弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成28年10月13日判決言渡
平成27年(行ウ)第543号固定資産税等賦課処分取消請求事件
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
処分行政庁が平成26年5月9日付けで原告に対してした別紙1物件目録記載
の土地及び家屋に対する平成22年度の固定資産税及び都市計画税に係る増額賦
課決定処分を取り消す。
第2事案の概要
本件は,別紙1物件目録記載1の土地(以下「本件土地」という。)及び同2
の家屋(以下「本件家屋」といい,本件土地と併せて「本件不動産」という。)
を所有する原告が,処分行政庁から平成22年6月1日付けで本件不動産に係る
平成22年度の固定資産税及び都市計画税(以下,併せて「固定資産税等」とい
う。)の賦課決定処分(以下「本件当初処分」という。)を受けた後,それまで
非課税とされていた本件家屋の地下1階の一部(別紙2の図面の囲い部分。以下
「本件事業部分」という。)は地方税法348条2項11号の4及び同条4項の
いずれにも該当しないなどとして,平成22年度の固定資産税等につき,平成2
6年5月9日付けで30万5300円を増額して賦課する旨の決定(以下「本件
処分」という。)を受けたため,処分行政庁の所属する公共団体である被告に対
し,本件処分の取消しを求める事案である。
1関係法令の定め
本件に関係する法令の定めは,別紙3「関係法令の定め」記載のとおりであ
る(同別紙において定義した略語等は,本文においても用いることとする(他
の別紙についても同じ。)。)。
2前提事実
(1)当事者等
原告は,健康保険法8条及び11条の規定により設立された健康保険組合
であり,食品の製造,加工及び販売,並びに飲食業(ホテル及び旅館を含む。)
を事業とする事業所とその子会社及びその事業所を適用事業所とする東京都
食品健康保険を管掌している。
原告は,その運営する事業の用に供するため,本件事業部分(91.59
㎡)を含む本件不動産を所有している(甲1,2)。
(2)本件当初処分までの経緯
ア処分行政庁は,平成21年6月1日,原告に対し,本件不動産に係る平
成21年度の固定資産税等の納税通知をしたが,この時点では,本件家屋
の全体について,地方税法の規定により固定資産税等が非課税とされてい
た(以下,地方税法において固定資産税等を課すことができない旨定める
規定を総称して「非課税規定」という。)。
イ処分行政庁は,平成21年11月に本件不動産につき税務調査(現地調
査)を実施したが,この税務調査の結果,本件家屋のうち清掃員控室及び
東京都食品福利共済会に貸与していた部分(本件事業部分は含まれない。)
について非課税規定の適用がないと判断し,原告に対し,平成22年3月
10日付けで平成21年度の固定資産税等を増額する旨の納税通知をした。
なお,原告は,同年4月19日,同納税通知に係る処分に対し,審査請
求をしたところ,東京都知事は,上記共済会への貸与部分の一部につき,
非課税規定の適用があるか否かを判断する前提となる具体的事実に関し調
査が尽くされていないなどとして,平成23年5月2日,同処分を取り消
す旨の裁決をした(乙3)。
ウ処分行政庁は,本件不動産に係る課税部分と非課税部分を以下のとおり
とした上で,平成22年6月1日,本件不動産に係る平成22年度の固定
資産税等を337万1400円とする賦課決定を行い(本件当初処分),
原告に通知した(甲3,乙5の1及び2)。
(ア)本件家屋
本件家屋につき,廊下や階段等の共用部分を除いた部分(以下「専用部
分」という。)の課税部分と非課税部分を認定した上で,共用部分を専用
部分の課税部分と非課税部分との割合で按分して専用部分の課税部分と
非課税部分とにそれぞれ加えて,本件家屋の課税床面積と非課税床面積
を決定した。その結果,本件家屋の現況床面積5952.81㎡のうち,
非課税床面積が5737.13㎡(うち地方税法348条2項11号の
4該当部分が3691.90㎡(本件事業部分を含む。),うち同法3
48条4項該当部分が2045.23㎡),課税床面積が215.68
㎡とされた。
(イ)本件土地
本件土地につき,本件家屋と一体となって利用されている土地である
と認定した上で,本件土地の非課税地積については,本件家屋の延べ床
面積に占める地方税法348条2項11号の4が適用される床面積の割
合を本件土地全体の地積に乗じて,その面積を算出し,本件土地の課税
地積については,上記非課税地積を本件土地全体の地積から差し引いて
算出した。その結果,本件土地の地積1215.05㎡のうち,非課税
地積が753.57㎡,課税地積が461.48㎡とされた。
(3)本件訴訟に至る経緯
ア(ア)処分行政庁は,平成23年3月2日及び同年11月17日,本件家
屋について税務調査(現地調査)を実施した(乙6の1及び2)。
(イ)処分行政庁は,平成23年12月6日,原告に対し,本件事業部分
の使用頻度,通常の使用状況を確認できる書類,活動報告書,年間スケ
ジュール等に係る資料の提出を依頼し,平成24年2月28日,原告か
ら本件事業部分で実施されているカルチャー教室の講座内容,実施日等
が記載された資料,受講者の出席簿の写し等の資料を受領した(乙7)。
なお,原告が実施するカルチャー教室(以下「本件カルチャー教室」
という。)は,健康づくりのサポート及びストレス解消を目的として平
成21年4月から実施されており,平成21年度は,「将棋を楽しむ」,
「カラオケレッスン」,「仏像を描く」,「ウォーキング」,「囲碁を
楽しむ」,「抹茶と和菓子」(ただし,平成22年1月から同年3月ま
では「将棋を楽しむ」及び「囲碁を楽しむ」は開催されていない。),
平成22年度及び平成23年度は,「カラオケ」,「ウォーキング」,
「書道」,「仏像を描く」,「抹茶と和菓子」という講座を内容として
いたが,本件カルチャー教室のうち,「ウォーキング」は本件事業部分
ではなく,本件家屋の地下2階で実施されていた(甲14の1~5,甲
17,19,乙6の3,乙7)。
(ウ)処分行政庁は,平成25年3月8日,本件家屋について税務調査(現
地調査)を実施した(乙6の3)。
(エ)処分行政庁は,平成25年3月15日,原告に対し,本件カルチャ
