弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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           主       文
      被告人を懲役12年に処する。
      未決勾留日数中240日をその刑に算入する。
           理       由
(犯行に至る経緯)
 被告人は,福井県内の中学校を卒業後,昭和60年4月に同県内の高等学校に入
学したものの,不登校となり,2年生を留年した上,昭和62年6月ころに同校を中途
退学した。その後,被告人は,不仲であった父親の元を離れるため,平成元年ころに
上京し,日雇人夫等のアルバイトをしながら単身生活を送っていたが,人間関係等
がうまくいかなかったことから,どの仕事も長続きせず,結局,平成2年ころからは,
母親からの仕送りを頼りにアパートに引きこもるという生活を送るようになったもの
の,平成5年ころ,母親が癌を患って入院したことにともない,仕送りが途絶え,福井
に戻ることとなった。
 被告人は,福井に戻った当初こそ,父親が経営する会社の仕事を手伝うなどして
稼働していたが,相変わらず父親と折り合いが悪く,間もなく手伝いを辞め,その後
は,他に仕事をすることもなく,両親が被告人名義でしていた400万円の預金があっ
たことを奇貨として,これを費消しながら,再び,父親名義の自宅に引きこもるという
生活を送るようになった。
 被告人は,高校を中退して間もなくしたころから,高校の同級生であったAやBらか
らいじめを受けたことなどから,高校中退を余儀なくさせられたとして上記同級生らに
恨みを抱くようになり,その後,定職にも就けず,自宅等に引きこもるという不遇な生
活を送る羽目になったのも結局は同人らのせいであると自分勝手に思い込み,同人
らに対して復讐することを考えるようになり,スタンガンやナイフ,鉈等を購入したり,
同人らの稼働先や居住等の身辺調査を行うようになったが,平成7年ころ,父親が知
人の債務の保証人となり,自宅に多額の抵当権が設定されていることを知ったこと
から,いずれは自宅から出て行かねばならない,そうすると,もはや自分は死ぬしか
ないなどと思い,自宅を追い出されるときに同人らを道連れにして自分は自殺をする
などということを考えるようになった。その後,被告人は,インターネットのホームペー
ジや雑誌等から爆弾についての情報を得るなどしていたが,Aらに対する復讐とし
て,同人らを簡単に殺すのではなく,爆弾を爆発させることで,同人らの家族に対し
て付添人が必要になるほどの怪我を負わせるか,あるいは死亡させることにより,長
年にわたり同人らを苦しめてやろうということを考えるようになった。
 被告人は,平成14年8月ころ,自宅が競売手続にかけられていることを知り,それ
以降,爆弾を製造するために必要な黒色火薬や起爆装置の製造方法についての詳
細な情報を得たり,火薬の原料である硝酸カリウムを注文するなどしていたが,平成
15年4月ころ,上記競売が現実化することを知り,起爆装置の材料を購入したりある
いは消火器を拾得したりして爆発物の製造を始めたところ,同年6月ころ,遂に,自
宅の立ち退き期限が同年7月12日であることを知るに至り,その翌日の同月13日
にAらに対して復讐を決行しようと考えた。
 被告人は,同月12日の夜,父親に電話をかけ,自宅を追い出された後の新たな生
活の場を用意してくれていないかどうかを確認したが,これを否定されたため,もは
やAらに対する復讐を決行するより他ないと考え,自宅において,爆発物を組み立て
るなどし,以下のとおり,本件各犯行に及んだ。
(犯罪事実)
 被告人は,人の身体・財産を害する目的をもって,
第1 平成15年7月13日午前5時25分ころ,福井県内のAの両親方住宅兼店舗
(以下「A宅」と略称。)西側敷地内において,容量約2334ミリリットルの消火器
に黒色火薬約2キログラムを充填し,これにストーブ着火装置,乾電池及びサイ
リスタチップ等を使用した起爆装置を接続したもので,その安全装置である保全
用回路を切断し,圧電スピーカー又は水銀スイッチのいずれか1つが振動等に
よってスイッチの回路が繋がれば,通電して爆発する構造を有する手製爆発物
1個を置いたが,その際,水銀スイッチの回路が繋がった状態になっているのを
確認せずに,同保全用回路を切断したことにより同爆発物を爆発させ,もって爆
発物を使用した
第2 同日,前記A宅先路上に駐車中の普通貨物自動車内において,
 1 容量約3730ミリリットルの消火器に黒色火薬約4922グラムを充填し,これに
ストーブ着火装置,乾電池及びサイリスタチップ等を使用した起爆装置を接続し
たもので,その安全装置である保全用回路を切断し,圧電スピーカー又はリー
ドスイッチのいずれか1つが振動や磁力等によってスイッチの回路が繋がれ
ば,通電して爆発する構造を有する手製爆発物1個
 2 容量約2330ミリリットルの消火器に黒色火薬約2985グラムを充填し,これに
ストーブ着火装置,乾電池及びサイリスタチップ等を使用した起爆装置を接続し
