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平成21年7月29日判決言渡
平成20年(行ケ)第10338号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成21年5月27日
判決
原告X
訴訟代理人弁理士富崎元成
同町田光信
被告特許庁長官
指定代理人鈴木敏史
同野村亨
同紀本孝
同小林和男
主文
1特許庁が不服2007−25100号事件について平成20年8月
7日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は,被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2争いのない事実等
1特許庁における手続の経緯
原告は,平成10年1月21日,発明の名称を「ダイセット及びダイセット
の製造方法」とする発明について,特許出願(特願平10−23796号。以
下「本願」という。)をした。
その後,原告は,平成18年10月30日,特許請求の範囲及び明細書につ
いて補正をし(以下「第1補正」という。甲1の2),さらに,平成19年4
月26日,特許請求の範囲について補正をしたが(以下「第2補正」という。
甲1の3。第1,第2補正による補正後の明細書を,図面と併せ,「補正明細
書」という。),同年8月8日に拒絶査定を受け,同年9月12日,拒絶査定
不服審判(不服2007−25100号事件)を請求した。
特許庁は,平成20年8月7日,「本件審判の請求は,成り立たない。」と
の審決(以下「審決」という。)をし,同月19日,その謄本を原告に送達し
た。
2特許請求の範囲
補正明細書の特許請求の範囲(請求項の数5)の請求項1の記載は,次のと
おりである(以下,補正後の請求項1に関する発明を「本願発明」という。甲
1の1ないし3。別紙「補正明細書【図1】」参照)。
「【請求項1】固定側の型を形成するための固定側型形成体(2−2)と前記
固定側型形成体(2−2)に対して相対的に可動である可動側の型を形成する
ための可動側型形成体(3−2)とからなる型形成体と,
前記可動側型形成体(3−2)を1軸方向に案内するための案内体(4)と
からなり,前記案内体(4)に対して可動な前記固定側型形成体(2−2)又
は前記可動側型形成体(3−2)に案内用孔が形成され,前記案内体(4)と
前記案内用孔とは案内面(4−5)を介して滑動し,
前記案内面(4−5)は平面を備え,前記平面は前記案内体(4)の軸心線
と前記固定側型形成体(2−2)又は前記可動側型形成体(3−2)が,前記
案内体(4)から張り出す部分の重心を含む張出し面に概ね直交している
ダイセットにおいて,
前記可動側型形成体(3−2)は,一端部が1本の前記案内体(4)に支持
され他端部は支持されない片持ち梁になっており,
前記案内面(4−5)は前記案内体(4)の側面に形成され,前記案内面
(4−5)の前記平面は互いに直交する4平面で形成されており,
前記4平面の各前記案内面(4−5)と前記案内孔の間に介設されているガ
イドブッシュ(8−1)と,
前記ガイドブッシュ(8−1)と前記案内面との間に介設されているガイド
ローラリテーナ(9−1)と,
前記ガイドローラリテーナ(9−1)は複数のガイドローラ(9)を備え,
前記ガイドローラ(9)は前記案内面(4−5)上を転動する
ことを特徴とするダイセット。」
3審決の理由
(1)別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,本願の出願前
に頒布された刊行物である特開平6−7859号公報(以下「引用例1」と
いう。甲2)に記載された発明(以下「引用例発明1」という。)及び実願
昭54−169325号(実開昭56−87223号)のマイクロフィルム
(以下「引用例2」という。甲3)に記載された技術事項(以下「引用例発
明2」という。)並びに実願昭53−168412号(実開昭55−845
08号)のマイクロフィルム(以下「周知例1」という。甲4),実願昭5
4−33262号(実開昭55−132603号)のマイクロフィルム(以
下「周知例2」という。甲5),実願昭47−16097号(実開昭49−
15658号のマイクロフィルム(以下「周知例3」という。甲6),登録
番号第3016227号の登録実用新案公報(以下「周知例4」という。甲
7)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許
法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものであ
る。
(2)審決が上記(1)の結論を導くに当たり認定した引用例発明1,本願発明と
引用例発明1との一致点及び相違点は,次のとおりである(なお,審決の認
定した引用例発明2の内容についても記載した。)
ア引用例発明1の内容
「ダイセットの下側のベース,又は,上側のベースに取り付けられ,4つ
の平面が互いに90°の角度をなす四角柱状のガイドポストと,
ダイセットの対向するベースに取り付けられ,4つの平面が互いに90°
の角度をなす四角柱状の貫通孔を有し,ガイドポストと所定の余裕を持っ
て嵌合するガイドブッシュと,
ガイドポストとガイドブッシュの間に介在して,これらの間の軸方向への
並進運動を円滑にするよう配列されたローラー・ベアリングとを備えてい
るプレス金型用ダイセット。」(審決書5頁23行∼30行)
イ一致点
「固定側の型を形成するための固定側型形成体と前記固定側型形成体に対
して相対的に可動である可動側の型を形成するための可動側型形成体とか
らなる型形成体と,
前記可動側型形成体を1軸方向に案内するための案内体とからなり,
前記案内体に対して可動な前記固定側型形成体又は前記可動側型形成体
に案内用孔が形成され,前記案内体と前記案内用孔とは案内面を介して滑
動し,
前記案内面は平面を備えるダイセットにおいて,
前記案内面は前記案内体の側面に形成され,前記案内面の前記平面は互
いに直交する4平面で形成されており,
前記4平面の各前記案内面と前記案内孔の間に介設されているガイドブ
ッシュと,
前記ガイドブッシュと前記案内面との間に介設されているガイドローラ
リテーナと,
前記ガイドローラリテーナは複数のガイドローラを備え,前記ガイドロ
ーラは前記案内面上を転動する
ことを特徴とするダイセット。」(審決書7頁15行∼31行)
ウ相違点
(ア)相違点1
「本願発明は,互いに直交する4平面で形成された案内面を側面に形成
