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          主    文
    1 本件控訴を棄却する。
    2 控訴費用は控訴人の負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴の趣旨
  (1) 原判決を取り消す。
  (2) 被控訴人は,控訴人に対し95万4332円及びこれに対する平成12年
5月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え(控訴人は当審におい
て請求を減縮した。)。
  (3) 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
  (4) 仮執行の宣言
 2 控訴の趣旨に対する答弁
   主文同旨
第2 事案の概要
 1 控訴人は,台風が通過した際に神社の境内にある樹木の枝が折れ,神社脇の
駐車場に駐車していた控訴人所有の自動車を損傷したのは,樹木の植栽または支持
の瑕疵に原因するとして,その神社の祭事を行う神官である被控訴人に対し,同樹
木の占有者または所有者として民法717条2項に基づき損害の賠償を請求する
(付帯請求は訴状送達の日の翌日からの民法所定の遅延損害金である。)。
 2 争いのない事実等並びに争点及び当事者の主張は,次に付加,訂正,削除す
るほかは,原判決の「争いのない事実等」「争点」欄に記載のとおりであるから,
これを引用する。
   1頁末行の「宗教法人A神社」の後に「(広島県安芸郡C町DE丁目所
在)」を,「B神社」の後に「(広島市F区所在)」を,各加える。
   2頁5,6行目の「その際,」の後に「同地区の」と加える。
   2頁11行目の「平成11年9月21日」を「控訴人から神社の木が折れて
自動車が傷ついたと抗議の電話を受けた翌日」と改める。
   4頁8行目の「傷がつくのか,」を「傷がつくとは考えられず,」と改め
る。
   5頁13行目の,後ろの「土地」を削除する。
   6頁21行目の「老木の」の後に「植栽又は支持の」を加える。
   8頁14行目の「91万0991円」を「79万0871円」と,17行目
の「107万4452円」を「95万4332円」と,各改める。
第3 証拠
   原審及び当審記録中の証拠関係目録に記載のとおりであるから,これを引用
する。
第4 当裁判所の判断
 1 本件事故発生前後の事実関係については,次に付加訂正するほか,原判決8
頁20行目から9頁末行までに記載のとおりであるから,これを引用する。
  (1) 原判決8頁21行目の「10,」の後に「11,」を,「17,」の後に
「23,25の3ないし9,」を,22行目の「4の1,2,」の後に「5の1,
2,」を,「原告本人)」の後に「及び弁論の全趣旨」を,各加える。
  (2) 原判決8頁25行目の「南南西」を「南南東」と訂正する。
  (3) 原判決8頁末行目の末尾に「観測史上2,3番目という強烈なものであっ
て,」と加える。
  (4) 原判決9頁2行目から9行目までを次のとおり改める。
   「イ 控訴人は,9月23日深夜,いつものように本件現場に本件自動車を
駐車した。その駐車位置の南西方向には道路を隔ててG神社があり,その境内敷地
の東辺に沿って3本の樹木が並んで生えている。その最も北側の樹木が本件老木
で,上記駐車位置から南西約3,4メートルにある。本件老木はかなりの背丈があ
り(写真によると,3階建て居宅ほどの高さがあると見える。),その枝は横に広
がり,道路を超えて本件自動車の上方にまで張りだしていた。ムクノキと思われ
る。台風の通過した後の翌24日午後2時ころ,控訴人は,知らせを受けて本件事
故現場に駆けつけたところ,前夜駐車した際には割れていなかった本件自動車のフ
ロントガラスが割れており,駐車位置のすぐ東側の幅2メートルほどの川に,長さ
7,8メートル,直径1
5センチメートルほどの木の枝(以下「本件折れ枝」という。)が落ちているのを
見た。控訴人は,C町役場に台風で木の枝が折れて車が傷んだことを連絡したとこ
ろ,同町都市整備課のH課長が本件事故現場に来て,川に落ちている本件折れ枝が
町の管理する公園(G神社の西側に道路を隔てて所在する。)の樹木のものではな
く,新たな折れ口があることから見てG神社の境内の本件老木の枝であると判断
し,その旨控訴人に告げ,本件老木の写真を撮ったうえ,役場で調べてG神社の世
話役をしているI家の電話番号をその写真に記入して控訴人に渡した。控訴人は,
同日I家からG神社の神主であるという被控訴人宅の電話番号を教えて貰い,同日
被控訴人宅に電話で,神社の木が折れて自動車が傷む被害を受けたので何とかして
欲しい旨申し入れた。
これに対して,被控訴人は,その翌日,控訴人宅を訪れ,見舞を述べ,見舞金とし
て3万円を渡した。」
  (5) 原判決9頁25行目の「全長は4.7メートルを超え,」を「長さは4.
