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裁判例


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          主     文
1 平成15年11月9日施行の第43回衆議院議員総選挙に際して行われた衆議
 院(小選挙区選出)議員の選挙における被告の当選は,これを無効とする。
2 被告は,本判決確定の時から5年間,宮城県第1区において行われる衆議院(
 小選挙区選出)議員の選挙において,候補者となり,又は候補者であることがで
 きない。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
          事     実
第1 請求の趣旨
 主文同旨
第2 当事者の主張
1 請求原因
(1)被告の当選
  被告は,平成15年11月9日施行の第43回衆議院議員総選挙に際して行わ
 れた宮城県第1区の衆議院(小選挙区選出)議員選挙(以下「本件選挙」という。)
 に民主党公認候補として立候補して当選し,同月12日,宮城県選挙管理委員会
 からその旨告示され,現在,衆議院議員として在職中の者である。
(2)組織的選挙運動
  情報産業労働組合連合会(以下「情報労連」という。)は,エヌ・ティ・ティ
 労働組合(以下「NTT労組」という。)等の加盟労働組合により構成される産
 業別労働組合であり,その地方組織である情報労連宮城県協議会(以下「情報労
 連宮城県協」という。)は,Aが議長,Bが事務局長を務め,その構成員の約9
 割がNTT労組東北総支部の構成員で占められている。また,NTT労組中央本
 部は,いわゆるエヌ・ティ・ティグループの各企業ごとに組織されるNTT労組
 東日本本部,同西日本本部等により構成され,NTT労組東日本本部の下部組織
 であるNTT労組東北総支部は,東北6県を統括する総支部であって,宮城県内
 5分会及び宮城県外8分会から構成されている。NTT労組東北総支部は,Aが
 執行委員長,Cが副執行委員長,Dが事務局長を務め,その他の執行機関として,
 これら三役を含む常任執行委員8名から構成される常任執行委員会がある。
  そして,本件選挙において,情報労連宮城県協,NTT労組東北総支部及び同
 総支部が加盟するNTT労組宮城県グループ連絡協議会(以下「NTT労組宮城
 県グル連」という。)は,Aがこれらの各選挙対策本部すべての本部長に,Dが
 NTT労組東北総支部の選挙対策本部の事務局長に,Bが情報労連宮城県協選挙
 対策本部の事務局長に,CがNTT労組東北総支部の選挙対策本部の副本部長及
 びNTT労組宮城県グル連の選挙対策本部の事務局長にそれぞれ就任した上,被
 告のために連携して組織的な選挙運動を行った(以下,情報労連宮城県協,NT 
 T労組東北総支部及びNTT労組宮城県グル連を中心として連携した選挙運動組
 織を「本件組織」という。)。
(3)被告と本件組織総括者Aとの意思の連絡
  被告は,平成12年6月に施行された衆議院議員総選挙に民主党公認候補とし
 て宮城県第1区から立候補して当選し,来るべき総選挙においても同党から立候
 補して再選を果たす決意をしていたところ,同党は,平成15年8月12日,次
 期総選挙において,被告を同区の公認候補者とすることを発表した。
  そして,被告は,平成15年8月18日開催の民主党国会議員とこれを支持す
 る労働組合との意見交換会において,Aらに対し本件選挙の応援を要請し,同月
 27日及び28日開催のNTT労組東北総支部宮城県内分会の定期総会において
 ,Aらに対し本件選挙の応援を要請し,同月29日開催の情報労連宮城県協定期
 大会において出席者に本件選挙の応援を依頼し,同年10月3日,情報労連及び
 NTT労組中央本部と政策協定を交わし本件選挙の推薦候補となり,同月6日,
 Aに対し情報労連宮城県協及びNTT労組東北総支部による本件選挙の応援を要
 請し,その応諾を受け,同月12日の被告の選挙事務所開きにおいて,AからN
 TT労組として応援する旨の挨拶を受け,同月14日の情報労連宮城県協及びN
 TT労組宮城県グル連の合同会議において,Aに対し本件選挙の応援を要請し,
 その応諾を受けた。
  また,Aは,被告の選挙対策本部の副本部長に就任したが,このほか,Bが同
 本部の事務局次長に就任した。
(4)Dの組織的選挙運動管理者等該当性
  Dは,本件選挙において,NTT労組東北総支部の常任執行委員会を母体とす
 る選挙対策本部の事務局長として,同本部の体制策定及び各常任執行委員の役割
 分担を計画立案し,本件組織の関係労働組合を統括した上,被告の選挙対策本部
 に派遣されたBらと連絡を取りながら,被告の選挙事務所開き(平成15年10
 月12日),総決起大会(同月26日)及び選挙演説会(同月28日)への組合
 員の動員を同総支部宮城県内各分会等の役員に指示し,被告の選挙事務所ないし
 被告の選挙対策本部遊説部へ組合員計3名を派遣したほか,同総支部の常任執行
 委員・企画部長であるEを責任者として,同総支部F分会に電話で有権者に対し
 被告への投票を依頼する選挙運動(以下「本件電話戦術」という。)を担当させ
 るなど,各常任執行委員が役割を分担して本件選挙に取り組むこととし,宮城県
 第1区の選挙運動方針等を決定した。
(5)Dの処罰
  Dは,平成16年3月31日,仙台地方裁判所において,被告に本件選挙で当
 選を得させる目的で,ほか2名と共謀の上,まだ立候補届出及び衆議院名簿の届
 出のない平成15年10月17日ころ,情報労連東北会館内NTT労組東北総支
 部等において,被告の選挙運動者である株式会社エヌ・ティ・ティ・ソルコ(以
 下「NTTソルコ」という。)東北支店長Gらに対し,被告及び民主党への投票
 を電話により依頼する要員(本件電話戦術の架電担当者)を確保して派遣する選
 挙運動を依頼し,その報酬として,Gらが勤務する同支店に現金81万4000
 円を支払う旨の意思表示をし,もって,選挙運動者に対し,特殊の直接の利害関
 係を利用して誘導して,公職選挙法(以下単に「法」という。)221条1項2
 号の罪を犯したとして,懲役2年執行猶予4年の刑に処せられ,その後,控訴(
 仙台高等裁判所平成16年7月26日判決)及び上告(最高裁判所平成16年1
 2月21日第3小法廷決定)がいずれも棄却されたため,仙台地方裁判所の判決
 (以下「本件刑事判決」という。)は,平成16年12月28日,確定した。
(6)要約
  よって,被告は,本件選挙につき,法251条の3第1項所定の組織的選挙運
 動管理者等が法221条1項2号所定の罪を犯し刑に処せられたものであるから
 ,検察官である原告は,被告に対し,法211条1項に基づき,本件選挙におけ
 る当選の無効及び宮城県第1区の衆議院(小選挙区選出)議員選挙における5年
 間の立候補禁止を求める。
2 請求原因に対する認否
(1)請求原因(1)の事実は認める。
(2)請求原因(2)の第1段の事実及び第2段のうち,Aが情報労連宮城県協及びN
TT労組宮城県グル連の各選挙対策本部の本部長に,Bが情報労連宮城県協の選
挙対策本部の事務局長に,CがNTT労組宮城県グル連選挙対策本部の事務局長
 にそれぞれ就任した事実は認め,その余の事実は知らない。また,後記3(2)ア
のとおり,本件組織が法251条の3第1項所定の「組織」に該当する旨の主張
は争う。
(3)請求原因(3)の事実は認める。ただし,後記3(2)イのとおり,請求原因(3)の
 事実が法251条の3第1項所定の「意思を通じ」に該当する旨の主張は争う。
(4)請求原因(4)のうち,被告の選挙事務所開き(平成15年10月12日),総
決起大会(同月26日)及び選挙演説会(同月28日)にNTT労組東北総支部
 の組合員が参加し,被告の選挙事務所ないし被告の選挙対策本部遊説部へ同総支
部の組合員計3名が応援に来た事実は認め,その余の事実は否認する。また,後
 記3(2)ウのとおり,Dが法251条の3第1項所定の「組織的選挙運動管理者
 等」に該当する旨の主張は争う。
(5)請求原因(5)の事実は認める。ただし,後記3(3)のとおり,本件刑事判決並
 びにこれを是認した仙台高等裁判所判決及び最高裁判所決定は法221条1項2
 号の解釈を誤っており,これらを前提に被告の当選無効等につき判断することは
 許されない。
3 被告の主張
(1)法251条の3の違憲無効
  法251条の3(いわゆる新連座制)は,国民が自ら国家意思の形成に参与す
 るという国民主権(憲法前文,1条)の要請に基づいて保障された公務員の選定