された案内体が1本で用いられるものであるのに対して,引用例発明1
においては,案内体に相当するガイドポストについて,1本で用いられ
るものであるとは記載されていない点。」(審決書7頁34行∼8頁1
行)
(イ)相違点2
「本願発明は,『案内面の平面は案内体の軸心線と固定側型形成体又は
可動側型形成体が,前記案内体から張り出す部分の重心を含む張出し面
に概ね直交し(後記相違点2B),前記可動側型形成体は,一端部が前
記案内体に支持され他端部は支持されない片持ち梁になって(後記相違
点2A)』いるものであるのに対して,引用例発明1においては,ベー
スとガイドポストの平面の位置関係がそのようなものであるのか不明な
点。」(審決書8頁3行∼8行)
エ引用例発明2の内容
「下側のベースプレートに垂直に立設されたガイドポストに,片持ち梁状
に支持される上側のベースプレートを縦方向に案内するダイセット。」
(審決書6頁35行,36行)
第3当事者の主張
1審決の取消事由に関する原告の主張
審決には,以下のとおり,(1)相違点1についての容易想到性の判断の誤
り(取消事由1),(2)相違点2についての容易想到性の判断の誤り(取消事
由2),(3)相違点1,2を総合した顕著な作用効果を看過して判断した誤り
(取消事由3)がある。
(1)取消事由1(相違点1についての容易想到性の判断の誤り)
審決は,「互いに直交する4平面で形成された案内面を側面に形成した案
内体を1本で用い,縦方向の摺動案内をすることは,ダイセットに限らず,
一般的に周知事項である。」(審決書8頁10行∼12行)と判断し,その
例として,周知例1ないし4を挙げている。
しかし,審決の上記判断は誤りである。
ア周知例1ないし4に対し
周知例1ないし4に示されるような一般的な技術において,互いに直交
する4平面で形成された案内面を側面に形成した案内体を1本で用い,縦
方向の摺動案内をすることが知られているとしても,これらは,精密打抜
き加工等のプレス加工を行うためのダイセットとは,技術的,課題的に共
通性はなく,引用例発明1に示されたガイドポスト(以下,本願発明の
「案内体」と引用例,周知例の「ガイドポスト」とは同義として用い
る。)の形態のものを用いて,1本のガイドポストを備えたダイセットと
することを想起するための根拠にはなり得ないものである。
イ周知例5ないし8に対し
被告は,取消訴訟提起後に,新たに特願昭63−45369号(特開平
1−219302号)公報(以下「周知例5」という。乙1),実願昭3
5−25688号(実公昭37−15387号)公報(以下「周知例6」
という。乙2),実願昭46−37676号(実開昭47−34376
号)のマイクロフィルム(以下「周知例7」という。乙3),実願昭56
−173817号(実開昭58−81031号)のマイクロフィルム(以
下「周知例8」という。乙4)を提出する。
しかし,同周知例によっても,相違点1が容易であると判断することは
できない。すなわち,
周知例5(乙1)は,バルブ開閉装置に関するものであって,ダイセッ
トとは技術的,課題的に共通性がほとんどない。しかも,ダイセットにお
けるガイドポストを1本にすることについては何ら記載されておらず,示
唆もされていないから,案内体を1本にすることの周知例とすることはで
きない。
周知例6(乙2)は,ガイドポストが二等辺梯形柱体であって,4つの
平面が互いに90°の角度をなす四角柱状のガイドポストを備えた引用例
発明1のプレス金型用ダイセットにそのまま適用されるものではないし,
適用し得ることを示す具体的,合理的根拠もない。
周知例7(乙3)は,下端にフランジを一体的に形成したガイドポスト
とすることにより,ガイドポストの抜け出し,揺動の防止を意図したガイ
ドポストの特定の形態を示しているものである。ガイドポスト7が1本で
あるとしても,上下動する上型の支持,ガイドということに関しては,支
柱の機能を有する本体1とガイドポスト7の2本とすべきものである。
周知例8(乙4)は,プレス加工ダイアセンブリにおける上ダイプレー
ト(10)を固定する摺動板(8)はジグ(4)の摺動案内竪盤(2)に
二分割された形態の溝(7),(7)の間に嵌合し保持されているもので
あり,引用例発明1における四角柱状のガイドポストとは全く異なる形態
であり,引用例発明1におけるガイドポストを1本とすることについて何
ら示唆するところはない。
(2)取消事由2(相違点2についての容易想到性の判断の誤り)
ア相違点2に関する審決の説示
相違点2に関する審決の説示内容は,以下のとおりである。
(ア)案内体の本数について
審決は,「引用例発明2における,『片持ち梁状に支持される上側の
ベースプレート』は,相違点2における『可動側型形成体は,一端部が
前記案内体に支持され他端部は支持されない片持ち梁になって』いる点
に相当する。」(審決書8頁30行∼33行。以下,相違点2のこの部
分を「相違点2A」といい,この部分についての審決の判断を「相違点
2A(案内体の本数)についての審決の判断」という。)と説示した。
(イ)直交について
また,審決は,「引用例発明2において,ガイドポストを『ベースプ
レートに垂直に立設』する点は,相違点2における『案内面の平面は案
内体の軸心線と固定側型形成体又は可動側型形成体が,前記案内体から
張り出す部分の重心を含む張出し面に概ね直交』する点に相当する。」
(審決書8頁26行∼29行。以下,相違点2のこの部分を「相違点2
B」といい,この部分についての審決の判断を「相違点2B(直交)に
ついての審決の判断」という。)と説示した。
イ相違点2A(案内体の本数)についての審決の判断の誤り
(ア)本願発明の案内体に関する構成
本願発明における案内体の案内面(4−5)は平面を備えるものであ
り,補正明細書において,「この向上のために,案内体4の好ましい形
状は4角柱である。4角柱とは,4側面が互いに直交する物体である。
案内体4の軸心線に直交する直交線の方向に,又は,その直交線を含む
平面にその中心線が含まれるように,可動側型形成体3−2は案内体4
から張り出している。」(段落【0054】),「可動側型形成体3−
2の張出方向線と案内体4の軸心線を含む平面に直交するように案内体
4の1側面である型形成体支持面4−5が形成されていることが特に好
ましい。」(段落【0055】),及び「案内体4に対して曲がろうと
する可動側型形成体3−2の軸心方向の運動を案内する型形成体支持面
4−5は,案内面4−5として定義することができる。このような案内
体4の1側面が,図1に示されている。型形成体支持面4−5は,可動
