弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
       事実及び理由
第一 請求
一 被告は、別紙目録記載の製品(被告製品)を製造し、販売してはならない。
二 被告は、被告製品を廃棄せよ。
三(主位的請求)
 被告は、原告に対し、一億七一〇〇万円及びうち一五〇〇万円に対する昭和五八
年一二月二二日から、うち一億五六〇〇万円に対する原告昭和六三年一二月七日付
請求の趣旨ならびに原因変更申立書送達の日の翌日から各支払済みに至るまで年五
分の割合による金員を支払え。
(予備的請求)
 被告は、原告に対し、七九〇〇万円及びこれに対する原告平成元年一月二五日付
準備書面(第二二回)送達の日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による
金員を支払え。
第二 事案の概要
 本件は、原告において、発明の名称を「無限摺動用ボールスプライン軸受」とす
る特許第九九九一三九号の特許権(本件特許権)に基づき、被告に対し、被告製品
の製造販売行為の差止め、被告製品の廃棄及び損害賠償(予備的に不当利得の返
還)を請求している事案である。
一 争いのない事実
 原告は、本件特許権を有していること。
 本件発明の特許出願の願書に添付した明細書(本件明細書)の特許請求の範囲の
記載は、本判決添付の特許公報(本件公報)の該当項記載のとおりであること。
二 争点
 被告は、遅くとも昭和五八年一月ころから、業として、別紙訂正目録によって特
定される被告製品(商品名「ツバキ精密ボールスプラインSPG型」)を製造販売
していることが認められる(甲六、甲七、検甲一の一(ツバキ精密ボールスプライ
ンSPG型三〇AU)、検甲一の二(右に挿入するスプラインシャフト)、検甲二
(SPG型三AUの外筒)、検甲三の一(SPG型三〇AUの保持器の中央部材三
個)、検甲三の二(右の端部材二個)、検甲四(SPG型三〇AUの保持器を接着
剤で組み立てたもの)、検甲五(SPG型三〇AUを横断方向に切断したもの)、
検甲六(SPG型三〇AUを縦方向に切断したもの)、検乙一(被告製品におい
て、ボールが一八〇度方向変換する部分における外筒の円筒状部分を取り除いたも
の)、検乙二(被告製品(SPG三〇型、スプライン軸を含む。)において、外筒
の一端部の円筒状部分を取り除いたもの。ただし、リターンキャップを固定するた
め、リング状部材とねじ三本を用いている。)及び弁論の全趣旨)ので、本件の中
心的な争点は、次のとおりである。
1 被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか否か。
(一) ボール案内溝の溝形状について
 被告製品の外筒1(番号は、別紙訂正目録記載のものを示す。被告製品につき以
下同じ。)は、円筒内壁に断面半円状のトルク伝達用負荷ボール案内溝6と、該溝
よりもやや深い無負荷ボール案内溝5を負荷、負荷、無負荷、無負荷、負荷、負荷
……の配列で軸方向に形成した構造であるが、これは、本件発明の「円筒内壁に断
面U字状のトルク伝達用負荷ボール案内溝と、該溝よりもやヽ深いトルク伝達用無
負荷ボール案内溝を軸心方向に交互に形成し」との構成を具備するか否か。
 この点に関する当事者の主張は、次のとおりである。
(1) 原告
 本件発明は、外筒のトルク伝達用負荷ボール案内溝内にある二条の負荷ボールに
よって形成される凹部間にこれと一致すべきスプラインシャフトの突出部を嵌入せ
しめ、該スプラインシャフトの突出部の両側に負荷ボールが左右から挟み込まれる
ような配置にした構造(アンギュラコンタクト構造)を採用したものであるとこ
ろ、アンギュラコンタクト型軸受においては、トルク伝達用負荷ボール案内溝の溝
側壁とスプラインシャフトの突出部の両側面との間に負荷ボールを挟持する必要が
あり、かつ、その溝側壁がトルク伝達に関して重要な役割を果たしているので、こ
のようなトルク伝達用負荷ボール案内溝の溝側壁の重要性を明確にするとともに、
右溝側壁だけでは凹みとしてのトルク伝達用負荷ボール案内溝を完成することがで
きないという意味で、その溝形状について、「断面U字状」との表現をした。そし
て、トルク伝達用負荷ボール案内溝とトルク伝達用無負荷ボール案内溝を交互に配
置し、分岐帯頂壁を隔てて隣り合う負荷ボール列と無負荷ボール列間において、外
筒の円周方向に循環することができるボール循環経路を形成しているので、トルク
伝達用負荷ボール案内溝とトルク伝達用無負荷ボール案内溝の溝形状を比較的近い
形状にした方が設計、加工の上で容易であることから、トルク伝達用無負荷ボール
案内溝の溝形状についても、同様に「断面U字状」との表現をした。したがって、
本件発明において、「断面U字状」のボール案内溝のうち重要視されるべき箇所
は、あくまでもその溝側壁であって、その他スプラインシャフトの突出部の頂端と
対応する溝底、特に溝底中央部は、さほど重要な意味を持っていないから、これ
が、平坦面で形成されていも、又は隆起部あるいは突出部で形成されていても、本
件発明にいう「断面U字状」のボール案内溝を観念することができるものである。
これに対して、被告製品は、本件発明と同様にアンギュラコンタクト構造を採用し
たものであり、一対のトルク伝達用負荷ボール案内溝6の両側の溝側壁がトルク伝
達に関して重要な役割を果たしていて、一対のボール案内溝間の突堤は、トルク伝
達には何ら関係していないから、一対のボール案内溝は、中央の突堤を取り除いて
も、機能上何ら差支えなく、本件発明にいう「断面U字状」のボール案内溝と同一
のものということができる。また、被告製品の外筒1において、仮に、一対のトル
ク伝達用負荷ボール案内溝6間の突堤がボール3の保持機能を、また、一対の無負
荷ボール案内溝5間の突堤が保持器11の位置決め機能をそれぞれ有しているとし
ても、一対のトルク伝達用負荷ボール案内溝6間の突堤は、ボール3の保持機能の
点からみれば、外筒1側に一体として結合していなければならないとする必然性は
なく、これを外筒1と分離して観察するならば、一対の右ボール案内溝は、実質的
に、本件発明にいう「断面U字状」のボール案内溝と同一のものということができ
るし、一対の無負荷ボール案内溝5間の突堤は、保持器11の位置決め機能の点か
らみれば、右突堤の両端部のみが実際に保持器11の位置決めを行っているのであ
るから、その余の部分は全く不要であり、右不要な部分を削除するならば、一対の
右ボール案内溝は、実質的に、本件発明にいう「断面U字状」のボール案内溝と変
わりがない。
(2) 被告
 被告製品は、トルク伝達用負荷ボール案内溝6と無負荷ボール案内溝5の溝形状
が断面半円状であるから、本件発明の「断面U字状」との構成を具備しない。しか
も、被告製品の外筒1においては、削る必要のない部分を削らず、その結果残った
一対のトルク伝達用負荷ボール案内溝6間の突堤にはボール3の保持機能を、ま
た、一対の無負荷ボール案内溝5間の突堤には保持器11の外筒1に対する位置決
め機能をそれぞれ積極的に持たせたものであるから、被告製品の一対のボール案内
