弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は,補助参加によって生じた費用を含め,原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,被告補助参加人に対し,512万2875円及びこれに対する平成
18年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を請求せよ。
第2事案の概要
1本件は,東京都墨田区(以下「墨田区」という。)の住民である原告らが,
被告補助参加人(以下「本件会派」という。)が平成17年度(平成17年4
月1日から同18年3月31日まで)に交付を受けた政務調査費の一部を区政
に関する調査研究に資するため必要な経費以外の経費に支出し,当該経費に係
る金額につき墨田区の損失において不当に利得したところ,墨田区は本件会派
に対して不当利得返還請求権を有しているにもかかわらず,それらの行使を違
法に怠っている旨主張して,被告に対し,地方自治法242条の2第1項4号
に基づき,本件会派に対して不当利得として上記経費相当額である512万2
875円及びこれに対する平成17年度の終了日の翌日である平成18年4月
1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求
することを求める住民訴訟である。
2関係法令等の定め
()平成19年墨田区条例第24号による改正前の墨田区議会政務調査費の交1
付に関する条例(平成13年墨田区条例第52号。以下「本件条例」とい
う。)
ア1条
この条例は,地方自治法(昭和22年法律第67号)第100条第13項
及び第14項の規定に基づき,墨田区議会(以下「議会」という。)の議員
(以下「議員」という。)の調査研究に資するため必要な経費の一部として,
議会における会派(所属議員が1人の場合を含む。以下「会派」という。)
に対し政務調査費を交付することに関し必要な事項を定めるものとする。
イ2条
政務調査費は,会派に対して交付する。
ウ3条
会派に対して交付する政務調査費の額は,月額14万円に各会派の所属
議員の数を乗じて得た額とする。
エ6条1項
代表者は,政務調査費の交付を受けようとするときは,議長を経由して
区長に申請しなければならない。
オ7条1項
区長は,前条第1項の規定による申請があったときは,速やかに当該申
請内容を調査し,第3条の規定により政務調査費の交付額(以下「交付
額」という。)を決定し,代表者に通知する。
カ8条
1項(ア)
代表者は,前条の通知を受けたときは,区長に対し,当該通知に係る
政務調査費を半期(4月から9月まで及び10月から翌年3月までの各
期間をいう。以下同じ。)ごとに請求するものとする。ただし,議員の
任期満了の日の属する半期にあっては,当該任期満了の日の属する月分
に係る政務調査費の交付を請求するものとする。
2項(イ)
区長は,前項の規定による請求があったときは,速やかに政務調査費
を交付するものとする。
キ9条1項
区長は,前条の請求があったときは,当該半期の最初の月に,その半期
の属する月数分の政務調査費を交付する。
ク11条
政務調査費の交付を受けた会派は,政務調査費を墨田区規則(以下「規
則」という。)で定める使途基準(以下「使途基準」という。)に従って使
用するものとし,区政に関する調査研究に資するため必要な経費以外のも
のに充ててはならない。
ケ12条
1項(ア)
政務調査費の交付を受けた会派の経理責任者は,政務調査費の交付を
受けた年度に係る収入及び支出の報告書(以下「収支報告書」という。)
を作成しなければならない。
2項(イ)
政務調査費の交付を受けた会派の代表者は,前項の規定により作成さ
れた収支報告書を,翌年度の4月末日までに議長に提出しなければなら
ない。
コ13条
1項(ア)
議長は,前条の収支報告書が提出されたときは,政務調査費の適正使
用に資するため,必要に応じ,調査を行うことができる。
2項(イ)
議長は,前条の規定により提出された収支報告書の写しを,速やかに
区長に送付するものとする。
サ14条
区長は,政務調査費の交付を受けた会派が次の各号のいずれかに該当す
るときは,既に交付した政務調査費の返還を命じるものとする。
()(略)1
()交付された政務調査費について,1会計年度を超えて残余が生じた2
とき。
()交付された政務調査費が,使途基準以外に使用されたとき。3
シ16条
この条例の施行について必要な事項は,規則で定める。
()平成19年墨田区規則第54号による改正前の墨田区議会政務調査費の交2
付に関する条例施行規則(平成13年墨田区規則第27号。以下「本件規
則」という。)
ア1条
この規則は,墨田区議会政務調査費の交付に関する条例(平成13年墨
田区条例第52号。以下「条例」という。)の施行に関し必要な事項を定
めるものとする。
イ8条
条例11条に規定する墨田区規則で定める使途基準は,別表のとおりと
する。
ウ9条
条例第12条の規定による収支報告書は,墨田区議会政務調査費収支報
告書(第11号様式)により行うものとする。
エ別表
項目内容
調査研究費会派が行う区の事務及び地方行財政に関する調査研究並び
に調査委託に要する経費
(調査委託費,交通費,宿泊費等)
研修費会派が行う研修会,講演会等の実施に必要な経費並びに他
の団体が開催する研修会,講演会等への所属議員及び会派
の雇用する職員の参加に要する経費
(会場費,機材借上げ費,講師謝金,会費,交通費,宿泊
費等)
会議費会派における各種会議に要する経費
(会場費,機材借上げ費,資料印刷費等)
