弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成13年(行ケ)第148号 特許取消決定取消請求事件
     判    決
    原   告       富士ゼロックス株式会社
    訴訟代理人弁理士    佐藤清孝、押野宏、前川純一
    被   告       特許庁長官 及川耕造
    指定代理人       江頭信彦、東次男、小林信雄、林栄二
     主    文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
     事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
「特許庁が平成11年異議第73151号事件について平成13年2月20日にし
た決定を取り消す。」との判決。
第2 事案の概要
 1 特許庁における手続の経緯
 原告は、発明の名称を「ファクシミリ装置の画情報転送装置」とする特許第28
61037号(平成1年4月20日出願、平成10年12月11日設定登録)の特
許権者であるが、本件特許の請求項2ないし3に係る特許につき、特許異議の申立
て(平成11年異議第73151号)があり、平成12年11月6日に訂正請求が
あったが、平成13年2月20日、「特許第2861037号の請求項2ないし3
に係る特許を取り消す。」との決定があって、同年3月12日にその謄本が原告に
送達された。
 2 本件発明(請求項2及び3に係る発明)の要旨
(訂正後)
 2) 画情報を受信する受信部と、転送モード設定部と、ポーリング通信が要求
されたか否かを判断する手段と、該転送モード設定時に画情報を受信すると該画情
報を蓄積され、ポーリング通信要求時に該画情報を読み出される画情報蓄積メモリ
と、該転送モードが設定されボーリング通信が要求されていない時に前記受信部か
ら画情報を受信すると受信した該画情報を前記画情報蓄積メモリに蓄積し、該転送
モードが設定されポーリング通信が要求された時に前記画情報蓄積メモリから該画
情報を読み出す転送モード制御手段と、前記画情報蓄積メモリに蓄積された画情報
が正常に転送されたか否かを判断する手段と、該画情報蓄積メモリをクリアする手
段とを具備し、該画情報が正常に転送された時に該画情報蓄積メモリをクリアする
ようにしたことを特徴とするファクシミリ装置の画情報転送装置。
 3) 画情報を受信する受信部と、転送モード設定部と、ポーリング通信が要求
されたか否かを判断する手段と、該転送モード設定時に画情報を受信すると該画情
報を蓄積され、ポーリング通信要求時に該画情報を読み出される画情報蓄積メモリ
と、該転送モードが設定されポーリング通信が要求されていない時に前記受信部か
ら画情報を受信すると受信した該画情報を前記画情報蓄積メモリに蓄積し、該転送
モードが設定されポーリング通信が要求された時に前記画情報蓄積メモリから該画
情報を読み出す転送モード制御手段と、プリントアウトモード設定部を具備し、該
転送モードが設定されプリントアウトモード設定部によりプリントアウトモードが
設定された時には、受信した画情報を前記画情報蓄積メモリに蓄積すると共に、プ
リンタから自動的にプリントアウトされるようにし、該転送モードが設定され前記
プリントアウトモードが設定されていない時には、受信した画情報を前記画情報メ
モリに蓄積するが、プリンタから自動的なプリントアウトを実行しないことを特徴
とするファクシミリ装置の画情報転送装置。
(訂正前)
 2) 転送モード設定部と、該転送モード設定時に画情報を受信すると該画情報
を蓄積し、ポーリング通信要求時に該画情報を読み出される画情報蓄積メモリと、
前記画情報蓄積メモリに蓄積された画情報が正常に転送されたか否かを判断する手
段と、該画情報蓄積メモリをクリアする手段とを具備し、該画情報が正常に転送さ
れた時に該画情報蓄積メモリをクリアするようにしたことを特徴とするファクシミ
リ装置の画情報転送装置。
 3) 転送モード設定部と、該転送モード設定時に画情報を受信すると該画情報
を蓄積し、ポーリング通信要求時に該画情報を読み出される画情報蓄積メモリと、
プリントアウトモード設定部を具備し、該転送モード設定時にプリントアウトモー
ド設定部によりプリントアウトモードが設定された時には、受信した画情報を前記
画情報蓄積メモリに蓄積すると共に、プリンタから自動的にプリントアウトされる
ようにしたことを特徴とするファクシミリ装置の画情報転送装置。
 3 決定の理由の要点
 (1) 訂正の適否について
 (1)-1 引用刊行物記載の発明
 異議審が訂正拒絶理由通知書で引用した特開昭63-63278号公報(刊行物
1。異議甲第1号証)には、留守中にファクシミリ装置で受信した画情報を操作者
が出先にて見ることができるようにするために、この装置は留守転送モードにする
のか在宅モードにするのかを選択するモード選択手段を備え、発呼者からファクシ
ミリ信号が送られてきたときにそれを記録紙に記録するとともに画信号メモリにも
記録するようにして、留守転送モードが選択されているときには、画信号メモリに
記録されているその画情報を読出しそれをあらかじめ記憶された電話番号の転送先
へ転送するという発明が記載されている。
 同じく特開昭59-190777号公報(刊行物2。本件明細書で引用されてい
る文献)には、画像データの蓄積、ポーリング、代行受信、画像データの転送及び
時刻指定自動送信等の機能が付加されたファクシミリ装置で複ポーリング受信を行
うすべての受信局が画像データを受信した後でもこの画像データを保持していたた
めメモリが有効活用できないという従来技術の問題点を解決するため、ポーリング
通信を所定回数行ったのちに蓄積した画像データを無効にすることでメモリを有効
活用できるようにするという発明が記載されており、また、明細書中には、受信局
に全ページの画像データ送信が正常になされた場合に、ポーリング回数カウンタを
ディクリメントするという説明もある。
 同じく特開昭62-155672号公報(刊行物3。異議甲第3号証)には、蓄
積機能付きファクシミリ装置において、原稿を蓄積するためのメモリを効率よく使
用可能とするマルチポーリング送信方式を提供することを目的とし、送信予定のす
べての相手先からポーリングされて原稿の送信を終了すると直ちに蓄積している原
稿を消去するようにしてその目的を達成するようにするという発明が開示されてい
る。
 (1)-2 訂正請求項2ないし3に係る発明について
 そこで、訂正請求項2ないし3に係る発明が、出願の際独立して特許を受けるこ
