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平成17年(行ケ)第10830号審決取消請求事件
平成18年11月21日口頭弁論終結
判決
原告不二空機株式会社
原告訴訟代理人弁理士前田弘
同今江克実
同二宮克也
被告ヨコタ工業株式会社
被告訴訟代理人弁理士辻本一義
同辻本希世士
同窪田雅也
同神吉出
同上野康成
同森田拓生
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2005−80094号事件について平成17年10月25日
にした審決中,「特許第2079660号の請求項1∼5に記載された発明に
ついての特許を無効とする。」との部分を取り消す。
第2当事者間に争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「インパクトレンチの締付制御装置」とする特許第2
079660号の特許(平成元年9月7日出願(優先権主張:昭和63年10
月12日,日本),平成8年8月9日設定登録。以下「本件特許」という。請
求項の数は6である。)の特許権者である。
被告は,平成17年3月25日,本件特許の請求項1ないし5に係る発明に
ついての特許を無効とすることについて審判を請求し,同請求は,無効200
5−80094号事件として特許庁に係属した。その審理の過程において,原
告は,平成17年6月13日,本件特許に係る明細書を訂正する請求をした
(以下,この訂正を「本件訂正」といい,本件訂正後の明細書及び図面を「本
件明細書」という。)。特許庁は,審理の結果,平成17年10月25日,
「訂正を認める。特許第2079660号の請求項1∼5に記載された発明に
ついての特許を無効とする。」との審決(以下,単に「審決」という。)をし,
同年11月7日,その謄本を原告に送達した。
2特許請求の範囲
本件明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし5の各記載は,次のとおりで
ある(以下,請求項1ないし5に係る各発明を請求項に対応してそれぞれ「本
件発明1」などといい,これらをまとめて「本件発明」という。)。下線部は
本件訂正による訂正箇所を示す。
「【請求項1】インパクトレンチに供給される給気圧力の変化率を把握する圧
力変化率把握手段と,上記変化率が被締付体を締付けるための打撃に相当す
る基準値に達したときに打撃信号を出力する打撃信号出力手段と,上記打撃
信号をカウントし,このカウント値が設定値に達したときに締付完了信号を
出力するカウンタと,締付完了信号の出力でインパクトレンチへの給気路を
閉じる給気停止手段とを有することを特徴とするインパクトレンチの締付制
御装置。
【請求項2】インパクトレンチに供給される給気圧力変動の交流成分を把握
する圧力変化率把握手段と,上記交流成分が被締付体を締付けるための打撃
に相当する基準値に達したときに打撃信号を出力する打撃信号出力手段と,
上記打撃信号をカウントし,このカウント値が設定値に達したときに締付完
了信号を出力するカウンタと,締付完了信号の出力でインパクトレンチへの
給気路を閉じる給気停止手段とを有することを特徴とするインパクトレンチ
の締付制御装置。
【請求項3】上記締付完了信号をカウントし,このカウント値が設定員数に
達したときに所定員数締付完了信号を出力する員数計数手段を設けたことを
特徴とする第1請求項又は第2請求項記載のインパクトレンチの締付制御装
置。
【請求項4】給気源に接続された複数の給気路と,各給気路に接続されたイ
ンパクトレンチと,上記各インパクトレンチを個別に締付制御するための制
御手段とを有し,この制御手段は各インパクトレンチに対応して,上記イン
パクトレンチに供給される給気圧力の変化率を把握する圧力変化率把握手段
と,上記変化率が被締付体を締付けるための打撃に相当する基準値に達した
ときに打撃信号を出力する打撃信号出力手段と,上記打撃信号をカウントし,
このカウント値が設定値に達したときに締付完了信号を出力するカウンタと,
締付完了信号の出力でインパクトレンチへの各給気路を閉じる給気停止手段
とをそれぞれ有していることを特徴とするインパクトレンチの締付制御装置。
【請求項5】給気源に接続された複数の給気路と,各給気路に接続されたイ
ンパクトレンチと,上記各インパクトレンチを個別に締付制御するための制
御手段とを有し,この制御手段は各インパクトレンチに対応して,上記イン
パクトレンチに供給される給気圧力変動の交流成分を把握する圧力変化率把
握手段と,上記交流成分が被締付体を締付けるための打撃に相当する基準値
に達したときに打撃信号を出力する打撃信号出力手段と,上記打撃信号をカ
ウントし,このカウント値が設定値に達したときに締付完了信号を出力する
カウンタと,締付完了信号の出力でインパクトレンチへの各給気路を閉じる
給気停止手段とをそれぞれ有していることを特徴とするインパクトレンチの
締付制御装置。」
3審決の理由
別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件発明1,2は下記甲1発
明に基づいて,本件発明3は下記甲1発明及び甲3発明ないし甲5発明に基づ
いて,本件発明4,5は下記甲1発明及び甲3発明ないし甲6発明に基づいて,
それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明1
∼5についての特許はいずれも特許法29条2項の規定に違反してなされたも
のである,としたものである。
①甲1発明実願昭59−50901号(実開昭60−165159号)の
マイクロフィルム(甲1)に記載された発明
②甲3発明実公昭61−16069号公報(甲3)に記載された発明
③甲4発明特開昭62−203776号公報(甲4)に記載された発明
④甲5発明特開昭62−259782号公報(甲5)に記載された発明
⑤甲6発明特公昭56−21551号公報(甲6)に記載された発明
審決が,上記判断をするに当たり認定した甲1発明の内容,本件発明と甲1
発明との一致点・相違点は,それぞれ次のとおりである。
(1)甲1発明
「インパクトレンチAに供給される空気の静圧の時間に対する変化率を把握
する変化率検出回路13と,上記変化率が比較値より高いときにパルスを出
力する発信回路14と,上記パルスをカウントし,このカウント値が設定締
付トルクに見合う打数Nnに達したときに締付完了を指令する制御計数回路
17と,締付完了の指令でエアホース1への空気供給を遮断する電磁弁駆動
回路19とを有するインパクトレンチAの締付トルク制御装置B。」
(2)一致点
「インパクトレンチに供給される給気圧力の変化率を把握する圧力変化率把
握手段と,上記変化率が基準値に達したときに打撃信号を出力する打撃信号
出力手段と,上記打撃信号をカウントし,このカウント値が設定値に達した
ときに締付完了信号を出力するカウンタと,締付完了信号の出力でインパク
トレンチへの給気路を閉じる給気停止手段とを有するインパクトレンチの締
付制御装置」である点。
(3)相違点
ア相違点1(本件発明1∼5に関し)
本件発明1∼5は,変化率が被締付体を締付けるための打撃に相当する
基準値に達したときに,打撃信号出力手段が打撃信号を出力するのに対し
て,甲1発明は,変化率が基準値より高いときに,打撃信号出力手段が打
撃信号を出力するものの,当該基準値が被締付体を締付けるための打撃に
相当する基準値であるとは特定していない点。