溝は、本件発明の「断面U字状」の溝とは実質的にも相違するものである。
(二) 円周方向溝について
 被告製品は、外筒1の両端部に無負荷ボール案内溝5よりやや深い円筒状部分7
を形成した構造であるが、これは、本件発明の「その両端部に前記深溝と同一深さ
の円周方向溝を形成した」との構成を具備するか否か。
 この点に関する当事者の主張は、次のとおりである。
(1) 原告
 本件発明の「円周方向溝」は、トルク伝達用負荷ボール案内溝とトルク伝達用無
負荷ボール案内溝との相互間で、ボールをスムーズに方向変換させるため、外筒の
両ボール案内溝の両端部に形成されるものであるが、これは、平坦な路面であっ
て、それ自体ではボールを方向変換させることができず、この平坦な路面上に、環
状(半円弧状)に湾曲した断面半円状の環状溝を形成した保持器を載せ、ボールを
ガイドすることによって、その方向変換を行っている。つまり、本件発明の「円周
方向溝」は、外筒のボール案内溝の両端部において、分岐帯頂壁(とトルク伝達用
負荷ボール案内溝)を外筒の円周方向に沿って削り取った部分、すなわち、切通し
であれば足りるものであり、それ自体でボールの移動方向を決定するものであるこ
とを要しない。そして、このような「円周方向溝」は、トルク伝達用負荷ボール案
内溝の入口及び出口部分を構成するが、右出口部分において、ボールは負荷状態か
ら無負荷状態になるから、円柱状のシャフトの外周面からボールを引き離す(これ
により、ボールが負荷状態から無負荷状態になる。)ため、「円周方向溝」の深さ
は、必然的に、トルク伝達用負荷ボール案内溝よりもやや深いことが必要になるけ
れども、外筒の外径をなるべく小さくし、かつ、ボールをトルク伝達用負荷ボール
案内溝、円周方向溝及びトルク伝達用無負荷ボール案内溝間でスムーズに移行する
ためには、トルク伝達用無負荷ボール案内溝と「円周方向溝」との深さを一致させ
ることが合理的であるので、本件発明においては、「円周方向溝」をトルク伝達用
無負荷ボール案内溝と「同一深さ」に設定したのである。しかしながら、右の「同
一深さ」とは、トルク伝達用無負荷ボール案内溝と「円周方向溝」との間に、意図
的に段差を設けることを排して、製造上発生する段差をできるだけ小さな範囲にと
どめるということを意味するのであって、完全に同一ないし物理的に同一であるこ
とを意味するものではない。すなわち、負荷ボールが介在するトルク伝達用負荷ボ
ール案内溝内においては、負荷ボールを挟圧するシャフトと溝底との隙間がミクロ
ンオーダーの厳格な精度が要求されるけれども、方向変換路及びトルク伝達用無負
荷ボール案内溝の部分においては、ボールは経路との関係で緩く運動しているの
で、両溝の間に多少の段差があっても差支えないのである。これに対して、被告製
品の円筒状部分7は、外筒1のボール案内溝の両端部において、ボールを分岐帯頂
壁を乗り越えることなく通過させるために、外筒1の円周方向に沿って形成した切
通しであり、このような円筒状部分7の上に、方向変換路を形成した保持器11及
びリターンキャップ31を載せて、ボール3の方向変換を行っているのであるか
ら、この点において、本件発明と全く同じものである。結局、本件発明の「円周方
向溝」と被告製品の円筒状部分7との相違は、平坦な路面上に断面半円状の方向変
換路を設けたか、路面をやや低く形成して、下部に切欠きを有する(あるいは下部
をも覆った)パイプ状の方向変換路を設けたかの点にあるというにとどまるとこ
ろ、このような相違は、設計上の微差にすぎない。そして、被告製品には、無負荷
ボール案内溝5と円筒状部分7との間に約五〇ミクロンの段差があるが、この程度
の僅少な段差は、外筒1の外径をなるべく小さくし、かつ、ボール3をトルク伝達
用負荷ボール案内溝6、円筒状部分7及び無負荷ボール案内溝5間でスムーズに移
行するという点からみても、無視することができるものであって、被告が被告製品
を製造する際の加工の誤差又は加工の都合上生じたものにすぎない(被告製品のリ
ターンキャップのボール変更溝32は、約五〇ミクロンの段差部分において、円筒
状部分7に対して半円形に開口していて、事実上、右部分にはリターンキャップ3
1のどの部分も嵌合されていないのであり、円筒状部分7は、リターンキャップ3
1を固定する機能を果たしていないから、右約五〇ミクロンの段差は、リターンキ
ャップ31を嵌合するために必要なものではない。)。したがって、被告製品の右
約五〇ミクロンの段差は、本件発明の「同一深さ」の範囲に含まれる。
(2) 被告
 被告製品は、外筒1の両端部に無負荷ボール案内溝5より約五〇ミクロン深い深
さの円筒状部分7を形成しているのであるから、本件発明の「その両端部に前記深
溝と同一深さの円周方向溝を形成した」との構成を具備しない。本件発明におけ
る、外筒の両端部にトルク伝達用無負荷ボール案内溝と「同一深さの円周方向溝を
形成した」との構成は、とりもなおさず、「円周方向溝」がボールの方向変換路の
一部を構成し(本件発明において、円周方向溝がないと、ボールが方向変換するこ
とができず、脱落してしまう。)、このような円周方向溝とトルク伝達用無負荷ボ
ール案内溝との間において、ボールが円滑に移動することができるよう、両者間に
段差がないようにしたことを意味する。これに対して、被告製品は、円筒状部分7
を方向変換路の構成要素とはしないで、保持器のポール変更溝12とリターンキャ
ップのボール変更溝32とで方向変換路を形成しているものであり、円筒状部分7
は、ボール3の方向変換とは関係がなく(被告製品において、右円筒状部分7を切
除しても、ボール3の方向変換に何らの支障もない。)、単にリターンキャップ3
1を固定する機能を果たしているにすぎない。そして、被告製品の右約五〇ミクロ
ンの段差は、外筒1の外径を規定したうえ、保持器11との問で正しくボール3の
方向変換路が形成されるように各部の寸法を規定すべきリターンキャップ31の嵌
め合いを考慮して、円筒状部分7の肉厚を設定した結果、出てたきたものである
が、右円筒状部分7はボール3の方向変換とは関係がないのであるから、右段差
は、ボールスプラインとしての機能からみれば、いかに大きくても何ら差支えない
のである。
(三) 薄肉部について
 被告製品の外筒1の一対のトルク伝達用負荷ボール案内溝6間の突堤とリターン
キャップ31の一部(突堤を軸方向に延長した部分)は、本件発明にいう「薄肉
部」に該当するか否か。
 この点に関する当事者の主張は、次のとおりである。
1 原告
 本件発明の「保持器」は、ボール循環案内とボール保持の機能を有する部材を総
称するものであるところ、本件明細書の発明の詳細な説明の項には、その実施例と
して、「保持器は中空筒体にして」(本件公報二頁3欄八行)との記載があるが、
その特許請求の範囲の項には、保持器を中空筒体からなる一体の構成に限定するよ
うな記載はないから、分離可能な部材からなる構成のものも含まれる。そして、被
告製品においては、外筒1に組み込んだ三個の保持器11、左右一対のリターンキ
ャップ31及び外筒1の一対のトルク伝達用負荷ボール案内溝6間の突堤は、互い
に分離不可能に密接した一体のものとして、ボール3の循環案内とボール3の保持