とができたものかどうかについて検討する。
〔訂正請求項2の発明について〕
 訂正請求項2の発明と刊行物1に記載されている発明を対比すると、両者は、
「画情報を受信する受信部と、転送モード設定部と、該転送モード設定時に画情報
を受信すると該画情報を蓄積し、転送時に該画情報を読み出される画情報蓄積メモ
リと、を備えたファクシミリ装置の画情報転送装置」という点で一致し、(a)訂正請
求項2の発明が、ポーリング通信が要求されたか否かを判断する手段を具備してい
て、画情報を読み出し転送するのがポーリング通信要求時であるのに対して、刊行
物1記載の発明はこのような手段を有しておらず画情報を読み出し転送するのが、
画情報蓄積メモリに蓄積された直後である点、(b)訂正請求項2の発明が、該転送モ
ードが設定されポーリング通信が要求されていない時に前記受信部から画情報を受
信すると受信した該画情報を前記画情報蓄積メモリに蓄積し、該転送モードが設定
されポーリング通信が要求された時に前記画情報蓄積メモリから該画情報を読み出
す転送モード制御手段と、前記画情報蓄積メモリに蓄積された画情報が正常に転送
されたか否かを判断する手段と、該画情報蓄積メモリをクリアする手段とを具備
し、該画情報が正常に転送された時に該画情報蓄積メモリをクリアするようにした
ものであるのに対し、刊行物1記載の発明はそのような手段とそのような動作をす
るようにはなっていない点、の2点で相違するということができる。
 そこで、これらの相違点について検討する。
 (a)の点に関しては、訂正請求項2の発明のポーリング通信が要求されたか否かを
判断する手段を具備している点は、ポーリング通信要求時という限定内容を実行す
るために当然必要かつ自明の手段を記載したものと認められる。そして、着信があ
ったら着信画像データをすぐに転送するようにすることも、ポーリング通信要求時
に画情報を読み出し転送するようにすることも、常識的技術にすぎないから(ポー
リング通信要求時に画情報を読み出し転送するようにする点は、例えば特開昭64
-82850号公報参照)、刊行物1における画情報蓄積メモリに蓄積された直後
に画情報を読み出し転送するものをポーリング通信要求時に画情報を読み出し転送
するものとすることは、当業者ならば格別思考することなく想到できる程度のもの
と認められる。
 次に(b)について検討する。
 訂正請求項2の発明が「該転送モードが設定されポーリング通信が要求されてい
ない時に前記受信部から画情報を受信すると受信した該画情報を前記画情報蓄積メ
モリに蓄積し、該転送モードが設定されポーリング通信が要求された時に前記画情
報蓄積メモリから該画情報を読み出す転送モード制御手段と、」と限定した点につ
いては、該転送モードが設定されポーリング通信が要求されている時は同時に画情
報の受信は通常できないと考えられることも考慮すると、転送モード制御手段の機
能は、訂正請求項2にも記載されている「画情報蓄積メモリ」について限定してい
る事項と内容的には異ならず、それを実行するために当然必要かつ自明の手段をそ
の機能を果たす独立した手段として限定したものと認められる。
 ところで、刊行物2に開示の技術は、複数のポーリング受信局が設定され得る
(設定は1のポーリング受信局でも構わないことは明らかである。)ことを前提
に、設定されたすべての受信局が受信し終わったら、蓄積した画像データを無効と
するようにして画像データを蓄積しているメモリの有効活用を図るものである。そ
して、蓄積した画像データを無効とする点についての具体的説明をみると、刊行物
2のものにおいては、ファイル管理テーブルなどのフラグをオフとしメモリ管理テ
ーブルのデータを00Hにリセットすることなどで行うことが説明されており、画
像メモリをクリアすることはしていないが、画像データを蓄積しているメモリの有
効活用を図るものである以上、不要となった画像データを蓄積しているメモリ部分
に新たな画像データを蓄積することを意図していることは明らかである。そして、
メモリに既に蓄積されているデータが不要となりそこに別のデータを蓄積する場合
に新たなデータを蓄積できるようにするために、フラグなどで制御するようにして
上書き蓄積可能とすることも、刊行物3に開示されているように既に蓄積されてい
るデータを消去して蓄積可能とするようにすることも慣用的手法にすぎず、これら
にはメモリの有効活用という点では代替性があってそのいずれを採用するかは単な
る設計事項にすぎないものと認められる。
 さらに、刊行物2に開示のものにおいては、ポーリング通信の受信局に全ページ
の画像データ送信が正常になされた場合にその受信局への送信が終了したとするも
のであるから、正常になされたか否かを判断する手段も具備しているべきことは明
らかである。
 したがって、刊行物2には、画情報蓄積メモリに蓄積された画情報が正常に送信
されたか否かを判断する手段と、該画情報蓄積メモリをクリアする手段とを具備
し、該画情報が正常に送信された時に該画情報蓄積メモリをクリアするようにする
という技術が示唆されているということができ、このような技術を刊行物1に記載
のものに適用することに格別困難性があるとは認められず、訂正請求項2の発明の
奏する作用効果も当業者の予測できる域を出ないものと認められるから、訂正請求
項2の発明は、刊行物1ないし刊行物3に記載された発明に基づいて当業者が容易
になし得たものと認められる。
 そうすると、訂正請求項2の発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を
受けることができないものである。
 原告は、刊行物2、3には、受信した画情報を蓄積する画情報蓄積メモリが一杯
になり新たに受信した情報を蓄積できなくなる点が開示されていない旨主張してい
る。この点刊行物2、3に記載されているものは確かに受信した画情報を蓄積対象
とするものではないが、刊行物2、3に記載されているものも画情報を蓄積する画
情報蓄積メモリが一杯になり新たな情報を蓄積できなくなることを回避するために
ポーリング送信が完了した画情報を無効化あるいは消去するようにしたものであ
り、このような着想は画信号を受信してそれをメモリに蓄積する形式のものに適用
できることは当業者には自明程度のことと認められ、しかも適用した結果当業者の
予測を越える格別の作用効果を生じるとも認められないから、上記主張は訂正請求
項2の発明が刊行物1、2、3に記載された発明から容易になし得るものでないと
いう主張の根拠としては採用できない。また、訂正請求項2の発明においては、使