ー教室に係る講師への教授料の支払が把握できる資料等の提出を依頼し,
同年4月5日及び同年5月1日,原告からそれらの資料を受領した。
(オ)なお,本件事業部分では,本件カルチャー教室のほか,特定保健指
導(健康保険法150条1項,高齢者の医療の確保に関する法律24条),
並びに,事前のメディカルチェックにより医師が運動を許可した者に対
して医師等による生活習慣の改善に向けた講義と運動指導を行うことを
内容とする「健康日本21東食楽々俱楽部」,及び,講義中心のショー
トスクールにおいて生活習慣の改善に向けた指導を行う「東食楽々俱楽
部ヘルシーライフ応援スクール」といった保健指導も実施されている(甲
11~13,17,19)。
イ処分行政庁は,平成26年2月21日,本件事業部分が地方税法348
条2項11号の4及び同条4項に該当しないなどと判断し,同年4月30
日,本件不動産の平成22年度の固定資産の価格等を修正して,当該価格
等を固定資産課税台帳に登録するとともに,原告に対して,同日付けで「固
定資産価格等修正通知書(土地)」(26台税固土第00025号),「固
定資産価格等修正通知書(家屋)」(26台税固家第00115号)等を
送付したほか,同年5月9日付けで「固定資産税・都市計画税(土地・家
屋)納税通知書」(平成22年度相当分)等を送付した(本件処分)(甲
4,5)。
本件処分における本件不動産に係る課税部分及び非課税部分の内訳は,
本件家屋につき,現況床面積5952.81㎡のうち,非課税床面積が5
652.08㎡(うち地方税法348条2項11号の4該当部分が362
9.86㎡,うち同法348条4項該当部分が2022.22㎡),本件
事業部分を含む課税床面積が300.73㎡であり,本件土地につき,地
積1215.05㎡のうち,非課税地積が740.91㎡,課税地積が4
74.14㎡である(甲3)。
ウ原告は,平成26年7月8日,本件処分について審査請求をし,東京都
知事は,平成27年4月14日,同審査請求を棄却する旨の裁決をした(甲
6,9の2)。
エ原告は,平成27年9月8日,本件訴えを提起した。
3争点
(1)本件事業部分に係る地方税法348条2項11号の4の適用の可否(本件
事業部分が診療所又は政令で定める保健施設において直接その用に供する固
定資産に当たるか)
(2)本件処分が信義則に反するか
(3)本件事業部分に係る地方税法348条4項の適用の可否(本件事業部分が
「事務所」に当たるか)
4争点に関する当事者の主張
(1)争点(1)(本件事業部分に係る地方税法348条2項11号の4の適用の
可否(本件事業部分が診療所又は政令で定める保健施設において直接その用
に供する固定資産に当たるか))について
(原告の主張)
ア診療所において直接その用に供する固定資産に当たるか
(ア)原告は,本件事業部分において,高齢者の医療の確保に関する法律
により実施することとされた特定保健指導,「健康日本21東食楽々俱
楽部」や「東食楽々俱楽部ヘルシーライフ応援スクール」といった保健
指導を実施するほか(甲11~13,20),健康づくりのサポートや
ストレス解消を目的に被保険者及びその被扶養者を対象として,厚生労
働省保険局長通知である「健康保険組合の事業運営指針」,「健康保険
法に基づく保健事業の実施等に関する指針」等に基づいて本件カルチャ
ー教室を実施している(甲14の1~5,甲18の1,4及び5)。な
お,本件カルチャー教室は,飽くまでも原告の保健事業の一環として実
施されている事業であって,保健事業とは関連性のない単なるレクリエ
ーションとは性質を異にするものである。
(イ)このように本件事業部分は,特定保健指導及び保健指導のほか,原
告が行うべき保健事業の一つである本件カルチャー教室に使用されてい
るものであり,病院及び診療所に該当する医療施設が積極的にこれと同
様のカルチャー教室の運営を行っている例があることにも鑑みれば,本
件事業部分が地方税法348条2項11号の4の定める「診療所におい
て直接その用に供する固定資産」に該当することは明らかである。
イ政令で定める保健施設において直接その用に供する固定資産に当たるか
(ア)原告は,本件事業部分において,前記アのとおり,特定保健指導,
保健指導及び本件カルチャー教室を実施しているのであるから,本件事
業部分が施行令50条の3の定める「健康相談所」として地方税法34
8条2項11号の4の定める「政令で定める保健施設において直接その
用に供する固定資産」に該当することは明らかである。
(イ)また,本件事業部分は,構造的に見ると,主として本件家屋の地下
2階にある体育館の利用者の利便に供するため,軽食等の提供等も可能
な休憩所として利用されることを企図して設けられたスペースであるこ
と,厚生労働省が実施する健康増進施設認定制度(甲27,28)によ
り「運動型健康増進施設」との認定を受けた施設においては,「からだ
の健康づくり」に加えて「こころの健康づくり」を目的として,体育館
に附属する施設において本件カルチャー教室と同様の講座を実施してい
ることが多いこと(甲29,30)からすれば,本件事業部分は「体育
館に附属する施設」(施行令50条の3)として地方税法348条2項
11号の4の定める「政令で定める保健施設において直接その用に供す
る固定資産」に該当することは明らかである。
ウなお,仮に,本件カルチャー教室のための使用が「診療所」や「政令で
定める保健施設」の用に供されているとはいえないとしても,本件事業部
分が特定保健指導及び保健指導のために使用されている以上,「診療所」
や「政令で定める保健施設」の用による使用が「常態」であるというべき
であり,いずれにしても,本件事業部分は,「診療所」あるいは「政令で
定める保健施設」において「直接その用に供する固定資産」に該当するも
のである。
(被告の主張)
ア診療所において直接その用に供する固定資産に当たるか
(ア)地方税法348条2項11号の4は,健康保険組合等が行う被保険
者のための療養給付において,病院及び診療所は基幹的役割を果たすこ
とを考慮して非課税措置を講じたものと解されるが,保健事業の一環と
して原告が実施しているという本件カルチャー教室は,診療所において
直接その用に供する固定資産について非課税措置を講じた上記制度趣旨
に沿わない。
(イ)また,「診療所」とは,「医師又は歯科医師が,公衆又は特定多数
