弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人鈴木惣三郎の上告趣意は、事実誤認、採証法則違反の主張を出でないもの
であつて適法な上告理由とならない。
 弁護人花本福次郎の上告趣意第一点は、原審において主張、判断のない事項に関
する主張であるのみならず、判例違反をいうが、刑訴三三五条一項の解釈としては、
すでに当裁判所の判例として、「第一審判決は証拠の標目を一括挙示しており、従
つて判文上は証拠と事実との関連性は明らかでないが、記録と照し合せて見れば、
どの証拠でどの事実を認めたかが明白である」場合は刑訴三三五条一項に反するも
のではないと判示されている(昭和二五年(あ)一〇六八号同年九月一九日第三小
法廷判決、集四・九・一六九五頁)。そして、原判決の維持した第一審判決の証拠
理由の説示を見ると、記録と照し合せて見れば、どの証拠によつてどの事実が認定
されたか極めて明白であるから、第一審判決の証拠の標目挙示をもつて所論理由不
備の違法があるものといえないばかりでなく、当裁判所の判例の趣旨にも反しない
ものであつて、論旨は採用できない。(論旨引用の大審院及び東京高等裁判所の判
決―後記―は、当裁判所の前記判決に牴触する限り判例としての効力を失つたもの
と認められる)。
 同第二点も、原審において主張、判断のない事項に関する主張であるばかりでな
く、訴訟法違反の主張であつて採用できない。(起訴状記載第一、第二の各公訴事
実に、被欺罔者及び被害者がAと記載されていることは、所論のとおりであるが、
第一審判決挙示の証人Bの証言によると、同人は右Aの娘であつて、父は古鉄商を
していたが、現在隠居して同証人が主として仕事をしており、同人が被告人らから
二回にわたり本件偽造の砲金棒合計二七本を代金合計二十七万三千円で買受けた事
実が認められる。―記録四七丁以下。そして、右第一、第二の各公訴事実と第一審
判決が認定した判示第一、第二の各事実とを対比すると、犯罪の日時、場所、相手
方を欺罔した方法、相手方に交付した物品の品質、数量及び相手方から騙取した現
金の金額は全く同一であり、ただ、被欺罔者及び被害者が前者は父、後者は娘であ
る点において差異があるにすぎないものであつて、結局の被害はただ一個しかなく、
しかも、これに関与する被告人らの行為もただ一つしかありえないという関係にあ
ることが認められるから、訴因の変更手続を経ないで右第一審判決のような認定を
したからといつて、被告人の防禦権の行使に不利益を及ぼしたということはできな
い。論旨記載の大高昭和二四年一〇月一二日第一〇刑事部判決は、寄託者を異にす
る横領罪につき、大高昭和二五年四月二二日第一刑事部判決は、麻薬の譲渡の場合
買受人が異つてきたときにつき、いずれも訴因の交更を必要としたものであつて本
件に適切でない。)。
 同第三点も、原審において主張、判断のない事項に関する主張であるばかりでな
く、理由不備若しくは審理不尽の主張であるから適法な上告理由とならない。
 被告本人の上告趣意は、事実誤認、採証法則違反の主張に帰し適法な上告理由と
ならない。
 弁護人花本福次郎、同高橋巳之助の上告趣意第一点は、事実誤認、採証法則違反
の主張を出でないものであり、同第二点は、訴訟法違反の主張であつて、(原審第
一回公判調書に、裁判長は右弁護人がした証拠調請求を却下する旨を宣し云々と記
載されていることは、所論のとおりであるが―記録二六一丁―、右の記載は、刑訴
規則四四条一項三〇号、一九〇条により合議体である原審が決定で却下したもので
あると認められる)いずれも適法な上告理由とならない。
 また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
  昭和三〇年一〇月四日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    河   村   又   介
            裁判官    島           保
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎
            裁判官    垂   水   克   己

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