市建築基準条例6条2項の規定は,居住者の安全だけで
なく,近隣住民の権利関係や安全の保護との調整も図った規定である旨主
張する。
そこで検討するに,同条1項は,共同住宅など一定の用途に供する建築
物につき,避難上有効な出口を2つ以上設けるべきことなどを定め,同条
2項は,敷地内においてその出口から道路等に通ずる幅員2m以上の通路
を設けるべきことを定め,同条4項は,同条2項の規定は増築等をする場
合その他これに類する場合で市長が避難の安全上支障がないと認めて許
可したときは適用しないことを定めている。このように,同条の規定は,
建築物における屋外への出口や敷地内の避難通路について定めたもので
あって,出入口その他の避難施設,避難上必要な通路につき,建築物の敷
地,構造又は建築設備に関する避難の安全上必要な制限を付加したもので
あると解される(建築基準法35条,40条,上記条例1条参照)。他方,
上記条例には,いわゆる接道義務に関する建築基準法43条1項及び2項
の規定を受けて,共同住宅などの建築物の敷地とそれが接すべき道路に関
する規定が別途置かれ(5条),それによる規制を通じて,建築物の周辺
住民等も含めて,交通上,安全上,防火上の支障について配慮するものと
なっている。
これらの点からすると,上記条例6条2項は,もっぱら建築物の居住者
等の避難の安全を確保するため,その利益を保護する趣旨の規定であると
いうべきであり,建築物の周辺住民の避難の安全を確保するものと解する
ことは困難であって,その個別的利益を保護する規定であるということは
できない。
そうすると,原告らが同項に関する違法を本件各処分の取消訴訟におい
て主張することはできないというべきである。
これと異なる原告らの主張は採用することができない。
(2)横浜市建築基準条例6条2項への適合性について
なお,審理の経過に鑑み,仮に原告らにおいて同項違反を主張することが
できるとした場合において,その適合性について検討する。
ア横浜市建築基準条例6条2項は,共同住宅の敷地内には,避難上有効な
出口から道路等に通ずる幅員2m以上の通路を設けなければならない旨
を定め,同条例5条2項は,「道路,公園,広場その他避難上安全な空地」
をもって,上記の「道路等」という旨定めている。
そして,横浜市は,上記条例に関し,「横浜市建築基準条例及び同解説」
(甲37。本件解説)を作成し,同市における上記条例に関する取扱いを
明らかにしているところ,本件解説によれば,道路等のうち「その他避難
上安全な空地」とは,「将来においても現況が担保されることが確実な次
のようなものが該当」するとの記述があり,その例として,①「建築基準
法第42条に規定する道路に該当しない道で,幅員1.8メートル以上4
メートル未満の公道」,②「水路を埋め立てて造った道で,幅員1.8メ
ートル以上のもの」が列挙されている。そして,横浜市は,被告に対し,
本件解説の上記内容に則った照会回答を行っている(甲21,乙14の1,
2)。
もっとも,本件解説の上記のような性質と,上記条例が「その他避難上
安全な空地」につき数値をもって定義していないことに照らすと,本件解
説に示された上記①,②は,横浜市が「避難上安全な空地」に該当するも
のとして取り扱う典型例を例示列挙したものにすぎないというべきであ
り,厳密には上記①,②に当たらない空地であったとしても,避難の安全
の観点からみて,避難通路の接続する先として上記①,②と同程度のもの
と認められるのであれば,上記条例の解釈上,「避難上安全な空地」に当
たると解することは妨げられないというべきである。
イこれを本件についてみると,A敷地建物については,建築物の出口から
本件青地に至る経路が避難通路とされているところ(別紙3),①本件青
地は,地積測量図等(乙7の1及び2)において,図面上,1.8m以上
の幅があると認識できること(乙13の1~5),②現況においては,本
件青地(国有地)のうち通路の敷地となっている部分(原告P2宅の塀と
本件U字溝の水路の間の部分)のみをみると,幅が1.8mに満たない場
所があること(甲22),③他方,本件青地に隣接して,本件建築主らが
所有する土地(公衆用道路)が存在するところ,それらは一体として通路
状の敷地を形成しており,この通路状の敷地については,1.93m以上
の幅が確保されており(乙15,22,23),その一部に含まれるU字
溝部分については,蓋をすればその部分も含めて通行可能な状態であるこ
と(甲52,84の2)が認められる。また,本件青地には住宅敷地が隣
接しており(乙15),従来,その住民の通行の用に供されてきたことが
うかがわれるところ,今後,周辺の崖が崩れて本件青地の通行に具体的な
支障を生じさせる蓋然性が高いことを裏付けるに足りる的確な証拠は提
出されていない。
以上の点を勘案すると,本件青地等が形成する通路状の敷地は,厳密に
は本件解説が例示列挙する空地には当たらないものであるとしても,避難
の安全の観点からみて,避難通路の接続する先としてそれと同程度のもの
と認めることができるから,上記条例の解釈上,「避難上安全な空地」に
