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平成一二年(ワ)第九四三号 不正競争行為差止等請求事件
        判      決
       原       告    優美社産業株式会社
       右代表者代表取締役    【A】
       右訴訟代理人弁護士    木   村   圭 二 郎
       被       告    株式会社レジャープロダクツ
       右代表者代表取締役    【B】
       右訴訟代理人弁護士    永   井       均
        主      文
一 被告は、別紙物件目録二記載の商品及びその説明書に、別紙表示目録1な
いし5及び6①記載の各表示を表示し、同商品の広告に別紙表示目録3記載の表示
を表示し、又は同目録1ないし5及び6①記載の各表示を表示した同商品を販売し
てはならない。
二 被告は、別紙物件目録一記載の商品及びその説明書において、別紙表示目
録8記載の表示を表示し、又は同表示を表示した同商品を販売してはならない。
三 被告は、別紙物件目録二記載の商品及びその説明書における別紙表示目録
1ないし5及び6①記載の表示、同商品の広告における別紙表示目録3記載の表
示、並びに、別紙物件目録一記載の商品及びその説明書における別紙表示目録8記
載の表示を、各抹消せよ。
四 被告は、原告に対し、金五〇万円及びこれに対する平成一二年二月六日か
ら支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
五 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
六 訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の負担とし、その余を被告の負担
とする。
七 この判決は、第四項に限り仮に執行することができる。
     事実及び理由
第一 請求
一 被告は、別紙物件目録一及び二記載の商品並びにその広告及び説明書に、別
紙表示目録1ないし7記載の各表示を使用し、又は当該表示を使用した同商品を販
売してはならない。
二 被告は、別紙物件目録一記載の商品並びにその広告及び説明書において、別
紙表示目録8記載の表示を使用し、又は当該表示を使用した同商品を販売してはな
らない。
三(主位的請求)
 被告は、その所有する別紙表示目録1ないし7記載の表示を使用した別紙物
件目録一及び二記載の商品、並びに別紙表示目録8記載の表示を使用した別紙物件
目録一記載の商品を廃棄せよ。
(予備的請求)
 被告は、別紙物件目録一及び二記載の商品並びにその広告及び説明書におけ
る別紙表示目録1ないし7記載の表示を、別紙物件目録一記載の商品並びにその広
告及び説明書における別紙表示目録8記載の表示を、それぞれ抹消せよ。
四 被告は、原告に対し、金六五〇万円及びこれに対する平成一二年二月六日か
ら支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
【前提となる事実】
 いずれも争いがないか後掲各証拠又は弁論の全趣旨により認められる。な
お、以下、書証の掲記は甲1などと略称し、枝番のすべてを含む場合はその記載を
省略する。
一 当事者
1 原告は、カバン・袋物等の製造、販売を業とする株式会社である。
2 被告は、各種バッグ・カバン及び袋物の製造・輸出入・販売を業とする株
式会社である。
二 被告は、「MANHATTAN PASSAGE」の標章を付したカバン
(別紙物件目録二記載のカバン。以下「被告商品」という。)を、複数種類、製
造、販売している(甲1)。
 なお、別紙物件目録一記載の肩掛けカバン(以下「被告肩掛けカバン」とい
う。)にも、「MANHATTAN PASSAGE」の標章が付されており(甲
1)、被告肩掛けカバンは、被告商品に含まれるものである。
三 被告は、被告商品又はその商品説明書に、別紙表示目録1ないし5記載の表
示(以下「本件表示1」等という。)を表示している(弁論の全趣旨)。
 被告は、被告肩掛けカバンに取り付けた商品説明書に、「600DenierPoly-
