弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     本件上告を棄却する。
     当審における未決勾留日数中三三〇日を本刑に算入する。
         理    由
 弁護人石川四男美の上告趣意は、事実誤認、量刑不当の主張であり、弁護人谷口
稔の上告趣意第一点は、事実誤認の主張であり、同第二点は、単なる法令違反の主
張であり、同第三点は、憲法三一条違反をいうが、その実質は単なる法令違反の主
張であり、同第四点は、判例違反をいうが、所論引用の最高裁昭和二四年(れ)第
一八九八号同年一二月二四日第二小法廷判決・刑集三巻一二号二一一四頁は、事案
を異にし本件に適切でなく、その余の引用判例は、その具体的摘示を欠き、同第五
点は、量刑不当の主張であつて、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。
 所論にかんがみ、原判決の維持した第一審判決の認定事実第一に対する擬律の問
題につき職権で判断する。
 一、二審判決の認定するところによると、本件事案の概要は次のとおりである。
 被告人が属していた暴力団A一家と、被害者Bが属していた暴力団C会とは、か
ねて対立抗争中であつた。A一家D組組長Eは、知人である一、二審相被告人Fと
話し合つた結果、FがかねてBを知つており、覚せい剤取引を口実に同人をおびき
出せることがわかつたので、C会C組幹部であるBを殺害すればC会の力が弱まる
し、覚せい剤を取ればその資金源もなくなると考え、Fにその旨を伝えた。Fは、
Bに対し、覚せい剤の買手がいるように装つて覚せい剤の取引を申し込み、Bから
覚せい剤一・四キログラムを売る旨の返事を得たうえ、Gも仲間に入れ、昭和五八
年一一月一〇日、D、その舎弟分のA一家H組組長I及びHの配下の被告人とa駅
付近で合流した。被告人、F、D、H、Gの五名が一緒にいた際に、Fは、被告人
に対し「C会の幹部をホテルに呼び出す。二部屋とつて一つにC会の幹部を入れ、
もう一つの部屋にはお前が隠れておれ。俺が相手の部屋に行きしばらく話をしたの
ち、お前に合図するから、俺と一緒についてこい。俺がドアを開けるからお前が部
屋に入つてチヤカ(拳銃)をはじけ。俺はそのとき相手から物(覚せい剤)を取つ
て逃げる」と言つて犯行手順を説明し、被告人もこれに同調した。なお、この際、
奪つた覚せい剤は全部Fの方で自由にするということに話がまとまつた。ところが、
その後、Fは右犯行手順の一部を変更し、被告人に対し「俺が相手の部屋で物を取
りその部屋を出たあとお前の部屋に行つて合図するから、そのあとお前は入れ替わ
りに相手の部屋に入つて相手をやれ」と指示し、翌一一日午前に至り、福岡市a区
bc丁目d番e号所在のMホテル三〇三号室にBを案内し、同人の持参した覚せい
剤を見てその値段を尋ねたりしたあと、先方(買主)と話をしてくると言つて三〇
九号室に行き、そこで待機している被告人及びGと会つて再び三〇三号室に戻り、
Bに対し「先方は品物を受け取るまでは金はやれんと言うとる」と告げると、Bは
「こつちも金を見らんでは渡されん」と答えてしばらくやりとりが続いたあと、B
が譲歩して「なら、これあんたに預けるわ」と言いながらFに覚せい剤約一・四キ
ログラム(以下、「本件覚せい剤」という。)を渡したので、Fはこれを受け取つ
てその場に居合わせたGに渡し、Bに「一寸待つてて」と言い、Gと共に三〇三号
室を出て三〇九号室に行き、被告人に対し「行つてくれ」と述べて三〇三号室に行
くように指示し、Gと共に逃走した。被告人はFと入れ替わりに三〇三号室に入り、
同日午前二時ころ、至近距離からBめがけて拳銃で弾丸五発を発射したが、同人が
防弾チヨツキを着ていたので、重傷を負わせたにとどまり、殺害の目的は遂げなか
つた。
 以上の事実は、記録に徴し概ねこれを是認することができる。但し、一、二審判
決が、被告人がFと入れ替わりに三〇三号室に入つたと判示している点については、
