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平成14年(行ケ)第472号 審決取消請求事件(平成15年9月1日口頭弁論
終結)
          判           決
       原      告   A
       訴訟代理人弁理士   富 崎 元 成
       同          葛 西 四 郎
       被      告   B
       被      告   春日機動開発株式会社
       被      告   株式会社德永組
       被      告   丸栄工業株式会社
       被      告   C
       5名訴訟代理人弁理士 杉 本 丈 夫
          主           文
      原告の請求を棄却する。
      訴訟費用は原告の負担とする。
          事実及び理由
第1 請求
   特許庁が無効2001-35462号事件について平成14年8月7日にし
た審決を取り消す。
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   原告は,名称を「ホイールクレーン杭打工法」とする特許第1467438
号発明(昭和58年11月29日特許出願,昭和63年11月30日設定登録,以
下,この特許を「本件特許」という。)の特許権者である。
 被告らは,平成13年10月18日,本件特許を無効にすることについて審
判の請求をした。
 特許庁は,同請求を無効2001-35462号事件として審理した上,平
成14年8月7日,「特許第1467438号の請求項1に係る発明についての特
許を無効とする。」との審決をし,その謄本は,同月19日,原告に送達された。
 2 願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の
請求項1の記載
走行できる車台上に架設されたクレーン本体が水平面上で回転自在に設けら
れ,前記クレーン本体には起伏自在にブームの一端を枢着し,前記ブームの先端に
はブーム挿入部を出没自在に設け長さの方向に伸縮自在にし,前記挿入部の先端に
連結したアースオーガー装置を有するホイールクレーン車を用いる杭打工法におい
て,前記アースオーガー装置に取り付けた掘進用のスパイラルスクリューに,前記
ブームと前記クレーン本体との間に設けた前記牽引装置により前記ブームを牽引し
ブームに曲げモーメントを与えて,前記挿入部の先端から前記アースオーガー装置
に前記ホイールクレーン車のほぼ全重量を乗せて垂直分力を与える共に,ブームの
長さをブーム挿入部を引き込める事により逐次縮小させ,前記挿入部の先端に垂直
方向の垂直分力を前記アースオーガー装置に加圧しつつ杭打等を行うホイールクレ
ーン杭打工法。
(以下,この発明を「本件発明」という。)
 3 審決の理由
   審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本件発明は,その特許出願前に公
然実施をされた発明であり,本件特許は,特許法29条1項2号の規定に違反して
されたものであるから,同法123条1項2号に該当し,無効とすべきものである
とした。
第3 原告主張の審決取消事由
   審決は,株式会社多田野鉄工所(後に「株式会社タダノ」に商号変更。以下
「タダノ」という。)製ラフタークレーンTR-151(以下「TR-151」と
いう。)による杭打ち工法の認定を誤り(取消事由1),TR-151による杭打
ち工法の公然実施の認定を誤った(取消事由2)ものであるから,違法として取り
消されるべきである。
 1 取消事由1(TR-151による杭打ち工法の認定の誤り)
(1)本件発明は,特許請求の範囲の請求項1に規定されているように,「前記
ブームと前記クレーン本体との間に設けた前記牽引装置により前記ブームを牽引し
ブームに曲げモーメントを与えて,前記挿入部の先端から前記アースオーガー装置
に前記ホイールクレーン車のほぼ全重量を乗せて垂直分力を与える」点に新規性,
進歩性がある。審決は,タダノ作成のTR-151のパンフレット(本訴甲5,審
判甲14)の記載を前提にして,本件発明の杭打ち工法と,TR-151による杭
打ち工法とは同じであるとしたが,甲5に記載された起伏シリンダは,ブームを持
