弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件控訴を棄却する。
()2差戻前及び差戻後の控訴審並びに上告審の訴訟費用参加費用を含む
は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人は,小国町に対し,897万4800円及びこれに対する平成13
年6月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3訴訟費用は,1,2審とも被控訴人の負担とする。
第2事案の概要
本件は,α町(以下「町」という)の住民である控訴人らが,町長であっ。
た被控訴人に対し,被控訴人が町有地にある砂利を第3セクター方式で町も出
資している会社(A)に,適正な対価によらないのに地方自治法(以下「法」
。)(),という237条2項所定の議会の議決を経ずに違法に譲渡本件売却し
町が損害を受けたとして,法242条の2第1項4号(平成14年法律第4号
による改正前のもの)に基づき,上記損害金とこれに対する遅延損害金の町に
対する支払いを求めた事案である。
原判決,差戻前控訴審判決は,仮に上記譲渡が適正な対価によらないもので
,,()あったとしても町議会は平成11年度の一般会計補正予算本件補正予算
について,上記譲渡の必要性及び妥当性について審議し,同予算を可決したの
であるから,法237条2項の議会の議決を欠いた瑕疵は治癒されるとして,
控訴人らの請求を棄却すべきものとしたが,上告審判決において,同項の議会
の議決があったというためには,当該譲渡等が適正な対価によらないものであ
ることを前提として審議がされた上当該譲渡等を行うことを認める趣旨の議決
がされたことを要するとして,当裁判所に差し戻された。なお,町議会におい
て上記趣旨の議決がされたとの主張立証はない。
1前提事実
本件の前提事実は原判決の当該欄記載のとおりであるから,これを引用する
(ただし,原判決3頁20行目の「同月10日」を「平成10年3月10日」
と改め,同頁21,22行目の「,7の8」を削除する。。)
2争点
(1)本件売却が法237条2項の「適正な対価なくして」されたものか
(2)本件補正予算の可決によって,本件売却に関し,町について双方代表の
追認があったといえるか
3当事者の主張
争点(1)に関する当事者の主張は以下のとおりである。
争点(2)に関する当事者の主張は,原判決の当該欄(控訴人らの主張につい
て原判決6頁14行目から同頁23行目まで,被控訴人の主張について7頁1
8行目から8頁2行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)控訴人らの主張
本件売却の価格は極端に低廉であり,法237条2項の「適正な対価なく
して」の譲渡に該当する。
すなわち,本件売却に先行してAとBとの間でされた同じ砂利の売買契約
,,では1立方メートル当たりの単価は260円54銭472円50銭であり
Aの経費は300万3600円,147万円,収益は224万6400円,
1008万7350円であった。上記1立方メートル当たりの単価は,Aが
昭和63年ないし平成4年にC組合に対し同単価400円ないし906円,
平成4年ないし平成5年にBに同単価700円ないし909円で砂利を売却
していることからすると,当時の相場価格かそれ以下と考えられる。
町は,本件売却の価格を決める際,AからBへの転売後に単価を決めたこ
とからすれば,上記転売単価,Aの経費及び収益を参考にすべきであり,こ
れによれば,本件売却の単価20円は著しく低廉である。
町が参考にしたという民間取引事例は農地の事例であるところ,農地の場
合は砂利の採取方法に手間がかかり,採取後も農地への復元が必要であるか
ら,砂利採取業者の経費が相当かかるため,相場より大幅に安くならざるを
得ない事情があり,本件には適切でない。
そもそも,本件はAの不当利得返還を実質とするものであり,適正価格は
この実質から判断すべきであることからすると,1立方メートル当たり20
円の単価が適正な対価ではあり得ない。また,適正な対価とは常に市場価格
を意味するものではなく,上記の点からも本件においては転売価格を考慮す
べきである。
町は,条例において,適正な対価なくして普通財産の譲渡をできる場合を
,。,,定めているが本件売却はこの場合に該当しないまた本件売却について
あらかじめの議会による法237条2項の議決はない。専決処分の要件もな
い。
本件売却の適正な対価は,前提事実記載の監査請求における損害主張と同
様に計算され,897万4800円である。仮に,本件売却のうち平成11
年分の代金が710万5837円と変更されているとしても,Aの利益を2
割とみて同様に計算すると,541万3590円が損害となる。
(2)被控訴人の主張