記録によると、FとGは、三〇三号室でBから本件覚せい剤を受け取るや直ちに三
〇九号室に赴き、そこで本件覚せい剤をかねて準備していたシヨルダーバツグに詰
め込み、靴に履き替えるなどして、階段を三階から一階まで駆け降りてMホテルを
飛び出し、すぐ近くでタクシーを拾い、N方面に向かつて逃走したが、Fは、三〇
九号室において被告人に少し時間を置いてから三〇三号室に行くように指示し、被
告人もFらが出ていつてから少し時間を置いて三〇三号室に向かつたことが認めら
れ、したがつて、被告人がBに対し拳銃発射に及んだ時点においては、FとGはす
でにMホテルを出てタクシーに乗車していた可能性も否定できないというべきであ
つて、一、二審判決の判示は、措辞やや不適切というべきである(Fが用いた口実
からして、Bは、Fが買主に本件覚せい剤の品定めをさせ、値段について話し合い、
現金を数えるなどしてから戻つて来ると誤信させられていたことになるから、文字
どおりFと入れ替わりに被告人が三〇三号室に入るのはいかにも不自然である。)。
 右事実につき、原判決は、(1) FはBの意思に基づく財産的処分行為を介し
て本件覚せい剤の占有を取得したとはいえず、これを奪取したものとみるべきであ
ること、(2) あらかじめ殺人と金品奪取の意図をもつて、殺害と奪取が同時に
行われるときはもとより、これと同視できる程度に日時場所が極めて密着してなさ
れた場合も強盗殺人罪の成立を認めるべきであること、(3) このように解する
ことは、強盗殺人(ないし強盗致死傷)罪が財産犯罪と殺傷犯罪のいわゆる結合犯
であることや、法が事後強盗の規定を設けている趣旨にも合致すること、(4) 
本件の場合、もともとBを殺害して覚せい剤を奪取する計画であつたところ、後に
計画を一部変更して覚せい剤を奪取した直後にBを殺害することにしたが、殺害と
奪取を同一機会に行うことに変わりはなく、右計画に従つて実行していること、な
どの理由を説示して、被告人(及びF)に対しいわゆる一項強盗による強盗殺人未
遂罪の成立を認め、これと結論を同じくする第一審判決を支持している。
 しかしながら、まず、右(1)についてみると、前記一、二審認定事実のみを前
提とする限りにおいては、FらがBの財産的処分行為によつて本件覚せい剤の占有
を取得したものとみて、被告人らによる本件覚せい剤の取得行為はそれ自体として
は詐欺罪に当たると解することもできないわけではないが(本件覚せい剤の売買契
約が成立したことになつていないことは、右財産的処分行為を肯認する妨げにはな
らない。)、他方、本件覚せい剤に対するBの占有は、Fらにこれを渡したことに
よつては未だ失われず、その後FらがBの意思に反して持ち逃げしたことによつて
失われたものとみて、本件覚せい剤の取得行為は、それだけをみれば窃盗罪に当た
ると解する余地もあり、以上のいずれかに断を下すためには、なお事実関係につき
検討を重ねる必要がある。ところで、仮に右の点について後者の見解に立つとして
も、原判決が(2)において、殺害が財物奪取の手段になつているといえるか否か
というような点に触れないで、両者の時間的場所的密着性のみを根拠に強盗殺人罪
の成立を認めるべきであるというのは、それ自体支持しがたいというほかないし、
(3)で挙げられている結合犯のことや、事後強盗のことが、(2)のような解釈
を採る根拠になるとは、到底考えられない。また、(4)で、もともとの計画が殺
害して奪取するというものであつたと指摘している点も、現に実行された右計画と
は異なる行為がどのような犯罪を構成するのかという問題の解決に影響するとは思
われない。本件においては、被告人が三〇三号室に赴き拳銃発射に及んだ時点では、
Fらは本件覚せい剤を手中にして何ら追跡を受けることなく逃走しており、すでに
タクシーに乗車して遠ざかりつつあつたかも知れないというのであるから、その占
有をすでに確保していたというべきであり、拳銃発射が本件覚せい剤の占有奪取の