ち上げるためにのみ使用され,倒伏方向に加圧できないのであるから,誤りであ
る。「本件発明の『ホイールクレーン車のほぼ全重量を乗せて』は,文字どおりホ
イールクレーン車の全重量に近い値を乗せる(加圧する)という意味ではなく,
『当該ホイールクレーン車で(ブームの牽引操作によって)実質的にかけられる全
重量を乗せて』の意味に解するのが相当である(そうでないと,本件発明は実現不
可能なものとなる。)」(審決謄本7頁第2段落)ことは認めるが,甲5の写真に
は,ホイールクレーン車,アースオーガー装置,ブーム,及びスパイラルスクリュ
ーという各部を構成する物が写っているだけであり,「前記アースオーガー装置に
前記ホイールクレーン車のほぼ全重量を載せて垂直分力を与える」という機械内部
の力学的な応力,動作までを含む事実認定は,甲5の写真のみからはできず,機械
力学的にも,外観の写真のみから,内部の荷重,応力,機械の動作まで認定するこ
とはできない。甲5の5枚目には,TR-151のブームの先端にアースオーガー
装置を設け,地盤に穴明け作業をしている写真が掲載されているが,当該アースオ
ーガー装置は,ブーム,アースオーガー装置及び掘進用のスパイラルスクリューの
自重とその回転により掘削しており,これで掘削できないときには,アースオーガ
ー装置にウェイトを載せたり,ブームの先端に配置したC字状のフックにワイヤー
を固定し,このワイヤーを既設の固定された埋設物等に引っ掛けて反力として掘削
するものである。したがって,甲5には,ブームを持ち上げるために油圧シリンダ
による起伏装置を使用することは記載されているが,審決が認定したブームの先端
でアースオーガー装置を加圧することは記載されていない。審決は,TR-151
の主要諸元表(甲5の8枚目)の「起伏装置」欄の「複動油圧シリンダ直押式2
本」との記載から,ピストンの両側に交互に同じ油圧を供給して,両方向に推進力
を与える油圧シリンダが開示されていると認定したが,クレーンの技術常識を無視
した認定である。従来のクレーンの起伏用シリンダにおいて,倒伏時にその上側に
起立時の重量物を吊り上げたときと同一圧力の圧油が供給されると,ブームの先端
では,〔ブームの自重による押圧力+(定格総荷重÷シリンダの面積)〕に等しい
強力な下向きの押圧力が発生し,重量物は加速的に落下して危険極まりない事態と
なる。
(2)また,審決は,甲5の記載から事実認定をしたものであるから,その取消
訴訟である本件訴訟において,甲5との関係が不明であり,しかも別個の証拠であ
るタダノ作成のTR-151の修理要領書及び修理マニュアル(乙2-1~5),
弁理士D作成の技術説明書(1)(乙3-1),タダノ作成のカウンタバランスバルブ
の修理マニュアル(乙3-2),タダノ作成の「油圧の基礎」(乙4)及びダダノ
作成のTR-151に係る教育資料(乙5)を証拠とすることはできない。また,
乙3-1は,独自の見解で技術説明のために作文されたものであり,図2がTR-
151-Ⅰの油圧回路図であることは認めるが,図3はTR-151-Ⅲ型の油圧
回路図であり,その他の図は独自に創作した説明図である。
(3)TR-151の油圧回路がブームを牽引するように作動するとしても,タ
ダノ作成のTR-151の修理要領書の過負荷防止システム(甲11-2)に「モ
ーメントが増加しeA=eMになるとモーメントリミッタ本体から出力信号がでて
アンロード用のシャットオフソレノイドバルブに送られ,ウィンチの巻上げ,起伏
の下げ,伸縮の伸び作動を自動的に停止します」(1頁)と記載されているよう
に,TR-151の起伏シリンダにクレーン以外の機能をさせたとしても,例え
ば,ブームが何かと干渉して横方向の曲げモーメントが負荷されたとき,本件発明
のように下から持ち上げられたとき等に「過負荷防止システム」が作動するから,
「過負荷防止システム」を外した油圧回路にしない限りブームを押圧するようには
作動しない。
2 取消事由2(TR-151による杭打ち工法の公然実施の認定の誤り)
(1)審決は,甲7(審判甲13)の営業案内の発行者,発行日が不明としなが
ら,本件特許出願前に,TR-151を用いたオーガースクリューによる杭打ち工
法を奈良県吉野郡川上村立東小学校新築工事(以下「東小学校新築工事」とい
う。)で実施したと認定したが,甲7の成立及び頒布については,立証がされてい
