弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被上告人株式会社B1に対する控訴を棄却した部分を破棄し、
右部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。
     上告人の被上告人株式会社B2に対する上告を棄却する。
     前項の上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人北尻得五郎、同松本晶行、同阪本政敬、同池上健治、同布谷武治郎、
同川崎裕子の上告理由について
 一 原審の確定した事実関係によれば、上告会社は、第一審判決別紙目録記載の
店舗(店舗内の什器備品を含む。以下「本件店舗」という。)においてレストラン・
Dの営業を開始するにつき、その本店を大阪に置いている関係上、従業員である訴
外Eを支配人格とし、同じく訴外Fをコツク長として、この両名に一任し、ほか一
一名の従業員とともに右営業に従事させ、もつて営業遂行に必要な限りにおいて継
続的に本件店舗を専用させてきた、というのである。そして、右事実関係のもとで、
原審は、右E及びFほか一一名合計一三名(以下これを「E、Fら」又は「同人ら」
という。)をもつて上告会社の従業員として本件店舗の占有補助者にあたるものと
したうえ、E、Fらが上告会社に対し退職届を提出して爾後占有補助者としてでは
なくみずから本件店舗を占有する旨を表明したという本件の場合は、他の無関係の
第三者が店舗に入り込んできたという場合とは著しく事情を異にするものがあり、
前者のような態様における占有取得によつてはE、Fらが上告会社の占有を侵奪し
たものとすることはできず、同人らによる占有侵奪を肯定するためには、上告会社
が他の従業員により本件店舗の営業を継続しようとするのを同人らにおいて実力で
阻止する等占有秩序が力によつて破壊されたと目すべき事情がなければならない、
との判断を示し、かつ、本件においては右のような事情を認めるに足りる証拠がな
い、として、E、Fらによる占有侵奪の事実を否定し、もつて上告会社の予備的主
張を排斥している。
 しかしながら、原審の右判断はにわかにこれを是認することができない。その理
由は、次のとおりである。
 原審が、前記のような事実を確定し、これに基づいてE、Fらを本件店舗の占有
補助者であると判断した経緯に徴すると、原審は、同人らの本件店舗に対する関係
はもつぱら占有者である上告会社のためその従属的地位にある者として上告会社の
所持を補助するにとどまるものであつて、同人らが本件店舗に対する独立の所持を
有するものではなかつたと判断したものと認めざるをえない。そうだとすると、右
事実関係のもとでは、E、Fらが上告会社に対し退職届を提出することにより爾後
みずから本件店舗を占有する旨を表明したのちは、同人らは、自己のためにする意
思をもつて本件店舗の所持を取得しこれを継続したものというべきであり、反面、
上告会社は、E、Fらから上告会社に対しみずから本件店舗を占有する旨の意思が
表明された時点において、その意思に基づかないで本件店舗に対する所持を失つた
ものということができるから、E、Fらに対し、民法二〇〇条所定の「占有者カ其
占有ヲ奪ハレタトキ」に該当するものとして、本件店舗の返還を請求することがで
きるに至つたものと解するのが相当である。
  しかるに、原審は、E、Fらによる本件店舗の占有侵奪を肯定するためには、
上告会社が他の従業員により本件店舗の営業を継続しようとするのを右E、Fらに
おいて実力で阻止する等占有秩序が力によつて破壊されたと目すべき事情を必要と
するとの見解により上告会社の主張を排斥しているのであつて、原判決には民法二
〇〇条の解釈適用を誤つた違法があるといわなければならない。そして、右違法は
被上告人株式会社B1との関係においては原判決の結論に影響を及ぼすことが明ら
かであるから、論旨は理由があり、原判決中被上告人株式会社B1に関する部分は
破棄を免れない。もつとも、原判決の判文によれば、原審は、E、Fらは本件店舗
に対し占有代理人のそれに類する独立の所持を有していたとの認識に立ち、このよ
うな所持を有する者をもいわゆる占有補助者の概念に含ませるとの見解のもとに民
法二〇四条を類推適用することにより前記のような判断に至つたものとみる余地が
ないとはいえないが、もしそうであるとしても、少なくとも同人らの所持の性質に
つき更に審理を尽くしてこれを明らかにしたうえでなければ右原判断の当否を決す
ることはできないものというほかはない。そうすると、本件は、右破棄部分につき
更に審理を尽くさせる必要があるから、これを原審に差し戻すべきである。
 二 次に、被上告人株式会社B2がE、Fらの右行動につき同人らと共謀し又は
同人らをそそのかしたことを認めるに足りる証拠がない旨の原審の認定判断は、記
録中の証拠関係に照らして是認することができないものではないから、原判決に所
論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 三 よつて、民訴法四〇七条、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁
判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    環       昌   一
            裁判官    横   井   大   三
            裁判官    伊   藤   正   己
            裁判官    寺   田   治   郎

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