手段となつているとみることは困難であり、被告人らが本件覚せい剤を強取したと
評価することはできないというべきである。したがつて、前記のような理由により
本件につき強盗殺人未遂罪の成立を認めた原判決は、法令の解釈適用を誤つたもの
といわなければならない。
 しかし、前記の本件事実関係自体から、被告人による拳銃発射行為は、Bを殺害
して同人に対する本件覚せい剤の返還ないし買主が支払うべきものとされていたそ
の代金の支払を免れるという財産上不法の利益を得るためになされたことが明らか
であるから、右行為はいわゆる二項強盗による強盗殺人未遂罪に当たるというべき
であり(暴力団抗争の関係も右行為の動機となつており、被告人についてはこちら
の動機の方が強いと認められるが、このことは、右結論を左右するものではない。)、
先行する本件覚せい剤取得行為がそれ自体としては、窃盗罪又は詐欺罪のいずれに
当たるにせよ、前記事実関係にかんがみ、本件は、その罪と(二項)強盗殺人未遂
罪のいわゆる包括一罪として重い後者の刑で処断すべきものと解するのが相当であ
る。したがつて、前記違法をもつて原判決を破棄しなければ著しく正義に反するも
のとは認められない。
 よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号、刑法二一条により、主文のとおり
決定する。
 この決定は、裁判官谷口正孝の意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるも
のである。
 裁判官谷口正孝の意見は、次のとおりである。
 多数意見が、原判決の維持した第一審判決の認定事実第一について、一項強盗に
よる強盗殺人未遂罪の成立を認めた原判断は誤りであるが、二項強盗による強盗殺
人未遂罪の刑で処断すべき包括一罪が成立すると解されるから、原判決を破棄しな
ければ著しく正義に反するとはいえないとして、本件上告を棄却すべきであるとす
る点については、私も賛成であるが、その理由については多数意見と一部見解を異
にするので、以下、私の考えるところを明らかにしておきたい。
 一 本件事案の内容及びこれに対する擬律に関する原判決の説示は、多数意見が
要約しているとおりであり、原判決の(2)ないし(4)の説示を誤りとすべきこ
とも多数意見が指摘しているとおりである。もともと、強盗殺傷罪(ないし強盗致
死傷罪)は、強盗犯人が強盗の現場もしくはその機会継続中に人を殺傷することに
より成立する罪であつて、同罪が財産犯と殺傷罪との結合犯であることを理由とし
て、原判決のいうような解釈を導くことのできないことはもとより、事後強盗罪の
規定の存することを理由として、原判決の示すような結論を導くことができないこ
とも明らかなところというべきである。
 二 ところで、右の原判決の法令解釈の誤りを暫くおくとして、本件においては、
先ず、原判決が(1)で説示するように、被告人らがBから本件覚せい剤を奪取し
たものと認定したことの当否について、検討してみよう。
 原判決の挙示引用する証拠によれば、本件の場合、被告人、F、D、Hらによる
当初の共謀は、Bを殺害してから同人の所持する覚せい剤を奪取するという典型的
な一項強盗殺人を内容とするものであつたが、現に被告人及びFらが実行したとこ
ろは、先ず、Fが、覚せい剤取引にかこつけてBをMホテル三〇三号室に呼び出し、
別室に買主が待機しているかのように仕組み、その客との間の覚せい剤の売買を斡
旋するもののように見せかけて、売買の話をまとめるためには現物を買主に見せる
必要がある旨申し向け、Bをその旨誤信させ、同人から本件覚せい剤を受け取り、
被告人が待機していた同ホテル三〇九号室でGと共にこれをシヨルダーバツグに詰
め込んで携帯し、直ちに同ホテルから逃走し、次いで、被告人が少し時間を置いて
三〇三号室に赴きBに対し拳銃発射に及んだという事実を認めることができる。原
判決は右のような事実関係に依拠しながら、FはBの意思に基づく財産的処分行為
