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主文
1 被告は,原告兵庫県火災共済協同組合に対し,金879万6880円及びこ
れに対する平成14年8月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
2 被告は,原告全国共済農業協同組合連合会に対し,金2920万4308円
及びこれに対する平成14年9月26日から支払済みまで年5分の割合による金員
を支払え。
3 被告は,原告エース損害保険株式会社に対し,金1297万9692円及び
これに対する平成14年9月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支
払え。
4 訴訟費用は,これを6分し,その1を原告らの負担とし,その余は被告の負
担とする。
5 この判決の第1ないし第3項は仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 原告らの請求
1 被告は,原告兵庫県火災共済協同組合(以下「原告兵庫県火災共済組合」と
いう。)に対し,金1143万5944円及びこれに対する平成14年8月28日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告全国共済農業協同組合連合会(以下「原告JA共済連合会」と
いう。)に対し,金3565万3846円及びこれに対する平成14年9月26日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は,原告エース損害保険株式会社(以下「原告エース損保」という。)
に対し,金1523万0769円及びこれに対する平成14年9月19日から支払
済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 争いがないか証拠によって容易に認定できる事実
(1) 共済契約ないし保険契約
ア 原告兵庫県火災共済組合は,訴外株式会社Z(以下「訴外Z」とい
う。)との間で,兵庫県宝塚市ab丁目c-d(ただし,住居表示はe-d)に所
在する鉄骨造金属板葺2階建建物(以下「本件建物」という。)内の什器備品及び
商品を目的とし,共済金額を1500万円,共済期間を平成12年12月8日から
平成14年12月8日とする火災共済契約を締結していた(甲2の1)。
イ 原告JA共済連合会は,訴外Aとの間で,本件建物を目的とし,火災共
済金額を4500万円,共済期間を平成9年3月10日から15年間とする建物更
生等共済契約を締結していた(甲2の2,弁論の全趣旨)。
ウ 原告エース損保は,訴外株式会社Yとの間で,本件建物を目的とし,保
険金額を2000万円,保険期間を平成13年12月20日から平成14年12月
20日までとする店舗総合保険契約を締結していた(甲2の3)。
(2) 共済ないし保険事故の発生
平成14年7月23日午前10時30分ころ,本件建物において火災が発
生した(以下「本件火災」という。)。
(3) 共済金ないし保険金の支払
本件火災により発生した損害につき,上記(1)の各共済ないし保険契約に基
づく共済金ないし保険金として,
ア 原告兵庫県火災共済組合は,平成14年8月27日,1143万594
4円を,
イ 原告JA共済連合会は,同年9月25日,3565万3846円を,
ウ 原告エース損保は,同年9月18日,1523万0769円を,
それぞれ各契約者に(ただし,原告エース損保は受取人を本件建物所有者で
ある訴外Aとする特約がされていたため同人に)支払った(甲3ないし5,弁論の
全趣旨)。
2 原告の主張
(1) 本件火災についての被告の責任
本件建物は,重量鉄骨造の倉庫併用事務所建物で,訴外Aが所有し,これ
を訴外株式会社Yが賃借し,更にその内部を分けて訴外Zと訴外株式会社X(以下
「訴外X」という。)が転借して使用していたところ,被告は,訴外Xから事務
所・倉庫改修工事(以下「本件工事」という。)を請け負った。
本件火災は,平成14年7月23日午前10時30分ころ,被告の従業員
ないし被告が溶接作業を下請けさせていた有限会社W(以下「W」という。)の従
業員が,被告の指揮監督の下に,本件工事の一部である本件建物天井部の溶接作業
に従事していたところ,同作業が行われていた天井部下部の本件建物内部には発泡
スチロールが大量に山積みされていたのであるから,これを放置したまま,あるい
は単にシートを被せただけでその上部で溶接作業を行えば,発泡スチロールに溶滴
が落下し,発泡スチロールが発炎燃焼する危険性が極めて高いことは容易に認識し