ない。神戸地方裁判所平成7年(ワ)第290号事件における調査嘱託に対する回
答書(乙11-2)によれば,甲7の「施工実績」に記載された工事中,東小学校
新築工事,南海電気鉄道株式会社の「天見駅複線化工事の基礎杭打ち工事」,阪急
電鉄株式会社の「宝塚線中山駅地下駅舎化工事」及び「宝塚線池田駅付近連続立体
交差工事」については株式会社寺田組(以下「寺田組」という。)が工事をした旨
の記載はなく,矛盾している。また,被告らは,甲7と寺田組作成の営業案内(乙
9)及び株式会社寺田基工作成の営業案内(乙10)は同一のものであると主張す
るが,同一の文書が3社から同時,又は時間差を置いて出版されたことになり不自
然である。
(2)寺田組が東小学校新築工事において,TR-151により行った杭打ち工
法は,取消事由1に記載のとおりホイールクレーン車を用いた従来工法による杭打
工法である。
(3)審決は,甲7の記載から,本件特許出願前に東小学校新築工事は不特定人
がその使用状況を容易に知り得る状況の下で実施されたと認定したが,これは当時
の工事現場の状況を全く無視しており,誤りである。株式会社朔鷹の従業員である
E作成の平成14年11月12日付け調査報告書(甲8)によると,東小学校新築工
事は,ダムの建設に伴う移築工事であり,当時,山道以外に道路もない山の上に東
小学校が新築されたものであり,その工事現場は工事関係者以外は出入りできる場
所ではなく,また,その工事内容は,運動場を拡張し,校舎も新築で拡張する大が
かりな工事であり,工事関係者以外は近づくことが許される状況になく,かつ,地
形的にも集落から遠く,現在でも直接見ることができにくい場所に位置している。
したがって,東小学校新築工事は不特定人がその使用状況を容易に知り得る状況の
下で実施されたということはできない。
第4 被告らの反論
  審決の認定は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
 1 取消事由1(TR-151による杭打ち工法の認定の誤り)について
(1)甲5の5枚目の写真は,TR-151のブーム起伏シリンダ及びブーム伸
縮シリンダを操作し,ブームの先端に下向きの力を加えてスパイラルスクリューを
土中へ貫入させている状態を開示するものである。当該写真中,ブームの先端にワ
イヤーを引っ掛けるためのC字状のフックが滑車の下部に吊り下げられているの
は,TR-151を用いて重量物の運搬等を行う必要があるからであり,杭打ちを
行うためではない。また,当該写真のような状態でアースオーガースクリューを土
中へ貫入させていくに際しては,アースオーガースクリューの土中への貫入長さに
比例してブームの全長を短縮させるとともに,油圧シリンダによる起伏装置によっ
て前記ブームを倒伏させなければならないことは自明のことである。さらに,甲5
記載のTR-151の起伏シリンダは,乙2~5から,ブームを倒伏させる方向に
も加圧することができるものであることが明らかである。
(2)TR-151の主要諸元表(甲5の8枚目)には,「TR-151Ⅲ型主
要諸元」との記載の下に,クレーンやキャリヤの諸元が明示されており,TR-1
51Ⅰ型のみではなく,Ⅱ型,Ⅲ型も開示するものである。審決が甲5により認定
したTR-151は,TR-151Ⅰ型,Ⅱ型及びⅢ型を含むものである。甲5の
裏表紙の部分である乙15-1には,作成年月日が「S-55-09」と記載さ
れ,甲5は,昭和55年9月に作成されたものであって,本件特許出願前に,上記
3機種がTR-151として製造販売されていたことが認められるから,甲5記載
のTR-151と乙3記載のTR-151の各図面との間の関係に,不明な点は全
く存在しない。
(3)甲11-2の1頁右欄によれば,「過負荷防止システム」は,起伏シリン
ダでブームを牽引し,ブームの先端に押圧力を加えると直ちに過負荷防止システム
が作動してクレーンの作動が停止するものではない。「過負荷防止システム」のモ
ーメント検出器が検出するモーメントは,「吊り上げ荷重+ブーム自重に依る総合
モーメント」であって,具体的には「ブームの長さ×ブームの先端にかかる下向き
の力(吊り上げ荷重+ブームの自重を含めた下向きの荷重)」で表わされるもので
あり,下向き方向のモーメントであって,杭打作業時にブームの先端に上向きにか
