弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
     前項の部分につき被上告人の控訴を棄却する。
     原審及び当審における訴訟費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人柳川俊一、同篠原一幸、同岩渕正紀、同前川典和、同藤沢堯、同外山
健一、同山本草平の上告理由について
 一 原審が確定したところによれば、(1) 別府国際観光温泉文化都市建設計画
石垣第二土地区画整理事業の施行者である上告人は、道路新設等の工事を施行する
ため、昭和四八年九月一三日、被上告人に対し、右工事の対象地区内に存する被上
告人所有の大分県別府市大字ab番山林三九九・九九平方メートル(以下「本件従
前地」という。)につき街区番号c―d地積三四二・〇〇平方メートル(以下「本
件仮換地」という。)を仮換地に指定する処分をした(以下「本件仮換地指定処分」
という。)、(2) しかし、被上告人が本件仮換地を使用しうるためには、上告人
において同仮換地の所有者、更にはそのまた仮換地先の土地所有者との立退き交渉
を行う必要があつたため、上告人は、被上告人に対し、本件仮換地のうち二〇一・
二〇平方メートル(全体の約五九パーセント)の部分について使用収益開始の日を
追つて通知する旨定めたが、その使用収益開始の時期については目途がたつていな
かつた、(3) 本件仮換地指定処分は道路新設等の工事のための具体的必要に基づ
いてされたものであり、右工事は、昭和四九年三月三一日までに完工する予定で昭
和四八年に着工され、本件従前地周辺を除いてはほとんど完了したのであるが、本
件従前地周辺だけは右立退き交渉が難航しているため未だ着工されずに残されてい
る、(4) 本件従前地は現況宅地であつて、同地上には被上告人居住の家屋が建築
されているが、本件仮換地のうち前記部分の使用収益開始の日が追つて通知とされ
ているため、被上告人は右家屋を本件仮換地上に移築することができず、同家屋は
本件従前地上に存置されたままとなつている、(5) 上告人は、本件仮換地指定処
分後六年余を経過しても本件仮換地のそのまた仮換地先の土地所有者との間で立退
きの交渉に入つているだけで、未だに本件仮換地の前記部分の使用収益開始時期に
ついて目途がたつていない、というのであり、右事実関係は原判決挙示の証拠関係
に照らしてこれを是認することができる。
  原審は、右事実関係のもとにおいて、本件仮換地のうちの約五九パーセントを
占める二〇一・二〇平方メートルがその使用収益開始の日につき目途のたたないま
まこれを追つて通知する旨定められたため、被上告人は本件仮換地を本件従前地に
おけると同様にその居住家屋の敷地として使用収益することができない状況になつ
ているから、本件仮換地指定処分は土地区画整理法(以下「法」という。)八九条
一項所定の利用状況につき照応しないものとして違法であることを理由に、被上告
人の右処分取消請求を認容した。
 二 仮換地の指定がされると、従前地の権利者は、仮換地指定の効力発生の日か
ら換地処分の公告の日まで当該仮換地につき使用収益権を取得する一方、従前地に
ついての使用収益ができないこととなるのが原則であるが(法九九条一項)、法九
九条二項によると、仮換地を指定した場合において、その仮換地に使用収益の障害
となる物件が存するときその他特別の事情があるときは、施行者はその仮換地につ
いて使用収益を開始することができる日(以下「使用収益開始日」という。)を仮
換地指定の効力発生日とは別に定めることができるとされており、この場合には、
従前地の権利者は定められた使用収益開始日までの間仮換地を使用収益することが
できないことになる。これは、仮換地上に建物等が存在するためそれが移転除却に
より撤去されるまで時日を要することが当然予想されるような場合にまで、仮換地
指定の効力発生日から直ちにこれを使用収益しうるという原則を貫くことは、建物
等の権利者と仮換地の被指定者との間に無用の紛争混乱を生ずるおそれがあること
から、これを未然に防止するとともに、併せて区画整理事業の円滑な実施を図るこ
とを目的としたものであつて、従前地の権利者が、右使用収益開始日が別に定めら
れたため、その間、仮換地及び従前地のいずれについても使用収益することができ
なくなつたことにより損失を受けた場合においては、施行者はその者に対して通常
生ずべき損失を補償しなければならないこととされている(法一〇一条一項)。と
ころで、右の使用収益開始日は確定日をもつてこれを定めることが望ましいといえ
るが、施行者において、仮換地が使用収益可能な状態となる日、即ち仮換地の使用
収益を妨げる事情を除去しうる日時を、仮換地指定の当初から確定的に予定するこ
とが困難な場合には、仮換地指定の際いつたんその使用収益開始日を追つて定める