たもので,その安全装置である保全用回路を切断し,圧電スピーカー又はキッ
チンタイマーのいずれか1つが振動や時間の経過等によってスイッチの回路が
繋がれば,通電して爆発する構造を有する手製爆発物1個
 3 容量約3860ミリリットルの消火器に黒色火薬約4989グラムを充填し,これに
ストーブ着火装置,乾電池及びサイリスタチップ等を使用した起爆装置を接続し
たもので,その安全装置である保全用回路を切断し,圧電スピーカー又はキッ
チンタイマーのいずれか1つが振動や時間の経過等によってスイッチの回路が
繋がれば,通電して爆発する構造を有する手製爆発物1個
  を所持した
第3 同月14日,被告人方において,
 1 容量約300ミリリットルの高圧タンク付きエアポンプに黒色火薬約450グラムを
充填して導火線を繋げたもので,導火線に着火させれば爆発する構造を有する
手製爆発物1個
 2 容量約50ミリリットルの鉄パイプに黒色火薬約63グラムを充填し,これにスト
ーブ着火装置,乾電池及びサイリスタチップ等を使用した起爆装置を接続した
もので,その安全装置である保全用回路を切断し,圧電スピーカー,赤外線セ
ンサーライト又は太陽電池のいずれか1つが振動やセンサーの作動等によって
スイッチの回路が繋がれば,通電して爆発する構造を有する手製爆発物1個
 3 容量約1130ミリリットルの消火器に黒色火薬約1640グラムを充填し,これに
ストーブ着火装置,乾電池及びトランジスタ等を使用した起爆装置を接続したも
ので,起爆装置にスイッチとなる回路を取り付けた上,同回路を通電させれば,
爆発する構造を有する手製爆発物1個
 4 容量約1400ミリリットルの消火器に黒色火薬約1808グラムを充填し,これに
ストーブ着火装置,乾電池及びサイリスタチップ等を使用した起爆装置を接続し
たもので,スイッチとなるセンサーの回路を繋げた上,同センサーが作動すれば
爆発する構造を有する手製爆発物1個
 を所持した
ものである。
(法令の適用)
1 罰      条
    判示第1の行為      爆発物取締罰則1条
    判示第2及び第3の各行為 いずれも包括して爆発物取締罰則3条
2 刑種の選択
    判示第1の罪       有期懲役刑を選択
    判示第2及び第3の罪   いずれも懲役刑を選択
3 併合罪の処理       刑法45条前段,47条本文,10条             
      (最も重い判示第1の罪の刑に同法14                  条の制
限内で加重)
4 未決勾留日数の算入       刑法21条
5 没      収       いずれも刑法19条1項1号,2項本文
6 訴訟費用の不負担       刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の事情)
1 本件は,被告人が,高校時代の同級生の両親が住む居宅に,消火器内に黒色
火薬を充填し,起爆装置を接続した手製の爆発物を設置して爆発させてこれを使
用したという爆発物使用の事案(判示第1の犯行),並びに同居宅付近路上に駐
車中の普通貨物自動車及び当時の被告人方において合計7個の手製の爆発物を
所持したという爆発物所持の事案(同第2及び第3の犯行)である。
2 動機について
  弁護人は,被告人が30歳を過ぎても定職に就けず,被告人名義の預貯金を費
消するだけで自宅に引きこもるという不遇な生活を送らなければならない羽目にな
ったのは,高校時代の同級生らから深刻ないじめを受けたために高校中退を余儀
なくさせられたことや,高校中退時を含めこれまで両親が引きこもり生活を長期間
継続させてしまったことが原因であり,被告人が本件各犯行に及んだのは上記同
級生らに復讐するためである旨主張し,被告人も同旨のこと(さらには,父親を困
らせようとした旨)を供述する。
たしかに,被告人の高校中退の原因に上記同級生らの言動等があったことは証
拠上も伺われるところであり,中退後被告人が長期間にわたり上記同級生らに対
して強い憎しみを持ち続けていたことも事実である。
  しかしながら,他の同級生及び担任らの各供述に照らして,上記同級生らの言動
等が深刻あるいは陰湿ないじめというものであったとは到底認められない。仮に,
被告人が供述するとおりのいじめを受け,しかもそのことで高校中退を余儀なくさ
せられ,これが原因となり,被告人が心に大きな傷を受け,その後の人間不信に
繋がったものであったとしても,高校中退後,本件各犯行に至るまでには約16年
もの長い年月が経過して,この間,被告人は上記同級生らとの間では何らの付き
合いもなかったのであるから,被告人には,いくらでも自立して普通の生活を送る
ことができる機会があったというべきである。現に,被告人は,平成元年ころ自らの
意思で上京し,日雇アルバイト等の仕事をして一人暮らしをしていた時期もあり,ま
た,福井に戻ってからも第二種電気工事士や簿記3級の資格を取得することもで
きたのであり,努力次第では普通の社会人としての生活を送ることは十分可能で
あったはずである。にもかかわらず,被告人は,人間関係がうまくいかないことなど