かる突張り力による上向き方向のモーメント(ブームの長さ×上向きの突張り力)
を検出する機能を具備しておらず,油圧回路内のリリーフバルブが作動しない限
り,ブームの先端は下方向へ押圧されることになる。したがって,ブームの先端に
下向きの押圧力を加えると,TR-151の過負荷防止システムが作動してブーム
が停止するため,ブームを(下方向へ)押圧するようには作動できないとする原告
の主張は誤りである。
2 取消事由2(TR-151による杭打ち工法の公然実施の認定の誤り)につ
いて
(1)審決は,甲5,7,乙9から総合的に,本件発明と,寺田組が東小学校新
築工事においてTR-151を用いて行った杭打ち工法とは同一のものであり,か
つ,上記工事において,TR-151を用いた杭打ち工法は公然と実施されたこと
を認定したものであり,その認定に誤りはない。乙9は,甲7と記載内容が同一の
ものであり,発行者として寺田組の名称が記載されている。乙10は,乙9と同一
のものであるが,寺田組が商号を「株式会社寺田基工」に変更した後に使用してい
たものである。乙16~18(有限会社央基礎工業代表取締役F,株式会社大栄代表
取締役G,有限会社和建商会代表取締役H各作成の陳述書)によれば,甲7の営業案
内は,第一運輸作業株式会社が発行したものでなく,乙9の体裁の営業案内とし
て,寺田組によって発行されかつ頒布されたものであり,また,乙10の体裁の営
業案内が,寺田組が株式会社寺田機工に名称変更をした後も使用に供されていたこ
とが明らかである。
(2)乙9及び甲7の5頁の上欄左側の写真によれば,TR-151を用いた東
小学校新築工事のための杭打ち作業は,運動場のような場所の一部で行われ,ま
た,杭打ち作業の現場から離れた運動場の一部には,子供用の運動用具が据付けら
れている。さらに,甲8の4頁の「川上東小学校に係る調査報告」によれば,川上
村立東小学校は,従前の川上第3小学校を解体してその跡地に校舎を新築し,運動
場の整備を行うことにより新たに開校されたものであり,杭打ち工事の実施場所
が,山道以外に道路もない,工事関係者以外は出入りできる場所でなかったという
ことはできない。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(TR-151による杭打ち工法の認定の誤り)について
(1)原告は,本件発明は,「前記ブームと前記クレーン本体との間に設けた前
記牽引装置により前記ブームを牽引しブームに曲げモーメントを与えて,前記挿入
部の先端から前記アースオーガー装置に前記ホイールクレーン車のほぼ全重量を乗
せて垂直分力を与える」ものであるのに対し,TR-151のパンフレットである
甲5に記載された起伏シリンダは,ブームを持ち上げるためにのみ使用され,倒伏
方向に加圧できないから,同記載を前提にして,本件発明の杭打ち工法とTR-1
51による杭打ち工法とは同じであるとした審決の認定は誤りであると主張する。
  甲5の4枚目の左頁には,「スムーズな同時操作を実現する3連ギヤポン
プ採用。 図のように<巻上・巻下><伸縮・起伏><旋回>の各油圧回路が独立
し,相互の影響を受けず,確実・スムーズな同時操作が行なえます。また,ポンプ
容量も大きくなり,よりスピーディーに,作業できます」,「スムーズな伸縮。3
段全油圧伸縮式ブーム。2本の直押式複動油圧シリンダを採用。1本のレバー操作
で,なめらかにブーム伸縮が行なえます。ブームは,高張力鋼板を使用。軽量かつ
耐久性に優れています」と記載され,同左欄の「ブーム起伏」を示す図には,左
上,右下両方向の矢印が付されている。そして,「起伏」とは「高くなったり低く
なったりすること」(広辞苑第5版),「複動」とは「両端に作動室を有するシリ
ンダー中の往復動ピストンにおけるように,2方向で仕事をすること」(マグローヒ
ル科学技術用語大辞典第3版)であるから,甲5の上記記載によれば,TR-15
1は,ポンプの油圧によりブームの起立方向と倒伏方向の両方向に付勢するもので
あることが認められ,このことは,乙5の油圧回路の図(図番TRCC01-01
80),乙2-4の油圧回路の図及び乙5の起伏システムの図(図番TRCG03
-0030)に,ギヤポンプからの圧油が四連切換弁11(マニアルコントロール
バルブ)を切り換えることにより,起伏シリンダの下部室又は上部室へ供給される