イ相違点2(本件発明2,3,5に関し)
本件発明2,3,5は,圧力変化率把握手段がインパクトレンチに供給
される給気圧力変動の交流成分を把握するのに対して,甲1発明は,圧力
変化率把握手段がインパクトレンチに供給される給気圧力変動の把握する
ものの,給気圧力変動の交流成分を把握するとは特定されていない点。
ウ相違点3(本件発明3に関し)
本件発明3は,締付完了信号をカウントし,このカウント値が設定員数
に達したときに所定員数締付完了信号を出力する員数計数手段を設けてい
るのに対して,甲1発明は,員数計数手段を設けていない点。
エ相違点4(本件発明4,5に関し)
本件発明4,5は,給気源に接続された複数の給気路と,各給気路に接
続されたインパクトレンチと,上記各インパクトレンチを個別に締付制御
するための制御手段とを有し,この制御手段は,圧力変化率把握手段と打
撃信号出力手段とカウンタと各給気路を閉じる吸気停止手段とをそれぞれ
有するのに対して,甲1発明は,給気源に接続された給気路と,給気路に
接続されたインパクトレンチと,上記インパクトレンチを締付制御するた
めの制御手段を有するものの,給気路,インパクトレンチ,制御手段の数
がそれぞれ1個である点。
第3原告主張の取消事由の要点
審決は,一致点の認定を誤り(取消事由1),相違点1の認定及び判断を誤
り(取消事由2),作用効果の認定判断を誤った(取消事由3)ものであり,
また,審決に上記の誤りがあることに照らせば,同様に,相違点2ないし4の
各判断も誤りというべきである(取消事由4)から,審決のうち本件発明1な
いし5に係る各特許を無効とした部分は,違法として取り消されるべきである。
1取消事由1(一致点認定の誤り)
審決は,本件発明と甲1発明との一致点として,両発明が,いずれも「イン
パクトレンチに供給される給気圧力の変化率を把握する圧力変化率把握手段」
(審決書11頁7行∼8行)を備えている旨認定したが,誤りである。
(1)審決は,本件発明と甲1発明を対比するに当たり,甲1発明が「インパク
トレンチAに供給される空気の静圧の時間に対する変化率を把握する変化率
検出回路13」(審決書7頁33行∼34行)を備えていることを認定した
が,甲1発明の変化率検出回路(13)が検出するのは,「静圧の時間に対
する変化率」ではなく,静圧の変化量にすぎない。
ア甲1には,「同じ空気源に連結された他の空力機器の使用により,供給
空気圧が変動すると,反転量も変動して正確な締付トルクコントロールが
でき(ない)」(3頁20行∼4頁3行)という課題を解決するため,螺
子(6)の着座を検出して,「締付動作中の静圧を……読み取(り)」
(12頁6行∼8行),「締付トルク(T),供給空気静圧(P)……の
対応表」から「必要打数(N)」又は「必要締付打数時間」(実用新案登N
録請求の範囲)を読み出すことが記載されている。
また,甲1発明の変化率検出回路(13)は,容量の異なるコンデンサ
(C,C)を備えた2つのCR回路(22−1,22−2)の出力差を12
検出するものであるが,上記CR回路(22−1,22−2)はいわゆる
積分回路であって,その出力差は圧力センサ(11)の出力変化量に対応
しているところ,圧力センサ(11)の出力信号は,静圧(P)を出力電
圧に変換した信号であり(10頁13行∼18行),静圧変動も,出力電
圧の変動として制御装置(B)の増幅回路(12)に出力されている。
したがって,甲1発明の変化率検出回路(13)は,圧力センサーの信
号である静圧の変化量をそのまま検出しているにすぎない。
イ被告は,甲1発明の変化率検出回路(13)について,コンデンサ等の
遅延を伴う素子を含む回路であって,時間との関わりがあり,また,周波
数に関係する回路ともなるから,変化量を検出する回路にはならない旨主
張する。
しかし,原告は,甲1発明の変化率検出回路(13)の出力信号が時間
と無関係な信号であると主張するものではなく,変化率検出回路(13)
が検出するのが,経時的に変化する供給空気圧の変化量であることから,
圧力センサの信号の変化率ではなく,圧力センサ信号そのものであること
を指摘しているのである。
ウ被告は,原告が審判手続において本件発明の「変化率把握手段」が甲1
発明の「変化率検出回路(13)」に相当とすると認めたものであり,そ
れと異なる主張を本件訴訟においてすることは信義則に反する旨主張する。
しかし,原告は,審判事件答弁書(甲20)において,甲1発明の「変
化率検出回路(13)」が給気圧力の絶対的な変化量を検出するものであ
る旨主張しており(6頁10行),口頭審理では表現上の一致を認めたに
すぎない。
(2)本件発明1∼5の変化率把握手段は,特許請求の範囲の記載のとおり,イ
ンパクトレンチに供給される給気圧力の変化率を把握するものと解するべき
である(最高裁判所昭和62年(行ツ)第3号平成3年3月8日第二小法廷
判決・民集45巻3号123頁参照。なお,本件特許公報(甲17)4頁7
欄36行∼37行に示されるように,本件発明2,3,5における「給気圧
力変動の交流成分」とは「圧力変化率」であり,「給気圧力変動の交流成分
を把握する」とは,「給気圧力の変化率を把握する」ことと技術的意義は同
一である。)。また,本件発明1∼5において,給気圧力の変化率を把握す
るのは,給気圧力の変化率と打撃力(締付トルク)とが比例関係にあること
に着目したものである。
これに対し,甲1発明の変化率検出回路(13)は,上記(1)のとおり,イ
ンパクトレンチに作用する静圧の変化率ではなく,変化量を検出するもので
ある。そして,甲1発明は,給気圧力の変化率が打撃力(締付トルク)に対
応していることに着目してなされたものではなく,各打数の締付トルクを検
出しようとする技術思想は存在しない。
したがって,本件発明1∼5の変化率把握手段と甲1発明の変化率検出回
路(13)とが相違することは,明らかである。
2取消事由2(相違点1の認定及び判断の誤り)
(1)審決は,「甲第1号証記載の発明の打撃信号を出力する際の『基準値』は,
本件各発明と同じく,被締付体を締付けるための打撃に相当する基準値であ
って,当該相違点1は実質上の相違点でない」(審決書12頁15行∼18
行)と判断したが,誤りである。
ア前記1のとおり,本件発明1∼5の変化率把握手段は,変化率を把握す
るものであるのに対し,甲1発明の変化率検出回路は,変化率ではなく,
変化量を検出するものであるから,両者の「基準値」は,その物理量の次
元(単位)を異にする。
イ(ア)本件発明1∼5の「基準値」は,被締付体を締付けるための打撃を
検出するための供給空気圧の変化率の基準値であり,いわゆる二度打ち
や反転など,締付に寄与しない打撃を排除するための指標であるのに対
し,甲1発明の「基準値」は,供給空気の静圧を読み取るために静圧が
わずかに変動する螺子の着座を検出するための指標にすぎない。
(イ)審決は,相違点1において,甲1発明の「基準値」が「被締付体を
締付けるための打撃に相当する基準値」とは特定されていないことを認
定したにとどまるが,審決が圧力変化率に係る「基準値」に相当するも
のとした甲1発明の「比較値」は,螺子(6)を締付けるための打撃を
検出するための基準値ではなく,螺子(6)の着座を検出するための基
準値である。
審決は,本件発明と甲1発明を対比するに当たり,甲1発明が「上記
変化率が比較値より高いときにパルスを出力する発信回路14」(審決
書7頁34行∼35行)を備えていることを認定したが,甲1発明の