人のため医業又は歯科医業を行う場所」(医療法1条の5第2項)とさ
れ,医療の給付に必要不可欠のものである限りは,これと一体をなすも
のとして非課税の範囲に含めるべきものと解される。
しかし,本件カルチャー教室は,健康づくりのサポート等を目的とは
しているものの,その内容は,「将棋を楽しむ」,「カラオケレッスン」,
「仏像を描く」,「ウォーキング」,「囲碁を楽しむ」,「抹茶と和菓
子」というものであり,通常のカルチャーセンター等において行われて
いるものと変わらない。加えて,原告が実施するカルチャー教室は,医
師や歯科医師等の医療従事者を講師とするものではなく,参加募集の対
象者も広く被保険者とその被扶養者であって,診療所受診者に限るなど
の制限は一切設けられておらず,受講希望者は,参加に当たり,その費
用を各自前払することとされている。
このような本件カルチャー教室の性格及び内容に照らせば,本件事業
部分が,医師又は歯科医師が公衆又は特定多数人のため医業又は歯科医
業を行うための施設及びこれと一体をなす医療の給付に必要不可欠のも
のとして,診療所において直接その用に供する固定資産に該当しないこ
とは明らかである。
(ウ)なお,本件事業部分が,特定保健指導や保健指導の利用に供されて
いるとしても,本件事業部分においては本件カルチャー教室が継続的に
開催されており,開催日数でいえば特定保健指導等の利用は本件事業部
分の使用日数全体の2割にも満たない。そして,地方税法348条2項
11号の4の診療所において「直接その用に供する固定資産」というた
めには,その使用が継続的であると否とまでは問わないが,診療所のた
めのみの使用であることを要し,単にこれらの用に供されることがある
というだけでは足りないのであって,上記特定保健指導等の利用状況に
照らせば,本件事業部分が,診療所において「直接その用に供する固定
資産」に該当しないことは明らかである。
イ政令で定める保健施設において直接その用に供する固定資産に当たるか
(ア)地方税法348条2項11号の4が「政令で定める保健施設におい
て直接その用に供する固定資産」を非課税としたのは,保健施設が病院
及び診療所の補助的施設として療養給付の一環としての機能を担う性格
を有するものであること等を考慮したことによるものであるところ,保
健事業の一環として原告が実施しているという本件カルチャー教室は,
かかる趣旨に合致しない。
(イ)また,施行令50条の3が定める「体育館に附属する施設」あるい
は「健康相談所」に該当するか否かは,本件事業部分の実際の使用状況
に照らし,社会通念に基づいて客観的に判断されるべきものと解される
ところ,本件カルチャー教室の内容からすれば,ウォーキングを除いて,
およそ体育館で行う運動実技に関する性格のものではないし,通常,健
康相談所で行われるような生活習慣病等に係る個別の健康相談や健康状
況に関する医師,保健師あるいは栄養士らによる専門的助言を行うよう
な内容のものでもない。
したがって,本件カルチャー教室が,健康保険法上の保健事業に位置
付けられるものであるとしても,本件事業部分は,上記「体育館に附属
する施設」あるいは「健康相談所」には当たらない。
(ウ)なお,本件事業部分が,特定保健指導あるいは保健指導の利用に供
されているとしても,それをもって政令で定める保健施設において「直
接その用に供する固定資産」に該当するものではないことは前記ア(ウ)
と同様である。
(2)争点(2)(本件処分が信義則に反するか)について
(原告の主張)
ア本件事業部分においては,平成21年4月以降,本件カルチャー教室が
実施されているところ,同年11月の現地調査の際,処分行政庁の担当職
員は,本件事業部分を含む本件家屋の6階から地下2階までをくまなく視
認して,それぞれの用途を確認しており,その時点では既に本件事業部分
が本件カルチャー教室として使用されていることを把握していた。そして,
処分行政庁は,上記現地調査の実施後も,本件事業部分を除く部分につき
非課税規定の適用はないと判断しているのであって,これは本件事業部分
に非課税規定の適用があるとの見解を処分行政庁として黙示的に表明して
いたものにほかならない。
それにもかかわらず,処分行政庁は,平成21年度の固定資産税等の賦
課処分に係る審査請求による裁決を契機として,突如として本件事業部分
には非課税規定の適用がないとして,その判断を改め,平成22年に遡っ
て本件事業部分に係る固定資産税等の増額分を原告に賦課する旨の本件処
分をするに至ったものである。
イ他方,原告は,健康保険の運営に当たる公法人であり,各年度の財政運
営については当局による厳格な監督の下,健康保険法の定める予算・決算
の措置を講じて財政運営を行っているが,平成22年度においては本件事
業部分に係る固定資産税等の支払に関して何らの予算措置も講じておらず,
原告としては4年も前の時期に起因する固定資産税等を予算措置もなく支
出することはできない。
ウ以上からすれば,本件処分は,納税者たる原告の信頼を著しく害するも
のであって,信義則に反することは明らかである。
(被告の主張)
ア租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては,信義則の
法理の適用については慎重でなければならず,租税法規の適用における納
税者間の平等,公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課
税を免れせしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるよ
うな特別の事情が存する場合に,初めて信義則の法理の適用の是非を考え
るべきものである。
そして,このような特別な事情が存するかどうかの判断に当たっては,
少なくとも,税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示し
たことにより,納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したと
ころ,後に当該表示に反する課税処分が行われ,そのため納税者が経済的
不利益を受けることになったものであるかどうか,また,納税者が税務官
庁の当該表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の
