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平成14年(行ケ)第163号 審決取消請求事件(平成15年9月3日口頭弁論
終結)
          判     決
       原      告   株式会社三洋物産
       訴訟代理人弁理士   山 田   強
被      告   特許庁長官 今井康夫
指定代理人      藤 井 俊 二
同          大 野 克 人
同          伊 藤 三 男
          主     文
特許庁が不服2000-9492号事件について平成14年1月
31日にした審決を取り消す。
      訴訟費用は被告の負担とする。
          事実及び理由
第1 請求
   主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
 原告は,昭和61年10月1日に実用新案登録出願した実願昭61-1
52001号の一部を分割出願した実願平2-79150号について,特許出願に
変更した上,分割出願とした特願平6-128299号の一部を,更に分割出願し
た特願平8-134080号の一部を,更に分割出願した特願平9-63724号
の一部を,更に分割出願した特願平9-97880号の一部を,更に分割出願した
特願平10-96856号の一部を,更に分割して,平成11年5月10日,名称
を「パチンコ遊技機」(同年6月9日付け手続補正書による補正により「遊技機」
と変更)とする発明につき,新たな特許出願(特願平11-127862号,以下
「本件出願」という。)をしたが,平成12年4月26日に拒絶査定がされ,同年
5月24日にその謄本の送達を受けたので,同年6月23日,これに対する不服の
審判の請求をし,不服2000-9492号事件として特許庁に係属した。
 特許庁は,同事件について審理し,平成13年5月31日付けで拒絶理
由を通知(以下「本件拒絶理由通知」という。)した後,平成14年1月31日,
「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年3月11
日,原告に送達された。
 2 本件出願に係る平成13年7月27日付け手続補正書による補正後の明
細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の【請求項1】記載の発明
(以下「本願発明」という。)の要旨
遊技領域の所定位置に打球が入賞される入賞口を配設し,その遊技領域
の右側への打球を左下方へ誘導して前記入賞口の上部へ至らしめる案内手段を設
け,該案内手段を,それより右側へ打球を逃さないように遊技領域の右端位置に配
置したことを特徴とする遊技機。
 3 審決の理由
   審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願発明は,本件出願前に国
内において頒布された刊行物である特開昭61-217182号公報(以下「引用
刊行物」という。)に記載された発明であるから,特許法29条1項3号により特
許を受けることができないとした。
第3 原告主張の審決取消事由
   審決は,再度の拒絶理由通知を欠いた手続上の違法(取消事由1)があ
り,また,引用刊行物記載の発明(以下「引用発明」という。)の認定を誤った
(取消事由2)結果,本願発明と引用発明の構成が同一であると誤って判断したも
のであるから,違法として取り消されるべきである。
   1 取消事由1(再度の拒絶理由通知を欠いた手続上の違法)
(1) 審決は,本願発明と引用発明とを対比して,「後者(注,引用発明)
の『チューリップ式打球入賞装置9』及び『方向設定誘導部材13c』は,前者
(注,本願発明)の『入賞口』及び『案内手段』に相当する」(審決謄本2頁
「3.対比・判断」)と判断したが,審判請求人である原告に通知された本件拒絶
