弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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平成14年3月1日宣告 
平成13年刑(わ)第472号,第710号
贈賄被告事件
主文
被告人を懲役1年6月に処する。
この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1 いわゆる職人を育成するための大学の設置をめざしてその準備を進めていた
財団法人A財団の会長理事として同財団の業務全般を統括するとともに中小企業の
社会的・経済的な発展向上を図るために必要な政治活動を行うことを目的としてい
た政治団体であるBを実質的に主宰していたC(分離前の相被告人)の意を受け
て,B事務総長として,昭和55年7月8日から平成13年2月26日まで参議院
議員を務めて同院において議題等につき国務大臣等に対して質疑し,討論を行い,
表決に加わるなどの職務を行っていたD(以下「D」という)との折衝に当たって
いたものであるが,前記Cと共謀の上,平成8年1月上旬ころ,東京都千代田区a
町b丁目c番d号参議院議員会館e号室において,前記職務を担当していたDに対
し,同月25日に開か
れる参議院本会議において,Dが内閣総理大臣の演説に対して質疑するに当たり,
国策として前記大学の設置を支援するよう提案するなど同大学設置のため有利な取
り計らいを求める質問をされたい旨の請託をし,その請託などの報酬として,同年
6月中旬ころ,D及び同人の政策担当秘書を務めていたEとの間で,Dが実質的に
賃借している同区a町b丁目f番g号Fビルh号室及びi号室の賃料等相当額とし
て,月額88万円を供与することを合意した上,単一の犯意をもって,前記Cの指
示を受けたB会計責任者Gをして,同月25日から同年11月25日までの間,別
紙一覧表1番号1ないし6記載のとおり,前後6回にわたり,同区a町b丁目c番
d号所在の株式会社H銀行j支店に開設されたI会E名義の普通預金口座に合計5
28万円を振込送金
させ,同年12月25日ころから平成10年7月29日ころまでの間,別紙一覧表
1番号7ないし26記載のとおり,前後20回にわたり,前記Fビルh号室ほか1
か所において,前記Eに対し,現金合計1760万円を交付し,もってDの前記職
務に関して賄賂を供与し
第2 前記A財団会長理事として同財団法人の業務全般を統括するとともに組合員
に高速道路料金別納カードを販売するなどの事業を行っていたJ゛組合の代表理事
として同組合の業務全般を統括していた前記Cの意を受けて,平成7年7月23日
から平成13年1月29日まで参議院議員を務めるとともにその間の平成10年7
月31日から平成11年10月4日まで労働政務次官として労働大臣の命を受けて
労働省の所掌する労働者の職業に必要な能力の開発及び向上に関すること等の政策
及び企画に参画し,その所掌事務を処理するなどの職務を担当していたK(以下
「K」という)との折衝に当たっていたものであるが,前記C及びJ゛組合の専務
理事として同組合の常務を処理していたLと共謀の上,平成10年8月3日ころか
ら平成11年3月2日
ころまでの間,数回にわたり,東京都墨田区kl丁目m番n号所在の財団法人J事
業団(以下「J事業団」という)理事長室等において,前記職務を担当していたK
に対し,前記大学の設置等に必要な所要資金を確保するため国の補助金を増額すべ
く大蔵省に予算要求するなどして欲しい旨の請託をし,その報酬として,同月下旬
ころ,Kとの間で,Kが雇用する秘書の給与につき前記J゛組合から支給させるこ
とを合意した上,単一の犯意をもって,別紙一覧表2記載のとおり,同年4月23
日から平成12年9月25日までの間,前後21回にわたり,Cらの指示を受けた