当たると解することは妨げられないというべきである。
ウ以上のとおり,本件青地等が形成する通路状の敷地は「避難上安全な空
地」(横浜市建築基準条例5条2項),ひいては「道路等」(同条例6条
2項)に該当するということができるから,本件建築計画は,同項に適合
しているということができる。これと異なる原告らの主張は採用すること
ができない。
3争点(2)イ(地下室マンション条例3条への適合性(建築物の階数)【B敷地
関係】)について
(1)地下室マンション条例3条1項は,地下室建築物の階数は,第一種低層住
居専用地域においては5を超えてはならない旨を定めているところ,前記前
提事実(2)ア(ウ)のとおり,B敷地は第一種低層住居専用地域にあるから,そ
の階数は5を超えてはならないこととなる。
原告らは,B敷地建物は階数6階の建物であるから,本件建築計画は同項
に適合していない旨主張するので,この点について検討する。
(2)証拠及び弁論の全趣旨によれば,B敷地建物に係る建築計画(本件変更確
認処分2Bのもの。)につき,以下の事実が認められる。
アB敷地建物は,63戸の居住部分を中心とする共同住宅であり,居住部
分の北側は4階建て部分,南側は5階建て部分となっており,さらにその
南側にエントランス部分が設けられる計画となっている(乙32,33,
39~45)。
イエントランス部分には東西方向に並ぶ2基のエレベーターが設置され
ている。2基のエレベーターは,いずれも,地下3階から地上3階(エン
トランス階)の範囲を動くが,このうちの1基(東側エレベーター)は地
上1階を不停止階とし,もう1基(西側エレベーター)は地上2階を不停
止階としており,各不停止階については,エレベーター前のエレベーター
ホール部分が吹き抜けとなっている。(乙39~45,47)
ウB敷地に係る「確認済証」(乙32)の「主たる建築物の階数」は,「地
階を除く階数(地上階数)」「3」,「地階の階数」「3」とされており,
「計画変更確認申請書(建築物)」(乙33)にも同旨の記載がある。
(3)検討
ア地下室マンション条例2条は,同条例における用語の意義は建築基準
法,建築基準法施行令及び都市計画法の例による旨を定めているから,上
記の「階数」については,それを定義している建築基準法施行令2条1項
8号の定めに従って判定することになる。そして,同号は,建築物の「階
数」について,建築物の一部が吹き抜けとなっている場合その他建築物の
部分によって階数を異にする場合においては,これらの階数のうち最大な
ものによる旨定めている。上記の定めによれば,建築物の複数の部分に
別々の吹き抜けが存在する場合においては,それぞれの部分ごとにみて階
数が最大となる部分の階数をもって,その建築物の階数とすることになる
と解される。
イこれを本件についてみると,上記(2)イのとおり,B敷地建物のエントラ
ンス部分は,地下3階からエントランス階(地上3階)まで6階分を有す
るものの,2基のエレベーターのうち,1基は地上1階を不停止階とし,
もう1基は地上2階を不停止階とし,不停止階については,エレベーター
前のエレベーターホール部分が吹き抜けとなっているというように,互い
違いの構造となっており,そのいずれについても,床がある部分の階数は
5である。また,B敷地建物の住居部分の階数は5又は4である。そうす
ると,「これらの階数のうち最大なもの」は5であり,B敷地建物の階数
は5であることになるから,本件建築計画は,地下室マンション条例3条
に適合しているということができる。
なお,上記(2)ウのとおり,確認済証等には,「地階を除く階数(地上階
数)」と「地階の階数」をそれぞれ3と表記している部分があるが,これ
らは,地上と地階を分けてみれば,それぞれの階数が3と判定されること
から,上記のような表記となったものと解されるところであり,上記の判
断を左右するものとはいえない(なお,建築基準法施行令2条1項8号の
文理上も,建築物の部分につき観念し得る「階数」と,それを前提として
定められる建築物全体の「階数」との双方の概念があることを前提として
いるということができる。)。
ウ原告らは,地下室マンション条例は,本来3階建建物しか建たない用途
地域につき,特別に厳格な条件のもと,+2階を例外的に認めたものであ
り,その趣旨は,用途地域にそぐわない高さ,ボリュームの建物が建つこ
とによって,周囲の住環境に与える圧迫感やボリュームの軽減を目的とし
ているのであって,その階数の判定に当たっては,圧迫感の減少等の観点
から,周囲の住民から見た外観上の高さ,階数が基準とされなければなら
ないなどとして,B敷地建物の階数が6であると主張する。
しかしながら,地下室マンション条例3条が,第一種低層住居専用地域
について地下室建築物の階数を5を超えることができない旨を定めてい
る趣旨は,建築物の高さの最高限度が10mである最高限度第一種高度地
区においては,平坦地であっても,住宅地下室の容積不算入制度を最大限
利用した場合,合計5階までの建築物の建設が可能となることから,斜面