側型形成体3−2の曲がりを阻止するように可動側型形成体3−2を支
持する支持面である。」(段落【0056】)と記載されている。
また,本願発明のダイセットは,請求項1で限定されているように,
1本の案内体を有するものである。したがって,本願発明のダイセット
は,4側面が互いに直交する4角柱である1本の案内体を備えるもので
ある。
以上のとおり,審決が,相違点2に係る本願発明の案内体に関する構
成について,「前記可動側型形成体は,一端部が前記案内体に支持さ
れ」(審決書8頁5行)としているのは,「前記可動側型形成体は,一
端部が1本の前記案内体に支持され」とされるべきであり,これを前提
として相違点2Aについて判断されるべきである。
(イ)引用例発明2のガイドポストに関する構成
引用例発明2では,「片持ち梁状に支持される上側のベースプレー
ト」は,その一方の側で少なくとも2本のガイドポストに片持ち梁状に
支持されているものである。
したがって,審決が,相違点2Aに関する引用例発明2の案内体に関
する構成について,「下側のベースプレートに垂直に立設されたガイド
ポストに,片持ち梁状に支持される上側のベースプレート」(審決6頁
35行,36行)としているのは,「下側のベースプレートに垂直に立
設された少なくとも2本のガイドポストに,片持ち梁状に支持される上
側のベースプレート」とされるべきであり,これを前提として相違点2
Aについて判断されるべきである。
(ウ)相違点2Aについての判断
上記(ア),(イ)で検討した本願発明の案内体に関する構成,引用例発
明2のガイドポストに関する構成を前提とすれば,引用例発明2は,案
内体(ガイドポスト)の本数において,本願発明とは構成を異にするの
であり,相違点2Aに係る本願発明の案内体に関する構成は引用例発明
2に示されているとする審決の判断は誤りである。
ウ相違点2B(直交)についての審決の判断の誤り
(ア)本願発明の案内体の平面と張出し面との直交に関する構成
本願発明は,「前記案内面(4−5)は平面を備え,前記平面は前記
案内体(4)の軸心線と前記固定側型形成体(2−2)又は前記可動側
型形成体(3−2)が,前記案内体(4)から張り出す部分の重心を含
む張出し面に概ね直交している」(請求項1)とする構成である。
(イ)引用例発明2の案内面と張出し面との関係に関する構成
引用例発明2は,少なくとも2本の円柱体のガイドポストを備えたも
のである。この円柱体のガイドポストの案内面は当然円筒面であり,平
面ではない。
(ウ)相違点2Bについての判断
引用例発明2のガイドポストは円筒面であり,張出し面と概ね直交す
るという観念を生じ得ない。被告は,「案内面」を「2本のガイドポス
トを結ぶ平面」で置き換えようとするが,審決において全く読み取れる
ものではない。また,2つの円筒面を結ぶ平面は無数にあり,確定した
意味をもたない。したがって,相違点2Bに係る本願発明の案内体の平
面と張出し面の直交に関する構成は引用例発明2に示されているとする
審決の判断は誤っている。
この点について,被告は,甲4ないし6について言及し,また乙4な
いし6の記載において,案内面が平面であり,その平面を可動側型形成
体から張り出す面に概ね直交させることが周知であると主張するが,そ
れらが知られているとしても,引用例発明2においてガイドポストの案
内面が円筒面でなく平面になることはあり得ないのであり,審決の誤り
を何ら解消できないことは明らかである。
エ引用例発明1と引用例発明2との組合せが容易であるとした判断の誤り
審決は,何ら合理的な説明をせず,単に「発明の対象がプレス金型用ダ
イセットの点でも,引用例発明1と引用例発明2は共通しているから,こ
れらを組み合わせるにあたっての阻害要因があるとすることもできない」
(審決書8頁35行∼9頁1行)としているが,誤りである。
引用例発明1と引用例発明2とは,ガイドポストによる支持,案内の形
態,設置の形態としても全く異なり,課題,構成ともに相容れない性格を
有し,格段に異なるものであり,単にプレス金型用ダイセットとして共通
するという理由のみで阻害要因がないとするのは,技術的意味を考慮する
ことを全く放棄したものである。
引用例発明1のダイセットに引用例発明2を適用しようとすれば,少な
くとも2本の円柱形のガイドポストでベースプレートを片持ち梁状に支持
する形態のものとなるのであり,相違点2は何ら解消されることはない。
また,引用例発明2に記載のものにおいては,円柱形のガイドポストは
少なくとも2本であり,これを1本にした場合,ベースプレートに回転が
生じ,正確に打ち抜き加工をすることができなくなり,阻害要因が存在す
る。
(3)取消事由3(相違点1,2を総合した顕著な作用効果を看過して判断し
た誤り)
審決は,本願発明と引用例発明1との相違点1,2は,それぞれ容易に想
到し得ることであるから,本願発明は引用例発明1,引用例発明2及び周知
事項から当業者が容易に発明をすることができたものであると判断した。
しかし,本願発明の案内体が1本であることと,可動側型形成体は一端部
が1本の案内体に支持され他端部は支持されない片持ち梁になっていること
とは相互に関連した技術的意義を有するから,相違点1と相違点2とを切り
離して論じるだけでは不十分である。
案内体が1本のシングルポスト・タイプで片持ち梁構造のダイセットで
は,精密打抜き加工であっても,例えば6トン程度の荷重が型に加わること
により,型形成体を介して案内体に大きな曲げ作用が与えられる。この曲げ
作用は,型形成体が案内体から張り出す部分の重心を含む張出し面内の成分
とともに,この張出し面に直交する成分をも有し,それにより案内体は張出
し面側だけでなく張出し面に直交する方向への曲げ作用を受ける。このよう
な曲げ作用に抗して案内体に曲げ変形が生じにくくするには,同じ案内体の
体積で考えた場合,断面を円形の円柱体とするのではなく,角柱体とするの
が有利である。本願発明では,このように1本の案内体で型形成体を片持ち
梁状に支持,案内するダイセットにおいて案内体は案内面の平面が互いに直
交する4平面で形成されるようにしており,それにより案内体が1本である
シングルポスト・タイプの片持ち構造のダイセットの曲げ強度を極端に向上
させることができ,生産される製品の寸法精度を更に高めることができるも
のである。
甲8の「ハイクォリティーダイセット」の「丸ガイドポストと角ガイドポ
ストの比較」のグラフは,偏荷重を受けた際のガイドポストのタワミ量を示
しており,金型内で発生する偏荷重の影響については,ガイドポストが1本