責めに帰すべき事由がないかどうかという点の考慮は不可欠のものである
といわなければならない。
イ本件では,処分行政庁(その指揮監督を受けて事務を行う東京都台東都
税事務所職員を含む。)が,原告に対して,本件事業部分につき固定資産
税等を課税しない旨の公的見解を表示したことはない。
ウなお,東京都台東都税事務所の担当職員が,本件事業部分が本件カルチ
ャー教室の会場として使用されていることを把握したのは平成23年3月
2日の現地調査においてのことであるし,そもそも,課税庁たる処分行政
庁は,地方税法17条の5に基づき,法定納期限の翌日から5年間という
期間内において賦課決定の誤り等が発見された際には,これを是正しなけ
ればならないところ,本件当初処分は,本件事業部分が課税対象とならな
い旨を明示していない通常の賦課処分にすぎないのであって,本件当初処
分をもって,処分行政庁が,以後,遡って修正等を行わないことを約する
旨の公的見解を表示したことにならないことは明らかである。
エしたがって,本件処分が信義則に反するということはない。
(3)争点(3)(本件事業部分に係る地方税法348条4項の適用の可否(本件
事業部分が「事務所」に当たるか))について
(原告の主張)
ア地方税法348条4項は,健康保険組合等が所有し,かつ,使用する事
務所に対しては,固定資産税を課することができないとのみ定めている。
ここでいう「事務所」について,被告が主張するように庶務,会計等いわ
ゆる現業に属さない総合的な事務を行う家屋に限定して解釈すべき理由は
なく,健康保険組合等の目的たる業務の用に供されている固定資産のうち,
同法348条2項11号の4の要件に該当する固定資産は,土地及び家屋
が非課税固定資産となり,これには該当しないものの,その目的たる業務
の用に供されている固定資産については,同法348条4項により家屋の
みが非課税固定資産になると解すべきである。
イそして,本件事業部分は,原告が特定保健指導及び保健指導のための面
談の場として,あるいは保健事業の一環である本件カルチャー教室におい
て被保険者やその被扶養者が講習等を受ける場として利用されており,地
方税法348条4項所定の「事務所」に当たることは明らかである。
(被告の主張)
地方税法348条4項が定める「事務所」は,「当該組合又は連合会の行
う事業に関連して庶務,会計等いわゆる現業に属さない綜合的な事務を行う
建物をいい,通常これに附属する物置,炊事場,小使室,会議室,金庫室等
は事務所に含めて取り扱うべきであること」とされており(昭和27年8月
29日自丙税発第79号,各都道府県知事宛て自治庁税務部長通達。乙11),
本件事業部分がこれに当たらないことは明らかである。
第3当裁判所の判断
1争点(1)(本件事業部分に係る地方税法348条2項11号の4の適用の可
否(本件事業部分が診療所又は政令で定める保健施設において直接その用に
供する固定資産に当たるか))について
(1)診療所において直接その用に供する固定資産に当たるか
ア地方税法348条2項11号の4は,健康保健組合等が所有し,か
つ,経営する病院及び診療所において直接その用に供する固定資産で
政令で定めるものに対しては固定資産税を課することができない旨規
定しているが,これは,健康保険組合等が行う被保険者のための療養
給付において,病院及び診療所が基幹的役割を果たすことに鑑み,病
院及び診療所の用に供される固定資産について,政策的な観点から例
外的に非課税にしたものと解される。このような趣旨に加え,納税義
務の公平な分担等の観点も考慮すると,診療所において「直接その用
に供する固定資産」とは,「直接その用に供する」という文言に即し
て,診療所として利用されることを常態とする固定資産をいうものと
解するのが相当である。また,ここにいう「診療所」は,その文言等
からすれば,医師あるいは歯科医師が公衆又は特定多数人のため医業又
は歯科医業を行う場所をいうものと解される(医療法1条の5第2項参照)。
イ(ア)そして,前記前提事実,証拠(甲10~14,17~20,乙6の
1及び3,乙7)及び弁論の全趣旨によれば,本件事業部分では,特定
保健指導,並びに,事前のメディカルチェックにより医師が運動を許可
した者に対して,医師等が生活習慣の改善に向けた講義と運動指導を行
うことを内容とする「健康日本21東食楽々俱楽部」,及び,講義中心
のショートスクールにおいて生活習慣の改善に向けた指導を行う「東食
楽々俱楽部ヘルシーライフ応援スクール」といった保健指導のほか,平
成21年4月からは,健康づくりのサポート及びストレス解消を目的と
して,平成21年度には,「将棋を楽しむ」,「カラオケレッスン」,
「仏像を描く」,「ウォーキング」,「囲碁を楽しむ」,「抹茶と和菓
子」(ただし,平成22年1月から同年3月までは「将棋を楽しむ」及
び「囲碁を楽しむ」は開催されていない。)が,平成22年度及び平成
23年度には,「カラオケ」,「ウォーキング」,「書道」,「仏像を
描く」,「抹茶と和菓子」といった講座を内容とする本件カルチャー教
室が実施されており(本件カルチャー教室のうち,ウォーキングは本件
事業部分ではなく本件家屋の地下2階で実施されている。以下,ウォー
キングを除いた本件カルチャー教室を「本件カルチャー教室(本件事業
部分実施分)」という。),平成22年4月から同年12月までにおけ
るそれぞれの実施日数は,特定保健指導が27日,保健指導が9日,本
件カルチャー教室(本件事業部分実施分)が69日であることが認めら
れる。
(イ)かかる本件事業部分の利用状況に照らせば,本件事業部分は,本件
カルチャー教室(本件事業部分実施分)のために利用される頻度が高か
ったというのが相当であるところ,その内容は,その開催時期によって
若干異なるものの,上記のとおり「将棋を楽しむ」,「カラオケレッス
ン」,「仏像を描く」,「囲碁を楽しむ」,「抹茶と和菓子」,「書道」
といったものであることからすれば,本件カルチャー教室(本件事業部
分実施分)が保健事業の一環として実施され,それによりその目的であ
る健康づくりのサポートあるいはストレス解消につながる側面があると
しても,その実質はレクリエーションの場を提供しているにすぎないも
のというべきであり,本件事業部分を本件カルチャー教室(本件事業部