用者は転送先でポーリング通信要求をして初めて画情報を取得できるようになり、
使用者が転送先に居ない時にも画情報が転送先に届くことによって画情報の秘密保
持ができなかったり画情報を紛失したりするおそれが完全になくなる旨主張してい
るが、このような作用効果は、ポーリング通信要求に応じて送信するものにおける
周知かつ自明の作用効果であって、転送モードを有するものとポーリング通信要求
に応じて送信するものとを組み合わせたときに初めて生ずる作用効果でないから、
この主張も、訂正請求項2の発明が刊行物1、2、3に記載された発明から容易に
なし得るものでないという主張の根拠としては採用できない。
 さらに、原告は、刊行物2、3のものは、画情報がポーリング送信されず画情報
の蓄積が多くなるとメモリが一杯となりそれ以上は蓄積できなくなるが、その状態
は利用者には事前に分かるから無駄な読み取り動作などがしなくて済むが、訂正請
求項2の発明においては、送信者にはメモリが一杯かどうかは分からず無駄な読み
取り動作などをするという課題があるのを、画情報が正常に転送されたときに画情
報蓄積メモリをクリアすることにより解決した点でいわゆる進歩性がある旨主張し
ている。しかしながら、訂正請求項2の発明においても、ポーリング送信されず画
情報の蓄積が多くなりメモリが一杯となってそれ以上は蓄積できなくなっている状
態は送信者には分からず、送信者が無駄な読み取り動作などを必ずしも回避できる
とは限らない反面、画情報が正常に転送されたときに画情報蓄積メモリをクリアす
るようにすれば送信者の無駄な読み取り動作などが減るであろうことは、メモリに
蓄積されている情報が用済みとなればその情報をクリアしそれが蓄積されていたと
ころに新たな情報を蓄積するようにしてメモリの効率的利用を図るという極めて常
識的な技術を採用したときの当業者ならば予測できる作用効果の域を出ないものと
認められるから、この主張も採用できない。
 (1)-3 訂正の適否についてのむすび
 したがって、訂正請求項2の発明は、特許出願の際独立して特許を受けることが
できないものであって、該訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する
第126条第4項の規定に適合しないものであるから、訂正請求項3の発明につい
て判断するまでもなく、訂正は、認められない。
 (2) 特許異議の申立てについて
 (2)-1 本件発明
 本件特許の請求項2ないし3に係る発明の要旨は、特許明細書の特許請求の範囲
の請求項2ないし3に記載された、前記2(本件発明(請求項2及び3に係る発
明)の要旨)の(訂正前)のとおりのものと認める。  
 (2)-2 引用刊行物記載の発明
 異議審が通知した取消理由に引用した刊行物1ないし刊行物3には、それぞれ上
記(1)-1に摘記したような記載がある。
 (2)-3 対比・判断
 請求項2の発明について
 請求項2の発明については、(1)で検討したように、この発明を限定した訂正請求
項2の発明が刊行物1ないし刊行物3に記載されている発明に基づいて当業者が容
易になし得たものと認められるから、請求項2の発明も刊行物1ないし刊行物3に
記載されている発明に基づいて当業者が容易になし得るものの範囲内にあることは
明らかである。
 請求項3の発明について
 請求項3の発明と刊行物1に記載されている発明を対比すると、両者は、「転送
モード設定部と、該転送モード設定時に画情報を受信すると該画情報を蓄積し、転
送時に該画情報を読み出される画情報蓄積メモリと、受信した画情報を前記画情報
蓄積メモリに蓄積するとともに、プリンタから自動的にプリントアウトされるよう
にしたことを特徴とするファクシミリ装置の画情報転送装置」という点で一致
し、(a)画情報を読み出し転送するのが、請求項3の発明はポーリング通信要求時で
あるのに対して、刊行物1記載の発明は画情報蓄積メモリに蓄積された直後である
点、(b)請求項3の発明が、プリントアウトモード設定部を具備し、該転送モード設
定時にプリントアウトモード設定部によりプリントアウトモードが設定された時
に、受信した画情報を前記画情報蓄積メモリに蓄積するとともに、プリンタから自
動的にプリントアウトされるようにしているのに対して、刊行物1記載の発明は、
プリントアウトモード設定部を具備せず、常時、受信した画情報を前記画情報蓄積
メモリに蓄積するとともに、プリンタから自動的にプリントアウトされるようにし
ている点、の2点で相違するということができる。
そこで、これらの相違点について検討する。
 (a)については、着信があったら着信画像データをすぐに転送するようにすること
も、ポーリング通信要求時に画情報を読み出し転送するようにすることも、常識的
技術にすぎないから(ポーリング通信要求時に画情報を読み出し転送するようにす
る点は、例えば特開昭64-82850号公報参照)、刊行物1における画情報蓄
積メモリに蓄積された直後に画情報を読み出し転送するものをポーリング通信要求
時に画情報を読み出し転送するものとすることは、当業者ならば格別思考すること
なく想到できる程度のものと認められる。
 次に(b)について検討する。
 受信した画情報をプリントアウトすることができるプリンタとその受信した画情
報を蓄積することができる画情報蓄積メモリを有し、画情報の受信時に即時に画情
報をプリントアウトするか画情報蓄積メモリに蓄積するかを選択できるスイッチ類
を有したファクシミリ装置や、受信者にとって不要な商品の広告などの情報が送信
されてきてそれがそのままプリントアウトされる無駄をなくすために、プリンタと
画情報蓄積メモリを有するファクシミリ装置において受信した画情報を直ちにプリ
ントアウトすることはせず一旦メモリに入れて蓄積するようにし、受信者は後にそ
の画情報の発信者などを見てその画情報をプリントするか否かを判断しプリントす
ると判断したものだけをプリントキーなどでプリントアウトできるようにしたファ
クシミリ装置は本件出願時点で周知である。また、メモリシステムにおいて、装置
の事故や故障あるいは停電などによる蓄積情報の損傷や消失をバックアップするた
めに蓄積の都度あるいは一定時間ごとにその情報をバックアップメモリに蓄積する
ようにするか出力紙にプリントアウトするようにすることも周知化している。
 これらの周知技術を考慮すると、画情報蓄積メモリとプリンタを有し、受信した
画情報を画情報蓄積メモリに蓄積するときはプリント紙の節約などに配慮してプリ
ンタでプリントしないようにしたファクシミリ装置において、装置の事故や故障あ
