弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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          主文
   1 本件控訴を棄却する。
   2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
 1 原判決中,控訴人らに関する部分を取り消す。
 2 被控訴人は,大阪府に対し,5億円及びこれに対する平成14年3月25日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
   次のとおり原判決を補正し,当審における補充的主張を付加するほかは,原
判決の事実及び理由中の「第2 事案の概要」の控訴人らに関する部分のとおりで
あるから,これを引用する。
 1 原判決の補正
(1) 原判決2頁20行目の「本件立退補償契約」を「大阪府と財団法人国際見
本市協会との立退補償契約」と改める。
  (2) 同4頁10行目の「本件売買契約」を「大阪府と組合との本件各土地等に
ついての売買契約」と改め,同11行目の「本件建物敷地」の後に「5991.7
8平方メートル」を加える。
  (3) 同6頁7行目の「被告は,」を「大阪府は,」と,同21行目の「当庁」
を「大阪地方裁判所」とそれぞれ改め,同23行目の「平成14年8月28日,」
の後に「大阪地方裁判所に対し,」を加え,同24行目の「同年10月16日の弁
論準備手続期日において,」を「同年10月16日の原審第1回弁論準備手続期日
(本件差止請求事件の原審第5回弁論準備手続期日)において,」と,同26行目
の「平成15年4月17日の本件口頭弁論期日において,原告らは,」を「控訴人
らは,平成15年4月17日,原審第4回口頭弁論期日において,」とそれぞれ改
める。
  (4) 同9頁10,11行目の「行政機関であるのに対し,」を「行政機関であ
る大阪府知事Aであるのに対し,」と改める。
  (5) 同13頁17行目の「平成11年1月11日時点」を「平成11年1月8
日時点」と改め,同19行目の「17億6924万9000円であったから」の後
に「(乙11参照)」を加える。
  (6) 同14頁3行目の「前者については」を「本件建物撤去費用を5億250
0万円とする前者の見積書(乙15)は,」と,同4行目の「後者によれば,」を
「本件建物撤去費用を6億3945万円とする後者の株式会社ヤマシタ作成の見積
書(乙18)は,」とそれぞれ改める。
 (7) 同14頁18行目の「答申額を上回るものであり」の後に「(乙16,1
7,19,20参照)」を加える。
 (8) 同15頁17行目から同19行目にかけての「71億1851万7500円
(86万5000円/平方メートル×8229.58平方メートル)」を「約71
億1851万7500円(約86万5000円×8229.5平方メートル)」と
改め,同24行目の「43億8095万円」の後に「(52万3489円×822
9.58平方メートル)」を加える。
 2 当審における双方の補充的主張
  (控訴人らの主張)
  (1) 随意契約によることの違法性について
法234条1項は,地方公共団体が売買その他の契約を締結する場合に
は,一般競争入札の方法によることを原則とすることを定めているから,令167
条の2により随意契約の方法によることができる場合としての各要件に該当するか
否かの検討に当たっては,限定的に解釈すべきである。
    本件売買契約は,大阪府の所有する土地の売買契約であり,随意契約の方
法によることができる場合の要件に該当しないから,一般競争入札をすべき事案で
ある。原判決は,α地区を産業振興拠点として位置づけ,本件各土地上にホテル機
能を有する施設を誘致し,β,γ商工会議所における展示会,国際会議などに対す
る飲食,宿泊などの提供機能を確保するという政策判断が不合理でないとして,随
意契約を是認している。しかし,被控訴人の主張どおり,δホテルが,昭和62年
9月のβの開館後,同施設及びγ商工会議所との三位一体の取り組みにより,βや
γ商工会議所における展示会,会議などの催事に伴う宿泊,宴会,飲食などの提供
を行い,催事の実施に一定の貢献をしてきたとしても,δホテルの経営は悪化し,
平成11年3月末に
閉館したのであり,本件売買契約時点において,α地区における産業振興地点とし
てのホテル機能を有する施設が必要であったかどうかについては合理的な疑いが十
分に生じていたものである。また,すでにδホテルが閉館してから5年以上経過し
ているが,α地区を中心とする地域には,公営及び民間の宿泊施設や宴会場等が多
数存在していることもあって,特段,不都合の声は聞かれない。
    仮に,本件売買契約時点において,α地区にホテル機能を有する施設が必
要であったとしても,契約条件をつけ,参加資格を定めるなどして一般競争入札を
行うことは十分に可能であったものであり,随意契約によるべきであったとはいえ
ない。
    したがって,一般競争入札でなく,随意契約でなされた本件売買契約は違
法である。
  (2) 本件土地の売買価格が不当に低額であることについて