「比較値」が,螺子(6)を締付けるための打撃を検出する値ではなく,
螺子(6)の着座を検出する値であることを,正しく認定していない。
甲1には,被締結物(7)への螺子(6)着座時期を検出することの
ほか,螺子(6)の着座に伴う静圧の変動はわずかなものであること
(10頁11行)が記載されている。このため,甲1発明における「比
較値」,すなわち変化率検出回路(13)を構成する比較回路(21)
の比較電圧は,極めて小さい値である必要がある。ところが,甲26
(第1回口頭審理調書)添付の参考図5<A>,<C>及び参考図6<A>に
示されるように,着座に伴う給気圧の変動に比べ,螺子(6)を締付け
るための打撃による給気圧の変動は,はるかに大きなものである。この
ように,螺子(6)の着座と,螺子(6)を締付けるための打撃とでは,
給気圧の変動に明確なレベル差があるから,甲1発明の変化率検出回路
(13)を構成する比較回路(21)の比較電圧は,螺子(6)を締付
けるための打撃に相当する基準値ということはできない。
なお,仮に甲1発明の比較回路(21)の比較電圧を螺子(6)を締
付けるための打撃に相当する基準値とすれば,螺子(6)の着座に伴う
わずかな給気圧の変動を検出することができないから,供給空気静圧及
び有効打数と締付トルクとの関係から必要打数を導出することができず,
甲1発明の目的を達成することができない。
(ウ)被告は,本件発明1∼5の「基準値」は,無負荷回転状態とその後
の打撃状態を区別するものである旨主張するが,誤りである。
甲1に「同じ圧力空気源に連結した他の空力機器の使用により,供給
空気圧が変動すると,反転量も変動して正確な締付トルクコントロール
ができ(ない)」(3頁20行∼4頁3行)と記載されているように,
甲1発明は,例えば,1つの空気源に1台のインパクトレンチが接続さ
れている場合は供給空気圧が高く,2台以上の複数台のインパクトレン
チが接続されている場合は供給空気圧が低くなることを課題とするもの
である。
これに対し,本件発明1∼5は,本件特許公報(甲17)に,「打撃
状態においては,給気圧には打撃発生毎にある程度以上の変化が生じ,
この変化に基づいて打撃信号が出力される」ものであり(3頁5欄34
行∼36行)と記載されているように,無負荷状態及び打撃負荷状態の
何れの状態にも関係がなく,この無負荷状態及び打撃負荷状態の何れの
状態においても出力される各種の信号のうち「被締付体を締付けるため
の打撃」を検出するためのものである。
(エ)審決は,「インパクトレンチにおいて注目すべき打撃が被締付体に
対する締付に実質的に寄与する打撃であることは技術常識である」(審
決書12頁11行∼13行)と認定したが,本件発明1∼5は,圧力信
号の変化率が締付トルクTに対応している点に着目し,この変化率の値
を把握すると締付トルクTの値を正確に制御し得ることから,この変化
率の値が被締付体を締付けるための打撃に相当する基準値に達している
か否かを判定するようにしたものであり,「被締付体に対する締付に実
質的に寄与する打撃」が給気圧力の変化率としてどのような挙動を示す
かは,技術常識ということはできない。
(2)審決は,仮定的に,「甲第1号証記載の発明の『基準値』を,甲第1号証
の……記載及びインパクトレンチにおける技術常識から,被締付体を締付け
るための打撃に相当する基準値とすることは,当業者が容易になし得ること
である」(審決書12頁19行∼22行)と判断したが,誤りである。
ア甲1発明の「基準値」を「被締付体を締付けるための打撃に相当する基
準値」に置き換えることは,圧力変化率の数値でもって圧力変化量の大き
さを判定することになり,トルク管理を行うことができず,その置換自体
に無理がある。また,その置換をした場合には,着座時期を検出すること
ができないので,当然に必要打数を読み出すことができず,甲1発明の目
的を達成することができない。したがって,上記のように置換することに
は,阻害要因があるというべきである。
イ着座時期とは,インパクトレンチにおいて被締付体が対象物に接触した
時期であることは技術常識であり,被締付体を締付けるための打撃とは全
く異なる現象であることも技術常識である。
甲1には,従来技術として,「反転量が一定値以上の打撃を締付トルク
に影響する有効打撃とし,この有効打撃をカウントし」(3頁16行∼1
8行)との記載があるが,反転量との関係で有効打撃に言及しているにす
ぎず,給気圧力の変化率と有効打撃との関連について開示するものではな
い。
したがって,被締付体を締付けるための打撃とは直接に関連しない着座
時期と,反転量に基づく有効打撃とを組み合わせて,甲1発明の「基準
値」を本件各発明の「被締付体を締付けるための打撃に相当する変化率の
基準値」とすることが容易であるとはいえない。
3取消事由3(作用効果の認定判断の誤り)
審決は,「本件発明1∼5の作用効果は,甲第1号証記載の発明等から当業
者が予測可能な範囲内のものであって,格別のものではない。」(審決書13
頁末行∼14頁1行)と認定判断したが,誤りである。
本件発明1∼5は,「変化率把握手段」が給気圧力の変化率を把握し,この
変化率が「被締付体を締付けるための打撃に相当する基準値」に達したときに
打撃信号を出力し,この打撃信号のカウントが所定値に達したときに供給路を
閉じることにより,正確に打撃状態を検出することができ,締付トルクを正確
に制御し得るものである。
これに対し,甲1発明は,供給空気静圧の変動より螺子着座時期を検出し,
締付動作を,供給空気静圧及び有効打数と締付トルクとの関係から導出した必
要打数あるいは必要締付時間だけ行わせることにより,高い精度の締付作業を
行うことができるものである(13頁7行∼14行)。
したがって,本件発明1∼5の作用効果と甲1発明の作用効果は全く異なる
ものというべきである。
4取消事由4(相違点2ないし4の判断の誤り)
審決に上記1ないし3の誤りがあることに照らせば,同様に,審決の相違点
2ないし4の各判断も誤りというべきである。
第4被告の反論の要点
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1取消事由1(一致点認定の誤り)について
本件発明の「圧力変化率把握手段」は,甲1発明の「変化率検出回路」に相
当するものであり,審決の認定に誤りはない(なお,原告は,審判手続におい
て,本件発明の「圧力変化率把握手段」が,甲1発明の「変化率検出回路(1
3)」に相当すると認めている(甲26)から,原告の主張は信義則に反する
ものであって,そもそも許されない。)。
本件明細書の「作用」の欄に記載された作用ないし機能と,甲1に記載され
た作用ないし機能とは異ならない。すなわち,本件特許公報(甲17)の「無
負荷回転中は給気圧は特定の圧力に維持され,給気圧の経時変化が生じないこ
とから,打撃信号は出力されない。これに対し,打撃状態においては,給気圧
には打撃発生毎にある程度以上の変化が生じ,この変化に基づいて打撃信号が
出力される。」(3頁5欄32行∼36行)との記載は,甲1の「変化率検出
回路(13)は,螺子(6)が空転しているときは静圧が略一定で変動率が小
さいので出力せず,……インパクトレンチ(A)回転数の低下に伴う供給空気
量の減少による静圧の急上昇を検出する」(11頁15行∼19行)との記載
に相当する。
本件発明1∼5の「圧力変化率把握手段」と甲1の「変化率検出回路(1
3)」は,実施例レベルにおいても機能ないし作用に異なるところはない。す