 罷免権及び立侯補の自由(憲法15条1項)並びに議員の地位(憲法45条,4
 6条,50条,51条)という議会制民主主義の根幹に関わる憲法秩序において
 最重要の権利を制約するものであるから,違憲審査基準としては厳格な基準によ
 るべきであり,立法目的が正当であり,その規制手段が立法目的を達成するため
 に必要かつ最小限度のものでなければならない。仮に,違憲審査基準として合理
 性の基準によるとしても,厳格な合理性の基準によるべきである。また,法25
 1条の3の科す制裁は,候補者本人は,他人の犯罪行為によって同人の刑事手続
 に一切関与することなく議員としての身分を失うばかりか,その後5年間にわた
 って立侯補も禁止されるものであって,近代法の大原則である個人責任の原則を
 否定しかねない過酷なものであるから,憲法31条により刑罰法規と同様に規定
 の明確性が求められるべきであり(明確性の原則),具体的には,通常の判断力
 を有する一般人の理解において,具体的場合に当該行為がその適用を受けるもの
 か否かの判断を可能ならしめるような基準が読みとれるかとの判断基準によるべ
 きである。
  これを本件についてみると,法251条の3は,公明かつ適正な公職選挙を実
 現するため,侯補者等に選挙浄化義務を課し,これを怠ったときは,侯補者等個
 人を制裁し,選挙の公明及び適正を回復するとの趣旨で設けられたものであり,
 その立法目的は一応正当かつ合理的であるが,その規制手段を定める法251条
 の3所定の「組織的選挙運動管理者等」,「組織」,「意思を通じ」及び「相当
 の注意」の各要件は極めて暖昧かつ抽象的である。すなわち,そこにいう「組織」
 は,選挙運動のために組織されたものである必要があるか,ある程度の規模や組
 織としての継続性が必要か,既存の組織の一部で足りるか,指揮命令系統が存在
 していることが必要か等の点において不明確であり,「意思を通じ」は,選挙運
 動が組織により行われることについて相互に了解し合うことで足りるのか,侯補
 者等が組織の具体的な名称や範囲,組織の構成,構成員,その組織により行われ
 る選挙運動の在り方,指揮命令系統等について認識を有していることを要するか
 等の点において不明確である。また,「組織的選挙運動管理者等」は,組織とし
 て行われる選挙運動において,どのような役割を果たした人間がこれに該当する
 のか不明確であり,組織の上層部から末端の責任者まで幅広く適用されるおそれ
 がある。
  さらに,「相当の注意」については,侯補者等がどこまでの注意義務を果たせ
 ば相当の注意を怠らなかったことになるのかにつき,一般の国民の予測可能性を
 担保し得ない広汎かつ漠然とした規定であるといわざるを得ない。このように法
 251条の3所定の各要件が曖昧かつ抽象的であることは,捜査当局の恣意的な
 運用を許すことにもなる。
  以上のとおり,法251条の3の規制対象及び免責事由は暖昧かつ漠然として
 おり,立法目的を達成するための手段として必要かつ最小限度のものとは到底い
 えず,必要かつ合理的なものともいえない。
  したがって,法251条の3は,国民主権(憲法前文,1条)の要請に基づき
 公務員の選定罷免権及び立侯補の自由を保障した憲法15条1項並びに議員の地
 位を保障した憲法45条,46条,50条,51条に反し,また,通常の判断力
 を有する一般人の理解において,具体的な行為がその適用を受けるか否かの判断
 が困難であって,憲法31条にも反するから,違憲である。
(2)法251条の3の合憲限定解釈
  仮に,法251条の3自体が違憲でないとしても,同条は,憲法の趣旨と調和
 するように限定的に解釈されなければならない。すなわち,上記(1)のとおり,
 法251条の3が主権者たる国民の公務員選定罷免権及び立侯補の自由(憲法1
 5条1項)及び議員の地位(憲法45条,46条,50条,51条)に対する重
 大な規制であり,かつ,個人責任の原則の重大な例外であることにかんがみ,そ
 の適用は,侯補者本人に帰責することが,公職選挙の公明及び適正の保持の観点
 から妥当な範囲に限定されるべきであるし,また,選挙犯罪は,自然犯的な犯罪
 類型と異なり,規定が存するゆえに違法となるとの側面が強いのであるから,法
 の適用が,国民の視点から考えてより予測可能性が高い範囲に限定されなければ
 ならない。
ア「組織」について
  法251条の3の立法趣旨は,選挙運動を組織的に行い,その結果,当選とい
 う成果を得ているのであれば,侯補者等に対し,組織を使って選挙運動をするに
 当たっては,組織が法に違反することのないよう侯補者等に選挙浄化の責任を負
 わせようというところにあるから,同条1項所定の「組織」は,単に「特定の公
 職の侯補者等を当選させる目的をもって,複数の人が役割を分担し,相互の力を
 利用し合い,協力し合って活動する実態をもった人の集合体及びその連合体」で
 は足りず,特定の侯補者の当選を得せしめる目的の下にその選挙運動について指
 揮命令監督系統があり,選挙運動のために相互に役割分担がされ,侯補者等が選
 挙犯罪を防止するために相当な注意をすることが可能な統一的人的結合集団であ
 ることが必要である。換言すれば,法251条の3第1項所定の「組織により行
 われる選挙運動」といい得るためには,特定の候補者等に当選を得せしめる目的
 の下に,相当多数の選挙運動員が一定の指揮命令監督に従い,その役割分担に応
 じて一定規模の選挙運動が行われることが必要である。
  これを本件についてみると,本件選挙において,被告の選挙対策本部が行った
 選挙運動は,公設第一秘書であるHが企画運営の責任者となり,トークライブを
 その柱に据えたボランティアグループ等によるイベント型選挙であって,法定葉
 書,政党ポスター,掲示板用ポスター及び法定ビラの作成は,Hが中心となりボ
 ランティアグループが行い,その配布等も,その大半をボランティアグループが
 行い,情報労連宮城県協が行ったのはわずか5,6パーセント程度であるし,N
 TT労組東北総支部が被告の選挙関係イベントに動員した組合員も,各分会に4
 00名弱ないし1100名が所属していたにもかかわらず,数名の役員のみであ
 った。また,被告が立候補した宮城県第1区の労働組合側窓口は情報労連宮城県
 協のBであり,被告の選挙対策本部とDが所属するNTT労組東北総支部とは直
 接の繋がりがなく,NTT労組東北総支部は,いかなる選挙運動を行うかにつき
 被告の選挙対策本部と相談せず,あくまでも独自に必要と判断する選挙運動を行
 いつつ,動員要請等に可能な範囲で協力するとの方針をとっていたにすぎない。
 このように,本件組織の中心となった情報労連宮城県協又はNTT労組東北総支
 部が行った選挙運動は,到底,組織的な選挙運動とはいえず,また,情報労連宮
 城県協及びNTT労組東北総支部は,被告又はその選挙対策本部の指揮監督等を
 受け入れる態勢にはなっていなかった。
  したがって,本件組織を法251条の3第1項所定の「組織」ということはで
 きない。
イ「意思を通じ」について
  法251条の3は,侯補者等に選挙浄化義務を課す侯補者本人帰責型の連座制
 であるから,同条1項所定の「意思を通じ」は,候補者等が選挙犯罪の防止策を
 とることの前提として,侯補者等において,組織の具体的な構成,それにより行
 われる選挙運動の内容,指揮命令系統等について認識及び了解していることが必
 要不可欠である。
  これを本件についてみると,後記(4)のとおり,被告は,NTT労組中央本部
 副委員長I等から,労働組合ではコンプライアンスを徹底している旨の説明は受
 けていたが,本件電話戦術が有償で人員派遣を受けて実施されていることを知る
 よしもなく,NTT労組東北総支部においてどのような構成で電話戦術を行うか,
 その指揮命令系統はどのようなものか等については全く報告を受けておらず,認
 識も了解もしていなかった。
  したがって,被告がAと「意思を通じ」ていたということはできない。
ウ「組織的選挙運動管理者等」について
  法251条の3は,侯補者等に選挙浄化義務を課す侯補者本人帰責型の連座制
 であるから,同条1項所定の「組織的選挙運動管理者等」は,単に「①選挙運動
 組織の一員として選挙運動全体の計画の立案又は調整を行う者を始め,ビラ配り,
 ポスター貼り,個人演説会,街頭演説等の計画を立てる者,その調整を行う者等
 で,いわば司令塔の役割を担う者,②選挙運動組織の一員としてビラ配り,ポス
 ター貼り,個人演説会,街頭演説等への動員,電話作戦等に当たる者の指揮監督