前記J゛組合職員をして,千葉県習志野市op丁目q番r号所在の株式会社M銀行
s支店に開設されたN名義の普通預金口座及び東京都港区tu丁目v番w号所在の
株式会社O銀行t支
店に開設されたP名義の普通預金口座に合計1166万8711円を振込送金させ
て供与し,もってKの前記職務に関して賄賂を供与し
たものである。〈別紙省略〉
(補足説明)
第1 弁護人は,判示第1の事実につき,D参議院議員に対する,事務所家賃等相
当額負担(以下「本件家賃等相当額負担」という)は,同議員の職務権限に属さな
いQ大学設立推進議員連盟(以下「議連」という)に関する謝礼であって,請託に
基づく同議員の国会における代表質問に対する謝礼の趣旨は10分の1程度に過ぎ
ないから賄賂に該当せず無罪である旨,判示第2の事実につき,K政務次官に対す
る,N秘書(以下「N秘書」という)の給与負担とP秘書(以下「P秘書」とい
う)分の給与負担(以下まとめて「本件秘書給与負担」ともいう)は独立した別罪
であるところ,被告人はP秘書分の給与負担については無関係であるから無罪であ
る旨,それぞれ主張し,被告人もこれらに沿う供述をしているので,以下,当裁判
所が判示のとおり認定
した理由を説明する。
第2 判示第1の事実(D議員への本件家賃等相当額負担)について
1 関係各証拠によれば,本件家賃等相当額負担に至る経緯に関して,以下の各事
実が認められる。
(1) Cは,中小企業経営者が後継者不足に悩んでいる実情から,職人を育成するた
めの大学(以下「職人大学」という)に興味を抱き,平成6年中には,自己が理事
長を務めるJ事業団及びその関連団体において職人大学を設置する構想を支援する
ことにし,そのため,D議員に同構想を説明したり,支援を要請し,D議員も,平
成7年2月ころにこれを支援することになった。
(2) Cは,平成7年4月ころから,職人大学設置準備を進めるための母体となる財
団法人として「A財団」を設立するため,労働省の所管部局との折衝を始めた。し
かし,当時,公益法人の補助金や実体のない公益法人等が問題となっていた時期
で,公益法人の新規設立はおおむね抑制されており,また,国が私立大学の設置に
補助金を出す例はほとんどなく,労働省は,職人大学設置に対し消極的であった。
同年7月ころ,Cの依頼により,D議員が職業能力開発局長に電話で,職人大学関
係の財団設立についてCが同局へ赴くので,その話を聞いてやってもらいたい旨要
請したこと等から,労働省は,A財団の設立までは協力することにしたものの,職
人大学設置については同財団の努力次第とし,労働省はこれに関与しないとの方針
をとっていた。
(3) こうした中,平成7年12月,D議員が平成8年1月招集予定の通常国会で内
閣総理大臣に対する代表質問を行うことが内定し,同議員は質問内容の準備を始め
た。被告人は,これを聞き,Cに対し,D議員に代表質問で職人大学の件を取り上
げてもらうことを進言し,Cは,平成8年1月上旬,職人大学設置に対する労働省
の消極姿勢を変えるため同議員に対してこれを要請した。同議員は,これを引き受
け,代表質問へ向けた準備にあたり,質問内容の原稿を作成する中で,自ら手を加
えて職人大学設置の必要性を内閣総理大臣に訴えることとした。
(4) 平成8年1月25日,参議院本会議代表質問において,D議員は,職人大学の
必要性等を質疑し,内閣総理大臣から職人大学構想についての前向きな答弁を引き
出した。これによって,労働省は,職人大学の問題が国の労働行政の視野の一部と
して取り上げていかなければならないテーマとなったことを認識することとなっ
た。その後,労働省は,同年2月28日,前記A財団の設立許可申請を受付け,速
やかに審査を進め,翌3月7日には同財団の設立を正式に許可した。その後,同年
4月6日,R公会堂において,労働大臣及び労働省職業能力開発局長を招待して同
財団の総決起大会が催され,D議員はじめ職人大学設立を推進する来賓が挨拶する