るいは停電などに対処するため画情報を受信してメモリに蓄積する都度それを出力
紙にプリントアウトするようにすることは、当業者ならば容易に推考できる程度の
ものと認められるから、刊行物1のものにおいて、プリントアウトするかしないか
を設定する手段を設けて、この手段により画情報を転送するときにプリントアウト
するかしないかを選択できるようにすること、すなわち、プリントアウトモード設
定部を具備し、該転送モード設定時にプリントアウトモード設定部によりプリント
アウトモードが設定された時に、受信した画情報を前記画情報蓄積メモリに蓄積す
るとともに、プリンタから自動的にプリントアウトされるようにすることは、当業
者の容易になし得るものの域を出ないものと認められる。
 そして、請求項3の発明の奏する作用効果も当業者の予測できる域を出ないもの
と認められるから、請求項3の発明は、刊行物1に記載された発明に当業者の周知
あるいは常識的技術を適用することにより当業者が容易になし得たものと認められ
る。 
 (2)-4 決定のむすび
 以上のとおり、特許明細書の請求項2ないし3に係る発明は、刊行物1ないし3
に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるか
ら、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
 したがって、本件請求項2ないし3に係る発明の特許は、特許法第113条第2
号に該当し、取り消されるべきものである。
第3 原告主張の決定取消事由
 1 取消事由1(相違点(a)の判断の誤り)
 (1) 訂正請求項2の発明と刊行物1に記載の発明との相違点の認定の誤り
 決定は、「(a) 訂正請求項2の発明が、ポーリング通信が要求されたか否かを判
断する手段を具備していて、画情報を読み出し転送するのがポーリング通信要求時
であるのに対して、刊行物1記載の発明はこのような手段を有しておらず画情報を
読み出し転送するのが、画情報蓄積メモリに蓄積された直後である点」において相
違すると認定している。したがって、この相違点が「ポーリング通信が要求された
か否かを判断する手段を具備」するか否かという点及び転送時が「ポーリング要求
時」か「画情報蓄積メモリに蓄積された直後」かという時間的な相違であるという
点と認定している。
 しかし、刊行物1に記載の発明は、その請求項に記載されているように「画情報
の受信終了後に前記自動ダイヤル手段により前記画信号受信手段の記憶内容を前記
電話回線に送出する」ものであり、刊行物1の2頁左下欄8行~10行において
も、「ステップ6の実行に引き続き、制御手段10は出力端子P3により自動ダイ
ヤル手段6を制御して、あらかじめ設定された電話番号をダイヤルする。」とあ
り、「転送元が」あらかじめ設定された転送先に「発呼し」、該転送先に画情報を
送出する「自動ダイヤル手段」を有していることは自明である。
 これに対して、本件特許公報3頁右欄28行~32行において「外出先のファク
シミリ装置からポーリングで送信依頼をすると、該画情報蓄積メモリに蓄積されて
いた画情報は自動的に読み出されて、該外出先のファクシミリ装置に届く。」と記
載されていることから、訂正請求項2の発明における「ポーリング」が、画像を送
信する側を自装置と考えると「相手装置(画像を受信する側)から発呼され、自装
置(画像を送信する側)から当該相手装置に画像を送信する通信手段」を有するこ
とは自明である。
 すなわち、決定は、訂正請求項2に記載の「ポーリング」に対応する刊行物1に
記載の発明の構成上の差異について認定しておらず、たとえ認定していたとして
も、訂正請求項2の発明は、刊行物1に記載の発明のような、転送元があらかじめ
設定された転送先に発呼し、該転送先に画情報を送出する「自動ダイヤル手段」を
有さず、また、ポーリングであることから「相手装置(画像を受信する側)から発
呼され、自装置(画像を送信する側)から当該相手装置に画像を送信する通信手
段」を有することを自明に導き出すことができるため、両者に明確な構成上の差異
を有するのに、この相違点を看過したものである。
 (2) 特開昭64-82850号公報に記載の発明の内容についての認定の誤り
 (2)-1 決定は、「ポーリング通信要求時に画情報を読み出し転送するようにす
ることも、常識的技術にすぎないから(ポーリング通信要求時に画情報を読み出し
転送するようにする点は、例えば特開昭64-82850号公報参照)」と認定し
ている。
 しかしながら、特開昭64-82850号公報の明細書では、全体においてポー
リングとは記載されていない。特開昭64-82850号公報に記載のものは、情
報受取人が電話により「転送先とするファクシミリ電話番号」を送ると、ファクシ
ミリ信号記録装置3bが情報をファクシミリ端末機2cに転送するものであり、し
たがって、転送元であるファクシミリ信号記録装置3bが発呼して、転送先ファク
シミリであるファクシミリ端末機2cに画情報を送出する発明についてのものであ
る。したがって、特開昭64-82850号公報に記載の発明は、「自装置から発
呼して所定の通信制御のあと、相手装置から送信させて自装置で受信」していると
いうことはできず、特開昭64-82850号公報にポーリングについての記載が
あるとはいえない。
 (2)-2 特開昭64-82850号公報に記載の発明は、情報受取人は別の場所
に居て適時、電話によってこのファクシミリ信号記録装置に記録保存された情報発
信人からの情報を自動転送させて入手可能にすることを目的とするものである。こ
れに対し、ポーリングとは、例えば、刊行物2の4頁左上欄2行~16行に「そし
て、オペレータがスキャナ1aに原稿をセットしてスタートキーをオンする
と・・・この後CPU1hがスキャナ1aを作動して原稿の画像を読み取り、この
画像データがCPU2eによって画像メモリ2cに記憶される(処理22)。」と
あるように、読み取り記憶保存された情報を自動転送させるものである。すなわ
ち、「読み取り記憶保存された情報」を自動転送させるというポーリングが解決し
ようとする課題と、「情報発信人からの情報」を自動転送させるという特開昭64
-82850号公報に記載の発明が解決しようとする課題とは異なる。
 したがって、特開昭64-82850号公報に記載された電話によってこのファ
クシミリ信号記録装置に記録保存された情報を自動送信する手段として、ポーリン
グは自明な手段ということはできず、特開昭64-82850号公報は、ポーリン