    本件売買契約に関しては,議会の議決はなされていないから,本件各土地
の売買価格が適正なものでなければ違法となる。
    ところが,大阪府は,平成11年3月,本件各土地の一部である本件建物
敷地の借地権分として約34億円,本件建物価格分として約17億円の合計51億
円もの支出をしているにもかかわらず,平成13年5月の本件売買契約において
は,本件各土地の売買価格を約42億円とした上,本件建物について無価値で,撤
去が必要として撤去費用の約6億円を本件土地の売買価格からこれを差し引いてい
る。したがって,平成11年3月には,更地価格1平方メートル当たり約90万円
で,本件各土地全体の価格が約75億円であったのに,その1年数ヶ月後には,1
平方メートル当たり約52万円で,本件各土地全体の価格を42億円としたうえ,
17億円で購入した本件建物について,取り壊しを前提に売却したもので,無価値
と評価したうえ,さら
にその撤去費用が必要だとして本件売買契約代金から約6億円を差し引いているの
であって,明らかに不当に低額な売買代金となっている。
    したがって,本件各土地の売買価格は,明らかに低額に過ぎ,適正な対価
とはいえないから,法237条2項に違反する。
  (被控訴人の主張)
(1) 本件売買契約が一般競争入札に適さない理由について
本件売買契約においては,大阪府のα地区における産業振興機能の維持・
充実を図るという施策目的を確実に実現するため,第10条1項において,所有権
に対する著しい制限となる「期限の定めのない用途指定」を課した上,同条2項に
おいて,「α地区における産業振興機能の維持・充実を図るため必要に応じて府と
協議する」旨を定めており,また,第13条においては,「土地の譲渡及び貸付け
に対する制限」も設けており,一般競争入札になじむような一般的な売買契約とは
明らかに異なる内容が定められている。さらに,α地区において,新たなホテルが
β,γ商工会議所と一体となって産業振興機能を担っていくためには,有形無形の
連携が相互に確保されていることが求められていたものであり,こうした有形無形
の連携について,一般
競争入札において具体的な条件を付すことは不可能であった。
    したがって,本件各土地の売却について,条件をつけるなどの一般競争入
札を行うことは十分可能であったとの控訴人らの主張は理由がない。
(2) 本件各土地の売買価格について
本件各土地の売買価格は,専門家の不動産鑑定評価(乙16,17)及び
意見書(乙19)を踏まえて大阪府財産評価審査会に諮問し,その結果なされた答
申額(乙20)を上回る額であり,適正な売買価格であった。立退補償時からの評
価額の下落率も周辺地価公示標準地の公示地価の下落率(乙26の1ないし4)に
照らし妥当であった。したがって,法237条2項に規定する「適正な対価によら
ない譲渡」にはあたらない。
    また,本件売買契約における本件各土地の売買価格の算定に際し,更地価
格から本件建物撤去費用相当額を控除した取扱いも,老朽化したδホテルに替わっ
て,α地区が有する産業振興機能の維持・充実に寄与する新たなホテルを確保する
という施策目的に照らして,必要やむを得ないものであり,何ら不合理なものでは
なかった。
第3 当裁判所の判断
   次のとおり原判決を補正し,当審における双方の補充的主張に対する判断を
付加するほかは,原判決の事実及び理由中の「第3 当裁判所の判断」の控訴人ら
に関する部分のとおりであるから,これを引用する。
 1 原判決の補正
  (1) 原判決17頁21行目の「最初の期日において,」を「最初の期日である
原審第1回弁論準備手続期日において,」と改める。
  (2) 同30頁2行目の「平均額」の後に「(43億8760万円と43億20
00万円の平均値である43億5380万円)」を加え,同24行目の「谷澤総合
鑑定書」を「谷澤総合鑑定所」と改める。
  (3) 同30頁26行目から同31頁2行目までを次のとおり改める。
   「 また,控訴人らは,本件建物は,平成11年1月8日時点では17億6
924万9000円,平成13年4月1日時点では14億3486万0939円で
あり,本件売買契約においては,その莫大な価格が考慮されていない旨主張す
る。」
 (4) 同31頁22行目の「その算定が過大である」を「その算定が過大であ
り,1社の見積りのみによって決定しているのも不可解である」と改める。
2 当審における双方の補充的主張に対する判断
(1) 一般競争入札か随意契約かについて
    控訴人らは,本件売買契約は,大阪府の所有する土地の売買契約であり,
随意契約の方法によることができる場合の要件に該当しないから,一般競争入札を
すべき事案であると主張し,被控訴人は,令167条の2第1項2号の「その性質
又は目的が競争入札に適しないものとするとき」に該当するから,随意契約できる
場合に該当すると主張するので判断するに,本件各土地の売却については,大阪府
は,α地区における産業振興機能の維持・充実を図るという施策目的を有してお
り,その施策目的を確保するため,本件売買契約の相手方(買主)に対し,用途制
限や宿泊,宴会,飲食等提供機能を備えた施設の提供義務を定めたり,本件各土地
の所在する地域(α地区)の産業振興機能の維持・充実を図るための協議に応じる