87メートルであり,」と改める。
 2 上認定の事実に基づいて,まず,本件折れ枝が神社の本件老木のものかにつ
いて見る。
  (1) 控訴人は,自動車の被害状況やG神社の樹木の写真を数多く撮っているの
に,川に落ちていたという本件折れ枝の写真を撮っておらず,その折れ口が一致し
たという本件老木の写真からも該当する折れ口は確認できないし,控訴人自身,本
件折れ枝に合いそうな折れ口が3,4カ所あったので特定できなかった旨述べた
り,本件折れ枝の太さ(直径)を15ないし20センチとしたり,30センチと述
べたりして動揺があるなど(甲13,原審控訴人本人),控訴人の供述やその提出
する写真のみからは,本件折れ枝が本件老木のものであったことを認めるのは困難
である。
  (2) けれども,前記のとおり,本件老木は背が高く,枝が本件自動車の上方に
まで張り出していたもので本件事故後も同様に枝が広がっていること,町役場のH
課長は本件折れ枝がG神社の樹木のものと判断し,本件老木の写真を撮った上,そ
の写真にI家の電話番号を記載して控訴人に渡していること(甲14,16,原審
控訴人本人),神社すぐ南に居住し,本件自動車の被害を控訴人の義母に知らせた
住民は,川に落ちていた木の枝には青い実がついており,近所にはそのような木は
本件老木しかないことや本件老木に折れ口があることから,折れて川に落ちている
のはG神社の樹木と判断したこと(甲15),駐車場所東脇を流れる川の東側にも
樹木の茂った林があるが,比較的若い樹木であるか,近いものは背が低く,背が高
いものはやや北側に
離れており(乙1の5,7),本件折れ枝ほどに長い枝が折れて川まで飛ぶとは考
えにくいこと,連絡を受けた翌日被控訴人が控訴人宅を訪れ,神社の木が折れたこ
とを否定することもなく見舞金を渡していること,以上の事実を考え合わせると,
本件折れ枝は本件老木から折れたものと認めるのが相当である。
  (3) そうすると,本件折れ枝が強風で折れ,本件老木から落下する際には,ほ
ぼ真下にあった本件自動車に当たったであろうことは容易に推測できる。
    もっとも,そのことから直ちに本件自動車に生じた傷が全て本件折れ枝に
よって生じたものとはいえない。前記のとおり,本件自動車には,フロントガラス
の2箇所のひび割れのほか,長さ5メートル近くの車体全体の上面や左右前後の側
面にも,固い物がかなりの力で当たった傷,比較的軟らかい物が当たった傷,そし
て数多くの擦り傷と,様々の傷が残っており,これらの傷が本件折れ枝が川に落下
するまでの間に一度に生じたとはとうてい考えられない。当日の台風が前記のとお
り強烈な風速のものであったことや,本件駐車場所の地盤は,東側の川と西側道路
が南に向かって下がった辺りよりは高いものの,西側道路,その向こうの北西側民
家,北側の畑,南西側のG神社境内,南東側の擁壁上の民家よりは低い位置にある
こと(甲7の1ない
し5,甲10,乙1)からすると,本件折れ枝だけではなく,他にも石,小枝など
様々の物が飛んで来て,本件自動車に衝突しあるいは擦ったものと考えるのが妥当
である。控訴人の供述の中には現場には本件折れ枝のほかには本件自動車に当たっ
たと思える物は落ちていなかった旨の供述部分があるが,どの程度調べたものかは
不明で,傷の状況と対比して信用できない。
 3 進んで,本件折れ枝がG神社の本件老木のものであり,折れて落下した際に
本件自動車に当たり,本件自動車になにがしかの傷をつけたとして,被控訴人に,
本件老木の占有者ないし所有者として民法717条2項に基づく責任があるかを考
える。
  (1) 弁論の全趣旨によると,本件神社はその所在する地区(C町J地区)の地
区民の氏神であり,石垣上の境内には祠堂や鳥居などの構築物があるが(乙1),
日頃の管理は氏子である住民が行っており,代々,同地区のI家において世話役を
していること,被控訴人は同地区の住民ではなく広島市内に居住しており,別の神
社(A神社は同町内ではあるが別の地区にある。ここは被控訴人の実家と思われる
<訴状送達報告書>。B神社は前記のとおり広島市内である。)の責任役員を務め
る神官であって,本件神社には年一度の秋祭りに訪れ,神主として祝詞を挙げ,年
間の賽銭等を世話役から受け取るだけであって,本件神社の収支は被控訴人が管理
しているわけではないこと,中国電力から電柱を建てるため神社の樹木の枝を切っ
て欲しい旨の申し入
れがあり,I家から被控訴人が連絡を受けたことがあるが,被控訴人はこれを承諾
しただけで中国電力が自らの費用で工事をしたこと,C町から被控訴人に,木の葉
が落ちるので何とかならないかとの申し入れがあったことがあるが,予算がない旨