法237条2項の「適正な対価なくして」とは,無償または市場価格(時
価)に比して低廉な価格をいうのであるが,この市場価格ないし時価は一定
。,,の幅ないし許容範囲を有している町は本件売却の価格を定めるにあたり
採取地周辺の民間取引事例を参考にしたが,その平成4年から平成8年まで
の1立方メートル当たりの単価は20円から42円で,本件売却前の5年間
ほぼ一定であった。
したがって,1立方メートル当たり20円の価格は裁量の範囲を逸脱する
ものではなく「適正な対価なくして」には当たらない。,
AからBへの転売単価は,転売価格であることからするとその前段階の売
買価格よりも高額となること,BがAひいては町の立場を慮って赤字にはな
らないが利益もなかった価格となった特殊条件による売買であったことの事
情による市場価格よりも高額なものである。
第3当裁判所の判断
1当裁判所は,控訴人らの請求を棄却すべきものと判断する。その理由は次の
とおりである。
(1)認定事実
前提事実並びに後記各証拠によれば,以下の事実が認められる。
アAは,昭和62年,同63年に建設省北陸地方建設局の荒川流路工工事
箇所内で砂利採取を始めた(丙2。)
イC組合は昭和62年から1立方メートル単価400円でAから砂利を買
い受けていたが,その単価はAから懇請されて取引した単価であって,当
時は荒川流路工から採取するので埋戻し不要であったのに,それでも高い
と評価されていた(丙6の7。また,平成3年には,C組合が荒川流路)
工の工事会社から1立方メートル当たり単価906円で砂利を買い受けた
ことがあったが,これは,掘削後にβのBの空き地まで運搬した上で,体
積を量って取引した際の単価であったし,それでも採算の合う業者と合わ
ない業者があった(同前。)
,,,ウAは平成6年から平成8年まで町との間で砂利採取契約を締結して
町有地(荒川流路工後背地内)において土石採取事業を行っており,採取
料金として1立方メートル単価20円として計算した金額を町に支払って
いた(丙3の1ないし7。)
上記砂利採取契約においては,採取後の埋戻しは町がAに無償譲渡する
堆積土石を使用することとされていた(同前。)
エ町は,平成9年11月6日,財団法人Dから申請のあったα町γ所在の
Eの用地の形質変更等を承認し,平成10年3月10日,Aとの間で,同
用地の砂利採取契約を締結したが,これは無償であった。また,埋戻しに
ついてはウと同様の契約であった(丙4の1ないし4。)
,,,Aはこれに先立ち同月9日Bとの間で砂利採取契約を締結した上で
上記形質変更等の工事に伴い採取する砂利をBに対して,525万円(数
量2万0150.01立方メートル,1立方メートル当たり単価260円
54銭)で売却した(丙4の5,6。)
上記砂利採取契約においては,採取後の埋戻しはAがBに無償譲渡する
堆積土石を使用することとされていたものの(それまではそのような条件
でAから砂利を1立方メートル当たり単価450円で買い受け採取してい
た,Aにおいて埋戻し材がないということになり,1立方メートル当た)
り単価250円(消費税込み約261円)に変更して契約されたものであ
った(丙4の5,6,丙6の11,証人F。)
オAは,平成11年1月25日,Bと砂利採取契約を締結した上,同年3
月28日,上記土地の砂利をBに対して更に1155万7350円(数量
2万4460立方メートル,1立方メートル当たり472円50銭)で売
却した(丙4の10,11。)
町は,平成11年6月24日,エの承認にかかる用地の形質変更等の内
容を変更した(丙4の9。)
上記売却による砂利採取についても,ごく一部しか埋戻し材が提供され
なかったので,平成11年11月25日,1立方メートル単価は約291
円に変更された(乙4,丙6の11,証人F。)
カ砂利の採取代金は河川の上流か下流かで単価が異なるところ,平成4年
度から平成8年度のγ地内における砂利の取引事例は,10アール当たり
6万円ないし12万5000円であり,1立方メートル当たり単価を計算
すると20円ないし40円となる(丙9,10,証人F。農地に対する休
耕補償は除く。また,丙9の9番の取引の数量は丙10の2による。。)
町は,民間の取引価格を引き上げることにならないよう,このうち最安値
の単価を採用して,本件売却につき1立方メートル当たり単価を20円と
決定した(証人G。ただし,町は,当時,正確な採取量を把握していなか
ったため,最高値は42円と認識していた。。)
Bによるγ地内の取引事例は,平成4年から平成17年の間において,
1反(約10アール)単価8万5000円ないし15万円で,1立方メー
トル当たり単価を計算すると28円ないし66円となる(乙1,2(枝番
を含む。))
キBでは,平均的に,砂利の掘削から砂利プラントまでの運搬に1立方メ