なわち,本件特許公報(甲17)によれば,本件発明1∼5は,上記作用を奏
するべく,「圧力変化率把握手段」の実施例として,センサ出力信号(圧力ト
ランスデューサ6からの出力信号)に対してフィルタ処理を施すものであり
(4頁7欄7行∼12行),センサ出力信号から不要な信号成分(低周波成
分)を取り除くものであるのに対し,甲1の変化率検出回路(13)は,2つ
のCR回路(22−1,22−2)と差動増幅器20からなる回路であるとこ
ろ,2つのCR回路は,それぞれの容量を異ならしめ,周波数特性の異なる両
CR回路からの出力信号を差動増幅器(二つの入力信号の差をとって増幅する
もの)に入力することより,低周波成分を除去するフィルタとして機能するも
のであって,本件発明の実施例と同様,不要帯域の信号成分(低周波成分)を
取り除くものである。
なお,遅延を伴わない素子(抵抗R)で構成された回路であれば時間との関
わりがなく,変化量を検出するといえようが,甲1の変化率検出回路(13)
のように,遅延を伴う素子(コンデンサC,C)を含む回路は時間との関わ12
りがあり,周波数に関係する回路となるから,変化量を検出する回路にはなら
ない。
2取消事由2(相違点1の認定及び判断の誤り)について
「甲1発明の打撃信号を出力する際の「基準値」は,本件各発明と同じく,
被締付体を締付けるための打撃に相当する基準値であって,当該相違点1は
「実質上の相違点でない」とした審決の判断及びその前提となる認定に誤りは
ない。
本件発明1∼5の「基準値」と,甲1発明における「基準値」(比較電圧)
とは,いずれも無負荷回転中に出力される信号はレベルが小さく,基準値を超
えないので信号は出力されないが,無負荷回転後に出力される信号はレベルが
大きく,基準値を超えるので信号が出力され,これを「打撃信号」とするため
の基準値であって何ら異なるところはない。しかも,甲1発明は,「基準値」
よりもレベルが高い場合を「有効締付打撃」とするから,甲1発明の「基準
値」は締付に寄与する打撃に相当するものであり,本件発明の基準値たる「被
締付体を締付けるための打撃に相当する基準値」に相当する。
審決は,本件明細書に打撃が被締付体に対する締付に寄与する打撃に他なら
ないとする直接的な記載はないが,インパクトレンチは被締付体に対して打撃
を作用させて締付けるのであるから,そのことを勘案すると,打撃は被締付体
に対する締付に実質的に寄与する打撃であると解するのが相当であるとして,
本件訂正を認めている。これを前提とすれば,甲1発明もインパクトレンチで
あって,被締付体に対して打撃を作用させて締付けるものに違いないから,こ
の意味においても,甲1発明の「有効締付打撃」に対応する基準値(比較電
圧)は,「被締付体を締付けるための打撃に相当する基準値」に相当する。
原告は,従来技術に関する,甲1の「反転量が一定値以上の打撃を締付トル
クに影響する有効打撃とし,この有効打撃をカウントし」との記載は,反転量
として有効打撃の意味を示しているにすぎないとして,審決の認定判断を批判
するが,甲1の上記記載は甲1発明における有効打撃の意味内容を特定してお
り,これに基いて甲1発明の「基準値」(比較電圧)を「被締付体を締付ける
ための打撃に相当する基準値」に相当するとした審決の認定判断に誤りはない。
さらにいえば,甲1には「有効打数(Ne)が増加するに従って締付トルク
(T)の増加」(5頁14行∼15行)とも記載されており,甲1発明の有効
打撃が「締付トルク」に対応するものであることは明らかである。
3取消事由3(作用効果の認定判断の誤り)について
本件明細書に記載され開示された技術は,圧力トランスデューサ6からの出
力信号が,圧力信号増幅部21及びハイパスフィルタたる圧力変化率把握部2
2を経て出力され,その信号の大きさが,打撃信号出力部23に設定された検
知レベル(基準値)に達した場合に信号を出力し,この出力信号を「打撃」と
してカウントするものであり,所定のカウントに達したときに締付作業を終了
するものである。
他方,甲1のインパクトレンチ制御装置は,圧力センサ(11)からの出力
信号が,増巾回路(12)及びハイパスフィルタたる変化率検出回路(13,
差動増巾器20)を経て出力され,その信号の大きさが,比較回路(21)に
設定された比較電圧(基準値)に達した場合に信号を出力し,この出力信号を
「有効打撃」としてカウントするものであり,所定のカウントに達したときに
締付作業を終了するものである。
このように,本件明細書に開示された技術と,甲1に開示された技術が異な
らない以上,本件発明の作用効果と,甲1発明の作用効果が異なることはなく,
本件発明に予測不可能で格別な効果は存在しない。
4取消事由4(相違点2ないし4の判断の誤り)について
原告主張の取消事由1ないし3に理由がないことは上記1ないし3で述べた
とおりであるから,審決の相違点2ないし4の各判断にも原告主張の誤りはな
い。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(一致点認定の誤り)について
原告は,甲1発明の変化率検出回路(13)が検出するのは,「静圧の時間
に対する変化率」ではなく,静圧の変化量にすぎないから,「インパクトレン
チに供給される給気圧力の変化率を把握する圧力変化率把握手段」(審決書1
1頁7行∼8行)を備えていることを一致点とした審決の認定は,誤りである
旨主張する。
(1)ア甲1には,次の記載がある。
(ア)「ハンマの反転量を検出する方式は,反転量が一定値以上の打撃を
締付トルクに影響する有効打撃とし,この有効打撃数をカウントし,電
磁弁をカットオフすることにより締付トルクを制御するものであるが,
同じ圧力空気源に連結した他の空力機器の使用により,供給空気圧が変
動すると,反転量も変動して正確な締付トルクコントロールができず,
……という欠点があった。この考案では,同トルクレンチの締付トルク
が,供給空気の静圧と,有効締付打数……によって定まることに着目し
て,有効締付打撃の開始時期,すなわち,螺子が被締結物に着座した時
期を,供給空気の静圧変動により検出し,爾後の有効締付打数をカウン
トして,設定締付トルクに見合う打数に達する……と,同レンチの締付
作動を停止せしめるように締付トルク制御装置を構成することにより,
締付トルクのばらつきが少なく,しかも耐久性に富むインパクトレンチ
の締付トルク制御装置を提供せんとするものである。本考案の実施例を
図面にもとづき詳説すれば,(A)は空気圧駆動のインパクトレンチを
示し,同レンチ(A)はエアホース(1)を介して空気圧源たるエア主
管(2)に連通連結しており,トリガー(3)の操作により回転軸
(4)を回転せしめ,同軸(4)先端に冠設したソケットレンチヘッド
(5)を介して,同ヘッド(5)に嵌合した螺子(6)を回転させ,同
螺子(6)によって被締結物(7)を締付けるべく構成している。」
(3頁16行∼∼5頁6行)
(イ)「同レンチ(A)への供給空気静圧(P)と,同レンチ(A)の有
効打数(Ne)と,締付トルク(T)との関係は,第2図に示すように,
静圧(P),有効打数(Ne)の増加と共に,締付トルク(T)が単調
に増加するものであり,有効打数(Ne)が増加するに従って締付トル
ク(T)の増加分が次第に減少し,ついには飽和トルク(Ts)に達す
るものであり,飽和トルク(Ts)は静圧(P)に略比例することが既
に明らかにされている。同レンチ(A)と,エア主管(2)との間のエ
アホース(1)には,同レンチ(A)の方から順にオリフィスブロック