で角ガイドポストの場合,丸ガイドポストに比べ格段に小さくなる。本願発
明は,精度のよい加工がされること,刃物寿命に与える影響を少なくし,ダ
イセットをロングライフ化することについて顕著な効果を発揮するものであ
る。
2被告の反論
審決の認定判断に誤りはなく,原告の主張はいずれも理由がない。
(1)取消事由1(相違点1についての容易想到性の判断の誤り)に対し
原告は,周知例1ないし4に示される一般的な技術と精密打抜き加工等の
プレス加工に関する技術である本願発明とでは,技術的課題の共通性がな
く,引用例発明1に周知例1ないし4の技術を組み合わせることによって,
本願発明を容易に想到することはできないと主張する。
しかし,引用例1(甲2)には,「【0005】加えて,円柱状のガイド
ポストと円柱状の貫通孔を有するガイドブッシュとが円筒状のボールリテー
ナーを介して単に嵌め合っているため,ガイドポストとガイドブシュとは,
相互に並進運動をするだけでなく,共通軸の回りに回転運動も行う。その結
果,上型と下型とが腰振り移動し,ポンチの刃先に横方向の力が作用してし
まい,刃先の破損や摩耗を引き起こすという問題がある。【0006】そこ
で,本発明の目的は,上記問題点を解決し,運転中に故障が生じにくく,高
い寸法精度が保たれ,さらに,純粋な並進運動を行う,新たなプレス金型用
ダイセットを提供するにある。」と記載されており,ガイドポスト(案内
体)の軸廻りの回転を許容せずに,縦方向の摺動案内を行う必要性が示唆さ
れている。
また,審決で提示した4つの周知例(甲4∼7)は,広範な技術分野にお
いて,軸廻りの回転を許容せずに,縦方向の摺動案内を四角柱,つまり,互
いに直交する4平面で形成された案内面を側面に形成した1本の案内体によ
って案内することが,一般的に周知事項であることを示したものである。こ
こで,互いに直交する4平面で形成された案内面を側面に形成した1本の案
内体が,摺動案内の際に軸廻りの回転を許容しないことは,乙1(3頁右下
欄3行∼16行,第1,3図)にも示されるように,技術常識である。
そうすると,引用例発明1と上記4つの周知例に示された技術において
は,いずれも,案内体の軸廻りの回転を許容せずに,縦方向の摺動案内を行
う点で機能が共通するということができる。
このように,四角柱状の案内体を1本で用い,軸廻りの回転を許容せず
に,縦方向の摺動案内を行うことが周知であることを示すために,4つの周
知例を挙げたものであり,この周知技術を踏まえれば,引用例発明1の四角
柱状のガイドポストを,1本で用いて,軸廻りの回転を許容せずに,縦方向
の摺動案内を行なうことは,当業者が容易に想到し得たといえるのである。
さらに,プレス加工の技術分野においても,プレス型が固定される一方の
プレートとプレス型が固定される他方のプレートとに1軸方向の相対運動を
行わせる際に,案内体の本数を1本とすることは,従来周知の事項である
(例えば,乙2の2頁右欄2行∼9行,乙3の5頁4行,5行,乙4の6頁
12行∼7頁3行,第1∼4図,摺動板8参照)。
また,本願発明のダイセットは案内体が1本であるが,補正明細書(甲1
の1∼3)によれば,本願発明のダイセットは,固定側型形成体が共通のダ
イベッド(1−5)に取り付けられ,それぞれの可動側型形成体が共通のプ
レスラム(1−6)に取り付けられることで,複数のダイセットを一体化し
て用いることが想定されている(甲1の1の例えば,段落【0029】,
【0040】∼【0042】,【0049】,【0052】,【008
7】,図1)。このように複数のダイセットを一体化して用いる場合には,
案内体は複数本用いられ,結局のところ,一体化された型形成体の荷重を複
数本の案内体により受けることになるのであるから,複数のダイセットを一
体化して用いる場合も想定した本願発明のダイセットにおいて,各ダイセッ
トにつき案内体を1本とすることは,ダイセットの強度,個々のダイセット
の幅等を勘案して当業者が適宜選択する設計事項にすぎないものである。
したがって,引用例発明1(甲2)において,ガイドポストを1本とする
ことは当業者が容易に想到し得たものである,との審決の判断に誤りはな
い。
(2)取消事由2(相違点2についての容易想到性の判断の誤り)に対し
ア「相違点2A(案内体の本数)についての審決の判断の誤り」に対し
(ア)本願発明の案内体の本数
引用例発明2における,「片持ち梁状に支持される上側のベースプレ
ート」が,相違点2における「可動側型形成体は,一端部が前記案内体
に支持され他端部は支持されない片持ち梁になって」いる点に相当する
ことは明かである。
この点について,原告は,本願発明の構成について,案内体の本数を
1本と認定すべきことを主張する。
しかし,審決では,相違点1として,本願発明の案内体の本数が1本
であることが認定されている。このとき,案内体を1本とするならば,
通常は,可動側型形成体における案内体から張り出す部分においてプレ
ス加工が行われるのであるから,片持ち梁状態とならざるを得ない。つ
まり,可動側型形成体におけるプレス加工が行われる部分を中心に考え
ると,案内体は可動側型形成体の一端に設けざるを得ない。そうする
と,審決での相違点1の検討により,「一端部が1本の案内体に支持さ
れ他端部は支持されない片持ち梁になっている」という可動側型形成体
の支持形態についての検討も行われているということができる。
したがって,相違点2の認定において,「・・・可動側型形成体は,
一端部が1本の前記案内体に支持され・・・」とまで認定する必要はな
いから原告の主張は理由がない。
(イ)引用例発明2のガイドポストの本数
原告は,引用例発明2について,ガイドポストの本数が2本であるこ
とを認定すべきであるとする。
しかし,上記のとおり,案内体の本数については,既に相違点1で検
討されているのであるから,引用例発明2のガイドポストの本数も相違
点2において認定する必要はない。
(ウ)小括
以上によれば,相違点2において,案内体(ガイドポスト)の本数の
相違を相違点として取り上げる必要はない。
イ「相違点2B(直交)についての審決の判断の誤り」に対し
(ア)本願発明の案内体の平面と張出し面との直交に関する構成は,原告
の主張するとおりである。
(イ)引用例発明2のガイドポストの案内面と張出し面との関係に関する
構成については,確かに,原告が主張するように,引用例2(甲3)に
開示された発明は,「下側のベースプレートに垂直に立設された少なく
とも2本の円柱体のガイドポストに,片持ち梁状に支持される上側のベ