esterFablic,P.U.Coating:」という表示(以下「被告肩掛けカバン表示」とい
う。)を表示している。
四 原告の請求
 原告は、被告が、被告商品に本件表示1ないし7を付し、被告肩掛けカバン
に本件表示8を付し、それぞれ販売する行為は、不正競争防止法二条一項一二号所
定の不正競争に該当するとして、同法三条一項に基づく差止め(請求一及び二
項)、同条二項に基づく廃棄(請求三項)、及び同法四条に基づく損害賠償(請求
四項)を求めている。
【争点】
一 本件表示1ないし6は、原産地誤認表示に該当するか。
二 本件表示1、3、4、5及び7は、商品開発者を偽るものであり、品質誤認
表示に該当するか。
三 被告肩掛けカバン表示は、品質誤認表示に該当するか。
四 原告は不正競争防止法三条一項に基づき差止請求することができるか。
五 差止請求及び廃棄請求の必要性
 請求一及び二の当該表示を使用した商品の販売の差止め及び請求三の主位的
請求は、その必要性があるか。
六 損害の発生及びその額について
第三 争点に関する当事者の主張
 以下、英文の日本語訳は、当該英文の後の括弧内に示す。
一 争点一(本件表示1ないし6の原産地誤認表示性)について
【原告の主張】
 本件表示1ないし6は、一般消費者に対し、被告商品が米国において製造さ
れた商品であるとの認識を生じさせるに十分な表示である。
 しかしながら、被告商品は、中国で製造されたものである。
 したがって、本件表示1ないし6は、原産地誤認表示に該当する。
【被告の主張】
 被告商品は中国製であるが、バッグ類に原産国を表示することは法律上義務
付けられていない。本件表示3には、「NEWYORKCITY,N.Y.,U.S.A.」との記載があ
るが、本件表示3は、実際の商品説明書では、その上部の高層ビル群のイメージ図
及び「MANHATTAN PASSAGE」と共に、全体で一つの意匠となって
いる。そして、被告商品の商品説明欄の最下部には、「LEISUREPRODUCTSINC.」と
被告名が記載されているから、被告商品が米国製との認識は生じない。
二 争点二(本件表示1、3、4、5及び7の品質誤認表示性)について
【原告の主張】
 本件表示1、3、4、5及び7は、消費者に対し、被告商品は、米国市場に
おいて高品質のバッグを供給し続けていて、消費者及び市場の支持を得た会社であ
るキッフェ社によって製造された商品であるとの認識を生じさせるに十分な表示で
ある。
 しかしながら、被告商品は、キッフェ社と何ら関係がない。
 したがって、本件表示1、3、4、5及び7は、品質誤認表示に該当する。
【被告の主張】
 被告は、キッフェ社と提携して、被告商品を、北米市場と共通の下げ札、ラ
ベル等を用いて販売する予定で、被告商品に取り付けている下げ札、ラベル等(本
件表示1、3、4及び5の表示がある。)を作成したが、その後当該計画は頓挫し
てしまった。そこで、被告は、キッフェ社の了解を得て、大量に印刷してしまって
いた下げ札等を、被告商品に取り付けているにすぎない。
 したがって、本件表示1、3、4、5及び7は品質誤認表示に該当しない。
三 争点三(被告肩掛けカバン表示の品質誤認表示性)について
【原告の主張】
 被告肩掛けカバン表示は、一般消費者に対し、被告肩掛けカバンの素材が六
〇〇デニールのポリエステル布地であり、耐久性等において他社同種製品よりも優
れている商品であるかのような認識を生じさせるに十分な表示である。
 しかしながら、被告肩掛けカバンには六〇〇デニールの布地は使用されてい
ない。
 したがって、被告肩掛けカバン表示は、品質誤認表示に該当する。
【被告の主張】
被告肩掛けカバンには六〇〇デニールの布地は使用されていないことは認め
る。
 しかしながら、被告肩掛けカバン表示の左には、チェックボックスがあり、
そこにチェックがされていない以上、被告肩掛けカバンが六〇〇デニールの布地を
使用したものであるとの表示はされていない。
 また、六〇〇デニールの意味は、専門家でない限り知らないのであるから、
一般消費者が、被告肩掛けカバンの品質を誤認するおそれはない。
 したがって、被告肩掛けカバン表示は、品質誤認表示に該当しない。
四 争点四(原告は不正競争防止法三条一項に基づき差止請求をすることができ
るか)について
【原告の主張】