(8)及び電磁弁(9)が介設されており,同ブロック(8)のインパ
クトレンチ(A)側には,静圧伝送用パイプ(10)を介して圧力セン
サー(11)が連通しており,同センサー(11)により,オリフィス
ブロック(8)より下流側の静圧に略比例した電圧を制御装置(B)へ
出力するように構成している。」(5頁9行∼6頁7行)
(ウ)「制御装置(B)は,増巾回路(12),変化率検出回路(13),
発信回路(14),遅延回路(15),A/D変換器(16),制御計
数回路(17),記憶素子(18),電磁弁駆動回路(19)によって
構成されており,特に変化率検出回路(13)は,差動増巾器(20)
と比較回路(21)によって構成されており,差動増巾器(20)は反
転入力端子(20)−1と,非反転入力端子(20)−2を有し,同端
子(20)−1,(20)−2に入力した電圧の差について増巾作用を
行うものであり,同端子(20)−1,(20)−2の前段に,容量が
異なるコンデンサ(C),(C)を介してそれぞれ接地したCR回路12
(22)−1,(22)−2を,それぞれ接続し,圧力センサー(1
1)出力が,増巾回路(12)により増巾されて変化率検出回路(1
3)に入力される際,CR回路(22)−1,(22)−2のコンデン
サ(C),(C)の容量が異なっているので,コンデンサ(C),121
(C)が増巾回路(12)からの出力電圧によって充電されて同回路2
(22)−1,(22)−2出力端の電圧が変化する時間に差が生じ,
同時間差により,差動増巾器(20)の反転入力端子(20)−1と非
反転入力端子(20)−2との間に電位差が生じ,差動増巾器(20)
は,同電位差に略比例した電圧を出力するものである。比較回路(2
1)は,差動増巾器(20)からの出力電圧が,あらかじめ比較回路に
印加した比較電圧よりも高いときに出力するものであり,同出力は,遅
延回路(15)と,発信回路(14)に入力される。……制御計数回路
(17)には,増巾回路(12)からA/D変換器(16)を介して静
圧デジタル信号が出力されており,同回路(17)は遅延回路(15)
からの出力を受けた瞬間の静圧デジタル信号を受け入れるものであ
る。」(6頁13行∼8頁11行)
(エ)「制御計数回路(17)は,……第2図に示す同レンチ(A)の特
性から導出した,締付トルク(T),供給空気静圧(P),有効打数
(Ne)の対応表を記憶しており,遅延回路(15)からの入力により,
A/D変換器(16)から受け入れた静圧(P)値と,あらかじめ制御
計数回路(17)に入力しておいた設定締付トルク(Td)とから必要
打数(Nn)を読み出すものである。発信回路(14)は,比較回路
(21)から入力がある度毎に一個のパルスを出力を発信して制御計数
回路(17)に出力するものであり,制御計数回路(17)は,同パル
スを積算し,記憶素子(18)から読みだした必要打数(Nn)に達し
たとき,……電磁弁駆動回路(19)を介して電磁弁(9)を作動させ
るように構成している。」(8頁15行∼9頁18行)
(オ)「ソケットレンチヘッド(5)に嵌合した螺子(6)は,インパク
トレンチ(A)のトリガー(3)が操作されると,まず螺子(6)が被
締結物(7)に着座するまで空転するものであり,空転中は負荷が小さ
いので高回転し,エア流量が多くなるのでオリフィスブロック(8)と
インパクトレンチ(A)との間の静圧(P)が,動圧分と管路抵抗損失
分だけ低下する。次いで螺子(6)が被締結物(7)に着座すると負荷
が急激に増加して回転数が急激に低下し,空気量が急激に減少するので,
静圧(P)が僅かではあるが急激に昇圧する。上記静圧(P)は,静圧
伝送用パイプ(10)を介して圧力センサー(11)に伝送され,同セ
ンサー(11)により出力電圧に変換されるものであり,上記静圧変動
もまた出力電圧の変動として制御装置(B)の増巾回路(12)に出力
されるものである。」(10頁1行∼18行)
(カ)「制御装置(17)では,増巾回路(12)の入力電圧を増巾して,
変化率検出回路(13)に出力し,差動増巾器(20)の反転入力端子
(20)−1と非反転入力端子(20)−2に入力するが,同端子(2
0)−1,(20)−2にそれぞれ前置したCR回路(22)−1,
(22)−2のコンデンサ(C),(C)の容量の差により,差動増12
巾器(20)の出力は,入力電圧の時間に対する変化率に略比例した電
圧を比較回路(21)に出力し,比較回路(21)は,差動増巾器(2
0)からの入力電圧が,比較電圧より高い場合出力するものである。従
って,変化率検出回路(13)は,螺子(6)が空転しているときは静
圧が略一定で変動率が小さいので出力せず,螺子(6)が着座したとき
のインパクトレンチ(A)回転数の低下に伴う供給空気量の減少による
静圧の急上昇を検出することにより螺子(6)の着座時期を検出するも
のである。」(11頁3行∼12頁1行)
(キ)「制御計数回路(17)は,A/D変換器(16)からの静圧と,
あらかじめ入力しておいた設定締付トルク(Td)によって記憶素子
(18)をアクセスして読み出した必要打数(Nn)と,発信回路(1
4)からのパルスの積算とが一致したとき,すなわち,インパクトレン
チ(A)が必要打数(Nn)だけ締付作動して螺子(6)を設定締付ト
ルク(Td)で締付完了したとき,電磁弁駆動回路(19)を介して電
磁弁(9)を作動せしめ,同レンチ(A)への空気供給を遮断すると共
に,同レンチ(A)側の残圧を放出して同レンチ(A)の作動を停止さ
せるものである。なお,記憶素子(18)に,供給空気静圧(P).有
効締付動作時間と,締付トルクとの関係からの導出した対応表を記憶さ
せておき,静圧デジタル信号と,設定締付トルクにより記憶素子(1
8)から必要締付時間を読み出し,同時間により電磁弁(9)を制御す
るように構成することもできる。」(12頁9行∼13頁6行)
(ク)第1図にはインパクトレンチ(A)及び制御装置(B)の構成が図
示され,第2図にはインパクトレンチ(A)の特性がグラフで示され,
第3図には制御装置(B)の構成がブロック線図として示されている。
イ甲1の上記ア(ア)ないし(ク)の記載等によれば,甲1発明について,次
の事項を認めることができる。
①インパクトレンチ(A)の締付トルク制御装置(B)は,増巾回路
(12),変化率検出回路(13),発信回路(14),遅延回路(1
5),A/D変換器(16),制御計数回路(17),記憶素子(1
8),電磁弁駆動回路(19)によって構成されている。
変化率検出回路(13)は,差動増巾器(20)と比較回路(21)
によって構成されている。
差動増巾器(20)は,反転入力端子(20)−1と非反転入力端子
(20)−2を有し,同端子(20)−1,(20)−2に入力した電
圧の差について増巾作用を行うものであり,同端子(20)−1,(2
0)−2の前段に,容量が異なるコンデンサ(C),(C)を介して12
それぞれ接地したCR回路(22)−1,(22)−2を,それぞれ接
続している。
②圧力センサー(11)は,インパクトレンチAに供給される空気の静
圧(P)に略比例した電圧を制御装置Bに出力する。
③制御装置Bでは,圧力センサー(11)の出力が,増巾回路(12)
により増巾されて,変化率検出回路(13)を構成する差動増巾器(2
0)に前置されたCR回路(22)−1,(22)−2の入力端に入力
される。
この際,コンデンサ(C),(C)の容量の差により,共通の入力12
端の電圧が変化した場合に,CR回路(22)−1,(22)−2のそ