分実施分)として利用することが,医師あるいは歯科医師が公衆又は特
定多数人のための医業又は歯科医業を行うものということはできない。
そうすると,本件事業部分は,診療所として利用されることを常態とし
ていたということはできず,「診療所において直接その用に供する固定
資産」であるいうことはできない。
ウ(ア)これに対して,原告は,健康保険組合が実施する事業のうち,療養
給付に限定して非課税規定の適用があるとする根拠はなく,健康保険組
合が行う療養給付以外の事業も,被保険者及びその被扶養者の生活の安
定と福祉の向上という点で等しく重要性(公益性)を有するものである
上,他の病院あるいは診療所に該当する医療施設が,原告と同様にカル
チャー教室を実施している例も見られるのであり(甲26),このこと
はカルチャー教室を実施し,心の健康づくりを実現することが疾病への
対処に有効かつ適切であることを示すものにほかならず,本件カルチャ
ー教室(本件事業部分実施分)の実施内容は,「病院及び診療所」たる
性格とそごしないのであるから,それをもって本件事業部分の「診療所」
の該当性を否定する理由にはならないと主張する。
しかしながら,健康保険組合による保健事業が実施される場所あるい
は心の健康づくりにつながる事柄を実施する場所が全て「診療所」に該
当するものではないことはその文言からしても明らかであるし,他の医
療施設において原告と同様にカルチャー教室を実施しているとしても,
当該カルチャー教室を実施している場所が「診療所」に該当するか否か
は,当該場所の利用状況等を総合的に考慮して個別に判断されるべきも
のであるから,このことをもって本件事業部分が「診療所」に当たると
いうことはできず,上記原告の主張は採用することができない。
(イ)また,原告は,本件事業部分では反復かつ継続的に特定保健指導や
保健指導も実施されているのであるから,診療所の用としての利用が常
態になっていると主張するが,前記イ(ア)のとおり,特定保健指導や保
健指導が実施された日数は,平成22年4月から同年12月までの9か
月でわずか36日であり,本件カルチャー教室(本件事業部分実施分)
が実施された日数の約半分にすぎず,特定保健指導等の利用が常態とな
っていたということはできないのであるから,いずれにしても原告の上
記主張は採用することができない。
エ以上のとおりであり,本件事業部分は,地方税法348条2項11号の
4が定める「診療所において直接その用に供する固定資産」に該当すると
いうことはできない。
(2)政令で定める保健施設において直接その用に供する固定資産に当たる

ア地方税法348条2項11号の4は,健康保健組合等が所有し,か
つ,経営する政令で定める保健施設において直接その用に供する固定
資産に対しては固定資産税を課することができない旨規定し,この規
定を受けた施行令50条の3第2項は,上記政令で定める保健施設を
運動場,体育館,プール及びこれらに附属する施設(同項1号),健
康相談所(同項2号)などとすることを定めている。これらの規定は,
当該保健施設が,病院又は診療所の補助的施設として療養給付の一環
としての機能を担う性格を有するものであることに鑑み,政策的な観
点から例外的に非課税にしたものと解される。このような趣旨に加え,
納税義務の公平な分担等の観点も考慮すると,保健施設において「直
接その用に供する固定資産」とは,「直接その用に供する」という文
言に即して,保健施設として利用されることを常態とする固定資産を
いうと解するのが相当である。
イこれを前提に検討すると,まず,原告は,本件事業部分が,健康相談
所において直接その用に供されていると主張する。
(ア)しかし,前記(1)イ(ア)のとおり,本件事業部分においては,特定
保健指導及び保健指導のほか,その開催時期によって内容は若干異なる
ものの,「将棋を楽しむ」,「カラオケレッスン」,「仏像を描く」,
「囲碁を楽しむ」,「抹茶と和菓子」,「書道」といった講座を内容と
する本件カルチャー教室(本件事業部分実施分)が実施されているとこ
ろ,本件カルチャー教室(本件事業部分実施分)の実質はレクリエーシ
ョンの場を提供しているものにすぎないというべきであって,本件カル
チャー教室を実施することが健康相談としての役割を担っているものと
は評価できない。そして,前記(1)ウ(イ)のとおり,本件事業部分は,
本件カルチャー教室(本件事業部分実施分)のために利用される頻度が
高かったことからすれば,本件事業部分は,健康相談所として利用され
ることを常態としていたとはいえず,健康相談所において直接その用に
供する固定資産であるとは認めることができない。
(イ)これに対し,原告は,健康保険組合が実施する事業のうち,療養給
付に限定して非課税規定の適用があるとする根拠はなく,健康保険組合
が行う療養給付以外の事業も,被保険者及びその被扶養者の生活の安定
と福祉の向上という点で等しく重要性(公益性)を有するものである上,
保健事業は,疾病又は負傷を予防するために実施される事業であって,
疾病や負傷の発生後に事後的に実施される療養給付を補完する性格を有
するというべきであるところ,本件カルチャー教室(本件事業部分実施
分)は保健事業の一環として実施されているのであるから,本件カルチ
ャー教室(本件事業部分実施分)を実施する本件事業部分は「健康相談
所」に該当すると主張する。
しかし,仮に,本件カルチャー教室(本件事業部分実施分)が原告の
保健事業の一つとして実施されているものであるとしても,そのことの
みをもって本件事業部分が当然に「健康相談所」に該当することになる
わけではなく(保健事業の一環ということで足りるのであれば,「健康
相談所」などと限定して規定する必要はない。),上記本件カルチャー
教室(本件事業部分実施分)の内容に照らせば,本件事業部分が「健康
相談所」に当たると解することは困難というほかないのであって,原告
の上記主張は採用することができない。
ウ次に,原告は,本件事業部分が,本件家屋の地下2階にある体育館
に附属する施設において直接その用に供されていると主張する。
(ア)しかし,体育館は一般的には運動施設としての性質を有するもの
であるところ,前記(1)イ(ア)のとおり,本件事業部分は,その開催
時期によって内容は若干異なるものの,「将棋を楽しむ」,「カラオケ