得たにもかかわらず,これを放置したまま,あるいはシートを被せただけで,溶接
作業を行った重大な過失により,発泡スチロールに溶滴が落下し,発泡スチロール
が発炎燃焼して発生し
たものである。
したがって,被告は,民法715条,709条,失火ノ責任ニ関スル法律
(以下「失火責任法」という。)に従い,本件火災による損害を賠償する責任があ
る。
(2) 本件火災による損害と原告らの共済金ないし保険金の支払による代位
ア 訴外Zは,本件火災により,本件建物内の什器備品及び商品が全焼する
被害を受け,原告兵庫県火災共済組合は,同損害につき,前記1(1)ア記載の火災共
済契約に基づき,訴外Zに対し,前記1(3)ア記載のとおり共済金1143万594
4円を支払った。
イ 訴外Aは,本件火災により,本件建物が全焼する被害を受け,原告JA
共済連合会及び原告エース損保は,同損害につき,前記1(1)イ,ウ記載の各共済契
約及び保険契約に基づき,訴外Aに対し,前記1(3)イ,ウ記載のとおり,共済金及
び保険金として,次の金員を支払った。
(ア) 原告JA共済連合会 3565万3846円
(イ) 原告エース損保   1523万0769円
(3) よって,原告らは,被告に対し,保険代位による求償権の行使として,そ
れぞれ次の各金員の支払を求める。
ア 原告兵庫県火災共済組合 金1143万5944円及びこれに対する平
成14年8月28日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金
イ 原告JA共済連合会   金3565万3846円及びこれに対する平
成14年9月26日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金
ウ 原告エース損保     金1523万0769円及びこれに対する平
成14年9月19日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金
3 被告の主張
(1) 被告の責任の不存在
本件火災は,被告が本件工事の一部を下請けさせたWの従業員の作業中に
発生したものであるが,Wの従業員は,溶接作業を行っていた天井部から発砲スチ
ロールが積まれている部分までは,約6~7メートルの距離があり,通常であれ
ば,そこに到達するまでに溶接の火は消えるはずであったが,確実を期すため,発
泡スチロールの上にベニヤ板を敷き,さらにその上に防災シートを被せるといった
二重の防災措置を取っていたもので,本件火災の発生につき,Wの従業員に重過失
はない。
したがって,失火責任法により,Wの従業員には本件火災につき不法行為
に基づく損害賠償責任はないから,被告に使用者責任(民法715条)に基づく損
害賠償責任が発生することもない。
のみならず,Wが被告から請け負って行っていた作業は,アーク溶接と呼
ばれる特殊技術を要する作業で,Wが工事の段取りから材料(資材),機械等の準
備まですべて独自に行っており,被告はWの従業員に対する指揮監督はおよそ行っ
ていない。すなわち,被告とW従業員との間には指揮監督の関係はない。したがっ
て,被告はW従業員の使用者に該当しない。この点からも,被告には,本件火災に
つき使用者責任(民法715条)に基づく損害賠償責任はない。
(2) 損害及び原告らの求償権について
原告らが本件建物についての共済金ないし保険金支払の基礎とした本件建
物の価額は,高額に過ぎ,時価とはいえない。求償権取得の前提となる損害賠償請
求権の範囲については,市場での流通価格が前提とされるべきである。
また,原告らが支払った共済金ないし保険金中には,臨時費用等が含まれ
ているところ,これらは損害とはいえないから,これら部分については求償権も発
生しないはずである。
第3 当裁判所の判断
1 本件火災についての被告の責任
(1) 証拠(甲6~8,乙1~3,4の1~5,5〔ただし,一部〕,6,証人
B,同C〔ただし,一部〕,被告代表者本人〔ただし,一部〕)及び弁論の全趣旨
を総合すると,次の事実が認められる。
ア 本件建物は,平成9年に新築された訴外A所有の重量鉄骨造2階建の倉
庫併用事務所建物で,これを訴外株式会社Yが賃借し,更にその内部を分けて訴外
Zと訴外Xが転借して使用していた。
イ 被告は,平成14年7月,訴外Xから本件工事を請け負ったが,そのう
ち溶接作業を含む天井工事,内装工事等をWに下請けさせた。
なお,被告は,これまでにも溶接作業を要する工事に関しては,Wに下
請けをさせていたものであった。
ウ Wは,被告から交付を受けた本件工事の工程表及び被告の指示に基づ
