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裁判例


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主文
本件各上告を棄却する。
平成15年(行ヒ)第74号事件に関する上告費用は同
事件上告人らの負担とし,平成15年(行ヒ)第75号
事件に関する上告費用は同事件上告人の負担とする。
理由
平成15年(行ヒ)第74号上告代理人近藤勝,同古瀬駿介の上告受理申立て理
由及び平成15年(行ヒ)第75号上告人の上告受理申立て理由について
1原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)第1審被告らの地位
平成15年(行ヒ)第74号上告人・同第75号被上告人Y(以下「第1審被1
告Y」という。)は武蔵野市(以下「市」という。)の市長の職にあった者,同1
Y(以下「第1審被告Y」という。)は市の秘書室長の職にあった者である。22
(2)市における市長等交際費の支出手続
ア市は,地方自治法(以下「法」という。)232条の5第2項,地方自治法
施行令161条1項を受けて,武蔵野市会計事務規則(昭和39年武蔵野市規則第
33号)74条1項により,所定の経費について,当該事務を主管する課長の請求
に基づき,必要な資金を前渡することができるものとしている。交際に要する経費
は,資金前渡の方法によって支出することができるものとされ(同項4号),市長
等交際費は,これに当たるものとして,秘書室長の請求に基づき,資金前渡の方法
による支出が行われている。
イ市は,武蔵野市支出負担行為手続規則(昭和39年武蔵野市規則第14号)
9条2項,別表第3において,資金前渡に係る経費につき,支出負担行為(支出の
原因となるべき契約その他の行為)として整理する時期を資金の前渡をする時と
し,支出負担行為の範囲を資金の前渡を要する額とすることなどを定めており,支
出命令及び支出(狭義の支出)も,上記の時にこれをすることとしている。
(3)本件各支払とそれに先立つ資金前渡
ア資金前渡の請求及び前渡
第1審判決別紙記載のとおり,第1審被告Yは,秘書室長として,平成11年2
11月から同12年2月までの間,市長等交際費について資金前渡の請求をし,第
1審被告Yは,市長として,支出負担行為をし,財政課長は支出命令をし,収入1
役は,支出命令の審査をして支出を決定し,第1審被告Yに前渡金を交付した。2
イ債権者に対する支払
第1審被告Yは,市長等交際費につき,資金前渡を受けた職員(以下「資金前2
渡職員」という。)として,第1審被告Yの指示の下に,各会合への市長又はそ1
の他の執行機関の列席及び祝金の交付に関し,次のとおり,市に債務を負担させる
行為(以下「本件各債務負担行為」という。)をした上で債権者に対する各支払
(以下,順に「本件支払1」のようにいい,併せて「本件各支払」という。)をし
た。これらの祝金は,各会合が飲食を伴うものであったため,市において,市から
列席する者の人数等に応じた金額を支払うこととしたものである。
(ア)本件支払1
平成12年2月11日,市内のライブハウスの新店主披露祝賀会に市長が列席す
るに際して祝金を交付することとし,新店主に対し1万円を支払った。
(イ)本件支払2
平成11年11月10日,武蔵野市部課長会の研修後の懇親会に市長,助役及び
収入役が列席するに際して祝金を交付することとし,同会の会長に対し3万円を支
払った。
(ウ)本件支払3
平成11年11月29日,市内に所在するA寺の第10世住職継承披露祝賀会に
市長が列席するに際して祝金を交付することとし,A寺住職に対し1万円を支払っ
た。
(エ)本件支払4
平成11年12月8日,B大学出身の市議会議員及び市職員から成る武蔵野市役
所B会の懇親会に市長が列席するに際して祝金を交付することとし,同会代表幹事
に対し1万円を支払った。
(オ)本件支払5
平成11年12月21日,市議会の会派であるCクラブの忘年会に市長が列席す
るに際して祝金を交付することとし,同クラブ会派代表者に対し1万円を支払っ
た。
(カ)本件支払6
平成12年1月30日,宮崎県内の全焼酎製造業者によって結成された同県の特
産品の消費拡大等を目的とする団体の定例会に市長が列席するに際して祝金を交付
することとし,同団体幹事長に対し5000円を支払った。
2本件は,市の住民である平成15年(行ヒ)第74号被上告人・同第75号
上告人(以下「第1審原告」という。)が,本件各支払に係る市長等の会合への列
席及び祝金の交付は社会通念上儀礼の範囲を逸脱したものであるから,資金前渡職
員である第1審被告Yがした本件各債務負担行為及び本件各支払は違法な公金の2
支出であると主張して,第1審被告ら各自に対し,地方自治法(平成14年法律第
4号による改正前のもの。以下「旧法」という。)242条の2第1項4号に基づ