ことが記載されていることからも裏付けられる。そして,甲5の5枚目の右頁左下
には,TR-151のブームの先端にアースオーガー装置を設け,地盤を掘削して
いる写真が示され,「営業案内 無振動・無騒音圧入工法ラフタクレーン搭載型<
杭打機>」と題するパンフレットである甲7(その証明力については後記2の(1)に
おいて改めて検討する。)の2枚目左頁には,「ラフタークレーンの起伏シリンダ
ーを利用した転石,岩盤掘削<ロックオーガー>」との見出しの下に,「特長」6
として,「起伏シリンダーの圧入により,オーガーを強制掘進させるので転石,岩
盤層での施工が可能です」と記載され,同右頁「全体図」には,TR151にアー
スオーガー装置を取り付けた図が示されている。以上によれば,TR-151は,
起伏シリンダのピストンの両側に圧力油を供給し,倒伏時にはブーム及びアースオ
ーガーを牽引する機能を有し,ブームの先端でアースオーガー装置を加圧するもの
であると認められ,本件発明の杭打ち工法とTR-151
による杭打ち工法とは同じであるとした審決の認定に誤りはない。
(2)原告は,甲5には,本件発明の構成要件である「前記アースオーガー装置
に前記ホイールクレーン車のほぼ全重量を載せて垂直分力を与える」という機械内
部の力学的な応力,動作までは開示されていないとも主張する。
  しかしながら,審決は,TR-151を使用して地盤に杭打作業を行う際
に,起伏シリンダがブームを牽引することを前提として,ブームを倒伏させる作業
を行えば,「本件発明のように,『アースオーガー装置に取り付けた掘進用のスパ
イラルスクリューに,前記ブームと前記クレーン本体との間に設けた前記牽引装置
により前記ブームを牽引しブームに曲げモーメントを与えて,前記挿入部の先端か
ら前記アースオーガー装置に前記ホイールクレーン車のほぼ全重量を乗せて垂直分
力を与える共に,ブームの長さをブーム挿入部を引き込める事により逐次縮小さ
せ,前記挿入部の先端に垂直方向の垂直分力を前記アースオーガー装置に加圧しつ
つ杭打等を行う』ことになる」(審決謄本10頁(3))と認定したものであると
ころ,「本件発明の『ホイールクレーン車のほぼ全重量を乗せて』は,文字どおり
ホイールクレーン車の全重量に近い値を乗せる(加圧する)という意味ではなく,
『当該ホイールクレーン車で(ブームの牽引操作によって)実質的にかけられる全
重量を乗せて』の意味に解するのが相当である(そうでないと,本件発明は実現不
可能なものとなる。)」(同7頁第2段落)ことは原告の自認するところであり,
甲5記載のTR-151は,ブームとクレーン本体との間に設けた牽引装置(起伏
シリンダ)により,ブーム及びアースオーガー装置に「当該ホイールクレーン車で
(ブームの牽引操作によって)実質的にかけられる全重量を乗せて」牽引すること
ができるものと認められるから,原告の上記主張は採用することができない。
(3)原告は,従来のクレーンの起伏用シリンダにおいて,倒伏時にその上側に
起立時の重量物を吊り上げたときと同一圧力の圧油を供給すると危険極まりない事
態となると主張するが,審決の認定する倒伏時とは,クレーンが重量物を吊り上げ
た後に別の場所に降ろす時のことではなく,クレーンを使用して掘削作業をする際
にアースオーガーに掘進力を与えるためにブームを倒伏する時であることは明らか
であって,原告の上記主張は,審決を正解しないものであり,失当である。
(4)さらに,原告は,審決は,甲5の記載から事実認定をしたものであるか
ら,その取消訴訟である本件訴訟において,甲5との関係が不明であり,しかも別
個の証拠である乙2~5(枝番省略。以下同じ。)を証拠とすることはできないと
も主張する。しかしながら,審決は,甲5のパンフレットの記載及び写真から,T
R-151による杭打ち工法を認定し,甲7から,TR-151による杭打ち工法
の公然実施を認定したものであるから,審決のTR-151による杭打ち工法の認
定が正しいことを立証するために,TR-151の修理要領書,修理マニュアル,
修理担当者の教育用資料である乙2~5を提出することを妨げる理由はないという
べきである。したがって,原告の上記主張は失当である。
(5)原告は,TR-151の油圧回路がブームを牽引するように作動するとし
ても,「過負荷防止システム」を外した油圧回路にしない限りブームを下方向に押
