弁護士法人ITJ法律事務所

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平成26年12月16日宣告
傷害被告事件
判決
主文
1被告人を懲役1年2月に処する。
2この裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予する。
理由
【罪となるべき事実】
被告人は,平成25年7月10日午後5時15分頃,神戸市a区bc丁目d番e
号所在のAB店北側駐車場において,自動車の通行方法をめぐってC(当時35歳)
と口論になった際,同所に止めた普通乗用自動車の運転席に座って運転席ドアを開
いたまま同車を発進させようとしたところ,そのドア内側に立っていたCから自己
の左肩付近をつかまれ,また,Cのすぐ近くにD(当時34歳)が立っていること
を認識しながら,両名に対し,あえて同車を発進・後退させる暴行を加えて両名を
その場に転倒させるなどし,よって,
Cに加療約1か月間を要する右母趾種子骨骨折等の傷害を,
Dに加療約3週間を要する腰背部打撲等の傷害を
それぞれ負わせたものである。
【証拠の標目】
省略
【法令の適用】
省略
【弁護人の主張に対する判断等】
1争点
判示傷害につき,被告人は自動車を発進させた際には被害者Cは自己の身体を
つかんでいなかったなどと犯行態様を一部争う旨の供述し,弁護人は,被告人に
よる傷害の事実そのものは争わないが,被告人の行為は過剰防衛又は誤想過剰防
衛(急迫不正の侵害がないのにあると思った場合)に該当する旨主張するので検
討する。
2前提事実
次の事実は関係証拠により容易に認められ,この限度では被告人・弁護人にも
概ね争いがない。
被害者CとDは友人同士であり,事件当日,AB店(パチンコ店)で待ち合
わせをしていた。被告人と被害者らとは本件まで面識等はなかった。
事件直前,被告人が自動車(被告人車又は自車)を運転して,パチンコ店の
前の道路付近を通りかかった際,対向直進してきたC運転車両(C車)が右折
してパチンコ店に入った。被告人は,C車が自車とぶつかりそうになったなど
として腹を立て,C車を追ってパチンコ店に入り,その北側駐車場内通路でC
車を追い抜いてその右前方に自車を止め,C車を停止させた。被告人は即座に
自車を降りてC車の運転席側に行き,「危ないやないか。」などと大声で言った
ところ,Cも自動車から降りてきてその場で口論となった(その際,被告人が
Cの胸ぐらをつかんだか否かは争いがある〔争点①〕。)。
口論の最中,被告人は,Cの言動や着ていた作業着の「E」との刺繍を見て,
Cが暴力団関係者ではないかと考え,逃げたほうがよいと思い,「もうええわ。」
などと言いながら自車の方に戻り,運転席に乗り込んで自車を発進させようと
した。しかし,Cは被告人の後を追いかけて被告人車の運転席側に行き,ドア
が開いた状態で運転席に座った被告人の襟首や胸ぐらをつかみ,激しく揺さぶ
ったり,エンジンキーの取り合いになるなどした。この時点では被告人はCに
対し恐怖心を抱き,「ごめん,ごめん」と言うなどしていた。また,この頃,D
が被告人車の方にやって来たが,被告人は,Cらの言動から同人らが知人同士
であることが分かった(この後,CがDに仲間を呼ぶように指示し,Dが携帯
電話をかけるなどしたか否かは争いがある〔争点②〕。)。
被告人は,その場から逃走しようと考え,自車を発進させようとしたが,進
路前方に別の車両が止まっていたため自車を後退させて発進し,その際,C及
びDに対し判示のけがをさせ,その場から逃走した(被告人が自車を発進させ
た際,Cが被告人の身体をつかんでいたか否か等は争いがある〔争点③〕。)。
3補足的事実認定
前記争点①について
Cは,着ていた作業服の左胸付近をつかまれて胸の社名を見られた旨供述し,
被告人はこれを否定するが,Dはその場面を見たとは述べていないし,他にこ
れを裏付ける証拠はなく,「疑わしきは被告人の利益に」という観点から,刑事
裁判においてはC供述のみではその事実を認定することは相当ではない。
前記争点②について
被告人は,CがDに仲間を呼ぶように指示し,Dが携帯電話をかけていた旨
供述し,Cらはこれを否定するが,Cは被告人との口論直前までDと電話で会
話していた旨述べ,Dも被告人車に近づいて行った際に携帯電話を持っていた
ことは認めているところ,Dの携帯電話の通話履歴等のDが電話をかけていな
かったことを裏付ける証拠は検察官から提出されていないから,これも「疑わ
しきは被告人の利益に」という観点から,実際に,Cらが仲間を呼ぼうとして
いたか否かはともかく,少なくとも被告人から見て,Cらが仲間を呼ぼうとし
ていたとも思われる状況があったと認めることが相当である。
前記争点③について
Cは,被告人車が発進した際,自己の上半身が車内に入った状態で被告人の
首の後ろから左腕を回してその左肩,襟の辺りをつかんでいた旨供述し,Dも
これに沿う供述をするが,被告人はこれを否定し,Cが被告人の身体をつかん
でいた手を離し車外に出て,開いていた運転席ドアよりも更に離れたので,そ
の隙に自車を発進させたなどと供述する。しかしながら,被告人の述べる状況
ではCが転倒して負傷することは考えられないのであるから,この被告人供述