機能を果たしているから、これらは、いずれも本件発明にいう「保持器」を構成す
る部材であるということができる。そして、本件発明の「薄肉部」は、スプライン
シャフトを嵌挿した組立状態では、ボールと接触せず、何の役割も果たしていない
から、その限りにおいては、存在する必要さえなく、「薄肉部」は、結局のとこ
ろ、スプラインシャフトを取り除いた状態において、ボールが脱落するのを防止す
る役割を果たすだけのものである。そして、被告製品において、一対のトルク伝達
用負荷ボール案内溝6間の突堤は、スプラインシャフト9を嵌挿した組立状態で
は、ボール3と接触せず、スプラインシャフト9を取り除いた状態において、三個
の保持器11との間で、ボール3が脱落するのを防止しているものであり、ボール
保持のための有効部分において、断面形状も寸法も本件発明の「薄肉部」と同じも
のが存在している。結局、本件発明の「薄肉部」と被告製品の一対のトルク伝達用
負荷ボール案内溝6間の突堤は、同一の機能を有するものであり、両者の相違は、
ボール保持機能を果たすための特定の部材を、保持器側に取り付けたか、外筒側
(トルク伝達用負荷ボール案内溝側)に取り付たかの点にあるというにとどまり、
このような取付手段の変更は、当業者が適宜なし得るところであって、単なる設計
変更にすぎない。したがって、被告製品の一対のトルク伝達用負荷ボール案内溝6
間の突堤とリターンキャップ31の一部(突堤を軸方向に延長した部分)は、本件
発明の「薄肉部」に該当する。
(2) 被告
 被告製品の保持器11及びリターンキャップ31には、本件発明の「薄肉部」に
該当する部材がない。原告の右主張によれば、本件発明の「保持器」の構成のう
ち、「薄肉部」を外筒1の一対のトルク伝達用負荷ボール案内溝6間の突堤に置き
換え、かつ、無負荷ボール案内溝5の両端の部分を別体のリターンキャップ31に
したものが、被告製品の保持器であるということになるが、被告製品の保持器がこ
のような構造のものでないことは、別紙訂正目録の記載からみて明らかである。
2 被告製品は、本件発明と均等であるか否か。
 この点に関して、原告は、仮に被告製品のトルク伝達用負荷ボール案内溝6間の
突堤が本件発明の「薄肉部」に該当しないとしても、「薄肉部」と右突堤とは、同
一の機能(ボール保持)を有するものであり、両者の相違は、ボール保持機能を果
たすための特定の部材を、保持器側に取り付けたか、外筒側(トルク伝達用負荷ボ
ール案内溝側)に取り付けたかの点にあるというにとどまり、このように取付手段
を置き換えても、その作用効果は、本件発明の作用効果と異なるところはないか
ら、両者は置換可能であり、かつ、右取付手段の置換は、ボール保持の手段に関す
る従来技術に鑑みれば、本件発明の特許出願当時、当業者において容易に想到する
ことができたものであって、両者は置換容易であり、したがって、被告製品は、本
件発明と均等である旨主張し、これに対して、被告は、「薄肉部」の構成を右従来
技術と置き換えたとしても、これによって、被告製品と同一の技術を得られるもの
ではなく、また、「薄肉部」を被告製品のように一対のトルク伝達用負荷ボール案
内溝6間の突堤に置き換えることが、本件発明の特許出願当時、当業者にとって自
明のものであったということもできない旨主張している。
第三 争点についての判断
一 争点1について
1 甲一(本件公報)によれば、(一)本件発明は、軸方向の運動を支持するばか
りでなく、トルク伝達の回転運動を、単独又は軸方向の運動と複合して使用するこ
とができる無限摺動用ボールスプライン軸受に関するものである、(二)従来の無
限摺動用ボールスプライン軸受においては、(1)トルク伝達用無負荷ボールを外
側へ逃がしつつ循環させているため、動力を伝達するのに必要な軸径に比して、軸
受外径が著しく大きくなり、不経済であって、コスト高の要因の一つにもなってお
り、(2)また、正逆回転とも大トルクを伝達しようとするためには、スプライン
シャフト及び外筒ともV字形状を溝に形成するため、スプラインシャフトの外径
は、必然的に大きくなり、機械等に組み込む場合難しくなる、(3)そのため、外
筒のスプラインシャフトとの間には保持器等のようなものを介在させる余裕は全く
なくなり、製品の取扱いにおいて、スプラインシャフトを取り除いたときに、ボー
ルが脱落するおそれが十分あった、(4)更に、従来のボールスプラインにおい
て、高速回転させながらボールを軸方向に移動させる場合、負荷ボール列と無負荷
ボール列との軸心からの距離の差が大きくなればなるほど、ボールのスムーズな循
環運動が限害され、円滑な直線運動を得ることができない欠点を有する、(三)本
件発明は、右(二)の欠点を改良すること、すなわち、無限摺動用スプラインシャ
フトであって、許容伝達トルクを減少することなく、軸径寸法に比して、軸受外径
寸法を極端に小さくすることを可能にし、かつ、スプラインシャフトを取り除いた
場合でもボールの脱落を完全に防止することができるようにすることを目的とし
て、本件明細書の特許請求の範囲のとおりの構成を採用し、所期の目的を達成した
ものである、(四)本件発明は、これにより、(1)スプラインシャフトあるいは
外筒が軸方向に回転しながら移動すると、外筒と保持器内のボール、すなわち、ト
ルク伝達用負荷ボールは、保持器の長孔より露出し、スプラインシャフトの台形突
部の斜面部と外筒のU字状のトルク伝達用負荷ボール案内溝との間に完全なころが
り接触をしながら走行し、その接触角は、トルクの伝達方法に近く、そして、アン
ギュラコンタクトタイプの軸受がスラスト荷重が受けられるのと同様に、トルク方
向の荷重を確実に受け、しかも、トルク伝達用負荷ボールがスプラインシャフトの
突出部をそれぞれ左右から挟み込むように配設されているために、アンギュララッ
シュを零にすることができ、また、プリロードをかけることもできるので、ボール
スプラインの寿命を増大することができ、かつ、スプラインシャフトの回転方向に
おいて、三箇所が有効に働き、ボールの負荷能力を最大限生かすことができる、
(2)トルク伝達用無負荷ボール案内溝は、トルク伝達用負荷ボール案内溝よりも
わずか深めのU字溝を必要とするだけであるから、軸径に対する軸受外径を極端に
小さくすることができる、(3)スプラインシャフト製作時にも、スプライン軸受
との合わせ加工が極めて容易にできるので、高精度のスプラインを得ることがで
き、かつ、機械への取付時あるいはオーバーホール時においても、その取扱いに格
別労を要しない等の作用効果を奏する、以上の事実が認められる。
2 そこで、右事実に基づき、争点1について検討する。
(一) ボール案内溝の溝形状について
 本件明細書の特許請求の範囲の項の記載によれば、本件発明にいう「断面U字
状」とは、文宇どおり、トルク伝達用負荷ボール案内溝及びトルク伝達用無負荷ボ
ール案内溝の溝形状が断面U字状であることを意味するものと認められるところ、
本件明細書上右認定に反する記載は存しない(甲一)。これに対して、被告製品を
示すものであることが認められる別紙訂正目録の記載によれば、被告製品の外筒1