 をする者等で,いわば前線のリーダーの役割を担う者,③選挙運動組織の一員と
 して,選挙運動の分野を間わず,①②以外の方法により選挙運動の管理を行う者,
 例えば,選挙運動従事者への弁当の手配,車の手配,個人演説会場の確保を取り
 仕切る等選挙運動の中で後方支援活動の管理を行う者」に該当するだけでは足り
 ず,少なくとも組織の根幹に関わり,その在り方を決定し,多数人を指揮する立
 場にあり,かつ,選挙運動において一定の重要な地位を占めるものでなければな
 らない。そもそも,被告は,本件選挙において,10万6821票を得て,次点
 に2万2256票もの大差をつけて,主権者である国民の圧倒的な支持を得て当
 選したものであり,組織内の重要な地位になく,被告の指揮監督が事実上機能し
 得ない位置にある者の選挙犯罪により,その議員としての地位を失わせることは,
 立侯補の自由のみならず,これと表裏の関係にある国民の公務員選定罷免権及び
 議員の地位に対する重大な侵害である。いかに公職選挙の公明及び適正の保持が
 必要であったとしても,法251条の3の趣旨が侯補者の選挙浄化に向けた努力
 義務違反に対する制裁であるとすれば,これが事実上及び得ない末端の関係者あ
 るいは実質的に組織外にある者については規制の対象外というべきであり,「組
 織的選挙運動管理者等」たりえない。また,このような末端の関係者の選挙犯罪
 については,法251条の3の究極の目的とされる選挙の公明及び適正を害する
 ことは通常考えられず,特別予防の見地からも,侯補者本人が指揮監督ができず
 違反が予測不可能である以上,抑制は期待できないことから,連座制を適用する
 必要性は乏しく,他方で,民意の忠実な反映及び客観的秩序維持の観点からは,
 むしろ連座制の適用対象とせず選挙結果を維持することが必要というべきである。
 立法者が想定した「組織的選挙運動管理者等」も,選挙運動に重要な立場で,具
 体的かつ積極的に運動に取り組んでいる者である。
  なお,法251条の3第2項3号に免責事由として侯補者等が選挙犯罪防止の
 ため相当の注意を怠らなかった場合が規定されているが,仮に,これを高度の注
 意義務の遵守と解するのであれば,「組織的選挙運動管理者等」は,少なくとも,
 侯補者等にこれを怠ったとき重大な結果を引き受けさせることが妥当な範囲の関
 係者にとどめなければならない。
  これを本件についてみると,被告の選挙対策本部の組織体制及び役割分担は,
 被告及びHが中心となって決定されたもので,情報労連宮城県協及びNTT労組
 東北総支部は支援団体の1つに位置づけられるにすぎず,また,前記アのとおり,
 被告の選挙対策本部の選挙運動はボランティアグループを中心に行われ,情報労
 連宮城県協及びNTT労組東北総支部の果たした役割は小さかった。そして,D
 は,NTT労組東北総支部の事務局長であり,その選挙対策本部事務局長である
 が,宮城県第1区の労働組合側窓口又は被告の選挙対策本部の役職を担当してい
 ないことはもちろん,被告の選挙事務所へ来たのも4階の遊説部へ2回各15な
 いし20分程度で,Hとも会話をしたことがないなど,被告の選挙対策本部が行
 う選挙運動において一定の重要な地位を占めていないし,NTT労組東北総支部
 内部における具体的な分会への指揮要請はEが行っていたのであるから,「組織
 的選挙運動管理者等」には該当しない。
(3)本件刑事判決の法解釈の誤り
  本件刑事判決は,Dが,NTTソルコ東北支店に対し,有償で電話戦術の人員
 の派遣を依頼したとして,法221条1項2号の利害誘導罪に該当するというも
 のであるが,Dに対する同条の適用自体,罪刑法定主義及び明確性の原則(憲法
 31条)に照らして違法である。本件刑事判決の上告審は,職権で,①有償によ
 る本件電話戦術の人員の派遣行為自体が「選挙運動」に該当し,それに従事する
 支店長らも「選挙運動者」に該当する,②NTT労組役員らがNTTソルコ東北
 支店長らに対し本件電話戦術の人員の派遣行為の報酬として金員を支払う旨の意
 思を表示したことが,労働組合と支店との金員支払関係という「特殊の直接利害
 関係」を利用して選挙運動者に対し誘導をしたということができる旨判示したが,
 これは「選挙運動」及び「特殊の直接利害関係」の拡張解釈であり,許されない。
  まず,「選挙運動」とは,「①特定の選挙において,②特定の侯補者の当選を
 得又は得しめるために,③選挙人に働きかける行為(選挙運動の3要素)」をい
 い,選挙運動員となることの内交渉等は「選挙運動」の準備行為であり,「選挙
 運動」そのものではないから,電話戦術の人員を確保し派遣するという極めて労
 務的かつ準備的な行為は「選挙運動」に該当しない。また,利害誘導罪は,利害
 関係を相手方である選挙人,選挙運動者又はこれと関係のある第三者のために利
 益に発生,変更,消滅させることを好餌としてその投票又は選挙運動に対する作
 為,不作為を誘引しようとする行為を罰することにより選挙の自由公正を保護し
 ようというものであり,事前買収罪と同じく広義の買収罪に属するとともに,選
 挙の事前にされることを要件とするが,事前買収罪が金銭物品等の利益供与,職
 務供与,供応接待を手段とするのに対し,利害誘導罪は選挙人又は選挙運動者に
 関する特殊かつ直接の利害関係を利用する点においてこれと異なるのであって,
 電話戦術の人員派遣を有償で依頼する行為は,「特殊の直接利害関係」を利用し
 て誘導する行為には該当しない。
  したがって,このような意味において,本件刑事判決を前提として被告に対し
 連座制を適用することは許されない。
(4)法251条の3第2項3号の主張
  法251条の3第2項3号所定の「相当の注意」は,社会通念上それだけの注
 意があれば,組織的選挙運動管理者等が買収行為等の選挙犯罪を犯すことはない
 だろうと期待し得る程度の注意義務をいい,その内容は,組織的選挙運動管理者
 等が買収等をしようとしても容易にできないだけの選挙組織上の仕組みを作り,
 維持することであり,具体的には,①組織的選挙運動管理者等に役割ないし権限
 が過度に集中しないように留意し,②選挙資金の管理及び出納が適正明確に行わ
 れるように十分に心掛け,その上で,③対象罰則違反の芽となるような事項につ
 いても,この防止を図るために候補者等を中心として常時相互に報告,連絡及び
 相談し合えるだけの態勢をとっていた場合等とされるのである。また,侯補者等
 がこの注意義務を怠らなかったと評価されるために必要な措置の内容は具体的な
 事情の下での結果発生の予測可能性及び結果回避可能性の程度によって決せられ
 るもので,選挙運動の実際に照らして考えると,選挙運動組織は,侯補者等を中
 心として同心円的な広がりをもつものであるから,侯補者等がとるべき措置の内
 容は,組織的選挙運動管理者等の①選挙運動体の中における地位,役割,②侯補
 者等との具体的な関わり方,侯補者等との距離等の具体的な事情により,侯補者
 等の側による直接的な措置を要する場合から組織の総括者等を介した間接的な措
 置でよい場合までの間で,相対的に決せられることになる。
  これを本件についてみると,被告は,自らの選挙対策本部について,①複数の
 事務局次長を置くとともに,実働部隊のトップにHを据え,ボランティアグルー
 プ及び後援会を中心に役割分担をし,地元の地方議会議員及び労働組合関係者に
 も協力を仰ぐなど権限分散を図り,②選挙資金の出納責任者にボランティアグル
 ープ代表者であるJを据え,細かな入出金はH及び被告の子で私設秘書を務める
 Kに管理させて,不正な収入及び支出がないよう指示をし,報告を受けるように
 し(ちなみに,本件電話戦術に係る人員派遣の費用はNTT労組東北総支部の裏
 口座から支出予定であったものであり,被告として知りようのないものである。)
 ,③具体的な選挙運動の内容,方法等につき,選挙管理委員会への問合せも含め
 てHに指示をし,報告を受けながら,これを進めるとともに,H,ボランティア
 グループ等と法に違反しない選挙運動を行うことの共通認識を確認し,情報を共
 有できるよう要請するなどしていた。このほか,被告は,④普段から,政治資金
 集めのパーティーを催さず,企業献金を受けず,前回(平成12年6月)の総選
 挙以降,懇談会の開催等を通じて支援者の輪を広げてボランティアグループの組
 織を充実させ,選挙期間中は,ウグイス嬢及び運転手にのみ報酬を支払い,告示
 前の選挙活動も含めアルバイトを一切利用せず,ボランティアには交通費すら支