 原告は、被告商品と競合同種のアウトドア用携帯カバンを製造、販売してい
るから、被告の不正競争により、営業上の利益を侵害されるおそれがある。
【被告の主張】
 原告には、被告が本件表示1ないし7を被告商品に付し、本件表示8を被告
肩掛けカバンに付す行為により、営業上の利益を侵害される具体的な危険は何もな
い。
五 争点五(差止請求及び廃棄請求の必要性)について
【被告の主張】
 請求一及び二の当該表示を使用した商品の販売の差止めは、過大請求であ
る。なぜなら、仮に、被告の表示の一部に不当な部分が存するとしても、それなら
ば、その表示の差止めをすればすむことであり、それで十分である。
 また、請求三の主位的請求は、失当である。なぜなら、表示1ないし8に不
当表示部分があるとしても、それは商品自体の問題ではなく、下げ札等の表示の問
題であるから、当該下げ札を除却すれば問題は解消されるからである。
【原告の主張】
 争う。
六 争点六(損害の発生及びその額)について
【原告の主張】
 原告と被告とは競業関係にあり、競合同種のアウトドア用携帯バッグを製造
販売していることから、原告は、被告による不正競争によって、原告商品に対する
相対的な市場評価の低下、これに伴う売上減少等、相当額の損害額を被っており、
原告の市場占有率その他を考慮すると、その額は金五〇〇万円を下るものではな
い。
 また、原告は、本訴提起のために、弁護士費用一五〇万円の出捐を余儀なく
された。
【被告の主張】
 争う。
第四 争点に対する判断
一 争点一(本件表示1ないし6の原産地誤認表示性)について
1 本件表示1ないし6の使用状況について
(一) 証拠(甲1、13ないし17)によれば、被告商品には、ベーシックシリ
ーズとアドベンチャートラベルシリーズとがあり、ベーシックシリーズに属するも
のには、高層ビル群のイメージ図と本件表示3が記載されたネームが付されてお
り、アドベンチャートラベルシリーズに属するものには、本件表示6①及び②の記
載が表裏に施された細いネームが付されている(ただし、本件表示6②は小文字の
記載が含まれているが、実際のネームはすべて大文字である。)。また、証拠(甲
4)と弁論の全趣旨によれば、被告商品には、本件表示4がタグとして付されてい
ることが認められる。
(二) 証拠(甲1、13ないし18)と弁論の全趣旨によれば、被告商品には、
甲1のとおりのMANHATAAN PASSAGEシリーズ商品の説明書(以下
「シリーズ商品説明書」という。)が取り付けられており、同説明書表面の左欄上
部、中欄最上部及び右欄に、それぞれ大きさは異なるものの、高層ビル群のイメー
ジ図と本件表示3が記載され、中欄中央に本件表示1が記載され、中欄及び右欄の
各下部に「LEISUREPRODUCTSINC.」(レジャープロダクツ社)と記載されているこ
とが認められる。
(三) 証拠(甲2、13ないし18)と弁論の全趣旨によれば、被告商品には、
甲2のような各商品ごとの商品説明書(以下「各商品説明書」という。)が取り付
けられており(同札裏面右端に商品名が記載されている。)、同札表面の右隅に、
高層ビル群のイメージ図と本件表示3が記載され、同札裏面の下部に本件表示2が
記載され、同札裏面の最下部左に本件表示5が記載され、同右には「Dealerin
Japan;LEISUREPRODUCTSINC.」(日本の取扱者;レジャープロダクツ社)と記載さ
れていることが認められる。
(四) 証拠(甲5、6)によれば、被告商品の広告には、高層ビル群のイメ
ージ図と本件表示3が被告商品を示すマークとして記載されていることが認められ
る。
 なお、甲6の広告(雑誌「ジャフメイト」の通信販売の頁)には、被告
肩掛けカバンが紹介されているが、そこには、「中国製(アメリカ・マンハッタン
パッセージ社)」との記載がある。
2(一) 右事実によれば、被告商品に取り付けられている商品説明書等には、
特に被告商品の原産地を明示する記載がない一方で、被告商品のうちベーシックシ
リーズの商品自体、シリーズ商品説明書、各商品説明書、及び被告商品の広告に
は、本件表示3の記載、すなわち「Manhattanpassage」の記載の下に「NEWYORK
CITY,N.Y.,U.S.A.」の記載があるのであるから、本件表示3に接した被告商品の需