旨通知し、その後、その使用収益開始日を確定しうる段階で具体的な日を定めると
いう方法をとることも許されると解するのが相当である。けだし、使用収益開始の
時期を確定的に予定することが困難であるからといつて、その予定のたつまで仮換
地の指定を待つことは、勢い区画整理事業の実施を遅延させ、事業の円滑な進捗を
確保することが困難となり、使用収益開始日を定めてする仮換地指定を認めた法の
趣旨にそわない結果となるし、たとえ右のような方法がとられたとしても、従前地
の権利者には前記損失補償を受けうる途が開かれているのであつて、法九九条二項
の規定がかかる使用収益開始日の定め方を禁止しているとまで解することはできな
いからである。したがつて、仮換地に使用収益の障害となる物件が存するためこれ
を除去する必要がある場合に、施行者においてその除去の時期を確定することがで
きず、仮換地の使用収益開始の時期について目途がたたない場合であつても、区画
整理事業の遂行上仮換地を指定する必要がある以上、使用収益開始日を追つて定め
ることとして仮換地の指定をすることも違法とはいえないというべきである。確か
に仮換地の指定も法八九条所定の照応の原則を考慮してしなければならないのであ
るが(法九八条二項)、右のように法が施行者において仮換地指定の効力発生日と
は別に使用収益開始日を定めることができるものとし、従前地の権利者が右使用収
益開始日までの間当該仮換地の使用収益をすることができないこととなる場合のあ
ることを認めていることからすれば、使用収益開始日が別に定められたために仮換
地を使用収益することができないからといつて、当該仮換地指定が法八九条一項所
定の利用状況につき照応していないということができないことは明らかであり(そ
の利用状況が照応しているかどうかは、当該仮換地の使用収益開始時を前提に判断
すれば足りる。)、このことは、使用収益開始の時期について目途がたたないため、
使用収益開始日を確定することなくこれを追つて定める旨通知された場合であつて
も何ら異なるところはないというべきである。
  これを本件についてみるに、原審の確定した前記事実関係によれば、上告人は、
区画整理事業の遂行上道路新設等の工事を施行するため本件仮換地指定処分をした
が、被上告人が本件仮換地のうち前記部分を使用収益するためには同仮換地の所有
者の立退きが必要であつたため、法九九条二項に基づき同部分について使用収益開
始日を別に定めることとし、ただその使用収益開始の日について確定することがで
きなかつたことから、これを追つて通知する旨定めたというのであるから、その結
果、被上告人が本件従前地上の家屋を本件仮換地上に移築することができず、使用
収益開始の日が確定されないまま本件仮換地を同家屋の敷地として使用収益するこ
とができない状況にあるからといつて、前記のとおりこれをもつて本件仮換地指定
処分に照応原則違反等の違法があるとすることはできないというべきである。
 三 そうすると、右と異なる見解に立ち、使用収益開始日を追つて通知する旨定
められた結果本件仮換地の相当部分が使用収益できない状況にあるとの一事をもつ
て、本件仮換地指定処分が利用状況の照応を欠き違法であるとした原判決には、仮
換地指定に関する法令の解釈適用を誤つた違法があるものというべく、右違法は判
決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点を指摘する論旨は理由が
あり、原判決中本件仮換地指定処分の取消請求を認容した部分は破棄を免れない。
そして、使用収益開始の時期の目途もないまま仮換地を指定したことを理由に本件
仮換地指定処分の違法をいう被上告人の主張が失当であることは、前記説示に照ら
して明らかであり、また、本件仮換地指定処分につき被上告人が主張するその余の
違法事由はいずれも理由がないとした原審の認定判断は正当であるから、結局、本
件仮換地指定処分の取消しを求める被上告人の請求は失当であり、これを棄却した
第一審判決は正当であつて、これに対する被上告人の控訴は理由がないものとして、
これを棄却すべきである。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、
八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    木   下   忠   良
            裁判官    大   橋       進
            裁判官    牧       圭   次
            裁判官    島   谷   六   郎
            裁判官    藤   島       昭

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