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平成26年12月18日宣告裁判所書記官
平成25年(わ)第612号傷害致死被告事件
判決
主文
被告人を懲役4年に処する。
未決勾留日数中370日をその刑に算入する。
理由
【罪となるべき事実】
被告人は,平成24年12月14日午後3時33分頃から同日午後4時36分頃まで
の間に,神戸市a区bc丁目d番e号fg号室の当時の被告人方において,子供の散ら
かしたリビングを夫の帰宅前に掃除しようとしたが実子のA(当時1歳11か月)がリ
ビング内を動き回ったりしたために掃除が思うように進まなかったことから,同児を動
き回らせないようにしようと考え,同児を容量45リットルのビニール袋(縦約80セ
ンチメートル,横約65センチメートル)に入れた上,その袋の口を結んで同袋内に閉
じ込める暴行を加え,よって,その頃,同所において,同児を窒息により死亡させたも
のである。
【証拠の標目】※〔〕内の記載は,証拠等関係カードの検察官請求証拠の番号を示す。
省略
【争点に対する判断】
【罪となるべき事実】のとおり,被告人が被害児をビニール袋(以下「本件ビニ
ール袋」という。)に入れてその袋内に閉じ込め,その後,短時間のうちに被害児
が死亡したことについては,当事者間に争いがなく,証拠上も明らかである。その
上で,検察官は,被告人の被害児を本件ビニール袋に閉じ込める行為は暴行に当た
り,その行為によって被害児は窒息死したのであるから傷害致死罪が成立すると主
張するのに対し,弁護人は,①被告人の行為は暴行には当たらない,②被害児の死
因及び因果関係は不明である,③被告人の行為は親の子に対する正当な懲戒権の行
使といえるから違法性が否定される,などとして,傷害致死罪は成立しないと主張
する。
当裁判所は,以下の理由により,①被告人の被害児に対する行為は暴行に当たる,
②被害児の死因は窒息であり,被告人の行為と死亡結果との間の因果関係も認めら
れる,③被告人の行為は親の子に対する正当な懲戒権の行使には当たらない,と判
断し,傷害致死罪の成立を肯定した。
1暴行該当性
被告人の行為は,1歳11か月の被害児を容量45リットルの本件ビニール袋に入れ
て,その口を結んで同袋内に閉じ込めるというものである。その際,同袋内に空気が入
っていたとしても,容量や被害児の体積などを考えると,その空気の量は多いものでは
ないことからすれば,比較的短時間のうちに酸素が不足するか,または,被害児が息を
吸う際にビニール袋の内側が鼻と口を塞いで呼吸ができなくなるという事態が生じ,被
害児が窒息する危険性が高いことは,経験則上明らかである。
よって,被告人の行為は,人に対する不法な有形力の行使といえるのであって,暴行
に当たる。
弁護人は,掃除の間だけ被害児を動き回らせないようにするためにした行為が暴行に
当たるとするのは疑問であると主張する。しかし,被告人は,上記のような行為を意識
的に行っていたばかりでなく,被告人自身,被害児に本件ビニール袋を被せる際,なる
べく空気が入るようにしたと述べていることからすれば,当時,自己の行為の危険性を
全く理解していなかったとは考え難い。そうすると,被告人の行為は,その客観的な危
険性はもちろんのこと,主観的な面においても,暴行として欠けるところはないという
べきであって,被害児を袋に入れた動機や目的は,上記判断に影響しない。よって,弁
護人の主張は採用できない。
2死因及び因果関係
被害児の司法解剖を実施したB医師の証言によれば,解剖の結果のみからでは,被害
児が急死したことは分かるものの,死因は特定できなかったことが認められる。しかし,
被告人は,被害児を本件ビニール袋内に入れ,袋の口を二重に結んで同児を閉じ込めた
上,袋ごと玄関付近に運んだ後,20分くらいは掃除をし,その後,被害児を置いた所
に行き,被害児を本件ビニール袋から出したところ,その体が冷たくなっていた上に,
首がかくんとなるなどしたため,119番通報をした旨述べているが,この被告人供述
の信用性を疑うべき事情はない。また,証拠によれば,被告人は,119番通報の際,
子供を「袋の中に閉じ込めてたら,息してなくて」と述べていたこと,その数分後に救
急隊が被告人方に到着した時点では,被害児は既に心肺停止の状態になっており,病院
に搬送された後に死亡が確認されたことが認められる。以上からすると,被害児は,2
0分前後の間,本件ビニール袋に閉じ込められているうちに呼吸停止の状態に陥ったも
のと考えられ,これに前記のとおりの解剖時の急死所見を併せて考えると,被害児は,
本件ビニール袋内に閉じ込められたことにより酸素が欠乏し,窒息死したと考えるのが
最も自然で合理的である。被害児の遺体を解剖したB医師も,上記のような被告人の行
動や経過とビニール袋が破れていないことを前提とすれば,同様に考えられる旨述べて
いる。
もっとも,本件ビニール袋には,本件翌日に被告人方で発見された時点で,長さ40