 払わず,懇談会も会費制で実施し,来訪者に自らの負担で飲食をしてもらうため
 被告事務所に自動販売機等を設置するなど,金権とは無縁な姿勢を徹底し,⑤平
 成15年1月16日開催の民主党主催の講演会及び同年6月6日開催の民主党一
 期の会主催の研修に公設第二秘書であるLを,同年5月23日開催の民主党主催
 の候補者研修会にH及びKをそれぞれ参加させるとともに,その後,被告も含め
 勉強会を開きその結果を共有するとともに,Hらに法に関する書物を買い与えて
 勉強させた。
  ところで,前記(2)ア及びウのとおり,本件選挙において被告の選挙対策本部
 が行った選挙運動はボランティアグループを中心としたイベント型選挙であり,
 いわゆる労組丸抱えの選挙ではなく,Dも,選挙運動において一定の重要な地位
 は占めていない。しかも,被告がDと連絡を取り合ったり,電話戦術につき相談
 等をしたこともない。特に,被告にとっては,NTT労組東北総支部は,支援を
 受けている組織の1つにすぎず,その組織の内部に介入して選挙運動の方針を決
 定したり,その内容を逐次チェックしたりすることは事実上不可能である。した
 がって,NTT労組東北総支部から支援を受けるに当たって,コンプライアンス
 を徹底しているか,専門家による勉強会を開くなど選挙犯罪を犯さないように努
 力を講じているかにつき確認することで,相当の注意を尽くしたというべきであ
 る。そして,被告は,平成15年9月26日,NTT労組から支援を取り付ける
 に当たり,NTT労組中央副委員長Iから「組合としては,弁護士などの専門家
 を招いた勉強会をするなどコンプライアンスを徹底している。」との説明を受け,
 同年10月3日の政策協定の際にも,Aも同様の姿勢であることを確認し,同月
 6日に情報労連宮城県協を訪ねた際にも,本件選挙において適正な選挙運動を行
 うことを関係者に確認した。現に,NTT労組東日本本部は,平成14年10月
 28日,東京會舘において,専門家を招いた法の勉強会を開催しているが,その
 中で配布されたレジュメにもボランティアによらない電話戦術の危険性につき指
 摘があり,Dもこの勉強会に参加していたし,前回の総選挙では,NTT労組東
 北総支部の組合員が被告の選挙対策本部で実施していたボランティアによる電話
 戦術を指導したり,自らボランティアとして架電を担当したりし,本件選挙にお
 いても,Bが,被告の選挙対策本部内でボランティアが買収等の選挙犯罪をしな
 いよう注意を徹底し,電話戦術についてもスクリプトに従って法に違反しないよ
 うに文言等を細かく注意していた。それにもかかわらず,NTT労組東北総支部
 では,組合員の政治離れと他の組織内候補者の応援のため,本件電話戦術にボラ
 ンティア要員を確保できず,法に違反し連座制により被告が失職の危険にさらさ
 れる可能性があることを十分認識しながら,急きょ,有償で人員派遣を受けてこ
 れを実施し,D及びこのことを知ったBは,その違法性を認識しつつ,被告,H
 等にこれを隠していた。そのほか,被告が平成15年10月29日に本件電話戦
 術を展開する現場に立ち寄った際も,架電担当者が被告に激励の声を掛けるなど
 ボランティア支援者が候補者を喜んで迎え入れるという雰囲気に満ちあふれ,本
 件電話戦術の通話料金等も被告宛てに請求されていたので,被告及びその選挙対
 策本部の構成員は,本件電話戦術が有償で人員派遣を受けて実施されていること
 を知るよしもなかった。
  以上のような,本件選挙において被告が講じた措置,被告の選挙対策本部とN
 TT労組東北支部等との関係,被告とDとの距離,D,B等の労働組合関係者の
 背信性等にかんがみると,被告は,選挙犯罪が行われないようにできる限りの相
 当の注意を尽くしたというべきである。
  したがって,被告は,法251条の3第2項3号により免責されるというべき
 である。
(5)法251条の3第2項1号又は2号類推適用の主張
  法251条の3第2項は,連座対象者による所定の選挙犯罪が,「おとり行為」
 (1号)又は「寝返り行為」(2号)によって行われた場合を免責事由として規
 定するが,これは,そのような場合にまで当選無効等の効果を生じさせるのは,
 候補者等にとって酷に過ぎ,また,対立候補者等を利することになって正義に反
 すると考えられることによる。そうであれば,仮に「おとり行為」又は「寝返り
 行為」に直接該当しない場合であっても,それと同視できるだけの事情があり,
 それによって当選無効等の効果を生じさせることが候補者等にとって酷に過ぎる
 と認めるに足る相当な理由があるときには,法251条の3第2項1号又は2号
 の類推適用がされるべきである。
  これを本件についてみると,上記(4)のとおり,被告は,NTT労組中央本部
 副委員長I等からNTT労組等におけるコンプライアンス徹底の方針の説明を受
 け,Bから法令遵守の姿勢を見せられていたが,D及びBが敢えて隠していたた
 め,被告及びその選挙対策本部の構成員は,本件電話戦術が有償で人員派遣を受
 けて実施されていることを知るよしもなかった。また,NTTソルコ東北支店長
 Gは,被告の対立候補であったMが所属する自由民主党の党員であり,違法性を
 認識しつつ本件電話戦術に係る人員派遣の依頼を承諾した。
  上記事実によれば,被告はD及びBに寝返られ,また,違法な本件電話戦術は
 Gのおとり行為により誘発されたといって差し支えないので,被告には,「おと
 り行為」又は「寝返り行為」と同視できる事情があるというべきであり,被告に
 当選無効等の効果を生じさせることが酷に過ぎると認めるに足る相当な理由があ
 ることは明らかである。
  したがって,被告は,法251条の3第2項1号又は2号の類推適用により免
 責されるというべきである。
4 被告の主張に対する原告の反論
  被告の憲法解釈及び法解釈に関する主張は争う。
  被告の法251条の3第2項3号に関する主張は,具体性を欠き,それ自体と
 して失当である。かえって,被告は,Aらとともに,本件電話戦術を展開する現
 場を激励に訪れたにもかかわらず,架電担当者の身分,報酬支払の有無等に関心
 を払って確認せず,また,本件電話戦術は被告の選挙対策本部が公示前から実施
 していた電話戦術の一部を本件組織に分担させたものであるにもかかわらず,事
 務局次長として同本部を事実上取り仕切っていたHにおいて,架電担当者に対す
 る報酬支払の有無等を確認せず,さらに,情報労連宮城県協の選挙対策本部の事
 務局長であり,被告の選挙対策本部の事務局次長として同本部を事実上取り仕切
 っていたBにおいても,遅くとも本件電話戦術開始の数日前には,これがNTT
 ソルコ東北支店から有償で人員派遣を受けて違法に実施されることを知りながら
 ,その指揮者であるD等にその中止を働き掛けなかったものであるから,被告が
 相当の注意を怠らなかったとは到底いうことができない。
  また,被告の法251条の3第2項1号又は2号類推適用に関する主張は,G
 が自由民主党員であるとしても,NTT労組東北総支部では,従前から電話戦術
 につきNTTソルコ東北支店から有償で人員派遣を受けることを繰り返しており
 ,本件電話戦術における人員派遣も,NTT労組東北総支部側の事情により発注
 されたもので,NTTソルコ東北支店から勧誘等があったわけではないので,失
 当である。
          理     由
1 請求原因について
  請求原因(1)の事実,同(2)の第1段の事実及び第2段のうち,Aが情報労連宮
 城県協及びNTT労組宮城県グル連の各選挙対策本部の本部長に,Bが情報労連
 宮城県協の選挙対策本部の事務局長に,CがNTT労組宮城県グル連選挙対策本
 部の事務局長にそれぞれ就任した事実,同(3)の事実,同(4)のうち,被告の選挙
 事務所開き(平成15年10月12日),総決起大会(同月26日)及び選挙演
 説会(同月28日)にNTT労組東北総支部の組合員が参加し,被告の選挙事務
 所ないし被告の選挙対策本部遊説部へ同総支部の組合員計3名が応援に来た事実
 並びに同(5)の事実は当事者間に争いがなく,証拠(甲1,2,8~12,15
 ~17,19,20,23,25,26,28~33,36,38~44,46,
 48,49,53~57,59,60,62,65,66,68,70~73,
 84,乙72,73,証人D,同B,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,同
 (2)のその余の事実(なお,被告のための選挙運動組織としては,他に,情報労