グによってファクシミリ画像を入手することについても示唆するものではない。
 (3) 訂正請求項2の発明と刊行物1に記載の発明との相違点についての認定判断
の誤り
 (3)-1 決定は、「(a)の点に関しては、訂正請求項2の発明のポーリング通信
が要求されたか否かを判断する手段を具備している点は、ポーリング通信要求時と
いう限定内容を実行するために当然必要かつ自明の手段を記載したものと認められ
る。」と認定している。
 前述のとおり、訂正請求項2の発明は、刊行物1に記載の発明と明確な構成上の
差異を有することは明らかであり、相違点を「ポーリング通信要求時」であると認
定したのは、刊行物1に記載の発明と訂正請求項2の発明との間の相違点の認定を
誤ったものである。この誤りに基づいて「(a)の点に関しては、訂正請求項2の発明
のポーリング通信が要求されたか否かを判断する手段を具備している点は、ポーリ
ング通信要求時という限定内容を実行するために当然必要かつ自明の手段を記載し
たものと認められる。」と認定した決定部分も、誤りである。
 (3)-2 決定は「刊行物1における画情報蓄積メモリに蓄積された直後に画情報
を読み出し転送するものをポーリング通信要求時に画情報を読み出し転送するもの
とすることは、当業者ならば格別思考することなく想到できる程度のものと認めら
れる。」と認定している。
 しかし、前述のとおり、刊行物1に記載の発明及び特開昭64-82850号公
報に記載の発明はポーリングに関する発明ではないため、これらを組み合わせるこ
とによってポーリングに関する発明である訂正請求項2の発明に想到することはで
きない。
 訂正請求項2の発明は、あらかじめ自分のファクシミリに登録しておいた以外の
外出先からでも、自分の外出先から自分のファクシミリ装置に届いている原稿情報
を見ることができる、という刊行物1に記載の発明では解決することができない効
果を有し、その作用効果も、刊行物1に記載の発明と異質なものであることから、
刊行物1に記載の発明の「自動ダイヤル手段」を「相手装置から発呼され、自装置
から当該相手装置に画像を送信する通信手段」に置換すること、すなわちポーリン
グに置換することの容易性は認められない。
 さらに、訂正請求項2の発明の特徴は、「外出先から該ファクシミリ装置に何が
届いているか知りたく思う場合」(本件特許公報2頁左欄15行~16行)に、例
えば、「会社や事務所等に残っている人が、受信した原稿情報を外出先のファクシ
ミリ装置に送るという行為をしなければならず、人手がかかる」(本件特許公報2
頁左欄24行~27行)等の問題があるのに対し、「本発明に関連するポーリング
機能を備えたファクシミリ装置の先行文献として、特開昭59-190777号公
報があり」(本件特許公報2頁左欄33行~35行)とあるように、ファクシミリ
装置のポーリング機能を前提として、「会社や事務所等に残っている人に依頼する
ことなく、また極めて能率良く、外出先から自分のファクシミリ装置に届いている
原稿情報を見ることができると共に、使い勝手を良好にしたファクシミリ装置の画
情報転送装置を提供する」(本件特許公報2頁左欄38行~43行)ことにある。
 したがって、訂正請求項2の発明は、刊行物1に記載の発明とは異なる課題を有
し、当該課題を解決するという異質な効果を有する。
 2 取消事由2(相違点(b)の判断の誤り)
 (1) 訂正請求項2の発明の内容の認定の誤り
 決定は、相違点(b)の検討において、「訂正請求項2の発明が「該転送モードが設
定されポーリング通信が要求されていない時に前記受信部から画情報を受信すると
受信した該画情報を前記画情報蓄積メモリに蓄積し、該転送モードが設定されポー
リング通信が要求された時に前記画情報蓄積メモリから該画情報を読み出す転送モ
ード制御手段と、」と限定している点については、該転送モードが設定されポーリ
ング通信が要求されている時は同時に画情報の受信は通常できないと考えられるこ
とも考慮すると、転送モード制御手段の機能は、訂正請求項2にも記載されている
「画情報蓄積メモリ」について限定している事項と内容的には異ならず、それを実
行するために当然必要かつ自明の手段をその機能を果たす独立した手段として限定
したものと認められる。」と認定している。
 しかし、前記記載における「受信した該画情報を前記画情報蓄積メモリに蓄積
し」の「蓄積し」は、通信状態によって影響されることはない。すなわち、本件特
許公報3頁左欄24行~26行に「そして、該画情報の受信が終了すると(ステッ
プS8が肯定)、画情報蓄積メモリ9に画情報を蓄積する動作は終了する」とある
ように、受信が終了すると、画情報を「蓄積する動作は終了」するが、当該画情報
は、受信終了後も画情報蓄積メモリに「蓄積」されていることは、前記記載から明
らかであり、当該記載により、画情報蓄積メモリに蓄積後、すぐに転送する刊行物
1に記載の発明との差異を明確にするものである。
 したがって、訂正請求項2の発明において限定した点について、「該転送モード
が設定されポーリング通信が要求されている時は同時に画情報の受信は通常できな
いと考えられることも考慮すると、転送モード制御手段の機能は、訂正請求項2に
も記載されている「画情報蓄積メモリ」について限定している事項と内容的には異
ならず、それを実行するために当然必要かつ自明の手段をその機能を果たす独立し
た手段として限定したものと認められる。」と認定したのは、「蓄積」を「蓄積す
る動作を行う」との誤った認定に基づくものである。
 (2) 訂正請求項2の発明の進歩性判断の誤り
 (2)-1 決定は、「したがって、刊行物2には、画情報蓄積メモリに蓄積された
画情報が正常に送信されたか否かを判断する手段と、該画情報蓄積メモリをクリア
する手段とを具備し、該画情報が正常に送信された時に該画情報蓄積メモリをクリ
アするようにするという技術が示唆されているということができ、このような技術
を刊行物1に記載のものに適用することに格別困難性があるとは認められず、本件
請求項2の発明の奏する作用効果も当業者の予測できる域を出ないものと認められ
るから、本件請求項2の発明は、刊行物1ないし刊行物3に記載された発明に基づ
いて当業者が容易になし得たものと認められる。」と認定している。
 しかし、訂正請求項2の発明は、「受信した該画情報を前記画情報蓄積メモリに
蓄積」し、更に「ポーリング通信が要求されたか否かを判断する手段」と、「前記
画情報蓄積メモリに蓄積された画情報が正常に転送されたか否かを判断する手段」
と、「該画情報蓄積メモリをクリアする手段」が一体的となり、本件特許公報5頁