センチメートル以上の穴が開いていた。他方で,発見時の本件ビニール袋内には水滴が
付着していたこと,前記のとおり,被告人は,被害児を本件ビニール袋に入れるに当た
り,袋内になるべく空気を入れようとしたと述べていること,また,そもそも上記のよ
うな穴の開いたビニール袋内に被害児を閉じ込めようとすること自体,困難かつ不自然
であることからすると,被告人が被害児を本件ビニール袋に入れたときには,少なくと
も上記のような大きな穴は開いていなかったと認められる。しかし,その後,本件ビニ
ール袋が発見されるまでの間に,どの時点で上記の穴が開いたのかを証拠上確定するこ
とができないことからすれば,被告人が被害児を本件ビニール袋に入れてから出すまで
の間に,被害児の動作等によって上記の大きな穴が開いた可能性も否定できない。とは
いえ,被害児の年齢や本件ビニール袋の容量などから考えると,被害児が窮屈な本件ビ
ニール袋内に閉じ込められて泣きじゃくるうちに,本件ビニール袋の内側が被害児の鼻
と口に張り付くなどしてこれらを塞いだため息ができなくなったということも十分考
えられる。加えて,B医師の証言によれば,被害児が乳幼児突然死症候群などのその他
の原因によって死亡したとは認められない。
以上によれば,被害児は本件ビニール袋内に閉じ込められたことにより呼吸が困難と
なって死亡するに至ったこと自体は明らかというべきであり,具体的には酸素欠乏又は
鼻口閉塞により窒息死したと考えられるのであって,被告人の行為と被害児の死亡結果
の間の因果関係は優に認められると判断した。
3懲戒権の行使
幼児をビニール袋に入れてその口を結ぶことは,前記のとおり,誰の目から見ても幼
児を窒息させかねない危険な行為であり,それが社会的に容認され得るような事情は容
易に見い出し難い。加えて,被害児は当時1歳11か月であり,そのような年齢の幼児
に対して,仮にしつけを目的として肉体的苦痛を与えたとしても,十分その意味を理解
させることは困難であるし,そもそも,被告人自身,しつけを目的として被害児をビニ
ール袋に入れたとは述べていない。よって,被告人の行為が,親の子に対する正当な懲
戒権の行使に当たるとは到底いえない。
弁護人は,親は子供を監督し保護し教育するために必要な範囲で子供の自由をコント
ロールすることができ,本件において被告人も被害児の動きを制止するためにその時点
で安全と思える方法を選択したにすぎないなどと主張し,被告人もこれに沿う供述をす
る。しかし,前述したとおり,被害児を本件ビニール袋内に入れて閉じ込めることの危
険性は明白であって,掃除をしなければ,夫から被害児や被告人が叱られるというよう
な当時の被告人の置かれていた状況を前提にしてもなお,より安全なその他取りうる手
段がなかったとはいえないし,そもそも被害児の生命・身体に対する危険を冒してまで,
緊急に掃除をしなければならない状況にあったとも認め難い。弁護人の主張は採用でき
ない。
【法令の適用】
罰条刑法205条
未決勾留日数の算入刑法21条
訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書
【量刑の理由】
被害児を本件ビニール袋に入れて閉じ込めるという行為は,同児を窒息死させる
可能性の高い危険な行為であることは明らかである。加えて,上記行為の後,掃除
ばかりに気をとられ,被害児の様子を十分に確認しないでビニール袋に入れたまま
の状態で放置し,被害児を死亡させる結果を招いた点で,被告人の落ち度は極めて
大きいといわざるを得ない。他方,暴行の目的は,掃除をする際に被害児に動き回
らないようにさせることであり,被害児を苦しめたり,傷付けたりすることを積極
的に容認していたわけではない。そうすると,本件犯行が,被害者を激しく殴る,
蹴るなどの行為で死亡させた事案と比べ,行為の危険性の点はさておき,悪質性の
点においても同等又はそれ以上であるという検察官の主張は採用できない。また,
被告人の責任の重さを評価する上では,被告人が常習的に被害児に暴行を加えてい
た事実はないこと,また,本件の背後には家事・育児に非協力的で,しつけを理由
に被害児に手を挙げていた夫の存在があることを考慮すべきである。以上からする
と,本件の行為責任は,同種事案の中では,中位からやや低位に位置付けられる。
こうした事情に加えて,被告人が犯行後に119番通報して救命活動をしたこと,
前科前歴がないこと,実母が今後の支援監督を約束していること,被告人が被害児
をビニール袋に閉じこめた事実などを認め,自己の行為を後悔していること,他方,
公判では自らの罪と向き合う姿勢が十分ではないことを考慮し,被告人に対しては,
主文の刑に処するのが相当であると判断した。
(求刑懲役8年)
平成26年12月18日
神戸地方裁判所第4刑事部
裁判長裁判官佐茂剛
裁判官空閑直樹
裁判官髙嶋美穂

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