資料作成費会派が議会審議に必要な資料を作成するために必要な経費
(印刷製本費,原稿料等)
資料購入費会派が行う調査研究のために必要な図書,資料等の購入に
要する経費
(書籍購入費,新聞雑誌購読料等)
広報費会派が行う議会活動及び区政に関する政策等の広報活動に
要する経費
(広報紙・報告書等印刷製本費,送料,交通費等)
事務費会派が行う調査研究に係る事務遂行に必要な経費
(事務用品・備品購入費,通信費等)
人件費会派が行う調査研究を補助する職員を雇用する経費
(給料,手当,社会保険料,賃金等)
その他の経上記に掲げるもの以外の経費で,会派が行う調査研究のた
費めに必要な経費
3前提事実
本件の前提となる事実は,次のとおりである。証拠及び弁論の全趣旨により
容易に認めることができる事実等は,その旨付記した。その余の事実は,当事
者間に争いがない。
()ア原告らは,墨田区の住民である。1
イ被告は,墨田区の執行機関である。
ウ本件会派は,墨田区議会内において日本共産党に所属する議員らが結成
した会派である。本件会派には,平成17年度に5人の議員が所属してい
た。
()ア本件会派は,平成17年4月1日付けで,平成17年度分の政務調査費2
の交付を申請し,被告は,同日,本件会派に対する同年度分の政務調査費
の交付額を840万円とする旨決定し,本件会派に対し,これを通知した。
(乙8)
イ被告は,本件会派に対し,平成17年4月11日,同月から同年9月ま
での政務調査費420万円を交付し,また,同年10月3日,同月から同
18年3月までの政務調査費420万円を交付した。(乙9,弁論の全趣
旨)
()ア本件会派の代表者は,墨田区議会議長に対し,平成18年4月28日,3(ア)
「墨田区議会政務調査費収支報告書」を提出した。同収支報告書には,
収入840万円,支出合計872万5867円(調査研究費101万0
572円,研修費254万9934円,会議費6万9347円,資料作
成費30万0048円,資料購入費24万5848円,広報費393万
0023円,事務費55万8701円,人件費5万円,その他の経費1
万1394円),残余が生じた額0円等の記載があった。(乙10)
本件会派は,日本共産党墨田区議団ニュース(以下「区議団ニュー(イ)
ス」という。)を発行しているところ,上記収支報告書に添付されてい
る「墨田区議会政務調査費実績報告書(平成17年度分)」には,広報
費として,区議団ニュースの印刷経費に係る支出について,次のとおり
の記載があった。(乙10)
a4/25区議団ニュース印刷経費15万1620円
b5/10区議団ニュース号外印刷経費10万円
c5/24区議団ニュース印刷経費15万1620円
d6/17区議団ニュース印刷経費23万4570円
e6/22区議団ニュース号外発行経費15万円
f7/15区議団ニュース印刷経費40万9920円
g8/23区議団ニュース印刷経費19万0995円
h9/20区議団ニュース印刷経費9万2295円
i10/18区議団ニュース印刷経費14万7945円
j12/14区議団ニュース印刷経費14万7945円
k12/28区議団ニュース号外印刷製本費16万5000円
l1/24区議団ニュース印刷経費14万7945円
m2/20区議団ニュース印刷経費27万6024円
n3/7区議団ニュース印刷経費17万2620円
上記実績報告書には,広報費として,区議団ニュースの郵送料等に係(ウ)
る支出について,次のとおりの記載があった。(乙10)
a4/22区議団ニュース郵送料及び4/25HPサーバ更新料
3万3575円
b5/13区議団ニュース郵送料3万2290円
c6/10区議団ニュース郵送料並びに6/17HPサーバ更新料及
び送金手数料3万1725円
d6/15区議団ニュース郵送料3万5120円
e6/30しんぶん赤旗折込料前期分15万円
f7/15区議団ニュース郵送料3万2330円
g8/9区議団ニュース郵送料並びに8/23HPサーバ更新料及び
送金手数料3万5565円
h9/22区議団ニュース郵送料3万2415円
i11/11区議団ニュース郵送料3万2065円
j12/16郵便局送料3万1675円
k1/10区議団ニュース郵送料3万1535円
l1/10区議団ニュース折込料24万6534円
m2/9区議団ニュース送料3万1760円
n3/10区議団ニュース送料3万1015円
o3/28しんぶん赤旗折込料後期分15万円
上記実績報告書には,資料作成費として,区議団ニュースの原稿執筆(エ)
料に係る支出について,次のとおりの記載があった。(乙10)
a7/19区議団ニュース原稿執筆料P1医師原稿執筆料上半期分
3万円
b12/28区議団ニュース原稿執筆料P1医師原稿執筆料下半期分
3万円
上記実績報告書には,研修費として,「生活相談会(月20回開催)(オ)
会場借上,ビラ作成等経費」に係る支出について,平成17年4月から
同18年3月まで,毎月16万円ずつ記載されていた。(乙10)
イ本件会派の代表者は,墨田区議会議長に対し,平成19年6月20日,
前記アの収支報告書の広報費393万0023円を395万6693円(ア)
に修正する旨の「墨田区議会政務調査費収支報告書(修正申告)」と題す
る書面を提出した。その内容は,前記アcを6/10区議団ニュース郵(ウ)
送料3万2375円並びに6/17HPサーバ更新料及び送金手数料1万
0605円に,アdを6/15区議団ニュース郵送料4万3375円に,(ウ)
前記アgを8/9区議団ニュース郵送料3万2120円並びに8/23(ウ)
HPサーバ更新料及び送金手数料1万0605円に,それぞれ修正するも
のであった。(乙7)