など職人大学設立を強く推進する雰囲気が盛り上がった。
(5) さらに,Cは,職人大学の設置を早期に実現するため,多数の国会議員を結集
して国会審議の場等で行政当局に対して強く働きかけるための議員連盟(以下「議
連」という)の結成をD議員に要請し,これを受けた同議員は,平成8年6月18
日,議連を設立し,その会長に就いた。
(6) Cは,機会をとらえ,J事業団等の会合において,被告人や他のJ事業団関係
者に対し,他の国会議員に発破をかけてもらい,国会審議の場で職人大学設立のこ
とを取り上げてもらえるようD議員に依頼している旨を口にし,被告人らもこれを
聞き知っていた。
2 以上のように,本件に至る経緯として,D議員が国会において職人大学設置に
関する代表質問をし,内閣総理大臣から職人大学設置へ向けての前向きな答弁を得
ることができたことが,当時,職人大学設置に消極的であった労働省の姿勢を大き
く転換させ,同省が積極的に職人大学の設置へ向けて動き出したことがうかがわ
れ,その後,さらにD議員が議連を設立することによって職人大学設置へ向けた具
体的な動きが本格化したことが認められる。
そして,本件家賃等相当額を負担する旨決定したCは,被告人から本件家賃等相当
額負担を進言されてこれを決意する経緯について,大要,「国会議員にとって事務
所家賃の負担は経費の中でもウェイトが高いので,D議員の経費節減をしてやろう
と思った。同議員が代表質問,議連作りなど色々な面で職人大学設立のために協力
してくれたことに対する感謝や同議員に他の国会議員に国会審議の場で職人大学設
置を推進するように働きかけてもらいたいとの依頼の趣旨で本件家賃等相当額を負
担した。また,本件事務所を議連のサロンに使うという大義名分があるので家賃を
出しやすいと思った。」旨供述している(第12回公判)。
上記Cの供述等によれば,同人は,D議員に対し,同議員の代表質問や議連設立へ
の謝礼及び同議員に他の国会議員に国会審議の場で職人大学設立のため行動するよ
う働きかけてもらいたいとの依頼が渾然一体となった趣旨で前記負担を決意し実行
に移したものであることが十分に認められる。
また,被告人は,捜査段階において検察官に対し,自らがCに対して代表質問への
謝礼を含めた趣旨で本件家賃等相当額負担を進言した旨供述している(乙24)と
ころ,この供述部分は,前記1記載の経緯及びCの前記供述に合致しており,十分
信用できる。
3 以上を総合考慮すると,被告人においても,Cが前記のような総合的趣旨で本
件家賃等相当額負担を決意し実行に移したものであることを十分認識していたこと
が認められる。
この点に関して,被告人は,代表質問への謝礼の趣旨は10分の1程度に過ぎなか
った旨供述するが,仮に,被告人自身が内心でそのように考えていたとしても,客
観的には前記のように,代表質問が労働省の姿勢を大きく変え,職人大学設置に向
けて大きく動き出したことが明らかであって,本件贈賄罪の成立には消長を来さな
いというべきである。
なお,本件贈賄の罪数評価については,本件家賃等相当額負担行為が,D議員,同
議員秘書E,C及び被告人の合意に基づいて,定期的に毎月88万円の振込送金が
反復継続されたもので,一体性が強いものと認められることから,包括一罪と解す
るのが相当である。
4 以上のとおり,被告人に判示第1の贈賄罪が成立することは明らかであるか
ら,弁護人の主張は採用できない。
第3 判示第2の事実(P秘書分の給与負担)について
1 関係各証拠によれば,本件秘書給与負担の経緯に関して,以下の各事実が認め
られる。
(1) 平成10年11月ころ,K政務次官は,労働政務次官経験者は退任後もSや参
議院で労働関係の役職に就くのが慣例であったことから,将来も各種労働団体との
関係が続くものと判断し,労働省OBを秘書に採用したいなどと考え,労働省側