理由通知(甲9)は,引用刊行物に記載された「第1特定入賞口7」及び「釘群お
よび転動誘導部材12a」が本願発明の「入賞口」及び「案内手段」に相当するこ
とを指摘しているにとどまり,引用刊行物に記載された「チューリップ式打球入賞
装置9」及び「方向設定誘導部材13c」については何ら指摘するところがない。
したがって,本件審判事件の審判体としては,拒絶査定不服審判において査定の理
由と異なる新たな拒絶理由を発見した場合に当たるとして,原告に対し,再度の拒
絶理由を通知して意見書を提出する機会を与えなければならないのに,これをしな
かったものであるから,審決には,特許法159条2項において準用する同法50
条に違反する手続上の違法がある。
(2) 特許庁が,本件において,審決取消訴訟の段階に至り,引用刊行物に
記載された発明の全体が引用発明であるかのように主張することは許されないし,
また,審決で指摘した「方向設定誘導部材13c」が本件拒絶理由通知で指摘した
「釘群および転動誘導部材12a」の下方近傍にあるからといって,「方向設定誘
導部材13c」についても本件拒絶理由通知により実質的に指摘したことになると
解すべき理由はない。
2 取消事由2(引用発明の認定の誤り)
(1) 審決は,上記のとおり,引用発明の「チューリップ式打球入賞装置
9」及び「方向設定誘導部材13c」は,本願発明の「入賞口」及び「案内手段」
に相当すると判断したが,その前提となる引用発明の認定に誤りがある。すなわ
ち,引用刊行物(甲10)の第2図(8頁)に接する当業者は,遊技盤面の釘のう
ち,一部が省略されていること,特に,「方向設定誘導部材13c」と「チューリ
ップ式打球入賞装置9」との間には多数の釘群が存在し,その釘群が図面上は省略
されているものであることは,一見して理解し得ることである。この第2図によれ
ば,「チューリップ式打球入賞装置9」は,その入口に3本の釘が略正三角形状に
配置されている(以下,この3本の釘群を「三角釘」という。)が,このような三
角釘が存在する場合に,「チューリップ式打球入賞装置9」へ打球が入賞するに
は,打球が斜めに飛び込む必要があるから,三角釘の周囲(左右及び上方)に釘が
存在しなければならない。ところが,そのような三角釘周辺の釘が引用刊行物の第
2図には一切図示されていないのであるから,当業者は,三角釘の周囲に存在する
はずの釘群が省略されていることを明らかに認識し,理解し得るというべきであ
る。
(2) また,引用刊行物の第2図に示される「チューリップ式打球入賞装置
9」に対応するものとして,本願発明に係る図面(甲2添付)の図1には,右下に
配置されたチューリップ式打球入賞装置(符号なし)があるが,このように遊技盤
面の左右下部に配置されたチューリップ式打球入賞装置の上方には三角釘を含めて
多数の釘群が配置されるのが周知慣用技術であり,このような釘群が存在しない遊
技機は,本件出願前においては存在しない。本願発明と同様に,チューリップ式打
球入賞装置の上方に三角釘及び多数の釘群を配置したものが周知であり,かつ,引
用刊行物においてチューリップ式打球入賞装置の上方に多数の釘群が存在しかつそ
の図示が省略されていることは,株式会社遊技通信社発行「遊技通信全国版第10
65号,1066号,1069号」(甲13の1~3)及びレジャーニッポン新聞
社発行「レジャーニッポン第456号,595号」(甲13の4,5)に照らして
も明らかである。
(3) そうすると,引用刊行物の第2図において「方向設定誘導部材13
c」によって案内された打球は,「チューリップ式打球入賞装置9」の上方にある
図示を略した多数の釘群によってあらゆる方向にランダムに導かれてしまい,「チ
ューリップ式打球入賞装置9」の上部に到達する打球はほんのわずかなものとなっ
てしまうから,引用発明の「方向設定誘導部材13c」が,本願発明にいう「入賞
口の上部へ至らしめる案内手段」としての機能を有しているとはいえず,この点に