地における地下室建築物の階数においても,平坦地における最大可能な階
数である5階までとしたというものであり(甲6),斜面地における地下
室建築物につき5階とすることを例外的に許容したものとまで解するこ
とはできない。また,同条例上,階数の定義については,上記アのとおり,
建築基準法施行令の規定によるものとされており,これと異なる解釈をす
べき場合が予定されているとはいえない。そうすると,地下室マンション
条例の対象となる建築物に吹き抜けがある場合であっても,その「階数」
を定めるにあたり,建築基準法施行令2条1項8号の上記アのような解釈
を変更しなければ地下室マンション条例の趣旨を全うできなくなるとま
ではいえないと解されるところである。
以上のとおりであるから,原告らの上記主張は採用することができな
い。
4争点(2)ウ(建築基準法55条1項への適合性(高さ制限)【B敷地関係】)
について
(1)高さ制限とその基礎となる地盤面の算定手法について
ア建築基準法55条1項は,第一種低層住居専用地域又は第二種低層住居
専用地域内においては,建築物の高さは,10m又は12mのうち当該地
域に関する都市計画において定められた建築物の高さの限度を超えては
ならない旨を定めているところ,前記前提事実(第2の2)(2)ア(ウ)のと
おり,本件各敷地は,第一種低層住居専用地域にあり,建物の最高高さは
10mとされている。
他方,同法92条は,建築物の高さ等の算定方法は,政令で定める旨規
定し,これを受けて,建築基準法施行令2条1項6号は,建築物の高さは
「地盤面」からの高さによる旨を定め,同条2項は,上記の「地盤面」と
は,建築物が周囲の地面と接する位置の平均の高さにおける水平面をい
い,その接する位置の高低差が3mを超える場合においては,その高低差
3m以内ごとの平均の高さにおける水平面をいう旨を定めている。
イ神奈川県建築行政連絡協議会(神奈川県下の特定行政庁及び指定確認検
査機関で構成する団体)は「神奈川県建築基準法取扱基準-面積,高さ,
階数等の算定方法-」(本件取扱基準)を作成し,同県における上記施行
令に関する取扱いを明らかにしている(乙71の2,弁論の全趣旨)。
本件取扱基準は,地面と接する位置の高低差が3mを超える場合は,①
まず,地盤面を算定する領域を設定するとし,その設定方法は,「地面と
接する位置の最高点又は最低点から3mごとに領域を設定する。ただし,
敷地や建築物の形状により,この方法によることが不合理である場合に
は,3m以内ごとの適切な高さにより領域を設定することができる。」「3
mの起算点は,原則として,建築物の最高点又は最低点とし,当該起算点
から3mごとに領域を設定する。」とし(5-2-1。80頁),②次に,
設定した領域ごとに地盤面を算定するとし,その算定方法は,「設定した
領域ごとに,その全周長で地面と接する位置の平均高さを算定する。なお,
各領域の境界線は直線を用い,その境界部分も地面と接するものとみなし
て算定する。」としている(5-2-2。82頁)。
ウ他方,建設省(当時)住宅局建築指導課建設専門官は,上記の算定方法
について,平成7年5月22日付けで,特定行政庁建築主務課長あて通知
「「高さ・階数の算定方法・同解説」について」(本件専門官通知)を発
し,日本建築主事会議会長から各特定行政庁建築主務部長あてに送付され
た上記の文書については,建築基準法施行令2条に規定されている地盤面
等の算定方法に関する運用を示すものとしておおむね適当であるとして
いる。
そして,本件専門官通知は,領域設定に関し,上記イ①の方法のほか,
垂直な面に建築物の一部が接する場合について,「低い地盤面に接する部
分と高い地盤面に接する部分とに建築物を切り分けて,設定した領域ごと
にその全周囲の接する位置の平均の高さを算定する」との手法を挙げてい
る。また,地盤面の算定に関し,上記イ②の方法のほか,地盤面を算定す
るためのそれぞれの領域は直線とすることを原則とするが,「敷地や建築
物の形状によりこの方法によることが不合理な場合には,他の形状の境界
線でもって,領域を設定する」との手法を挙げ,不合理な場合として,敷
地の形状の特殊性により直線での設定が著しく不適当と認められるもの
があり,例えば,盆地・谷上の敷地,一部が隆起した敷地等に広がりをも
って建築物が建築される場合等が考えられるとしている。
また,日本建築行政会議(全国の特定行政庁,指定確認検査機関等で構
成する団体)は,「建築確認のための基準総則・集団規定の適用事例20
13年度版」(適用事例2013年度版。甲108)を公にしているとこ
ろ,これにも,本件専門官通知と同旨の記載がある(96頁)。
エ上記のとおり,建築基準法施行令2条2項は,「地盤面」につき,「建
築物が周囲の地面と接する位置の平均の高さにおける水平面」をいい,そ
の接する位置の高低差が3mを超える場合には「高低差3m以内ごとの平
均の高さにおける水平面」すなわち平均地盤面を求めるべき旨を定めてい
るところ,同項の定め方が必ずしも詳細ではないことに照らすと,平均地