に,労働関係団体にいる労働省OBを秘書として紹介して欲しい旨依頼し,平成1
1年2月ころ,労働省からN氏を推薦され,同人を議員秘書に採用することにし
た。雇用期間は平成13年7月に行われる参議院議員通常選挙までで,年収は政策
秘書並みの900万円とした。
(2) K政務次官は,秘書給与について,政策秘書並みの年収900万円は私設秘書
の給与としては高額であり,平成13年7月施行予定の参議院議員通常選挙までと
すれば,支給総額が約2千万円となり,経済的に大きな経費負担となることから,
J事業団のC理事長に依頼して,秘書の給与をJ事業団側に負担してもらい,自ら
の経費を軽減させようと思いつき,平成11年3月ころ,B事務総長の被告人に対
し,「選挙に備えて,労働省OBの人を選挙が終わるころまで秘書として雇うこと
にしました。T(被告人)さんからCさんにその面倒を見てもらえるように頼んで
もらえますか。政策秘書と同じくらいの年収900万円でお願いしてもらえます
か。」などと言って,C理事長への取り次ぎを依頼した。
(3) これを受けた被告人は,C理事長に対し,「K先生がNさんの給料をJ事業団
側で出してもらえないかと言っている。年収は900万円くらいで,雇い入れる期
間は次の選挙までということですから総額は2千万円ほどです。K先生にはこれま
でもお世話になっていますし,特に今は,大学の補助金のことでご苦労をおかけし
ています。これからももっと頑張ってもらわなければなりません。今度の秘書はき
っとK先生の力になるでしょうし,2千万円くらいのことですから,給料を払って
やった方が良いと思います。」旨を言ってK政務次官の意向を伝えた。Cは,職人
大学設置の補助金増額に関するK政務次官の尽力への謝礼として給与の形で同政務
次官側に支払うことはやぶさかではないし,謝礼をしておけば今後もさらに同政務
次官が労働省職員に
対し大蔵省に補助金の増額要求をするよう指示し,これを実現してくれるものと期
待し,「K先生には大学のことでずいぶんお世話になっているからなぁ。秘書の給
料くらい,払ってもいいな。」などと被告人に答えた。
(4) こうして被告人は,K政務次官に対し,「秘書の給与の件,C理事長に言いま
したら,K先生には職人大学の補助金のことでもご配慮をいただいているので,喜
んで引き受けると言っておりました。」などと言うと,K政務次官は「ありがとう
ございます。大学設立がうまくいくようにできるかぎり力を尽くします。」と答え
た。
(5) その後の平成11年3月中旬ころ,Cは,J゛組合専務理事Lに対し,同組合
において,K政務次官の秘書のNの給与を,年収900万円として約2年間にわた
って支払うよう指示した。こうして,平成11年4月23日以降,毎月,O銀行z
支店のJ゛組合名義の預金口座から引き出された金員がM銀行s支店のN名義の普
通預金口座に給料名目で振込送金されるようになった。
(6) 平成12年1月5日,Cは,K政務次官から,「実は,うちのNが,事情があ
って今月で辞めることになりました。Nの後任は,やはり労働省にお願いして,労
働省のOBを紹介してもらいました。それで,引き続き後任の者の給料も面倒を見
ていただきたいのですが。」などと依頼された。Cは,N秘書の給与を負担するこ
とを決めた際,平成13年7月施行予定の参議院議員通常選挙までの約2年余りの
間,年収にして900万円になるような形で,同秘書の給与をJ゛組合で支払う約
束をしたとの認識であったことから,後任の議員秘書に対し,引き続いて給与を支
払うことは,K政務次官との約束を果たすという意味から,当然のことだと考え
た。また,Cは,K政務次官が職人大学設置に関する補助金増額のため部下の労働
省職員をよく指揮・指
導するなどして尽力してくれたおかげで同補助金が増額されていたことから,その
謝礼として,同政務次官の次の通常選挙まで,その秘書に支給する給与をJ事業団