おいて本願発明と構成が同一であるとはいえない。このように,審決は,引用発明
における「方向設定誘導部材13c」と「チューリップ式打球入賞装置9」との間
にある図示を省略した多数の釘群の存在を看過して,引用発明の認定を誤り,ひい
ては引用発明の「方向設定誘導部材13c」及び「チューリップ式打球入賞装置
9」が本願発明の「案内手段」及び「入賞口」に相当すると誤って判断したもので
ある。
  第4 被告の反論
     審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がな
い。
   1 取消事由1(再度の拒絶理由通知を欠いた手続上の違法)について
(1) 引用刊行物(甲10)は,本件出願に係る特許請求の範囲の【請求項
1】の発明(本願発明)及び【請求項2】の発明の構成である「入賞口」と「案内
手段」に対応するものとして,「特定入賞口7」と「釘群」並びに「チューリップ
式打球入賞装置9」と「方向設定誘導部材13c」の2組の構成を開示している
が,本願発明を具体化した【請求項2】に係る発明を考慮し,本件拒絶理由通知で
は,本願発明に特に関連する部分として,遊技領域の右上角部にある「釘群および
転動誘導部材12a」,「第1特定入賞口7」に関する記載を摘示するとともに,
審決では,原告が提出した意見書及び手続補正書を検討した上で,本件拒絶理由通
知に引用した引用刊行物に基づいて,本願発明と引用発明の構成の同一性を肯定し
たものであるから,審決には原告主張の手続上の違法はない。
(2) 原告は,引用刊行物が同一であっても,その指摘箇所が異なれば引用
発明が異なるから,指摘箇所が異なる場合には新たな拒絶理由を構成する旨主張す
るが,本件拒絶理由通知では,その時点における本願発明に特に関連する箇所のみ
を指摘したものであって,指摘していない箇所が本願発明に無関係であるとしてい
るわけではないから,補正により追加された発明の構成が,本件拒絶理由通知の引
用刊行物に記載されている以上,同一の引用刊行物を引用して再度の拒絶理由通知
をする必要はない。また,引用刊行物の第2図に記載されたものにおいて,入賞口
と案内手段の組み合わせのうち,遊技領域の右側への打球を左下方へ誘導する案内
手段の機能を有するものは,本件拒絶理由通知で引用した「特定入賞口7」と「釘
群」,審決で引用した「チューリップ式打球入賞装置9」と「方向設定誘導部材1
3c」の2組のみであり,いずれも本願発明と共通の効果を奏することは明らかで
あって,技術的に大差がない。加えて,引用刊行物の第2図において,審決で指摘
した「方向設定誘導部材13c」は本件拒絶理由通知で指摘した「釘群および転動
誘導部材12a」の下方近傍にあり,審判請求人とすれば,本件拒絶理由通知を受
けた段階で,上記「方向設定誘導部材13c」が,「釘群および転動誘導部材12
a」とともに,本願発明の「誘導部材」として拒絶理由を構成することになること
を十分認識し得たから,実質的に拒絶理由の通知がされている。
2 取消事由2(引用発明の認定の誤り)について
(1) 引用刊行物(甲10)には,「遊技盤1の中心両側部の方向設定誘導
部材13cで上半分が囲まれた打球のほとんど通過しない非遊技空間には」(3頁
左下欄第2段落)と記載され,図2(8頁)には,「方向設定誘導部材13c」の
釘が球案内部材15に近接して配置されていることが図示されており,また,「方
向設定誘導部材13c」と「チューリップ式打球入賞装置9」との間に,「1本の
釘」,「チューリップ式打球入賞装置9の両側に配置された釘」(三角釘)が,上
から順に設けられていることが図示されている。これによれば,引用発明におい
て,遊技領域の右側に発射された打球は,「方向設定誘導部材13c」によって左
下方へ誘導されて「チューリップ式打球入賞装置9」の上部へ案内され,「方向設
定誘導部材13c」から落下する構成を採ることが開示されており,引用発明の
「方向設定誘導部材13c」は,遊技領域の右側に発射された打球を,左下方へ誘