ースプレートを縦方向に案内するダイセット」であり,2本のガイドポ
ストは円柱体であるから個々のガイドポストの案内面は平面ではない。
しかし,これらのガイドポストは張出し面に概ね直交する方向に並ん
でおり,この2本のガイドポストの案内面を結ぶ平面は,張出し面に概
ね直交するものである。このことを,審決は,「引用例発明2におい
て,ガイドポストを『ベースプレートに垂直に立設』する点は,相違点
2における『案内面の平面は案内体の軸心線と固定側型形成体又は可動
側型形成体が,前記案内体から張り出す部分の重心を含む張出し面に概
ね直交』する点に相当する」(審決書8頁26行∼29行)と表現した
ものである。
また,仮に,引用例2(甲3)の個々のガイドポストの案内面は平面
ではないから,引用例2が,相違点2における「案内面の平面は案内体
の軸心線と固定側型形成体又は可動側型形成体が,前記案内体から張り
出す部分の重心を含む張出し面に概ね直交」する点を開示するものでは
ないとしても,案内体の案内面が平面を有し,その平面を,可動体が前
記案内体からの張出し面に概ね直交させることは,従来周知の事項であ
る(例えば,甲4∼6も,そのようになっている。)から,審決の判断
に影響するものではない。
さらに,プレス加工の技術分野においても,案内体の案内面が平面で
あって,その平面を,可動側型形成体が前記案内体からの張出し面に概
ね直交させることは,以下に示すように周知である。
例えば,乙4(周知例8)の6頁12行ないし7頁3行,第1ないし
4図を参照すると,摺動板8すなわち案内体の案内面は平面であり,第
1,2,4図からみて,摺動板8の平面は,上ダイプレート10(可動
側型形成体)が前記摺動板8からの張出し面に概ね直交することが明ら
かである。また,乙5(特願平7−186303号(特開平9−109
98号)公報。以下「周知例9」という。)の段落【0002】∼【0
003】,図3,4を参照すると,スライド32(可動側型形成体)を
上下方向に案内するスライドギブ(32A,32B,42A,42B)
すなわち案内体の案内面は平面であって,その平面は,スライド32が
スライドギブ(32A,32B,42A,42B)からの張出し面に概
ね直交することが明らかである。さらに,乙6(実願昭61−3395
0号((実開昭62−146600号)のマイクロフィルム。以下「周
知例10」という。)の4頁2行ないし9行,第1,2図を参照する
と,スライド2(可動側型形成体)を上下方向に案内する,スライド2
の両側に設けられた摺動面すなわち案内面は平面であって,その平面
は,スライド2がスライド2の摺動面からの張出し面に概ね直交するこ
とが明らかである。
以上のとおり,引用例発明2は,「案内体の平面は案内体の軸心線と
固定側型形成体又は可動側型形成体が,前記案内体から張り出す部分の
重心を含む張出し面に概ね直交する」という本願発明の相違点2に係る
構成とは同一と評価することができるから,相違点2Bについての審決
の判断は誤りではない。
仮に,引用例発明2と本願発明の相違点2に係る構成とが同一と評価
できないとしても,案内体の平面と張出し面との関係を本件発明のよう
に構成することは,甲4ないし6又は乙4ないし6に示されるとおり,
周知の事項であるから,引用例発明2から容易に想到し得ることである
から,審決が,「引用例発明2において,ガイドポストを『ベースプレ
ートに垂直に立設』する点は,相違点2における『案内面の平面は案内
体の軸心線と固定側型形成体又は可動側型形成体が,前記案内体から張
り出す部分の重心を含む張出し面に概ね直交』する点に相当する」(審
決書8頁26行∼29行)とした判断には,結論に影響を及ぼす誤りは
ない。
ウ「引用例発明1と引用例発明2の組合せが容易であるとした判断の誤
り」に対し
原告は,引用例発明1と引用例発明2を組み合わせることには阻害要因
があると主張する。
しかし,引用例発明1(甲2)と引用例発明2(甲3)とは,発明の対
象がプレス金型用ダイセットの点で共通しており,かつ,引用例発明1の
ガイドポストを,ベースプレートを片持ち梁状に支持するために用いるこ
とを阻害する示唆は,甲2,3のいずれにもない。
原告は,「引用例発明1においては4角柱状のガイドポストの本数,ベ
ースプレートの支持形態は何ら特定されていない」(原告準備書面(第1
回)10頁3行∼5行)と主張するが,これらが特定されていないこと
が,当業者において,引用例発明1のガイドポストが片持ち梁状以外の形
態(例えば,ベースプレートの両端を支持する形態)に用いられ,ベース
プレートを片持ち梁状に支持する形態には用いられないとの理由にはなら
ない。
また,審決では,相違点1において,引用例発明1の四角柱状ガイドポ
ストを1本とすることを検討するとともに,相違点2においては,引用例
発明2の「片持ち梁状に支持される上側のベースプレート」について,引
用例発明1との組み合わせを検討しているのであるから,引用例発明1と
引用例発明2との組み合わせにおいて,「引用例発明1のダイセットに引
用例2に記載のものを適用しようとすれば,少なくとも2本の円柱形のガ
イドポストでベースプレートを片持ち梁状に支持する形態のものとなる」
(原告準備書面(第1回)10頁27行∼29行)ということにはならな
い。また,引用例発明2の2本の円柱体のガイドポストを1本にすること
を検討しているのではないから,「甲第3号証に記載のものにおいては,
円柱形のガイドポストは少なくとも2本であり,これを1本にした場合,
ベースプレートに回転が生じ,正確に打ち抜き加工をすることができなく
な」る(原告準備書面10頁30行∼33行)ことにもならない。
したがって,引用例発明1(甲2)と引用例発明2(甲3)との間に阻
害要因があるとする原告の主張には理由がない。
(3)取消事由3(相違点1,2を総合した顕著な作用効果を看過して判断し
た誤り)に対し
審決において,相違点1と相違点2は,ともに,可動側型形成体が片持ち
梁状に支持されることに関連付けられて検討されているのであるから,相違
点を相違点1と相違点2とに分けて検討したとしても両者の関連を無視する
ことにはならない。
原告は,本願発明の作用効果について主張するが,その根拠とされる甲8
の「ハイクォリティーダイセット」の「丸ガイドポストと角ガイドポストの
タワミ比較」をみても,本願発明のダイセットと本願発明を使用しない他の
ダイセットとの比較ではなく,角ポストそれ自体が丸ポストよりもたわみ量
が少ないこと,角ガイドポストの本数に応じた効果が示されているのみであ
る。すなわち,原告の主張は,四角柱状の案内体それ自体の作用効果を主張