れぞれの出力端の電圧信号波形に時間差が生じ,この時間差により,差
動増巾器(20)の反転入力端子(20)−1と非反転入力端子(2
0)−2との間に電位差が生じ,差動増巾器(20)は,上記電位差に
略比例した電圧を比較回路(21)に出力する。
④比較回路(21)は,差動増巾器(20)からの出力電圧が,あらか
じめ比較回路に印加した比較電圧よりも高いときに,発信回路(14)
及び遅延回路(15)に出力をする。
螺子(6)の着座時期(有効締付打撃の開始時期)を検出するため,
螺子(6)が空転しており,静圧(P)が略一定で変動率が小さいとき
には,比較回路(21)からの出力はなされず,螺子(6)が被締結物
(7)に着座し,静圧が急上昇したときには,比較回路(21)から出
力されるよう,上記比較電圧は定められている。
⑤発信回路(14)は,比較回路(21)から入力がある度毎に,一個
のパルスを発信して制御計数回路(17)に出力する。制御計数回路
(17)は,遅延回路(15)からの出力を受けた瞬間の静圧デジタル
信号をA/D変換器(16)から受け入れ,この静圧(P)値と,あら
かじめ入力しておいた設定締付トルク(Td)とから,制御計数回路
(17)または記憶素子(18)に記憶しておいた対応表より必要打数
(Nn)を読み出すとともに,発信回路(14)から出力されたパルス
を積算して,すなわち爾後の有効締付打数をカウントして,これが必要
打数(Nn)に達したとき,電磁弁駆動回路(19)を介して電磁弁
(9)を作動させ,レンチ(A)への空気供給を遮断する。
ウ上記イ③において,差動増巾器(20)から比較回路(21)に出力さ
れる電圧は,静圧(P)の変化率に略比例したものであるから,変化率検
出回路13は,インパクトレンチAに供給される空気の静圧の時間に対す
る変化率を把握するものということができる。
なお,このことは,比較回路(21)において,差動増巾器(20)か
らの出力電圧とあらかじめ印加した比較電圧とを比較することにより,螺
子(6)が被締結物(7)に着座したときの静圧(P)の急上昇(「静圧
の急上昇」が静圧(P)の単位時間に対する変化量,すなわち変化率を意
味することは明らかである。)を検出するとされており,変化率検出回路
(13)が「変化率」検出回路とされていることとも符合する。
エ以上のとおりであるから,甲1発明が「インパクトレンチAに供給され
る空気の静圧の時間に対する変化率を把握する変化率検出回路13」を備
えている旨認定した審決に,誤りはない。
(2)ア本件明細書(甲21添付の全文訂正明細書)の特許請求の範囲には,
「インパクトレンチに供給される給気圧力の変化率を把握する圧力変化率
把握手段」(請求項1,4),「インパクトレンチに供給される給気圧力
変動の交流成分を把握する圧力変化率把握手段」(請求項2,5)との記
載がある(なお,請求項3は,請求項1又は2を引用する形式で記載され
ている。)が,本件発明の圧力変化率把握手段について,上記以外には格
別の限定はない(なお,請求項2,5における「給気圧力変動の交流成
分」とは「圧力変化率」を意味し,「給気圧力変動の交流成分を把握す
る」ことの技術的意義が「給気圧力の変化率を把握する」ことと同一であ
ることは,原告も認めるところである。)。
一方,甲1発明が「インパクトレンチAに供給される空気の静圧の時間
に対する変化率を把握する変化率検出回路13」を備えるとした審決の認
定に誤りがないことは,上記(1)で検討したとおりである。
そうすると,「本件発明1∼5と甲第1号証記載の発明とを対比すると,
後者の『変化率検出回路13』が前者の『圧力変化率把握手段』に,……
相当することは明らかである。また,甲第1号証記載の発明の『インパク
トレンチAに供給される空気の静圧の時間に対する変化率』は,本件発明
1,3,4の『インパクトレンチに供給される給気圧力の変化率』に相当
する。そして,甲第1号証記載の発明の『インパクトレンチAに供給され
る空気の静圧の時間に対する変化率』と本件発明2,5の『インパクトレ
ンチに供給される給気圧力変動の交流成分』とは,『インパクトレンチに
供給される給気圧力変動の変化率』の限りで共通……する。」(審決書1
0頁23行∼11頁3行)とした審決の認定判断は,これを是認すること
ができる。
イ(ア)原告は,甲1発明の変化率検出回路(13)がインパクトレンチに
作用する静圧の変化率ではなく,変化量を検出するものであると主張す
るが,かかる原告の主張を採用することができないことは,上記(1)で説
示したとおりである。
(イ)原告は,本件発明1∼5において,給気圧力の変化率を把握するの
は,給気圧力の変化率と打撃力(締付トルク)とが比例関係にあること
に着目したものであるのに対し,甲1発明は,給気圧力の変化率が打撃
力(締付トルク)に対応していることに着目してなされたものではなく,
各打数の締付トルクを検出しようとする技術思想は存在しない旨主張す
る。
しかし,本件明細書(甲21添付の全文訂正明細書)を検討しても,
本件発明1∼5は,「インパクトレンチに供給される給気圧力の変化率
を把握する圧力変化率把握手段」(請求項1,4),「インパクトレン
チに供給される給気圧力変動の交流成分を把握する圧力変化率把握手
段」(請求項2,5)を有するとされていることを理解し得るにとどま
り,原告主張の技術思想を把握することは困難であるから,原告の主張
は本件明細書に基づかないものといわざるを得ず,採用することができ
ない。
(3)以上によれば,原告主張の取消事由1は理由がない。
2取消事由2(相違点1の認定及び判断の誤り)について
原告は,相違点1を「実質上の相違点でない」とした審決の判断が誤りであ
るとし,その理由として,①本件発明は変化率を把握するのに対し,甲1発明
は変化率ではなく,変化量を検出するから,両者の「基準値」は物理量の次元
(単位)を異にする,②本件発明の「基準値」は,被締付体を締付けるための
打撃を検出するための供給空気圧の変化率の基準値であり,いわゆる二度打ち
や反転など,締付に寄与しない打撃を排除するための基準値であるのに対し,
甲1発明の「基準値」は螺子(6)を締付けるための打撃を検出するための基
準値ではなく,螺子(6)の着座を検出するための基準値である旨主張する。
(1)原告の上記①の主張は,甲1発明の変化率検出回路(13)がインパクト
レンチに作用する静圧の変化率ではなく,変化量を検出するものであること
を前提とするものであるところ,かかる原告の主張に理由がないことは前記
1において既に検討したとおりである。したがって,原告の上記①の主張は
採用することができない。
(2)ア原告の上記②の主張は,甲1発明において,螺子(6)を締付けるため
の打撃と螺子(6)の着座とは異なるものであって,甲1発明の「基準
値」は,前者を検出するためのものではなく,もっぱら後者を検出するた
めのものであることを前提とするものと解されるので,甲1発明の「基準
値」について検討する。
(ア)原告は,甲1発明の比較回路(21)の比較電圧は,螺子(6)の
着座に伴う静圧の変動がわずかなものであることから極めて小さい値で
ある必要があるのに対し,螺子(6)を締付けるための打撃による給気
圧の変動は着座に伴う給気圧の変動と比べてはるかに大きなものであり,
両者には明確なレベル差がある,仮に甲1発明の「比較回路(21)の
比較電圧」を「螺子(6)を締付けるため打撃に相当する基準値」とす
ると,螺子(6)の着座に伴うわずかな給気圧の変動を検出することが