 連宮城県協が加盟する日本労働組合総連合会宮城県連合会が中心となって立ち上
 げ,Aが委員長,Bが事務局長をそれぞれ務める衆議院宮城1区選挙対策委員会
 があり,Bが,被告を支援する情報労連宮城県協その他の労働組合の窓口責任者
 を務めた。)及び同(4)のその余の事実が認められる(以上につき,法251条
 の3第1項の解釈に関する点を除く。)。
  なお,被告の主張には,原告が提出した書証のうちD,A,B,E等の検察官
 に対する供述調書の信用性に疑問があるとするかのような部分もあるが,証人D
 は,細かな表現振りはともかく,事実関係については捜査段階の供述に誤りはな
 い旨,証人Bは,捜査段階において,繰り返し聞かれても記憶に反する供述はし
 なかった旨それぞれ証言するし,現に,これら調書は,録取後に供述者に読み聞
 かせ,不正確なものは訂正の措置がとられている(甲10,12,39)など,
 その信用性を疑わせる点はない。かえって,証拠(甲84)によれば,特に,A
 及びDは,本件電話戦術が法に違反するとして捜査が開始されたと知り,三役以
 上が関係すると被告に連座制が適用になるおそれがあるとして,Gに対し虚偽の
 供述をするよう働き掛けた事実が認められ,この事実からすると,A及びDは,
 むしろ,検察官に対し被告に有利な方向で供述していた可能性すらないとはいえ
 ないのである。
2 被告の主張(1)について
  被告は,法251条の3が,憲法前文,1条の要請に基づき公務員の選定罷免
 権及び立侯補の自由を保障した憲法15条1項並びに議員の地位を保障した憲法
 45条,46条,50条,51条に反し,また,通常の判断力を有する一般人の
 理解において,具体的な行為がその適用を受けるか否かの判断が困難であって,
 憲法31条に反するので,違憲無効である旨主張する。
  しかしながら,まず,被告が憲法前文,1条の要請に基づく憲法15条1項,
 31条違反を主張する点については,法251条の3の規定する新連座制は,連
 座の対象者を選挙運動の総括主宰者等重要な地位の者に限っていた従来の連座制
 ではその効果が乏しく選挙犯罪を十分抑制することができなかったという我が国
 における選挙の実態にかんがみ,公明かつ適正な公職選挙を実現するため,候補
 者等に組織的選挙運動管理者等が選挙犯罪を犯すことを防止するための選挙浄化
 の義務を課し,候補者等がこれを防止するための注意を尽くさず選挙浄化の努力
 を怠ったときは,候補者等個人を制裁し,選挙の公明及び適正を回復するという
 趣旨で設けられたものと解するのが相当である。法251条の3は,このように,
 民主主義の根幹をなす公職選挙の公明及び適正を厳粛に保持するという極めて重
 要な法益を実現するために定められたものであって,その立法目的は合理的であ
 る。また,上記規定は,組織的選挙運動管理者等が買収等の悪質な選挙犯罪を犯
 し禁錮以上の刑に処せられたときに限って連座の効果を生じさせることとして,
 連座制の適用範囲に相応の限定を加え,立候補禁止の期間及びその対象となる選
 挙の範囲も限定し,さらに,選挙犯罪がいわゆるおとり行為又は寝返り行為によ
 ってされた場合には免責することとしているほか,候補者等が選挙犯罪行為の発
 生を防止するため相当の注意を尽くすことにより連座を免れることのできるみち
 も新たに設けているのである。そうすると,このような規制は,これを全体とし
 てみれば,前記立法目的を達成するための手段として必要かつ合理的なものとい
 うべきであり(被告主張の立候補の自由等も非常に重要な権利であるが,その前
 提となる法251条の3の保護法益が憲法に根差す極めて重要なものであること
 に照らし,被告主張のような違憲審査基準は採用しない。),また,法251条
 の3所定の「組織的選挙運動管理者等」,「組織」,「意思を通じ」及び「相当
 の注意」の各文言は,後記3のとおり,その定義ないし字義及び上記の立法目的
 に照らし,不明確ないし抽象的とはいい難いから,法251条の3は,被告主張
 の憲法の条項に違反するものではない(最高裁昭和30年2月9日大法廷判決刑
 集9巻2号217頁,最高裁昭和37年3月14日大法廷判決民集16巻3号5
 30頁,最高裁昭和37年3月14日大法廷判決民集16巻3号537頁,最高
 裁平成8年7月18日第1小法廷判決集民179号739頁,最高裁平成9年3
 月13日第1小法廷判決民集51巻3号1453頁,最高裁平成9年7月15日
 第3小法廷判決集民183号823頁参照)。
  このほか,被告は憲法45条,46条,50条,51条違反も主張するが,こ
 れら規定は,国会が国権の最高機関として十全に機能するよう,国会議員の任期
 及び議員活動に関する特権を定めたものであって,国会議員の地位取得自体に関
 する権利を直接保障するものではないから,法251条の3がこれら憲法の規定
 の定めるなんらかの権利を規制するものということはできず,また,そのような
 規定にあらわれた国会議員の地位の重要性については,憲法前文,1条,15条
 1項,31条に関する上記判断において法251条の3の立法目的及びその手段
 の合理性に関して当然に考慮されているところである。
  以上のとおり,被告の法251条の3が違憲無効である旨の主張は採用できな
 い。
3 被告の主張(2)について
  被告は,法251条の3第1項所定の各要件につき合憲限定解釈をすべき旨主
 張するが,上記2のとおり,同条は憲法に違反するものではないから,これにつ
 き合憲限定解釈をする必要はない。
  もっとも,被告は,法251条の3第1項所定の各要件の解釈を争うので,以
 下,その解釈につき検討した上で,前記1で認定した事実が法251条の3第1
 項所定の各要件を充足しているか否かにつき判断する。
(1)「組織」について
  被告は,法251条の3第1項所定の「組織」は,特定の侯補者の当選を得せ
 しめる目的の下にその選挙運動について指揮命令監督系統等があり,選挙運動の
 ために相互に役割分担がされ,侯補者等が選挙犯罪を防止するために相当な注意
 をすることが可能な統一的人的結合集団であることが必要である旨主張する。
  しかしながら,法251条の3の字義及び前記立法目的にかんがみれば,同条
 1項所定の「組織」とは「特定の公職の侯補者等を当選させる目的をもって,複
 数の人が役割を分担し,相互の力を利用し合い,協力し合って活動する実態をも
 った人の集合体及びその連合体」をもって足り,必ずしも指揮命令監督系統等の
 存在は必要にならないと解される。
  この点,被告は,指揮命令監督系統等がなければ,候補者等は法251条の3
 に課せられた選挙浄化の責任を果たすことは期待できない旨主張するが,そもそ
 も小規模な選挙運動組織(選挙運動を行う構成員がさほど多くない組織)であれ
 ば,明確な指揮命令監督系統等が存在しないことも少なくないと思われるが,同
 条がこのような組織を規制の対象外としているとは到底考えられず(したがって,
 被告主張のように組織内に選挙運動員が相当多数存在する必要はない。なお,前
 掲最高裁平成9年3月13日第1小法廷判決参照),また,指揮命令監督系統等
 の利用は,選挙運動の適正確保のための1つの手段にすぎないのであって,これ
 がなければ,およそ適正確保が期待できないものではない。また,この点はさて
 おくとしても,法251条の3は,組織に指揮命令監督系統等がなければ選挙運
 動の適正を確保できないというのであれば,選挙運動のため指揮命令監督系統等
 を欠く組織の支援を取り付けようとする候補者等は,まずは,その組織に対し指
 揮命令監督系統等の確立を要請すべきであって,それができないのであれば,そ
 のような組織の支援を取り付けること,すなわち,「意思を通じ」ることは差し
 控えることも想定していると解される。結局,被告の主張は,法251条の3の
 立法目的を正確に理解せず,同条2項所定の「相当の注意」をいわば通り一遍の
 注意で足りるとする独自の見解を前提とする議論といわざるを得ない。
  以上を前提に,上記認定の請求原因(2)の事実をみると,後記5のとおり,被
 告の選挙対策本部自体が行う選挙運動はボランティアグループが中心となってい
 るなどの被告主張の事実が認められるとしても,本件組織が法251条の3第1
 項所定の「組織」に該当することは明らかであるし,さらに,付言するならば,
 本件組織がNTT労組東北総支部を主体とする既存の労働組合を母体とするもの
 であることのほか,前記1に認定の請求原因(4)の事実にあらわれた指揮命令の