するにすぎず,本願発明について,当業者の予測を超えた顕著な効果がある
ことを主張するものではない。
第4当裁判所の判断
当裁判所は,審決が,本願発明の相違点1,2に係る構成が,引用例発明1
に引用例発明2及び周知事項を適用することによって,容易に想到できるとし
た点には,誤りがあると判断する。
以下に,その理由を述べる。
1審決に理由記載が要求される趣旨について
特許法157条2項には,審決は,審決の結論のみならず結論に至った理由
を文書に記載する旨が規定されている。特許法が,審決書に理由の記載を要求
した趣旨は,①審決における判断の合理性等を担保して恣意を抑制すること,
②審決の理由を当事者に知らせることによって,取消訴訟(不服申立)の要否
等を検討するため,当事者に対する便宜を図ること,③理由を文書に記載する
ことによる事実上の結果として,公正かつ充実した審判手続が確保されること
等によるものである。
特に,審決において,特許法29条2項所定の要件を充足すると判断する場
合には,その性質上,客観的な証拠(技術資料)に基づかない認定や論理性を
欠いた判断をする危険性が常に伴うものである。したがって,審決書における
「審決の理由」には,事実認定が証拠によって適切にされ,認定事実を基礎と
した結論を導く過程が論理的にされている旨客観的に説示されていることが必
要であり,後に争われる審決取消訴訟においても,その点に関して,吟味,判
断するのに十分な内容であることが不可欠といえる。
上記の観点から,本件審決を検討する。
(1)本願発明と引用発明1の各特徴
ア本願発明の特徴
本願発明は,特許請求の範囲(請求項1)の記載等を基礎とするなら
ば,少なくとも,
①案内面(4−5)は平面を備え,平面は前記案内体(4)の軸心線と
固定側型形成体(2−2)又は可動側型形成体(3−2)が,案内体
(4)から張り出す部分の重心を含む張出し面に概ね直交しているダイ
セットであること,
②可動側型形成体(3−2)は,一端部が1本の案内体(4)に支持さ
れ他端部は支持されない片持ち梁であること,
③案内面(4−5)は案内体(4)の側面に形成され,案内面(4−
5)の平面は互いに直交する4平面で形成されていること,
という3つの特徴的な構成からなっている。
そして,補正明細書(甲1の1∼3)によれば,従来技術では,可動側
ダイプレートは,1本又は2本のガイドポスト(以下「案内体」ともい
う。)に片持ちに支持されて昇降運動し,ガイドポストとガイドポストを
通すために可動側ダイプレートに形成される穴は円柱状に形成されるが,
可動側ダイプレートは,その重力又は動作時の偏荷重を受けるため,ガイ
ドポストの軸心線に対して傾斜する方向の外力を受け,円柱状摩擦摺動面
の摩耗が進み,この摩耗を軽減しようとして介設された球体と摩耗面部に
局所的な応力が生じて,摩耗が促進され,ガイドポストの曲げ変形を起こ
すという課題が存在していたのに対して,本願発明は,同課題を解決する
ため,①ガイドポストの側面に形成される案内面は,互いに直交する4平
面で形成され,案内面はガイドローラリテーナを介して案内用孔を摺動す
ること,②案内面は,案内体から張り出す型形成体の重心と案内体の軸心
線を含む面である張出し面と直交し,偏荷重がかかっても局所的応力が組
型に発生しないようにさせたというものである。
イ引用例発明1の特徴
引用例発明1は,四角柱状のガイドポストと四角柱状の貫通孔を有する
ガイドブッシュの間に,軸方向への並進運動を円滑にするよう配列された
ローラ・ベアリングを配し,これによって,運転中に故障が生じにくく,
高い寸法精度が保たれ,純粋な並進運動を行うダイセットを提供しようと
するものである(別紙引用例1【図1】参照)。
従来技術においては,ガイドポスト及びガイドブッシュの貫通孔が円柱
状に形成され,その間にボールベアリングが使用されていたことにより,
①ボールベアリングに大きな圧力がかかること,②衝撃力に弱いこと,③
ガタが生じやすく寸法精度が劣化しやすいこと,④円柱状のガイドポスト
と円柱状の貫通孔を有するガイドブッシュとが円筒状のボールリテーナー
を介して単に嵌め合っているため,ガイドポストとガイドブッシュとは,
相互に並進運動をするだけでなく,共通軸の回りに回転運動も行うこと等
の課題を解決するための発明である。
その摺動部分は,プレス金型用ダイセットに組み込まれることが想定さ
れているものの,ダイセットの全体構成については,何らの開示はされて
いない。
(2)審決に記載された理由の概要
審決が法29条2項に該当すると判断した理由は,前記第2の3の(1)の
とおりである。すなわち,
①本願発明と引用例発明1とは,前記(1)のアの③において一致する。
②他方,本願発明と引用例発明1とは,前記(1)のアの①,②において相
違する,
③相違点の中の,前記(1)のアの②の「案内体が1本であること」に関し
ては,周知例1ないし4に開示されている,
④相違点の中の,前記(1)のアの②の「片持ち梁であること」及び前記(1)
のアの①の「直交」については,引用例発明2に開示されている,
⑤引用例発明1と引用例発明2とは,発明の対象が共通しているから,組
み合わせることが容易である,
したがって,本願発明は,特許法29条2項に該当するというものであ
る。
(3)判断
本願発明は,前記(1)のアの①,②,③の各構成のすべてを備えた,一つ
のまとまった技術的思想からなる発明である。これに対し,引用例発明1
は,その中の一つの構成である③のみを共通にする発明にすぎず,①及び②
(「直交」,「案内体の本数」,「片持ち梁」)の3点については,構成を
有しない。
審決は,本願発明中の各相違点に係る構成は,周知例や引用例発明2に示
されている技術であると説示している。しかし,審決では,本願発明と一つ
の技術的構成においてのみ一致し,複数の技術的構成において,実質的相違
が存在し,その課題解決も異なる引用例発明1を基礎として,本願発明に到
達することが容易であるとする判断を客観的に裏付けるだけの説示は,審決
書に記載されているとはいえない。
とりわけ,審決は,相違点1(前記(1)のアの②の「案内体が1本である
こと」)に関する判断においては,「身長計」,「自動車リフトの支柱」,
「燭台」等を挙げているのに対して,相違点2(前記(1)のアの②の「片持
ち梁であること」,及び前記(1)のアの①の「直交」)に関する判断におい
ては,引用例発明2を挙げているが,引用例発明2は,「2本の円柱体のガ
イドポスト」を必須の構成要件とするものであって,相違点1に関して容易