()ア原告らは,墨田区監査委員に対し,平成19年4月25日,住民監査請4
求をした。(乙11)
イ墨田区監査委員は,被告に対し,平成19年6月25日,区議団ニュー
スに掲載された日本共産党墨田地区委員会名義の東京都議会議員選挙の結
果報告,日本共産党墨田地区委員会が主催する「日本共産党創立83周年
記念」の「すみだ納涼の夕べ」の案内,東京都議会議員選挙の共産党候補
者の手記の内容等がいずれも使途基準外の使用であり,また,区議団ニュ
ースの広告料及び広告料会計の繰越金は墨田区に返還されるべきであると
して,前記()ア及びの合計347万6103円のうちの32万933(イ)(ウ)
70円並びに区議団ニュースの広告料収入等15万2575円の合計48
万1945円の返還に係る必要な措置を講ずべきことを勧告し,その余の
請求を棄却する旨の決定をした。(甲1)
()原告らは,平成19年7月23日,本件訴えを提起した。(当裁判所に顕5
著な事実)
()ア被告は,墨田区監査委員から前記勧告を受けたことから,本件会派に対6
し,平成19年7月30日,前記48万1945円のうち本件会派が自己
負担したと認められる14万8717円を控除した33万3228円につ
き,同年8月13日までにその返還をするよう命じた。(乙5)
イ本件会派は,墨田区に対し,平成19年7月31日,33万3228円
を返還した。(乙6)
4争点
本件会派がした支出が区政に関する調査研究に資するために必要な経費以外
の経費に係る支出であり,本件会派が当該支出に係る金額につき不当な利得を
得たということができるか。
5当事者の主張の要旨
(原告らの主張)
()広報費及び資料作成費に係る支出について1
ア区議団ニュースには,「会派が行う議会活動及び区政に関する政策等の
広報活動」とは無関係な内容が掲載されている。このような紙面の客観的
内容からすれば,区議団ニュースは,形式的には本件会派のニュースとい
う体裁を取っているものの,その実態は日本共産党(以下「共産党」とい
う。)の選挙活動や政党活動を伝えるものであって,実質的には共産党の
機関誌そのものというべきである。
したがって,区議団ニュースの印刷経費及びその郵送料等を広報費から
支出するのは,目的外支出であり許されない。
イ広報費として認められるのは,会派が主体的に行った議会活動や区政に
関する政策など,それを広報することにより区民から新たな陳情又は意見
等のフィードバックが予想され,そこから新たな視点又は観点の政務調査
活動の開始が見込まれるものであることを要するものである。
しかし,区議団ニュースに掲載されているP2の新会長のインタビュー
記事は,同人の抱負が述べられているにすぎず,本件会派が主体的に行っ
た区政に関する政策などとは全く関係がないものであって,区民がかかる
記事を読んだとしても,本件会派に陳情をし,又は意見を述べることはお
よそ考えられない。
したがって,本件会派が同人から聴取すること自体は政務調査活動に該
当するとしても,それを紙面に載せてその印刷費用を政務調査費から支出
することは,広報費の範囲を逸脱するものであるから,この部分に係る政
務調査費をあん分して墨田区に返還すべきである。
ウ本件会派は,区議団ニュースに掲載されている「医療と健康シリーズ」
というコラムについて,「生活に役立つ知識の提供」で「広報活動たる区
議団ニュースを興味深く読んでもらうための工夫」である旨主張するが,
これらの内容を政務調査費の広報費として支出することは許されない。
したがって,この部分に係る政務調査費をあん分して墨田区に返還すべ
きである。
エ本件会派は,「医療と健康シリーズ」というコラムを掲載したP1医師
に対して,年間合計6万円を「資料作成費」として支出しているが,この
コラムの内容は,政務調査活動とは全く無関係である以上,これを「資料
作成費」として支出することは,目的外支出であり許されない。
()「研修費」に係る支出について2
ア本件会派は,「生活相談会(月20回開催)」の「会場借上,ビラ作成
等経費」が研修費であるとして,毎月16万円を定額支出しており,平成
17年度において合計192万円を支出している。
イしかし,研修費の支出として認められるのは実費だけであり,そもそも
このような定額払での支出は認められない。
ウ生活相談会が各議員の事務所で開催されているのであれば,「会場借
上」費用は全くかからないはずである。
エ生活相談会のためのビラも現物が確認されたことはなく,生活相談会が,
毎月20回,実際に開催されているかどうか疑わしい。また,生活相談会
において,議員がその場に居合わせず,議員でない者が相談に応じていた
との事実もある。
P3区議は,平成17年6月,11月,同18年1月から3月までにお
いては,生活相談会を実施したのは2回だけであり,同17年9月は1回
だけ,更に同年10月は1回も実施していない。このP3区議の生活相談
会の実態からすると,P3区議の生活相談会の経費として2万5000円
を計上するのは過大である。
オ会派として調査活動をしたといえるためには,会派としての意思統一が
され,当該調査活動が会派として行うものであるとの会派の了承が存在す
ることが必要であり,そのためには,調査報告書の作成が不可欠である。
したがって,本件会派が行った生活相談会の経費を政務調査費の「研修
費」として支出するためには,調査報告書を提出した上で,上記事情を具
体的に主張立証すべきである。
カ本件会派の各議員の事務所は,政務調査活動のほか,共産党の政党活動,
政治活動,選挙活動及び各議員の政治活動に使用されているのであり,生
活相談会の場所として使用することについて,実際に事務所の経費の一部
