弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人坂田治吉の上告理由第一ないし第三について
 一 原審が適法に確定した本件の事実関係は、おおむね次のとおりである。
 1 川崎市港湾局管理部長D(以下「D」という。)は、昭和四九年一一月二六
日、昭和四八年八月ころに時価八万円相当のガスライター一個を収賄し同年一二月
ころに二〇万円相当のデパートギフト券を収賄したとの容疑で、川崎警察署に逮捕
された。
 2 被上告人Bは、川崎市長として、昭和四九年一一月三〇日、地方公務員法二
八条一項三号の規定に基づき、Dに対し、「その職に必要な適格性を欠く」として
分限免職処分(以下「本件分限免職処分」という。)を発令した。本件分限免職処
分当時において、川崎市当局に判明していたDの非違行為は、右の収賄事実のみで
あつた。
 3 Dは、昭和四九年一二月九日、川崎市に対し、川崎市職員退職手当支給条例
(以下「本件条例」という。)に基づく退職手当の請求を行い、本件条例三条所定
額の退職手当として、同月二一日に六六九万五〇〇〇円、昭和五〇年二月二七日に
一一〇万五〇〇〇円(給与改定による差額)、合計七八〇万円(以下「本件退職手
当」という。)の支給を受けた。右の昭和四九年一二月二一日の支給については、
被上告人Bが退職手当の金額を六六九万五〇〇〇円とする旨の退職手当裁定を決裁
し、昭和五〇年二月二七日の支給については、同市職員局長が同被上告人に代わつ
て退職手当裁定を決裁し、いずれの支給についても、同局給与課長が支出命令をし、
同市収入役が支払をした。
 4 Dは、昭和四九年一二月一七日に前記の収賄事実で起訴され、次いで同月二
八日に別件の収賄事実で追起訴され、更に昭和五〇年一月三〇日には毎月二〇万円
あて一五回にわたり合計三〇〇万円の金員を収賄したとの事実で追起訴され、同年
七月一五日、横浜地方裁判所川崎支部において、公訴事実の全部につき懲役二年、
執行猶予四年の有罪判決を受け、右判決はそのころ確定した。
 二 本件退職手当は右のとおり二回に分けて支給されているものの、二回目の支
給は給与改定による差額分で一回目の支給を基礎として自動的になされるものであ
るところ、被上告人Bは、川崎市長として、一回目の支給につきその金額を決定す
る退職手当裁定を自ら行つており、本件退職手当の支給に直接関与したものという
べきである。
 三 ところで、上告人は、本件退職手当の支給の違法理由として、本件分限免職
処分の違法を主張する。地方自治法二四二条の二の住民訴訟の対象が普通地方公共
団体の執行機関又は職員の違法な財務会計上の行為又は怠る事実に限られることは、
同条の規定に照らして明らかであるが、右の行為が違法となるのは、単にそれ自体
が直接法令に違反する場合だけではなく、その原因となる行為が法令に違反し許さ
れない場合の財務会計上の行為もまた、違法となるのである(最高裁昭和四六年(
行ツ)第六九号同五二年七月一三日大法廷判決・民集三一巻四号五三三頁参照)。
そして、本件条例の下においては、分限免職処分がなされれば当然に所定額の退職
手当が支給されることとなつており、本件分限免職処分は本件退職手当の支給の直
接の原因をなすものというべきであるから、前者が違法であれば後者も当然に違法
となるものと解するのが相当である。
 四 そこで、本件分限免職処分を発令したことに違法性が存するかどうかを検討
するに、前記のガスライター及びデパートギフト券を収賄したDは、地方公務員法
二八条一項三号にいう「その職に必要な適格性を欠く場合」に該当すると認められ
るから、本件分限免職処分は、同条項所定の要件を具備しているということができ
る。
 もつとも、本件条例によれば、懲戒免職処分を受けた職員に対しては退職手当を
支給しないこととされているから、Dを懲戒免職処分に付することなく本件分限免
職処分を発令したことの適否を判断する必要があるところ、前記のガスライター及
びデパートギフト券の収賄事実が地方公務員法二九条一項所定の懲戒事由にも該当
することは明らかであるが、職員に懲戒事由が存する場合に、懲戒処分を行うかど
うか、懲戒処分をするときにいかなる処分を選ぶかは、任命権者の裁量にゆだねら
れていること(最高裁昭和四七年(行ツ)第五二号同五二年一二月二〇日第三小法
廷判決・民集三一巻七号一一〇一頁参照)にかんがみれば、上告人の原審における
主張事実を考慮にいれたとしても、右の収賄事実のみが判明していた段階において、
Dを懲戒免職処分に付さなかつたことが違法であるとまで認めることは困難である
といわざるを得ない。
 また、本件分限免職処分発令後の経過に照らすと、本件分限免職処分が時期尚早
の処分ではなかつたかとの疑いをいれる余地がないとはいえず、その当不当が問題
となり得ようが、本件分限免職処分の発令の段階でその後における事態の進展を予
測することには相当の不確実性が伴うばかりでなく、分限処分の発令時期について
も任命権者が裁量権を有しており、不適格な職員を早期に公務から排除して公務の
適正な運営を回復するという要請にもこたえる必要のあることを考慮すると、発令
時期の面から本件分限免職処分が違法であるとすることもできない。
 さらに、本件分限免職処分の発令後において、前記のとおり、Dはガスライター
及びデパートギフト券の収賄事実で起訴されたほか、別件の収賄事実で二回にわた
り追起訴されるという事態が発生したわけであるが、別件の収賄事実が上告人の原
審における主張のようにDに対する本件退職手当の支払前に判明したとしても、本
件分限免職処分の発令によりDの川崎市職員としての身分が既に剥奪されているこ
とに照らせば、別件の収賄事実が判明した段階で本件分限免職処分を取り消さなか
つたことが違法であるということはできない。
 五 以上のとおり、本件分限免職処分を発令したこと及びこれを取り消さなかつ
たことが違法とはいえないから、本件退職手当の支給もこれを違法とすることはで
きないものといわざるを得ない。したがつて、本件退職手当の支給に違法がないと
した原審の判断は、その過程に上記説示と見解を異にする点はあるが、結論におい
て正当である。論旨は、判決の結論に影響を及ぼさない点をとらえて原判決を論難
するか、又は上記説示と異なる見解に立つて原判決を非難するものにすぎず、いず
れも採用することができない。
 同第四について
 所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論
の違法はない。論旨は、独自の見解に立つて原判決の違法をいうものであつて、採
用することができない。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官
全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    角  田   禮 次 郎
            裁判官    谷  口   正   孝
            裁判官    和  田   誠   一
            裁判官    矢  口   洪   一
            裁判官    高  島   益   郎

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