盤面の高さにつき,同項の定めと整合するような定型的で合理的な手法を
もって算定することが望ましいことが明らかであり,本件取扱基準,本件
専門官通知及び適用事例2013年度版のいずれも,上記イ①及び②の方
法を定めているところである。他方,本件専門官通知及び適用事例201
3年度版においては,上記イ①とは異なる領域設定の方法や,上記イ②の
方法によることが不合理な場合の他の手法に係る記述がある一方で,神奈
川県の定める本件取扱基準にはこのような手法に関する言及はないとこ
ろ,被告は,本件専門官通知については,同通知を受けてどのように運用
するかは各特定行政庁に任されており,神奈川県においては,本件取扱基
準に基づいて確認審査がされているのであって,何ら違法はない旨主張す
る。
しかし,上記施行令に定める「地盤面」は,あくまで,「建築物が周囲
の地面と接する位置の平均の高さにおける水平面」であるべきところ,例
えば,敷地のごく一部のみが極端に盛り上がった形状である場合におい
て,この盛り上がった部分のみを基準として地盤面を算定した場合,「建
築物が周囲の地面と接する位置の平均の高さ」からおよそかけはなれた結
果となってしまうであろうことは容易に想像し得るところであり,建築物
やその敷地の形状の特殊性を一切問わずに上記の定型化された手法で算
定することが許容されているものとまでは解されない。上記ウの本件専門
官通知や適用事例2013年度版が,原則となる定型化された手法を定め
つつも,例外的な場合をも定めているのは,このような場合も想定しつつ,
建築基準法施行令2条2項の解釈の指針を示したものと解されるのであ
って,その内容は合理的というべきである。
このことを前提とすると,上記イの本件取扱基準は,上記施行令におけ
る地盤面の算定方法に関し原則となる定型化された手法を示すものにす
ぎず,それに従いさえすればいかなる場合にも当然に適法な平均地盤面が
算定されることになるとまではいえないと解することが相当である。これ
と異なる被告の上記主張は,採用することができない。
オ原告らは,B敷地における領域の設定(D領域とE領域の境界の設定)
に誤りがある旨主張するところ,以上の見地に従って検討する。
(2)B敷地建物の地盤の形状及び領域設定の概要
アB敷地の形状は,その造成前において,東西方向に見れば東側を崖下と
する急峻な崖地であり,南北方向に見ても相応の凹凸がある地形であっ
た。この南北方向に関して,B敷地建物の東面に相当する部分をみると,
その標高は概ね30m程度であったが,その中央付近(別紙6(なお,同
別紙中,「②」「③」「④」の書き込みは,見やすいように関係箇所を明
らかにしたものである。)の図面の②と③)と南端付近(上記図面の④)
に,標高が概ね33m程度の尾根状の隆起があり,その間は緩やかな谷状
の地形となっていた(丙7)。
本件建築計画の前提となる造成計画においては,B敷地建物の東面に相
当する範囲につき,概ね標高29.3mの高さで,建築物と地面とが接す
るよう,切土がされることが計画されたが,その中央付近(上記図面の②
と③)の隆起の一部については標高32.3mの高さに切土がされて残さ
れることが計画された。もっとも,標高32.3mの高さとして残される
のは,概ね1m四方の範囲に限られ,その余の部分は29.3mに切土さ
れることになっていたことから,標高32.3mの高さとして残される部
分は,その両側の地盤面とは連続性,一体性のない突起状の構造物(本件
突起状部分)を設けることが予定されていた。なお,本件突起状部分は,
実際の造成工事に際してはいったん失われ,その後,再構築されることが
予定されていた(丙7,丙6の別紙6参照,弁論の全趣旨)。
イ本件建築計画(本件軽微変更前のもの)においては,B敷地建物に関し,
別紙4,5の図面のとおり,領域分けの高さ起点である海抜44.30m
の地点(同図面上に①と記載されている地点。)から下方3mごとにA~
Eの各領域が設定され(A領域は高さ41.30~44.30m,B領域
は高さ38.30~41.30m,C領域は高さ35.80~38.30
m,D領域は高さ32.30~35.30m,E領域は高さ29.30~
32.30m),各領域についてそれぞれ平均地盤面が算定されている。
このうち,D領域とE領域の境界線は,上記図面の㉒と㉕を結んだ直線
及び㉖と㉗を結んだ直線とされ,E領域は,上記図面の㉒,㉓,㉔,㉕を
直線で結んだ部分(E領域-Ⅰ)と,㉖と㉗の間の線状の部分(E領域-
Ⅱ)とされた。そして,これらの平均地盤面の高さは,それぞれ境界部分
が地面と接するものとみなし,E領域-Ⅰにつき30.91m,E領域-
Ⅱにつき30.80mと算定された上,E領域全体の平均地盤面の高さは
30.86mと算定された。他方,D領域の平均地盤面の高さは33.9
9mと算定された(乙51,52)。
これらの平均地盤面を前提とし,かつ,B敷地建物の住居部分のうち5
階建て部分(高さ43.6m)にはE領域-Ⅱが含まれないと解すること
ができるとすれば,B敷地建物の住居部分は,4階建て部分(高さ40.