 実態にもかんがみれば,現実に監督機能が効果を挙げていたか否かはともかく,
 被告が主張する指揮命令監督系統等も存する組織といって差し支えないというべ
 きである。
(2)「意思を通じ」について
  被告は,法251条の3第1項所定の「意思を通じ」は,その前提として,侯
 補者等において,組織の具体的な構成,それにより行われる選挙運動の内容,指
 揮命令系統等について認識及び了解していることが必要不可欠である旨主張する
 。
  しかしながら,法251条の3の前記立法目的にかんがみれば,同条1項所定
 の「意思を通じ」の前提としては,候補者等は,選挙運動のため支援を取り付け
 ようとする組織が,上記(1)に定義した同項所定の「組織」に該当するものであ
 ることを認識及び了解していることで足りるのであって,組織の具体的な構成,
 それにより行われる選挙運動の内容,指揮命令系統等を認識及び了解している必
 要はないと解される(前掲最高裁平成9年3月13日第1小法廷判決参照)。
  この点,被告は,候補者等が選挙犯罪の防止策をとる前提として,上記事項を
 認識及び了解していることが不可欠である旨主張するが,法251条の3は,選
 挙運動の適正確保のため上記事項を認識及び了解しておく必要があるというので
 あれば,選挙運動のため組織の支援を取り付けようとする候補者等は,まずは,
 その組織につき上記事項の実態を確認した上で,それに応じた選挙犯罪の防止策
 をとるべきことも想定していると解される。逆に,そのような認識及び了解がな
 い場合に候補者等が法251条の3の責任を免れると解するとすれば,組織の実
 態を具体的に確認した上で,その実態を踏まえて選挙運動の適正化に取り組んだ
 候補者等が,組織の総括者等の抽象的な言辞を軽信してその実態確認を怠り,選
 挙運動の適正確保を総括者等に任せ切りにしていた候補者等に比して,連座制の
 適用において不利益を被りかねないという極めて不合理な結果を招くことになる
 。結局,被告の主張は,やはり,法251条の3の立法目的を正確に理解せず,
 同条2項所定の「相当の注意」をいわば通り一遍の注意で足りるとする独自の見
 解を前提とする議論といわざるを得ない。
  以上を前提に,上記1に認定の請求原因(3)の事実をみると,被告が,選挙運
 動につき,本件組織が,上記(1)に定義した法251条の3第1項所定の「組織」
 に該当するものであることを認識及び了解した上で,これを構成する3つの組織
 すべての選挙対策本部長を務める総括者であるAと「意思を通じ」ていたことは
 明らかである。
(3)「組織的選挙運動管理者等」について
  被告は,法251条の3第1項所定の「組織的選挙運動管理者等」は,少なく
 とも組織の根幹に関わり,その在り方を決定し,多数人を指揮する立場にあり,
 かつ,選挙運動において一定の重要な地位を占めるものでなければならない旨主
 張する。また,被告は,候補者等自身が直轄する選挙対策本部との窓口となった
 り,その役職を務めるなど,これに直接的な関与をしていなければ,「組織的選
 挙運動管理者等」に当たらないかのような主張もする。
  しかしながら,法251条の3の定義及び前記立法目的にかんがみれば,同条
 1項所定の「組織的選挙運動管理者等」は,「①選挙運動組織の一員として選挙
 運動全体の計画の立案又は調整を行う者を始め,ビラ配り,ポスター貼り,個人
 演説会,街頭演説等の計画を立てる者,その調整を行う者等で,いわば司令塔の
 役割を担う者,②選挙運動組織の一員としてビラ配り,ポスター貼り,個人演説
 会,街頭演説等への動員,電話作戦等に当たる者の指揮監督をする者等で,いわ
 ば前線のリーダーの役割を担う者,③選挙運動組織の一員として,選挙運動の分
 野を問わず,①②以外の方法により選挙運動の管理を行う者,例えば,選挙運動
 従事者への弁当の手配,車の手配,個人演説会場の確保を取り仕切る等選挙運動
 の中で後方支援活動の管理を行う者」をいい,被告が主張するほど重要な立場な
 いし地位にある必要はないし,候補者等が直轄する選挙対策本部に直接的に関与
 している必要もないと解される(前掲最高裁平成9年3月13日第1小法廷判決
 参照)。
  この点,被告は,候補者等の選挙浄化に向けた努力義務が事実上及び得ない末
 端の関係者又は実質的に組織外にある者は,「組織的選挙運動管理者等」たりえ
 ない旨主張するが,上記定義に係る「組織的選挙運動管理者等」を,法251条
 の3の適用外の末端の関係者であるとか,実質的に組織外にある者と解するのは,
 やはり,上記(1)及び(2)において説示したのと同様の理由で,同条の立法目的を
 正確に理解せず,同条2項所定の「相当の注意」をいわば通り一遍の注意で足り
 るとする独自の見解を前提とする議論といわざるを得ない。
  また,被告は,本件組織が,被告を支援する多数の団体の1つにすぎず,その
 役割はさほど重要でないかのように主張するが,上記と同様の理由により,その
 ような事情は法251条の3の適用を妨げるものではなく,付言すれば,本件組
 織の宮城県第1区に対応する組合員数は2000名程度に上ること(証人Dの証
 言により認める。なお,本件組織の支援を取り付ける効果は,単に,被告が主張
 するようなその構成員が被告が直轄する選挙対策本部が行う選挙運動の業務に物
 理的に従事することにとどまるものではない。)のほか,当事者間に争いのない
 請求原因(2)第1段の事実及び同(3)の事実,殊に,被告が,本件組織の上部団体
 というべき全国規模組織である情報労連及びNTT労組中央本部と政策協定を交
 わした上,自らの選挙対策本部に,事務局次長以上の2つのポストを含む責任者
 等として,本件組織から複数の役員級を含む組合員の派遣を受けていた点に照ら
 せば,本件組織が多数の被告支援団体の1つであったとしても,その役割が重要
 でないともいい難い。
  このほか,被告は,被告が本件選挙において大量得票により当選しており,本
 件電話戦術がなくても当選していることを前提に,当選に影響を及ぼさないよう
 な役割を分担したDを「組織的選挙運動管理者等」に該当するとするのは許され
 ない旨主張するようでもあるが,本件電話戦術が被告の得票にどの程度影響した
 かはともかく,前記2のとおり,法251条の3は,組織的選挙運動管理者等が
 した法221条等所定の罪となる行為が候補者等の得票に及ぼした影響の大小に
 かかわらず,選挙の浄化を怠った責任として,候補者等を連座させる趣旨である
 から,被告の主張は採用できない。
  以上を前提に,前記1に認定の請求原因(2)及び同(4)の各事実にあらわれたD
 の本件組織における地位及び具体的に果たした役割,さらには,Dの本件組織の
 主体たるNTT労組東北総支部における地位に照らせば,Dと被告の選挙対策本
 部との関係は,その窓口になったり,その役職を務めたり等の直接的なものでは
 ない(証人H,同D,同B,被告本人)としても,Dが法251条の3第1項所
 定の「組織的選挙運動管理者等」に該当することは明らかである。
4 被告の主張(3)について
  被告は,本件刑事判決に法解釈の誤りがあるから,これを前提として,被告に
 法251条の3を適用することはできない旨主張するが,同条1項は,受訴裁判
 所が,組織的選挙運動管理者等について,法221条等所定の罪を犯したことを
 理由として禁錮以上の刑に処せられたか否かを審理判断すれば足り,事実上及び
 法律上,そのような犯罪が成立するか否かを改めて審理判断する必要はないとす
 るものと解される。そして,このように解しても,本件は,憲法31条が第1次
 的に想定する刑事事件とは異なる行政事件であって,法251条の3が目的とす
 る公益の重大性と早期確定の必要性のほか,一般に,刑事事件においては,被告
 人は判決手続という厳格な手続保障の下で最大限の防御をしているはずであるこ
 と(現に,証拠(甲1~3)によれば,Dは,自らが被告人となった刑事事件に
 おいて,無罪を主張して争った事実が認められる。)にも照らせば,そのことが
 憲法31条に違反するものではない(最高裁昭和41年6月23日第1小法廷判
 決民集20巻5号1134頁,前掲最高裁平成9年7月15日第3小法廷判決)
 から,被告の主張はそれ自体として採用できない。
5 被告の主張(4)について
  被告は,自らの選挙対策本部において,①組織的選挙運動管理者等に役割ない
 し権限が過度に集中しないように留意し,②選挙資金の管理及び出納が適正明確
 に行われるように十分に心掛け,③対象罰則違反の芽となるような事項について