右欄48行~6頁左欄1行の「請求項第2項の発明によれば、画情報の転送後、前
記画情報蓄積メモリは自動的にクリアされるので、該画情報蓄積メモリが一杯にな
って受信できなくなるという不具合がなくなる。」という作用効果を奏するもので
ある。これに対し、刊行物1に記載の発明は、着信があったら着信画像データをす
ぐに転送するものである。すなわち、訂正請求項2の発明は、着信後すぐに画情報
を転送するものではなく、ポーリング通信が要求されるまで、受信した該画情報を
前記画情報蓄積メモリに蓄積する場合があるので、着信後すぐに画情報を転送する
という刊行物1に記載の発明に、刊行物2及び刊行物3に記載の発明のように、メ
モリをクリアする構成要件を付加したとしても、訂正請求項2の発明が解決しよう
とする課題を解決することはできない。
 また、訂正請求項2の発明は受信した画情報により画情報蓄積メモリが一杯にな
って受信できなくなるという不具合を解消することを課題とするものであり、自己
によりスキャンして蓄積された画情報により画情報蓄積メモリが一杯になって受信
できなくなるという不具合を解消することを課題とする刊行物2及び刊行物3に記
載の発明とは異質なものである。すなわち、受信した画情報が画情報蓄積メモリに
蓄積されていることは、ファクシミリの送信者においても分からないのに対し、自
己によりスキャンして蓄積した画情報であれば、当該画情報が画情報蓄積メモリに
蓄積されていることは当然に知り得る。したがって、訂正請求項2の発明が解決し
ようとする課題は、刊行物2及び刊行物3に記載の発明が解決しようとする課題と
は異質なものであり、訂正請求項2の発明が奏する効果も、刊行物1ないし刊行物
3に記載の発明が奏する効果とは異質なもの若しくは特別顕著なものである。
 (2)-2 決定は、「このような着想は画信号を受信してそれをメモリに蓄積する
形式のものに適用できることは当業者には自明程度のことと認められ、しかも適用
した結果当業者の予測を越える格別の作用効果を生じるとも認められないから、上
記主張は訂正請求項2の発明が刊行物1、2、3に記載された発明から容易になし
得るものでないという主張の根拠としては採用できない。」と認定している。
 しかし、前述のとおり、訂正請求項2の発明は、着信後すぐに画情報を転送する
ものではなく、ポーリング通信が要求されるまで、受信した該画情報を前記画情報
蓄積メモリに蓄積する場合があるので、着信後すぐに画情報を転送するという刊行
物1に記載の発明に、刊行物2及び刊行物3に記載の発明のように、メモリをクリ
アする構成要件を付加したとしても、訂正請求項2の発明が解決しようとする課題
を解決することはできない。
 (2)-3 決定は、「このような作用効果は、ポーリング通信要求に応じて送信す
るものにおける周知かつ自明の作用効果であって、転送モードを有するものとポー
リング通信要求に応じて送信するものとを組み合わせたときに初めて生ずる作用効
果でないから、この主張も、訂正請求項2の発明が刊行物1、2、3に記載された
発明から容易になし得るものでないという主張の根拠としては採用できない。」と
認定している。
 しかし、訂正請求項2の発明は、「転送時」に転送先に誤って画情報が送信され
ることによって、秘密保持ができなかったり画情報を紛失したりするおそれがあ
る、という課題を解決するものである。これに対し、刊行物2又は刊行物3におけ
る従来のポーリング機能においては、転送することはできず上記課題は存在しな
い。また刊行物1に記載の発明では、上記課題を解決することができないことは明
らかである。したがって、訂正請求項2の発明は、出願時に解決することができな
かった新たな課題を解決するものであり、訂正請求項2の発明が、刊行物1、2、
3に記載の発明から容易になし得るものということはできない。
 (2)-4 決定は「しかしながら、請求項2の発明においても、ポーリング送信さ
れず画情報の蓄積が多くなりメモリが一杯となってそれ以上は蓄積できなくなって
いる状態は送信者には分からず、送信者が無駄な読み取り動作などを必ずしも回避
できるとは限らない」と認定している。
 しかし、訂正請求項2の発明は、「ポーリング送信されず画情報の蓄積が多くな
りメモリが一杯となってそれ以上は蓄積できなくなっている状態」を送信者に認知
させることを課題とするものではなく、画情報蓄積メモリをクリアすることによ
り、受信した画情報蓄積メモリが一杯になって受信できなくなるという不具合を防
止することを課題とする。これは、本件特許公報5頁右欄48行~6頁左欄2行に
記載する「請求項第2項の発明によれば、画情報の転送後、前記画情報蓄積メモリ
は自動的にクリアされるので、該画情報蓄積メモリが一杯になって受信できなくな
るという不具合がなくなる。この結果、大量の画情報を受信することができるとい
う効果がある。」という、訂正請求項2の発明により生じる作用効果からも明らか
である。
 さらに、決定は、「画情報が正常に転送されたときに画情報蓄積メモリをクリア
するようにすれば送信者の無駄な読み取り動作などが減るであろうことは、メモリ
に蓄積されている情報が用済みとなればその情報をクリアしそれが蓄積されていた
ところに新たな情報を蓄積するようにしてメモリの効率的利用を図るという極めて
常識的な技術を採用したときの当業者ならば予測できる作用効果の域を出ないもの
と認められる」と認定している。
 訂正請求項2において、「受信した該画情報を前記画情報蓄積メモリに蓄積」と
記載していることからも、画情報蓄積メモリをクリアすることにより、受信した画
情報蓄積メモリが一杯になって受信できなくなるという、本件出願時に解決されて
いない課題を解決するものであり、刊行物2及び刊行物3に記載の発明とは異質な
効果を有する。
 (2)-5 発明はその全体として特許性を判断すべきものであるところ、訂正請求
項2の発明は「画情報の転送後、前記画情報蓄積メモリは自動的にクリアされるの
で、該画情報蓄積メモリが一杯になって受信できなくなるという不具合がなくな
る。」という作用効果を有する。すなわち、画情報蓄積メモリが受信による画情報
により転送先のファクシミリが通話中である場合や指定した転送先に誤りがある場
合を心配する必要なくメモリもクリアすることができ、その結果その後も画情報を
受信することができる等、総じて良好な転送を実現する。この点、決定において
は、相違点を(a)及び(b)に分けて訂正請求項2の発明の容易推考性を判断してお
り、発明全体が奏する作用効果について判断されていない。当該効果は刊行物1な