導してチューリップ式打球入賞装置9の上部へ案内し,方向設定誘導部材13cか
ら落下させる機能を有することが明らかである。したがって,引用発明の「遊技領
域の右側への打球を左下方へ誘導するチューリップ式打球入賞装置9」が本願発明
の「入賞口」に対応し,引用発明の「チューリップ式打球入賞装置9の上部へ至ら
しめる方向設定誘導部材13c」が本願発明の「案内手段」に対応するということ
ができるから,本願発明の「案内手段」と引用発明の「方向設定誘導部材13c」
との間に構成の差異があるとはいえず,これと同旨の審決の判断に誤りはない。
(2) 原告は,引用刊行物の第2図は,「方向設定誘導部材13c」と「チ
ューリップ式打球入賞装置9」との間に多数の釘群が存在し,その釘群が省略され
ていると主張するが,釘群の存否いかんにかかわらず,引用発明は,「遊技領域の
右側への打球を左下方へ誘導してチューリップ式打球入賞装置9(本願発明の「入
賞口」に対応)の上部へ至らしめる方向設定誘導部材13c(本願発明の「案内手
段」に対応)」を有し,本願発明の「案内手段」と引用発明の「方向設定誘導部材
13c」とに構成の差異がないことは上記のとおりであるから,原告の主張は失当
である。
(3) また,仮に,原告が主張するように,引用発明の「方向設定誘導部材
13c」と「チューリップ式打球入賞装置9」との間に多数の釘群が存在し,その
釘群が省略されているとしても,本件明細書の発明の詳細な説明中の「課題を解決
するための手段」,「作用」,「効果」及び実施例に記載された「案内手段」に関
する事項と図1の図示によれば,誘導釘群Aと始動入賞口20との間に「1本の
釘」,「ハ字状に配置された釘群」,「始動入賞口20の両側に配置された釘」と
いう多数の釘群が存在している。そうすると,本願発明において,遊技領域の右側
に発射された打球は,案内手段としての誘導釘群Aによって左下方へ誘導されて入
賞口(始動入賞口20)の上部へ案内され,誘導釘群Aから落下した打球は,誘導
釘群Aと始動入賞口20との間に設けられた,「1本の釘」,「ハ字状に配置され
た釘群」,「始動入賞口20の両側に配置された釘」に衝突しながら更に落下する
から,本願発明において,誘導釘群Aと始動入賞口20との間に多数の釘群が存在
し,誘導釘群Aから落下した打球はこれらの釘群に衝突しながら更に落下するとい
うことができる。したがって,本願発明の「案内手段」と引用発明の「方向設定誘
導部材13c」との構成の同一性を肯定し得ることに変わりはない。
第5 当裁判所の判断
   1 取消事由2(引用発明の認定の誤り)について
(1) 審決は,引用発明の「チューリップ式打球入賞装置9」及び「方向設
定誘導部材13c」が本願発明の「入賞口」及び「案内手段」に相当するとして,
本願発明と引用発明の構成の同一性を肯定したところ,原告は,引用発明の「方向
設定誘導部材13c」によって案内された打球は,「チューリップ式打球入賞装置
9」の上方にある図示を略した多数の釘群によってあらゆる方向にランダムに導か
れてしまい,「チューリップ式打球入賞装置9」の上部に到達する打球はほんのわ
ずかなものとなってしまうから,引用発明の「方向設定誘導部材13c」が,本願
発明の「入賞口の上部へ至らしめる案内手段」としての機能を有しているとはいえ
ないとして,本願発明との構成の同一性を争い,審決のした引用発明の認定は誤り
であると主張するので,この点について検討する。
(2) 本件明細書(甲12添付)には,本願発明の実施例の説明として,
「図1(注,甲8添付)に示された技術事項から明らかなように,遊技領域の右
側,特に右上角部への打球は,遊技領域の右上角部から左斜め下方へ向かって列状
に配設された案内手段(第1案内手段)としての誘導釘群Aによって,入賞口たる
右側の始動入賞口20の上部へと流下案内される。・・・その結果,遊技領域の右
側に発射された打球であっても始動入賞口20へ導かれやすいという遊技者にとっ