としていくら負担するかは,共産党関係者の内部で取り決められているに
すぎない。
(被告の主張)
()ア区議団ニュースの記事の大半は,本件規則別表の広報費であり,「会派1
が行う議会活動及び区政に関する政策等」に該当するものであるから,共
産党の機関誌そのものであるということはできない。
イ会派が発行する広報誌において,「会派が行う議会活動及び区政に関す
る政策等」に直接関係しない健康に係るコラム記事等が掲載されたとして
も,そのことのみによって,会派の広報誌全体が党の機関誌に変ずること
はあり得ない。区議団ニュースの大半の記事は,「会派が行う議会活動及
び区政に関する政策等」に該当するものであるから,読者への日常生活知
識に関する情報提供,あるいは,魅力ある紙面作りという観点からすれば,
このような記事が挿入されたとしても,社会通念上許容されるものという
べきである。
()ア研修費を定額で支出してはならないとの根拠はなく,当該支出の性質,2
内容等から,調査研究に資するため必要な経費とそれ以外の経費とを明確
に区分できない場合も当然考えられるところであり,このような場合に,
社会通念に照らして,その比率をあん分して算出し,当該算出した額を政
務調査費として支出したとしても,法の許容するところである。
イ本件会派の生活相談会は,飽くまで本件会派全体の活動として行われて
いるものであり,たとえ生活相談会の実施場所が各議員の事務所であった
としても,少なくとも生活相談会又は生活相談会に係る事務に従事してい
る間,各議員による個人的な政治活動は制約され,本件会派の事業に拘束
されていると考えられるから,本件会派固有の経費も当然観念され,した
がって,会派としての会場借上げ費用が全くかからないということにはな
らない。
ウ生活相談会を本件会派の各議員本人が行わなければならない理由はなく,
議会開催中は,本件会派が雇用する者などが代わりに対応すればよいから,
原告らが指摘する点は,生活相談会の実態があいまいであるとの根拠とな
らず,現に,本件会派から,各議員が毎週水曜日の定例相談会を始め,不
定期にも生活相談会を実施しており,党派を超えて寄せられる相談は,年
間1000件に及んでいるとの報告を受けている。また,本件会派からは,
事務所の家賃,光熱水費,電話料,コピー機代等の合計額は,政務調査費
を充てた生活相談会に係る経費の2倍以上である旨,及び生活相談会によ
る相談活動には様々な実績がある旨の報告を受けている。
エ本件規則別表にいう「その他の経費」,すなわち,「上記に掲げるもの
以外の経費で,会派が行う調査研究のために必要な経費」には,事務所に
係る経費が含まれており,このことは,他の地方公共団体の例及び政務調
査費制度が創設された際に検討されたモデル条例案からも明らかである。
オ以上のことからすると,生活相談会に係る経費である合計192万円は,
少なくとも本件規則別表の「調査研究費」,「広報費」又は「その他の経
費」のいずれかに該当するものであることは明らかであり,使途基準に反
するものではなく,その金額も,各事務所の家賃,光熱水費,電話料,コ
ピー機代等の合計金額の2分の1以下であるから,社会通念上相当なもの
であるということができる。
(被告補助参加人(本件会派)の主張)
()ア区議団ニュースの内容をつぶさに検討すると,これらの大半は,正に本1
件会派の政務調査活動そのものというべきであり,「広報費」及び「資料
作成費」として適切に支出されたものであることは明らかである。原告の
主張は,政務調査活動を余りにも狭く解釈するものである。
イ区議団ニュースの内容は,極めて多彩であり,その上,区民の生活と営
業に密着した内容を含んだものである。区議団ニュースを発行することは,
本件会派の区議会活動そのものであるのみならず,その活動を支えている
区民からの要望や悩みをくみ上げて政策に反映させ,区議会活動に生かし,
更にそれらの諸活動の結果を区民に報告するという重要な役割を果たして
いるものである。
ウ本件会派は,「議会活動及び区政に関する政策等」をその管理するホー
ムページ上に載せているところ,「HPサーバ更新料」の支払は,そのた
めに支払われているものであるから,これが「広報費」に該当するもので
あることは明らかである。
()ア本件会派は,生活相談会の会場借上げ費を本件規則別表の研修費に該当2
する支出として計上しているものであるが,生活相談会が,区政に関する
調査研究活動の中でも,特に実践的かつ効果的な活動たる性質を有してい
ることを考慮し,生活相談会の実施に係る経費が,「研修費」すなわち
「会派が行う研修会,講演会等の実施に必要な経費」に該当すると同時に,
本件規則別表の「その他の経費」すなわち「会派が行う調査研究のために
必要な経費」に該当するものであることは明らかである。
イ生活相談会は,本件会派のホームページに開催の案内が掲載されており,
また,本件会派にあっては区政に関する調査研究活動の重要な柱として定
例的に開催してきたものであって,その実態があいまいであるというもの
ではない。
ウ本件会派が政務調査費をもって支出した生活相談会の会場借上げ費は,
その金額において,実際に区政に関する調査研究活動のために支弁したと
評価できる費用より控えめに設定しているのであるから,その定額での支
払は認められるべきものである。
エ本件において,生活相談会は,他から賃借している本件会派所属議員の
事務所において開催されているのであるから,会場確保のための経費が一
切かからないとの原告の主張は失当である。
オ本件会派が毎週水曜日に各議員の事務所で生活相談会を開催するとの意
思統一をしていたことは明らかであるところ,このような会派としての意