側で負担したほうがよいと判断し,K政務次官に,「それは,初めからの先生との
お約束ですから,当然そのようにさせていただきます。J゛組合のL専務理事にそ
の旨伝えますので,手続はJ゛組合の方に言ってください。」などと言って了承し
た。そして,従来どおり,前記Lに指示し,平成12年2月25日以降同年9月2
5日まで,前後9回にわたり,毎月,O銀行z支店のJ゛組合名義の預金口座から
引き出した金員をO銀行t支店のP名義の普通預金口座に給与名目で振込送金し
た。
2 以上の事実関係に照らせば,本件秘書給与負担の経緯に関して,①本件贈収賄
の主体たるCとK政務次官の間でJ事業団側が同次官の秘書給与を負担する旨合意
した眼目が,職人大学設置に関する補助金増額のため尽力している同次官に対する
謝礼であること,②本来同次官が支払うべき議員秘書給与をJ事業団側が負担する
ことによって同次官の経費の軽減を図る意図であったこと,③J事業団側が負担す
る議員秘書給与の総額が,あらかじめ年収900万円で約2年間という計算で合計
約2千万円程度と合意されていたことが認められる。以上の経緯に照らすと,誰が
K議員の秘書になるかによってJ事業団側が本件秘書給与を負担するか否かが左右
されるものであったとは到底認められない。
この点,被告人も,CはK政務次官が職人大学設置等に必要な所要資金を確保する
ため国の補助金を増額すべく大蔵省に予算要求するなどしてくれていることに対す
る謝礼として議員秘書給与を負担するつもりであることを認識していた旨供述して
おり(乙29),被告人においても,前記経緯を基本的に認識していたことが認め
られる。
したがって,本件においては,K政務次官,C及び被告人の間に,K議員の経費を
軽減させるため,約2年間にわたり合計約2千万円分の議員秘書給与をJ事業団側
において負担する旨の合意が成立したことが明らかである。
そして,このような合意に基づいて,CがJ゛組合専務理事にN秘書の預金口座へ
毎月給与を振り込むよう指示するといった実行行為に着手することによって,本件
一連の秘書給与振込が反復継続され,これに相当するK政務次官の経費が軽減され
たものと認められる。
このように,K政務次官,C及び被告人の間に前記合意が成立し,これに基づきC
が前記実行行為に及ぶことによってN秘書分及びP秘書分の一連の各給与振込が行
われた以上,P秘書分の給与負担についても贈賄罪が成立することは明白である。
被告人にP秘書についての事前の認識がなかったからといって,同秘書分に関する
贈賄罪の成立を妨げることにはならない。
なお,被告人自身も,P氏が後任秘書になったことを知った際の印象について,
「もともとCには,K先生の秘書の給与は,K先生の次の選挙,つまり,平成13
年夏の参院選挙まで負担するということで約束を取り付けていましたので,Nさん
が秘書を辞めても,その後任秘書の給与をJ事業団側が負担するのは,約束を実行
するだけのことで,おそらくCも何ら異存ないものと思い,このときは特に私の方
からCにK先生の意向は伝えませんでした。」と供述している(乙29)ところで
あって,この供述は前記認定を裏付けている。
3 本件贈賄の罪数評価については,N秘書からP秘書に変わった時点で振込先の
変更という技術的な変更があった以外は,本件各秘書給与は,K政務次官,C及び
被告人の当初の合意に基づいて,毎月ほぼ1回ずつ,所定の給与相当金額が定期的
に振込まれていることから,本件振込行為の反復は機械的なものと認められ,全体
として一体性が強いことから,包括一罪と解するのが相当である。
4 以上のとおり,判示第2の贈賄事実は優に認定できるのであって,弁護人の主
張は採用できない。
(量刑の理由)
1 本件は,職人大学を設置したいというCらの願望を実現するため,(1)参議院議
員に対し,国会の代表質問で内閣総理大臣に同大学設置に有用な質問をしてもらい