を介して本件覚せい剤の占有を取得したとはいえず、これを奪取したものとみるの
が相当である旨判断している(但し、原判決はその占有移転の時期について明示し
ていない。)。たしかに、いかなる場合に財産的処分行為としての任意の交付行為
があつたといえるかを一律に定式化することは困難な問題であり、本件においてB
がFに本件覚せい剤を手渡したのが右交付行為に当たるといえるか否かにつき微妙
な問題が存するところであり、多数意見が原判決の判文に即してこの点の判断を留
保しているのもそれなりに理解できなくはない。しかしながら、私としては、Bが
本件覚せい剤の売値を決めてFに渡していること、及び同人が買主が待機している
はずの部屋番号までは知らされていないことのほか、取引の対象となつているのが
法禁物である覚せい剤であつて、所持の移転は所有の移転に直結するものであり、
それゆえにこそ、BはFにこれを預けることをちゅうちよしていたものと思われる
ところ、前記のとおりのFの巧妙な欺罔手段に乗せられたからこそ、BはこれをF
に手渡したのであることをも考慮すると、本件覚せい剤に対する占有は、右手渡し
によつてBからFに移転したものであり、そして、その占有移転は、Fの仕組んだ
欺罔行為に基づくBの錯誤によつてなされたものと評価すべきであり、すなわち、
本件においては、詐欺に基づく交付行為があつたと考えるのが相当であると思う。
しかも、Fが被告人に対しBを殺害するため前記三〇三号室に赴くよう指示する前、
Fは既に前記のとおりGと共に本件覚せい剤を同人らが準備していたシヨルダーバ
ツグの中に納めてしまつているのであるから、遅くとも、その時点においてはFは
本件覚せい剤に対する占有を確保し、Fのした欺罔手段による詐欺は既遂に達して
いたものというべきである。そして、情を知つて右Fの行為に加功した被告人も、
詐欺罪についての共同正犯の責任を免れないものといわなければならない。
 なお、もし、本件覚せい剤についてのBからFへの占有移転を、原判決のいうよ
うに任意の交付に当たらないというのであれば、これを窃盗とみざるをえないわけ
であろうが(原判決も又そのように解しているものと思われる。)、その場合もF
がこれをシヨルダーバツグに納めた時点で既に窃盗は既遂に達していたものという
べきであろう。しかし、私は、窃盗犯人が所持取得後窃盗にかかる金品の被害者に
対する返還を免れるために被害者等に暴行、脅迫を加えた場合は、刑法二三八条の
事後強盗の要件を充たすときにのみ、強盗を以て論ずることができるのであり、窃
盗罪の成立を肯定したうえ、二項強盗罪の成立を論ずるが如きは、解釈に名を籍り
右二三八条の成立範囲を拡張するに等しいものと考える。すなわち、このように解
しなければ、刑法二三八条の規定はその厳格な成立要件の枠を超え、更に窃盗罪が
先行して成立する場合に、盗品の返還ないしその代価相当額の支払いを免れるとい
う類型の二項強盗罪の成立を認めることとなり、右二三八条の規定は、二三六条二
項の規定の特別規定ということになる結果を承認することに帰着するからである。
また、原判決は、本件につき事後強盗の要件が充たされているか否かについて何ら
判断を示していないことも原判文上明らかである。
 三 次に、しからば被告人のBに対する拳銃発射の行為をどのように評価すべき
であろうか。
 二項強盗罪の成立要件として、私は一般的には被害者の処分行為を必要とするも
のと考えている。蓋し、二項強盗罪の性格に照らし、同罪が成立するためには、原
則として、利得を徴表する外部的事実の存在あるいは利益の移転を必要と解するか
らである。そして、被害者の処分行為こそこの要請を充たすものと考えるからであ
る。しかし、二項強盗殺人罪については、財産上不法の利益を得るために用いられ
る手段が暴行の極限ともいうべき殺人であることを思えば、ここで被害者の処分行
為を要求することは物理的に不可能である。従つて、同罪の成立については、二項
強盗罪の成立要件とされる処分行為必要説について若干の修正を施す必要がある。