圧するようには作動しないと主張する。
  しかしながら,甲11-2の1頁右欄には,「システムの概要 過負荷防
止システムは,モーメント検出器,ブーム長さ検出器,角度検出器,モーメントリ
ミッタ本体に依って構成されており,オーバロードに依るクレーンの破損,転倒を
未然に防止する為,モーメントが定格値に達する前に光と音で予告警報を出すと共
に,定格値でクレーンの作動を自動的に停止させます。吊り上げ荷重+ブーム自重
に依る総合モーメントを検出するモーメント検出器からの電気信号(eM)と各ブ
ーム状態に於ける定格総荷重性能をあらかじめ記憶しているメモリーユニット(角
度検出器内)からの電気信号(eA)は,増幅,整流されたうえで演算部に送ら
れ,eM/eAの割算が行なわれ,百分率で荷重計に表示します。割算の結果,e
A≧0.9eMに達するとブザーとランプの点滅で警報を発します。モーメントが
増加しeA=eMになるとモーメントリミッタ本体から出力信号がでてアンロード
用のシャットオフソレノイドバルブに送られ,ウィンチの巻上げ,起伏の下げ,伸
縮の伸び作動を自動的に停止します」と記載され,甲5の7枚目左欄には,「信頼
性の高い電子モーメントリミッタ(A.M.L)。・・・吊上げ荷重とブーム重量
の合成モーメントが定格モーメントの90%に達すると予告警報し,100%に達
すると警報を発し,クレーン作業を自動停止します」と記載されている。これらの
記載によれば,TR-151の「過負荷防止システム」は,「吊り上げ荷重+ブー
ム自重」による総合モーメントが定格総荷重のモーメントを超える前にクレーンの
作動を自動的に停止させることにより,オーバーロードによるクレーンの破損,転
倒を未然に防止するものであると認められる。そうすると,杭打ち作業を行う際に
は,吊上げ荷重は存在しないから,起伏シリンダがブームを押圧しても,押圧によ
るモーメントとブーム重量のモーメントの合計が定格総荷重のモーメントに近くな
るまでは,「過負荷防止システム」が機能しないことは明らかである。したがっ
て,「過負荷防止システム」の存在により,TR-151の油圧回路はブームを下
方向に押圧することができないとの原告の上記主張も理由がない。
(6)以上検討したところによれば,原告の取消事由1の主張は理由がない。
2 取消事由2(TR-151による杭打ち工法の公然実施の認定の誤り)につ
いて
(1)原告は,審決が,甲7の営業案内の発行者,発行日が不明としながら,本
件特許出願前に,TR-151を用いたオーガースクリューによる杭打ち工法を東
小学校新築工事で実施したと認定したものの,甲7の成立及び頒布については,立
証がされていないから,誤りであると主張する。
  しかしながら,乙16~18(有限会社央基礎工業代表取締役F,株式会社
大栄代表取締役G,有限会社和建商会代表取締役H各作成の陳述書)によれば,本件
特許出願前に,寺田組は,乙9の営業案内を作成して,取引先等に頒布していたこ
と,第一運輸作業株式会社は,寺田組から頒布された乙9の体裁のものを,「株式
会社寺田組」の商号を削除した上,「第一運輸作業株式会社」の商号を押捺して甲
7の体裁のものを作成し,自社の営業案内として取引先等に頒布していたものであ
ること,また,乙10の体裁のものは,寺田組が昭和61年1月8日に「株式会社
寺田機工」に商号変更をした後に使用に供されていたところ,これらの営業案内の
「施工実績」欄に記載された工事中,神戸地方裁判所平成7年(ワ)第290号事
件における調査嘱託に対する回答書(乙11-2)によって工事が確認されたもの
については,同回答書の内容とほぼ一致していることが認められる。そして,いず
れも自社の営業内容を紹介するために取引先等に頒布されたこれらの営業案内に,
殊更,虚偽の事実を記載する理由は見いだし難いから,「甲第13号証(注,本訴
甲7)のパンフレットに記載された事項はほぼ正確と認められ,少な
くとも奈良県吉野郡川上村立東小学校新築工事における杭打工事においてTR-1
51搭載型杭打機が用いられたことが十分に認められ,発行者,発行日が不明であ
ることのみをもって,記載された写真の内容や,記載事項すべてが信頼できないと
することはできない」(審決謄本13頁第3段落)とした審決の説示は,首肯する
に足りる。また,上記調査嘱託書に対する回答書に基づき,東小学校新築工事にお