79m)を含めて,高さ制限を満たしていることとなる(別紙5参照,乙
52)。
なお,本件建築主らが平成28年4月21日付けで行った本件軽微変更
においては,E領域-Ⅱにつき平均地盤面の算定方法を改めて平均地盤面
の高さを29.3mとした上,それに対応する領域は存在しないとして,
E領域の平均地盤面の高さを30.91mとしている(乙68~70,弁
論の全趣旨)。
(3)検討
ア上記(2)イのような本件建築計画におけるB敷地のE領域の設定につい
ては,以下の点を指摘することができる。
(ア)別紙4の㉕及び㉖の地点については,これらの各点の間に存する本
件突起状部分の上部を「建築物が周囲の地面と接する位置」とした上で,
E領域の平均地盤面を算定しているが,本件突起状部分は,3mの高さ
を有する1m四方の構造物であり,周囲の地面とは連続性,一体性を全
く欠いていることからすると,その頂点部分を「地面」とみることには
いささか無理があること(なお,本件専門官通知には,「地面」自体の
定義はないが,盛土の場合に関し,上部の水平な面が幅2m以上の広が
りを持たないものを「局部的な土」とし,この場合には当該土後に
建築物が接する位置以外の適切と考えられる位置を「接する位置」とし
て設定する旨定めており(甲103,第1の(1)[2]ウb参照),これ
との比較からみても,上記の頂点部分を「地面」とみることには困難が
あると考えられる。)。
(イ)仮に上記の頂点部分を「地面」とみることができるとしても,B敷
地建物の東面は,本件突起状部分の左右にある約84mの区間(別紙4
の㉔と㉕の間及び㉖と㉗の間)においては,いずれも高さ29.30m
で周囲の地面と接しているのに対し,本件突起状部分はB敷地建物の東
面に僅か1mでしか接していないことからすると,本件突起状部分の㉕
及び㉖をもって32.3mの地面があるとして,D領域とE領域の境界
線の基点をそこに設定することは,B敷地建物東面が接している地面の
高さを全体として正しく把握するものとはいい難く,この状況は,本件
専門官通知が敷地の形状に特殊性があるものとして挙げている「一部が
隆起した敷地等に広がりをもって,建築物が建築される場合」に類似す
るといえること(なお,元の地形についてみても,B敷地建物東面にお
いて,32.3m程度の起伏があったのは,B敷地建物東面の中央付近
の本件突起状部分の南北数mの範囲にすぎず,上記の起伏のみをもって
B敷地建物東面の平均地盤面を代表する地盤面の高さとして取り扱う
ことは必ずしも合理的ではないと考えられる(丙7)。)。
(ウ)参加人の主張によっても,本件突起状部分を設けたのは,もともと
他の業者が計画した案では,B敷地建物はほぼ全てが5階建てであった
が,建設に反対する一部住民への配慮から,本件建築計画においては,
建物を南側に移動することにしたところ,そのままでは5階建てとする
のに必要な現況地盤32.3mを確保できないため,建物の中央部分に
あった起伏を利用してこれを確保することとし,この起伏を全て残すと
本件マンションの住民の居住性を損なうことや,デザインなども考慮し
て,本件突起状部分を残す設計としたものであるというのであって(前
記第2の4(4)(参加人の主張の要旨)ア,丙6,8頁),結局のところ,
造成後の敷地に本件突起状部分が残された理由は,もっぱら,その上部
を平均地盤面算定上の基点の一つとして利用する点にあったこと。
イ以上の諸点を勘案すると,そもそも,本件突起状部分の頂点部分は,そ
の物理的形状からみて,建築基準法施行令2条1項6号に定める建物が接
する周囲の「地面」に該当するということは困難であるし(上記ア(ア)),
仮に上記の頂点部分を「地面」とみることができるとしても,本件突起状
部分とその周囲の地面によって形成されている敷地の形状の特殊性から
みて,上記の頂点部分をD領域とE領域との境界線の基点として採用し,
当該基点をもって直線の境界線を設定することは,実際にはB敷地建物の
東面の大部分がその最下部においてE領域に属していることを適切に反
映しないものとなるから,領域設定として合理性を欠くというべきである
(上記ア(イ),(ウ))。
(4)被告らの主張について
アこれに対し,被告及び参加人は,本件突起状部分は切土前の元地形の高
さを維持したものであるところ,切土については,その角度を除けば,原
地形をどのような形状で切土を行うかについて法令上の規制はないし,ま
た,建築基準法55条は,原地形による地盤面を前提にして10mを超え
ない建物でなければならないという限度で,既存の周辺住宅を保護する趣
旨であるから,切土をして残った本件突起状部分の上端をもって32.3
mの地面と接する位置とすることには何ら問題がない旨主張する。
しかしながら,建築基準法施行令2条1項6号及び同条2項は,建築物
の高さの算定方法について,「地盤面」すなわち「建築物が周囲の地面と
接する位置の平均の高さにおける水平面」からの高さによる旨を定めてい
るところ,この規定は,その文理からみて,基本的には建築物が実際に接
している地面により地盤面を定めることを内容とするものであることは
明らかである。したがって,原地形から切土をしたからといって,切土の
態様や土地が建築物と接する位置など,造成後の状況を問わずに,原地形
の地盤面をもって同号にいう「地盤面」とすることが当然に認られるわけ
ではない。また,切土をして造成をした場合,一般的には,地盤面が下が
り,原地形による地盤面を前提にして建築をするよりも建築物の高さが低
くなるということはできようが,そうであったとしても,建築物の高さの
判定は,建築基準法施行令2条1項6号が定める地盤面により行われるも
のであって,原地形ではなく造成後の地形により吟味されるべきものであ
る。そうすると,仮に被告及び参加人の上記主張が,切土の場合は,原地