ては有利な状態が確保されることとなり,遊技の全てを遊技領域の中央付近で行う
ような形態に拘束されることがなくなる」(段落【0013】)と記載されてい
る。また,本願発明における「入賞口」及び「案内手段」がそれぞれ「始動入賞口
20」及び「誘導釘群A」であること,誘導釘群Aと始動入賞口20との間には,
「1本の釘」,「ハ字状に配置された釘群」及び「始動入賞口20の両側に配置さ
れた釘」が存在すること,以上の点は被告が自認するか,又は明らかに争わないと
ころであり,これらの釘が,その間隔,向きなどを調整することにより,入賞口へ
の入賞確率を制御するために設けられた,始動入賞口20に付属した釘であること
は,上記記載及び技術常識から認められるところである。そして,原告は,本件審
判請求と同日付け手続補正書(甲8添付)により,本願発明の「打球を前記入賞口
へ案内する案内手段」を「打球を左下方へ誘導して前記入賞口の上部へ至らしめる
案内手段」と補正したところ,本件審判請求書(甲7添付)には,「これ(注,上
記補正)は,出願当初図面(注,甲2添付)の図1において,案内手段の一例とし
て示された誘導釘群が打球を左下方へ誘導する機能を有すること,及び,入賞口そ
のものではなくその上部まで案内することがより正確な表現であること,に基づい
てした補正であり,図1より自明の事項に過ぎない」(3頁最終段落~4頁第1段
落),「図1を参照すれば明らかなとおり,問題となっている案内手段たる誘導釘
群は,少なくとも入賞口のすぐ上部のところまで案内されることが明らかである。
そこで,上述のとおり,『入賞口の上部へ至らしめる』としたことで,審査官と出
願人との認識のずれが修正されたものと確信する」(4頁最終段落~5頁第1段
落)と記載されている。これらによれば,本願発明の構成にいう「遊技領域の右側
への打球を左下方へ誘導して入賞口の上部へ至らしめる」の「上
部」とは,入賞口のすぐ上の部分を意味しているものと解するのが相当である。
(3) 一方,引用発明について見ると,引用刊行物(甲10)には,発明の
詳細な説明の[発明の目的]の欄に「この発明(注,引用発明)の目的は,補助遊
技装置の起動の条件となる特定入賞口への遊技球の入賞確率が高くなるように調整
してもパチンコ店の経営が成り立つとともに,遊技客にとっては補助遊技装置の動
作回数が多くなることにより特別遊技状態の発生に対する期待感を高められ,遊技
が一層面白くなるようなパチンコ遊技機を提供することにある」(2頁左下欄最終
段落~右下欄第1段落)と,[問題解決の手段]の欄に「この発明は,補助遊技装
置を備えたパチンコ遊技機において,補助遊技装置の起動の条件となる特定入賞口
への遊技球の入賞それ自体に対しては,賞品球を与えないかもしくは他の入賞領域
への遊技球の入賞に対する賞品球よりも少ない数の賞品球を与えるように構成する
ことによって,特定入賞口への遊技球が入賞し易くなるように調整しても補助遊技
装置による特別遊技状態が発生されない限り払い出される賞品球の数がそれほど多
くならないようにして,パチンコ店の経営を困難にさせることなく,補助遊技装置
の動作回数を多くして特別遊技状態の発生を望む遊技客の期待感を高めることがで
きるようなパチンコ遊技機を提供するものである」(2頁右下欄第2段落)と,
[実施例]の欄に「第1の特定入賞口7の斜め下方外側には,それぞれチューリッ
プ式打球入賞装置9が配置されている」(3頁右上欄第2段落),「遊技盤1の中
心両側部の方向設定誘導部材13cで上半分が囲まれた打球のほとんど通過しない
非遊技空間には,可変表示装置4の可変表示動作停止により特定態様が発生したと
きなどに点滅あるいは点灯される照明手段25が設けられている」(3頁左下欄第
2段落)と記載されている。また,第2図には,遊技盤1の右側部の「方向設定誘
導部材13c」の左下部分に風車が配設され,そのやや左下方向に三つの釘を有す
る「チューリップ式打球入賞装置9」が配置されていることが図示されている。