は明らかに不合理であって事実に反するといわざるを得ず,採用できないもの
である。この点は前記C供述のとおり左肩付近をつかんでいたと認定できる(な
お,被告人が自車を発進させた際,自車のすぐ近くにDがいたことを認識して
いたと認められる。)。
4法律判断
以上を前提に検討するが,まず,被告人が,判示のとおりの犯行に及び,よっ
て,C及びDに傷害を負わせたことは疑いを容れない。
被告人はCから襟首や胸ぐらをつかまれ激しく揺さぶられるなどし,更には仲
間を呼ばれれば拉致されたり袋だたきにされたりするかもしれないと考え,その
場から逃走するために本件犯行に及んだと認められるが,被告人がそのような事
態に陥った原因は,Cの運転態度に腹を立てた被告人が路外のパチンコ店に入っ
たC車をわざわざ追いかけて停止させた上,自車を降りてC車の運転席付近まで
行き大声で文句を言ったことによるものである。この点,前記認定のように,被
告人が胸ぐらをつかむなど被告人の方から先にCに暴行を加えたとは認められな
いが,交通トラブルに関し相手方に大声で文句を言えば,相手方の対応によって
は口論から素手のつかみ合いなどに発展することは通常予想できる範囲内のこと
であるから,前記Cの攻撃は被告人が自らの行為により招いたものといわざるを
得ず,被告人においてCに対する正当防衛をなし得る立場になかったことは明ら
かである。
Cが仲間を呼ぼうとしていたと思っていた点をもって,新たな攻撃があると誤
信したとみる余地があるかについて,C自身,暴力団を名乗った訳でもなく,犯
罪組織の関係者であることをうかがわせる客観的事情はない。住宅街にある営業
中のパチンコ店の敷地内での事件であり,当時はまだ明るい時間帯で,何人もが
被告人とCらの様子を見ている状況であったというのであり,このような状況は
被告人にも容易に認識できたと認められる。そうすると,Cの仲間がただちに駆
けつけ,その指示どおりに被告人を袋だたきにする等の現実的・具体的な危険性
は高くなかった上,電話で仲間を呼び出そうとしている段階では未だ被告人の生
命・身体に対する法益侵害が現在するとか,間近に押し迫っているとも認め難い
のであるから,このことから直ちに通常予想できる範囲を超える新たな攻撃があ
ったなどとは認め難い。(なお,被告人は,Cから「刺したる。」と言われたとも
述べるが,Cが実際に刃物を取り出したなどとはうかがわれず,生命・身体への
侵害が切迫した状況はなかったと認められる。)。
そして,Dに至っては,被告人に何らの暴行も加えておらず,被告人もCとD
の二人がかりで攻撃されると思ったとは述べていない。またCがDと共謀して暴
行を加えたと見る余地もなく,このことは被告人も分かっていたと認められる。
結局のところ,被害者2名の関係で,被告人に急迫不正の侵害があったとか,
合理的根拠に基づいてそのような侵害があると誤信したとは認められず,被告人
に正当防衛はもちろん,過剰防衛や誤想過剰防衛が成立する余地はない。
【量刑の理由】
本件は,自動車を発進させて被害者2名を路上に転倒させるなどして負傷させた
傷害の事案である。
本件犯行態様は,被害者らの転倒状況によっては自車で轢くなどして命に関わる
ようなけがをも負わせかねない危険なもので,悪質というほかない。この点,被告
人は,被害者らにけがをさせるつもりはなかったとも述べているが,自己の行為の
危険性は十分に認識していたはずであるから,そのような心情は何ら被告人に有利
な事情とはなり得ない。
その結果,被害者2名にそれぞれ軽からぬ傷害を負わせ,休業等も余儀なくさせ
たが,事件後1年以上経過しているにもかかわらず,被告人は判決直前に被害者2
名にそれぞれ10万円を支払ったのみである。
犯行の直接のきっかけは被害者の暴行によるが,前記認定のとおりそれは被告人
が自らの行動により招いたものである上,被告人において,まずもってCにきちん
と謝罪したり,自らあるいは第三者に依頼して110番通報をするなど,人の命に
関わりかねない危険な行為をするよりも,他に適切な対応手段はいくらでもあった
と考えられる。そもそもが菊の御紋のシールを貼った一見右翼風の高級車を乗り回
し,相手が一般人と見るやわざわざ追いかけて停車させてでも交通マナーについて
文句を言おうとし,相手が暴力団関係者だと思えば後先も考えずその場から逃走し
ようとする幼稚で身勝手な被告人の行動傾向に問題があるといわざるを得ないので
あって,犯行動機や犯行に至る経緯に酌量の余地は乏しい。
総じて,本件犯情はまことに芳しいものではない。
しかしながら,特にCに関しては,被告人に触発されたとはいえ,犯行に至る原
因に少なからずC自身の不相当な行動が影響しているといわざるを得ないこと,C
に対し,今後自賠責保険による相当額の賠償の可能性があること,Dが前記10万
円をもって示談に応じていること,これまで前科が無く,当公判廷においても大筋
で事実関係を認め,一応反省の言葉を述べていること等の事情もあるので,今回に
限り主文の刑を量定の上,その刑の執行を猶予することが相当である。
(求刑-懲役2年)
平成26年12月16日
神戸地方裁判所第1刑事部
裁判官畑口泰成

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