要者である一般消費者は、被告商品の原産地は米国であると誤認するおそれがある
というべきである。
 被告は、バッグ類に原産国を表示することは法律上義務付けられていな
いと主張するが、仮にそうであるとしても、バッグ類に付された表示内容によっ
て、一般消費者が当該バッグ類の真の原産地について誤認するおそれがある場合に
は、当該表示によって一般消費者が原産地を誤認しないように、真の原産地を表示
すべきであって、そのような表示がない限り、原産地誤認表示が付されているとい
うべきである。
 被告は、本件表示3は、その上部に記載されている高層ビル群のイメー
ジ図と共に一つの意匠を形成していると主張する。しかし、「NEWYORK
CITY,N.Y.,U.S.A.」という表示が、地名の表示であることは明らかであるから、一
般消費者が、本件表示3と、その上部に記載されている高層ビル群のイメージ図を
一つのまとまりのあるデザインととらえたとしても、「NEWYORK
CITY,N.Y.,U.S.A.」の表示から、被告商品の原産地を米国と認識するおそれは払拭
されるものではないとみるのが相当である。
 また、被告は、シリーズ商品説明書の本件表示3の記載の下部に
は、「LEISUREPRODUCTSINC.」と被告名の記載があることを理由に、本件表示3の
記載が原産地誤認表示に該当しないと主張するが、「LEISUREPROD-UCTSINC.」と
の記載は、一般消費者に対し、被告商品の原産地について何ら示唆するものではな
いから、被告の主張は採用することができない。
 なお、前記1(四)記載のとおり、被告肩掛けカバンに関する特定の広告
においては、同商品が中国製であることが明記されているので、同広告に限ってみ
れば、原産地誤認表示がなされているとは認められないが、そのような表示が被告
商品の広告全般において行われているとは認められないから、右事実をもって、被
告が、被告商品の広告に表示した本件表示3が原産地誤認表示に該当するとの認定
を左右するものではない。
(二) シリーズ商品説明書に記載されている本件表示1は長文の英文である
ので、一般消費者が、被告商品を購入する際、本件表示1の全文を読んだ上で購入
するとは認められないが、その文章自体が英語で記載されていること、その文章の
うち比較的目立つ冒頭には「KIFFEU.S.A.,establishedin1875」(キッフェUS
A、一八七五年に設立された)との記載がある。また、各商品説明書には、本件表
示2の記載があり、その冒頭には「WeareamemberoftheOutdoorRecreation
CoalitionofAmerica.」(我々は、米国アウトドア・レクリエーション連盟の会員
です。)との記載がある。また、各商品説明書には、本件表示5、すなわ
ち「ManhattanPas-sagedivisionofkiffeU.S.A.P.O.Box438.NewYorkNY
10021」との記載がある。さらに、被告商品のタグには、本件表示4が記載されてお
り、その左欄下部には、本件表示5とほぼ同じ記載がある。
 右に見た本件表示1、2、4及び5の各記載自体は、被告商品の製造者
が、米国のメーカーであることを記載又は示唆しているにすぎないが、前記のとお
り、被告商品に取り付けられている商品説明書等には、特に被告商品の原産地を明
示する記載がないことからすれば、右表示に接した一般消費者は、被告商品の原産
地が、米国であると誤認するおそれがあるというべきである。今日において、カバ
ン等の衣料品関連業界においては、メーカーの所在地とその製造に係る商品の原産
地とが異なることは往々にしてあることではあるが、その場合には、真の原産地を
表示すべきであって、そうでない以上、一般消費者は、当該商品の原産地を、当該
商品のメーカーの所在地と誤認するおそれがあるといわざるを得ない。
 したがって、本件表示1、2、4及び5は、いずれも原産地誤認表示に
該当するというべきである。
(三) 被告商品のうちトラベルアドベンチャーシリーズには、本件表示6①
と、本件表示6②と実質的に同一の表示が施されたネームが付されているが、本件
表示6①である「NEWYORKCITY,N.Y.,U.S.A.」との記載が、原産地誤認表示に該当