形の地盤面をもって当然に「周囲の地面」とすることができるという趣旨
のものであるとすれば,その主張は採用し難いものといわざるを得ない。
イ被告及び参加人は,B敷地のE領域の設定及び造成地盤面は,開発許可
の手続内で審査され,適法であるとして開発許可を得ているものである,
あるいは,本件突起状部分の大きさや領域設定などについては,開発許可
申請の事前審査の段階で,横浜市の開発許可を担当する宅地審査課だけで
なく,建築確認を担当する建築安全課においても事前に十分検討を加えた
上で,これを了解しているなどと主張し,これを前提として,被告は,設
計図面から形式的に算出された建築物の高さが法令に違反していないか
を審査すれば足りる旨主張する。
しかし,都道府県知事等が開発行為を許可する際の審査,判断事項は法
定されており,都道府県知事等は当該開発行為が都市計画法33条1項各
号に掲げる基準に適合しており,かつ,その申請手続が同法等に違反して
いないと認めるときには開発許可をしなければならないとされている(都
市計画法33条1項)ところ,この許可基準として掲げられている都道府
県知事等の審査,判断事項をみても,本件の高さ制限との関係で造成後の
地盤面の適否等を審査,判断する規定は見当たらない。よって,開発許可
処分における審査において,開発行為後の地盤の地表面をそのまま建築基
準法上の高さ制限における「建築物が周囲の地面と接する位置」とするこ
とが適当かといった観点からの審査は行われているということはできず,
開発許可処分においてその点についての判断が示されているわけではな
いというべきである。
また,参加人は,本件建築計画に関し,横浜市開発事業の調整等に関す
る条例(甲110)に従って「開発構想書」(同条例10条)を提出し,
横浜市長との協議を行った上,「開発事業計画同意通知書」の交付を受け,
都市計画法による開発行為許可を取得しているところ,この過程におい
て,同市の建築審査課が平均地盤面や領域設定の適法性を確認している旨
主張する。しかしながら,参加人らが平成24年5月に提出した事前相談
書(上記条例18条2項9号)に係る協議において,同課は,建築基準法
に基づく高さ関係規定については別途確認申請先と協議が必要である旨
回答しており(甲109・21枚目),少なくとも上記の時点では高さ関
係規定の適法性は確認されていないことがうかがわれるところである。ま
た,仮に,参加人のいうように,開発許可申請の事前審査の段階で,横浜
市の開発許可を担当する宅地審査課だけでなく,建築確認を担当する建築
審査課においても事前に検討を加えたという事実があるとしても,この点
についての審査は,法令上,建築確認申請を受けた建築主事又は指定確認
検査機関において別途行われるべきものとされていることは上記で判示
したとおりであるから,このような事実上の事前検討がなされているから
といって,本件各処分が当然に適法となるということはできない。
したがって,被告及び参加人の上記主張はいずれも採用することができ
ない。
(5)小括
これまで述べてきたところに照らすと,B敷地の平均地盤面を算定するに
当たり,別紙4の㉕,㉖の点をD領域とE領域の境界線の基点となるものと
してそこを基点とする直線により両領域の境界を設定することは,合理性を
欠くというべきである。
そして,上記のとおり,実際にはB敷地建物の東面の大部分がその最下部
においてE領域に属していることを適切に反映すべきであるという観点か
らすると,上記の境界線の基点とすべき地点は,別紙4の㉗とすることが合
理的であると考えられるところ,そうであるとすれば,E領域は現状の領域
設定よりも南側に広がり,E領域-Ⅰの平均地盤面の高さも,現状の30.
91mよりも低く算定されることとなる。
しかるに,本件建築計画におけるB敷地建物の南側は5階建て部分であ
り,その最高高さは43.60mであるところ(乙70),現状ではD領域
(平均地盤面の高さ33.88m)及びC領域(平均地盤面の高さ36.8
0m)のみに属するものとされているが(乙68),上記のとおり,E領域
が現状よりも南側に及ぶことになった場合,B敷地建物南側部分の高さは,
E領域に属するべき部分については10mを超えることとなる(なお,この
ことは,本件軽微変更後の本件建築計画についても同様である。)。
よって,本件建築計画のうち,B敷地建物の高さ制限に関する部分は建築
基準法55条1項に適合していないというべきであるから,この点を看過し
て行われた本件変更確認処分2Bは違法であるといわざるを得ない。この点
に関する原告らの主張は理由がある。
5争点(2)エ(建築基準法20条,建築基準法施行令38条3項への適合性(良
好な地盤への到達等))について
(1)良好な地盤について
ア建築基準法20条は,建築物は,自重,積載荷重,土圧等に対して安全
な構造のものとして政令で定める技術的基準等に適合するものでなけれ
ばならない旨定めている。そして,建築基準法施行令38条3項は,一定
以上の高さ,面積及び最下階の床面積に作用する荷重を有する建築物につ
いては,基礎の底部を良好な地盤に達することとしなければならない旨を
定めている。
上記の良好な地盤とは,建設する建築物を支えるために十分な支持力を
有する地盤をいうと解されるところ,本件建築計画においては,建築物の
基礎の底部が達する地盤の長期許容応力度(構造物の外力に対する安全性
を確保するために定められた部材に許容できる応力度の限界値をいう。)
が1000kN/㎡以上(乙35,P.3-1参照)であれば,上記「良
好な地盤」に該当するといえることについては当事者間に争いがない。
イ建築基準法施行令93条は,地盤の許容応力度は,国土交通大臣が定め
る方法によって,地盤調査を行い,その結果に基づいて定めなければなら
ない旨を定めている。そして,同条を受けて定められた本件国交省告示(乙