は、円筒内壁に断面半円状のトルク伝達用負荷ボール案内溝6と、該溝よりもやや
深い無負荷ボール案内溝5を負荷、負荷、無負荷、無負荷、負荷、負荷……の配列
で軸方向に形成したものであるから、右各ボール案内溝について、二列を一対のボ
ール案内溝として観察したとしても、それぞれ二列の断面半円状の各ボール案内溝
が勢向に交互に形成されているというにとどまり、右二列の断面半円状の各ボール
案内溝が、本件発明にいう「断面U字状」の各ボール案内溝に該当しないことは明
らかである。したがって、被告製品の外筒1は、本件発明の「円筒内壁に断面U字
状のトルク伝達用負荷ボ一ル案内溝と、該溝よりもや、深いトルク伝達用無負荷ボ
ール案内溝を軸心方向に交互に形成し」との構成を具備しない。
 この点について、原告は、本件発明において、「断面U字状」のボール案内溝の
うち重要視されるべき箇所は、あくまでもその溝側壁であって、その他スプライン
シャフトの突出部の頂端と対応する溝底、特に溝底中央部は、さほど重要な意味を
持っていないから、これが、平坦面で形成されていても、又は隆起部あるいは突出
部で形成されていても、本件発明にいう「断面U字状」のボール案内溝を観念する
ことができる旨主張する。そこで、審案するに、本件明細書の特許請求の範囲の項
の記載は、前示第二、一のとおりであるところ、本件明細書の発明の詳細な説明の
項には、「スプラインシャフトを取り除いた場合でもボールの脱落は完全に防止さ
れるようにしたものである。」(本件公報一頁2欄二五行ないし二七行)、「トル
ク伝達用無負荷ボールとトルク伝達用負荷ボールを案内する保持器は中空筒体にし
て、前記外筒内壁に形成したトルク伝達用無負荷ボール案内溝5とトルク伝達用負
荷ボール案内溝6に一致するように厚肉部11と薄肉部12を形成すると共に該厚
肉部11に複数のトルク伝達用無負荷ボール溝15、15を形成し、該厚肉部11
と薄肉部12との両境界部のトルク伝達用負荷ボール案内溝6にはそれぞれトルク
伝達用負荷ボールが脱落しない程度の即ちボール径寸法よりもやゝ幅の狭い長孔1
3を貫通せしめて形成し、さらに厚肉部11と薄肉12との境界部から厚肉部11
ヘボールの移動可能ならしむるべく環状溝16を形成し、保持器に複数個の無限軌
道溝を形成することになる。」(同二頁3欄七行ないし二一行)、「外筒1のトル
ク伝達用無負荷ボール案内溝5と、トルク伝達用負荷ボール案内溝6と一致するよ
うに嵌挿する保持器の隔壁を介して複数個形成したトルク伝達用無負荷ボール溝と
トルク伝達用負荷ボール溝間に多数のボールを充填し、」(同欄二二行ないし二六
行)、「同一のボールが外筒の案内溝と、保持器の無限軌道溝内を循環しているこ
とは勿論である。」(同頁4欄二九行ないし三一行)との記載があることが認めら
れ(甲一)、右本件明細書の特許請求の範囲の項及び発明の詳細な説明の項の各記
載を合わせ考慮すれば、本件発明にいう「断面U字状」のトルク伝達用負荷ボール
案内溝及びトルク伝達用無負荷ボール案内溝は、外筒に嵌挿する保持器の薄肉部及
び厚肉部並びに右両部の境界壁に形成される長孔と有機的に結合して、スプライン
シャフトを取り除いたときにボールの脱落を防止してこれを保持しているものと認
められる。右認定の事実によれば、本件発明において、トルク伝達用負荷ボール案
内溝の溝側壁が、スプラインシャフトの突出部の両側面との間に負荷ボールを挟持
し、かつ、トルク伝達に関して重要な役割を果たしているものであるとしても、
「断面U字状」のボール案内溝の溝底に、特に溝底中央部が、重要な意味を持って
いないものということはできない。また、本件明細書の発明の詳細な説明の項に
は、ボール案内溝の溝形状について、「鋼管あるいは鋼材より施削した外筒1の内
壁に、施削、研摩工程により断面U字状で幅が比較的広く、かつ内径からの深さが
深いトルク伝達用無負荷ボール案内溝5と、該トルク伝達用無負荷ボール案内溝5
よりはやヽ浅いトルク伝達用負荷ボール案内溝6を軸心方向に交互に形成する」
(本件公報一頁2欄三〇行ないし三五行)、「トルク伝達用負荷ボール溝の二列の
ボール間の台形状の凹部」(同二頁3欄二七、二八行)、「外筒1のU字状のトル
ク伝達用負荷ボール案内溝6(「16」とあるのは、「6」の誤記と認められ
る。)」(同欄三九、四〇行)、「トルク伝達用無負荷ボール案内溝はトルク伝達
用負荷ボール案内溝よりもわずか深めのU字溝を必要とするのみであるから、」
(同頁4欄一〇行ないし一二行)との記載があることが認められ(甲一)、右記載
内容によれば、トルク伝達用負荷ボール案内溝及びトルク伝達用無負荷ボール案内
溝は、二列のボールが走行する、比較的幅の広い断面U字状の溝を意味するもので
あると認められるところ、その反面、本件明細書には、ボール案内溝の溝底中央部
を隆起部あるいは突出部で形成することを示唆するような記載はないことが認めら
れる(甲一)。右認定の事実によれば、原告が主張するように、ボール案内溝の溝
底中央部が隆起部あるいは突出部で形成されていても、本件発明にいう「断面U字
状」のボール案内溝を観念することができるというのは困難であるといわざるをえ
ない。したがって、原告の右主張は、採用の限りではない。また、原告は、被告製
品は、一対のトルク伝達用負荷ボール案内溝6の両側の溝側壁がトルク伝達に関し
て重要な役割を果たしていて、一対のボール案内溝間の突堤は、トルク伝達には何
ら関係していないから、一対のボール案内溝は、中央の突堤を取り除いても、機能
上何ら差支えなく、本件発明にいう「断面U字状」のボール案内溝と同一のものと
いうことができる旨主張する。しかしながら、被告製品の外筒1において、一対の
トルク伝達用負荷ボール案内溝6間の突堤は、無負荷ボール案内溝5に対応して配
置される三個の保持器11と有機的に結合して、スプラインシャフトを取り除いた
ときにボール3の脱落を防止してこれを保持しており、また、一対の無負荷ボール
案内溝5間の突堤は、軸方向の凹溝が設けられていて、三個の保持器11の両端に
設けられた突起と嵌合することによって、保持器11の外筒1に対する位置決めを
行っているものであることが認められ(検甲一の一、検甲二、検甲三の一、検甲四
ないし検甲六及び弁論の全趣旨)、右認定の事実によれば、被告製品の外筒1の一
対の各ボール案内溝について、中央の突堤を取り除いてしまうならば、右のボール
3の保持と保持器11の位置決めの機能に関して、支障を来すことが認められる。
そうすると、原告は、トルク伝達に関する観点のみによって、一対の各ボール案内
溝が、本件発明にいう「断面U字状」のボール案内溝と同一のものである旨主張す
るものであり、したがって、原告の右主張は、到底採用することができない。更
に、原告は、被告製品の一対のトルク伝達用負荷ボール案内溝6間の突堤は、ボー
ル3の保持機能の点からみれば、外筒1側に一体として結合していなければならな
いとする必然性はなく、これを外筒1と分離して観察するならば、一対の右ボール
案内溝は、実質的に、本件発明にいう「断面U字状」のボール案内溝と同一のもの
ということができるし、一対の無負荷ボール案内溝5間の突堤は、保持器11の位