義務などを定めること
が必要であったことは前記認定のとおりであるところ(原判決の事実及び理由中の
第2の1の(4)参照),こうした一般的な売買契約とは相当内容の異なる契約につい
ては,単に契約条件をつけた一般競争入札を行う方法によってその施策目的を実現
することは困難であったと解されるから,本件売買契約は,控訴人ら主張のよう
に,契約条件をつけた一般競争入札の方法によるべきであったとは言い難く,随意
契約の方法によったとしても,それは,契約担当者の合理的な裁量判断の範囲内の
行為であったと認められる。
    もっとも,控訴人らの主張どおり,同ホテルの経営は悪化し,平成11年
3月末,閉館したことは前記認定(原判決の事実及び理由中の第3の2の(1)イ)の
とおりである。しかしながら,本件売買契約時点において,新しいホテル施設が必
要であったかどうかについての政策判断の当否はともかく,δホテルが,昭和62
年9月にβが開館した後,同施設及びγ商工会議所と三位一体の施設として,βや
γ商工会議所における展示会,会議などの催事に伴う宿泊,宴会,飲食などの提供
を行い,催事の実施に貢献してきたことや,α地区は大阪市の中心部に当たり,元
来,ホテル建設地として最適と考えられること,δホテルが赤字により閉館に追い
込まれた最大の事情は老朽化したことによるものと考えられること(原判決の事実
及び理由中の第3の
2の(1)ア,イ,(2)参照)に照らせば,大阪府の新たなホテルを確保するという施
策目的自体はこれを是認することができるというべきである。控訴人らは,δホテ
ルの閉館後,5年以上経過しているが,α地区を中心とする地域には,公営及び民
間の宿泊施設や宴会場等が多数存在していることもあって,特段,不都合の声は聞
かれないと主張するが,これを認めるに足りる証拠があるとはいえない上,これに
よって,本件売買契約当時の事情を判断するのは相当でないと考えられる。
    また,控訴人らは,α地区においてホテル機能を有する施設が必要であっ
たとしても,契約条件をつけ,参加資格を定めるなどの一般競争入札を行うことは
十分に可能であったものであり,随意契約によるべきであったとはいえないと主張
し,確かに,その可能性は否定できないが,上記で検討したところによると,随意
契約によったことが違法とまではいえない。
    したがって,被控訴人が,大阪府知事として,本件売買契約の締結に際
し,随意契約の方法によったことが違法であるとまでいうことはできず,この点に
関する控訴人らの主張は採用できない。
  (2) 本件各土地の売買価格について
    控訴人らは,大阪府は,平成11年3月,本件各土地の一部である本件建
物敷地の借地権分として約34億円,本件建物価格分として約17億円の合計51
億円もの支出をしているにもかかわらず,平成13年5月の本件売買契約において
は,本件各土地の売買価格を約42億円とした上,本件建物について無価値で,撤
去が必要として撤去費用の約6億円を本件土地の売買価格からこれを差し引いてい
るから,明らかに不当に低額な売買代金であり,違法であると主張する。
    確かに,大阪府が,平成11年3月に協会から本件建物敷地の返還を受け
るに際し,本件建物及び本件借地権の補償金として約51億円(51億4012万
8000円)を協会に支払ったことは控訴人ら指摘のとおりであり,平成13年5
月と時期は異なるものの,本件建物敷地より広い本件各土地を42億円と評価した
上,本件建物の撤去費用の約6億円を差し引いて本件売買契約を締結しているので
あるから,低額な売買価格であるといえる余地はあるが,原判決の認定,説示の事
情,(原判決の事実及び理由中の「第3 当裁判所の判断」の2(1)キないしス及
び(3)),特に,本件各土地の評価が,平成11年3月から平成13年5月までに大
幅に下がっていることや本件土地の売買価格については,専門家の不動産評価及び
意見書を踏まえて大阪
府財産評価審査会に諮問し,その結果なされた答申額を上回ることに照らすと,本
件各土地の売買価格が不当に低額とか適正な対価でなかったとまではいえないし,
本件建物の撤去費用を差し引いて売買価格を決めたことも違法とはいえないという
べきである。
    したがって,控訴人らの上記主張を採用することはできない。
第4 結論
   以上によれば,本件売買契約の締結及び履行は違法とはいえず,控訴人らの
請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がないから,これを棄却すべ
きものである。
   よって,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却する
こととし,主文のとおり判決する。
     大阪高等裁判所第1民事部
       裁判長裁判官   横    田    勝    年
          裁判官   末    永    雅    之
裁判官亀田廣美は,差し支えのため,署名押印することができない。
       裁判長裁判官   横    田    勝    年

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