59参照)は,第一の条において,地盤の許容応力度を求めるための地盤
調査の方法について,ボーリング調査,標準貫入試験,平板載荷試験など
を列挙している。
また,同告示は,第二の条において,長期に生ずる力に対する地盤の許
容応力度を定める方法について,同条列挙の3つの計算式のうちのいずれ
かによるものとする旨を定めている。
ウ原告らは,B敷地の下には軟弱な細砂層があり,B敷地建物の基礎は良
好な地盤に到達しておらず,地盤調査も不十分である旨主張するので,こ
の点について検討する。
(2)B敷地建物について実施された地盤調査等の内容
ア本件建築計画に関しては,平成18年12月まで(甲42)及び平成2
0年5月まで(甲43)に,それぞれ地盤調査が実施された。
平成18年の調査では,計画地内の9箇所のボーリング調査,標準貫入
試験等が行われ,柱状図が作成されたところ,調査結果の要約(甲42,
15頁)としては,①調査地の基盤層は上総層群野島層と呼ばれるものに
相当し,浮石を多く混入した風化砂岩主体で構成され,一部では強風化状
を呈しているところ(NJ1),NJ1層の層相は,細砂及び微細砂の土
砂状を呈しており,N値は一部で60未満を示していること,②風化砂岩
層(NJ2)はN値60以上を示しているとの記載がある。
また,平成20年調査は,平成18年調査の追加調査として,計画建物
の支持層となる風化砂岩層(NJ2層)の出現状況並びに力学特性を詳細
に把握することなどを目的として行われ,新規に5箇所のボーリング調査
が行われたほか,既存のボーリング地点(平成18年調査で実施されたも
の)のうち№3,6,8(斜面下部又は中間部)の直近の場所において,
風化砂岩の乱れの少ない試料(コアパック)の採取が行われたところ,「検
討および考察」(甲43,21頁)として,基礎設置予定深度にはNJ2
層が堆積することから,計画建物の基礎形式としては同層を支持層とした
直接基礎が提案されるとしている。
なお,上記の各調査における各ボーリング地点は,別紙7(乙12)の
とおりであるところ,本件建築計画(本件変更確認処分2に係るもの。)
における構造設計では,B敷地建物の範囲に,既存のボーリング地点のう
ち№6,8及び9と,新規のボーリング地点(平成20年調査で実施され
たもの)のうち№4及び5が含まれているとされているものの(乙56の
7枚目),B敷地建物の多数の基礎のうち,東側の中央部分の一部につい
ては,NJ2層まで到達せず,NJ1層にとどまる可能性があることが想
定されていたことが認められる(前提事実(2)エ,乙34[構造設計標準仕
様],35[構造計算書](P.3-1),36から38。なお,当初の建
築確認処分に係る構造設計では,NJ2層まで到達しない可能性が考慮さ
れていなかった(乙20[構造設計標準仕様],24[構造計算書](P.3
-1))。)。
イ地盤の長期許容応力度の計算
本件建築計画(本件変更確認処分2に係るもの。)において,B敷地建
物の構造計算は,支持形式を直接基礎(独立基礎)とし,支持層をN値が
60以上の風化砂岩層(NJ2層)及びN値が60以上の微細砂層(NJ
1層。ただし,全面のフレームAY1-AY15通りの一部)とし,長期
許容支持力を1000kN/㎡とする設定により行われ,本件国交省告示
の式により,NJ2層については地盤の長期許容支持力が4094kN/
㎡と,NJ1層については1243kN/㎡と算出されている(乙35
(P.3-1))。なお,上記計算においては,NJ1層の粘着力の数値
(本件国交省告示の式の「C」に具体的に代入されるべき数値)として2
10kN/㎡が採用されているところ,この数値は,上記アの平成20年
の地盤調査の結果によるものである。
ウ平板載荷試験
本件建築主らは,平成27年6月から10月にかけて,B敷地建物の基
礎となる部分4箇所において,計画する構造物の支持地盤が設計地耐力を
満足するか否かを確認することを目的として,平板載荷試験を実施した
(乙58の1~4,丙5)。同試験の結果,長期許容支持力度及び長期許
容支応力度はいずれも1018kN/㎡と判定され,1000kN/㎡を
超えることが確認された。
エ以上によれば,B敷地の長期許容応力度は,本件国交省告示の定める調
査方法と計算式に従い算出されたものということができるところ,その数
値は,B敷地建物を支えるために十分な支持力を有するものであるという
ことができる。
また,上記アのとおり,本件変更確認処分2に係る本件建築計画におい
ては,B敷地建物の基礎の一部がNJ2層まで到達しない可能性があるこ
とが想定されていたところ,実際に基礎工事を進めた際に想定地盤面と異
なる地盤形状が明らかとなった場合,すなわち,「基礎下に支持層(N>
60の風化砂岩層)が確認できない場合」の措置として,ラップルコンク
リートを支持層に根入れする置換工法を行う設計とされていることが認
められる(乙34,36~38)。
これらの事情に照らすと,B敷地建物については,基礎の底部を良好な
地盤に達することとする設計がされているということができるから,本件
建築計画は建築基準法施行令93条に適合しているというべきである。
(3)原告らの主張について
ア原告らは,建築基準法施行令38条3項の趣旨からすると,複雑な斜面
地の土質においては,全ての基礎部分においてボーリング調査を行わなけ
ればならず,少なくとも最も弱い部分において基礎の底部が良好な地盤に
達していることをボーリング調査等の確実な調査方法によって確認する
ことが求められていると解される旨主張する。
この点,同項は,地盤調査の方法につき何ら具体的に定めるものではな
く,また,構造計算に当たり地盤調査を行うべきことを規定する建築基準
法施行令93条を受けて定められた本件国交省告示においても,ボーリン