置決め機能の点からみれば、右突堤の両端部のみが実際に保持器11の位置決めを
行っているから、その余の部分は全く不要であり、右不要な部分を削除するなら
ば、一対の右ボール案内溝は、実質的に、本件発明にいう「断面U字状」のボール
案内溝と変わりがない旨主張する。しかしながら、前認定のとおり、一対のトルク
伝達用負荷ボール案内溝6間の突堤は、三個の保持器11と有機的に結合して、ボ
ール3を保持しているものであるから、これを外筒1と分離して観察するというこ
とは、技術的な意味を有する被告製品の構造そのものを無視するものであるといわ
ざるをえないし、また、前認定のとおり、一対の無負荷ボール案内溝5間の突堤の
両端部においては、保持器11の外筒1に対する位置決めを行っているのであるか
ら、その余の部分を削除したからといって、直ちに、一対の右ボール案内溝が、実
質的に、本件発明にいう「断面U字状」のボール案内溝と変わりがないということ
にはならない。したがって、原告の右主張も、採用の限りではない。
(二) 円周方向溝について
 本件明細書の特許請求の範囲の項の記載によれば、本件発明にいう「同一深さ」
とは、文字どおり、円周方向溝が、トルク伝達用無負荷ボール案内溝と同一の深さ
であることを意味するものと認められるところ、本件明細書上右認定に反する記載
は存しない(甲一)。これに対して、被告製品を示すものであることが認められる
別紙訂正目録の記載及び弁論の全趣旨によれば、被告製品の外筒1は、その両端部
に無負荷ボール案内溝5より約五〇ミクロン深い深さの円筒状部分7を形成したも
のであるから、本件発明の「その両端部に前記深溝と同一深さの円周方向溝を形成
した」との構成を具備しない。
 この点について、原告は、右の「同一深さ」とは、トルク伝達用無負荷ボール案
内溝と「円周方向溝」との間に、意図的に段差を設けることを排して、製造上発生
する段差をできるだけ小さな範囲にとどめるということを意味するのであって、完
全に同一ないし物理的に同一であることを意味するものではない、すなわち、方向
変換路及びトルク伝達用無負荷ボール案内溝の部分においては、ボールは経路との
関係で緩く運動しているので、両溝の間に多少の段差があっても差支えない旨主張
する。そこで、審案するに、本件明細書の特許請求の範囲の項には、「円筒内壁に
断面U字状のトルク伝達用負荷ボール案内溝と、該溝よりもやヽ深いトルク伝達用
無負荷ボール案内溝を軸心方向に交互に形成し、その両端部に前記深溝と同一深さ
の円周方向溝を形成した」と記載されているところ、右記載によれば、それ自体か
ら、円周方向溝は、トルク伝達用無負荷ボール案内溝と同一深さであることが二義
を許さない程度に明確である。そして、本件明細書の発明の詳細な説明の項には、
「その両端部に前記トルク伝達用無負荷ボール案内溝5(「トルク伝達用負荷ボー
ル案内溝6」とあるのは、「トルク伝達用無負荷ボール案内溝5」の誤記と認めら
れる。)と同一寸法の円周方向溝7と逃げ部8を形成する。」(本件公報二頁3欄
四行ないし六行)、「トルク伝達用無負荷ボールとトルク伝達用負荷ボールを案内
する保持器は中空筒体にして、前記外筒内壁に形成したトルク伝達用無負荷ボール
案内溝5とトルク伝達用負荷ボール案内溝6に一致するように厚肉部11と薄肉部
12を形成すると共に……厚肉部11と薄肉部12との境界部から厚肉部11ヘボ
ールの移動可能ならしむるべく環状溝16を形成し、」(同欄七行ないし二〇
行)、「外筒1のトルク伝達用無負荷ボール案内溝5と、トルク伝達用負荷ボール
案内溝6と一致するように嵌挿する保持器」(同欄二二行ないし二四行)との記載
があり、また、願書添付の図面中第1図(同三頁第1図)には、円周方向溝7の位
置に環状溝16が形成されていることが図示されていることが認められ(甲1)、
本件明細書の特許請求の範囲の項の記載及び右発明の詳細な説明の項の記載内容を
合わせ考慮すれば、本件発明にいう「円周方向溝」は、トルク伝達用負荷ボール案
内溝とトルク伝達用無負荷ボール案内溝との相互間で、ボールをスムーズに方向変
換させるために、外筒の両ボール案内溝の両端部に形成されるものであり、かつ、
トルク伝達用無負荷ボール案内溝と同一深さに形成することにより、外筒に嵌挿す
る保持器の環状溝と有機的に結合して、ボールの方向変換路の一部を構成するもの
であることが認められる。右認定の事実によれば、本件発明においては、円周方向
溝とトルク伝達用無負荷ボール案内溝との間に段差があることを観念する余地はな
いというべきであって、円周方向溝は、前説示のとおり、トルク伝達用無負荷ボー
ル案内溝と同一の深さであることを意味するものと解するほかはなく、したがっ
て、原告の右主張は、採用することができない。また、原告は、本件発明の「円周
方向溝」と被告製品の円筒状部分7との相違は、平坦な路面上に断面半円状の方向
変換路を設けたか、路面をやや低く形成して、下部に切欠きを有する(あるいは下
部をも覆った)パイプ状の方向変換路を設けたかの点にあるというにとどまるとこ
ろ、このような相違は、設計上の微差にすぎない旨主張する。しかしながら、本件
発明にいう「円周方向溝」は、前認定のとおり、トルク伝達用負荷ボール案内溝と
トルク伝達用無負荷ボール案内溝との相互間で、ボールをスムーズに方向変換させ
るために、外筒の両ボール案内溝の両端部に形成されるものであり、かつ、トルク
伝達用無負荷ボール案内溝と同一深さに形成することにより、外筒に嵌挿する保持
器の環状溝と有機的に結合して、ボールの方向変換路の一部を構成するものであ
る。これに対して、被告製品は、外筒1の円筒状部分7の位置に、リターンキャッ
プ31を嵌合し、そのボール変向溝32と三個の保持器のボール変向溝12とによ
って方向変換路を構成して、ボール3の方向変換を行っており、右円筒状部分7を
切除した状態においても、ボール3の方向変換に何らの支障もないことが認められ
(検甲二、検甲三の一、二、検甲四、検甲六、検乙一、検乙二)、右認定の事実及
び弁論の全趣旨によれば、被告製品の円筒状部分7は、本件発明の「円周方向溝」
のように、方向変換路の一部を構成するものではなく、外筒1の両端部に嵌合する
リターンキャップ31を固定するために形成されているものであって、リターンキ
ャップ31が外筒1の両端部に適切に嵌合することができるように、無負荷ボール
案内溝5より約五〇ミクロン深い深さに形成したものであることが認められる。も
っとも、原告は、昭和六〇年七月二五日と二六日に、外筒1の円筒状部分7に油性
インクを塗布した被告製品(ツバキ精密ボールスプラインSPG型三〇AU)につ
いて、八時間にわたって、スプラインシャフト9上を回転しながら(毎分一〇〇〇
回転)、軸方向に運動した(二〇〇ミリメートルで毎分五〇往復)ときに、右円筒
状部分7にボール3の痕跡が残るかどうかを実験したところ、ボール3が外筒1の
円筒状部分7に接触して通過したことによって生じたと考えられるボール3の軌道
に沿った痕跡が残ったことが認められる(甲二四、検甲一一(甲二四(実験報告
書)の実験に供した被告製品(ボールスプラインSPG型三〇AU)))けれど
も、被告製品は、円筒状部分7を切除した状態においても、ボール3の方向変換に