思統一や了承がされたことが明らかな本件のような事案においては,調査
報告書の作成が不可欠であるということはできない。
第3当裁判所の判断
1政務調査費の制度趣旨等
()ア地方自治法100条は,政務調査費の交付につき,「普通地方公共団体1
は,条例の定めるところにより,その議会の議員の調査研究に資するため
必要な経費の一部として,その議会における会派又は議員に対し,政務調
査費を交付することができる。この場合において,当該政務調査費の交付
の対象,額及び交付の方法は,条例で定めなければならない。」(13
項)と規定した上,「政務調査費の交付を受けた会派又は議員は,条例の
定めるところにより,当該政務調査費に係る収入及び支出の報告書を議長
に提出するものとする。」(14項)と規定している。これらの規定によ
る政務調査費の制度は,地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に
関する法律の施行により,地方公共団体の自己決定権や自己責任が拡大し,
その議会の担う役割がますます重要なものとなってきていることにかんが
み,議会の審議能力を強化し,議員の調査研究活動の基盤の充実を図るた
め,議会における会派又は議員に対する調査研究の費用等の助成を制度化
し,併せてその使途の透明性を確保しようとしたものである(以上につき,
最高裁平成17年(行フ)第2号同年11月10日第一小法廷決定・民集
59巻9号2503頁参照)。
イ地方自治法100条13項の規定を受けて,本件条例は,政務調査費を
墨田区議会の会派に対して交付することとし(本件条例2条),会派に対
して交付する政務調査費の額は,月額14万円に各会派の所属議員の数を
乗じて得た額とし(本件条例3条),区長は,交付された政務調査費につ
いて,1会計年度を超えて残余が生じたとき,又は,交付された政務調査
費が使途基準以外に使用されたときなどには,既に交付した政務調査費の
返還を命ずるものとしている(本件条例14条)。
ウまた,地方自治法100条14項の規定を受けて,本件条例は,政務調
査費の交付を受けた会派の代表者は,当該政務調査費に係る収入及び支出
の報告書を,翌年度の4月末日までに議長に提出しなければならないとし
(本件条例12条2項),議長は,上記の収支報告書が提出されたときは,
政務調査費の適正な使用に資するため,必要に応じ調査を行うことができ
るものとするとし(本件条例13条1項),上記の収支報告書を,速やか
に区長に送付するものとしている(同条2項)。
()アところで,地方自治法100条13項は,政務調査費は議員の調査研究2
に資するため必要な経費の一部として交付するとしているものの,調査研
究及び必要な経費に関する具体的な基準及び内容については規定していな
いが,これは,その具体的内容等については,各普通地方公共団体の実情
に応じて定められる条例等にゆだねたものと解される。
そして,墨田区においては,本件条例11条が,政務調査費の交付を受
けた会派は,当該政務調査費を本件規則で定める使途基準に従って使用す
るものとし,区政に関する調査研究に資するため必要な経費以外のものに
充ててはならないとし,これを受けて,本件規則8条及び別表が政務調査
費を使用するに際して従うべき使途基準(以下「本件使途基準」とい
う。)を定めている。
イこのように,墨田区においては,区政に関する調査研究に資するため必
要なものに当たるか否かの基準は,本件使途基準において具体化されてお
り,また,これらの内容が,前示の政務調査費の制度の趣旨に反するもの
であることをうかがわせる事情は見当たらないから,区政に関する調査研
究に資するために必要な経費以外のものに係る支出であるか否かは,当該
支出が本件使途基準に反するか否かを基準に判断するのが相当である。
2区議団ニュースの印刷経費等について
()ア前示のとおり,本件規則8条及び別表は,区政に関する調査研究に資す1
るため必要な経費として,広報費の項を設け,その内容を「会派が行う議
会活動及び区政に関する政策等の広報活動に要する経費(広報紙・報告書
等印刷製本費,送料,交通費等)」と規定しているところ,原告らは,区
議団ニュースは実質的には共産党の機関誌そのものというべきであるとし
て,区議団ニュースの印刷経費及びその郵送料等に係る経費が広報費には
該当しない旨主張する。
イそこで検討すると,証拠(甲2の1から2の9まで,丙47から49ま
で,丙50の1,50の2,50の5)によれば,平成17年3月15日
付け区議団ニュース350号(丙47)には,区議会定例会において本件
会派に所属する区議会議員が述べた内容等が掲載されていること,同年4
月15日付け区議団ニュース351号(甲2の1)には,乳幼児医療費助
成についての本件会派の対応等,区議会予算特別委員会及び本会議におい
て本件会派に所属する区議会議員が述べた内容等,区議会に提出された請
願についての本件会派に所属する区議会議員の主張内容及びこれに対する
採択の結果等,墨田区基本構想の「中間のまとめ」に対して本件会派に所
属する区議会議員が述べた内容等が掲載されていること,同年5月15日
付け区議団ニュース352号(甲2の2)には,本件会派が開催した「防
災対策シンポジウム」の内容等,区議会臨時会の日程,新タワーに対する
本件会派に所属する区議会議員の演説内容,本件会派に所属する区議会議
員等がしたα駅視察の内容等が掲載されていること,同年6月15日付け
区議団ニュース353号(甲2の3)には,本件会派に所属する区議会議
員等がα駅の改善を申し入れたこと等,区議会定例会において本件会派に