を返事すると以後は何も言ってこなくなったことが認められるが,このほかには,
被控訴人やその先代らが,境内にある樹木の枝払い・剪定あるいは支持に何らかの
関わりを持ったことを認めるべき証拠はない。
    また神社敷地の登記簿上の所有名義人はやはり神職にあった被控訴人の曾
祖父ではあるが(甲8の1ないし3,9),神社境内という性格上,登記簿上の所
有者だからといって直ちに敷地の所有者といえるか疑問がないではないし,上のよ
うなG神社との関わりからすると,被控訴人を樹木の占有者というのは困難であ
り,その所有者といえるかも疑問が残る。
  (2) さらに,本件老木は,老木とはいうものの,現在も緑の葉を茂らせて枝を
広げており(上記各写真),本件折れ枝は青い実をつけていたことからみても,枯
れていたわけではない。また折れ口や本件折れ枝が多少なりとも枯れたり腐ってい
たことを認めるべき証拠もない。過去にこの老木の枝が強風でもないのに折れて人
に危害を与えたことがあったなどの事情は証拠上認められないし,この木が折れる
危険があるとして被控訴人に何らかの処置をとるよう地元住民が申し入れをしたと
の証拠もない。この点,控訴人の陳述書(甲13)には,地区の婦人らの間で,本
件老木は樹齢が古く,小枝がしょっちゅう折れて危険なので枝を切って欲しいとい
う話が以前から持ち上がっていたようだ,との記述があるが,具体的に誰かがその
旨の申入れをしたこ
とを述べるものではなく,どの程度の枝が落ちていたというのかも不明である。
    そうであれば,本件老木は通常の強さを持っていた生木であるのに,史上
稀な強風のために,枝の折断という予期し得ないことが起きたものというのが相当
である。
    なお控訴人の義母の陳述書(甲18)には,同人が目撃したわけではない
が,夫から,平成3年の19号台風の際にG神社の樹木から折れた枝で自動車のガ
ラスを割られたと聞いたとの記載があるが,仮に,その事実があったとしても,乙
4の1,2によれば,同台風による風速は,本件台風のそれを上回るものであった
ことが認められることからすると,この事実は上記判断を左右するものではない
(むしろ,上陳述書記載の被害があったのなら,これを聞いたことがあったであろ
う控訴人が,本件台風の際にその予報もあったであろうに,本件自動車を本件老木
の下から避難させなかったのか理解しがたく,少なくとも本件老木が,強風で枝が
折れるかも知れないことが予想できる状態ではなかったことを窺わせる。)。
    ところで,樹木は自然に生長させるのが本来の状態である。生長に従って
枝葉が折れることもあれば,老化によって折れることもある。樹木の通常の生長,
老化の過程で生ずる枝葉の落下は,その瑕疵とはいえまい。ときには台風の強風や
洪水に屈して枝が折れ,根元から倒れることもあろうが,特に人工的に植え育てて
いる場合でない限り,それは自然の災害であって,そうした事態があったからとい
って,樹木としての通常の安全性を欠いていたなどということはできない。台風と
いう非常事態の際に樹木の枝が折れたりすることに備えて,枝を切り払い,あるい
は樹木を切り倒しておかねば,植栽上の瑕疵があるというのであれば,人家近くの
緑は消え失せることとなりかねない。すなわち,樹木が枯れたとか,枝が腐ったと
かして,日常のあり
ふれた強さの風雨や積雪,僅かな衝撃によっても倒れたり折断したりする危険が現
実化しない限り,これを切り倒したり,枝を切り払ったり,枝を支持する措置をと
るなどしなくとも,その植栽ないし支持に瑕疵があるとはいえないというべきであ
る。この意味で,本件老木の植栽・支持に瑕疵があったとは認められない。
 4 以上のとおりであって,本件折れ枝は台風の強風により,本件老木から折れ
て落ちたものであり,その際に本件自動車に当たってなにがしかの傷を付けたとは
考えられるものの,被控訴人がこの老木の植栽ないし支持につき責任を負うべき占
有者ないし所有者であるとすることには疑問も残る上,強烈な風によって折断が生
じたからといって,本件老木の植栽ないし支持における瑕疵があったとはいえな
い。
 5 よって,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから棄却することとし
て,控訴費用の負担につき民訴法67条1項,61条を適用して,主文のとおり判
決する。
     広島高等裁判所第3部
        裁判長裁判官 下 司 正 明
           裁判官 野々上 友 之
           裁判官 檜 皮 高 弘

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