何らの支障もないのであるから、被告製品の円筒状部分7が、ボール3の方向変換
路の一部を構成するものではないとの前認定を覆すに足りない。そうすると、被告
製品の円筒状部分7は、無負荷ボール案内溝5と同一の深さに形成することを要す
るものではないから、本件発明にいう「円周方向溝」と被告製品の円筒状部分7
は、その構成、機能を異にするものというべきであり、原告が主張するように、両
者の相違が設計上の微差にすぎないということはできないから、原告の右主張も、
採用することができない。更に、原告は、無負荷ボール案内溝5と円筒状部分7と
の間の約五〇ミクロンの段差は、外筒1の外径をなるべく小さくし、かつ、ボール
3をトルク伝達用負荷ボール案内溝6、円筒状部分7及び無負荷ボール案内溝5間
でスムーズに移行するという点からみても、無視することができるものであって、
被告が被告製品を製造する際の加工の誤差又は加工の都合上生じたものにすぎない
から、本件発明にいう「同一深さ」の範囲に含まれる旨主張する。しかしながら、
被告製品の円筒状部分7は、右認定のとおり、リターンキャップ31が外筒1の両
端部に適切に嵌合することができるように、無負荷ボール案内溝5より約五〇ミク
ロン深い深さに形成したものであるから、右段差が、被告製品を製造する際の加工
の誤差又は加工の都合上生じたものと認めることはできないし、また、外筒1の外
径をなるべく小さくし、かつ、ボール3をトルク伝達用負荷ボール案内溝6、円筒
状部分7及び無負荷ボール案内溝5間でスムーズに移行するという点から、右段差
が無視することができるとしても、被告製品の円筒状部分7は、前説示のとおり、
無負荷ボール案内溝5と同一の深さに形成することを要するものではないのである
から、右段差が本件発明にいう「同一深さ」の範囲に含まれるということもできな
い。したがって、原告の右主張も、採用することができない。なお、原告は、円筒
状部分7は、リターンキャップ31を固定する機能を果たしていないから、右約五
〇ミクロンの段差は、リターンキャップ31を嵌合するために必要なものではない
旨主張するところ、按告製品のリターンキャップのボール変向溝32は、約五〇ミ
クロンの段差部分において、円筒状部分7に対して半円形に開口していることが認
められる(検甲二、検甲三の二)けれども、そのような部分があるからといって、
円筒状部分7が、外筒1の両端部に嵌合するリターンキャップ31を固定するため
に形成されているとの前認定を覆すものではないし、円筒状部分7は、前認定のと
おり、リターンキャップ31が外筒1の両端部に適切に嵌合することができるよう
に、無負荷ボール案内溝5より約五〇ミクロン深い深さに形成したのであるから、
原告の右主張も、採用の限りでない。
(三) 薄肉部について
 被告製品を示すものであることが認められる別紙訂正目録の記載によれば、被告
製品の保持器11及びリターンキャップ31においては、三個の保持器11が外筒
内壁の軸方向に形成した無負荷ボール案内溝5に対応して配置されるだけであり、
本件発明にいう「薄肉部」に該当する部材がない。
 この点について、原告は、本件発明の「保持器」は、ボール循環案内とボール保
持の機能を有する部材を総称するものであって、分離可能な部材からなる構成のも
のも含まれるものであり、被告製品においては、外筒1に組み込んだ三個の保持器
11、左右一対のリターンキャップ31及び外筒1の一対のトルク伝達用負荷ボー
ル案内溝6間の突堤は、互いに分離不可能に密接した一体のものとして、ボール3
の循環案内とボール3の保持機能を果たしているから、これらは、いずれも本件発
明にいう「保持器」を構成する部材である旨主張する。しかしながら、本件明細書
の特許請求の範囲の項には、「該外筒内壁の軸心方向に形成したトルク伝達用負荷
ボール案内用溝と該トルク伝達用無負荷ボール案内溝に一致して厚肉部と薄肉部を
形成し、さらに前記薄肉部と厚肉部との境界壁に形成した貫通孔と前記厚肉部に形
成した無負荷ボール溝ヘボールがスムーズに移動可能な無限軌道溝を形成した保持
器」と記載されているから、本件発明にいう「保持器」は、右のような構成を備え
たものである。したがって、本件発明にいう「保持器」が、ボール循環案内とボー
ル保持の機能を有するものであるとしても、このことは、右の構成を採用したこと
によるものであり、被告製品において、ボール3の循環案内とボール3の保持機能
を有する部材があるからといって、直ちに、右部材が、その具体的な構造を離れ
て、本件発明にいう「保持器」を構成する部材であるということにならないのはも
ちろんである。そして、被告製品において、一対のトルク伝達用負荷ボール案内溝
6間の突堤は、前(一)後段認定のとおり、無負荷ボール案内溝5に対応して配置
される三個の保持器11と有機的に結合して、スプラインシャフトを取り除いたと
きにボール3の脱落を防止してこれを保持しているものであるが、右突堤は、被告
製品の外筒1に設けられた一対のトルク伝達用負荷ボール案内溝6間にあるもので
あるから、これが被告製品の保持器11を構成する部材でないことは明らかであ
り、したがって、原告の右主張は、採用することができない。また、原告は、本件
発明の「薄肉部」と被告製品の一対のトルク伝達用負荷ボール案内溝6間の突堤
は、同一の機能を有するものであり、両者の相違は、ボール保持機能を果たすため
の特定の部材を、保持器側に取り付けたか、外筒側(トルク伝達用負荷ボール案内
溝側)に取り付けたかの点にあるというにとどまり、このような取付手段の変更
は、当業者が適宜なし得るところであって、単なる設計変更にすぎない旨主張す
る。しかしながら、本件発明の特許請求の範囲の項の記載によれば、本件発明の保
持器の構成は、「外筒内壁の軸心方向に形成したトルク伝達用負荷ボール案内用溝
と該トルク伝達用無負荷ボール案内溝に一致して厚肉部と薄肉部を形成し、さらに
前記薄肉部と厚肉部との境界壁に形成した貫通孔と前記厚肉部に形成した無負荷ボ
ール溝ヘボールがスムーズに移動可能な無限軌道溝を形成した」というものである
ところ、本件明細書の発明の詳細な説明の項には、「これらの分岐帯頂壁16~2
1のトルク伝達用負荷ボール案内溝6(「16」とあるのは、「6」の誤記と認め
られる。)側にはボールの曲率を有するボール転走面22、22…が形成され
る。」(本件公報一頁2欄三七行ないし二頁3欄三行)、「トルク伝達用無負荷ボ
ールとトルク伝達用負荷ボールを案内する保持器は中空筒体にして、前記外筒内壁
に形成したトルク伝達用無負荷ボール案内溝5とトルク伝達用負荷ボール案内溝6
に一致するように厚肉部11と薄肉部12を形成する……該厚肉部11と薄肉部1
2との両境界部のトルク伝達用負荷ボール溝6にはそれぞれトルク伝達用負荷ボー
ルが脱落しない程度の即ちボール径寸法よりもやゝ幅の狭い長孔13を貫通せしめ
て形成し、」(同欄七行ないし一七行)、「外筒1のトルク伝達用無負荷ボール案
内溝5と、トルク伝達用負荷ボール案内溝6と一致するように嵌挿する保持器の隔
壁を介して複数個形成したトルク伝達用無負荷ボール溝とトルク伝達用負荷ボール