することは、前記(一)と同様である。
 他方、本件表示6②と実質的に同一の表示である「MANHATTANPASSAGE」
との記載は、甲1(シリーズ商品説明書)の記載によれば、被告商品の統一的な商
品名として用いられていることが認められるのであって、当該表示に接した一般消
費者も、当該表示は被告商品の商品名であると認識すると認められ、当該表示を原
産地表示と認識するおそれがあるとは認められない。
 したがって、本件表示6①は、原産地誤認表示に該当するというべきで
あるが、同②は、原産地誤認表示に該当するとは認められない。
3 以上より、本件表示1ないし5及び6①は原産地誤認表示に該当するの
で、被告が、被告商品に本件表示1ないし5及び6①の表示をし、被告商品の広告
に本件表示3の表示をし、本件表示1ないし5及び6①を表示した被告商品を販売
することは、不正競争防止法二条一項一二号所定の不正競争に該当する。
二 争点二(本件表示1、3、4、5及び7の品質誤認表示性)について
 本件表示1、3、4及び5の使用状況は、前記一1記載のとおりである。
 そして、前記一2(一)、(二)からすると、被告商品は被告の製造、販売に係
る商品であるにもかかわらず、本件表示1、3、4及び5に接した一般消費者は、
被告商品が米国のメーカーであるキッフェ社の製造に係るかばんであると認識する
ものと認められる。
 しかしながら、日本において、一般消費者の間で、キッフェ社が高品質のか
ばん類を提供するメーカーであるとの信用が形成されていると認めるに足りる証拠
はないから、そのような表示だけで被告商品について品質誤認が生じるとは認めら
れない。
 なお、本件表示1を詳細に読めば、「KIFFEU.S.A.,・・・・hasanameand
reputationfortopqualityproductsthatspansmorethan100years,asa
supplierofU.S.militaryspecificationproductsandoutdoorcloth-ing.」
(キッフェUSAは、米国ミリタリー使用商品及びアウトドア衣類の供給者とし
て、100年以上にわたる最上品質の商品についての名声を有しています。)との
記載があることが認められるが、前記のとおり、一般消費者が、被告商品を購入す
る際、長文の英文である本件表示1を全文読んだ上で購入するとは認められない
上、仮に、一般消費者が、上記記載に接しても、上記記載は抽象的な記載であっ
て、当該商品の製造者であるキッフェ社が自社をそのように宣伝していると理解す
るにとどまると考えられるから、上記記載から、一般消費者が、被告商品の具体的
な品質について何らかの認識を抱くとは認められない。
 したがって、本件表示1、3、4及び5は、被告商品の品質を誤認させるよ
うな表示であるとは認められない。なお、本件表示7は、被告が具体的な被告商品
等に付している表示ではなく、原告が、本件表示1、3、4及び5から抽出した表
示であるが、本件表示1、3、4及び5と同様、被告の品質を誤認させる表示であ
るとは認められない。
三 争点三(被告肩掛けカバン表示の品質誤認表示性)について
1 被告肩掛けかばんの素材が、六〇〇デニールポリエステルでないことにつ
いては当事者間に争いがなく、証拠(甲7ないし10)によれば、被告肩掛けカバン
の素材は、二二五デニール以下のナイロンであることが認められるところ、証拠
(甲2)によれば、被告肩掛けカバンに取り付けられている商品説明書には、被告
肩掛けカバン表示、すなわち「600DenierPolyester
Fablic,P.U.Coating:」(六〇〇デニールポリエステル布地、P・Uコーティ
ング)という表示が太字で他の記載と色を変えて目立つように記載されている。
 したがって、同表示に接した一般消費者は、被告肩掛けカバンの素材が六
〇〇デニールポリエステル布地ではないにもかかわらず、そのように誤認するおそ
れがあるというべきである。
そして、デニールとは、生糸やナイロン糸などの太さ、すなわち繊度を表
すのに用いる単位であって、長さ四五〇メートルで重さ〇・〇五グラムのものを一
デニールとするものであるから(広辞苑第五版)、被告肩掛けカバン表示は、被告