できないなどと主張する。
しかし,前記1(1)で認定したとおり,甲1には,「螺子(6)が被締
結物(7)に着座すると……静圧(P)が僅かではあるが急激に昇圧す
る」(10頁8行∼12行)との記載があるところ,ここでいう「僅か
ではあるが」とは変化量を意味し,「急激に昇圧する」とは変化率を意
味するというべきであるから,螺子(6)の着座に伴う静圧は,変化量
としてはわずかであるとしても,変化率としては大きなものというべき
である。
(イ)前記1(1)ア(ア)及び(エ)で認定した甲1の記載によれば,甲1発明
は,螺子(6)が被締結物(7)に着座したときの静圧(P)の急上昇
を検出することにより,その着座時期(有効締付打撃の開始時期)を検
出するほか,制御計数回路(17)が,発信回路(14)から出力され
たパルスを積算する,すなわち爾後の有効締付打数をカウントするもの
であるところ,発信回路(14)から出力されるパルスは,比較回路
(21)が差動増巾器(20)から入力した電圧が比較電圧よりも高い
ときに発信されるものであり,甲1において,有効締付打撃の開始時期
と爾後とで比較回路(21)の比較電圧を異ならせるとはされていない
から,比較回路(21)の比較電圧は,螺子(6)の着座時期のみなら
ず,螺子(6)の着座を検出した爾後の有効締付打数をも検出するため
のものであるということができる。
(ウ)なお,前記1(1)で認定したとおり,甲1発明において,差動増巾器
(20)から比較回路(21)に出力される電圧は,静圧(P)の変化
率に略比例するものであり,比較回路(21)は,差動増巾器(20)
からの入力電圧があらかじめ印加した比較電圧より高い場合,出力する
ものである。発信回路(14)は,比較回路(21)から入力がある度
毎に,一個のパルスを発信して制御計数回路(17)に出力するもので
ある。そうすると,発信回路14は,静圧(P)の変化率が比較値より
高いときに,比較回路(21)からの出力を受けてパルスを出力するも
のであるということができるから,甲1発明が「上記変化率が比較値よ
り高いときにパルスを出力する発信回路14」を備えている旨審決が認
定したことに誤りはない。
イ原告は,本件発明の「基準値」は,被締付体を締付けるための打撃を検
出するための供給空気圧の変化率の基準値であり,いわゆる二度打ちや反
転など,締付に寄与しない打撃を排除するための基準値である旨主張する。
(ア)本件明細書(甲21添付の全文訂正明細書)には次の記載がある。
「【0001】……
(従来の技術及びその問題点)
インパクトレンチにおいて,締付トルク制御を正確に行ったり,ある
いは締付作業の完了した員数を正確に把握しようとすれば,打撃状態を
検出する必要がある……。
【0002】
そのため給気圧を検出し,この給気圧が基準値以下に低下したときに
インパクトレンチが作動しているとして,上記打撃状態を検出するとい
う方式を採用することが考えられる。しかしながらこの方式では,イン
パクトレンチが無負荷回転状態にあるのか,打撃状態にあるのかの識別
が不可能であるという欠点がある。それは,無負荷回転状態と打撃状態
において生ずる圧力差が,給気源において不可避的に生ずる圧力変動よ
りも小さく,その識別が不可能であるためである。
【0003】
そこでこの発明の主たる目的は,インパクトレンチにおける打撃状態
の検出を,簡素な構成でかつ正確に行うことのできると共に,締付トル
ク制御を正確に行うことのできるインパクトレンチの締付制御装置を提
供することにある。」
「【0010】……
(作用)
上記第1請求項及び第2請求項記載のインパクトレンチの締付制御装
置では,無負荷回転中は給気圧は特定の圧力に維持され,給気圧の経時
変化が生じないことから,打撃信号は出力されない。これに対し,打撃
状態においては,給気圧には打撃発生毎にある程度以上の変化が生じ,
この変化に基づいて打撃信号が出力される。そして出力される打撃信号
の数をカウントし,これらが設定値に達したときに給気を停止する。」
「【0014】
第1図に全体構成の概略図を示すが,同図において,1は給気源,2
はエアホース,3はインパクトレンチをそれぞれ示しており,エアホー
ス2には,給気源1側から順に,電磁弁4,チェックバルブ5,圧力ト
ランスデューサ6が介設されている。……」
「【0016】
次に上記制御装置の作動状態について,第3図に基づいて説明する。
まず同図(a)には,圧力トランスデューサ6からの出力信号を示すが,
この信号から圧力変化率把握部22においては,交流成分のみを圧力変
動信号として取出す。すなわち上記圧力トランスデューサ6からの圧力
信号は,同図(a)のように停止時には変動がなく,レバー開時には大
きな負変動レベルが得られ,フリーランニング(無負荷回転)時には微
少な正負変動があり,また打撃時には一打撃毎に大きな正変動と小さな
負変動とを繰返すという特性を有するものである。したがって圧力トラ
ンスデューサ6からの圧力信号を,あるレベルの周波数以上の周波数成
分のみの通過を許容するハイパスフィルタ,つまり微分フィルタを通過
させることにより,同図(b)に示すように交流成分を圧力変動信号と
して取出すのである。そしてこの圧力変動信号に基づき,まず打撃信号
出力部23では,レバー開時の負変動がリセットレベル設定部26での
リセットレベルに達した際に,上記カウンタ27やタイマ28をリセッ
トし,打撃状態の検出を開始する。上記検知レベル設定部24において
設定された検知レベル以上の正変動,つまり打撃が発生すると,上記打
撃信号出力部23からは,同図(C)に示すように打撃信号が所定時間
T4だけ出力される。そして上記打撃信号の出力数をカウンタ27にて
計数し,これが設定値に達すると締付完了信号を出力して電磁弁4を閉
弁し,次いでレバーを閉止する(第3図(d)(e))。なお電磁弁4
は閉弁後,所定時間T2経過後に自動的に再度開弁する。そして上記の
ような締付作動を所定回数だけ繰返し,員数計数部33においてカウン
トされる締付完了信号が設定値に達したときに,所定員数締付完了信号
を出力し,これにより一連の作動を完了する。」
「【0021】……
(発明の効果)
以上のように第1請求項及び第2請求項記載のインパクトレンチの締
付制御装置では,従来のように給気圧の絶対値そのものを検出するので
はなく,給気圧の変化に基づいて打撃状態を検出するようにしてあるの
で,打撃とは無関係な給気圧そのものの変動(平均レベルの変動)の影
響を受けず,したがって構成簡素にして正確に打撃状態を検出すること
が可能であり,そのため,締付トルクを正確に制御し得ることにな
る。」
(イ)本件明細書の上記(ア)の記載によれば,本件発明1∼5は,給気圧
の絶対値そのものを検出してこれが基準値以下に低下したときにインパ
クトレンチの打撃状態を検出する従来の方式では,インパクトレンチが
無負荷回転状態にあるのか,打撃状態にあるのかの識別が不可能である
という欠点があることに鑑みてなされたものであって,無負荷回転中は
給気圧は特定の圧力に維持され,給気圧の経時変化が生じないことから,
打撃信号は出力されないのに対し,打撃状態においては,給気圧には打
撃発生毎にある程度以上の変化が生じ,この変化に基づいて打撃信号が
出力され,出力される打撃信号の数をカウントし,これらが設定値に達
したときに給気を停止することにより,給気圧の変化に基づいて打撃状
態を検出するようにしてあるので,打撃とは無関係な給気圧そのものの
変動(平均レベルの変動)の影響を受けず,正確に打撃状態を検出する