き,平成14年7月22日から2名の従業員及び代表者のCが本件建物での作業に
着手した。
もっとも,これまでもWが行う工事についての具体的な段取りや機械の
準備等はWにおいて行い,被告が現場に常駐してその指揮監督を行うというような
ことはなかったもので,本件工事に関しても,同様であった。
エ Wの従業員2名は,同月23日午前9時前ころから,本件建物天井部の
電気溶接作業を開始し,Cは同日午前10時ころからこれに加わった。
Wの従業員らは,溶接作業を行うにつき,その作業を行う天井部の下部
には,高いところで約6~7メートルの高さにわたって発泡スチロールの箱が積み
上げられていたのに,これを他の場所に移動させることなく,同箱の高さを約1メ
ートルの高さに整え,その上に養生用の防炎シートを被せる措置をしただけで(乙
5,証人Cの証言中には,発泡スチロールの上に厚さ12ミリメートルのベニヤ板
を敷き,その上にシートを被せる措置をとったとの部分があるが,本件火災後の宝
塚市東消防署の調査に際し,Wの従業員らが,ベニヤ板を敷いていた旨を述べてい
たとは窺われず,また,本件火災現場にもシートの外にベニヤ板が敷かれていたこ
とを窺わせる痕跡がないこと〔甲7,乙4の1~5,弁論の全趣旨〕に照らし,に
わかに措信できず,他
にこれを認めるに足りる証拠はない。),溶接作業を開始した。
オ 同日午前10時30分ころ,電気溶接作業中のWの従業員の1人が,積
み上げられた発泡スチロールの部分一箇所から炎が上がっているのに気づき,消化
器等を用いてこれを消し止めようとしたが,消し止めることはできず,本件火災と
なった。
カ 電気溶接中のアークの温度は,その溶接電源の種類や電流密度あるいは
溶かされる溶接金属の種類によって変わるが,通常の被覆アーク溶接棒を用いた場
合は4000度から7000度程度であるとされている。そして,一般的な溶接で
は,金属の融点より数百度高くまで加熱すると溶融したスベッタといわれるスラブ
や金属粒,あるいは作業中の状態で発生する溶けた金属の固まりが溶滴(火花)と
なって落下する。
東京法令出版発行の火災調査技術教本に記載の実験結果によれば,溶滴
が発泡スチロール上に落下すると,発泡スチロールが溶融し,3秒から4秒を経て
発炎燃焼するとのことである。
(2) 以上の事実をもとに本件火災についての被告の責任につき検討する。
ア 重過失の有無について
上記認定の事実によれば,本件火災は,電気溶接によって発生した高熱
の溶滴(火花)が,積み上げられていた発泡スチロールの上に落下し,これによっ
て発泡スチロールが溶融し,発炎燃焼して発生したものと認められる。
ところで,電気溶接に際して発生する溶滴(火花)は,前記認定のとお
り,極めて高温であり,これが落下する部分に着火しやすい発泡スチロールを置い
たまま溶接作業を行うことは,火災を発生させる危険性が極めて高いものであるこ
とは容易に認識できるところであり,また,本件で発泡スチロールに被せられてい
たシートは防炎シートに過ぎず,高熱の溶滴(火花)の危険性を防止するに不十分
なものであることも容易に認識できるものである。
そうとすれば,本件火災は,溶接により発生する溶滴(火花)が落下す
る箇所に発泡スチロールを置いたままで溶接作業を行うときには,溶滴によって発
泡スチロールが発火し,火災を生ずる虞が極めて高いにもかかわらず,防炎シート
を被せただけで溶接作業を行ったWの従業員らの重大な過失によって発生したもの
と認められる。
イ 指揮監督関係の有無について
上記のとおり,本件火災の原因となった溶接作業は被告の従業員ではな
く,被告が下請けに出したWの従業員らが行ったものであり,その作業自体につい
ては,被告が現場に常駐するなどしての指揮監督は行っていなかったものである。
しかし,本件工事は,被告が請け負った工事であり,被告は,その一部を,自身の
従業員に行わせるのに代えて,Wの従業員らに行わせたものであり,かつ,その施
工に関し,Wは,被告から本件工事の工程表を交付され,同工程表及び被告の指示
によって,これに従事していたものであり,被告が本件工事に常駐等していなかっ
たとしても,Wの従業員らの作業が,被告の指揮監督の下になされていたものであ
ることには変わりがないとうべきである。
ウ 以上のとおりで,Wの従業員らには本件火災発生について重過失が認め
られ,かつ,被告と本件火災を発生させたW従業員らとの間には指揮監督関係があ
ったものと認められるから,被告には,民法715条,709条,失火責任法に基
づき,本件火災による損害につき,損害賠償責任があるものと認められる。
2 損害及び共済金ないし保険金の支払による代位について
(1) 訴外Z関係