(4) ところで,引用刊行物において,「方向設定誘導部材13c」と「チ
ューリップ式打球入賞装置9」の間には,上記三つの釘以外の釘は図示されていな
い。しかしながら,昭和60年7月20日株式会社遊技通信社発行「遊技通信全国
版第1065号」(甲13の1),同年8月20日同社発行「遊技通信全国版第1
066号」(同2),同年11月20日同社発行「遊技通信全国版第1069号」
(同3),昭和56年1月11日レジャーニッポン新聞社発行「レジャーニッポン
第456号」(同4),昭和59年12月11日同社発行「レジャーニッポン第5
95号」(同5)及び本件明細書(甲8添付)の図1には,引用刊行物と同様,遊
技盤の右下方部分に,引用刊行物の「方向設定誘導部材13c」,風車及び「チュ
ーリップ式打球入賞装置9」に相当する,釘群,風車及びチューリップ式打球入賞
装置を配置することが図示されており,風車とチューリップ式打球入賞装置との間
には多数の釘(バラ釘)が存在することが開示されている。また,「チューリップ
式打球入賞装置9」の入口に3本の釘(三角釘)が存在する場合に,「チューリッ
プ式打球入賞装置9」へ打球が入賞するには,三角釘の周囲(左右及び上方)に釘
が存在しなければならないことは自明の技術事項である。そうすると,引用刊行物
の図面に接する当業者は,遊技盤面の釘のうち,一部が省略されており,「方向設
定誘導部材13c」と「チューリップ式打球入賞装置9」との間の釘群も省略して
図示されているものと認識し,理解するものと認めるのが相当である。
(5) さらに,引用刊行物には,特定入賞口への遊技球の入賞に対する賞品
球を少なくすることによって,特定入賞口への遊技球が入賞しやすくなるように調
整することは開示されているが,「チューリップ式打球入賞装置9」は特定入賞口
ではないから,遊技球が入賞しやすくなるように調整することは,上記(3)の[発明
の目的]の欄に記載された引用発明の目的に反することになる。したがって,引用
発明の「方向設定誘導部材13c」が,遊技領域の右側への打球を左下方へ誘導し
て「チューリップ式打球入賞装置9」の上部へ至らしめ,当該入賞装置に入賞しや
すくすることはあり得ないことである。
(6) 以上検討したところによれば,本願発明の「案内手段」は,遊技領域
の右側への打球を左下方へ誘導して「入賞口」の上部へ至らしめ,効率よく入賞口
へ導くものであるのに対し,引用発明の「方向設定誘導部材13c」は,遊技領域
の右側への打球を左下方へ誘導して「チューリップ式打球入賞装置9」の上方へ至
らせるとしても,その下方に存在する多数の釘により,あらゆる方向にランダムに
導かれてしまうから,「チューリップ式打球入賞装置9」の上部に到達する打球は
少なく,効率よく入賞口へ導くものということはできない。したがって,引用発明
の「方向設定誘導部材13c」が,本願発明にいう「入賞口の上部へ至らしめる案
内手段」としての機能を有しているということはできないから,この誤った引用発
明の認定に基づき,引用発明の「チューリップ式打球入賞装置9」及び「方向設定
誘導部材13c」が本願発明の「入賞口」及び「案内手段」に相当するとして,本
願発明と引用発明の構成の同一性を肯定した審決の判断は誤りであり,この誤りが
審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
2 以上のとおり,原告の取消事由2の主張は理由があるから,その余の点
について判断するまでもなく,審決は違法として取消しを免れない。
  よって,原告の請求は理由があるから認容することとし,主文のとおり
判決する。
     東京高等裁判所第13民事部
         裁判長裁判官 篠  原  勝  美
    裁判官 岡  本     岳
    裁判官 長  沢  幸  男

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