弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。
     上告人の被上告人国に対する訴を却下する。
     被上告人B1は、上告人に対し、別紙目録(一)ないし(三)の土地に
つき盛岡地方法務局花巻支局昭和二五年七月二五日受付第二七六八号をもつてなさ
れた所有権保存登記の各抹消登記手続をせよ。
     被上告人B2は、上告人に対し、前記(一)の土地につき同支局昭和三
一年二月二四日受付第九四二号をもつてなされた抵当権設定登記および前記(三)
の土地につき同支局昭和三〇年一一月二八日受付第四〇三七号をもつてなされた抵
当権設定登記の各抹消登記手続をせよ。
     被上告人B3および同B4は、上告人に対し、前記(一)の土地につき
同支局昭和三一年二月二四日受付第九四〇号をもつてなされた抵当権設定登記およ
び同支局同年六年二九日受付第三三一〇号をもつてなされた抵当権設定登記の各抹
消登記手続をせよ。
     被上告人B5は、上告人に対し、前記(二)の土地につき同支局昭和三
〇年一二月二一日受付第四四六三号をもつてなされた抵当権設定登記の抹消登記手
続をせよ。
     訴訟の総費用中、上告人と被上告人国との間で生じた部分は上告人の負
担とし、その余の部分はその余の被上告人らの負担とする。
         理    由
 職権をもつて按ずるに、上告人は被上告人国に対し原判示の各買収土地につきな
された登記用紙の閉鎖の回復手続および所有権移転登記の抹消登記手続を求めると
ころ、不動産登記用紙の閉鎖(不動産登記法二四条ノ二)がなされた場合には、た
とえ右閉鎖が違法になされたものであつても、その回復手続は、これを定めた規定
がないから、許されないものと解すべきである(このような場合には、当該不動産
の所有者からあらたに所有権保存登記を申請するか、あるいは、当該不動産につき
第三者名義の所有権保存登記がなされているときは、真正な所有者から右名義人に
対し、所有権移転登記手続を求めるべきである。)。したがつて、上告人の被上告
人国に対する請求を棄却すべきものとした第一、二審判決は、取消、破棄を免れず、
上告人の被上告人国に対する訴を却下すべきである。
 上告代理人吉田賢雄、同阿部一雄の上告理由第一点について。
 行政事件訴訟特例法(以下特例法という。)のもとにおいては、行政処分取消判
決は、当該訴訟の当事者に対して効力を有するにとどまらず、すべての第三者に対
しても効力を有するものと解するのを相当とする。けだし、特例法一二条は、「確
定判決は、その事件について関係の行政庁を拘束する。」と規定するにとどまり、
行政処分取消判決は第三者に対しても効力を有する旨の規定はないけれども、行政
上の法律関係はその性質上画一的に規制されるべきものであることに徴すれば、行
政処分取消判決の形成力は第三者に及ぶものと解すべきであるからである。
 ところで、行政処分無効確認訴訟については、特例法になんらの規定がないので
あるが、無効な行政処分によつて権利を侵害されたと主張する者は、現在の法律関
係に関する訴の前提問題として行政処分の無効を主張しうるにとどまらず、直接、
行政処分無効確認の訴を提起しうることが判例上肯認されてきたのである。その実
質的理由は、期間の徒過等により行政上の不服申立ならびに行政処分取消の訴の提
起が許されなくなつたような場合であつても、当該行政処分に重大かつ明白な瑕疵
があるときは、行政処分無効確認の訴を提起することによつて、行政処分取消の訴
を提起した場合と同様の救済を与えようとする趣旨であるから、右行政処分無効確
認判決の効力は、行政処分取消判決の効力と同様に、訴訟の当事者のみならず、第
三者に対する関係においても、画一的に生ずるものと解しなければならない。もし、
行政処分無効確認判決の効力が第三者に及ばないと解すべきものとすれば、特例法
のもとで行政処分取消の訴の一変形として肯認されてきた行政処分無効確認の訴は、
著しくその機能を損ずることになるのであつて、この意味においても、行政処分無
効確認判決は、第三者に対しても、その効力を有するものと解するのが相当である。
 本件についてこれをみるに、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)
の確定したところによれば、上告人所有の本件土地は自作農創設特別措置法三〇条
にあたる未墾地として買収されたので、上告人は、岩手県知事を被告として盛岡地
方裁判所に対し右買収処分の無効確認の訴を提起したところ、同裁判所は、昭和三
〇年六月一三日右買収処分の無効であることを確認する旨の判決を言い渡し、右判
決は、同月二九日確定したが、被上告人国を除くその余の被上告人ら(但し、被上
告人B3および同B4については、その被相続人亡D)は、それぞれ本件土地につ
き原判示の各登記を経由した、というのである。しかし、前叙のとおり、前記買収
処分無効確認判決の効力は、被上告人国に対して及ぶのみならず、その余の被上告
人らにも及ぶものと解すべきであるから、上告人は、被上告人らに対し、本件土地
の所有権を主張することができるのであつて、被上告人国を除くその余の被上告人
らは、それぞれ上告人に対し、主文掲記の各登記の抹消登記手続をすべき義務があ
るものといわなければならない。右と見解を異にする第一、二審判決は、その余の
論旨について判断を加えるまでもなく、取消、破棄を免れない。
 よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、九六条、八九条、九三条に従い、
裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    柏   原   語   六
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎

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