ことが可能であり,締付トルクを正確に制御し得るという効果を奏する
とされていることが理解される。
(ウ)審決は,本件訂正前の本件特許に係る明細書及び図面(以下「訂正
前明細書」という。)に記載される「基準値」を「被締付体を締付ける
ための打撃に相当する基準値」と訂正する訂正事項について,訂正前明
細書には,被締付体に対する締付に実質的に寄与する打撃に他ならない
とする直接的な記載はないが,インパクトレンチは被締付体に対し打撃
を作用させて締付けるものであることを勘案すると,訂正前明細書(甲
17)の「ある程度以上の変化が生じ」る打撃(3頁5欄34行∼36
行)及び「検知レベル以上の正変動,つまり打撃」(5頁7欄16行∼
19行)は,被締付体に対する締付に実質的に寄与する打撃であると解
するのが相当であると認定判断しているところ(審決書4頁12行∼5
頁13行),上記審決の認定判断については原告も認めているところで
ある。
(エ)甲1発明については,前記1(1)において認定した事項を認めること
ができるが,本件発明1∼5の「基準値」と,甲1における「基準値」
(比較電圧)とは,いずれも無負荷回転中(甲1発明では,螺子(6)
が空転しているとき)に出力される信号はレベルが小さく,基準値を超
えないので信号は出力されないが,無負荷回転後に出力される信号(甲
1発明では,螺子(6)が被締結物(7)に着座したときの静圧(P)
の急上昇,すなわち静圧の時間に対する変化量(変化率))はレベルが
大きく,基準値を超えるときに信号が出力される点で共通する。そして,
甲1発明は,基準値よりもレベルが高い場合を「有効締付打撃」として
カウントすることから,この有効締付打撃は,本件発明の「被締付体を
締め付けるための打撃」に相当するということができる。
さらに,本件訂正を適法なものとした審決の認定判断を認めているこ
とを考慮すると,甲1発明は,本件発明と同じくインパクトレンチにか
かるものであって,被締付体に対して打撃を作用させて締付けるもので
あるから,甲1発明の有効締付打撃に対応する基準値(比較電圧)は,
「被締付体を締付けるための打撃に相当する基準値」に相当するという
べきである。
そうすると,本件発明1∼5の「基準値」と,甲1における「基準値
(比較電圧)」とは,何ら異なるものではないというべきであるから,
相違点1は「実質上の相違点でない」とした審決の判断に誤りはない。
(オ)原告は,本件発明の「基準値」について,無負荷状態及び打撃負荷
状態の何れの状態にも関係がなく,この無負荷状態及び打撃負荷状態の
何れの状態においても出力される各種の信号のうち「被締付体を締付け
るための打撃」を検出するためのものである旨主張するが,本件発明は
インパクトレンチが無負荷回転状態にあるのか,打撃状態にあるのかの
識別が不可能であるという欠点があることに鑑みてなされたものである
ことは明らかであり,原告の主張は採用することができない。
(カ)原告は,「被締付体に対する締付に実質的に寄与する有効打撃」が
給気圧力の変化率としてどのような挙動を示すかは,技術常識に該当し
ない旨主張するが,甲1には「有効打数(Ne)が増加するに従って締
付トルク(T)の増加分が次第に減少し」(5頁13行∼15行)との
記載があり,甲1発明において,有効打撃が「締付トルク」に対応する
ものであることは明らかである。原告の主張は採用することができない。
ウ以上によれば,原告の前記②の主張も採用することができない。
(3)以上検討したところによれば,相違点1は「実質上の相違点でない」とし
た審決の認定判断に誤りはなく,相違点1の容易想到性についての審決の仮
定的判断に関する原告の主張を検討するまでもなく,原告主張の取消事由2
は理由がない。
3取消事由3(作用効果の認定判断の誤り)について
原告は,本件発明1∼5の作用効果と甲1発明の作用効果とは全く異なるも
のであり,本件発明1∼5の作用効果は,甲1発明等から当業者が予測可能な
範囲内のものであるとするとの審決の認定は誤りである,と主張する。
しかし,本件発明1∼5は,無負荷回転中は給気圧は特定の圧力に維持され,
給気圧の経時変化が生じないことから,打撃信号は出力されないのに対し,打
撃状態においては,給気圧には打撃発生毎にある程度以上の変化が生じ,この
変化に基づいて打撃信号が出力され,出力される打撃信号の数をカウントし,
これらが設定値に達したときに給気を停止することにより,給気圧の変化に基
づいて打撃状態を検出するようにしてあるので,打撃とは無関係な給気圧その
ものの変動(平均レベルの変動)の影響を受けず,正確に打撃状態を検出する
ことが可能であり,締付トルクを正確に制御し得るという効果を奏する。
これに対し,甲1発明は,変化率検出回路(13)が,螺子(6)が空転し
ているときは静圧が略一定で変動率が小さいので出力せず,螺子(6)が着座
したときの静圧の急上昇を検出することにより螺子(6)の着座時期を検出し,
爾後の有効締付打数をカウントして,設定締付トルクに見合う打数に達すると,
レンチの締付作動を停止せしめるように締付トルク制御装置を構成することに
より,締付トルクのばらつきが少なく,しかも耐久性に富むという効果を奏す
るところ(前記(1)ア(イ),(コ),(サ),(シ)),着座時期の検出後の有効締付
打数のカウントも,変化率検出回路(13)からの出力を受けて発信回路(1
4)が発信するパルスを制御計数回路(17)が積算している。
そして,前記1で検討したように,本件発明1∼5と甲1発明とは,「給気
圧(静圧)の時間に対する変化率」が比較値(比較電圧)より高いときにパル
スを出力する点で共通し,また,前記2で検討したように,「本件発明が,変
化率が被締付体を締付けるための打撃に相当する基準値に達したときに,打撃
信号出力手段が打撃信号を出力するのに対して,甲1発明が,変化率が基準値
より高いときに,打撃信号出力手段が打撃信号を出力するものの,当該基準値
が被締付体を締付けるための打撃に相当する基準値であるとは特定していない
点」は,実質上の相違点ではないのであるから,給気圧(静圧)の変化に基づ
いて打撃状態を検出することにより,正確に打撃状態を検出することが可能で
あるという本件発明1∼5の効果は,甲1発明からも実質的に得ることができ,
「本件発明1∼5の作用効果は,甲1記載の発明等から当業者が予測可能な範
囲内のものであって,格別のものではない」と認定判断した審決に誤りはない。
4取消事由4(相違点2ないし4の判断の誤り)について
原告は,審決に取消事由1ないし3掲記の誤りがあることに照らせば,同様
に,審決の相違点2ないし4の各判断についても誤りがある旨をいう。しかし,
取消事由1ないし3が理由のないことはすでに判示したとおりであるから,審
決の相違点2ないし4についての判断に誤りがあるということはできない。
5結論
上記検討したところによれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,
その他,審決に,これを取り消すべき誤りがあるとは認められない。
よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文
のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官三村量一
裁判官古閑裕二
裁判官嶋末和秀

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