であるとする判断の基礎として用いた周知例と相反するものであるため,周
知例と引用例の相互の矛盾を説示することが求められるが,審決では,その
点の矛盾に対する合理的な説明は,されていない。
以上のとおり,本件における審決書に記載された具体的な理由は,特許法
157条2項が審決書に理由記載を求めた趣旨,すなわち,審決における判
断の合理性等を担保して恣意を抑制すること,客観的な証拠(技術資料)に
基づかない認定や論理性を欠いた判断をする危険性を排除するとの趣旨に照
らして,十分な説示がされているとはいえない。
したがって,審決の取消事由に関する原告の主張(とりわけ,取消事由2
に係る主張)は,理由がある。
2原告の主張に係る取消事由について
念のため,原告の主張に係る相違点2に係る容易想到性の有無について,具
体的に判断内容を述べる。
当裁判所は,「本願発明の案内体の平面と張出し面との直交に関する構成は
引用例発明2に示されている」とした審決の判断には誤りがあり,引用例発明
1と引用例発明2及び周知技術から,本願発明の相違点2Bに係る構成を容易
に想到することができたとはいえないと判断する。
その理由は,以下のとおりである。
(1)本願発明について
ア補正明細書の記載
本願発明の特許請求の範囲(請求項1)には「前記案内面(4−5)は
平面を備え,前記平面は前記案内体(4)の軸心線と前記固定側型形成体
(2−2)又は前記可動側型形成体(3−2)が,前記案内体(4)から
張り出す部分の重心を含む平面に概ね直交している」と記載されている。
補正明細書には,以下の記載がある。
「【0003】一般に,可動側ダイプレートは,その重力又は動作時の偏
荷重を受けるため,ガイドポストの軸心線に対して傾斜する方向の外力を
受ける。」
「【0009】本発明の他の目的は,偏荷重がかかっても局所的応力が組
型に発生しないようなダイセットを提供することにある。」
「【0033】図17と図18は,本発明の作用・効果の比較を示してい
る。図18の実施形態の作用効果は,図17に示す非実施形態の作用効果
よりもすぐれていることが,次に述べられる。図17は,ガイドローラを
介して相対的に滑動する2物体の滑動面に対して45度の角度を持つ鉛直
面S内に平行に片持腕が受ける衝撃力の方向が向いている場合を示してい
る。
【0034】図18は,ガイドローラを介して相対的に滑動する2物体の
滑動面に直交する鉛直面S(紙面に一致)内に平行に片持腕が受ける衝撃
力の方向が向いている場合を示している。図18には,直交2面にそれぞ
れに滑動するガイドローラ群は,それぞれに上下の2体のみが示されてい
る。」
「【0039】図18に示す実施の形態でも,点Pと点Qに反対向きの衝
撃力Fと−Fがガイドローラと壁面との間に発生する。このような点Pと
点Qは,1直線上に乗る無数の点のうちの1つである。一方側の群の上方
のガイドローラと他方側の下方のガイドローラは,その機能が幾何学的に
は,活用されていない。しかし上下2本のガイドローラは,図17の非実
施の形態のガイドローラが点接触するのに対して線接触している。この相
違は,全ガイドローラに影響し,自己整合的,自己調整的に衝撃力が分散
する。このように,図18の実施形態の全ガイドローラは,図17の非実
施の形態の全ガイドローラに比べて,有効に活用されている。」
「【0053】このため,可動側型形成体3−2の自由端部は固定側型形
成体2−2に支持されていないから,可動側型形成体3−2は,その一端
部分が案内体4に支持されているが他端部分は支持されず,片持ち梁にな
っている。この片持ち梁の曲げモーメントによる曲がりが可能な限り少な
いことが,製品の寸法精度を向上させる。」
「【0055】可動側型形成体3−2の張出方向線と案内体4の軸心線を
含む平面に直交するように案内体4の1側面である型形成体支持面4−5
が形成されていることが特に望ましい。
【0056】案内体4に対して曲がろうとする可動側型形成体3−2の軸
心方向の運動を案内する型形成体支持面4−5は,案内面4−5として定
義することができる。このような案内体4の1側面が,図1に示されてい
る。型形成体支持面4−5は,可動側型形成体3−2の曲がりを阻止する
ように可動側型形成体3−2を支持する支持面である。」
イ本願発明の相違点2に係る構成の技術的意義
図17,18によれば,滑動面に直交する鉛直面S内に平行に向いてい
る場合の方が,片持腕が受ける衝撃力の方向が,相対的に滑動する2物体
の滑動面に対して45度の角度を持つ鉛直面S内に平行な方向に向いてい
る場合(図17)よりも,衝撃力が分散し,作用効果において優れている
ことが示されている。すなわち,可動側型形成体の張出し方向線と案内体
の軸心線を含む平面に直交するように案内体の1側面を形成するとの構成
は,可動側型形成体に作用する案内体の垂直方向の軸心線に対し傾斜する
方向の外力を受け止めるのに優位性があることが示されている。
可動側型形成体の張出し方向線と案内体の軸心線を含む平面に直交する
ように案内体の1側面を形成するとの構成が採用されたのは,重力又は動
作時の偏荷重により片持ち梁に構成された可動側型形成体の自由端部に曲
げモーメントが働くことから,これによる曲がりを可能な限り少なくし,
製品の寸法精度を向上させるためである。
(2)引用例発明2について
ア引用例2(甲3)の記載
引用例2(甲3)には,次のとおりの記載がある(別紙引用例2【第4
図】参照)。
「2実用新案登録請求の範囲
金型交換装置の基台上に突出する位置決めピンに対応して複数個の位置
決め孔が形成された,一対のベースプレートからなる金型交換装置用ベー
スプレートにおいて,前記位置決め孔を基準として,一方のベースプレー
トの所定の位置に垂直に立設された少なくとも2個のガイドポストと,前
記位置決め孔を基準として他方のベースプレートの所定位置に形成され,
前記ガイドポストが嵌入案内される案内部とを有し,前記一対のベースプ
レートを,その各対応する位置決め孔を同心上に位置させてダイセット形
式に組立ててなる金型交換装置用ベースプレート。」(明細書1頁4行∼
15行)
「一般のプレス加工作業における加工精度は,プレス機自体の精度に依
るところが大きく,例えば,プレス作業中にラムに加わる複合荷重等によ
ってボルスターに対するラムの上下動の垂直度が損なわれると,金型交換
装置側のガイド力に比べてラムの慣性力の方が強大であることから,金型
交換装置側のガイドポストがラムの上下動にならってしまい,上下型のず
れが静止時より大きくなるという問題点がある。それは構造上止むを得な