いし刊行物3に記載の技術が奏する効果ではなく、ポーリング機能のみが有する効
果でもないから、これらの各々の技術に基づいて訂正請求項2の発明に容易に想到
するということはできない。
第4 決定取消事由に対する被告の反論
 1 取消事由1(相違点(a)の判断の誤り)に対して
 (1) 訂正請求項2では、ポーリングの構成について限定されていないから、(a)
の相違点の認定は「ポーリングについての構成上の相違の認定を欠いたもの」とい
う原告の主張は、その趣旨あるいはその根拠並びに何をどのように認定すべきであ
ったというのか明らかでない。
 ちなみに、決定では、訂正請求項2の発明と刊行物1に記載の発明との対比にお
いて、訂正請求項2で限定されている点は、一致点と相違点(a)、(b)のうちの訂正
請求項2について摘示した点で過不足なく網羅している。そして、決定は(a)の相違
点については、刊行物1のものは訂正請求項2で限定されているような手段を有せ
ず動作が異なると認定しているものであるから、(a)の相違点の認定に誤りはない。
 (2) 特開昭64-82850号公報は、常識的技術が記載されている文献の一例
として挙げたものである。
 特開昭64-82850号公報の明細書の発明の詳細な説明中の実施例欄の説明
をみると、情報受取人は、転送信号と共に、ポーリングにおいては必ずしも必要の
ない転送先の電話番号も送っているから、実施例のものはポーリングによって転送
するものではないと考えられるが、発明の詳細な説明中には「情報発信人から伝送
される情報は、情報発信人が指定したファクシミリ端末機により受信再現するのと
同時に、ファクシミリ信号としてファクシミリ信号記録装置に記録保存され、情報
受取人は別の場所に居て適時、電話によってこのファクシミリ信号記録装置に記録
保存された情報発信人からの情報を自動転送させて入手可能にしたから、汎用の電
話回線を利用するファクシミリ通信における情報の転送に人手を介することなくフ
ァクシミリ通信の利用をより便利にする」(3頁右上欄9行~19行)という記載
もあって、この記載によれば、特開昭64-82850号公報は、情報受取人は別
の場所に居て適時、電話によってこのファクシミリ信号記録装置に記録保存された
情報を自動送信させて入手可能にするということも開示している。そのような手段
としてのポーリングは、例えば、特開昭63-276359号公報(
甲第8号証)に、ポーリングについての説明があるほか、本件明細書において先行
技術文献として引用されている刊行物2の明細書中の従来技術の欄にも「近年、画
像データの蓄積、ポーリング(自動応答送信)、代行受信、画像データの転送およ
び時刻指定自動送信等の多様な機能が付加されたファクシミリ装置が実用化されて
いる。」と記載されていることからも分かるように、極めて周知の技術であるか
ら、特開昭64-82850号公報は、ポーリングによってファクシミリ画像を入
手することについても示唆しているということができる。
 2 取消事由2(相違点(b)の判断の誤り)に対して
 決定は、刊行物2の明細書中にも従来技術装置が有している機能として列挙され
ているように、ファクシミリ画像獲得手法としてポーリング(自動応答送信)、画
像データの転送あるいは時刻指定自動送信等が技術常識化していることを前提に、
訂正請求項2の発明は、刊行物1に記載の発明のうちの画像データを着信後すぐに
転送する点をポーリングに応じて転送するものに代えて、それに刊行物2、刊行物
3に記載の発明を適用することにより容易に発明をすることができたものというの
であって、刊行物1に記載の発明にそのまま刊行物2、刊行物3に記載の発明を適
用することにより容易に発明をすることができたものというのではない。
 また、原告は、訂正請求項2の発明は刊行物2、刊行物3に記載の発明とは異質
の課題を解決するものである旨主張しているが、これらは、蓄積した画情報のうち
ポーリングが完了し用済みとなった画情報は無効化あるいは消去するようにしてメ
モリの有効利用を図る、別のいい方をすれば、用済みとなった画情報をそのまま蓄
積された状態としておくことによりいったん蓄積メモリに画情報が満杯となったら
それ以後は全く新たな画情報が蓄積できなくなるということを避ける、という点で
殊更異質の課題を解決するものとはいえない。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(相違点(a)の判断の誤り)について
 (1) 原告は、決定が、訂正請求項2の発明と刊行物1に記載の発明との相違点と
して、「(a)訂正請求項2の発明が、ポーリング通信が要求されたか否かを判断する
手段を具備していて、画情報を読み出し転送するのがポーリング通信要求時である
のに対して、刊行物1記載の発明はこのような手段を有しておらず画情報を読み出
し転送するのが、画情報蓄積メモリに蓄積された直後である点」を認定した点につ
き、これを誤りであると主張する。
 原告は、その根拠として、決定が訂正請求項2に記載の「ポーリング」に対応す
る刊行物1に記載の発明の構成上の差異について認定しておらず、たとえ認定した
としても、両者が明確な構成上の差異を有することは明らかであると述べる。しか
しながら、決定は、訂正請求項2の発明ではポーリング通信が要求されたか否かを
判断する手段を具備しているのに対し、刊行物1に記載の発明ではこのような手段
を有していないとして、両発明の構成上の差異につき原告主張の点も含めて認定し
ていることは明らかである。決定に、原告主張の相違点の認定の誤りは存しない。
 (2) 原告は、決定が「ポーリング通信要求時に画情報を読み出し転送するように
することも、常識的技術にすぎないから(ポーリング通信要求時に画情報を読み出
し転送するようにする点は、例えば特開昭64-82850号公報参照)」と認定
した点につき、特開昭64-82850号公報にはポーリングについての記載がな
く、これを誤りであると主張する。
 本件特許公報(甲第2号証の1)には、「なお、本発明に関連するポーリング機
能を備えたファクシミリ装置の先行文献として特開昭59-190777号公報が
あり」(2頁左欄33行~35行)との記載があることが認められ、この特開昭5
9-190777号公報(甲第4号証)には、「[従来技術]近年、画像データの
蓄積、ポーリング(自動応答送信)・・・等の多様な機能が付加されたファクシミ
リ装置が実用化されている。このファクシミリ装置では、蓄積機能とポーリング機
能とを組合せ、1つの画像情報を複数の局がポーリング受信するという新しい通信