き,市に代位して,本件各支払の合計金額に相当する損害の賠償を求める事案であ
る。
3原審は,前記事実関係等の下において次のとおり判断し,第1審原告の請求
を一部認容すべきものとした。
(1)本件支払1ないし3に係る会合への市長等の列席は,行政の円滑な運営を
図るという公益に資するとみることができないものか,又は市長の対外的活動とは
いい難いものであるから,そのための交際費の支出である本件支払1ないし3は違
法である。
(2)本件支払4ないし6に係る会合への市長の列席は,行政の円滑な運営を図
るという公益に資するものということができないではなく,祝金の額も社会通念上
常識の範囲内であるから,そのための交際費の支出である本件支払4ないし6は違
法であるとはいえない。
(3)第1審被告Yは,本件支払1ないし3をするに当たり,重大な過失によ2
り,資金前渡職員として支払が資金前渡を受けた目的に適合するか否かを調査すべ
き義務に違反したものである。
第1審被告Yは,各会合の性格等を十分に承知した上で第1審被告Yに指示し12
て本件支払1ないし3をさせたから,少なくとも過失により,指揮監督権限を行使
すべき義務に違反したものである。
これにより,市は,本件支払1ないし3の合計金額に相当する損害を被った。
4本件は,資金前渡の方法によってされた交際費の支出の適否が問題とされて
いる住民訴訟である。前記事実関係等によれば,市は,資金前渡に係る経費に関
し,支出負担行為として整理する時期を資金前渡をする時とすることなどを規則に
おいて定め,支出命令及び支出(狭義の支出)も上記の時にすることとしていると
いうのである。そこで,論旨につき検討する前提として,第1審被告Yがした本2
件各債務負担行為及び本件各支払が住民訴訟の対象となる「公金の支出」に当たる
かどうかなどの点についてまずみることとする。
(1)資金前渡職員に対する資金の交付は,債権者に対する支払の便宜のために
されるにすぎず,交付された資金が公金としての性質を失うものではない。法も,
243条の2において,資金前渡を受けた職員がその保管に係る現金を亡失したと
きは損害を賠償しなければならないことを規定している。そして,地方自治法施行
令161条の規定等に照らせば,資金前渡職員は,普通地方公共団体の規則等にお
いて別段の定めがされていない限り,各個の経費の目的に従い,交付された金額の
範囲内で,契約を締結するなどして普通地方公共団体に債務を負担させる権限を有
し,また,当該普通地方公共団体がそのようにして負担した債務又は既に負担して
いた債務を履行するため債権者に対する支払を行う権限を有すると解される。
これらのことを考えると,資金前渡職員のする普通地方公共団体に債務を負担さ
せる行為(以下「個別債務負担行為」という。)及び支払は,前記の支出負担行
為,支出命令及び支出(狭義の支出)と並んで,法242条1項にいう「公金の支
出」に当たり,住民訴訟の対象となるものと解するのが相当である。
(2)旧法242条の2第1項4号にいう「当該職員」とは,当該訴訟において
その適否が問題とされている財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有する
とされている者及びこれらの者から権限の委任を受けるなどして上記権限を有する
に至った者を広く意味するものである(最高裁昭和55年(行ツ)第157号同6
2年4月10日第二小法廷判決・民集41巻3号239頁参照)。資金前渡職員が
交付を受けた金額の範囲内で個別債務負担行為をし,また,債務を履行するため債
権者に対する支払をすることができるのは,特定の経費につき資金前渡を受けて支
出負担行為及び支出(狭義の支出)に係る権限を普通地方公共団体の長から委任さ
れたことによるところであるから,資金前渡職員は,個別債務負担行為及び支払の
適否が問題とされている住民訴訟において,旧法242条の2第1項4号にいう
「当該職員」に該当するものと解すべきである。
また,普通地方公共団体の長は,支出負担行為をする権限を法令上本来的に有す
るとされている以上,資金前渡をした場合であっても,資金前渡職員のする個別債
務負担行為の適否が問題とされている住民訴訟において,同号所定の「当該職員」
に該当するものと解すべきである(最高裁昭和62年(行ツ)第148号平成5年
2月16日第三小法廷判決・民集47巻3号1687頁参照)。
(3)そして,資金前渡職員が個別債務負担行為をした場合においては,普通地
方公共団体の長は,当該資金前渡職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止す
べき指揮監督上の義務に違反し,故意又は過失により同資金前渡職員が財務会計上
の違法行為をすることを阻止しなかったときに限り,自らも財務会計上の違法行為
を行ったものとして,普通地方公共団体に対し,上記違法行為により当該普通地方
公共団体が被った損害につき賠償責任を負うものと解するのが相当である(前掲平