ける杭打ち工法の実施時期が,本件特許出願前の昭和56年12月~昭和57年2
月であるとした審決の認定(審決謄本11頁(ウ))を覆すに足りる証拠はない。
(2)原告は,上記回答書によれば,「施工実績」に記載された工事中,東小学
校新築工事,南海電気鉄道株式会社の「天見駅複線化工事の基礎杭打ち工事」,阪
急電鉄株式会社の「宝塚線中山駅地下駅舎化工事」及び「宝塚線池田駅付近連続立
体交差工事」については寺田組が工事をした旨の記載はなく,矛盾しているとも主
張するが,工事を施工した下請業者のすべてが回答書に記載されたわけではないか
ら,この点は,上記の認定及び判断を左右するものではない。
(3)原告は,寺田組が東小学校新築工事において,TR-151により行った
杭打ち工法は,取消事由1記載のとおりホイールクレーン車を用いた従来工法によ
る杭打工法であると主張するが,TR-151は,起伏シリンダのピストンの両側
に圧力油を供給し,倒伏時にはブーム及びアースオーガーを牽引する機能を有し,
ブームの先端でアースオーガー装置を加圧するものであり,本件発明の杭打ち工法
とTR-151による杭打ち工法とは同じであることは上記1の(1)のとおりである
から,原告の上記主張は失当である。
(4)原告は,東小学校新築工事は,その工事現場は工事関係者以外は出入りで
きる場所ではなく,また,工事関係者以外は近づくことが許される状況になく,か
つ,地形的にも直接見ることができにくい場所であったから,不特定人がその使用
状況を容易に知り得る状況の下で実施されたということはできないと主張する。
  乙9及び甲7の5頁の上欄左側の写真によれば,TR-151を用いた東
小学校新築工事のための杭打ち作業は,運動場のような場所の一画で行われ,上記
作業が他から見えないようにする措置も何ら採られていないことが認められるか
ら,上記作業は,不特定人により認識され得る状態で実施されたものと優に推認す
ることができる。E作成の平成14年11月12日付け調査報告書(甲8)には,
「3.調査結果 (1)昭和56年12月から昭和57年2月にかけて行われた奈
良県吉野郡川上村立東小学校新築工事は,不特定人がその工事の状況を容易に知り
うる状況下で行われたものではない。 4.理由 (1)別紙の写真1,2及び3
は,当時村民の集落の道路,住居から現在の東小学校を展望したものであるが,樹
木,地形の関係で全くみることができない。 (2)別紙の当時の地図,当時の航
空写真から理解されるように,東小学校はダムの建設に伴う移築工事であり,山道
以外に道路もない山の上に新築されたものであり,工事関係者以外は出入りする場
所ではなかった」と記載されている。しかしながら,上記理由(1)については,
工事現場が,道路,住居から見えないとしても,上記作業が他から見えないように
する措置は何ら採られていないことは上記のとおりであるから,上記推認を覆すに
足りない。また,理由の(2)については,甲8の4頁の「川上東小学校に係る調
査報告」には,「1.昭和55年頃より川上第一小学校・川上第二小学校・川上第
三小学校を廃止し,川上西小学校・川上東小学校として整理統合し,川上第三小学
校を解体し跡地に,校舎・運動場を新築し川上東小学校として,昭和58年4月に
開校した」と記載されており,この記載によれば,川上東小学校は,川上第三小学
校の跡地に新築され開校されたものであって,小学校が山道以外に道路もない山の
上にあったとは認め難いから,東小学校新築工事の現場が,工事関係者以外は出入
りする場所ではないと認めることもできない。原告の上記主張は採用の限りではな
い。
(5)以上検討したところによれば,原告の取消事由2の主張も理由がない。
3 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り
消すべき瑕疵は見当たらない。
   よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとお
り判決する。
     東京高等裁判所第13民事部
         裁判長裁判官 篠  原  勝  美
    裁判官 岡  本     岳
    裁判官 早  田  尚  貴

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