証拠(甲9)によれば,訴外Zは,本件火災当時,本件建物内に時価合計
1517万3000円の什器・備品類及び時価合計509万0693円の商品を所
有していたところ,本件火災によりこれらが焼損し,什器・備品類については12
93万3000円,商品については453万5033円,合計1746万8033
円の損害を被ったことが認められる。 
訴外Zが,平成14年8月27日,原告兵庫県火災共済組合から,共済金
1143万5944円の支払を受けたことは争いがないところ,証拠(甲9)によ
れば,同共済金のうち,879万6880円は,上記什器・備品及び商品の焼損に
ついての損害金として支払われたことが認められる。
そうすると,原告兵庫県火災共済組合は,上記879万6880円につ
き,訴外Zに代わって,被告に対し,支払を求めることができるものと認められ
る。
原告兵庫県火災共済組合は,残余の共済金263万9064円について
も,保険代位を主張するが,証拠(甲9)によれば,同共済金は臨時費用として支
払われたものであるところ,訴外Zにおいて本件火災による損害としてこれに見合
う臨時費用の出費をしたことを認めるに足りる具体的な証拠はなく,これを損害と
しては認めることができないので,この部分についての共済金の支払による代位は
これを認めることができない。
(2) 訴外A関係
証拠(甲1の2・3,7,8,10,乙4の1~5)及び弁論の全趣旨に
よれば,本件建物は平成9年に4600万円で新築されたものであり,本件火災
(平成14年7月23日)当時の時価は4218万4000円(再調達価額453
6万円。耐用年数57年。最終残価率20パーセント。経年減価率年1.4パーセ
ントとして算定)であったこと(被告は,時価額が高額に過ぎると主張するが,本
件建物が重量鉄骨造の倉庫併用事務所建物であることからすれば,上記算定方法は
特に不合理とは認められず,高額に過ぎるとの被告主張は理由がない。),本件建
物は本件火災により全焼し,所有者の訴外Aは上記時価相当額(4218万400
0円)の損害を被ったことが認められる。
訴外Aが,平成14年9月25日,原告JA共済連合会から共済金356
5万3846円の,同年9月18日,原告エース損保から保険金1523万076
9円の各支払を受けたことは争いがないところ,証拠(甲8)によれば,上記共済
金のうち3115万3846円,上記保険金のうち1384万6154円,合計4
500万円が本件建物の焼失についての損害金として支払われたものであることが
認められる。
そうすると,訴外Aが本件建物の焼失により被った上記損害4218万4
000円につき,原告JA共済連合会及び原告エース損保は,それぞれその各支払
額で按分した額,すなわち,原告JA共済連合会は,2920万4308円(42
18万4000円÷4500万円×3115万3846円),原告エース損保は,
1297万9692円(4218万4000円÷4500万円×1384万615
4円)を,訴外Aに代わって,被告に対し,支払を求めることができるものと認め
られる。
証拠(甲8)によれば,原告JA共済連合会及び原告エース損保は,残余
の共済金450万円及び保険金138万4615円,合計588万4615円につ
いては,いずれも取片付費用として支払っていることが認められるが,訴外Aにお
いて現実にこれら出費をしたことを認めるに足りる具体的な証拠はなく,これを損
害としてにわかには認めることができないので,この部分についての共済金ないし
保険金の支払による代位はこれを認めることができない。
3 まとめ
以上によれば,原告らの被告に対する請求は,次の各金員の支払を求める限
度で理由がある。 
(1) 原告兵庫県火災共済組合 金879万6880円及びこれに対する平成1
4年8月28日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金
(2) 原告JA共済連合会   金2920万4308円及びこれに対する平成
14年9月26日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金
(3) 原告エース損保     金1297万9692円及びこれに対する平成
14年9月19日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金
よって,原告らの請求を上記限度で認容することとして,主文のとおり判決
する。
神戸地方裁判所第4民事部
裁 判 官  上  田  昭  典

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