成5年2月16日第三小法廷判決,最高裁平成4年(行ツ)第156号同9年4月
2日大法廷判決・民集51巻4号1673頁参照)。
(4)以上を本件についてみると,本件各支払及びその前提としてされた本件各
債務負担行為は,いずれも,第1審被告Yが市長等交際費の資金前渡職員として2
した債権者に対する支払及びその前提となる個別債務負担行為であるというのであ
るから,法242条1項にいう「公金の支出」に当たり,住民訴訟の対象となるも
のであり,これらをする権限を有する資金前渡職員である第1審被告Yは「当該2
職員」に当たることとなる。そして,第1審被告Yも,本件各債務負担行為につ1
き「当該職員」に当たり,第1審被告Yが本件各債務負担行為につき財務会計上2
の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し,故意又は過失によ
りこれを阻止しなかったときに限り,市に対し,上記違法行為により市が被った損
害につき賠償責任を負うこととなる。
5第1審被告らの論旨は上記3(1)の原審の判断の法令違反及び判例違反を,
第1審原告の論旨は同(2)の原審の判断の法令違反をそれぞれいうものである。
普通地方公共団体も社会的実体を有するものとして活動している以上,当該普通
地方公共団体の事務を遂行し対外的折衝等を行う過程において,長又はその他の執
行機関が各種団体等の主催する会合に列席するとともにその際に祝金を主催者に交
付するなどの交際をすることは,社会通念上儀礼の範囲にとどまる限り,上記事務
に随伴するものとして許容されるというべきである(最高裁昭和38年(オ)第4
9号同39年7月14日第三小法廷判決・民集18巻6号1133頁,最高裁昭和
61年(行ツ)第144号平成元年9月5日第三小法廷判決・裁判集民事157号
419頁,最高裁平成14年(行ヒ)第46号同15年3月27日第一小法廷判決
・裁判集民事209号335頁参照)。そして,普通地方公共団体が住民の福祉の
増進を図ることを基本として地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割
を広く担うものとされていること(法1条の2第1項)などを考慮すると,その交
際が特定の事務を遂行し対外的折衝等を行う過程において具体的な目的をもってさ
れるものではなく,一般的な友好,信頼関係の維持増進自体を目的としてされるも
のであったからといって,直ちに許されないこととなるものではなく,それが,普
通地方公共団体の上記の役割を果たすため相手方との友好,信頼関係の維持増進を
図ることを目的とすると客観的にみることができ,かつ,社会通念上儀礼の範囲に
とどまる限り,当該普通地方公共団体の事務に含まれるものとして許容されると解
するのが相当である。しかしながら,長又はその他の執行機関のする交際は,それ
が公的存在である普通地方公共団体により行われるものであることにかんがみる
と,それが,上記のことを目的とすると客観的にみることができず,又は社会通念
上儀礼の範囲を逸脱したものである場合には,当該普通地方公共団体の事務に含ま
れるとはいえず,その費用を支出することは許されないものというべきである(前
掲平成元年9月5日第三小法廷判決参照)。
この見地に立って本件をみると,前記事実関係等及び原審の適法に確定したその
余の事実関係の下においては,本件支払1ないし3に係る会合への列席及び祝金の
交付は,上記のことを目的とすると客観的にみることのできるものとはいい難いか
ら,市においてその費用を支出することは許されないこととなる。そのためにされ
た本件支払1ないし3及びその前提としてされた各個別債務負担行為を違法とした
原審の判断は,是認することができる。所論引用の各判例は,事案を異にし本件に
適切でない。第1審被告らの論旨はいずれも採用することができない。
また,前記事実関係等及び原審の適法に確定したその余の事実関係の下において
は,本件支払4ないし6に係る会合への列席及び祝金の交付は,上記のことを目的
とすると客観的にみることのできるものといえないではない。また,上記祝金が,
上記会合が飲食を伴うものであったため市から列席する者の人数等に応じた金額を
支払うこととされたものであることや,それぞれの金額等の事情を考慮すれば,上
記の会合への列席及び祝金の交付は,社会通念上儀礼の範囲にとどまるものという
ことができる。したがって,その費用を支出するためにされた本件支払4ないし6
及びその前提としてされた各個別債務負担行為を違法とはいえないとした原審の判
断は,是認することができる。第1審原告の論旨は採用することができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官中川了滋裁判官滝井繁男裁判官津野修裁判官
今井功裁判官古田佑紀)

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