 も,この防止を図るために候補者等を中心として常時相互に報告,連絡及び相談
 し合えるだけの態勢をとり,④前回の総選挙以降,ボランティアグループ等を中
 心とした選挙態勢等を確立し,⑤コンプライアンスに関する勉強会等を何度も開
 催して法令遵守の態勢を固めているし,さらに,NTT労組東北総支部等から支
 援を取り付けるに当たり,コンプライアンスを徹底しているか,専門家による勉
 強会を開き選挙犯罪を犯さないように努力を講じているか等を慎重に確認するな
 どしたので,被告の選挙対策本部とNTT労組東北支部等との関係,被告とDと
 の距離,D,B等の労働組合関係者の背信性等にかんがみ,「相当の注意」を怠
 っていない旨主張する。
  しかしながら,法251条の3第2項所定の「相当の注意」とは,抽象的には,
 被告が主張するとおり,社会通念上それだけの注意があれば,組織的選挙運動管
 理者等が買収行為等の選挙犯罪を犯すことはないだろうと期待し得る程度の注意
 義務をいい,侯補者等がとるべき措置の内容は,組織的選挙運動管理者等の①選
 挙運動体の中における地位,役割,②侯補者等との具体的な関わり方,侯補者等
 との距離等の具体的な事情により,侯補者等の側による直接的な措置を要する場
 合から組織の総括者等を介した間接的な措置でよい場合までの間で,相対的に決
 せられることとなる(ただし,候補者等が直轄する選挙対策本部内部における措
 置で足りるとするかのような部分は採用できない。)が,より具体的には,前記
 立法目的に照らせば,いわば通り一遍の注意では足りず,①組織の規模,指揮命
 令系統を含む構造等,②組織的選挙運動管理者等の組織における地位及び役割,
 ③候補者等と組織的選挙運動管理者等との具体的な関係等の個々具体的な事情に
 応じて,例えば,候補者等自ら(補助者を含む。)又は選挙運動組織総括者をし
 て,選挙前及び選挙中に随時,組織的運動管理者等の関係者に対し書面,研修等
 を通じて遵法精神を覚せいさせるといった直接的な方法をとることのほか,候補
 者等(補助者を含む。)において,選挙運動組織総括者に対し,報告,監査等の
 指揮命令系統を通じた垂直方向の監督態勢,複数の組織的選挙運動管理者等相互
 の水平方向の牽制態勢,逆垂直方向の検証態勢等の不正の抑止的効果を有する組
 織構造上の仕組みを確立させ,選挙前及び選挙中に随時,その実情を再確認する
 といった間接的な方法をとることも視野に入れた具体的な措置を講ずべきことを
 求める高度の注意義務を意味すると解され,もとより,当該選挙運動組織に従前
 問題が生じていなかったからといって,そのような具体的措置を講じることを要
 しないというものではない。そして,前記立法目的からすると,選挙運動組織の
 規模が大きいとか,候補者等と組織的選挙運動管理者等の距離が遠いとかの事情
 があるとしても,講ずべき具体的な措置に違いはあれ,注意義務の程度が軽減さ
 れるものではなく,かつ,上記のような具体的な措置を講ずべきことを不可能を
 強いるものとはいえない(なお,近時,官庁ないし大企業が,国民の注目を集め
 た不祥事の発生を契機として,改めて,適正な職務執行ないし業務執行の確保の
 ため,組織の規模が大きいことを口実にせず,単に構成員に対し抽象的に法令遵
 守を求めるだけではない具体的な方策に取り組む方向にあることは周知のとおり
 である。)。逆に,選挙運動組織等の実情に応じた具体的な措置を講ずることが
 およそできないというのであれば,候補者等としては,そのような組織の支援を
 取り付けること,すなわち,「意思を通じ」ることを差し控えることも考慮すべ
 きと解される。このように,法251条の3は,候補者等が必ず自ら直接的に選
 挙運動組織の末端までの詳細な構造等を認識した上で組織的選挙運動管理者等の
 一挙手一投足を把握して監督しなければならないとするものではないが,候補者
 等に対し,選挙浄化のため,可能な限りで積極的かつ能動的に,自ら又は選挙運
 動組織総括者をして,関係者に対する直接又は間接の具体的な措置を講じること
 を求めていると解されるのである。
  以上を本件についてみるに,当事者間に争いのない請求原因(3)の事実に証拠 
(甲6,7,18,19,23,25,62,70,85,86,乙2~12,1
 4の1及び2,15~23,31,32,35,41,54の1,57~59,
 69~71,証人H,同D,同B,被告本人)及び弁論の全趣旨を併せれば,(
 1)被告は,フリーアナウンサーとして仙台を中心に活躍し,平成12年6月,金
 権とは無縁のクリーンな選挙を標榜して,衆議院選挙に立候補して当選し,決算
 行政監視委員会,外務委員会,憲法調査会等に所属し,議員として熱心に活動し
 てきたところ,本件選挙においても,再選を目指して,前回同様にクリーンな選
 挙を標榜して立候補したものであるが,本件選挙に際し,自らの選挙対策本部に
 つき,平成15年5月から公設第一秘書を務めていたHに命じて,権限集中によ
 る不正発生防止を念頭においた組織づくりをし,また,本件選挙に先立ち,ある
 いは,本件選挙中,自らの選挙対策本部の構成員である秘書6名に対し,アルバ
 イトの利用,票の買収等のない公明正大な選挙運動の実施,そのための勉強会へ
 の参加,疑問点の選挙管理委員会への問い合わせ,選挙資金の収支管理等を指示
 するとともに,被告を支援するボランティアグループの代表者にもそのような要
 請をし(そのほか,被告は,普段から,金権とは無縁なクリーンな政治を標榜し
 て,被告の主張(4)第2段④に記載の各種措置をとっていた。),このような被
 告の方針を受けて,被告の選挙対策本部では,事務局次長に就任したHが実質的
 な責任者となって,概ね民主党の公認料のみを選挙資金とし,ボランティアグル
 ープを中心とした選挙運動を展開したこと,
(2)被告は,①平成15年1月16日開催の「民主党・衆参合同秘書研修会」にお
 ける弁護士を講師とする「政治とお金」と題する講演に,公設第二秘書であり,
 被告の選挙対策本部の構成員となったLを派遣したが,そこでは,連座制に関す
 る法解釈の実情等の説明とともに,電話戦術については,アルバイトに投票依頼
 の電話をさせる必要性に理解を示しつつも,それは法に違反するもので危険であ
 るから,極端な方法として,選挙の前後にアルバイトとして雇い,人間関係を構
 築した上で,選挙期間中にボランティアで投票依頼の電話をさせる方法を提案す
 る旨の講演があり,②同年5月23日及び24日開催の民主党候補者研修会にH
 及び私設秘書であり被告の選挙対策本部の構成員となるKを派遣したが,そこで
 は,「お金をかけない選挙実務」,「公職選挙法実務研修」等の研修があり,③
 同年6月6日開催の民主党一期の会(任期1期目の議員の会)の議員・秘書研修
 にLを派遣したが,そこでは,弁護士を講師として,「選挙運動における運動買
 収と連座制」と題し,連座制につき説明した上で,アルバイトによる電話戦術等
 は違法である旨の講演があったこと,
(3)H,L及びKは,本件選挙に先立ち,あるいは,本件選挙中,被告の選挙対策
 本部の内部において,被告も交えて上記研修等により得た知識ないし情報を相互
 に交換するなどの法に関する学習会を開催し,必要に応じて,選挙運動の適法性
 に関して生じた疑問点につき選挙管理委員会に問い合わせるなどしたこと,
(4)被告は,NTT労組から推薦を受けるに先立つ平成15年9月26日,NTT
 労組中央本部副委員長であったIから,NTT労組は,選挙運動を行うに当たっ
 て,選挙犯罪を未然に防ぐため,コンプライアンスを徹底し,法律の専門家を講
 師として招いて勉強会をしている旨説明を受け,さらに,同年10月3日に情報
 労連等と政策協定を交わす際,Aから法を遵守した選挙運動に取り組む旨の話を
 聞かされるなどしたため,これら労働組合が適正な選挙運動を行うものと信頼し
 たこと,
(5)NTT労組東日本本部では,平成14年10月28日,東京會舘において,弁
 護士を講師,全国の選挙運動担当者を受講生として,「政治資金規正法,公職選
 挙法,および税法にいたる各種法律と政治闘争基金との関わり」と題する政治学
 習会を開催し,それにはDも受講生として参加したが,そこでは,連座制に関す
 る法改正の経緯を説明し,法251条の3第1項所定の「組織」,「意思を通じ」
 等の要件が緩やかに解され,そのため,それが民主主義にとって極めて優れた制
 度になっていると評価した上で,連座制の適用を受け自分たちの大切な代表の当
 選を無効としないためには,有償の電話戦術等の買収等の行為をしないことであ