たい旨請託した後,同議員の賃借する事務所家賃等相当額分を賄賂として供与した
事案,(2)労働政務次官に対し,同大学設置に必要な国の補助金を増額するよう大蔵
省へ予算要求等してもらいたい旨請託した後,同政務次官が雇用する議員秘書の給
与分を賄賂として供与した贈賄事案である。
2 D議員に対する贈賄事件についてみるに,その動機・目的は,国会議員の職務
の清廉さを犠牲に願望を実現しようとした点で自己中心的であり,酌量できない。
その犯行態様は,国会における代表質問において,内閣総理大臣に対し,職人大学
を設置すべきである旨の質問を行うよう請託し,内閣総理大臣から同大学設置に有
用な答弁を得たこと等に対し,その謝礼等として,約2年余りの間に前後合計26
回にわたり,毎月88万円を同議員側管理の銀行口座に振込み,又は交付し,合計
2288万円を贈賄したものである。このように贈賄金額は多額であり,犯行の手
段は,平成8年11月分までの賄賂金は銀行振込送金とし,同年12月分以降は本
件の発覚を免れるため被告人自身が同議員側に賄賂金を持参して交付したもので,
収賄側との緊密な連
絡の下に実行された大胆かつ計画的な犯行で悪質というほかない。また,犯行期間
が長期間で,賄賂金の供与行為を合計26回にも及ぶ多数回にわたり反復累行した
ことは,犯情として甚だ芳しくない。そして,本件が,国権の最高機関たる国会を
構成する国会議員の職務の清廉性とその職務の公正さに対する国民の信頼に与えた
悪影響も看過できず,本件結果は重大である。しかも,本件贈賄を発案したのは被
告人であり,強い非難に値する。
3 K政務次官に対する贈賄事件についてみるに,その犯行態様は,政務次官に対
し,職人大学設置に関する国の補助金増額を大蔵省に交渉するなどしてもらいたい
旨請託し,同次官が部下等に大蔵省への補助金増額要求を指示するなどしているこ
とに対し,その謝礼等として,約1年5か月間にわたり,前後合計21回毎月50
万円前後,ボーナス時期には月80万円前後の合計1166万円余りの金員を秘書
給与名目で各秘書の預金口座へ振込送金して贈賄したものである。その動機・目的
は,国の行政機関の高官たる政務次官の職務の清廉さを犠牲に願望の実現を図った
点で,前同様,自己中心的であり,酌量できない。贈賄金額は多額に上り,犯行の
手口は大胆かつ計画的で悪質というほかない。また,犯行期間が長期間で,賄賂金
の供与行為を合計2
1回にも及ぶ多数回にわたり反復累行したことは,犯情として芳しくない。そし
て,本件が,国政を担う政務次官の職務の清廉性とその職務に対する国民の信頼に
与えた悪影響も看過できず,本件結果も重大である。
そして,いずれの犯行も,労働者のための職人大学設置に当たり,同大学の門出に
汚点を残した点で,犯情は悪質と言わざるを得ない。
4 しかし他方で,本件贈賄を決定したのはCであり,被告人はCの側近として同
人の意向を受けて行動していた面が強かったこと,K政務次官に対する贈賄事件に
ついては,同次官からの要請を受けて賄賂金を供与し始めたものであったこと,被
告人個人には本件による利得が認められないこと,職人大学設置実現という目的自
体は私利私欲に基づくものではないこと,被告人が本件の審理を経て最終的には反
省する旨述べていること,被告人の前科は古いものしかないこと,被告人の妻が更
生に協力する旨誓約していることなど被告人のために有利に斟酌できる事情もあ
る。
  よって,以上の諸情状を総合考慮し,主文のとおり判決する。
(求刑ー懲役1年6月)
平成14年3月29日
東京地方裁判所刑事第8部
                   裁判長裁判官池 田  耕 平
                      裁判官佐 藤    基
                      裁判官富 張  邦 夫

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