弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人鈴木宏一、同松澤陽明、同村上敏郎の上告理由第一について
 論旨は、上告人に対する本件係争の無期停学処分及び退学処分はこれに先立つて
された実質一〇日間の家庭謹慎処分(第一次処分)を前提とするものであるところ、
右第一次処分は上告人の政治活動を理由とするものであつて教育基本法三条、八条
及び憲法一九条、二一条に違反し、また、その対象となつた上告人の欠席は、それ
自体は学校教育法一一条の適用上懲戒事由とはなりえず、そうでなくても正当な理
由によるものであるから、この点においても右処分は違法であり、ひいて、これを
前提とする本件係争の右各処分も違法であるとし、原判決はこの点に関し憲法及び
法令の解釈を誤つたものである、と主張する。
 しかしながら、原審の確定した事実によれば、右第一次処分は、上告人が、成田
新国際空港の建設に反対しいわゆる三里塚闘争に参加する等のため、昭和四六年八
月三〇日から九月二一日までの間に一〇日の無断欠席をしたことが、D高等学校処
罰内規四項にいう正当な理由のない欠席にあたるとしてされたものであるというの
であるところ、高等学校の生徒については、学校当局において授業への出席を要求
し、これに従わないで正当な理由がなく授業を欠席した場合には、これに対しその
規律権に基づく処分をすることができるものというべきであり、また、生徒が政治
的活動を行うために無断で授業を欠席することが正当な理由のあるものとはとうて
いいうことができないから、これと同趣旨の見解に立つて第一次処分に違法はない
とした原審の判断は相当というべきであり、原判決に所論の違法はない。所論は、
また、授業を欠席して政治活動をしたことに対して懲戒処分を行うことは生徒の政
治活動の自由を制限するものであつて憲法一九条、二一条に違反する旨をいうが、
右第一次処分は、上告人の正当な理由のない無断欠席を理由としてされたものであ
つて、政治的活動をしたこと自体を理由とするものではなく、また、前記のように
生徒が授業に出席することを要求されている以上、その反面として、授業を欠席し
て右授業時間に他の行動をする自由を拘束されることとなるのは当然であつて、そ
のためにその限度で政治的活動をすることができなくなつても、これをもつて政治
的活動の自由に対する侵害ということができないことは明らかであるから、右違憲
の主張は、その前提を欠くというべきである。論旨は、採用することができない。
 同第二について
 論旨は、本件係争の各処分は、学校教育法一一条、同法施行規則一三条一項に違
反し、また、裁量権を逸脱したものであり、原判決には、この点に関し法令の解釈
の誤り及び経験則違反があると主張する。
 しかしながら、原審は、(1) 上告人は、前記第一次処分である実質一〇日間の
家庭謹慎処分中に、右処分は政治活動に対する弾圧であるとして、これを撤回させ
ようとの意図の下に、学校側の指導説得を聞き入れず、校内に入り、右処分の撤回、
大衆団交の要求、授業ボイコツト等を呼びかける集会を開催し、校長室に坐り込む
などし、また、文化祭当日、ヘルメツトを着用し覆面姿の者らとともに校内に侵入
し、退去命令を無視して集会を開き、右第一次処分の不当を訴える等の演説をし、
デモを行うなどして、学校内の秩序を乱す行為があつたため、昭和四六年一一月一
一日、本件無期停学処分を受けたこと、(2) 更に、上告人は、右処分中にもかか
わらず、連日登校して教室に入り、授業担当の教師に抗議し、同年一一月二九日か
ら一二月四日の間には、被上告人の自己批判、大衆団交、処分白紙撤回を要求して
された同校生徒によるハンストを支援し、テントを張つて校地を占拠し、退去命令
に応じないで、他の生徒に要求支持の呼びかけを行い、また、校長室内に乱入して
被上告人に大衆団交を要求するなどの行為があつたため、同年一二月七日本件退学
処分を受けたこと、(3) 他方、学校側では、この間、上告人らの要求を一部いれ
て、被上告人において、校内放送を通じ、大衆団交には応じられない旨を説明し、
あるいは生徒達の意向をくんで、生徒総会の開催を認め、席上、教頭から前記第一
次処分に至る経過説明をし、更に、ハンストによる何らかの成果を得たいとの上告
人らの意向に応じて、予備折衝を行うなどしたほか、教頭や教諭らが、数回にわた
り上告人宅を訪ねて上告人の親と上告人の指導につき話し合い、また、上告人を含
め処分を受けた生徒の父兄に被処分者らの行動を逐一報告し、被処分者を登校させ
ないように働きかけ、ハンストに際しては、連日職員会議を開いて対策を協議し、
父兄を呼んでその意見をたずね、昼間は正常の授業を維持するとともに、夜間はほ
とんど全職員で上告人らに対する指導説得にあたつたこと等の事実を認定したうえ、
右事実関係のもとにおいて、本件係争の各処分は、被上告人の裁量権の範囲内で行
われたものであつて、上告人のD高等学校の教育体制批判に対する報復的措置とし
てされたものではないと判断したのであつて、右認定判断は、原判決挙示の証拠関
係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨
は、採用することができない。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官
全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    藤   崎   萬   里
            裁判官    団   藤   重   光
            裁判官    中   村   治   朗
            裁判官    谷   口   正   孝
            裁判官    和   田   誠   一

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