レッスン」,「仏像を描く」,「囲碁を楽しむ」,「抹茶と和菓子」,
「書道」といった講座を内容とする本件カルチャー教室(本件事業部分
実施分)の会場として利用されており,これらはその内容からして運動
施設である体育館で行う性質のものとはおよそ無関係であるというほか
ない。その上,本件カルチャー教室(本件事業部分実施分)は本件事業
部分のみで実施され,かつそれでその実施内容が完結しているといえ,
本件事業部分における本件カルチャー教室(本件事業部分実施分)の内
容が本件家屋の地下2階にある体育館での実施内容と関係性があること
を示す的確な証拠もない。そして,前記(1)イ(イ)のとおり,本件事業
部分は,本件カルチャー教室(本件事業部分実施分)の会場として利用
される頻度が高かったことからすれば,本件事業部分が,体育館に附属
する施設として利用されることを常態としていたとはいえず,体育館に
附属する施設において直接その用に供する固定資産であるとは認めるこ
とができない。
(イ)これに対し,原告は,厚生労働省が実施する健康増進施設認定制度
におけるいわゆる運動型健康増進施設でも運動実技とは直接関連しない
内容のカルチャー教室が実施されているのであって(甲27~30),
保健事業の重要性にも鑑みれば,本件カルチャー教室(本件事業部分実
施分)を実施する本件事業部分が「体育館に附属する施設」であること
を否定する理由はないと主張する。
しかしながら,保健事業であることをもって本件事業部分が「体育館
に附属する施設」に該当することになるわけではないし,証拠(甲28)
によれば,上記健康増進施設認定制度は「国民の健康づくりを推進する
上で一定の基準を満たしたスポーツクラブやフィットネスクラブを認定
しその普及を図る」ことを目的とし,「生活指導を行うための設備を備
えていること」などがいわゆる運動型健康増進施設の主な認定基準とさ
れていることなどが認められるところ,このような健康増進施設認定制
度と納税義務の公平な分担等をも目的とする地方税法348条2項1
1号の4とはその目的を異にし,その適用あるいは認定のための要件等
も異にするのであるから,いわゆる運動型健康増進施設において本件カ
ルチャー教室(本件事業部分実施分)と同様のことが実施されていると
しても,それをもって本件事業部分が「体育館に附属する施設」に当た
ると解されるわけではなく,原告の主張をもってしても,上記判断を左
右するものではない。
(ウ)また,原告は,本件家屋の建築に当たって,本件事業部分は,主と
して体育館の利用者の利便に供するため,軽食等の提供も可能な休憩所
として利用されることを企図して設けられたものであるとも主張するが,
いずれにしても平成22年当時においては,本件事業部分が本件カルチ
ャー教室(本件事業部分実施分)の会場として利用される頻度が高かっ
たのであるから,上記事情をもってしても本件事業部分が「体育館に附
属する施設」に該当することにはならない。
エそのほか,原告は,本件事業部分では反復かつ継続的に特定保健指導や
保健指導も実施されているのであるから,「政令で定める保健施設」の用
としての利用が常態であると主張するが,特定保健指導等を実施する場所
が「健康相談所」等に該当するか否かは別にして,前記のとおり,特定保
健指導等が常態となっていたということはできず,いずれにしても原告の
主張は採用することができない。
オ以上のとおりであり,本件事業部分は,地方税法348条2項11号の
4が定める「政令で定める保健施設において直接その用に供する固定資産」
に該当するということはできない。
(3)したがって,本件事業部分には,地方税法348条2項11号の4は適用
されないというべきである。
2争点(2)(本件処分の信義則に反するか)について
(1)租税法規に適合する課税処分について,法の一般原理である信義則の法理
の適用により,当該課税処分を違法なものとして取り消すことができる場合
があるとしても,法律による行政の原理なかんずく租税法律主義の原則が貫
かれるべき租税法律関係においては,当該法理の適用については慎重でなけ
ればならず,租税法規の適用における納税者間の平等,公平という要請を犠
牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護し
なければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に,初めて当
該法理の適用の是非を考えるべきである。そして,上記の特別の事情が存す
るかどうかの判断に当たっては,少なくとも,税務官庁が納税者に対し信頼
の対象となる公的見解を表示したことにより,納税者がその表示を信頼しそ
の信頼に基づいて行動したところ,後に当該表示に反する課税処分が行われ,
そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであるかどうか,
また,納税者が税務官庁の当該表示を信頼しその信頼に基づいて行動したこ
とについて納税者の責めに帰すべき事由がないかどうかという点の考慮は不
可欠のものであるといわなければならない(最高裁昭和60年(行ツ)第1
25号同62年10月30日第三小法廷判決・裁判集民事152号93頁参
照)。
(2)原告は,処分行政庁が,平成21年11月の現地調査の時点で本件事業部
分において本件カルチャー教室(本件事業部分実施分)が実施されているこ
とを把握したにもかかわらず,本件事業部分に非課税規定の適用があるとし
て本件不動産に係る固定資産税等の課税を行ってきたのであるから,本件事
業部分について非課税規定の適用がある旨の処分行政庁としての公的見解が
黙示的に表明されていたなどとして,本件処分は,納税者たる原告の信頼を
著しく害するものであって,信義則に反すると主張する。
ア証拠(甲21の1)及び弁論の全趣旨によれば,平成21年11月11
日午前10時から午前11時30分にかけて,東京都台東都税事務所の担
当職員により,それまで全体が非課税とされていた本件家屋につき,その
使用状況を確認するための現地調査が行われたこと,同現地調査において
は本件家屋全体を対象として確認作業がされたことが認められる。
しかしながら,上記現地調査は,本件事業部分に特化した調査ではなく,
飽くまで本件家屋全体に係る調査であり,上記1時間30分という調査時