所属する区議会議員が述べた内容等,本件会派がした墨田区民に対するア
ンケートの結果,本件会派が開催した「教育問題シンポジウム」の内容等
が掲載されていること,同年7月15日付け区議団ニュース354号(甲
2の4)には,本件会派に所属する区議会議員が原水爆禁止世界大会に参
加すること等,区議会定例会において本件会派に所属する区議会議員が述
べた内容等,本件会派がした墨田区民に対するアンケートの結果等が掲載
されていること,同年8月15日付け区議団ニュース355号(丙48)
には,本件会派がアスベストの緊急対策の実施について申入れをしたこと
等が掲載されていること,同年9月15日付け区議団ニュース356号
(甲2の5)には,区議会定例会において本件会派に所属する区議会議員
が述べた内容等,墨田区の各施策に関する内容等が掲載されていること,
同年11月15日付け区議団ニュース357号(丙49)には,本件会派
が平成18年度予算についての要望書を提出したこと等,区議会決算特別
委員会において本件会派に所属する区議会議員が述べた内容等が掲載され
ていること,同年12月15日付け区議団ニュース358号(甲2の6)
には,区議会定例会において本件会派に所属する区議会議員が述べた内容
等が掲載されていること,同18年1月15日付け区議団ニュース359
号(甲2の7)には,本件会派に所属する区議会議員の新年のあいさつの
内容,本件会派のこれまでの活動内容等が掲載されていること,同年2月
15日付け区議団ニュース360号(甲2の8)には,墨田区の予算案の
概要,区議会定例会の予定等,墨田区の各施策に関する内容等が掲載され
ていること,同年3月15日付け区議団ニュース360号(甲2の9)に
は,区議会定例会において本件会派に所属する区議会議員が述べた内容等,
墨田区の各施策に関する内容等,本件会派が開催した懇談会の内容等,本
件会派に所属する区議会議員が出席した集会の内容等が掲載されているこ
と,区議団ニュース同17年4月号外(丙50の1)及び同年6月号外
(丙50の5)には,本件会派が実施したアンケートについて掲載されて
いること,区議団ニュース同年5月号外(丙50の2)には,本件会派が
開催する「教育問題を考えるシンポジュウム」の日時,場所等が掲載され
ていること,区議団ニュース同年12月号外(丙50の8)には,区議会
地域都市委員会において本件会派に所属する区議会議員が述べた内容等が
掲載されていることが認められる。
ウ上記認定事実のとおり,区議団ニュースには,本件会派が行う議会活動
及び区政に関する政策等が掲載されていることからすると,区議団ニュー
スの印刷経費,郵送料,区議団ニュースが掲載されているホームページの
更新料等は,広報費に該当するということができるのであって,これが実
質的には共産党の機関誌そのものであるから広報費に該当しないという原
告らの主張を採用することはできない。
()アこの点に関し,原告らは,平成17年7月15日付け区議団ニュース32
54号に,東京都議会議員選挙報告,日本共産党墨田地区委員会が主催す
る「日本共産党創立83周年記念」の「すみだ納涼の夕べ」の案内,「視
点」と題するコラム,東京都議会議員選挙の共産党候補者の手記の内容,
P2の新会長のインタビュー記事及び「しんぶん赤旗」等の広告が掲載さ
れていることを理由に,区議団ニュースが実質的に共産党の機関誌そのも
のである旨主張する。
イしかし,区議団ニュースには,前記()イ記載の記事が掲載されている1
ことが認められることからすると,平成17年7月15日付け区議団ニュ
ース354号に上記記事等が掲載されていることを理由に,直ちに区議団
ニュースが実質的に共産党の機関誌そのものであるということはできない。
したがって,この点に関する原告らの主張を採用することはできない。
ウなお,原告らは,平成17年7月15日付け区議団ニュース354号に
広告が掲載されており,当該広告に係る広告料相当額を墨田区に対して返
還すべきである旨主張するが,前記前提事実のとおり,墨田区監査委員が,
上記広告料が墨田区に返還されるべきものであることを理由に,被告に対
し,上記広告料相当額の返還に係る必要な措置を講ずべきことを勧告し,
被告が本件会派に対し当該金額の返還を命じた結果,本件会派がこれを返
還をしたことが認められるのであるから,本件会派が上記広告料相当額の
不当な利得を得ているということはできない。
したがって,上記広告料を墨田区に対して返還すべきであるとする原告
らの主張を採用することはできない。
()アまた,原告らは,広報費として認められるのは,会派が主体的に行った3
議会活動や区政に関する政策など,それを広報することにより区民から新
たな陳情又は意見等のフィードバックが予想され,そこから新たな視点又
は観点の政務調査活動の開始が見込まれるものであることを要するとして,
平成17年7月15日付け区議団ニュース354号に掲載されているP2
の新会長のインタビュー記事並びに「医療と健康シリーズ」及び「視点」
と題する各コラムに係る印刷費を広報費として政務調査費から支出するこ
とは許されない旨主張する。
イしかし,前示のとおり,政務調査費の制度は,議会の審議能力を強化し,
議員の調査研究活動の基盤の充実を図るため,議会における会派又は議員
に対する調査研究の費用等の助成を制度化し,併せてその使途の透明性を
確保しようとしたものであるところ,本件条例11条,本件規則8条及び
別表が,「会派が行う議会活動及び区政に関する政策等の広報活動に要す
る経費」を広報費として政務調査費をもって充てることとしたのは,会派
が行う議会活動及び区政に関する政策等を広く区民に広報することが,議