そこで、私は、犯人と被害者の間において債権、債務の関係が解決されるべき当面
の係争事として問題となつている場合に、債務を負担すべき地位にある者が、債務
の履行を免れるため、債権を行使すべき地位にある者を殺害して事実上債務の履行
を免れ、反面、債権の行使を事実上不能に帰せしめた場合に限つては、二項強盗殺
人罪の成立を肯定してよいものと考える(二項強盗罪は、債権以外の財産上の利益
の得喪をめぐつても問題となりうるが、ここで、債権、債務という場合は、財産上
の利益一般をも念頭においた広い意味で用いているものである。)。蓋し、このよ
うな場合には、殺害によつて生ずる財産上の利益の事実上の移転が、被害者の処分
行為によつて生ずるそれと価値的に同視できるからである。単に債権を取得し、あ
るいは債務を免れる動機・目的のため人を殺害したすべての場合について、一律に
二項強盗殺人罪の成立を認めるとすれば、一面において、一項強盗殺人罪の成立に
ついて、強盗の現場もしくはその機会継続中に殺人が行われることを要求すること
との間に懸隔を生ずることを考えるべきであり、他面において、殺人罪の成立につ
いては、動機・目的の如何を問わないことを念頭に置くべきである。私は、二項強
盗殺人罪の成立については、前記の如き限定解釈の必要があるものと考える。最高
裁判所昭和三五年八月三〇日第三小法廷判決・刑集一四巻一〇号一四一八頁は、財
産上不法の利益を得又は債務の履行を免れる目的で殺人に及んだ場合一般について、
二項強盗殺人罪の成立を肯定するもののようであるが、この事案は、私の見解によ
つても、同罪の成立を肯定しうる場合であつたと思う。
 このような考えに立つて、被告人のBに対する拳銃発射の行為についての評価を
考えてみる。上告趣意は、FがBから本件覚せい剤の占有の移転を受けた以上、被
告人の拳銃発射の行為は、単なる殺人未遂罪に当たるのみであり、(一項)強盗殺
人未遂罪を以て論ずることはできないという。論旨は、原判決が結合犯を理由とし
て強盗殺人未遂罪の成立を肯定している点の法令違反を指摘する限りにおいて、正
当な一面を有するということができることは、前叙のとおりである。しかし、被告
人としては、FらのBに対する本件覚せい剤の返還ないし買主から支払を受けて交
付すべきものとされていたその代金の支払を免れるため(このことは第一審判決掲
記の証拠上容易に推認できる。)、しかも当面そのことが係争事となり、Bが買主
から覚せい剤代金の支払等を待ちもうけていた際、同人に対し拳銃発射の行為に及
び、Bをして本件覚せい剤の取り戻し又は代金債権の行使を事実上不可能にし、反
面、このような債務の履行を事実上免れようとしたものであるところ、たまたまB
が防弾チヨツキを着ていたため、殺人は未遂に終わり、かつ、そのために、右のよ
うな財産上不法の利益を得る目的も遂げなかつたのであるから、二項強盗殺人未遂
罪の成立は免れないというべきである。
 四 最後に、罪数の点を検討しよう。被告人がFの実行した詐欺(既遂)の罪に
ついて、同人らとの共同正犯の刑責を問われることは既にみたとおりであり、同罪
と二項強盗殺人未遂罪の関係は、両罪が同一場所で同一機会に継続してなされたも
のであり、社会現象としても一個の事象として評価されることにかんがみ、詐欺(
既遂)罪と(二項)強盗殺人未遂罪の包括一罪として重い後者の刑で処断さるべき
ものと考える。
  昭和六一年一一月一八日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    高   島   益   郎
            裁判官    谷   口   正   孝
            裁判官    角   田   禮 次 郎
            裁判官    大   内   恒   夫
            裁判官    佐   藤   哲   郎

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