溝間に多数のボールを充填し、嵌めこむことによってトルク伝達用負荷ボール溝の
二列のボール間の台形状の凹部に一致する突出部10、10、10を軸方向(「軸
方」とあるのは、一軸方向」の誤記と認められる。)に形成したスプラインシャフ
ト9を嵌め込み、」(同欄二二行ないし三〇行)、「スプラインシャフト9(「1
0」とあるのは、「9」の誤記と認められる。)あるいは外筒1が軸方向に回転し
つヽ移動すると、外筒と保持器内のボール即ちトルク伝達用負荷ボールは前記保持
器2の長孔13より露出し、スプラインシャフトの台形突部10の斜面部14と外
筒1のU字状のトルク伝達用負荷ボール案内溝6との間に完全なころがり接触をし
つヽ走行し、その接触角はトルクの伝達方向に近く、そしてアンギュラコンタクト
タイプの軸受がスラスト荷重が受けられると同様にトルク方向の荷重を確実に受
け、しかも、トルク伝達用負荷ボールがスプラインシャフト9の突出部10、1
0、10をそれぞれ左右から挟み込むように配設されているため、アンギュララッ
シュを零にすることができ、」(同欄三四行ないし同頁4欄四行)との記載がある
ことが認められ(甲一)、右記載内容によれば、本件発明の保持器の「薄肉部」
は、保持器の「厚肉部」と有機的に結合して、長孔を形成し、スプラインシャフト
を取り除いたときにボールの脱落を防止してこれを保持するとともに、「断面U字
状」のトルク伝達用負荷ボール案内溝と有機的に結合して、内側にスプラインシャ
フトの突出部を案内するために、二列のトルク伝達用負荷ボール間の凹部を形成す
る機能を有するものであることが認められる。これに対して、被告製品において
は、一対のトルク伝達用負荷ボール案内溝6間の突堤が、無負荷ボール案内溝5に
対応して配置される三個の保持器11と有機的に結合して、スプラインシャフトを
取り除いたときにボール3の脱落を防止してこれを保持しているものであって、本
件発明の「薄肉部」と被告製品の一対のトルク伝達用負荷ボール案内溝6間の突堤
とは、ボールを保持するという点では同じものであるが、右認定の事実によれば、
「薄肉部」は、内側にスプラインシャフトの突出部を案内するために、二列のトル
ク伝達用負荷ボール間の凹部を形成する機能を有するものであるから、両者は、そ
の有する機能を異にし、また、その構成においても相違しているものといわざるを
えない。したがって、被告製品の右構造をもって、単なる設計変更ということはで
きないから、原告の右主張も、採用の限りではない。
3 以上のとおりであるから、被告製品は、本件発明の技術的範囲に属さない。
二 争点2について
 仮に原告のいうところの均等の理論が特許権侵害訴訟において採用することがで
きる理論であるとしても、原告の右均等の主張は、次のとおり、採用することがで
きないものというべきである。
1 前一2(三)に説示したとおり、被告製品の一対のトルク伝達用負荷ボール案
内溝6間の突堤は、本件発明にいう「薄肉部」に該当するものではなく、また、被
告製品のように、外筒1の円筒内壁に断面半円状のトルク伝達用負荷ボール案内溝
6と、該溝よりもやや深い無負荷ボール案内溝5を負荷、負荷、無負荷、無負荷、
負荷、負荷……の配列で軸方向に形成したことにより、両ボール案内溝間に突堤が
ある構造のものは、本件発明の構成に含まれるものとして本件明細書に開示されて
いると認めることもできない(甲一)。
2 原告は、本件発明の取付手段の被告製品の取付手段への置換は、ボール保持の
手段に関する従来技術に鑑みれば、本件発明の特許出願当時、当業者が容易に想到
することができたものであって、両者は置換容易であると主張し、右のボール保持
の手段に関する従来技術として、次のような外筒の一部(突堤)と保持器によって
長溝を形成してボールを保持する技術を援用するので、これについて検討する。
(一) 発明の名称を「スライダ組立体」とする特公昭四五-三一二〇二号の発明
(甲一二)
 右発明の願書添付の明細書の発明の詳細な説明の項には、「第3及び4図に最も
よく示される如く、開放ブシュ32は二つの長円形の玉循環路34及び36を有
し、これらはブシュが棒に沿い移動せしめられるにつれて連続的に循環する。ブシ
ュはほゞ半円筒形状の外側ケーシング38と、ほぼ同様な形状の内側ケージ40と
を有する。外側ケーシング38には長手方向の彎入部及至凹み42及び44が設け
られ、これらはケージ40に形成された開孔46及び48に対置され、てして該開
孔を通じ荷重支承用の玉が棒22に圧接する」(甲一二の二頁3欄二六行ないし三
五行)との記載があり、願書添付の図面中第3図及び第4図には、断面がほぼ半円
筒形状の外側ケーシング38の断面の両端を内側に突出させて、右突出部分と断面
がほぼ半円筒形状の内側ケージ40の断面の両端部分との間に、玉が脱落しない程
度の開孔46及び48を形成し、右開孔を通じて荷重支承用の玉を棒22に圧接す
る構成が図示されていることが認められる(甲一二)。
(二) 発明の名称を「伸縮軸」とするドイツ連邦共和国特許第一五二五一九七号
(一九七〇年一〇月八日登録)の発明(甲一四)
 右発明の明細書には、「管状スリーブ17はそれを通って伸び軸14を収容する
ために適用される通路を有している。この通路の側壁は相対向して配置されスリー
ブ17の一端から他端まで伸びている二組の条溝17a、17b、17c、17d
によって形成されている。……四つのボールホルダ18が設けられ、各ボールホル
ダ18は四つの条溝17a~17dのそれぞれの底に取り付けられている。……第
4図からわかるようにホルダ18の直線側面18aと18bには断面で示した唇形
部が設けられているので、ホルダの直線側面18a、18bは、互いに間隔を隔て
て平行に配置された八つのボール走行条溝を形成するために、対応した側面17a
′-17b′と17a″-17b″と協働する。」(甲一四の2欄四九行ないし3
欄九行)、「軸14の各側面の幅はスリーブ17の相対向する側における相対向す
る条溝にある相対向するボールの間の相応した間隔より十分に小さいので、軸14
にあらゆる方向において回転トルクが与えられた場合、軸14の四つの側面がその
四つの縁に関連して対応した四つのボール案内条溝内のボールとかみ合い、一方ボ
ールがスリーブ17の反対側端に滑って戻れるようにするために、四つの縁に関連
した軸14の別の四つの側面と別の四つの直線ボール通路内におけるボールとの間
にすき間が存在している。」(同欄二六行ないし三九行)との記載があり、図面中
第4図には、断面ほぼ正方形の軸14に対応する管状スリーブ17内の通路の四つ
の側壁にそれぞれ条溝17aないし17dを形成し、右条溝の溝底にそれぞれボー
ルホルダ18を取り付けて、右条溝17aないし17dの溝側壁(17a′と17
a″、17b′と17b″、17c′と17c″及び17d′と17d″)とボー
ルホルダ18の両端の直線側面18a、18bとの間に、ボールが脱落しない程度
の二列の開孔を形成し、右開孔のいずれかを通じてボールが軸14と噛み合う構成
が図示されていることが認められる(甲一四)。
(三) 発明の名称を「ボールスプライン組体」とするアメリカ合衆国特許第三、
三五六、四二四号(一九六七年一二月五日登録)の発明(甲一五)