ートル1000円の経費を要するが,その内訳は,採取代金50円,測量
申請書作成代金50円,埋戻土代200円,埋戻土運搬,埋戻作業200
円,原石掘削300円,原石運搬200円である。埋戻土は砂利採取業者
,,が用意するものであるが本件契約の約定により無償譲渡を受けた場合は
埋戻土代,埋戻土運搬,埋戻作業の経費合計400円が160円で済むこ
とになる(乙3,証人F。なお,測量申請費用はAが負担している(証)
人F。)
また,Bでは,製品として1立方メートル単価2500円の砂利等と同
1800円のクラッシャー砕石が同量の割合で製造されるところ(平均価
格2150円)その1割程度を利益と見込んでいるが,本件売却による取
引ではあまり利益がでなかった(乙3,証人F。)
クC組合会長Hによれば,通常,田3反歩につき60万円を地主に支払っ
て4メートルの深さまで砂利を採取するが,その採取量は1万4000立
方メートルであるというのであり(丙6の7,これによれば1立方メー)
トル単価は42円86銭となる。
(2)争点(1)(適正な対価)について
上記認定事実によれば,本件売却の砂利1立方メートル当たり20円の単
価は,本件売却によって砂利が採取された土地と同地区内について,本件売
却前5年間の売買実例が42円(正確には40円)ないし20円であったこ
とにより定められたものである。1立方メートル当たり単価20円は,上記
売買実例の最安値ではあるものの同単価で実際に行われた取引があること
と,最安値を選択したのは民間の取引価格を引き上げることにならないよう
にするためというのであり不当とはいえないことからすると,適正な単価で
ないとはいえない。上記売買実例の価格帯(42円ないし20円)も,Hや
Fの述べる1立方メートル当たり単価42円86銭(上記ク)又は採取代金
50円(上記キ)に近いものである。以上によると,本件売却が適正な対価
なくしてされたものとは認められない。
控訴人らは,本件売却に先行してAとBとの間でされた同じ砂利の売買契
約では1立方メートル単価は260円54銭及び472円50銭であり,単
価20円は著しく低廉であると主張する。
しかし,Fによれば,Bでは,製品価格の1割を利益と見込んでいる(製
品1立方メートルの平均価格は2150円であるから利益は215円)が,
本件売却に係る砂利の取引ではあまり利益がでなかったというのであり,A
とBとの間の砂利取引ではBの利益を圧縮する形で売買単価が高額に設定さ
れたことが窺われる。したがって,同取引における売買単価は市場価格(B
も標準的な利潤が得られるような価格)よりも高額なものというべきである
から,AとB間の砂利取引における売買単価との関連で本件売却の単価が低
く適正なものでないということはできない。控訴人らは,AとB間の砂利取
引の単価が市場価格よりも高額なものであるとの点について,昭和63年な
いし平成4年のAとC組合との取引に照らすと,AとB間の砂利取引におけ
る単価は相場価格かそれ以下であると主張するが,1立方メートル400円
の単価は埋戻し不要のもの,906円の単価はβのBの空き地まで運搬され
たものの単価であって(C組合では埋戻し費用あるいは掘削,運搬費用が浮
くことになり,その分代金に上乗せできる,しかもこれらは相当割高で。)
あったというのであるから,これらの単価との対比で,AとB間の砂利取引
の単価が相場価格ないしそれ以下であるということはできず,上記単価が市
場価格よりも高額なものであるとの上記判断を左右しない。
控訴人らは,農地の場合は砂利の採取方法,採取後の復元に手間がかかる
から,単価が相場より大幅に安いと主張するが,証拠(証人F,証人I)に
照らし採用できない。したがって,本件売却の20円の単価を決めるに当た
って参考にした本件売却前5年間の売買実例が不適切であったともいえな
い。
控訴人らは,本件は,転売後にされたものであることや不当利得返還を実
質とするものであることからすると,転売価格も考慮すべきであると主張す
るが,AとBとの間で相場よりも高額の売買がされ,Aが高額の利益を得た
としても,それはAとBとの間の事情であり,町が市場価格相当の対価を得
ている以上,町の譲渡が違法とはいえない。
以上によれば,控訴人らの主張は理由がない。
(3)争点(2)(双方代表の追認)等について
争点(2)及び控訴人らのその他の主張についての当裁判所の判断は原判決
の当該欄(原判決10頁14行目から11頁14行目まで)記載のとおりで
あるから,これを引用する。
2よって,控訴人らの請求は理由がないから棄却すべきであり,これと結論に
おいて同旨の原判決は正当であるから,主文のとおり判決する。
仙台高等裁判所第1民事部
裁判長裁判官小野貞夫
裁判官信濃孝一
裁判官大垣貴靖

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