肩掛けカバンの素材が、実際の素材よりも太い、すなわち耐久性等が優れていると
の印象を与えるものであって、被告肩掛けカバンの品質を誤認させるおそれがある
というべきである。
2(一) 被告は、被告肩掛けカバン表示の左には、チェックボックスがあり、
そこにチェックがされていない以上、被告肩掛けカバンが六〇〇デニールの布地を
使用したものであるとの表示はされていないと主張する。
 確かに、被告肩掛けカバン表示の左には、中が白地の四角い小さな枠が
記載されているが、被告肩掛けカバンの商品説明書には、それがチェックボックス
であることを明示する記載はなく、単なる見出しと見ることもできること、証拠
(甲2)によれば、被告肩掛けカバンの商品説明書が、被告肩掛けカバン専用の商
品説明書であることは、一般消費者も認識できると認められるところ、そのような
商品説明書にチェックボックスを設けても、常にチェックするか、常に空欄となる
のであり、チェックボックスを設ける意味がないことからすると、被告肩掛けカバ
ンの左にある四角い小さな枠をチェックボックスであると認識しない一般消費者
が、相当数存在すると推認するのが相当である。
 したがって、被告の右主張は採用することができない。
(二) 被告は、六〇〇デニールの意味は、専門家でない限り知らないのであ
るから、一般消費者が、被告肩掛けカバンの品質を誤認するおそれはないと主張す
る。
 しかし、デニールという単位は、繊維業界等においては基本的な単位で
あり、繊維製品にも表示されることが多いものであるから、被告肩掛けカバン表示
を見て、正確な内容まで理解できなくても、デニールが繊維の太さを表す単位であ
り、数字の大きい方が太いことを示すという程度の、そのおおよその意味するとこ
ろを理解する一般消費者は、相当数存在すると推認できる(そうであるからこそ、
被告肩掛けカバンの商品説明書には、被告肩掛けカバン表示が太字で他の記載と異
なる色で目立つように記載されていると見ることができる。)。
 したがって、被告の右主張は採用することができない。
2 以上より、被告肩掛けカバン表示は、品質誤認表示に該当するというべき
である。
 ところで、原告は、被告肩掛けカバン表示に関して、本件表示8を、差止
めの対象としている。本件表示8は、「商品の素材が六〇〇デニールポリエステル
布地であることを示す一切の表示」というものであるところ、被告は、現に、被告
肩掛けカバンに、被告肩掛けカバンの素材が六〇〇デニールポリエステル布地であ
ることを示す被告肩掛けカバン表示を付しており、これが品質誤認表示に該当する
ことは、右のとおりである。したがって、被告肩掛けカバンにおいては、商品の素
材が六〇〇デニールポリエステル布地であることを示す表示は、およそ品質誤認表
示に該当するというべきであるから、被告肩掛けカバン表示だけではなく、具体的
態様を問わない本件表示8について差し止める必要性があるというべきである。
四 争点四(原告は不正競争防止法三条一項に基づき差止請求をすることができ
るか)について
 不正競争防止法三条一項に基づく差止請求権を行使できる者は、「不正競争
によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者」であるとこ
ろ、第二【前提となる事実】一1記載のとおり、原告は、カバン・袋物等の製造、
販売を業とする株式会社であり、弁論の全趣旨によれば、被告商品と市場で競合す
る同種のアウトドア用携帯カバンを製造、販売していると認められるから、既に判
示したように、現に、被告が不正競争防止法二条一項一二号所定の不正競争を行
い、被告商品に不当な顧客吸引力を付与している以上、少なくとも、原告は、被告
の右不正競争によって、営業上の利益を侵害されるおそれがある者に当たるという
べきである。
 したがって、原告は、被告の不正競争の差止めを求めることができる。
五 争点五(差止請求及び廃棄請求の必要性)について
1 被告は、請求一及び二項の当該表示を使用した商品の販売の差止めは、過
大請求であると主張する。
 しかし、不正競争防止法二条一項一二号は、原産地等誤認表示をした商品
を譲渡する行為も、不正競争に該当すると規定しているから、被告が当該行為をし
ている以上、同法三条一項により、原告が原産地等誤認表示をした商品を譲渡(販