間の中で本件家屋の固定資産税等に関わるあらゆる事実を漏れなく把握で
きるとは限らないのであって,本件家屋全体の確認がされたということを
もって,上記職員において本件事業部分が本件カルチャー教室(本件事業
部分実施分)として使用されていることを認識したとまで認めることはで
きず,その他これを認めるに足りる的確な証拠はない。
イまた,仮に,上記アの現地調査の時点で上記職員において本件事業部分
が本件カルチャー教室(本件事業部分実施分)として利用されていること
等を認識したことが認められるとしても,上記現地調査により把握した事
実を基礎とした本件家屋の固定資産税等に係る問題点が全て意識され,検
討されるとも限らないことからすれば,同現地調査を踏まえてされた本件
当初処分等は,飽くまで本件家屋の一部について固定資産税等を課するこ
とを示すものにすぎず,それ以外の部分については,以後課税対象とはし
ないことまで示すものではないというべきであり,その他処分行政庁が本
件事業部分につき固定資産税等を課さないことを示したものであると認め
るに足りる的確な証拠はない。
ウしたがって,処分行政庁が,本件処分まで本件事業部分に非課税規定
の適用があるとして本件不動産に係る固定資産税等の課税を行ってきたと
しても,それにより,原告に対して,本件事業部分に非課税規定の適用が
ある旨の信頼の対象となる公的見解を表示したことにはならないというべ
きである。
(3)以上からすれば,本件処分は信義則に違反するものではない。
3争点(3)(本件事業部分に係る地方税法348条4項の適用の可否(本件事
業部分が「事務所」に当たるか))について
(1)地方税法348条4項は,健康保険組合等が所有し,かつ,使用する
事務所及び倉庫に対しては,固定資産税を課することができない旨規定
するところ,これは,健康保険組合等が,法令により設立された公共性
の高い団体であるとともに,相互扶助の精神に基づき,その構成員の福
祉を増進し,社会的経済的地位の向上を図ることを目的としているとい
う性格に鑑みて,その所有し,かつ使用する事務所及び倉庫について,
政策的な観点から例外的に非課税にしたものと解される。他方,これと
は別に,同条2項11号の4は,前記のとおり,健康保険組合等が所有
する固定資産のうち,病院及び診療所又は政令で定める保健施設におい
て直接その用に供されている固定資産に対しては固定資産税を課するこ
とができない旨規定し,家屋のみならず,その土地も含めて非課税にす
るとされている。このように,土地についても非課税にするか否かとい
う違いはあるにしても,いずれの規定も家屋部分を非課税の対象として
いることに鑑みれば,同条2項11号の4の「病院及び診療所」あるい
は「保健施設」と同条4項の「事務所」とはその対象を全く異にするも
のと考えるのが相当であり,同条2項11号の4の病院及び診療所ある
いは政令で定める保健施設は,その現場において被保険者に対して療養
給付等を行う性質の施設であること等も併せ鑑みると,同条4項所定の
「事務所」とは,当該組合等の行う事業に関連して庶務,会計等のいわゆ
る現業に属さない総合的な事務を行う家屋をいうものと解するのが相当であ
る。
(2)本件では,前記(1)イ(ア)のとおり,本件事業部分においては,特定保健
指導,保健指導及び本件カルチャー教室(本件事業部分実施分)が実施され
ていることが認められるところ,これらは現業に属さない事務とはいえない。
したがって,本件事業部分は,地方税法348条4項が定める「事務所」
には該当しない。
(3)これに対し,原告は,地方税法348条4項が定める「事務所」について
現業に属さない事務を行う場合に限定する理由はなく,健康保険組合等の目
的たる業務の用に供されている固定資産のうち,同条2項11号の4の要件
に該当する固定資産は,土地及び家屋が非課税固定資産となり,これには該
当しないものの,その目的たる業務の用に供されている家屋については,同
法348条4項により家屋が非課税固定資産になると解すべきであると主張
する。
しかし,上記原告の主張のとおりであるとすれば,健康保険組合が所有し,
その目的たる業務の用に供されている家屋について,同項において全て非課
税としつつ,病院等の用に供されている場合に重ねて同条2項で非課税とす
る旨を規定する必要はなく,同項では土地のみを対象として非課税とする旨
を規定すれば足りるはずであって,このような規定内容からすれば原告の主
張のとおり解釈することには疑問がある。また,例えば,同項11号の6は,
独立行政法人自動車事故対策機構が独立行政法人自動車事故対策機構法13
条3号に規定する業務(自動車事故による被害者で後遺障害が存するため治
療及び常時の介護を必要とするものを収容して治療及び養護を行う施設を設
置し,及び運営するという業務)の用に供する固定資産で政令で定めるもの
に対しては固定資産税を課すことができないと規定し,これを受けた施行令
50条の4は,政令で定める固定資産を「事務所」あるいは「宿舎」の用に
供する固定資産以外のものとする旨を規定しているところ,原告の上記主張
のように「事務所」をその目的たる業務の用に供されている家屋と広く捉え
た場合,自動車事故による後遺障害を実際に治療する施設も「事務所」に該
当し,非課税規定の適用はないと解することになるが,このような結論がそ
の趣旨に合致しないことは明らかである一方,同じ「事務所」という文言で
も地方税法348条4項と同条2項11号の6を受けた施行令50条の4と
はその対象を全く異にするというのも考え難く,原告の上記主張によると地
方税法348条2項における他の非課税規定との整合性を欠くこととなり,
むしろ,このような他の規定との整合性も考慮すれば,同条4項の「事務所」
は,前記(1)のとおりに解するのを相当というべきである。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
4本件処分の適法性
前記1ないし3のとおり,本件事業部分につき,地方税法348条2項
11号の4及び同条4項並びに同法702条の2第2項の適用はなく,そ
れ以外の点について,被告が主張する固定資産税等の税額の計算の基礎と
なる金額及び計算方法に争いはない。そして,平成22年度分の本件不動
産に係る本件当初処分との差額は,別紙4-1「本件処分による納付すべ