 って,選対関係者は,選挙運動に際し,そのようなことのないよう繰り返し要請
 し,注意を払い,少しでも疑問があれば専門家に相談すべきであり,また,この
 講演の内容について更に個別に学習会等をしてほしい旨の講演があったこと,
(6)Hは,本件組織から被告の選挙対策本部に派遣されたBらについて,いわば選
 挙のプロと認識するとともに,Bが電話戦術に関する注意事項等を記載した書面
 を作成したり,ボランティアグループが違法行為に走らないよう注視すべき旨発
 言したりしていたこともあり,本件組織が適正な選挙運動を行うものと考え,被
 告の選挙対策本部として,Bらが提案した電話戦術を受け入れ,これを本件組織
 と分担して実施することとしたが,電話戦術のうち本件組織の割当部分は組合員
 を中心とするボランティアが担当する旨のBの説明を信じ,具体的な電話戦術の
 実施態勢等につき確認せず,また,電話戦術を展開する現場に赴き実情を確認す
 ることもなかったこと,
(7)本件組織の主体であるNTT労組東北総支部では,以前から選挙運動における
 電話戦術を常套とし,これを組合員を中心とするボランティアにより実施してき
 たところ,昨今の組合員の政治離れを反映し,近時の選挙運動ではボランティア
 によらない電話戦術を実施する事態も生じ,さらに,本件選挙においては,NT
 T労組東日本本部の指示により,本件電話戦術と並行して,他の選挙区で立候補
 したNTT労組の組織内候補者の選挙運動としての電話戦術も分担する必要があ
 ったこともあり,Dは,組織内候補者のための電話戦術に役員たる組合員をボラ
 ンティアとして充て,他方,本件電話戦術についても,厳しい選挙戦の中でやれ
 るだけのことはやっておくとの判断から,これをNTTソルコ東北支店に有償で
 人員派遣を依頼して実施することとしたが,Dは,このこと及びその背景事情を
 被告,H等に伝えず,また,そのことを事前に知ったBも,Dの権限事項である
 と考え,これをやめさせたり,被告,H等にそのことを伝えたりはしなかったこ
 と,
(8)被告は,平成15年10月29日,Aらとともに,20歳代ないし30歳代の
 女性が主体となって本件電話戦術を展開する現場へ激励に赴いたが,以前にHに
 対し電話戦術をするならボランティアによるよう指示しており,近時若い女性が
 労働組合に加入しない傾向がある実情を知らず,また,その場にAもいたことか
 ら,これをボランティアによるものと考え,特段の対応はとらず,そのほか,被
 告の選挙対策本部に本件組織からA及びBが派遣されるなど,本件選挙中にAら
 の本件組織の関係者と度々接する機会があったが,その際,法に違反しない選挙
 運動をすべき旨の会話をするにとどまり,本件組織による選挙運動の実情につき
 改めて確認することはなかったこと,
(9)被告及びHは,本件選挙当時,本件組織について,その規模,構造等につき承
 知しておらず,Dについては,被告は,前回の総選挙においてNTT労組東北総
 支部に支援を依頼したころから知っていたものの,その役職は専従の組合員にす
 ぎないと認識しており,Hに至っては,風体は認識していたものの,その氏名す
 ら承知していなかったこと,
 以上の各事実が認められる。
  上記認定事実によれば,被告は,クリーンな選挙を標榜して本件選挙に立候補
 したものの,選挙運動の適正を確保するため本件組織に対し講じた措置は,単に,
 支援を取り付ける際にNTT労組中央本部役員等から勉強会を開催するなどして
 コンプライアンスを徹底している旨を口頭で抽象的に確認したり(なお,Dは法
 に関する政治学習会に参加しているが,それは,本件選挙のほぼ1年前に開催さ
 れたもので,その内容も,基本的には,法251条の3の説明とそれに違反しな
 いよう求めるにとどまっている。),補助者たるHにおいて,Bの表面的な言動
 を信頼して,Bから電話戦術はボランティアにより実施する旨を口頭で抽象的に
 確認したりしたという通り一遍のものにとどまり,本件組織に関して具体的に講
 ずべき措置を検討する前提となる本件組織の規模,構造等の概要すら確認せず,
 本件選挙中も,自らAとともに本件電話戦術の現場を訪れた際など,本件組織の
 関係者と直接的に接する機会が度々あったにもかかわらず,本件組織による選挙
 運動の具体的な実情を確認していない。さらに,被告は,普段からクリーンな政
 治活動を心掛けていた上,本件選挙に際しても,自らの選挙対策本部の組織づく
 りに意を用いるとともに,その構成員である秘書らに対し適法な選挙運動に徹す
 るよう求め,これらの者を法に関する研修会等(ただし,その内容は,やはり,
 基本的には,法251条の3の説明とそれに違反しないよう求めるにとどまって
 いる。)に派遣したりするなど,標榜するクリーンな選挙へ向けて積極的姿勢を
 示しているものの,それらは被告の選挙対策本部内部の措置にとどまっており,
 それが具体的な本件組織による選挙運動の適正確保のための措置に反映されてい
 ないのである。
  すると,被告は,自らの選挙対策本部内部についてはともかく,本件組織につ
 いては,選挙運動の適正確保をその総括者等であるA及びBに任せ切りにしてい
 たといっても過言ではなく,結局,被告が「相当の注意」を怠らなかったという
 ことはできないというほかない。
  よって,法251条の3第2項3号に関する被告の主張(4)は理由がない。
6 被告の主張(5)について
  被告は,D及びBに寝返られ,また,違法な本件電話戦術はGのおとり行為に
 より誘発されたといって差し支えないので,被告には,「おとり行為」又は「寝
 返り行為」と同視できる事情があるというべきであり,被告に当選無効等の効果
 を生じさせることが酷に過ぎると認めるに足る相当な理由があることは明らかで
 あるから,法251条の3第2項1号又は2号の類推適用により免責される旨主
 張する。
  しかしながら,法251条の3第2項1号及び2号の免責事由の趣旨は,選挙
 犯罪が,候補者等が「相当の注意」を尽くしたか否かとは関係なく,候補者等の
 当選を無効にすること等を目的とし,対立候補者等の陣営と意思を通じてされ,
 又はそのような誘発に起因するという極めて異常な動機に基づく場合には,これ
 により当選無効等の効果を発生させるのは候補者等に著しく酷であり,逆に,悪
 意ある,又は「相当の注意」を怠ったというべき対立候補者等を利することにな
 って,正義に反するとするものと解され,すると,これら規定を類推適用するに
 は,少なくとも,選挙犯罪が,当該候補者等の当選を望まない対立候補者等の陣
 営の者のなんらかの関与に基づくことが不可欠というべきである。
  これを本件についてみると,被告がD及びBにつき具体的に主張する事実は,
 被告の当選を望まない対立候補者等の陣営の者のなんらかの関与に基づくという
 ものではないから,結局は,被告が法251条の3第2項3号所定の「相当の注
 意」を怠らなかったか否かの判断に際し考慮すべき事由にすぎず,また,被告が
 Gにつき主張するところも,証拠(証人H)及び弁論の全趣旨によれば,Gが本
 件選挙において被告の対立候補を擁立していた自由民主党の党員であった事実が
 認められるものの,本件全証拠によっても,Gに被告の当選を無効にする目的等
 があったとか,対立候補者等の陣営の者からなんらかの関与を受けていたとかの
 事実はなんら認められず,かえって,証拠(甲25,26,30,82,83,
 証人D)及び弁論の全趣旨によれば,本件電話戦術に関する有償の人員派遣は,
 本件組織の側からNTTソルコ東北支店長たるGに持ち掛けたものであることが
 認められるから,本件において,法251条の3第2項1号又は2号を類推適用
 する余地はおよそないというべきである。
  よって,法251条の3第2項1号又は2号の類推適用に関する被告の主張(5)
 は理由がない。
7 結論
  以上のとおり,前記1に認定した請求原因事実は法251条の3第1項所定の
 各要件を充足し,かつ,同条2項所定の免責事由に関する被告の主張は採用でき
 ず,検察官である原告がした本訴請求はすべて理由があるから,これを認容する
 こととし,主文のとおり判決する。
        仙台高等裁判所第3民事部
            裁判長裁判官  佐   藤       康
               裁判官  浦   木   厚   利
               裁判官  畑       一   郎

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