会の審議能力を強化し,議員の調査研究活動の基盤の充実を図ることにつ
ながるものであるとの考えに基づくものであると解するのが相当である。
そうすると,前示のとおり,区議団ニュースには,本件会派が行う議会
活動及び区政に関する政策等が掲載されていることが認められるところ,
なるべく多くの区民に区議団ニュースに対する関心を持ってもらい,区議
団ニュースを読んでもらうための1つの手段として,区議団ニュースに本
件会派が行う議会活動及び区政に関する政策等以外の記事を掲載し,当該
記事に係る経費に政務調査費を充てることも,それが合理的な範囲にとど
まる限り,許されるものと解するのが相当である。したがって,広報する
ことにより区民から新たな陳情又は意見等のフィードバックが予想され,
そこから新たな視点又は観点の政務調査活動の開始が見込まれるものに関
する経費だけが広報費に該当し,政務調査費を充てることができるものと
限定的に解する必要性は認め難く,原告の主張をにわかに採用することは
できない。
ウこれを本件についてみると,証拠(甲2の4)によれば,P2の新会長
のインタビュー記事は,墨田区民に対するインタビュー内容を記載した
「人リレーインタビュー」と題する連載の1つであり,P2の新会長と
しての抱負等が記載されたものであること,「医療と健康シリーズ」と題
するコラムは,P4のP1医師ががん患者と応対した際の状況等が記載さ
れたものであること,「視点」と題するコラムは,郵政民営化法案に反対
する意見等が記載されたものであること,いずれの記事等も区議団ニュー
スの紙面1ページのうちの一部を占めるものにすぎないことが認められる
ことからすると,区議団ニュースにこれらの記事を掲載することが合理的
な範囲を超えているとはいい難いから,これらの記事に係る印刷費に政務
調査費を充てることが許されないということはできない。
3原稿執筆料に係る経費について
()原告らは,「医療と健康シリーズ」と題するコラムを掲載したP1医師に1
対する原稿執筆料である年間合計6万円の経費につき,資料作成費として政
務調査費を充てたことが許されない旨主張する。
()しかし,前示のとおり,区議団ニュースにP1医師の執筆に係る「医療と2
健康シリーズ」と題するコラムを掲載することが,なるべく多くの区民に区
議団ニュースに対する関心を持ってもらい,区議団ニュースを読んでもらう
ための1つの手段として合理的な範囲を超えるものであるということはでき
ず,ひいては,議会の審議能力を強化し,議員の調査研究活動の基盤の充実
を図ることにつながるものであるということを否定し難いことからすると,
同コラムを執筆したP1医師に対する執筆料が,本件規則8条及び別表にお
いて規定する資料作成費(会派が議会審議に必要な資料を作成するために必
要な経費)に該当しないということはできない。
()したがって,上記執筆料に係る経費につき,資料作成費として政務調査費3
を充てたことが許されないとする原告らの主張を採用することはできない。
4生活相談会に係る経費について
()前記前提事実に加え,証拠(各事実の後に付記する。)及び弁論の全趣旨1
によれば,次の事実が認められる。
ア本件会派は,原則として,毎週水曜日の午後2時から午後6時まで,本
件会派に所属する区議会議員の事務所において,生活相談会を開催してい
た。本件会派は,生活相談会に係る経費について,各議員の事務所の維持
に要する経費の総額のおおむね2分の1の範囲内で,3万5000円を上
限として,政務調査費を充てることとしていた。(丙56,61,68,
80,88)
イ平成17年度における各区議会議員の事務所の維持に要した経費は,別
紙1から5まで記載のとおりである。(丙51から54まで,57から5
9まで,62,63,64の1から64の7まで,65の1,65の2,
66の1から66の10まで,69,70の1から70の8まで,71の
1から71の12まで,72の1から72の6まで,73の1から73の
12まで,74の1から74の24まで,75の1,75の2,76,7
7の1,77の2,78の1,78の2,81,82の1から82の24
まで,83の1から83の11まで,84の1から84の5まで,85の
1から85の9まで,86の1から86の6まで)
ウ本件会派は,生活相談会に係る経費につき,平成17年4月から同18
年3月まで毎月16万円ずつ(P5区議,P6区議及びP7区議に係る生
活相談会の経費として各3万5000円,P8区議に係る生活相談会の経
費として3万円,P3区議に係る生活相談会の経費として2万5000
円),政務調査費を充てていた。(乙10)
()ア前示のとおり,本件会派は,生活相談会に係る経費について,平成172
年4月から同18年3月まで毎月16万円ずつ研修費として政務調査費を
充てていたことが認められるところ,原告らは,定額払の方法により政務
調査費を充てることが許されない旨主張する。
イしかし,前示のとおり,本件規則8条及び別表は,区政に関する調査研
究に資するため必要な経費の1つとして,研修費の項目を設け,その内容
を「会派が行う研修会,講演会等の実施に必要な経費並びに他の団体が開
催する研修会,講演会等への所属議員及び会派の雇用する職員の参加に要
する費用(会場費,機材借上げ費,講師謝金,会費,交通費,宿泊費
等)」と規定しているところ,定額払の方法により政務調査費を充てるこ
とができないとする根拠を見いだし難いから,原告らの上記主張を採用す
ることはできない。
()ア原告らは,生活相談会が各議員の事務所で開催されているのであれば,3
会場借上げ費用は全くかからない旨主張する。