形態・・・が可能になっている。」(1頁右下欄4行~13行)との記載があるこ
とが認められる。また、特開昭63-276359号公報(甲第8号証)にも、フ
ァクシミリ装置の従来の技術について「「ポーリング」は自装置から発呼して所定
の通信制御のあと、相手装置から送信させて自装置で受信する通信」(2頁右上欄
12行~14行)との記載のあることが認められる。
 これらの記載によれば、画像情報をポーリング受信することは広く知られていた
ということができ、そうすると、原告主張のように特開昭64-82850号公報
にポーリングについての記載がないとしても、「ポーリング通信要求時に画情報を
読み出し転送するようにすることも、常識的技術にすぎない」とした決定の認定に
誤りはない。
 (3) 原告は、決定が「(a)の点に関しては、訂正請求項2の発明のポーリング通
信が要求されたか否かを判断する手段を具備している点は、ポーリング通信要求時
という限定内容を実行するために当然必要かつ自明の手段を記載したものと認めら
れる。」と認定した点につき、決定の相違点の認定の誤りを前提とし、上記認定も
誤りであると主張するが、前判示のとおり、決定がした相違点(a)の認定に、原告主
張の誤りがない以上、これに基づく原告の主張も理由がない。
 原告は、自分のファクシミリに登録しておいた以外の外出先からでも自分のファ
クシミリ装置に届いている原稿情報を見ることができることなどの効果を主張する
が、ポーリング通信要求時に画情報を読み出し転送することが常識的技術であると
の決定の認定に誤りがないことは上記のとおりであり、原告主張の効果は、刊行物
1記載の発明の効果とこのような常識的技術による効果との総和にすぎず、格別の
効果ではないと認められ、原告の主張は理由がない。
 2 取消事由2(相違点(b)の判断の誤り)について
 (1) 原告は、訂正請求項2の発明は受信した画情報により画情報蓄積メモリが一
杯になって受信できなくなるという不具合を解消することを課題とするものであ
り、スキャンして蓄積された画情報により画情報蓄積メモリが一杯になって受信で
きなくなるという不具合を解消することを課題とする刊行物2及び刊行物3に記載
の発明とは異質なものであると主張する。
 そこで刊行物2及び刊行物3の記載についてみるに、刊行物2(甲第4号証)に
は、「従来、このファクシミリ装置と複ポーリング受信を行なう全ての受信局が画
像データを受信した後でも、この画像データを保持していたため蓄積機能を用いた
他の通信形態が実行不能になり、メモリを有効活用できないという問題を生じてい
た。・・・本発明は、上記した問題を解決し、ポーリング通信を所定回数行なった
後に蓄積した画像データを無効にすることでメモリを有効活用できるファクシミリ
装置を提供することを目的とする。」(1頁右下欄14行~2頁左上欄4行)との
記載があり、刊行物3(甲第5号証)には「従来の蓄積機能付きファクシミリ装置
においては・・・決められた時間を過ぎてポーリング受信に来たために、原稿がな
くてポーリング送信ができなかったり・・・決められた時間が経過するまで原稿を
蓄積し続けなければならないという問題があった。・・・本発明は・・・その目的
とするところは・・・上述の如き問題を解消し、蓄積した原稿をタイミング良く消
去するようにして、原稿を蓄積するためのメモリを効率よく使用可能とするマルチ
ポーリング送信方式を提供することにある。」(1頁右下欄5行~2頁左上欄11
行)との記載があることが認められる。
 これらによれば、刊行物2に記載の発明は、画像データの保持が通信に及ぼす影
響を問題とし、メモリを有効活用することを目的としていること、刊行物3に記載
の発明も、原稿の蓄積により生ずる問題に対し、原稿をタイミング良く消去し、メ
モリを効率よく使用可能とすることを目的としていることが明らかであり、画情報
蓄積メモリが一杯になって通信に生ずる不具合を解消する訂正請求項2の発明と対
比して、課題が異質であるということはできない。
 (2) 原告は、訂正請求項2の発明は、「転送時」に転送先に誤って画情報が送信
されることによって秘密保持ができなかったり画情報を紛失したりするおそれがあ
るという課題を解決するものであり、新たな課題を解決するものであると主張す
る。しかしながら、誤って画情報が送信されることによって秘密保持ができなかっ
たり画情報を紛失したりするおそれがあるという点はポーリングによって生ずる当
然の技術的課題であり、また、この技術的課題が転送の際に生じるものであること
は刊行物1に示されているところから当然に導かれるところである。原告の主張は
理由がない。
 (3) 原告は、訂正請求項2の発明は、受信した画情報蓄積メモリが一杯になって
受信できなくなるという本件出願時に解決されていない課題を解決するものであ
り、刊行物2及び刊行物3に記載の発明とは異質な効果を有すると主張する。しか
しながら、画像データを保持していたため蓄積機能を用いた他の通信形態が実行不
能になり、メモリを有効活用できないという問題については刊行物2に示されてお
り(上記(1))、蓄積した原稿をタイミング良く消去するようにして、原稿を蓄積す
るためのメモリを効率よく使用可能とすることは刊行物3に示されていることも上
記(1)のとおりである。原告主張の効果は、このようにメモリを有効活用ないし効率
的に使用することによって奏する効果にすぎない。
 原告主張のその余の点をもってしても、訂正請求項2の発明が、新たな格別の効
果を奏するものと認めることはできない。
 (4) なお、原告は、訂正請求項2の発明では、画情報は受信終了後も画情報蓄積
メモリに「蓄積」されていて、これは、画情報蓄積メモリに蓄積後すぐに転送する
刊行物1に記載の発明との差異を明確にするものであるとし、決定はこの点に関し
「蓄積」を「蓄積する動作を行う」として誤った認定をしていると主張するが、決
定が原告主張のような認定をしているものと認めることはできない。決定に、原告
主張の誤りはない。
第6 結論
 以上のとおり、原告主張の決定取消事由は理由がないので、原告の請求は棄却さ
れるべきである。
(平成14年4月23日口頭弁論終結)
 東京高等裁判所第18民事部
         裁判長裁判官   永   井   紀   昭
            裁判官   塩   月   秀   平
            裁判官   田   中   昌   利

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