 右発明の明細書には、「内側スプライン部材12の各溝毎に、外側スプライン部
材10はそれぞれ一対の外側ボールレース26、28を与える一対の内側溝22、
24を有し、これらレースはガイドリブ30によってそれらの内縁で分離されてい
る。」(甲一五の2欄四九行ないし五四行)、「第5図に最も解り易く示すよう
に、内側スプライン部材12を挿入するまで、トラフ36、38がそれぞれ対応す
るボール溝22、24と協働してボールがそれらのボール溝から落下するのを防
ぎ、各トラフとガイドリブに対向した対応するボール溝縁間の開口はボールの直径
より小さい。」(同3欄七四行ないし4欄五行)、「両スプライン部材の係合後、
第4図に最も解り易く示すように、ボールは内側スプライン部材の内側ボールレー
スと係合し、トラフ36、38から自由に移動する。……ボールは、トルクの伝達
時一方のスプライン部材の他方に対する摺動移動に応じ、負荷レースと無負荷レー
スの間で無端トラフのボールガイドとブリッジ部によってレースと交差しつまりそ
れを横切って案内され、負荷及び無負荷の各レースはトルク伝達の方向によって決
まる。」(同欄一三行ないし二三行)との記載があり、図面中第2図ないし第6図
には、外側スプライン部材10に、それぞれ一対の外側ボールレース26、28を
与える一対の内側溝22、24を三箇所設けて、右内側溝22、24の外縁とボー
ル保持及びガイド組体34のトラフ36、38との間に、ボールが落下するのを防
止するボール溝縁間の開口を形成し、右開口を通じて内側スプライン部材12の内
側ボールレース16、18と係合する構成が図示されていることが認められる(甲
一五)。
(四) 発明の名称を「線形運動用ボール軸受組体」とするアメリカ合衆国特許第
三、三九八、九九九号(一九六八年八月二七日登録)の発明(甲一一)
 右発明の明細書には、「線形循環するボール軸受モジュール18は、第2、3図
に示すように、それぞれ上側と下側のチャネル又は軌道22、24を有するボール
レース又はブロック20から成り、軌道22、24はボールレース20の周囲に沿
って延び、エンドレス経路を形成している。チャネル又は軌道22、24内には、
後述する方法で移動自在となるようにそれぞれボール26が入れられる。ボール2
6は、保持手段28によってボールレース又はブロック20の軌道22、24内に
保持される。」(甲一一の2欄三行ないし一二行)、「ボール26とトラックロッ
ド14の間の接触は、周知の方法で保持手段28をフライス削りし、保持手段28
の前面壁37に開口又はスロット36を設けることによって得られる。開口36の
幅はボールの直径以上且つその直径の二倍以下で、完全に組立られたとき、その構
造によってボール26が落下するのを防ぐ。開口36は、保持手段28の前面壁3
7に上側当接縁80と下側当接縁82を与える。ボール26をそれぞれの軌道内に
維持するため、ボールレース20の周囲に沿って両軌道22、24問の中央に突出
84が延びている。突出84の目的は、ボールが開いた前面から落下するのを防ぐ
ことにある。つまり、突出84及び80又は82問の開口幅は各ボールの直径より
小さい。」(同二七行ないし四三行)との記載があり、図面中第2図ないし第4図
には、ボールレース20の周囲に沿って軌道22、24間の中央に突出84を設
け、突出84と保持手段28の前面壁37に設けた上側当接縁80と下側当接縁8
2との間に、ボールが落下しない程度の開口を形成し、右開口を通じてボール26
をトラックロッド14に接触させる構成が図示されていることが認められる(甲一
一)。
 右(一)ないし(四)認定の事実によれば、右(一)ないし(四)の各発明にお
いて、本件発明の外筒に相当する部材((一)の発明においては外側ケーシング3
8、(二)の発明においては管状スリーブ17、(三)の発明においては外側スプ
ライン部材10、(四)の発明においてはボールレース20)と本件発明の保持器
に相当する部材((一)発明においては内側ケージ40、(二)の発明においては
ボールホルダ18、(三)の発明においてはボール保持及びガイド組体34、
(四)の発明においては保持手段28)によって開口を形成してボールを保持する
技術が示されていることが認められる。しかしながら、本件発明の保持器の「薄肉
部」は、前一2(三)認定のとおり、右のようなボールを保持する機能のほかに、
「断面U字状」のトルク伝達用負荷ボール案内溝と有機的に結合して、内側にスプ
ラインシャフトの突出部を案内するために、二列のトルク伝達用負荷ボール間の凹
部を形成する機能を有するものである。そして、右(一)ないし(三)認定の事実
によれば、右(一)ないし(三)の各発明に示されたものは、いずれも、内側に本
件発明のスプラインシャフトに相当する部材((一)の発明においては棒22、
(二)の発明においては軸14、(三)の発明においては内側スプライン部材1
2)の突出部を案内するために、二列のトルク伝達用負荷ボール間の凹部を形成し
たという構成ではないことが認められるのであるから、右「薄肉部」の機能に鑑み
れば、本件発明の外筒に相当する部材((一)の発明においては外側ケーシング3
8、(二)の発明においては管状スリーブ17、(三)の発明においては外側スプ
ライン部材10)の一部が、本件発明にいう保持器の「薄肉部」に相当するもので
あると認めることはできない。また、右(四)の発明は、ボール軸受組体を循環さ
せて得られる減摩線形運動における改良に関するものであることが認められ((甲
一一)、右(四)の発明は、トルク伝達の回転運動を得ることを目的とするもので
はないのであるから、右(四)の発明における突出84が、「薄肉部」のように、
スプラインシャフトの突出部を案内するために、二列のトルク伝達用負荷ボール間
の凹部を形成する機能を有するものであるとは認め難く、そうであれば、右突出8
4が、本件発明にいう保持器の「薄肉部」に相当するものであるとは認められな
い。そうすると、原告が援用した右(一)ないし(四)の各発明にみられるよう
な、ボール保持の手段に関する従来技術があったからといって、このことから直ち
に、本件発明の取付手段の被告製品の取付手段への置換が、本件発明の特許出願当
時、当業者において容易に想到することができたものであって、両者は置換容易で
あると認めることはできない、といわざるをえない。
3 そして、そのほかに、本件発明の取付手段の被告製品の取付手段への置換が、
本件発明の特許出願当時、当業者において容易に想到することができたものであっ
て、両者は置換容易であると認めるに足りる証拠は存しない。なお、具体的妥当性
ないし衡平の理念の見地に立って考察しても、本件において、被告製品が本件発明
と均等であると認めるのを相当とするに足りる事情は、何らうかがえない。
4 したがって、仮に均等の理論が特許権侵害訴訟において採用することができる
理論であるとしても、原告の右均等の主張は、採用するに由ないものというほかは
ない。
別紙目録及び特許公報(省略)

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