き税額」のとおり30万5300円であり,本件処分により原告に課され
た金額はこれと一致するから本件処分は適法なものということができる。
第4結論
よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり
判決する。
東京地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官林俊之
裁判官齊藤充洋
裁判官池田好英
(別紙3)
関係法令の定め
第1地方税法
1地方税法348条2項は,その本文において,固定資産税は,次に掲げる固
定資産に対しては課することができないと規定している。
(1)1号から11号の3まで(略)
(2)11号の4健康保険組合及び健康保険組合連合会,国民健康保険組合及
び国民健康保険団体連合会,国家公務員共済組合及び国家公務員共済組
合連合会並びに地方公務員共済組合(以下この号において「健康保険組
合等」という。)が所有し,かつ,経営する病院及び診療所において直
接その用に供する固定資産で政令で定めるもの並びに健康保険組合等が
所有し,かつ,経営する政令で定める保健施設において直接その用に供
する固定資産
(3)11号の5から43号(略)
2地方税法348条4項は,市町村は,健康保険組合等が所有し,かつ,使用
する事務所及び倉庫に対しては,固定資産税を課することができないと規定し
ている。
3地方税法702条の2第2項は,市町村は,同法348条2項から5項まで,
7項若しくは9項又は351条の規定により固定資産税を課することができな
い土地又は家屋に対しては,都市計画税を課することができないと規定してい
る。
第2地方税法施行令(以下「施行令」という。)
1施行令50条の3第1項は,地方税法348条2項11号の4に規定する政
令で定める固定資産は,その利用について対価又は負担として支払うべき金額
の定めのある駐車施設その他の施設で総務省令で定めるものの用に供する固定
資産以外の固定資産とすると規定している。
2施行令50条の3第2項は,地方税法348条2項11号の4に規定する政
令で定める保健施設は,次に掲げるものとすると規定している。
(1)1号運動場,体育館,プール及びこれらに附属する施設
(2)2号健康相談所
(3)3号(略)
第3地方税法施行規則
地方税法施行規則10条の7の6は,施行令50条の3第1項に規定する総
務省令で定める施設は,飲食店,喫茶店及び物品販売施設(これらの施設のう
ち地方税法348条2項11号の4に規定する病院及び診療所の利用者の利便
に供することを目的とするものを除く。)並びに駐車施設とすると規定してい
る。
以上
(別紙4-1)
本件処分により納付すべき税額
1本件家屋に係る評価額(課税標準額)について
(1)本件家屋について,別紙4-2「東京都食品健康保険組合建物使用状況
一覧表平成22年度」のとおり,非課税規定が適用される非課税対象部分,
通常の課税対象部分及び共用部分を分けて認定し,それぞれ面積を算出した。
(2)上記(1)の認定結果に基づき,本件家屋の共用部分を別紙4-3「東京都
食品健康保険組合建物部分共有のあん分について」及び別紙4-4「全
体共用のあん分について」のとおり按分し,同「共用部分を含めた非課税床
面積及び課税床面積」のとおり,本件家屋に係る共用部分を含めた非課税対
象床面積(地方税法348条2項11号の4及び同条4項該当部分の床面積
が5652.08㎡)及び課税床面積(300.73㎡)を認定した。
(3)次に,固定資産評価基準に基づく本件家屋に係る平成22年度の単位当た
り評点(家屋床面積1㎡当たりの評点)は14万3810点であることから,
この評点に本件家屋の課税床面積を乗じ,評点1点を1.10円へ換算して
100円未満を切り捨てて,本件家屋に係る評価額(課税標準額)を算出し
たが,その計算式は以下のとおりである(乙13~15)。
(計算式)
143,810(点)×300.73(㎡)×1.10(円)≒47,5
72,700(円)
2本件土地に係る課税標準額について
(1)本件土地は本件家屋の敷地として利用されており,本件土地の課税地積に
ついては,本件家屋の延べ床面積に占める地方税法348条2項11号の4
の非課税規定の適用対象床面積の割合を,本件土地全体の地積に乗じて本件
土地の非課税となる面積を求めた上,本件土地全体の地積から本件土地の非
課税となる面積を差し引いて算出したが,その計算式は以下のとおりである。
(計算式)
1,215.05(㎡)×3,629.86(㎡)/5,952.81(㎡)
=740.91(㎡)(小数点第3位以下切上げ)
1,215.05(㎡)-740.91(㎡)=474.14(㎡)
(2)固定資産評価基準に基づく本件土地の平成22年度の平方メートル当たり
の単価は,54万8758円であり,これに本件土地の課税地積を乗じて本
件土地の評価額を算出したが,その計算式は以下のとおりである(乙16~
18)。
(計算式)
548,758(円)×474.14(㎡)≒260,188,110
(円)
(3)上記(2)の本件土地の評価額に基づき,平成24年法律第17号による改
正前の地方税法附則17条から同附則18条までの規定に従って,本件土地
の課税標準額を算出すると,その金額は1億6871万1200円(100
円未満切捨て)となる(乙18)。
3本件不動産に係る固定資産税等の税額について
本件家屋の評価額(課税標準額)と本件土地の課税標準額を合算して100
0円未満を切り捨て,これに固定資産税等の税率を乗じ,100円未満を切り
捨てて,本件不動産に係る税額を以下のとおり算出した。
(1)固定資産税
(47,572,700+168,711,200)×0.014≒3,
027,900(円)
(2)都市計画税
(47,572,700+168,711,200)×0.003≒64
8,800(円)
4本件処分に係る税額について
上記3の税額と本件当初処分の税額(乙5の1及び2)との差額が本件処分
に係る税額(30万5300円)となるが,その計算式は以下のとおりである
(甲4,5)。
(計算式)
(3,027,900+648,800)-(2,776,500+59
4,900)=305,300(円)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