売)することの差止めを求めることができることは当然であって、過大請求と評価
することはできない。
 したがって、被告の右主張は採用することができない。
2 他方、原告は、請求三の主位的請求として、原産地等誤認表示を付した商
品自体の廃棄請求を求めているが、不正競争防止法三条二項に基づく廃棄請求は、
それが認められた場合に被告に与える影響が大きいことから、侵害の停止又は予防
を図るために必要十分な範囲で認めるべきであるところ、証拠(甲1、2、13ない
し18)によれば、同法二条一項一二号所定の原産地等誤認表示と認められる、本件
表示1ないし5、6①及び8は、いずれも被告商品又は被告肩掛けカバンから取り
外すことが容易なものであるから、被告に同号所定の不正競争を行うことを停止さ
せ、予防するためには、同表示の抹消を命じることで必要十分であるというべきで
あり、同表示を付した商品の廃棄を命じることは、その必要性を超えて、被告に不
利益を課すことになるものと解される。
 したがって、請求三の主位的請求は認められない。
六 争点六(損害の発生及びその額)について
 原告は、被告の不正競争により、金五〇〇万円の損害を被ったと主張する
が、原告が、被告の不正競争により、具体的な損害を被った事実及びその額を認め
るに足りる証拠はないから、原告の右主張は認められない。
 もっとも、原告が本訴の提起及び遂行を弁護士に委任したことは当裁判所に
顕著であるところ、原告が営業上の利益を侵害されるおそれのある被告の不正競争
を差し止めるためには、弁護士費用の出捐が必要であったと認められ、本件事案の
内容等を勘案すると、被告の不正競争と相当因果関係にある弁護士費用は、五〇万
円が相当である。
七 総括
1 請求一項に関して
 原告の被告に対する、被告商品及びその説明書に、本件表示1ないし5及
び6①の表示をし、被告商品の広告に本件表示3の表示をし、又は本件表示1ない
し5及び6①の表示を付した被告商品の販売の差止めを求める限度で理由がある。
 なお、原告は、被告に対し、被告商品の広告に本件表示1、2、4、5及
び6①の表示をすることの差止めも請求しているが、被告が現に右各表示を被告商
品の広告に表示していることを認めるに足る証拠はなく、また、右各表示の記載内
容からして、そのおそれがあるとも認められないから、同請求は認められない。ま
た、原告は、請求一項で被告商品の外に被告肩掛けカバンも対象に含めているが、
被告肩掛けカバンは被告商品に含まれるから、被告商品に関する差止めを認めるこ
とで十分である。
2 請求二項に関して
 原告の被告に対する、被告肩掛けカバン及びその説明書に、本件表示8の
表示をし、又は当該表示を付した被告肩掛けカバンの販売の差止めを求める限度で
理由がある。なお、原告は、被告に対し、被告肩掛けカバンの広告に本件表示8の
表示をすることの差止めも請求しているが、被告が現に同表示を被告肩掛けカバン
の広告に表示していることを認めるに足りる証拠はなく、また、そのおそれがある
とも認められないから、同請求は認められない。
3 請求三項に関して
 主位的請求は理由がなく、予備的請求は、被告商品及びその説明書におけ
る本件表示1ないし5及び6①の表示、被告商品の広告における本件表示3の表
示、並びに、被告肩掛けカバン及びその説明書における本件表示8の表示の抹消を
求める限度で理由がある。
4 請求四項に関して
 原告の被告に対する損害賠償の請求は、損害金五〇万円及びこれに対する
不正競争の日の後(訴状送達の日の翌日)である平成一二年二月六日から支払済み
まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
5 よって主文のとおり判決する(なお、仮執行宣言は、主文第四項について
のみ付するのを相当と認める。)。
(口頭弁論終結日 平成一二年九月四日)
大阪地方裁判所第二一民事部
            裁判長裁判官    小   松   一   雄
               裁判官    高   松   宏   之
               裁判官    安   永   武   央
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