イところで,地方自治法100条13項は,議会における会派又は議員に
対し,政務調査費を交付することができる旨規定しているところ,これを
受けて,本件条例は,政務調査費の交付先を議員ではなく会派に限定し
(本件条例2条),政務調査費の交付を受けた会派は,政務調査費を本件
規則で定める本件使途基準に従って使用するものとし,区政に関する調査
研究に資するために必要な経費以外のものに充ててはならない(本件条例
11条)としたことを受けて,本件規則は,本件使途基準において,会派
が行う調査研究のために必要な経費について規定している(本件規則8条,
別表)。
このように,本件条例が政務調査費を議員個人に対してではなく会派に
対して交付することとし,政務調査費の使用の主体を会派としたのは,区
政に関する調査研究という本来の趣旨に使用されることを確保することや,
会派において調査研究を組織的に行うことにより効率的な政務調査費の使
用を期待し得ることなどの理由に基づくものであると解するのが相当であ
る。
ウ以上のとおり,本件条例が,議員個人に対してではなく,会派に限定し
て政務調査費の交付先及びその使用の主体性を認めている以上,会派が行
う研修会等につき,当該会派が会場等を借り上げた場合には,それが当該
会派に所属する議員の事務所であったとしても,そこに会派自身の経費を
認めることができるというべきである。
エしたがって,前示のとおり,本件会派が,自らが開催する生活相談会の
ために,その所属する議員の事務所を使用することとしていたことが認め
られるのであるから,本件会派が当該事務所を借り上げたことに係る経費
を認めることができるのであって,議員の事務所で開催された場合には研
修費を認めることができないとする原告らの主張を採用することはできな
い。
()ア原告らは,P3区議が,平成17年6月,11月,同18年1月から34
月までにおいては,生活相談会を実施したのは2回だけであり,同17年
9月は1回だけ,更に同年10月は1回も実施していないことからすると,
P3区議の生活相談会の経費として2万5000円を計上するのは過大で
ある旨主張する。
イ確かに,証拠(丙87)及び弁論の全趣旨によれば,P3区議は,生活
相談会を,平成17年6月,11月,同18年1月から3月までにおいて
は各月2回,同17年9月は1回実施し,同年10月には実施しなかった
ことが認められる。
しかし,前示のとおり,本件条例は,政務調査費の使用の主体を会派と
しているところ,生活相談会を開催している主体は各議員ではなく本件会
派であり,本件会派が生活相談会を開催するために,原則として,毎週水
曜日の午後2時から午後6時まで,本件会派に所属する議員の事務所を使
用することとしていたことが認められる以上,そこには本件会派自身の経
費の発生を観念できるのであり,そこで各議員が実際に生活相談会を行わ
なかったとしても,上記経費の発生を直ちに否定することはできないこと,
会派に所属する議員が行う調査研究のために必要な事務所の設置及び管理
に要する費用も,本件条例及び本件規則が規定する「会派が行う調査研究
のために必要な経費」に含まれないとはいい難い面があること,前示のと
おり,平成17年度においてP3区議の事務所において支出された経費は
72万2664円であることが認められるところ,P3区議に係る生活相
談会の経費に充てた政務調査費の額は30万円(2万5000円×12=
30万円)であり,P3区議の事務所において支出された経費の2分の1
に満たないことなどの事実からすると,本件会派が政務調査費を充てたP
3区議に係る生活相談会の経費は,本件使途基準の「調査研究費」,「研
修費」又は「その他の経費」に該当するということができ,その額も,過
大であるとまでいうことはできない。
ウしたがって,P3区議に係る生活相談会の経費に充てた政務調査費の額
が過大であるとする原告らの主張をにわかに採用することはできない。
()ア原告らは,会派として調査活動をしたといえるためには,会派としての5
意思統一がされ,当該調査活動が会派として行うものであるとの会派の了
承が存在することが必要であり,そのためには,調査報告書の作成が不可
欠である旨主張する。
イしかし,政務調査費の交付を受けた会派の代表者は,当該政務調査費の
交付を受けた年度に係る収入及び支出の収支報告書を議長に提出しなけれ
ばならず(本件条例12条2項),これに添付して,本件使途基準ごとに
実績を記入した「墨田区議会政務調査費実績報告書」を提出しなければな
らない(墨田区議会政務調査費実績報告書に関する申し合わせ事項(乙
4))とされているものの,各支出に係る調査活動についての報告書を作
成すべき旨の定めはなく,調査活動についての報告書の記載により会派と
しての調査活動か否かが決せられるものでもない。
ウそして,前示した事実に加え,証拠(丙89の1から89の10まで,
94)及び弁論の全趣旨によれば,本件会派が生活相談会を開催していた
ことを認めることができるから,会派として調査活動をしたといえるため
には,調査報告書の作成が不可欠である旨の原告らの主張を採用すること
はできない。
第4結論
よって,原告らの請求はいずれも理由がないから,これらをいずれも棄却す
ることとし,訴訟費用(参加によって生じた費用を含む。)の負担につき行政
事件訴訟法7条,民訴法61条,65条1項本文,66条を適用して,主文の
とおり判決する。
東京地方裁判所民事第38部
杉原則彦裁判長裁判官
松下貴彦裁判官
島田尚人裁判官

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