の理由のもとに,母親からの仕送りに頼る生活を送り,両親が残してくれた多額の
預貯金があったことを奇貨として,勝手気ままな引きこもり生活を送ってきたもので
あり,自ら努力して仕事に就くなどして生活を送るということを全くしてこなかったも
のである。
  結局,被告人は,自分のことを顧みることなく,殊更自己を正当化するために高
校時代の同級生らや父親に責任を転換した上,同人らに対する恨みを募らせてい
き,自宅から出て行かざるを得なくなって,いわば道連れ的に本件各犯行に及ん
だものといわざるを得ない。その余りにも身勝手で自己中心的極まりない動機に
斟酌すべき事情は全くない。
3 爆発物使用事案(判示第1)について
  本件爆発物は,約2キログラムの黒色火薬が充填された消火器爆弾であり,爆発
の結果,爆発物の破片が,爆発地点から約12.7メートル離れた隣家の2階寝室
の土壁を貫通するなど広範囲に飛散し,また,被告人自身,爆発により下半身を
主として顔面,左上胸部,左上腕,両手,背部及び両下肢部分に約46パーセント
の熱傷(第2度熱傷約29パーセント,第3度熱傷約17パーセント)を負っているこ
となどからすると,当該爆発物は相当強力な破壊力及び殺傷力を有していたと認
められ,また,確実に爆発を起こすために当該爆発物は3個の回路が存在する起
爆装置を有していたもので,強い犯行意思が認められ,その犯行態様は極めて危
険かつ悪質である。
4 また,爆発物所持事案(判示第2及び第3)についても,爆発物7個で合計約1万
6857グラムという大量の黒色火薬が使用されていたこと,特に,普通貨物自動車
内に所持していた爆発物に関しては,いずれも爆発物使用事案で使用された爆発
物の約1.5倍ないし約2.5倍の黒色火薬が使用されており,鑑定結果によるとお
り,それらの破壊力及び殺傷力は相当強力であったと認められること,また,被告
人方において所持していた爆発物に関しても,確かに自動車内に所持していた爆
発物の火薬量に比べるとその量自体は少ないものの,消火器爆弾の他に鉄パイ
プ爆弾等もあるなど爆発物の種類は多様であり,鑑定結果によれば,やはり相当
の破壊力及び殺傷力があると認められること,以上からすれば,被告人は,このよ
うな破壊力及び殺傷力を有する爆発物を自動車内及び被告人方に合計7個も所
持していたというのであるから,その犯行態様は極めて危険かつ悪質であるとい
わざるを得ない。
5 本件各犯行において,復讐の対象とされた者らの受けた精神的苦痛は計り知れ
ない。すなわち,上述したとおり,被告人が供述するとおりのいじめがあったとして
も,到底,そのことにより命まで狙われなければならない理由になるわけはなく,ま
してや判示第1の同級生の両親においては,被告人と面識すら一切なかったとい
うのであり,被告人から恨まれる理由も落ち度も全くなかったのである。にもかか
わらず,被告人により本件各犯行が敢行されたことからすれば,これら復讐の対
象とされた者らの受けた恐怖は察するに余りある。判示第1の同級生やその親
は,現在も,被告人からの更なる報復をおそれ,被告人に対する処罰意思を明ら
かにできないというのである。
6 さらに,判示第1の爆発は,住宅地域で発生しており,判示第2のとおり犯行現場
付近に駐車していた自動車内から爆発物が発見されたことにより,付近の住民ら2
06世帯510名に対して,避難誘導の措置がとられ,多くの住民が長時間の避難
を余儀なくされたのであり,加えて,住民の中には,判示第1の爆発直後の被告人
の様子や爆発に伴う炎を目撃した者や,爆発物の破片がその居住する家屋の土
壁を貫通し,あやうく子供が怪我を負わされそうになった者もおり,本件各犯行が
地域住民に与えた恐怖感や不安感等社会的影響も計り知れず,この点も量刑上
重視せざるを得ない。
  なお,判示第1の犯行の結果,爆発物を設置されたA宅では,中庭の木造製の格
子戸や店舗内のガラスが破損し,また,その隣家においても,上記のとおり,2階
寝室の土壁が破損するなどの実害が生じ,その被害額は,上記A宅の被害だけで
も合計約34万円に及んでおり,決して少なくないところ,未だ被害弁償は講じられ
ていないし,今後も困難である。
7 以上の諸事情からすれば,被告人の刑事責任は重大であるといわざるを得な
い。
8 そうすると,判示第1の犯行については,被告人が重傷を負った以外に幸いにも
死傷者は出ていないこと,これまで被告人には前科前歴が全くないこと,捜査・公
判を通じて本件各犯行を認めており,公判を経るに至って自己の誤りを認める発
言をするようになるなど被告人なりに反省していること等被告人に有利若しくは斟
酌すべき事情を最大限斟酌しても,被告人を主文記載の刑に処するのが相当で
ある。
  よって,主文のとおり判決する。
(求刑・懲役15年,爆発物7個没収)
   平成16年9月7日
      福井地方裁判所刑事部
        裁判長裁判官   久   保       豊
           裁判官   中   山   大   行
           裁判官   谷   田   好   史

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