グ調査等を基礎の底部ごとに行うべきことなどの具体的な方法を定める
ものではない。そうすると,これらの規定等は,ボーリング調査等による
地盤調査に関して,建築計画の対象となる建築物の敷地の状況に応じ,合
理的な態様で行えば足りるとする趣旨であると解されるところである。ま
た,地盤の内部の詳細な状況については,事前に覚知することが必ずしも
容易ではないことからすると,工事の進捗に応じて適切に対応することが
できる程度の範囲において事前の調査が行われているのであれば,それを
超えた詳細な調査が行われなかったとしても,必ずしも不合理ではないと
いえる。
これを本件についてみると,本件建築計画の対象となる敷地は,相当複
雑な地形であることは上記4(2)のとおりであるが,本件建築計画に先立つ
地盤調査において合計14本のボーリング調査が行われ,B敷地の範囲で
も5本のボーリング調査が行われており,これが明らかに少なすぎるとま
で断定するに足りる的確な証拠はなく,他方,本件建築計画においては,
地盤の内部にも複雑さがあり得ることを想定して,本件変更確認処分2の
段階に至ると,基礎の一部がNJ1層にとどまる可能性があることを踏ま
えた設計に変更されたことは上記(2)で判示したとおりである。これらの点
を勘案すると,B敷地建物の全ての基礎につきボーリング調査等が行われ
ていないとしても,必ずしも地盤調査としての合理性を欠くとまではいえ
ないと解されるところである。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
イ原告らは,構造計算において,地盤の長期許容応力度を求めるに当たり,
NJ1層の粘着力の数値(本件国交省告示の式の(C))を210kN/
㎡としていること(乙35P.3-1参照)が誤りである旨主張する。
この点,上記の数値は,平成20年の地盤調査に係る報告書(甲43)
の記載(「表5-3-1」(28頁))によるものであり,その算出方法
は,NJ1層について「凝灰質砂岩状を呈していることから『泥岩・凝灰
岩・凝灰角礫岩』の計算式を用い」ることとし,「表5-3-3に示すN
値より算出する式(c=16.2N0.606
(kN/㎡))の値を基調に設
定した。」(31頁)とされていて,上記の式のNにNJ1層の平均N値
(72)を代入したものと考えられるところ,上記説明とその根拠となる
数値等については特段不合理な点は見当たらないし,上記報告書が,地盤
調査に関する相応の専門的知見を有する第三者であると考えられる「株式
会社地盤調査研究所」が作成したものであることにも鑑みると,上記の
説明等は信用することができる。他方,原告らの上記主張に沿う意見書(甲
81,90,93,113等)については,その信用性を裏付けるに足り
る証拠がない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
ウ原告らは,被告が提出した平板載荷試験の結果(乙58)について,そ
のデータを分析すると,基礎部分の表面のみコンクリートで覆った上試験
を行うという違法な方法で行われたことが明らかであり,信用性がない旨
主張する。
この点,原告らが,水平載荷試験後の現場写真にコンクリートが写って
いるとしている写真(甲99添付の「資料0-2」の写真下側のもの)に
ついては,載荷版の設置にあたり,「地盤とのなじみをよくするため,薄
く砂を撒いてから載荷板を設置する」という場面のものと考えられる(丙
5)から,原告らの上記主張はその前提を欠くとというべきである。また,
原告らの上記主張に沿う意見書(甲97,99等)については,その信用
性を裏付けるに足りる証拠がない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
エ原告らは,B敷地の長期許容支持力の計算は誤っており,また,A敷地
も全体として堅固な地盤とはいえないところ,B敷地山側垂直法等の土圧
を支える外壁についての構造計算がされているかどうか明らかではなく,
されているとしても構造計算の結果が基準を満たしていない旨主張する。
しかし,B敷地の長期許容支持力の計算が誤っているとする原告らの主
張が採用できないことについては上記において既に述べたとおりである。
また,A敷地及びB敷地に関する構造計算書(乙55,35)及び構造計
算適合性判定結果通知書(乙54,56)からすると,両敷地について構
造計算が行われ,その結果が基準に適合していることが認められ,これを
覆すに足りる的確な証拠はない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
6本件確認処分2の適法性について
以上によれば,本件確認処分2は,B敷地に関する同2Bにつき,高さ制限
に関する建築基準法55条1項に違反するものであるから違法であるという
べきであるが,原告らが主張するその余の点について違法があるとは認められ
ない。
第4結論
よって,①原告らの本件変更確認処分2Bの取消請求は理由があるからこれ
を認容し,②本件訴えのうち,本件各建築確認処分及び本件各変更確認処分1
の各取消しを求める部分はいずれも不適法であるからこれらを却下し,③原告
らのその余の請求は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担
について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,64条本文を適用して,
主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第38部
裁判長裁判官谷口豊
裁判官徳井真
裁判官細井直彰

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