いことであるが,それを軽減するには,金型交換装置側のガイドをより強
力に,かつ緊密化する以外にない。本考案は,上述した事情に鑑みてなさ
れたものであり,金型交換装置に用いられるベースプレートには,正確に
位置決めされた位置に,位置決め孔が穿設されている点に着目し,一対の
ベースプレートの一方に,前記位置決め孔を基準として正確に測定された
位置にガイドポストを垂直に立設するとともに,他方のベースプレートに
も同様に,位置決め孔を基準として正確に位置決めされた位置に,前記ガ
イドポストが嵌入案内される案内部を設け,前記一対のベースプレートを
ダイセット形式に組立てて,各ベースプレートに対する上型及び下型の取
付けと型合せを行うようにし,しかる後,このダイセット形式に組立てら
れた一対のベースプレートをそのまま金型交換装置に装着することによ
り,ダイセッターを不要とし,したがってダイセッターの工作誤差による
型ずれが生ずることなく,さらに,金型交換装置自体のガイド部と,この
ダイセット形式に組立てられた一対のベースプレートのガイド部とで,金
型の上下動を二重にガイドすることにより,クリアランスを高精度に維持
でき,しかもコスト低減を図ることのできる金型交換装置用ベースプレー
トを提供することを目的とするものである。」(明細書6頁7行∼8頁1
行)
「本考案による金型交換装置用ベースプレートは,金型が取付け固定さ
れる一方のベースプレート7Bに,その位置決め孔を基準として正確に位
置決めされた位置にガイドポスト13を垂直に立設するとともに,他方の
ベースプレート7Aにも,位置決め孔を基準として正確に位置決めされた
位置に前記ガイドポスト13が嵌入案内される案内孔12を形成し,ダイ
セット形式に組立てた構成になるものである。」(明細書12頁7行∼1
5行)
「本考案による型合せ装置を用いれば,型合せ装置そのものが,直接金型
交換装置に装着されるようになるので,金型交換装置内での型ずれはほと
んど生ぜす,金型交換装置を用いた高精度のプレス加工が可能となるもの
である。」(明細書14頁12行∼17行)
前記のとおり,引用例発明2の明細書においては,案内体の形状を円筒
形に限定する記載はなく,種々変形して実施できるものであるとされてい
る。実施例の第4図によれば,別紙のとおり,ベースプレート7Aはガイ
ドポスト13によって片持ち梁状に支持されている。
イ引用例発明2の技術内容
引用例発明2は,プレス機械における金型交換装置の部分に関する技術
であり,機械本体にあらかじめ組み入れられたダイセッターによる型合せ
の方式ではなく,金型交換装置本体とは別に上下のベースプレートを設
け,これをダイセット形式に組み立てて,金型交換装置に組み込むという
技術に係るものである。ダイセット形式に組み立てられた上下のベースプ
レートは,機能的には,上下のダイセットと同様の機能を果たすものと考
えられる。したがって,この上下のベースプレートの案内に関する技術
は,ダイセットの案内に関する技術と同視できるものである。そして,上
下のベースプレートは,一方のベースプレートに立設されたガイドポスト
が他方のベースプレートに設けられた案内孔を摺動することによって上下
する。
そこで,引用例発明2から,案内体の平面が案内体の軸心線と固定側型
形成体又は可動側型形成体が,案内体から張り出す部分の重心を含む平面
に概ね直交するように構成することを,当業者が容易に想到し得たかにつ
いて検討する。
引用例発明2では,ガイドポストが2本とされており,ガイドポストの
軸心線が2本存在する。したがって,この軸心線と張出し面の重心を含む
平面として,単一平面を観念することはできず,外力の働く方向もまた単
一平面に沿ったものを観念することはできない。そうすると,引用例発明
2を引用例発明1と組み合わせてみても,案内面との直交による衝撃力の
分散という技術的意義をもった本願発明の相違点2に係る構成を想到する
ことが当業者にとって容易であったということはできない。
ウなお,被告は,仮に,引用例2(甲3)が,相違点2における「案内面
の平面は案内体の軸心線と固定側型形成体又は可動側型形成体が,前記案
内体から張り出す部分の重心を含む張出し面に概ね直交」する点を開示す
るものではないとしても,予備的に,プレス加工の技術分野においても,
案内体の案内面が平面であって,その平面を,可動側型形成体が前記案内
体からの張出し面に概ね直交させることは,周知であると主張し,乙4
(周知例8),乙5(周知例9),乙6(周知例10)を提出する。
しかし,被告の予備的主張は,以下のとおり採用できない。
審決においては,本願発明と引用例発明1との相違点2に係る構成につ
いては,①引用例2発明には,「案内面の平面は案内体の軸心線と固定側
型形成体又は可動側型形成体が,前記案内体から張り出す部分の重心を含
む張出し面に概ね直交」するとの技術事項が開示されているとした上で,
②引用例1発明と引用例2発明を組み合わせることが容易である旨を理由
中において述べているのみであって,他の引用例を示した上で,各引用例
の組み合わせが容易であるか否かについて,理由を述べているわけではな
い。被告の予備的な主張について,本件取消訴訟の審理の対象とすること
は,結果として,原告に対し,意見を述べる機会や補正をする機会を奪う
ことになり,妥当とはいえない。この点,乙4ないし乙6が,周知技術を
示した文献であるという被告の主張を前提としたとしても,上記判断を左
右するものとはいえない。
したがって,被告の予備的主張は,採用の限りでない。
エ小括
以上のとおりであるから,引用例発明2を引用例発明1と組み合わせて
みても,案内面との直交による衝撃力の分散という技術的意義をもった本
願発明の相違点2に係る構成を想到することが当業者にとって容易であっ
たということはできず,当業者が引用例発明2及び引用発明例1に基づい
て容易に想到し得るとした審決の判断は誤りである。
3結論
よって,審決を取り消すこととし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
飯村敏明
裁判官
大須賀滋
裁判官
齊木教朗
(別紙)
補正明細書【図1】
引用例1【図1】引用例2【第4図】

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興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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